(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041284
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】土砂遮断装置用土止め材
(51)【国際特許分類】
E02D 17/08 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
E02D17/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146002
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504268744
【氏名又は名称】独立行政法人労働者健康安全機構
(71)【出願人】
【識別番号】591267925
【氏名又は名称】日本スピードショア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073689
【弁理士】
【氏名又は名称】築山 正由
(72)【発明者】
【氏名】玉手 聡
(72)【発明者】
【氏名】堀 智仁
(72)【発明者】
【氏名】菊田 亮一
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044AA12
(57)【要約】
【課題】掘削溝の妻側壁面が崩落した際にも、効果的に土止めが可能な土砂遮断装置用土止め材を提供すること。
【解決手段】一対の方形フレームを、正面視において略X字状を呈する形態で回動自在に連結すると共に、一方の方形フレームの上部と他方フレームの下部との間に、一対のシート部材を張設した土砂遮断装置に用いる土止め板をもって上記課題を解決する。具体的には板材と、板材の裏面に設けられた係止部材と、板材の表面下部に設けられたフランジとによりなる土砂遮断装置用土止め材をもって上記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の方形フレームを、正面視において略X字状を呈する形態で回動自在に連結すると共に、一方の方形フレームの上部と他方フレームの下部との間に、一対のシート部材を張設した土砂遮断装置に用いる土止め板であって、
板材と、板材の裏面に設けられた係止部材と、板材の表面下部に設けられたフランジとによりなる土砂遮断装置用土止め材。
【請求項2】
板材の中央部上下方向にスリットを設けた請求項1に記載の土砂遮断装置用土止め材。
【請求項3】
板材に代えてシート材を用いた請求項1又は請求項2に記載の土砂遮断装置用土止め材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小規模な溝掘削を伴う上水道、下水道、電気通信施設、ガス供給施設等の建設工事(以下「上下水道等工事」という。)における労働災害の防止を図る装置に関するものであり、より詳しくは溝掘削作業及び溝内作業中における土砂崩壊に伴う作業員の死傷事故の防止を図ることが可能な土砂遮断装置用土止め材に関する。
【背景技術】
【0002】
小規模な溝掘削作業を伴う上下水道等工事においては、溝掘削作業及び溝内作業中における土砂崩壊に伴う労働災害を防ぐため、溝内での作業に先行して土止め支保工を設置する場合がある。具体的にはドラグショベルによって掘削(素掘り)し、その後、軽量鋼矢板を掘削面に張りつけるように建て込み、腹起し・切梁を取り付けて土止め支保工を組み立てるものである。
【0003】
かかる土止め支保工に関し厚生労働省が定めたガイドラインでは、小規模な溝掘削作業、具体的には掘削深さが概ね1.5メートル以上4メートル以下で、掘削幅がおおむね3メートル以下の溝をほぼ鉛直に掘削する作業を行う場合には、土止め先行工法による適切な土止め支保工等を設置することが求められている。
【0004】
また、労働安全衛生規則では、崩壊等により労働者に危害を及ぼす恐れのある時は、深さに関係なく土止め支保工を設けるなどの危険を防止する措置を義務付けている。
【0005】
ところが上記労働安全衛生規則における「労働者に危害を及ぼす恐れのある時」を客観的に判断することは容易でなく、また、先のガイドラインの対象深さが1.5メートル以上となっていることなどから、公共機関による発注では深さ1.5メートル未満の掘削に土止め費用は積算しないことが多々ある。
【0006】
係る事態の元、溝掘削作業及び溝内作業中における土砂崩壊に伴う作業員の死傷事故において、掘削溝の深さが1.5メートル未満において発生する事例が、数多く報告されていた。
【0007】
係る憂慮すべき事態に対応するため、特許文献1に記載のような、小規模掘削溝に容易に設置可能な土砂遮断装置が提案されている。この土砂遮断装置は二個の方形フレームをX字型に回動自在な形態で連結し、この方形フレームに掘削溝の壁面の崩壊土砂を遮断可能なシートを張設したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下、本発明が解決する課題を図面を参照しながら概説する。なお、各図におけるUとは上方を、Dは下方を、Rは右方向を、Lは左方向を意味するものである。
【0010】
図8は特許文献1に記載の土砂遮断装置5を示すものである。方形フレーム1と方形フレーム2が軸4を中心に回動自在に連結されている。また、方形フレーム1の上端と方形フレーム2の下端とにわたり、一対のシート3が張設されている。この一対のシート部材3間に存する空間で作業員は作業を行うものである。
【0011】
図10は上述の通り構成される土砂遮断装置5の実施状態を示すものである。崩落した土砂Nは、左側のシート部材3を押圧して張力が生じ、この張力は方形フレーム1を反時計回り(図中矢印K1方向)に、方形フレーム2を時計回り(図中矢印K2方向)に回転させる力となる。この力は方形フレーム1の上辺1aと下辺1b及び方形フレーム2の上辺2aと下辺2bを、
図11に示す側壁M1と側壁M2のいずれかに押圧する。したがって、土砂Nによって生じた土圧はシート張力を介して上辺と下辺に伝達され、側壁の土圧とバランスする。
【0012】
つまりは一対のシート3で囲まれる作業空間は土砂の崩落によっても埋まることを可及的に抑制するが可能となり、作業員が土砂崩落に巻き込まれることが抑制されるのである。
【0013】
図11は土砂遮断装置5を、掘削溝Мに設置した状態を示すものである。上記の通り従来例に係る土砂遮断装置5は、シート3が面する掘削溝Мの長手方向側壁М1及び側壁М2の崩落土砂を土止めする効果は非常に高いものである。しかし、掘削溝Мの妻側壁面М3が崩落した場合には、土砂遮断装置5の壁面М3に面した側にはシート3が存在しないため、崩落土砂が土止めされることなく、土砂遮断装置5内の作業スペースにまで侵入してしまう恐れがある。
【0014】
そこで本発明は、掘削溝の妻側壁面が崩落した際にも、効果的に土止めが可能な土砂遮断装置用土止め材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成する本発明の構成は以下の通りである。
【0016】
(1) 請求項1に記載の土砂遮断装置用土止め材は、板材と、板材の裏面に設けられた係止部材と、板材の表面下部に設けられたフランジとにより構成した。
【0017】
(2) 請求項2に記載の土砂遮断装置用土止め材は、請求項1記載の発明において、板材の中央部上下方向にスリットを設て構成した。
【0018】
(3) 請求項3に記載の土砂遮断装置用土止め材は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、板材に代えシート材を用いて構成した。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成される本発明が、如何に作用して課題を解決するかを図面を参照しながら概説する。
【0020】
本発明に係る土砂遮断装置用土止め材10(以下、「土止め材10」と称する)は、
図1や
図6に示すように、土砂遮断装置5に係止して使用されるものである。具体的には方形フレーム1及び方形フレーム2に対して、その軸4より上部位置に、係止部材13を係止することで、土砂遮断装置5に土止め材10を取り付けるものである。
【0021】
上記のようにして土止め材10を取り付けた土砂遮断装置5は、
図5に示すように掘削溝Мの妻側壁面М3に、土止め材10が対面する形態で設置される。かように設置された本発明が、妻側壁面М3が崩落した際に、どのように作用して土止めを行うかを、以下に詳述する。
【0022】
上述の通り土止め材10は、妻側壁面М3に対面する位置に設けられることから、崩落してくる土砂が土砂遮断装置5内に侵入してくることを抑制する。
【0023】
のみならず、本発明によれば、崩土の荷重を土止め材10が受け止めることで、土砂遮断装置5が妻側壁面からの崩土に対して土止め作用を及ぼすものである。以下に概説する。
【0024】
図6において矢印Aで示される方向に崩落した土砂は、フランジ12で受け止められることで、土止め材10には、矢印Bで示される鉛直下向きの荷重が作用する。この荷重が、崩落土砂の荷重によって発生する矢印Cで示される水平方向への力に抵抗するものである。この2つの抵抗機序について説明する。一つは転倒モーメントに対する抵抗である。支点Oにおけるモーメントを検討すると、矢印Cの水平荷重とその作用点の高さHの積による転倒モーメントはC×Hとなる。一方、方形フレーム1と方形フレーム2の距離Lと矢印Bの鉛直荷重の積による安定モーメントはB×Lと表される。ここでモーメントは明らかにB×L>C×Hとなるため土砂遮断装置5は転倒しない。つまりは、土砂遮断装置5及び土止め材10に、崩落土砂を押しとどめる作用が発生するものである。
【0025】
また、上記崩落土砂によりフランジ12にかかる荷重は、土止め材10の係止部材13を介して土砂遮断装置5を構成する方形フレーム1及び方形フレーム2を押し下げる作用を及ぼす。同時に係止部材13は軸4より上部位置に取り付けられていることから、方形フレーム1の上端辺1a及び方形フレーム2の上端辺2aには、
図7においてそれぞれ左回り方向、右回り方向に回動する作用が及び、それぞれが掘削溝Мの側壁面を押圧し、側壁面との間に摩擦D1が発生する。更に下端辺1bと下端辺2bには鉛直荷重Bによる摩擦D2も発生することになる。このD1とD2の両摩擦により土止め材10が取り付けられた土砂遮断装置5は、崩落した土砂から生じる水平方向への押圧力Cに抵抗して滑動が抑えられるのである。つまりは、もう一つの検討である水平方向の抵抗についてはD1+D2>Cとなって、土砂遮断装置5が妻側壁面の崩土に対する土止め作用を及ぼすのである。なお、上記摩擦D1、D2および鉛直荷重Bは
図6に示されるものである。
【0026】
請求項2記載の発明では、土止め材10を構成する板材11の中央部上下方向に、スリット14が設けてある。これは土砂遮断装置5を構成する軸4が土止め材10と干渉することを防ぐと共に、スリット14を軸4に係合させることで板材11の回転や振れを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、好ましい発明の実施形態につき、図面を参照しながら概説する。 なお、本発明構成要素の実施形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採りうる。
【0029】
本発明に係る土止め材10は、
図8に示されるような従来の土砂遮断装置5に取り付けて使用されるものである。そこで、土砂遮断装置5の実施形態を簡略に概説する。
【0030】
土砂遮断装置5は、一対の方形フレーム1と方形フレーム2を、
図8に示すように正面視において略X字状を呈する形態で回動自在に連結してある。回動自在にする手段は、方形フレーム1と方形フレーム2との交差位置に回動するための軸4を設けることである。
【0031】
図9に示すように、方形フレーム1、方形フレーム2は、ぞれぞれ四辺から成る方形の枠材である。そして
図8に示すように、方形フレーム1の上辺1aと方形フレーム2の下辺2bとの間にシート3が張設される。同じく方形フレーム2の上辺2aと方形フレーム1の下辺1bとの間にシート3が張設される。
【0032】
図2乃至
図4は、請求項2に記載の土止め材10を示すものである。この土止め材10は方形の金属板である板材11の下部にフランジ12を取り付けて成るものである。
【0033】
板材11の素材としては崩土の重量に耐えられるものであれば材質は問わないが、一例としてはアルミ板等を使用できる。
【0034】
フランジ12はLアングルを使用している。フランジ12の素材としては崩土の重量に耐えられるものであれば材質は問わないが、一例としてはアルミ板等を使用できる。また、フランジ12は板材11に対してボルト留めで固定されている。むろんこれは一例であり、崩土の重量に耐えうるものであれば溶接でも構わない。
【0035】
板材11には、土砂遮断装置5に土止め材10を取り付けるための係止部材13が設けられている。係止部材13は長尺のボルト13aとナット13b、及びボルト13aに固定された複数のドーナツ状の円板13cとにより成る。対向する円板13c間の空間に、方形フレーム1或いは方形フレーム2の斜方向枠材を嵌め込むことで、土止め材10を土砂遮断装置5に取り付けるものである。
【0036】
また、板材11には係止部材13のボルト13aを貫通させるための孔が15が複数設けられている。これにより係止部材13の取り付け位置が可変となるものである。
【0037】
板材14の中央部上下方向には、スリット14が設けられている。尚、請求項1記載の発明では、このスリット14は設けられていない。
【0038】
請求項3記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明における板材10に代えシート材を用いて構成してある。このシート材は崩土の重量に耐えうる繊維強度を備えたポリプロピレン繊維シートを用いている。むろん、崩土の重量に耐えうる素材であれば他の素材を用いても構わない。
【0039】
また、上記シート材に係止部材を13を取り付ける方法としては、例えばシート材の横幅方向に細長の金属板を取り付け、該金属板に係止部材13を取り付けるといった方法を採用できる。他にも、シート材に直接フック状の係止部材を取り付けるといった手段も採用できる。この場合、土砂遮断装置を構成する方形フレームに、前記フック状の係止部材を引っ掛けるための突起や孔を設ける必要がある。
【0040】
上記シート材の下部にフランジ12を取り付ける方法としては、Lアングルから成るフランジ12と細長板状の金属板とでシート材を挟持し、ボルト留めするといった方法や、シート材に直接フランジ12を取り付けるといった方法を採用できる。
【符号の説明】
【0041】
1・・方形フレーム
2・・方形フレーム
3・・シート
4・・軸
5・・土砂遮断装置
10・・土砂遮断装置用土止め材
11・・板材
12・・フランジ
13・・係止部材
14・・スリット
15・・孔