(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041591
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】金属含有樹脂成形品、および、その成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20240319BHJP
B29B 9/16 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B29C45/00
B29B9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146489
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】512019295
【氏名又は名称】森保染色株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】早川 典雄
【テーマコード(参考)】
4F201
4F206
【Fターム(参考)】
4F201AA03
4F201AA13
4F201AA24
4F201AA29
4F201AC01
4F201AD33
4F201BA02
4F201BC02
4F201BD04
4F201BD05
4F201BL42
4F201BL47
4F206AA03
4F206AA13
4F206AA24
4F206AA29
4F206AB16
4F206AC01
4F206JA07
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】合成樹脂中に金属を均一に分散させることが可能であり、成形品の特性を高く保持することが可能な金属含有樹脂成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】チップ状のABS樹脂を、クロム酸と硫酸とを所定の割合で混合して所定の温度に加熱した浴内で所定の時間に亘って浸漬させることによって、ABS樹脂の表面にエッチング処理を施した。しかる後、そのエッチング処理を施したABS樹脂の表面に、無電解めっき法によって銀をめっきした。そして、その金属(銀)めっき後のチップ状のABS樹脂を、溶融押出装置を利用して所定の温度で溶融押出した後に、金属製の型に射出することによって、直方体状の成形品を得た。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂中に金属を分散させてなる金属含有樹脂成形品を成形するための成形方法であって、
溶融押出しする前のチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる金属付着工程を有することを特徴とする金属含有樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記金属付着工程が、めっきによってチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させるものであるとともに、
金属を付着させる前のチップ状の合成樹脂の表面をエッチングするエッチング工程を有することを特徴とする請求項1に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記チップ状の合成樹脂の表面に付着させる金属として銀または銅を用いることを特徴とする請求項1、または2に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記合成樹脂として、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン、ポリエステルの内の1種、あるいはそれらの内の2種以上の混合物を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属含有樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの成形方法によって成形されたことを特徴とする金属含有樹脂成形品。
【請求項6】
合成樹脂中に金属が分散してなる金属含有樹脂成形品であって、
任意の断面で裁断した場合に、当該断面における1~200μmの長径を有する金属凝集物の存在割合が5~50個/mm2であることを特徴とする金属含有樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂中に金属を分散させてなる金属含有樹脂成形品、および、その金属含有樹脂成形品を成形するための成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の合成樹脂製の成形品を成形するための方法として、合成樹脂を溶融押出しして金型に流し込んで成形する射出成形方法や、合成樹脂を溶融させてノズルやダイスから押出すことによって繊維やフィルムを成形する方法が知られている。また、そのように合成樹脂を溶融押出しする方法で合成樹脂製の成形品を成形する際には、合成樹脂製の成形品の改質や装飾性の付与等の目的で、合成樹脂原料中に微細な金属粉末を分散させることもある(特許文献1)。
【0003】
そして、そのように成形品の合成樹脂中に金属微粉末を分散させるための方法としては、合成樹脂と金属微粉末とを混合してなる混合組成物を溶融・混練して金属微粉末を分散させた合成樹脂を調製し、その金属微粉末を分散させた合成樹脂を溶融押出しすることにより成形品を成形する方法(以下、混合組成物溶融・混練法という)や、金属微粉末を添加したモノマーを用いて合成樹脂を重合し、その金属微粉末を添加してなる合成樹脂を溶融押出しすることにより成形品を成形する方法(以下、重合時金属添加法という)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した混合組成物溶融・混練法では、合成樹脂中に金属微粉末を均一に分散させることが困難であるため、添加した金属微粉末の偏在によって成形品の特性(たとえば、曲げ強度等の機械的な特性)を低下させてしまう、という不具合があった。一方、重合時金属添加法では、合成樹脂中に金属微粉末をある程度均一に分散させることが可能であるものの、一度に多くの樹脂を重合しなければロスが大きくなってしまうため、成形品のラインナップに合わせて、合成樹脂中に分散させる金属微粉末の種類や量を変更するのが難しい、という不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来の金属含有樹脂成形品の成形方法の問題点を解消し、合成樹脂中に金属を均一に分散させることが可能であり、成形品の特性を高く保持することが可能である上、成形品のラインナップに合わせて、合成樹脂中に分散させる金属の種類や量を容易に変更することが可能な金属含有樹脂成形品の成形方法を提供することにある。また、合成樹脂中に金属が均一に分散しているため、合成樹脂本来の特性にきわめて近い特性を発現させることが可能な金属含有樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、合成樹脂中に金属を分散させてなる金属含有樹脂成形品を成形するための成形方法であって、溶融押出しする前のチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる金属付着工程を有することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記金属付着工程が、めっきによってチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させるものであるとともに、金属を付着させる前のチップ状の合成樹脂の表面をエッチングするエッチング工程を有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記チップ状の合成樹脂の表面に付着させる金属として銀を用いることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載された発明は、請求項1~3のいずれかに記載された発明において、前記合成樹脂として、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン、ポリエステルの内の1種、あるいはそれらの内の2種以上の混合物を用いることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載された発明は、請求項1~4のいずれかの成形方法によって成形されたことを特徴とする金属含有樹脂成形品である。
【0012】
請求項6に記載の金属含有樹脂成形品は、合成樹脂中に金属が分散してなる金属含有樹脂成形品であって、任意の断面で裁断した場合に、当該断面における1~200μmの長径を有する金属凝集物の存在割合が5~50個/mm2であることを特徴とするものである。なお、1~200μmの長径を有する金属凝集物の存在割合が5~30個/mm2であるとより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法によれば、表面に金属が付着されたチップ状の合成樹脂を単独で、あるいは、金属が付着されていないブランクのチップ状の合成樹脂と混合して溶融押出するだけで、合成樹脂中に金属を均一に分散させることが可能となる。したがって、請求項1に記載の成形方法によれば、合成樹脂中に金属が均一に分散しており、原料である合成樹脂の本来の特性が高く保持された金属含有樹脂成形品を得ることが可能となる。また、請求項1に記載の成形方法によれば、成形品のラインナップに合わせて、合成樹脂中に分散させる金属の種類や量を容易に変更することができる。加えて、請求項1に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法によれば、成形後の合成樹脂中にCu,Ni,Ag等の金属を均一に分散させることによって、成形後の合成樹脂の表面にもCu,Ni,Ag等の金属を多く析出させることが可能となるため、合成樹脂製の成形品に抗菌機能、除菌機能を発現させることも可能である。
【0014】
請求項2に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法によれば、エッチング後のチップ状の合成樹脂の表面にめっきすることでより多くの金属を付着させることができるため、合成樹脂成形品中により多くの金属を均一に分散させることが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法は、合成樹脂中に分散させる金属が銀または銅であるため、金属の添加量が少ないにも拘わらず高い抗菌性および静電気除去特性を有する金属含有樹脂成形品を得ることができる。
【0016】
請求項4に記載の金属含有樹脂成形品の成形方法によれば、チップ状の合成樹脂の表面に容易に金属を付着させることができるため、多くの金属を均一に添加してなる金属含有樹脂成形品をより安価に製造することができる。
【0017】
請求項5に記載の金属含有樹脂成形品は、合成樹脂中に金属が均一に分散しているため、合成樹脂本来の特性にきわめて近い特性を発現させることができる。
【0018】
請求項6に記載の金属含有樹脂成形品は、合成樹脂中に大きな金属凝集物がほとんど存在しないので、合成樹脂本来の特性(良好な耐久強度等)を発現させることができる上、通常の合成樹脂製の成形品と変わらない外観を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例において得られた成形品(金属めっき後に溶融押出し成形されたもの)の断面の電子顕微鏡(SEM)による拡大写真(約139倍)である。
【
図2】実施例において得られた成形品(金属めっき後に溶融押出し成形されたもの)の断面の電子顕微鏡(SEM)による拡大写真(約2,219倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る金属含有樹脂成形品の成形方法は、予め金属を付着させた合成樹脂原料を溶融押出しすることによって成形品を形成するものであり、金属を付着させた合成樹脂原料を溶融させて金型内に射出して成形する射出成形方法の他に、金属を付着させた合成樹脂原料を溶融させてノズルやダイスから押し出して繊維、フィルムやシートを成形する成形方法等も含まれる。
【0021】
本発明に係る成形方法は、合成樹脂原料を溶融押出しする前に、合成樹脂原料を、一旦、チップ状(ペレット状)に形成し、そのチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる工程(すなわち、金属付着工程)を有していることを特徴としている。すなわち、本発明に係る成形方法は、従来の金属含有樹脂成形品を成形する場合のように、重合時に金属を添加してなる合成樹脂原料を用いる方法や、重合した後のチップ状の合成樹脂原料を溶融させて押し出す際に金属粉末と混合する方法とは異なり、重合後にチップ状にした合成樹脂の表面に金属を付着させて、その金属を付着させた合成樹脂チップを溶融押出して成形に供することを特徴としている。
【0022】
上記の如く、金属を付着させたチップ状の合成樹脂を溶融押出しして成形に供することによって、金属を合成樹脂中に高い均一性で(凝集を存在させることなく)分散させることが可能となる。そのため、本発明に係る成形方法によれば、原料である合成樹脂本来の良好な特性(機械的特性、熱的特性、電気的特性等)が損なわれていない金属含有樹脂成形品を得ることが可能となる。
【0023】
本発明に係る成形方法に用いられる合成樹脂は、溶融押出しが可能なものであれば特に限定されず、通常の成形に使用されるポリスチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ABS樹脂等の汎用性の高い合成樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアプラスチック、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系等の各種の熱可塑性エラストマーやアイオノマー等を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができ、それらの合成樹脂の一部を変性した変性物を用いることも可能である。また、合成樹脂として、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン、ポリエステルの内の1種、あるいはそれらの内の2種以上の混合物を用いると、チップ状の合成樹脂の表面に容易に金属を付着させることができるため、多くの金属を均一に分散させてなる金属含有樹脂成形品をより安価に製造することができる。
【0024】
さらに、チップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる方法も、特に限定されず、金属をめっきする方法、コーティングする方法や蒸着する方法等を用いることができる。また、めっきする方法としては、置換めっき、電気めっき、無電解めっき等の各種の湿式のめっき処理方法を好適に用いることができる。一方、金属を蒸着する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法(IP法)や気相成長法(PVD法)を好適に用いることができる。それらの金属蒸着方法を用いると、チップ状の合成樹脂の表面に均一な蒸着膜を形成することができ、最終的な金属含有樹脂成形品における金属の分散性をより高いものとすることが可能となるので好ましい。また、金属による化学反応を利用した無電解めっき方法を用いると、合成樹脂の表面に付着させる金属層の厚みを容易に厚くすることができるため、多くの金属を合成樹脂中に含有させることが可能となるので好ましい。
【0025】
上記した金属めっきや金属蒸着によってチップ状の合成樹脂の表面に形成する金属膜の厚みは、特に限定されないが、0.01~10μmの範囲に調整すると、最終的な金属含有樹脂成形品における金属の分散性を一段と高いものとし、曲げ強度を向上させる、すなわち製品肉厚を低減させることが可能となるので好ましい。
【0026】
また、金属を付着させる合成樹脂のチップの形状も、特に限定されないが、円柱状や楕球状のものであると、金属付着工程の実施時に金属を多く付着させ易いので好ましい。また、金属を付着させる合成樹脂のチップの大きさも、特に限定されないが、体積(平均の体積)が3~30mm3であると、溶融押出し後の金属の分散性が良好なものとなるので好ましく、5~20mm3であると、特に好ましい。合成樹脂のチップの体積が、3mm3を下回ると、金属を付着させる際に斑が生じ易くなり、溶融押出し後の金属の分散性が低下するので好ましくなく、反対に、30mm3以上になった場合でも同様に、溶融押出し後の金属の分散性が低下するので好ましくない。
【0027】
さらに、上記の如く、金属めっきや金属蒸着によってチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる前には、チップ状の合成樹脂の表面に、エッチング(粗面化処理)を施すのが好ましい。エッチングの方法は、特に限定されず、液体を用いたウェットエッチングや、反応性のガスを用いたドライエッチングを好適に用いることができる。また、液体を用いたウェットエッチングをチップ状の合成樹脂の表面に施す場合には、合成樹脂の種類に応じて、酢酸、塩酸等の各種の酸の一種あるいは二種以上の混合物や、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリの一種あるいは二種以上の混合物を選択して用いることができる。
【0028】
また、チップ状のABS樹脂の表面に金属めっきを施す場合には、クロム酸、硫酸を用いてエッチングするのが好ましく、エッチングした後にめっき処理(無電解めっき等)を施す前に、中和(クロム酸の除去等)、キャタリスト(パラジウム等の触媒の付与)、アクセレーター(キャタリスト処理によって吸着されたスズ-パラジウムコロイドの内のスズの除去等)を施すのが好ましい。
【0029】
さらに、上記の如く、金属めっきによってチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる場合には、金属めっき処理を多数回繰り返すことによって、多層の金属層をチップ状の合成樹脂の表面に積層させることも可能である。また、そのように、多層の金属層をチップ状の合成樹脂の表面に積層させる場合には、2回目以降の金属めっき処理を施す前のチップ状の合成樹脂の表面に、塩酸、硫酸等を用いた活性化処理を施すことも可能である。
【0030】
また、本発明に係る金属含有樹脂成形品の成形方法においては、原料である合成樹脂中に、必要に応じて、各種の充填材、難燃剤、抗菌剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を添加することも可能である。
【実施例0031】
以下、実施例・比較例によって本発明に係る金属含有樹脂成形品およびその成形方法について詳細に説明するが、本発明に係る金属含有樹脂成形品およびその成形方法は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することが可能である。また、実施例および比較例における特性の評価方法は以下の通りである。
【0032】
<成形品の曲げ強度の変動率>
各実施例・各比較例で得られた金属含有樹脂成形品の曲げ強度(Sm)を、試験温度23℃の条件で、精密万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名:オートグラフAG-5000B)を用いて、JIS K 7171(2016)に準拠した方法によって測定した。なお、測定条件は以下の通りとした。
・ポンチ半径:5mm
・支点半径:2mm
・支点間距離:16h(h=試料の厚み)
また、金属を含有していない樹脂成形品(金属含有樹脂成形品と同一のABS樹脂、PETによって成形されたもの)の曲げ強度(Sb)を、同様の方法によって測定した。そして、下式1を用いて、曲げ強度の低下率を測定した。
Db=(Sm-Sb)/Sb×100(%) ・・式1
【0033】
<金属の分散状態>
各実施例・各比較例で得られた金属含有樹脂成形品における金属の分散状態を、拡大率10倍のルーペを用いて目視によって下記の4段階で官能評価した。
○:成形品中に金属の凝集が見られず、均一に分散している
△:成形品中に小さな金属の凝集がわずかに散点状に認められる
×:成形品中に多数の金属の凝集が認められる
【0034】
[実施例1]
<金属めっきした合成樹脂の調製>
テクノUMG社製のチップ状のABS樹脂 約5.0kgを、420g/lのクロム酸と200ml/lの硫酸とを混合して70℃に加熱した浴内で10分間に亘って浸漬させることによって、ABS樹脂の表面にエッチング処理を施した。なお、ABS樹脂は、略円柱形状のチップ状に形成されており、直径(平均直径)=約2.0mmであり、高さ(平均高さ)=約3.0mmであった(平均体積=9.42mm3)。しかる後、(・・・社製の・・・装置を用いて)無電解めっき法によって、強酸性タイプの無電解 置換型 銀めっき浴を用いて、エッチング処理を施したABS樹脂の表面に銀をめっきした。なお、無電解めっきの時間を調整することによって、めっき量(表面への付着量)が合成樹脂に対して、5,000ppm(0.5質量%)となるように調整した。
【0035】
<金属めっきした合成樹脂を用いた射出成形>
上記の如く得られた金属(銀)めっき後のチップ状のABS樹脂を、溶融押出装置を利用して120℃の温度で溶融押出した後に、金属製の型に射出することによって、長さ×幅×厚さ=80mm×10mm×4mmの直方体状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、上記した方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0036】
[実施例2]
エッチング処理を施したチップ状のABS樹脂の表面にめっきする金属をCuに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属(Cu)めっき後のチップ状のABS樹脂を得た。なお、Cuめっきの際には、強酸性タイプの無電解 置換型 胴めっき浴を用いた。しかる後、得られた金属(Cu)めっき後のABS樹脂を用いて、実施例1と同様な射出成形方法によって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。また、得られた成形品(金属めっき後に溶融押出し成形されたもの)の断面(長手方向に沿った断面)の電子顕微鏡(SEM)による拡大写真を
図1、
図2に示す(
図1は、約139倍の拡大写真であり、
図2は、約2,219倍の拡大写真である)。それらの写真から、得られた成形品においては、80%以上の個数の金属(Cu)粒子の長軸が、溶融押出し時の樹脂の流れ方向(写真における左右方向)を向いている(±10°の範囲で樹脂の流れ方向に沿っている)ことが分かる。
【0037】
[実施例3]
エッチング処理を施したチップ状のABS樹脂の表面にめっきする金属をNiに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属(Ni)めっき後のチップ状のABS樹脂を得た。なお、Niめっきの際には、強酸性タイプの無電解 置換型 ニッケルめっき浴を用いた。しかる後、得られた金属(Ni)めっき後のABS樹脂を用いて、実施例1と同様な射出成形方法によって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0038】
[実施例4]
クラレ社製のチップ状のPET(ポリエチレンテレフタレート) 5.0kgを、実施例1と同一の浴内で10分間に亘って浸漬させることによって、PETの表面にエッチング処理を施した。なお、PET樹脂は、略円柱形状のチップ状に形成されており、直径(平均直径)=約2.0mmであり、高さ(平均高さ)=約3.0mmであった。しかる後、(・・・社製の・・・装置を用いて)無電解めっき法によって、強酸性タイプの無電解 置換型 銀めっき浴を用いて、エッチング処理を施したPETの表面に銀をめっきした。なお、無電解めっきの時間を調整することによって、めっき量(表面への付着量)が合成樹脂に対して、8,000ppm(0.8質量%)となるように調整した。
【0039】
そして、得られた金属(Ag)めっき後のPET樹脂を、実施例1と同じ溶融押出装置を利用して265℃の温度で溶融押出した後に、実施例1と同じ金属製の型に射出することによって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0040】
[実施例5]
エッチング処理を施したチップ状のPETの表面にめっきする金属をCuに変更した以外は、実施例4と同様にして、金属(Cu)めっき後のチップ状のPETを得た。なお、Cuめっきの際には、強酸性タイプの無電解 置換型 胴めっき浴を用いた。しかる後、得られた金属(Cu)めっき後のPETを用いて、実施例1と同様な射出成形方法によって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0041】
[実施例6]
エッチング処理を施したチップ状のPETの表面にめっきする金属をNiに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属(Ni)めっき後のチップ状のPETを得た。なお、Niめっきの際には、強酸性タイプの無電解 置換型 ニッケルめっき浴を用いた。しかる後、得られた金属(Ni)めっき後のPETを用いて、実施例1と同様な射出成形方法によって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同じチップ状のABS樹脂 約5.0kgと、銀粉末25gとを容器内で十分に撹拌混合した。しかる後、その混合組成物を、実施例1と同じ溶融押出装置を利用して120℃の温度で溶融押出した後に、実施例1と同じ金属製の型に射出することによって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0043】
[比較例2]
実施例1と同じチップ状のABS樹脂 約5.0kgと、Ni粉末25gとを容器内で十分に撹拌混合した。しかる後、その混合組成物を、実施例1と同じ溶融押出装置を利用して120℃の温度で溶融押出した後に、実施例1と同じ金属製の型に射出することによって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0044】
[比較例3]
実施例4と同じチップ状のPET 約5.0kgと、銀粉末50gとを容器内で十分に撹拌混合した。しかる後、その混合組成物を、実施例1と同じ溶融押出装置を利用して265℃の温度で溶融押出した後に、実施例1と同じ金属製の型に射出することによって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0045】
[比較例4]
実施例4と同じチップ状のPET 約5.0kgと、Ni粉末25gとを容器内で十分に撹拌混合した。しかる後、その混合組成物を、実施例1と同じ溶融押出装置を利用して265℃の温度で溶融押出した後に、実施例1と同じ金属製の型に射出することによって、実施例1と同じ形状の成形品を得た。そして、得られた成形品を用いて、実施例1と同様な方法によって、曲げ強度の低下率および金属の分散状態を評価した。評価結果を成形原料の特性・溶融押出しの条件とともに表1に示す。
【0046】
【0047】
表1から、溶融押出しする前のチップ状の合成樹脂の表面に金属を付着させる工程(金属付着工程)を備えた成形方法によって成形された実施例1~6の合成樹脂成形品は、いずれも、金属の分散性が良好であり(すなわち、金属が高い均一性で合成樹脂中に分散しており)、その結果として、曲げ強度の低下率が低くなっていることが分かる。それに対して、金属付着工程を備えていない成形方法によって成形された比較例1~4の合成樹脂成形品は、いずれも、金属の分散性が不良であり(すなわち、合成樹脂中に金属の凝集が散点しており)、その結果として、曲げ強度が高くなっていることが分かる。
本発明に係る金属含有樹脂成形品の成形方法は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、各種の合成樹脂成形品(金属を含有したもの)を成形するための方法として好適に用いることができる。