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特開2024-41544超電導線とその製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041544
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】超電導線とその製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/16 20060101AFI20240319BHJP
   H01B 12/12 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
H01B12/16
H01B12/12
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146419
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中西 達尚
(72)【発明者】
【氏名】三堂 信博
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321AA05
5G321AA06
5G321BA01
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA50
5G321CB02
(57)【要約】
【課題】冷却効率の高い、フォーマレスの超電導線とその製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブルを提供すること。
【解決手段】超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、超電導テープ上にらせん状に巻かれた、複数の開口を有する絶縁テープ、および絶縁テープの外表面を覆い、樹脂を含む補強層を備える。樹脂の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。樹脂の他の一部は、複数の超電導テープの少なくとも一つの内表面上に位置してもよい。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、
前記超電導テープ上にらせん状に巻かれた、複数の開口を有する絶縁テープ、および
前記絶縁テープの外表面を覆い、樹脂を含む補強層を備え、
前記樹脂の一部は、隣接する前記超電導テープの間の隙間に位置する、超電導線。
【請求項2】
前記樹脂の他の一部は、前記超電導テープの少なくとも一部の内表面上に位置する、請求項1に記載の超電導線。
【請求項3】
前記絶縁テープは、ガラス繊維を含む、請求項1に記載の超電導線。
【請求項4】
前記管形状は湾曲している、請求項1に記載の超電導線。
【請求項5】
少なくとも一つの超電導線、
前記少なくとも一つの超電導線を囲む内部冷却管、および
前記内部冷却管を囲む外部冷却管を備え、
前記少なくとも一つの超電導線は、
管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、
前記超電導テープ上にらせん状に巻かれた、複数の開口を有する絶縁テープ、および
前記絶縁テープの外表面を覆い、樹脂を含む補強層を備え、
前記樹脂の一部は、隣接する前記超電導テープの間の隙間に位置する、超電導ケーブル。
【請求項6】
前記管形状は湾曲している、請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
液体窒素が前記超電導テープの内表面と接触するように前記管形状内を流れるように構成される、請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項8】
前記少なくとも一つの超電導線は大きさの異なる複数の超電導線を含み、
前記複数の超電導線の各々は、同心円状に配置される、請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項9】
前記少なくとも一つの超電導線は複数の超電導線を含み、
前記内部冷却管の中に前記複数の超電導線が前記超電導線それぞれの中心軸が異なる位置に配置される、請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項10】
超電導テープをコア上にらせん状に巻く工程、
複数の開口を有する絶縁テープを前記超電導テープ上にらせん状に巻く工程、
前記絶縁テープの外表面に樹脂を塗布する工程、および
前記樹脂を硬化する工程を含む、超電導線の製造方法。
【請求項11】
前記超電導テープを前記コアに巻く前に、前記コア上に離型材を形成することをさらに含む、請求項10に記載の超電導線の製造方法。
【請求項12】
前記コアに湾曲しているコアを用い、
前記超電導テープを前記コアに巻く前に、
前記コアを直線状態にする、または、
前記コア上に離型材を形成した後に、前記コアを前記直線状態にすることを含む、請求項10に記載の超電導線の製造方法。
【請求項13】
前記超電導テープを前記コア上に巻いた後、前記絶縁テープを前記超電導テープ上に巻く前に、前記コアを湾曲することをさらに含む、請求項12に記載の超電導線の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂を硬化する前に、保護テープを前記樹脂上に巻くことをさらに含む、請求項10に記載の超電導線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、超電導線とその製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体を有する導電線を電力ケーブルに用いることで、銅を主成分とする既存の電力ケーブルと比較して大電流を低損失で送電することが可能となる。このような超電導ケーブルは、例えば、液体窒素などの冷却材を流すための芯材(フォーマ)を備え、フォーマの周りに1層または複数層の超電導層を有している。各超電導層は、らせん状に巻かれた複数の超電導テープによって構成される(特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-162367号公報
【特許文献2】特開2016-4612号公報
【特許文献3】特開2020-114088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新規な構造を有する超電導線とその製造方法、および当該超電導線を備える超電導ケーブルを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、冷却効率の高い、フォーマレスの超電導線とその製造方法、および当該超電導線を備える超電導ケーブルを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、超電導線である。この超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、超電導テープ上にらせん状に巻かれた、複数の開口を有する絶縁テープ、および絶縁テープの外表面を覆い、樹脂を含む補強層を備える。樹脂の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、少なくとも一つの超電導線、少なくとも一つの超電導線を囲む内部冷却管、および内部冷却管を囲む外部冷却管を備える超電導ケーブルである。少なくとも一つの超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、超電導テープ上にらせん状に巻かれた、複数の開口を有する絶縁テープ、および絶縁テープの外表面を覆い、樹脂を含む補強層を備える。樹脂の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、超電導線を製造する方法である。この方法は、超電導テープをコア上にらせん状に巻く工程、複数の開口を有する絶縁テープを複数の超電導テープ上にらせん状に巻く工程、絶縁テープの外表面に樹脂を塗布する工程、および樹脂を硬化する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的斜視図。
図1B】本発明の実施形態に係る超電導線に含まれる超電導テープの模式的端面図。
図1C】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2A】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2B】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2C】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図3A】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの模式的端面図。
図3B】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの模式的端面図。
図4】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法のフローチャート。
図5A】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的側面図。
図5B】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的側面図。
図5C】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的側面図。
図5D】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的端面図。
図6A】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的側面図。
図6B】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的端面図。
図7A】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的側面図。
図7B】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的端面図。
図7C】本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法を説明する模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。また、一つの構造の一部を示す際には、符号の後に小文字のアルファベットを付すことがある。
【0011】
以下、本発明の実施形態の一つに係る超電導線とその製造方法、および超電導線を含む超電導ケーブルについて説明する。
【0012】
1.超電導線の構造
図1Aに本発明の実施形態の一つに係る超電導線100の模式的側面図を示す。図1Aに示すように、超電導線100は、超電導テープ102、超電導テープ102を取り囲むように設けられる絶縁テープ106、および絶縁テープ106を取り囲むように設けられる補強層104を基本的な構成として備える。超電導線100は、図1Aに示すように一端から他端まで屈曲せずに直線状の形状を備えてもよく、図示しないが全体的に湾曲してもよい。あるいは、超電導線100は、一つまたは複数の屈曲点を有するように、延伸方向の異なる複数の直線部を備えてもよい。以下の説明では、便宜上、超電導線100が延伸する方向をx方向、x方向に直交し、かつ、互いに直交する方向をy方向とz方向と定義する。超電導線100の長さ(x方向の長さ)に制約はない。超電導線100の外径(図中、z方向の長さ)にも制約はない。以下、上記構成について説明する。
【0013】
(1)超電導テープ
超電導テープ102は、らせん状に巻かれることで管形状を形成する。超電導線100において、超電動テープ層を構成する超電導テープ102の数に制約はなく、例えば10本以上で構成してもよく、少なくとも1本以上であればよい。図1Aに示す例では、複数の超電導テープ102を用いて超電導線100における超電導テープ層を1層形成しており、複数の超電導テープ102の各々は、らせん形状を取り、らせんの巻方向は同一である。また、らせんのピッチと半径は、いずれも複数の超電導テープ102間で互いに同一または実質的に同一である。図1Aに示すように、隣接する超電導テープ102の間には隙間が存在し、隣接する超電導テープ102は互いに直接接触しない。隙間の幅(すなわち、隣接する超電導テープ102間の間隔)は、500μm以上5mm以下の範囲で適宜調整すればよい。なお、図1Aに示す例では、複数の超電導テープ102を用いて超電導テープ層を1層設けた場合について説明しているが、超電導テープ102を2層重ねて設けてもよい。
【0014】
超電導テープ102の端面の模式図の一例を図1Bに示す。図1Bに示すように、超電導テープ102は、基板110、基板110上の中間層112、中間層112上の超電導層114、および超電導層114上の保護層116を備えることができる。基板110は金属を含み、例えば、鉄、ニッケル、モリブデン、クロム、モリブデンンなどを含む金属基板または合金基板が例示される。合金としては、ステンレス、インバー、インコネルなどが挙げられる。中間層112は、例えば結晶方位が制御された複数の酸化物の積層体として構成することができ、酸化物としては、CeO、LaMnO、MgO、Y、GdZrなどが挙げられる。超電導層114は、Y、Ba、Cu、Oを成分とする酸化物系超電導体を含む膜であり、超電導テープ102の導電経路を形成する。保護層116は銅や銀などの金属を含む薄膜である。超電導テープ102の厚さは、例えば100μm以上500μm以下である。超電導テープ102は、保護層116が管形状の内側に配置されるように巻かれてもよく、逆に保護層116が管形状の外側に配置されるように巻かれてもよい。後述するように、超電導テープ102によって形成される管形状の内部に液体窒素を供給して超電導線100を冷却することができる。このため、超電導テープ102は、熱伝導性の高い保護層116側が液体窒素と接触するよう、すなわち、保護層116が管形状の内側に配置されるように巻かれることが好ましい。
【0015】
上述した超電導テープ102はイットリウム系の超電導体が形成されたテープであるが、Bi、Sr、Ca、Cu、Oを含むビスマス系超電導体を含むテープを超電導テープ102として用いてもよい。この場合には、図示しないが、超電導テープ102は、例えばビスマス系超電導体のフィラメントが銀を含む合金内に配置された構造を有することができる。なお、図1Bに示す超電導テープ102の構造は一例であってこれに限定されず、超電導線100を構成する超電導テープ102は、既知の超電導テープを用いることができる。
【0016】
(2)絶縁テープ
絶縁テープ106は、テープ状の絶縁性の基材がらせん状に巻かれて構成され、後述する補強層104によって超電導テープ102に固定される。絶縁性の基材はガラス繊維またはポリイミドやポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子の繊維などによって構成される布(クロス)であるため、後述するように、絶縁テープは繊維の隙間に起因する複数の開口を有する。絶縁テープ106としては、ガラステープを用いることができるが、これに限定されない。絶縁テープ106の超電導テープ102上に巻かれる前のテープ単体の厚さは、例えば1mm以下のものを使用することができる。
【0017】
絶縁テープ106は超電導テープ102を取り囲むようにらせん状に配置される。また、絶縁テープ106は、超電導テープ102が形成する管形状の外側を一周すると、絶縁テープ106の一部と他の一部が接触する、または重畳部分が形成されるように巻くなど、超電導線100の長手方向に隙間を形成しないように巻くことが好ましい。換言すると、絶縁テープ106のらせんのピッチが絶縁テープ106の幅以下となるように絶縁テープ106を巻くことが好ましい。例えば、絶縁テープ106はテープ幅の半分ずつオーバーラップして巻く、いわゆる1/2ラップ巻きに巻くことができる。このように絶縁テープ106を形成することで、超電導線100の強度を増大させることができる。なお、巻いた後の絶縁テープ106は、超電導線100として(あるいは、後述する超電導ケーブルとして)求められる絶縁性能に応じて、所定の厚さを有するように形成される。
【0018】
(3)補強層
補強層104は硬化した樹脂であり、硬化後に一定の強度を示すことで超電導線100を自立させることができる。ここで、自立するとは、支持部材(例えば、フォーマ)を用いなくても配置方向に依存せずにその形状を維持することを意味する。樹脂の構造にも制約はなく、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。樹脂は熱硬化性でもよく、光硬化性でもよく、また二種類の液体を混ぜて常温で硬化する、所謂二液性樹脂でもよい。好ましくは、安価であり、硬化速度が比較的高い熱硬化性エポキシ樹脂が用いられる。例えば、補強層104に用いる樹脂として、エポキシ樹脂系の接着剤であり、エポキシ基を分子内に複数有するオリゴマーを含む主剤と架橋剤を含む硬化剤とを混ぜて常温で硬化する二液混合型のものを使用することができる。補強層104に用いる樹脂の量は、絶縁テープ106を固定し、隣接する超電導テープの間の隙間に当該樹脂が位置するのに必要分使用すればよく、形成される補強層104の厚さは、特に限定されないが、当該補強層104に超電導線100としての絶縁性能を求める場合には、前記必要分より多くの樹脂を使用することでより厚く形成してもよい。
【0019】
ここで、x方向に垂直なyz平面の端面の模式図(図1C)に示すように、絶縁テープ106は超電導テープ102上(すなわち、超電導テープ102の外表面上であり、超電導テープ102が形成する管形状の外周上)に設けられ、超電導テープ102と補強層104と接する。また、図1Cの領域Rの拡大図(図2A)に示すように、補強層104の一部、すなわち、補強層104に含まれる樹脂(例えば、エポキシ樹脂系接着剤の樹脂)の一部は、らせん状に巻かれた隣接する超電導テープ102間の隙間にも存在する。このため、補強層104によって超電導テープ102の側面同士も固定することができ、超電導線100の強度をさらに増大させることができる。なお、図2B図2Cに示すように、補強層104の樹脂の一部は、超電導テープ102の内表面の全体または一部をさらに覆ってもよい。
【0020】
上述したように、超電導線100は、らせん状に巻かれた超電導テープ102の外表面が絶縁テープ106で固定され、さらに、補強層104によって絶縁テープ106の外表面が被覆され、かつ、補強層104の樹脂の一部が、隣接する超電導テープ102間の隙間にも存在することにより、超電導テープ102の側面同士も固定することができる。このため、超電導線100は自立可能な強度を有することができるだけでなく、内部に液体窒素を流しても破損することが無い。このような特性を有するため、以下に述べるように、超電導線100を備える超電導ケーブルでは、液体窒素を流すためのフォーマを配置する必要がない。この特徴は、超電導ケーブルをより細く形成すること(小径化)を可能にするとともに、部品点数の軽減による製造コストの低減に寄与する。なお、超電導線100の機械的強度を向上させるために、補強層104の外周にさらに補強層を設けてもよい。また、超電導線100を3300V以上の電圧で使用する場合には、超電導テープ102の外側に半導電層を設けてから、当該半導電層の外側に絶縁テープ106、補強層104を設けてもよい。半導電層は、実施の形態の絶縁テープ106、補強層104それぞれにカーボン等を含む形で構成してもよい。
【0021】
2.超電導ケーブル
本発明の実施形態の一つは、超電導線100を少なくとも一つ備える超電導ケーブルである。超電導ケーブルは、複数の超電導線100を備えてもよい。本発明の実施形態の一つに係る超電導ケーブル120、121の模式的yz端面図を図3A図3Bにそれぞれ示す。これらの図では、見やすさを考慮し、各超電導線100は、超電導テープ102、絶縁テープ106、および補強層104が一体化されて示されている。
【0022】
図3Aに示す超電導ケーブル120は、大きさの異なる三つの超電導線100(第1の超電導線100-1A、第2の超電導線100-2A、第3の超電導線100-3A)を同心円状に有する三相同軸の超電導ケーブルである。第1の超電導線100-1A(例えばU相)は第2の超電導線100-2A(例えばV相)内に挿入・配置され、第2の超電導線100-2A(例えばV相)は第3の超電導線100-3A(例えばW相)内に挿入・配置される。隣接する超電導線100の間、および最も外側の第3の超電導線100-3A(例えばW相)の外側には、電気的絶縁を確立するための絶縁層122が設けられる。図3Aに示す超電導ケーブル120では、絶縁層122を設けているが、超電導線100の絶縁性能で超電導ケーブル120としての絶縁強度が十分得られる場合は、絶縁層122を設けなくてもよい。なお、同心円状に有する超電導ケーブルは、1条の超電導ケーブルに例えばU相、V相、W相の三相を形成する超電導線が設けられていればよく、三相の超電導線のすべてが厳密に同軸でなくてもよい。絶縁層122には、例えばポリプロピレン半合成紙、その他プラスチックラミネート紙、クラフト紙などの絶縁紙、あるいは、プラスチックテープが層状に巻かれた構造を採用すればよく、絶縁材料の押出により形成してもよい。最も外側の絶縁層122の外側には、超電導テープ102がらせん状に巻かれることで形成される遮蔽層124を配置することができる。なお、遮蔽層124は、高電圧で使用しない場合、具体的には3300V未満の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、省略してもよい。また、3300V以上の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、図示しないが遮蔽層124の内側に接するように絶縁層122の外側に半導電層を設けてもよい。この半導電層は超電導ケーブルの半導電層として既知のもので構成すればよい。
【0023】
三つの超電導線100の外側(図3Aでは遮蔽層124の外側)には、第3の超電導線100-3Aを取り囲む(図3Aでは遮蔽層124を取り囲む)内部冷却管126、および内部冷却管126を取り囲む外部冷却管128が設けられる。内部冷却管126と外部冷却管128は、例えばアルミニウムを含むコルゲート管でもよい。内部冷却管126と外部冷却管128の間は減圧下に保たれ、これにより、超電導ケーブル120内に流される液体窒素の温度上昇が抑制される。なお、液体窒素は、第1の超電導線100-1Aが形成する内部空間100a、および遮蔽層124と内部冷却管126の間の空間に供給される。
【0024】
図3Bに示す超電導ケーブル121では、図3Aに示す同心円状の超電導ケーブル120と異なり、複数の超電導線100が遮蔽層124内に配置される。図3Bに示す例では、同様の大きさの三つの超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)が1つの超電導ケーブル121内に配置される三相一括(三心一括)の超電導ケーブル121の構造を示す。三つの超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)のそれぞれは同様の大きさでなくても、異なる大きさでもよい。図3Bでは、各超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)の中心軸が正三角形の頂点に位置するように配置されているが、各超電導線100の中心軸が異なる位置に配置されていれば配置の仕方は限定されない。図3Bでは示されていないが、各超電導線100の周りには、超電導線100間の絶縁のための絶縁層を設けてもよい。また、任意の構成として、図3Bに示すように超電導線100間を物理的に離隔するためのスペーサ132を配置してもよく、スペーサ132がなくてもよい。スペーサ132がない場合は、各超電導線100-1B、100-2B、100-3B同士が接するような構造とすることが望ましい。
【0025】
その他の構成は超電導ケーブル120のそれと同様であり、複数(図3Bでは3つ)の超電導線100を取り囲むように絶縁層122が設けられ、さらに絶縁層122を取り囲む遮蔽層124、ならびに複数の超電導線を取り囲む(図3Bでは遮蔽層124を取り囲む)内部冷却管126と外部冷却管128が設けられる。図3Bに示す超電導ケーブル121では、絶縁層122を設けているが、超電導線100の絶縁性能で超電導ケーブル121としての絶縁強度が十分得られる場合は、絶縁層122を設けなくてもよい。超電導ケーブル121において絶縁層122を設けない場合は、三つの超電導線100の外周に押さえテープが巻かれる。また、遮蔽層124は、高電圧で使用しない場合、具体的には3300V未満の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、省略してもよい。また、3300V以上の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、図示しないが遮蔽層124の内側に接するように絶縁層122の外側に半導電層を設けてもよい。この半導電層は超電導ケーブルの半導電層として既知のもので構成すればよい。液体窒素は、各超電導線100が形成する内部空間100aと遮蔽層124と内部冷却管126の間に流すことができ、さらに、絶縁層122の内部にも液体窒素を流すことができる。液体窒素を流す際、例えば、図3Aに示す超電導ケーブル120においては、内部空間100aを往路として、遮蔽層124と内部冷却管126の間を復路として使用することができ、図3Bに示す超電導ケーブル121においては、内部空間100aを往路として、絶縁層122の内部であって各超電導線100の外側、および遮蔽層124と内部冷却管126の間を復路として使用することができる。絶縁層122および遮蔽層124を備えない場合は、各超電導線100の外側全体(超電導線100の外側で押さえテープの内側、および押さえテープと内部冷却管126との間)を復路として使用することができる。したがって、効率の高い冷却が可能となる。
【0026】
上述したように、超電導ケーブル120、121では、超電導線100を冷却するための液体窒素は、各超電導線100を構成する超電導テープ102が形成する管形状の内部を流れ、超電導テープ102を直接冷却する、または補強層104の樹脂を介して冷却することができる。したがって、より効率良く超電導線100を冷却することができ、通電中の僅かな温度上昇も確実に抑制することができる。さらに、超電導線100は、絶縁テープ106と補強層104によって自立するための十分な強度が与えられるため、液体窒素を流すためのフォーマを超電導線100内に形成する必要が無い。このことは、部品点数の軽減と製造コストの低減に寄与するとともに、超電導ケーブルの小径化を可能とする。
【0027】
3.超電導線の製造方法
超電導線100の製造方法の一例を図4のフローチャート、および図5Aから図7Cの模式図を用いて説明する。
【0028】
まず、超電導テープ102をらせん状に巻くためのコア130を準備する(図5A)。コア130は、yz平面の端面が円または実質的に円である円柱形状または管状形状を有しており、例えば金属、ガラス、樹脂のロッドまたはチューブである。コア130は、実質的に変形しない程度の強度を有していればよく、あるいは塑性変形または弾性変形するように構成されてもよい。あるいは、スパイラルコアを併用してもよい。スパイラルコアは複数のリボンを連結することで構成され、らせん状に巻き上げられて管形状を形成するとともに、端部から解くことで管形状から線状に変形可能な治具である。例えば、スパイラルコアを直線状に維持するために直線ロッドをスパイラルコアの内部に通し、ロッドとスパイラルコアを併用してコア130を形成すればよい。なお、直線ロッドとしては、パイプを使用してもよい。また、スパイラルコアを使用せずに、直線ロッド(またはパイプ)の外周にスパイラルチューブを巻き付けてもよい。スパライルチューブは、一般的には電線、ケーブル、コードなどに巻き付けて配線を整理、結束するのに用いられる部材である。スパイラルチューブの材質としては、ナイロン、ポリエチレン、フッ素系樹脂などのプラスチックが挙げられる。スパイラルチューブは、形成するリボンがらせん状に形成されるが、スパイラルコアと異なり、リボン同士は連結されておらず、弾性を有する。
【0029】
この後、離型材134をコア130表面に設け(図5B)、その後に超電導テープ102を(離型材134が設けられた)コア130上にらせん状に巻く(図5C)。超電導テープ102は、所定の枚数を用い、所定のピッチで配置され、所定の張力を印加しながら超電導面が内側に位置するよう、互いに接触しないように巻かれる。離型材134としては、図5Bに示すように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含むテープをコア130上にらせん状に巻き付けることで離型材134を形成してもよく、例えば、シリコーンオイルや界面活性剤、フッ素系樹脂などを塗布して形成してもよい。離型材134をコア130表面に設けなくても(あるいは塗布しなくても)よいが、離型材134を用いることで、後述するコア130の除去が容易になる。
【0030】
超電導テープ102が巻かれた時のyz端面の模式図を図5Dに示す。図5Dに示すように、隣接する超電導テープ102間に隙間102aが存在するように、超電導テープ102がコア130の外周に直接または離型材134を介して巻き付けられる。ここまでの工程により、超電導テープ102によって管形状が形成される。
【0031】
引き続き、絶縁テープ106(例えばガラステープ)を超電導テープ102上にらせん状に巻き付ける(図6A図6B)。上述したように、超電導線100が自立可能な強度を付与するため、絶縁テープ106が形成するらせん構造のピッチが絶縁テープ106の幅以下になるように絶縁テープ106を巻き付けることが好ましい。例えば図6Aの領域Rの拡大図に示すように、絶縁テープ106の一部106aと他の一部106bの間に重畳部分106cが形成されるように絶縁テープ106が巻かれる。例えば、絶縁テープ106のテープ幅の半分ずつオーバーラップして巻く、いわゆる1/2ラップ巻きで絶縁テープ106を巻けばよい。
【0032】
この後、補強層104を構成する樹脂を絶縁テープ106の外表面に塗布する(図7A図7B)。図6Aの領域Rの拡大図に示すように、絶縁テープ106には、基材を構成する繊維の隙間である複数の開口106dが存在する。このため、硬化前の樹脂(二液混合型のエポキシ系接着剤を使用する場合には主剤と硬化剤を混合した樹脂)が絶縁テープ106の開口106dから超電導テープ102側に浸透し、隣接する超電導テープ102間に広がる。さらに、毛細管現象により、超電導テープ102とコア130間の隙間、および/または離型材134とコア130間の隙間に硬化前の樹脂が広がることができる。このため、図2B図2Cに示すように、補強層104に含まれる樹脂の一部が隣接する超電導テープ102の間や、超電導テープ102の内表面上の一部または全体に位置することができる。
【0033】
この後、樹脂を硬化して補強層104を形成する。この時、未硬化の樹脂が垂れないように絶縁テープ106上に保持するため、硬化前の樹脂の周りを保護テープ136で覆ってもよい(図7C)。保護テープ136は、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンなどの高分子を含むテープなどで形成すればよい。例えば、市販のポリ塩化ビニルテープを使用してもよい。保護テープ136の厚さは、未硬化の樹脂が垂れないように絶縁テープ106上に保持できればよく、厚さは限定されない。
【0034】
樹脂が硬化した後、保護テープ136とコア130を順次除去(離型材134をテープで形成した場合は、離型材134も除去)することで、超電導線100が得られる。
【0035】
湾曲した超電導線100を製造する場合には、塑性変形可能な直線状のコア130に超電導テープ102を巻き付け、その後コア130を湾曲状態にした後に絶縁テープ106を超電導テープ102上に巻き、絶縁テープ106上に補強層104となる樹脂(例えば接着剤)を塗布した後、さらに保護テープ136を巻き付けた後に樹脂を硬化して補強層104を形成すればよい。その後、保護テープ136を除去することで湾曲した超電導線100を得ることができる。
【0036】
なお、コア130を除去する際にコア130がさらに変形することを防ぐため、塑性変形可能な可撓性チューブと可撓性チューブをらせん状に取り囲むように組み立てられたスパイラルチューブをコア130として用いることが好ましい。この場合、離型材134はスパイラルチューブ上に形成すればよい。樹脂を硬化した後に可撓性チューブを除去し、さらにスパイラルチューブのらせん形状を解くことで、超電導線100をさらに変形させる力が加えられることを防止することができる。その結果、樹脂が硬化する前の湾曲形状が維持される。
【0037】
具体的には、塑性変形可能な湾曲した可撓性チューブ(例えばプラスチック製ホース)の外周にスパイラルチューブを巻き、コア130を用意する。コア130の外周(例えばスパイラルチューブの外周)に離型材134としてのテープを、例えば1/2ラップで巻く。なお、離型材134をコア130上に形成しなくてもよいが、離型材134を用いることで、コア130の除去が容易になる。ここで、コア130を直線状態にしたうえで、所定枚数の超電導テープ102を所定のピッチで配置し、所定の張力を印加しながら超電導面が内側に位置するよう、かつ、互いに接触しないように巻く。超電導テープ102を巻いた後、コア130を曲線状態に戻す。その後、絶縁テープ106(例えばガラステープ)を超電導テープ102上にらせん状に例えば1/2ラップで巻く。絶縁テープ106に補強層104の樹脂(例えばエポキシ樹脂系接着剤)を全長、全周に薄く塗布する。未硬化の補強層104の樹脂を絶縁テープ106上に保持するため、硬化前の樹脂の周りに保護テープ136(例えばポリ塩化ビニル製のテープ)を巻き付けて覆う。補強層104の樹脂が硬化すると、絶縁テープ106が固定される。補強層104の樹脂が硬化した後に、保護テープ136、コア130、離型材134、スパイラルチューブを順次除去することで、湾曲した超電導線100を製造することができる。
【0038】
超電導テープ102は、単独では自立不可能な可撓性を備える。しかしながら、上述した製造方法を適用することで、超電導テープ102が形成する管形状を維持でき、かつ、内部に液体窒素を流すことができる強度を備える超電導線100を製造することができる。したがって、本発明の実施により、高い冷却効率を有する小径化されたフォーマレス超電導線、およびこの超電導線を備える超電導ケーブルを提供することが可能となる。
【0039】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0040】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0041】
100:超電導線、100-1A、100-1B:第1の超電導線、100-2A、100-2B:第2の超電導線、100-3A、100-3B:第3の超電導線、102:超電導テープ、104:補強層、106:絶縁テープ、106a:絶縁テープの一部、106b:絶縁テープの一部、106c:重畳部分、106d:開口、110:基板、112:中間層、114:超電導層、116:保護層、120:超電導ケーブル、121:超電導ケーブル、122:絶縁層、124:遮蔽層、126:内部冷却管、128:外部冷却管、130:コア、132:スペーサ、134:離型材、136:保護テープ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C