(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041455
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】タイル剥離診断方法及びタイル剥離診断システム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20240319BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146285
(22)【出願日】2022-09-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月20日に学術講演梗概集DVD発行 令和4年9月5日に学術講演会開催
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】國見 敬
(72)【発明者】
【氏名】井▲崎▼ 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】西井 朋也
(72)【発明者】
【氏名】岸本 豪太
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA09
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC07
2G047CA03
2G047CA07
2G047EA09
2G047GA13
2G047GB17
2G047GG10
2G047GG12
2G047GG24
2G047GG28
2G047GG32
2G047GG33
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】タイル剥離の検査時間を短縮する。
【解決手段】タイル剥離診断方法は、少なくとも1つの加振センサにより、単発のパルス波が繰り返されてなる加振用電気信号から振動を発生させてタイルへ加える(S20)と共に、複数の受振センサにより、タイルから振動を受けて(S30)それを受振電気信号へと変換し、受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出し(S60)、周波数成分毎の電圧の振幅値の中で最大振幅値を特定し(S70)、予め把握する最大振幅値とタイルの剥離との相関関係、及び複数の受振センサの各々の最大振幅値に基づいて、タイルの剥離を診断する(S80~S170)。これにより、受振センサから得られる受振電気信号に基づいて、タイルの剥離の診断を瞬時に行うことができるため、タイル剥離の検査時間を短縮することが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のタイルを対象として、少なくとも1つの加振センサと複数の受振センサとが互いに間隔を空けてベース部に固定され、該ベース部が前記タイルと略平行に配置された状態で前記少なくとも1つの加振センサと前記複数の受振センサとが前記タイルに接触するタイル剥離検知器を利用して、前記タイルの剥離を診断する方法であって、
前記少なくとも1つの加振センサにより、単発のパルス波、単発のランダム波、単発のパルス波の繰り返し、或いは単発のランダム波の繰り返しからなる加振用電気信号から、振動を発生させて該振動を前記タイルへ加えると共に、前記複数の受振センサにより、前記タイルから振動を受けて該振動を受振電気信号へと変換し、
前記複数の受振センサの各々について、前記受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出し、
前記複数の受振センサの各々について、前記周波数成分毎の電圧の振幅値の中で最大振幅値を特定し、
予め把握する前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係、及び前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値に基づいて、前記タイルの剥離を診断することを特徴とするタイル剥離診断方法。
【請求項2】
前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係として、前記最大振幅値と前記タイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用い、該関係に基づいて前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化し、該得点に基づいて前記タイルの剥離を診断することを特徴とする請求項1記載のタイル剥離診断方法。
【請求項3】
前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化した際の得点を合計し、該合計した得点に基づいて前記タイルの剥離を診断することを特徴とする請求項2記載のタイル剥離診断方法。
【請求項4】
前記タイル剥離検知器として、2つの前記加振センサを有するタイル剥離検知器を利用し、
前記2つの加振センサのうちの一方の加振センサにより発生させた振動を、前記タイルを介して前記複数の受振センサにより受けたときの、前記タイルの剥離の診断結果と、前記2つの加振センサのうちの他方の加振センサにより発生させた振動を、前記タイルを介して前記複数の受振センサにより受けたときの、前記タイルの剥離の診断結果との、双方を利用して前記タイルの剥離の最終判定を行うことを特徴とする請求項1記載のタイル剥離診断方法。
【請求項5】
前記タイル剥離検知器として、前記2つの加振センサによる加振点間の距離が、前記タイルを貼り付けるための有機系接着剤張りの貼付剤に形成されるコテのくし目の大きさに対応するタイル剥離検知器を利用することを特徴とする請求項4記載のタイル剥離診断方法。
【請求項6】
前記タイル剥離検知器として、前記少なくとも1つの加振センサが、前記ベース部の平面視での中央近傍に固定されると共に、前記複数の受振センサが、前記少なくとも1つの加振センサを囲むようにして前記ベース部に固定されたタイル剥離検知器を利用することを特徴とする請求項1記載のタイル剥離診断方法。
【請求項7】
既設のタイルの剥離を診断するシステムであって、
加振用電気信号から発生させた振動を前記タイルへ加える少なくとも1つの加振センサと、前記タイルから受けた振動を受振電気信号へと変換する複数の受振センサとが、互いに間隔を空けて配置されたタイル剥離検知器と、
単発のパルス波、単発のランダム波、単発のパルス波の繰り返し、或いは単発のランダム波の繰り返しからなる前記加振用電気信号を、前記少なくとも1つの加振センサへ出力する振動入力部と、
前記複数の受振センサから前記受振電気信号を受けて解析を行う解析部と、を含み、
該解析部は、
前記複数の受振センサの各々について、前記受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出し、
前記複数の受振センサの各々について、前記周波数成分毎の電圧の振幅値の中で最大振幅値を特定し、
予め把握する前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係、及び前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値に基づいて、前記タイルの剥離を診断することを特徴とするタイル剥離診断システム。
【請求項8】
前記解析部は、前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係として、前記最大振幅値と前記タイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用い、該関係に基づいて前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化し、該得点に基づいて前記タイルの剥離を診断することを特徴とする請求項7記載のタイル剥離診断システム。
【請求項9】
前記解析部は、前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化した際の得点を合計し、該合計した得点に基づいて前記タイルの剥離を診断することを特徴とする請求項8記載のタイル剥離診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物などの外壁や内壁、床などを覆うように設置されているタイルに関し、セメントモルタル張りや有機系接着張りなどの貼付材を用いて設置されているタイルの剥離を診断する、タイル剥離診断方法及びタイル剥離診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや家屋などの建築物や、歩道や建物のアプローチなどの構造物などには、壁面や床面の表面の保護や装飾に、セメントモルタル張りや有機系接着張りなどでタイルが設置されている。このような建築物などの外壁面や内壁面、床面などの表面に設置された既設のタイルの剥離を検知する方法として、人力による打音診断で検知する方法や、振動を発生する検査装置を利用したものが挙げられる。例えば、振動を発生する従来の検査装置では、2つの振動センサを使用して、一方の振動センサからタイルに加えた振動を他方の振動センサで受け、その振動の伝搬状況を用いてタイルの剥離を検知していた。この際、一方の振動センサでは、周波数がシフトするスウィープ波の電気信号から振動を発生させていた。なお、近年では、光ファイバセンサを利用してタイルの剥離を検知する方法も発案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、振動を発生する従来の検査装置は、2つの振動センサ間に位置するタイルの一部分の剥離を検知するものであるため、検査対象のタイルの大きさや形状に合わせて検査装置の位置や向きを変えながら、1枚のタイルに対して複数回検査を行う必要があり、時間がかかるものであった。更に、スウィープ波の電気信号から振動を発生させているため、振動発生の継続時間を長くして、単位時間当たりの特定周波数の出力エネルギーを増大させることが好ましいが、これも検査時間が長くなる要因になっていた。また、人力による打音診断で検知する方法にも、特に有機系接着剤張りにおいては精度の点において改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイル剥離の検査時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)既設のタイルを対象として、少なくとも1つの加振センサと複数の受振センサとが互いに間隔を空けてベース部に固定され、該ベース部が前記タイルと略平行に配置された状態で前記少なくとも1つの加振センサと前記複数の受振センサとが前記タイルに接触するタイル剥離検知器を利用して、前記タイルの剥離を診断する方法であって、前記少なくとも1つの加振センサにより、単発のパルス波、単発のランダム波、単発のパルス波の繰り返し、或いは単発のランダム波の繰り返しからなる加振用電気信号から、振動を発生させて該振動を前記タイルへ加えると共に、前記複数の受振センサにより、前記タイルから振動を受けて該振動を受振電気信号へと変換し、前記複数の受振センサの各々について、前記受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出し、前記複数の受振センサの各々について、前記周波数成分毎の電圧の振幅値の中で最大振幅値を特定し、予め把握する前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係、及び前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値に基づいて、前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断方法。
【0007】
本項に記載のタイル剥離診断方法は、タイル剥離検知器を利用して、建築物などに貼り付けられているタイルの剥離を診断するものである。利用するタイル剥離検知器は、少なくとも1つの加振センサ、複数の受振センサ、及びベース部を含み、少なくとも1つの加振センサと複数の受振センサとが互いに間隔を空けてベース部に固定されている。このようなタイル剥離検知器を、ベース部がタイルと略平行になるように配置し、少なくとも1つの加振センサと複数の受振センサとがタイルに接触するように、タイルに押し当てて使用する。そして、この状態で、少なくとも1つの加振センサによりタイルへ振動を加えると共に、タイルへ加えられた振動を、複数の受振センサによりタイルを介して受ける。このとき、加振センサにより加える振動は、加振用電気信号から発生させたものであり、加振センサは、印加される加振用電気信号から振動を発生する機能を有している。加振センサに印加する加振用電気信号は、単発のパルス波からなるもの、単発のランダム波からなるもの、単発のパルス波の繰り返しからなるもの、或いは単発のランダム波の繰り返しからなるものである。また、受振センサの各々は、タイルから受けた振動を受振電気信号へと変換する機能を有している。
【0008】
続いて、加振センサにより加えられてタイル内を伝搬し、受振センサにより受けられた振動から変換された受振電気信号を、複数の受振センサの各々から取得して、その受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出する。すなわち、各受振センサからの計測結果である受振電気信号に対して、計算に必要な前処理を行った後、例えばFFT解析などを行うことで、各受振電気信号について周波数成分毎の電圧の振幅値を抽出する。次いで、周波数成分毎に抽出された電圧の振幅値の中から、最も電圧値が大きい最大振幅値を特定し、これを各受振センサの受振電気信号について実行する。そして、予め把握する上記のような最大振幅値とタイルの剥離との相関関係、及び複数の受振センサの各々の上記のような最大振幅値に基づいて、タイルの剥離を診断する。
【0009】
ここで、加振センサからタイルへ加えられた振動は、タイルがその貼り付け先から剥離せずに貼り付いている箇所においては、タイルから貼り付け先へと伝搬するため、受振センサにより受けられる振動エネルギーが大幅に減少する。これに対し、タイルが貼り付け先から剥離している箇所において、加振センサからタイルへ加えられた振動は、貼り付け先へはほとんど伝搬せずにタイル内を伝搬するため、受振センサにより損失が少ない状態で受けられる。そして、受振センサにより振動から変換される受振電気信号には、振動エネルギーの大きさが反映されるため、上記のように受振電気信号から得られた最大振幅値は、タイルの剥離診断の指標となり得るものとなる。
【0010】
そこで、本項に記載のタイル剥離診断方法は、受振電気信号から得られる最大振幅値とタイルの剥離との相関関係を試験などによって予め把握しておき、その相関関係に診断対象のタイルについて得られた最大振幅値を適用することで、タイルの剥離を診断するものである。これにより、受振センサから得られる受振電気信号に基づいて、タイルの剥離の診断が瞬時に行われることになるため、タイル剥離の検査時間が短縮されるものとなる。更に、本項に記載のタイル剥離診断方法は、使用するタイル剥離検知器が少なくとも1つの加振センサと複数の受振センサとを有しているため、タイルの、加振センサが接触する部分と受振センサの各々が接触する部分との間が、同時に検査されることになり、これによってもタイル剥離の検査時間が短縮されるものである。しかも、加振センサへ印加する加振用電気信号は、単発のパルス波或いはランダム波、若しくはそれらが繰り返されてなるものであるため、スウィープ波の電気信号を印加する場合と異なり、継続時間を長くする必要がなく、また、単発のパルス波やランダム波による振動を利用すればよいため、検査時間がより一層短縮されるものとなる。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係として、前記最大振幅値と前記タイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用い、該関係に基づいて前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化し、該得点に基づいて前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断方法。
本項に記載のタイル剥離診断方法は、タイル剥離の診断に用いる、受振電気信号から得られる最大振幅値とタイルの剥離との相関関係として、最大振幅値とタイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用いるものである。
【0012】
このため、例えば、貼り付き面積(或いは剥離面積)が既知で且つ互いに異なる、複数のタイルを用いた試験などによって、受振電気信号から得られる最大振幅値とタイルの貼り付き面積との相関関係を求める。更に、タイルが剥離していると診断すべきタイルの貼り付き面積の大きさなどに応じて、例えば最大振幅値の特定の大きさの範囲毎に得点を定め、それを最大振幅値と得点との関係に用いる。そして、タイルの剥離の診断時には、上記のような最大振幅値と得点との関係に、診断対象のタイルについて得られた各受振センサからの最大振幅値を適用することで、その最大振幅値を得点化し、その得点に基づいてタイルの剥離を診断するものである。これにより、診断に用いるパラメータが単純化されるため、簡便なロジックでタイル剥離の診断方法が実現されるものとなる。
【0013】
(3)上記(2)項において、前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化した際の得点を合計し、該合計した得点に基づいて前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断方法。
本項に記載のタイル剥離診断方法は、最大振幅値と得点との関係に、診断対象のタイルに係る各受振センサからの最大振幅値を適用することで得られた、全ての受振センサについての得点を合計し、その合計得点に基づいてタイルの剥離を診断するものである。すなわち、例えば、全ての受振センサについての得点の合計と、タイルの貼り付き面積(或いは剥離面積)との関係を、試験などによって求め、この関係に診断対象のタイルについての合計得点を適用することで、タイルの剥離を診断する。これにより、複数の受振センサから得られる全ての得点を利用して、タイルの剥離を診断することとなるため、タイルの様々な位置での貼り付き或いは剥離の影響が反映された振動エネルギーの伝搬状況が加味されて、より適切な診断が行われるものとなる。
【0014】
(4)上記(1)項において、前記タイル剥離検知器として、2つの前記加振センサを有するタイル剥離検知器を利用し、前記2つの加振センサのうちの一方の加振センサにより発生させた振動を、前記タイルを介して前記複数の受振センサにより受けたときの、前記タイルの剥離の診断結果と、前記2つの加振センサのうちの他方の加振センサにより発生させた振動を、前記タイルを介して前記複数の受振センサにより受けたときの、前記タイルの剥離の診断結果との、双方を利用して前記タイルの剥離の最終判定を行うタイル剥離診断方法。
【0015】
本項に記載のタイル剥離診断方法は、2つの加振センサと複数の受振センサとを備えたタイル剥離検知器を利用して、タイルの剥離を診断するものである。すなわち、加振センサからタイルへ加振し、その振動を複数の受振センサの各々で受けて受振電気信号へと変換し、その各受振電気信号から抽出される、とある周波数成分における電圧の最大振幅値に基づいて、タイルの剥離を診断するまでの一連の手順を、2つの加振センサの各々について実行する。そして、一方の加振センサについてのタイル剥離の診断結果と、他方の加振センサについてのタイル剥離の診断結果との双方を利用して、タイルの剥離の最終判定を行うものである。これにより、タイルの、一方の加振センサが接触する部分と複数の受振センサの各々が接触する部分との間、及び、他方の加振センサが接触する部分と複数の受振センサの各々が接触する部分との間の、振動エネルギーの伝搬状況が加味された診断が行われるものとなり、タイル剥離の診断精度が向上するものである。
【0016】
(5)上記(4)項において、前記タイル剥離検知器として、前記2つの加振センサによる加振点間の距離が、前記タイルを貼り付けるための有機系接着剤張りの貼付剤に形成されるコテのくし目の大きさに対応するタイル剥離検知器を利用するタイル剥離診断方法。
本項に記載のタイル剥離診断方法は、タイル剥離検知器の2つの加振センサによる加振点間の距離が、タイルを貼り付けるための有機系接着剤張りの貼付剤をコテにより建築物などに塗布する際に、貼付剤に形成されるコテのくし目の大きさに対応するように設定されているものである。すなわち、タイル剥離検知器をタイルに押し当てたときに、タイルの平面視で、2つの加振センサのうちの少なくとも一方の加振点が、タイルの貼り付け時に貼付剤に形成されたコテのくし目の凹凸のうちの凸となる部分に位置するように、2つの加振センサによる加振点間の距離が設定される。
【0017】
ここで、タイルを建築物などに貼り付ける際に、建築物などに貼付剤を塗布してタイルを貼り付けた後に行うたたき押えが不十分であると、塗布時に貼付剤に形成されたコテのくし目の凹凸のうちの凹となっていた部分に、貼付剤の空洞箇所が形成される虞がある。そして、そのような貼付剤の空洞箇所に対して加振を行った場合は、誤判定データが採取されることも考えられる。そこで、本項に記載のタイル剥離診断方法は、上述したような2つの加振センサを有するタイル剥離検知器を使用することで、少なくとも一方の加振センサが、貼付剤の空洞箇所にはならない位置で加振することになる。これによって、少なくとも一方の加振センサからの加振により、タイル剥離の診断を行うための適切なデータが取得されるものとなるため、タイルの裏に貼付剤の空洞箇所が形成されるような場合であっても、問題なくタイル剥離の診断が行われるものである。
【0018】
(6)上記(1)項において、前記タイル剥離検知器として、前記少なくとも1つの加振センサが、前記ベース部の平面視での中央近傍に固定されると共に、前記複数の受振センサが、前記少なくとも1つの加振センサを囲むようにして前記ベース部に固定されたタイル剥離検知器を利用するタイル剥離診断方法。
本項に記載のタイル剥離診断方法は、タイルへ振動を加えるための少なくとも1つの加振センサと、タイルから振動を受けるための複数の受振センサとが、以下のように配置されたタイル剥離検知器を利用するものである。すなわち、少なくとも1つの加振センサが、ベース部の平面視での中央近傍に固定されると共に、複数の受振センサが、少なくとも1つの加振センサを囲むようにしてベース部に固定されたものである。
【0019】
これにより、加振センサからタイルへ加えられた振動が、そのタイルの振動が加えられた部分を囲うような位置で複数の受振センサの各々によって受けられる。従って、加振センサを囲う複数の受振センサの配置位置により規定される領域全体が同時に検査されることになるため、効率よくタイル剥離の診断が行われ、更なる時間短縮が期待されるものである。更に、上述した複数の受振センサにより規定される領域が、診断対象の1枚のタイル全体を略覆うように、加振センサや受振センサの配置間隔を設定することで、タイルに対するタイル剥離検知器の位置変えなどを行う必要なく、1枚のタイルが一度で検査されるため、より効率よく診断が行われるものとなる。
【0020】
(7)既設のタイルの剥離を診断するシステムであって、加振用電気信号から発生させた振動を前記タイルへ加える少なくとも1つの加振センサと、前記タイルから受けた振動を受振電気信号へと変換する複数の受振センサとが、互いに間隔を空けて配置されたタイル剥離検知器と、単発のパルス波、単発のランダム波、単発のパルス波の繰り返し、或いは単発のランダム波の繰り返しからなる前記加振用電気信号を、前記少なくとも1つの加振センサへ出力する振動入力部と、前記複数の受振センサから前記受振電気信号を受けて解析を行う解析部と、を含み、該解析部は、前記複数の受振センサの各々について、前記受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出し、前記複数の受振センサの各々について、前記周波数成分毎の電圧の振幅値の中で最大振幅値を特定し、予め把握する前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係、及び前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値に基づいて、前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断システム。
【0021】
(8)上記(7)項において、前記解析部は、前記最大振幅値と前記タイルの剥離との相関関係として、前記最大振幅値と前記タイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用い、該関係に基づいて前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化し、該得点に基づいて前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断システム。
(9)上記(8)項において、前記解析部は、前記複数の受振センサの各々の前記最大振幅値を得点化した際の得点を合計し、該合計した得点に基づいて前記タイルの剥離を診断するタイル剥離診断システム。
そして、(7)から(9)項に記載のタイル剥離診断システムは、各々、上記(1)から(3)項のタイル剥離診断方法に用いられることで、上記(1)から(3)項のタイル剥離診断方法に対応する同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記のような構成であるため、タイル剥離の検査時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断システムの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図2】タイル剥離検知器の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図4】電圧の最大振幅値とタイルの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係の一例を示す表である。
【
図5】合計得点とタイルの接着剤塗布面積率との関係の一例を示す表である。
【
図6】(a)が試験で使用したタイルの一例を概略的に示し、(b)が(a)のタイルに対するタイル剥離検知器の各センサの配置例を示している。
【
図7】試験で使用した接着剤塗布面積率及び接着剤塗布位置が異なる様々なタイルの例を示す表である。
【
図8】試験により得られた電圧の最大振幅値の例を示しており、(a)が接着剤塗布面積率100%のタイルの試験結果、(b)が接着剤塗布面積率40%のタイルの試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、建築物などに貼り付けられた既設のタイルTの剥離を診断する、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断システム10の構成を概略的に示し、
図2は、タイル剥離診断システム10で用いるタイル剥離検知器12の構造の一例を示している。まず、
図1及び
図2を参照して、タイル剥離検知器12の構造について説明する。
【0025】
図示のように、タイル剥離検知器12は、少なくとも1つの加振センサ14(本実施形態では2つの加振センサ14A、14B)と、複数の受振センサ16(本実施形態では6つの受振センサ16A~16F)と、加振センサ14及び受振センサ16が固定されたベース部30とを含んでいる。加振センサ14の各々は、タイルTへ振動を加えるためのものであって、ベース部30へネジ止めなどで固定されており、ケース体22の内部に他の構成要素の大部分が収容された形態をなしている。詳しい説明は省略するが、加振センサ14は、
図2で確認できる振動伝達子20の他に、圧電振動板やスプリングなど備えており、本実施形態では、2つの加振センサ14A、14Bの構成要素が、平面視で長円状をなす共通のケース体22に収容されている。
【0026】
2つの加振センサ14A、14Bのケース体22には、その上部に2つの突出孔が形成されており、そこから加振センサ14Aの振動伝達子20の三角錐状の先端と、加振センサ14Bの振動伝達子20の三角錐状の先端とが突出している。加振センサ14の振動伝達子20は、その先端がタイルTへ当接された状態で、圧電振動板により発生した振動をタイルTへ伝達するものであって、三角錐状の先端が加振点となる。すなわち、加振センサ14は、振動伝達子20の先端がタイルTへ当接された状態で、後述する振動入力部40から圧電振動板に加振用電気信号が印加されると、圧電振動板により振動を発生する。すると、発生した振動が、圧電振動板に物理的に接続された振動伝達子20を介してタイルTへと伝達され、タイルTへ振動が加えられるものである。
【0027】
一方、受振センサ16の各々は、タイルTから振動を受けるためのものであって、加振センサ14と同様に、ケース体22の内部に圧電振動板やスプリングなどを収容する構造を有している。そして、この点は加振センサ14と異なり、受振センサ16のケース体22は、平面視で円形をなし、その上部に設けられた突出孔から、受振センサ16の振動伝達子20の三角錐状の先端が突出している。このような構成の受振センサ16は、振動伝達子20の先端がタイルTへ当接された状態で、タイルTが振動していると、その振動が振動伝達子20へ伝わり、更に振動伝達子20と物理的に接続された圧電振動板へと伝達される。すると、伝達された振動が、圧電振動板によって電気信号へと変換され、それが受振電気信号として後述する解析部50により取り出されるものである。
【0028】
上述した2つの加振センサ14A及び14Bと6つの受振センサ16A~16Fとは、例えば
図2に示すような位置関係で、板状のベース部30に固定される。すなわち、2つの加振センサ14A及び14Bが、平面視で長方形をなすベース部30の中央近傍に、ベース部30の長方形の長手方向に隣接して固定され、それらの加振センサ14A及び14Bを囲うようにして、6つの受振センサ16A~16Fが配置されている。より詳しくは、加振センサ14A及び3つの受振センサ16A、16C、16Eが略等間隔で千鳥格子状に配置され、それらに隣接して、加振センサ14B及び3つの受振センサ16B、16D、16Fが略等間隔で千鳥格子状に配置されている。このような配置は、
図6に示されているような大きさ及び形状のタイルTに適合されたものであり、これに限定されるものではないが、そのタイルTの大きさは、例えば95mm×45mmである。
【0029】
そして、上記のような大きさのタイルTに対応する大きさの例として、
図2に示されたタイル剥離検知器12は、受振センサ16Aと受振センサ16Bとの三角錐状の振動伝達子20の先端間の距離や、受振センサ16Cと受振センサ16Dとの三角錐状の振動伝達子20の先端間の距離が、48mm程度である。また、受振センサ16Aと受振センサ16Cとの三角錐状の振動伝達子20の先端間の距離や、受振センサ16Bと受振センサ16Dとの三角錐状の振動伝達子20の先端間の距離が、29mm程度である。更に、
図2に符号Lで示されている、加振センサ14Aと加振センサ14Bとの三角錐状の振動伝達子20の先端間の距離が、18mm程度になっている。
【0030】
ここで、上述した符号Lで示される距離は、2つの加振センサ14A、14Bによる加振点間の距離Lに相当するものであって、その大きさは、その理由については後述するが、タイルTを建築物などに貼り付けるための貼付剤に形成されるコテのくし目の大きさに対応していることが望ましい。すなわち、ここでのコテとはくし目コテであり、このくし目コテによって貼付剤が建築物などに塗布されると、貼付剤にくし目コテにより凹凸からなるくし目が形成される。そして、そのくし目の凹凸間の距離やくし目の角度などを考慮して、以下のようになるように、2つの加振センサ14A、14Bによる加振点間の距離Lを設定するものである。すなわち、タイルTに対してタイル剥離検知器12をセッティングする際に、2つの加振センサ14A、14Bのうちの少なくとも一方の加振点が、タイルTの平面視で、タイルTの裏面に位置する貼付剤のくし目の凸部分に配置されるように、距離Lを設定する。なお、ここでの貼付剤とは、タイルTの貼り付けに利用される様々な種類のものであってよく、例えば各種の有機系接着剤であってよい。
【0031】
続いて、
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断システム10について説明する。図示のように、タイル剥離診断システム10は、上述したタイル剥離検知器12に加えて、振動入力部40及び解析部50を含んでいる。振動入力部40は、上述したように振動を発生させるための加振用電気信号を加振センサ14へ印加するためのものであって、本実施形態では、信号発生器42及びパワーアンプ44を含んでいる。信号発生器42は、加振用電気信号を発生するものであり、本実施形態では、例えば正弦半波(ハーフサイン波)の単発のパルス波を繰り返し発生し、その正弦半波は、例えば周波数が14kHz程度である。パワーアンプ44は、信号発生器42により発生させた加振用電気信号を、加振センサ14による加振に必要な電圧まで増幅させるものである。そして、パワーアンプ44により増幅された加振用電気信号が、配線などを介して加振センサ14へと印加される。振動入力部40からの加振用電気信号の印加先は、2つの加振センサ14A、14Bの何れかへ切り替えられるようになっている。振動入力部40を構成する信号発生器42及びパワーアンプ44には、任意の信号発生装置及びパワーアンプを使用してよい。
【0032】
解析部50は、受振センサ16の各々から配線などを介して受ける受振電気信号を解析するためのものであって、本実施形態では、チャージアンプ52、AD変換器54、フィルタ部56、FFT解析部58、及び診断部60を含んでいる。チャージアンプ52は、受振センサ16から受ける受振電気信号を増幅させるものであって、解析に必要な電圧まで受振電気信号を増幅させる。チャージアンプ52には、多チャンネルの任意のチャージアンプを使用してよい。AD変換器54は、チャージアンプ52によって増幅された受振電気信号を、アナログ信号からデジタル信号へと変換するものであり、後述するFFT解析に必要なサンプリングレート及び分解能で変換を行う。例えば、信号発生器42で周波数14kHzの正弦半波を発生させていた場合は、40kHz程度でサンプリングを行い、分解能は16bit程度でよい。また、AD変換器54は、複数の受振センサ16からの受振電気信号がチャージアンプ52によって増幅された各々の信号をAD変換するため、上記のような性能を有する多チャンネルの任意のAD変換装置が使用される。
【0033】
フィルタ部56は、デジタル信号に変換された受振電気信号から、解析に不要な周波数成分を除去するためのものであり、例えば800Hz未満の生活振動などの低い周波数成分を除去するように、ハイパスフィルタ処理を行うものである。FFT解析部58は、チャージアンプ52からフィルタ部56までの間に前処理された受振電気信号を、FFT解析するものである。FFT解析では、デジタル化された受振電気信号を高速フーリエ変換により周波数成分に分解し、各周波数成分における電圧の振幅値を抽出する。フィルタ部56及びFFT解析部58は、例えばハイパスフィルタ処理やFFT解析を行うソフトウェアがインストールされた、任意のコンピュータで構成される。
【0034】
診断部60は、FFT解析部58による解析結果を利用して、検査対象のタイルTの剥離を診断するものである。詳しくは後述するが、診断部60は、周波数成分に分解された受振電気信号の最大振幅値の特定、その最大振幅値の得点化、複数の受振センサ16についての得点の合計、合計得点を用いた判定などを経て、タイルTが剥離しているか否かを診断する。このような診断部60は、例えば任意のソフトウェアがインストールされた任意のコンピュータで構成される。
【0035】
ここで、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断システム10やタイル剥離検知器12の構成は、
図1及び
図2の構成に限定されるものではなく、診断対象のタイルTや状況などに応じて、
図1及び
図2に示した構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された構成であってもよい。例えば、加振センサ14及び受振センサ16は、その数量や位置関係がタイルTの大きさなどに応じて変更されてもよく、そのような例として、加振センサ14を1つのみ或いは3つ以上備えていてもよい。また、タイル剥離診断システム10は、解析部50による解析結果などを表示するための表示装置を備えていてもよく、信号発生器42が正弦半波以外の単発のパルス波を繰り返し発生するものであってもよい。更に、信号発生器42が発生する加振用電気信号は、単発のパルス波の繰り返しに限らず、単発のパルス波のみ、単発のランダム波のみ、或いは単発のランダム波の繰り返しであってもよい。
【0036】
次に、
図3に示すフロー図を参照しながら、上述したタイル剥離診断システム10を利用する、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法の具体的な手順について説明する。タイル剥離診断システム10やタイル剥離検知器12の構成については、適宜、
図1及び
図2を参照のこと。なお、
図3に示すフロー図は、具体的な手順を説明するための一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法の手順は、
図3のフロー図に限定されるものではなく、例えばタイル剥離診断システム10の構成や検査対象のタイルTなどに応じて、
図3に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0037】
また、タイルTの剥離の診断を行う際には、タイル剥離検知器12を診断対象のタイルTへと押し付け、全ての加振センサ14及び全ての受振センサ16の振動伝達子20をタイルTへ当接させているものとする。なお、
図6(b)には、タイルTに対してタイル剥離検知器12を押し付けた際の、2つの加振センサ14A、14B及び6つの受振センサ16A~16Fの各振動伝達子20の配置例を、タイルTの平面視、すなわち
図2に示されたタイル剥離検知器12をベース部30の裏面から視た状態で示している。
【0038】
S10(加振用電気信号印加):振動入力部40により、信号発生器42で発生させてパワーアンプ44において増幅させた加振用電気信号を、加振センサ14A、14Bの何れかへ印加する。上述したように、本実施形態では、信号発生器42において、周波数が14kHzの正弦半波の単発のパルス波を繰り返し発生させる。なお、
図3のフロー図では、S10から後述するS130までのステップが、2つの加振センサ14A、14Bのうちの何れか一方の加振センサ14のものとなっており、ここではそれを加振センサ14として説明する。
S20(タイルへ加振):上記S10で印加された加振用電気信号を受けて、タイル剥離検知器12の加振センサ14が、圧電振動板を介して振動を発生するため、それをタイルTへと加振する。例えば、
図6(b)の例においては、加振センサ14A、14Bの振動伝達子20を示す円形の仮想線の中心位置が、加振センサ14A、14Bによる加振点になる。
【0039】
S30(タイルから受振):加振センサ14により加振されてタイルT内を伝搬した振動を、6つの受振センサ16A~16Fにより受ける。例えば、
図6(b)の例においては、受振センサ16A~16Fの振動伝達子20を示す円形の仮想線の中心位置が、受振センサ16A~16Fによる受振点になる。なお、
図3のフロー図では、S30から後述するS80までのステップが、6つの受振センサ16A~16Fのうちの何れか1つの受振センサ16のものとなっており、ここではそれを受振センサ16として説明する。タイルTから振動を受けた受振センサ16は、圧電振動板を介して振動を受振電気信号へと変換する。
S40(受振電気信号取得):解析部50により、受振センサ16から受振電気信号を取得する。
【0040】
S50(受振電気信号前処理):解析部50により、受振電気信号を解析するための前処理を行う。すなわち、チャージアンプ52により受振電気信号を増幅させ、それをAD変換器54によりデジタル信号へと変換し、デジタル化された受振電気信号からフィルタ部56により、例えば800Hz未満の不要な周波数成分を除去する。
S60(周波数毎の振幅値抽出):解析部50のFFT解析部58により、デジタル化されてフィルタ処理された受振電気信号を周波数成分に分解し、各周波数成分における電圧の振幅値を抽出する。
【0041】
S70(最大振幅値特定):解析部50の診断部60により、上記S60においてFFT解析部58により抽出された各周波数成分における電圧の振幅値の中から、電圧値が最も大きい最大振幅値を特定する。
S80(最大振幅値得点化):診断部60により、上記S70において特定した最大振幅値を、例えば
図4に示すような表を用いて得点化する。すなわち、
図4に示される表は、ピーク電圧値(電圧の最大振幅値)と得点との対応表であり、例えばピーク電圧値が「0.110V」の場合は得点が「0.75」となり、ピーク電圧値が「0.040V」の場合は得点が「0」となる。
図4の対応表の求め方については後述する。
【0042】
S90(未評価受振センサ判定):診断部60により、6つの受振センサ16A~16Fのうち、まだ評価を行っていない未評価の受振センサ16が残っているか否かを判定する。その結果、未評価の受振センサ16が残っていると判定した場合(YES)は上記S30へ復帰し、未評価の受振センサ16が残っていないと判定した場合(NO)はS100へ移行する。すなわち、6つの受振センサ16A~16Fの各々について上記S30~S80の手順を行い、その後にS100へ移行する。
S100(全受振センサの得点合計):診断部60により、上記S80において6つの受振センサ16A~16Fの各々について算出した得点を合計し、6つの受振センサ16A~16Fの全ての得点を合計した合計得点を算出する。
【0043】
S110(合計得点判定):診断部60により、上記S100において算出した合計得点が、所定の得点以下であるか否かを判定する。本実施形態では、これに限定されるものではないが、有機系接着剤張りの場合、タイルTの貼り付いている面積率が50%以上か否かを合格ラインとする。そのために、例えば後述するように試験により求められる、
図5に示すような対応表を参照して、接着剤塗布面積率が50%以上であることを示す、合計得点が3点以下か否かを判定する。その結果、合計得点が3点以下と判定した場合(YES)はS120へ移行し、合計得点が3点より大きいと判定した場合(NO)はS130へ移行する。なお、
図5における接着剤塗布面積率は、後述するように試験時に接着剤を塗布した範囲であって、タイルTが貼り付いている面積率と見なすことができる。
【0044】
ここで、
図4及び
図5の対応表の求め方について言及すると、
図4のような対応表は、最大振幅値とタイルTの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を示し、予め行う試験などによって
図5の対応表と共に求められる。このような試験では、建築物などに対するタイルTの貼り付き面積や剥離面積が既知で、それらの面積及び貼り付き位置や剥離位置が互いに異なる、複数のタイルTを利用する。例えば
図7には、タイルTの貼付剤として接着剤を用い、接着剤の塗布面積率及び塗布位置を互いに異ならせた複数のタイルTのパターンを、接着剤の塗布範囲を着色して例示している。
【0045】
すなわち、
図7の上下2段に示されたタイルTは、上段がタイルTの平面視での中央の範囲に接着剤が塗布されたもので、下段がタイルTの平面視での左側の範囲に接着剤が塗布されたものであり、接着剤の塗布面積率が
図7の左右方向で異なっている。このような複数パターンのタイルTを建築物などに見立てた壁などに貼り付け、それらのタイルTを使用して、上記S10~S70に示した手順に準じた試験を行う。このため、ここでの接着剤の塗布面積率及び塗布位置は、タイルTが貼り付いている面積率及び位置と見なすことができる。なお、
図6に示されたタイルTは、
図7の下段の左から2番目に示されたタイルTと同等のものであり、タイルTの平面視で左側40%の範囲に接着剤が塗布されたものである。
【0046】
図8(a)には、
図7の上段及び下段の一番右側のタイルTに相当する、100%の面積率で接着剤が塗布されたタイルTを対象として試験を行った際に得られた、ピーク電圧値(電圧の最大振幅値)を示している。
図8(a)において、「接着剤A」及び「接着剤B」は、種類が異なる2つの接着剤を使用したことを示している。また、「14A」及び「14B」は、2つの加振センサ14A、14Bのうちの加振を行ったセンサの符号を示しており、ここではそれらの加振点を加振点14A、14Bとも言う。更に、「16A」~「16F」は、6つの受振センサ16A~16Fのうちの、表内に示されるピーク電圧値を特定した各センサの符号を示しており、ここではそれらの受振点を受振点16A~16Fとも言う。図示のように、剥離が全く発生していないと見立てられるタイルTでの試験結果は、接着剤の種類や加振点などに関わらず、ピーク電圧値が何れも0.050V以下になっている。このため、図示の実施形態において、加振点と受振点との間で剥離が発生していない場合は、上記S70のように特定される最大振幅値が、0.050V以下になると考えることができる。
【0047】
一方、
図8(b)には、
図6に示されたタイルTや
図7の下段の左から2番目のタイルTに相当する、タイルTの平面視で左側40%の範囲に接着剤が塗布されたタイルTを対象として試験を行った際に得られた、ピーク電圧値(電圧の最大振幅値)を示している。
図8(b)において、「1枚目」及び「2枚目」は、接着剤の塗布範囲が同じ2枚のタイルTを使用したことを示し、「14A」、「14B」、「16A」~「16F」は、
図8(a)のものと同様であり、試験時のタイルTに対するそれらの配置が、
図6(b)に仮想線で示されている。
【0048】
図示のように、40%の面積率で貼り付いている(60%の面積率で剥離している)と見立てられるタイルTでの試験結果は、1枚目のタイルTに対して加振点14Aで加振した場合は、受振点16B、16D、16Fでのピーク電圧値が0.072V~0.025Vと比較的低くなっている。これは、
図6(b)で確認できるように、受振点16B、16D、16Fの位置が、接着剤の塗布範囲になっているためだと考えられる。また、1枚目のタイルTに対して加振点14Aで加振した場合の、受振点16A、16C、16Eでのピーク電圧値は、0.185V~0.148Vと比較的高くなっており、これは、それらの受振点の位置が接着剤の塗布範囲ではないためだと考えられる。
【0049】
これに対し、1枚目のタイルTに対して加振点14Bで加振した場合は、受振点16A~16Fの何れにおいても、ピーク電圧値が0.062V~0.027Vと比較的低くなっている。このような加振点による差分には、幾つかの要因が考えられるが、その1つとして加振点が接着剤の塗布範囲に位置しているか否かが挙げられる。そして、建築物などに利用されている実際のタイルTは、経年劣化による剥離とは別に、建築物などへの貼り付け時に貼付剤の空洞箇所が形成される場合がある。すなわち、その空洞箇所は、タイルTの貼り付け時にくし目コテによって貼付剤に形成される、凹凸からなるくし目のうちの凹部分に形成される場合がある。このため、上述したように、2つの加振点14A、14Bの少なくとも一方が、貼付剤のくし目の凸部分に配置されるように、くし目の大きさを考慮して、
図2に示される2つの加振点14A、14B間の距離Lを設定することが望ましい。
【0050】
また、
図8(b)において、2枚目のタイルTについての試験結果を確認すると、一部を除いて、概ね1枚目の試験結果と同様の傾向にあることが確認できる。そして、例えば
図7に示したような複数パターンのタイルTに対して上記のような試験を行い、その結果から、受振センサ16での最大振幅値とタイルTとの相関関係として、最大振幅値とタイルTの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を導出する。このような関係を具体的に示したものが、各受振センサ16におけるピーク電圧値と得点との関係を示す
図4の対応表、及び6つの受振センサ16についての合計得点と接着剤塗布面積率との関係を示す
図5の対応表である。
【0051】
S120(健全傾向判定):上記S110において合計得点が所定の得点(3点)以下であると判定したため、診断部60により、診断対象のタイルTは、上記S20において言及した加振センサ14から加振した場合について、健全傾向にあると判定する。
S130(剥離傾向判定):上記S110において合計得点が所定の得点(3点)よりも大きいと判定したため、診断部60により、診断対象のタイルTは、上記S20において言及した加振センサ14から加振した場合について、剥離傾向にあると判定する。
【0052】
S140(未加振センサ判定):診断部60により、全ての加振センサ14、すなわち本実施形態では2つの加振センサ14A、14Bの中で、未だ加振をしていない加振センサ14が残っているか否かを判定する。その結果、未加振の加振センサ14が残っていると判定した場合(YES)はS150へ移行し、未加振の加振センサ14が残っていないと判定した場合(NO)はS160へ移行する。
S150(加振センサ切り替え):上記S10で加振用電気信号を印加する印加先の加振センサ14と、上記S20で加振を行う加振センサ14とを、2つの加振センサ14A、14Bのうち、未だ加振をしていない加振センサ14へと切り替える。そして、切り替え後に上記S10へ移行することで、未だ加振をしていなかった加振センサ14からの加振について、上記S10~S130を再度実行する。
【0053】
S160(全加振センサの統合判定):診断部60により、全ての加振センサ14について行った判定の中で、上記S130において診断対象のタイルTが剥離傾向であると判定した結果があるか否かを判定する。すなわち、本実施形態では、加振センサ14Aからの加振について行った上記S10~S140の手順と、加振センサ14Bからの加振について行った上記S10~S140の手順との、少なくとも一方において、剥離傾向と判定する上記S130を経由したか否かを判定する。その結果、2つの加振センサ14A、14Bについての判定結果に、上記S130を経由して剥離傾向と判定した結果が含まれている場合(YES)はS180へ移行し、剥離傾向と判定した結果が含まれていない場合(NO)はS170へ移行する。
【0054】
S170(健全タイルと最終判定):上記S160において全ての加振センサ14についての判定結果に診断対象のタイルTが剥離傾向であるという判定結果が含まれていないと判定したため、診断部60により、診断対象のタイルTは健全なタイルであると最終判定を行う。これにより、診断対象のタイルTが健全であるという診断結果となり、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法が終了となる。
S180(剥離タイルと最終判定):上記S160において全ての加振センサ14についての判定結果に診断対象のタイルTが剥離傾向であるという判定結果が含まれていると判定したため、診断部60により、診断対象のタイルTは剥離したタイルであると最終判定を行う。これにより、診断対象のタイルTが剥離しているという診断結果となり、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法が終了となる。
【0055】
ここで、
図8に示したようなピーク電圧値は一例であって、タイル剥離診断システム10の構成、タイル剥離検知器12の構成、タイルTの種類、貼付剤の種類などに応じて変わるものである。このため、
図8のようなピーク電圧値を求める試験は、剥離診断に実際に使用するタイル剥離診断システム10及びタイル剥離検知器12を用いて、診断対象のタイルTと同種類のタイル及び同種類の貼付剤を使用して行うことが好ましい。そして、そのような試験から得られたピーク電圧値を利用して、
図4及び
図5に示した対応表などを導出すればよい。また、
図4及び
図5の対応表に示された得点や、
図4の対応表に示されたピーク電圧値の範囲も一例であって、それらが
図4及び
図5と異なっていてもよい。更に、
図4の対応表では、ピーク電圧値が大きいほど、換言すれば剥離の可能性が高いと考えられるほど、得点が大きくなるようになっているが、その得点の大小関係を
図4とは反対に設定してもよく、その場合は
図5の対応表の合計得点の大小関係も反対となる。
【0056】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、例えば
図1及び
図2に示されるようなタイル剥離診断システム10及びタイル剥離検知器12を利用して、建築物などに貼り付けられているタイルTの剥離を診断するものである。タイル剥離診断システム10は、タイル剥離検知器12に加えて、振動入力部40及び解析部50を有している。タイル剥離検知器12は、少なくとも1つの加振センサ14、複数の受振センサ16、及びベース部30を含み、少なくとも1つの加振センサ14と複数の受振センサ16とが互いに間隔を空けてベース部30に固定されている。
【0057】
このようなタイル剥離検知器12を、ベース部30がタイルTと略平行になるように配置し、少なくとも1つの加振センサ14と複数の受振センサ16とがタイルTに接触するように、タイルTに押し当てて使用する。そして、この状態で、少なくとも1つの加振センサ14によりタイルTへ振動を加えると共に(
図3のS20参照)、タイルTへ加えられた振動を、複数の受振センサ16によりタイルTを介して受ける(
図3のS30参照)。このとき、加振センサ14により加える振動は、加振用電気信号から発生させたものであり(
図3のS10参照)、加振センサ14は、印加される加振用電気信号から振動を発生する機能を有している。加振センサ14に印加する加振用電気信号は、単発のパルス波からなるもの、単発のランダム波からなるもの、単発のパルス波の繰り返しからなるもの、或いは単発のランダム波の繰り返しからなるものである。また、受振センサ16の各々は、タイルTから受けた振動を受振電気信号へと変換する機能を有している。
【0058】
続いて、加振センサ14により加えられてタイルT内を伝搬し、受振センサ16により受けられた振動から変換された受振電気信号を、複数の受振センサ16の各々から取得して(
図3のS40参照)、その受振電気信号から周波数成分毎の電圧の振幅値を算出する。すなわち、各受振センサ16からの計測結果である受振電気信号に対して、計算に必要な前処理を行った後(
図3のS50参照)、例えばFFT解析などを行うことで、各受振電気信号について周波数成分毎の電圧の振幅値を抽出する(
図3のS60参照)。次いで、周波数成分毎に抽出された電圧の振幅値の中から、最も電圧値が大きい最大振幅値を特定し(
図3のS70参照)、これを各受振センサ16の受振電気信号について実行する。そして、予め把握する上記のような最大振幅値とタイルTの剥離との相関関係、及び複数の受振センサ16の各々の上記のような最大振幅値に基づいて、タイルTの剥離を診断する(
図3のS80~S180参照)。
【0059】
ここで、加振センサ14からタイルTへ加えられた振動は、タイルTがその貼り付け先から剥離せずに貼り付いている箇所においては、タイルTから貼り付け先へと伝搬するため、受振センサ16により受けられる振動エネルギーが大幅に減少する。これに対し、タイルTが貼り付け先から剥離している箇所において、加振センサ14からタイルTへ加えられた振動は、貼り付け先へはほとんど伝搬せずにタイルT内を伝搬するため、受振センサ16により損失が少ない状態で受けられる。そして、受振センサ16により振動から変換される受振電気信号には、振動エネルギーの大きさが反映されるため、上記のように受振電気信号から得られた最大振幅値は、タイルTの剥離診断の指標となり得るものとなる。
【0060】
そこで、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、受振電気信号から得られる最大振幅値(例えば
図8参照)とタイルTの剥離との相関関係を試験などによって予め把握しておき、その相関関係に診断対象のタイルTについて得られた最大振幅値を適用することで、タイルTの剥離を診断することができる。これにより、受振センサ16から得られる受振電気信号に基づいて、タイルTの剥離の診断を瞬時に行うことができるため、タイルTの剥離の検査時間を短縮することが可能となる。更に、使用するタイル剥離検知器12が少なくとも1つの加振センサ14と複数の受振センサ16とを有しているため、タイルTの、加振センサ14が接触する部分と受振センサ16の各々が接触する部分との間を、同時に検査することができ、これによってもタイルTの剥離の検査時間を短縮することができる。しかも、加振センサ14へ印加する加振用電気信号は、単発のパルス波或いはランダム波、若しくはそれらが繰り返されてなるものであるため、スウィープ波の電気信号を印加する場合と異なり、継続時間を長くする必要がなく、また、単発のパルス波やランダム波による振動を利用すればよいため、検査時間をより一層短縮することが可能となる。
【0061】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、タイルTの剥離の診断に用いる、受振電気信号から得られる最大振幅値とタイルTの剥離との相関関係として、例えば
図4に示すような、最大振幅値とタイルTの剥離の可能性を示す指標としての得点との関係を用いるものである。このため、例えば、貼り付き面積(或いは剥離面積)が既知で且つ互いに異なる、複数のタイルT(
図7参照)を用いた試験などによって、受振電気信号から得られる最大振幅値とタイルTの貼り付き面積との相関関係を求める。更に、タイルTが剥離していると診断すべきタイルTの貼り付き面積の大きさなどに応じて、例えば最大振幅値の特定の大きさの範囲毎に得点を定め、それを最大振幅値と得点との関係に用いる。そして、タイルTの剥離の診断時には、上記のような最大振幅値と得点との関係に、診断対象のタイルTについて得られた各受振センサ16からの最大振幅値を適用することで、その最大振幅値を得点化し(
図3のS80参照)、その得点に基づいてタイルTの剥離を診断するものである。これにより、診断に用いるパラメータを単純化することができるため、簡便なロジックでタイルTの剥離の診断方法を実現することが可能となる。
【0062】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、最大振幅値と得点との関係に、診断対象のタイルTに係る各受振センサ16からの最大振幅値を適用することで得られた、全ての受振センサ16についての得点を合計し(
図3のS100参照)、その合計得点に基づいてタイルTの剥離を診断するものである。すなわち、例えば
図5に示されるような、全ての受振センサ16についての得点の合計と、タイルTの貼り付き面積(或いは剥離面積)との関係を、試験などによって求め、この関係に診断対象のタイルTについての合計得点を適用することで、タイルTの剥離を診断する。これにより、複数の受振センサ16から得られる全ての得点を利用して、タイルTの剥離を診断することができるため、タイルTの様々な位置での貼り付き或いは剥離の影響が反映された振動エネルギーの伝搬状況を加味して、より適切な診断を行うことが可能となる。
【0063】
更に、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、
図1及び
図2に示されるような2つの加振センサ14A、14Bと複数の受振センサ16(6つの受振センサ16A~16F)とを備えたタイル剥離検知器12を利用して、タイルTの剥離を診断するものである。すなわち、加振センサ14からタイルTへ加振し、その振動を複数の受振センサ16の各々で受けて受振電気信号へと変換し、その各受振電気信号から抽出される、とある周波数成分における電圧の最大振幅値に基づいて、タイルTの剥離を診断するまでの一連の手順(
図3のS10~S130参照)を、2つの加振センサ14A、14Bの各々について実行する。
【0064】
そして、一方の加振センサ14AについてのタイルTの剥離の診断結果と、他方の加振センサ14BについてのタイルTの剥離の診断結果との双方を利用して、タイルTの剥離の最終判定を行うものである(
図3のS160~S180参照)。これにより、タイルTの、一方の加振センサ14Aが接触する部分と複数の受振センサ16の各々が接触する部分との間、及び、他方の加振センサ14Bが接触する部分と複数の受振センサ16の各々が接触する部分との間の、振動エネルギーの伝搬状況を加味した診断を行うことができ、タイルTの剥離の診断精度を向上させることができる。
【0065】
また、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、
図2に示すようなタイル剥離検知器12の2つの加振センサ14A、14Bによる加振点間の距離Lを、タイルTを貼り付けるための有機系接着剤張りの貼付剤をコテにより建築物などに塗布する際に、貼付剤に形成されるコテのくし目の大きさに対応するように設定してもよい。すなわち、タイル剥離検知器12をタイルTに押し当てたときに、タイルTの平面視で、2つの加振センサ14A、14Bのうちの少なくとも一方の加振点が、タイルTの貼り付け時に貼付剤に形成されたコテのくし目の凹凸のうちの凸となる部分に位置するように、2つの加振センサ14A、14Bによる加振点間の距離Lを設定する。
【0066】
ここで、タイルTを建築物などに貼り付ける際に、建築物などに貼付剤を塗布してタイルTを貼り付けた後に行うたたき押えが不十分であると、塗布時に貼付剤に形成されたコテのくし目の凹凸のうちの凹となっていた部分に、貼付剤の空洞箇所が形成される虞がある。そして、そのような貼付剤の空洞箇所に対して加振を行った場合は、誤判定データが採取されることも考えられる。そこで、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、上述したような2つの加振センサ14A、14Bを有するタイル剥離検知器12を使用することで、少なくとも一方の加振センサ14を、貼付剤の空洞箇所にはならない位置で加振させることができる。これによって、少なくとも一方の加振センサ14からの加振により、タイルTの剥離診断を行うための適切なデータを取得することができるため、タイルTの裏に貼付剤の空洞箇所が形成されるような場合であっても、問題なくタイルTの剥離診断を行うことが可能となる。
【0067】
更に、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法は、タイルTへ振動を加えるための2つの加振センサ14A、14Bと、タイルTから振動を受けるための複数の受振センサ16(6つの受振センサ16A~16F)とが、以下のように配置されたタイル剥離検知器12を利用するものである。すなわち、
図2で確認できるように、2つの加振センサ14A、14Bが、ベース部30の平面視での中央近傍に固定されると共に、6つの受振センサ16A~16Fが、2つの加振センサ14A、14Bを囲むようにしてベース部30に固定されたものである。これにより、2つの加振センサ14A、14Bの各々からタイルTへ加えた振動を、そのタイルTの振動を加えた部分を囲うような位置で6つの受振センサ16A~16Fの各々によって受けることができる。従って、2つの加振センサ14A、14Bを囲う6つの受振センサ16A~16Fの配置位置により規定される領域全体を同時に検査することができるため、効率よくタイルTの剥離診断を行うことができ、更なる時間短縮を期待することができる。
【0068】
更に、
図6(b)で確認できるように、上述した6つの受振センサ16A~16Fにより規定される領域が、診断対象の1枚のタイルT全体を略覆うように、2つの加振センサ14A、14Bや6つの受振センサ16A~16Fの配置間隔を設定する。これにより、タイルTに対するタイル剥離検知器12の位置変えなどを行う必要なく、1枚のタイルTを一度で検査することができるため、より効率よく診断を行うことが可能となる。
他方、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断システム10は、上述したような本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法に用いられることで、本発明の実施の形態に係るタイル剥離診断方法に対応する同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0069】
10:タイル剥離診断システム、12:タイル剥離検知器、14(14A、14B):加振センサ、16(16A~16F):受振センサ、30:ベース部、40:振動入力部、50:解析部、T:タイル、L:加振点間の距離