(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004121
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/02 20060101AFI20240109BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240109BHJP
H01G 9/055 20060101ALI20240109BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240109BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01G9/02
H01G9/048 B
H01G9/055 103
H01G9/15
H01G9/00 290H
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103606
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 一樹
(57)【要約】
【課題】 十分に低いESRを実現できる固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 固体電解コンデンサは、第1セパレータと、引き出しリード端子を接続し表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子を接続した陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成されたコンデンサ素子を備え、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、前記導電性高分子を備えた状態で面方向において前記陽極箔よりも突出しかつ対向し、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、前記導電性高分子により電気的に接続した状態で少なくとも一部が固着され、導電性パスが形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セパレータと、引き出しリード端子を接続し表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子を接続した陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成されたコンデンサ素子を備え、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、前記導電性高分子を備えた状態で面方向において前記陽極箔よりも突出しかつ対向し、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、前記導電性高分子により電気的に接続した状態で少なくとも一部が固着され、導電性パスが形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性パスは、前記陰極箔の電気的短絡経路であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、
前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、
前記導電性高分子は、前記第1セパレータの前記突出部の少なくとも一部と、前記第2セパレータの前記突出部の少なくとも一部とを固着していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記長さaおよび長さa´は、それぞれ0.2mm以上であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第1セパレータ、前記陽極箔、前記第2セパレータ、および前記陰極箔は、共に巻回されて略柱形状を有し、
前記略柱形状の第1底面および第2底面のうち、前記第1底面に、前記陽極箔に接続された前記引き出しリード端子と、前記陰極箔に接続された前記引き出しリード端子とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記陽極箔は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であり、
前記陰極箔は、弁金属箔、弁金属の合金箔、または弁金属の表面に導電層を形成した箔であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記第2底面における前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部の突出長さよりも、前記第1底面における前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部の突出長さよりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記導電性パスにおいて、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの少なくともいずれか一方は、コンデンサ素子の円筒軸に対して傾斜していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記コンデンサ素子は、内部に水分を含んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
前記第1底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積と、前記第2底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積との合計は、前記第1底面および前記第2底面における前記陽極箔の露出部の合計面積に対して、48%以上であることを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
前記第1底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積は、前記第1底面における前記陽極箔の露出部の面積に対して、45%以上であることを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項12】
前記第1底面および前記第2底面の少なくともいずれかにおいて、中心部から外周部に向かって、前記陽極箔の露出部が前記導電性高分子で被覆される面積が増加することを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項13】
前記略柱形状の軸方向において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの単位面積あたりの電解液量が、中心側よりも前記第1底面側および前記第2底面側において多いことを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項14】
前記導電性高分子層は、前駆体モノマーを重合させたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項15】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、セルロース、レーヨン、およびガラス繊維から選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項16】
前記コンデンサ素子に対する平面視において、前記導電性パスは、少なくとも、前記陰極箔に接続された前記リード端子が位置する側の半分の領域に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項17】
第1セパレータと、引き出しリード端子を接続し表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子を接続した陰極箔とが順次配置され、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれが面方向において前記陽極箔よりも突出しかつ対向するコンデンサ素子において、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータに前駆体モノマーを含浸させて前記コンデンサ素子内に導電性高分子を形成し、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが前記導電性高分子により電気的に接続した状態で少なくとも一部を固着させて導電性パスを形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、
前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部間に前記導電性パスを形成することを特徴とする請求項17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
コンデンサ素子に前記前駆体モノマーを含浸させて重合する工程を1回また複数回繰り返して固体電解質層を形成する際に、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが突出する部分も同時に固着させて導電性パスを形成することを特徴とする請求項17または請求項18に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが突出する部分の前記導電性パスの表面被覆率を調整するために、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータに再度導電性ポリマーを含侵または付着させて固体電解質層を形成させることによって導電性パスを増加させることを特徴とする請求項17または請求項18に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の弁金属箔を用いた固体電解コンデンサは、通常の電解コンデンサに存在する駆動用電解液に代えて、駆動用電解液よりも大幅に電気伝導度の高い導電性高分子ポリマーを用いて固体電解質層を両極間に形成し導通させることによってESR(等価直列抵抗)の低減がなされている。
【0003】
通常、固体電解質層は、陽極酸化被膜が表面に形成された陽極箔と、陰極箔とを、セパレータを介して対向させて巻回されており、両弁金属箔には引き出しリード端子等の引き出し部が設けられたコンデンサ素子に、モノマーを含浸させ、その後重合等によって固化させることによって両箔間に存在させている。
【0004】
例えば、3,4-ジアルコキシチオフェンをモノマーとして用いて、アセチレングリコール系界面活性剤を添加の上、トルエンスルホン酸鉄などの重合開始剤を適量添加して加温することで、3,4-ジアルコキシチオフェンを重合している。さらに、別途重合させたポリアニオンを重合した3,4-ジアルコキシチオフェンにドープすることで表面抵抗率を低減した導電性高分子層を形成し、固体電解質層としている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
セパレータの材料に工夫を加えて、セパレータの空隙率を増大させ、セパレータの空隙内に導電性高分子の前駆体である液状組成物を含浸させ、導電性高分子の液状組成物を保持した状態で乾燥・あるいは重合させることによって、導電性高分子からなる高密度な固体電解質層を含むセパレータ層を形成することが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方で、製品の低ESR化を目的としたアルミ電解コンデンサの技術として、アルミ電解コンデンサ素子の端面に金属プレートを導電性接着剤にて陰極箔端面に接続(バンドル)して、突出した陰極箔同士を陽極箔の端面を超えて直接バンドルを介して電気的に接続する技術も開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-40550号公報
【特許文献2】特開2011-91457号公報
【特許文献3】特表2021-519513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体電解コンデンサのような極低ESR品においては、通常の電解液を用いた電解コンデンサでは問題視されていなかった、電極箔に電流が流れる際の電気的抵抗分が問題となる。それにより、コンデンサ素子において、電極箔の箔長末端からリード端子等の引き出し部への距離による、電極箔を引き出し部まで流れる電荷に掛かる抵抗が問題になっていた。
【0009】
そのため、特許文献3に示すような素子端面に金属のバンドルを形成することが考案されている。しかしながら、バンドル自体が金属製であることから、形成時に陽極箔の誘電体表面を傷つけるおそれがあり、素子表面の加工を行う必要がある。また、陽陰両箔間の絶縁をどのように保持するのか等、バンドルの接続が複雑になり、コストも上がってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、十分に低いESRを実現できる固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る固体電解コンデンサは、第1セパレータと、引き出しリード端子を接続し表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子を接続した陰極箔とが順次配置され、導電性高分子が形成されたコンデンサ素子を備え、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、前記導電性高分子を備えた状態で面方向において前記陽極箔よりも突出しかつ対向し、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、前記導電性高分子により電気的に接続した状態で少なくとも一部が固着され、導電性パスが形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記導電性パスは、前記陰極箔の電気的短絡経路であってもよい。
【0013】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、前記導電性高分子は、前記第1セパレータの前記突出部の少なくとも一部と、前記第2セパレータの前記突出部の少なくとも一部とを固着していてもよい。
【0014】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記長さaおよび長さa´は、それぞれ0.2mm以上であってもよい。
【0015】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1セパレータ、前記陽極箔、前記第2セパレータ、および前記陰極箔は、共に巻回されて略柱形状を有し、前記略柱形状の第1底面および第2底面のうち、前記第1底面に、前記陽極箔に接続された前記引き出しリード端子と、前記陰極箔に接続された前記引き出しリード端子とを備えていてもよい。
【0016】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記陽極箔は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であり、前記陰極箔は、弁金属箔、弁金属の合金箔、または弁金属の表面に導電層を形成した箔であってもよい。
【0017】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第2底面における前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部の突出長さよりも、前記第1底面における前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部の突出長さよりも大きくてもよい。
【0018】
上記固体電解コンデンサの前記導電性パスにおいて、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの少なくともいずれか一方は、コンデンサ素子の円筒軸に対して傾斜していてもよい。
【0019】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子は、内部に水分を含んでいてもよい。
【0020】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積と、前記第2底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積との合計は、前記第1底面および前記第2底面における前記陽極箔の露出部の合計面積に対して、48%以上であってもよい。
【0021】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1底面における前記陽極箔の露出部において前記導電性高分子で被覆されている面積は、前記第1底面における前記陽極箔の露出部の面積に対して、45%以上であってもよい。
【0022】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1底面および前記第2底面の少なくともいずれかにおいて、中心部から外周部に向かって、前記陽極箔の露出部が前記導電性高分子で被覆される面積が増加してもよい。
【0023】
上記固体電解コンデンサの前記略柱形状の軸方向において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの単位面積あたりの電解液量が、中心側よりも前記第1底面側および前記第2底面側において多くてもよい。
【0024】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記導電性高分子層は、前駆体モノマーを重合させたものであってもよい。
【0025】
上記固体電解コンデンサにおいて、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータは、セルロース、レーヨン、およびガラス繊維から選択される少なくとも1種類以上であってもよい。
【0026】
上記固体電解コンデンサの前記コンデンサ素子に対する平面視において、前記導電性パスは、少なくとも、前記陰極箔に接続された前記リード端子が位置する側の半分の領域に形成されていてもよい。
【0027】
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法は、第1セパレータと、引き出しリード端子を接続し表面に陽極酸化被膜を有する陽極箔と、第2セパレータと、引き出しリード端子を接続した陰極箔とが順次配置され、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれが面方向において前記陽極箔よりも突出しかつ対向するコンデンサ素子において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータに前駆体モノマーを含浸させて前記コンデンサ素子内に導電性高分子を形成し、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが前記導電性高分子により電気的に接続した状態で少なくとも一部を固着させて導電性パスを形成することを特徴とする。
【0028】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータのそれぞれは、面方向で前記陽極箔よりも突出して対向し、前記導電性高分子を含む突出部を備え、前記第1セパレータの前記突出部の突出長さを長さaとし、前記第2セパレータの前記突出部の突出長さを長さa´とし、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部が対向する箇所における前記陽極箔の厚みを厚みbとした場合に、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立し、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータの前記突出部間に前記導電性パスを形成してもよい。
【0029】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、コンデンサ素子に前記前駆体モノマーを含浸させて重合する工程を1回また複数回繰り返して固体電解質層を形成する際に、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが突出する部分も同時に固着させて導電性パスを形成してもよい。
【0030】
上記固体電解コンデンサの製造方法において、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータが突出する部分の前記導電性パスの表面被覆率を調整するために、前記第1セパレータおよび前記第2セパレータに再度導電性ポリマーを含侵または付着させて固体電解質層を形成させることによって導電性パスを増加させてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、十分に低いESRを実現できる固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第1実施形態に係る電解コンデンサの概略図である。
【
図2】(a)は陽極箔をシート状に展開した図であり、(b)は陰極箔をシート状に展開した図であり、(c)は第1セパレータをシート状に展開した図である。
【
図4】(a)はコンデンサ素子内の積層構造を説明するための模式的な断面図であり、(b)は陽極箔の拡大断面図である。
【
図5】陽極箔を挟む2層の陰極箔に導電性パスを形成するための構成について説明するための図である。
【
図6】陽極箔を挟んで突出部同士が接触する様子を例示する図である。
【
図7】(a)および(b)はコンデンサ素子の上面において半径方向に導電性パスが形成された場合の効果を説明するための図である。
【
図8】(a)は導電性高分子の形成前のコンデンサ素子の上面の画像を例示する図であり、(b)は導電性高分子の形成後のコンデンサ素子の上面の画像を例示する図である。
【
図9】電解コンデンサ1の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る固体電解コンデンサ1の概略図である。固体電解コンデンサ1は、外装体として機能する金属ケース10と、金属ケース10に装入されたコンデンサ素子20と、封口体30とを備えている。
【0035】
金属ケース10には、一端に開口部11を有する有底筒状のアルミニウムケースが用いられる。本実施形態においては、金属ケース10は一例として円筒状を有しているが、角筒状であってもよい。
【0036】
コンデンサ素子20は、一対の電極箔を備えている。一対の電極箔は、陽極箔21aおよび陰極箔21bである。第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bがこの順に積層され長さ方向に巻回されて、コンデンサ素子20が構成されている。コンデンサ素子20の形状は、金属ケース10の内形状に略一致させてある。したがって、コンデンサ素子20は、柱形状を有している。本実施形態におけるコンデンサ素子20は、イオンの移動における短絡経路の効果が良く発揮できる巻回型(略円柱)に用いることが好ましいが、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを順次積層した積層型のコンデンサ素子(略角柱)に用いてもよい。
【0037】
陽極箔21aおよび陰極箔21bとして、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ等の弁金属およびその合金箔並びに蒸着箔等を用いることができる。蒸着膜は、例えば、チタンの蒸着膜である。陰極箔21bは、弁金属箔、弁金属の合金箔、または弁金属の表面に導電層を形成した箔であってもよい。陽極箔21aは、表面の全体を酸化被膜が覆っている。したがって、陽極箔21aは、他の部材から絶縁されている。この酸化被膜が誘電体として機能することで、コンデンサ素子20がコンデンサとして機能する。陰極箔21bの表面には酸化被膜が形成されていない。なお、陰極箔21bは、表面に無機層またはカーボン層が形成されていてもよい。その場合には、後述する導電性高分子25は、無機層またはカーボン層を形成した面にも形成される。
【0038】
陽極箔21aには、引き出しリード端子としての陽極リード端子23aが接続されている。陰極箔21bには、引き出しリード端子としての陰極リード端子23bが接続されている。
【0039】
封口体30は、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bが挿通される一対のリード挿通孔31a,31bを有するゴム封口体からなる。封口体30は、金属ケース10の開口部11内に嵌合され、かしめ駒などにより開口部11の外周に沿って形成される横絞り溝12により気密的に強固に取り付けられる。例えば、封口体30には、ブチルゴムなどが採用される。
【0040】
なお、本実施形態においては、コンデンサ素子20がなす柱形状の各底面のうち、リード端子が設けられている側の底面を上面(第1底面)と称し、リード端子が設けられていない側の底面を下面(第2底面)と称する。
【0041】
図2(a)は、陽極箔21aをシート状に展開した図である。
図2(b)は、陰極箔21bをシート状に展開した図である。
図2(a)および
図2(b)で例示するように、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bは、アルミニウムなどの金属丸棒の一端側をプレスして平板として羽子板状のタブ端子部に、リード線が接続された構造を有している。陽極箔21aおよび陰極箔21bは、このタブ端子部の平板部に固着している。なお、固着とは、乾燥して固まっていることを意味しているため、粘着とは異なる。
【0042】
図2(c)は、第1セパレータ22aをシート状に展開した図である。第1セパレータ22aには、導電性高分子が形成されている。固体電解コンデンサ1では、電解液は用いられない。
【0043】
図2(c)では、第1セパレータ22aについて説明したが、第2セパレータ22bも第1セパレータ22aと同様の構造を有する。
【0044】
第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、セルロース、レーヨン、ガラス繊維などから選択される少なくとも1種類以上を材料とする。
【0045】
導電性高分子25は、導電性を有する高分子であれば特に限定されるものではない。例えば、導電性高分子25として、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を用いる。導電性高分子25として、一般的に、p-トルエンスルホン酸およびポリスチレンスルホン酸(PSS)等からなる群より選択される少なくとも1種の酸をドーパントとするポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。
【0046】
ここで、陰極箔21b、導電性高分子25の体積抵抗率(Ωm)について説明する。例えば、陰極箔21bとしてアルミニウムを用いる場合には、陰極箔21bの体積抵抗率は約2.65×10-6Ωmである。導電性高分子25としてPSSをドーパントとするPEDOTを用いる場合には、導電性高分子25の体積抵抗率は1.0×10-3~1.0×10-2程度である。
【0047】
本実施形態に係るコンデンサ素子20は、陰極箔21bに加えて導電性高分子25を用いることで、高い静電容量および低いESRを実現することができる。しかしながら、ESRが十分に低くならない場合がある。この点について詳細を説明する。
【0048】
図3は、
図2(b)と同様に、陰極箔21bをシート状に展開した図である。
図3で例示するように、陰極箔21bの長さ方向に電子伝導が生じるため、陰極リード端子23bまでの電子伝導距離が長くなる場合がある。例えば、陰極リード端子23bから最も遠い点Pから陰極リード端子23bに至るまで、距離が長くなる傾向にある。したがって、陰極箔の厚みが薄いことも相まって、点Pから陰極リード端子23bに至るまでの電気抵抗が大きくなり、ESRが十分に低くならない場合がある。
【0049】
特に、巻回型のコンデンサ素子においては、箔末端からリード端子への距離が長く、かつ巻回する都合上、箔長の何れか一方に寄らざるを得ないことからリード端子に遠い側の箔末端からは電荷が移動する際に電気的抵抗がより増加するという問題がある。
【0050】
また、陰極として、陽極箔と比較して箔厚が薄く金属の純度も低いものを用いると、金属箔を導通する際に抵抗が大きくなる。
【0051】
そこで、本実施形態に係るコンデンサ素子20は、ESRを十分に低くすることができる構成を有している。まず、陰極箔間の導電性パスについて説明する。
図4(a)は、コンデンサ素子20内の積層構造を説明するための模式的な断面図である。
図4(a)で例示するように、断面において、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、陰極箔21bの積層単位が順に積層されている。第1セパレータ22aの陽極箔21aと反対側に、陰極箔21bが位置するように見える。
【0052】
陽極箔21aは、金属箔211の表面に陽極酸化被膜212が形成された構造を有している。この陽極酸化被膜212が誘電体として機能している。
図4(b)で例示するように、陽極箔21aは、例えば、エッチング処理により拡面化し、化成処理により表面に陽極酸化被膜212を形成している。エッチング処理の拡面化された陽極箔は、表面に無数の細孔を有し、非常に大きい表面積を有している。陽極酸化被膜212は、陽極箔21aの表面全体に厚み10~100nmで形成されている。陰極リード端子23bからの電荷は、陰極箔21bを通り第1セパレータ22aの導電性高分子を介して陽極酸化被膜212を帯電させる。しかしながら、陰極リード端子23bからの電荷は、
図4(a)における陰極リード端子23bから近い方の陰極箔21bを通過した後、巻回している陰極箔21bを通過して、
図4(a)における陰極リード端子23bから遠い方の陰極箔21bを通過することになり、
図4(a)における左側の陰極箔21bから右側の陰極箔21bまで到達するためには、相応の長さの経路を通過する必要がある。この2層の陰極箔21bの間のセパレータに導電性高分子による導電性パス40が形成されれば、
図3で説明した陰極リード端子23bから最も遠い点Pから陰極リード端子23bに至るまでの経路にショートカットを形成することができ、ESRを低下させることができる。すなわち、陰極リード端子23bからの電荷は、陰極箔21bを通り導電性高分子を介して陽極酸化被膜212を帯電させる。電荷が陰極箔21bを通る際に、第1セパレータ22aと第2セパレータ22bとの間に導電性高分子による電気的短絡経路である導電性パスが形成されていると、陰極リード端子23bからの電荷は導電性パスを介して、陰極リード端子23bからより離れた外周部の陰極箔21bにより短い距離で到達することとなるため、外周部の陰極箔21bから外周部の導電性高分子を介して外周部の陽極酸化被膜212を効率的に帯電させる。結果として、より外周部の陽極箔21aの陽極酸化被膜212までの導電率が高い、すなわち素子全体の特性が低ESRとなる。
【0053】
図5は、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bに導電性パスを形成するための構成について説明するための図である。
図5で例示するように、本実施形態に係るコンデンサ素子20は、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bが、陽極箔21aよりも面方向で突出して対向している。
図5の例では、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、コンデンサ素子20の上面において陽極箔21aよりも上側に突出している。
【0054】
第1セパレータ22aが陽極箔21aよりも突出する突出部22a1の突出長さを長さaとする。第2セパレータ22bが陽極箔21aよりも突出する突出部22b1の突出長さを長さa´とする。第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1とが対向する箇所における陽極箔21aの厚みを厚みbとする。この場合において、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立している。
【0055】
第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、柔軟性を有しているため、容易に曲がり、容易に折れ曲がる傾向にある。したがって、
図6で例示するように、陽極箔21aを挟んで、突出部22a1と突出部22b1とが接触しやすくなる。この場合、第1セパレータ22aの導電性高分子25と第2セパレータ22bの導電性高分子25とが接触することによって電気的に接続される。それにより、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bの間に導電性パス40が形成される。それにより、コンデンサ素子20のESRを低くすることができる。なお、ケース内に収納することで突出部22a1と突出部22b1とに応力をかけさらに固着することができる。すなわち、本実施形態において、導電性パス40は、突出部22a1および突出部22b1が導電性高分子25を介して固着して形成される。なお、突出部22a1および突出部22b1の少なくともいずれか一方を、コンデンサ素子20の円筒軸に対して傾斜させてあることが好ましい。例えば、突出部22a1および突出部22b1の少なくともいずれか一方を、コンデンサ素子20の中心に向けて傾斜させてあることが好ましい。当該傾斜によって、固着している箇所が衝撃に弱くても、衝撃の影響を抑制することができる。
【0056】
図7(a)および
図7(b)は、コンデンサ素子20の上面において半径方向に導電性パスが形成された場合の効果を説明するための図である。
図7(a)および
図7(b)で例示するように、コンデンサ素子20の上面では、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bが見られる。コンデンサ素子20の下面では、陽極リード端子23aおよび陰極リード端子23bは見られない。
【0057】
図7(a)で例示するように、導電性パスが形成されていなければ、イオン伝導の経路は、複数回にわたって周回したうえで陰極リード端子23bに到達する経路となる。これに対して、
図7(b)で例示するように、コンデンサ素子20の上面において半径方向に導電性パス40が形成された場合には、ショートカットを繰り返すことができ、陰極リード端子23bに至るまでの経路を短縮化することができる。なお、本実施形態においては、陽極箔21aに絶縁性を有する陽極酸化被膜212が形成されていることから、陽極箔21aが導電性パス40と接触してもショートは生じない。
【0058】
なお、第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1との間を接触させやすくする観点から、(長さa+長さa´)は、厚みbの1倍より大きいことが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0059】
同様に、第1セパレータ22aの突出部22a1と第2セパレータ22bの突出部22b1との間を接触させやすくする観点から、長さaおよび長さa´のそれぞれは、0.2mm以上であることが好ましく、0.25mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。例えば、陽極箔21aおよび陰極箔21bは、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ方向において、2.7mm以上7.5mmの幅を有する。第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bは、コンデンサ素子20の上面と下面とを結ぶ方向において、3.2mm以上8.0mmの幅を有する。
【0060】
また、導電性パス40は、陰極リード端子23bに近い位置で形成されていることが好ましい。したがって、コンデンサ素子20に対する平面視において、導電性パス40は、少なくとも、陰極リード端子23bが位置する側の半分の領域(
図7(a)では点線よりも右側の領域)に形成されていることが、陰極側の電気的短絡経路を形成する上で電気的効率の観点から好ましい。
【0061】
なお、第1セパレータ22aと第2セパレータ22bとが接触すると、コンデンサ素子20を上面側から見たときに、陽極箔21aの上面側の露出部(端面)が導電性高分子25によって被覆されているように見える。陽極箔21aの上面側端面が導電性高分子25によって被覆されている割合(陽極端面被覆率)が高いほど、多くの導電性パス40が形成されていることになる。そこで、陽極端面被覆率に下限を設けることが好ましい。
【0062】
本実施形態においては、陽極箔21aの陽極端面被覆率を、コンデンサ素子20を上面側から見た場合の、コンデンサ素子20の上面における陽極箔21aの露出の面積に対して、導電性高分子25によって被覆されている面積と定義することができる。十分な量の導電性パス40を得る観点から、この陽極端面被覆率は、45%以上であることが好ましく、69%以上であることがより好ましく、73%以上であることがさらに好ましい。
【0063】
陽極箔21aの陽極端面被覆率は、導電性高分子25の形成前のコンデンサ素子20の上面の画像と、導電性高分子25の形成後のコンデンサ素子20の上面の画像とから、画像処理を行なうことによって算出することができる。まず、
図8(a)で例示する導電性高分子25の形成前のコンデンサ素子20の上面の画像において、コンデンサ素子20の全体の面積から、第1セパレータ22a、第2セパレータ22b、中心部の面積、陽極リード端子23a、陰極リード端子23b、陰極箔21bの面積を差し引くことで、被覆前の陽極箔21aの露出部(端面)の面積を算出することができる。中心部の面積は、素子上面の平面視において、中心部の孔の径のうち最も長い径を直径とする円が中心部にあるものとみなし、該円の最も長い径の1/2の値を半径として、πr
2の計算式にて求めた面積を中心部の面積を定義する。
【0064】
次に、
図8(b)で例示する導電性高分子25の形成後のコンデンサ素子20の上面の画像において、コンデンサ素子20の全体の面積から、第1セパレータ22a、第2セパレータ22b、中心部の面積、陽極リード端子23a、陰極リード端子23b、陰極箔21bの面積、および導電性高分子25によって黒く被覆された面積を差し引くことで、被覆後の陽極箔21aの露出部(端面)の面積を算出することができる。
【0065】
{(被覆前の陽極箔21aの露出部の面積)-(被覆後の陽極箔21aの露出部の面積の割合)}/(被覆前の陽極箔21aの露出部の面積)×100(%)を算出することで、陽極端面被覆率を算出することができる。
【0066】
なお、
図7(b)で例示したように、コンデンサ素子20の上面において、中心部よりも外周部の方が、陰極箔21bが1周するのに必要な距離が長くなる。そこで、コンデンサ素子20の上面において、中心部から外周部に向かって、導電性高分子25によって陽極箔21aの露出部が被覆される面積が増加していくことが好ましい。ここで、導電性高分子25によって陽極箔21aの露出部が被覆される面積が増加することは、面積の絶対値が大きくなっていくことと、1周に占める導電性高分子25の面積割合が大きくなっていることとの少なくともいずれか一方のことを意味する。
【0067】
図5~
図7(b)では、コンデンサ素子20の上面における構造について説明したが、下面においても第1セパレータ22aが下面側に突出する突出部22a1を備え、第2セパレータ22bが下面側に突出する突出部22b1を備えていてもよい。または、コンデンサ素子20の上面および下面のいずれか一方だけに、突出部22a1および突出部22b1が備わっていてもよい。
【0068】
ただし、陰極箔21bにおいてコンデンサ素子20の上面側に陰極リード端子23bが接続されているため、コンデンサ素子20の上面側に導電性パスが形成されていることが好ましい。そこで、コンデンサ素子20の上面において、突出部22a1および突出部22b1が備わっていることが好ましい。
【0069】
また、コンデンサ素子20の上面側で多くの導電性パスが形成されていることが好ましいため、上面および下面の両方に突出部22a1および突出部22b1が備わっている場合に、上面側の長さaおよび長さa´が、下面側の長さaおよび長さa´よりも長いことが好ましい。
【0070】
また、コンデンサ素子20を上面側から見た場合の陽極箔21aの露出部の面積と、コンデンサ素子20を下面側から見た場合の陽極箔21aの露出部の面積との合計に対する、導電性高分子25によって被覆されている面積の比率は、48%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、73%以上であることがさらに好ましい。なお、当該比率は、コンデンサ素子20の上面側の陽極端面被覆率と下面側の陽極端面被覆率との平均値と定義することもできる。
【0071】
続いて、電解コンデンサ1の製造方法について説明する。
図9は、電解コンデンサ1の製造方法のフローを例示する図である。
【0072】
(巻回体の作製)
第1セパレータ22a、陽極リード端子23aが接続された陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極リード端子23bが接続された陰極箔21bをこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体を作製する。このときに、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bを陽極箔21aよりも上面側および下面側に突出させる。
【0073】
(導電性高分子の含浸・重合)
次に、減圧雰囲気中で、水と有機溶媒を含む前駆体モノマーに巻回体を20分間浸漬し、その後、前駆体モノマーから巻回体を引き上げる。このようにすることで、巻回体に前駆体モノマーを含浸させることができる。余剰の前駆体モノマーを巻回体に残存させた状態で酸化剤を作用させることで、導電性パス40を形成する。
【0074】
例えば、第1セパレータ22aおよび第2セパレータに前駆体モノマーを含浸させてコンデンサ素子20内に導電性高分子を形成した後に、余剰の前駆体モノマーを残存させた状態で重合することで導電性パス40を形成することができる。この場合において、
【0075】
または、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bに前駆体モノマーを含浸させて余剰の前駆体モノマーを除去して酸化剤を作用させることで重合反応を生じさせ、その後、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bに前駆体モノマーを再度含浸させて余剰の前駆体モノマーを除去して酸化剤を作用させることで、導電性パス40を形成してもよい。この一連の手順を繰り返すことで、十分な量の導電性パス40を形成することができる。なお、コンデンサ素子20の内部に、水分が残留していていもよい。
【0076】
コンデンサ素子20に前駆体モノマーを含浸させて重合する工程を1回また複数回繰り返して固体電解質層を形成する際に、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bが突出する部分も同時に固着させて導電性パス40を形成してもよい。第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bが突出する部分の導電性パス40の表面被覆率を調整するために、第1セパレータ22aおよび第2セパレータ22bに再度導電性ポリマーを含侵または付着させて固体電解質層を形成させることによって導電性パスを増加させてもよい。
【0077】
(コンデンサ素子の封止)
次に、巻回体を金属ケース10および封口体30によって封止することによって、電解コンデンサ1が完成する。その後、定格電圧を印加しながらエージング処理を行なってもよい。
【0078】
本実施形態に係る製造方法によれば、陽極箔21aを挟んで、突出部22a1と突出部22b1とが接触しやすくなり、陽極箔21aを挟む2層の陰極箔21bの間に導電性パス40が形成されるようになる。その結果、コンデンサ素子20のESRを低くすることができる。また、前駆体モノマーの含浸時に、前駆体モノマーが含浸したセパレータが粘着性を有し、粘着性を持ったセパレータ同士が決着した状態で酸化剤を作用させることで、前駆体モノマーが重合し、セパレータと一体化した強固な導電性高分子層が形成される。
【0079】
なお、上記実施形態では、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bがこの順に積層された積層単位を巻回させてあるが、それに限られない。例えば、第1セパレータ22a、陰極箔21b、第2セパレータ22b、陽極箔21aがこの順に積層された積層単位を巻回させてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、コンデンサ素子20が略円柱形状を有していたが、それに限られない。例えば、コンデンサ素子20は、角柱などの他の柱形状を有していてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、コンデンサ素子20が巻回されていたが、それに限られない。例えば、第1セパレータ22a、陽極箔21a、第2セパレータ22b、および陰極箔21bを含む複数の積層単位が、巻回されずに積層されていてもよい。
【実施例0082】
以下、実施形態に係る電解コンデンサを作製し、特性について調べた。
【0083】
(実施例1)
実施例1では、定格電圧63V、定格静電容量56μFの巻回型の固体電解コンデンサ(直径6.3mm×長さ5.7mm)を作製した。以下に、固体電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0084】
(巻回体の作製)
準備した陽極箔に、陽極リード端子を接続した。端面に導体層を有し塗れ性改善の下処理を行った陰極箔に、陰極リード端子を接続した。その後、第1セパレータ、陰極箔、第2セパレータ、および陽極箔をこの順に積層し、リード端子を巻き込みながら巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体を作製した。このときに、巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.35mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。作製した巻回体を、リン酸アンモニウム水溶液に浸漬させ、陽極箔に対して、所定の電圧を印加しながら、再度化成処理を行うことにより、主に陽極箔の端面に誘電体層を形成した。その後、炭化工程を経て再度化成工程および炭化工程を経たうえで、素子を洗浄し乾燥した。陽極箔の厚みbは、0.125mmであった。
【0085】
(コンデンサ素子の作製)
所定容器に収容された導電性高分子前駆体モノマーに巻回体を3分間浸漬し、その後、導電性高分子前駆体モノマーから巻回体を引き上げた。このとき、導電性高分子前駆体モノマーによる陽極端面被覆率が約96%~99%となるように調整した。次に、導電性高分子前駆体モノマーを含浸した巻回体を、乾燥炉内で45分間乾燥させ、乾燥した素子に常温で酸化剤を含浸し、余剰の酸化剤を除去した後に、加温による重合を進行させた。その後、必要に応じてさらに熱処理を行い、徐冷の後、導電性高分子層と導電性パスを有するアルミニウム固体電解コンデンサ素子を得た。
【0086】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出した。上面側の陽極端面被覆率は、98.8%であった。下面側の陽極端面被覆率は、96.1%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、97.6%であった。
【0087】
(コンデンサ素子の封止)
固体電解コンデンサ素子を封止して、固体電解コンデンサを完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、1時間エージング処理を行った。
【0088】
(実施例2)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約84%~86%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0089】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、85.7%であった。下面側の陽極端面被覆率は、83.9%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、84.8%であった。
【0090】
(実施例3)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約73~75%となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0091】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、73.4%であった。下面側の陽極端面被覆率は、74.2%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、73.8%であった。
【0092】
(実施例4)
巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.2mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約89~91%となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0093】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、69.3%であった。下面側の陽極端面被覆率は、70.6%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、70.1%であった。
【0094】
(実施例5)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約74~77%となるように調整したこと以外は、実施例4と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0095】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、54.2%であった。下面側の陽極端面被覆率は、56.8%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、55.5%であった。
【0096】
(実施例6)
導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約68~71%となるように調整したこと以外は、実施例4と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0097】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、45.7%であった。下面側の陽極端面被覆率は、50.4%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、48.1%であった。
【0098】
(比較例1)
巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.06mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約22~25%となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0099】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、34.9%であった。下面側の陽極端面被覆率は、32.5%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、33.7%であった。
【0100】
(比較例2)
巻回体の上面(リード端子側)における第1セパレータの突出長さaおよび第2セパレータの突出長さa´が0.04mmとなるように、第1セパレータおよび第2セパレータの位置を調整した。導電性高分子の形成時に、導電性高分子による陽極端面被覆率が約18~21%となるように調整した。それ以外は、比較例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0101】
得られたコンデンサ素子の上面および下面の画像処理を行い、それぞれの陽極端面被覆率を算出したところ、上面側の陽極端面被覆率は、18.2%であった。下面側の陽極端面被覆率は、20.4%であった。上面および下面の陽極端面被覆率の平均値は、19.3%であった。
【0102】
(分析)
実施例1~6および比較例1,2のそれぞれで得られた電解コンデンサについて、下記の手順で、静電容量およびESR値を求めた。4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(初期ESR値)(mΩ)を測定した。
【0103】
実施例1では、ESRは12.7mΩであった。実施例2では、ESRは13.3mΩであった。実施例3では、ESRは15.8mΩであった。実施例4では、ESRは17.2mΩであった。実施例5では、ESRは19.4mΩであった。実施例6では、ESRは20.8mΩであった。比較例1では、ESRは26.5mΩであった。比較例2では、ESRは31.6mΩであった。結果を表1に示す。
【表1】
【0104】
比較例1,2では、ESRが高くなった。これは、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立していないことで、セパレータ同士の接触が得られず、陽極箔を挟む2層の陰極箔間に導電性高分子による導電性パスが形成されなかったからであると考えられる。これに対して、実施例1~6では、比較例1,2と比較してESRが低くなった。これは、長さa+長さa´≧厚みbの関係が成立したことで、セパレータ同士の接触が得られ、陽極箔を挟む2層の陰極箔間に導電性高分子による導電性パスが形成されたからであると考えられる。なお、実施例1~6のESRについて検討すると、陽極端面被覆率が高くなるほどESRが低下していることがわかる。この結果から、陽極端面被覆率が高くなるほど多くの導電性パスが形成されたからであると考えられる。
【0105】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。