(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041461
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】燃焼診断装置、燃焼診断システムおよび燃焼診断装置プログラム
(51)【国際特許分類】
F23N 5/08 20060101AFI20240319BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240319BHJP
F23N 5/00 20060101ALI20240319BHJP
F23N 5/26 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F23N5/08 G
G01N21/27 A
F23N5/00 H
F23N5/26 101E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146291
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和弘
【テーマコード(参考)】
2G059
3K003
3K005
3K068
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059EE06
2G059EE11
2G059FF01
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
3K003EA03
3K003EA07
3K003FA02
3K005QA04
3K005QC04
3K005QC06
3K068NA01
3K068PA03
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で火炎の燃焼状態を診断する。
【解決手段】可視光カメラ2によって撮像された火炎の画像に基づいて、前記火炎の燃焼状態を診断する燃焼診断装置3であって、前記画像の火炎部分から、1または複数の特定の波長帯の信号を抽出する信号抽出部33と、前記特定の波長帯の信号に基づいて前記燃焼状態を診断する燃焼診断部34と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光カメラによって撮像された火炎の画像に基づいて、前記火炎の燃焼状態を診断する燃焼診断装置であって、
前記画像の火炎部分から、1または複数の特定の波長帯の信号を抽出する信号抽出部と、
前記特定の波長帯の信号に基づいて前記燃焼状態を診断する燃焼診断部と、
を備える、燃焼診断装置。
【請求項2】
前記信号抽出部は、
G信号を抽出するG信号抽出部と、
B信号を抽出するB信号抽出部と、
を備え、
前記燃焼診断部は、
前記G信号および前記B信号に基づいて、前記燃焼状態として、前記火炎の燃料の当量比を診断する当量比診断部を備える、請求項1に記載の燃焼診断装置。
【請求項3】
前記当量比診断部は、
前記G信号および前記B信号から前記火炎中のCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度を演算し、前記強度に基づいて前記当量比を診断する、請求項2に記載の燃焼診断装置。
【請求項4】
前記信号抽出部は、
R信号を抽出するR信号抽出部を備え、
前記燃焼診断部は、
前記R信号に基づいて、前記火炎の燃焼温度を診断する燃焼温度診断部を備える、請求項1に記載の燃焼診断装置。
【請求項5】
前記信号抽出部は、
R信号を抽出するR信号抽出部を備え、
前記燃焼診断部は、
前記R信号および前記当量比に基づいて、前記火炎中のOHラジカル自発光の強度を演算する、請求項2に記載の燃焼診断装置。
【請求項6】
前記燃焼診断部は、
前記OHラジカル自発光の強度に基づいて、前記火炎の燃焼速度を診断する燃焼速度診断部を備える、請求項5に記載の燃焼診断装置。
【請求項7】
火炎の画像を撮像する可視光カメラと、
前記可視光カメラによって撮像された火炎の画像に基づいて、前記火炎の燃焼状態を診断する燃焼診断装置と、
を備える燃焼診断システムであって、
前記燃焼診断装置は、請求項1~6のいずれかに記載の燃焼診断装置である、燃焼診断システム。
【請求項8】
コンピュータを請求項1~6のいずれかに記載の燃焼診断装置として動作させる燃焼診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎の燃焼状態を診断する技術に関し、特に、可視光カメラによって撮像された火炎の画像に基づいて、火炎の燃焼状態を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や家庭用コンロなどの各種の燃焼機器が不完全燃焼を起こすと燃焼効率が低下する。また、不完全燃焼を起こすと一酸化炭素などの有害成分も排出されるため、燃焼機器の燃焼診断(モニタリング)は不可欠である。
【0003】
そこで、火炎から観察される特定の波長の発光(自発光または自然発光)の強度に基づいて、燃焼状態を診断する手法が提案されている。
図10は、火炎の発光スペクトル強度の一例を示すグラフである。一般的な火炎の自発光には、306nmにピークを有するOHラジカル自発光、430nmにピークを有するCHラジカル自発光、および516nmにピークを有するC2ラジカル自発光などがある。これらの自発光の強度を計測することで、火炎の燃焼状態を診断することができる。
【0004】
特許文献1には、分光器によって火炎の光を分光し、OHラジカル自発光の強度を計測することにより、火炎の状態検知を行うことが開示されている。また、特許文献2においても、分光測定装置によって火炎の光を分光し、CHラジカル自発光またはC2ラジカル自発光の強度を計測することにより、火炎の状態検知を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/045379号
【特許文献2】国際公開第2008/059976号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術は、分光器を必要とするため、可視光カメラなどの安価な撮像装置を用いることができない。
【0007】
これに対し、可視光カメラによってCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光を計測するために、可視光カメラのレンズに、430nmを含む帯域の光を通過させる特殊フィルタ、および516nmを含む帯域の光を通過させる特殊フィルタを取り付けて火炎を撮像することが考えられる。しかし、このような特殊フィルタは高価であり、また、レンズに取り付ける特殊フィルタを交換する必要があるため、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光を同時刻に計測することができない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、簡易な構成で火炎の燃焼状態を診断することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
可視光カメラによって撮像された火炎の画像に基づいて、前記火炎の燃焼状態を診断する燃焼診断装置であって、
前記画像の火炎部分から、1または複数の特定の波長帯の信号を抽出する信号抽出部と、
前記特定の波長帯の信号に基づいて前記燃焼状態を診断する燃焼診断部と、
を備える、燃焼診断装置。
項2.
前記信号抽出部は、
G信号を抽出するG信号抽出部と、
B信号を抽出するB信号抽出部と、
を備え、
前記燃焼診断部は、
前記G信号および前記B信号に基づいて、前記燃焼状態として、前記火炎の燃料の当量比を診断する当量比診断部を備える、項1に記載の燃焼診断装置。
項3.
前記当量比診断部は、
前記G信号および前記B信号から前記火炎中のCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度を演算し、前記強度に基づいて前記当量比を診断する、項2に記載の燃焼診断装置。
項4.
前記信号抽出部は、
R信号を抽出するR信号抽出部を備え、
前記燃焼診断部は、
前記R信号に基づいて、前記火炎の燃焼温度を診断する燃焼温度診断部を備える、項1に記載の燃焼診断装置。
項5.
前記信号抽出部は、
R信号を抽出するR信号抽出部を備え、
前記燃焼診断部は、
前記R信号および前記当量比に基づいて、前記火炎中のOHラジカル自発光の強度を演算する、項2に記載の燃焼診断装置。
項6.
前記燃焼診断部は、
前記OHラジカル自発光の強度に基づいて、前記火炎の燃焼速度を診断する燃焼速度診断部を備える、項5に記載の燃焼診断装置。
項7.
火炎の画像を撮像する可視光カメラと、
前記可視光カメラによって撮像された火炎の画像に基づいて、前記火炎の燃焼状態を診断する燃焼診断装置と、
を備える燃焼診断システムであって、
前記燃焼診断装置は、項1~6のいずれかに記載の燃焼診断装置である、燃焼診断システム。
項8.
コンピュータを項1~6のいずれかに記載の燃焼診断装置として動作させる燃焼診断プログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構成で火炎の燃焼状態を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃焼診断システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】R画素、G画素およびB画素の波長に対する光電変換特性の一例を示すグラフである。
【
図3】(a)は、プランクの放射の法則による黒体放射のスペクトルを示すグラフであり、(b)は、黒体放射のスペクトルの一部を拡大したグラフである。
【
図4】放射エネルギーの積分値(Int-E)と温度との関係を示すグラフである。
【
図5】(a)は、C2ラジカル自発光の強度とG信号の強度との関係を示すグラフであり、(b)は、C2ラジカル自発光の強度の0.274倍とCHラジカル自発光の強度の和と、B信号の強度との関係を示すグラフである。
【
図6】水素の混合率(α)の異なる燃料について、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の比の、G信号およびB信号に基づく予測値(横軸)と実測値(縦軸)との関係を示すグラフである。
【
図7】R信号の強度と、火炎の放射エネルギーの積分の実測値との関係を示すグラフである。
【
図8】(a)は、当量比(横軸)とR信号の強度(縦軸)との関係を示すグラフであり、(b)は、当量比(横軸)とOHラジカル自発光の強度(縦軸)との関係を示すグラフである。
【
図9】(a)は、R信号の強度(横軸)とOHラジカル自発光の強度(縦軸)との関係を示すグラフであり、(b)は、
図9(a)に示すグラフにおいて、各燃料を当量比1未満の混合気(リーン群)と、当量比1以上の混合気(リッチ群)とに分類したグラフである。
【
図10】火炎の発光スペクトル強度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0013】
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る燃焼診断システム1の構成を示すブロック図である。燃焼診断システム1は、可視光カメラ2と、燃焼診断装置3とを備えている。
【0014】
可視光カメラ2は、主に可視光を撮像することを目的に製造されたカメラである。そのため、可視光カメラ2には、赤外線カメラや紫外線カメラのような、可視光以外の光を撮像することを目的とするカメラは含まれないが、可視光カメラ2は、可視光よりも僅かに波長の長い赤外光成分や、可視光よりも僅かに波長の短い紫外光成分を検知する機能を有していてもよい。可視光カメラ2としては、例えば、市販のデジタルカメラや、スマートフォンに搭載されるカメラが挙げられ、動画像を撮影可能なビデオカメラであってもよい。
【0015】
(可視光カメラ)
本実施形態では、可視光カメラ2は、受光部にR画素、G画素およびB画素を備えており、入射した光を、R信号、G信号およびB信号に変換して画像を生成する。画像は、静止画像および動画像のいずれであってもよい。
図2は、R画素、G画素およびB画素の波長に対する光電変換特性の一例を示すグラフである。光電変換特性は、可視光カメラ2の機種によって多少のバラツキがある。なお、可視光カメラ2は、RGB方式を採用しているが、CMYK方式、RYYB方式およびRGBY方式等の他の方式を採用してもよい。
【0016】
燃焼診断システム1では、診断対象とする燃料を燃焼させて火炎を形成し、火炎が可視光カメラ2のレンズに対向するように可視光カメラ2を設置する。燃料は特に限定されないが、本実施形態では、都市ガス、プロパンガスおよび水素ガス等である。撮影環境は、暗所であることが好ましいが、時間的に明るさが変化しない背景光が存在する環境であってもよい。
【0017】
(燃焼診断装置)
燃焼診断装置3は、可視光カメラ2によって撮像された火炎の画像に基づいて、火炎の燃焼状態を診断する装置である。燃焼診断装置3は、汎用のコンピュータで構成することができ、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ(図示省略)、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置30を備えている。補助記憶装置30には、燃焼診断プログラムP等の燃焼診断装置3を動作させるための各種プログラムが格納されている。
【0018】
燃焼診断装置3は、機能ブロックとして、画像取得部31と、背景光除去部32と、信号抽出部33と、燃焼診断部34とを備えている。これらの機能ブロックは、燃焼診断装置3のプロセッサによってソフトウェア的に実現することができる。この場合、補助記憶装置30に記憶されている燃焼診断プログラムPを、プロセッサが主記憶装置に読み出して実行することにより、前記各部を実現することができる。燃焼診断プログラムPは、インターネット等の通信ネットワークを介して燃焼診断装置3にダウンロードしてもよいし、燃焼診断プログラムPを記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して燃焼診断装置3にインストールしてもよい。
【0019】
画像取得部31は、可視光カメラ2から転送された火炎の画像のデータを取得する。可視光カメラ2からの画像は、有線または無線によって燃焼診断装置3に転送されてもよいし、記録媒体を介して燃焼診断装置3に転送されてもよい。
【0020】
背景光除去部32は、画像取得部31によって取得された火炎の画像から、背景光を除去する。補助記憶装置30には、あらかじめ火炎の存在しない環境で可視光カメラ2によって撮像された背景画像が保存されており、背景光除去部32は、火炎の画像の各ピクセルの輝度から、背景画像の各ピクセルの輝度を差し引くことにより、火炎のみの輝度を反映した画像を生成する。なお、暗所で火炎を撮像した場合は、背景光除去部32による処理を省略してもよい。
【0021】
信号抽出部33は、画像の火炎部分から、1または複数の特定の波長帯の信号を抽出する。本実施形態では、特定の波長帯の信号は、R信号、G信号およびB信号の3つの信号であり、信号抽出部33は、R信号を抽出するR信号抽出部331と、G信号を抽出するG信号抽出部332と、R信号を抽出するR信号抽出部333とを備えている。なお、信号抽出部33の機能は、XnConvert等の市販のソフトウェアを用いて実現することもできる。
【0022】
燃焼診断部34は、信号抽出部33によって抽出された特定の波長帯の信号(R信号、G信号およびB信号)に基づいて、火炎の燃焼状態を診断する。本実施形態では、燃焼診断部34は、火炎の燃焼温度を診断する燃焼温度診断部341と、火炎の燃焼速度を診断する燃焼速度診断部342と、火炎の燃料の当量比を診断する当量比診断部343とを備えている。
【0023】
(当量比の診断)
先に、当量比診断部343について説明する。当量比診断部343は、G信号およびB信号に基づいて、火炎の燃料の当量比(燃料と空気の混合比)を診断する。より具体的には、当量比診断部343は、G信号およびB信号から火炎中のCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度を演算し、その強度に基づいて当量比を診断する。CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度は、以下のようにして算出される。
【0024】
CHラジカル自発光は430nmにピークを有するため、主にB信号にCHラジカル自発光の輝度成分が記録されているが、可視光カメラ2の機種によっては、G信号にCHラジカル自発光の輝度成分が記録されている場合がある。同様に、C2ラジカル自発光は516nmにピークを有するため、主にG信号にC2ラジカル自発光の輝度成分が記録されているが、可視光カメラ2の機種によっては、B信号にC2ラジカル自発光の輝度成分が記録されている場合がある。
【0025】
そこで、G信号として記録されたCHラジカル自発光(430nm)とC2ラジカル自発光(516nm)の変換効率をそれぞれa(G430)、a(G516)とおくと、以下の式(1)が得られる。
【0026】
IG=a(G430)*ICH+a(G516)*IC2 ・・・(1)
【0027】
ここで、IGはG信号の強度であり、ICHはCHラジカル自発光による信号成分の強度であり、IC2はC2ラジカル自発光による信号成分の強度である。
【0028】
また、B信号として記録されたCHラジカル自発光(430nm)とC2ラジカル自発光(516nm)の変換効率をそれぞれa(B430)、a(B516)とおくと、以下の式(2)が得られる。
【0029】
IB=a(B430)*ICH+a(B516)*IC2 ・・・(2)
【0030】
ここで、IBはB信号の強度である。式(1)および式(2)を連立して解くと、以下の式(3)および式(4)が得られる。
【0031】
IC2=IG/{a(G516)-a(G430)[a(B516)/a(B430)]-IB/{a(B430)[a(G516)/a(G430)]-a(B516)} ・・・(3)
ICH=IG/{a(G430)-a(G516)[a(B430)/a(B516)]-IB/{a(B516)[a(G430)/a(G516)]-a(B430)} ・・・(4)
【0032】
式(3)の右辺にあるa(B516)/a(B430)の値は、可視光カメラ2で火炎を撮像する際に、波長430nmの光のみを透過するフィルタと波長516nmの光のみを透過するフィルタとを交互に取り付けて撮像し、波長430nmのB信号と516nmのB信号との比をとることで求めることができる。同様に、式(4)の右辺にあるa(G430)/a(G516)の値は、可視光カメラ2で火炎を撮像する際に、波長430nmの光のみを透過するフィルタと波長516nmの光のみを透過するフィルタとを交互に取り付けて撮像し、波長430nmのG信号と516nmのG信号との比をとることで求めることができる。したがって、2変数の最小二乗法である重回帰分析を行うことにより、以下の式(5)および式(6)の係数a1,b1,a2,b2を決定できる。
【0033】
IC2=a1*IG-b1*IB ・・・(5)
ICH=a2*IG-b2*IB ・・・(6)
【0034】
このようにして、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度を算出することができる。CHラジカル自発光の強度とC2ラジカル自発光の強度との比率は、燃料の当量比に応じて変化するため、当量比診断部343は、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度に基づいて当量比を予測することができる。
【0035】
(燃焼温度の診断)
燃焼温度診断部341は、R信号に基づいて火炎の燃焼温度を診断する。本発明者は、R信号に基づいて火炎の燃焼温度を予測できることを、以下のように見出した。
【0036】
図2に示すように、R信号は概ね560nm~690nmの放射強度を記録している。
図3(a)は、プランクの放射の法則による黒体放射のスペクトルを示すグラフであり、
図3(b)は、黒体放射のスペクトルの一部を拡大したグラフである。ここで、
図3(b)において、Fで示される560nm~690nmの帯域の各スペクトルの放射エネルギー(E)を積分すると、
図4に示すように、放射エネルギーの積分値(Int-E)と温度との関係が求められる。
【0037】
図4から、560nm~690nmの帯域における放射エネルギーの積分値は、温度の2次関数に近似できることが分かる。R信号の強度は、560nm~690nmの帯域における放射エネルギーの積分値に概ね比例するため、R信号と温度には高い相関があることが分かる。この相関に基づき、燃焼温度診断部341は、R信号に基づいて火炎の燃焼温度を予測することができる。
【0038】
(燃焼速度の診断)
燃焼速度診断部342は、R信号および当量比に基づいて、火炎中のOHラジカル自発光の強度を演算し、OHラジカル自発光の強度に基づいて、火炎の燃焼速度を診断する。OHラジカル自発光は紫外光(306nm)であるため、可視光カメラ2では検出できないが、本発明者は、後述する実施例3に示すように、R信号とOHラジカル自発光の強度との間に相関があることを見出した。この相関に基づき、R信号および当量比診断部343が予測した当量比に基づいて、火炎中のOHラジカル自発光の強度を演算することができる。さらに、OHラジカル自発光の強度は、火炎の燃焼速度と相関があるため、燃焼速度診断部342は、OHラジカル自発光の強度に基づいて、火炎の燃焼速度を予測することができる。
【0039】
(小括)
以上のように、本実施形態では、燃焼診断装置3が、可視光カメラ2によって撮像された火炎の画像に基づいて、火炎の燃焼状態(火炎の燃料の当量比、火炎の燃焼温度、火炎の燃焼速度)を診断することができる。すなわち、本実施形態では、分光器や、可視光以外の光を検知できるカメラを必要としないため、簡易な構成で火炎の燃焼状態を診断することができる。
【0040】
また、可視光カメラのレンズに特殊フィルタを取り付けてCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光を計測する構成では、レンズに取り付ける特殊フィルタを交換する必要があるため、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光を同時刻に計測することができない。これに対し、本実施形態では、1つの画像から抽出したG信号およびB信号から火炎中のCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度を演算しているため、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光を同時刻に計測することができる。
【0041】
(付記事項)
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
上記の実施形態では、火炎の燃焼状態として、燃料と空気からなる混合気の当量比、火炎の燃焼温度および火炎の燃焼速度を診断していたが、これらの一部のみを診断してもよい。例えば、混合気の当量比のみを診断対象とする場合、信号抽出部33は、特定の波長帯の信号としてG信号およびB信号のみを抽出してもよい。また、火炎の燃焼温度のみを診断対象とする場合、信号抽出部33は、特定の波長帯の信号としてR信号のみを抽出してもよい。
【0043】
上記の実施形態では、燃焼状態を診断するための指標として、CHラジカル自発光、C2ラジカル自発光およびOHラジカル自発光の各強度を用いたが、本発明はこれらに限定されず、例えば、CNラジカル自発光やCH3ラジカル自発光の強度を用いてもよい。
【実施例0044】
実施例1では、本発明によって燃料の当量比が高精度に診断できるかを検証した。具体的には、G信号およびB信号に基づいて、当量比の診断に用いられるCHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の比を演算し、これを実測値と比較することにより、診断精度を検証した。
【0045】
可視光カメラ2として、キャノン株式会社製のデジタル一眼レフカメラ(EOS 40D)を用いて火炎を撮像した。燃料には、メタンと水素を混合したガスを用いた。燃焼診断装置3として汎用のコンピュータを用い、G信号およびB信号に基づいて、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の比を演算した。
【0046】
本実施例で用いた可視光カメラ2の性能を検証した結果、G信号として記録された430nmの変換効率a(G430)が0である(式(4)のa(G430)/a(G516)の値が0である)こと、および、式(3)のa(B516)/a(B430)の値が0.274であることが確認された。そのため、式(5)および式(6)から、以下の式(7)および式(8)が得られた。
【0047】
IC2=IG/a(G516) ・・・(7)
ICH=IB/a(B430)-0.274*IC2 ・・・(8)
【0048】
図5(a)は、C2ラジカル自発光の強度とG信号の強度との関係を示すグラフである。グラフ中の直線は、式(7)から導き出されたものである。また、グラフ中にプロットされた印は、燃料の水素の混合率(α)を変えながら撮像した火炎における、C2ラジカル自発光の強度とG信号の強度との関係を示している。直線とプロットされた各印との位置関係から、水素の混合率に関わらず、C2ラジカル自発光の強度とG信号の強度との関係は概ね式(7)を満たすことが分かる。すなわち、C2ラジカル自発光の強度とG信号の強度との間には高い相関があることが確認された。
【0049】
図5(b)は、C2ラジカル自発光の強度の0.274倍とCHラジカル自発光の強度の和と、B信号の強度との関係を示すグラフである。グラフ中の直線は、式(8)から導き出されたものである。また、グラフ中にプロットされた印は、燃料の水素の混合率(α)を変えながら撮像した火炎における、C2ラジカル自発光の強度の0.274倍とCHラジカル自発光の強度の和と、B信号の強度との関係を示している。直線とプロットされた各印との位置関係から、水素の混合率に関わらず、C2ラジカル自発光の強度の0.274倍とCHラジカル自発光の強度の和と、B信号の強度との関係は概ね式(8)を満たすことが分かる。すなわち、C2ラジカル自発光の強度の0.274倍とCHラジカル自発光の強度の和と、B信号の強度との間には高い相関があることが確認された。
【0050】
図6は、水素の混合率(α)の異なる燃料について、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の比の、G信号およびB信号に基づく予測値(横軸)と実測値(縦軸)との関係を示すグラフである。CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の実測値は、紫外光まで計測可能な高感度ICCDカメラ(浜松ホトニクス株式会社製C9164)にCH自発光もしくはC2自発光のみが透過するフィルタを取り付けて火炎を撮影することにより計測した。プロットされた印が、実測値と予測値とが等しいことを示す直線付近に位置することから、G信号およびB信号によって、CHラジカル自発光およびC2ラジカル自発光の各強度の比を高精度に予測できることが分かった。
【0051】
これにより、本発明によって、燃料の当量比を高精度に診断できることが分かった。
実施例2では、本発明によって火炎の燃焼温度を高精度に診断できるかを検証した。具体的には、燃焼温度の診断に用いられる放射エネルギーの積分値を、R信号に基づいて演算し、これを実測値と比較することにより、診断精度を検証した。