(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041578
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】トンネル栽培用支柱
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A01G13/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146463
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川北 清司
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024AA10
2B024DB01
2B024EA10
2B024EB02
2B024EB10
(57)【要約】
【課題】トンネル栽培用支柱において、焼きつきが生じにくい支柱を提供する。
【解決手段】芯材30に熱可塑性合成樹脂を含む樹脂組成物が被覆されて被覆層40が形成されたトンネル栽培用支柱10であって、被覆層20の樹脂組成物は、無機物を20~50重量%含有しており、被覆層20の表面粗さRaは1μm以上であり、粗さ曲線のスキューネスは0より小さくなるように構成することによって、支柱10に対するフィルム20の張りつきが抑えられ、支柱10の焼き付きを抑えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材に熱可塑性合成樹脂を含む樹脂組成物が被覆されて被覆層が形成されたトンネル栽培用支柱であって、
前記被覆層の樹脂組成物は、無機物を20~50重量%含有しており、
前記被覆層の表面粗さRaは1μm以上であり、粗さ曲線のスキューネスは0より小さい
ことを特徴とするトンネル栽培用支柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸用に使用されるトンネル栽培用支柱に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル栽培は、畝の上に樹脂被覆した金属管支柱で形成したトンネル型のフレームを作り、フィルムを掛けるものであって、害虫が入るのを防ぎ、保温効果、雨避け等の効果も期待できる。一般に、トンネル栽培用のハウスは、弧状に曲折された複数本の支柱が所定間隔をおいて列設されてトンネル形のフレームを形成し、これらの支柱の上にポリエチレン、ポリプレピレンなどのポリオレフィンやポリ塩化ビニル等の樹脂フィルムからなる覆いが被せられている。
【0003】
トンネル栽培において、内部の気温が上昇しすぎた場合、フィルムの一部をたくし上げて換気し、適温にする必要がある。フィルムをたくし上げた際、フィルムが接触していた支柱の樹脂被覆(被覆層)の箇所で変色している場合があり、支柱の焼き付きと呼ばれる。被覆層の焼き付きは、フィルムの添加物の移行に加えて、高温状態や被覆層の劣化等の要因が複合して生じるものと考えられる。特に、フィルムが軟質ポリ塩化ビニル製である場合、可塑剤等の添加物が比較的多いので、焼き付きが発生しやすい。
【0004】
本出願人においても、トンネル栽培ハウスの骨格を形成するアーチ状の支柱において、芯材の外周面に合成樹脂層が被覆形成されて断面円形の支柱本体となされ、ハウスの覆いをなす樹脂フィルムと接触する合成樹脂層表面に格子状の突起が設けられ、上記格子状の突起が断面円形の支柱本体の長さ方向に対して交差する方向に延びるようになされ、該支柱本体が弧状に曲折されてなるトンネル栽培用支柱を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなトンネル栽培用支柱において、前述のトンネル栽培用支柱は、支柱と樹脂フィルムとの接触面積を少なくすることで、支柱の焼き付きを抑制することができる。しかしながら、この支柱は、通常、金属管を芯材として押出成形により樹脂を被覆することが多いため、被覆樹脂の表面に格子状の突起を形成するためには、特殊な成形装置が必要となる。また、格子状の突起を有するシートを成形して、金属管に貼着する方法もあるが、金属管の長手方向に沿ってシートの継ぎ目が生じる。この支柱は、円弧状に曲げて使用することが一般的であるため、継ぎ目からシートが剥がれるおそれがあった。
【0007】
ところで、支柱の焼き付きは、フィルムと支柱の被覆層とが接触している箇所付近で発生するものであり、両者の密着状態が継続しやすいほど、発生しやすいものと考えられる。つまり、フィルムと支柱との密着状態が継続しやすいほど、支柱の焼き付きが生じやすいものと考えられる。
【0008】
トンネル栽培ハウスにおいて、支柱の上にフィルムを被せているので、部分的に接触しているが、朝方、朝露がフィルムの内側に付着し、その朝露が前記の接触した付近で水膜が形成されて、フィルムと支柱(の被覆層)とが密着した状態が発生することが分かった。水膜は蒸発するまで継続するので、発生した水膜が継続しやすいほど、フィルムと被覆層とが密着した状態が発生し、しかも、晴天時は、朝方から昼に向けて支柱が高温になりやすいことから、フィルム表面に可塑剤等の添加物がブリードアウトしやすい状態となる。水膜が蒸発すれば、密着状態は解消されるが、表面にブリードアウトした添加物が、風等によるフィルムと支柱との物理的接触により支柱側に移行する。この添加物の移行と支柱が高温になることとが繰り返されることによって、支柱に焼き付きが生じやすくなると考えられる。
【0009】
フィルムと支柱との間に水膜が発生しやすい条件として、支柱の被覆層の表面が水になじみやすい、つまり、被覆層の表面粗さが相対的に粗いものが考えられる。しかしながら、鋭意研究の結果、所定の無機物を配合した樹脂を金属管に被覆すると共に、被覆樹脂の表面粗さを所定の特徴を有するものとすることによって、前述の水膜が発生しにくくなり、表面にフィルムが密着しにくくなるトンネル栽培用支柱を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。すなわち本発明に係るトンネル栽培用支柱は、芯材に熱可塑性合成樹脂を含む樹脂組成物が被覆されて被覆層が形成されたトンネル栽培用支柱であって、前記被覆層の樹脂組成物は、無機物を20~50重量%含有しており、前記被覆層の表面粗さRaは1μm以上であり、粗さ曲線のスキューネスは0より小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被覆層の表面粗さを所定の特徴を有するものとすることにより、支柱に対するフィルムの張りつきが抑えられ、支柱の焼き付きを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るトンネル栽培用支柱の実施の一形態を示す正面図である。
【
図3】本発明に係るトンネル栽培用支柱の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図面において、10は本発明に係るトンネル栽培用支柱、20はフィルムであって、このトンネル栽培用支柱10は
図3に示すように複数本所定間隔をおいて設けられており、トンネル栽培用支柱10の上に合成樹脂製のフィルム20を被せてトンネル栽培ハウス100が形成される。なお、
図3における50はトンネル栽培用支柱10の連結ひも、60はフィルム20の端部を止める杭である。
【0015】
図1はトンネル栽培用支柱10の実施の一形態を示す正面図である。トンネル栽培用支柱10は弧状に曲折されており、その両端部が先細り形状となされている。そして
図3に示すように、トンネル栽培用支柱10の両先端部を地面に埋設して使用する。
【0016】
図2は
図1のA-A線拡大断面図である。トンネル栽培用支柱10は、芯材30の外周面に熱可塑性合成樹脂を含む樹脂組成物が被覆されて被覆層40が形成された断面円形となされている。芯材30は、一般に断面円形の鋼線や鋼管等が使用されるが、繊維強化合成樹脂等他の中空又は中実の長尺体が使用されてもよい。
【0017】
被覆層40は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性合成樹脂に無機物が含有された樹脂組成物から形成されたものである。無機物として、本形態では、炭酸カルシウムを用いている。無機物としての炭酸カルシウムの含有率は、20~50重量%である。被覆層40の樹脂組成物としては、白色系に着色されていると太陽光等による熱の吸収を抑えることができる。また、緑色系に着色されていると、栽培される植物の葉の色と同系色となって目立ちにくくなる。芯材30に被覆層40を形成するには、押出成形法によって被覆することが好ましい。
【0018】
フィルム20に用いる合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。なお、被覆層40の樹脂組成物としてポリオレフィン系を用いる場合は、フィルム20に用いる合成樹脂は、ポリ塩化ビニルのような異なる合成樹脂が好ましい。これにより、トンネル栽培用支柱10の焼き付きを抑えやすくなる。
【0019】
次に、本発明に係るトンネル栽培用支柱の実施例を示す。
【0020】
(実施例1)
芯材として、直径12.7mm、厚さ0.5mmの鋼管に対して押出成形法によって樹脂組成物を被覆して被覆層を形成し、長尺の支柱を作成した。樹脂組成物としては、ポリエチレン100重量部に対して、無機組成物(ポリプロピレン17重量%、炭酸カルシウム80重量%、添加物3%)100重量部、白色系顔料を含む顔料組成物6重量部を加えたものである。被覆層の厚さは約0.9mmであった。この支柱を3mの長さに切断し中央部分を250Rの曲率で弧状に曲折しトンネル栽培用支柱とした。なお、樹脂組成物の配合比率は表1に示す。
【0021】
【0022】
(水膜評価)
作成したトンネル栽培用支柱を用いて作成した畝に沿ってほぼ90~100cm毎に立て、その上方から軟質ポリ塩化ビニル製のフィルムを被せてトンネル栽培ハウスを作成した。朝方、朝露がフィルムの内側に付着し、その朝露が前記の接触した付近で水膜が形成された。水膜は気温の上昇とともに解消されるので、晴天或いは曇天日、午前10時以降も継続して水膜が残っている場合は、水膜が残っている判断して評価を「×」、午前10時までに水膜が解消する場合は、水膜が残りにくいと判断して評価を「○」とした。評価結果を表1に示す。
【0023】
(表面粗さの測定)
作成したトンネル栽培用支柱において、被覆層の表面粗さを測定した。表面粗さとして測定した測定パラメータは、算術平均粗さ:Ra及び粗さ曲線のスキューネス:Rskである。測定条件は後述する。測定結果は表1に示す。
【0024】
(表面粗さの測定条件)
機器名:表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密社製)
型式 :サーフコム130A
測定方式:触針式
測定種別:粗さ測定
測定速度:0.300mm/s
カットオフ値:0.250mm
評価長さ:5.0mm
測定レンジ:±40μm
算出規格:ISO4287:1997
傾斜補正:直線
λcフィルタ:ガウシアン
λsフィルタ:カットオフ比300
【0025】
(実施例2)
実施例1に対して、異なる配合比率の樹脂組成物を用いて、同様のトンネル栽培用支柱を作成した。樹脂組成物の配合比率、水膜評価、表面粗さの測定結果を表1に示す。
【0026】
(比較例1)
実施例1に対して、異なる配合比率の樹脂組成物を用いて、同様のトンネル栽培用支柱を作成した。樹脂組成物の配合比率は表1に示す。
【0027】
比較例1は、Rsk値は正の値であるので、山部が少なく、フィルムと被覆層との接触面積は小さいと予想されるが、フィルムと被覆層との間に水分が侵入した場合、Ra値が小さいことと相まって、被覆層の山部とフィルムとの間のみに水膜が生じるというよりは、被覆層の谷部を含めて広範囲に水膜が形成されて水膜が解消されにくい。
【0028】
一方、実施例1及び実施例2は、Rsk値は負の値であるので、山部が多く、フィルムと被覆層との接触面積は大きいと予想されるが、フィルムと被覆層との間に水分が侵入した場合、Ra値が大きいことにより、水分が周囲に拡がりやすい。このため、気温の上昇に伴い、周縁部の水分が蒸発すると、被覆層の谷部を通じて水が周縁部へ伝わりやすく、水膜においても、部分的に谷部の水分が周縁部へ流れて水膜が部分的に途切れた箇所が発生する。そうすると、水膜が形成されていない部分が形成されるため、その付近ではフィルムと被覆層とを密着させる力が弱く剥がれやすくなって、水膜が解消しやすくなると考えられる。
【符号の説明】
【0029】
10 トンネル栽培用支柱
20 フィルム
30 芯材
40 被覆層
50 連結ひも
60 杭
100 トンネル栽培ハウス