(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041217
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】軌道材料劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240319BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20240319BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20240319BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G06T7/00 610B
G01M17/08
B61L23/00 Z
E01B35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145892
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大隈 智仁
(72)【発明者】
【氏名】西川 祥央
【テーマコード(参考)】
2D057
5H161
5L096
【Fターム(参考)】
2D057CB00
5H161AA01
5H161MM01
5H161MM12
5H161NN10
5H161NN11
5L096BA03
5L096CA02
5L096CA16
5L096DA02
5L096EA43
5L096FA32
5L096FA54
5L096FA59
5L096FA64
5L096FA69
5L096GA51
5L096JA09
(57)【要約】
【課題】モニタリング装置により取得した軌道撮影画像を解析することで、わざわざ現地に赴くことなく、バラストの劣化状態を診断する軌道材料劣化診断システムを提供する。
【解決手段】軌道撮影画像に基づいて軌道材料の劣化状態を解析する軌道材料劣化診断システムにおいて、解析装置は、既知である軌道上のレール締結装置の位置情報および枕木幅の値を利用して前記軌道撮影画像から枕木領域と道床領域を分割する領域分割手段と、枕木領域の画素を第1の閾値を用いて白色または黒色に弁別する二値化処理を行い、道床領域の画素を第2の閾値を用いて二値化処理を行う二値化処理手段と、道床領域の画素の平均輝度が予め設定された所定値以上である画像を道床に不良があると判定する判定手段とを備えるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置および画像処理機能を有する解析装置を備え、軌道上を走行する車両の床下に搭載されたモニタリング装置によって取得されキロ程情報と紐付けられた軌道撮影画像に基づいて軌道材料の劣化状態を解析する軌道材料劣化診断システムであって、
前記解析装置は、
既知である軌道上のレール締結装置の位置情報および枕木幅の値を利用して前記軌道撮影画像から枕木領域と道床領域を分割する領域分割手段と、
前記枕木領域の画素を第1の閾値を用いて白色または黒色に弁別する二値化処理を行い、前記道床領域の画素を第2の閾値を用いて二値化処理を行う二値化処理手段と、
前記道床領域の画素の平均輝度が予め設定された所定値以上である画像を、道床に不良があると判定する判定手段と、
を備える軌道材料劣化診断システム。
【請求項2】
前記解析装置は、前記判定手段により不良があると判定された画像と、当該画像が前記二値化処理手段により二値化処理された画像とを、前記表示装置の画面上に並列表示させる請求項1に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項3】
前記解析装置は、
前記二値化処理された画像から、白色の画素が集合する領域をオブジェクトとしてそれぞれ抽出するオブジェクト抽出手段と、
前記オブジェクトが各々占める範囲の面積を算出するオブジェクト面積算出手段と、
を備え、前記判定手段は、前記オブジェクト面積算出手段により算出された面積の合計値が予め設定された所定の値以上である画像を、道床に不良がないと判定または判定不能として道床不良の有無の判定対象から除外する請求項2に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項4】
前記第1の閾値は、前記枕木領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値の最大値または前記枕木領域の各画素について同一輝度の画素の数を求めその比率に基づいて決定した輝度値のうち小さい方の値をとり、かつ画像内の複数の枕木領域について得られた値の中で最大の値であり、
第2の閾値は、複数の画像について画像ごとに前記道床領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値の中で最大の値である請求項3に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項5】
前記第1の閾値と第2の閾値のうち大きい方の値を二値化の閾値とすることを特徴とする請求項4に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項6】
前記解析装置は、
前記オブジェクトが各々占める範囲に対応する二値化処理前の画素群の平均輝度および二値化処理前の画像における前記オブジェクトが各々占める範囲以外の画素群の平均輝度をそれぞれ算出する平均輝度算出手段と、
前記二値化処理がなされる前の画像において最も多く表われている輝度の値を取得する最頻値取得手段と、
前記平均輝度算出手段により算出された前記オブジェクトの範囲の平均輝度と前記二値化処理により取得された輝度の最頻値との差を算出する輝度差算出手段と、
を備え、前記判定手段は、前記輝度差算出手段により算出された差の値が予め設定された所定の値以上である画像を、道床に不良があると判定する請求項5に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項7】
前記判定手段は、
前記オブジェクト抽出手段により1の画像から抽出された複数のオブジェクトについて、前記オブジェクト面積算出手段により面積が算出されたものの中に、予め設定された面積値よりも大きなオブジェクトがある場合に、道床に不良があると判定する請求項6に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項8】
前記第1の閾値は、前記枕木領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値、または前記枕木領域の各画素について同一輝度の画素の数を求めその比率に基づいて決定した輝度値のうち小さい方の値をとり、かつ画像内の複数の枕木領域について得られた値の中で最大の値であり、
前記解析装置は、前記第1の閾値により前記二値化処理された画像から、前記オブジェクト抽出手段により抽出されたオブジェクトに対してサンプル画像を用いたパターンマッチングによる判定を行い文字・記号と認識した場合に、当該オブジェクトの画像内での範囲を記憶するパターン認識手段を備え、
前記判定手段は、前記パターン認識手段による認識結果を考慮して道床に不良があるか否かの判定を行う請求項7に記載の軌道材料劣化診断システム。
【請求項9】
前記モニタリング装置によって取得されたデータには、キロ程情報と紐付けられた4m弦軌道変位データが含まれており、
前記解析装置は、
横軸に4m弦軌道変位、縦軸にオブジェクトの面積をとったXY直交座標上に、画像内の各オブジェクトの面積とそのオブジェクトの位置における4m弦軌道変位の値を示すドットをプロットしたグラフを、前記表示装置の画面上に表示可能である請求項1~8のいずれかに記載の軌道材料劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道材料劣化診断システムに関し、特に車両に搭載されたモニタリング装置により取得したデータを利用してバラスト軌道におけるバラスト(砕石や砂利)の劣化状態を診断するシステムに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バラスト軌道においては、バラストの劣化や不良が軌道変位や列車動揺の原因となる。また、レールの張出し事故の発生にも大きく関係することから、バラストの不良箇所を適切に把握、管理することは、保線業務において非常に重要な要素である。現状、バラスト軌道の管理は、例えば年1回の道床路盤検査や3ヶ月に1回の線路総合巡視により目視検査で行われている。
また、車両の床下に線路設備モニタリング装置を搭載して、軌道材料の損傷や劣化を自動判定するシステムも一部の路線において実用化されており、撮影した画像からレール締結装置や継目板のボルトの脱落を自動判定することが行われているが、バラスト軌道を構成する砕石に関しては、画像から劣化状態を判定する技術は確立されていない。
【0003】
従来、鉄道軌道の異常や軌道バラストの摩耗を検出する装置や方法に関する発明としては、例えば特許文献1や2に記載されているものがある。
このうち、特許文献1に記載されている発明は、レールの上方から撮像された鉄道軌道の画像からレールの長手方向のエッジを抽出する抽出手段と、エッジをレールの長手方向と実質的に直交する方向に積算したエッジ積算値のレールの長手方向の分布を演算する演算手段と、前記分布においてエッジ積算値が低い領域をまくらぎ領域として認識する認識手段とを有し、軌道画像からまくらぎ領域を認識し、その結果を用いて鉄道軌道の異常を検出するというものである。
【0004】
一方、特許文献2に記載されている軌道バラストの摩耗判定方法の発明は、バラストに打撃を与える打撃過程と、該過程で与えられた打撃によりバラストを伝播した振動を検出する振動検出過程と、振動検出過程で検出された振動の周波数特性を分析するとともに、分析した周波数特性を基準値と比較してバラストの摩耗の程度を推定する劣化分析及び判定過程と、を有するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-176071号公報
【特許文献2】特開2015-117498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明の軌道画像解析装置は、軌道を撮影した画像からまくらぎ領域を認識し、その結果を用いて鉄道軌道の異常を検出することはできるものの、バラストの劣化状態を検出することまではできないという課題がある。
また、特許文献2の軌道バラストの摩耗判定方法の発明は、個人の習熟度によらずにバラストの摩耗状態を判定することはできるものの、バラストに打撃を与える打撃過程と振動検出過程とを含んでいる。そのため、バラストの摩耗状態を判定するには、わざわざ打撃装置と振動検出装置を持って現地に赴き作業を実施しなければならないので、多くの労力を必要とするという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、撮像装置を有し車両に搭載されたモニタリング装置により取得した軌道撮影画像を解析することで、わざわざ現地に赴くことなく、バラストの劣化状態を診断することができる軌道材料劣化診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、この発明は、
表示装置および画像処理機能を有する解析装置を備え、軌道上を走行する車両の床下に搭載されたモニタリング装置によって取得されキロ程情報と紐付けられた軌道撮影画像に基づいて軌道材料の劣化状態を解析する軌道材料劣化診断システムにおいて、
前記解析装置は、
既知である軌道上のレール締結装置の位置情報および枕木幅の値を利用して前記軌道撮影画像から枕木領域と道床領域を分割する領域分割手段と、
前記枕木領域の画素を第1の閾値を用いて白色または黒色に弁別する二値化処理を行い、前記道床領域の画素を第2の閾値を用いて二値化処理を行う二値化処理手段と、
前記道床領域の画素の平均輝度が予め設定された所定値以上である画像を、道床に不良があると判定する判定手段と、を備えるようにしたものである。
【0009】
上記のような構成によれば、軌道撮影画像から分割、抽出された枕木領域の画素と道床領域の画素をそれぞれ第1の閾値と第2の閾値で用いて二値化し、このうち道床領域の画素の平均輝度が予め設定された所定値以上である場合に、画像に映っている道床に不良があると判定するため、車両に搭載されたカメラにより撮影した画像を解析することで、わざわざ現地に赴くことなく、バラストの劣化状態を診断することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記解析装置は、前記判定手段により不良があると判定された画像と、当該画像が前記二値化処理手段により二値化処理された画像とを、前記表示装置の画面上に並列表示させるようにする。
かかる構成によれば、不良があると判定された画像と二値化処理された画像とが、表示装置の画面上に並列表示されるため、両方の画像を比べることで診断結果が正しいか目視で確認することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記解析装置は、
前記二値化処理された画像から、白色の画素が集合する領域をオブジェクト(判定対象)としてそれぞれ抽出するオブジェクト抽出手段と、
前記オブジェクトが各々占める範囲の面積を算出するオブジェクト面積算出手段と、
を備え、前記判定手段は、前記オブジェクト面積算出手段により算出された面積の合計値が予め設定された所定の値以上である画像を、道床に不良がないと判定または判定不能として道床不良の有無の判定対象から除外するようにする。
【0012】
鉄道軌道においては、噴泥により広範囲にわたって白色化している状態が生じている箇所があったり、外部照明の影響で画像全体が明るくなっていたりして、白色化した砕石を識別できないものがある。上記構成によれば、白と判定された領域が所定値以上大きい場合には、他の判定処理を省略することで、診断精度を低下させることなく、解析処理に要する時間を短縮することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記第1の閾値は、前記枕木領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値の最大値または前記枕木領域の各画素について同一輝度の画素の数を求めその比率に基づいて決定した輝度値のうち小さい方の値をとり、かつ画像内の複数の枕木領域について得られた値の中で最大の値であり、
第2の閾値は、複数の画像について画像ごとに前記道床領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値の中で最大の値であるようにする。
さらに、望ましくは、前記第1の閾値と第2の閾値のうち大きい方の値を二値化の閾値とするようにする。
かかる構成によれば、バラストの劣化が生じているか否かの診断の精度を高めることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記解析装置は、
前記オブジェクトが各々占める範囲に対応する二値化処理前の画素群の平均輝度および二値化処理前の画像における前記オブジェクトが各々占める範囲以外の画素群の平均輝度をそれぞれ算出する平均輝度算出手段と、
前記二値化処理がなされる前の画像において最も多く表われている輝度の値を取得する最頻値取得手段と、
前記平均輝度算出手段により算出された前記オブジェクトの範囲の平均輝度と前記二値化処理により取得された輝度の最頻値との差を算出する輝度差算出手段と、
を備え、前記判定手段は、前記輝度差算出手段により算出された差の値が予め設定された所定の値以上である画像を、道床に不良があると判定するようにする。
かかる構成によれば、過検知を回避しつつ、バラストの劣化が生じている軌道箇所を高い精度で検出することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記判定手段は、
前記オブジェクト抽出手段により1の画像から抽出された複数のオブジェクトについて、前記オブジェクト面積算出手段により面積が算出されたものの中に、予め設定された面積値よりも大きなオブジェクトがある場合に、道床に不良があると判定するようにする。
かかる構成によれば、バラスト劣化の診断の精度を高めることができる。
【0016】
また、望ましくは、前記第1の閾値は、前記枕木領域の画素の輝度に基づいて大津の二値化法により決定された閾値、または前記枕木領域の各画素について同一輝度の画素の数を求めて上位10%と残りの90%とを分ける輝度値のうち小さい方の値をとり、かつ画像内の複数の枕木領域について得られた値の中で最大の値であり、
前記解析装置は、前記第1の閾値により前記二値化処理された画像から、前記オブジェクト抽出手段により抽出されたオブジェクトに対してサンプル画像を用いたパターンマッチングによる判定を行い文字・記号と認識した場合に、当該オブジェクトの画像内での範囲を記憶するパターン認識手段を備え、
前記判定手段は、前記パターン認識手段による認識結果を考慮して道床に不良があるか否かの判定を行うようにする。
【0017】
上記のような構成によれば、枕木の表面に文字・記号が書かれているか否か判断することができるとともに、枕木の表面に書かれている文字・記号を白色化の判定対象から除くことで、バラスト劣化の診断の精度を高めることができる。
【0018】
さらに、望ましくは、前記モニタリング装置によって取得されたデータには、キロ程情報と紐付けられた4m弦軌道変位データが含まれており、
前記解析装置は、
横軸に4m弦軌道変位、縦軸にオブジェクトの面積をとったXY直交座標上に、画像内の各オブジェクトの面積とそのオブジェクトの位置における4m弦軌道変位の値を示すドットをプロットしたグラフを、前記表示装置の画面上に表示可能であるようにする。
かかる構成によれば、表示されたグラフを見ることで熟練を要することなく道床に不良がある否かを判断することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の軌道材料劣化診断システムによれば、撮像装置を有し車両に搭載されたモニタリング装置により取得した軌道撮影画像を解析することで、わざわざ現地に赴くことなく、バラストの劣化状態を診断することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態の軌道材料劣化診断システムの構成例を示すシステム構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態の軌道材料劣化診断システムにおける劣化診断の処理手順の前半を示すフローチャートである。
【
図3】実施形態の劣化診断の処理手順の後半を示すフローチャートである。
【
図4】画像全体の画素の輝度およびその中に含まれるオブジェクト範囲の画素の輝度の出現個数を、横軸に輝度、縦軸に頻度をとって表わしたグラフで、(A)はオブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が大きい場合、(B)はオブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が小さい場合のものである。
【
図5】道床の砕石に不良があると判定した場合に、表示装置に表示される二値化された画像と元の画像の並列表示の例を示す図である。
【
図6】横軸に軌道変位、縦軸にオブジェクトサイズをとって画像内の各オブジェクトをドットで表わしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明を、鉄道車両の床下に搭載された線路設備モニタリング装置により取得されたデータを使用して砕石や砂利等から構成された軌道バラスト(以下、砕石と記す)の劣化を診断する場合に適用した実施形態について詳細に説明する。
図1には、本発明に係る軌道材料劣化診断システムの一実施形態の構成例が示されている。本実施形態の軌道材料劣化診断システムは、
図1に示すように、車両床下等に搭載された車両側の線路設備モニタリング装置10と、地上側のサーバ20および解析装置30とにより構成されている。
【0022】
線路設備モニタリング装置10は、軌道の表面を上方より撮影する撮像装置としてのカメラ等を備えた軌道材料モニタリング装置11と、加速度計等を備えた軌道変位検測装置12とで構成されている。加速度計により得られたデータを2回微分することでレールの変位量を得ることができる。車両走行中にカメラで撮影された画像のデータと加速度計により得られた変位データは、それぞれデータ取得時の車両位置を示すキロ程情報と紐付けられて、線路設備モニタリング装置10の記憶部13に記憶される。
【0023】
なお、本発明の診断システムによる解析対象の画像取得に用いるカメラは、対象物の輝度値を含む画像を撮影できるものであればどのような種類のものでも良いが、本実施形態で解析する画像データには、対象物の表面の明るさを輝度値で表わした濃淡画像データとして出力する2台のラインセンサカメラを使用している。1台のラインセンサカメラは、例えばレールの長さ方向に2.5m、レール幅方向に70cmの範囲を撮影できるように設置条件が設定されており、画素数は例えば256万ピクセルである。
【0024】
解析装置30は、マイクロプロセッサ(CPU)のような演算処理装置、RAMやROM、ハードディスクドライバのような記憶装置などを備えた通常のコンピュータシステムと同様な構成を有するデータ処理装置に、以下に説明するような解析アルゴリズムを有する診断プログラムをインストールすることで実現される。また、解析装置30には、キーボードやマウスのような入力装置31と、液晶パネルのような表示装置32とが接続されている。
【0025】
また、サーバ20には、軌道に関する情報を記憶するデータベース21が設けられている。データベース21には、レール締結装置の位置(より正確には締結装置のボルトの位置)に関する情報(キロ程単位)や、道床の種別(例えば砕石、ふるい砂利、コンクリート道床、橋梁等)に関する情報が記憶されている。なお、道床種別情報もキロ程と紐付けられてデータベース21に記憶されている。また、レール締結装置のボルトの位置は、本実施形態の診断対象の道床においては枕木の幅方向の中心である。
線路設備モニタリング装置10の記憶部13に記憶、蓄積されたデータは地上側のサーバ20へ無線で送信されて記憶される。
【0026】
次に、本発明に係る軌道材料劣化診断システムにおける道床砕石の劣化診断方法の具体的な手順の一例について、
図2~
図3のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートに従った処理を開始する際に、解析装置30は、インターネット等の通信網を介してサーバ20に対して診断対象となる軌道撮影画像やレール変位データの送信要求を行い、データを読み込んでおく。
【0027】
本実施形態の道床砕石の劣化診断方法においては、
図2に示すように、先ず読み込んだ診断対象の軌道撮影画像に紐付いているキロ程情報を指標として、サーバ20のデータベース21を参照して、道床の種別(例えば砕石、ふるい砂利、踏切などのコンクリート道床、橋梁等)の判定を行う(判定1;ステップS1)。ここで、道床が砕石以外の場合には、不良なしと判定する。また、1つの画像について道床の種別の判定処理が終了すると、次の画像について道床の種別の判定を繰返し行う(処理1)。なお、ステップS1においては、道床が砕石以外の場合には診断不能として、以下の処理の対象から除外しても良い。
【0028】
診断対象の全ての画像について道床の種別の判定処理が終了すると次の処理へ進み、画像に紐づくキロ程情報を用いてデータベースを参照して、当該画像に含まれるレール締結装置(ボルト)の位置情報を取得する(処理2;ステップS2)。ここで、位置情報の取得に失敗すると、不良ありと判定して、次の画像の診断処理に移る。
続いて、ステップS2で取得した位置情報(枕木の中心)と、予め入力された枕木の幅とから、画像内の枕木領域を特定しそれ以外を道床領域とみなすことで、画像を枕木領域と道床領域に分割する(処理3;ステップS3)。なお、ここで領域分割に失敗すると、不良ありと判定して、次の画像の診断処理に移る。
【0029】
一方、ステップS3で、領域分割に成功した場合は次の処理へ進み、例えば大津の二値化法により枕木領域における画素の二値化のための閾値を算出する(処理4;ステップS4)。また、枕木領域の各画素について同一輝度の画素の数を求めその比率(分布)に基づいて二値化のための閾値とする(処理5;ステップS5)。続いて、処理4で算出した閾値と処理5で決定した閾値のうち小さい方を記録する(処理6;ステップS6)。そして、上記処理4~処理6を、画像内の全ての枕木領域について実行する。
なお、大津の二値化法は、画像処理において自動的に閾値を決定する公知の技術であるので、詳しい内容の説明は省略する。
【0030】
次に、ステップS6で記録した閾値を使って画像全体を二値化する(処理7;ステップS7)。続いて、二値化された画像の枕木領域の白色部分について、様々な文字(数字や記号を含む)のテンプレート画像を用いて、パターンマッチングによって、文字認識処理を行い(処理8;ステップS8)、文字が認識された箇所の位置情報(画像内の座標情報)を記録する(処理9;ステップS9)。そして、上記処理7~処理9を、診断対象の全ての画像について実行する。なお、ステップS4からS9までが、画像内の枕木領域に対する前処理である。
【0031】
上記前処理が終了すると、次のステップへ進んで、ステップS3で分割された画像内の道床領域について大津の二値化法により画素の二値化のための閾値を算出する(処理10;ステップS10)。続いて、道床領域の平均輝度を算出し(処理11;ステップS11)、算出した平均輝度が予め入力、設定された道床領域の輝度の平均値と比較して、平均値以上か平均値未満か判定する(判定2;ステップS12)。ここで、平均輝度が平均値以上の場合には、当該画像の道床の砕石に不良があると判定する。そして、上記ステップS10~S12を、全画像に対して繰り返し実行する(処理12)。
【0032】
その後、ステップS12で不良ありと判定されなかった各画像に関して、各道床領域について上記処理10で算出した大津の閾値のうち最大の値と、各枕木領域について上記処理6で記録した小さい方の閾値の中で最大の値を抽出する(処理13;ステップS13)。続いて、ステップS13で抽出された2つの最大値のうち大きい方を、画像全領域の二値化のための値として採用し、記録する(処理14;ステップS14)。このようにして、二値化のための閾値を決定することで、診断の精度を高めることができる。
【0033】
次に、上記ステップS14で採用した値を用いて各画像を二値化して、白色に分別された部分(集まり)をオブジェクト(解析対象)として抽出する(処理15;ステップS15)。続いて、二値化された画像内のオブジェクトの合計面積が、予め入力、設定された所定の最大値よりも大きいか小さいか判定する(判定4;ステップS16)。
ここで、オブジェクトの合計面積が設定値よりも大きいと判定した場合には、当該画像の道床の砕石に不良なしとする。鉄道軌道においては、噴泥により広範囲にわたって白色化している状態が生じている箇所があったり、外部照明の影響で画像全体が明るくなっていたりして、白色化した砕石を識別できないものがあるので、そのような画像を解析対象から除外するためである。なお、ステップS16においては、不良なしと判定する代わりに判定不能として道床不良の有無の判定対象から除外するようにしてもよい。
【0034】
次に、ステップS15で抽出されたオブジェクトの範囲に対応する元画像の対応領域内の画素の平均輝度を算出する(処理16;ステップS17)。続いて、画像全体で最も頻繁に現れる輝度の値を最頻値として算出する(処理17;ステップS18)。それから、ステップS17で算出されたオブジェクト範囲の平均輝度とステップS18で算出された最頻値との差が、予め入力、設定されたオブジェクト範囲と周囲の平均輝度差よりも大きいか小さか判定する(判定5;ステップS19)。ここで、オブジェクト範囲の平均輝度と最頻値との差が、オブジェクト範囲と周囲の平均輝度差の設定値よりも小さいと判定すると、当該画像の道床の砕石に不良なしとする。
【0035】
オブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が大きい場合と、オブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が小さい場合について、画像全体の画素の輝度およびその中に含まれるオブジェクト範囲の画素の輝度の出現個数を、横軸に輝度、縦軸に頻度をとったグラフに表わすと、
図4(A),(B)のようになる。このうち
図4(A)はオブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が大きい場合、
図4(B)はオブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が小さい場合つまり白色化による画像の変化が分かりにくい場合である。
【0036】
オブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が大きい場合は、
図4(A)のように、画像全体の曲線aとオブジェクト範囲の曲線bとはパターンが大きく異なるとともに画像全体における輝度の最頻値とオブジェクト範囲の平均輝度との差が大きくなる。一方、オブジェクト範囲と周囲の平均輝度差が小さい場合は、
図4(B)のように、画像全体の曲線a’とオブジェクト範囲の曲線b’とはパターンが似たものになるとともに画像全体における輝度の最頻値とオブジェクト範囲の平均輝度との差が小さくなる。ステップS19の判定5は、このような特徴を利用して画像の判定を行うものであり、白色化箇所の過検知を回避することができる。
【0037】
次に、ステップS15で抽出された画像内の各オブジェクトについて大きさ(面積)を算出し、算出された面積が予め入力、設定されたオブジェクト面積値よりも大きいか小さか判定する(判定6;ステップS20)。ここで、設定値よりも大きいオブジェクトがないと判定すると、当該画像の道床の砕石に不良なしとする。砕石の白色化が起きている軌道の画像においては、オブジェクトの大きさが一定サイズ以上になることが分かっており、オブジェクトが一定サイズ以下の場合、ノイズ等によるものと考えられるためである。
【0038】
次に、ステップS20の判定6で一定サイズ以上のオブジェクトかあるとされた画像について、ステップS9で記録された文字が認識された箇所と、ステップS20で検出されたオブジェクトの範囲とが重なっている否か判定する(判定7;ステップS21)。ここで、文字が認識された箇所とオブジェクトの範囲とが重なっていると判定すると、当該画像の道床の砕石に不良なしとする。画像から抽出されたオブジェクトは枕木の表面に書かれた文字・記号によるものと考えられるためである。一方、文字が認識された箇所とオブジェクトの範囲とが重なっていないと判定すると、当該画像の道床の砕石に不良があると判定し、判定結果を画像撮影箇所のキロ程情報と共に記録する。そして、上記ステップS15~S21を、全画像に対して繰り返し実行する(処理18)。
【0039】
本実施形態の診断システムにおいては、上述したような手順に従った処理を行うことにより、過検知を回避しつつ、砕石の白色化が生じている軌道箇所を高い精度で検出することができる。
さらに、本実施形態の診断システムにおいては、道床の砕石に不良があると判定した画像については、不良があると判定された軌道箇所を示すキロ程情報のリストを表示装置の画面上に表示し、そのリスト上でキロ程を指定すると、
図5に示すように、二値化された画像と元の画像とが並列表示されるようになっている。このように、不良があると判定された元画像と二値化処理された画像とが、表示装置の画面上に並列表示されるため、両方の画像を比べることで診断結果が正しいか目視で確認することができる。
【0040】
また、本発明者らは、長年の経験から、砕石の不良は軌道のあおり(列車輪重による動的沈下)と密接に関係しているのではないかと考え、線路設備モニタリング装置を構成する軌道変位検測装置により得られた様々な変位データと軌道の白色化との相関について調べたところ、4m弦軌道変位データが最も軌道の白色化と相関性が高いことを見出した。
【0041】
本実施形態の解析装置は、道床の砕石に不良があると判定した軌道箇所を示すキロ程情報を用いて、データベースから軌道変位検測装置により計測された4m弦軌道変位のデータを読み出す。そして、その4m弦軌道変位データとステップS20で算出されたオブジェクトの面積(サイズ)に基づいて、横軸に軌道変位、縦軸にオブジェクトサイズをとって各オブジェクトをドットで表わした
図6に示すようなグラフを作成して表示装置の画面に表示する機能をプログラムによって実現するように構成されている。
【0042】
図6に示すグラフを見ることで、熟練を要することなく道床に不良があることを発見することができる。なお、表示装置の画面に表示された
図6のグラフにおいて、マウスを操作してグラフ上のいずれかのドットをポインタで指定し、マウスのボタンをクリックするとキロ程情報と画像番号を列記したリスト画面が表示され、リストから1つを選択すると選択した箇所の詳細な情報が表示されるようにプログラムが構成されている。
【0043】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、既に列車に搭載されている軌道材料モニタリング装置により取得した濃淡画像データに基づいて軌道材料としての砕石の白色化を診断するようにしているが、カラーカメラで撮影した画像に対して実施形態で説明したのと同様な処理を行うことによって、砕石劣化の診断を行うようにしても良い。
【0044】
また、前記実施形態では、1つの画像内に映り込んでいる複数の枕木領域に共通の閾値を設定して二値化を行なっているが、通常1つの画像内には複数の枕木が映り込んでいるので、枕木領域ごとに二値化の閾値を設定するようにしても良い。また、4m弦軌道変位やレール頭面の黒斑、継目情報、溶接、枕木種別など判定の中に画像の白色化と相関性のある情報を付与し、その組み合わせからスコアを与えて判定ロジックに組み込むことで判定精度を向上させるようにしても良い。
【0045】
さらに、レール頭面の状態も画像の白色化と相関があるので、レール頭面の画像についても判定を行うようにしても良い。また、枕木表面に記されている文字・記号や印を自動的に学習し蓄積する機能を付与するようにしても良い。
また、前記実施形態では、幾つかの設定値を線路状況に合わせて手動で設定しているが、定義した不良画像から機械的に閾値を設定する機能を付与するようにしても良い。さらに、オブジェクトとその周囲の輝度差などから砕石の形状を推定して、砕石の摩損具合を判定する機能を付与するようにしても良い。また、診断結果を蓄積し、系列的な劣化速度を分析する機能を付与するようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 線路設備モニタリング装置
11 軌道材料モニタリング装置
12 軌道変位検測装置
13 記憶部
20 サーバ
21 データベース
30 解析装置
31 入力装置
32 表示装置