(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041557
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】磁気センサ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20240319BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240319BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146434
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 和真
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 州平
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD55
2G017BA05
2G017BA09
2G017BA15
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC11
5F092FA01
5F092FA03
5F092FA05
(57)【要約】
【課題】高い測定精度を有すると共に、さらなる薄型化に対応可能である磁気センサ装置を提供する。
【解決手段】この磁気センサ装置は、表面を有するセンサ基板と、表面に設けられ、1以上の磁気センサ素子を有するセンサ素子部との積層構造を備える。ここで、表面に平行な平面視において、センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置がセンサ基板の外縁と異なった位置にある。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するセンサ基板と、前記表面に設けられ、1以上の磁気センサ素子を有するセンサ素子部との積層構造を備え、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁と異なった位置にある
磁気センサ装置。
【請求項2】
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁よりも外側の位置にあり、
または、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁よりも内側の位置にある
請求項1記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記表面に沿った第1方向の前記センサ基板の長さをL1とし、前記第1方向の前記センサ素子部の長さをL2としたとき、前記積層構造の外縁の少なくとも一部において下記の条件式(1)を満たす
請求項1記載の磁気センサ装置。
0%<|L1-L2|/L1≦1.56% ・・・(1)
【請求項4】
前記表面に沿った第1方向における前記センサ基板の外縁と前記センサ素子部の外縁との距離は、前記積層構造の外縁の少なくとも一部において0μmより大きく5μm以下である
請求項1記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
前記センサ基板の厚さをT1とし、前記センサ素子部の厚さをT2としたとき、下記の条件式(2)を満たす
請求項1記載の磁気センサ装置。
0.5<(T2/T1)<3 ・・・(2)
【請求項6】
前記センサ基板を支持する支持基板をさらに備えた
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項7】
前記センサ基板の厚さが200μm以下である
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項8】
前記磁気センサ素子はTMR素子である
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項9】
一の母基板の表面に、1以上の磁気センサ素子を各々含む複数のセンサ素子部を離散的に形成することと、
前記一の母基板のうちの前記複数のセンサ素子部同士の隙間領域にある隙間部分を前記表面から掘り下げることにより、前記複数のセンサ素子部の各々を取り囲む1以上の溝を設けることと、
前記一の母基板の裏面から前記1以上の溝に達するまで前記一の母基板を研磨することにより、前記一の母基板を複数のセンサ基板に分離することと
を含み、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部が前記溝の壁面よりも外側へ突出した位置となるように前記1以上の溝を形成し、
または、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部が前記溝の壁面よりも内側へ引っ込んだ位置となるように前記1以上の溝を形成する
磁気センサ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気センサ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の用途で、外部磁界の所定の方向の成分を検出するための磁気センサ装置が利用されている。磁気センサとしては、基板上に磁気検出素子を設けるようにしたものが知られている。磁気検出素子としては、例えば磁気抵抗効果素子が用いられる。
【0003】
例えば特許文献1には、支持体に一体に設けられた第1の磁気センサ、支持体、第1の磁界発生器および第2の磁界発生器を備えた磁気センサ装置が開示されている。特許文献1の磁気センサ装置では、第1の磁界発生器により第1の付加的磁界を発生すると共に第2の磁界発生器により第2の付加的磁界を発生することによって、外部磁界を第1の磁気センサによって精度よく検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁気センサを有する磁気センサ装置については、高い測定精度を有することに加え、より薄型であることが望まれる。
【0006】
よって、高い測定精度を有すると共に、さらなる薄型化に対応可能である磁気センサ装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施態様としての磁気センサ装置は、表面を有するセンサ基板と、表面に設けられ、1以上の磁気センサ素子を有するセンサ素子部との積層構造を備える。ここで、表面に平行な平面視において、センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置がセンサ基板の外縁と異なった位置にある。
【0008】
本開示の一実施態様としての磁気センサ装置では、平面視においてセンサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置がセンサ基板の外縁と異なった位置にある。このため、磁気センサ装置に外力が印加された場合の、センサ素子部の外縁の近傍への応力集中が緩和される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施態様としての磁気センサ装置によれば、磁気センサ装置に外力が印加された際にセンサ素子部の外縁の近傍への応力集中が緩和されるので、センサ素子部の歪みが緩和され、測定精度への影響を低減できる。よって、本開示の一実施態様としての磁気センサ装置は、センサ基板を薄型化した場合であっても高い測定精度を確保することができる。
なお、本開示の効果はこれに限定されるものではなく、以下に記載のいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本開示の一実施の形態に係る角度センサ装置の全体構成例を表す第1の斜視図である。
【
図1B】本開示の一実施の形態に係る角度センサ装置の全体構成例を表す第2の斜視図である。
【
図2】
図1Aに示した角度センサ装置の断面図である。
【
図3A】
図1Aに示したセンサチップの外観を表す斜視図である。
【
図3B】
図1Aに示したセンサチップの平面構成例を表す平面図である。
【
図3C】
図1Aに示したセンサチップの断面構成例を表す断面図である。
【
図4】
図1に示した角度センサ装置の回路図である。
【
図5A】
図1Aに示した角度センサ装置の製造方法の一工程を表す説明図である。
【
図6】実施例1~8の角度センサ装置の角度検出誤差を表す特性図である。
【
図7A】本開示の第1変形例としてのセンサチップの外観を表す斜視図である。
【
図7B】
図7Aに示したセンサチップの平面構成例を表す平面図である。
【
図7C】
図7Aに示したセンサチップの断面構成例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
0.経緯
1.一実施の形態:磁気抵抗効果素子を有する角度センサ装置の例。
1.1 角度センサ装置1の構成
1.2 角度センサ装置1の製造方法
1.3 作用および効果
2.実施例
【0012】
<0.経緯>
従来、外部磁場の変化を検知するなどしてある物体の姿勢や回転角度などを検出する角度センサ装置が使用されている。そのような角度センサ装置は、回転動作などの姿勢が変化する動作を行う物体に取り付けられ、その物体と共に回転動作等を行うことが多い。そのため、角度センサ装置自体の軽量化が求められている。また、より高度の測定精度も要求されることから、より多数のセンサ素子を限られた領域内に高密度で実装することが望まれる。
【0013】
そこで本出願人は、上記課題に鑑みて検討および改良を重ねた結果、高い測定精度を有すると共に、さらなる薄型化に対応することのできる角度センサ装置を提供するに至った。
【0014】
<1.第1の実施の形態>
[1.1 角度センサ装置1の構成]
最初に、
図1Aから
図4を参照して、本発明の一実施の形態としての角度センサ装置1の構成について説明する。角度センサ装置1は、本発明の「磁気センサ装置」に対応する一具体例である。
【0015】
図1Aおよび
図1Bは、角度センサ装置1の全体構成例を表す斜視図である。
図2は、角度センサ装置1の任意の断面を模式的に表す断面図である。
図1Bに示したように、角度センサ装置1は、支持基板2と、センサチップ3と、配線層4と、はんだボール5とを備えている。
図2に示したように、センサチップ3は、支持基板2に積層配置されている。より具体的には、センサチップ3は、支持基板2の表面2FSに設けられている。センサチップ3は、配線層4に覆われている。支持基板2の表面2FSと反対側の裏面2BSには、保護膜6が設けられていてもよい。
【0016】
なお、
図1A~
図2などに示したように、本実施の形態では、支持基板2およびセンサチップ3は、互いに直交するX軸方向およびY軸方向を含むXY面に沿ってそれぞれ広がっている。また、本実施の形態では、支持基板2およびセンサチップ3の厚さ方向をZ軸方向としている。
【0017】
(支持基板2)
支持基板2は、例えばASIC(特定用途向け集積回路)を有する基板である。支持基板2の表面2FSには、端子部21,22が設けられている。なお、支持基板2は、ASICを有する基板に限定されるものではなく、単なるSi基板やサファイア基板、あるいは、例えばASICを有する基板とセンサチップ3との中継を行う中継基板であってもよい。
【0018】
(センサチップ3)
図3Aは、センサチップ3の外観を模式的に表す斜視図である。
図3Aに示した構成例では、センサチップ3は、XY面に沿った平面視において略正方形または略長方形の平面形状を有する略四角柱状の外観を有している。センサチップ3は、センサ基板31と、センサ素子部32とを有する。センサチップ3では、センサ基板31とセンサ素子部32との積層構造が形成されている。センサチップ3では、その積層構造のXY面に沿った全周に亘って段差部STPが形成されている。
図3Bは、センサチップ3のレイアウトを模式的に表す平面図である。さらに、
図3Cは、センサチップ3の断面の一構成例を表す断面図である。
【0019】
センサ基板31は、例えばシリコン基板である。センサ基板31の厚さは例えば200μm以下である。
図3Aおよび
図3Bに示したセンサチップ3の構成例では、センサ基板31は、略正方形または略長方形の平面形状の表面31FSを有する平板部材である。すなわち、表面31FSは、略正方形または略長方形の外縁31Kを有する。表面31FSは、センサ基板31の厚さ方向であるZ軸方向と略直交する平面である。XY面において、センサ基板31は、X軸方向に長さL1Xを有すると共にY軸方向に長さL1Yを有する。長さL1Xと長さL1Yとは互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。センサ基板31は、外縁31Kに沿った4つの端面31TS1~31TS4を有する。なお、本明細書では、4つの端面31TS1~31TS4を特に区別することなく包括的に端面31TSと記載する場合がある。端面31TSは、例えば表面31FSと略直交する平面である。但し、端面31TSは、表面31FSに対して傾斜していてもよい。すなわち、端面31TSと表面31FSとのなす角度は90°と異なる角度であってもよい。また、端面31TSは、平面に限定されるものではなく、湾曲した曲面であってもよい。さらに、端面31TSは、一部に平面および曲面のうちの少なくとも一方を含むものであってもよい。
【0020】
センサ素子部32は、センサ基板31の表面31FS上の中央領域に設けられている。
図3Aおよび
図3Bに示した例では、XY面に沿ったセンサ基板31の占有面積よりもXY面に沿ったセンサ素子部32の占有面積のほうが小さい。したがって、先に述べたように、センサ基板31およびセンサ素子部32の周囲に段差部STPが生じている。センサ素子部32は、センサ基板31と同様、XY面に沿って広がっており、平面視において略正方形または略長方形の平面形状を有する。すなわち、センサ素子部32は、略正方形または略長方形の外縁32Kを有する。平面視において、すなわちZ軸方向に眺めたときに、センサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kと異なった位置にある。
図3A~3Cに示したセンサチップ3の構成例では、表面31FSに平行な平面視において、センサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kよりも内側の位置にある。
【0021】
XY面において、センサ素子部32は、X軸方向に長さL2Xを有すると共にY軸方向に長さL2Yを有する。長さL2Xと長さL2Yとは互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。但し、長さL2Xは長さL1Xよりも短く、長さL2Yは長さL1Yよりも短い。センサ素子部32は、外縁32Kに沿った4つの端面32TS1~32TS4を有する。なお、本明細書では、4つの端面32TS1~32TS4を特に区別することなく包括的に端面32TSと記載する場合がある。端面32TSは、例えばセンサ基板31の表面31FSと略直交する平面である。但し、端面32TSは、表面31FSに対して傾斜していてもよい。すなわち、端面32TSと表面31FSとのなす角度は90°と異なる角度であってもよい。また、端面32TSは、平面に限定されるものではなく、湾曲した曲面であってもよい。さらに、端面32TSは、一部に平面および曲面のうちの少なくとも一方を含むものであってもよい。
【0022】
センサ素子部32は、1以上の磁気センサ素子Eを含んでいる。磁気センサ素子Eは、例えばトンネル磁気抵抗効果素子(以下、TMR素子という。)である。センサ素子部32は、複数のセンサ素子群を有している。
図3Bの構成例では、センサ素子部32は、マトリックス状に配列された4つのセンサ素子群G1~G4を有している。センサ素子群G1~G4は、それぞれ、例えばマトリックス状に配列された4つの磁気センサ素子E(便宜上、
図3BではE1~E4と記載する)を含んでいる。磁気センサ素子E1~E4は、例えば複数のTMR膜と、それら複数のTMR膜を直列接続する複数の配線とによって構成されている。磁気センサ素子E1~E4は、例えば
図4に示したフルブリッジ回路8の抵抗部R1~R4を構成している。なお、
図4は、角度センサ装置1の回路構成例を表す回路図である。角度センサ装置1は、例えばフルブリッジ回路8と、差分検出器AMPと、演算回路9とを有している。角度センサ装置1は、フルブリッジ回路8の接続点T1から得られる電位と接続点T2から得られる電位との差分に基づき、センサチップ3に対する外部磁場の変化を検出可能に構成されている。
【0023】
センサ素子部32は、
図4に示したように、1以上の磁気センサ素子Eを含むセンサ素子層321と、センサ素子層321を覆う保護膜322とを有している。センサ素子層321は、例えば4つのセンサ素子群G1~G4を含んでいる。保護膜322は、例えばSiO
2(二酸化珪素)などの絶縁材料により構成される。本実施の形態では、センサ素子部32の端面32TSは保護膜322の端面である。
【0024】
センサチップ3では、例えば表面31FSに平行な任意の方向において、センサ基板31の長さをL1とし、センサ素子部32の長さをL2としたとき、下記の条件式(1)を満たすようにしてもよい。
0%<|L1-L2|/L1≦1.56% ・・・(1)
【0025】
具体的には、例えば表面31FSに平行なX軸方向においてセンサ基板31の長さをL1Xとし、センサ素子部32の長さをL2Xとしたとき、下記の条件式を満たすようにしてもよい。
0%<|L1X-L2X|/L1X≦1.56%
【0026】
あるいは、センサチップ3では、例えば表面31FSに平行なY軸方向においてセンサ基板31の長さをL1Yとし、センサ素子部32の長さをL2Yとしたとき、下記の条件式を満たすようにしてもよい。
0%<|L1Y-L2Y|/L1Y≦1.56%
【0027】
このように、センサチップ3では、例えば表面31FSに平行な方向であれば、センサ基板31とセンサ素子部32との積層構造の外縁の全周に亘って上記条件式(1)を満たすようにしてもよい。
【0028】
また、表面31FSに沿った方向におけるセンサ基板31の外縁31Kとセンサ素子部32の外縁32Kとの距離は、積層構造の外縁の全周に亘って例えば0μmより大きく超5μm以下とすることができる。例えば、X軸方向における端面31TSと端面32TSとの距離DX(
図3B,
図3C参照)や、Y軸方向における端面31TSと端面32TSとの距離DY(
図3B参照)などは、いずれも0μmより大きく5μm以下とすることができる。なお、表面31FSに沿った方向の外縁31Kと外縁32Kとの距離は均等であってもよいし、ばらつきがあってもよい。例えば距離DXと距離DYとは互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0029】
さらに、センサ基板31の厚さをT1とし、センサ素子部32の厚さをT2としたとき、下記の条件式(2)を満たすようにしてもよい。
0.5<(T2/T1)<3 ・・・(2)
【0030】
フルブリッジ回路8は、4つの抵抗部R1~R4を含んでいる。抵抗部R1は磁気センサ素子E1により構成され、抵抗部R2は磁気センサ素子E2により構成され、抵抗部R3は磁気センサ素子E3により構成され、抵抗部R4は磁気センサ素子E4により構成されている。フルブリッジ回路8は、直列接続された抵抗部R1および抵抗部R2と、直列接続された抵抗部R3および抵抗部R4とが、互いに並列接続されてなるものである。より具体的には、フルブリッジ回路8は、抵抗部R1の一端と抵抗部R2の一端とが接続点T1において接続され、抵抗部R3の一端と抵抗部R4の一端とが接続点T2において接続され、抵抗部R1の他端と抵抗部R4の他端とが接続点T3において接続され、抵抗部R2の他端と抵抗部R3の他端とが接続点T4において接続されている。接続点T3は電源Vccと接続されており、接続点T4は接地端子GNDと接続されている。接続点T1および接続点T2は、それぞれ、差分検出器AMPの入力側端子と接続されている。
【0031】
抵抗部R1~R4は、それぞれ、検出対象である信号磁場の変化を検出可能である。例えば抵抗部R1,R3は、+Y方向の信号磁場の印加により抵抗値が減少し、-Y方向の信号磁場の印加により抵抗値が増加する。一方、抵抗部R2,R4は、+Y方向の信号磁場の印加により抵抗値が増加し、-Y方向の信号磁場の印加により抵抗値が減少する。したがって、抵抗部R1,R3と抵抗部R2,R4とは、信号磁場の変化に応じて互いに例えば180°位相の異なる信号を出力する。フルブリッジ回路8から取り出された信号は差分検出器AMPに流入する。差分検出器AMPは、接続点T3と接続点T4との間に電圧が印加されたときの接続点T1と接続点T2との間の電位差、すなわち、抵抗部R1および抵抗部R4のそれぞれに生ずる電圧降下の差分を検出し、差分信号SLとして演算回路9へ向けて出力するようになっている。
【0032】
(配線層4)
配線層4は、
図2に示したように、例えば3層の樹脂層4A~4Cからなる積層構造を有する。樹脂層4A~4Cは、例えばポリイミドにより構成されており、センサチップ3を覆うように設けられている。配線層4には配線群7が埋設されている。配線群7は、例えば配線71および配線72を有する。配線71は、支持基板2の端子部21とはんだボール5とを電気的に接続している。配線72は、支持基板2の端子部22とセンサチップ3とを電気的に接続している。
【0033】
[1.2 角度センサ装置1の製造方法]
続いて、
図2に加えて
図5Aから
図5Gを参照して、本発明の一実施の形態としての角度センサ装置1の製造方法について説明する。
図5Aから
図5Gは、角度センサ装置1の製造方法の一例における各工程を表す模式図である。
【0034】
まず、
図5Aに示したように、例えばシリコン基板からなる一の母基板31Zを用意したのち、表面31FSに、センサ素子層321がそれぞれ埋設された保護膜322を有するセンサ素子部32を複数形成する。その際、隣り合う保護膜322同士が離間するように、すなわち隙間32Gが生じるように、複数のセンサ素子部32を離散的に形成する。複数のセンサ素子部32の外縁32Kは、それぞれ例えば略四角形の平面形状を有するようにする。なお、母基板31Zは、最終的に複数のセンサ基板31となる。
【0035】
次に、
図5Bに示したように、隙間32Gに露出している母基板31Zの表面31FSを掘り下げて溝31Uを形成する。溝31Uの形成には、例えば反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。あるいは、ダイシングブレードを用いて機械的に切削してもよい。その際、母基板31Zに形成される溝31Uの内壁面の輪郭が保護膜322の外縁と実質的に同じ略四角形の平面形状を有するように溝31Uを形成する。但し、溝31Uの幅W31Uが隙間32Gの幅W32Gよりも狭くなるようにする。すなわち、表面31FSに平行な平面視において、センサ素子部32の外縁32Kの全てが溝31Uの壁面よりも内側へ引っ込んだ位置となるように溝31Uを形成する。
【0036】
次に、
図5Cに示したように、センサ素子部32の表面にテープ34を貼り付けたのち、回転する砥石などを用いて母基板31Zの裏面を研磨し、母基板31Zの厚さ方向の一部を全体に亘って除去する。研磨は溝31Uの底面に達するまで行う。こうすることにより、
図5Dに示したように、母基板31Zが複数のセンサ基板31に分割され、個片化されたセンサチップ3が複数形成される。この段階では、個片化された複数のセンサチップ3は、テープ34に貼りついた状態となっている。なお、
図5Dは、
図5Cに示したセンサチップ3およびテープ34の姿勢と天地が反対となっている。
【0037】
次に、
図5Eに示したように、ピックアップコレット35をセンサ基板31の裏面31BSに吸着させた状態で、テープ34の一部をピン36により突き上げることにより、センサチップ3を1つずつピックアップする。
【0038】
そののち、
図5Fに示したように、ボンディングコレット37によりセンサチップ3のセンサ素子部32の表面32FSを吸着保持させると共にピックアップコレット35をセンサ基板31から離脱させる。なお、
図5Fは、
図5Eに示したセンサチップ3の姿勢と天地が反対となっている。
【0039】
次いで、
図5Gに示したように、用意した支持基板2の表面2FSに、センサ基板31の裏面31BSを接着剤などにより接着する。これにより、センサチップ3を支持基板2に固定する。
【0040】
続いて、ポリイミドなどの樹脂により、支持基板2に設けられたセンサチップ3を覆うように配線層4を形成する。そののち、フォトリソグラフィ法により配線層4の一部を選択的に除去し、めっき法などにより配線71,72を形成する。最後に、はんだボール5を形成する。必要に応じて保護膜6を支持基板2の裏面2BSに形成するようにしてもよい。
【0041】
以上により、本実施の形態の角度センサ装置1が完成する。
【0042】
[1.3 作用および効果]
本実施の形態の角度センサ装置1によれば、平面視においてセンサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kと異なった位置にある。このため、平面視においてセンサ素子部32の外縁32Kの位置がセンサ基板31の外縁31Kの位置と一致している場合と比較して、角度センサ装置1に外力が印加された場合の、センサ素子部32の外縁32Kの近傍への応力集中が緩和される。したがって、本実施の形態の角度センサ装置1によれば、センサ素子部32の歪みが緩和され、測定精度への影響を低減することができる。よって、角度センサ装置1は、センサ基板31を薄型化した場合であっても高い測定精度を確保することができる。
【0043】
ところが、仮に、平面視においてセンサ素子部32の外縁32Kの位置がセンサ基板31の外縁31Kの位置と一致している場合、センサ素子部32の外縁32Kの近傍へ応力が集中することになる。このため、例えば製造過程において、
図5Cに示したように母基板31Zを研磨してセンサチップ3を個片化する際に、分割されたセンサ基板31の端部が割れたり欠けたりしてしまうことがある。これに対し本実施の形態では、センサ素子部32の外縁32Kの位置がセンサ基板31の外縁31Kの位置と異なるようにすることで、そのような破損を回避することができる。特に、上記の条件式(2)を満たす場合、すなわち、センサ基板31の厚みがセンサ素子部32の厚みと同じまたは近い値である場合、平面視において外縁32Kの位置と外縁31Kの位置とが一致しているとセンサ基板31の割れや欠けが極めて生じやすい。そこで、本実施の形態の角度センサ装置1のように、平面視においてセンサ素子部32の外縁32Kの全ての位置とセンサ基板31の外縁31Kとが異なるようにすることで、センサ基板31の割れや欠けを効果的に防止することができる。
【0044】
<2.実施例>
(実施例1~8)
次に、
図1などに示した上記一実施の形態の角度センサ装置1の性能について調査した。具体的には、
図3A~3Cなどに示したセンサチップ3を備えた角度センサ装置1について、最大の角度誤差[°]をシミュレーションにより求めた。但し、センサ基板31における長さL1Xおよび長さL1Yをいずれも640μmとし、距離DXおよび距離DYがいずれも2μm以上20μm以下の所定の値となるようにセンサ素子部32における長さL2Xおよび長さL2Yを選択した(
図3Bを参照)。また、センサ基板31の厚さT1をおよびセンサ素子部32の厚さT2をいずれも15μmとした。最大の角度誤差[°]は、センサ基板31の中心位置からX軸方向に300μm、Y軸方向に160μm移動した位置を観測点とし、環境温度Taが150℃から-55℃に変化したときのその観測点におけるX軸方向の圧縮応力σx、Y軸方向の圧縮応力σy、およびXY方向のせん断応力τxyに基づき算出した。なお、センサ基板31の線膨張係数およびセンサ素子部32の線膨張係数はいずれも2.6ppm/Kとした。また、センサ基板31のヤング率およびセンサ素子部32のヤング率はいずれも185GPaとした。
【0045】
(参考例1)
センサ基板31の端面31TSとセンサ素子部32の端面32TSとが厚さ方向に重なり合うようにした(距離DXおよび距離DYをいずれも0μmとした)ことを除き、すなわち平面視においてセンサ基板31の外縁31Kとセンサ素子部32の外縁32Kとが一致するようにしたことを除き、他の条件は実施例1~8と同様のセンサチップ3を備えた角度センサ装置1について実施例1~8と同様に最大の角度誤差[°]をシミュレーションにより求めた。
【0046】
実施例1~8および参考例1におけるシミュレーションにより求めた距離DXおよび距離DYと角度誤差変化量[%]との関係を
図6に示す。角度誤差変化量[%]とは、参考例1における最大の角度誤差[°]を基準値として、その基準値からのずれ量を百分率で表した数値である。したがって、参考例1の角度誤差変化量[%]を0%としており、角度誤差変化量[%]が正の値であれば参考例1の最大の角度誤差[°]よりも大きく、角度誤差変化量[%]が負の値であれば参考例1の最大の角度誤差[°]よりも小さいことを意味する。
【0047】
図6に示した結果から、距離DXおよび距離DYがいずれも0μmより大きく5μm以下の範囲であれば、すなわち、0%<|L1X-L2X|/L1X≦1.56%であり、0%<|L1Y-L2Y|/L1Y≦1.56%であれば、参考例1よりも角度誤差を低減できることがわかった。
【0048】
以上説明した実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態等に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。すなわち、本発明は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0049】
例えば上記実施の形態の角度センサ装置1のセンサチップ3では、表面31FSに平行な平面視において、センサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kよりも内側の位置にある。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。例えば
図7A~7Cに示した本開示の第1変形例としてのセンサチップ3Aのように、表面31FSに平行な平面視において、センサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kよりも外側の位置にあってもよい。さらに、上記実施の形態の角度センサ装置1のセンサチップ3では、表面31FSに平行な平面視において、センサ素子部32の外縁32Kの全ての位置がセンサ基板31の外縁31Kと異なった位置にあるようにしたが、本開示では、センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置がセンサ基板の外縁と異なった位置にあるようにしてもよい。その場合であっても、センサ素子部の外縁の全ての位置がセンサ基板の外縁の位置と一致しているよりもセンサ素子部の外縁の近傍への応力集中が緩和される。
【0050】
また、本願発明は以下のような構成を取り得るものである。
<1>
表面を有するセンサ基板と、前記表面に設けられ、1以上の磁気センサ素子を有するセンサ素子部との積層構造を備え、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁と異なった位置にある
磁気センサ装置。
<2>
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁よりも外側の位置にあり、
または、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部の位置が前記センサ基板の外縁よりも内側の位置にある
上記<1>記載の磁気センサ装置。
<3>
前記表面に沿った第1方向の前記センサ基板の長さをL1とし、前記第1方向の前記センサ素子部の長さをL2としたとき、前記積層構造の外縁の少なくとも一部において下記の条件式(1)を満たす
上記<1>または<2>記載の磁気センサ装置。
0%<|L1-L2|/L1≦1.56% ・・・(1)
<4>
前記表面に沿った第1方向における前記センサ基板の外縁と前記センサ素子部の外縁との距離は、前記積層構造の外縁の少なくとも一部において0μmより大きく5μm以下である
上記<1>から<3>のいずれか1つに記載の磁気センサ装置。
<5>
前記センサ基板の厚さをT1とし、前記センサ素子部の厚さをT2としたとき、下記の条件式(2)を満たす
上記<1>から<4>のいずれか1つに記載の磁気センサ装置。
0.5<(T2/T1)<1.5 ・・・(2)
<6>
前記センサ基板を支持する支持基板をさらに備えた
上記<1>から<5>のいずれか1つに記載の磁気センサ装置。
<7>
前記センサ基板の厚さが200μm以下である
上記<1>から<6>のいずれか1つに記載の磁気センサ装置。
<8>
前記磁気センサ素子はTMR素子である
上記<1>から<7>のいずれか1つに記載の磁気センサ装置。
<9>
一の母基板の表面に、1以上の磁気センサ素子を各々含む複数のセンサ素子部を離散的に形成することと、
前記一の母基板のうちの前記複数のセンサ素子部同士の隙間領域にある隙間部分を前記表面から掘り下げることにより、前記複数のセンサ素子部の各々を取り囲む1以上の溝を設けることと、
前記一の母基板の裏面から前記1以上の溝に達するまで前記一の母基板を研磨することにより、前記一の母基板を複数のセンサ基板に分離することと
を含み、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部が前記溝の壁面よりも外側へ突出した位置となるように前記1以上の溝を形成し、
または、
前記表面に平行な平面視において、前記センサ素子部の外縁の少なくとも一部が前記溝の壁面よりも内側へ引っ込んだ位置となるように前記1以上の溝を形成する
磁気センサ装置の製造方法。
【符号の説明】
【0051】
1…角度センサ装置、2…支持基板、3,3A,3B…センサチップ、31…センサ基板、31FS…表面、31TS(31TS1~31TS4)…端面、32…センサ素子部、321…センサ素子層、322…保護膜、32A~32D…センサ素子群、34…テープ、4…配線層、5…はんだボール、6…保護膜、7…配線群、71,72…配線、8…フルブリッジ回路、9…演算回路。