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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041580
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電動アクチュエータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240319BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240319BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B60L15/20 J
G05B11/36 B
G05B13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146472
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高松 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】三好 孝典
【テーマコード(参考)】
5H004
5H125
【Fターム(参考)】
5H004GA18
5H004GB12
5H004HB08
5H004JB21
5H004KA47
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE01
5H125EE08
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】電動アクチュエータの制御装置における演算負荷を低減する。
【解決手段】本明細書が開示する制御装置は、駆動対象に伝達機構を介して電動アクチュエータが接続された駆動系において、設定された出力指令値に基づいて電動アクチュエータの動作を制御する。制御装置のプロセッサは、出力指令値を取得する処理と、駆動系をモデル化した運動モデルを用いて出力指令値から駆動対象の運動を推定する処理と、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動を抑制する出力補正値を決定する処理と、出力補正値を用いて出力指令値を補正する処理と、当該補正後の出力指令値に基づいて電動アクチュエータを制御する処理を実行する。運動モデルは、電動アクチュエータに相当する第1剛体と駆動対象に相当する第2剛体が、ばね及びダンパとを介して接続された二体問題のモデルである。二体問題のモデルでは伝達機構に内在するバックラッシュが無視されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象に伝達機構を介して電動アクチュエータが接続された駆動系において、設定された出力指令値に基づいて前記電動アクチュエータの動作を制御する制御装置であって、
前記制御装置は、少なくとも一つのプロセッサを備え、前記プロセッサは、
前記出力指令値を取得する処理と、
前記駆動系をモデル化した運動モデルを用いて、前記出力指令値から前記駆動対象の運動を推定する処理と、
推定された前記駆動対象の前記運動から、前記電動アクチュエータと前記駆動対象との間に生じる相対運動を抑制する出力補正値を決定する処理と、
決定された前記出力補正値を用いて前記出力指令値を補正する処理と、
当該補正後の前記出力指令値に基づいて前記電動アクチュエータの動作を制御する処理と、を実行するように構成されており、
前記運動モデルは、前記電動アクチュエータに相当する第1剛体と、前記駆動対象に相当する第2剛体とが、前記伝達機構に相当するばね及びダンパとを介して接続された二体問題のモデルであり、
前記二体問題のモデルでは、前記伝達機構に内在するバックラッシュが無視されている、
制御装置。
【請求項2】
前記取得する処理では、前記電動アクチュエータの動作速度を検出する動作速度検出部から取得される前記動作速度に基づいて、前記出力指令値が取得される、
請求項1の制御装置。
【請求項3】
前記推定する処理では、前記駆動対象の前記運動を表現する指標として、前記駆動対象に作用する並進力又はモーメントが推定される、
請求項1の制御装置。
【請求項4】
前記決定する処理では、前記推定する処理で推定された前記並進力又はモーメントに、所定のゲインを乗じることによって、前記出力補正値が決定され、
前記補正する処理では、前記出力補正値を前記出力指令値から減じることによって、前記出力指令値が補正される、
請求項3の制御装置。
【請求項5】
前記推定する処理と、前記決定する処理と、前記補正する処理は、閉ループ系を構成しており、
前記所定のゲインは、前記閉ループ系を表現する状態方程式における特性方程式のすべての極が実数となるような値に決定されている、
請求項4の制御装置。
【請求項6】
前記所定のゲインは、前記ダンパの粘性減衰係数を0と仮定した上で決定されている、
請求項5の制御装置。
【請求項7】
前記所定のゲインは、前記第1剛体の質量又はイナーシャと前記第2剛体の質量又はイナーシャを同値と仮定した上で決定されている、
請求項5の制御装置。
【請求項8】
前記駆動系は、電動車用の駆動系であり、
前記電動アクチュエータは、電動モータであり、
前記伝達機構は、前記電動モータに接続された主軸と、前記主軸に接続された少なくとも一つのギア機構と、前記ギア機構に接続された駆動軸と、を備えており、
前記駆動対象は、前記駆動軸に接続される駆動輪である、
請求項1の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、電動アクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動対象に伝達機構を介して電動アクチュエータが接続された駆動系において、設定された出力指令値に基づいて電動アクチュエータの動作を制御する制御装置が記載されている。この制御装置では、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動(例えば、駆動系の振動)を抑制するために、駆動系をモデル化した運動モデルを用いて出力補正値を決定し、その出力補正値を用いて出力指令値を補正している。運動モデルには、電動アクチュエータに相当する第1剛体と、駆動対象に相当する第2剛体とが、伝達機構に相当するばねを介して接続された二体問題のモデルが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2013/157315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置では、駆動系をモデル化した二体問題のモデルにおいて、伝達機構に内在するバックラッシュについても補償されるように構成されている。その結果、当該モデルが比較的に複雑な構造を有しており、制御装置の演算負荷が大きなものとなっている。
【0005】
上記を鑑み、本明細書は、電動アクチュエータの制御装置において、その演算負荷を低減し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する制御装置は、駆動対象に伝達機構を介して電動アクチュエータが接続された駆動系において、設定された出力指令値に基づいて前記電動アクチュエータの動作を制御する。前記制御装置は、少なくとも一つのプロセッサを備える。前記プロセッサは、前記出力指令値を取得する処理と、前記駆動系をモデル化した運動モデルを用いて、前記出力指令値から前記駆動対象の運動を推定する処理と、推定された前記駆動対象の前記運動から、前記電動アクチュエータと前記駆動対象との間に生じる相対運動を抑制する出力補正値を決定する処理と、決定された前記出力補正値を用いて前記出力指令値を補正する処理と、当該補正後の前記出力指令値に基づいて前記電動アクチュエータの動作を制御する処理と、を実行するように構成されている。前記運動モデルは、前記電動アクチュエータに相当する第1剛体と、前記駆動対象に相当する第2剛体とが、前記伝達機構に相当するばね及びダンパとを介して接続された二体問題のモデルである。前記二体問題のモデルでは、前記伝達機構に内在するバックラッシュが無視されている。
【0007】
伝達機構では、伝達機構に内在するバックラッシュに起因して、振動が生じることがある。このため、従来から、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動(例えば、駆動系の振動)を抑制する制御を実行する際には、伝達機構に内在するバックラッシュが考慮されてきた。しかしながら、駆動系の振動源でもある電動アクチュエータの出力を直接的に制御する、いわゆる力制御が実行される場合、伝達機構に内在するバックラッシュは、駆動系の振動にはほとんど寄与しないといえる。
【0008】
上記の構成によれば、制御装置のプロセッサは、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動を抑制する場合、力制御を実行する。さらに上記の構成によれば、一連の処理に用いられる運動モデルにおいて、伝達機構に内在するバックラッシュが無視されている。従って、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動の抑制効果を低減することなく、運動モデルの構造を容易なものとすることができ、制御装置の演算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例に係る電動車1の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施例に係る制御装置4のプロセッサに記憶された運動モデル30を模式的に示す図である。
図3】実施例に係る制御装置4のプロセッサ24が実行する一連の処理を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の代表的かつ非限定的な具体例について、図面を参照して以下に詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、開示された追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された電動アクチュエータの制御装置を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0011】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本発明を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、以下の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、特許請求の範囲に記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0012】
本明細書及び/又は特許請求の範囲に記載された全ての特徴は、実施例及び/又は特許請求の範囲に記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびに特許請求の範囲に記載された特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびに特許請求の範囲に記載された特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0013】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記取得する処理では、前記電動アクチュエータの動作速度を検出する動作速度検出部から取得される前記動作速度に基づいて、前記出力指令値が取得される。
【0014】
駆動系の駆動開始時(例えば、車両の発進時)など、電動アクチュエータの動作速度(例えば、電動モータの回転速度)が比較的小さい場合、比較的大きい出力(例えば、トルク)を要することが予想される。逆に、駆動系の定常駆動時(例えば、車両の高速走行時)など、電動アクチュエータの動作速度が比較的大きい場合、比較的小さい出力で十分であることが予想される。このように、必要とされる出力指令値は、電動アクチュエータの動作速度に応じて変化すると考えられる。上記の構成によれば、出力指令値は、電動アクチュエータの動作速度に基づいた値となる。このため、プロセッサは、電動アクチュエータの動作速度に応じて、必要とされる出力指令値を取得することができる。従って、より精度の高い制御装置を実現することができる。
【0015】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記推定する処理では、前記駆動対象の前記運動を表現する指標として、前記駆動対象に作用する並進力又はモーメントが推定される。
【0016】
駆動対象に作用する並進力又はモーメントは、運動モデルに基づいて、比較的容易に導出することができる。このため、上記の構成によれば、推定する処理を比較的簡易な処理とすることができ、制御装置の演算負荷をさらに低減することができる。
【0017】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記決定する処理では、前記推定する処理で推定された前記並進力又はモーメントに、所定のゲインを乗じることによって、前記出力補正値が決定される。前記補正する処理では、前記出力補正値を前記出力指令値から減じることによって、前記出力指令値が補正される。
【0018】
上記の構成によれば、簡易な演算工程により、出力指令値の補正が行われる。このため、制御装置の演算負荷をさらに低減することができる。
【0019】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記推定する処理と、前記決定する処理と、前記補正する処理は、閉ループ系を構成している。前記所定のゲインは、前記閉ループ系を表現する状態方程式における特性方程式のすべての極が実数となるような値に決定されている。
【0020】
閉ループ系を表現する状態方程式における特性方程式のすべての極が実数となる場合、その閉ループ系は非振動的となる。このため、上記の構成によれば、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動を非振動的にすることができる。
【0021】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記所定のゲインは、前記ダンパの粘性減衰係数を0と仮定した上で決定されている。
【0022】
電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動にダンパが及ぼす影響(伝達機構における減衰力)は、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動にばねが及ぼす影響(伝達機構における弾性力)と比較して、非常に小さいものと想定される。上記の構成によれば、所定のゲインは、ダンパの粘性減衰係数を0と仮定した上で、決定されている。このため、電動アクチュエータと駆動対象との間に生じる相対運動の抑制効果を低減することなく、所定のゲインを容易に決定することができる。
【0023】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記所定のゲインは、前記第1剛体の質量又はイナーシャと前記第2剛体の質量又はイナーシャを同値と仮定した上で決定されている。
【0024】
上記の構成によれば、所定のゲインをさらに容易に決定することができる。
【0025】
1つまたはそれ以上の実施形態において、前記駆動系は、電動車用の駆動系である。前記電動アクチュエータは、電動モータである。前記伝達機構は、前記電動モータに接続された主軸と、前記主軸に接続された少なくとも一つのギア機構と、前記ギア機構に接続された駆動軸と、を備えている。前記駆動対象は、前記駆動軸に接続される駆動輪である。
【0026】
上記の構成によれば、電動車において、電動モータの制御装置における演算負荷を低減することができる。
【0027】
(実施例)
図1に示す電動車1は、駆動系2と、制御装置4と、バッテリ6を備えている。駆動系2は、電動モータ8と、メインシャフト10と、減速機12と、駆動シャフト14と、駆動輪16、18を備えている。バッテリ6は、リチウムイオンバッテリなどの再充電可能なバッテリであり、例えば外部電源によって再充電されるバッテリである。バッテリ6は、制御装置4と電動モータ8に電気的に接続されており、制御装置4と電動モータ8のそれぞれに対して電力を供給する。制御装置4は、電動モータ8の動作を制御する。電動モータ8は、メインシャフト10を回転駆動する電動アクチュエータである。メインシャフト10は、減速機12を介して駆動シャフト14に連結している。駆動シャフト14の両端には、駆動輪16、18が取り付けられている。このように、本実施例の制御装置4は、駆動輪16、18に、メインシャフト10と、減速機12と、駆動シャフト14(以下では、伝達機構と呼ぶ。)を介して電動モータ8が接続された駆動系2において、電動モータ8の動作を制御する制御装置である。
【0028】
電動モータ8は、コイルが巻回されたステータと、永久磁石を備え、ステータに対して回転可能に設けられたロータと、を備えるブラシレスモータである。メインシャフト10は、電動モータ8のロータに固定されている。また、電動モータ8には、ロータの回転(以下では、電動モータ8の回転と呼ぶ。)を検出する回転センサ20が設けられている。
【0029】
制御装置4は、メモリ、ROM、RAM等から構成されるプロセッサ24を備えている。プロセッサ24は、後述する種々の処理を実行することができる。また、プロセッサ24は、電動車1に関し、以下のデータを記憶している。
M:電動車1の質量
Jm:電動モータ8のイナーシャ
Jw:駆動輪16、18のイナーシャ
r:駆動輪16、18の半径
Kd:伝達機構のねじり剛性
Cd:伝達機構の粘性減衰係数
N:減速機12のギア比
【0030】
プロセッサ24は、回転センサ20での検出結果に基づいて、電動モータ8のモータ回転速度ωmを取得している。プロセッサ24は、モータ回転速度ωmに駆動輪16、18の半径rを乗算し、減速機12のギア比Nで除算することにより、電動車1の車速Vを算出している。プロセッサ24は、算出される車速Vと、電動車1におけるアクセルの開度に基づいて、図示しないトルクテーブルを参照して、電動モータ8に対するトルク指令値Tmcを取得可能である。なお、プロセッサ24は、電動車1が動作している間(例えば、電動車1の電源がオンになっている間)、トルク指令値Tmcを繰り返し取得し、更新するように構成されている。本明細書では、プロセッサ24がトルク指令値Tmcを取得する処理を、単に「取得する処理」と呼ぶ。
【0031】
プロセッサ24は、駆動系2をモデル化した、図2に示す運動モデル30を記憶している。運動モデル30には、電動モータ8に相当する第1剛体32と、駆動輪16、18に相当する第2剛体34とが、伝達機構に相当するばね36及びダンパ38とを介して接続された二体問題のモデルが採用されている。運動モデル30では、駆動輪16、18を合わせて一つの剛体とみなしている。運動モデル30では、伝達機構に内在するバックラッシュが無視されている。従って、運動モデル30における運動方程式は、以下の通りに記述される。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)から式(5)における各パラメータは、以下の通りである。
ωm:第1剛体32の回転速度(電動モータ8の回転速度)
ωw:第2剛体34の回転速度(駆動輪16、18の回転速度)
Tm:第1剛体32のトルク(電動モータ8のトルク)
Tw:第2剛体34のトルク(駆動輪16、18のトルク)
F:駆動輪16、18の駆動力
θ:ばねのねじり角
Δω:モータ回転速度ωmと駆動輪回転速度ωwの相対速度差
【0034】
電動車1の車速VはV=r・ωwとも表される。このため、駆動輪16、18の駆動力Fは、電動車1の運動方程式を考慮すると、以下の式(6)の通りに表される。
【0035】
【数2】
【0036】
また、式(1)から式(6)に従って、ラプラス演算子sを用いることで、電動モータ8のトルクTmから駆動輪16、18のトルクTwまでの伝達関数G(s)を導出することができる。本明細書では、伝達関数G(s)の導出過程および導出結果については、省略している。
【0037】
運動モデル30では、この伝達関数G(s)が予め導出されている。このため、プロセッサ24は、電動モータ8のトルクTmに基づいて、駆動輪16、18のトルクTwを推定することができる。本実施例では、プロセッサ24は、トルク指令値Tmc(または、後述する補正後のトルク指令値Tmc’)を電動モータ8のトルクTmとみなして、駆動輪16、18のトルクTwを推定するように構成されている。本明細書では、プロセッサ24が駆動輪16、18のトルクTwを推定する処理を、単に「推定する処理」と呼ぶ。
【0038】
プロセッサ24は、推定する処理で推定された駆動輪16、18のトルクTwに、所定のゲインKfb(詳細は後述する)を乗じることによって、トルク補正値Tfbを決定する。本明細書では、プロセッサ24がトルク補正値Tfbを決定する処理を、単に「決定する処理」と呼ぶ。
【0039】
プロセッサ24は、決定する処理で決定されたトルク補正値Tfbをトルク指令値Tmcから減じることによって、トルク指令値Tmcを補正する。本明細書では、プロセッサ24がトルク指令値Tmcを補正する処理を、単に「補正する処理」と呼ぶ。なお、補正後のトルク指令値Tmc’は、以下の式(7)の通りである。
【0040】
【数3】
【0041】
ここで、所定のゲインKfbは、微分オペレータと定数ゲインKが組み合わされた、いわゆる微分ゲインである。すなわち、補正後のトルク指令値Tmc’は、トルク指令値TmcからTwの時間微分値をK倍したものを差し引くことによって得られる。
【0042】
プロセッサ24は、このようにして得られた補正後のトルク指令値Tmc’に基づいて、電動モータ8の動作を制御するように構成されている。本明細書では、この処理を、単に「制御する処理」と呼ぶ。
【0043】
以上、プロセッサ24が実行する一連の処理は、図3に示す通りである。以下では、前述の所定のゲインKfbを決定する方法について説明を行う。
【0044】
プロセッサ24が実行する一連の処理のうち、推定する処理と、決定する処理と、補正する処理は、入力値であるトルク指令値Tmcに対して出力値である駆動輪16、18のトルクTwの推定値をフィードバックする、閉ループ系を構成している。この閉ループ系の状態方程式は、式(1)から式(7)より、以下の式(8)の通りに表される。
【0045】
【数4】
【0046】
ただし、式(8)中の各パラメータは、以下の式(9)から式(14)の通りである。
【0047】
【数5】
【0048】
状態方程式(8)の特性方程式は、ラプラス演算子sを用いることで、式(15)の通りに表される。なお、本実施例では、伝達機構の粘性減衰係数Cdを0と仮定し、電動モータ8のイナーシャJmと駆動輪16、18のイナーシャJwを同値(=J)と仮定することで、式(15)を式(16)のように簡易化している。
【0049】
【数6】
【0050】
この特性方程式(16)の値が0となるときのsは、閉ループ系の極である。従って、閉ループ系の極を求める式は、以下の式(17)の通りである。そして、式(17)を解くことにより、閉ループ系の極は、式(18)の通りに求まる。
【0051】
【数7】
【0052】
閉ループ系の極が複素極を含む場合、すなわち閉ループ系は振動成分を含むことになる。従って、閉ループ系を非振動的にするには、式(18)のルート内が実数となるような値に定数ゲインK(すなわち所定のゲインKfb)を設定すればよいことが分かる。従って、定数ゲインK(すなわち所定のゲインKfb)は、式(19)を満足する値に決定される。
【0053】
【数8】
【0054】
また、非振動的な特性を示す極のうち、応答が最速となるのは、極が重根のときである。このため、本実施例では、応答性も考慮して、式(19)の左辺の値を0とするような値に定数ゲインK(すなわち所定のゲインKfb)を決定している。従って、本実施例では、K=2√d/f√Kと決定される。
【0055】
(変形例)
上記の実施例では、電動車1が、原動機として電動モータ8のみを備え、電動モータ8の動力源として、外部電源によって再充電されるバッテリ6を備える、いわゆる電気自動車(EV)である構成について説明した。別の実施例では、電動車1は、原動機として電動モータ8及び内燃機関を備え、電動モータ8の動力源として、内燃機関の駆動によって再充電されるバッテリを備える、いわゆるハイブリッド自動車(HV)であってもよい。さらに別の実施例では、電動車1は、原動機として電動モータ8及び内燃機関を備え、電動モータ8の動力源として、外部電源によって再充電されるバッテリを備える、いわゆるプラグインハイブリッド自動車(PHV)であってもよい。さらにまた別の実施例では、電動車1は、原動機として電動モータ8のみを備え、電動モータ8の動力源として、車体に内蔵された燃料電池によって再充電されるバッテリを備える、いわゆる燃料電池自動車(FCV)であってもよい。
【0056】
上記の実施例では、制御装置4が、電動車1の駆動系2において、電動モータ8の動作を制御する制御装置である構成について説明した。別の実施例では、制御装置4は、電動車1以外の駆動系(例えば、電動航空機の駆動系)において、電動モータ8の動作を制御する制御装置であってもよい。この場合、駆動対象は、駆動輪16、18ではなく、プロペラであってもよい。さらに別の実施例では、制御装置4は、電動モータ8以外の電動アクチュエータ(例えば、ソレノイドやリニアアクチュエータ)の動作を制御する制御装置であってもよい。
【0057】
上記の実施例では、2つの駆動輪16、18に対して、1つの電動モータ8が接続される構成について説明した。別の実施例では、2つの駆動輪16、18に対して、別個の2つの電動モータが接続されていてもよい。この場合、駆動輪16、18のそれぞれは、メインシャフト10や減速機12を介することなく、駆動シャフト14のみを介して、別個の電動モータに接続していてもよい。また、制御装置4は、2つの電動モータを、互いに独立して制御するように構成されていてもよい。
【0058】
上記の実施例では、所定のゲインKfbを決定する際、伝達機構の粘性減衰係数Cdを0と仮定し、電動モータ8のイナーシャJmと駆動輪16、18のイナーシャJwを同値(=J)と仮定する構成について説明した。別の実施例では、所定のゲインKfbを決定する際、伝達機構の粘性減衰係数Cdを0と仮定しなくてもよいし、電動モータ8のイナーシャJmと駆動輪16、18のイナーシャJwを同値(=J)と仮定しなくてもよい。
【0059】
上記の実施例では、所定のゲインKfbが、式(18)の右辺第2項の値を0とするような値に決定される構成について説明した。別の実施例では、所定のゲインKfbの値は、式(19)が満足される範囲内で、適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :電動車
2 :駆動系
4 :制御装置
6 :バッテリ
8 :電動モータ
10 :メインシャフト
12 :減速機
14 :駆動シャフト
16 :駆動輪
18 :駆動輪
20 :回転センサ
24 :プロセッサ
30 :運動モデル
32 :第1剛体
34 :第2剛体
36 :ばね
38 :ダンパ
図1
図2
図3