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特開2024-41215管理装置、電力システム、充放電計画作成方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041215
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】管理装置、電力システム、充放電計画作成方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240319BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240319BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240319BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240319BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20240319BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240319BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 180
H02J3/32
H02J3/38 120
H02J13/00 311R
H02J7/35 K
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145885
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小牧 祐太
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 一徳
(72)【発明者】
【氏名】志賀 慶明
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5G503
5L049
【Fターム(参考)】
5G064AC06
5G064CB12
5G064DA01
5G066AA03
5G066HA15
5G066HB02
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA01
5G066JB03
5G066KA06
5G503AA01
5G503AA06
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503DA04
5G503GD04
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】蓄電池運用について複数の用途が考えられる場合でも、発電システム運用者の要求事項に沿った蓄電池充放電計画を策定する。
【解決手段】実施形態の管理装置は、発電装置および蓄電池を有する発電システムと接続された管理装置であって、前記蓄電池の充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち前記蓄電池についての第1用途、第2用途と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、前記蓄電池の容量を前記第1用途、第2用途に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する蓄電池容量比決定部と、前記蓄電池容量比および発電システム運用者の要求事項に基づいて、前記充放電計画を作成する計画作成部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電装置および蓄電池を有する発電システムと接続された管理装置であって、
前記蓄電池の充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち前記蓄電池についての第1用途、第2用途と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、前記蓄電池の容量を前記第1用途、前記第2用途に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する蓄電池容量比決定部と、
前記蓄電池容量比および発電システム運用者の要求事項に基づいて、前記充放電計画を作成する計画作成部と、を備える管理装置。
【請求項2】
前記第1用途は、前日計画においてスポット市場の売電市場価格が安い時間で充電して高い時間で放電する蓄電池運用であるタイムシフト運用であり、
前記第2用途は、当日の発電量実績値が前日段階での発電量予測値と異なった際に、前日段階での発電量計画値に対して過不足となるインバランスを回避できるように前記蓄電池に余力を残す運用であるインバランス回避運用であり、
前記計画作成部は、前記蓄電池容量比、および、前記要求事項である前記発電システム運用者の収益の最大化に基づいて、前記収益を最大化する前記充放電計画を作成する、請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記蓄電池容量比決定部は、前記発電装置の発電量および電力市場価格推移を含む過去実績データ群から前記発電装置の発電量および電力市場価格推移と売電収益との相関に基づいて、前記蓄電池容量比を決定する、請求項2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記蓄電池容量比決定部は、前記発電装置の発電量および前記電力市場価格推移の予測値に一番近い過去実績データに基づいて、前記蓄電池容量比を決定する、請求項3に記載の管理装置。
【請求項5】
前記蓄電池容量比決定部は、前記過去実績データ群を参照して前記蓄電池容量比を決定するときに、対象日と傾向が類似する過去実績データを選択して使用する、請求項3に記載の管理装置。
【請求項6】
前記蓄電池容量比決定部は、前記発電装置の発電量および前記電力市場価格推移の予測値が所定の確率分布に従う変数であるものとして、前記収益の期待値が最大化するように前記蓄電池容量比を決定する、請求項3に記載の管理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の管理装置と、
前記充放電計画に基づいて、前記発電装置および前記蓄電池を制御する制御部を備える前記発電システムと、を備える電力システム。
【請求項8】
発電装置および蓄電池を有する発電システムと接続された管理装置による充放電計画作成方法であって、
蓄電池容量比決定部が、前記蓄電池の充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち前記蓄電池についての第1用途、第2用途と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、前記蓄電池の容量を前記第1用途、前記第2用途に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する蓄電池容量比決定ステップと、
計画作成部が、前記蓄電池容量比および発電システム運用者の要求事項に基づいて、前記充放電計画を作成する計画作成ステップと、を含む充放電計画作成方法。
【請求項9】
発電装置および蓄電池を有する発電システムと接続された管理装置であるコンピュータを、
前記蓄電池の充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち前記蓄電池についての第1用途、第2用途と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、前記蓄電池の容量を前記第1用途、前記第2用途に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する蓄電池容量比決定部と、
前記蓄電池容量比および発電システム運用者の要求事項に基づいて、前記充放電計画を作成する計画作成部と、して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、管理装置、電力システム、充放電計画作成方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電機や風力発電機等の再生可能エネルギー電源(発電機)について、電力系統の負荷平準化や発電システムの売電収益向上を目的に、再生可能エネルギー電源からの電力によって充電される蓄電池を併設した発電システムに関する蓄電池充放電計画の策定・管理手法の技術開発が進んでいる。
【0003】
また、このような発電システムについて、再生可能エネルギー電源の発電量予測値や電力売電単価などに基づいて、売電収益の予測値を最大化する蓄電池充放電計画や発電システムの発電計画の策定手法が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7048797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蓄電池運用については、複数の用途が考えられる。例えば、タイムシフト運用やインバランス回避運用である。タイムシフト運用とは、前日計画においてスポット市場の売電入札の収益を最大化することを目的に、電力市場価格が安い時間で充電して電力市場価格が高い時間で放電する蓄電池運用である。
【0006】
また、インバランス回避運用とは、当日の発電量実績値が前日段階での発電量予測値と異なった際に、前日段階での発電量計画値に対して過不足となるインバランスを回避できるように蓄電池に余力を残す運用である。
【0007】
そして、タイムシフト運用とインバランス回避運用では、蓄電池充放電計画は異なる。また、そういった複数の用途のうちどれが最も発電システム運用者の要求事項(収益向上・需給一致・利用率向上など)を満たすかは諸々の外的要因により変化し、従来技術ではこれらの選択の妥当性が不十分であった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、蓄電池運用について複数の用途が考えられる場合でも、発電システム運用者の要求事項に沿った蓄電池充放電計画を策定することができる管理装置、電力システム、充放電計画作成方法、および、プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の管理装置は、発電装置および蓄電池を有する発電システムと接続された管理装置であって、前記蓄電池の充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち前記蓄電池についての第1用途、第2用途と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、前記蓄電池の容量を前記第1用途、第2用途に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する蓄電池容量比決定部と、前記蓄電池容量比および発電システム運用者の要求事項に基づいて、前記充放電計画を作成する計画作成部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の電力システムの全体構成の概要を示す図である。
図2図2は、タイムシフト運用時の蓄電池充放電計画の一例を示す図である。
図3図3は、インバランス回避運用時の蓄電池充放電計画(PV発電量増加時)の一例を示す図である。
図4図4は、インバランス回避運用時の蓄電池充放電計画(PV発電量減少時)の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態における用途別の蓄電池容量比の収益相関分布の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態における過去実績データの収益相関分布と容量比決定時に参照する領域範囲の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態における収益の期待値を最大化する蓄電池容量比の決定方法の説明図である。
図8図8は、実施形態におけるPV予測に基づく蓄電池容量の割り振りの一例を示す図である。
図9図9は、実施形態における過去実績データ計算部による処理を示すフローチャートである。
図10図10は、実施形態における蓄電池充放電計画の作成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の管理装置、電力システム、充放電計画作成方法、および、プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下において、時刻とは、時間の瞬間を指す場合と、単位時間(例えば、30分)のその時間幅を指す場合の2種類がある。また、「PV」とは、Photovoltaicの略語で、太陽光発電(機)を指す。また、「蓄電池充放電計画」と「充放電計画」は同義である。
【0012】
まず、図1を用いて第1実施形態の構成を説明する。図1は、実施形態の電力システムSの全体構成の概要を示す図である。電力システムSは、発電装置2Dと蓄電池2Cが併設された発電システム2、管理装置1、および、記憶部3を備える。
【0013】
電力システムSは、例えば、卸電力市場での電力の売買を行う事業者によって管理される。電力システムSを管理する事業者は、予め定められた期日までに発電計画を広域機関10(電力広域的運営推進機関)へ事前に報告し、また、必要に応じて修正した発電計画を当日に広域機関10へ報告する義務を負う。
【0014】
管理装置1は、発電システム2と接続され、機能構成として、過去実績データ計算部5、蓄電池容量比決定部6、対象日データ予測システム7、蓄電池充放電計画作成部8(計画作成部)を備える。管理装置1は、記憶部3からのデータと気象データ4を入力とし、発電システム2の制御部2Eに蓄電池充放電計画を出力する。
【0015】
なお、管理装置1は、計算処理、データ群の保存、結果出力等の機能を備えたクラウド上のサービスでも、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、HDD(Hard Disk Drive)と、通信インタフェース(I/F)と、ディスプレイ等の表示装置と、キーボードやマウス等の入力装置とを備えるPC(Personal Computer)等の実機でも、どちらによって実現されてもよいものとする。
【0016】
発電システム2は、太陽光発電機(PV)や風力発電機などの発電装置2Dと、発電装置2Dと併設された蓄電池2Cと、蓄電池2Cに接続された電力量計2Aと、発電装置2Dに接続された電力量計2Bと、発電装置2Dと蓄電池2Cを制御する制御部2Eと、外部との通信を行う通信部2Fと、を備える。
【0017】
電力量計2A、2Bは、それぞれ、発電装置2D、蓄電池2Cから出力される電力量を計測し、単位時間ごとに記憶部3に出力する。
【0018】
発電装置2Dは、再生可能エネルギー電源(以下、「再エネ電源」とも称する。)を備えた構成であればよい。本実施形態では、発電システム2が、太陽光発電機を備えた構成を一例として説明する。蓄電池2Cは発電装置2Dから出力された電力だけによって充電される。つまり、発電システム2は、蓄電池2Cの充放電を制御することにより、発電システム2の出力電力量を制御する。
【0019】
制御部2Eは、管理装置1から受け取った充放電計画、発電装置2Dから受け取った当日の発電装置2Dの発電量、通信部2Fから受け取った電力市場価格などに基づいて蓄電池2Cの充放電等を制御する。この制御の詳細は後述する。
【0020】
制御部2Eは、卸電力市場9および広域機関10と情報を交換しつつ、毎時間の発電量および蓄電池充放電電力量を記憶部3に保存する。
【0021】
記憶部3は、発電システム2の電力量計2A、2Bそれぞれによって計測された蓄電池充放電量、発電量や、PV発電量実績値、電力売電単価、インバランス単価、インバランス量などを時系列データとして保持する。なお、後述の相関分布および対象日の予測を考慮し、単位時間が30分の場合、最低でも1~2か月分のデータが記憶部3に保存されている状態が望ましい。
【0022】
なお、記憶部3は、データ群を保存できるクラウド上のサービスでも、実機(管理装置1、発電システム2)のHDDやメモリ等の装置でも、どちらによって実現されてもよい。
【0023】
過去実績データ計算部5は、過去実績収集部5Aと、充放電パターン作成部5Bと、収益算出部5Cと、を備える。
【0024】
対象日データ予測システム7は、前日段階でのPV発電量(発電装置2Dによる発電量)と電力市場価格のそれぞれの予測を、気象データ4および記憶部3から受け取ったデータ群に基づき行う。
【0025】
次に、蓄電池容量比決定部6について説明する。ここでは、蓄電池2Cの運用において複数の用途(例えば、第1用途、第2用途)が考えられるとき、発電システム2の運用者(発電システム運用者)の要求事項を最も実現するように蓄電池容量を用途別に割り振る比率を求めることを考える。
【0026】
以下では、例として、第1用途はタイムシフト運用で、第2用途はインバランス回避運用で、要求事項は発電システム運用者の収益の最大化であるものとする。また、目的関数に影響を与える変数を、PV発電量と電力市場価格であるものとする。しかし、これらは例であり、これらに限定されない。本発明は、他の用途、他の要求事項、他の目的関数、他の変数にも適用できる。
【0027】
蓄電池容量比決定部6は、蓄電池2Cの充放電計画を作成するときに使用するパラメータのうち蓄電池2Cについてのタイムシフト運用、インバランス回避運用と相関性の高いパラメータの過去実績データおよび予測値を用いて、蓄電池2Cの容量をタイムシフト運用、インバランス回避運用に割り当てる比率である蓄電池容量比を決定する。
【0028】
また、蓄電池容量比決定部6は、発電装置2Dの発電量および電力市場価格推移の予測値に一番近い過去実績データに基づいて、蓄電池容量比を決定する。
【0029】
また、蓄電池容量比決定部6は、過去実績データ群を参照して蓄電池容量比を決定するときに、対象日と傾向が類似する過去実績データを選択して使用する。
【0030】
また、蓄電池容量比決定部6は、発電装置2Dの発電量および電力市場価格推移の予測値が所定の確率分布に従う変数であるものとして、収益の期待値が最大化するように蓄電池容量比を決定する。
【0031】
蓄電池容量比決定部6は、機能構成として、収益相関パターン作成部6Aと、取得部6Bと、蓄電池容量比選択部6Cと、を備える。
【0032】
過去実績収集部5Aは、記憶部3からPV発電量実績値、電力売電単価、インバランス単価、インバランス量などのデータを受け取り、時系列データとして充放電パターン作成部5Bや収益相関パターン作成部6Aに出力する。
【0033】
充放電パターン作成部5Bは、タイムシフト運用およびインバランス回避運用に割り振る蓄電池容量比を複数(N)パターン作成し、1日の収益を最大化する充放電計画を蓄電池容量比別に最適化計算により策定する。式(1)は蓄電池容量比が複数パターンあるときのiパターン(i=1,2,…N)目の収益の式である。
【0034】
【数1】
【0035】
上記の式(1)の各パラメータは、以下の通りである。
Fi:蓄電池容量比パターン(iパターン(i=1,2,…N))ごとの収益(\)
UP(t):時刻tの売電単価(\/kWh)
PV(t):時刻tの発電量(kWh)
Di(t):時刻t,パターンi(i=1,2,…N)の蓄電池充電量(kWh)
Ci(t):時刻t,パターンi(i=1,2,…N)の蓄電池放電量(kWh)
UPim(t):時刻tのインバランス単価(\/kWh)
PVimi(t):時刻t ,パターンi(i=1,2,…N)のインバランス量(kWh)
【0036】
また、蓄電池運用時の制約条件について式(2)~(6)に示す。
【数2】
【0037】
式(2)~(6)の各パラメータは、以下の通りである。
Cmin;30分で充電可能な最小電力量(kWh)
Cmax;30分で充電可能な最大電力量(kWh)
Dmin;30分で放電可能な最小電力量(kWh)
Dmax;30分で放電可能な最大電力量(kWh)
SoCi (t):時刻t,パターンi(i=1,2,…N)の蓄電池SoC量(kWh)
εc:蓄電池充電効率(-)
εd:蓄電池放電効率(-)
【0038】
式(1)~(6)の最適化問題は、線形計画法と称される問題である。このとき、発電システム運用者によって変えることのできる決定変数は蓄電池2Cの充電量および放電量のみであり、それ以外の変数は時間ごとに変化する定数である。以上より、式(1)の目的関数および式(2)~(6)の制約条件で求解することが可能である。
【0039】
以下、タイムシフト運用時およびインバランス回避運用時の蓄電池充放電計画の策定方法について説明する。
【0040】
図2は、タイムシフト運用時の蓄電池充放電計画の一例を示す図である。上述のように、タイムシフト運用は、前日計画においてスポット市場の売電入札の収益を最大化する運用である。(a)の線図11は電力売電単価の予測値を示しており、(b)の線図12はPV発電量の予測値を示している。一般的に、電力売電単価は、需要の大きい朝方および夕方に高くなり、再エネ電源の発電量のピークである日中は安くなる傾向がある。
【0041】
以上から、価格推移に応じて電力売電単価の高い時間帯に蓄電池放電を行い、安い時間帯に蓄電池充電することで売電入札の収益を最大化できると考えられる。(c)の線図13はPV発電量と蓄電池充放電電力量を合算した売電電力量の総和であり、領域14は蓄電池充放電電力量である。(d)の線図15は(c)のように蓄電池充放電を行った際の蓄電池蓄電電力量(SoC)の時間推移である。
【0042】
次に、図3図4を参照して、インバランス回避運用時の蓄電池充放電計画について説明する。上述のように、インバランス回避運用は、当日の発電量実績値が予測と異なった際に、計画値に対して過不足となるインバランスを最小化し、系統運用者に支払うペナルティ料金を最小化する運用である。
【0043】
図3は、インバランス回避運用時の蓄電池充放電計画(PV発電量増加時。つまり、当日のPV発電量が予測値に比べて増加したケース)の一例を示す図である。(a)の線図16は当日のインバランス清算単価を示している。(b)において、線図12はPV発電量の予測値で、線図17AはPV発電量の当日実績値である。
【0044】
この場合、インバランス清算単価の高い時間のインバランス量を削減するように蓄電池充放電を行うことで最も収益が高くなることがわかる。(c)において、領域18Aは当日のインバランス量であり、線図19Aは当日の蓄電池充放電計画変更後の売電電力量の総和であり、領域20Aは蓄電池充放電電力量の当日変更分である。この場合、インバランス清算単価の最も高い夕方付近に蓄電池2Cの充電量を増加させ、インバランス量を削減するように計画の変更を行っている。(d)の線図21Aは当日変更後の蓄電池蓄電電力量(SoC)の時間推移であり、変更前の線図15より中間値付近の推移になっていることがわかる。
【0045】
図4は、インバランス回避運用時の蓄電池充放電計画(PV発電量減少時。つまり、当日のPV発電量が予測値に比べて減少したケース)の一例を示す図である。図3と同様の事項については説明を適宜省略する。
【0046】
(b)の線図17BはPV発電量の当日実績値である。(c)において、領域18Bは当日のインバランス量であり、線図19Bは当日の蓄電池充放電計画変更後の売電電力量の総和である。図3のケースとは逆に、インバランス清算単価の最も高い夕方付近に蓄電池の放電量を増加させることでインバランス量の削減を行っている。(d)の線図21Bは当日変更後の蓄電池蓄電電力量(SoC)の時間推移であり、変更前の線図15より上限値に振れる推移になっていることがわかる。
【0047】
次に、図9を参照して、過去実績データ計算部5による処理について説明する。図9は、実施形態における過去実績データ計算部5による処理を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS100の処理では、過去実績収集部5Aは、記憶部3から以下の時間帯別データを取得する。
・PV発電実績値
・電力売電単価
・インバランス単価
・インバランス量の実績値
【0049】
ステップS101の処理では、充放電パターン作成部5Bは、タイムシフト運用およびインバランス回避運用に割り振る蓄電池容量比のパターン数(Nパターン)を設定する。
【0050】
ステップS102~S105は式(1)~(6)で示した最適化問題を解く過程である。収益算出部5Cは、ステップS102で充放電計画を策定し、ステップS103で目的関数を計算する。収益算出部5Cは、ステップS104で解が収束したか否かの判定を行い、収束するまでステップS103~S105のループ処理を行う。ここまでが蓄電池容量比1パターンの処理であり、iパターン(i=1,2,…N)全ての収益結果を求めるまでステップS102~S107のループ処理を行う。
【0051】
ステップS107では、収益算出部5Cは、蓄電池容量比を修正、つまり、次のパターンの蓄電池容量比を選択する。最終的に、ステップS108にて、収益算出部5Cは、蓄電池容量比別のNパターンの収益結果を出力する。この後の処理について、以下で詳述する。
【0052】
蓄電池容量比決定部6は、過去実績データ群を基にした目的関数(発電システム運用者の要求事項)とその要因となる説明変数の相関分布と、充放電計画を策定する対象日の説明変数の予測値を基に、採用する蓄電池容量比を決定する。具体的には、以下の通りである。
【0053】
収益相関パターン作成部6Aは、過去実績データ計算部5から受け取った、蓄電池容量比別の収益結果とPV発電量と電力市場価格に基づいて、用途別の蓄電池容量比の収益相関分布を出力する。例として、インバランス運用およびタイムシフト運用に割り振る蓄電池容量比を以下の3パターンで比較した場合の収益相関分布の一例を図5に示す。
・100%: 0%(図5の◎)
・ 50%: 50%(図5の〇)
・ 0%:100%(図5の×)
【0054】
(a)において、点群22A~22Cは、売電収益と電力売電価格差(1日における最高価格と最低価格の差額)の日別分布を示している。また、(b)において、点群22A~22Cは、売電収益とPV総発電量の日別分布を示している。
【0055】
タイムシフト運用の収益額は売電価格差に比例するので、売電価格差が大きくなるほどタイムシフト運用に多く容量を割くことが収益面で優位になる。つまり、(a)において、売電価格差が大きくなるほど、点群22Aが点群22Bや点群22Cよりも高収益となる傾向が強まる。
【0056】
また、1日のPV総発電量が大きい快晴時は予測誤差のばらつきが少なく、蓄電池充放電電力に回す電力も多いのでタイムシフトの収益が多くなる。つまり、(b)において、1日のPV総発電量が大きくなるほど、点群22Aが点群22Bや点群22Cよりも高収益となる傾向が強まる。
【0057】
その一方で、総発電量が小さい曇天時は予測誤差による当日のインバランス量が多いので、インバランス回避運用の収益が大きくなる傾向がある。つまり、(b)において、1日のPV総発電量が小さくなるほど、点群22Cが点群22Aや点群22Bよりも高収益となる傾向が強まる。
【0058】
次に、図6を参照して、過去実績データの収益相関分布と蓄電池容量比決定時に参照する領域範囲について説明する。図6は、実施形態における過去実績データの収益相関分布と蓄電池容量比決定時に参照する領域範囲の一例を示す図である。
【0059】
蓄電池充放電計画を策定する対象日において収益の高い蓄電池容量比を決める際、PV発電量および電力市場価格推移について曜日・季節・天候等の状況が類似する過去実績データ群を参照し、その中で最も収益の出ている蓄電池容量比を採用することが望ましい。そこで、過去実績データ群からPV発電量と1日の売電価格差それぞれの収益の分布を蓄電池容量比別に3次元形式で出力する。
【0060】
その上で、充放電計画を決定する対象日の予測値(μx,μy)付近のデータ群から、最も収益(z軸)の高い容量比(◎,○,×)を選択する。領域23は予測値付近のデータ群で参照する範囲を示している。この範囲については、例えば、予測値(μx,μy)を基準に、軸方向がz軸方向に平行な円柱形または楕円柱形の範囲であり、底面部分の形状については予測値から一定の±%、または一定数の過去実績データを含むような範囲に設定するものとする。
【0061】
次に、図7を参照して、収益の期待値を最大化する蓄電池容量比の決定方法について説明する。図7は、実施形態における収益の期待値を最大化する蓄電池容量比の決定方法の説明図である。
【0062】
図7(a)は図6の三次元グラフをxy平面に平行に切り取った二次元の図である。図7(b)は図6の三次元グラフをz軸と平行、かつ、xy平面に垂直に切り取った二次元の図である。
【0063】
再エネ電源の予測には誤差が存在する可能性が高く、厳密に売電価格・総発電量推移が合致する過去実績データが存在する保証はない。そのため、前述の通り予測値から一定範囲のデータ群を参照する。ここで、1日のPV総発電量の予測が平均値0、分散σxの正規分布に従う(図7(a)の線図24A,線図24B)と仮定する。その上で予測値μxが与えられたときに実際の値がxになる確率は式(7)のように表せる。同様に、電力売電価格差の予測が平均値0、分散σyの正規分布に従い、予測値μyが与えられたときに実際の値がyになる確率は式(8)となる。
【数3】
【0064】
ここで、式(7)、式(8)の変数x,yが独立しておらず互いに相関があることを考慮し、式(9)のように共分散行列が判明している際に、予測値(μx,μy)が与えられたときに実際の値が(x,y)になる確率は式(10)のようになる。
【0065】
【数4】
【0066】
以上より、式(11)は、蓄電池容量比がiパターンであるときの収益の期待値の総和を表す。
【数5】
【0067】
式(11)の各パラメータは以下の通りである。
i:蓄電池容量比(iパターン(i=1,2,…N))別の収益の期待値(¥)
i,d:蓄電池容量比(iパターン(i=1,2,…N))日数d日目の収益データ(¥)
d:日数d日目のPV総発電量(kWh)
d:日数d日目の売電価格差(¥)
f(xd,yd):日数d日目の確率密度関数
【0068】
次に、図10を参照して、蓄電池充放電計画の作成処理について説明する。図10は、実施形態における蓄電池充放電計画の作成処理を示すフローチャートである。
【0069】
ステップS201~S205は、図5の用途別の蓄電池容量比の収益相関分布を出力する過程である。ステップS201の処理では、収益相関パターン作成部6Aは、インバランス回避運用およびタイムシフト運用に割り振る蓄電池容量比がNパターンあり、そのうちのどれについて収益相関分布を出力するかを設定する。
【0070】
ステップS202では、収益相関パターン作成部6Aは、過去実績データ計算部5から以下の日別データを取得する。
・PV発電実績値
・電力売電単価
・収益結果
【0071】
ステップS203では、収益相関パターン作成部6Aは、上述のように、取得したデータ群から3次元上での収益相関分布(図6)を出力する。ここまでが蓄電池容量比1パターンの処理であり、iパターン(i=1,2,…N)すべての収益相関パターンを求めるまでステップS202~S205のループ処理を行う。
【0072】
具体的には、ステップS204では、蓄電池容量比決定部6は、すべての蓄電池容量比について計算したか否かを判定し、Yesの場合はステップS206に進み、Noの場合はステップS205に進む。ステップS205では、収益相関パターン作成部6Aは、蓄電池容量比を修正、つまり、次のパターンの蓄電池容量比を選択する。
【0073】
ステップS206では、取得部6Bは、対象日データ予測システム7から充放電計画を決定する対象日のPV発電量および電力売電単価の予測値を取得する。
【0074】
ステップS207では、蓄電池容量比選択部6Cは、上述の手法により、最も収益の高い蓄電池容量比を選択する。
【0075】
ステップS208では、蓄電池充放電計画作成部8は、ステップS207で選択した蓄電池容量比を用いて、図9のステップS102~S105と同様の手法で、収益を最大化する蓄電池充放電計画を策定し、出力する。その後、制御部2Eは、蓄電池充放電計画に基づいて、発電装置2Dおよび蓄電池2Cを制御する。
【0076】
このように、本実施形態の電力システムSによれば、蓄電池運用について複数の用途が考えられる場合でも、発電システム運用者の要求事項に沿った蓄電池充放電計画を策定することができる。
【0077】
つまり、上述の一連の処理により、蓄電池運用の複数の用途に対して蓄電池内部の容量を割り振り、発電システム運用者の要求事項(収益向上・需給一致・利用率向上など)に沿った充放電計画を決定することができる。
【0078】
例えば、蓄電池運用の用途がインバランス回避運用およびタイムシフト運用で、発電システム運用者の目的が収益の最大化の場合において、蓄電池を単独用途で用いた場合や適切に容量比を割り振らなかった場合に比べて収益性を向上させることができる。また、タイムシフト運用による負荷平準化への貢献の向上が期待できる。
【0079】
また、PV発電量と電力市場価格の過去実績データを参照し、用途別の蓄電池容量比の収益相関分布から最も収益の高い蓄電池容量比を採用することで、従来手法に比べて収益性および負荷平準化への貢献を向上させることができる。
【0080】
さらに、蓄電池充放電計画を策定する対象日のPV発電量と電力市場価格の予測データを基に蓄電池容量比の選定を行うことで、過去実績データのみを参照した場合に比べて蓄電池充放電計画を策定する対象日により適した充放電計画を策定することができる。
【0081】
さらに、蓄電池充放電計画を策定する対象日のPV発電量と電力市場価格の予測データを基に、これらの推移が類似する過去実績データ群を参照することで、より精度の高い収益相関分布および蓄電池容量比の選定が可能になる。
【0082】
また、予測誤差の分散を考慮し予測値から一定範囲のデータ群を参照することで、予測値と実績値に乖離がある場合や、厳密に売電価格・総発電量推移が合致する過去実績データが存在しなくても高収益性を担保した蓄電池充放電計画を策定できる。
【0083】
以上のように、前日段階で蓄電池内部の容量を用途別に振り分けることで、蓄電池2Cを単独用途または単純なルール上での用途切り替えで制御する場合に比べて、収益性および負荷平準化への貢献がより高い蓄電池運用を行うことができる。
【0084】
次に、図8を参照して、PV予測に基づく蓄電池容量の割り振りについて説明する。図8は、実施形態におけるPV予測に基づく蓄電池容量の割り振りの一例を示す図である。
【0085】
(a)の領域25Aおよび(b)の領域25Bは、それぞれ、PV発電出力が定格値付近または定格を下回る際の予測誤差の取りうる範囲を示している。1日のPV総発電量が大きい快晴時((a)の場合)は予測誤差のばらつきが少なく、インバランス回避運用のための蓄電池容量は少なくてよいので、タイムシフト運用に用いる蓄電池容量の割合を多くすることで、収益が多くなる((c)参照)。
【0086】
その一方、総発電量が小さい曇天時((b)の場合)は予測誤差による当日のインバランス量が多いので、インバランス回避運用に用いる蓄電池容量の割合を多くすることで、収益が多くなる((d)参照)。
【0087】
したがって、各種事前予測に基づき、蓄電池容量をタイムシフト運用とインバランス回避に適切に割り振ることで、次のことが見込める。
・不要なインバランス回避用の蓄電池容量の削減による蓄電池利用率の向上や負荷平準化への貢献
・予測データからの傾向分析に基づき蓄電池容量比を変化させることによるインバランス量の削減
・タイムシフト運用とインバランス回避運用のうちより効果的なほうの蓄電池利用率を増加することによる収益性の向上
【0088】
上述した実施形態における、上記情報処理を実行するためのプログラムは、上記複数の機能構成の各々を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしては、例えば、CPUがROM(Read Only Memory)またはHDDから情報処理プログラムを読み出して実行することにより、上述した複数の機能構成の各々がRAM(Random Access Memory)上にロードされ、上述した複数の機能構成の各々がRAM(主記憶)上に生成されるようになっている。なお、上述した複数の機能構成の各々の一部または全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの専用のハードウェアを用いて実現することも可能である。
【0089】
なお、本開示の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、本開示の範囲を限定することは意図していない。上記新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態は、本開示の範囲または要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1…管理装置、2…発電システム、2A…電力量計、2B…電力量計、2C…蓄電池、2D…発電装置、2E…制御部、2F…通信部、3…記憶部、4…気象データ、5…過去実績データ計算部、5A…過去実績収集部、5B…充放電パターン作成部、5C…収益算出部、6…蓄電池容量比決定部、6A…収益相関パターン作成部、6B…取得部、6C…蓄電池容量比選択部、7…対象日データ予測システム、8…蓄電池充放電計画作成部、9…卸電力市場、10…広域機関
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