(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041417
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】生体インピーダンス測定方法、筋疲労評価方法及び生体インピーダンス測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0537 20210101AFI20240319BHJP
【FI】
A61B5/0537 100
A61B5/0537 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146235
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】金盛 一
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127FF01
4C127FF02
4C127GG09
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制する。
【解決手段】同じ筋肉部位7の生体表面9に、所定の間隔を空けて第1電極10、第2電極20及び第3電極30を配置し、第1電極10及び第3電極30の間に第1の外部抵抗Rg1を並列接続するとともに、第2電極20及び前記第3電極30の間に第2の外部抵抗Rg2を並列接続し、第1電極10及び第3電極30の間に生じる第1の電圧V
1と、第2電極20及び第3電極30の間に生じる第2の電圧V
2と、を並行して測定し、第1の電圧V
1及び前記第2の電圧V
2の電圧比V
1/V
2を算出し、算出した電圧比V
1/V
2に基づいて、生体表面9下の筋肉部位7における生体インピーダンスRbを算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ筋肉部位上の生体表面に、所定の間隔を空けて第1電、第2電極及び第3電極を配置し、
前記第1電極及び前記第3電極の間に第1の外部抵抗を並列接続するとともに、前記第2電極及び前記第3電極の間に第2の外部抵抗を並列接続し、
前記第1電極及び前記第3電極の間に生じる第1の電圧と、前記第2電極及び前記第3電極の間に生じる第2の電圧と、を並行して測定し、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比を算出し、
前記電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における生体インピーダンスを算出することを特徴とする、生体インピーダンス測定方法。
【請求項2】
前記第1電極及び前記第3電極の距離は、前記第2電極及び前記第3電極の距離に等しく、
前記第1の電圧をV
1とし、前記第2の電圧をV
2とし、前記第1の外部抵抗をRg1とし、前記第2の外部抵抗をRg2とすると、前記生体インピーダンスR
bは、以下の式に基づいて算出される、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【数1】
【請求項3】
前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗のいずれか一方は、抵抗値が無限大である、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項4】
前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の少なくとも一方は、抵抗値が可変である、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項5】
前記第3電極は、互いに別体とされた第1電極ブロック及び第2電極ブロックを含み、
前記第1の外部抵抗を、前記第1電極及び前記第1電極ブロックの間に並列接続し、
前記第2の外部抵抗を、前記第2電極及び前記第2電極ブロックの間に並列接続する、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項6】
前記第1の電圧と、該第1の電圧と測定タイミングが同期する前記第2の電圧と、に基づいて、前記電圧比を算出する、請求項1に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項7】
前記第1の電圧の測定値に対応した第1信号と、前記第2の電圧の測定値に対応した第2信号と、をそれぞれ増幅し、
増幅後の前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記電圧比を算出する、請求項6に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項8】
前記第1の電圧の測定値と、前記第2の電圧の測定値と、に各電圧の測定期間よりも短周期で切り替わる結合信号を生成し、
前記結合信号を増幅し、
増幅後の前記結合信号を、前記第1の電圧の測定値に対応した第1信号と、前記第2の電圧の測定値に対応した第2信号と、に分配し、
前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記電圧比を算出する、請求項6に記載の生体インピーダンス測定方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の生体インピーダンス測定方法によって測定された生体インピーダンスの時間変化に基づいて、前記筋肉部位における局所的な筋疲労を評価することを特徴とする、筋疲労評価方法。
【請求項10】
生体表面に、所定の間隔を空けて配置される第1電極、第2電極及び第3電極と、
前記第1電極及び前記第3電極の間に並列接続される第1の外部抵抗と、
前記第2電極及び前記第3電極の間に並列接続される第2の外部抵抗と、
前記第1電極及び前記第3電極の間に生じる第1の電圧と、前記第2電極及び前記第3電極の間に生じる第2の電圧と、を測定する測定手段と、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比を算出する電圧比算出手段と、
前記電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における生体インピーダンスを算出する生体インピーダンス算出手段と、を備えることを特徴とする、生体インピーダンス測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体インピーダンス測定方法、筋疲労評価方法及び生体インピーダンス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体インピーダンスを測定する方法として、生体表面に2つの電極を配置して、その電極間に流れる生体電気を用いる方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、生体表面に少なくとも2つの電極を配置して、その2つの電極間に第1の外部抵抗を並列接続したときに生じる第1の電圧と、第2の外部抵抗を並列接続したときに生じる第2の電圧とをそれぞれ測定することが開示されている。
【0004】
そして、前記特許文献1によると、第1の電圧および第2の電圧の測定結果から得られる電圧比に基づいて、生体表面下の筋肉部位における2つの電極間の生体インピーダンスを算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載の方法で生体インピーダンスを高精度で測定するためには、第1の外部抵抗を並列接続した場合と、第2の外部抵抗を並列接続した場合とで、被験者が一定の筋出力を維持することが求められる。
【0007】
しかしながら、第1の外部抵抗を並列接続した場合の測定と、第2の外部抵抗を並列接続した場合の測定とは同時に行うことができない。そのため、被験者に筋疲労が生じてしまったり、被験者の姿勢に変化が生じたりした結果、前者の測定タイミングと後者の測定タイミングとで筋出力が一定に維持されず、変動してしまう可能性があった。筋出力の変動は、生体インピーダンスに測定誤差を招く要因となるため不都合である。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の生体インピーダンス測定方法は、同じ筋肉部位上の生体表面に、第1電極及び第2電極と、第3電極と、を所定の間隔を空けて配置し、前記第1電極及び前記第3電極の間に第1の外部抵抗を並列接続するとともに、前記第2電極及び前記第3電極の間に第2の外部抵抗を並列接続し、前記第1電極及び前記第3電極の間に生じる第1の電圧と、前記第2電極及び前記第3電極の間に生じる第2の電圧と、を並行して測定し、前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比を算出し、前記電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における生体インピーダンスを算出することを特徴としている。
【0010】
ここで、本開示における「並行して測定する」の語は、広義で用いられる。すなわち、本開示では、第1の電圧の測定期間と、第2の電圧の測定期間とが重複していればよく、2つの測定期間が完全に一致している必要はない。
【0011】
前記構成によれば、第1電極及び第3電極の間に第1の外部抵抗を並列接続することで得られる第1の電圧と、第2電極及び第3電極の間に第2の外部抵抗を並列接続することで得られる第2の電圧との電圧比に基づいて、生体インピーダンスを算出する。これにより、第1の外部抵抗が並列接続された状態と、第2の外部抵抗が並列接続された状態とで電気回路を切り替えることなく、2つの電圧を並行して測定することが可能になる。そのことで、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することができる。測定誤差の抑制は、生体インピーダンスの高精度化に資する。
【0012】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第1電極及び前記第3電極の距離は、前記第2電極及び前記第3電極の距離に等しく、前記第1の電圧をV1とし、前記第2の電圧をV2とし、前記第1の外部抵抗をRg1とし、前記第2の外部抵抗をRg2とすると、前記生体インピーダンスRbは、以下の式に基づいて算出される、としてもよい。
【0013】
【0014】
前記構成によれば、第1電極及び第3電極の距離と、第2電極及び第3電極の距離とが等しい場合、上式を用いて生体インピーダンスを算出することができる。これにより、3つの電極を用いた場合であっても、生体インピーダンスをより容易に算出することが可能になる。
【0015】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗のいずれか一方は、抵抗値が無限大である、としてもよい。
【0016】
前記構成によれば、第1の外部抵抗又は第2の外部抵抗のいずれか一方において、電気回路が遮断されているとみなすことができる。これにより、上式がよりシンプルなものとなり、生体インピーダンスをより容易に測定することが可能となる。
【0017】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第1の外部抵抗及び前記第2の外部抵抗の少なくとも一方は、抵抗値が可変である、としてもよい。
【0018】
前記構成によれば、第1の外部抵抗及び第2の外部抵抗の少なくとも一方の抵抗値を可変とすることで、第1の電圧及び第2の電圧、ひいてはそれらの電圧に基づいた電圧比の大きさを調節することができる。これにより、生体インピーダンスをより容易に測定することが可能となる。
【0019】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第3電極は、互いに別体とされた第1電極ブロック及び第2電極ブロックを含み、前記第1の外部抵抗を、前記第1電極及び前記第1電極ブロックの間に並列接続し、前記第2の外部抵抗を、前記第2電極及び前記第2電極ブロックの間に並列接続する、としてもよい。
【0020】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、得られた知見によると、前記構成のように第3電極を複数の電極ブロックによって構成したとしても、上式を用いることが許容される。これにより、多種多様な電気回路を構成することができ、種々の性能要求・ニーズに応えることが可能になる。
【0021】
また、前記測定インピーダンス測定方法では、前記第1の電圧と、該第1の電圧と測定タイミングが同期する前記第2の電圧と、に基づいて、前記電圧比を算出する、としてもよい。
【0022】
ここで、本開示における「測定タイミングが同期する」の語は、広義で用いられる。すなわち、本開示では、所定タイミングで測定された第1の電圧と、その所定タイミングに前後して測定された第2の電圧とを用いて電圧比を算出すればよい。電圧比の算出に際し、第1の電圧の測定タイミングと、第2の電圧の測定タイミングとを完全に一致させる必要はない。
【0023】
前記構成によれば、第1の電圧と、該第1の電圧と測定タイミングが同期する前記第2の電圧と、を用いて電圧比を算出することで、時間経過に伴う各電圧のブレの影響を抑制し、略一定の電圧比を算出することが可能になる。このことは、生体インピーダンスの測定誤差の抑制に資する。
【0024】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第1の電圧の測定値に対応した第1信号と、前記第2の電圧の測定値に対応した第2信号と、をそれぞれ増幅し、増幅後の前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記電圧比を算出する、としてもよい。
【0025】
前記構成によれば、同時刻に測定された第1信号及び第2信号に基づいて、電圧比を算出することが可能になる。これにより、測定タイミングのずれに起因した測定誤差を抑制することができる。
【0026】
また、前記生体インピーダンス測定方法では、前記第1の電圧の測定値と、前記第2の電圧の測定値と、に各電圧の測定期間よりも短周期で切り替わる結合信号を生成し、前記結合信号を増幅し、増幅後の前記結合信号を、前記第1の電圧の測定値に対応した第1信号と、前記第2の電圧の測定値に対応した第2信号と、に分配し、前記第1信号及び前記第2信号に基づいて、前記電圧比を算出してもよい。
【0027】
前記構成によれば、一の結合信号を増幅してから、この結合信号を第1信号と第2信号とに分配することになる。これにより、第1信号と第2信号とで増幅率を等しくすることができるため、増幅率のずれに起因した測定誤差を抑制することができる。
【0028】
また、本開示の筋疲労評価方法は、前記生体インピーダンス測定方法によって測定された生体インピーダンスの時間変化に基づいて、前記筋肉部位における局所的な筋疲労を評価することを特徴としている。
【0029】
前記構成によれば、生体インピーダンスの測定誤差の抑制に伴って、筋疲労を従来よりも高精度で評価することができるようになる。
【0030】
また、本開示の生体インピーダンス測定装置は、生体表面に配置される第1電極及び第2電極と、前記生体表面に、前記第1電極及び前記第2電極に対して所定の間隔を空けて配置される第3電極と、前記第1電極及び前記第3電極の間に並列接続される第1の外部抵抗と、前記第2電極及び前記第3電極の間に並列接続される第2の外部抵抗と、前記第1電極及び前記第3電極の間に生じる第1の電圧と、前記第2電極及び前記第3電極の間に生じる第2の電圧と、を測定する測定手段と、前記第1の電圧及び前記第2の電圧の電圧比を算出する電圧比算出手段と、前記電圧比に基づいて、前記生体表面下の筋肉部位における生体インピーダンスを算出する生体インピーダンス算出手段と、を備えることを特徴としている。
【0031】
前記構成によれば、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本開示によれば、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスの測定誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、一実施形態における生体インピーダンス測定方法及び測定装置、並びに、筋疲労評価方法を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、第1電極、第2電極及び第3電極の構成を模式的に示す。
【
図4】
図4は、第1信号及び第2信号を例示するタイムチャートである。
【
図5】
図5は、信号処理装置の構成を模式的に示す。
【
図7】
図7は、
図6に示した信号処理部を備える信号処理装置によって算出される電圧比及び生体インピーダンスを示したグラフである。
【
図8】
図8は、信号処理部の変形例の構成を模式的に示した
図6対応図である。
【
図9】
図9は、結合信号の概形を模式的に示したグラフである。
【
図10】
図10は、
図8に示した信号処理部を備える信号処理装置によって算出される電圧比及び生体インピーダンスを示したグラフである。
【
図11】
図11(a)及び(b)は、筋肉内の水分量と、生体インピーダンスの変化との関係を模式的に示したグラフである。
【
図12】
図12は、生体インピーダンス測定方法の変形例を模式的に示した
図1対応図である。
【
図13】
図13は、生体インピーダンス測定方法の従来例を模式的に示した
図1対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する、なお、以下の説明は例示である。また、以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素に同一の参照符号を付す。
【0035】
<生体インピーダンス測定方法>
図1は、本開示の一実施形態における、生体インピーダンス測定方法及び測定装置、並びに、筋疲労評価方法を模式的に示した図である。また、
図2は、第1電極、第2電極及び第3電極の構成を模式的に示す。また、
図13は、生体インピーダンス測定方法の従来例を模式的に示した
図1対応図であり、
図14は、
図13に示した従来例の問題点を説明するための図である。
【0036】
-全体構成-
図1に示す各方法は、同図に示す測定装置1を用いて実施することができる。この測定装置1は、少なくとも3つの電極10、20、30と、少なくとも2つの外部抵抗Rg1、Rg2と、測定手段、電圧比算出手段及び生体インピーダンス算出手段を兼ねた信号処理装置5と、を備える。
【0037】
少なくとも3つの電極10、20、30は、第1電極10、第2電極20及び第3電極30を含む。少なくとも2つの外部抵抗Rg1、Rg2は、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2を含む。
【0038】
まず、本実施形態に係る測定方法では、同じ筋肉部位7上の生体の表面(生体表面)9に、所定の間隔を空けて第1電極10、第2電極20及び第3電極30を配置する。なお、第1電極10、第2電極20及び第3電極は、等間隔としなくてもよい。例えば本実施形態では、
図2に示すように、第1電極10及び第2電極20の間隔に比して、第1電極10及び第3電極30の間隔並びに第2電極20及び第3電極30の間隔が広くなるように配置されている。
【0039】
なお、本明細書において、筋肉部位7とは、上腕二頭筋、広背筋など、生理学上個別に区分された筋組織を指す。図例では、上腕二頭筋上の上腕部の表面に、3つの電極10、20、30を貼り付けた例を示す。
図1に模式的に示されているように、本実施形態に係る3つの電極10、20、30は、上腕二頭筋の筋繊維に沿って互いに近傍に配置されている。
【0040】
図2に示すように、3つの電極10、20のうち、少なくとも第1電極10及び第2電極20は、それぞれ、複数の小電極によって構成されている。具体的に、第1電極10は、それぞれ環状に形成された複数(図例では3つ)の第1小電極11によって構成されている。同様に、第2電極20は、それぞれ環状に形成された複数(図例では2つ)の第2小電極21によって構成されている。
【0041】
ここで、複数の第1小電極11は、各小電極を円環とみなしたときの径方向において、その外側から内側に向かって徐々に縮径されていくように、かつ互いに同心となるように配置されている。同様に、複数の第2小電極21は、前記径方向において、その外側から内側に向かって徐々に縮径されていくように、かつ互いに同心となるように配置されている。
【0042】
そして、各第1小電極11と各第2小電極21は、前記径方向において交互に配置されている。
図2に示す例では、径方向の外側に位置する第1小電極11と径方向の中央に位置する第1小電極11との間に一の第2小電極21が配置されており、前記中央に位置する第1小電極11と径方向の内側に位置する第1小電極11との間に他の第2小電極21が配置されている。このように配置したことで、第1電極10全体の重心位置(第1重心位置)G1と、第2電極20全体の重心位置(第2重心位置)G2と、が一致することになる。
【0043】
また、第3電極30は、図例では一体的な電極によって構成されており、第1電極10及び第2電極20に対して所定間隔を空けて配置されている。第1重心位置G1と第2重心位置G2とを一致させたことで、第1電極10及び第3電極30の距離(具体的には、第1重心位置G1と第3電極30の重心位置G3との距離)は、第2電極20及び第3電極30の距離(具体的には、第2重心位置G2と第3電極30の重心位置G3との距離)に等しくなる(
図2の距離Hを参照)。
【0044】
そして、本実施形態に係る測定方法では、第1電極10及び第3電極30の間に第1の外部抵抗Rg1を並列接続するとともに、第2電極20及び第3電極30の間に第2の外部抵抗Rg2を並列接続する。
【0045】
ここで、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2は、それぞれの抵抗値が既知であるものとする。その際、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2のいずれか一方は、その抵抗値を無限大としてもよい。例えば、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を無限大とし、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を有限の値とした場合、第2電極20及び第3電極30の間は第2の外部抵抗Rg2を介して電気的に接続されている一方、第1電極10及び第3電極30の間は第1の外部抵抗Rg1において電気的に断線されているとみなすことができる。また、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の少なくとも一方は、その抵抗値を可変としてもよい。
【0046】
なお、前述のように第1電極10及び第3電極30の距離と第2電極20及び第3電極30の距離とを一致させた場合には、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値と、第2の外部抵抗Rg2の抵抗値とを異ならせることが好ましい。
【0047】
以下の説明では、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を無限大とし、第2の外部抵抗Rg2を可変抵抗(いわゆるボリューム)によって構成した場合について説明する。
【0048】
【0049】
ここで、Vbは、第1電極10及び第2電極20間の生体表面9下にある筋肉部位(上腕二頭筋)7における筋電位である。この筋電位Vbは、上腕部を運動したとき、すなわち、上腕二頭筋7に負荷をかけたときに発生する。筋電位Vbを発生する信号源Sは、生体内における第1電極10及び第2電極20の間に介在している。
【0050】
また、Rb1は、生体内における第1電極10及び第3電極30の間の生体インピーダンスを示す。Rb2は、生体内における第2電極20及び第3電極30の間の生体インピーダンスを示す。Rb3は、生体内における第1電極10及び第2電極20の間の生体インピーダンスを示す。
【0051】
以下、Rb1を「第1インピーダンス」と呼称し、Rb2を「第2インピーダンス」と呼称し、Rb3を「第3インピーダンス」と呼称する場合がある。
【0052】
図3に示すように、3つの電極10、20、30を介して、測定装置1と生体とで電気回路Cが形成される。具体的に、電気回路Cは、第1インピーダンスRb1、第2インピーダンスRb2、第3インピーダンスRb3及び信号源Sを直列接続した電気回路である。加えて、この電気回路Cは、第1インピーダンスRb1に対して第1の外部抵抗Rg1を並列接続し、第2インピーダンスRb2に対して第2の外部抵抗Rg2を並列接続した電気回路とみなすこともできる。
【0053】
そして、第1電極10及び第3電極30の間に第1の外部抵抗Rg1を並列接続したことで生じる電圧(特に、生体外で生じる電位差)は、第1信号として信号処理装置5に入力される。同様に、第2電極20及び第3電極30の間に第2の外部抵抗Rg2を並列接続したことで生じる電圧(特に、生体外で生じる電位差)は、第2信号として信号処理装置5に入力される。以下、第1信号に対応した電圧V1を第1の電圧と呼称するとともに、第2信号に対応した電圧V2を第2の電圧と呼称する。信号処理装置5は、第1信号及び第2信号を通じて第1の電圧V1及び第2の電圧V2を測定する。
【0054】
信号処理装置5は、CPU等の処理装置、RAM、ROM等の記憶装置、及び入出力バスを備えている。信号処理装置5は、それらのハードウェアによって構成される複数の機能ブロックを有しており、それらの機能ブロックを通じて第1信号及び第2信号をそれぞれ増幅したり、増幅後の各信号に基づいて生体インピーダンスRbを算出したりすることができる(詳細は後述)。
【0055】
なお、信号処理装置5は、
図1等では単一の装置として例示されているが、そうした構成には限定されない。第1信号及び第2信号を増幅する装置と、生体インピーダンスRbを算出する装置とを別ユニットとする等、複数の装置によって信号処理装置5を構成してもよい。そのように構成した場合、ユニット間での信号の送受は、無線通信によって実現してもよいし、有線通信によって実現してもよい。
【0056】
ところで、従来知られた方法では、
図13に示すように、第3電極30を用いることなく、電極10、20間に生じる電圧を測定していた。また、2つの電極10、20の間に、第1の外部抵抗Rg1と、第2の外部抵抗Rg2とを並列に配置して、スイッチSWによって、電極10、20間に、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態(第1の状態)と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態(第2の状態)とに切り替えるようになっていた。
【0057】
そして、測定装置100によって第1の状態と第2の状態とのそれぞれで出力電圧Voutを測定するとともに、各測定値の電圧比に基づいて、生体インピーダンス、ひいては筋疲労度等の生体の状態を評価するように構成されていた。
【0058】
しかしながら、第1の状態での測定と、第2の状態での測定とを同時に行うことはできないため、被験者に筋疲労が生じてしまったり、被験者の姿勢に変化が生じたりした結果、前者の場合の測定と後者の場合の測定とで筋出力が一定に維持されず、変動してしまう可能性があった。筋出力の変動は、生体インピーダンスに測定誤差を招く要因となるため不都合である。
【0059】
つまり、
図14の上段のように筋出力が一定の場合、第1の電圧V
1及び第2の電圧V
2はそれぞれ一定となり、それらに基づいた電圧比(V
1/V
2)も一定になる。しかしながら、
図14の下段のように筋出力が変動した場合、第1の電圧V
1及び第2の電圧V
2は双方とも一定にはならない。この場合、例えば第1の電圧V
1の測定タイミングを時刻taから時刻ta’に変化させると、電圧比(V
1/V
2)の算出値、ひいては生体インピーダンスZbの測定値も変化することになる。このような傾向は、第2の電圧V
2の測定タイミングである時刻tbについても同様である。生体インピーダンスZbの測定誤差を抑制するためには、そうした変化を可能な限り抑制することが好都合である。
【0060】
こうした問題に対し、本願発明者らは、
図2に示すような電気回路Cを新たに創作することで、第1の電圧V
1と第2の電圧V
2とを並行して測定できるようにするとともに、その測定結果に基づいた生体インピーダンスRbを新たに定式化することで、生体インピーダンスRb、ひいては生体の状態(筋疲労度)を評価できるようにした。
【0061】
-基本概念-
具体的に、電気回路Cに循環電流Iが流れる場合、前述のように定義された第1の電圧V1、第2の電圧V2、及び筋電位Vbの間には、下式(1)で与えられる関係が成立する。
【0062】
【0063】
上式(1)において、Rb1’は、Rb1とRg1の合成抵抗であり、Rb2’は、Rb2とRg2の合成抵抗である。各合成抵抗が並列接続によって構成されていることを考慮した上で、上式(1)を第1の電圧V1と第2の電圧V2との電圧比(V1/V2)について整理すると、下式(2)が得られる。
【0064】
【0065】
上式(2)を式変形することで、下式(3)及び(4)が順番に得られる。
【0066】
【0067】
【0068】
さらに、上式(4)をRb2について整理することで、下式(5)が得られる。
【0069】
【0070】
前述のように、第1電極10及び第3電極30の距離が、第2電極20及び第3電極30の距離に等しい場合を考える。この場合、第1インピーダンスRb1と第2インピーダンスRb2とが等しいとみなすことができる。そこで、Rb1=Rb2=Rbとした上で上式(5)を整理すると、最終的に下式(6)が得られる。
【0071】
【0072】
式(5)を上式(6)とみなすためには、第1電極10及び第3電極30の距離と、第2電極20及び第3電極30の距離とを一致させることが好ましく、第1電極10の重心位置G1と、第2電極20の重心位置G2とを一致させることがさらに好ましい。
【0073】
前述のように、上式(6)において各外部抵抗Rg1、Rg2の抵抗値は既知である。
【0074】
したがって、生体表面9下にある筋肉部位(上腕筋)7における第1電極10と第3電極30との間、又は、第2電極20と第3電極30との間の生体インピーダンスRbは、式(6)に示すように、第1の電圧V1と第2の電圧V2の電圧比(V1/V2)に基づいて算出することができる。
【0075】
そして、第1の電圧V1と第2の電圧V2は、従来構成のようにスイッチSWを切り替えることなく測定できるため、両者を並行して測定することが可能になる。これにより、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスRbの測定誤差を抑制することができる。
【0076】
なお、前述のように第1の外部抵抗Rg1の抵抗値を無限大とした場合、上式(6)は、下式(7)のように簡略化することができる。
【0077】
【0078】
そして、第2の外部抵抗Rg2は、前述のように可変抵抗とされている。したがって、必要に応じて第2の外部抵抗Rg2の抵抗値を調整することで、第1信号及び第2信号を所望の強度に調整し、ひいては、上記電圧比の大きさを適宜増減させることができる。
【0079】
また、第1の外部抵抗Rg1の抵抗値と第2の外部抵抗Rg2の抵抗値とを異ならせたことで、第1の電圧V1と第2の電圧V2とが異なる値となる。この場合、電圧比V1/V2は1以外の値となる。そのため、上式(7)の右辺をゼロとすることなく、当該式(7)に基づいて生体インピーダンスRbを算出することが可能となる。
【0080】
すなわち、本実施形態に係る生体インピーダンス測定方法では、
図3に例示した電気回路Cを形成した後に、第1の電圧V
1と第2の電圧V
2とを並行して測定する。これらの電圧は、第1信号及び第2信号を通じて信号処理装置5が測定する。
【0081】
その後、信号処理装置5が、取得された第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2を算出するとともに、その電圧比V1/V2に基づいて、生体表面9下の筋肉部位7における生体インピーダンスRbを算出する。
【0082】
-信号処理装置の具体例-
以下、信号処理装置5の具体例について説明する。ここで、
図4は、第1信号及び第2信号を例示するタイムチャートである。
図4の横軸は、測定開始後の経過時間であり、同図の縦軸は、第1信号及び第2信号の強度、つまり筋電位(V)の大きさを示している。また、
図5は、信号処理装置5の構成を模式的に示す図であり、
図6は、信号処理部53の構成を模式的に示す図である。また、
図7は、
図6に示した信号処理部53を備える信号処理装置5によって算出される電圧比及び生体インピーダンスを示したグラフである。
【0083】
図5に示すように、信号処理装置5は、第1信号取得部51と、第2信号取得部52と、信号処理部53と、電圧比算出部54と、インピーダンス算出部55と、を備えている。
【0084】
このうち、第1信号取得部51は、第1電極10と第3電極30との間に生じる電位差を測定することで、第1の電圧V1の測定値に対応したアナログ信号(第1信号)を取得する。第1信号取得部51は、取得した第1信号を信号処理部53に入力する。
【0085】
一方、第2信号取得部52は、第2電極20と第3電極30との間に生じる電位差を測定することで、第2の電圧V2の測定値に対応したアナログ信号(第2信号)を取得する。第2信号取得部52は、取得した第2信号を信号処理部53に入力する。
【0086】
ここで、第1の電圧V
1の測定と第2の電圧V
2の測定を並行して行うことで、第1信号取得部51による測定期間と、第2信号取得部52による測定期間とが重複することになる。
図4の囲み部Rtに示す例では、2つの測定期間が一致するようになっている。
【0087】
信号処理部53は、主たる機能として、第1信号と第2信号をそれぞれ増幅するように構成されている。具体的に、本実施形態に係る信号処理部53は、
図6に示すように、第1信号増幅部531と、第2信号増幅部532と、第1信号変換部533と、第2信号変換部534と、を有している。
図6の各機能ブロック内に示したグラフは、その横軸が信号の測定タイミングを示しており、その縦軸が信号の強度を示している。
【0088】
第1信号増幅部531は、第1信号取得部51から入力された第1信号を、所定の増幅率で増幅する(
図6のグラフG1を参照)。第1信号増幅部531は、増幅後の第1信号に、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等の周波数フィルタを通過させる。この周波数フィルタは、1Hz以上かつ1kHz以下の周波数域を通過させるように構成すればよい。増幅後の第1信号は、第1信号変換部533に入力される。
【0089】
第1信号変換部533は、増幅後かつ周波数フィルタ通過後の第1信号にAD変換を施すとともに、AD変換後の第1信号の実効値を算出する(
図6のグラフG3を参照)。第1信号の実効値は、第1の電圧V
1の最終的な測定結果として
図5の電圧比算出部54に入力される。
【0090】
一方、第2信号増幅部532は、第2信号取得部52から入力された第2信号を、第1信号増幅部531と同じになるよう設定された増幅率で増幅する(
図6のグラフG2を参照)。第2信号増幅部532は、増幅後の第2信号に、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等の周波数フィルタを通過させる。この周波数フィルタは、1Hz以上かつ1kHz以下の周波数域を通過させるように構成すればよい。増幅後の第2信号は、第2信号変換部534に入力される。
【0091】
第2信号変換部534は、増幅後かつ周波数フィルタ通過後の第2信号にAD変換を施すとともに、AD変換後の第2信号の実効値を算出する(
図6のグラフG4を参照)。第1信号の実効値と同様に、第2信号の実効値は、第2の電圧V
2の最終的な測定結果として
図5の電圧比算出部54に入力される。
【0092】
電圧比算出部54は、第1信号及び第2信号の実効値に基づいて、前述の電圧比V1/V2を算出する。その際、電圧比算出部54は、所定の測定タイミングで得られた第1の電圧V1と、その第1の電圧V1と測定タイミングが同期する前記第2の電圧V2とに基づいて、電圧比V1/V2を算出する。例えば、電圧比算出部54は、時刻tnに測定された第1の電圧V1を、同時刻tnに測定された第2の電圧V2で除算する。これにより、電圧比算出部54は電圧比V1/V2を算出する。インピーダンス算出部55は、電圧比算出部54が算出した電圧比V1/V2と上式(7)とに基づいて、生体インピーダンスRbを算出する。
【0093】
これにより、第1信号の実効値のブレと第2信号の実効値のブレとを同期させることが可能になり、
図7のグラフG7に示すように、時間に対してフラットな電圧比V
1/V
2を算出することができる。フラットな電圧比V
1/V
2に基づいて生体インピーダンスRbを算出することで、生体インピーダンスRbの測定誤差を抑制することが可能になる。従来例とは異なり、測定タイミングを時刻taから時刻ta’に変化させたとしても、電圧比V
1/V
2及び生体インピーダンスRbは略一定に保たれる(
図7を参照)。
【0094】
-信号処理装置の変形例-
図6及び
図7を用いて説明した信号処理装置5では、第1信号と第2信号を個別に増幅するように構成されていたが、そうした構成には限定されない。以下のように信号処理部53を変形してもよい。
【0095】
ここで、
図8は、変形例に係る信号処理部53’の構成を模式的に示した
図6対応図である。また、
図9は、結合信号の概形を模式的に示したグラフである。
図10は、
図8に示した信号処理部53’を備える信号処理装置5によって算出される電圧比及び生体インピーダンスを示したグラフである。
【0096】
まず、第1信号取得部51及び第2信号取得部52の構成は、
図5を用いて説明したものと同一である。第1信号取得部51は、第1の電圧V
1の測定値に対応したアナログ信号(第1信号)を取得するとともに、取得した第1信号を信号処理部53’に入力する。第2信号取得部52は、第2の電圧V
2の測定値に対応したアナログ信号(第1信号)を取得するとともに、取得した第2信号を信号処理部53’に入力する。
【0097】
この変形例においても、第1の電圧V
1の測定と第2の電圧V
2の測定とは並行して行われるようになっている。これにより、第1信号取得部51による測定期間と、第2信号取得部52による測定期間とが重複することになる。
図4の囲み部Rtに示すように、この変形例においても、2つの測定期間が一致しているものとする。
【0098】
そして、変形例に係る信号処理部53’は、主たる機能として、第1信号と第2信号を同時に増幅するように構成されている。具体的に、変形例に係る信号処理部53’は、
図8に示すように、結合信号生成部535と、結合信号増幅部536と、結合信号分配部537と、第1信号変換部538と、第2信号変換部539と、を有している。
図8の各機能ブロック内に示したグラフは、その横軸が信号の測定タイミングを示しており、その縦軸が信号の強度を示している。
【0099】
ここで、結合信号生成部535は、第1信号(第1の電圧V
1)の測定値と、第2信号(第2の電圧V
2)の測定値と、に各電圧の測定期間よりも短周期で切り替わる結合信号を生成する(
図8のグラフG6を参照)。
【0100】
結合信号の詳細は、
図9に拡大して示す。この
図9において、破線G61が第1信号に対応し、破線G62が第2信号に対応している。この結合信号は、第1信号と第2信号とに等期間で交互に切り替わる信号として生成される。例えばnを整数とすると、結合信号は、時刻t
n以上かつ時刻t
n+1未満では第1信号に一致する値となり、時刻t
n+1以上かつ時刻t
n+2未満では第2信号に一致する値となり、時刻t
n+2以上かつ時刻t
n+3未満では再び第1信号に一致する値となる。結合信号生成部556は、そうして生成した結合信号を、結合信号増幅部536に入力する。
【0101】
結合信号増幅部536は、結合信号生成部535から入力された結合信号を、所定の増幅率で増幅する(
図8のグラフG7を参照)。結合信号増幅部536は、増幅後の結合信号を、結合信号分配部537に入力する。
【0102】
結合信号分配部537は、結合信号増幅部536から入力された増幅後の結合信号を、第1の電圧V1の測定値に対応した補完済み第1信号(第1信号)と、第2の電圧V2の測定値に対応した補完済み第2信号(第2信号)と、に分配する。
【0103】
この補完済み第1信号は、時刻t
n以上かつ時刻t
n+1未満及び時刻t
n+2以上かつ時刻t
n+3未満では第1信号に一致するとともに、時刻t
n+1以上かつ時刻t
n+2未満ではその前後の第1信号によって値が補完された信号に相当する(
図8のグラフG81を参照)。同様に、補完済み第2信号は、時刻t
n+1以上かつ時刻t
n+2未満及び時刻t
n+3以上かつ時刻t
n+4未満では第2信号に一致するとともに、時刻t
n+2以上かつ時刻t
n+3未満ではその前後の第2信号によって値が補完された信号に相当する(
図8のグラフG82を参照)。他のnについても同様である。結合信号分配部537は、補完済み第1信号を第1信号変換部538に入力するとともに、補完済み第2信号を第2信号変換部539に入力する。
【0104】
第1信号変換部538は、結合信号分配部537から入力された補完済み第1信号に、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等の周波数フィルタを通過させる。この周波数フィルタは、1Hz以上かつ1kHz以下の周波数域を通過させるように構成すればよい。
【0105】
結合信号を分配した後に周波数フィルタを通過させることで、高周波側では、結合信号における第1信号と第2信号との間の段差を保持することが可能になる。つまり、結合信号に周波数フィルタを通過させた場合、
図6の時刻t
n等における破線G61と破線G62との間の段差が緩和し得る。この場合、結合信号の分配に際して誤差を招く可能性がある。
【0106】
一方、結合信号を分配した後に周波数フィルタを通過させることで、そうした段差の緩和を避けることができる。このことは、生体インピーダンスの測定誤差を確保する上で有用である。一方、低周波数側では、結合信号分配部537による分配の際に、クロストークの発生を抑制することができる。このことも、生体インピーダンスの測定誤差を確保する上で有用である。
【0107】
第1信号変換部538はまた、周波数フィルタ通過後の補完済み第1信号にAD変換を施すとともに、AD変換後の補完済み第1信号の実効値を算出する(
図6のグラフG91を参照)。そうして算出された実効値は、第1の電圧V
1の最終的な測定結果として
図5の電圧比算出部54に入力される。
【0108】
一方、第2信号変換部539は、結合信号分配部537から入力された補完済み第2信号に、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等の周波数フィルタを通過させる。この周波数フィルタは、1Hz以上かつ1kHz以下の周波数域を通過させるように構成すればよい。
【0109】
第2信号変換部539はまた、周波数フィルタ通過後の補完済み第2信号にAD変換を施すとともに、AD変換後の補完済み第2信号の実効値を算出する(
図6のグラフG92を参照)。そうして算出された実効値は、第2の電圧V
2の最終的な測定結果として
図5の電圧比算出部54に入力される。
【0110】
電圧比算出部54は、補完済み第1信号及び補完済み第2信号の実効値に基づいて、前述の電圧比V1/V2を算出する。前述の構成と同様に、電圧比算出部54は、所定の測定タイミングで得られた第1の電圧V1と、その第1の電圧V1と測定タイミングが同期する第2の電圧V2とに基づいて、電圧比V1/V2を算出する。例えば、電圧比算出部54は、時刻tnに測定された第1の電圧V1を、時刻tn+1に測定された第2の電圧V2等、時刻tnの前後に測定された第2の電圧V2で除算する。これにより、電圧比算出部54は電圧比V1/V2を算出する。第1の電圧V1の測定タイミングと第2の電圧V2の測定タイミングとの間の僅かなズレは、補完済み第1信号及び補完済み第2信号を用いたことに起因する。インピーダンス算出部55は、電圧比算出部54が算出した電圧比V1/V2と上式(7)とに基づいて、生体インピーダンスRbを算出する。
【0111】
これにより、第1信号の実効値のブレと第2信号の実効値のブレとを略同期させることが可能になる。
図10のグラフG10に示すように、各電圧の測定タイミングのズレに起因して若干の凹凸こそ存在するものの、従来例と比べて十分にフラットな電圧比V
1/V
2を算出することができる。そうした電圧比V
1/V
2に基づいて生体インピーダンスRbを算出することで、生体インピーダンスRbの測定誤差を抑制することが可能になる。
また、第1信号と第2信号を個別に増幅するのではなく、結合信号増幅部536によって同時に増幅するように構成したことで、増幅率の誤差に起因した測定誤差を抑制することができる。
【0112】
<筋疲労評価方法>
ところで、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、血中の乳酸濃度が増加することがよく知られているが、筋肉内の水分も増加することが分かっている。そのため、疲労した筋肉部位における生体インピーダンスを測定すると、平常時よりも生体インピーダンスが減少していることが予測できる。
【0113】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、得られた知見によると、腕の肘曲げ運動ように、筋肉に一定でない負荷をかけたときの生体インピーダンスの変化は、血中乳酸濃度の変化や、筋肉の厚みの変化と、強い相関関係があることが分かった。すなわち、特定の筋肉の疲労は、筋肉内の水分量の変化として捉えることができ、これにより、生体インピーダンスの変化が、生体の筋疲労度を反映する指標になり得ることが分かった。
【0114】
したがって、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が変化し、筋肉内の水分量の変化を、生体インピーダンスの変化として捉えることによって、特定の筋肉の疲労度を評価することができる。
【0115】
そして、筋肉の疲労度を評価するための生体インピーダンスは、
図2に例示した電気回路Cにおいて、第1の電圧V
1及び第2の電圧V
2を並行して測定することで算出することができる。
【0116】
図11は、筋肉内の水分量の変化(
図11(a))と、生体インピーダンスの変化(
図11(b))との関係を模式的に示したグラフである。
図11(a)、(b)に示すように、筋肉に負荷をかけて筋疲労が生じると、筋肉内の水分量が増加し(時刻t
0~t
1)、これに伴い、生体インピーダンスが減少する(時刻t
0~t
1)。そして、筋肉に負荷をかけるのを止めると、筋肉内の水分量が元の状態に戻り(時刻t
1~t
2)、これに伴い、生体インピーダンスも元の状態に戻る(時刻t
1~t
2)。すなわち、生体インピーダンスの時間変化を測定することにより、筋疲労が、時刻t
0~t
1の間で蓄積し、時刻t
1~t
2の間で回復することが分かる。これにより、筋肉に負荷をかけたときに生じる筋疲労度を評価することができる。
【0117】
なお、
図11の横軸に示した経過時間のタイムスケールは、
図7及び
図10の横軸に示した測定タイミングのタイムスケールと比べて有意に長く設定されている。つまり、
図11の各時刻t
0、t
1、t
2の近傍で見たときの生体インピーダンスは、
図7及び
図10のように時間に対して略フラットとなる。
【0118】
<測定誤差の抑制について>
このように、本実施形態に係るインピーダンス測定方法では、第1電極10及び第3電極30の間に第1の外部抵抗Rg1を並列接続することで得られる第1の電圧V1と、第2電極20及び第3電極30の間に第2の外部抵抗Rg2を並列接続することで得られる第2の電圧V2との電圧比V1/V2に基づいて、生体インピーダンスRbを算出する。これにより、第1の外部抵抗Rg1が並列接続された状態と、第2の外部抵抗Rg2が並列接続された状態とで電気回路Cを切り替えることなく、2つの電圧を並行して測定することが可能になる。そのことで、筋出力の変動に起因した、生体インピーダンスRbの測定誤差を抑制することができる。測定誤差の抑制は、生体インピーダンスRbの高精度化に資する。
【0119】
また、
図2を用いて説明したように、第1電極10及び第3電極30の距離Hと、第2電極20及び第3電極30の距離Hとが等しい場合、上式(6)を用いて生体インピーダンスRbを算出することができる。これにより、3つの電極を用いた場合であっても、生体インピーダンスRbをより容易に算出することが可能になる。
【0120】
また、第1の外部抵抗Rg1又は第2の外部抵抗Rg2のいずれか一方の抵抗値を無限大とした場合、その外部抵抗において電気回路Cが遮断されているとみなすことができる。この場合、上式(7)に示したように、上式(6)は、よりシンプルなものとなる。各種計算式をシンプルにすることで、生体インピーダンスRbをより容易に測定することが可能となる。
【0121】
また、
図1及び
図3に例示したように、第1の外部抵抗Rg1及び第2の外部抵抗Rg2の少なくとも一方の抵抗値を可変とすることで、第1の電圧V
1及び第2の電圧V
2、ひいてはそれらの電圧に基づいた電圧比V
1/V
2の大きさを調節することができる。これにより、生体インピーダンスRbをより容易に測定することが可能となる。
【0122】
また、
図4の囲み部RT、及び
図6の時刻t
nを用いて説明したように、第1の電圧V
1と、該第1の電圧V
1と測定タイミングが同期する前記第2の電圧V
2と、を用いて電圧比V
1/V
2を算出することで、時間経過に伴う各電圧のブレの影響を電圧比の算出結果に及ぼすことなく、略一定の電圧比を算出することが可能になる。このことは、生体インピーダンスRb/の測定誤差の抑制に資する。
【0123】
また、
図6に例示した信号処理部53を用いることで、同時刻に測定された第1信号及び第2信号に基づいて、電圧比V
1/V
2を算出することが可能になる。これにより、測定タイミングのずれに起因した測定誤差を抑制することができる。
【0124】
また、
図8に例示した信号処理部53’を用いた場合、一の結合信号を増幅してから、この結合信号を補完済み第1信号と補完済み第2信号とに分配することになる。これにより、2つの信号間で増幅率を等しくすることができるため、増幅率のずれに起因した測定誤差を抑制することができる。
【0125】
<他の実施形態>
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0126】
例えば、前記実施形態では、生体インピーダンスの時間変化に基づいて、生体の筋疲労度を評価するように構成されていたが、本開示による評価対象は、生体の筋疲労度には限定されない。生体内の信号源の位置を評価したり、生体の体脂肪を評価したりしてもよい。
【0127】
また、前記実施形態では、3つの電極を筋繊維に沿って互いに近傍に配置したが、本開示は、そうした配置には限定されない。3つの電極を、筋繊維を取り囲むように、互いに近傍に配置してもよい。
【0128】
また、前記実施形態では、それぞれ環状に形成された複数の第1小電極11によって第1電極10を構成するとともに、それぞれ環状に形成された複数の第2小電極21によって第2電極20を構成していたが、本開示は、そうした構成には限定されない。複数の第1小電極11と複数の第2小電極21とをそれぞれ板状に形成し、所定方向に沿って第1小電極11と第2小電極21とを交互に並べることによって第1電極10及び第2電極20を構成してもよい、
また、前記実施形態では、複数の小電極によって第3電極30を構成するのではなく、一の電極ブロックによって第3電極30構成するようになっていたが、本開示は、そうした構成には限定されない。第1電極10及び第2電極20と同様に、複数の電極ブロックによって第3電極30を構成してもよい。
【0129】
図12は、生体インピーダンス測定方法の変形例を模式的に示した
図1対応図である。この例では、第3電極30は、互いに別体とされた第1電極ブロック31及び第2電極ブロック32を含み、第1の外部抵抗Rg1を第1電極10及び第1電極ブロック31の間に並列接続し、第2の外部抵抗Rg2を第2電極20及び第2電極ブロック32の間に並列接続している。
【0130】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、得られた知見によると、前記構成のように第3電極30を複数の電極ブロック31,32により構成したとしても、
図2と同じ等価回路を用いることができ、上式(5)、(6)及び(7)を流用することも許容される。このように、本開示は多種多様な電気回路Cに適用することができ、種々の性能要求・ニーズに応えることが可能になる。
【0131】
また、前記実施形態では、第2の外部抵抗Rg2を可変抵抗(いわゆるボリューム)によって構成した場合について説明したが、本開示は、そうした構成には限定されない。例えば
図12に示すように、互いに並列接続された2つの外部抵抗Rga、Rgbによって第2の外部抵抗Rg2を構成し、外部抵抗Rgaと外部抵抗RgbとをスイッチSWで切り替えるように構成してもよい。第2の外部抵抗Rg2を構成するように並列接続される外部抵抗は、3以上の多数であってもよい。同様の構成は、第1の外部抵抗Rg1にも適用可能である。
【0132】
また、本開示は、測定装置1を生体インピーダンス測定装置とみなすこともできる。すなわち、本開示に係る生体インピーダンス測定装置は、生体表面9に配置される第1電極10及び第2電極20と、この生体表面9に、第1電極10及び第2電極20に対して所定の間隔を空けて配置される第3電極30と、第1電極10及び第3電極30の間に並列接続される第1の外部抵抗Rg1と、第2電極20及び第3電極30の間に並列接続される第2の外部抵抗Rg2と、第1電極10及び第3電極30の間に生じる第1の電圧V1と、第2電極20及び第3電極30の間に生じる第2の電圧V2と、を測定する測定手段(信号処理装置5)と、第1の電圧V1及び第2の電圧V2の電圧比V1/V2を算出する電圧比算出手段(電圧比算出部54)と、算出した電圧比V1/V2に基づいて、生体表面9下の筋肉部位7における生体インピーダンスRbを算出する生体インピーダンス算出手段(インピーダンス算出部55)と、を備えている。
【符号の説明】
【0133】
1 測定装置(生体インピーダンス測定装置)
5 信号処理装置
7 筋肉部位
9 生体表面
10 第1電極
20 第2電極
30 第3電極
31 第1電極ブロック
32 第2電極ブロック
Rg1 第1の外部抵抗
Rg2 第2の外部抵抗