(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041347
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】磁気エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20240319BHJP
G01B 7/30 20060101ALI20240319BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240319BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01D5/245 110L
G01B7/30 M
F16C19/18
F16C41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146103
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】上願 豊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎啓
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F063AA35
2F063BA03
2F063CA29
2F077AA41
2F077JJ01
2F077JJ23
2F077NN04
2F077NN08
2F077NN24
2F077VV13
3J217JA02
3J217JA12
3J217JA13
3J217JA24
3J217JA32
3J217JB23
3J217JB34
3J217JB64
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA77
3J701EA31
3J701FA06
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】磁気特性、耐熱性及び塩化カルシウム耐性が良好で、自然環境への負担が従来より軽減された磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【解決手段】鋼板製の円環状支持部材と、該円環状支持部材に固定された円環状樹脂磁石とを有し、前記円環状樹脂磁石が、ポリアミド樹脂バインダー、磁性粉及びガラス繊維を含み、前記ポリアミド樹脂バインダーが、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物である、磁気エンコーダ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板製の円環状支持部材と、該円環状支持部材に固定された円環状樹脂磁石とを有し、
前記円環状樹脂磁石が、ポリアミド樹脂バインダー、磁性粉及びガラス繊維を含み、
前記ポリアミド樹脂バインダーが、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物である、磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記ジアミンが、炭素数4~12の脂肪族ジアミンである、請求項1記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
自動車のホイール支持用軸受装置用である、請求項1又は2に記載の磁気エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気エンコーダに関し、特に、自動車のホイール支持用軸受装置に適用可能な磁気エンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のホイール支持用軸受装置に適用可能な磁気エンコーダは、当該軸受装置を構成する回転体の回転速度(回転数)を検出するために用いられる。回転体の回転速度(回転数)の検出は、軸受装置を構成する非回転体に設けられている磁気センサにより行われる。磁気エンコーダと磁気センサとにより磁気エンコーダ装置が構成される。磁気エンコーダは、一般に、回転体に取り付け可能な円環状支持部材と、この円環状支持部材に取り付けられ、円周方向に多極に着磁された円環状の磁石部とを備えている。磁石部は、磁性粉とバインダーとを含み、バインダーは、ゴム成分又は樹脂成分が用いられるが、ゴム成分が一般的である。
【0003】
近年、車輪の回転数の検出精度を向上させる観点等から、バインダーとして樹脂成分を用いることで、磁石部の磁性粉の含有率を増加して円周方向により多極化され、寸法精度よく形成される磁石部が検討されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、磁気エンコーダの磁石部を構成するバインダーとして熱可塑性樹脂であるポリアミド6(PA6)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の熱可塑性樹脂を含む磁石部を備える磁気エンコーダは、磁性粉の含量が多く寸法精度が良好で、磁気特性が従来より向上すると考えられる。しかしながら、ブレーキを多用したり、何らかの異常が発生し、ホイール支持用軸受装置が非常に高温になった場合に、特許文献1に記載のPA11、12では耐熱性が十分ではない可能性がある。そのため、ホイール支持用軸受装置の構成によっては、例えばブレーキディスクからの放熱により溶融軟化温度に近い温度に加熱され、磁気エンコーダの機能が不十分になる可能性がある。また、PA6、PPSは耐熱性の確保は可能であるが、PA6は、冬季に道路に散布される塩化カルシウム(CaCl2)等の融雪剤に対する耐性がないため、磁石部が損傷する可能性がある。また、柔軟性の低下による熱衝撃破壊の可能性もある。PPSは、磁性粉を必要量混合することが困難なため、磁気特性の向上が困難であり、柔軟性の低下による熱衝撃破壊の可能性もある。PA612は、比較的靭性に劣り、磁石部の靭性、熱衝撃性能等の点で改善の余地がある。
【0007】
また、近年では、国連持続可能な開発サミットで採択された持続可能な開発目標の一環として、自然環境への負担軽減も、自動車部品に対して求められるようになっている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、磁気特性、耐熱性及び塩化カルシウム耐性が良好で、自然環境への負担が従来より軽減された磁気エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、磁気エンコーダの磁石部を構成するバインダーとして、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物を用いることで、前述の課題を解決可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
本発明の第一は、鋼板製の円環状支持部材と、該円環状支持部材に固定された円環状樹脂磁石とを有し、前記円環状樹脂磁石が、ポリアミド樹脂バインダー、磁性粉及びガラス繊維を含み、前記ポリアミド樹脂バインダーが、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物である、磁気エンコーダに関する。
【0011】
本発明の実施形態では、前記ジアミンが、炭素数4~12の脂肪族ジアミンであってもよい。
【0012】
本発明の実施形態では、自動車のホイール支持用軸受装置用の磁気エンコーダであってもよい。
【0013】
前述の実施形態は、任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、磁気特性、耐熱性及び塩化カルシウム耐性が良好で、自然環境への負担が従来より軽減された磁気エンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る磁気エンコーダを備えた軸受装置の例を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す軸受装置の要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る磁気エンコーダを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る磁気エンコーダは、鋼板製の円環状支持部材(以下、「支持部材」と称する場合がある。)と、この円環状支持部材に固定された円環状樹脂磁石(以下、「樹脂磁石」と称する場合がある。)とを有する。その円環状樹脂磁石は、ポリアミド樹脂バインダー、磁性粉及びガラス繊維を含む。そのポリアミド樹脂バインダーは、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物である。
【0017】
ジカルボン酸成分としてセバシン酸を用いることで、得られるジアミンとの重縮合物であるポリアミド樹脂は、磁気エンコーダのバインダーとして用いられている従来のPA6等のポリアミドやPPSよりも良好な磁気特性、耐熱性及び塩化カルシウム耐性を有する。また、セバシン酸はバイオマス由来であるため、従来のポリアミドやPPSのように石油由来の原料のみで合成されたバインダーと比べて環境負荷を低減することができる。
【0018】
以下、磁気エンコーダの構成部材について説明する。
【0019】
円環状支持部材は、鋼板製のものである。鋼板を構成する材質は、本技術分野において一般的に使用可能なものを適用可能である。このような材質としては、樹脂磁石の磁気特性を損なうことなく、相応の耐腐食性を有するものが好ましく、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC)、ステンレス鋼などが挙げられる。ステンレス鋼としては、例えば、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼などの磁性を有するものが挙げられる。
【0020】
支持部材の形状は、円環状である。例えば、
図1~3に示すように軸受装置の回転体に取り付け可能な円環状で、かつ、断面形状が、外側に張り出した逆L字形状のもの、或いは、図示しないが、断面形状が、内側に張り出した逆L字形状のものなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0021】
支持部材の樹脂磁石との接合面は、必要に応じて、表面処理を施してもよい。このような表面処理は、例えば、接着剤を用いて樹脂磁石と支持部材を接合する場合に支持部材と接着剤との接合強度を向上させる場合に有効である。このような表面処理としては、例えば、粗面化処理、プライマー処理などが挙げられる。粗面化処理としては、例えば、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、化成処理、ヘアーライン処理などが挙げられる。粗面化処理を行った場合の表面粗さRaは、例えば、Raが0.5~2μmとすることができる。面粗さRaは、JIS B0601-1994に基づいて測定することができる。プライマー処理に使用可能なプライマーとしては、例えば、シラン系プライマー、フェノール系プライマー、エポキシ系プライマー等が挙げられる。
【0022】
円環状樹脂磁石に含まれるポリアミド樹脂バインダーは、ジアミンとバイオマス由来のセバシン酸との重縮合物である。バイオマス由来のセバシン酸は、一般に、ヒマ(トウゴマ)の種子から採取されるひまし油に対して所定の処理を行って得られる炭素数10の直鎖ジカルボン酸である。バイオマス由来のセバシン酸と重縮合させるジアミン成分は、特に限定はなく、脂肪族ジアミン、芳香族含有ジアミンなどが挙げられるが、環境対応の観点、靭性の観点から、脂肪族ジアミンが好ましい。脂肪族ジアミンとしては、耐熱性、磁気特性、塩化カルシウム耐性の観点から、炭素数4~12の脂肪族ジアミンが好ましく、炭素数4~8の脂肪族ジアミンがより好ましい。また、脂肪族ジアミンを構成する脂肪族の構造は、直鎖状、分岐鎖状何れでもよいが、直鎖状が好ましい。好ましいバイオマス由来成分を含むポリアミド樹脂バインダーとしては、例えば、ポリアミド410、610、1010、1210等が挙げられる。このようなポリアミド樹脂バインダーは、定法に従って、バイオマス由来のセバシン酸とジアミンを重縮合させることで得ることができる。
また、市販のものを用いることもできる。ポリアミド樹脂バインダーの分子量は、樹脂磁石の強度などの特性や、成形性等を考慮して適宜選択可能である。分子量の指標として、例えば、粘度数を用いることができ、使用するジアミンに応じて所定の粘度数を有するものを選択することが可能である。このような粘度数(VN値)は、ポリアミド410では、例えば、125~175ml/gのものを用いることができ、ポリアミド610では、例えば、130~170ml/gのものを用いることができる。粘度数(VN値)は、ISO 307に準拠して測定することができる。
【0023】
ポリアミド樹脂バインダーの含有量は、円環状樹脂磁石中5~20質量%が好ましい。
【0024】
円環状樹脂磁石に含まれる磁性粉は、インサート成形により製造された市販の磁気エンコーダのプラスチック磁石部に使用されている磁性体粉であればよく、例えば、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト系磁性粉末、ネオジム系やサマリウム系等の希土類磁性粉末が使用できる。また、フェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入したり、フェライトの一部をネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄等の希土類磁性体粉に置き換えてもよい。これらの磁性体粉は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
磁性粉の含有量は、円環状樹脂磁石中75~88質量%が好ましい。
【0026】
円環状樹脂磁石に含まれるガラス繊維は、特に限定はないが、細かく裁断されたものが好ましい。ガラス繊維の含量は、円環状樹脂磁石中3~15質量%が好ましい。
【0027】
円環状樹脂磁石には、必要に応じて、他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、カーボンファイバー等の有機系添加剤、ガラスビーズ、タルク、マイカ、窒化珪素(セラミック)及び結晶性(非結晶性)シリカ等の無機系添加剤、ベンゼンスルホン酸アルキルアミド類、トルエンスルホン酸アルキルアミド類、及びヒドロキシ安息香酸アルキルエステル類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
支持部材と樹脂磁石とは、物理的な構造で固定されていてもよいし、接着剤層を介して固定されていてもよいし、これらを組み合わせて固定されていてもよい。接着剤層を構成し得る接着剤としては、例えば、熱硬化性樹脂接着剤が挙げられる。このような熱硬化性樹脂接着剤としては、例えば、フェノール樹脂系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤等が挙げられる。このような接着剤は、例えば、特開2016-221952号公報に記載のものを使用することができる。フェノール樹脂系接着剤及びエポキシ樹脂系接着剤の概要は以下のとおりである。
【0029】
フェノール樹脂系接着剤は、例えば、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を、メタノールやメチルエチルケトン等の溶剤に溶解させたものが使用できる。また、接着性を向上させるために、これらにノボラック型エポキシ樹脂を混合した接着剤も使用できる。
【0030】
エポキシ樹脂系接着剤としては、原液が一液型エポキシ系接着剤で、溶剤への希釈が可能な接着剤が挙げられる。一液型エポキシ系接着剤としては、エポキシ樹脂及び硬化剤からなり、必要に応じて反応性希釈剤として使用されるその他のエポキシ化合物、熱硬化速度を向上させる硬化促進剤、耐熱性や耐硬化歪み性を向上させる効果がある無機充填材、応力がかかった時に変形する可撓性を向上させる架橋ゴム微粒子等をさらに添加してもよい。
【0031】
磁気エンコーダの実施形態の一例を図面に基づき説明すると以下のとおりである。以下の実施形態では、自動車のホイール支持用軸受装置に適用した場合を例にしたものであるが、これに限定されるわけではない。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気エンコーダを備えた軸受装置の例を示す縦断面図である。
図2は、
図1に示す軸受装置の要部拡大断面図である。
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る磁気エンコーダ1を備えた軸受装置11は、外周面に内輪軌道面12Aが形成された内輪12、及び内周面に外輪軌道面13Aが形成された外輪13、並びに、内輪軌道面12A及び外輪軌道面13A間を転動する転動体14、14、等を有する軸受、この軸受の軸方向の一端部に位置して内輪12に固定された磁気エンコーダ1、並びに、外輪13に固定された、磁気エンコーダ1の磁極に対向して磁気エンコーダ1の回転を検知するためのセンサ10、前記軸受の軸方向の一端部及び他端部に配置したシール部材6、7等を備えている。
【0033】
ここで、回転側である内輪12に取り付けられた、N極とS極を一定間隔で周方向に多極に着磁した樹脂磁石を有する磁気エンコーダ1、及び固定側である外輪13に取り付けられたセンサ10が、回転速度検出装置を構成する。
【0034】
図3は、本発明の実施形態に係る磁気エンコーダ1を模式的に示した図である。
図3(a)は、磁気エンコーダ1の断面を模式的に示した図であり、
図3(b)は、磁気エンコーダ1の円環状の一部を模式的に示した一部切り欠き斜視断面図である。回転体に取り付け可能な円環状支持部材2と、支持部材2に取り付けられ、円周方向に多極に着磁された厚みTの円環状樹脂磁石3とを備えている。本実施形態では、支持部材2と樹脂磁石3とは、接着剤層4を介して固定されている。
【0035】
図3に示す断面形状が逆L字形状の支持部材2を用いた磁気エンコーダ1は、例えば、
図2に示すように回転体である内輪12の軸方向外端側に嵌合させることができる。
【0036】
樹脂磁石3は、例えば
図3に示すように支持部材2の断面形状が外側に張り出した逆L字形状である場合、張り出した部分の上面5a及び外側面5bを覆うように取り付けてもよい。或いは、さらに内側面5cの一部又は全部を覆うように取り付けてもよい。また、上面5aのみを覆うように取り付けてもよい。この際の樹脂磁石3の厚みT等の各寸法については、特に限定はなく、適宜決定することができる。
【0037】
このような磁気エンコーダ1は、インサート成形等により得ることができる。このようなインサート成形としては、例えば、特開2016-221952号公報に記載の方法などが挙げられる。
【実施例0038】
以下、実施例に基づき、本発明に係る磁気エンコーダの実施形態を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
磁性粉(フェライト系磁性粉)、PA410(テトラメチレンジアミンとひまし油由来のセバシン酸との重縮合物)、ガラス繊維を表1の配合で定法に従い混錬し、射出成形用の樹脂磁石組成物を得た。当該樹脂磁石組成物を用い、特開2016-221952号公報の実施例に記載の方法に準拠して、支持部材に対してインサート成形を行った。概要は以下のとおりである。
図2に示す形状の支持部材(材質:SUS430)2の樹脂磁石3との接合面(
図2(a)符号5a、5b)になる部分に熱硬化性接着剤(フェノール系接着剤)を塗布し、自然乾燥し、乾燥固化させた。熱硬化性接着剤を乾燥固化させた支持部材を金型内に設置して型締めした状態で、射出成形機により、金型内に配向磁場をかけながら、溶融した状態の前述の樹脂磁石組成物を所定形状のキャビティに射出し、接着剤を乾燥固化させた接合面上に円環状の樹脂磁石を成形した。次いで、熱硬化性接着剤の架橋反応開始温度以上の温度で加熱し、硬化した接着剤を介して支持部材と樹脂磁石を一体化させた。着磁は着磁ヨークにより行い、磁気エンコーダを得た。尚、樹脂磁石部の厚さT(
図3(a)の符号T参照)は0.9mmとした。
【0040】
(実施例2、比較対象1、2)
各成分の配合を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気エンコーダを得た。
【0041】
実施例2で用いたバインダー樹脂は下記のとおりである。
・PA610
ヘキサメチレンジアミンとひまし油由来のセバシン酸との重縮合物
【0042】
比較対象1、2で用いたバインダー樹脂は下記のとおりである。
・PA6
ε-カプロラクタムの開環重縮合物
・PPS
直鎖型
【0043】
(評価)
<高温放置試験>
実施例1、2、比較対象1、2で得られた磁気エンコーダを、210℃で24時間加熱した後、樹脂磁石の着磁表面の状態を目視により確認した。
【0044】
<熱衝撃性能>
実施例1、2、比較対象1、2で得られた磁気エンコーダを用い、-40℃で30分間保持と、120℃で30分間保持を1サイクルとする熱衝撃試験を行った。100サイクル毎に外観を観察し、割れ、欠け、クラック、形状変化などの欠陥の有無を確認し、これらの欠陥のうちいずれかが発生した場合は、その時点で試験を終了し、サイクル数を記録した。比較例対象1のサイクル数を基準(100)とし、実施例1、2、比較対象2の欠陥の発生したサイクル数の相対値を算出した。
【0045】
<耐CaCl2試験>
実施例1、2、比較対象1、2で得られた磁気エンコーダを用い、下記のようにして耐塩化カルシウム(CaCl2)試験を行った。
(1)50℃、湿度95%RHで24時間放置
(2)樹脂磁石の表面全体に塩化カルシウム(CaCl2)5質量%水溶液を綿棒にて塗布
(3)室温で30分間放置
(4)100℃で3時間乾燥
(5)50℃、湿度95%RHで20時間放置
この後(2)~(5)を最大19回繰り返して、樹脂磁石が損傷するかどうかを目視により確認した。
【0046】
<磁束密度>
実施例1、2、比較対象1、2で得られた磁気エンコーダを用い、マグネットアナライザーにより磁束密度を測定した。比較対象1の測定値を基準(100)とし、実施例1、2、比較対象2の測定値の相対値を算出した。
【0047】
<流動特性>
実施例1、2、比較対象1で調製した射出成形用の樹脂磁石組成物について、ISO 1133に準拠して、測定温度300℃での溶融質量を測定した。比較対象1の測定値を基準(100)とし、実施例1、2の測定値の相対値を算出した。尚、比較対象2については、PPSの融点が他と大きく異なり、同一条件での比較が困難なため測定しなかった。
【0048】
以上の評価結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、ジカルボン酸としてバイオマス由来のセバシン酸を用いて得られるジアミンとの重縮合物であるポリアミド樹脂を用いることで、従来のPA6やPPSを用いた場合と比較して、磁束密度、熱衝撃性能が高く、かつ、塩化カルシウム耐性及び耐熱性を有することが分かる。特に、バイオマス由来の原料を用いて合成されたPA610を用いた実施例2は、比較対象1、2より、流動特性が大幅に優れ、磁束密度及び熱衝撃特性も向上していることが分かる。したがって、PA610を樹脂バインダーとして用いた磁気エンコーダは、従来よりも良好な特性を有するとともに、自然環境への負担軽減が可能であり、特に有用である。
また、比較対象1と比較して実施例1、2で用いた射出成形用の樹脂磁石組成物の流動特性が高く、磁場成形時の磁粉配向率を従来より向上させることができる。このことは、少ない磁粉量で目標磁力が得られることを意味する。つまり、磁粉量を少なくして樹脂成分等を増やすことが可能になる。その結果、樹脂磁石の靭性、熱衝撃性能をより向上させることが期待できる。前述のように、樹脂バインダーとしてPA610を用いることで流動特性が大幅に優れており、これらの特性の向上をより一層期待することができる。