(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041275
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240319BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240319BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240319BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20240319BHJP
H01F 10/30 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
H01F10/14
H01F10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145992
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 剛央
(72)【発明者】
【氏名】野本 梨菜
(72)【発明者】
【氏名】金谷 宏行
(72)【発明者】
【氏名】中山 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
【テーマコード(参考)】
4M119
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
4M119BB01
4M119DD17
4M119DD26
4M119DD31
4M119DD42
4M119EE22
4M119EE27
5E049AA01
5E049BA08
5E049CB02
5E049DB14
5F092AB07
5F092AC12
5F092AD23
5F092BB23
5F092BB34
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC03
5F092BC14
(57)【要約】
【課題】 優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を含む磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】 実施形態に係る磁気記憶装置は、第1の磁性層10と、第2の磁性層20と、非磁性層30とを備え、非磁性層は、マグネシウム及び酸素を含有する第1の酸化物層31と、マグネシウム及び酸素を含有する第2の酸化物層32と、亜鉛及び酸素を含有する第3の酸化物層33と、第1の所定元素及び酸素を含有する第4の酸化物層34aと、第2の所定元素及び酸素を含有する第5の酸化物層35aとを含み、第1の所定元素の酸化物の結晶構造及び第2の所定元素の酸化物の結晶構造はいずれも、B1構造であり、第1の所定元素及び第2の所定元素はいずれも、亜鉛の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい酸化物生成自由エネルギーを有し、第1の所定元素の酸化物及び第2の所定元素の酸化物はいずれも、マグネシウムの酸化物のバンドギャップより狭いバンドギャップを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変の磁化方向を有する第1の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気記憶装置であって、
前記非磁性層は、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第1の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第2の酸化物層と、
前記第1の酸化物層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を含有する第3の酸化物層と、
前記第1の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、第1の所定元素及び酸素(O)を含有する第4の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、第2の所定元素及び酸素(O)を含有する第5の酸化物層と、
を含み、
前記第1の所定元素の酸化物の結晶構造及び前記第2の所定元素の酸化物の結晶構造はいずれも、B1構造であり、
前記第1の所定元素及び前記第2の所定元素はいずれも、亜鉛(Zn)の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい酸化物生成自由エネルギーを有し、
前記第1の所定元素の酸化物及び前記第2の所定元素の酸化物はいずれも、マグネシウム(Mg)の酸化物のバンドギャップより狭いバンドギャップを有する
ことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項2】
可変の磁化方向を有する第1の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気記憶装置であって、
前記非磁性層は、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第1の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第2の酸化物層と、
前記第1の酸化物層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を含有する第3の酸化物層と、
前記第1の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、第1の所定元素及び酸素(O)を含有する第4の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、第2の所定元素及び酸素(O)を含有する第5の酸化物層と、
を含み、
前記第1の所定元素及び前記第2の所定元素はいずれも、鉄(Fe)である
ことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項3】
前記第4の酸化物層は、前記第1の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)含有する層を含み、
前記第5の酸化物層は、前記第2の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)含有する層を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記第4の酸化物層に含まれる前記第1の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する層に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、前記第1の酸化物層から遠ざかるにしたがって減少し、
前記第5の酸化物層に含まれる前記第2の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する層に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、前記第2の酸化物層から遠ざかるにしたがって減少する
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記第4の酸化物層は、前記第1の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)含有する層と、前記第1の所定元素及び酸素(O)含有し且つマグネシウム(Mg)を実質的に含有しない層とを含み、
前記第5の酸化物層は、前記第2の所定元素、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)含有する層と、前記第2の所定元素及び酸素(O)含有し且つマグネシウム(Mg)を実質的に含有しない層とを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
可変の磁化方向を有する第1の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気記憶装置であって、
前記非磁性層は、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第1の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第2の酸化物層と、
前記第1の酸化物層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、亜鉛(Zn)、所定元素及び酸素(O)を含有する第3の酸化物層と、
を含み、
前記所定元素は、亜鉛(Zn)の酸化物生成自由エネルギーよりも小さい酸化物生成自由エネルギーを有し、
前記所定元素の酸化物は、マグネシウム(Mg)の酸化物のバンドギャップより狭いバンドギャップを有する
ことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項7】
前記所定元素の酸化物の結晶構造は、B1構造である
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気記憶装置。
【請求項8】
可変の磁化方向を有する第1の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、
を備える磁気記憶装置であって、
前記非磁性層は、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第1の酸化物層と、
前記第2の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第2の酸化物層と、
前記第1の酸化物層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、亜鉛(Zn)、所定元素及び酸素(O)を含有する第3の酸化物層と、
を含み、
前記所定元素は、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)から選択される
ことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項9】
前記非磁性層は、
前記第1の酸化物層と前記第3の酸化物層との間に設けられ、前記所定元素及び酸素(O)を含有し且つ亜鉛(Zn)を実質的に含有しない第4の酸化物層と、
前記第2の酸化物層と前記第3の酸化物層との間に設けられ、前記所定元素及び酸素(O)を含有し且つ亜鉛(Zn)を実質的に含有しない第5の酸化物層と、
をさらに含む
ことを特徴とする請求項6又は8に記載の磁気記憶装置。
【請求項10】
前記非磁性層は、
前記第1の酸化物層と前記第3の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)、前記所定元素及び酸素(O)を含有する第6の酸化物層と、
前記第2の酸化物層と前記第3の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)、前記所定元素及び酸素(O)を含有する第7の酸化物層と、
をさらに含む
ことを特徴とする請求項6又は8に記載の磁気記憶装置。
【請求項11】
前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層はいずれも、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びボロン(B)を含有する
ことを特徴とする請求項1、2、6又は8のいずれか1項に記載の磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板上に磁気抵抗効果素子が集積化された磁気記憶装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0268887号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0076635号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を含む磁気記憶装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気記憶装置は、可変の磁化方向を有する第1の磁性層と、固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた非磁性層と、を備える磁気記憶装置であって、前記非磁性層は、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第1の酸化物層と、前記第2の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有する第2の酸化物層と、前記第1の酸化物層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を含有する第3の酸化物層と、前記第1の磁性層と前記第1の酸化物層との間に設けられ、第1の所定元素及び酸素(O)を含有する第4の酸化物層と、前記第2の磁性層と前記第2の酸化物層との間に設けられ、第2の所定元素及び酸素(O)を含有する第5の酸化物層と、を含み、前記第1の所定元素の酸化物の結晶構造及び前記第2の所定元素の酸化物の結晶構造はいずれも、B1構造であり、前記第1の所定元素及び前記第2の所定元素はいずれも、亜鉛(Zn)の酸化物生成自由エネルギーよりも大きい酸化物生成自由エネルギーを有し、前記第1の所定元素の酸化物及び前記第2の所定元素の酸化物はいずれも、マグネシウム(Mg)の酸化物のバンドギャップより狭いバンドギャップを有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係り、トンネルバリア層におけるZnに対するポテンシャルエネルギーを模式的に示した図である。
【
図3】周期表に示された各種元素のモノオキサイドがB1構造を有しているか否かを示した図である。
【
図4】各種元素のモノオキサイドの生成自由エネルギーを示した図である。
【
図5】各種元素のモノオキサイドのバンドギャップを示した図である。
【
図6】第1の実施形態の第1の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図7】第1の実施形態の第2の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図8】第1の実施形態の第3の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図9】第1の実施形態の第4の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図10】第2の実施形態に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図11】第2の実施形態に係り、トンネルバリア層におけるZn
1-xY
x に対するポテンシャルエネルギーを模式的に示した図である。
【
図12】酸化物層A(ZnO層、CaO層又はZn
0.5Ca
0.5O層)がMgO層間に位置する系のエネルギーE1と酸化物層AがMgO層と磁性層(Fe層)との界面近傍に位置する系のエネルギーE2とのエネルギー差ΔE(ΔE=E1-E2)の計算結果を示した図である。
【
図13】第2の実施形態の第1の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図14】第2の実施形態の第2の変形例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。
【
図15】第1及び第2の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子の適用例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。具体的には、
図1は、磁気抵抗効果素子100の構成を模式的に示した断面図である。磁気抵抗効果素子100は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子である。
【0009】
磁気抵抗効果素子100は、半導体基板(図示せず)を含む下部構造(図示せず)上に設けられており、記憶層(第1の磁性層)10、参照層(第2の磁性層)20及びトンネルバリア層(非磁性層)30を含んでいる。
【0010】
記憶層10は、可変の磁化方向を有する強磁性層であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びボロン(B)を含有するFeCoB層を含んでいる。なお、可変の磁化方向とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わることを意味する。
【0011】
参照層20は、固定された磁化方向を有する強磁性層であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びボロン(B)を含有するFeCoB層を含んでいる。なお、固定された磁化方向とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わらないことを意味する。
【0012】
トンネルバリア層30は、記憶層10と参照層20との間に設けられた絶縁層である。トンネルバリア層30は、記憶層10と参照層20との間に設けられた酸化物層31と、参照層20と酸化物層31との間に設けられた酸化物層32と、酸化物層31と酸化物層32との間に設けられた酸化物層33と、記憶層10と酸化物層31との間に設けられた酸化物層34aと、参照層20と酸化物層32との間に設けられた酸化物層35aとを含んでいる。トンネルバリア層30については、後で詳細に説明する。
【0013】
磁気抵抗効果素子100は、記憶層10の磁化方向が参照層20の磁化方向に対して平行である場合には低抵抗状態を呈し、記憶層10の磁化方向が参照層20の磁化方向に対して反平行である場合には高抵抗状態を呈する。このような特性により、磁気抵抗効果素子100は、その抵抗状態(低抵抗状態、高抵抗状態)に応じて2値データを記憶することが可能である。
【0014】
磁気抵抗効果素子100は、垂直磁化を有するSTT(spin transfer torque)型の磁気抵抗効果素子であり、記憶層10の磁化方向はその主面に対して垂直であり、参照層20の磁化方向はその主面に対して垂直である。
【0015】
以下、トンネルバリア層30について詳細に説明する。
【0016】
酸化物層31は、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。すなわち、酸化物層31は、マグネシウム(Mg)のモノオキサイドで形成されている。酸化物層31は、酸化物層33及び酸化物層34aに接している。
【0017】
酸化物層32は、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。すなわち、酸化物層32は、マグネシウム(Mg)のモノオキサイドで形成されている。酸化物層32は、酸化物層33及び酸化物層35aに接している。
【0018】
酸化物層33は、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を含有するZnO層で形成されている。すなわち、酸化物層33は、亜鉛(Zn)のモノオキサイドで形成されている。酸化物層33は、酸化物層31及び酸化物層32に接している。
【0019】
酸化物層34aは、所定元素X及び酸素(O)を含有するXO層で形成されている。すなわち、酸化物層34aは、所定元素Xのモノオキサイドで形成されている。所定元素Xは、鉄(Fe)であることが好ましい。酸化物層34aは、酸化物層31及び記憶層10に接している。
【0020】
酸化物層35aは、所定元素X及び酸素(O)を含有するXO層で形成されている。すなわち、酸化物層35aは、所定元素Xのモノオキサイドで形成されている。所定元素Xは、鉄(Fe)であることが好ましい。酸化物層35aは、酸化物層32及び参照層20に接している。
【0021】
酸化物層34aに含有された所定元素Xと、酸化物層35aに含有された所定元素Xとは、同じでもあってもよいし異なっていてもよい。本実施形態では、酸化物層34aに含有された所定元素Xと酸化物層35aに含有された所定元素Xとは同じである。
【0022】
上述したような構成により、本実施形態では、以下に述べるように、優れたトンネルバリア層30を得ることができ、優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を得ることが可能となる。
【0023】
MgO層間にZnO層が挟まれた構造を有するトンネルバリア層は、MgO層単独で形成されたトンネルバリア層よりも高い耐圧を有することが、第一原理計算によって予測されている。
【0024】
しかしながら、MgO層間にZnO層が挟まれた構造を形成した後に熱処理を行うと、Znが記憶層とトンネルバリア層との界面近傍及び参照層とトンネルバリア層との界面近傍に偏析することが確認された。これは、以下に述べるように、MgO層間にZnO層が挟まれた構造よりも、磁性層(記憶層、参照層)とMgO層との間にZnO層が挟まれた構造の方が、エネルギー的に安定であるためと考えられる。
【0025】
Znは酸素と結合していない状態が安定であり、Mgは酸素と結合している状態が安定である。また、磁性層(記憶層、参照層)は、FeCoB層等で形成されており、酸素を含有していない。したがって、Znが磁性層とトンネルバリア層との界面近傍に位置し、Mgがトンネルバリア層の中央に位置する状態が安定である。そのため、熱処理等を行うことにより、磁性層とトンネルバリア層との界面近傍にZnO層が位置し、トンネルバリア層の中央にMgO層が位置するようになると考えられる。
【0026】
本実施形態では、XO層で形成された酸化物層34aを記憶層10とMgO層で形成された酸化物層31との間に配置し、XO層で形成された酸化物層35aを参照層20とMgO層で形成された酸化物層32との間に配置している。これにより、ZnO層で形成され酸化物層33を、酸化物層31と酸化物層32との間に安定して配置させることが可能である。以下、所定元素Xに要求される好ましい条件について説明する。
【0027】
まず、第1の条件について説明する。酸化物層31及び32として用いるMgOの結晶構造は、B1構造(岩塩(rock salt)構造)である。そのため、酸化物層34a及び35aとして用いるXOの結晶構造も、B1構造であることが好ましい。すなわち、所定元素Xのモノオキサイド(mono-oxide)XOの結晶構造がB1構造であることが好ましい。なお、ここでは、歪んだB1(distorted B1)構造もB1構造に含まれるものとする。
【0028】
次に、第2の条件について説明する。上述したように、Znは酸素と結合していない状態が安定である。言い換えると、Znは酸化物生成自由エネルギーが大きい。本実施形態では、磁性層とトンネルバリア層との界面近傍にXO層を設けることで、ZnO層が磁性層とトンネルバリア層との界面近傍に位置することを抑制するようにしている。したがって、所定元素Xの酸化物生成自由エネルギーは、Znの酸化物生成自由エネルギーよりもさらに大きいことが好ましい。具体的には、所定元素Xのモノオキサイド(XO)の生成自由エネルギーが、Znのモノオキサイド(ZnO)の生成自由エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0029】
図2は、トンネルバリア層30におけるZnに対するポテンシャルエネルギーを模式的に示した図である。
図2において、特性(a)は第2の条件を満たす所定元素Xのモノオキサイド(XO)で形成された酸化物層34a及び35aを設けた場合であり、特性(b)は酸化物層34a及び35aを設けていない場合である。特性(b)では、記憶層(FeCoB層)10の近傍及び参照層(FeCoB層)20の近傍でポテンシャルエネルギーが低くなっているが、特性(a)では、酸化物層(ZnO層)33に対応する位置でポテンシャルエネルギーが低くなっている。したがって、XOで形成された酸化物層34a及び35aを設けることで、ZnOで形成された酸化物層33をMgOで形成された酸化物層31と32との間に安定して位置させることが可能である。
【0030】
次に、第3の条件について説明する。XOのバンドギャップがMgOのバンドギャップよりも広いと、トンネルバリア層30の抵抗が増加してしまう。したがって、所定元素Xの酸化物のバンドギャップがMgの酸化物のバンドギャップよりも狭いことが好ましい。具体的には、所定元素Xのモノオキサイド(XO)のバンドギャップが、Mgのモノオキサイド(MgO)のバンドギャップよりも狭いことが好ましい。
【0031】
図3は、周期表に示された各種元素のモノオキサイドがB1構造(岩塩構造)を有しているか否かを示した図である。
図3において、マーキングした元素のモノオキサイドがB1構造(歪んだB1構造も含まれる)を有している。
【0032】
図4は、各種元素のモノオキサイドの生成自由エネルギー(標準生成ギブズエネルギー)を示した図である。横軸は温度であり、縦軸は生成自由エネルギーである。
図4からわかるように、少なくとも
図4に示された温度範囲では、鉄(Fe)のモノオキサイド(FeO)の生成自由エネルギーは、Znのモノオキサイド(ZnO)の生成自由エネルギーよりも大きい。
【0033】
図5は、各種元素のモノオキサイドのバンドギャップを示した図である。
図5に示されるように、鉄(Fe)のモノオキサイド(FeO)のバンドギャップは、Mgのモノオキサイド(MgO)のバンドギャップよりも狭い。
【0034】
上述したことから、第1、第2及び第3の条件を満たす所定元素Xとして、鉄(Fe)があげられる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、所定元素X及び酸素(O)を含有する酸化物層34a及び35aを用いることで、高い耐圧を有し且つエネルギー的に安定な構造を有する優れたトンネルバリア層30を得ることができ、優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を得ることが可能となる。
【0036】
図6は、本実施形態の第1の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0037】
本変形例では、酸化物層34b及び35bが、所定元素X(鉄(Fe)が好ましい)及び酸素(O)に加えてさらにマグネシウム(Mg)を含有するMg1-xXxO層(ただし、0<x<1)で形成されている。すなわち、酸化物層34b及び35bが、マグネシウム(Mg)、所定元素X及び酸素(O)を含有するモノオキサイドで形成されている。酸化物層34bに含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層31から遠ざかるにしたがって減少し、酸化物層35bに含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層32から遠ざかるにしたがって減少していることが好ましい。
【0038】
本変形例でも、所定元素Xを含有する酸化物層34b及び35bを設けることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0039】
図7は、本実施形態の第2の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0040】
本変形例でも、酸化物層34c及び35cが、所定元素X(鉄(Fe)が好ましい)及び酸素(O)を含有している。ただし、本変形例では、所定元素X及び酸素(O)の組成比が1:1ではなく、酸化物層34c及び35cがX1-yOy 層(ただし、0<y<0.5又は0.5<y<1)で形成されている。このように、酸化物層34c及び35cは、モノオキサイドでなくてもよい。
【0041】
本変形例でも、所定元素Xを含有する酸化物層34c及び35cを設けることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0042】
図8は、本実施形態の第3の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0043】
本変形例でも、酸化物層34d及び35dが、所定元素X(鉄(Fe)が好ましい)及び酸素(O)を含有している。ただし、本変形例では、酸化物層34dが酸化物層34d1及び酸化物層34d2を含んでおり、酸化物層35dが酸化物層35d1及び酸化物層35d2を含んでいる。
【0044】
酸化物層34d1及び35d1の基本的な構成は、
図1に示した酸化物層34a及び35aの構成と同様である。すなわち、酸化物層34d1及び35d1は、所定元素X及び酸素(O)を含有するXO層(所定元素Xのモノオキサイド層)で形成されている。
【0045】
酸化物層34d2及び35d2の基本的な構成は、
図7に示した酸化物層34c及び35cの構成と同様である。すなわち、酸化物層34d2及び35d2は、所定元素X及び酸素(O)を含有するX
1-yO
y 層(ただし、0<y<0.5又は0.5<y<1)で形成されている。
【0046】
本変形例でも、所定元素Xを含有する酸化物層34d及び35dを設けることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0047】
図9は、本実施形態の第4の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0048】
本変形例でも、酸化物層34e及び35eが、所定元素X(鉄(Fe)が好ましい)及び酸素(O)を含有している。ただし、本変形例では、酸化物層34eが酸化物層34e1及び酸化物層34e2を含んでおり、酸化物層35eが酸化物層35e1及び酸化物層35e2を含んでいる。
【0049】
酸化物層34e1及び35e1の基本的な構成は、
図6に示した酸化物層34b及び35bの構成と同様である。すなわち、酸化物層34e1及び35e1は、マグネシウム(Mg)、所定元素X及び酸素(O)を含有するMg
1-xX
xO層(ただし、0<x<1)で形成されている。第1の変形例で述べたように、酸化物層34e1に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層31から遠ざかるにしたがって減少し、酸化物層35e1に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層32から遠ざかるにしたがって減少していることが好ましい。
【0050】
酸化物層34e2及び35e2の基本的な構成は、
図1に示した酸化物層34a及び35aの構成、或いは、
図7に示した酸化物層34c及び35cの構成と同様である。すなわち、酸化物層34e2及び35e2は、所定元素X及び酸素(O)を含有し且つマグネシウム(Mg)を実質的に含有しないX
1-yO
y 層(ただし、0<y<1)で形成されている。
【0051】
本変形例でも、所定元素Xを含有する酸化物層34e及び35eを設けることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。なお、基本的な事項は第1の実施形態と同様であり、第1の実施形態で説明した事項の説明は省略する。
【0053】
図10は、本実施形態に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した断面図である。具体的には、
図10は、磁気抵抗効果素子100の構成を模式的に示した断面図である。磁気抵抗効果素子100は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子である。
【0054】
第1の実施形態と同様に、磁気抵抗効果素子100は、半導体基板(図示せず)を含む下部構造(図示せず)上に設けられており、記憶層(第1の磁性層)10、参照層(第2の磁性層)20及びトンネルバリア層(非磁性層)40を含んでいる。
【0055】
本実施形態では、トンネルバリア層40が、記憶層10と参照層20との間に設けられた酸化物層41と、参照層20と酸化物層41との間に設けられた酸化物層42と、酸化物層41と酸化物層42との間に設けられた酸化物層43とを含んでいる。
【0056】
酸化物層41は、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。すなわち、酸化物層41は、マグネシウム(Mg)のモノオキサイドで形成されている。酸化物層41は、記憶層10及び酸化物層43に接している。
【0057】
酸化物層42は、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。すなわち、酸化物層42は、マグネシウム(Mg)のモノオキサイドで形成されている。酸化物層42は、参照層20及び酸化物層43に接している。
【0058】
酸化物層43は、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するZn1-xYxO層(ただし、0<x<1)で形成されている。すなわち、酸化物層43は、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するモノオキサイドで形成されている。所定元素Yは、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)から選択されることが好ましい。酸化物層43は、酸化物層41及び酸化物層42に接している。
【0059】
上述したような構成により、本実施形態では、以下に述べるように、優れたトンネルバリア層40を得ることができ、優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を得ることが可能となる。
【0060】
第1の実施形態で述べたように、MgO層間にZnO層が挟まれた構造を有するトンネルバリア層は、高い耐圧を有するが、エネルギー的に不安定である。
【0061】
本実施形態では、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するZn1-xYxO層で形成された酸化物層43を、MgO層で形成された酸化物層41とMgO層で形成された酸化物層42との間に配置している。これにより、Zn1-xYxO層で形成された酸化物層43を酸化物層41と酸化物層42との間に安定して配置させることが可能である。以下、所定元素Yに要求される好ましい条件について説明する。
【0062】
まず、第1の条件について説明する。第1の実施形態で述べたように、Znは酸化物生成自由エネルギーが大きい。本実施形態では、亜鉛(Zn)及び酸素(O)に加えてさらに所定元素Yを含有するZn1-xYxO層で酸化物層43を形成することで、酸化物層43が酸化物層41と酸化物層42との間に安定して位置するようにしている。したがって、所定元素Yの酸化物生成自由エネルギーは、Znの酸化物生成自由エネルギーよりも小さいことが好ましい。具体的には、所定元素Yのモノオキサイド(YO)の生成自由エネルギーが、Znのモノオキサイド(ZnO)の生成自由エネルギーよりも小さいことが好ましい。
【0063】
図11は、トンネルバリア層40におけるZn
1-xY
x に対するポテンシャルエネルギーを模式的に示した図である。
図11において、特性(a)は第1の条件を満たす所定元素Yを含有するZn
1-xY
xO層で酸化物層43を形成した場合であり、特性(b)は所定元素Yを含有しないZnO層で酸化物層43を形成した場合である。
図11に示すように、酸化物層43に対応する位置において、特性(a)は特性(b)よりもポテンシャルエネルギーが低くなっている。したがって、酸化物層43をZn
1-xY
xO層で形成することで、酸化物層43をMgOで形成された酸化物層41と42との間に安定して存在させることが可能である。
【0064】
次に、第2の条件について説明する。Zn
1-xY
xOのバンドギャップがMgOのバンドギャップよりも広いと、トンネルバリア層40の抵抗が増加してしまう。したがって、Zn
1-xY
xOのバンドギャップがMgOのバンドギャップよりも狭いことが好ましい。
図5に示したように、ZnOのバンドギャップはMgOのバンドギャップよりも狭い。そのため、YOのバンドギャップがMgOのバンドギャップよりも狭ければ、Zn
1-xY
xOのバンドギャップもMgOのバンドギャップよりも狭くなる。したがって、所定元素Yの酸化物のバンドギャップがMgの酸化物のバンドギャップよりも狭いことが好ましい。具体的には、所定元素Yのモノオキサイド(YO)のバンドギャップが、Mgのモノオキサイド(MgO)のバンドギャップよりも狭いことが好ましい。
【0065】
図4からわかるように、少なくとも
図4に示された温度範囲では、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)のモノオキサイド(CdO、MnO、BaO、SrO及びCaO)の生成自由エネルギーは、Znのモノオキサイド(ZnO)の生成自由エネルギーよりも小さい。
【0066】
図5に示されるように、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)のモノオキサイド(CdO、MnO、BaO、SrO及びCaO)のバンドギャップは、Mgのモノオキサイド(MgO)のバンドギャップよりも狭い。
【0067】
以上のことから、第1及び第2の条件を満たす所定元素Yとして、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)があげられる。
【0068】
なお、本実施形態では、第1の実施形態で述べた第1の条件に対応する条件(所定元素YのモノオキサイドYOの結晶構造がB1構造であること)を満たすことは、必ずしも必要ではない。
図3に示されるように、Cd及びMnはそのような条件を満たすが、Ba、Sr及びCaはそのような条件を満たしていない。本実施形態では、ZnOに所定元素Yが添加されたときに、ZnOの本来の結晶構造が崩れないことが重要である。上述したCd、Mn、Ba、Sr及びCaは、ZnOに添加されても、ZnOの本来の結晶構造を崩さないようにすることが可能である。
【0069】
図12は、酸化物層A(酸化物層Aは、ZnO層、CaO層又はZn
0.5Ca
0.5O層)がMgO層間に位置する系のエネルギーE1と酸化物層AがMgO層と磁性層(Fe層)との界面近傍に位置する系のエネルギーE2とのエネルギー差ΔE(ΔE=E1-E2)の計算結果を示した図である。
図12では、ZnO層の場合のエネルギー差ΔEの値を1に規格化している。エネルギー差ΔEの値が大きいほど、酸化物層Aが界面近傍で安定化しやすいことを表している。
【0070】
図12に示すように、Zn
0.5Ca
0.5O層の場合がエネルギー差ΔEの値が最も小さくなっている。したがって、Zn
0.5Ca
0.5O層の場合には、ZnO層及びCaO層の場合に比べて、MgO層と磁性層との界面近傍で安定化しにくいことがわかる。言い換えると、Zn
0.5Ca
0.5O層の場合には、ZnO層及びCaO層の場合に比べて、MgO層間で安定化しやすいことがわかる。
【0071】
したがって、酸化物層43をZn1-xCaxO層で形成することで、酸化物層43をMgOで形成された酸化物層41と42との間に安定して位置させることが可能である。他の所定元素Y(Cd、Mn、Ba、Sr)についても、Caの場合と同様に、酸化物層43をZn1-xYxO層で形成することで、酸化物層43をMgOで形成された酸化物層41と42との間に安定して位置させることが可能であると考えられる。
【0072】
以上のように、本実施形態では、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するZn1-xYxO層を酸化物層43に用いることにより、第1の実施形態と同様に、高い耐圧を有し且つエネルギー的に安定な構造を有する優れたトンネルバリア層40を得ることができ、優れた特性を有する磁気抵抗効果素子を得ることが可能となる。
【0073】
図13は、本実施形態の第1の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0074】
本変形例では、酸化物層41と酸化物層43との間に酸化物層44が設けられ、酸化物層42と酸化物層43との間に酸化物層45が設けられている。酸化物層41、42及び43の基本的な構成は、上述した実施形態と同様である。酸化物層44及び45は、所定元素Y及び酸素(O)を含有し且つ亜鉛(Zn)を実質的に含有していない。具体的には、酸化物層44及び45は、所定元素Y(Cd、Mn、Ba、Sr又はCaが好ましい)のモノオキサイド(YO)で形成されている。
【0075】
本変形例でも、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するZn1-xYxO層を酸化物層43に用いることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0076】
図14は、本実施形態の第2の変形例に係る磁気記憶装置の構成(磁気抵抗効果素子100の構成)を模式的に示した断面図である。
【0077】
本変形例では、酸化物層41と酸化物層43との間に酸化物層46が設けられ、酸化物層42と酸化物層43との間に酸化物層47が設けられている。酸化物層41、42及び43の基本的な構成は、上述した実施形態と同様である。酸化物層46及び47は、マグネシウム(Mg)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するMg1-yYyO(ただし、0<y<1)で形成されている。すなわち、酸化物層46及び47は、マグネシウム(Mg)及び所定元素Yを含有するモノオキサイドで形成されている。酸化物層46に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層41から遠ざかるにしたがって減少し、酸化物層47に含有されたマグネシウム(Mg)の濃度は、酸化物層42から遠ざかるにしたがって減少していることが好ましい。
【0078】
本変形例でも、亜鉛(Zn)、所定元素Y及び酸素(O)を含有するZn1-xYxO層を酸化物層43に用いることで、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0079】
なお、上述した第1及び第2の実施形態では、記憶層10が参照層20の下層側に位置するボトムフリー型の磁気抵抗効果素子を示したが、記憶層10が参照層20の上層側に位置するトップフリー型の磁気抵抗効果素子を用いることも可能である。
【0080】
図15は、第1及び第2の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子100の適用例に係る磁気記憶装置の構成を模式的に示した斜視図である。
【0081】
X方向に延伸する第1の配線410とY方向に延伸する第2の配線420との間に、メモリセル300が設けられている。メモリセル300は、上述した第1及び第2の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子100と、磁気抵抗効果素子100に対して直列に接続されたセレクタ(スイッチング素子)200とを含んでいる。第1の配線410及び第2の配線420の一方はワード線に対応し、第1の配線410及び第2の配線420の他方はビット線に対応する。
【0082】
なお、
図15に示したX方向、Y方向及びZ方向は、互いに交差する方向である。具体的には、X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交している。
【0083】
セレクタ200は、非線形な電流-電圧特性を有する2端子型スイッチング素子であり、2端子間に印加される電圧が閾値電圧以上になるとオフ状態からオン状態に移行する特性を有している。したがって、第1の配線410と第2の配線420との間に電圧を印加してセレクタ200に印加される電圧が閾値電圧以上になると、セレクタ200がオフ状態からオン状態に移行する。その結果、磁気抵抗効果素子100及びセレクタ200に電流が流れ、磁気抵抗効果素子100に対して書き込み或いは読み出しを行うことが可能となる。
【0084】
第1及び第2の実施形態で説明した磁気抵抗効果素子100を、
図15に示したような磁気記憶装置に適用することで、優れた特性を有する磁気記憶装置を得ることが可能となる。
【0085】
なお、
図15では、磁気抵抗効果素子100がセレクタ200の上層側に設けられた構成が示されているが、磁気抵抗効果素子100がセレクタ200の下層側に設けられた構成を用いることも可能である。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
10…記憶層(第1の磁性層) 20…参照層(第2の磁性層)
30…トンネルバリア層(非磁性層) 31…酸化物層(第1の酸化物層)
32…酸化物層(第2の酸化物層) 33…酸化物層(第3の酸化物層)
34a、34b、34c、34d、34e…酸化物層(第4の酸化物層)
34d1、34d2、34e1、34e2…酸化物層
35a、35b、35c、35d、35e…酸化物層(第5の酸化物層)
35d1、35d2、35e1、35e2…酸化物層
40…トンネルバリア層(非磁性層) 41…酸化物層(第1の酸化物層)
42…酸化物層(第2の酸化物層) 43…酸化物層(第3の酸化物層)
44…酸化物層(第4の酸化物層) 45…酸化物層(第5の酸化物層)
46…酸化物層(第6の酸化物層) 47…酸化物層(第7の酸化物層)
100…磁気抵抗効果素子 200…セレクタ(スイッチング素子)
300…メモリセル 410…第1の配線 420…第2の配線