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特開2024-4129パッシブソナー検出確信度判定装置、パッシブソナーシステムと方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004129
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】パッシブソナー検出確信度判定装置、パッシブソナーシステムと方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/803 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G01S3/803
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103622
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】奥屋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】島津 定生
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB14
5J083AC17
5J083AC29
5J083AD18
5J083AE03
5J083AF19
5J083BC07
5J083BC10
5J083BE06
5J083BE11
5J083BE14
5J083BE42
5J083BE43
5J083BE54
5J083CA08
5J083CB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】受波した水中音波について、水中航走体から放射された航走音であるか否かの判定処理を効率化し、確からしさ(検出確信度)の判定自動化を実現する。
【解決手段】水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理部と、パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理部と、周波数成分毎の方位計算結果を所定回数分記憶部に記憶し、方位計算処理部による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、所定回数分の周波数成分毎の方位計算結果の差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理部と、周波数成分毎の方位誤差の絶対値に基づき、水中航走体の航走音の検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定部を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理部と、
前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理部と、
前記方位計算処理部による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記方位計算処理部による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理部と、
前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値に基づき、水中航走体の航走音の検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定処理部と、
を備えた、パッシブソナー検出確信度判定装置。
【請求項2】
前記検出確信度判定処理部は、前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値が、互いに隣接する予め定められた複数の区分のうちどの区分に含まれるか判別し、前記区分に対応して予め設定されている検出確信度を出力する、請求項1記載のパッシブソナー検出確信度判定装置。
【請求項3】
前記雑音平均処理部は、前記信号対雑音比が予め定められた値を超える周波数成分を、前記水中航走体が放射した航走音の候補とする、請求項1記載のパッシブソナー検出確信度判定装置。
【請求項4】
前記雑音平均処理部で検出した前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と、前記検出確信度判定処理部で判定された前記周波数成分毎の前記水中航走体の航走音の検出確信度とを受け取り、前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と該周波数成分に対応する前記検出確信度とを表示装置に表示する制御を行う表示制御部を備えた、請求項3記載のパッシブソナー検出確信度判定装置。
【請求項5】
水中音波を受波するパッシブソナーと、
パッシブソナー検出確信度判定装置と、
を備え、
前記パッシブソナーは、
海面に浮かぶ水上部と、
前記水上部からケーブルで吊り下げられる水中部と、
を備え、
前記水中部は、無指向性の第1の受波器と、南北方向指向性の第2の受波器と、東西方向指向性の第3の受波器とを備え、
前記第1乃至第3の受波器でそれぞれ受信された受波信号を前記水上部に送信し、
前記水上部は、前記第1乃至第3の受波器でそれぞれ受信された受波信号を無線で前記パッシブソナー検出確信度判定装置に送信し、
前記パッシブソナー検出確信度判定装置は、
前記パッシブソナーから送信された無線信号に含まれる前記第1の受波器の受波信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理部と、
前記無線信号に含まれる前記第2の受波器と前記第3の受波器のそれぞれの受波信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理部と、
前記方位計算処理部による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記方位計算処理部による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理部と、
前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定処理部と、
を備えた、パッシブソナーシステム。
【請求項6】
前記検出確信度判定処理部は、前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値が、互いに隣接する予め定められた複数の区分のうちどの区分に含まれるか判別し、前記区分に対応して予め設定されている検出確信度を出力する、請求項5記載のパッシブソナーシステム。
【請求項7】
前記雑音平均処理部は、前記信号対雑音比が予め定められた値を超える周波数成分を、前記水中航走体が放射した航走音の候補として検出し、
前記雑音平均処理部で検出した前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と、検出確信度判定処理部で判定された前記周波数成分毎の前記水中航走体の航走音の検出確信度とを受け取り、前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と該周波数成分に対応する前記検出確信度とを表示装置に表示する制御を行う表示制御部を備えた、請求項5記載のパッシブソナーシステム。
【請求項8】
前記パッシブソナー検出確信度判定装置は航空機に搭載され、
前記パッシブソナーは、前記航空機から海面に投下される、請求項5記載のパッシブソナーシステム。
【請求項9】
水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する第1のステップと、
前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する第2のステップと、
前記第2のステップによる前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記第2のステップによる周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する第3のステップと、
前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値に基づき、水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する第4のステップと、
を含むパッシブソナー検出確信度判定方法。
【請求項10】
前記第4のステップは、前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値が、互いに隣接する予め定められた複数の区分のうちどの区分に含まれるか判別し、前記区分に対応して予め設定されている検出確信度を出力する、請求項9記載のパッシブソナー検出確信度判定方法。
【請求項11】
前記第1のステップでは、前記信号対雑音比が予め定められた値を超える周波数成分を、前記水中航走体が放射した航走音の候補として検出し、
前記第1のステップで検出された前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と、前記第4のステップで判定された前記周波数成分毎の前記水中航走体の航走音の検出確信度とを受け、前記水中航走体の航走音の候補の周波数成分と該周波数成分に対応する前記検出確信度とを表示装置に表示する制御を行うステップをさらに含む、請求項9記載のパッシブソナー検出確信度判定方法。
【請求項12】
水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する第1の処理と、
前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する第2の処理と、
前記第2の処理による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記第2の処理による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する第3の処理と、
前記周波数成分毎の方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する第4の処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項13】
前記第4の処理は、前記周波数成分毎の方位誤差の絶対値が、値が重ならない複数の区分のうちどの区分に含まれるか判別し、前記区分に対応して設定されている検出確信度を出力する、請求項12記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブソナー検出確信度判定装置、パッシブソナーシステムと方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な投下式パッシブソナーは、南北方向に8の字形の指向性(NS指向性)と、東西方向に8の字形の指向性(EW指向性)と、全方位にわたって一様な指向性、すなわち無指向性の3種類の受波器(音響センサ)とを備え、それぞれの受波器で受波した水中音波の電気信号を変調してRF(Radio Frequency)信号に変換しアンテナから処理装置(例えば航空機内の機上処理装置)へ無線送信する。
【0003】
航空機に搭載された機上処理装置では、投下式パッシブソナーから無線送信された無線信号をアンテナで受信し復調してベースバンド信号に変換し、無指向性の受波器により受波した水中音波について信号処理を行い、水中航走体から放射された航走音を検出する。また機上処理装置では、投下式パッシブソナーのNS指向性受波器及びEW指向性受波器で受波した水中音波について信号処理を行い、水中航走体の航走音の到来方位を算出する。
【0004】
一方、水中航走体の側としては、投下式パッシブソナーにより航走音を探知されることを回避するため、エンジン音、モーター回転音、冷却水ポンプ作動音、スクリュープロペラ回転音等の航走音を静粛化する傾向にある。
【0005】
投下式パッシブソナーによる水中航走体の航走音の検出性能の向上を目的とした信号処理の改善について、例えば以下の特許文献が参照される。
【0006】
特許文献1には、水中航走体推進機械の動作音(例えばエンジン音、モーター回転音、冷却水ポンプ作動音およびスクリュー回転音など)が小さい場合に、水中航走体の存在を検出することが困難であるという課題を解決する水中航走体検出装置として、水中内に存在する水中航走体から生じる音波を電気信号に変換する音響センサと、前記電気信号に基づいて、カージオイド型指向性を所定の周波数成分毎に形成する指向性形成部と、前記指向性形成部により形成されたカージオイド型指向性に基づいて最大感度方向の信号レベルと最小感度方向の信号レベルの比率である指向性比率を、前記所定の周波数成分毎に算出する指向性比率算出部と、前記指向性比率算出部により前記所定の周波数成分毎に算出された前記指向性比率を合成して、周波数成分毎の指向性比率の分布を表す指向性比率分布を生成する指向性比率分布生成部とを備えた構成が開示されている。
【0007】
また特許文献2には、水中航走体が放射する微弱な水中音波と海中雑音とを分離してS/N比(Signal to Noise ratio:信号対雑音比)を向上させるために長時間の積分処理を行う場合、方位計算誤差が大きくなる等の課題に対して、音響センサにより受信された音響信号のS/N比を計算するよう構成される少なくとも1つのS/N比計算部と、前記音響信号を設定された積分時間で積分処理するよう構成される少なくとも1つの積分処理部と、前記S/N比に基づいて前記積分時間を選択するよう構成される少なくとも1つの積分時間選択部と、選択された前記積分時間で積分された少なくとも1つの前記音響信号に基づいて受信した前記音響信号の方位を計算するよう構成される少なくとも1つの方位計算部と、を有するソナー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-160564号公報
【特許文献2】特開2018-146353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、水中航走体のエンジン音、モーター回転音、冷却水ポンプ作動音、スクリュープロペラ回転音等の航走音は静粛化する傾向にある。
【0010】
かかる水中航走体に対して、投下式パッシブソナーで受波した水中音波が水中航走体の航走音であるか否かの判定処理を効率化するとともに、該水中航走体から放射された航走音であることの確からしさ(可能性)の判定の自動化が望まれている。
【0011】
したがって、本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであって、その目的は、受波した水中音波について、水中航走体から放射された航走音であるか否かの判定処理を効率化するとともに、該航走音であることの確からしさ(検出確信度)の判定の自動化を実現可能としたパッシブソナー検出確信度判定装置、パッシブソナーシステム、パッシブソナー検出確信度判定方法、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一形態によれば、水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理部と、前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理部と、前記方位計算処理部による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記方位計算処理部による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理部と、前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値に基づき、水中航走体の航走音の検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定処理部と、を備えたパッシブソナー検出確信度判定装置が提供される。
【0013】
本発明の一形態によれば、パッシブソナーシステムは、水中音波を受波するパッシブソナーと、パッシブソナー検出確信度判定装置とを備えている。
前記パッシブソナーは、海面に浮かぶ水上部と、前記水上部からケーブルで吊り下げられる水中部と、を備え、前記水中部は、無指向性の第1の受波器と、南北方向指向性の第2の受波器と、東西方向指向性の第3の受波器を備え、前記第1乃至第3の受波器でそれぞれ受信された受波信号を前記水上部に送信し、前記水上部は、前記第1乃至第3の受波器でそれぞれ受信された受波信号を無線で前記パッシブソナー検出確信度判定装置に送信する。
前記パッシブソナー検出確信度判定装置は、前記パッシブソナーから送信された無線信号に含まれる前記第1の受波器の受波信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理部と、前記無線信号に含まれる前記第2の受波器と前記第3の受波器のそれぞれの受波信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理部と、前記方位計算処理部による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記方位計算処理部による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理部と、前記周波数成分毎の前記方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定処理部と、を備えている。
【0014】
本発明の一形態によれば、水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する第1のステップと、
前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する第2のステップと、
前記第2のステップによる前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記第2のステップによる周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する第3のステップと、
前記周波数成分毎の方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する第4のステップと、
を含むパッシブソナー検出確信度判定方法が提供される。
【0015】
本発明の一形態によれば、水中音波を受波するパッシブソナーの無指向性の第1の受波器で受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する第1の処理と、
前記パッシブソナーの南北方向指向性の第2の受波器と東西方向指向性の第3の受波器でそれぞれ受波された信号の周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する第2の処理と、
前記第2の処理による前記周波数成分毎の方位計算結果を予め定められた所定回数分記憶部に記憶し、前記第2の処理による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の前記周波数成分毎の方位計算結果との差の平均値を方位誤差として算出する第3の処理と、
前記周波数成分毎の方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する第4の処理と、をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ可読型記録媒体((例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM))等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc))が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、受波した水中音波が水中航走体の航走音であるか否かの判定処理を効率化するとともに、該水中航走体から放射された航走音であることの確からしさ(検出確信度)の判定の自動化を実現可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】実施形態のシステムの一例を模式的に説明する図である。
図1B】各受波器の指向性を模式的に説明する図である。
図2】積分効果による方位精度の改善例を説明する図である。
図3A】実施形態の構成の一例を説明する図である。
図3B】実施形態の構成の変形例1を説明する図である。
図4】実施形態の方位誤差処理の処理内容の説明する図である。
図5】実施形態の検出確信度判定処理の処理内容を説明する図である。
図6】実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について説明する。航空機から海上に投下される投下式パッシブソナーが受波する水中音波を信号処理することにより、水中航走体の航走音と思われる周波数成分毎のS/N(Signal to Noise ratio)が大きい信号を検出し、その音波到来方位を長時間継続して特定の方位かどうか監視することによって、水中航走体の航走音であるか否かを判定する場合がある。本実施形態によれば、予め水中音波の到来方位が特定の方向であるか評価することにより、効率よく、水中航走体が放射する航走音を自動的に判別する。
【0019】
すなわち、本実施形態では、投下式パッシブソナーにより水中航走体が航走する際に放射する航走音を検出するにあたり、投下式パッシブソナーで受波した水中音波について、水中航走体から放射された航走音であるか否かを自動的に判定する信号処理を行う。水中航走体から放射された航走音であることの確からしさ(検出確信度)を自動判定する。検出確信度を自動判定する方式としては、特定の方向から水中音波が到来していることを数値化して評価する。
【0020】
受波信号を加算積分することで、受波信号のS/Nが改善する。受波信号のS/Nの改善の結果、方位計算誤差が改善する。
【0021】
特定の方向から、S/Nが改善された水中航走体の航走音を受波した場合、方位計算誤差が小さくなる。
【0022】
したがって、方位計算誤差が小さい水中音波の信号は、水中航走体から到来した航走音である可能性が高いと考えられる。
【0023】
本実施形態のパッシブソナー検出確信度判定装置では、投下式パッシブソナーの信号処理において、水中音波の到来方位について、最新の到来方位計算結果と、それまでの一定時間の方位計算結果の平均値との差が小さい水中音波は、水中航走体から到来した航走音である可能性(検出確信度)が高いと自動的に判定する。
【0024】
図1Aは、実施形態のパッシブソナーシステムの一例を模式的に示す図である。図1Aにおいて、水中航走体2は、パッシブソナー検出確信度判定装置100が検出対象とする水中を航走する物体である。投下式パッシブソナー4は、航空機3から海面1に投下される。
【0025】
投下式パッシブソナー4は、海面1に投下されると、水上部4Aと、受波器を備えた水中部4Bに分離する。
【0026】
投下式パッシブソナー4の水中部4B(「投下式パッシブソナー水中部」ともいう)が受波した水中音波の信号(電気信号)は、投下式パッシブソナー4の水上部4A(「投下式パッシブソナー水上部」ともいう)に伝送され、航空機3に無線送信される。航空機3は、投下式パッシブソナー4の水上部4Aから無線送信された信号(電波)を受信し、水中航走体2が放射する航走音を検出して水中航走体2を探知する。
【0027】
航空機3は、機上処理装置として、投下式パッシブソナー4の水上部4Aから無線送信された信号(電波)を受信・復調する無線通信装置(不図示)と、パッシブソナー検出確信度判定装置100を少なくとも具備している。
【0028】
投下式パッシブソナー4の水上部4Aは、水中部4Bが受波した水中音波の電気信号を例えば有線で受信してRF(Radio Frequency)信号に変換して不図示のアンテナを介して航空機3へ無線送信する。
【0029】
投下式パッシブソナーの水中部4Bは、図1Bにそれぞれの指向性を模式的に示したOMNI指向性受波器7、NS指向性受波器8及びEW指向性受波器9を備えている。受波器7、8、9は、受波した水中音波を電気信号に変換し、水上部4Aに、例えば吊下げケーブル5に配設された不図示の信号伝送ラインを介して有線で送信する。特に制限されないが、受波器7、8、9は、受波した水中音波を電気信号に変換し該電気信号を並列に水上部4Aに送信する構成としてもよい。
【0030】
水上部4Aでは、水中部4Bから並列に送信された受波器7、8、9での受信信号を受け取り、該受信信号をそれぞれ変調(例えば周波数変調(Frequency Modulation: FM))しアンテナを介して無線送信する。
【0031】
図1Aにおいて、航走音6は、水中航走体2が放射するエンジン音、モーター回転音、冷却水ポンプ作動音、スクリュープロペラ回転音等の機械作動音の水中音波である。
【0032】
図1Bは、図1Aの投下式パッシブソナー4の水中部4Bの各受波器の指向性を説明する図である。図1Bにおいて、OMNI指向性受波器7は、全方位にわたって一様な指向性、すなわち無指向性の電歪振動子を備え、受信した水中音波を電気信号に変換する。
【0033】
NS指向性受波器8は、南北方向に8の字形の指向性(NS指向性)を有する電歪振動子を備え、水中音波を電気信号に変換する。
【0034】
EW指向性受波器9は、東西方向に8の字形の指向性(EW指向性)を有する電歪振動子であり、水中音波を電気信号に変換する。
【0035】
図2は、受波信号における加算積分によるS/Nの改善効果と方位計算誤差の相関関係を示す。入力信号の再現性が高い場合、同一条件で波形の測定をn回行い、始点と位相を考慮して加算積分することで、S/Nが改善する。すなわち、n回の信号成分の加算積分で信号の振幅はn倍になるが、n回のノイズ成分の加算積分でノイズの振幅は√n倍となり、S/Nは、n/√n=√n倍改善される。なお、積分時間が同一の積分を複数回行い各積分の積分値を累積加算する場合、加算積分の積分時間は、複数回の各積分の積分時間の総和に対応している。
【0036】
図2において、11は航走音(図1Aの6)のS/N(dB)を示す。機械的な航走音(S)とランダムな海中雑音(N)について、横軸に示す積分時間(秒)の加算積分を1秒周期で行った場合のS/Nの改善例を示す。
【0037】

・・・(1)
【0038】
式(1)をデシベル(dB)で表すと、

・・・(2)
【0039】
上式(1)は、ランダムノイズのノイズ幅は積算回数(積分時間)の平方根に反比例することに対応する。なお、上式(2)から、積分時間を単位積分時間のn倍とすれば、S/Nは一回の積分(単位積分時間)に対して、

・・・(3)
改善する。図2に示すように、単位積分時間を1秒とした場合、積分時間を例えば10秒、100秒、320秒とすると、S/Nは10dB、20dB、25dB改善している。このように、S/Nは積分回数が多くなる(積分時間が長くなる)にしたがって増大する。
【0040】
図2において、12は投下式パッシブソナー4の水中部4Bが受波する航走音6の到来方位の方位計算誤差(deg)を示している。方位計算誤差(deg)は次式(4)で与えられる。
【0041】
方位計算誤差(deg)=90deg - arctan(S/N)(deg) ・・・(4)
【0042】
ここで、y(deg)は、逆正接関数y=arctan(S/N)の主値:-π/2(90deg)<y<π/2(90deg)とされる(arctanはtan-1とも表記される)。ただし、S/N>0であるため、0<y<π/2(90deg)である。
【0043】
式(4)および図2から、方位計算誤差(deg)は、S/Nが改善すると、小さくなる傾向にあることがわかる。
【0044】
図3Aは、パッシブソナー検出確信度判定システムの構成の一例を説明する図である。この構成例では、投下式パッシブソナー4の水上部4Aに設置された無線通信装置23が、水中部4BのOMNI指向性受波器7、NS指向性受波器8、EW指向性受波器9で受波した水中音波の電気信号を受け取り航空機3の無線通信装置24に無線送信する。無線通信装置23は、受波器7、8、9での受信信号(アナログ信号)をFM変調しVHF(Very High Frequency)/UHF(Ultra High Frequency)の予め定められた所定の帯域の無線信号としてアンテナを介して送信してもよい。その際、無線通信装置23は、受波器7、8、9での受信信号をFM変調した信号を周波数分割多重化(Frequency Division Modulation: FDM)して無線伝送するようにしてもよい。
【0045】
航空機3の無線通信装置24は、無線通信装置23から無線送信された信号を受信・復調し、アナログ信号のOMNI成分、NS成分、EW成分を並列に出力する。パッシブソナー検出確信度判定装置100において、低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3は、無線通信装置24から出力されるアナログ信号のOMNI成分、NS成分、EW成分について、例えばA/D変換のサンプリング周波数の1/2(Nyquist周波数)以下の周波数成分を通過させ、サンプリング周波数の1/2を超える周波数成分を阻止する。
【0046】
A/D変換器13-1~13-3は、低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3が出力した電気信号をデジタル形式の波形データに変換する。A/D変換器13-1~13-3に供給されるクロック信号は例えば同一のクロック信号が用いられるか、互いにエッジが同期したクロック信号がそれぞれ供給される。
【0047】
A/D変換器13-1~13-3から出力されるOMNI成分、NS成分、EW成分の各デジタル信号は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理部14-1~14-3に供給される。
【0048】
FFT処理部14-1~14-3は、OMNI成分、NS成分、EW成分の時間域のデジタル波形データ(時系列データ)をそれぞれ周波数スペクトルに変換する。周波数成分は振幅成分、位相成分を有する。FFT処理部14-1~14-3はDFT(Discrete Fourier Transform: 離散フーリエ変換)であってもよい。
【0049】
積分処理部15-1~15-3は、FFT処理部14-1~14-3の演算結果であるOMNI成分、NS成分、EW成分の波形データの周波数成分毎のレベルデータ(振幅データ)について、予め定められた一定時間の積分を行う。図2を参照して説明したように、加算積分の効果により、周波数成分毎のレベルデータ(振幅データ)について、S/Nを改善する。
【0050】
雑音平均処理部16は、OMNI成分のデジタル波形データの周波数成分毎のレベルデータについて、各周波数成分のレベル値と平均値の比率を計算し、平均値(雑音相当レベル値)と各周波数成分のレベルデータ(信号相当レベル値)のS/Nとして算出する。雑音平均処理部16は、算出したS/Nが予め定められた所定の値を超える周波数成分を、水中航走体2が放射した航走音6の候補として検出する。雑音平均処理部16は、検出した航走音6の候補の周波数成分を表示制御部21に出力する。
【0051】
方位計算処理部17は、NS指向性受波器8とEW指向性受波器9からのそれぞれの波形データの周波数成分毎のレベルデータについて、逆正接関数arctanにより方位角度を計算する。
【0052】
方位誤差処理部18は、方位計算処理部17で算出された周波数成分毎の方位データについて、予め定められた一定時間分(FFT処理の実行回数分に対応する)をメモリ(記憶部)20に記憶し、周波数成分毎の最新の方位計算結果と、一定時間分の方位計算結果の差の平均値を方位誤差として算出する。
【0053】
検出確信度判定処理部19は、周波数成分毎の方位誤差の絶対値から、水中航走体2の航走音6を検出した確信度(検出確信度)の判定値を算出する。検出確信度判定処理部19は、周波数成分毎の検出確信度の判定結果を表示制御部21に出力する。
【0054】
表示制御部21は、雑音平均処理部16で検出された航走音6の候補の周波数成分と、検出確信度判定処理部19で算出された周波数成分毎の航走音6の検出確信度の判定結果を受け取り、受け取った情報を所定の表示形態で表示装置22に表示出力する。その際、表示制御部21は、水中航走体2の航走音6の候補の周波数成分を表示装置22の画面に表示し、該画面上で該周波数成分と一緒に検出確信度の判定値を表示するようにしてもよい。
【0055】
図3Bは、図3Aの変形例を説明する図である。図3Bの例では、図3Aの航空機3のパッシブソナー検出確信度判定装置100の低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3とA/D変換器13-1~13-3を、投下式パッシブソナー4の水上部4Aに配置している。水中部4BのOMNI指向性受波器7での受信信号(OMNI成分)と、NS指向性受波器8での受信信号(NS成分)、EW指向性受波器9での受信信号(EW成分)について、低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3ではそれぞれの信号の低域成分を通過させ、A/D変換器13-1~13-3でデジタル信号に変換したOMNI成分とNS成分とEW成分が水上部4Aの無線通信装置23’に並列に入力される。無線通信装置23’では、入力されたデジタル信号のOMNI成分とNS成分とEW成分を変調し不図示のアンテナを介して無線送信する。その際、無線通信装置23’は、デジタル化されたOMNI成分とNS成分とEW成分を時分割多重化(Time Division Multiplex: TDM)し、時分割多重化されたデジタル信号を変調(例えばGMSK(Gaussian Filtered Minimum Shift Keying)変調)して無線送信するようにしてもよい。デジタル変調としては、GMSK変調(デジタル信号をガウシアンフィルタを通して帯域制限を行ったのちFM変調を行う)に制限されるものでなく、振幅偏移変調(ASK:Amplitude Shift Keying)、周波数偏移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)等のいずれかを用いてもよい。
【0056】
航空機3の無線通信装置24’では、無線通信装置23’から無線送信された信号を受信・復調し、ベースバンド信号(デジタル信号)から時分割多重されたOMNI成分とNS成分とEW成分を分離(demultiplex)し、FFT処理部14-1~14-3に並列に供給する。パッシブソナー検出確信度判定装置100’は、図3Aのパッシブソナー検出確信度判定装置100から低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3とA/D変換器13-1~13-3を除いた構成とされ、各処理部の処理は、図3Aのパッシブソナー検出確信度判定装置100の対応する処理部と同じであるため説明は省略する。
【0057】
図3Bでは、低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3とA/D変換器13-1~13-3を投下式パッシブソナー4の水上部4Aに配置しているが、さらなる変形例として、投下式パッシブソナー4の水中部4Bに、低域通過フィルタ(LPF)12-1~12-3とA/D変換器13-1~13-3を配置する構成としてもよい。この場合、水中部4BのOMNI指向性受波器7、NS指向性受波器8、EW指向性受波器9での受波信号であるOMNI成分とNS成分とEW成分は、水上部4Aの無線通信装置23’にデジタル伝送される。
【0058】
次に、図3Aを参照して、本実施形態の動作について説明する(図3Bの構成の動作も同様とされる)。
【0059】
水中航走体2が放射する航走音6を含む水中音波を投下式パッシブソナー4の水中部4BのOMNI指向性受波器7、NS指向性受波器8及びEW指向性受波器9にて受波し、電気信号に変換し、投下式パッシブソナー4の水上部4Aに送信し、投下式パッシブソナー4の水上部4Aの無線通信装置23では、OMNI指向性受波器7、NS指向性受波器8及びEW指向性受波器9の受波信号(アナログ電気信号)を無線送信する。
【0060】
OMNI指向性受波器7が受波した水中音波の電気信号について、LPF12―1により高周波成分を除去し、A/D変換器13-1によりデジタルデータに変換する。
【0061】
FFT処理部14-1は、デジタルデータを周波数成分毎のレベルデータに変換し、積分処理部15-1により加算積分効果によりS/Nを改善する。雑音平均処理部16は、周波数毎のレベルデータを周波数毎のS/N値に変換する。雑音平均処理部16によりS/Nが一定値を超える周波数成分は、水中航走体2が放射した航走音6の候補として検出する。
【0062】
NS指向性受波器8及びEW指向性受波器9が受波した水中音波の電気信号について、低域通過フィルタ(LPF)12-2、12-3により高周波成分を除去する。A/D変換器13-2、13-3によりアナログ信号をデジタルデータに変換する。
【0063】
FFT処理部14-2、14-3は、NS成分、EW成分の時間域のデジタル波形データを周波数成分毎のレベルデータ(振幅データ)に変換する。
【0064】
積分処理部15-1~15-3は、FFT処理部14-1~14-3から出力される周波数スペクトルの周波数成分毎のレベルデータ(振幅データ)を、図2を参照して説明した加算積分効果により、S/Nを改善する。
【0065】
方位計算処理部17は、積分処理部15-2、15-3からそれぞれ出力されるNS成分、EW成分の周波数成分毎のレベルデータ(振幅データ)の加算積分結果を受け、加算積分された周波数毎のレベルデータ(振幅データ)から、周波数毎の音波到来方位値に変換する。なお、NS指向性受波器8及びEW指向性受波器9からの受波信号のレベル差により音波到来方位を計算する方位計算処理は公知の任意の手法が用いられる。
【0066】
方位誤差処理部18は、方位計算処理部17により得られた周波数成分毎の音波到来方位値について、図4に示すように、メモリ20にテーブル形式(「メモリテーブル」ともいう)で記憶する。
【0067】
図4のテーブルにおいて、横軸は周波数成分の番号(周波数ビン番号)を示し、縦軸は時間(過去のFFT処理回数)を示す。図4は、メモリ20に記憶された、過去のFFT処理回数=16回、FFTの周波数ビンの数=128のテーブルの例を示している。
【0068】
FFT処理部14-2、14-3で最新に演算された周波数スペクトルの周波数毎のレベルデータに基づく方位計算処理部17による方位計算処理の結果は、メモリテーブルのT(0)行に、周波数F(1)~F(128)の順に記憶される。15周期前のFFT処理部14-2、14-3による方位計算処理の結果は、メモリテーブルのT(15)行に周波数F(1)~F(128)の順に記憶される。なお、F(1)はDC(Direct Current)成分、F(128)はナイキスト周波数の振幅スペクトル(レベルデータ)とされる。
【0069】
方位誤差処理部18は、横軸のF(1)~F(128)の周波数成分毎に、最新の方位計算処理の結果と、過去の15回分の周波数成分毎の方位計算結果と、の差の平均値D(X)を算出する。
D(X)=Σ((F(X),T0)-(F(X),T(K)))÷15

・・・(5)
【0070】
式(5)において、Xは1~128の周波数成分の番号(周波数ビン番号)である。
(F(X),T(0))は、図4のテーブルにおける時間T(0)でのF(X)、
(F(X), T(K))(K=1~15)は、図4のテーブルにおける時間T(K)(K=1~15)でのF(X)である。
【0071】
検出確信度判定処理部19は、方位誤差処理部18により得られた周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値について、例えば図5に示すようにA~Iの9段階で検出確信度を判定する。
【0072】
検出確信度A:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が4deg未満(ステップS1のY分岐)、S/Nが23dB以上に相当する。
【0073】
検出確信度B:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が8deg未満(ステップS2のY分岐)、S/Nが17dB以上に相当する。
【0074】
検出確信度C:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が12deg未満(ステップS3のY分岐)、S/Nが13dB以上に相当する。
【0075】
検出確信度D:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が16deg未満(ステップS4のY分岐)、S/Nが11dB以上に相当する。
【0076】
検出確信度E:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が20deg未満(ステップS5のY分岐)、S/Nが9dB以上に相当する。
【0077】
検出確信度F:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が24deg未満(ステップS6のY分岐)、S/Nが7dB以上に相当する。
【0078】
検出確信度G:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が28deg未満(ステップS7のY分岐)、S/Nが5dB以上に相当する。
【0079】
検出確信度H:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が32deg未満(ステップS8のY分岐)、S/Nが4dB以上に相当する。
【0080】
検出確信度I:周波数成分毎の方位誤差の平均値D(X)の絶対値が32deg以上(ステップS8のN分岐)、S/Nが4dB未満に相当する。
【0081】
なお、検出確信度は9段階に制限されないことは勿論である。例えばステップS7のN分岐を検出確信度Hとし8段階としてもよい。
【0082】
検出確信度の判定を上記のように複数段階にランク分けした場合、表示制御部21は、各段階毎に色分けし(又は階調を割り当て)、表示装置22の画面に表示する水中航走体2の航走音6の候補の周波数成分を、該周波数成分の検出確信度に対応するカラー(又は階調)でマーキング表示するようにしてもよい。
【0083】
図6は、航空機3に装備され、投下式パッシブソナー4が受波した水中音波から水中航走体2の航走音6を検出する機上処理装置のパッシブソナー検出確信度判定装置100をコンピュータ装置200に実装した場合の構成を説明する図である。図6を参照すると、コンピュータ装置200は、プロセッサ201と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の半導体メモリ等(あるいは、HDD(Hard Disk Drive)等であってもよい)のメモリ202と、表示装置203と、無線受信機に接続するインタフェース204(バスインタフェース)を備えている。プロセッサ201はDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。表示装置203は、図3A図3Bの表示装置22に対応している。
【0084】
メモリ202に格納されたプログラムを実行することで、プロセッサ201は、FFT処理部14-1~14-3、積分処理部15-1~15-3、雑音平均処理部16、方位計算処理部17、方位誤差処理部18、検出確信度判定処理部19の各処理を実行する。水中の音波を受波するパッシブソナーの水中部4BのOMNI指向性受波器7の受波信号からFFTにより周波数スペクトルを求め周波数成分毎の振幅データに基づき信号対雑音比を算出する雑音平均処理と、前記パッシブソナーの水中部4BのNS指向性受波器8とEW指向性受波器9のそれぞれの受波信号からFFTにより周波数スペクトルを求め周波数成分毎の方位を計算する方位計算処理と、前記方位計算処理による前記周波数成分毎の方位計算結果を、予め定められた所定回数分、メモリ(記憶部)20に記憶し、前記方位計算処理による周波数成分毎の最新の方位計算結果と、前記所定回数分の方位計算結果の差の平均値を方位誤差として算出する方位誤差処理と、前記周波数成分毎の方位誤差の絶対値に基づき水中航走体の航走音を検出した検出確信度の判定値を算出する検出確信度判定処理と、表示装置203に検出確信度を表示出力する表示制御をプロセッサ201に実行させる。
【0085】
上記した実施形態は、例えば以下の作用効果を奏する。
【0086】
(a)投下式パッシブソナー4にて受波した水中音波について、特定の方向から到来した音波を水中航走体2の航走音6として検出した場合の検出確信度を定量的に自動判定できる。
【0087】
(b)不特定多数の方向から到来する海面の波の音のような背景雑音及び電気回路内で偶然発生したアーティファクトノイズのような雑音について、周波数成分毎のS/Nが大きい場合であっても、特定の方向から到来しているか自動判定することにより、水中航走体の航走音と区別することができる。
【0088】
なお、上記の特許文献1、2の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
1 海面
2 水中航走体
3 航空機
4 投下式パッシブソナー
4A 水上部(投下式パッシブソナー水上部)
4B 水中部(投下式パッシブソナー水中部)
5 吊下げケーブル
6 航走音
7 OMNI指向性受波器
8 NS指向性受波器
9 EW指向性受波器
10 パッシブソナー検出確信度判定装置
11 S/N
12 方位計算誤差
12-1~12-3 低域通過フィルタ
13-1~13-3 A/D変換器
14-1~14-3 FFT処理部
15-1~15-3 積分処理部
16 雑音平均処理部
17 方位計算処理部
18 方位誤差処理部
19 検出確信度判定処理部
20 メモリ(記憶部)
21 表示制御部
22 表示装置
23、23’ 無線通信装置
24、24’ 無線通信装置
100、100’ パッシブソナー検出確信度判定装置
200 コンピュータ装置
201 プロセッサ
202 メモリ
203 表示装置
204 インタフェース
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6