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  • 特開-ドリル 図1
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  • 特開-ドリル 図3
  • 特開-ドリル 図4
  • 特開-ドリル 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041479
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
B23B51/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146316
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 涼
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037BB13
(57)【要約】
【課題】ドリルの剛性を下げることなく、切りくず排出性を向上し、低剛性の加工装置においても安定した穴加工のできるドリルを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明のドリル10は、中心軸O1から外方へ延びる二以上の切れ刃1,1、これらの切れ刃1,1に連なる逃げ面3,3と、を有して、逃げ面3,3の後方側に複数のギャッシュによるシンニング加工を施して、このギャッシュは中心軸O1側に設けた第1ギャッシュ7,7および第1ギャッシュ7,7よりも外方側に設けた第2ギャッシュ8,8から形成する。中心軸O1と外周コーナ2,2を結ぶ直線L1をドリル10の反回転方向側へ45度傾けた直線を基準にした場合、第1ギャッシュ7,7のR加工部の先端を通過する直線と平行になる2本の直線L3、L4の間隔w1がドリルの直径D0の0.020~0.025%の範囲とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、中心軸から外方へ延びる二以上の切れ刃と、前記切れ刃に連なる逃げ面と、を有するドリルにおいて、前記逃げ面の後方側には複数のギャッシュによるシンニング加工を施されており、前記ギャッシュは、前記中心軸側に設けられた第1ギャッシュと、前記第1ギャッシュよりも外方側に設けられた第2ギャッシュと、から形成されていて、前記中心軸と外周コーナを結ぶ直線L1を前記ドリルの反回転方向側へ45度傾けた直線を基準にした場合に、前記第1ギャッシュのR加工部の先端を通過して前記直線と平行になる2本の直線L3、L4の間隔w1が前記ドリルの直径の0.020~0.025%の範囲であることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記第1ギャッシュおよび第2ギャッシュは、所定の曲率半径を伴うR加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記第1ギャッシュの所定の曲率半径は前記ドリルの直径の0.05~0.10%の範囲であり、前記第2ギャッシュの所定の曲率半径は前記ドリルの直径の0.25~0.35%の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ加工時の求心性を高めると同時に切削抵抗を低減したドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ドリルを用いた穴加工において被削材への挿入時に発生する切削抵抗を低くして、安定した加工ができるようにドリルのチゼルエッジ周辺に所定の曲率半径を有するギャッシュを伴うシンニング加工が施されている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、従来のドリル100の中心軸O11付近の拡大図を図5に示す。従来のドリル100は、中心軸O11から外方へ延びるチゼルエッジ16とこのチゼルエッジ16に連なるギャッシュ17,17が形成されている場合、中心軸O11を通り互いに直行する2本の直線L13,L14の中間の直線(直線L13をドリル100の反回転方向側へ45度傾けた直線)を基準にした場合に、2つのギャッシュ17,17の先端部分を通過して互いに平行になる2本の直線L13、L14の間隔w11(シンニングの芯ずれ量)が意図的に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6588625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シンニングの芯ずれ量が小さい場合には、チゼルエッジ周辺の面積が変化しないので穴加工時の切削抵抗は下がらない。一方、芯ずれ量が大きい場合には、切削抵抗を下げることはできるが、却ってドリル自体の剛性が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はドリルの剛性を下げることなく、切りくず排出性を向上し、低剛性の加工装置においても安定した穴加工のできるドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するために、本発明のドリルは、中心軸から外方へ延びる二以上の切れ刃、切れ刃に連なる逃げ面、を有しており、これらの逃げ面の後方側に複数のギャッシュによるシンニング加工を施して、これらのギャッシュは中心軸側に設けられた第1ギャッシュおよび当該第1ギャッシュよりも外方側に設けた第2ギャッシュから形成する。
【0008】
中心軸と外周コーナを結ぶ直線をドリルの反回転方向側へ45度傾けた直線を基準にして、第1ギャッシュのR加工部の先端を通過して直線と平行になる2本の直線L3、L4の間隔がドリルの直径の0.020~0.025%の範囲とする。第1ギャッシュおよび第2ギャッシュにおいて、所定の曲率半径を伴うR加工を施す場合には、第1ギャッシュの所定の曲率半径をドリルの直径の0.05~0.10%の範囲、第2ギャッシュの所定の曲率半径をドリルの直径の0.25~0.35%の範囲とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のドリルは剛性を下げることなく、切りくず排出性を向上し、低剛性の加工装置においても安定した穴加工のできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のドリル10の正面図である。
図2図1に示すドリル10の中心軸O1付近の拡大図である。
図3】実施例にて発明品を使用した試験結果である。
図4】実施例にて従来品を使用した試験結果である。
図5】従来のドリル100の中心軸O11付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のドリルの一実施形態について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態であるドリル10の正面図を図1、当該ドリル10の中心軸O1付近の拡大図を図2に示す。本発明のドリル10は、図1に示す様に少なくとも、中心軸O1から外方(外周コーナ2,2)側へ延びる切れ刃1,1、これらの切れ刃1,1に連なる逃げ面3,3およびすくい面4,4および溝(ねじれ溝)5,5を有している。これらの逃げ面3,3の後方側(ドリル10の回転方向Rの逆方向)には複数のギャッシュによるシンニング加工を施している。
【0012】
これらのギャッシュは、中心軸O1側に設けられてチゼルエッジ6に隣接している第1ギャッシュ7,7とこの第1ギャッシュ7,7よりも外方(外周コーナ2,2)側に設けられた第2ギャッシュ8,8から形成されている。当該ドリル10の先端視(図1)において、中心軸O1と外周コーナ2,2を結ぶ直線L1、当該直線L1をドリル10の反回転方向(回転方向Rとは逆向き方向)側へ90度傾けた直線を直線L2(直線L1と中心軸O1にて直行する線)とした場合に、直線L1をドリル10の反回転方向側へ45度傾けた図示しない直線を基準にした場合、この第1ギャッシュ7,7のR加工部の先端7a,7bを通過して当該直線と平行になる2本の直線L3、L4の間隔w1はドリル10の直径D0の0.020~0.025%の範囲とする。
【0013】
なお、これらの第1ギャッシュ7および第2ギャッシュ8は、所定の曲率半径を伴うR加工が施されている場合に、第1ギャッシュ7の曲率半径はドリル10の直径D0の0.05~0.10%の範囲、第2ギャッシュ8の曲率半径はドリル10の直径D0の0.25~0.35%の範囲であることが望ましい。
【実施例0014】
本発明の実施形態のドリル(以下、発明品という)および従来のドリル(以下、従来品という)を用いて、FEM解析ソフト(THIRD WAVE SYSTEMS社製AdvantEdge)による切削加工比較試験(以下、本試験という)を行い、加工時に発生するスラスト最大値とスラスト振幅を予測したので、その結果について図面を用いて説明する。本試験における発明品の試験結果を図3、従来品の試験結果を図4にそれぞれ示す。
【0015】
本試験に使用したドリル、被削材およびその加工条件などを下記のとおりとした。
・ドリル径:6mm
・ドリルのシンニングずれ量:発明品w1=0.136mm、従来品w11=0.068mm
・被削材:炭素鋼(S50C)
・送り速度:1275mm/min
・切削速度:80m/min
・送り量:0.3mm/rev
【0016】
発明品を用いた場合の加工試験は、図3に示す様にスラスト最大値は1300N、スラスト振幅は800Nであった。これに対して、従来品を使用した場合は、図4に示す様に加工試験のスラスト最大値は1900N、スラスト振幅は1500Nであった。以上の結果から、発明品は従来品に比べてスラスト最大値を約30%、スラスト振幅を約半減させることができた。これは、発明品が従来品に比べてシンニングによる芯ずれ量(図2に示すw1)が大きく、チゼルエッジ周辺の面積を小さくしたので、加工時に発生する応力が負荷される面積を狭めることでスラスト最大値およびスラスト振幅を低減できたと考える。
【符号の説明】
【0017】
1 切れ刃
2 外周コーナ
3 逃げ面
4 すくい面
5 溝(ねじれ溝)
6 チゼルエッジ
7 第1ギャッシュ
7a,7b 第1ギャッシュのR加工部の先端
8 第2ギャッシュ
10 ドリル
L1,L11 第1基準線
L2,L12 第2基準線
D0 ドリルの直径(ドリル径)
O1,O11 中心軸
w1,w11 2本の基準線同士の間隔

図1
図2
図3
図4
図5