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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041335
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20240319BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 23/037 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 21/10 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 5/09 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20240319BHJP
   G11B 5/842 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G11B5/84 C
G11B5/70
G11B5/65
G11B5/78
G11B23/037
G11B21/10 B
G11B5/09 331
G11B5/851
G11B5/842 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146082
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】高山 貴広
(72)【発明者】
【氏名】森田 博司
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006EA01
5D006EA03
5D112AA22
5D112JJ02
(57)【要約】
【課題】
磁気記録媒体の使い始めの磁気記録媒体幅を決定する時間を短縮することができ、使い始めの磁気記録媒体幅を明確にできる、磁気記録媒体を提供することを目的とする
【解決手段】
幅方向に隣接する複数のサーボバンドを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、 60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内であり、平均厚み(平均全厚)が5.3μm以下である、前記磁気記録媒体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に隣接する複数のサーボバンドを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内であり、
平均厚み(平均全厚)が5.3μm以下である、前記磁気記録媒体。
【請求項2】
35℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である、請求項1に記載の前記磁気記録媒体。
【請求項3】
10℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である、請求項1に記載の前記磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が22分以内である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、680ppm以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、700ppm以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記サーボバンドに書き込まれたサーボパターンは、前記磁気記録媒体の幅方向に対して5~20°のアジマス角を持って傾斜する複数のストライプを含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
データ記録トラック幅が1000nm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層が磁性粉を含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁性層がスパッタ層である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気記録媒体がリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子データのバックアップなどの用途で磁気記録媒体が広く利用されている。磁気記録媒体の一つとして、例えば磁気テープカートリッジは、大容量・長期保存が可能なことから、ビッグデータ等の蓄積媒体としてますます注目が集まっている。
【0003】
データの記録密度を向上するために、磁気テープでは、磁気テープの全厚みが非常に薄く、かつ、データ記録トラック幅は非常に狭くなっている。このように全厚みが非常に薄く、かつ、データ記録トラック幅が狭くなると、例えば温湿度変化などの環境要因に起因する磁気テープの幅方向の変化量として最大許容される変化量がますます小さくなる。
【0004】
磁気テープの幅方向の変化量を小さくするための技術がこれまでにいくつか提案されてきている。例えば、下記特許文献1に開示された磁気テープは、非磁性支持体の幅方向のヤング率をX且つバック層の幅方向のヤング率をYとしたときに、Xが850kg/mm以上であるか又は850kg/mm未満の場合はX×Yが6×10以上であり、且つ、磁性層を含む層の幅方向のヤング率をZとしたときY/Zが6.0以下であることを特徴とする。
【0005】
また、磁気テープの幅方向の変化に対応するため記録再生装置を調節する技術がこれまでにいくつか提案されている。例えば、下記特許文献2では、記録再生装置において、各記録トラックに対する記録再生ヘッドの位置決め(トラッキング)制御を実行し、テープ情報やデータバンドを特定するためのサーボバンド識別情報が埋め込まれた所定形状のサーボパターンが記録されたサーボバンドに関し、隣接するサーボバンドの間隔(サーボバンドピッチ)の変化に対応するために磁気テープの走行時に加えるテンションを変化させる技術が提案されている。特許文献2で提案された技術では、基準となる初期の磁気テープの幅情報をメモリに入れ、再生時に初期の磁気テープの幅情報を参考にして、磁気テープに加えるテンションを変化させている。また、下記特許文献3では、記録再生装置のデータライトヘッドを磁気テープの幅方向に対して傾けて配置する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-332510号公報
【特許文献2】特開2005-285268号公報
【特許文献3】特開2005-259198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、記録再生装置によってデータの記録又は再生をする際、磁気テープを走行させ始めた際の磁気テープの幅は、磁気テープの長手方向の張力や巻き圧力によって変形させられており、幅方向の変化が安定するまでに時間を要する。このため、基準となる初期の磁気テープ幅情報をメモリに入れる時期が遅くなるといった問題がある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本技術は、磁気記録媒体の使い始めの磁気記録媒体幅を決定する時間を短縮することができ、使い始めの磁気記録媒体幅を明確にできる、磁気記録媒体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本技術は、幅方向に隣接する複数のサーボバンドを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内であり、
平均厚み(平均全厚)が5.3μm以下である、前記磁気記録媒体を提供する。
本技術に従う、磁気記録媒体は、35℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内でありうる。
本技術に従う、磁気記録媒体は、10℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内でありうる。
本技術に従う、磁気記録媒体は、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が22分以内でありうる。
本技術に従う、磁気記録媒体は、60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、680ppm以上でありうる。
本技術に従う、磁気記録媒体は、60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、700ppm以上でありうる。
前記サーボバンドに書き込まれたサーボパターンは、前記磁気記録媒体の幅方向に対して5~20°のアジマス角を持って傾斜する複数のストライプを含みうる。
本技術に従う、磁気記録媒体は、データ記録トラック幅が1000nm以下でありうる。
本技術の一つの実施態様に従い、磁気記録媒体は、前記磁性層が磁性粉を含みうる。
本技術の他の実施態様に従い、磁気記録媒体は、前記磁性層がスパッタ層でありうる。
本技術は、前記磁気記録媒体がリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録カートリッジを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図2】第1の実施形態に係る磁気記録媒体を上方(磁性層側)からみた模式図である。
図3】第1の実施形態に係る磁気記録媒体のデータバンドにおける記録トラックを示す拡大図である。
図4】第1の実施形態に係る磁気記録媒体のサーボバンドに書き込まれたサーボパターンの一部を示す拡大図である。
図5A】磁気記録媒体の幅変化量測定装置の構成を示す斜視図である。
図5B】磁気記録媒体の幅変化量測定装置の詳細を示す模式図である。
図6】幅変化量測定における温度、湿度の設定状況を示す図である。
図7】温度10℃を維持したまま、相対湿度を10%から40%まで上昇させた場合の測定時間とサンプル10Sの幅との関係を示す図である。
図8図7の点線部分を拡大する図である。
図9図7の点線部分をさらに拡大する図である。
図10】記録再生装置の例の構成を示す概略図である。
図11】上記記録再生装置におけるドライブヘッドを下側(テープ走行面)から見た概略図である。
図12】上記ドライブヘッドにおける第1のドライブヘッド部がデータ信号の記録/再生を行っているときの様子を示す図である。
図13】(A)はサーボパターンの配置例を示す概略平面図、(B)はその再生波形を示す図である。
図14】第1のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(A)及び第2のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(B)の構成例を示す概略図である。
図15】第1のサーボパターンの再生波形(A)及び第2のサーボパターンの再生波形(B)をそれぞれ示す図である。
図16】データバンドをドライブヘッドがトラッキングする説明図である。
図17】サーボトレースラインの測定方法を説明する図である。
図18】本技術の一実施形態に係るサーボパターン記録装置を示す概略正面図である。
図19】上記サーボパターン記録装置の一部を示す部分拡大図である。
図20】上記サーボパターン記録装置におけるサーボライトヘッドの構成を概略的に示す斜視図である。
図21】上記サーボライトヘッドの要部の概略断面図である。
図22】上記サーボライトヘッドの要部の概略平面図である。
図23】上記サーボパターン記録装置における駆動部の構成を示すブロック図である。
図24】第1のパルス信号における第1サーボサブフレームの記録信号波形(A)及び第2のパルス信号における第1サーボサブフレームの記録信号波形をそれぞれ示す模式図である。
図25】記録再生装置の他の例の構成を示す概略図である。
図26】データライトヘッドを下方(バック層側)から見た概略図である。
図27】データライトヘッドのアジマス角の角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.1μm)。
図28】データライトヘッドのアジマス角θにおける角度範囲Refθ±x°と、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量との関係を示す図である。
図29】磁気記録媒体の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量を示す図である。
図30】データライトヘッドのアジマス角θの角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.07μm)。
図31】本技術の第1実施形態に係るサーボパターン記録装置を示す図である。
図32】第1実施例に係るサーボライトヘッド及びサーボライトヘッドに入力されるパルス信号を示す図である。
図33】第1実施例に係るサーボライトヘッドが有するサーボ素子の拡大図である。
図34】第1実施例に係るサーボライトヘッドにより磁気記録媒体にサーボパターンが書き込まれるときの様子を示す図である。
図35】第2実施例に係るサーボライトヘッド及びサーボライトヘッドが有するサーボ素子の拡大図である。
図36】第2実施例に係るサーボライトヘッドにより磁気テープにサーボパターンが書き込まれるときの様子を示す図である。
図37】第2実施例において、サーボライトヘッドの座標系を基準としてサーボライトヘッドを表した図である。
図38】サーボライトヘッドの対向面において低摩擦加工が施されたときの様子を示す図である。
図39図35の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子及び第2のサーボ素子における具体的な寸法の一例を示す図である(XYZ座標系基準)。
図40図37の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子及び第2のサーボ素子における具体的な寸法の一例を示す図である(X"Y"Z"座標系基準)。
図41】変形例における磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図42】第2の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図43】スパッタ装置の構成を示す概略図である。
図44】第3の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図45】磁気記録カートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
図46】磁気記録カートリッジの変形例の構成の一例を示す分解斜視図である。
図47】60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である磁気記録媒体のサーボトラック幅変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、本技術の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0012】
本技術について、以下の順序で説明を行う。
1.本技術の説明
2.第1の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
(1)磁気記録媒体の構成
(2)各層の説明
(3)物性及び構造
(4)磁気記録媒体の製造方法
(5)記録再生装置の例
(6)サーボパターン記録装置の例
(7)記録再生装置の他の例
(8)サーボパターン記録装置の他の例
(9)変形例
3.第2の実施形態(真空薄膜型の磁気記録媒体の例)
(1)磁気記録媒体の構成
(2)各層の説明
(3)物性及び構造
(4)スパッタ装置の構成
(5)磁気記録媒体の製造方法
(6)変形例
4.第3の実施形態(真空薄膜型の磁気記録媒体の例)
(1)磁気記録媒体の構成
(2)各層の説明
5.本技術に係る磁気記録カートリッジの一実施形態
6.本技術に係る磁気記録カートリッジの変形例
7.実施例
【0013】
1.本技術の説明
【0014】
高記録密度が求められる次世代磁気記録テープは極めて薄くなっており、温度や湿度の環境変化に対して磁気記録テープの幅寸法を安定化させることが非常に困難になってくる。このため、使い始めである初期の磁気記録テープの幅情報を記録再生装置のメモリにインプットし、再生時にインプットされた磁気記録テープの幅情報を参考にして、磁気記録テープを記録再生装置(ドライブ内)で走行させるときに磁気記録テープの長手方向のテンションをコントロールすることによって幅寸法の変化を調節することが行われている。
【0015】
しかしながら、記録再生装置によってデータの記録又は再生をする際、磁気記録テープを走行させ始めた際の磁気記録テープの初期幅は、磁気記録テープの長手方向の張力や巻き圧力によって変形させられており、幅方向の変化が安定するまでに時間を要する。このため、基準となる磁気記録テープの初期幅情報をメモリに入れる時期が遅くなるといった問題がある。
【0016】
本発明者は、所定の温度環境下において、磁気記録媒体の湿度変化への追随速度を早くすることにより、磁気記録テープを走行させ始めた際の磁気記録媒体の幅変化が少なくなり、短時間で磁気記録媒体の幅を決定できることを見出した。
【0017】
すなわち、本技術に従う磁気記録媒体は、60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内であり、好ましくは22分以内、より好ましくは20分以内、さらに好ましくは18分以内でありうる。前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が上記数値範囲内となることにより、短時間で前記磁気記録媒体の幅を決定することができる。
【0018】
また、本技術に従う磁気記録媒体は、35℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が好ましくは24分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは9分以内、さらにより好ましくは8分以内でありうる。
【0019】
さらに、本技術に従う磁気記録媒体は、10℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が好ましくは24分以内であり、より好ましくは9分以内であり、さらに好ましくは8分以内、さらにより好ましくは7分以内でありうる。各温度環境下において前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間の測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0020】
本技術に従う磁気記録媒体は、60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、好ましくは680ppm以上であり、より好ましくは700ppm以上、さらに好ましくは720ppm以上でありうる。幅変化量ΔWが、680ppm以上の範囲内であると、磁気記録媒体の張力による幅変化量を多くすることができ、環境による幅変化に追従させることができる。幅変化量ΔWの測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0021】
本技術に従う磁気記録媒体は、好ましくは長尺状の磁気記録媒体であり、例えば、磁気記録テープ(特には長尺状の磁気記録テープ)でありうる。
【0022】
本技術に従う磁気記録媒体は、磁性層、非磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に備えていてもよく、これらの層に加えて、他の層を含んでいてよい。当該他の層は、磁気記録媒体の種類に応じて適宜選択されてよい。前記磁気記録媒体は、例えば、塗布型の磁気記録媒体であってよく又は真空薄膜型の磁気記録媒体であってよい。前記塗布型の磁気記録媒体について、以下2.においてより詳細に説明する。真空薄膜型の磁気記録媒体について、以下3.においてより詳細に説明する。上記4つの層以外に前記磁気記録媒体に含まれる層については、これらの説明を参照されたい。
【0023】
本技術に従う磁気記録媒体の平均厚み(平均全厚)は、5.3μm以下であり、好ましくは5.1μm以下、より好ましくは4.9μm以下、さらに好ましくは4.6μm以下でありうる。前記磁気記録媒体はこのように薄いものであるので、例えば、1つの磁気記録カートリッジ中に巻き取られる磁気記録媒体(テープ)長をより長くすることができ、これにより1つの磁気記録カートリッジ当たりの記録容量を高めることができる。磁気記録媒体の厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば、3.5μm≦tである。平均厚み(平均全厚)の測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0024】
本技術に従う磁気記録媒体の非磁性層の厚みは、好ましくは1.2μm以下、より好ましくは0.9μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下でありうる。また、非磁性層の厚みの下限値は特に限定されるものではないが、好ましくは0.3μm以上でありうる。非磁性層の厚みの測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0025】
本技術に従う磁気記録媒体のベース層の厚みは、好ましくは4.4μm以下、より好ましくは4.2μm以下、さらに好ましくは4.0μm以下でありうる。ベース層の厚みの下限値は特に限定されるものではないが、好ましくは3μm以上でありうる。ベース層の厚みの測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0026】
本技術に従う磁気記録媒体のバック層の厚みは、好ましくは0.6μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下でありうる。バック層の厚みの下限値は特に限定されるものではないが、好ましくは0.2μm以上でありうる。バック層の厚みの測定方法は、以下2の(3)で説明する。
【0027】
2.第1の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
【0028】
(1)磁気記録媒体の構成
まず、図1及び図2を参照して、第1の実施形態に係る磁気記録媒体10の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。磁気記録媒体10は、例えば、垂直配向処理が施された磁気記録媒体であって、図1に示すように、長尺状のベース層(基体ともいう)41と、ベース層41の一方の主面上に設けられた下地層(非磁性層)42と、下地層42上に設けられた磁性層(記録層ともいう)43と、ベース層41の他方の主面上に設けられたバック層44とを備える。以下では、磁気記録媒体10の両主面のうち、磁性層43が設けられた側の面を磁性面といい、当該磁性面とは反対側の面(バック層44が設けられた側の面)をバック面という。
【0029】
磁気記録媒体10は長尺状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。また、磁気記録媒体10は、好ましくは100nm以下、より好ましくは75nm以下、更により好ましくは60nm以下、特に好ましくは50nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成されていてよく、例えば最短記録波長が上記範囲内にある記録再生装置に用いられうる。この記録再生装置は、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備えるものであってもよい。記録トラック幅は、例えば2μm以下である。
【0030】
図2は、第1の実施形態に係る磁気記録媒体を上方(磁性層側)からみた模式図である。図2に示すように、磁性層43は、データが書き込まれる長手方向(X軸方向)に長い複数のデータバンドd(データバンドd0~d3)と、サーボパターン6が書き込まれる長手方向に長い複数のサーボバンドs(サーボバンドs0~s4)とを有している。サーボバンドsは、幅方向(Y軸方向)で各データバンドdを挟み込む位置に配置される。
【0031】
本技術において、磁性層43の表面全体の面積に対するサーボバンドsの面積の比率は、典型的には、4.0%以下とされる。なお、サーボバンドsの幅は、1/2インチのテープ幅で、例えば96μm以下とされる。磁性層43の表面全体の面積に対するサーボバンドsの面積の比率は、例えば、磁気記録媒体10を、フェリコロイド現像液等の現像液を用いて現像し、その後、現像した磁気記録媒体10を光学顕微鏡で観察することで測定することができる。
【0032】
図2に示す例では、データバンドdの本数が4本とされ、サーボバンドsの本数が5本とされた場合の例が示されている。なお、データバンドdの本数、サーボバンドsの本数は、適宜変更することができる。
【0033】
データバンドdは、長手方向に長く、幅方向に整列された複数の記録トラック5を含む。1本のデータバンドdに含まれる記録トラック5の本数は、例えば、1000本から2500本程度とされる。データは、この記録トラック5に沿って、記録トラック5内に記録される。データバンドdに記録されるデータにおける長手方向の1ビット長は、例えば、48nm以下とされる。サーボバンドsは、後述するサーボパターン記録装置(図18参照)によって記録される所定形状のサーボパターン6を含む。
【0034】
ここで、LTO規格の磁気記録媒体10は、世代ごとに記録トラック5の数が増加して記録容量が飛躍的に向上している。一例を挙げると、初代のLTO-1では記録トラック5の数が384本であったが、LTO-2からLTO-8では記録トラック5の数がそれぞれ順に、512本、704本、896本、1280本、2176本、3584本及び6656本である。データの記録容量についても同様に、LTO-1では100GB(ギガバイト)であったのが、LTO-2からLTO-8ではそれぞれ順に、200GB、400GB、800GB、1.5TB(テラバイト)、2.5TB、6.0TB及び12TBである。
【0035】
本実施形態では、記録トラック5の本数や記録容量は、特に限定されず、適宜変更可能である。但し、例えば、記録トラック5の本数や記録容量が多く(例えば、6656本以上、12TB以上:LTO8以降)、磁気記録媒体10の幅の変動の影響を受けやすいような磁気記録媒体10に適用されると有利である。例えば、磁気記録媒体10として、テープ全体のヤング率(テープ長手方向のヤング率)が、8GPa以下の磁気テープが適用される。
【0036】
(データバンド及びサーボバンド)
【0037】
図3は、データバンドdにおける記録トラック5を示す拡大図である。図3に示すように、記録トラック5は、長手方向に長く、幅方向に整列され、また、幅方向でトラック毎に所定のデータ記録トラック幅(トラックピッチ)Wdを有している。このデータ記録トラック幅Wdは、LTO-8では、2.0μm以下とされ、好ましくは1000nm以下であってよい。なお、このようなデータ記録トラック幅Wdは、例えば、データが記録された磁気記録媒体10を磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察することで測定することができる。もしくは、ドライブヘッドを利用した測定方法として、テープ走行時の変動を無視するため、ドライブヘッドをRead While Write(記録時再生)状態とし、ドライブヘッドのAzimuthを変化させた場合の出力変化からデータ記録トラック幅Wdを測定することができる。(IEEE_Sept1996_Crosstrack Profiles of Thin Film MR Tape Heads Using the Azimuth Displacement Method)
【0038】
図4は、サーボバンドsに書き込まれたサーボパターン6の一部を示す拡大図である。図4に示すように、サーボパターン6は、その詳細については後述するが、幅方向(Y軸方向)に対して所定のアジマス角αを持って傾斜する複数のストライプを含む。本実施形態において、例えば、アジマス角αは好ましくは5~20°であってよい。この複数のストライプは、幅方向(Y軸方向)に対して時計回りに傾斜する第1のストライプ群61と、幅方向に対して反時計回りに傾斜する第2のストライプ群62とに分類される。第1のストライプ群61及び第2のストライプ群62は、典型的には、4本又は5本のストライプを含む。なお、サーボパターン6の形状などは、例えば、磁気記録媒体10の磁性層43を、フェリコロイド現像液等の現像液を用いて現像し、その後、現像した磁気記録媒体10の磁性層43を光学顕微鏡で観察することで測定することができる。
【0039】
図4には、サーボパターン6上を後述するサーボリードヘッド132(図7参照)によってトレースされるラインであるサーボトレースラインTが破線により示されている。サーボトレースラインTは、長手方向(X軸方向)に沿って設定され、また、幅方向に所定の間隔Psを開けて設定される。
【0040】
1本のサーボバンドsあたりのサーボトレースラインTの本数は、例えば、30本から60本程度とされる。隣接する2つのサーボトレースラインTの間隔Psは、データ記録トラック幅Wdの値と同じであり、例えば、2.0μm以下とされる。ここで、隣接する2つのサーボトレースラインTの間隔Psは、データ記録トラック幅Wdを決定付ける値とされている。つまり、サーボトレースラインTの間隔Psが狭められると、データ記録トラック幅Wdが小さくなり、1本のデータバンドdに含まれる記録トラック5の本数が増える。結果として、データの記録容量が増えることになる。
【0041】
(2)各層の説明
【0042】
(ベース層)
【0043】
ベース層41は、磁気記録媒体10の支持体として機能しうるものであり、例えば可撓性を有する長尺状の非磁性基体であり、特には非磁性のフィルムでありうる。ベース層41の厚みは、例えば、好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4.2μm以下であり、さらに好ましくは3.6μm以下でありうる。なお、ベース層41の下限の厚みは、例えば、フィルムの製膜上の限界又はベース層41の機能などの観点から定められてよい。ベース層41は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、及びその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含みうる。ベース層41が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、又は、積層されていてもよい。
【0044】
前記ポリエステル系樹脂は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)、及びポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。本技術の好ましい実施態様に従い、ベース層41は、PET又はPENから形成されてよい。
【0045】
前記ポリオレフィン系樹脂は、例えば、PE(ポリエチレン)及びPP(ポリプロピレン)のうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0046】
前記セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)、及びCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0047】
前記ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)及びPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0048】
前記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、例えば、PEK(ポリエーテルケトン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、及びPEEKK(ポリエーテルエーテルケトンケトン)のうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。本技術の好ましい実施態様に従い、ベース層41は、PEEKから形成されてよい。
【0049】
前記その他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)、及びPU(ポリウレタン)のうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0050】
(磁性層)
【0051】
磁性層43は、例えば垂直記録層でありうる。磁性層43は、磁性粉を含みうる。磁性層43は、磁性粉に加えて、例えば、結着剤及び導電性粒子をさらに含みうる。磁性層43は、必要に応じて、例えば、潤滑剤、研磨剤、及び防錆剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0052】
磁性層43の厚みtは、好ましくは35nm≦t≦120nmであり、より好ましくは35nm≦t≦100nmであり、特に好ましくは35nm≦t≦90nmでありうる。磁性層43の厚みtが上記数値範囲内にあることが、電磁変換特性の向上に貢献する。
【0053】
磁性層43は、好ましくは垂直配向している磁性層である。本明細書内において、垂直配向とは、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)に測定した角形比S1が35%以下であることをいう。
なお、磁性層43は、面内配向(長手配向)している磁性層であってもよい。すなわち、磁気記録媒体10が水平記録型の磁気記録媒体であってもよい。しかしながら、高記録密度化という点で、垂直配向がより好ましい。
【0054】
(磁性粉)
【0055】
磁性層43に含まれる磁性粉をなす磁性粒子として、例えば、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、ガンマヘマタイト、マグネタイト、二酸化クロム、コバルト被着酸化鉄、六方晶フェライト、バリウムフェライト(BaFe)、Coフェライト、ストロンチウムフェライト、及びメタル(金属)などを挙げることができるが、これらに限定されない。前記磁性粉は、これらのうちの1種であってよく、又は、2種以上の組合せであってもよい。特に好ましくは、前記磁性粉は、ε酸化鉄磁性粉、バリウムフェライト磁性粉、コバルトフェライト磁性粉、又はストロンチウムフェライト磁性粉を含みうる。なお、ε酸化鉄はGa及び/又はAlを含んでいてもよい。これらの磁性粒子については、例えば、磁性層43の製造方法、テープの規格、及びテープの機能などの要因に基づいて当業者により適宜選択されてよい。
【0056】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)Dは、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、更により好ましくは10nm以上20nm以下でありうる。
【0057】
上記の磁性粉の平均粒子サイズDは、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法などにより加工して薄片を作製し、TEMにより薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM写真から500個のε酸化鉄粒子を無作為に選び出し、それぞれの粒子の最大粒子サイズdmaxを測定して、磁性粉の最大粒子サイズdmaxの粒度分布を求める。ここで、“最大粒子サイズdmax”とは、いわゆる最大フェレ径を意味し、具体的には、ε酸化鉄粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のものをいう。その後、求めた最大粒子サイズdmaxの粒度分布から最大粒子サイズdmaxのメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)Dとする。
【0058】
磁性粒子の形状は、磁性粒子の結晶構造に依拠している。例えば、BaFe及びストロンチウムフェライトは六角板状でありうる。ε酸化鉄は球状でありうる。コバルトフェライトは立方状でありうる。メタルは紡錘状でありうる。磁気記録媒体10の製造工程においてこれらの磁性粒子が配向される。
【0059】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、好ましくはε酸化鉄を含むナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末を含みうる。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保磁力を得ることができる。ε酸化鉄粒子に含まれるε酸化鉄は、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0060】
ε酸化鉄粒子は、微粒子でも高保磁力を得ることができる硬磁性粒子である。ε酸化鉄粒子は、球状を有しているか、または立方体状を有している。本明細書において、球状は、ほぼ球状を含むものとする。また、立方体状には、ほぼ立方体状を含むものとする。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、磁気記録媒体10の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粒子の分散性を高め、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0061】
ε酸化鉄粒子は、複合粒子の構造を有していてもよい。より具体的には、ε酸化鉄粒子は、ε酸化鉄部と、軟磁性を有する部分もしくは、ε酸化鉄より飽和磁化量σsが高く、保磁力Hcが小さい磁性を有する部分(以下「軟磁性を有する部分等」という。)とを備える。
【0062】
ε酸化鉄部は、ε酸化鉄を含む。ε酸化鉄部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Feからなるものがより好ましい。
【0063】
軟磁性を有する部分等は、少なくともε酸化鉄部と一部で接している。具体的には、軟磁性を有する部分等は、ε酸化鉄部を部分的に覆っていてもよいし、ε酸化鉄部の周囲全体を覆っていてもよい。
【0064】
軟磁性を有する部分(ε酸化鉄より飽和磁化量σsが高く、保磁力Hcが小さい磁性を有する部分)は、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、ε酸化鉄部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0065】
また、軟磁性を有する部分は、例えば、Fe、γ-Fe、またはスピネルフェライト等を含んでいてもよい。
【0066】
ε酸化鉄粒子が、上記のように軟磁性を有する部分等を備えることで、熱安定性を確保するためにε酸化鉄部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(複合粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。
【0067】
ε酸化鉄粒子が、上記複合粒子の構造に代えて添加剤を含んでいてもよいし、上記複合粒子の構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInからなる群より選ばれた少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaからなる群より選ばれた少なくとも1種である。
【0068】
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-x結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInからなる群より選ばれた少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaからなる群より選ばれた少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0069】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上20nm以下、より好ましくは10nm以上18nm以下、さらにより好ましくは10nm以上16nm以下、特に好ましくは10nm以上15nm以下、最も好ましくは10nm以上14nm以下である。磁気記録媒体10では、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粒子の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粒子の平均粒子サイズが20nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10(例えば40nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10)において、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子サイズが10nm以上であると、磁性粒子の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0070】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粒子の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粒子の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粒子を垂直配向させる際に、磁性粒子に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粒子の垂直配向性を向上することができる。
【0071】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープとの接続部から長手方向に30mから40mの位置で磁気記録媒体10を切り出す。続いて、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護層としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0072】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM像を撮影する。次に、撮影したTEM像から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粒子の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0073】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子体積は、好ましくは500nm以上4000nm以下、より好ましくは500nm以上3000nm以下、さらにより好ましくは500nm以上2000nm以下、特に好ましくは600nm以上1600nm以下、最も好ましくは600nm以上1300nm以下である。一般的に磁気記録媒体10のノイズは粒子個数の平方根に反比例(すなわち粒子体積の平方根に比例)するため、粒子体積をより小さくすることで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粒子の平均粒子体積が4000nm以下であると、磁性粒子の平均粒子サイズを20nm以下とする場合と同様に、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子体積が500nm以上であると、磁性粒子の平均粒子サイズを10nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0074】
ε酸化鉄粒子が球状を有している場合には、磁性粒子の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粒子の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粒子の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave
【0075】
ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合、磁性粒子の平均体積は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープLTとの接続部から長手方向に30mから40mの位置で磁気記録媒体10を切り出す。続いて、切り出された磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜およびタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0076】
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。次に、撮影したTEM像から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。
次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粒子の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
ave=DCave
【0077】
本技術の他の好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、バリウムフェライト(BaFe)磁性粉であってもよい。バリウムフェライト磁性粉は、バリウムフェライトを主相とする鉄酸化物の磁性粒子(以下「バリウムフェライト粒子」という。)を含む。バリウムフェライト磁性粉は、例えば、高温多湿環境でも抗磁力が落ちないなど、データ記録の信頼性が高い。このような観点から、バリウムフェライト磁性粉は、前記磁性粉として好ましい。
【0078】
バリウムフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、50nm以下、より好ましくは10nm以上40nm以下、さらにより好ましくは12nm以上25nm以下である。
【0079】
磁性層43が磁性粉としてバリウムフェライト磁性粉を含む場合、磁性層43の厚みt[nm]が、35nm≦t≦120nmであることが好ましい。また、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に測定した保磁力Hcが、好ましくは160kA/m以上280kA/m以下、より好ましくは165kA/m以上275kA/m以下、更により好ましくは170kA/m以上270kA/m以下である。
【0080】
本技術のさらに他の好ましい実施態様に従い、磁性粉は、コバルトフェライト磁性粉でありうる。コバルトフェライト磁性粉は、コバルトフェライトを主相とする鉄酸化物の磁性粒子(以下「コバルトフェライト磁性粒子」という。)を含む。コバルトフェライト磁性粒子は、一軸異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト磁性粒子は、例えば、立方体状又はほぼ立方体状を有している。コバルトフェライトは、Coを含むコバルトフェライトである。コバルトフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0081】
コバルトフェライトは、例えば、以下の式(1)で表される平均組成を有する。
CoFe・・・(1)
(但し、式(1)中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x及びyは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0082】
コバルトフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下である。コバルトフェライト磁性粉の保磁力Hcは、好ましくは2500Oe以上、より好ましくは2600Oe以上3500Oe以下である。
【0083】
本技術のさらに他の好ましい実施態様に従い、磁性粉が、六方晶フェライトを含有するナノ粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)の粉末を含みうる。六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状又はほぼ六角板状を有する。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種を含みうる。六方晶フェライトは、具体的には、例えば、バリウムフェライト又はストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外に、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外に、Ba、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe1219で表される平均組成を有しうる。ここで、Mは、例えば、Ba、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以上40nm以下、さらにより好ましくは15nm以上30nm以下である。
【0084】
(結着剤)
【0085】
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂などに架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体10に対して要求される物性などに応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体10において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0086】
前記結着剤として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、及び合成ゴムなどが挙げられる。
【0087】
また、前記結着剤として、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂が用いられてもよく、これらの例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、及び尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0088】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SOM、-OSOM、-COOM、P=O(OM)などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、又は、リチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0089】
更に、極性官能基としては、-NR1R2、-NR1R2R3の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、R3は、水素原子又は炭化水素基であり、Xは、弗素、塩素、臭素、若しくはヨウ素などのハロゲン元素イオン、又は、無機若しくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、及びエポキシ基なども挙げられる。
【0090】
(添加剤)
【0091】
磁性層43は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、β、又はγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)などをさらに含有していてもよい。
【0092】
(下地層)
【0093】
下地層42は、非磁性粉及び結着剤を主成分として含む非磁性層である。上述の磁性層43に含まれる結着剤に関する説明が、下地層42に含まれる結着剤についても当てはまる。下地層42は、必要に応じて、導電性粒子、潤滑剤、硬化剤、及び防錆剤などのうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0094】
下地層42の厚みは、好ましくは1.2μm以下、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下でありうる。また、下地層42の厚みの下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上である。
【0095】
(非磁性粉)
【0096】
下地層42に含まれる非磁性粉は、例えば、無機粒子及び有機粒子から選ばれる少なくとも1種を含みうる。1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、又は、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、及び金属硫化物から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせを含む。より具体的には、無機粒子は、例えば、オキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化チタン、及びカーボンブラックから選ばれる1種又は2種以上でありうる。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、及び板状などの各種形状が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0097】
(バック層)
【0098】
バック層44は、結着剤及び非磁性粉を含みうる。バック層44は、必要に応じて潤滑剤、硬化剤、及び帯電防止剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。上述の下地層42に含まれる結着剤及び非磁性粉について述べた説明が、バック層44に含まれる結着剤及び非磁性粉についても当てはまる。
【0099】
バック層44に含まれる無機粒子の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。無機粒子の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズDと同様にして求められる。
【0100】
バック層44の厚みtは、t≦0.6μmであることが好ましい。バック層44の厚みtが上記範囲内にあることで、磁気記録媒体10の厚みtをt≦5.6μmにした場合でも、下地層42及びベース層41の厚みを厚く保つことができ、これにより磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。
【0101】
(3)物性及び構造
【0102】
(60℃における磁気記録媒体の幅変化量ΔW)
【0103】
本技術においては、60℃における磁気記録媒体の幅変化量ΔWは、以下の手順で測定される。なお、測定温度60℃は、記録再生装置内のドライブ内温度の上限値に近い温度である。
【0104】
まず、磁気記録カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープとの接続部から10mから20m、30mから40m、及び50mから60mの3か所の位置からそれぞれ250mmの長さに切り出し、サンプル10Sを3つ作製する。
【0105】
次に、60℃環境下でサンプル10Sの長手方向に0.2N、0.6N、1.0Nの順で荷重をかけ、0.2N、0.6N、及び1.0Nの荷重におけるサンプル10Sの幅を3点測定する。続いて、以下の式より測定したサンプル10Sの幅変化量Δwを求める。なお、0.6Nの荷重をかけた場合の測定は、測定において異常が生じていないかを確認するため(特にはこれら3つの測定結果が直線的になっていることを確認するため)に行われるものであり、その測定結果は以下の式において用いられない。上記測定を切り出し位置の異なる3つのサンプル10Sに対して行い、得られた各サンプル10Sの幅変化量Δwの測定値を単純平均(算術平均)した平均値を磁気記録媒体10の幅変化量Δwとする。
【数1】
(但し、式中、D(0.2N)及びD(1.0N)はそれぞれ、サンプル10Sの長手方向に0.2N及び1.0Nの荷重をかけたときのサンプル10Sの幅を示す。)
【0106】
各荷重をかけたときのサンプル10Sの幅は以下のようにして測定される。まず、測定装置としてキーエンス社製のデジタル寸法測定器LS-7000を組み込んだ、図5Aに示す測定装置を準備し、この測定装置にサンプル10Sをセットする。具体的には、長尺状のサンプル(磁気記録媒体)10Sの一端を固定部231により固定する。次に、図5Aに示すとおり、サンプル10Sを、5本の略円柱状且つ棒状の支持部材232にセットする。サンプル10Sは、そのバック面が5本の支持部材232に接するように、これら支持部材にセットされる。5本の支持部材232(特にその表面)はいずれもステンレス鋼SUS304から形成されており、その表面粗さR(最大高さ)は0.15μm~0.3μmである。
【0107】
5本の棒状の支持部材232の配置を、図5Bを参照しながら説明する。図5Bに示されるとおり、サンプル10Sは、5本の支持部材232にセットされている。5本の支持部材232について、以下では、固定部231に最も近い方から「第1支持部材」、「第2支持部材」、「第3支持部材」(スリット232Aを有する)、「第4支持部材」、及び「第5支持部材」(重り233に最も近い)という。これら5本の支持部材の直径は、7mmである。第1支持部材と第2支持部材との距離d(特にはこれら支持部材の中心の間の距離)は20mmである。第2支持部材と第3支持部材との距離dは30mmである。第3支持部材と第4支持部材との距離dは30mmである。第4支持部材と第5支持部材との距離dは20mmである。また、サンプル10Sのうち第2支持部材、第3支持部材、及び第4支持部材の間にセットされている部分が、重力方向に対して略垂直の平面を形成するように、これら3つの支持部材は配置されている。また、サンプル10Sが、第1支持部材と第2支持部材との間では、前記略垂直の平面に対してθ=30°の角度を形成するように、第1支持部材及び第2支持部材は配置されている。さらに、サンプル10Sが、第4支持部材と第5支持部材との間では、前記略垂直の平面に対してθ=30°の角度を形成するように、第4支持部材及び第5支持部材は配置されている。
また、5本の支持部材232のうち、第3支持部材は回転しないように固定されているが、その他の4本の支持部材は全て回転可能である。
【0108】
サンプル10Sは、支持部材232上でサンプル10Sの幅方向に移動しないように保持される。なお、支持部材232のうち、発光器234及び受光器235の間に位置し且つ固定部231と荷重をかける部分とのほぼ中心に位置する支持部材232にはスリット232Aが設けられている。スリット232Aを介して発光器234から受光器235に光Lが照射されるようになっている。スリット232Aのスリット幅は1mmであり、光Lは、スリット232Aの枠に遮られることなく、当該幅を通り抜けられる。
【0109】
続いて、温度60℃、相対湿度40RH%の一定環境下に制御されたチャンバー内(ESPEC社製、型番:PDR-3J)に測定装置を収容した後、サンプル10Sの他端に、0.2Nの荷重をかけるための重り233を取り付け、サンプル10Sを上記環境内に3時間置く。3時間置いた後に、サンプル10Sの幅を測定する。次に、0.2Nの荷重をかけるための重りを、0.6Nの荷重をかけるための重りに変更し、当該変更の5分後にサンプル10Sの幅を測定する。最後に、1.0Nの荷重をかけるための重りに変更し、当該変更の5分後にサンプル10Sの幅を測定する。以上のとおり、重り233の重さを調整することによりサンプル10Sの長手方向に加わる荷重を変化させることができる。各荷重が加えられた状態で、発光器234から受光器235に向けて光Lを照射し、長手方向に荷重が加えられたサンプル10Sの幅を測定する。当該幅の測定は、サンプル10Sがカールしていない状態で行われる。発光器234及び受光器235は、デジタル寸法測定器LS-7000に備えられているものである。
【0110】
(磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間(テープ追随時間))
【0111】
図6に示すように、所定の温度環境下において湿度を変化させた後にサンプル10Sの幅が安定するまでの時間(テープ追随時間とも称す)を求め、湿度変化開始時間からサンプル10Sの幅が安定するまでの時間をサンプル10Sの幅が安定するまでの時間とする。このサンプル10Sの幅が安定する時間は、サンプル10Sが湿度変化へ追随する時間ともいう。幅が安定するまでの時間を求める方法を以下に説明する。
【0112】
まず、磁気記録カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープとの接続部から10mから20m、30mから40m、及び50mから60mの3か所の位置からそれぞれ250mmの長さに新たに切り出し、サンプル10Sを3つ作製する。すなわち、幅変化量ΔWの測定に際し、切り出したサンプル10Sとは別のサンプル10Sを新たに切り出す。測定に使用する測定装置は、上記磁気記録媒体の幅変化量ΔWの測定で使用するものと同じである。幅変化量ΔWの測定値の算出と同様に、切り出し位置の異なる3つのサンプル10Sについてそれぞれ測定を行い、得られた各サンプル10Sの測定値を単純平均(算術平均)した平均値を磁気記録媒体10の幅が安定するまでの時間(テープ追随時間)とする。
【0113】
図6は、幅変化量測定ΔWにおける温度、湿度の設定状況を示す図である。前記測定装置を温度10℃、相対湿度10RH%の一定環境に制御されたチャンバー内(ESPEC社製、型番:PDR-3J)に収容する。次に、サンプル10Sの長手方向に荷重をかけ、長手方向に0.55Nでサンプル10Sが引っ張られた状態となるようにして、上記環境中に3時間置く。図6に示すように、温度10℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させ、サンプル10Sの幅を3時間測定する。相対湿度上昇速度は設定せず、相対湿度上昇速度は恒温槽の機能に任せることとするが、最大で4.3RH%/分程度となる。その後、図6に示すようにチャンバー内を温度35℃、相対湿度10RH%の環境に制御し、上記環境中にサンプル10Sを3時間置く。温度35℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させ、サンプル10Sの幅を3時間測定する。相対湿度上昇速度は設定せず、相対湿度上昇速度は恒温槽の機能に任せることとするが、最大で4.3RH%/分程度となる。その後、図6に示すようにチャンバー内を温度60℃、相対湿度10RH%の環境に制御し、上記環境中にサンプル10Sを3時間置く。温度60℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させサンプル10Sの幅を3時間測定する。相対湿度上昇速度は設定せず、相対湿度上昇速度は恒温槽の機能に任せることとするが、最大で4.3RH%/分程度となる。
【0114】
図7~9は、温度10℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させた場合の測定時間とサンプル10Sの幅との関係を示す図である。図7は温度10℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させた場合の測定時間とサンプル10Sの幅との関係を示す図であり、図8は点線で囲んだ部分の拡大図であり、図9は点線部分をさらに拡大した図である。
【0115】
サンプル10Sの幅測定において、幅変化が±0.05μm以内に6分間連続でなった時点で、幅が安定した最初の時間を安定までに要した時間とし、10RH%から湿度を切り替え始めた最初の時点(0分)から安定までに要した時間までをサンプル10S(磁気記録媒体)の幅が安定するまでの時間(テープ追随時間)とする。例えば、温度10℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させた場合、図7~9に示されるように10RH%から湿度を切り替え始めた最初の時点が3.0時間であり、幅変化が±0.05μm以内となった最初の時間が、3.2時間なので、幅が安定するまでの時間は、以下の式より12分となる。
幅が安定するまでの時間=(3.2-3.0)×60=12分
【0116】
(磁気記録媒体の平均厚み(平均全厚)t
【0117】
磁気記録媒体10の平均厚み(平均全厚)tは以下のようにして求められる。まず、磁気記録カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープLTとの接続部から10mから20m、30mから40m、及び50mから60mの3か所の位置からそれぞれ250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプルの異なる場所の厚みを5点以上測定し、それらの測定値を単純平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。
【0118】
(非磁性層の厚み)
【0119】
磁気記録媒体10を、その主面に対して垂直に薄く加工して試験片を作製し、その試験片の断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察を行う。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向で少なくとも10点以上の位置で非磁性層(下地層)42の厚みを測定した後、それらの測定値を単純平均(算術平均)して非磁性層(下地層)42の厚み(μm)とする。
【0120】
(ベース層の厚み)
【0121】
ベース層41の厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、磁気記録カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープLTとの接続部から10mから20m、30mから40m、及び50mから60mの3か所の位置からそれぞれ250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルのベース層41以外の層を、例えば、MEK(メチルエチルケトン)等の溶剤や希塩酸等で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプル(ベース層41)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)してベース層41の厚み[μm]とする。
【0122】
(バック層の厚み)
【0123】
バック層44の厚みtは以下のようにして求められる。まず、磁気記録カートリッジ10Aに収容された磁気記録媒体10を巻き出し、磁気記録媒体10とリーダーテープLTとの接続部から10mから20m、30mから40m、及び50mから60mの3か所の位置からそれぞれ250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプルの異なる場所の厚みを5点以上測定し、それらの測定値を単純平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。続いて、サンプルのバック層44をMEK(メチルエチルケトン)等の溶剤や希塩酸等で除去した後、再び上記のレーザーホロゲージを用いてサンプルの異なる場所の厚みを5点以上測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して平均値t[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層44の厚みt[μm]を求める。
[μm]=t[μm]-t[μm]
【0124】
(磁性層の厚みt
【0125】
磁性層43の厚みtは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10を、その主面に対して垂直に薄く加工して試験片を作製し、その試験片の断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察を行う。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向で少なくとも10点以上の位置で磁性層43の厚みを測定した後、それらの測定値を単純平均(算術平均)して磁性層43の厚みt(nm)とする。
【0126】
(4)磁気記録媒体の製造方法
【0127】
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体10の製造方法について説明する。まず、非磁性粉及び結着剤などを溶剤に混練及び/又は分散させることにより、非磁性層(下地層)形成用塗料を調製する。次に、磁性粉及び結着剤などを溶剤に混練及び/又は分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料及び非磁性層(下地層)形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置、及び混練装置を用いることができる。
【0128】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;例えば、メタノール、エタノール、及びプロパノールなどのアルコール系溶媒;例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、及びエチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;並びに、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、及びクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらのうちの1つが用いられてもよく、又は、2以上の混合物が用いられてもよい。
【0129】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、及びロールニーダーなどの混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」など)、ホモジナイザー、及び超音波分散機などの分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0130】
次に、非磁性層(下地層)形成用塗料をベース層41の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層42を形成する。続いて、この下地層42上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層43を下地層42上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉をベース層41の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えば、ソレノイドコイルにより、磁性粉をベース層41の長手方向(走行方向)に磁場配向させたのちに、ベース層41の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このような磁場配向処理をすることで、垂直方向における保持力「Hc1」と長手方向における保持力「Hc2」との比Hc2/Hc1を低くすることができ、磁性粉の垂直配向度を向上させることができる。磁性層43の形成後、ベース層41の他方の主面にバック層44を形成する。これにより、磁気記録媒体10が得られる。
【0131】
比Hc2/Hc1は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料中の固形分の濃度、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保持力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。比Hc2/Hc1をさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも好ましい。なお、比Hc2/Hc1の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合されて使用されてもよい。
【0132】
その後、得られた磁気記録媒体10を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。最後に、磁気記録媒体10に対してカレンダー処理を行った後、所定の幅(例えば、1/2インチ幅)に裁断する。以上により、目的とする細長い長尺状の磁気記録媒体10が得られる。
【0133】
(5)記録再生装置の例
【0134】
[記録再生装置の構成]
【0135】
次に、図10を参照して、上述の構成を有する磁気記録媒体10の記録及び再生を行う記録再生装置30の構成の一例について説明する。図10は、記録再生装置30を示す図である。記録再生装置30は、磁気記録媒体10にデータを記録し、又は、磁気記録媒体10に記録されたデータを再生することが可能なデータ記録/再生装置である。
【0136】
図10に示すように、記録再生装置30は、カートリッジ10Aを装填可能に構成されている。記録再生装置30は、1つのカートリッジ10Aを装填可能に構成されるが、複数のカートリッジ10Aを同時に装填可能に構成されてもよい。
【0137】
記録再生装置30は、スピンドル31と、巻取りリール32と、スピンドル駆動装置33と、リール駆動装置34と、複数のガイドローラ35と、ドライブヘッド36と、リーダライタ37と、制御装置38とを備える。記録再生装置30は、温度計39、湿度計40などをさらに備えてもよい。
【0138】
スピンドル31は、カートリッジ10Aの下シェル11bに形成された開口部14を介してテープリール13のチャッキングギヤに係合するヘッド部を有する。スピンドル31は、リールスプリング16の付勢力に抗してテープリール13を所定距離上昇させ、リールロック部材17によるリールロック機能を解除する。これによりテープリール13は、スピンドル31によりカートリッジケース11の内部において回転可能に支持される。
【0139】
スピンドル駆動装置33は、制御装置38からの指令に応じて、スピンドル31を回転させる。巻取りリール32は、テープローディング機構(不図示)を介してカートリッジ10Aから引き出された磁気記録媒体10の先端(リーダーピン22)を固定可能に構成される。
【0140】
複数のガイドローラ35は、カートリッジ10Aと巻取りリール32との間に形成されるテープパスがドライブヘッド36に対して所定の相対位置関係となるように磁気記録媒体10の走行をガイドする。リール駆動装置34は、制御装置38からの指令に応じて、巻取りリール32を回転させる。
【0141】
磁気記録媒体10に対してデータの記録/再生が行われるとき、スピンドル駆動装置33及びリール駆動装置34により、スピンドル31及び巻取りリール32が回転し、磁気記録媒体10が走行する。磁気記録媒体10の走行方向は、図10において矢印A1で示す順方向(テープリール13側から巻取りリール32側へ巻き出す方向)、及び、矢印A2で示す逆方向(巻取りリール32側からテープリール13側へ巻き戻す方向)での往復が可能とされている。
【0142】
なお、本実施形態では、スピンドル駆動装置33によるスピンドル31の回転、及びリール駆動装置34による巻取りリール32の回転の制御により、データ記録/再生時における磁気記録媒体10の長手方向(X軸方向)でのテンションが調整可能とされる。磁気記録媒体10のテンションの調整は、スピンドル31、巻取りリール32の回転の制御に代えて(あるいは、この制御に加えて)、ガイドローラ35の移動の制御、ダンサーローラを含むテンション制御ユニット等により行われてもよい。
【0143】
磁気記録媒体10の走行時のテンションは、典型的には、後述するサーボパターン記録装置100によって磁気記録媒体10へサーボパターン6を記録したときのテンションと同じ値(以下、基準テンションともいう)に設定される。また、記録再生装置30がテンション調整可能に構成されることで、磁気記録媒体10の内部歪や経時変化に起因する磁気記録媒体10の幅寸法の変化にも対応可能となる。具体的には、磁気記録媒体10の幅寸法が広がる方向に変化した場合にはテンションを基準テンションよりも高く調整し、サーボバンドピッチが狭まる方向に変化した場合にはテンションを基準テンションよりも低く調整する。サーボパターン記録時の基準テンションや基準テンション時における磁気記録媒体10の幅寸法等に関する情報は、カートリッジメモリ9に格納される。
【0144】
リーダライタ37は、制御装置38からの指令に応じて、カートリッジメモリ9に対して管理情報を記録することが可能に構成されている。また、リーダライタ37は、制御装置38からの指令に応じて、カートリッジメモリ9から管理情報を読み出すことが可能に構成されている。管理情報としては、テープカートリッジ10A及び磁気記録媒体10の製品情報、使用履歴情報、磁気記録媒体01に記録されている情報の概要などが挙げられる。製品情報には、製造情報、磁気記録媒体10の記録トラック5の数、ID等の固有情報が含まれる。使用履歴情報としては、アクセス日時、アドレス情報、リーダライタ37との通信履歴、記録再生装置30に対するローディング/アンローディング時の異常の有無等が含まれる。リーダライタ37とカートリッジメモリ9との間の通信方式としては、例えば、ISO14443方式が採用される。
【0145】
制御装置38は、例えば、制御部、記憶部、通信部などを含む。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等により構成されており、記憶部に記憶されたプログラムに従い、記録再生装置30の各部を統括的に制御する。
【0146】
記憶部は、各種のデータや各種のプログラムが記録される不揮発性のメモリと、制御部の作業領域として用いられる揮発性のメモリとを含む。上記各種のプログラムは、光ディスク、半導体メモリ等の可搬性の記録媒体から読み取られてもよいし、ネットワーク上のサーバ装置からダウンロードされてもよい。記憶部は、リーダライタ37から読み出されたカートリッジメモリ9の情報、温度計39及び湿度計40の出力等を一時的に又は非一時的に記憶する。通信部は、PC(Personal Computer)、サーバ装置等の他の装置との間で互いに通信可能に構成されている。
【0147】
ドライブヘッド36は、制御装置38からの指令に応じて、磁気記録媒体10に対してデータを記録することが可能に構成されている。また、ドライブヘッド36は、制御装置38からの指令に応じて、磁気記録媒体10に書き込まれたデータを再生することが可能に構成されている。
【0148】
ドライブヘッド36は、例えば、2つのサーボリードヘッド、複数のデータライト/リードヘッド等を有するヘッドユニットで構成される。図11は、ドライブヘッド36を下側(テープ走行面)から見た概略図である。
【0149】
図11に示すように、ドライブヘッド36は、第1のドライブヘッド部36aと、第2のドライブヘッド部36bとを含む。第1のドライブヘッド部36a及び第2のドライブヘッド部36bは、X'軸方向(磁気記録媒体10の走行方向(図2においてX軸方向))で対称に構成されている。第1のドライブヘッド部36a及び第2のドライブヘッド部36bは、Y'軸方向(磁気記録媒体10の幅方向(図2においてY軸方向))に移動可能に構成されている。
【0150】
第1のドライブヘッド部36aは、磁気記録媒体10が順方向(図10においてA1方向)に走行しているときに使用されるドライブヘッドである。一方、第2のドライブヘッド部36bは、磁気記録媒体10が逆方向(図10においてA2方向)に走行しているときに使用されるドライブヘッドである。第1のドライブヘッド部36a及び第2のドライブヘッド部36bは、基本的に同様の構成であるため、第1のドライブヘッド部36aについて代表的に説明する。
【0151】
第1のドライブヘッド部36aは、ヘッド本体131と、2つのサーボリードヘッド132と、複数のデータライト/リードヘッド133とを有する。
【0152】
サーボリードヘッド132は、磁気記録媒体10のサーボバンドsに記録された磁気的情報から発生する磁束をMR素子(MR:Magneto Resistive effect)などにより読み取ることで、サーボ信号を再生可能に構成されている。つまり、サーボリードヘッド132により、サーボバンドs上に記録されたサーボパターン6が読み取られることで、サーボ信号が再生される。
【0153】
サーボリードヘッド132は、ヘッド本体131における幅方向(図11においてY'軸方向)の両端側にそれぞれ1つずつ設けられる。MR素子としては、異方性磁気抵抗効果素子(AMR:Anisotropic Magneto Resistive effect)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR:Giant Magneto Resistive effect)、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR:Tunnel Magneto Resistive effect)などを含む。2つのサーボリードヘッド132の幅方向(Y'軸方向)における間隔であるサーボリードヘッドピッチP1は、磁気記録媒体10における隣接する2つのサーボバンドs間の距離(サーボバンドピッチ)の規格値の中心値(2858.8μm)に設定される。
【0154】
データライト/リードヘッド133は、幅方向(Y'軸方向)に沿って、等間隔に配置されている。また、データライト/リードヘッド133は、2つのサーボリードヘッド132に挟み込まれる位置に配置されている。データライト/リードヘッド133の数は、例えば、20個~40個程度とされるが、この個数ついては特に限定されず、本実施形態では、32個(32チャンネル)である。
【0155】
データライト/リードヘッド133は、データライトヘッド134と、データリードヘッド135とを含む。データライトヘッド134は、磁気ギャップから発生する磁界によって、磁気記録媒体10のデータバンドdに対してデータ信号を記録することが可能に構成されている。また、データリードヘッド135は、磁気記録媒体10のデータバンドdに記録された磁気的情報から発生する磁界をMR素子などにより読み取ることで、データ信号を再生可能に構成されている。MR素子としては、異方性磁気抵抗効果素子(AMR)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR)、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR)などを含む。
【0156】
第1のドライブヘッド部36aにおいては、データライトヘッド134が、データリードヘッド135の左側(磁気記録媒体10が順方向に流れる場合の上流側)に配置される。一方、第2のドライブヘッド部36bにおいては、データライトヘッド134が、データリードヘッド135の右側(磁気記録媒体10が逆方向に流れる場合の上流側)に配置される。なお、データリードヘッド135は、データライトヘッド134が磁気記録媒体10にデータ信号を書き込んだ直後に、このデータ信号を再生可能とされている。なお上記に代えて、第1のドライブヘッド部36aのデータライトヘッド134で書き込まれたデータ信号が、第2のドライブヘッド部36bのデータリードヘッド135で再生されてもよい。
【0157】
図12は、第1のドライブヘッド部36aがデータ信号の記録/再生を行っているときの様子を示す図である。なお、図12に示す例では、磁気記録媒体10が順方向(A1方向)に走行しているときの様子が示されている。
【0158】
図12に示すように、第1のドライブヘッド部36aがデータ信号の記録/再生を行うとき、2つのサーボリードヘッド132のうち一方のサーボリードヘッド132は、隣接する2つのサーボバンドsのうち一方のサーボバンドs上に位置し、このサーボバンドs上のサーボパターン6を読み取る。また、2つのサーボリードヘッド132のうち他方のサーボリードヘッド132は、隣接する2つのサーボバンドsのうち他方のサーボバンドs上に位置し、このサーボバンドs上のサーボパターン6を読み取る。
【0159】
制御装置38は、サーボパターン6の再生波形に基づいて、サーボリードヘッド132が、目的とするサーボトレースラインT(図4参照)上を正確にトレースしているかどうかを判定する。
【0160】
この原理について説明する。図4に示すように、サーボパターン6における第1のストライプ群61と、第2のストライプ群62とでは、幅方向(Y軸方向)に対して傾斜する方向が逆となっている。このため、上側のサーボトレースラインTでは、第1のストライプ群61と第2のストライプ群62との間の長手方向(X軸方向)での距離は、相対的に狭くなっている。一方、下側のサーボトレースラインT上では、第1のストライプ群61と、第2のストライプ群62との間の長手方向(X軸方向)での距離は、相対的に広くなっている。このため、第1のストライプ群61の再生波形が検出された時刻と、第2のストライプ群62の再生波形が検出された時刻との差を求めれば、サーボリードヘッド132が磁気記録媒体10に対して幅方向(Y軸方向)で、現在どの位置に位置するかが分かる。
【0161】
従って、制御装置38は、サーボパターン6の再生波形に基づいて、目的とするサーボトレースラインT上をサーボリードヘッド132が正確にトレースしているかどうかを判定することができる。そして、制御装置38は、目的とするサーボトレースラインT上をサーボリードヘッド132が正確にトレースしていない場合には、ドライブヘッド36を幅方向(Y'軸方向)に移動させて、ドライブヘッド36の位置あるいはトラッキングを調整する。なお、サーボリードヘッド132がトレースするサーボトレースラインTの測定方法については後述する(図12,13参照)。
【0162】
図12に戻り、データライト/リードヘッド133は、磁気記録媒体10の走行時に磁気記録媒体10が幅方向に変動した場合、サーボトレースラインTに沿うように位置を調整し、記録トラック5内にデータ信号を記録する。
【0163】
磁気記録媒体10がテープカートリッジ10Aから全て引き出されると、今度は、逆方向(A2方向)に磁気記録媒体10が走行される。このとき、ドライブヘッド36として、第2のドライブヘッド部36bが使用される。サーボトレースラインTは、先ほどのサーボトレースラインTに隣接するサーボトレースラインTが使用される。この場合、ドライブヘッド36は、幅方向(Y'軸方向)において、サーボトレースラインTの間隔Ps分(=記録トラック幅Wd分)、移動される。この場合、先ほどデータ信号が記録された記録トラック5に隣接する記録トラック5に対して、第2のドライブヘッド部36bのデータライトヘッド134によってデータ信号が記録される。
【0164】
このように、磁気記録媒体10は、順方向及び逆方向に走行方向が変えられて何往復もされながら、記録トラック5に対してデータ信号が記録される。例えば、サーボトレースラインTの本数が、100本であり、第1のドライブヘッド部36a(あるいは、第2のドライブヘッド部36b)に含まれるデータライト/リードヘッド133の数が32個の場合を想定する。この場合、1本のデータバンドdに含まれる記録トラック5の本数は、100×32で3200本であり、この記録トラック5すべてにデータ信号を記録するためには、磁気記録媒体10を50往復させることになる。
【0165】
(サーボパターン)
【0166】
続いて、サーボパターン6の詳細について説明する。
サーボパターン6は、「ECMA-319規格」に準拠したデータ構造を有する。図13(A)はサーボパターン6の配置例を示す概略平面図、図13(B)はその再生波形を示す図である。
【0167】
タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボでは、サーボパターンは、2種以上の異なる形状の複数の方位角傾斜(azimuthal slope)パターンを含む。異種の形状の2つの傾斜パターンを読み取った時間間隔と、同種の形状の2つの傾斜パターンを読み取った時間間隔とにより、サーボリードヘッド132の位置を認識する。こうして認識されたサーボリードヘッド132の位置に基づき、磁気記録媒体10の幅方向(Y軸方向)におけるドライブヘッド36の位置が制御される(図11,12参照)。
【0168】
図13(A)に示すように、サーボパターン6は、第1サーボサブフレームSSF1と、第2サーボサブフレームSSF2とを有するサーボフレームSFを形成する。サーボフレームSFは、テープ長手方向に沿って所定の間隔をおいて磁気記録媒体10の長手方向に配列される。各サーボフレームSFは、「1」又は「0」の一つのビットを符号化する。つまり、1つのサーボフレームSFは、1ビットに相当する。
【0169】
第1サーボサブフレームSSF1は、Aバースト6aとBバースト6bとにより構成される。Aバースト6aは、テープ長手方向に対して第1の方向に傾斜した5本の直線パターン(図4における第1のストライプ群61に相当)からなり、Bバースト6bは、テープ長手方向に上記第1の方向とは逆の第2の方向に傾斜した5本の直線パターン(図4における第2のストライプ群62に相当)からなる。
【0170】
一方、第2サーボサブフレームSSF2は、Cバースト6cとDバースト6dとにより構成される。Cバースト6cは、上記第1の方向に傾斜した4本の直線パターン(図4における第1のストライプ群61に相当)からなり、Dバースト6dは、上記第2の方向に傾斜した4本の直線パターン(図4における第2のストライプ群62に相当)からなる。
【0171】
サーボフレームSF及び各サーボサブフレームSSF1,SSF2の長さ、各バースト6a~6dを傾斜する傾斜部の配列間隔等は、磁気記録媒体の種類や仕様等に応じて任意に設定可能である。
【0172】
サーボパターン6の再生波形は、典型的には図13(B)に示すようなバースト波形を示し、信号S6aはAバースト6aに、信号S6bはBバースト6bに、信号S6cはCバースト6cに、そして、信号S6dはDバースト6dに、それぞれ相当する。
【0173】
タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングサーボでは、一のデータバンドに隣接する2つのサーボバンド上のサーボパターン6を読み取ることで、位置誤差信号(PES:Position Error Signal)を生成し、当該データバンド内の記録トラックに対する記録再生ヘッドを適切に位置決めする。典型的には、所定速度で走行する磁気記録媒体10からサーボパターン6を読み取り、互いに同種形状の傾斜パターンの配列体であるAバースト6aとCバースト6cとの間の距離(時間間隔)ACと、互いに異種形状の傾斜パターンの配列体であるAバースト6aとBバースト6bとの間の距離(時間間隔)ABとの比(あるいは、Cバースト6cとAバースト6aとの距離CAと、Cバースト6cとDバースト6dとの距離CDとの比)を算出し、その値が記録トラックごとに定められた設定値となるようにドライブヘッド36をテープ幅方向(Y'軸方向)に移動させる(図12参照)。
【0174】
(データバンドの特定)
【0175】
各サーボバンドs(s0~s4)には、各データバンドについて異なる組み合わせのサーボバンド識別情報が書き込まれる。例えば、データバンドd0に隣接する2つのサーボバンドs2,s3から得られるサーボバンド識別情報の組み合わせは、データバンドd1に隣接するサーボバンドs1,s2から得られるサーボバンド識別情報の組み合わせと、データバンドd2に隣接するサーボバンドs3,s4から得られるサーボバンド識別情報の組み合わせと、データバンドd3に隣接する2つのサーボバンドs0,s1から得られるサーボバンド識別情報の組み合わせと、それぞれ異なる。このように、一のデータバンドに隣接する2つのサーボバンドから得られるサーボバンド識別情報を、他のデータバンドに隣接する2つのサーボバンドから得られるサーボバンド識別情報と異ならせることにより、個々のデータバンドの特定が可能となる。
【0176】
本実施形態においては、記録再生するべきデータバンドd0~d4を特定するために、2種類のサーボバンドが用いられる。上述のように、サーボバンドには、サーボバンド識別情報が埋め込まれる。サーボバンド識別情報は、複数ビットの情報であり、典型的には、4ビットであるが、8ビットであってもよいし、4ビット及び8ビット以外の他の複数ビットであってもよい。
【0177】
本実施形態において、上記2種類のサーボバンドは、第1のサーボバンド識別情報が記録される第1のサーボバンドと、第2のサーボバンド識別情報が記録される第2のサーボバンドとを有する。第1のサーボバンド識別情報は、4ビットの情報(例えば「1001」)であり、第2のサーボバンド識別情報は、第1のサーボバンド識別情報とは異なる4ビットの情報(例えば「0111」)である。
【0178】
第1及び第2のサーボバンド識別情報を構成する符号「0」、「1」の組み合わせは、サーボパターン6の再生波形から識別される。つまり、サーボパターン6の再生波形は、符号「0」、「1」の変調波に相当し、当該再生波形を復調し、且つ、例えば4ビット組み合わせることで、第1及び第2のサーボバンド識別情報が読み出される。以下、第1及び第2のサーボバンド識別情報について、図14及び図15を参照して説明する。
【0179】
図14(A),(B)は、第1のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(以下、第1のサーボパターン601ともいう)及び第2のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(以下、第2のサーボパターン602ともいう)の構成例を示す概略図である。同図に示すように、第1のサーボパターン601及び第2のサーボパターン602はいずれも、一方の符号(例えば「1」)を表すサーボフレームSF1と、他方の符号(例えば「0」)を表すサーボフレームSF0とを含む2種のサーボフレームSFの組み合わせからなる。各サーボフレームSF1,SF0は、第1サーボサブフレームSSF1及び第2サーボサブフレームSSF2からなるサーボフレームSFを構成単位とする点で共通するが、第1サーボサブフレームSSF1(Aバースト6a及びBバースト6b)が相互に異なる。
【0180】
図14(A)に示すように、符号「1」を表すサーボフレームSF1においては、Aバースト6a及びBバースト6bをそれぞれ構成する5本の傾斜パターンを図中左側から順に第1傾斜部、第2傾斜部、第3傾斜部、第4傾斜部及び第5傾斜部としたとき、第2、第4傾斜部がそれぞれ第1、第5傾斜部側に偏った位置に配置される。これに対して、図14(B)に示すように、符号「0」を表すサーボフレームSF0においては、Aバースト6a及びBバースト6bを構成する傾斜パターンの一部の配列間隔がサーボフレームSF1と異なっている。図示の例では、Aバースト6a及びBバースト6bをそれぞれ構成する5本の傾斜パターンは、第2、第4傾斜部がそれぞれ第3傾斜部側に偏った位置に配置される。このため、サーボフレームSF0におけるAバースト6a及びBバースト6bについては、第2傾斜部と第3傾斜部、並びに第3傾斜部と第4傾斜部との間隔が最も小さく、第1傾斜部と第2傾斜部、並びに第4傾斜部と第5傾斜部との間隔が最も大きくなっている。
【0181】
図15(A),(B)は、第1のサーボパターン601及び第2のサーボパターン602の再生波形SP1,SP2をそれぞれ示している。各サーボフレームSF1,SF0の再生波形は、各バースト部6a~6d各々の傾斜部に対応する位置にピークを有するバースト信号で構成される。上述のように、サーボフレームSF0については、Aバースト6a及びBバースト6bの構成がサーボフレームSF1のAバースト6a及びBバースト6bと異なるため、その異なる傾斜部の間隔に対応してバースト信号S6a及びS6bのピーク位置にずれが生じる。したがって、このピーク位置のずれが生じている部位とそのずれ量、ずれ方向を検出することにより、サーボフレームSFに書き込まれた情報の読み出しが可能となる。ここでは例えば、図15(A)に示すサーボフレームSF1が1つのビット「1」を表し、図15(B)に示すサーボフレームSF0が他の1つのビット「0」を表す。これら2つのサーボフレームSF1,SF0を任意に例えば4ビット組み合わせることで、第1及び第2のサーボバンド識別情報を構成することができる。
【0182】
(サーボバンドピッチの測定方法)
【0183】
続いて、磁気記録媒体10のサーボバンドピッチの測定方法について説明する。サーボバンドピッチの測定は、温度25℃±3℃、湿度50%±5%の環境下で行う。
ここで、サーボバンドピッチとは、1つのデータバンド(例えば、データバンドd0)に隣接する2つのサーボバンド(サーボバンドs2、s3)間の距離を示す指標である。より詳細には、サーボバンドピッチとは、上記2つのサーボバンドのうち一方のサーボバンドに記録されたサーボパターンの中心と他方のサーボバンドに記録されたサーボパターンの中心との間の距離をいう。また以下の説明では、サーボバンドピッチを、サーボリードヘッドピッチP1(図11参照)との差分という意味で用いる場合もある。
【0184】
サーボバンドピッチは、記録再生装置30により測定される。ここでは図16に示すように、サーボバンドs2とサーボバンドs3との間に挟まれたデータバンドd0をドライブヘッド36がトラッキングする例について説明する。
【0185】
記録再生装置30を用いたサーボバンドピッチの測定方法は、上述のように、記録再生装置30によって磁気記録媒体10を走行させ、2つのサーボリードヘッド132の各サーボバンド上でのサーボトレースラインTをそれぞれ測定し、測定した各サーボトレースラインTのサーボパターン6に対する相対位置からサーボバンドピッチを測定する。
【0186】
図16において実線で示すサーボトレースラインTの間隔は、磁気記録媒体10の幅が変化していないときのサーボバンドピッチ(ドライブヘッド36の2つのサーボリードヘッド132の配置間隔であるサーボリードヘッドピッチP1)を示している。また、図16において破線で示すサーボトレースラインTの間隔は、磁気記録媒体10の幅が広がったときのサーボバンドピッチ(P2)に相当する。
【0187】
図17は、サーボトレースラインTの測定方法を説明する図である。記録再生装置30は、サーボパターン6に対するサーボトレースラインTの位置に応じた波形のサーボ再生信号を出力する(図15参照)。典型的には、互いに同種形状の傾斜パターンの配列体であるAバーストおよびCバースト間の距離ACと、互いに異種形状の傾斜パターンの配列体であるAバーストおよびBバースト間の距離ABとを算出し、下記[数2]式で各サーボリードヘッド132のサーボトレースラインTの位置を測定する。なお、θは、図4おける角度αに相当する上記各傾斜パターンのアジマス角であり、本例では、12°とする。
【0188】
【数2】
【0189】
ここで、距離ACは、AバーストおよびCバーストの第1傾斜部同士の間の距離AC1でもよいし、それらの第2傾斜部同士の間の距離AC2でもよいし、それらの第3傾斜部同士の間の距離AC3でもよいし、それらの第4傾斜部同士の間の距離AC4でもよい。これらの距離AC(AC1~AC4)は、サーボ再生波形における振幅の正の最大値を示す位置(上ピーク位置)間の距離をいう。
【0190】
距離ABについても同様に、AバーストおよびBバーストの第1傾斜部同士の間の距離AB1でもよいし、それらの第2傾斜部同士の間の距離AB2でもよいし、それらの第3傾斜部同士の間の距離AB3でもよいし、それらの第4傾斜部同士の間の距離AB4でもよい。典型的には、距離AC1が採用される場合は距離AB1が採用され、距離AC2が採用される場合は距離AB2が採用され、距離AC3が採用される場合は距離AB3が採用され、距離AC4が採用される場合は距離AB4が採用される。
【0191】
そして、[数2]式を用いて算出された、距離ABおよび距離ACの割合から求められるサーボパターン上の各サーボトレースラインTの位置を表す数値の差分から、サーボバンドピッチを求める。ここでは、測定する2つのサーボバンドのうち、テープエッジ側のサーボバンド(サーボバンドs3)の測定値からの、テープ中央側のサーボバンド(サーボバンドs2)の測定値の差分をとる。その値の正負は、テープ幅の変化の方向を意味し、正の場合はサーボバンドピッチが狭まったことに相当し、負の場合はサーボバンドピッチが広がったことに相当する。上記差分がゼロの場合は、テープ幅の変動が無いことを意味する。
【0192】
サーボバンドピッチは、多数のサーボフレームの差分から求めることが好ましく、例えば、100~100000個のサーボフレームの差分から計算される測定値の平均値であってもよい。測定時におけるテープテンションは、サーボパターン6の記録時のテンション(基準テンション、例えば、0.55N)とし、磁気記録媒体10の全長にわたって一定のテンションで測定を行う。
【0193】
なお、サーボトレースラインTの測定方法は上記の例に限られず、例えば、CバーストおよびAバースト間の距離CAと、CバーストおよびDバースト間の距離CDとを算出し、下記[数3]式でサーボトレースラインTの位置を測定してもよい。
【0194】
【数3】
【0195】
ここで、距離CAは、CバーストおよびAバーストの第1傾斜部同士の間の距離CA1でもよいし、それらの第2傾斜部同士の間の距離CA2でもよいし、それらの第3傾斜部同士の間の距離CA3でもよいし、それらの第4傾斜部同士の間の距離CA4でもよい。これらの距離CA(CA1~CA4)は、サーボ再生波形における振幅の正の最大値を示す位置間の距離をいう。
【0196】
距離CDについても同様に、CバーストおよびDバーストの第1傾斜部同士の間の距離CD1でもよいし、それらの第2傾斜部同士の間の距離CD2でもよいし、それらの第3傾斜部同士の間の距離CD3でもよいし、それらの第4傾斜部同士の間の距離CD4でもよい。典型的には、距離CA1が採用される場合は距離CD1が採用され、距離CA2が採用される場合は距離CD2が採用され、距離CA3が採用される場合は距離CD3が採用され、距離CA4が採用される場合は距離CD4が採用される。
【0197】
さらに、サーボバンドピッチの測定には、[数2]式を用いた測定値と[数3]式を用いた測定値との平均値が用いられてもよい。さらに、[数2]式における距離AC,ABおよび[数3]式における距離CA,CDとして、サーボ再生波形における振幅の負の最大値を示す位置(下ピーク位置)間の距離が採用されてもよい。あるいは、[数2]式における距離AC,ABおよび[数3]式における距離CA,CDとして、サーボ再生波形における振幅の正の最大値を示す位置(上ピーク位置)間の距離と負の最大値を示す位置(下ピーク位置)間の距離との平均値が採用されてもよい。
【0198】
図16に示すように、サーボトレースラインTが破線で示す位置にある場合、サーボバンドs2においては距離ABが38.5μm、距離ACが76μm、サーボバンドs3においては距離ABが37.5μm、距離ACが76μmであるとする。
サーボバンドs2においては、
(38.5/76)×(76/2tan12°)=90.5641[μm]
サーボバンドs3においては、
(37.5/76)×(76/2tan12°)=88.2118[μm]
となる。これらの値の差分は、
88.2118-90.5641=-2.3523[μm]
となる。
したがって、この場合におけるサーボバンドピッチP2は、サーボリードヘッドピッチP1より、2.3523μmだけ広い値として求められる。
【0199】
なお、図16に示すように、サーボトレースラインTが実線で示す位置にある場合、サーボバンドs2およびサーボバンドs3のいずれにおいても距離ABが38μm、距離ACが76μmとなる。この場合、サーボバンドs2およびサーボバンドs3のいずれにおいても89.3880[μm]であり、それらの差分は0[μm]となる。つまり、この場合のサーボバンドピッチは、サーボリードヘッドピッチP1と同一を意味する。
【0200】
(テンション制御)
【0201】
記録再生装置30は、上述のようにして測定されたサーボパターンピッチに基づき、測定されたサーボパターンピッチがサーボリードヘッドピッチP1と同一となるように磁気記録媒体10のテンションを制御する。
【0202】
本実施形態では、磁気記録媒体10へのデータの記録あるいは磁気記録媒体10からのデータの再生に先立って、データを記録あるいは再生する1つのデータバンドを挟む2つのサーボバンドからサーボ信号を読み取り、読み取った各サーボ信号からこれら2つのサーボバンドピッチがサーボリードヘッドピッチP1よりも広いか狭いかを判定する。サーバンドピッチがサーボリードヘッドピッチP1よりも広い場合にはテンションを高くし、サーボバンドピッチがサーボリードヘッドピッチP1よりも狭い場合にはテンションを低くする。このようにサーボバンドピッチの大きさに応じてテンションの大きさを調整することで、当該データバンドについて所望とするトラッキング制御を安定に行うことができる。
【0203】
記録再生装置30は、1つのデータバンドについてのサーボバンドピッチとテンションとの関係を1往復のテープ走行により取得し、その取得データをカートリッジメモリ9へ記録する。記録再生装置30は、上記1つのデータバンドについて測定したサーボバンドピッチとテンションとの関係を、他のデータバンドに対するデータの記録再生時にも同様に適用する。
【0204】
(6)サーボパターン記録装置の例
【0205】
[サーボパターン記録装置の構成]
【0206】
続いて、磁気記録媒体10のサーボバンドsにサーボパターン6を記録するサーボパターン記録装置の例の構成について説明する。図18は、本技術の一実施形態に係るサーボパターン記録装置100を示す概略正面図である。図19は、サーボパターン記録装置100の一部を示す部分拡大図である。
【0207】
サーボパターン記録装置100は、磁気記録媒体10の搬送方向の上流側から順番に、送り出しローラ111、前処理部112、サーボライトヘッド113、再生ヘッド部114及び巻き取りローラ115を備えている。サーボパターン記録装置100はさらに、駆動部120及びコントローラ130を備えている。コントローラ130は、サーボパターン記録装置100の各部を統括的に制御する制御部や、制御部の処理に必要な各種のプログラムやデータが記憶された記憶部、データを表示させる表示部、データを入力する入力部などを有する。
【0208】
送り出しローラ111は、ロール状の磁気記録媒体10(サーボパターン6記録前)を回転可能に支持することが可能とされている。送り出しローラ111は、モータなどの駆動源の駆動に応じて回転され、回転に応じて磁気記録媒体10を下流側に向けて送り出す。
【0209】
巻き取りローラ115は、ロール状の磁気記録媒体10(サーボパターン6記録後)を回転可能に支持することが可能とされている。巻き取りローラ115は、モータなどの駆動源の駆動に応じて送り出しローラ111と同調して回転し、サーボパターン6が記録された磁気記録媒体10を回転に応じて巻き取っていく。送り出しローラ111及び巻き取りローラ115は、搬送経路上において磁気記録媒体10を一定の速度で移動させることが可能とされている。
【0210】
サーボライトヘッド113は、例えば、磁気記録媒体10の上方側(磁性層43側)に配置される。サーボライトヘッド113は、磁気記録媒体10の下側(ベース層41側)に配置されてもよい。サーボライトヘッド113は、矩形波のパルス信号に応じて所定のタイミングで磁界を発生し、磁気記録媒体10が有する磁性層43(前処理後)の一部に対して磁場を印加する。
【0211】
これにより、サーボライトヘッド113は、第1の方向に磁性層43の一部を磁化させて磁性層43にサーボパターン6を記録する(磁化方向は図19中、黒の矢印参照)。サーボライトヘッド113は、サーボライトヘッド113の下側を磁性層43が通過するときに、5つのサーボバンドs0~s4に対してそれぞれサーボパターン6を記録することが可能とされている。
【0212】
サーボパターン6の磁化方向である第1の方向は、磁性層43の上面に垂直な垂直方向の成分を含む。すなわち、本実施形態では、垂直配向若しくは無配向の磁性粉が磁性層43に含まれるので、磁性層43に記録されるサーボパターン6は、垂直方向の磁化成分を含む。
【0213】
前処理部112は、例えば、サーボライトヘッド113よりも上流側において、磁気記録媒体10の下側(ベース層41側)に配置される。前処理部112は、磁気記録媒体10の上側(磁性層43側)に配置されてもよい。前処理部112は、図19においてY'軸方向(磁気記録媒体10の幅方向)を回転の中心軸として回転可能な永久磁石112aを含む。永久磁石112aの形状は、例えば、円柱形状や、多角柱形状とされるが、これらに限られない。
【0214】
永久磁石112aは、サーボライトヘッド113によってサーボパターン6が記録される前に、直流磁界によって磁性層43の全体に対して磁場を印加して、磁性層43全体を消磁する。これにより、永久磁石112aは、サーボパターン6の磁化方向とは反対方向の第2の方向に予め磁性層43を磁化させることができる(図19中、白の矢印参照)。このように、2つの磁化方向をそれぞれ反対方向にさせることで、サーボパターン6を読み取ることで得られるサーボ信号の再生波形を上下方向(±)で対称とすることができる。
【0215】
なお、上記第2の方向の調整方法としては、例えば、永久磁石112aの回転角度を任意とし、磁性層43全体を消磁後に、磁性層43にサーボパターン6を記録し、その再生波形の傾きに基づいて、磁気記録媒体10の幅方向を中心とする永久磁石112aの回転角度を調整するようにしてもよい。
【0216】
再生ヘッド部114は、サーボライトヘッド113よりも下流側において、磁気記録媒体10の上側(磁性層43側)に配置される。再生ヘッド部114は、前処理部112によって前処理され、かつ、サーボライトヘッド113によってサーボパターン6が記録された磁気記録媒体10の磁性層43から上記サーボパターン6を読み取る。再生ヘッド部114によって読み取られたサーボパターン6の再生波形は、表示部の画面上に表示される。典型的には、再生ヘッド部114は、再生ヘッド部114の下側を磁性層43が通過するときに、サーボバンドsの表面から発生する磁束を検出する。このとき検出された磁束がサーボ信号としてのサーボパターン6の再生波形となる。
【0217】
図20は、サーボライトヘッド113の構成を概略的に示す斜視図、図21は、サーボライトヘッド113の要部の概略断面図、図22は、サーボライトヘッド113の要部の概略平面図である。
【0218】
図20および図21に示すように、サーボライトヘッド113は、磁気テープ1の各サーボバンドs0~s4にサーボパターン6を記録するための複数の磁性コアh0~h4と、各磁性コアh0~h4の間を接合する接着層hsとを有する。
【0219】
各磁性コアh0~h4はそれぞれ、センダストやパーマロイ、フェライト等の軟磁性材料で構成されるヘッドブロック40と、ヘッドブロック40に巻回されたコイル70とを有する。各磁性コアh0~h4は、磁気記録媒体10の各サーボバンドs0~s4に対応して配置された記録部401を構成し、各サーボバンドsにサーボパターン6を記録するための磁気ギャップgを有する。
【0220】
磁気ギャップgは、相互に逆方向に傾斜する一対の直線部(「/」及び「\」)からなり、一方の直線部「/」はAバースト6a及びCバースト6cを、他方の直線部「\」はBバースト6b及びDバースト6dをそれぞれ記録する。各ヘッドブロックh1~h5の磁気ギャップgは、サーボライトヘッド113の長手方向(Y'方向)に平行な軸線上に整列するように配置される。磁気ギャップgの配列間隔は、サーボライトヘッド113の長手方向のパターン幅Pwにおける中心間の距離であり、その大きさは、サーボリードヘッドピッチP1とされる。各磁性コアh0~h4は相互に磁気的に分離されており、2つ以上のサーボバンドに同時に異なる種類のサーボパターン6を記録可能に構成される。
【0221】
図23は、駆動部120の構成を示すブロック図である。図23に示すように、駆動部120は、コントローラ130(図18参照)からの出力に基づき、サーボ情報をパルス情報に変換する変換器121と、変換器121の出力に基づいてパルス信号を生成する信号生成部122と、生成されたパルス信号を増幅する増幅器123とを有する。信号生成部122及び増幅器123は、各磁性コアh0~h4に対応して複数ずつ設けられており、各磁性コアh0~h4に巻回されたコイル70へそれぞれ固有のパルス信号を出力することが可能に構成される。
【0222】
コントローラ130は、第1のサーボバンド識別情報を記録するべきサーボバンドの位置(本例では、サーボバンドs0,s1,s4)と、第2のサーボバンド識別情報を記録するべきサーボバンドの位置(本例では、サーボバンドs2,s3)とに関するデータを格納したメモリを備える。コントローラ130は、当該メモリに格納されたデータに基づいて、駆動部120を制御する。
【0223】
変換器121は、各サーボバンドs0~s4に記録するべきサーボバンド識別情報に対応する情報を各磁性コアh0~h4に対応する信号生成部122へ個々に出力する。本実施形態では、サーボバンドs0、s1、s4に対応する磁性コアh0、h1及びh4に第1のサーボバンド識別情報を含む第1のサーボパターン601(図14(A))を記録するための第1のパルス信号PS1を出力し、サーボバンドs2,s3に対応するヘッドブロックh2,h3に第2のサーボバンド識別情報を含む第2のサーボパターン602(図14(B))を記録するための第2のパルス信号PS2を出力する。
【0224】
図24(A),(B)に、第1のパルス信号PS1及び第2のパルス信号PS2における第1サーボサブフレームSSF1の記録信号波形をそれぞれ模式的に示す。同図に示すように、第1及び第2のパルス信号PS1,PS2は、5つのパルス群からなる第1パルス群SPF1と、4つのパルス群からなる第2パルス群SPF2とを含む。第1パルス群SPF1は、Aバースト6aの各傾斜部を記録するための信号であり、第2パルス群SPF2は、Bバースト6bの各傾斜部を記録するための信号である。
【0225】
図24(A),(B)に示すように、第1のパルス信号PS1と第2のパルス信号PS2との間には、第1パルス群SPF1における2番目及び4番目のパルスの立ち上がり時刻が異なっており、パルス信号PS2の方がパルス信号PS1よりも2番目のパルスの立ち上がり時刻が遅く、4番目のパルスの立ち上がり時刻が早い。これにより、図14(A),(B)に示したようなAバースト6aの傾斜部の配列間隔の一部が相互に相違する第1サーボサブフレームSSF1が形成される。
【0226】
さらに、第1のパルス信号PS1と第2のパルス信号PS2は、それぞれ同位相(同一のタイミング)で磁性コアh0~h4に送信される。これにより、各磁性コアh0~h4においてサーボバンドs0,s1,s4には第1のサーボパターン601(第1のサーボバンド識別情報)が、サーボバンドs2,s3には第2のサーボパターン602(第2のサーボバンド識別情報)が同位相で記録される。
【0227】
(7)記録再生装置の他の例
【0228】
[記録再生装置の他の例]
【0229】
図25は、記録再生装置500を示す図である。記録再生装置500は、磁気記録媒体501にデータを記録することが可能とされており、また、磁気記録媒体501に記録されたデータを再生することが可能とされている。
【0230】
記録再生装置500は、カートリッジ510を装填可能に構成されている。カートリッジ510は、巻回された磁気記録媒体501をその内部において回転可能に収容可能に構成されている。記録再生装置500は、1つのカートリッジ510を装填可能に構成されていてもよいし、複数のカートリッジ510を同時に装填可能に成されてもよい。
【0231】
記録再生装置500は、スピンドル511と、巻取りリール512と、スピンドル駆動装置513と、リール駆動装置514と、データライトヘッド520と、制御装置515と、幅測定部516と、角度調整部517と、複数のガイドローラ518とを備えている。
【0232】
スピンドル511は、その回転により、カートリッジ510内部に収容された磁気記録媒体501を回転させることが可能に構成されている。スピンドル駆動装置513は、制御装置515からの指令に応じて、スピンドル511を回転させる。
【0233】
巻取りリール512は、テープローディング機構(不図示)を介してカートリッジ510から引き出された磁気記録媒体501の先端を固定可能に構成されている。リール駆動装置514は、制御装置515からの指令に応じて、巻取りリール512を回転させる。
【0234】
複数のガイドローラ518は、カートリッジ510と巻取りリール512との間に形成される搬送経路がデータライトヘッド520に対して所定の相対位置関係となるように磁気記録媒体501の走行をガイドする。
【0235】
データライトヘッド520は、磁気記録媒体501がデータライトヘッド520の下側を通過するときに、制御装置515からの指令に応じて、磁気記録媒体501のデータバンドd(記録トラック5)に対して、データを記録することが可能に構成されており、また、記録したデータを再生することが可能に構成されている。
【0236】
データライトヘッド520により磁気記録媒体501に対してデータの記録/再生が行われるとき、スピンドル駆動装置513及びリール駆動装置514により、スピンドル511及び巻取りリール512が回転し、磁気記録媒体501が走行する。磁気記録媒体501の走行方向は、図25において矢印A1で示す順方向(スピンドル511側から巻取りリール512側へ巻き出す方向)、及び、矢印A2で示す逆方向(巻取りリール512側からスピンドル511側へ巻き戻す方向)での往復が可能とされている。
【0237】
データライトヘッド520は、磁気記録媒体501の順方向での走行及び逆方向での走行の両方向において、データの記録/再生が可能とされている。
【0238】
特に、本実施形態では、データライトヘッド520は、データライトヘッド520の長手方向(Y'軸方向)が、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して、所定の角度θ(第1のヘッドアジマス角θ)傾斜して配置される(後述の図26参照)。
【0239】
本実施形態の説明において、データライトヘッド520の長手方向(Y'軸方向)が、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して傾斜する角度を、データライトヘッド520のアジマス角θと呼ぶ。なお、データライトヘッド520の構成についての詳細は、図26等を参照して後述する。
【0240】
幅測定部516は、幅測定部516の下側を磁気記録媒体501が通過するときの磁気記録媒体501の幅を測定することが可能に構成されている。つまり、幅測定部516は、データライトヘッド520が磁気記録媒体501に対してデータの記録/再生を行うときの磁気記録媒体501の幅を測定することが可能に構成されている。幅測定部516は、磁気記録媒体501の幅を測定して制御装置515へと送信する。
【0241】
幅測定部516は、例えば、光センサ等のような各種のセンサにより構成される。幅測定部516は、磁気記録媒体501の幅を測定可能なセンサであればどのようなセンサが用いられてもよい。なお、磁気記録媒体501の幅は、それぞれ隣接するサーボパターン6を読み取り、位置信号の差分を求めることで、予測することもできる。この場合、幅測定部516は省略することができる。
【0242】
角度調整部517は、データライトヘッド520を上下方向の軸(Z軸)周りに回動可能に保持することが可能に構成されている。角度調整部517は、制御装置515からの指令に応じて、データライトヘッド520のアジマス角θを調整することが可能に構成されている。
【0243】
制御装置515は、例えば、制御部、記憶部、通信部などを含む。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等により構成されており、記憶部に記憶されたプログラムに従い、記録再生装置500の各部を統括的に制御する。
【0244】
記憶部は、各種のデータや各種のプログラムが記録される不揮発性のメモリと、制御部の作業領域として用いられる揮発性のメモリとを含む。上記各種のプログラムは、光ディスク、半導体メモリ等の可搬性の記録媒体から読み取られてもよいし、ネットワーク上のサーバ装置からダウンロードされてもよい。通信部は、PC(Personal Computer)、サーバ装置等の他の装置との間で互いに通信可能に構成されている。
【0245】
特に、本実施形態では、制御装置515(制御部)は、幅測定部516から磁気記録媒体501の幅の情報を取得し(あるいは、サーボ信号から磁気記録媒体の幅を予測し)、磁気記録媒体501の幅の情報に基づいて、角度調整部517によりデータライトヘッド520のアジマス角θ(図26参照)を調整する。
【0246】
本実施形態では、データライトヘッド520のアジマス角θを調整することで、磁気記録媒体501の幅の変動に対応している。典型的には、磁気記録媒体501の幅が相対的に広くなったとき、データライトヘッド520のアジマス角θは小さくされ、逆に、磁気記録媒体501の幅が相対的に狭くなったとき、データライトヘッド520のアジマス角θは大きくされる。
【0247】
磁気記録媒体501の幅は、例えば、温度、湿度、磁気記録媒体501の長手方向に加えられるテンション等、様々な理由で変動する場合がある。
【0248】
(データライトヘッド520)
【0249】
次に、データライトヘッド520の構成について詳細に説明する。図26は、データライトヘッド520を下方(バック層側)から見た概略図である。
【0250】
データライトヘッド520の説明では、データライトヘッド520の長手方向をY'軸方向とし、データライトヘッド520の幅方向をX'軸方向とし、データライトヘッド520の上下方向をZ'軸方向とする。また、磁気記録媒体501の長手方向(走行方向)をX軸方向とし、磁気記録媒体501の幅方向をY軸方向とし、磁気記録媒体501の厚さ方向をZ軸方向とする。なお、磁気記録媒体501の方向は、データライトヘッド20の下側を通過するときの磁気記録媒体501の方向が基準である。
【0251】
図26に示すように、データライトヘッド520は、第1のデータライトヘッド520aと、第2のデータライトヘッド520bとを含む。なお、本明細書中の説明において、2つのデータライトヘッド520を特に区別しない場合には、これらをまとめて単にデータライトヘッド520と呼び、2つのデータライトヘッド520を特に区別する場合に、これらを第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bと呼ぶ。
【0252】
第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bは、データライトヘッド520の幅方向(Y'軸方向)で対象に構成されているが、基本的に同様の構成である。第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bは、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に一体的に移動可能とされており、これにより、全てのデータバンドd0~d3のうちいずれかのデータバンドdに対してデータを書き込むことができる。
【0253】
第1のデータライトヘッド520aは、磁気記録媒体501が順方向(図25においてA1方向)に走行しているときに使用されるヘッドである。一方、第2のデータライトヘッド520bは、磁気記録媒体501が逆方向(図25においてA2方向)に走行しているときに使用されるヘッドである。
【0254】
データライトヘッド520は、磁気記録媒体501に対向する対向面521を有している。対向面521は、データライトヘッド520の長手方向(Y'軸方向)に長くデータライトヘッド520の幅方向(X'軸方向)に短い形状を有している。対向面521には、2つのサーボリード部522と、複数のデータライト/リード部523が設けられている。
【0255】
サーボリード部522は、データライトヘッド520の長手方向(Y'軸方向)の両端側にそれぞれ1つずつ設けられる。サーボリード部522は、磁気記録媒体501のサーボバンドsに記録されたサーボパターン6による磁界をMR素子(MR:Magneto Resistive effect)などにより読み取ることで、サーボ信号を再生可能に構成されている。
【0256】
MR素子としては、例えば、異方性磁気抵抗効果素子(AMR:Anisotropic Magneto Resistive effect)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR:Giant Magneto Resistive effect)、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR:Tunnel Magneto Resistive effect)などが用いられる。
【0257】
データライト/リード部523は、データライトヘッド520の長手方向(Y'軸方向)に沿って、等間隔に配置されている。また、データライト/リード部523は、2つのサーボリード部522に挟み込まれる位置に配置されている。データライト/リード部523の数は、例えば、20個~40個程度とされるが、この個数ついては特に限定されない。
【0258】
データライト/リード部523は、データライト部524と、データリード部525とを含む。データライト部524は、磁気ギャップから発生する磁界によって、磁気記録媒体501のデータバンドdに対してデータを記録することが可能に構成されている。
【0259】
また、データリード部525は、磁気記録媒体501のデータバンドdに記録されたデータによる磁界をMR素子などにより読み取ることで、データ信号を再生可能に構成されている。MR素子としては、異方性磁気抵抗効果素子(AMR)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR)、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR)などが用いられる。
【0260】
第1のデータライトヘッド520aにおいては、データライト部524が、データリード部525の左側(磁気記録媒体501が順方向に流れる場合の上流側)に配置される。一方、第2のデータライトヘッド520bにおいては、データライト部524が、データリード部525の右側(磁気記録媒体501が逆方向に流れる場合の上流側)に配置される。
【0261】
データリード部525は、そのデータリード部525と組とされるデータライト部524が磁気記録媒体501にデータを書き込んだ直後に、そのデータ信号を再生可能とされている。なお、上記に代えて、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bのうち、一方のデータライトヘッド520のデータライト部524で書き込まれたデータが他方のデータライトヘッド520のデータリード部525で再生されてもよい。
【0262】
磁気記録媒体501は、順方向及び逆方向に走行方向が変えられて何往復もされながら、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bにより、記録トラック5に対してデータが記録される。
【0263】
角度調整部517は、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bを上下方向の軸(Z'軸)回りに回動可能に保持することが可能とされている。また、角度調整部517は、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bを、上下方向の軸回りに個別に回動させることが可能とされている。
【0264】
角度調整部517は、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bの長手方向が、磁気記録媒体501の幅方向に対して、アジマス角θ傾斜して配置されるように、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bの角度を調整する。
【0265】
ここで、第1のデータライトヘッド520aのサーボリード部522及びデータライト/リード部523におけるY軸方向(磁気記録媒体501の幅方向)の位置と、第2のデータライトヘッド520bのサーボリード部522及びデータライト/リード部523のY軸方向の位置は、同じである。これらの位置関係は、第1のデータライトヘッド520及び第2のデータライトヘッド520がZ軸回りに回動しても変わらない。
【0266】
つまり、角度調整部517は、第1のデータライトヘッド520のサーボリード部522及びデータライト/リード部523におけるY軸方向(磁気記録媒体501の幅方向)の位置と、第2のデータライトヘッド520bのサーボリード部522及びデータライト/リード部523のY軸方向の位置とが同じとなるように、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bを個別に回動可能とされる。
【0267】
本実施形態では、データライトヘッド520のアジマス角θに対して、基準となる基準角Refθが設定されており、また、データライトヘッド520のアジマス角θは、基準角Refθ±x°で表される角度範囲が設定されている。
【0268】
図26に示す例では、基準角Refθが、磁気記録媒体501の幅方向に対して時計回り(下側:磁気記録媒体501側から見て)の方向に設定されている場合の一例が示されている。一方、基準角Refθは、磁気記録媒体501の幅方向に対して反時計回り(下側:磁気記録媒体501側から見て)の方向に設定されていてもよい。
【0269】
(基準角Refθ及び角度範囲Refθ±x°等)
【0270】
次に、データライトヘッド520のアジマス角θにおける基準角Refθ、並びに、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲Refθ±x°について説明する。
【0271】
図27は、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.1μm)。図27において、横軸は、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を示しており、縦軸は、アジマス損失Lθを示している。
【0272】
アジマス損失Lθ[dB]は、以下の式により表される。
Lθ=-20Log10[sin{(πW/λ)tanθ}/(πW/λ)tanθ]
式中、Wは、再生トラック幅であり、λは、データの記録波長であり、θは、データライトヘッド520のアジマス角である。
【0273】
図27では、再生トラック幅Wが、それぞれ、0.8μm、0.5μm、0.4μm、0.3μm、0.2μmとされた場合の5つのグラフが示されている。図27では、記録波長λは、0.1μmとされた。ここで、再生トラック幅Wが0.8μmとされたグラフは、LTO-9に対応しており、再生トラック幅Wが0.5μm、0.4μm、0.3μm、0.2μmとされたグラフは、LTO-10以降(推定値)に対応している。
【0274】
図27から理解されるように、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲Refθ±x°が同じ場合、再生トラック幅Wが狭い方がアジマス損失Lθが小さいことが分かる。
【0275】
これは、つまり、本実施形態のように、データライトヘッド520のアジマス角θの調整により、磁気記録媒体501の幅の変動に対処する形態の場合、アジマス損失Lθの観点からは、記録トラック5の数が多く、再生トラック幅Wが狭い磁気記録媒体501(例えば、LTO-10以降)であるほど有利であることを意味している。
【0276】
ここで、アジマス損失Lθを許容することができる値が、0.05[dB]以下であると仮定する。また、磁気記録媒体501における再生トラック幅Wが0.5μm以下であると仮定する(LTO-10以降(推定値))。
【0277】
この場合、図27の点線で示されているように、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲は、最大でRefθ±0.7°とされる。このため、本実施形態では、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲において、Refθ±x°のxの値は、典型的には0.7°以下とされる。
【0278】
図28は、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲Refθ±x°と、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量との関係を示す図である。
【0279】
図28において、横軸は、データライトヘッド20のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を示しており、縦軸は、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量を示している。
【0280】
図29は、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量を示す図である。図29に示すように、この補正量は、a-bで表される。
【0281】
ここで、aの値は、データライトヘッド520のアジマス角θがRefθ-x°とされた場合における、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)での2つのサーボリード部522間の距離である。一方、bの値は、データライトヘッド520のアジマス角θがRefθ+x°とされた場合における、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)での2つのサーボリード部522間の距離である。
【0282】
図28に戻り、図28では、データライトヘッド520のアジマス角θにおける基準角Refθが、2.5°、5°、7.5°、10°、12.5°、15°で変化された場合における6つのグラフが示されている。
【0283】
図28から、角度範囲Refθ±x°が同じであれば、基準角Refθが大きくなるほど補正量が大きくなることが分かる。
【0284】
ここで、上述のように、アジマス損失Lθが0.05[dB]以下であり、再生トラック幅Wが0.5μm以下であるとすると、データライトヘッド520のアジマス角θにおける角度範囲は、最大でRefθ±0.7°である(図28の縦の破線参照)。この条件に加えて、さらに、上記補正量が10μm以上であるとする(図28の横の破線参照)。
【0285】
図28から理解されるように、これらの条件を満たすためには、データライトヘッド520の基準角Refθが7.5°では若干不足であり、基準角Refθが10°であれば十分であることが分かる。つまり、上記条件を満たすためには、基準角Refθは、8°以上とされる。
【0286】
なお、ここでの説明は、本実施形態において、基準角Refθを8°以上にしなければならないといった趣旨ではない。つまり、本実施形態においては、基準角Refθは、2.5°以上、5°以上、7.5°以上、8°以上、10°以上、12.5°以上、15°以上等、適宜設定することができる。
【0287】
図30は、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.07μm)。図30において、横軸は、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を示しており、縦軸は、アジマス損失Lθを示している。図30では、データの記録波長λが、0.07μmとされた。
【0288】
図27及び図30の違いは、図27では、データの記録波長λが0.1μmとされていたのに対して、図30では、、データの記録波長λが0.07μmとされている点である。なお、LTO-10以降では、データの記録波長λは、0.1μm以下、0.07μm以下等とされることが推定される。
【0289】
図27及び図30の比較から理解されるように、データの記録波長λが小さくなるほどアジマス損失は増加することが分かる。
【0290】
図30において、再生トラック幅Wが0.5μmであるグラフに着目する。データの記録波長λが0.07μmであり、かつ、再生トラック幅Wが0.5μmである場合において、アジマス損失を0.05[dB]以下とするためには、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を0.48°以下とすればよい。
【0291】
図28において、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値が0.48°である箇所に着目する(図28の横軸参照)。データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲が、Refθ±0.48°である場合において、上記補正量を10μm以上とする場合、基準角Refθを12.5°以上とすればよいことが分かる。
【0292】
また、図30において、再生トラック幅Wが0.4μmであるグラフに着目する。データの記録波長λが0.07μmであり、かつ、再生トラック幅Wが0.4μmである場合において、アジマス損失を0.05[dB]以下とするためには、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を0.6°以下とすればよい。
【0293】
図28において、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値が0.6°である箇所に着目する(図28の横軸参照)。データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲が、Refθ±0.6°である場合において、上記補正量を10μm以上とする場合、基準角Refθを10°以上とすればよいことが分かる。
【0294】
なお、ここでの説明から理解されるように、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°は、データの記録波長λが小さくなるほど小さくなる。また、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°は、再生トラック幅Wが小さくなるほど大きくなる(図27図30参照)。
【0295】
また、データライトヘッド520のアジマス角θにおける基準角Refθは、データの記録波長λが小さくなるほど大きくなる。また、データライトヘッド520のアジマス角θにおける基準角Refθは、再生トラック幅Wが小さくなるほど小さくなる(図28参照)。
【0296】
ここで、LTOの規格が、LTO-9からLTO‐10、LTO‐11、・・・と世代が進むに従って、データの記録波長λが順次小さくなることが予測され、また、再生トラック幅Wも順次小さくなることが予測される。これに応じて、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を適切な値に設定し(例えば、0.7°以下、0.6°以下、0.5°以下、0.4°以下・・・等)、また、データライトヘッド520のアジマス角θの基準角Refθを適切な値に設定すればよい(例えば、2.5°以上、5°以上、7.5°以上、8°以上、10°以上、12.5°以上、15°以上・・・等)。
【0297】
(8)サーボパターン記録装置の他の例
【0298】
[サーボパターン記録装置の他の例の構成]
【0299】
次に、本技術の一実施形態に係るサーボパターン記録装置701について説明する。図31は、サーボパターン記録装置701を示す図である。
【0300】
図31に示すように、サーボパターン記録装置701は、送り出しローラ731、消磁部732、サーボライトヘッド740、サーボリードヘッド735、巻き取りローラ736及び4対のキャプスタンローラ737を備えている。
【0301】
送り出しローラ731は、ロール状の磁気記録媒体710を回転可能に支持することが可能とされている。送り出しローラ731は、モータ等の駆動に応じて回転され、回転に応じて磁気記録媒体710を下流側に向けて送り出す。
【0302】
巻き取りローラ736は、ロール状の磁気記録媒体710を回転可能に支持することが可能とされている。巻き取りローラ736は、モータ等の駆動に応じて回転し、回転に応じて磁気記録媒体710を巻き取っていく。
【0303】
4対のキャプスタンローラ737は、それぞれ、磁気記録媒体710を上下方向の両側から挟み込むことが可能とされている。4対のキャプスタンローラ737は、モータ等の駆動に応じて回転し、回転に応じて磁気記録媒体710を搬送経路において搬送する。
【0304】
送り出しローラ731、巻き取りローラ736及び4対のキャプスタンローラ737は、搬送経路内において磁気記録媒体710を一定の速度で搬送させることが可能とされている。
【0305】
サーボライトヘッド740は、例えば、磁気記録媒体710の上方側(磁性層43側)に配置される。サーボライトヘッド740は、矩形波のパルス信号に応じて所定のタイミングでサーボバンドsに磁場を印加し、サーボバンドsにサーボパターン6を記録する。
【0306】
サーボライトヘッド740は、サーボライトヘッド740の下側を磁気記録媒体710が通過するときに、全てのサーボバンドs(s0~s4)に対してそれぞれサーボパターン6を記録することが可能とされている。なお、サーボライトヘッド740の構成についての詳細は、図32図38を参照して後述する。
【0307】
消磁部732は、例えば、サーボライトヘッド740よりも上流側において、磁気記録媒体710の下側(ベース層41側)に配置される。消磁部732は、例えば、2つの永久磁石733、734により構成される。永久磁石733、734は、サーボライトヘッド740によってサーボパターン6が記録される前に、直流磁界によって磁性層43の全体に対して磁場を印加して、磁性層43の全体を消磁する。
【0308】
サーボリードヘッド735は、サーボライトヘッド740よりも下流側において、磁気記録媒体710の上側(磁性層43側)に配置される。サーボリードヘッド735は、磁気記録媒体710に記録されたサーボパターン6から発生する磁界を読み取ることで、サーボパターン6の情報を再生可能に構成されている。
【0309】
サーボリードヘッド735は、サーボリードヘッド735の下側を磁気記録媒体710が通過するときに、全てのサーボバンドs(s0~s4)からサーボパターン6を読み取ることが可能とされている。サーボリードヘッド735によって読み取られたサーボパターン6の情報は、サーボパターン6が正確に記録されたかどうかの確認のために用いられる。
【0310】
サーボリードヘッド735のタイプは、例えば、インダクティブ型、MR型(Magneto Resistive)、GMR型(Giant Magneto Resistive)、TMR型(Tunnel Magneto Resistive)等である。
【0311】
図示は省略しているが、サーボパターン記録装置701は、サーボパターン記録装置701の各部を統括的に制御する制御装置を備えている。
【0312】
制御装置は、例えば、制御部、記憶部、通信部などを含む。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等により構成されており、記憶部に記憶されたプログラムに従い、サーボパターン記録装置701の各部を統括的に制御する。
【0313】
記憶部は、各種のデータや各種のプログラムが記録される不揮発性のメモリと、制御部の作業領域として用いられる揮発性のメモリとを含む。上記各種のプログラムは、光ディスク、半導体メモリ等の可搬性の記録媒体から読み取られてもよいし、ネットワーク上のサーバ装置からダウンロードされてもよい。通信部は、例えば、PCやサーバ装置等の他の装置との間で互いに通信可能に構成されている。
【0314】
(サーボライトヘッド740)
【0315】
次に、サーボライトヘッド740の構成について詳細に説明する。上述のように、記録再生装置500におけるデータライトヘッド520は、磁気記録媒体501の幅方向に対して傾いて配置される。従って、データライトヘッド520が正確にサーボパターン6を読み取ることができるように、第1のサーボパターン6a(「/」)及び第2のサーボパターン6b(「\」)は、磁気記録媒体501の幅方向に対して非対称となるように書き込まれる。この非対称のサーボパターン6の書き込みは、本実施形態に係るサーボライトヘッド740により実行される。
【0316】
本実施形態においては、サーボライトヘッド740の形態について、第1実施例及び第2実施例の2種類が存在する。第1実施例では、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)が、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して平行に配置される(後述の図32図34参照)。一方、第2実施例では、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)が、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して所定の角度傾斜して配置される(後述の図35図38参照)。
【0317】
(第1実施例)
まず、サーボライトヘッド740の第1実施例について説明する。図32は、サーボライトヘッド740aと、サーボライトヘッド740aに入力されるパルス信号とを示す図である。図33は、サーボライトヘッド740aが有するサーボ素子742の拡大図である。図34は、サーボライトヘッド740aにより磁気記録媒体501にサーボパターン6が書き込まれるときの様子を示す図である。なお、図32図34では、サーボライトヘッド740aの磁気記録媒体501と対向する面が示されている。
【0318】
これらの図に示すように、サーボライトヘッド740aは、長手方向(Y"軸方向)に長く、幅方向(X"軸方向)に短い形状を有している。なお、図32図34では、サーボライトヘッド740aの長手方向がY"軸方向とされ、サーボライトヘッド740aの幅方向がX"軸方向とされ、サーボライトヘッド740aの上下方向がZ"軸方向とされている。また、磁気記録媒体501の長手方向(搬送方向)がX軸方向とされ、磁気記録媒体501の幅方向がY軸方向とされ、磁気記録媒体501の厚さ方向がZ軸方向とされている。なお、これについては、図35図38においても同様である。
【0319】
第1実施例では、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)が磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に一致しており、サーボライトヘッド740aの幅方向(X"軸方向)が磁気記録媒体501の長手方向(X軸方向)に一致している。
【0320】
サーボライトヘッド740aは、磁気記録媒体501に対向する対向面741を有している。対向面741は、長手方向(Y"軸方向)に長く、幅方向(X"軸方向)に短い形状を有している。
【0321】
サーボライトヘッド740aは、対向面741上において、5対のサーボ素子742(磁気ギャップ)を有している。5対のサーボ素子742は、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)において、所定の間隔(サーボ素子ピッチ:SP)を開けて配置される。
【0322】
サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)(磁気記録媒体501の幅方向:Y軸方向)において、互いに隣接する2対のサーボ素子742の間隔(サーボ素子ピッチ)は、例えば、2858.8±4.6μmとされる。なお、この値は、磁気記録媒体501において、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)で互いに隣接する2本のサーボバンドsの間隔(サーボバンドピッチ:SP)に対応する。
【0323】
一対のサーボ素子742は、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)(磁気記録媒体501の幅方向:Y軸方向)に対して非対称に構成された第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)を含む(特に、図33参照)。
【0324】
第1のサーボ素子742a(「/」)は、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)(磁気記録媒体501の幅方向:Y軸方向)に対して、第1の角度θs1で傾斜する。第2のサーボ素子742b(「\」)は、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向)(磁気記録媒体501の幅方向:Y軸方向)に対して、第1の角度θs1とは逆向きに第2の角度θs2で傾斜する。
【0325】
第1の角度θs1及び第2の角度θs2は、データライトヘッド520の基準角Refθと関連しており、それぞれ以下の式により表される。
θs1=Refθ+θa
θs2=Refθ-θa
ここで、Refθは、データライトヘッド520の基準角Refθであり、θaは、サーボアジマス角である。
【0326】
仮に、データライトヘッド520の基準角Refθが10°とされ、サーボアジマス角θaが12°とされた場合、第1のサーボ素子742a(「/」)の第1の角度θs1は、22°とされ、第2のサーボ素子742b(「\」)の第2の角度θs2は、2°とされる。
【0327】
サーボライトヘッド740aの幅方向(X"軸方向)(磁気記録媒体501の長手方向:X軸方向)において、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)の間隔は、例えば、サーボ素子の長さの幅方向成分SLの1/2の位置において38μmとされる。
【0328】
ここで、第1のサーボ素子742a(「/」)において、第1の角度θs1に沿う方向(磁気記録媒体501の幅方向に対して22°の方向)を第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向とする。また、第2のサーボ素子742b(「\」)において、第2の角度θs2に沿う方向(磁気記録媒体501の幅方向に対して-2°の方向)を第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向とする。
【0329】
第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向における長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向における長さとは異なっており、ここでの例では、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向での長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向での長さよりも長い。
【0330】
一方、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向の成分SL(Y軸方向)と、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向の成分SL(Y軸方向)とは同じである。サーボ素子742の長さの幅方向成分SLは、例えば、96±3μmとされる。
【0331】
図32には、5対のサーボ素子742に対してそれぞれ入力されるパルス信号が示されている。また、図34には、そのパルス信号が5対のサーボ素子742に入力されることにより、磁気記録媒体501のサーボバンドsに書き込まれたサーボパターン6が示されている。
【0332】
ここで、上述のように、データライトヘッド520は、磁気記録媒体501の幅方向に対して、アジマス角θ傾斜して配置される。この場合において、5対のサーボ素子742に対して、同時刻に同位相のパルス信号が入力され、磁気記録媒体501の幅方向に平行な位置に同位相のサーボパターン6が書き込まれた場合を想定する。この場合、傾斜して配置されたデータライトヘッド520の2つのサーボリード部522により同時刻に読み取られるサーボパターン6の位相が異なってしまうことになる。
【0333】
そこで、第1実施例では、5対のサーボ素子742に同時刻に入力されるパルス信号の位相を異ならせることで、同位相のサーボパターン6を磁気記録媒体501の幅方向に対して非平行に書き込むこととしている。
【0334】
サーボライトヘッド740aの長手方向(Y"軸方向:磁気記録媒体501の幅方向)で互いに隣接する2対のサーボ素子742に対して入力されるパルス信号の位相差は、SP×tan(Refθ)に対応する。ここで、SP(サーボバンドピッチ=サーボ素子ピッチ)は、互いに隣接する2つのサーボバンドsにおける磁気記録媒体501の幅方向での間隔、または、互いに隣接する2対のサーボ素子742における磁気記録媒体501の幅方向での間隔である。また、Refθは、データライトヘッド520における基準角である。
【0335】
仮に、SPの値が2858.8μmであるとし、データライトヘッド520における基準角Refθが10°であるとする。この場合、互いに隣接する2対のサーボ素子742に対して入力されるパルス信号の位相差は、2858.8μm×tan10°=504.08μmに対応する。
【0336】
ここで、サーボバンドs4のサーボ素子742の入力パルスを基準としたサーボバンドs3、サーボバンドs2、サーボバンドs1、サーボバンドs0のサーボ素子742の入力パルスの位相差は、順番に、504.08μm、1008.17μm、1512.25μm、2016.33μmに対応する位相とされる。
【0337】
5本のサーボバンドsに対応する5対のサーボ素子742に対して、同時刻に入力されるパルス信号の位相について、最も先に進んだ位相の入力パルスが入力されるのは、サーボバンドs0のサーボ素子742である。入力パルスの位相の順番は、次いで、サーボバンドs1のサーボ素子742、サーボバンドs2のサーボ素子742、サーボバンドs3のサーボ素子742、サーボバンドs4のサーボ素子742の順番である。
【0338】
例えば、サーボバンドs0のサーボ素子742及びサーボバンドs1のサーボ素子742で説明すると、同時刻において、サーボバンドs0のサーボ素子742には、サーボバンドs1のサーボ素子742よりも504.08μmに対応する位相分、先の位相のパルス信号が入力される。
【0339】
同様に、磁気記録媒体501の幅方向で互いに隣接する2つのサーボバンドsに書き込まれるサーボパターン6の、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)での位相差は、SP×tan(Refθ)で表される。
【0340】
仮に、SPの値が2858.8μmであるとし、データライトヘッド520における基準角Refθが10°であるとする。この場合、互いに隣接する2つのサーボバンドsに書きこまれるサーボパターン6における、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)での位相差は、2858.8μm×tan10°=504.08μmに対応する。
【0341】
サーボバンドs4のサーボパターン6を基準としたサーボバンドs3、サーボバンドs2、サーボバンドs1、サーボバンドs2のサーボパターン6の位相差は、順番に、504.08μm、1008.17μm、1512.25μm、2016.33μmに対応する位相とされる。
【0342】
5本のサーボバンドsにそれぞれ書き込まれたサーボパターン6について、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)で、最も先に進んだ位相となるのは、サーボバンドs0のサーボパターン6である。位相の順番は、次いで、サーボバンドs1のサーボパターン6、サーボバンドs2、のサーボパターン6、サーボバンドs3のサーボパターン6、サーボバンドs4のサーボパターン6の順番である。
【0343】
例えば、サーボバンドs0のサーボパターン6及びサーボバンドs1のサーボパターン6で説明すると、磁気記録媒体501の幅方向で、サーボバンドs0のサーボパターン6の位相は、サーボバンドs1のサーボパターン6よりも504.08μmに対応する位相分、先の位相とされる。
【0344】
磁気記録媒体501において、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対してデータライトヘッド520の基準角Refθ(10°)の方向では、5本のサーボバンドsに書きこまれたサーボパターン6の位相は、同位相とされる。
【0345】
(第2実施例)
次に、サーボライトヘッド740の第2実施例について説明する。図35は、第2実施例に係るサーボライトヘッド740b及びサーボライトヘッド740bが有するサーボ素子742の拡大図である。図36は、第2実施例に係るサーボライトヘッド740bにより磁気記録媒体501にサーボパターン6が書き込まれるときの様子を示す図である。図35及び図36では、サーボライトヘッド740bの磁気記録媒体501と対向する面が示されている。なお、後述の図37図40についても同様に、サーボライトヘッド740の磁気記録媒体501と対向する面が示されている。
【0346】
これらの図に示すように、サーボライトヘッド740bは、長手方向(Y"軸方向)に長く、幅方向(X"軸方向)に短い形状を有している。
【0347】
第2実施例では、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)が磁気記録媒体501の幅方向に対して所定の角度(第2のヘッドアジマス角)傾斜して配置される。サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)が磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して傾斜する角度は、データライトヘッド520の基準角Refθと関連しており、データライトヘッド520の基準角Refθと一致している(例えば、10°)。
【0348】
サーボライトヘッド740bは、磁気記録媒体501に対向する対向面741を有している。対向面741は、長手方向(Y"軸方向)に長く、幅方向(X"軸方向)に短い形状を有している。
【0349】
サーボライトヘッド740bは、対向面741上において、5対のサーボ素子742(磁気ギャップ)を有している。5対のサーボ素子742は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)において、所定の間隔(サーボ素子ピッチ:SP1)を開けて配置される。
【0350】
互いに隣接する2対のサーボ素子742における、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)での間隔(サーボ素子ピッチ:SP1)は、例えば、2858.8±4.6μmとされる。なお、この値は、磁気記録媒体501において、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)で互いに隣接する2本のサーボバンドsの間隔(サーボバンドピッチ:SP1)に対応する。
【0351】
また、互いに隣接する2対のサーボ素子742において、磁気記録媒体の長手方向(X軸方向)での位置の差は、SP1×tan(Refθ)で表される。ここで、SP1(サーボバンドピッチ=サーボ素子ピッチ)は、互いに隣接する2つのサーボバンドsにおける磁気記録媒体501の幅方向での間隔、または、互いに隣接する2対のサーボ素子742における磁気記録媒体501の幅方向での間隔である。また、Refθは、データライトヘッド520における基準角である。
【0352】
仮に、SP1の値が2858.8μmであるとし、データライトヘッド520における基準角Refθが10°であるとする。この場合、互いに隣接する2対のサーボ素子742において、磁気記録媒体の長手方向(X軸方向)での位置の差は、2858.8μm×tan10°=504.08μmである。
【0353】
一対のサーボ素子742は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して非対称に構成された第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)を含む(特に、図35の右側参照)。
【0354】
第1のサーボ素子742a(「/」)は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して、第1の角度θs1で傾斜する。第2のサーボ素子742b(「\」)は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して、第1の角度θs1とは逆向きに第2の角度θs2で傾斜する。
【0355】
第1の角度θs1及び第2の角度θs2は、データライトヘッド520の基準角Refθと関連しており、それぞれ以下の式により表される。
θs1=Refθ+θa
θs2=Refθ-θa
ここで、Refθは、データライトヘッド520の基準角Refθであり、θaは、サーボアジマス角である。
【0356】
仮に、データライトヘッド520の基準角Refθが10°とされ、サーボアジマス角θaが12°とされた場合、第1のサーボ素子742a(「/」)の第1の角度θs1は、22°とされ、第2のサーボ素子742b(「\」)の第2の角度θs2は、2°とされる。
【0357】
磁気記録媒体501の長手方向(X軸方向)において、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)の間隔は、例えば、サーボ素子742の長さの幅方向成分SLの1/2の位置において、38μmとされる。
【0358】
ここで、第1のサーボ素子742a(「/」)において、第1の角度θs1に沿う方向(磁気記録媒体501の幅方向に対して22°の方向)を第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向とする。また、第2のサーボ素子742b(「\」)において、第2の角度θs2に沿う方向(磁気記録媒体501の幅方向に対して-2°の方向)を第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向とする。
【0359】
第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向における長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向における長さとは異なっており、ここでの例では、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向での長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向での長さよりも長い。
【0360】
一方、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向の成分(Y軸方向)SL1と、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向の成分(Y軸方向)SL1とは同じである。サーボ素子742の長さの幅方向成分SL1は、例えば、96±3μmとされる。
【0361】
図39は、図35の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)における具体的な寸法の一例を示す図である(XYZ座標系基準)。
【0362】
図39に示すように、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向における長さは、103.5393μm(=96μm/cos22°)とされる。また、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向における長さは、96.0585μm(=96μm/cos2°)とされる。
【0363】
また、第1のサーボ素子742aの上端部と、第2のサーボ素子742bの上端部との間の間隔(X軸方向)は、16.9306μm(=38μm-48μm×tan22°-48μm×tan2°=38μm-19.3932μm-1.6762μm)である。
【0364】
また、第1のサーボ素子742aの下端部と、第2のサーボ素子742bの下端部との間の間隔(X軸方向)は、59.0695μm(=96μm×tan22°+16.9306μm+96μm×tan2°=38.7865μm+16.9306μm+3.3524μm)である。
【0365】
ここで、上述の第1実施形態では、5対のサーボ素子742に対してそれぞれ入力されるパルス信号に位相差が設定されていた。一方、第2実施例においては、サーボライトヘッド740bが傾けて配置されているので、パルス信号に対して位相差を設定する必要はない。つまり、5対のサーボ素子742に対しては、同時刻に同位相に対応するパルス信号がそれぞれ入力される。
【0366】
図36には、5対のサーボ素子742によって5本のサーボバンドsにそれぞれ書き込まれたサーボパターン6が示されている。
【0367】
磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)で互いに隣接する2つのサーボバンドsに書き込まれるサーボパターン6の、磁気記録媒体501の幅方向での位相差は、SP1×tan(Refθ)で表される。
【0368】
仮に、SP1の値が2858.8μmであるとし、データライトヘッド520における基準角Refθが10°であるとする。この場合、互いに隣接する2つのサーボバンドsに書きこまれるサーボパターン6の位相差は、2858.8μm×tan10°=504.08μmとされる。
【0369】
なお、サーボバンドs4のサーボパターン6を基準としたサーボバンドs3、サーボバンドs2、サーボバンドs1、サーボバンドs1のサーボパターン6の位相差は、順番に、504.08μm、1008.17μm、1512.25μm、2016.33μmに対応する位相とされる。
【0370】
5本のサーボバンドsにそれぞれ書き込まれたサーボパターン6について、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)で、最も先に進んだ位相となるのは、サーボバンドs0のサーボパターン6である。位相の順番は、次いで、サーボバンドs1のサーボパターン6、サーボバンドs2、のサーボパターン6、サーボバンドs3のサーボパターン6、サーボバンドs4のサーボパターン6の順番である。
【0371】
例えば、サーボバンドs0のサーボパターン6及びサーボバンドs1のサーボパターン6で説明すると、磁気記録媒体501の幅方向で、サーボバンドs0のサーボパターン6の位相は、サーボバンドs1のサーボパターン6よりも504.08μmに対応する位相分、先の位相とされる。
【0372】
磁気記録媒体501において、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対してデータライトヘッド520の基準角Refθ(10°)の方向では、5本のサーボバンドsに書きこまれたサーボパターン6の位相は、同位相とされる。
【0373】
以上の説明では、磁気記録媒体501の座標系(XYZ座標系)を基準したサーボライトヘッド740bの構成について説明した。以降では、サーボライトヘッド740bの座標系(X"Y"Z"座標系)を基準したサーボライトヘッド740bの構成について説明する。
【0374】
図37は、第2実施例において、サーボライトヘッド740bの座標系を基準としてサーボライトヘッド740bを表した図である。
【0375】
図37に示すように、5対のサーボ素子742は、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)において、所定の間隔(サーボ素子ピッチ:SP2)を開けて配置される。サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)において、互いに隣接する2対のサーボ素子742の間隔(サーボ素子ピッチ:SP2)は、SP1×cos-1(Refθ)で表される。
【0376】
例えば、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)において、互いに隣接する2対のサーボ素子742の間隔(サーボ素子ピッチ:SP1)が、2858.8μmであり、データライトヘッド520の基準角Refθが10°であるとする。この場合、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)において、互いに隣接する2対のサーボ素子742の間隔(サーボ素子ピッチ:SP2)は、2902.9μmとなる。
【0377】
ここで、上述の第1実施例では、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)の対称軸は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に非平行とされており、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)に対しても非平行とされていた。一方、第2実施例では、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)の対称軸は、磁気記録媒体501の幅方向(Y軸方向)に対して非平行とされ、一方でサーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)に対しては平行とされている。
【0378】
第1のサーボ素子742a(「/」)は、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)に対して、サーボアジマス角θaで傾斜する。一方、第2のサーボ素子742b(「\」)は、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)に対して、第1のサーボ素子742a(「/」)とは逆向きに、第1のサーボ素子742a(「/」)と同じサーボアジマス角θaで傾斜する。
【0379】
ここで、第1のサーボ素子742a(「/」)において、サーボアジマス角θaに沿う方向(サーボライトヘッド740bの長手方向に対して+12°の方向)を第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向とする。また、第2のサーボ素子742b(「\」)において、サーボアジマス角θaに沿う方向(サーボライトヘッド740bの長手方向に対して-12°の方向)を第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向とする。
【0380】
第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向における長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向における長さとは異なっており、ここでの例では、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向での長さは、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向での長さよりも長い。
【0381】
さらに、第1のサーボ素子742a(「/」)の長手方向の長さにおける、サーボライトヘッド740bの長手方向成分SL21(Y"軸方向)、及び、第2のサーボ素子742b(「\」)の長手方向の長さにおける、サーボライトヘッド740bの長手方向成分SL22(Y"軸方向)も異なっている。
【0382】
図40は、図37の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)における具体的な寸法の一例を示す図である(X"Y"Z"座標系基準)。
【0383】
仮に、サーボ素子742の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向成分SL1(Y軸方向)が、96μmであり、データライトヘッド520の基準角Refθが10°であり、サーボアジマス角θaが12°であるとする。この場合、第1のサーボ素子742a(「/」)の長さにおける、サーボライトヘッド740のb長手方向成分SL21(Y"軸方向)は、101.2767μm(=103.5093μm×cos12°)である。また、この場合、第2のサーボ素子742b(「\」)の長さにおける、サーボライトヘッド740bの長手方向成分SL22(Y"軸方向)は、93.959μm(=96.0585μm×cos12°)μmである。
【0384】
また、サーボライトヘッド740bの幅方向(X"軸方向)において、第1のサーボ素子742aの上端部と、第2のサーボ素子742bの上端部との間の間隔は、16.673μm(=16.9306μm×cos10°)である。また、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)において、第1のサーボ素子742a(「/」)の上端部の位置と、第2のサーボ素子742b(「\」)の上端部の位置との差は、2.94μm(=16.9306μm×sin10°)である。
【0385】
また、サーボライトヘッド740bの幅方向(X"軸方向)において、第1のサーボ素子742aの下端部と、第2のサーボ素子742bの下端部との間の間隔は、58.1721μm(=59.0695μm×cos10°)である。また、サーボライトヘッド740bの長手方向(Y"軸方向)において、第1のサーボ素子742a(「/」)の下端部の位置と、第2のサーボ素子742b(「\」)の下端部の位置との差は、10.2573μm(=
59.0695μm×sin10°)である。
【0386】
また、サーボライトヘッド740bの幅方向(X"軸方向)において、第1のサーボ素子742a(「/」)及び第2のサーボ素子742b(「\」)の間隔(中央)は、例えば、38.8253μm(38μm×cos10°+(38μm×sin10°)×tan12°=37.4227μm+6.5986μm×tan12°=37.4227μm+1.4026μm)である。
【0387】
(第1実施例及び第2実施例の比較)
次に、第1実施例及び第2実施例の比較について説明する。
【0388】
図34の右側には、第1実施例に係るサーボライトヘッド740aにより書き込まれたサーボパターン6を、データライトヘッド520の2つのサーボリード部522により読み取っているときの様子が示されている。
【0389】
上述のように、第1実施例に係るサーボライトヘッド740aでは、サーボライトヘッド740aを磁気記録媒体501の幅方向に対して傾けずに配置し、サーボ素子742に入力されるパルス信号の位相を調整することでサーボパターン6を書き込むといった方法が用いられている。
【0390】
ここで、サーボライトヘッド740aによって磁気記録媒体501に対してサーボパターン6を書き込むとき、磁気記録媒体501が幅方向(Y軸方向に)に微動する場合がある。
【0391】
仮に、第1実施例のサーボライトヘッド740aにおいて、サーボバンドs0のサーボ素子742が、サーボバンドs0に対して、或る時刻t1に或る位相ph1のサーボパターン6を書き込んだとする。その後の時刻t2(磁気記録媒体501が搬送方向に504.08μm搬送された時刻)に、サーボバンドs1のサーボ素子742が、サーボバンドs1に対して、その位相ph1のサーボパターン6を書き込んだとする。
【0392】
この場合において、時刻t1から時刻t2の間に、磁気記録媒体501が幅方向に微動してしまった場合を想定する。この場合、サーボバンドs0での位相ph1のサーボパターン6の位置と、サーボバンドs1での位相ph1のサーボパターン6の位置との間隔(基準角Refθ(10°)の方向)が、既定の値(2つのサーボリード部522の間隔:基準角Refθ(10°)の方向)とは異なってしまうことになる。
【0393】
これが原因で誤差が生じ、データライトヘッド520がサーボパターン6を正確にサーボトレースできない場合がある。
【0394】
一方、図36の右側には、第2実施例に係るサーボライトヘッド740bにより書き込まれたサーボパターン6を、データライトヘッド520の2つのサーボリード部522により読み取っているときの様子が示されている。
【0395】
第2実施例に係るサーボライトヘッド740bでは、サーボライトヘッド740bを磁気記録媒体501の幅方向に対して傾けて配置し、サーボ素子742に入力されるパルス信号の位相を同位相としてサーボパターン6を書き込むといった方法が用いられている。
【0396】
仮に、第2実施例のサーボライトヘッド740bにおいて、サーボバンドs0のサーボ素子742及びサーボバンドs1のサーボ素子742が、サーボバンドs0及びサーボバンドs1に対して、同時刻t1に同位相ph1のサーボパターン6を書き込んだとする。
【0397】
その後、サーボバンドs0のサーボ素子742及びサーボバンドs1のサーボ素子742が、サーボバンドs0及びサーボバンドs1に対して、同時刻t2に同位相ph2のサーボパターン6を書き込んだとする。
【0398】
この場合において、時刻t1から時刻t2の間に、磁気記録媒体501が幅方向に微動してしまった場合を想定する。この場合、サーボバンドs0での位相ph1のサーボパターン6の位置と、サーボバンドs1での位相ph1のサーボパターン6の位置との間隔(基準角Refθ(10°)の方向)は、サーボバンドs0での位相ph2のサーボパターン6の位置と、サーボバンドs1での位相ph2のサーボパターン6の位置との間隔と同じである。これらの間隔は、既定の値(2つのサーボリード部522の間隔:基準角Refθ(10°)の方向)と同じであり、一定である。
【0399】
つまり、第2実施例では、サーボパターン6書き込み時の磁気記録媒体501の幅方向への微動によらず、互いに隣接するサーボバンドsにおける同位相のサーボパターン6の間隔(基準角Refθの方向)を一定にすることができる。これにより、データライトヘッド520がサーボパターン6を正確にサーボトレースすることができる。
【0400】
ここでの説明から理解されるように、サーボパターン6書き込み時の磁気記録媒体501の幅方向への微動の観点からは、第1実施例よりも第2実施例の方が有利である。但し、これは、第1実施例による方法を採用することができないといった趣旨ではなく、第1実施例についても本技術の一例として含まれる。例えば、サーボパターン6書き込み時の磁気記録媒体501の幅方向への微動が無視できるレベルであったり、あるいは、サーボパターン6書き込み時の磁気記録媒体501の幅方向への微動を無視できる程度に抑制することができたりするのであれば、第1実施例による方法が採用されてもよい。
【0401】
(対向面741の低摩擦加工)
【0402】
サーボライトヘッド740は、その対向面741において、磁気記録媒体501との間に意図的に空気を巻き込み摩擦抵抗を低減するための低摩擦加工が施されていてもよい。
【0403】
図38は、サーボライトヘッド740の対向面741において低摩擦加工が施されたときの様子を示す図である。図38の左側には、第1実施例に係るサーボライトヘッド740aの対向面741に低摩擦加工が施されたときの様子が示されている。また、図38の右側には、第2実施例に係るサーボライトヘッド740bの対向面741に低摩擦加工が施されたときの様子が示されている。
【0404】
図38の左側(第1実施例)を参照して、サーボライトヘッド740aの対向面741は、サーボライトヘッド740の長手方向(Y軸方向:磁気記録媒体501の幅方向)において、サーボ素子742が設けられた領域に対応する第1の領域743と、サーボ素子742が設けられていない領域に対応する第2の領域744を有する。
【0405】
第2の領域744には、サーボライトヘッド740aの幅方向(X軸方向:磁気記録媒体501の長手方向)に沿う複数の溝が、サーボライトヘッド740aの長手方向(Y軸方向:磁気記録媒体501の幅方向)に沿って整列されている。
【0406】
図38の右側(第2実施例)を参照して、サーボライトヘッド740bの対向面741は、サーボライトヘッド740の長手方向(磁気記録媒体501の幅方向に対して基準角Refθの方向)において、サーボ素子742が設けられた領域に対応する第1の領域743と、サーボ素子742が設けられていない領域に対応する第2の領域744を有する。
【0407】
第2の領域744には、サーボライトヘッド740bの幅方向(X"軸方向)に対して基準角Refθの方向(X軸方向:磁気記録媒体501の長手方向)に沿う複数の溝が、サーボライトヘッド740の長手方向(Y"軸方向)に対して基準角Refθの方向(Y軸方向:磁気記録媒体501の幅方向)に沿って整列されている。
【0408】
ここで、図38の左側の例(第1実施例)では、サーボライトヘッド740aの幅方向に対して平行な方向に沿う複数の溝が、サーボライトヘッド740aの長手方向に対して平行な方向に沿って整列されている。これに対して、図38の右側の例(第2実施例)では、サーボライトヘッド740bの幅方向に対して非平行な方向に沿う複数の溝が、サーボライトヘッド740の長手方向に対して非平行な方向に沿って整列されている。
【0409】
図38に示す2つの例(第1実施例及び第2実施例)では、対向面741に低摩擦加工が施されているので、摩擦による磁気記録媒体501の振動を抑制することができ、これにより、サーボパターン6を正確に書き込むことができる。
【0410】
特に、図38の右側の例では、サーボライトヘッド740bの幅方向(X"軸方向)に対して基準角Refθの方向(X軸方向:磁気記録媒体501の長手方向)に沿う複数の溝が、サーボライトヘッド740の長手方向(Y"軸方向)に対して基準角Refθの方向(Y軸方向:磁気記録媒体501の幅方向)に沿って整列されている。これにより、サーボライトヘッド740を、磁気記録媒体501の幅方向に対して基準角Refθ傾けて配置したとしても、適切に磁気記録媒体501との間の摩擦を低減させることができる
【0411】
(9)変形例
【0412】
[変形例1]
【0413】
磁気記録媒体10が、図41に示すように、ベース層41の少なくとも一方の表面に設けられたバリア層45をさらに備えるようにしてもよい。バリア層45は、環境に応じたベース層41の寸法変形を抑える為の層である。例えば、その寸法変形を及ぼす原因の一例としてベース層41の吸湿性が挙げられ、バリア層45によりベース層41への水分の侵入速度を低減できる。バリア層45は、金属又は金属酸化物を含む。金属としては、例えば、Al、Cu、Co、Mg、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Mo、Ru、Pd、Ag、Ba、Pt、Au、及びTaのうちの少なくとも1種を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、Al、CuO、CoO、SiO、Cr、TiO、Ta、及びZrOのうちの少なくとも1種を用いることができるし、上記金属の酸化物の何れかを用いることもできる。またダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)又はダイヤモンドなどを用いることもできる。
【0414】
バリア層45の平均厚みは、好ましくは20nm以上1000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。バリア層15の平均厚みは、磁性層43の平均厚みtと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、バリア層45の厚みに応じて適宜調整される。
【0415】
[変形例2]
【0416】
磁気記録媒体10、501は、ライブラリ装置に組み込まれてもよい。すなわち、本技術は、少なくとも一つの磁気記録媒体10、501を備えているライブラリ装置も提供する。当該ライブラリ装置は、磁気記録媒体10、501の長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有しており、上記で述べた記録再生装置30、500を複数備えるものであってもよい。
【0417】
[変形例3]
【0418】
磁気記録媒体10、501は、サーボライタによるサーボ信号書き込み処理に付されてもよい。当該サーボライタが、サーボ信号の記録時などに磁気記録媒体10、501の長手方向のテンションを調整することで、磁気記録媒体10、501の幅を一定又はほぼ一定に保ちうる。この場合、当該サーボライタは、磁気記録媒体10、501の幅を検出する検出装置を備えうる。当該サーボライタは、当該検出装置の検出結果に基づき、磁気記録媒体10、501の長手方向のテンションを調整しうる。
【0419】
3.第2の実施形態(真空薄膜型の磁気記録媒体の例)
【0420】
(1)磁気記録媒体の構成
【0421】
第2の実施形態に係る磁気記録媒体810は、長尺状の垂直磁気記録媒体であり、図42に示すように、フィルム状のベース層811と、軟磁性裏打ち層(Soft magnetic underlayer、以下「SUL」という。)812と、第1のシード層813Aと、第2のシード層813Bと、第1の下地層814Aと、第2の下地層814Bと、磁性層815とを備える。SUL812、第1、第2のシード層813A、813B、第1、第2の下地層814A、814B、及び磁性層815は、例えば、スパッタリングにより形成された層(以下「スパッタ層」ともいう)などの真空薄膜でありうる。
【0422】
SUL812、第1、第2のシード層813A、813B、及び第1、第2の下地層814A、814Bは、ベース層811の一方の主面(以下「表面」という。)と磁性層815との間に設けられ、ベース層811から磁性層815の方向に向かってSUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814Bの順序で積層されている。ベース層811の表面にスパッタリングにより形成された層(以下「スパッタ層」ともいう)などの真空薄膜が設けられることにより、ベース層単体自身の水蒸気透過率よりもさらに低下させることができる。
【0423】
磁気記録媒体810が、必要に応じて、磁性層815上に設けられた保護層816と、保護層816上に設けられた潤滑層817とをさらに備えるようにしてもよい。また、磁気記録媒体810が、必要に応じて、ベース層811の他方の主面(以下「裏面」という。)上に設けられたバック層818をさらに備えるようにしてもよい。
【0424】
以下では、磁気記録媒体810の長手方向(ベース層811の長手方向)を機械方向(MD:Machine Direction)という。ここで、機械方向とは、磁気記録媒体810に対する記録及び再生ヘッドの相対的な移動方向、すなわち記録再生時に磁気記録媒体810が走行される方向を意味する。
【0425】
第2の実施形態に係る磁気記録媒体810は、今後ますます需要が高まることが期待されるデータアーカイブ用ストレージメディアとして用いて好適なものである。この磁気記録媒体810は、例えば、現在のストレージ用塗布型磁気記録媒体の10倍以上の面記録密度、すなわち50Gb/in以上の面記録密度を実現することが可能である。このような面記録密度を有する磁気記録媒体810を用いて、一般のリニア記録方式のデータカートリッジを構成した場合には、データカートリッジ1巻当たり100TB以上の大容量記録が可能になる。
【0426】
第2の実施形態に係る磁気記録媒体810は、リング型の記録ヘッドと巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistive:GMR)型またはトンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magnetoresistive:TMR)型の再生ヘッドとを有する記録再生装置(データを記録再生するための記録再生装置)に用いて好適なものである。また、第2の実施形態に係る磁気記録媒体810は、サーボ信号書込ヘッドとしてリング型の記録ヘッドが用いられるものであることが好ましい。磁性層815には、例えばリング型の記録ヘッドによりデータ信号が垂直記録される。また、磁性層815には、例えばリング型の記録ヘッドによりサーボ信号が垂直記録される。
【0427】
(2)各層の説明
【0428】
(ベース層)
【0429】
ベース層811については、第1の実施形態におけるベース層41に関する説明が当てはまるので、ベース層811についての説明は省略する。
【0430】
(SUL)
【0431】
SUL812は、アモルファス状態の軟磁性材料を含む。軟磁性材料は、例えば、Co系材料及びFe系材料のうちの少なくとも1種を含む。Co系材料は、例えば、CoZrNb、CoZrTa、又はCoZrTaNbを含む。Fe系材料は、例えば、FeCoB、FeCoZr、又はFeCoTaを含む。
【0432】
SUL812は、単層のSULであり、ベース層811上に直接設けられている。SUL812の平均厚みは、好ましくは10nm以上50nm以下、より好ましくは20nm以上30nm以下である。
【0433】
SUL812の平均厚みは、第1の実施形態における磁性層43の平均厚みの測定方法と同じ方法で求められる。なお、後述する、SUL812以外の層の平均厚み(すなわち、第1、第2のシード層813A、813B、第1、第2の下地層814A、814B、及び磁性層815の平均厚み)も、第1の実施形態における磁性層43の平均厚みの測定方法と同じ方法で求められる。但し、TEM像の倍率は、各層の厚みに応じて適宜調整される。
【0434】
(第1、第2のシード層)
【0435】
第1のシード層813Aは、Ti及びCrを含む合金を含み、アモルファス状態を有している。また、この合金には、O(酸素)がさらに含まれていてもよい。この酸素は、スパッタリング法などの成膜法で第1のシード層813Aを成膜する際に、第1のシード層813A内に微量に含まれる不純物酸素であってもよい。
【0436】
ここで、“合金”とは、Ti及びCrを含む固溶体、共晶体、及び金属間化合物などの少なくとも一種を意味する。“アモルファス状態”とは、X線回折または電子線回折法などにより、ハローが観測され、結晶構造を特定できないことを意味する。
【0437】
第1のシード層813Aに含まれるTi及びCrの総量に対するTiの原子比率は、好ましくは30原子%以上100原子%以下、より好ましくは50原子%以上100原子%以下の範囲内である。Tiの原子比率が30%未満であると、Crの体心立方格子(Body-Centered Cubic lattice:bcc)構造の(100)面が配向するようになり、第1のシード層813A上に形成される第1、第2の下地層814A、814Bの配向性が低下する虞がある。
【0438】
上記Tiの原子比率は次のようにして求められる。磁性層815側から磁気記録媒体810をイオンミリングしながら、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy、以下「AES」という。)による第1のシード層813Aの深さ方向分析(デプスプロファイル測定)を行う。次に、得られたデプスプロファイルから、膜厚方向におけるTi及びCrの平均組成(平均原子比率)を求める。次に、求めたTi及びCrの平均組成を用いて、上記Tiの原子比率を求める。
【0439】
第1のシード層813AがTi、Cr、及びOを含む場合、第1のシード層813Aに含まれるTi、Cr、及びOの総量に対するOの原子比率は、好ましくは15原子%以下、より好ましくは10原子%以下である。Oの原子比率が15原子%を超えると、TiO結晶が生成することにより、第1のシード層813A上に形成される第1、第2の下地層814A、814Bの結晶核形成に影響を与えるようになり、第1、第2の下地層814A、814Bの配向性が低下する虞がある。上記Oの原子比率は、上記Tiの原子比率と同様の解析方法を用いて求められる。
【0440】
第1のシード層813Aに含まれる合金が、Ti及びCr以外の元素を添加元素としてさらに含んでいてもよい。この添加元素は、例えば、Nb、Ni、Mo、Al、及びWからなる群より選ばれる1種以上の元素であってよい。
【0441】
第1のシード層813Aの平均厚みは、好ましくは2nm以上15nm以下、より好ましくは3nm以上10nm以下である。
【0442】
第2のシード層813Bは、例えば、NiW又はTaを含み、結晶状態を有している。第2のシード層813Bの平均厚みは、好ましくは3nm以上20nm以下、より好ましくは5nm以上15nm以下である。
【0443】
第1、第2のシード層813A、813Bは、第1、第2の下地層814A、814Bに類似した結晶構造を有し、結晶成長を目的として設けられるシード層ではなく、当該第1、第2のシード層813A、813Bのアモルファス状態によって第1、第2の下地層814A、814Bの垂直配向性を向上するシード層である。
【0444】
(第1、第2の下地層)
【0445】
第1、第2の下地層814A、814Bは、磁性層815と同様の結晶構造を有していることが好ましい。磁性層815がCo系合金を含む場合には、第1、第2の下地層814A、814Bは、Co系合金と同様の六方最密充填(hcp)構造を有する材料を含み、その構造のc軸が膜面に対して垂直方向(すなわち膜厚方向)に配向していることが好ましい。これは、磁性層815の配向性を高め、且つ、第2の下地層814Bと磁性層815との格子定数のマッチングを比較的良好にできるからである。六方最密充填(hcp)構造を有する材料としては、Ruを含む材料を用いることが好ましく、具体的にはRu単体またはRu合金が好ましい。Ru合金としては、例えばRu-SiO、Ru-TiO、及びRu-ZrOなどのRu合金酸化物が挙げられ、Ru合金はこれらのうちのいずれか一つであってよい。
【0446】
上述のように、第1、第2の下地層814A、814Bの材料として同様のものを用いることができる。しかしながら、第1、第2の下地層814A、814Bそれぞれの目的とする効果が異なっている。具体的には、第2の下地層814Bについてはその上層となる磁性層815のグラニュラ構造を促進する膜構造であり、第1の下地層814Aについては結晶配向性の高い膜構造である。このような膜構造を得るためには、第1、第2の下地層814A、814Bそれぞれのスパッタ条件などの成膜条件を異なるものとすることが好ましい。
【0447】
第1の下地層814Aの平均厚みは、好ましくは3nm以上15nm以下、より好ましくは5nm以上10nm以下である。第2の下地層814Bの平均厚みは、好ましくは7nm以上40nm以下、より好ましくは10nm以上25nm以下である。
【0448】
(磁性層)
【0449】
磁性層(記録層ともいう)815は、磁性材料が垂直に配向した垂直磁気記録層でありうる。磁性層815は、記録密度を向上する観点からすると、Co系合金を含むグラニュラ磁性層であることが好ましい。このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含む強磁性結晶粒子と、この強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界(非磁性体)とから構成されている。より具体的には、このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含むカラム(柱状結晶)と、このカラムを取り囲み、それぞれのカラムを磁気的に分離する非磁性粒界(例えば、SiOなどの酸化物)とから構成されている。この構造では、それぞれのカラムが磁気的に分離した構造を有する磁性層815を構成することができる。
【0450】
Co系合金は、六方最密充填(hcp)構造を有し、そのc軸が膜面に対して垂直方向(膜厚方向)に配向している。Co系合金としては、少なくともCo、Cr、及びPtを含有するCoCrPt系合金を用いることが好ましい。CoCrPt系合金は、さらに添加元素を含んでいてもよい。添加元素としては、例えば、Ni及びTaなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。
【0451】
強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界は、非磁性金属材料を含む。ここで、金属には半金属を含むものとする。非磁性金属材料としては、例えば、金属酸化物及び金属窒化物のうちの少なくとも一方を用いることができ、グラニュラ構造をより安定に維持する観点からすると、金属酸化物を用いることが好ましい。金属酸化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、Y、及びHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属酸化物が挙げられ、少なくともSi酸化物(すなわちSiO)を含む金属酸化物が好ましい。金属酸化物の具体例としては、SiO、Cr、CoO、Al、TiO、Ta、ZrO、及びHfOなどが挙げられる。金属窒化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、Y、及びHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属窒化物が挙げられる。金属窒化物の具体例としては、SiN、TiN、及びAlNなどが挙げられる。
【0452】
強磁性結晶粒子に含まれるCoCrPt系合金と、非磁性粒界に含まれるSi酸化物とが、以下の式(1)に示す平均組成を有していることが好ましい。反磁界の影響を抑え、かつ、十分な再生出力を確保できる飽和磁化量Msを実現でき、これにより、記録再生特性の更なる向上を実現できるからである。
(CoPtCr100-x-y100-z-(SiO・・・(1)
(但し、式(1)中において、x、y、zはそれぞれ、69≦x≦75、10≦y≦16、9≦z≦12の範囲内の値である。)
【0453】
なお、上記組成は次のようにして求めることができる。磁性層815側から磁気記録媒体810をイオンミリングしながら、AESによる磁性層815の深さ方向分析を行い、膜厚方向におけるCo、Pt、Cr、Si、及びOの平均組成(平均原子比率)を求める。
【0454】
磁性層815の平均厚みt[nm]は、好ましくは9nm≦t≦90nm、より好ましくは9nm≦t≦20nm、更により好ましくは9nm≦t≦15nmである。磁性層815の平均厚みtが上記数値範囲内にあることによって、電磁変換特性を向上することができる。
【0455】
(保護層)
【0456】
保護層816は、例えば、炭素材料又は二酸化ケイ素(SiO)を含み、保護層816の膜強度の観点からすると、炭素材料を含むことが好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)、又はダイヤモンドなどが挙げられる。
【0457】
(潤滑層)
【0458】
潤滑層817は、少なくとも1種の潤滑剤を含む。潤滑層817は、必要に応じて各種添加剤、例えば防錆剤など、をさらに含んでいてもよい。潤滑剤は、少なくとも2つのカルボキシル基と1つのエステル結合とを有し、下記の一般式(1)で表されるカルボン酸系化合物の少なくとも1種を含む。潤滑剤は、下記の一般式(1)で表されるカルボン酸系化合物以外の種類の潤滑剤をさらに含んでいてもよい。
一般式(1):
【化1】
(式中、Rfは、非置換若しくは置換の飽和若しくは不飽和の含フッ素炭化水素基又は炭化水素基であり、Esはエステル結合であり、Rは、なくてもよいが、非置換若しくは置換の飽和若しくは不飽和の炭化水素基である。)
【0459】
上記カルボン酸系化合物は、下記の一般式(2)又は(3)で表されるものであることが好ましい。
一般式(2):
【化2】
(式中、Rfは、非置換若しくは置換の飽和若しくは不飽和の含フッ素炭化水素基又は炭化水素基である。)
一般式(3):
【化3】
(式中、Rfは、非置換若しくは置換の飽和若しくは不飽和の含フッ素炭化水素基又は炭化水素基である。)
【0460】
潤滑剤は、上記の一般式(2)及び(3)で表されるカルボン酸系化合物の一方または両方を含むことが好ましい。
【0461】
一般式(1)で示されるカルボン酸系化合物を含む潤滑剤を磁性層815または保護層816などに塗布すると、疎水性基である含フッ素炭化水素基又は炭化水素基Rf間の凝集力により潤滑作用が発現する。Rf基が含フッ素炭化水素基である場合には、総炭素数が6~50であり、且つフッ化炭化水素基の総炭素数が4~20であることが好ましい。Rf基は、例えば、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖、又は環状の炭化水素基であってよいが、好ましくは飽和の直鎖状炭化水素基でありうる。
【0462】
例えば、Rf基が炭化水素基である場合には、下記一般式(4)で表される基であることが望ましい。
一般式(4):
【化4】
(但し、一般式(4)において、lは、8~30、より望ましくは12~20の範囲から選ばれる整数である。)
【0463】
また、Rf基が含フッ素炭化水素基である場合には、下記一般式(5)で表される基であることが望ましい。
一般式(5):
【化5】
(但し、一般式(5)において、mとnは、それぞれ次の範囲から互いに独立に選ばれる整数で、m=2~20、n=3~18、より望ましくは、m=4~13、n=3~10である。)
【0464】
フッ化炭化水素基は、上記のように分子内の1箇所に集中していても、また下記一般式(6)のように分散していてもよく、-CFや-CF-ばかりでなく-CHFや-CHF-等であってもよい。
一般式(6):
【化6】
(但し、一般式(5)及び(6)において、n1+n2=n、m1+m2=mである。)
【0465】
一般式(4)、(5)、及び(6)において炭素数を上記のように限定したのは、アルキル基または含フッ素アルキル基を構成する炭素数(l、又は、mとnの和)が上記下限以上であると、その長さが適度の長さとなり、疎水性基間の凝集力が有効に発揮され、良好な潤滑作用が発現し、摩擦・摩耗耐久性が向上するからである。また、その炭素数が上記上限以下であると、上記カルボン酸系化合物からなる潤滑剤の、溶媒に対する溶解性が良好に保たれるからである。
【0466】
特に、一般式(1)、(2)、及び(3)におけるRf基は、フッ素原子を含有すると、摩擦係数の低減、さらには走行性の改善等に効果がある。但し、含フッ素炭化水素基とエステル結合との間に炭化水素基を設け、含フッ素炭化水素基とエステル結合との間を隔てて、エステル結合の安定性を確保して加水分解を防ぐことが好ましい。
【0467】
また、Rf基がフルオロアルキルエーテル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するものであってもよい。
【0468】
一般式(1)におけるR基は、なくてもよいが、ある場合には、比較的炭素数の少ない炭化水素鎖であることが好ましい。
【0469】
また、Rf基又はR基は、構成元素として窒素、酸素、硫黄、リン、及びハロゲンから選ばれる1又は複数の元素を含み、既述した官能基に加えて、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、及びエステル結合等を更に有していてもよい。
【0470】
一般式(1)で示されるカルボン酸系化合物は、具体的には以下に示す化合物の少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、潤滑剤は、以下に示す化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。
CF3(CF2)7(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
C17H35COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH2CH(C18H37)COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CHF2(CF2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)6OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)11OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)6OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
C18H37OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)4COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)4COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)9(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)12COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)5(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7CH(C9H19)CH2CH=CH(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7CH(C6H13)(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CH3(CH2)3(CH2CH2CH(CH2CH2(CF2)9CF3))2(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
【0471】
一般式(1)で示されるカルボン酸系化合物は、環境への負荷の小さい非フッ素系溶剤に可溶であり、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、及びエステル系溶剤などの汎用溶剤を用いて、塗布、浸漬、噴霧などの操作を行えるという利点を備えている。具体的には、前記汎用溶剤として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びシクロヘキサノンなどの溶媒を挙げることができる。
【0472】
保護層816が炭素材料を含む場合には、潤滑剤として上記カルボン酸系化合物を保護層816上に塗布すると、保護層816上に潤滑剤分子の極性基部である2つのカルボキシル基と少なくとも1つのエステル結合基が吸着され、疎水性基間の凝集力により特に耐久性の良好な潤滑層817を形成することができる。
【0473】
なお、潤滑剤は、上述のように磁気記録媒体810の表面に潤滑層817として保持されるのみならず、磁気記録媒体810を構成する磁性層815及び保護層816などの層に含まれ、保有されていてもよい。
【0474】
(バック層)
【0475】
バック層818については、第1の実施形態におけるバック層44に関する説明が当てはまる。
【0476】
(3)物性及び構造
【0477】
上記2.の(3)において述べた物性及び構造に関する説明の全てが、第2の実施形態についても当てはまる。そのため、第2の実施形態の磁気記録媒体の物性及び構造についての説明は省略する。
【0478】
(4)スパッタ装置の構成
【0479】
以下、図43を参照して、第2の実施形態に係る磁気記録媒体810の製造に用いられるスパッタ装置820の構成の一例について説明する。このスパッタ装置820は、SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B及び磁性層815の成膜に用いられる連続巻取式スパッタ装置であり、図43に示すように、成膜室821と、金属キャン(回転体)であるドラム822と、カソード823a~823fと、供給リール824と、巻き取りリール825と、複数のガイドローラ827a~827c、828a~828cとを備える。スパッタ装置820は、例えば、DC(直流)マグネトロンスパッタリング方式の装置であるが、スパッタリング方式はこの方式に限定されるものではない。
【0480】
成膜室821は、排気口826を介して図示しない真空ポンプに接続され、この真空ポンプにより成膜室821内の雰囲気が所定の真空度に設定される。成膜室821の内部には、回転可能な構成を有するドラム822、供給リール824、及び巻き取りリール825が配置されている。成膜室821の内部には、供給リール824とドラム822との間におけるベース層811の搬送をガイドするための複数のガイドローラ827a~827cが設けられていると共に、ドラム822と巻き取りリール825との間におけるベース層811の搬送をガイドするための複数のガイドローラ828a~828cが設けられている。スパッタ時には、供給リール824から巻き出されたベース層811が、ガイドローラ827a~827c、ドラム822、及びガイドローラ828a~828cを介して巻き取りリール825に巻き取られる。ドラム822は円柱状の形状を有し、長尺状のベース層811はドラム822の円柱面状の周面に沿わせて搬送される。ドラム822には、図示しない冷却機構が設けられており、スパッタ時には、例えば、-20℃程度に冷却される。成膜室821の内部には、ドラム822の周面に対向して複数のカソード823a~823fが配置されている。これらのカソード823a~823fにはそれぞれターゲットがセットされている。具体的には、カソード823a、823b、823c、823d、823e、823fにはそれぞれ、SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、磁性層815を成膜するためのターゲットがセットされている。これらのカソード823a~823fにより複数の種類の膜、すなわちSUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、及び磁性層815が同時に成膜される。
【0481】
上述の構成を有するスパッタ装置820では、SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、及び磁性層815をRolltoRoll法により連続成膜することができる。
【0482】
(5)磁気記録媒体の製造方法
【0483】
第2の実施形態に係る磁気記録媒体810は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0484】
まず、図43に示したスパッタ装置820を用いて、SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、及び磁性層815をベース層811の表面上に順次成膜する。具体的には以下のようにして成膜する。まず、成膜室821を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、成膜室821内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、カソード823a~823fにセットされたターゲットをスパッタする。これにより、SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、及び磁性層815が、走行するベース層811の表面に順次成膜される。
【0485】
スパッタ時の成膜室821の雰囲気は、例えば、1×10-5Pa~5×10-5Pa程度に設定される。SUL812、第1のシード層813A、第2のシード層813B、第1の下地層814A、第2の下地層814B、及び磁性層815の膜厚及び特性は、ベース層811を巻き取るテープライン速度、スパッタ時に導入するArガスなどのプロセスガスの圧力(スパッタガス圧)、及び投入電力などを調整することにより制御可能である。
【0486】
次に、磁性層815上に保護層816を成膜する。保護層816の成膜方法としては、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法または物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)法を用いることができる。
【0487】
次に、結着剤、無機粒子、及び潤滑剤などを溶剤に混練、分散させることにより、バック層成膜用の塗料を調製する。次に、ベース層811の裏面上にバック層成膜用の塗料を塗布して乾燥させることにより、バック層818をベース層811の裏面上に成膜する。
【0488】
次に、例えば、潤滑剤を保護層816上に塗布し、潤滑層817を成膜する。潤滑剤の塗布方法としては、例えば、グラビアコーティング、ディップコーティングなどの各種塗布方法を用いることができる。次に、必要に応じて、磁気記録媒体810を所定の幅に裁断する。以上により、図42に示した磁気記録媒体810が得られる。
【0489】
(6)変形例
【0490】
磁気記録媒体810が、ベース層811とSUL812との間に下地層をさらに備えるようにしてもよい。SUL812はアモルファス状態を有するため、SUL812上に形成される層のエピタキシャル成長を促す役割を担わないが、SUL812の上に形成される第1、第2の下地層814A、814Bの結晶配向を乱さないことが求められる。そのためには、軟磁性材料がカラムを形成しない微細な構造を有していることが好ましいが、ベース層811からの水分などのガスの放出の影響が大きい場合、軟磁性材料が粗大化し、SUL812上に形成される第1、第2の下地層814A、814Bの結晶配向を乱してしまう虞がある。ベース層811からの水分などのガスの放出の影響を抑制するためには、上述のように、ベース層811とSUL812との間に、Ti及びCrを含む合金を含み、アモルファス状態を有する下地層を設けることが好ましい。この下地層の具体的な構成としては、第2の実施形態の第1のシード層813Aと同様の構成を採用することができる。
【0491】
磁気記録媒体810が、第2のシード層813B及び第2の下地層814Bのうちの少なくとも1つの層を備えていなくてもよい。但し、SNRの向上の観点からすると、第2のシード層813B及び第2の下地層814Bの両方の層を備えることがより好ましい。
【0492】
磁気記録媒体810が、単層のSULに代えて、APC-SUL(Antiparallel Coupled SUL)を備えるようにしてもよい。
【0493】
4.第3の実施形態(真空薄膜型の磁気記録媒体の例)
【0494】
(1)磁気記録媒体の構成
【0495】
第3の実施形態に係る磁気記録媒体830は、図44に示すように、ベース層811と、SUL812と、シード層831と、第1の下地層832Aと、第2の下地層832Bと、磁性層815とを備える。なお、第3の実施形態において第2の実施形態と同様の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0496】
SUL812、シード層831、第1、第2の下地層832A、832Bは、ベース層811の一方の主面と磁性層815との間に設けられ、ベース層811から磁性層815の方向に向かってSUL812、シード層831、第1の下地層832A、第2の下地層832Bの順序で積層されている。
【0497】
(シード層)
【0498】
シード層831は、Cr、Ni、及びFeを含み、面心立方格子(fcc)構造を有し、この面心立方構造の(111)面がベース層811の表面に平行になるように優先配向している。ここで、優先配向とは、X線回折法のθ-2θスキャンにおいて面心立方格子構造の(111)面からの回折ピーク強度が他の結晶面からの回折ピークより大きい状態、またはX線回折法のθ-2θスキャンにおいて面心立方格子構造の(111)面からの回折ピーク強度のみが観察される状態を意味する。
【0499】
シード層831のX線回折の強度比率は、SNRの向上の観点から、好ましくは60cps/nm以上、より好ましくは70cps/nm以上、さらにより好ましくは80cps/nm以上である。ここで、シード層831のX線回折の強度比率は、シード層831のX線回折の強度I(cps)をシード層131の平均厚みD(nm)で除算して求められる値(I/D(cps/nm))である。
【0500】
シード層831に含まれるCr、Ni、及びFeは、以下の式(2)で表される平均組成を有することが好ましい。
Cr(NiFe100-Y100-X・・・(2)
(但し、式(2)中において、Xは10≦X≦45、Yは60≦Y≦90の範囲内である。)Xが上記範囲内であると、Cr、Ni、Feの面心立方格子構造の(111)配向が向上し、より良好なSNRを得ることができる。同様にYが上記範囲内であると、Cr、Ni、Feの面心立方格子構造の(111)配向が向上し、より良好なSNRを得ることができる。
【0501】
シード層831の平均厚みは、5nm以上40nm以下であることが好ましい。シード層831の平均厚みをこの範囲内にすることで、Cr、Ni、Feの面心立方格子構造の(111)配向を向上し、より良好なSNRを得ることができる。なお、シード層831の平均厚みは、第1の実施形態における磁性層43と同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、シード層831の厚みに応じて適宜調整される。
【0502】
(第1、第2の下地層)
【0503】
第1の下地層832Aは、面心立方格子構造を有するCo及びOを含み、カラム(柱状結晶)構造を有している。Co及びOを含む第1の下地層832Aでは、Ruを含む第2の下地層832Bとほぼ同様の効果(機能)が得られる。Coの平均原子濃度に対するOの平均原子濃度の濃度比((Oの平均原子濃度)/(Coの平均原子濃度))が1以上である。濃度比が1以上であると、第1の下地層832Aを設ける効果が向上し、より良好なSNRを得ることができる。
【0504】
カラム構造は、SNR向上の観点から、傾斜していることが好ましい。その傾斜の方向は、長尺状の磁気記録媒体830の長手方向であることが好ましい。このように長手方向が好ましいのは、以下の理由による。本実施形態に係る磁気記録媒体830は、いわゆるリニア記録用の磁気記録媒体であり、記録トラックは磁気記録媒体830の長手方向に平行となる。また、本実施形態に係る磁気記録媒体830は、いわゆる垂直磁気記録媒体でもあり、記録特性の観点からすると、磁性層815の結晶配向軸が垂直方向であることが好ましいが、第1の下地層832Aのカラム構造の傾きの影響で、磁性層815の結晶配向軸に傾きが生じる場合がある。リニア記録用である磁気記録媒体830においては、記録時のヘッド磁界との関係上、磁気記録媒体830の長手方向に磁性層815の結晶配向軸が傾いている構成が、磁気記録媒体830の幅方向に磁性層815の結晶配向軸が傾いている構成に比べて、結晶配向軸の傾きによる記録特性への影響を低減できる。磁気記録媒体830の長手方向に磁性層815の結晶配向軸を傾かせるためには、上記のように第1の下地層832Aのカラム構造の傾斜方向を磁気記録媒体830の長手方向とすることが好ましい。
【0505】
カラム構造の傾斜角は、好ましくは0°より大きく60°以下であることが好ましい。傾斜角が0°より大きく60°以下の範囲では、第1の下地層832Aに含まれるカラムの先端形状の変化が大きくほぼ三角山状になるため、グラニュラ構造の効果が高まり、低ノイズ化し、SNRが向上する傾向がある。一方、傾斜角が60°を超えると、第1の下地層832Aに含まれるカラムの先端形状の変化が小さくほぼ三角山状とはなりにくいため、低ノイズ効果が薄れる傾向がある。
【0506】
カラム構造の平均粒径は、3nm以上13nm以下である。平均粒径が3nm未満であると、磁性層815に含まれるカラム構造の平均粒径が小さくなるため、現在の磁性材料では記録を保持する能力が低下する虞がある。一方、平均粒径が13nm以下であると、ノイズを抑制し、より良好なSNRを得ることができる。
【0507】
第1の下地層832Aの平均厚みは、10nm以上150nm以下であることが好ましい。第1の下地層832Aの平均厚みが10nm以上であると、第1の下地層832Aの面心立方格子構造の(111)配向が向上し、より良好なSNRを得ることができる。一方、第1の下地層832Aの平均厚みが150nm以下であると、カラムの粒径が大きくなることを抑制できる。したがって、ノイズを抑制し、より良好なSNRを得ることができる。なお、第1の下地層832Aの平均厚みは、第1の実施形態における磁性層43と同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、第1の下地層832Aの厚みに応じて適宜調整される。
【0508】
第2の下地層832Bは、磁性層815と同様の結晶構造を有していることが好ましい。磁性層815がCo系合金を含む場合には、第2の下地層832Bは、Co系合金と同様の六方最密充填(hcp)構造を有する材料を含み、その構造のc軸が膜面に対して垂直方向(すなわち膜厚方向)に配向していることが好ましい。磁性層815の配向性を高め、かつ、第2の下地層832Bと磁性層815との格子定数のマッチングを比較的良好にできるからである。六方最密充填構造を有する材料としては、Ruを含む材料を用いることが好ましく、具体的にはRu単体またはRu合金が好ましい。Ru合金としては、例えば、Ru-SiO、Ru-TiOまたはRu-ZrOなどのRu合金酸化物が挙げられる。
【0509】
第2の下地層832Bの平均厚みは、一般的な磁気記録媒体における下地層(例えば、Ruを含む下地層)よりも薄くてもよく、例えば、1nm以上5nm以下とすることが可能である。第2の下地層832Bの下に上述の構成を有するシード層831及び第1の下地層832Aを設けているので、第2の下地層832Bの平均厚みが上述のように薄くても良好なSNRが得られる。なお、第2の下地層832Bの平均厚みは、第1の実施形態における磁性層43と同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、第2の下地層832Bの厚みに応じて適宜調整される。
【0510】
5.本技術に係る磁気記録カートリッジの一実施形態
【0511】
[カートリッジの構成]
【0512】
本技術は、本技術に従う磁気記録媒体を含む磁気記録カートリッジ(テープカートリッジともいう)も提供する。当該磁気記録カートリッジ内において、前記磁気記録媒体は、例えばリールに巻き付けられていてよい。当該磁気記録カートリッジは、例えば 記録再生装置と通信を行う通信部と、記憶部と、前記通信部を介して前記記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、前記記録再生装置の要求に応じて、前記記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備えていてよい。前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含みうる。
【0513】
図45は本技術の一実施形態に係るテープカートリッジ10Aを示す分解斜視図である。本実施形態の説明では、テープカートリッジ10Aとして、LTO規格に準拠するテープカートリッジを例に挙げて説明する。
【0514】
図45に示すように、テープカートリッジ10Aは、カートリッジケース11と、テープリール13と、磁気記録媒体10とを備えている。カートリッジケース11は、上シェル11aと下シェル11bとを複数本のネジ部材により結合することで構成されている。カートリッジケース11の内部には、磁気記録媒体10を巻装した単一のテープリール13が回転可能に収容されている。
【0515】
テープリール13の底部中央には、記録再生装置30のスピンドル31(図10参照)と係合するチャッキングギヤ(図示略)が環状に形成されている。このチャッキングギヤは、下シェル11bの中央に形成された開口部14を介して外部へ露出している。このチャッキングギヤの内周側には、スピンドル31と磁気的に吸着される環状の金属プレート15が固定されている。
【0516】
上シェル11aの内面とテープリール13との間には、リールスプリング16、リールロック部材17及びスパイダ18が配置されている。これらにより、カートリッジ10Aの非使用時におけるテープリール13の回転を抑止するリールロック機構が構成される。
【0517】
カートリッジケース11の一側壁部には、磁気記録媒体10の一端を外部へ引き出すためのテープ引出し口19が設けられている。この側壁部の内方には、テープ引出し口19を開閉するスライドドア20が配置されている。スライドドア20は、記録再生装置30のテープローディング機構(不図示)との係合によりトーションバネ21の付勢力に抗してテープ引出し口19を開放する方向にスライドするように構成される。
【0518】
磁気記録媒体10の一端部には、リーダーピン22が固着されている。リーダーピン22は、テープ引出し口19の内方側に設けられたピン保持部23に対して着脱可能に構成される。ピン保持部23は、カートリッジケース11の上壁内面(上シェル11aの内面)及び底壁内面(下シェル11bの内面)において、リーダーピン22の上端部及び下端部をそれぞれ弾性的に保持する弾性保持具24を備えている。
【0519】
そして、カートリッジケース11の他の側壁内方には、磁気記録媒体10に記録された情報の誤消去防止用のセイフティタブ25のほか、磁気記録媒体10に記録されたデータに関する内容および磁気テープ1に関する情報を非接触で読み書き可能なカートリッジメモリ9が配置されている。
【0520】
6.本技術に係る磁気記録カートリッジの変形例
【0521】
[カートリッジの構成]
【0522】
上述の磁気記録カートリッジの一実施形態では、磁気テープカートリッジが、1リールタイプのカートリッジである場合について説明したが、本技術の磁気記録カートリッジは、2リールタイプのカートリッジであってもよい。すなわち、本技術の磁気記録カートリッジは、磁気テープが巻き取られるリールを1つ又は複数(例えば2つ)有してよい。以下で、図46を参照しながら、2つのリールを有する本技術の磁気記録カートリッジの例を説明する。
【0523】
図46は、2リールタイプのカートリッジ921の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ921は、合成樹脂製の上ハーフ902と、上ハーフ902の上面に開口された窓部902aに嵌合されて固着される透明な窓部材923と、上ハーフ902の内側に固着されリール906、907の浮き上がりを防止するリールホルダー922と、上ハーフ902に対応する下ハーフ905と、上ハーフ902と下ハーフ905を組み合わせてできる空間に収納されるリール906、907と、リール906、907に巻かれた磁気記録媒体MT1と、上ハーフ902と下ハーフ905を組み合わせてできるフロント側開口部を閉蓋するフロントリッド909およびこのフロント側開口部に露出した磁気記録媒体MT1を保護するバックリッド909Aとを備える。
【0524】
リール906は、磁気記録媒体MT1が巻かれる円筒状のハブ部906aを中央部に有する下フランジ906bと、下フランジ906bとほぼ同じ大きさの上フランジ906cと、ハブ部906aと上フランジ906cの間に挟み込まれたリールプレート911とを備える。リール907はリール906と同様の構成を有している。
【0525】
窓部材923には、リール906、907に対応した位置に、これらリールの浮き上がりを防止するリール保持手段であるリールホルダー922を組み付けるための取付孔923aが各々設けられている。磁気記録媒体MT1は、第1の実施形態における磁気記録媒体Tと同様である。
【0526】
本技術は、以下のような構成を採用することもできる。
[1]
幅方向に隣接する複数のサーボバンドを有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内であり、
平均厚み(平均全厚)が5.3μm以下である、前記磁気記録媒体。
[2]
35℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である、[1]に記載の前記磁気記録媒体。
[3]
10℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である、[1]又は[2]に記載の前記磁気記録媒体。
[4]
前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が22分以内である、[1]~[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]
60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、680ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]
60℃の温度環境において、前記磁気記録媒体の幅変化量ΔWが、700ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]
前記サーボバンドに書き込まれたサーボパターンは、前記磁気記録媒体の幅方向に対して5~20°のアジマス角を持って傾斜する複数のストライプを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]
データ記録トラック幅が1000nm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]
前記磁性層が磁性粉を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]
前記磁性層がスパッタ層である、[1]~[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[11]
[1]~[10]のいずれかに記載の磁気記録媒体がリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録カートリッジ。
【0527】
7.実施例
【0528】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0529】
以下の実施例及び比較例において、磁気テープの幅変化量ΔW、幅が安定するまでの時間(テープ追随時間)、磁気テープの厚みt、非磁性層(下地層)の厚み、ベース層の厚み、バック層の厚み、及び磁性層の厚みtは、第1の実施形態にて説明した測定方法により求められた値である。なお、サーボトラック幅変化量は以下の方法により求められた値である。
【0530】
[サーボトラック幅変化量]
【0531】
サーボトラック幅変化量の測定方法について説明する。サーボトラック幅変化量の測定は、温度25℃±3℃、湿度50%±5%の環境下で行う。サーボトラック幅変化量の測定に際し、データバンド0のサーボバンドピッチを、記録再生装置30により測定する。
【0532】
記録再生装置30を用いたサーボトラック幅変化量の測定方法は、上記2.の(5)のように、記録再生装置30によって磁気記録媒体10を走行させ、2つのサーボリードヘッド132の各サーボバンド上でのサーボトレースラインTをそれぞれ測定し、測定した各サーボトレースラインTのサーボパターン6に対する相対位置からサーボバンドピッチを測定する。磁気記録媒体10の初回走行時の全長のサーボバンドピッチと7往復走行時の全長のサーボバンドピッチとの差を求め、その最大値をサーボトラック幅変化量とする。図47は、60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である本技術に従う磁気記録媒体のサーボトラック幅変化量を示す図である。
【0533】
[実施例1]
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにダイノミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0534】
(第1組成物)
バリウムフェライト(BaFe1219)磁性粉(六角板状、平均アスペクト比2.9、平均粒子体積:1400nm):100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):30質量部
(重合度300、数平均分子量Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
ポリウレタン樹脂(樹脂溶液:ポリウレタン樹脂の配合量30質量%、シクロヘキサノンの配合量70質量%):22質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、Tg110℃)
酸化アルミニウム粉末:4質量部
(α-Al23、平均粒径0.1μm)
【0535】
(第2組成物)
カーボンブラック:3.0質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストS、算術平均粒子径70nm)
ポリウレタン樹脂(樹脂溶液:ポリウレタン樹脂の配合量30質量%、シクロヘキサノンの配合量70質量%):6.5質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、Tg110℃)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.0質量部
トルエン:121.0質量部
シクロヘキサノン:116.0質量部
【0536】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):3.0質量部と、ステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0537】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにダイノミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0538】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe23、平均長軸長0.11μm)
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):60質量部
(重合度300、数平均分子量Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:3質量部
(α-Al23、平均粒径0.1μm)
【0539】
(第4組成物)
カーボンブラック:30質量部
(旭カーボン社製、商品名:#80)
ポリウレタン樹脂(樹脂溶液:ポリウレタン樹脂の配合量30質量%、シクロヘキサノンの配合量70質量%):55質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、Tg70℃)
n-ブチルステアレート:2.5質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:100.0質量部
【0540】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):3.5質量部と、ステアリン酸:2.0質量部とを添加した。
【0541】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:160質量部
(樹脂溶液:ポリウレタン樹脂の配合量30質量%、シクロヘキサノンの配合量70質量%)
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):10質量部
【0542】
(成膜工程)
上述のようにして作製した塗料を用いて、磁気テープを以下に説明するとおりにして作製した。
【0543】
まず、磁気テープのベース層となる支持体として、長尺状を有する、平均厚み4.0μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)(ベースフィルム)を準備した。次に、PETフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、PETフィルムの一方の主面上に、最終製品にしたときの平均厚みが0.75μmとなるように下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、下地層上に最終製品にしたときの平均厚みが60nmとなるように磁性層を形成した。
【0544】
続いて、下地層及び磁性層が形成されたPETフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、最終製品にしたときの平均厚みが0.35μmとなるようにバック層を形成した。そして、下地層、磁性層、およびバック層が形成されたPETフィルムに対して60℃で硬化処理を行った。その後、70℃で20時間アニール処理を行い、カレンダー処理を行って磁性層表面を平滑化した。
【0545】
(裁断の工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、長尺状を有する、磁気テープが得られた。得られた磁気テープは、磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は24分であり、60℃における幅変化量ΔWは750ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.016μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0546】
当該1/2インチ幅の磁気テープをカートリッジケース内に設けられたリールに巻き付けて、磁気記録カートリッジを得た。当該磁気テープにサーボパターンを記録した。当該サーボパターンは、ハの字のサーボフレームの列からなり、当該サーボフレームは、互いに既知の間隔で、長手方向に平行に2列以上予め記録された。磁気テープを0.55Nのテンションで磁気記録カートリッジに巻き込んだ状態で、25℃±3℃、50RH%±5%の環境下において、磁気記録カートリッジ内に収容されている磁気テープを、記録再生装置へと巻き込むように走行させながら(いわゆる順方向に走行させながら)サーボバンドピッチの測定を行った。記録再生装置によって磁気テープを走行させ、2つのサーボリードヘッドの各サーボバンド上でのサーボトレースラインをそれぞれ測定し、測定した各サーボトレースラインのサーボパターンに対する相対位置からサーボバンドピッチを測定する。磁気テープの初回走行時の全長のサーボバンドピッチと7往復走行時の全長のサーボバンドピッチとの差を求め、その最大値をサーボトラック幅変化量とした。
【0547】
[実施例2]
実施例1とは、ベース層として、平均厚み4.0μmのPENフィルムを用いた点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は24分であり、60℃における幅変化量ΔWは780ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.015μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0548】
[実施例3]
実施例1とは、裁断前に60℃で20時間アニール処理を行い、さらにカートリッジの状態にして40℃で30時間のひずみ緩和処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は22分であり、60℃における幅変化量ΔWは730ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.012μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0549】
[実施例4]
実施例1とは、ベース層として、平均厚み4.0μmのPENフィルムを用い、さらにカートリッジの状態にして40℃で30時間のひずみ緩和処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は21分であり、60℃における幅変化量ΔWは760ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.011μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0550】
[実施例5]
実施例1とは、ベース層として、平均厚み4.0μmのPENフィルムを用い、裁断前に70℃で20時間のアニール処理を行わないで、カートリッジの状態にして40℃で30時間のひずみ緩和処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は24分であり、60℃における幅変化量ΔWは780ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.016μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0551】
[比較例1]
実施例1とは、裁断前に60℃で15時間のアニール処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は25分であり、60℃における幅変化量ΔWは760ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.021μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0552】
[比較例2]
実施例1とは、通常の効果処理を行わず、裁断前に70℃で20時間のアニール処理を行わず、カートリッジの状態にして40℃で10時間のひずみ緩和処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は25分であり、60℃における幅変化量ΔWは755ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.023μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0553】
[比較例3]
実施例1とは、ベース層として、平均厚み4.0μmのPENフィルムを用い、通常の効果処理を行わず、裁断前に70℃で20時間のアニール処理を行わず、カートリッジの状態にして40℃で10時間のひずみ緩和処理を行った点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は25分であり、60℃における幅変化量ΔWは755ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.023μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0554】
[比較例4]
実施例1とは、通常の効果処理のみを行い、裁断前に70℃で20時間のアニール処理を行わない点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は26分であり、60℃における幅変化量ΔWは750ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.041μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0555】
[比較例5]
実施例1とは、ベース層として、平均厚み4.0μmのPENフィルムを用い、通常の効果処理のみを行い、裁断前に70℃で20時間のアニール処理を行わない点以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。磁気テープの温度60℃における幅が安定するまでの時間は27分であり、60℃における幅変化量ΔWは820ppmであり、サーボトラック幅変化量は0.042μmであり、磁気テープの平均厚みtは5.2μmであった。
【0556】
表1は、実施例1~5及び比較例1~5の磁気テープの構成及び評価結果を示す。
【0557】
【表1】
【0558】
なお、表1中の各記号は、以下の測定値を意味する。
:磁気テープの厚み(単位:μm)
:磁性層の平均厚み(単位:nm)
:バック層の平均厚み(単位:μm)
【0559】
表1に示される結果より、以下のことが分かる。
【0560】
実施例1~5の磁気テープはいずれも、60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、前記磁気テープの幅が安定するまでの時間が25分以内であり、短時間にサーボトラック幅変化量が0.02μm以下となり張力変化せず、幅が安定し、幅を決定することができるものであった。
【0561】
以上、本技術の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0562】
例えば、上述の実施形態及び実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0563】
また、上述の実施形態及び実施例の構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等は、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0564】
また、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0565】
10 磁気記録媒体
41 ベース層
42 下地層
43 磁性層
44 バック層
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
【手続補正書】
【提出日】2023-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図2】第1の実施形態に係る磁気記録媒体を上方(磁性層側)からみた模式図である。
図3】第1の実施形態に係る磁気記録媒体のデータバンドにおける記録トラックを示す拡大図である。
図4】第1の実施形態に係る磁気記録媒体のサーボバンドに書き込まれたサーボパターンの一部を示す拡大図である。
図5A】磁気記録媒体の幅変化量測定装置の構成を示す斜視図である。
図5B】磁気記録媒体の幅変化量測定装置の詳細を示す模式図である。
図6】幅変化量測定における温度、湿度の設定状況を示す図である。
図7】温度10℃を維持したまま、相対湿度を10RH%から40RH%まで上昇させた場合の測定時間とサンプル10Sの幅との関係を示す図である。
図8図7の点線部分を拡大する図である。
図9図7の点線部分をさらに拡大する図である。
図10】記録再生装置の例の構成を示す概略図である。
図11】上記記録再生装置におけるドライブヘッドを下側(テープ走行面)から見た概略図である。
図12】上記ドライブヘッドにおける第1のドライブヘッド部がデータ信号の記録/再生を行っているときの様子を示す図である。
図13】(A)はサーボパターンの配置例を示す概略平面図、(B)はその再生波形を示す図である。
図14】第1のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(A)及び第2のサーボバンド識別情報が埋め込まれるサーボパターン(B)の構成例を示す概略図である。
図15】第1のサーボパターンの再生波形(A)及び第2のサーボパターンの再生波形(B)をそれぞれ示す図である。
図16】データバンドをドライブヘッドがトラッキングする説明図である。
図17】サーボトレースラインの測定方法を説明する図である。
図18】本技術の一実施形態に係るサーボパターン記録装置を示す概略正面図である。
図19】上記サーボパターン記録装置の一部を示す部分拡大図である。
図20】上記サーボパターン記録装置におけるサーボライトヘッドの構成を概略的に示す斜視図である。
図21】上記サーボライトヘッドの要部の概略断面図である。
図22】上記サーボライトヘッドの要部の概略平面図である。
図23】上記サーボパターン記録装置における駆動部の構成を示すブロック図である。
図24】第1のパルス信号における第1サーボサブフレームの記録信号波形(A)及び第2のパルス信号における第1サーボサブフレームの記録信号波形(B)をそれぞれ示す模式図である。
図25】記録再生装置の他の例の構成を示す概略図である。
図26】データライトヘッドを下方(バック層側)から見た概略図である。
図27】データライトヘッドのアジマス角の角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.1μm)。
図28】データライトヘッドのアジマス角θにおける角度範囲Refθ±x°と、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量との関係を示す図である。
図29】磁気記録媒体の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量を示す図である。
図30】データライトヘッドのアジマス角θの角度範囲Refθ±x°と、アジマス損失Lθとの関係を示す図である(記録波長:0.07μm)。
図31】本技術の第1実施形態に係るサーボパターン記録装置を示す図である。
図32】第1実施例に係るサーボライトヘッド及びサーボライトヘッドに入力されるパルス信号を示す図である。
図33】第1実施例に係るサーボライトヘッドが有するサーボ素子の拡大図である。
図34】第1実施例に係るサーボライトヘッドにより磁気記録媒体にサーボパターンが書き込まれるときの様子を示す図である。
図35】第2実施例に係るサーボライトヘッド及びサーボライトヘッドが有するサーボ素子の拡大図である。
図36】第2実施例に係るサーボライトヘッドにより磁気テープにサーボパターンが書き込まれるときの様子を示す図である。
図37】第2実施例において、サーボライトヘッドの座標系を基準としてサーボライトヘッドを表した図である。
図38】サーボライトヘッドの対向面において低摩擦加工が施されたときの様子を示す図である。
図39図35の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子及び第2のサーボ素子における具体的な寸法の一例を示す図である(XYZ座標系基準)。
図40図37の右側の図の拡大図であって、第1のサーボ素子及び第2のサーボ素子における具体的な寸法の一例を示す図である(X"Y"Z"座標系基準)。
図41】変形例における磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図42】第2の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図43】スパッタ装置の構成を示す概略図である。
図44】第3の実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図45】磁気記録カートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
図46】磁気記録カートリッジの変形例の構成の一例を示す分解斜視図である。
図47】60℃の温度環境において、湿度を10RH%から40RH%に上昇させた際、磁気記録媒体の幅が安定するまでの時間が24分以内である磁気記録媒体のサーボトラック幅変化量を示す図である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0144
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0144】
リーダライタ37は、制御装置38からの指令に応じて、カートリッジメモリ9に対して管理情報を記録することが可能に構成されている。また、リーダライタ37は、制御装置38からの指令に応じて、カートリッジメモリ9から管理情報を読み出すことが可能に構成されている。管理情報としては、テープカートリッジ10A及び磁気記録媒体10の製品情報、使用履歴情報、磁気記録媒体10に記録されている情報の概要などが挙げられる。製品情報には、製造情報、磁気記録媒体10の記録トラック5の数、ID等の固有情報が含まれる。使用履歴情報としては、アクセス日時、アドレス情報、リーダライタ37
との通信履歴、記録再生装置30に対するローディング/アンローディング時の異常の有無等が含まれる。リーダライタ37とカートリッジメモリ9との間の通信方式としては、例えば、ISO14443方式が採用される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0250
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0250】
データライトヘッド520の説明では、データライトヘッド520の長手方向をY'軸方向とし、データライトヘッド520の幅方向をX'軸方向とし、データライトヘッド520の上下方向をZ'軸方向とする。また、磁気記録媒体501の長手方向(走行方向)をX軸方向とし、磁気記録媒体501の幅方向をY軸方向とし、磁気記録媒体501の厚さ方向をZ軸方向とする。なお、磁気記録媒体501の方向は、データライトヘッド520の下側を通過するときの磁気記録媒体501の方向が基準である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0279
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0279】
図28において、横軸は、データライトヘッド520のアジマス角θの角度範囲Refθ±x°におけるxの値を示しており、縦軸は、磁気記録媒体501の幅変動に基づくサーボバンドピッチ差に対する補正量を示している。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0265
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0265】
ここで、第1のデータライトヘッド520aのサーボリード部522及びデータライト/リード部523におけるY軸方向(磁気記録媒体501の幅方向)の位置と、第2のデータライトヘッド520bのサーボリード部522及びデータライト/リード部523のY軸方向の位置は、同じである。これらの位置関係は、第1のデータライトヘッド520a及び第2のデータライトヘッド520bがZ軸回りに回動しても変わらない。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0341
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0341】
サーボバンドs4のサーボパターン6を基準としたサーボバンドs3、サーボバンドs2、サーボバンドs1、サーボバンドs0のサーボパターン6の位相差は、順番に、504.08μm、1008.17μm、1512.25μm、2016.33μmに対応する位相とされる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0369
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0369】
なお、サーボバンドs4のサーボパターン6を基準としたサーボバンドs3、サーボバンドs2、サーボバンドs1、サーボバンドs0のサーボパターン6の位相差は、順番に、504.08μm、1008.17μm、1512.25μm、2016.33μmに対応する位相とされる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0383
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0383】
仮に、サーボ素子742の長さにおける、磁気記録媒体501の幅方向成分SL1(Y軸方向)が、96μmであり、データライトヘッド520の基準角Refθが10°であり、サーボアジマス角θaが12°であるとする。この場合、第1のサーボ素子742a(「/」)の長さにおける、サーボライトヘッド740bの長手方向成分SL21(Y"軸方向)は、101.2767μm(=103.5093μm×cos12°)である。また、この場合、第2のサーボ素子742b(「\」)の長さにおける、サーボライトヘッド740bの長手方向成分SL22(Y"軸方向)は、93.959μm(=96.0
585μm×cos12°)μmである。
【手続補正9】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図37
【補正方法】変更
【補正の内容】
図37