(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004120
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/02 20060101AFI20240109BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240109BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240109BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01G9/02
H01G9/145
H01G9/035
H01G9/048 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103605
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 一樹
(57)【要約】
【課題】 十分に低いESRを実現できる電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 第1セパレータと、引き出しリード端子が接続され表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子が接続された陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成され電解液が含浸されたコンデンサ素子を備え、第1セパレータおよび第2セパレータのそれぞれは、面方向で陽極箔よりも突出して対向し、導電性高分子を含む突出部を備え、第1セパレータの突出部の突出長さを長さaとし、第2セパレータの突出部の突出長さを長さa´とし、第1セパレータおよび第2セパレータの突出部が対向する箇所における陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、導電性高分子は、第1セパレータの突出部の少なくとも一部と、第2セパレータの突出部の少なくとも一部とを結着していることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セパレータと、引き出しリード端子が接続され表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子が接続された陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成され電解液が含浸されたコンデンサ素子を備え、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔および前記陰極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、
前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、
前記導電性高分子は、前記第1セパレータの前記突出部の少なくとも一部と、前記第2セパレータの前記突出部の少なくとも一部とを結着して導電性パスを形成していることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性パスは、電解液が含まれ膨潤して湿潤状態であり、粘着性を有することを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記導電性パスは、前記陰極箔の短絡経路にて導通するような構造で、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間で、セパレータ同士、前記導電性高分子同士、またはセパレータと前記導電性高分子とが接続するように、電解液が含まれ膨潤して湿潤状態であり、粘着性を有することを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記長さaおよび長さa´は、それぞれ0.2mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第1セパレータ、前記陽極箔、前記第2セパレータ、および前記陰極箔は、順次積層され、共に巻回されて略柱形状を有し、
前記略柱形状の第1底面および第2底面のうち、前記第1底面に、前記陽極箔に接続された前記引き出しリード端子と、前記陰極箔に接続された前記引き出しリード端子とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記第1底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積と、前記第2底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積との合計は、前記第1底面および前記第2底面における前記陽極箔の端面の合計面積に対して、20%以上であることを特徴とする請求項5に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記第1底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積は、前記第1底面における前記陽極箔の端面の面積に対して、15%以上であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記第1底面および前記第2底面の少なくともいずれかにおける前記陽極箔の端面において、中心部から外周部に向かって、前記導電性高分子で被覆されている面積が増加することを特徴とする請求項5に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記略柱形状の前記コンデンサ素子の軸方向において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの単位面積あたりの電解液量が、中心側よりも前記第1底面側および前記第2底面側において多いことを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記導電性高分子層は、高分子濃度が0.5wt%以上、または粘度が10mPa・s以上の導電性高分子分散液から形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、セルロース、レーヨン、ガラス繊維のうちの1つ、またはそれらの混抄紙であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
前記コンデンサ素子に対する平面視において、前記導電性パスは、少なくとも、前記陰極箔に接続された前記リード端子が位置する側の半分の領域のいずれかに形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項13】
前記導電性パスは、前記コンデンサ素子に前記電解液を含浸させた際に膨潤させ湿潤状態で粘着性を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【請求項14】
第1セパレータと、引き出しリード端子が接続され表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子が接続された陰極箔とが順次配置され、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立するコンデンサ素子において、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部に導電性高分子を含浸させ、水分を除去することにより、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部間に、前記陰極箔同士またはセパレータと前記陰極箔とを短絡経路で接続する導電性パスを形成する工程と、
前記コンデンサ素子に電解液を含浸させることで、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態とする工程と、を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
前記水分を除去する際に乾燥にて行なうことを特徴とする請求項14に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる際に、前記導電性高分子に前記電解液を注液して、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態とすることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
前記導電性高分子の含浸の際に、前記導電性高分子の分散液内に、溶質を混合させて、水分を除去することにより、前記導電性高分子の分散液を前記電解液として用いて、前記コンデンサ素子に前記電解液を含浸させ、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態とすることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記導電性高分子の分散液を前記電解液として用いる場合、前記コンデンサ素子にさらに電解液を注液させることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記導電性高分子の分散液を電解液として用いる場合、前記導電性高分子の分散液の溶媒は、水および有機溶媒から選択される一種類以上の溶液を用いることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記有機溶媒は、沸点が150℃以上のグリコール系化合物、ラクトン系化合物、及びスルホランの少なくとも1つ以上から選択され、前記有機溶媒と水の重量比が1:99~50:50であることを特徴とする請求項19に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量でESR(等価直列抵抗)の低い電解コンデンサとして、誘電体層を形成した陽極箔と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された電気伝導度の高い導電性高分子層と、陽極酸化被膜の修復能力を持つ電解液(少なくとも溶質と溶媒からなり陽極酸化被膜の修復能力を持つ電気伝導度を有する液)とを含む電解コンデンサがハイブリット電解コンデンサと呼称されて車載品用電子部品として有望視されている。例えば、特許文献1では、導電性高分子と、高分子ドーパントと、塩基成分と、溶媒とを含む分散体を、コンデンサ素子に含浸した後、溶媒の一部を除去して導電性高分子層を形成する、アルミニウム電解コンデンサの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性高分子を電極箔表面に形成したコンデンサ素子に電解液を含浸させたハイブリッド電解コンデンサは、高い静電容量と低いESRの両立を図ることができるが、このような低ESRの電解コンデンサにおいては、引き出しリード端子までのイオンの移動距離が長くなることによる電極箔の抵抗でのESRの損失が課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、十分に低いESRを実現できる電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電解コンデンサは、第1セパレータと、引き出しリード端子が接続され表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子が接続された陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成され電解液が含浸されたコンデンサ素子を備え、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔および前記陰極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、前記導電性高分子は、前記第1セパレータの前記突出部の少なくとも一部と、前記第2セパレータの前記突出部の少なくとも一部とを結着して導電性パスを形成していることを特徴とする。
【0007】
上記電解コンデンサにおいて、前記導電性パスは、電解液が含まれ膨潤して湿潤状態であり、粘着性を有していてもよい。
【0008】
上記電解コンデンサにおいて、前記導電性パスは、前記陰極箔の短絡経路にて導通するような構造で、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間で、セパレータ同士、前記導電性高分子同士、またはセパレータと前記導電性高分子とが接続するように、電解液が含まれ膨潤して湿潤状態であり、粘着性を有していてもよい。
【0009】
上記電解コンデンサにおいて、前記長さaおよび長さa´は、それぞれ0.2mm以上であってもよい。
【0010】
上記電解コンデンサにおいて、前記第1セパレータ、前記陽極箔、前記第2セパレータ、および前記陰極箔は、順次積層され、共に巻回されて略柱形状を有し、前記略柱形状の第1底面および第2底面のうち、前記第1底面に、前記陽極箔に接続された前記引き出しリード端子と、前記陰極箔に接続された前記引き出しリード端子とを備えていてもよい。
【0011】
上記電解コンデンサにおいて、前記第1底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積と、前記第2底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積との合計は、前記第1底面および前記第2底面における前記陽極箔の端面の合計面積に対して、20%以上であってもよい。
【0012】
上記電解コンデンサにおいて、前記第1底面における前記陽極箔の端面において、前記導電性高分子で被覆されている面積は、前記第1底面における前記陽極箔の端面の面積に対して、15%以上であってもよい。
【0013】
上記電解コンデンサにおいて、前記第1底面および前記第2底面の少なくともいずれかにおける前記陽極箔の端面において、中心部から外周部に向かって、前記導電性高分子で被覆されている面積が増加してもよい。
【0014】
上記電解コンデンサにおいて、前記略柱形状の前記コンデンサ素子の軸方向において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの単位面積あたりの電解液量が、中心側よりも前記第1底面側および前記第2底面側において多くてもよい。
【0015】
上記電解コンデンサにおいて、前記導電性高分子層は、高分子濃度が0.5wt%以上、または粘度が10mPa・s以上の導電性高分子分散液から形成されていてもよい。
【0016】
上記電解コンデンサにおいて、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、セルロース、レーヨン、ガラス繊維のうちの1つまたはそれらの混抄紙であってもよい。
【0017】
上記電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子に対する平面視において、前記導電性パスは、少なくとも、前記陰極箔に接続された前記リード端子が位置する側の半分の領域のいずれかに形成されていてもよい。
【0018】
上記電解コンデンサにおいて、前記導電性パスは、前記コンデンサ素子に前記電解液を含浸させた際に膨潤させ湿潤状態で粘着性を有するものであってもよい。
【0019】
本発明に係る電解コンデンサの製造方法は、第1セパレータと、引き出しリード端子が接続され表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子が接続された陰極箔とが順次配置され、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立するコンデンサ素子において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部に導電性高分子を含浸させ、水分を除去することにより、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部間に、前記陰極箔同士またはセパレータと前記陰極箔とを短絡経路で接続する導電性パスを形成する工程と、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させることで、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態とする工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記水分を除去する際に乾燥にて行なってもよい。
【0021】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる際に、前記導電性高分子に前記電解液を注液して、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態としてもよい。
【0022】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記導電性高分子の含浸の際に、前記導電性高分子の分散液内に、溶質を混合させて、水分を除去することにより、前記導電性高分子の分散液を前記電解液として用いて、前記コンデンサ素子に前記電解液を含浸させ、前記導電性パスをなす前記導電性高分子を膨潤させ粘着性を有する湿潤状態としてもよい。
【0023】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記導電性高分子の分散液を前記電解液として用いる場合、前記コンデンサ素子にさらに電解液を注液させてもよい。
【0024】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記導電性高分子の分散液を前記電解液として用いる場合、前記導電性高分子の分散液の溶媒は、水および有機溶媒から選択される一種類以上の溶液を用いてもよい。
【0025】
上記電解コンデンサの製造方法において、前記有機溶媒は、沸点が150℃以上のグリコール系化合物、ラクトン系化合物、及びスルホランの少なくとも1つ以上から選択され、前記有機溶媒と水の重量比が1:99~50:50であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、十分に低いESRを実現できる電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る電解コンデンサの概略図である。
【
図2】(a)は陽極箔をシート状に展開した図であり、(b)は陰極箔をシート状に展開した図であり、(c)は第1セパレータをシート状に展開した図である。
【
図4】(a)はコンデンサ素子内の積層構造を説明するための模式的な断面図であり、(b)は陽極箔の拡大断面図である。
【
図5】陽極箔を挟む2層の陰極箔に導電性パスを形成するための構成について説明するための図である。
【
図6】陽極箔を挟んで突出部同士が接触する様子を例示する図である。
【
図7】(a)および(b)はコンデンサ素子の上面において半径方向に導電性パスが形成された場合の効果を説明するための図である。
【
図8】(a)は導電性高分子の形成前のコンデンサ素子の上面の画像を例示する図であり、(b)は導電性高分子の形成後のコンデンサ素子の上面の画像を例示する図である。
【
図9】電解コンデンサ1の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る電解コンデンサ1の概略図である。電解コンデンサ1は、外装体として機能する金属ケース10と、金属ケース10に装入されたコンデンサ素子20と、封口体30とを備えている。
【0030】
金属ケース10には、一端に開口部11を有する有底筒状のアルミニウムケースが用いられる。本実施形態においては、金属ケース10は一例として円筒状を有しているが、角筒状であってもよい。
【0031】
コンデンサ素子20は、一対の電極箔を備えている。一対の電極箔は、陽極箔21aおよび陰極箔21bである。第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bがこの順に積層され長さ方向に巻回されて、コンデンサ素子20が構成されている。コンデンサ素子20の形状は、金属ケース10の内形状に略一致させてある。したがって、コンデンサ素子20は、柱形状を有している。本実施形態におけるコンデンサ素子20は、イオンの移動における短絡経路の効果が良く発揮できる巻回型(略円柱)に用いることが好ましいが、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを積層したものを1対または複数対用意し、順次積層した積層型のコンデンサ素子(略角柱)に用いてもよい。
【0032】
陽極箔21aおよび陰極箔21bとして、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ等の弁金属およびその合金箔並びに蒸着箔等を用いることができる。陽極箔21aは、表面の全体を陽極酸化被膜が覆っている。したがって、陽極箔21aは、他の部材から絶縁されている。この陽極酸化被膜が誘電体として機能することで、コンデンサ素子20がコンデンサとして機能する。なお、陰極箔21bは、表面に無機層またはカーボン層が蒸着や塗布などによって形成されていてもよい。その場合には、後述する導電性高分子25は、無機層またはカーボン層を形成した面にも形成される。
【0033】
陽極箔21aには、引き出しリード端子としての陽極リード端子23aが接続されている。陰極箔21bには、引き出しリード端子としての陰極リード端子23bが接続されている。
【0034】
封口体30は、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bが挿通される一対のリード挿通孔31a,31bを有するゴム封口体からなる。封口体30は、金属ケース10の開口部11内に嵌合され、かしめ駒などにより開口部11の外周に沿って形成される横絞り溝12により気密的に強固に取り付けられる。例えば、封口体30には、後述する電解液の溶媒に対して膨潤率が小さいブチルゴムなどが採用される。これにより、電解液にエチレングリコールが含まれる場合に、エチレングリコールにより抽出される不純物のコンデンサ特性への影響を小さくすることができる。具体的には、125℃のエチレングリコール溶媒中に2000時間以上浸漬しても、膨潤率が0.4wt%未満であり、かつ、γ-ブチロラクトン溶媒中に同様に2000時間以上浸漬しても膨潤率が2wt%未満である特性を有するブチルゴムを用いるとよい。
【0035】
なお、本実施形態においては、コンデンサ素子20がなす柱形状の各底面のうち、リード端子が設けられている側の底面を上面(第1底面)と称し、リード端子が設けられていない側の底面を下面(第2底面)と称する。
【0036】
図2(a)は、陽極箔21aをシート状に展開した図である。
図2(b)は、陰極箔21bをシート状に展開した図である。
図2(a)および
図2(b)で例示するように、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bは、アルミニウムなどの金属丸棒の一端側をプレスして平板として羽子板状のタブ端子部に、リード線が接続された構造を有している。陽極箔21aおよび陰極箔21bは、このタブ端子部の平板部に接続している。
【0037】
図2(c)は、第1セパレータ22aをシート状に展開した図である。第1セパレータ22aには、電解液が含浸されており、さらに導電性高分子が形成されている。
【0038】
第1セパレータ22aにおける電解液の含浸領域および導電性高分子の含浸領域の位置は特に限定されるものではないが、一例として、電解液および導電性高分子は、第1セパレータ22aの全体に含浸している。ただし、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ軸方向において、第1セパレータ22aの中心側における電解液の含浸量よりも、上面側および下面側における電解液の含浸量が多くなる場合がある。
【0039】
導電性高分子25は、主として、コンデンサ素子20の上面側の端部と、下面側の端部とに含浸する傾向にある。したがって、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ軸において、第1セパレータ22aの中心側における導電性高分子25の含浸量よりも、上面側および下面側における導電性高分子25の含浸量が多くなる場合がある。または、第1セパレータ22aの中心側では導電性高分子25が含浸せず、上面側および下面側にのみ導電性高分子25が含浸していることもある。
【0040】
図2(c)では、第1セパレータ22aについて説明したが、第2セパレータ22bも第1セパレータ22aと同様の構造を有する。
【0041】
本実施形態においては、電解液24は、多価アルコール、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、多価アルコールのジエーテル化合物、1価のアルコールなどを含むことができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、の少なくとも一つを含むことが望ましい。ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が200~1000のポリエチレングリコール、平均分子量が200~5000のポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0043】
ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを用いることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを溶媒として含むことができる。特に、エチレングリコール、ポリアルキレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホランを用いることが望ましい。
【0044】
電解液24は、溶質を含んでいてもよい。溶質として、酸成分、塩基成分、酸成分および塩基成分からなる塩、ニトロ化合物、フェノール化合物等を用いることができる。
【0045】
酸成分は、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物を用いることができる。有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸などのカルボン酸などを用いることができる。無機酸としては、硼酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、リン酸ジエステルなどを用いることができる。
【0046】
有機酸と無機酸との複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジシュウ酸、ボロジグリコール酸等を用いることができる。
【0047】
塩基成分は、1級~3級アミン、4級アンモニウム、4級化アミジニウム等を用いることができる。1級~3級アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを用いることができる。4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどを用いることができる。4級化アミジニウムとしては、例えば、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどを用いることができる。
【0048】
また、コンデンサ内部で発生する水素ガスの吸収剤としては、p-ニトロベンジルアルコールが好適であり、その添加量は電解液中に0.5~1.5wt%が好ましい。0.5wt%未満では水素ガス吸収効果が小さく、他方において1.5wt%を超えると耐圧特性が低下するおそれがあるからである
【0049】
第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、セルロース、レーヨン、ガラス繊維のうちの1つ、またはそれらの混抄紙などから選択される少なくとも1種類以上を材料とする。
【0050】
導電性高分子25は、導電性を有する高分子であれば特に限定されるものではない。例えば、導電性高分子25として、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を用いる。導電性高分子25として、一般的に、p-トルエンスルホン酸およびポリスチレンスルホン酸(PSS)等からなる群より選択される少なくとも1種の酸をドーパントとするポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。
【0051】
ここで、陰極箔21b、電解液24、および導電性高分子25の体積抵抗率(Ωm)について説明する。陰極箔21bは、金属を材料とするため、電解液24および導電性高分子25よりも低い体積抵抗率を有している。導電性高分子25も、電解液24よりも低い体積抵抗率を有する傾向にある。例えば、陰極箔21bとしてアルミニウムを用いる場合には、陰極箔21bの体積抵抗率は約2.65×10-6Ωmである。導電性高分子25としてPSSをドーパントとするPEDOTを用いる場合には、導電性高分子25の体積抵抗率は1.0×10-3~1.0×10-2程度である。電解液24としてテイカ株式会社商品名ESE2を用いる場合には、電解液24の体積抵抗率は約5×103Ωm(200μS/cm)であった。
【0052】
本実施形態に係るコンデンサ素子20は、電解液24と導電性高分子25とを併用することで、高い静電容量および低いESRを実現することができる。しかしながら、ESRが十分に低くならない場合がある。この点について詳細を説明する。
【0053】
図3は、
図2(b)と同様に、陰極箔21bをシート状に展開した図である。
図3で例示するように、陰極箔21bの長さ方向にイオン伝導が生じるため、陰極リード端子23bまでのイオン伝導距離が長くなる場合がある。例えば、陰極リード端子23bから最も遠い点Pから陰極リード端子23bに至るまで、距離が長くなる傾向にある。したがって、点Pから陰極リード端子23bに至るまでの電気抵抗が大きくなり、ESRが十分に低くならない場合がある。
【0054】
そこで、本実施形態に係るコンデンサ素子20は、ESRを十分に低くすることができる構成を有している。まず、陰極箔間の導電性パスについて説明する。
図4(a)は、コンデンサ素子20内の積層構造を説明するための模式的な断面図である。
図4(a)で例示するように、断面において、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、陰極箔21bの積層単位が順に積層されている。第1セパレータ22aの陽極箔21aと反対側に、陰極箔21bが位置するように見える。
【0055】
陽極箔21aは、金属箔211の表面に陽極酸化被膜212が形成された構造を有している。この陽極酸化被膜212が誘電体として機能している。
図4(b)で例示するように、陽極箔21aは、例えば、エッチング処理により拡面化し、化成処理により表面に陽極酸化被膜212を形成している。エッチング処理の拡面化された陽極箔は、表面に無数の細孔を有し、非常に大きい表面積を有している。陽極酸化被膜212は、陽極箔21aの表面全体に厚み10~100nmで形成されている。陰極リード端子23bからの電荷は、陰極箔21bを通り第1セパレータ22aの導電性高分子や電解液を介して陽極酸化被膜212を帯電させる。しかしながら陽極酸化被膜212は絶縁性を有しているため、電荷が陽極箔21aを隔てて隣接する第2セパレータ22bに到達するためには、陽極箔21aの端面に存在する電解液を通ることが必要になる。この時、陽極箔21aの端面に存在する電解液の電導度は、200μS/cm程度であるためESRが増大してしまう。この2層の陰極箔21bの間のセパレータに導電性高分子による導電性パス40が形成されれば、
図3で説明した陰極リード端子23bから最も遠い点Pから陰極リード端子23bに至るまでの経路にショートカットを形成することができ、ESRを低下させることができる。すなわち、陰極リード端子23bからの電荷は、陰極箔21bを通り導電性高分子や電解液を介して陽極酸化被膜212を帯電させる。電荷が陰極箔21bを通る際に、第1セパレータ22aと第2セパレータ22bとの間に導電性高分子による電気的短絡経路である導電性パスが形成されていると、陰極リード端子23bからの電荷は導電性パスを介して、陰極リード端子23bからより離れた外周部の陰極箔21bにより短い距離で到達することとなるため、外周部の陰極箔21bから外周部の導電性高分子や電解液を介して外周部の陽極酸化被膜212を効率的に帯電させる。結果として、より外周部の陽極箔21aの陽極酸化被膜212までの導電率が高い、すなわち素子全体の特性が低ESRとなる。
【0056】
図5は、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bに導電性パスを形成するための構成について説明するための図である。
図5で例示するように、本実施形態に係るコンデンサ素子20は、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bが、陽極箔21aよりも面方向で突出して対向している。
図5の例では、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、コンデンサ素子20の上面において陽極箔21aよりも上側に突出している。
【0057】
第1セパレータ22aが陽極箔21aよりも突出する突出部22a1の突出長さを長さaとする。第2セパレータ22bが陽極箔21aよりも突出する突出部22b1の突出長さを長さa´とする。第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1とが対向する箇所における陽極箔21aの厚みを厚みbとする。この場合において、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立している。
【0058】
第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、柔軟性を有しているため、容易に曲がり、容易に折れ曲がる傾向にある。したがって、
図6で例示するように、陽極箔21aを挟んで、突出部22a1と突出部22b1とが接触しやすくなる。この場合、第1セパレータ22aの導電性高分子25と第2セパレータ22bの導電性高分子25とが接触することによって電気的に接続される。それにより、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bの間に導電性パス40が形成される。導電性パス40は、陰極箔21bの短絡経路にて導通するような構造で、第1セパレータ22aと第2セパレータ22bとの間で、セパレータ同士、導電性高分子同士、またはセパレータと導電性高分子とを接続する。それにより、コンデンサ素子20のESRを低くすることができる。なお、導電性高分子25を形成し電解液を含浸する過程で、導電性高分子の粘着性を更に持たせることができ、この段階で突出部22a1と突出部22b1とが自発的に結着することができる。さらに、ケース内に収納することで突出部22a1と突出部22b1とに応力をかけさらに結着することができる。すなわち、本実施形態において、導電性パス40は、突出部22a1および突出部22b1が導電性高分子25を介して結着して形成される。
【0059】
図7(a)および
図7(b)は、コンデンサ素子20の上面において半径方向に導電性パスが形成された場合の効果を説明するための図である。
図7(a)および
図7(b)で例示するように、コンデンサ素子20の上面では、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bが見られる。コンデンサ素子20の下面では、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bは見られない。
【0060】
図7(a)で例示するように、導電性パスが形成されていなければ、イオン伝導の経路は、複数回にわたって周回したうえで陰極リード端子23bに到達する経路となる。これに対して、
図7(b)で例示するように、コンデンサ素子20の上面において半径方向に導電性パス40が形成された場合には、ショートカットを繰り返すことができ、陰極リード端子23bに至るまでの経路を短縮化することができる。
【0061】
なお、第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1との間を接触させやすくする観点から、(長さa+長さa´)は、厚みbの1倍より大きいことが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0062】
同様に、第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1との間を接触させやすくする観点から、長さaおよび長さa´のそれぞれは、0.2mm以上であることが好ましく、0.25mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。例えば、陽極箔21aおよび陰極箔21bは、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ方向において、2.7mm以上7.5mmの幅を有する。第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ方向において、3.2mm以上8.0mmの幅を有する。
【0063】
また、導電性パス40は、陰極リード端子23bに近い位置で形成されていることが好ましい。したがって、コンデンサ素子20に対する平面視において、導電性パス40は、少なくとも、陰極リード端子23bが位置する側の半分の領域(
図7(a)および
図7(b)では点線よりも右側の領域)のいずれかの部分に形成されていることが好ましい。
【0064】
なお、第1セパレータ22aと第2セパレータ22bとが接触すると、コンデンサ素子20を上面側から見たときに、陽極箔21aの上面側の端面部(端面)が導電性高分子25によって被覆されているように見える。陽極箔21aの上面側端面が導電性高分子25によって被覆されている割合(陽極端面被覆率)が高いほど、多くの導電性パス40が形成されていることになる。そこで、陽極端面被覆率に下限を設けることが好ましい。
【0065】
本実施形態においては、陽極箔21aの陽極端面被覆率を、コンデンサ素子20を上面側から見た場合の、コンデンサ素子20の上面における陽極箔21aの露出の面積に対して、導電性高分子25によって被覆されている面積と定義することができる。十分な量の導電性パス40を得る観点から、この陽極端面被覆率は、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。
【0066】
陽極箔21aの陽極端面被覆率は、導電性高分子25の形成前のコンデンサ素子20の上面の画像と、導電性高分子25の形成後のコンデンサ素子20の上面の画像とから、画像処理を行なうことによって算出することができる。まず、
図8(a)で例示する導電性高分子25の形成前のコンデンサ素子20の上面の画像において、コンデンサ素子20の全体の面積から、第1セパレータ22a、第2セパレータ22b、中心部の面積、陽極リード端子23a、陰極リード端子23b、陰極箔21bの面積を差し引くことで、被覆前の陽極箔21aの端面部(端面)の面積を算出することができる。中心部の面積は、素子上面の平面視において、中心部の孔の径のうち最も長い径を直径とする円が中心部にあるものとみなし、該円の最も長い径の1/2の値を半径として、πr
2の計算式にて求めた面積を中心部の面積を定義する。
【0067】
次に、
図8(b)で例示する導電性高分子25の形成後のコンデンサ素子20の上面の画像において、コンデンサ素子20の全体の面積から、第1セパレータ22a、第2セパレータ22b、中心部の面積、陽極リード端子23a、陰極リード端子23b、陰極箔21bの面積、および導電性高分子25によって黒く被覆された面積を差し引くことで、被覆後の陽極箔21aの端面部(端面)の面積を算出することができる。
【0068】
{(被覆前の陽極箔21aの端面の面積)-(被覆後の陽極箔21aの端面の面積の割合)}/(被覆前の陽極箔21aの端面の面積)×100(%)を算出することで、陽極端面被覆率を算出することができる。または、陽極端面被覆率は、被覆後の陽極箔21aの端面の面積(白色)と導電性高分子25に被覆された面積(黒色)との合計に対する、黒色の割合としてもよい。
【0069】
なお、
図7(b)で例示したように、コンデンサ素子20の上面において、中心部よりも外周部の方が、陰極箔21bが1周するのに必要な距離が長くなる。そこで、コンデンサ素子20の上面において、中心部から外周部に向かって、導電性高分子25によって陽極箔21aの端面が被覆される面積が増加していくことが好ましい。ここで、導電性高分子25によって陽極箔21aの端面が被覆される面積が増加することは、面積の絶対値が大きくなっていくことと、1周に占める導電性高分子25の面積割合が大きくなっていることとの少なくともいずれか一方のことを意味する。
【0070】
図5~
図7(b)では、コンデンサ素子20の上面における構造について説明したが、下面においても第1セパレータ22aが下面側に突出する突出部22a1を備え、第2セパレータ22bが下面側に突出する突出部22b1を備えていてもよい。または、コンデンサ素子20の上面および下面のいずれか一方だけに、突出部22a1および突出部22b1が備わっていてもよい。
【0071】
ただし、陰極箔21bにおいてコンデンサ素子20の上面側に陰極リード端子23bが接続されているため、コンデンサ素子20の上面側に導電性パス40が形成されていることが好ましい。そこで、コンデンサ素子20の上面において、突出部22a1および突出部22b1が備わっていることが好ましい。
【0072】
また、コンデンサ素子20の上面側で多くの導電性パス40が形成されていることが好ましいため、上面および下面の両方に突出部22a1および突出部22b1が備わっている場合に、上面側の長さaおよび長さa´が、下面側の長さaおよび長さa´よりも長いことが好ましい。
【0073】
また、コンデンサ素子20を上面側から見た場合の陽極箔21aの端面の面積と、コンデンサ素子20を下面側から見た場合の陽極箔21aの端面の面積との合計に対する、導電性高分子25によって被覆されている面積の比率は、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。なお、当該比率は、コンデンサ素子20の上面側の陽極端面被覆率と下面側の陽極端面被覆率との平均値と定義することもできる。
【0074】
続いて、電解コンデンサ1の製造方法について説明する。
図9は、電解コンデンサ1の製造方法のフローを例示する図である。
【0075】
(巻回体の作製)
第1セパレータ22a、陽極リード端子23aが接続された陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極リード端子23bが接続された陰極箔21bをこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体を作製する。このときに、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bを陽極箔21aよりも上面側および下面側に突出させる。
【0076】
(導電性高分子層の形成)
次に、減圧雰囲気中で、水と有機溶媒を含む導電性高分子分散液に巻回体を20分間浸漬し、その後、導電性高分子分散液から巻回体を引き上げる。このようにすることで、巻回体に導電性高分子25を含浸させることができる。余剰の導電性高分子25を巻回体に残存させた状態で乾燥することにより、導電性パス40を形成する。
【0077】
例えば、導電性高分子分散液として、高分子濃度が0.5wt%以上であるか、または粘度が20℃において10mPa・s以上のものを用いることが好ましい。導電性高分子分散液の高分子濃度が小さいと、導電性高分子を素子に含浸させた際に導電性パスの形成に十分な量の導電性高分子が素子上面に残存せず、また導電性高分子分散液の粘度が小さいと、導電性高分子を素子に含浸させた際に第1セパレータ22aと第2セパレータ22bの接着に必要な量の導電性高分子が素子上面に残存しないからである。
【0078】
(電解液の含浸)
次に、巻回体に、減圧雰囲気中で、所定量の電解液を含浸させる。なお、電解液は、導電性高分子分散液内に、溶質を混合させたものであってもよい。すなわち、導電性高分子分散液を電解液として使用することができる。その場合、電解液の含浸は、導電性高分子の含浸と同時に行うこととなる。また、導電性高分子の分散液の溶媒は、水および有機溶媒から選択される一種類以上の溶液を用いてもよい。この場合、有機溶媒は、沸点が150℃以上のグリコール系化合物、ラクトン系化合物、およびスルホランの少なくとも1つ以上から選択され、当該有機溶媒と水の重量比が1:99~50:50であってもよい。例えば、導電性高分子の含浸の際に、溶質を混合した導電性高分子分散液を巻回体に含浸させることによって、導電性高分子の形成の際に、電解液を含浸させた状態となる。すなわち、導電性高分子を乾燥し、巻回体中の水分を除去した際に、導電性高分子分散液の有機溶媒は残存するため、導電性高分子分散液内の、有機溶媒に溶解した溶質が電解液として機能する。これにより、導電性パスの形成と電解液の含侵を同時に行うことで、製造工程の短縮を図ることができる。また、導電性高分子分散液を電解液として使用した場合は、さらに、巻回体を追加の電解液に含浸してもよい。追加の電解液量の含浸量は、分散液中の電解液の重量に対して、2倍以上100倍以下であることが好ましく、5倍以上20倍以下であることがより好ましい。追加の電解液の組成は、分散液中の電解液と同じ組成であってもよく、異なっていてもよい。例えば、分散液を電解液として含浸させて乾燥などによって水分を除去した素子を、追加の電解液の浴槽にリード端子を上側にして巻回体の部分が完全に浸かるように浸し、減圧含浸を行うことで追加の電解液を素子内部に導入することができる。
【0079】
追加の電解液を含浸する理由は以下のとおりである。分散液を電解液として使用した場合は、乾燥の際に導電性高分子と電解液の複合層が形成されるため、導電性高分子の導電性と導電性高分子近傍の酸化被膜の修復を両立することができる。一方で、導電性高分子近傍の酸化被膜の修復に関しては、初期の修復分としては分散液中の電解液の量で十分であるが、長期的な修復を鑑みると電解液が不足するため、長期的に安定な素子を形成するためには追加の電解液の含浸を行う必要があるのである。すなわち、導電性高分子分散液を電解液として用いた場合には、コンデンサの寿命延長のため、追加の電解液を注液することが特に有効である。
【0080】
(コンデンサの組立)
次に、巻回体を金属ケース10および封口体30によって封止することによって、電解コンデンサ1が完成する。その後、定格電圧を印加しながらエージング処理を行なってもよい。
【0081】
本実施形態に係る製造方法によれば、陽極箔21aを挟んで、突出部22a1と突出部22b1とが接触しやすくなり、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bの間に導電性パス40が形成されるようになる。その結果、コンデンサ素子20のESRを低くすることができる。
【0082】
なお、導電性高分子の含浸の後に電解液の含浸を行なうことによって、導電性パス40を形成している導電性高分子25を膨潤させて湿潤状態とし、粘着性を持たせることができる。この場合、突出部22a1と突出部22b1との結着強度を向上させることができる。なお、導電性パスを有する少なくとも一方の端面のセパレータにおいて電解液量がコンデンサ素子内のセパレータよりも単位面積当たりの量が多くなるように調整することで、導電性高分子25同士が結着した導電性パスが膨潤して長期間粘着性を有するようになる。この膨潤状態であれば電解液が存在するため導電性パスの結着が柔軟性を有し粘着性を有するので、例えば製品使用時の衝撃によって前記結着が破損しにくく、さらにはセパレータ間の結着が解けても粘着して接続を維持し続けることができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bがこの順に積層された積層単位を巻回させてあるが、それに限られない。例えば、第1セパレータ22a、陰極箔21b、第2セパレータ22b、陽極箔21aがこの順に積層された積層単位を巻回させてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、コンデンサ素子20が略円柱形状を有していたが、それに限られない。例えば、コンデンサ素子20は、角柱などの他の柱形状を有していてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、コンデンサ素子20が巻回されていたが、それに限られない。例えば、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bを含む複数の積層単位が、巻回されずに積層されていてもよい。
【実施例0086】
以下、実施形態に係る電解コンデンサを作製し、特性について調べた。
【0087】
(実施例1)
実施例1では、定格電圧63V、定格静電容量56μFの巻回型の電解コンデンサ(直径10mm×長さ10mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0088】
(巻回体の作製)
準備した陽極箔に、陽極リード端子を接続した。端面に導体層を有し塗れ性改善の下処理を行った陰極箔に、陰極リード端子を接続した。その後、第1セパレータ、陰極箔、第2セパレータ、および陽極箔をこの順に積層し、リード端子を巻き込みながら巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体を作製した。このときに、巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.35mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。作製した巻回体を、リン酸アンモニウム水溶液に浸漬させ、陽極箔に対して、143Vの電圧を印加しながら、85℃で再度化成処理を行うことにより、主に陽極箔の端面に誘電体層を形成した。陽極箔の厚みbは、0.125mmであった。
【0089】
(コンデンサ素子の作製)
減圧雰囲気(80kPa)中で、所定容器に収容された導電性高分子の水分散体に巻回体を20分間浸漬し、その後、当該分散体から巻回体を引き上げた。このとき、導電性高分子による陽極端面被覆率が約96%となるように調整した。次に、導電性高分子を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で60分間乾燥させ各層の導電性高分子同士を結着して導電性パスを形成した。このようにして、導電性パスを有するコンデンサ素子を得た。
【0090】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出した。上面側の陽極端面被覆率は、97.3%であった。下面側の陽極端面被覆率は、95.4%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、96.3%であった。
【0091】
(電解液の含浸)
コンデンサ素子に、減圧雰囲気(92kPa)中で所定量の電解液を含浸させ、導電性パスに電解液を存在させることによって粘着導電性パスとするとともに、導電性パスを有する少なくとも一方の端面のセパレータにおいて電解液量がコンデンサ素子内のセパレータよりも単位面積当たりの量が多くなるように調整した。電解液としては、テイカ製のESE2を用いた。このようにすることで、導電性高分子同士が結着した導電性パスが膨潤して長期間粘着性を有するようになる。
【0092】
(コンデンサ素子の封止)
電解液を含浸させたコンデンサ素子を封止して、電解コンデンサを完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、85℃で1時間エージング処理を行った。
【0093】
(実施例2)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約53%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0094】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、61.2%であった。下面側の陽極端面被覆率は、43.9%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、52.5%であった。
【0095】
(実施例3)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約24%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0096】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、28.4%であった。下面側の陽極端面被覆率は、18.8%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、23.6%であった。
【0097】
(実施例4)
巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.2mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約76%となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0098】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、78.6%であった。下面側の陽極端面被覆率は、72.5%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、75.6%であった。
【0099】
(実施例5)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約39%となるように調整したこと以外は、実施例4と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0100】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、45.6%であった。下面側の陽極端面被覆率は、32.9%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、39.3%であった。
【0101】
(実施例6)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約20%となるように調整したこと以外は、実施例4と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0102】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、24.7%であった。下面側の陽極端面被覆率は、16.2%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、20.4%であった。
【0103】
(比較例1)
巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.06mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約11%となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0104】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、13.9%であった。下面側の陽極端面被覆率は、9.0%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、11.4%であった。
【0105】
(比較例2)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約8%となるように調整したこと以外は、比較例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0106】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、9.5%であった。下面側の陽極端面被覆率は、6.4%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、8.0%であった。
【0107】
(分析)
実施例1~6および比較例1,2のそれぞれで得られた電解コンデンサについて、下記の手順で、静電容量およびESR値を求めた。4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数120Hzにおける静電容量(初期静電容量)(μF)を測定した。4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(初期ESR値)(mΩ)を測定した。
【0108】
実施例1では、ESRは9.5mΩであった。実施例2では、ESRは10.4mΩであった。実施例3では、ESRは12.6mΩであった。実施例4では、ESRは13.5mΩであった。実施例5では、ESRは14.2mΩであった。実施例6では、ESRは18.3mΩであった。比較例1では、ESRは30.7mΩであった。比較例2では、ESRは34.2mΩであった。結果を表1に示す。
【表1】
【0109】
比較例1,2では、ESRが高くなった。これは、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立していないことで、セパレータ同士の接触が得られず、陽極箔を挟む2層の陰極箔間に導電性高分子による導電性パスが形成されなかったからであると考えられる。これに対して、実施例1~6では、比較例1,2と比較してESRが低くなった。これは、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立したことで、セパレータ同士の接触が得られ、陽極箔を挟む2層の陰極箔間に導電性高分子による導電性パスが形成されたからであると考えられる。なお、実施例1~6のESRについて検討すると、陽極端面被覆率が高くなるほどESRが低下していることがわかる。この結果から、陽極端面被覆率が高くなるほど多くの導電性パスが形成されたからであると考えられる。
【0110】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。