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特開2024-41313グラビア印刷インキ組成物、積層体及びラミネート積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041313
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】グラビア印刷インキ組成物、積層体及びラミネート積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20240319BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20240319BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20240319BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C09D11/102
B41M1/30 D
B41M1/10
B32B27/40
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146042
(22)【出願日】2022-09-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊谷 一将
(72)【発明者】
【氏名】野村 萌
【テーマコード(参考)】
2H113
4F100
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113BA03
2H113BB08
2H113BB22
2H113BC02
2H113CA25
2H113DA62
2H113EA10
2H113FA04
4F100AK15A
4F100AK22A
4F100AK42A
4F100AK42D
4F100AK48A
4F100AK48D
4F100AK51A
4F100AL01A
4F100AT00B
4F100AT00D
4F100BA02
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA13A
4F100CB00C
4F100EH66E
4F100GB15
4J039AD05
4J039AD08
4J039AE04
4J039AE06
4J039BA04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC08
4J039BC13
4J039BC22
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA03
(57)【要約】
【課題】表面に印刷が施されて使用されている多様な表面構成の基材のいずれにも、安定して密着性に優れる印刷皮膜を形成でき、該皮膜はブロッキング性にも優れ、更に、該印刷皮膜を有するラミネート積層体が実用上十分なラミネート強度を示すものになる、ラミネート用途の印刷にも使用可能で、しかもグラビア印刷等の印刷に適用し易い1液仕様の印刷インキ組成物の開発。
【解決手段】エポキシ化合物及び二酸化炭素が反応してなる5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物との反応物であるポリヒドロキシポリウレタン(A)と、水酸基を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)と、有機溶剤(C)とを含有してなる印刷インキ組成物であって、ポリヒドロキシポリウレタン(A)と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)における不揮発分での質量比が、(A):(B)=95:5~20:80であるグラビア印刷インキ組成物及びこれを用いた積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物及び二酸化炭素が反応してなる5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物との反応物である水酸基を有するポリヒドロキシポリウレタン(A)と、水酸基を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)と、有機溶剤(C)とを含有してなるグラビア印刷インキ組成物であって、
前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)と前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)における不揮発分での質量比が、(A):(B)=95:5~20:80であることを特徴とするグラビア印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)の固形分中の水酸基価が、60~180mgKOH/gである請求項1に記載のグラビア印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)の固形分中の水酸基価が、25~300mgKOH/gである請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)の固形分中の水酸基価が、25~100mgKOH/gであり、且つ、水酸基の一部をシリル化されている請求項3に記載のグラビア印刷インキ組成物。
【請求項5】
更に、着色剤(D)を有してなる請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ組成物。
【請求項6】
基材上にグラビア印刷インキ組成物が積層されてなる積層体であって、前記グラビア印刷インキ組成物が請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ組成物であることを特徴とする積層体。
【請求項7】
基材1、該基材1上に印刷して形成されたグラビア印刷インキ組成物からなる印刷層、接着剤層、基材2が、この順に積層されてなるラミネート積層体であって、前記グラビア印刷インキ組成物が請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ組成物であることを特徴とするラミネート積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷インキ組成物、積層体及びラミネート積層体に関する。詳しくは、ポリウレタン樹脂をバインダーに用いているにもかかわらず、硬化剤を用いることなく、グラビア印刷インキ組成物を、例えば、各種プラスチックフィルムの基材に印刷皮膜として積層させて積層体とした場合に、印刷皮膜が各種基材に対して十分な密着性を示し、また、印刷皮膜が裏移りすることが抑制された、耐ブロッキング性に優れたものになり、更に、ラミネート積層体とした場合に、十分なラミネート強度を示すものになる、実用性に優れたグラビア印刷インキ組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の包装技術の進展に伴い、グラビア印刷等による印刷を施す基材は、例えば、透明蒸着フィルム等、多種多様な構成のものになっている。透明蒸着フィルムとしては、例えば、PETやナイロン(NY)や二軸延伸ポリプロピレン(OPP)製の透明フィルムに対して、シリカやアルミナといった無機物質を蒸着させたフィルムが知られており、市販もされている。蒸着フィルムにすることで、上記した材料からなる透明フィルムに、ガスバリア性や、水蒸気バリア性などの種々の機能性を持たせることができることから、その需要は年々増加している。蒸着フィルムは、蒸着物の種類や量、コート品によって種々の機能性を適宜に持たせることができるため、各社で製造し販売している透明蒸着フィルム製品は、その表面性状に差がある。
【0003】
表面性状の違いは、特に、透明蒸着フィルムにグラビア印刷等で印刷を施した場合に影響がある。本発明者らの検討によれば、透明蒸着フィルムは、一般的なフィルムと比べると、印刷インキ皮膜の密着性阻害や、裏移りを生じるブロッキングのトラブルなどの問題が起き易い。これらの問題に対応するため、透明蒸着フィルムへの印刷インキ組成物の適用方法としては、インキと硬化剤とを併用する、いわゆる2液仕様とすることや、特許文献1で提案されているような、インキと硬化剤とシランカップリング剤を用いる、3液仕様とすることが行われている。また、近年の包装技術の進展に伴い、グラビア印刷等で印刷を施したプラスチックフィルムが過酷な条件で使用されることも多くなっており、その場合には、形成した印刷皮膜の基材へのより高い密着性等が要求される。このため、例えば、ラミネート用として一般的な、OPPやPETやNY製のフィルムにグラビア印刷等で印刷する場合にも、基材に形成した印刷インキ皮膜に物性が不足する場合は、インキに硬化剤を添加して物性を向上させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4186089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した実情に対して、本発明者らは、透明蒸着フィルムにグラビア印刷等で印刷を施した場合における、上記した印刷インキ皮膜の密着性阻害や、裏移りを生じるブロッキングの問題を抑制できる印刷インキ組成物の開発、ラミネート用途のプラスチックフィルムへのグラビア印刷等での印刷物の形成に好適な、印刷インキ組成物の開発が急務であるとの認識をもった。特に、従来技術の印刷インキで行われている、煩雑になる2液仕様や3液仕様で高物性の印刷皮膜を実現するのではなく、1液仕様で高物性の印刷皮膜を形成することを可能にできる印刷インキ組成物の提供が実現できれば極めて有用である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、表面にグラビア印刷等が施されて使用されている、多様な表面構成を有するプラスチック製フィルム基材のいずれに対しても、安定して、基材への密着性に優れる印刷皮膜を形成でき、該印刷皮膜はブロッキング性にも優れ、更に、印刷皮膜を有するラミネート積層体が、実用上十分なラミネート強度を示すものになる、ラミネート用途の印刷にも使用が可能で、しかも、グラビア印刷等の印刷に適用し易い1液仕様の印刷インキ組成物を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記のグラビア印刷インキ組成物を提供する。
[1]エポキシ化合物及び二酸化炭素が反応してなる5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物との反応物である水酸基を有するポリヒドロキシポリウレタン(A)と、水酸基を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)と、有機溶剤(C)とを含有してなるグラビア印刷インキ組成物であって、
前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)と前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)における不揮発分での質量比が、(A):(B)=95:5~20:80であることを特徴とするグラビア印刷インキ組成物。
【0008】
本発明のグラビア印刷インキ組成物の好ましい形態としては下記が挙げられる。
[2]前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)の固形分中の水酸基価が、60~180mgKOH/gである上記[1]に記載のグラビア印刷インキ組成物。
[3]前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)の固形分中の水酸基価が、25~300mgKOH/gである上記[1]又は[2]に記載のグラビア印刷インキ組成物。
[4]前記ポリヒドロキシポリウレタン(A)の固形分中の水酸基価が、25~100mgKOH/gであり、且つ、水酸基の一部をシリル化されている上記[3]に記載のグラビア印刷インキ組成物。
[5]更に、着色剤(D)を有してなる上記[1]~[4]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ組成物。
【0009】
本発明は、別の実施形態として下記の積層体を提供する。
[6]基材上にグラビア印刷インキ組成物が積層されてなる積層体であって、前記グラビア印刷インキ組成物が上記[1]~[5]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ組成物であることを特徴とする積層体。
【0010】
本発明は、別の実施形態として下記のラミネート積層体を提供する。
[7]基材1、該基材1上に印刷して形成されたグラビア印刷インキ組成物からなる印刷層、接着剤層、基材2が、この順に積層されてなるラミネート積層体であって、前記グラビア印刷インキ組成物が上記[1]~[5]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ組成物であることを特徴とするラミネート積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面にグラビア印刷等が施されて使用されている、多様な表面構成を有するプラスチック製フィルム基材のいずれに対しても、安定して、基材への密着性に優れる印刷皮膜を形成でき、該印刷皮膜はブロッキング性にも優れ、更には、印刷皮膜を有するラミネート積層体が実用上十分なラミネート強度を示すものになる、ラミネート用途の印刷にも使用することができ、しかも、グラビア印刷等の印刷に適用し易い1液仕様の印刷インキ組成物の提供を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明する。上記した従来技術の課題に対し、本発明者らは、グラビア印刷インキ組成物のバインダーに、本願出願人が開発し、提案している(特許第5087063号公報等参照)、温室効果ガスであるCO2を材料として消費するポリヒドロキシポリウレタン樹脂(以下、HPUと略記する場合がある)を利用できれば、近年の課題である環境に配慮した技術の提供が可能になると考えて、鋭意検討を行った。本願出願人は、既に、工業的に量産可能なポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法を提案し、実用化している。その方法は、まず、エポキシ化合物と二酸化炭素を原料として5員環環状化合物を調製し、該5員環環状化合物とジアミンとを反応させる簡便なものである。得られるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、構造中に、原料の二酸化炭素を固定化するという構造上の特徴をもち、従来の一般的なウレタン樹脂とは全く異なる構造をもつ。特に、従来の一般的なウレタン樹脂と異なり、温室効果ガスである二酸化炭素を樹脂原料に用いることを可能にした画期的な材料である。
【0013】
本発明者らは、上記した利点を有するポリヒドロキシポリウレタン樹脂を、包装資材に広く利用される透明蒸着フィルム等のプラスチックフィルムへの印刷に多用されているグラビア印刷用の油性インキのバインダーとして適用することの可能性について検討した。検討の過程で、インキ化する場合、HPUは、水酸基(ヒドロキシ基)を主鎖に持つ特徴的な構造に起因して、一般的なウレタン樹脂とは、ハンドリングが異なり、同様には扱えないという課題があった。なお、本発明の明細書では、ポリイソシアネート化合物を使用して合成する従来のポリウレタン樹脂のことを「一般的なウレタン樹脂」と呼ぶ。
【0014】
具体的には、HPUは、他の樹脂との相溶性が悪く、従来の印刷インキで使用されている樹脂とは混ざらないため、印刷インキの調製材料に適したものとはいえない。例えば、一般的なウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂(CAB)、塩素化ポリプロピレン(塩素化PP)、アクリル樹脂等の、従来の印刷インキで使用されている多くの樹脂とは混ざらないことを確認した。
【0015】
上記した課題に対し、本発明者らは、HPUを印刷インキの材料に用いることの利点として、従来の一般的なウレタン樹脂にはない、構造中の水酸基の存在に着目して鋭意検討を行った。また、先に述べた従来の印刷インキにおいて課題とされている、透明蒸着フィルムに対する下記の課題についても、HPUを印刷インキの材料に用いることで解決するべく鋭意検討を行った。先述したように、透明蒸着フィルムは、一般的なフィルムと比べると、印刷インキ皮膜の密着性阻害や、裏移りを生じるブロッキングのトラブルなどの問題が起き易い。現状、これらの問題に対応するための透明蒸着フィルムへの印刷インキの適用方法としては、インキと硬化剤とを併用する2液仕様とすることや、インキと硬化剤とシランカップリング剤を用いる3液仕様とすることが行われている。また、ラミネート用として一般的な、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)やPETやNY製等のフィルムにグラビア印刷等で印刷する場合にも、基材に形成した印刷インキ皮膜に物性が不足する場合には、硬化剤を添加して物性を向上させることが行われている。本発明者らは、このような現状に対し、1液仕様の印刷インキで上記した課題に対応できれば、極めて有用であるとの認識の下、鋭意検討を行った結果、本発明に至ったものである。
【0016】
<グラビア印刷インキ組成物>
本発明者らは、インキ化する場合のHPUの利用可能性について検討した結果、まず、バインダーとしてHPUを100%使用した印刷インキの場合は、基材である透明蒸着フィルムへの印刷に適用した印刷物は、印刷皮膜が、基材への密着性及びブロッキング性に劣るものになることを確認した。このように、HPUを100%使用した印刷インキは、透明蒸着フィルムへの適性がなかったことから、HPUと他の樹脂を併用してバインダーとする構成の印刷インキとする必要があることがわかった。先に述べたように、HPUは、一般的に印刷インキのバインダーに用いられている樹脂との相溶性が悪い。これに対し、本発明者らは、HPUと相溶でき、しかも印刷インキとした場合に、先に述べた課題を解決することができる樹脂材料について鋭意検討した結果、水酸基を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体と併用することが有効であることを見出した。更に、HPUと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との不揮発分(固形分)での質量比を、HPUを(A)とし、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を(B)とした場合に、(A):(B)=95:5~20:80とした構成とすることで、本発明が目的とする課題を解決できるグラビア印刷インキ組成物となることを見出した。以下、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を、「塩酢ビ樹脂」とも呼ぶ。
【0017】
先に述べたように、HPUを100%使用した印刷インキの印刷皮膜は、基材への密着性、耐ブロッキング性に劣る。これに対して、HPU(A)が10%:塩酢ビ樹脂(B)が90%では、HPUが少なすぎて基材への密着性が劣る。本発明者らの検討によれば、HPU(A):塩酢ビ樹脂(B)=95:5~20:80とした構成とすることで、本発明の課題を解決することを見出した。より好ましくは、HPU(A):塩酢ビ樹脂(B)=90:10~30:70とした構成とする。特に好ましくは、HPU(A)を80~60%の範囲内とし、塩酢ビ樹脂(B)を20~40%の範囲内で併用する構成にすることで、より安定して顕著な効果を得ることができる。
【0018】
HPU(A)と塩酢ビ樹脂(B)とを特定の比率で含有してなる本発明のグラビア印刷インキ組成物は、後述するように、特にPETやNY(ナイロン)等の各種の透明蒸着フィルムに対して形成した印刷皮膜(印刷層)が、良好な密着性を示すものになり、更に、耐ブロッキング性に優れることを確認した。勿論、一般的な、PETやNYやPT(普通セロハン)やOPP等の各種基材に対しても、形成した印刷皮膜(印刷層)が良好な密着性を示すものになり、更に、耐ブロッキング性に優れる。これに対して、一般的なウレタン樹脂や、水酸基を有する一般的なウレタン樹脂や、本発明で規定するHPU(A):塩酢ビ樹脂(B)=95:5~20:80とした構成を満たさない組み合わせで、HPU(A)と塩酢ビ樹脂(B)とを併用した場合は、形成した印刷皮膜は、いずれの例でも基材への密着性に劣り、また、ほとんどの例で耐ブロッキング性に劣るものになる。詳細については、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。以下に、本発明のグラビア印刷インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0019】
[塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体]
まず、本発明のグラビア印刷インキ組成物を構成する塩酢ビ樹脂(B)について説明する。HPU(A)と併用する塩酢ビ樹脂(B)は、HPU(A)と上記した特定の比率で併用されて含有してなることに加えて、水酸基を有するものであることを要す。中でも、例えば、塩酢ビ樹脂の固形分中の水酸基価が、60~180mgKOH/gの範囲のものであることが好ましい。より好ましくは、80~170mgKOH/gの範囲のものであるとよい。更に好ましくは100~160mgKOH/gの範囲のものであるとよい。本発明者らの検討によれば、塩酢ビ樹脂の水酸基価が低過ぎると、印刷インキとしたときの印刷皮膜の物性が低下する傾向がある。また、水酸基価が低過ぎると、HPUとの相溶性も悪くなるので好ましくない。
【0020】
本発明のグラビア印刷インキ組成物を構成する、HPUと併用する塩酢ビ樹脂は、上記したように、水酸基を有するものであることを要し、例えば、上記した程度の水酸基価を有するものであることが好ましいが、それ以外は特に限定されない。塩酢ビ樹脂は、塩化ビニルの強靭性、耐薬品性と、酢酸ビニルの付着性、可塑性を活かす変性樹脂として知られており、市販されており、バインダーやコーティング剤として利用されている。本発明を構成する水酸基を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(B)として利用できる市販品としては、例えば、下記のものが挙げられる。日信化学工業社製の、ソルバインTA5R、ソルバインTAO、ソルバインA、ソルバインAL、ソルバインAP及びソルバインALLP(以上、いずれも商品名)、Wacker Chmie AG社製の、ビンノールE15/45M及びビンノールH15/45M(以上、いずれも商品名)、カネカ社製のカネビニールT5HX(商品名)等の市販品を適宜に使用することができる。
【0021】
(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂ワニス)
本発明のグラビア印刷インキ組成物を作製する際は、固形状態の塩酢ビ樹脂をそのまま用いてもよい。これに限定されず、例えば、固形状態の塩酢ビ樹脂を一度有機溶剤に溶解し、溶液状態の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂ワニス(以下、塩酢ビ樹脂ワニスと呼ぶ)として用いることも好ましい実施形態である。塩酢ビ樹脂を溶解させる有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、酢酸エチルなどが好適である。
【0022】
[ポリヒドロキシポリウレタン]
本発明のグラビア印刷インキ組成物を構成する、上記水酸基を有する塩酢ビ樹脂(B)と併用するポリヒドロキシポリウレタン(A)は特に限定されない。例えば、先に挙げた特許第5087063号公報に記載されているものを適宜に使用することができる。好ましくは、HPUの固形分中の水酸基価が、25~300mgKOH/gであるものが挙げられる。また、水酸基価が、25~300mgKOH/gであり、且つ、水酸基の一部をシリル化されているものも好ましく適用できる。本発明を構成するHPUの水酸基価は、30~100mgKOH/gであること、更に、35~80mgKOH/gであることがより好ましく、45~70mgKOH/gであることが特に好ましい。本発明において重要なことは、先に述べたように、HPUと塩酢ビ樹脂との不揮発分(固形分)での質量比を、HPUを(A)とし、塩酢ビ樹脂を(B)とした場合に、(A):(B)=95:5~20:80とした構成としたことである。
【0023】
本発明を構成するHPUの重量平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、20000~80000であることがより好ましい。さらには、30000~60000であることがより好ましい。本明細書において、HPUの重量平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0024】
(ポリヒドロキシポリウレタンワニス)
本発明のグラビア印刷インキ組成物を作製する際の具体的な実施形態として、例えば、上記したポリヒドロキシポリウレタン(A)の合成時に得られる、HPUと反応溶媒の混合物であるHPU樹脂溶液を、そのままHPUワニスとして使用してもよい。更には、任意の溶媒で希釈して、任意の固形分比率に調整したものを、HPUワニスとして使用してもよい。これらの溶媒には、例えば、下記に挙げるような有機溶剤が用いられる。
【0025】
[有機溶剤]
本発明のグラビア印刷インキ組成物は、調製の際に、有機溶剤を含んでなる塩酢ビ樹脂ワニスやHPUワニスを使用することができ、また、有機溶剤は、グラビア印刷インキの粘度調整や濃度調整のための希釈にも用いられる。本発明のグラビア印刷インキ組成物を構成する有機溶剤としては、本発明を構成するHPUを溶解するものが好ましく、公知の有機溶剤を適宜に使用することができる。臭気や安全性といった作業環境の安全性という観点から、本発明に使用する有機溶剤は、トルエンを含まないか、或いは、トルエンとMEKを含まない形態が望ましい。本発明においては、例えば、エステル系溶剤/アルコール系溶剤が好適に用いられる。
【0026】
(エステル系溶剤)
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル及び酢酸イソブチル等が挙げられる。本発明のグラビア印刷インキ組成物に特に好適なエステル系有機溶剤としては、酢酸エチルや酢酸n-プロピルが挙げられる。
【0027】
(アルコール系溶剤)
アルコール系溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール等、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類等が挙げられる。本発明のグラビア印刷インキ組成物に特に好適なアルコール系有機溶剤としては、イソプロピルアルコールや、プロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0028】
[着色剤]
本発明のグラビア印刷インキ組成物の実施形態としては、更に、着色剤(D)を有してなることが挙げられる。その際に使用する着色剤(D)としては、特に限定されず、従来公知の無機顔料及び有機顔料を使用することができる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム及びマイカ(雲母)などが挙げられる。これらの顔料は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。また、これらの無機顔料は、インキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわち、本発明のグラビア印刷インキ組成物の固形分に対して、10質量%~80質量%程度の割合で含まれるようにすることが好ましい。
【0029】
有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料及びジケトピロロピロール顔料などが挙げられる。これらの顔料は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明のグラビア印刷インキ組成物の固形分に対する有機顔料の含有量は、10質量%~80質量%であることが好ましい。
【0030】
本発明で使用する着色剤を、より具体的にカラーインデックス名で挙げると、下記を例示することができ、いずれも使用できる。
C.I.Pigment Yellow 13、14、17、83、180;
C.I.Pigment Orange 13、16;
C.I.Pigment Red 48:1、48:2、48:3、49:1、53:1、57:1、101、122、146、185;
C.I.Pigment Violet 23、24;
C.I.Pigment Blue 15:1、15:3、15:4、17:1 ;
C.I.Pigment Green 7;
C.I.Pigment Black 7 ;
C.I.Pigment White 4、6、18などが挙げられる。
【0031】
[添加剤]
本発明のグラビア印刷インキ組成物には、先に挙げた成分のほかに、必要に応じて、下記に挙げるような各種の添加剤を更に含有させてもよい。添加剤としては、顔料誘導体、分散剤、キレート剤、ワックス、脂肪酸アミド、可塑剤、湿潤剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、粘度調整剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、架橋剤及びシランカップリング剤等を挙げることができる。
【0032】
<グラビア印刷インキ組成物の製造方法>
本発明のグラビア印刷インキ組成物は、従来公知の方法によって製造することができる。例えば、HPU(A)、塩酢ビ樹脂(B)、更に必要に応じて、着色剤や添加剤等を配合して有機溶剤中に溶解又は分散させることによって製造することができる。本発明のグラビア印刷インキ組成物の粘度等の物性は、分散機に用いるメディアのサイズや充填率、分散処理時間等を適宜制御することによって調整することができる。分散機としては、ビーズミルを用いることが好ましい。ビーズミルの装置名としては、例えば、マイティーミル、ダイノミル、サンドミル等が挙げられる。その他の分散機としては、例えば、ボールミル、ディスパー撹拌機等が挙げられる。
【0033】
[積層体]
本発明の積層体の第1の実施形態では、基材上にグラビア印刷インキ組成物が積層されてなり、該グラビア印刷インキ組成物が、上記で説明した本発明のグラビア印刷インキ組成物であることを特徴とする。また、本発明では、第2の実施形態の積層体として、基材上に印刷して形成された本発明のグラビア印刷インキ組成物からなる印刷層と、該印刷層の上に接着剤層、該接着剤層の上に基材の順に積層されてなるラミネート積層体を提供する。なお、ラミネート積層体についての説明は、本発明のグラビア印刷インキ組成物で印刷層を形成した基材を「基材1」と呼び、接着層と面している基材を「基材2」と呼ぶ。第1の実施形態における基材は、「基材1」と同様であるので基材1と呼ぶ。
【0034】
(基材1)
基材1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、及びポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンフィルム;セロファン等のセルロースフィルム;ポリスチレン(PS)フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルム;エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂フィルム;ナイロン(NY)フィルム等のポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリイミドフィルム;ポリ塩化ビニルフィルム;等のプラスチックフィルムや紙等を挙げることができる。二軸延伸PPフィルム及び無延伸PPフィルム等のように、延伸及び無延伸のいずれのプラスチックフィルムも用いることができる。また、アルミニウム蒸着等の金属蒸着層が設けられた基材や、アルミナ及びシリカ等の透明蒸着層が設けられた基材を用いることもできる。更に、基材の表面には、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理、溶剤処理、及びコート処理等の各種表面処理、並びに、着色インキを用いた印刷等による各種加飾等が施されていてもよい。
【0035】
(基材2)
基材2としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、及びポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンフィルム;等のプラスチックフィルム、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状のシーラント等のプラスチックフィルムが挙げられる。
【0036】
(接着剤)
本発明のラミネート積層体を構成する接着剤層は、接着剤を塗布後、乾燥することで形成することができる。使用する接着剤としては、後述する公知のドライラミネート法に一般的に用いられている、ポリオール及びイソシアネート硬化剤の混合物からなる2液型接着剤等が好適である。ポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールやポリエーテル系ポリオール等が挙げられる。具体的には、大日精化工業社製のセイカボンドE-263/C-75NやA-159/C89(F)(いずれも商品名)等が挙げられる。或いは、後述する公知の溶融押出ラミネート法に用いられているアンカーコート剤と呼ばれる接着剤である、ポリオール及びイソシアネート硬化剤の混合物からなる2液型接着剤等を好適に用いることができる。このようなものとしては、具体的には、大日精化工業社製の、セイカダイン2710A/セイカダイン2710C(商品名)等が挙げられる。
【0037】
(ラミネート積層体の製造方法)
本発明のラミネート積層体は、印刷層の形成に本発明のグラビア印刷インキ組成物を用いたこと以外は、従来公知の方法で製造することができる。具体的には、上記に例示したような基材1のプラスチックフィルム上に設けられた印刷層に、接着剤層を介して他のプラスチックフィルム(基材2)を積層するドライラミネート法や、必要に応じて、接着剤からなるアンカーコート剤層を介して溶融樹脂を基材2として積層する押し出しラミネート法等の公知のラミネート方法を挙げることができる。この場合における基材1及び基材2の厚さは、例えば、1~300μmであることが好ましい。更には、5~200μmであることが好ましく、10~100μmであることが特に好ましい。
【0038】
本発明の好ましい実施形態のラミネート積層体の製造方法としては、例えば、下記のものが挙げられる。まず、基材1としてコロナ放電処理されたフィルムを用いた場合は処理面側の上に、或いは、透明蒸着フィルムを用いた場合は蒸着層の上に、本発明のグラビア印刷インキ組成物(グラビアインキ)を印刷して印刷層を形成する。そして、形成した印刷層の上に接着剤層を形成し、形成した接着剤層を介して、上記基材1と、先に挙げたような材質のプラスチックフィルムである基材2を貼り合わせる(ラミネート加工する)ことによって簡便に得られる。
【0039】
ラミネート加工は、先述したように、例えば、ドライラミネート法や溶融押出ラミネート法等の公知の方法を用いることで行うことができる。ドライラミネート法とは、接着剤を、印刷物の印刷層上もしくはシーラント上に塗布・乾燥し、印刷物とシーラントと圧着して積層する方法である。溶融押出ラミネート法とは、下記の手順でラミネート積層体を得る方法である。この方法では、まず、アンカーコート剤と呼ばれる接着剤を、基材1上の印刷層(印刷面)上に塗布してアンカーコート剤層を形成した後、樹脂を溶融させて押し出し、押し出された樹脂をアンカーコート剤層上に積層する。また、溶融押出ラミネート法にて、樹脂を溶融押し出しして積層させた層の上に、先に挙げたような材質のプラスチックフィルムである基材2を貼り合わせる方法(いわゆる溶融押出サンドイッチラミネート法や溶融押出タンデムラミネート法)により、ラミネート積層体を得る。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0041】
[製造例1](カーボネート化合物Iの作製)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ当量138g/eqのネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(商品名:「デナコールEX-211」、ナガセケムテックス社製)100部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)100部、及び、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部を入れて均一に溶解した。撹拌下、炭酸ガス(COガス)を0.5L/minの速度で導入しながら、100℃で、10時間反応した。
【0042】
反応終了後、酢酸エチル400部及び水800部を加え1時間撹拌した。その後、酢酸エチル相を回収し、エバポレーターにて溶剤除去を行って粘稠液体状の化合物を得た。赤外分光光度計(商品名:「FT-720」、堀場製作所社製、以下、FT-IRと呼ぶ)を使用して得られた粉末をIR分析したところ、910cm-1付近の、原材料中のエポキシ基由来の吸収ピークが消失し、新たに、1800cm-1付近にカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが生じていることが分かった。得られた化合物(反応物)が、エポキシ基と二酸化炭素との反応により形成された環状構造のカーボネート基を有する、下記式で表される化合物(化合物I)と確認された。上記で得た化合物Iの二酸化炭素含有量は、計算値で24.1%である。
【0043】
【0044】
[合成例1]
(ポリヒドロキシポリウレタンA:水酸基価41.8mgKOH/gの合成)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器及び窒素の導入管を備えた反応容器内に、前記した製造例1で得た環状カーボネート含有化合物Iの100部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製、他の例でも同様のものを使用)を20.4部、プリアミン1074(商品名、クローダジャパン社製)を94.6部、更に、反応溶剤として酢酸エチル65部を加えて、約80℃のリフラックス条件下で5時間の反応を行った。上記で用いたプリアミン1074は、炭素数6の環構造を有する炭素数36のダイマージアミン(ダイマー構造比率:95%以上、アミン価:210mgKOH/g)である。
【0045】
反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このものは、末端がNHのポリヒドロキシポリウレタン(HPU)のプレポリマーである。
【0046】
次に、上記で得た反応液を冷却せずに、ヘキサメチルジシラザン(製品名:SZ-31、信越化学工業社製)30.5部を30分かけて滴下した。滴下30分経過後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。反応終了後の溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル315.4部を加え、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート(エボニックジャパン社製、他の例でも同様のものを使用)18.0部をゆっくりと滴下した。滴下後にFT-IRを測定し、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して反応を終了した。
【0047】
得られた溶液は淡黄色透明であり、樹脂分(固形分)35%のポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。得られたポリヒドロキシポリウレタンの分子量を、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を移動相に使用して、後述する条件でGPC測定を行った。その結果、重量平均分子量は49000であった。GPC測定は、測定装置にGPC-8820(商品名、東ソー社製)を用い、下記の4本のカラムを用いて行った。具体的には、Super AW2500、AW3000、AW4000、AW5000(商品名、いずれも東ソー社製)の4本のカラムを用いた。また、JIS-K 1557-1に従って測定した水酸基価は、固形分換算値として41.8mgKOH/gであった。なお、他の例でのGPC測定も、上記と同様の装置及び同様の条件で行った。
【0048】
[合成例2]
(ポリヒドロキシポリウレタンB:水酸基価53mgKOH/gの合成)
撹拌装置、大気開放口のある還流器及び窒素の導入管を備えた反応容器内に、先に説明した製造例1で得た環状カーボネート含有化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミンを18.8部、プリアミン1074を87.3部、更に、反応溶剤として酢酸エチル59.9部を加えて、約80℃のリフラックス条件下で5時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近に、ウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このものは、末端がNHのポリヒドロキシポリウレタン(HPU)のプレポリマーである。
【0049】
次に、反応液を冷却せずに、ヘキサメチルジシラザン(製品名:SZ-31、信越化学工業社製)26.1部を30分かけて滴下した。滴下30分経過後に、FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。反応終了後の溶液に、希釈溶剤として酢酸エチルを385.1部加え、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネートを12.0部、ゆっくりと滴下した。滴下後に、FT-IRを測定し、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。
【0050】
得られた溶液は淡黄色透明であり、樹脂分が35%のポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。得られたポリヒドロキシポリウレタンの分子量を、DMFを移動相に使用して、合成例1で行ったと同様にしてGPC測定を行った。その結果、重量平均分子量は、44000であった。また、JIS-K 1557-1に従って測定した水酸基価は、固形分換算値として53mgKOH/gであった。
【0051】
[合成例3](ポリヒドロキシポリウレタンC:水酸基価64mgKOH/gの合成)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器及び窒素の導入管を備えた反応容器内に、前記した製造例1で得た環状カーボネート含有化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミンを18.8部、プリアミン1074を87.3部、更に反応溶剤として酢酸エチル58.9部を加えて、約80℃のリフラックス条件下で5時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このものは、末端がNHのポリヒドロキシポリウレタンのプレポリマーである。
【0052】
次に、反応液を冷却せずに、ヘキサメチルジシラザン(製品名:SZ-31)21.8部を30分かけて滴下した。滴下30分経過後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。反応終了後の溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル378.9部を加え、室温まで冷却した。次いで冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネートを12.0部、ゆっくりと滴下した。滴下後にFT-IRを測定しイソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して反応を終了した。
【0053】
得られた溶液は淡黄色透明であり、樹脂分35%のポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。得られたポリヒドロキシポリウレタンの分子量を、DMFを移動相に使用して、合成例1で行ったと同様にしてGPC測定を行った。その結果、重量平均分子量は43000であった。また、JIS-K 1557-1に従って測定した水酸基価は、固形分換算値として64mgKOH/gであった。
【0054】
[合成例4]
(ポリヒドロキシポリウレタンD:水酸基価82mgKOH/gの合成)
撹拌装置、大気開放口のある還流器及び窒素の導入管を備えた反応容器内に、先に説明した製造例1で得た環状カーボネート含有化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミンを18.8部、プリアミン1074を87.3部、更に、反応溶剤として酢酸エチル58.0部を加えて、約80℃のリフラックス条件下で5時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このものは、末端がNHのポリヒドロキシポリウレタン(HPU)のプレポリマーである。
【0055】
次に、反応液を冷却せずに、ヘキサメチルジシラザン(製品名:SZ-31)17.4部を30分かけて滴下した。滴下30分経過後に、FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。反応終了後の溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル372.6部を加え、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながらイソホロンジイソシアネートを12.0部、ゆっくりと滴下した。滴下後に、FT-IRを測定し、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、反応を終了した。
【0056】
得られた溶液は淡黄色透明であり、樹脂分35%のポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。得られたポリヒドロキシポリウレタンの分子量を、DMFを移動相に使用して、合成例1で行ったと同様にしてGPC測定を行った。その結果、重量平均分子量は、42000であった。また、JIS-K 1557-1に従って測定した水酸基価は、固形分換算値として82mgKOH/gであった。
【0057】
[比較合成例1]
(ポリウレタンaの合成)
下記のようにして、比較例で用いたポリウレタンaを合成した。まず、ポリウレタンaの合成原料に用いるポリエステルポリオールを下記のようにして調製した。ポリエステルポリオールの調製原料には、ジカルボン酸成分として、アジピン酸/コハク酸=60/40(モル比)を用い、ジオール成分として、1,2-プロパンジオールを用いた。次に、これらのジカルボン酸成分とジオール成分とを、目的の分子量となる適宜な量で用いて重合して、水酸基価が37.3mgKOH/g、数平均分子量が3000であるポリエステルポリオールを得た。
【0058】
次いで、反応容器に、上記で調製したポリエステルポリオールを500部と、合成例1で用いたと同様のイソホロンジイソシアネート66.4部を仕込み、窒素気流下、100℃で5時間反応させて、NCO基含有率1.87%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、希釈溶剤の酢酸エチル188.8部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液とした。
【0059】
次いで、イソホロンジアミン22.2部と、ジエタノールアミン0.850部と、酢酸エチル980.4部と、イソプロピルアルコール206.3部の混合物(アミン溶液)を配合し、撹拌しながら、先に得たウレタンプレポリマー溶液を滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分(固形分)30%、水酸基価1.5mgKOH/gのポリウレタンa樹脂溶液を得た。
【0060】
[比較合成例2]
(ポリウレタンbの合成)
下記のようにして、比較例で用いたポリウレタンbを合成した。まず、ポリウレタンaの合成で行ったと同様にして、水酸基価が37.3mgKOH/g、数平均分子量が3000であるポリエステルポリオールを得た。次いで、反応容器に、上記で調製したポリエステルポリオールを用いて、ポリウレタンaの合成で行ったと同様にして、NCO基含有率1.87%のウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーを、希釈溶剤の酢酸エチル188.8部に溶解して、不揮発分75%のウレタンプレポリマー溶液とした。
【0061】
次いで、イソホロンジアミン23.2部と、モノエタノールアミン0.168部と、酢酸エチル980.9部と、イソプロピルアルコール206.5部の混合物(ジアミン溶液)を配合し、撹拌しながら、先に得たウレタンプレポリマー溶液を滴下して、40℃で1時間反応した。その結果、不揮発分(固形分)30%、水酸基価5.8mgKOH/gのポリウレタンb樹脂溶液を得た。
【0062】
[実施例又は比較例で用いたポリウレタン樹脂について]
表1に、上記の合成例1~4で調製し、後述する実施例でA成分として使用したポリヒドロキシポリウレタン(HPU)A~Dと、後述する比較例で使用したポリウレタンの性状をまとめて示した。表1では、ポリヒドロキシポリウレタンAをHPU-Aと、ポリヒドロキシポリウレタンBをHPU-Bと、ポリヒドロキシポリウレタンCをHPU-Cと、ポリヒドロキシポリウレタンDをHPU-Dと表示した。また、比較例で用いたポリウレタンについては、比較合成例1で得たものをPU-aと表示し、比較合成例2で得たものをPU-bと表示した。
【0063】
【0064】
[実施例又は比較例で用いた塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体について]
表2に、実施例でB成分として用いた、水酸基価がそれぞれに異なる塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体A~Cと、比較例で用いた塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体Dの性状を示した。「塩酢ビ樹脂D」は、水酸基価が0mgKOH/gであり、本発明で規定するB成分に該当しない。
【0065】
【0066】
[塩酢ビ樹脂ワニスの作製]
容器に、表2に示した塩酢ビ樹脂Aを20部投入し、酢酸エチル80部を加え室温で2時間撹拌した。目視で固形状態の塩酢ビ樹脂が完全に溶解したことを確認した後、固形分20部の塩酢ビ樹脂ワニスAを得た。塩酢ビ樹脂ワニスB、C、Dについても、上記した塩酢ビ樹脂ワニスAを得たのと同様の方法で、それぞれ作製した。
【0067】
[グラビア印刷インキ組成物の調製]
実施例では、A成分として、表1に示した性状のポリヒドロキシポリウレタンをそれぞれに用い、B成分として、表2に示した性状の水酸基価を有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を「塩酢ビ樹脂ワニス」としてそれぞれ用い、更に、有機溶剤Cとして、酢酸エチル、イソプロピルアルコール(IPA)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)の混合溶剤を用いて、本発明の実施例のグラビア印刷インキ組成物を作製した。また、グラビア印刷インキ組成物の作製の際に、必要に応じて着色剤として、カーボンブラック(表中はCBと略記)、酸化チタン(表中は酸化Tiと略記)又はフタロシアニンブルー(表3中はPBと略記)を用いた。実施例のグラビア印刷インキ組成物の調製は、上記A成分とB成分に、必要に応じて着色剤及びその他の添加剤を添加して、C成分の有機溶剤と混合することで容易に行うことができる。以下の実施例及び比較例では、表3~5に記載の配合比率で各成分を混合した混合物を、ビーズミル(装置名:マイティーミル、井上製作所社製)で混練して、グラビア印刷インキ組成物(以下、単に印刷インキとも呼ぶ)を調製した。
【0068】
[実施例1~6]
表3に実施例1~6の印刷インキの配合を示した。実施例1~6では、表3に示したように、A成分に合成例3で調製した水酸基価が64mgKOH/gのHPU-Cを用い、B成分に水酸基価が154mgKOH/gの塩酢ビ樹脂ワニスAを用い、更に、A成分とB成分との配合量を変えて、A成分とB成分とにおける不揮発分の質量比(A):(B)が、95:5~20:80となるようにして、先に説明した方法で、印刷インキを調製した。調製の際に、有機溶剤Cとして、酢酸エチル、イソプロピルアルコール(IPA)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)の混合溶剤を用いた。また、着色剤として、実施例1ではフタロシアニンブルーを用い、実施例2では酸化チタンを用い、実施例4~6ではカーボンブラックを用いて、有色の印刷インキを調製した。実施例3では着色剤を用いず、無色の印刷インキを調製した。
【0069】
【0070】
[実施例7~12]
表4に、実施例7~12の印刷インキの配合を示した。実施例7~12では、表4に示したように、A成分とB成分とにおける不揮発分の質量比を変えることなく、A成分のポリヒドロキシポリウレタン樹脂の種類と、併用するB成分の塩酢ビ樹脂ワニスの種類を変えて、印刷インキを調製した。なお、表4に示したように、実施例7~12では、有機溶剤Cとして、酢酸エチル、イソプロピルアルコール(IPA)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を同一の混合比率で混合した混合溶剤を用い、着色剤にカーボンブラックを用いて印刷インキを調製した。なお、実施例12の印刷インキは、硬化剤として固形分30%のイソホロンジイソシアネート(IPDI)アダクト体を3部添加した例である。
【0071】
【0072】
[比較例1~5]
表5に、比較例1~5の印刷インキの配合を示した。表5に示したように、比較例1、2の印刷インキでは、ポリヒドロキシポリウレタンを用いずに従来のポリウレタン樹脂を用いた。比較例3の印刷インキは、B成分の塩酢ビ樹脂ワニスを用いていない。また、比較例4の印刷インキは、本発明で規定するA成分のポリヒドロキシポリウレタンの量が少なく、A成分とB成分の塩酢ビ樹脂ワニスにおける不揮発分での質量比が、本発明で規定する範囲外の構成の印刷インキである。比較例5の印刷インキでは、本発明で規定するB成分に該当しない水酸基価を有さない塩酢ビ樹脂ワニスDを用いた。
【0073】
【0074】
[印刷インキの評価]
上記のようにして調製した実施例1~12及び比較例1~5の各印刷インキを使用して後述する方法で印刷物を得、下記に記載する評価方法及び評価基準で、形成された印刷皮膜及び積層体について、「基材への密着性」、「耐ブロッキング性」及び「ラミネート強度」の評価を行った。本発明の実施例の印刷インキが、印刷を施す基材として汎用されている各種基材に対して良好な効果を示すことを確認するため、評価には、表6に列挙した、各種の透明蒸着PETフィルム、各種の透明蒸着NY、未処理PET、PET、PT(普通セロハン)、NY(ナイロン)、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)の各種の基材を用いた。表6中に、カタログを参照して評価試験で使用した各基材についての、商品名及び製造会社、特性を示した。
【0075】
表6にある「保護層」の意味は、「有」が蒸着物を保護する保護層が蒸着面に塗布されたフィルムであることを示し、「無」が保護層を有しないフィルムであることを示す。また、表6中にある番号14の「処理PET」は、濡れ指数を高めることでインキがフィルムに印刷しやすいようにするため一般的に行われているフィルム表面にコロナ放電処理をした市販品であることを意味する。一方、表6中にある番号13の「未処理PET」とあるのは、コロナ放電処理をしていない市販品である。評価結果は、実施例の印刷インキについては表7に、比較例の印刷インキについては表8にまとめて示した。評価は、上記した表6に列挙した番号1~17の基材毎に行った。
【0076】
【0077】
〔基材1への密着性〕
先述した実施例及び比較例のインキ作製に使用した際と同一溶剤及び同一比率の混合溶剤を用い、表3~5に記載した組成からなる各インキ100部に対して20部の混合溶剤を加えて希釈して、評価用のインキとした。得られた各評価用のインキで、ヘリオ175線の版を用いて平台印刷機で、表6に示した番号1~17の銘柄の異なるプラスチックフィルムをそれぞれ基材1として用い、該基材1に印刷してそれぞれ印刷物を作成し、得られた各印刷物を用い、下記のようにして「基材1への密着性」についての評価を行った。すなわち、得られた印刷物の印刷面(印刷皮膜面)にセロファンテープ(ニチバン社製)を貼り付けた後、素早くテープを引き剥がし、引き剥がした後の印刷面の状態を目視観察した。そして、下記の5段階で「基材1への密着性」を評価した。基材1への印刷インキの密着性としては、評価4以上が実用範囲である。表7-1に、実施例の印刷インキを用いた印刷物についての基材1への密着性の評価結果をまとめて示した。また、表8-1に、比較例の印刷インキを用いた印刷物についての評価結果をまとめて示した。
【0078】
(評価基準)
5:印刷皮膜が、基材のフィルムから全く剥離していない。
4:印刷皮膜の面積比率として、20%未満が基材のフィルムから剥離している。
3:印刷皮膜の面積比率として、20%以上、50%未満が基材のフィルムから剥離している。
2:印刷皮膜の面積比率として、50%以上、80%未満が基材のフィルムから剥離している。
1:印刷皮膜の面積比率として、80%以上が基材のフィルムから剥離している
【0079】
【0080】
【0081】
〔耐ブロッキング性〕
先述した実施例及び比較例のインキ作製に使用した際と同一溶剤及び同一比率の混合溶剤を用い、表3~5に記載した組成からなる各インキ100部に対して20部の混合溶剤を加えて希釈して、評価用のインキとした。得られた各評価用のインキで、ヘリオ175線の版を用いて平台印刷機で、表7に記載した各基材1に印刷して印刷物を作成し、得られた印刷物を用い、下記のようにして「耐ブロッキング性」についての評価を行った。
【0082】
上記で得た印刷物を4cm×4cmの大きさに切り出し、このインキ塗工面と、これと同じ大きさに切った印刷に用いたと同じプラスチックフィルムの非処理面とを重ね合わせて、バイスで7kg/cmの荷重をかけ、40℃の雰囲気下で24時間放置した。放置後、印刷面(印刷皮膜面)と、重ね合わせたプラスチックフィルムを手で引き剥がし、インキ皮膜(印刷皮膜)の剥離の程度を、手に感じる剥離抵抗と、目視観察による剥離した面積比率で評価した。すなわち、剥離抵抗が大きいことは、印刷皮膜が重ね合わせたフィルムに裏移りすることを示しているので、剥離抵抗がないことが求められる。具体的には、耐ブロッキング性を下記の5段階で評価した。耐ブロッキング性としては、評価4以上が実用範囲である。表7-2に、実施例の印刷インキを用いた印刷物についての耐ブロッキング性の評価結果をまとめて示した。また、表8-2に、比較例の印刷インキを用いた印刷物についての評価結果をまとめて示した。
【0083】
(評価基準)
5:印刷皮膜の剥離が全く認められず、剥離抵抗も全く感じられない。
4:印刷皮膜の剥離が全く認められないが、多少の剥離抵抗を感じる。
3:印刷皮膜の剥離が多少認められ、若干の剥離抵抗を感じる。
2:印刷皮膜の剥離が認められ、明らかな剥離抵抗を感じる。
1:印刷皮膜がほとんど剥離し、強い剥離抵抗を感じる。
【0084】
【0085】
【0086】
〔ラミネート適性〕
[ドライラミネート法による評価用のラミネート積層体の作製]
先述した実施例及び比較例のインキ作製に使用した際と同一溶剤及び同一比率の混合溶剤を用い、表3~5に記載した組成からなる各インキ100部に対して20部の混合溶剤を加えて希釈して、評価用のインキとした。基材1として、表6中に示した番号14のコロナ放電処理済のPETフィルム(商品名「エステルE5102」、東洋紡社製、厚さ12μm)を用意した。ヘリオ175線のグラビア版を使用し、基材1の処理面側にグラビア印刷法により評価用の各インキを塗布して印刷層を形成し、印刷物を得た。この印刷物は、基材1上に、本発明のグラビア印刷インキ組成物が積層されてなる積層体である。
【0087】
上記で得られた印刷物に対して、ドライラミネート用接着剤(商品名「セイカボンドE263/C-75N」、大日精化工業社製)を、乾燥塗布量で3g/mとなるようにグラビア印刷法にて塗布・乾燥し、基材2としてLLDPE(商品名「TUX-HC」、三井化学東セロ社製、厚さ60μm)を用いて熱圧着した。その後、40℃で48時間エージングを行い、ラミネート積層体を得た。さらに、表6中に示した番号14以外の基材1についても、それぞれの基材1を用いたこと以外は上記と同様の方法で、ラミネート積層体を得た。
【0088】
[ラミネート強度の測定]
上記のようにして得たラミネート積層体から、幅15mm及び長さ100mmの長方形状に切断した試料を採取し、接着強度測定用試料として、T型剥離試験用試料をそれぞれ作製した。この各T型剥離試験用試料について、引張試験機(商品名「テンシロンRTG-1225」、エー・アンド・デイ社製)を用いて、引張速度300mm/minの条件でT型剥離試験を行い、試料における基材1と基材2との間の接着強度(T型剥離強度)を測定した。この場合は、剥離強度が高く、剥離し難いことが求められる。ラミネート強度は、用途にもよるが、評価3以上が実用範囲である。表7-3に、実施例の印刷インキを用いた印刷物についてのラミネート強度の評価結果をまとめて示した。また、表8-3に、比較例の印刷インキを用いた印刷物についての評価結果をまとめて示した。
【0089】
(評価基準)
5:剥離強度が2.0N以上
4:剥離強度が1.5N以上2.0N未満
3:剥離強度が1.0N以上1.5N未満
2:剥離強度が0.5N以上1.0N未満
1:剥離強度が0.5N未満
【0090】
【0091】
【0092】
表7-1~表7-3に示した実施例の印刷インキを用いて印刷した各印刷物についての評価結果と、表8-1~表8-3に示した比較例の印刷インキを用いて印刷した各印刷物についての評価結果から、下記のことが確認された。実施例の印刷用インキによれば、市販されている各種基材のいずれに対しても、印刷した印刷物が、基材への密着性、耐ブロッキング性及びラミネート強度のいずれについても良好な結果を示すものであり、基材に対して汎用性に優れ、安定した品質の印刷物の形成が達成されることが確認された。一方、比較例の印刷インキを用いた場合の印刷物は、いずれの印刷インキを用いて印刷した場合も、印刷に用いた基材によって得られる評価が異なり、また、評価項目によっても評価が異なり、安定した効果を得ることができなかった。特に、表8-1に示したように、比較例の印刷インキを用いた場合は、印刷した種類の異なる殆どの基材1において、形成した印刷皮膜の基材への密着性に問題があることが確認された。これに対し、本発明の実施例の印刷インキを用いた場合は、適用した各社から提供されている多様な基材に対し、いずれも十分な基材への密着性を示すことが確認され、顕著な効果が得られた。