(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041333
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】支承装置
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20240319BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
E01D19/04 D
E04B1/24 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146080
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】長屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋成
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA34
2D059BB31
2D059BB33
2D059GG59
(57)【要約】
【課題】支承装置に部分的な破損が生じた場合にも、機能維持を図ることである。
【解決手段】隣り合う構造部材間で圧縮方向に応力伝達する支承装置であって、間隔を設けて並列配置した複数の雌側リブプレート、及び該雌側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の一方が接合される第1の取付け板を有する一方の沓体と、前記雌側リブプレートの間に差し込まれる雄側リブプレート、及び該雄側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の他方が接合される第2の取付け板を有する他方の沓体と、前記雌側リブプレート及び前記雄側リブプレートを貫通する連結軸と、を備え、前記雄側リブプレートの先端部に、凸状曲面が形成されるとともに、並列配置した前記雌側リブプレートの間に、前記雄側リブプレートの先端部を収納する収納部が形成され、該収納部の内面に、前記凸状曲面に対して面接触可能な凹状曲面が形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う構造部材間で圧縮方向に応力伝達する支承装置であって、
間隔を設けて並列配置した複数の雌側リブプレート、及び該雌側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の一方が接合される第1の取付け板を有する一方の沓体と、
前記雌側リブプレートの間に差し込まれる雄側リブプレート、及び該雄側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の他方が接合される第2の取付け板を有する他方の沓体と、
前記雌側リブプレート及び前記雄側リブプレートを貫通する連結軸と、
を備え、
前記雄側リブプレートの先端部に、凸状曲面が形成されるとともに、
並列配置した前記雌側リブプレートの間に、前記雄側リブプレートの先端部を収納する収納部が形成され、該収納部の内面に、前記凸状曲面に対して面接触可能な凹状曲面が形成されることを特徴とする支承装置。
【請求項2】
請求項1に記載の支承装置において、
前記収納部が、並列配置した前記雌側リブプレートの基端側の両側部各々を塞ぐ塞ぎ部により形成され、
該塞ぎ部各々の内面に、前記凹状曲面が形成されることを特徴とする支承装置。
【請求項3】
請求項2に記載の支承装置において、
前記塞ぎ部が、前記雌側リブプレートの両側部から前記第1の取付け板に連続する壁体であることを特徴とする支承装置。
【請求項4】
請求項1からの3いずれか1項に記載の支承装置であって、
前記第1の取付け板及び第2の取付け板がそれぞれ、アーチ状をなす構造物の頂部で隣り合う前記構造部材に接合されることを特徴とする支承装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の支承装置であって、
前記第1の取付け板及び第2の取付け板がそれぞれ、鉛直方向に隣り合う前記構造部材に接合されることを特徴とする支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う構造部材間で、圧縮方向に応力伝達する支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、構造物の上部構造と下部構造の間に設置される支承装置の一つに、特許文献1で開示されているような、せん断型のピン支承装置がある。
【0003】
せん断型のピン支承装置80は一般に、
図7で示すような、上沓体81及び下沓体82と、連結ピン83とにより構成される。上沓体81は、ソールプレート811と櫛状に設けた複数のリブプレート812を備える。また、下沓体82は、ベースプレート821と櫛状に設けた複数のリブプレート822を備える。
【0004】
これら上沓体81と下沓体82は、両者のリブプレート812、822をかみ合わせた状態で、連結ピン83を貫通させることにより連結され、ピン支承装置80が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のピン支承装置80は、長期間にわたって使用すると金属疲労や腐食などにより破損を生じる可能性がある。なかでも、連結ピン83に破断などが生じると、ピン接合部としての機能が喪失して、ピン支承装置80を設けた構造物の崩壊につながるおそれがある。
【0007】
かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、支承装置に部分的な破損が生じた場合にも、機能維持を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の支承装置は、隣り合う構造部材間で圧縮方向に応力伝達する支承装置であって、間隔を設けて並列配置した複数の雌側リブプレート、及び該雌側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の一方が接合される第1の取付け板を有する一方の沓体と、前記雌側リブプレートの間に差し込まれる雄側リブプレート、及び該雄側リブプレートの基端が表面に固定され、裏面に前記構造部材の他方が接合される第2の取付け板を有する他方の沓体と、前記雌側リブプレート及び前記雄側リブプレートを貫通する連結軸と、を備え、前記雄側リブプレートの先端部に、凸状曲面が形成されるとともに、並列配置した前記雌側リブプレートの間に、前記雄側リブプレートの先端部を収納する収納部が形成され、該収納部の内面に、前記凸状曲面に対して面接触可能な凹状曲面が形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明の支承装置は、前記収納部が、並列配置した前記雌側リブプレートの基端側の両側部各々を塞ぐ塞ぎ部により形成され、該塞ぎ部各々の内面に、前記凹状曲面が形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の支承装置は、前記塞ぎ部が、前記雌側リブプレートの両側部から前記第1の取付け板に連続する壁体であることを特徴とする。
【0011】
本発明の支承装置は、前記第1の取付け板及び第2の取付け板がそれぞれ、アーチ状をなす構造物の頂部で隣り合う前記構造部材に接合されることを特徴とする。
【0012】
本発明の支承装置は、前記第1の取付け板及び第2の取付け板がそれぞれ、鉛直方向に隣り合う前記構造部材に接合されることを特徴とする。
【0013】
本発明の支承装置によれば、連結軸に損傷が生じると、収納部に雄側リブプレートの先端部が嵌りこみ、収納部の凹状曲面と雄側リブプレートの凸状曲面とが当接することから、隣り合う構造部材間で圧縮方向に応力伝達する機能を維持できる。したがって、長期使用による経年劣化や腐食、もしくは不慮の事態により不具合が生じた場合にも、支持装置が設置された構造物の崩壊を抑止することが可能となる。
【0014】
また、一方の沓体及び他方の沓体は、左右方向もしくは上下方向に配置しても、同様の機能が維持される。したがって、例えば、アーチ状をなす構造物の頂部で隣り合う構造部材間や、鉛直方向に隣り合う構造部材間に設置することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一方の沓体と他方の沓体を連結する連結軸が破損するなど、支承装置に部分的な破損が生じた場合にも、圧縮方向に応力伝達する機能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における支承装置の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における支承装置の詳細を示す図である(その1)。
【
図3】本発明の実施の形態における支承装置の詳細を示す図である(その2)。
【
図4】本発明の実施の形態における通常時と異常発生時の支承装置を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における支承装置の設置事例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における支承装置の他の事例を示す図である。
【
図7】従来のせん断型ピン支承装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、隣り合う構造部材をピン接合し圧縮方向に応力伝達する、いわゆるせん断型のピン支承装置に関するものである。圧縮力が作用される構造部材間であれば、いずれの方向に隣り合う構造部材間でも適用可能であるが、本実施の形態では、左右方向に隣り合う構造部材間に設置する場合を事例に挙げ、以下に支承装置の詳細を説明する。
【0018】
図1(a)で示すように、支承装置10は、一方の沓体20と、他方の沓体30と、連結軸40と、を備えている。支承装置10は、例えば
図1(b)で示すように、一方の沓体20を紙面右側に配置し、他方の沓体30を紙面左側に配置した姿勢で、隣り合う構造部材50どうしをピン接合している。なお、
図1(b)では、構造部材50各々にH形鋼を採用する場合を事例に挙げている。
【0019】
一方の沓体20は、
図2(a)(b)で示すように、第1の取付け板21と、雌側リブプレート22と、貫通孔23と、塞ぎ部24と、を備える。第1の取付け板21は、裏面に構造部材50が接合され、表面には2枚の雌側リブプレート22が固定されている。、
【0020】
雌側リブプレート22は、第1の取付け板21から突出するように設けられる略台形形状のプレート材である。先端側が円弧状に形成され、基端側が第1の取付け板21に固定されている。この雌側リブプレート22に、連結軸40が貫通する貫通孔23が設けられている。
【0021】
このような形状の雌側リブプレート22は、
図2(b)で示すように、2枚が一定の隙間を設けて並列設置され、各々の外側には補強材25が対をなして設けられている。また、雌側リブプレート22の基端側であって対向する内側には、両者間の隙間を塞ぐようにして塞ぎ部24が設けられている。
【0022】
塞ぎ部24は、
図2(b)で示すように、2枚の雌側リブプレート22の側部から第1の取付け板21に連続する壁体により構成され、その外面は、
図1(a)で示すように、雌側リブプレート22の側部とともに同一平面を形成している。一方、その内面には、
図2(c)で示すように、凹状曲面241が形成されている。
【0023】
こうして
図1(a)及び
図2(c)で示すように、この塞ぎ部24、2枚の雌側リブプレート22、及び第1の取付け板21で囲まれた空間に収納部26が形成される。そして、この収納部26に、他方の沓体30に設けられた雄側リブプレート32が収納される。
【0024】
他方の沓体30は、
図2(a)(b)で示すように、第2の取付け板31と、雄側リブプレート32と、貫通孔33と、を備える。第2の取付け板31は、裏面に構造部材50が接続され、表面には雄側リブプレート32が固定されている。
【0025】
雄側リブプレート32は、第2の取付け板31から突出するように設けられる略台形形状のプレート材であり、基端側が第2の取付け板31に固定されている。この雄側リブプレート32に、連結軸40が貫通する貫通孔33が設けられている。
【0026】
また、
図2(a)で示すように、雄側リブプレート32の先端部は、略円弧状の凸状曲面321に形成されている。
図2(c)を参照して説明した、塞ぎ部24の内面に形成した凹状曲面241は、この先端部の凸状曲面321に対して面接触が可能な形状となっている。
【0027】
上述する構成の一方の沓体20と他方の沓体30は、雄側リブプレート32の貫通孔33と雌側リブプレート22の貫通孔23が同軸上に位置するまで、雄側リブプレート32の先端部を2枚の雌側リブプレート22の間に差し込む。この状態で、貫通孔23、33に連結軸40を挿入し貫通させることにより、
図3(a)で示すように、一方の沓体20と他方の沓体30は連結され、支承装置10が組立てられる。
【0028】
このとき、
図3(b)で示すように、雄側リブプレート32の先端部に設けた凸状曲面321と、塞ぎ部24の内面に設けた凹状曲面241が、わずかな間隔を有して対向する状態となる。
【0029】
これにより、通常時において支承装置10は、
図4(a)で示すように、例えば隣り合う構造部材50に下方に向かう外力が作用する場合などに、一方の沓体20と他方の沓体30を、連結軸40まわりにスムーズに回転させることができる。また、隣り合う構造部材50の間で、圧縮方向に応力伝達する機能を有している。
【0030】
一方、長期利用による金属疲労や腐食、もしくは不慮の事態などが起こると、連結軸40に破断を生じる可能性がある。このような異常発生時に、一方の沓体20と他方の沓体30は、隣り合う構造部材50から圧縮方向の力を作用されて、
図4(b)で示すように、雄側リブプレート32が収納部26にはまり込み嵌合状態となる。
【0031】
そして、雄側リブプレート32の先端部に形成した凸状曲面321が、塞ぎ部24の内面に形成した凹状曲面241に当接する。これにより、支承装置10は、隣り合う構造部材間で大きな変形を生じることなく圧縮方向に応力伝達する機能を維持することができる。このため、支承装置10によりピン接合された隣り合う構造部材50により構成される構造物の崩壊を、支承装置10に異常が発生した場合にも抑止することが可能となる。
【0032】
上記の構成を有する支承装置10は、一方の沓体20及び他方の沓体30を、左右方向もしくは上下方向のいずれに配置しても、異常発生時に同様の機能を維持することができる。したがって、例えば、
図5(a)で示すような、屋根やアーチ橋のアーチリブなど、アーチ状をなす構造物60の頂部で隣り合う構造部材61間に設置し、圧縮軸力を伝達することができる。
【0033】
また、
図5(b)で示すように、例えば、橋梁70の上部工71と下部工72の間など、鉛直方向に隣り合う構造部材間に設置し、荷重を伝達することも可能となる。このように、支承装置10は、圧縮力が作用される構造部材間のいずれにも設置できる。
【0034】
本発明の支承装置10は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0035】
例えば、本実施の形態では、
図1で示すように、一方の沓体20に2枚の雌側リブプレート22を設けるとともに、他方の沓体30に1枚の雄側リブプレート32を設ける場合を事例に挙げた。しかし、隙間を設けて並列配置した雌側リブプレート22の間に雄側リブプレート32を差し込むことができれば、雌側リブプレート22を3枚以上設けるとともに、雄側リブプレート32を2枚以上設ける構成としてもよい。
【0036】
また、収納部26を形成する塞ぎ部24は、
図2(b)で示すように、雌側リブプレート22の側部から第1の取付け板21に連続する壁体に形成されている。しかし、塞ぎ部24の形状は壁体に限定されるものではない。雄側リブプレート32の先端部を収納する収納部26を形成でき、かつ内面を凹状曲面241にできれば、例えば、複数の梁部材を、隙間を設けて並列配置した隣り合う雌側リブプレート22の側部に架け渡すなど、いずれに形成してもよい。
【0037】
さらに、
図3(b)では、一方の沓体20と他方の沓体30を鋳造品とした場合に想定される製造誤差を考慮し、雄側リブプレート32の先端部に設けた凸状曲面321と、塞ぎ部24の内面い設けた凹状曲面241との間に、わずかな間隔を設けた。しかし、製造方法はいずれでもよい。
【0038】
したがって、両者を当接させた状態でピン接合部として機能させることができる程度に、一方の沓体20と他方の沓体30を製造できる場合には、隙間を省略してもよい。隙間を省略すると、
図4(b)を参照して説明したような異常発生時に、雄側リブプレート32の先端部に設けた凸状曲面321と塞ぎ部24の内面に設けた凹状曲面241とが、衝突することにより生じる衝撃を回避できる。
【0039】
また、塞ぎ部24の内面に形成した凹状曲面241について、例えば、
図2(c)では、内角120度程度の範囲に形成したが、設定する範囲は何ら限定されるものではない。
【0040】
さらに、本実施の形態では、構造部材50にH型鋼を採用する場合を事例に挙げている。このため、
図6で示すように、一方の沓体20を構成する第1の取付け板21の裏面には、構造部材50と接触する範囲を選択的に、削り仕上げ面211とし、構造部材50との密着性を高めている。他方の沓体30を構成する第2の取付け板31も、同様の表面加工を行っている。
【0041】
このような削り仕上げ面211を設ける範囲は、構造部材50に採用する鋼材に応じて、適宜決定するとよい。なお、構造部材50はコンクリート部材であってもよく、この場合には、構造部材50と第1の取付け板21とをアンカー接合する構成としてもよい。
【0042】
また、
図6で示すように、第1の取付け板21の側周面にワイヤーなどを係止する吊り金具212を設け、運搬作業時や据え付け作業時などの取扱いを容易な構成としてもよい。これらの構成は、他方の沓体30に備えた第2の取付け板31についても同様の構成を設けるとよい。
【符号の説明】
【0043】
10 支承装置
20 一方の沓体
21 第1の取付け板
211 削り仕上げ面
212 吊り金具
22 雌側リブプレート
23 貫通孔
24 塞ぎ部
241 凹状曲面
25 補強材
26 収納部
30 他方の沓体
31 第2の取付け板
32 雄側リブプレート
321 凸状曲面
33 貫通孔
40 連結軸
50 構造部材
60 構造物
61 構造部材
62 構造部材
70 橋梁
71 上部工
72 下部工
80 ピン支承装置
81 上沓体
811 ソールプレート
812 リブプレート
82 下沓体
821 ベースプレート
822 リブプレート
83 連結ピン