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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041242
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】距離測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20240319BHJP
   G01C 13/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01C3/06 120R
G01C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145942
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 匡
(72)【発明者】
【氏名】東 志織
【テーマコード(参考)】
2F112
【Fターム(参考)】
2F112AD03
2F112BA02
2F112CA06
2F112CA12
2F112DA19
2F112DA21
2F112DA26
2F112FA03
2F112FA07
2F112FA21
2F112FA45
(57)【要約】
【課題】距離測定精度を向上させることができる距離測定装置を提供する。
【解決手段】距離測定装置(1)は、光を対象物(10)に向かって照射するように構成される光源(4)と、前記対象物での反射光を受光するように構成される光センサ(3)と、前記光センサから出力される光検出値と下記算出式に基づき、前記対象物との距離を算出するように構成される距離検出部(52)と、を備える。
Y=a・X
ただし、Yは距離、Xは光検出値、aおよびbは係数
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を対象物に向かって照射するように構成される光源と、
前記対象物での反射光を受光するように構成される光センサと、
前記光センサから出力される光検出値と下記算出式に基づき、前記対象物との距離を算出するように構成される距離検出部と、
を備える、距離測定装置。
Y=a・X
ただし、Yは距離、Xは光検出値、aおよびbは係数
【請求項2】
前記光センサは、R(赤色)成分検出値、G(緑色)成分検出値、B(青色)成分検出値の少なくともいずれかの前記光検出値を出力するように構成され、
前記距離検出部は、前記R成分検出値、前記G成分検出値、前記B成分検出値の少なくともいずれかについての前記算出式を有する、請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記光センサは、照度の前記光検出値を出力するように構成され、
前記距離検出部は、前記照度についての前記算出式を有する、請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項4】
距離測定環境の変化を検出するように構成される環境変化検出部をさらに備え、
前記環境変化検出部は、前回に前記係数が決定されたときの前記距離測定環境の変化を検出するためのパラメータと、現在の前記パラメータとの比較に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成される、請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記パラメータは、色温度に類するパラメータである、請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記色温度に類するパラメータは、前記光センサから出力されるRGB検出値に基づいて算出されるパラメータである、請求項5に記載の距離測定装置。
【請求項7】
前記パラメータは、照度、あるいは照度に類するパラメータである、請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項8】
前記照度に類するパラメータは、前記光センサから出力されるRGB成分のうち1つの成分の検出値であるか、あるいは前記光センサから出力されるRGBのうち複数成分の検出値の合計値である、請求項7に記載の測定装置。
【請求項9】
前記パラメータは、前記光源の消灯時における前記照度、あるいは前記照度に類するパラメータである、請求項7に記載の距離測定装置。
【請求項10】
前記環境変化検出部は、下記式により算出される前記距離測定環境の変動具合に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成される、請求項7に記載の距離測定装置。
(変動具合)=|(現在の照度値)-(保持された照度値)|
ただし、前記照度値には、前記照度に類するパラメータの値も含まれる。
【請求項11】
前記環境変化検出部は、下記式により算出される前記距離測定環境の変動具合に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成される、請求項7に記載の距離測定装置。
(変動具合)=|1-(現在の照度値)/(保持された照度値)|
ただし、前記照度値には、前記照度に類するパラメータの値も含まれる。
【請求項12】
前記距離測定環境の変化があった場合に、ユーザに通知するように構成される通知部をさらに備える、請求項4に記載の距離測定装置。
【請求項13】
距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせを2点取得するように構成される測定実施部と、
取得された前記2点に基づいて前記算出式を更新するように構成される算出式更新部と、
を有するキャリブレーション部をさらに備える、請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項14】
前記算出式更新部により更新された複数の前記算出式のうち最適な前記算出式を選択するように構成される算出式選択部をさらに備える、請求項13に記載の距離測定装置。
【請求項15】
距離算出部と、誤差指標算出部と、をさらに備え、
前記測定実施部は、前記2点以外の距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせも取得するように構成され、
前記距離算出部は、更新された各算出式に、取得された前記光センサの出力値を代入して距離を算出するように構成され、
前記誤差指標算出部は、距離の実績値と前記距離算出部により算出された距離との組み合わせに基づき前記複数の算出式ごとの誤差指標を算出するように構成され、
前記算出式選択部は、算出された前記誤差指標に基づき前記算出式を選択するように構成される、請求項14に記載の距離測定装置。
【請求項16】
距離算出部と、ばらつき算出部と、をさらに備え、
前記測定実施部は、前記2点以外の距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせも取得するように、かつ、同じ距離の実績値に対して前記光センサによる複数回の測定を実施するように構成され、
前記距離算出部は、更新された各算出式に、取得された前記光センサの出力値を代入して距離を算出するように構成され、
前記ばらつき算出部は、同じ距離の実績値に対応して算出される距離のばらつきを算出するように構成され、
前記算出式選択部は、算出された前記ばらつきに基づき前記算出式を選択するように構成される、請求項14に記載の距離測定装置。
【請求項17】
前記対象物は液体であり、液面高さ測定装置として構成される、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【請求項18】
請求項17に記載の距離測定装置と、液体を収容可能な収容部と、を備える機器。
【請求項19】
前記収容部の底部の下方あるいは前記収容部の内部の底面上に配置される白色の部材をさらに備え、前記光源は、白色光を発光するように構成される、請求項18に記載の機器。
【請求項20】
前記収容部の底部は、白色であり、前記光源は、白色光を発光するように構成される、請求項18に記載の機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物との距離を測定する距離測定装置が知られている。例えば水位計は、距離測定装置の一種である。水位計の場合、対象物が液面となり、液面との距離を測定することで液面の高さを測定できる。なお、従来の水位計としては、例えば、いわゆるフロート方式のものが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4-24028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、水位計においては、水位の測定精度を向上させることが要望されている。
【0005】
上記状況に鑑み、本開示は、距離測定精度を向上させることができる距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、本開示の例示的な距離測定装置は、
光を対象物に向かって照射するように構成される光源と、
前記対象物での反射光を受光するように構成される光センサと、
前記光センサから出力される光検出値と下記算出式に基づき、前記対象物との距離を算出するように構成される距離検出部と、を備える構成としている。
Y=a・X
ただし、Yは距離、Xは光検出値、aおよびbは係数
【発明の効果】
【0007】
本開示の距離測定装置によれば、距離測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、距離測定装置の構成例を示す図である。
図2図2は、距離測定装置と対象物を示す概略図である。
図3図3は、カラーセンサの構成例を示す図である。
図4図4は、実験の結果例を示す図である。
図5図5は、図4における実際の距離と推定した距離とをプロットした結果を示す図である。
図6図6は、変形例に係る距離測定装置の構成を示す図である。
図7図7は、測定環境変動要因の例とその変動検出手段の例を挙げた表である。
図8図8は、測定環境変動の検出処理の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、キャリブレーション部の第1構成例を示す図である。
図10図10は、キャリブレーション部の第2構成例を示す図である。
図11図11は、キャリブレーション部の第3構成例を示す図である。
図12図12は、トイレタンクの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、例示的な実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
<1.距離測定装置の構成>
図1は、距離測定装置の構成例を示す図である。図1に示す距離測定装置1は、基板2と、カラーセンサ3と、白色LED4と、制御部5と、スイッチSWと、抵抗Rと、を有している。カラーセンサ3、白色LED4、スイッチSW、および抵抗Rは、基板2に実装される。制御部5は、例えばマイコンである。
【0011】
白色LED(光源の一例)4は、白色光を発光するチップLEDである。スイッチSWおよび抵抗Rは、電源電圧VCCによって白色LED4に電流が流れる経路に配置される。スイッチSWは、制御部5によりオンオフを制御される。スイッチSWのオンオフにより、白色LED4の発光・消灯を切り替えることができる。抵抗Rは、白色LED4に流れる電流を制限し、白色光の光量を調整する。
【0012】
カラーセンサ(光センサの一例)3は、光の色成分を検出可能なセンサICである。上記色成分は、具体的には、R成分(赤色成分)、G成分(緑色成分)、B成分(青色成分)である。制御部5によりスイッチSWがオン状態とされることで白色LED4は白色光を発光する。図2に示すように、白色LED4は、対象物10に白色光を照射する。カラーセンサ3は、対象物10で反射された光を受光して色成分を検出する。カラーセンサ3は、検出した色成分をデジタルデータとして制御部5へ出力する。カラーセンサ3が出力するデジタルデータは、例えば16ビットデータである。
【0013】
制御部5は、ビット変換部51と、距離検出部52と、環境変化検出部53と、通知部54と、キャリブレーション部55と、を有している。
【0014】
ビット変換部51は、カラーセンサ3から出力されるデジタルデータを例えば8ビットのデジタルデータに変換する。
【0015】
距離検出部52は、ビット変換後の色成分検出値と、距離を算出するための算出式5Aに基づき、対象物100・カラーセンサ3間の距離L(図2)を算出する。算出式5Aは、制御部5(距離検出部52)にあらかじめ格納されている。算出式5Aの詳細については、後述する。
【0016】
環境変化検出部53は、距離測定環境の変化を検出する。通知部54は、環境変化検出部53の検出結果に基づいてユーザへの通知を行う。環境変化検出部53および通知部54の詳細については後述する。
【0017】
キャリブレーション部55は、算出式5Aの更新を行うものであり、詳細は後述する。
【0018】
なお、後述するように、カラーセンサ3は、RGB成分に加えて、IR(赤外線)成分を検出することも可能である。
【0019】
<2.カラーセンサの構成>
図3は、カラーセンサ3の構成例を示す図である。図3に示すカラーセンサ3は、受光素子31A,31B,31C,31Dと、ADC(ADコンバータ)32A,32B,32Cと、ロジック回路33と、赤外線遮断フィルタ34と、赤色光透過フィルタ35Aと、緑色光透過フィルタ35Bと、青色光透過フィルタ35Cと、赤外線透過フィルタ35Dと、スイッチ36と、を有している。
【0020】
受光素子31Aは、赤外線遮断フィルタ34および赤色光透過フィルタ35Aを介して入射される赤色光の光量に応じたアナログ電流信号を生成する。すなわち、受光素子31Aは、入力光のR成分(赤色成分)を検出する。
【0021】
受光素子31Bは、赤外線遮断フィルタ34および緑色光透過フィルタ35Bを介して入射される緑色光の光量に応じたアナログ電流信号を生成する。すなわち、受光素子31Bは、入力光のG成分(緑色成分)を検出する。
【0022】
受光素子31Cは、赤外線遮断フィルタ34および青色光透過フィルタ35Cを介して入射される青色光の光量に応じたアナログ電流信号を生成する。すなわち、受光素子31Cは、入力光のB成分(青色成分)を検出する。
【0023】
受光素子31Dは、赤外線透過フィルタ35Dを介して入射される赤外線の光量に応じたアナログ電流信号を生成する。すなわち、受光素子31Dは、入力光のIR成分(赤外線成分)を検出する。
【0024】
上記の受光素子31A,31B,31C,31Dとしては、それぞれ、フォトダイオードあるいはフォトトランジスタなどを好適に用いることができる。
【0025】
ADC32A,32Bは、受光素子31A,31Bからのアナログ電流信号を例えば16ビットのデジタルデータに変換して出力する。また、ADC32Cは、受光素子31C,31Dいずれかからのアナログ電流信号をスイッチ36の切り替えに応じてデジタルデータに変換して出力する。
【0026】
赤外線遮断フィルタ34は、赤色光透過フィルタ35A、緑色光透過フィルタ35B、および、青色光透過フィルタ35Cそれぞれの上流側で、入力光に含まれるIR成分を遮断する。このような赤外線遮断フィルタ34を設けることにより、RGB成分を精度良く検出することができる。
【0027】
ロジック回路33は、ADCロジック機能(=ADCの時分割制御機能)、および、ICインターフェイス機能(=データ信号SDAとクロック信号SCLの通信機能)を備えている。ロジック回路33は、ADC32A,32B,32Cから出力されるRGB成分検出信号およびIR成分検出信号としてのデジタルデータをIC通信によって制御部5に送出する。
【0028】
<3.算出式>
カラーセンサ3(光センサ)の出力値をそのまま距離として採用することはできないため、センサ出力値を距離に変換する算出式が必要である。ここで、本願発明者は、カラーセンサ3と対象物との間の距離を変化させつつ、カラーセンサ3の出力値を取得する実験を実施した。図4に、その実験の結果例を示す。なお、図4では、カラーセンサ3のRGB各成分の検出値のうち、R成分検出値について図示している。
【0029】
図4において、縦軸がカラーセンサ3と対象物との間の距離を示し、横軸がカラーセンサ3の出力値(R成分検出値)を示す。図4の破線で示すように、距離を所定のLminから所定のL1まで所定距離刻みで変化させつつ、カラーセンサ3の出力値を取得した。すなわち、図4の破線は、実際の距離(距離の実績値)とカラーセンサ3の出力値との組み合わせの点を線でつないで示したものである。なお、カラーセンサ3の出力値は、16ビットの例としている。距離が長くなるほど、カラーセンサ3の出力値は小さくなる。
【0030】
実験の結果を受け、本願発明者による鋭意検討の結果、センサ出力値から対象物・センサ間の距離を導出する数式として、下記(1)式を見出した。
Y=a・X (1)
ただし、Yは距離、Xはセンサ出力値、aおよびbは係数
【0031】
センサ出力値と実際の距離との組み合わせの点(X,Y)が2点あれば、(1)式における係数aおよびbを厳密に決定することができる。具体的には、2点(X1,Y1)(X2,Y2)それぞれを(1)式に代入した式の両辺の対数をとって連立方程式を解くことで、係数a,bを決定できる。
【0032】
図4の例では、(距離,R成分検出値)が(L1,R1)、(L2,R2)の2点P1,P2を選択し、(1)式の係数a,bを導いている。このように決定された(1)式を使用してセンサ出力値から距離を推定した結果を図4の実線で示す。図4では、距離がL3(<L2)以下では距離の推定値が実績値よりも若干高くなって乖離しているが、距離がL3より長い区間では、距離の推定値が実績値と合致していることが分かる。距離がL3より長い区間に実際に使用する測定距離範囲が含まれるのであれば、精度良く距離を推定することが可能である。従って、使用する距離測定範囲が決まっているのであれば、当該距離測定範囲に含まれる2点を選択して(1)式を決定することが望ましい。
【0033】
図5は、図4における実際の距離と推定した距離とをプロットした結果を示す。図5において、実際の距離と推定した距離が同じ値となる点を結ぶ直線からプロットがずれていない場合に推定精度が最もよい。図5に示すように、距離がL3以下では距離の推定値が実績値を上回っているが、距離がL3より長い区間では精度良く距離を推定できる。
【0034】
本実施形態の距離測定装置1(図1)では、制御部5の距離検出部52が算出式5Aとして、上記(1)式を有している。距離検出部52は、カラーセンサ3の出力値、すなわちビット変換部51の出力に基づいて(1)式を使用して距離を算出することができる。なお、ビット変換部51を設けない場合は、カラーセンサ3の出力値を直接、距離の算出に使用してもよい。
【0035】
距離検出部52は、算出式5Aとして、R成分検出値、G成分検出値、B成分検出値の少なくともいずれかについての(1)式を有することができる。すなわち、RGB成分のうち1つの成分についての(1)式のみを有してもよいし、RGB成分のうち複数の成分ごとについての(1)式(例えばR成分についての(1)式とG成分についての(1)式)を有してもよい。
【0036】
距離検出部52が複数の(1)式を有する場合、後述するようにキャリブレーションにより選択された最適な式を選択して距離の算出を行ってもよい。または、複数の式により算出されたそれぞれの距離の例えば平均値を距離測定値としてもよい。また、カラーセンサ3は、算出式5Aで使用する色成分のみを検出する構成としてもよい。すなわち、カラーセンサ3は、必ずしも3つの色成分を検出する必要はない。
【0037】
<4.照度センサを用いた構成>
図6は、本実施形態の変形例に係る距離測定装置1の構成を示す図である。図6に示す構成では、カラーセンサ3の代わりに照度センサ6を設けている。照度センサ6は、対象物10で反射された光の照度を検出する。この場合、距離検出部52は、算出式5Aとして、センサ出力値Xを照度とした(1)式を有する。これにより、距離検出部52は、照度センサ6の出力値に基づいて(1)式を使用して距離を算出することができる。
【0038】
<5.測定環境変化の影響>
このように、本実施形態に係る距離測定装置1によれば、(1)式を用いて距離を算出することで、精度の高い距離測定が可能となる。しかしながら、時間が経過すると、(1)式の係数を決定したときの測定環境から測定環境が変化する場合が想定される。測定環境変化の要因としては、例えば、対象物の退色・変色、対象物の反射率の変化、白色LED4の光量変動、外部環境光の侵入などが挙げられる。この場合、現状の係数の(1)式を使用したまま距離を算出すると、距離の推定精度が低下することが想定される。
【0039】
図7は、上述した測定環境変動要因の例とその変動検出手段の例を挙げた表である。例えば、測定環境変動要因が対象物の退色・変色、あるいは対象物の反射率の変化である場合は、色温度を用いてその変動を検出することが可能である。図1のようにカラーセンサ3を用いた距離測定装置1の場合は、色温度に類するパラメータとしてRGB成分検出値の比率、あるいはRGB成分検出値から変換したHLS値などを変動検出に用いることができる。
【0040】
ここで、測定環境変動の検出処理の一例について、図8に示すフローチャートを参照して説明する。
【0041】
環境変化検出部53は、前回に(1)式の係数を決定したときの上記色温度に類するパラメータを保持しており、一定時間が経過すると(ステップS1のY)、現在のカラーセンサ3の出力値に基づいて上記色温度に類するパラメータを取得する(ステップS2)。すると、環境変化検出部53は、取得された現在の上記色温度に類するパラメータと上記保持されたパラメータとを比較して(ステップS3)、測定環境変動の有無を判定する(ステップS4)。
【0042】
測定環境変動があった場合は(ステップS4のY)、通知部54がユーザに(1)式の係数の更新(キャリブレーション)が必要である旨を通知する(ステップS5)。通知は、表示または音声などにより行う。この場合、ユーザ操作を契機としてキャリブレーション部55によりキャリブレーションが実施されると、環境変化検出部53は、そのときの上記色温度に類するパラメータをカラーセンサ3の出力値に基づいて取得し、保持するパラメータを取得されたパラメータに更新する(ステップS6)。ステップS6から一定時間が経過すると、再度ステップS2に移行する。
【0043】
一方、測定環境変動がなかった場合は(ステップS4のN)、キャリブレーションの通知は行わず、一定時間が経過すると、再度ステップS2に移行する。
【0044】
このように、本実施形態では、測定環境変動を自動的に検出することで、ユーザにキャリブレーションの必要性を通知し、算出式5Aの精度を良好に維持することができる。なお、キャリブレーションのより具体的な説明については、後述する。
【0045】
また、図7の表に示すように、測定環境変動の要因が対象物の反射率の変化、あるいは白色LED4の光量変動である場合は、照度を用いてその変動を検出することができる。図1のようにカラーセンサ3を用いた距離測定装置1の場合は、照度に類するパラメータとして、RGB成分のうち1つの成分の検出値のみ(Gのみなど)、あるいは、RGB成分のうち複数の検出値の合計値(R+G+B、R+Gなど)を用いることができる。または、図6のように照度センサ6を用いた距離測定装置1の場合は、照度センサ6の出力値を用いて測定環境変動を検出することができる。そして、このような照度自体、あるいは照度に類するパラメータを用いて先述した図8に示す処理を実施することで、算出式5Aの精度維持が可能となる。
【0046】
また、図7の表に示すように、測定環境変動の要因が外部環境光の侵入である場合は、白色LED4を消灯したときの照度を用いて、その変動を検出することができる。図1のようにカラーセンサ3を用いた距離測定装置1の場合は、制御部5によりスイッチSWをオフとして白色LED4が消灯した状態で、カラーセンサ3の出力値に基づいて照度に類するパラメータを取得する。図1のように照度センサ6を用いた距離測定装置1の場合は、制御部5によりスイッチSWをオフとして白色LED4が消灯した状態で、照度センサ6の出力値に基づいて照度を取得する。そして、このような照度自体、あるいは照度に類するパラメータを用いて先述した図8に示す処理を実施することで、算出式5Aの精度維持が可能となる。
【0047】
白色LED4消灯時の照度(あるいはそれに類するパラメータ)を保持した値と現在値とで比較する場合(例えば図8のステップS3)、例えば下記のようにパラメータの変動具合を定量化することもできる。
【0048】
例えば、下記(2)式あるいは(3)式からパラメータの変動具合を算出することができる。
(変動具合)=|(現在の照度値)-(保持された照度値)| (2)
(変動具合)=|1-(現在の照度値)/(保持された照度値)| (3)
【0049】
上記(2)(3)式ともに現在の照度値と保持された照度値に大きな乖離がない場合には変動具合はほぼ0となり、乖離が生じるほど変動具合の値が大きくなる。従って、算出されるパラメータの変動具合を閾値と比較することで、測定環境変動の有無を判定できる。
【0050】
<6.キャリブレーション>
ここでは、キャリブレーションについて説明する。図9は、制御部5に含まれるキャリブレーション部55の第1構成例を示す図である。図9に示すキャリブレーション部55は、測定実施部551と、算出式更新部552と、を有する。
【0051】
測定実施部551は、センサ・対象物間の距離L(図2)を所望の第1距離に設定した状態で、ユーザ操作に基づきカラーセンサ3によるRGB成分検出値の測定を実施する。さらに、測定実施部551は、センサ・対象物間の距離Lを所望の第2距離に設定した状態で、ユーザ操作に基づきカラーセンサ3によるRGB成分検出値の測定を実施する。従って、測定実施部551により、距離の実績値とRGB成分検出値の組み合わせの2点が取得される。算出式更新部552は、取得された2点のデータに基づき、(1)式で表される算出式5Aの係数a,bを更新する。
【0052】
RGB成分のうち1つの成分についての算出式5Aのみが距離検出部52に保持される場合は(すなわち算出式Aは1つ)、当該1つの成分の検出値に基づき算出式5Aを更新する。RGB成分のうち複数の成分についての算出式5Aが保持される場合は(すなわち算出式Aは複数)、当該複数の成分の検出値に基づき複数の算出式5Aをそれぞれ更新する。
【0053】
なお、上記第1構成例は、カラーセンサ3の代わりに照度センサ6を用いた場合にも適用可能である。
【0054】
図10は、制御部5に含まれるキャリブレーション部55の第2構成例を示す図である。図10に示すキャリブレーション部55は、測定実施部551と算出式更新部552に加えて、距離算出部553と、誤差指標算出部554と、算出式選択部555と、を有する。図10の構成では、RGBのうち複数の成分についての複数の算出式5Aが保持される場合に、複数の算出式5Aを更新しつつ、最適な算出式5Aを選択することができる。
【0055】
測定実施部551は、算出式5Aの係数更新に用いるための距離の実績値とRGB成分検出値の組み合わせの2点に加えて、別の距離の実績値とRGB成分検出値の組み合わせも取得する。算出式更新部552は、取得された2点のデータに基づき複数の算出式5Aの係数を更新する。
【0056】
距離算出部553は、上記で更新された各算出式に、上記で取得されたRGB成分検出値を代入して距離を算出する。これにより、距離の実績値と距離の推定値との組み合わせが算出式5Aごとに得られる。誤差指標算出部554は、上記組み合わせに基づき算出式5Aごとの誤差指標を算出する。誤差指標は、例えば、実績値と推定値との誤差の平均値および当該誤差の3σ(σ:標準偏差)である。3σは、誤差ばらつきを示す指標である。
【0057】
算出式選択部555は、上記で算出された算出式5Aごとの誤差指標に基づき、精度が最も高い算出式5Aを選択する。以降、距離検出部52は、上記選択された算出式5Aを用いて距離の測定を実施する。
【0058】
図11は、制御部5に含まれるキャリブレーション部55の第3構成例を示す図である。図11に示すキャリブレーション部55は、上記第2構成例との違いとして、誤差指標算出部554の代わりに3σ算出部(ばらつき算出部)556を有する。
【0059】
測定実施部551は、算出式5Aの係数更新に用いるための距離の実績値とRGB成分検出値の組み合わせの2点に加えて、別の距離の実績値とRGB成分検出値の組み合わせも取得する。このとき、同じ距離の実績値に対して複数回(例えば3回)のRGB成分検出が行われる。算出式更新部552は、取得された2点のデータに基づき複数の算出式5Aの係数を更新する。
【0060】
距離算出部553は、上記で更新された各算出式に、上記で取得されたRGB成分検出値を代入して距離を算出する。これにより、距離の実績値と距離の推定値との組み合わせが算出式5Aごとに得られる。このとき、同じ距離の実績値に対して複数の距離の推定値が得られる。3σ算出部556は、同じ距離の実績値ごとの距離の推定値の3σを算出する。算出式選択部555は、上記で算出された3σに基づき、複数の算出式5Aから、ばらつきの最も少ない算出式5Aを選択する。これにより、同じ距離の実績値に対してRGB成分検出値のばらつきが小さい成分の算出式5Aを選択できる。
【0061】
<7.機器への適用>
本実施形態に係る距離測定装置1は、様々な対象物10との間の距離の測定に利用可能である。図12は、距離測定装置1を適用機器の一例としてのトイレタンク150に搭載する場合の構成例を模式的に示す。この場合、距離測定装置1は、カラーセンサ3と対象物10としての水100の液面との間の距離L、すなわち、液面高さHを測定する水位測定装置として機能する。距離Lが長いほど、液面高さHは短くなる。
【0062】
図12に示すように、トイレタンク150は、収容部70を有する。距離測定装置1に含まれる基板2、カラーセンサ3、および白色LED4は、収容部70内部の上方に配置される。収容部70は、水100を収容可能である。収容部70自体の色は、白色である。なお、図12の構成に限らず例えば、白色のシート材を、収容部70の内部の底面上に配置してもよいし、収容部70の透明な底部の下方に配置してもよい。また、収容部70は、トイレタンク以外の用途での容器であってもよい。
【0063】
<8.その他>
なお、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0064】
<9.付記>
以上のように、本開示の一態様に係る距離測定装置(1)は、
光を対象物(10)に向かって照射するように構成される光源(4)と、
前記対象物での反射光を受光するように構成される光センサ(3)と、
前記光センサから出力される光検出値と下記算出式に基づき、前記対象物との距離を算出するように構成される距離検出部(52)と、を備える構成としている(第1の構成)。
Y=a・X
ただし、Yは距離、Xは光検出値、aおよびbは係数
【0065】
また、上記第1の構成において、前記光センサ(3)は、R(赤色)成分検出値、G(緑色)成分検出値、B(青色)成分検出値の少なくともいずれかの前記光検出値を出力するように構成され、
前記距離検出部(52)は、前記R成分検出値、前記G成分検出値、前記B成分検出値の少なくともいずれかについての前記算出式を有する構成としてもよい(第2の構成)。
【0066】
また、上記第1の構成において、前記光センサ(6)は、照度の前記光検出値を出力するように構成され、前記距離検出部(52)は、前記照度についての前記算出式を有する構成としてもよい(第3の構成)。
【0067】
また、上記第1から第3のいずれかの構成において、距離測定環境の変化を検出するように構成される環境変化検出部(53)をさらに備え、
前記環境変化検出部は、前回に前記係数が決定されたときの前記距離測定環境の変化を検出するためのパラメータと、現在の前記パラメータとの比較に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成されることとしてもよい(第4の構成)。
【0068】
また、上記第4の構成において、前記パラメータは、色温度に類するパラメータである構成としてもよい(第5の構成)。
【0069】
また、上記第5の構成において、前記色温度に類するパラメータは、前記光センサ(3)から出力されるRGB検出値に基づいて算出されるパラメータである構成としてもよい(第6の構成)。
【0070】
また、上記第4の構成において、前記パラメータは、照度、あるいは照度に類するパラメータである構成としてもよい(第7の構成)。
【0071】
また、上記第7の構成において、前記照度に類するパラメータは、前記光センサ(3)から出力されるRGB成分のうち1つの成分の検出値であるか、あるいは前記光センサから出力されるRGBのうち複数成分の検出値の合計値である構成としてもよい(第8の構成)。
【0072】
また、上記第7または第8の構成において、前記パラメータは、前記光源の消灯時における前記照度、あるいは前記照度に類するパラメータである構成としてもよい(第9の構成)。
【0073】
また、上記第7の構成において、前記環境変化検出部(53)は、下記式により算出される前記距離測定環境の変動具合に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成されることとしてもよい(第10の構成)。
(変動具合)=|(現在の照度値)-(保持された照度値)|
ただし、前記照度値には、前記照度に類するパラメータの値も含まれる。
【0074】
また、上記第7の構成において、前記環境変化検出部(53)は、下記式により算出される前記距離測定環境の変動具合に基づいて前記距離測定環境の有無を検出するように構成されることとしてもよい(第11の構成)。
(変動具合)=|1-(現在の照度値)/(保持された照度値)|
ただし、前記照度値には、前記照度に類するパラメータの値も含まれる。
【0075】
また、上記第4から第11のいずれかの構成において、前記距離測定環境の変化があった場合に、ユーザに通知するように構成される通知部(54)をさらに備える構成としてもよい(第12の構成)。
【0076】
また、上記第1から第12のいずれかの構成において、距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせを2点取得するように構成される測定実施部(551)と、
取得された前記2点に基づいて前記算出式を更新するように構成される算出式更新部(552)と、を有するキャリブレーション部(55)をさらに備える構成としてもよい(第13の構成)。
【0077】
また、上記第13の構成において、前記算出式更新部(552)により更新された複数の前記算出式のうち最適な前記算出式を選択するように構成される算出式選択部(555)をさらに備える構成としてもよい(第14の構成)。
【0078】
また、上記第14の構成において、距離算出部(553)と、誤差指標算出部(554)と、をさらに備え、
前記測定実施部(551)は、前記2点以外の距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせも取得するように構成され、
前記距離算出部は、更新された各算出式に、取得された前記光センサの出力値を代入して距離を算出するように構成され、
前記誤差指標算出部は、距離の実績値と前記距離算出部により算出された距離との組み合わせに基づき前記複数の算出式ごとの誤差指標を算出するように構成され、
前記算出式選択部(555)は、算出された前記誤差指標に基づき前記算出式を選択するように構成されることとしてもよい(第15の構成)。
【0079】
また、上記第14の構成において、距離算出部(553)と、ばらつき算出部(556)と、をさらに備え、
前記測定実施部(551)は、前記2点以外の距離の実績値と前記光センサの出力値との組み合わせも取得するように、かつ、同じ距離の実績値に対して前記光センサによる複数回の測定を実施するように構成され、
前記距離算出部は、更新された各算出式に、取得された前記光センサの出力値を代入して距離を算出するように構成され、
前記ばらつき算出部は、同じ距離の実績値に対応して算出される距離のばらつきを算出するように構成され、
前記算出式選択部は、算出された前記ばらつきに基づき前記算出式を選択するように構成されることとしてもよい(第16の構成)。
【0080】
また、上記第1から第16のいずれかの構成において、前記対象物(10)は液体であり、液面高さ測定装置として構成される距離測定装置としてもよい(第17の構成)。
【0081】
また、本開示の一態様に係る機器(150)は、上記第17の構成の距離測定装置(1)と、液体を収容可能な収容部(70)と、を備える(第18の構成)。
【0082】
また、上記第18の構成において、前記収容部(70)の底部の下方あるいは前記収容部の内部の底面上に配置される白色の部材をさらに備え、前記光源(4)は、白色光を発光するように構成されることとしてもよい(第19の構成)。
【0083】
また、上記第18の構成において、前記収容部(70)の底部は、白色であり、前記光源(4)は、白色光を発光するように構成されることとしてもよい(第20の構成)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示は、例えば、各種用途の距離測定に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 距離測定装置
2 基板
3 カラーセンサ
4 白色LED
5 制御部
5A 算出式
6 照度センサ
10 対象物
31A,31B,31C,31D 受光素子
32A,32B,32C ADC
33 ロジック回路
34 赤外線遮断フィルタ
35A 赤色光透過フィルタ
35B 緑色光透過フィルタ
35C 青色光透過フィルタ
35D 赤外線透過フィルタ
36 スイッチ
51 ビット変換部
52 距離検出部
53 環境変化検出部
54 通知部
55 キャリブレーション部
70 収容部
100 水
150 トイレタンク
551 想定実施部
552 算出式更新部
553 距離算出部
554 誤差指標算出部
555 算出式選択部
556 3σ算出部
R 抵抗
SW スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12