(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041601
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】車両用灯具システム、制御装置、照射状態抑制方法、プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20240319BHJP
F21S 41/153 20180101ALI20240319BHJP
F21S 41/663 20180101ALI20240319BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
F21S41/153
F21S41/663
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146513
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】永井 輝
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 伽那
(72)【発明者】
【氏名】中村 紗希
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA02
3K339BA21
3K339BA25
3K339BA30
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA05
3K339DA10
3K339GB01
3K339JA21
3K339JA22
3K339KA06
3K339KA07
3K339KA09
3K339KA27
3K339KA39
3K339LA06
3K339LA31
3K339LA33
3K339MA01
3K339MB05
3K339MC04
3K339MC05
3K339MC06
3K339MC14
3K339MC16
3K339MC23
3K339MC29
3K339MC35
3K339MC90
(57)【要約】
【課題】新たな灯具を提供する。
【解決手段】車両用灯具システムは、自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具と、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて一部の照射領域への照射状態を抑制するように車両用灯具を制御可能な制御部と、を備える。制御部は、基準時間に新たに取得した位置情報と、基準時間までの所定期間に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具と、
前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて前記一部の照射領域への照射状態を抑制するように前記車両用灯具を制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、
基準時間に新たに取得した前記位置情報と、前記基準時間までの所定期間に取得した複数の前記位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、前記基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出することを特徴とする車両用灯具システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記予測位置を含む一部の照射領域への照射状態を抑制するように前記車両用灯具を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項3】
前記車両用灯具は、前記ハイビーム用配光パターンの車幅方向に100以上に分割された照射領域への照射状態をそれぞれ切り替え可能な光源を有することを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記基準時間までの所定期間において、前方車のi+1(i=1~n)回目の位置情報と前方車のi回目の位置情報との差分が正の場合の数と負の場合の数をそれぞれカウントするカウント部と、
前記差分が正の場合のカウント数C1と、前記差分が負の場合のカウント数C2とに基づいて前方車が走る走行路がカーブか否かを判定する走行路判定部と、を有し、
前記走行路判定部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合に前記走行路がカーブであると判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用灯具システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記予測位置を算出する際に用いる前記位置変化量の重み付け係数を、前記走行路がカーブか否かで異ならせることを特徴とする請求項4に記載の車両用灯具システム。
【請求項6】
前記制御部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合に用いる前記位置変化量の重み付け係数D1が、|C1-C2|≦Aの場合に用いる前記位置変化量の重み付け係数D2より大きいことを特徴とする請求項5に記載の車両用灯具システム。
【請求項7】
前記制御部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合の前記位置変化量の算出に用いる所定期間T1が、|C1-C2|≦Aの場合に用いる前記位置変化量の算出に用いる所定期間T2より短いことを特徴とする請求項5に記載の車両用灯具システム。
【請求項8】
自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を制御する制御装置であって、
前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて前記一部の照射領域への照射状態を抑制するように前記車両用灯具を制御可能な制御部を有し、
前記制御部は、
基準時間に新たに取得した前記位置情報と、前記基準時間までの所定期間に取得した複数の前記位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、前記基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出することを特徴とする制御装置。
【請求項9】
自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて前記一部の照射領域への照射状態を抑制するように制御する照射状態抑制方法であって、
基準時間に新たに取得した前記位置情報と、前記基準時間までの所定期間に取得した複数の前記位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、前記基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出するステップを有することを特徴とする照射状態抑制方法。
【請求項10】
自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて前記一部の照射領域への照射状態を抑制するように制御する制御部に実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムは、前記制御部に、
基準時間に新たに取得した前記位置情報と、前記基準時間までの所定期間に取得した複数の前記位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、前記基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出するステップを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて前記一部の照射領域への照射状態を抑制するように制御する制御部に実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記プログラムは、前記制御部に、
基準時間に新たに取得した前記位置情報と、前記基準時間までの所定期間に取得した複数の前記位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、前記基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出するステップを実行させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具システムやそれを制御する様々な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイビームを形成する配光パターンを複数に分割して、その一部を点灯可能とすると共に、ロービーム用配光パターンに付加的に追加することで、ハイビームの一部が非照射となる配光パターンを形成する車両用灯具システムが考案されている(特許文献1)。このような車両用灯具システムの場合、グレアを考慮すべき前方車までの距離やその位置は、カメラやレーダ等の検出装置からの情報に基づき特定し、その領域を遮光している。このような制御を行うことでハイビーム照射領域を可能な限り維持しつつ、グレア付与を抑制することを可能にしている。
【0003】
しかしながら、従来の車両用灯具システムの場合、カメラやレーダ等で取得した情報(データ)を、まず処理装置に転送し、そこで演算処理して前方車までの距離やその位置を算出する。そして、その結果に基づき配光パターンの決定または遮光する領域の決定を行い、灯具ユニットを制御することになる。カメラ等による情報の取得から灯具ユニットの制御までの時間は、情報の大きさや演算速度にもよるが、一般に数十msから数百ms程度の処理時間が必要になる。また、この処理時間に情報や制御信号の伝送時間も加算する必要がある。つまり、グレアを抑制すべき前方車をカメラ等で確認しても実際に配光パターンが切り替わるのは前述の処理時間の経過後になる。そのため、特許文献1に記載の車両用灯具システムでは、カメラ等で取得した情報を処理して実際の遮光制御が可能になるまでの時間を予め試験等により求めておき、その時間経過後に前方車が移動する位置を予測し、その予測位置を遮光する制御対象領域に定め、照射制御を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述した予測制御を実行する車両用灯具システムについて鋭意研究を重ねた結果、従来のシステムでは前方車の運転者に与えるグレアを抑制する上で、改善の余地があることを認識するに至った。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、前方車の運転者に与えるグレアを抑制する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用灯具システムは、自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具と、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて一部の照射領域への照射状態を抑制するように車両用灯具を制御可能な制御部と、を備える。制御部は、基準時間に新たに取得した位置情報と、基準時間までの所定期間に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出する。
【0008】
この態様によると、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置をより精度良く算出できる。
【0009】
制御部は、予測位置を含む一部の照射領域への照射状態を抑制するように車両用灯具を制御してもよい。これにより、前方車が走る走行路に応じて前方車の運転者に与えるグレアを抑制できる。
【0010】
車両用灯具は、ハイビーム用配光パターンの車幅方向に100以上に分割された照射領域への照射状態をそれぞれ切り替え可能な光源を有してもよい。車幅方向に100以上に分割された照射領域を有する配光パターンの場合、各照射領域が高精細の場合が多い。そのため、前方車の移動に伴い本来照射が抑制されるべき領域が照射された状態のままであると、前方車の運転者はすぐにグレアを感じてしまう。そのため、予測位置を精度良く算出することで、運転者に与えるグレアを抑制できる。
【0011】
制御部は、基準時間までの所定期間において、前方車のi+1(i=1~n)回目の位置情報と前方車のi回目の位置情報との差分が正の場合の数と負の場合の数をそれぞれカウントするカウント部と、差分が正の場合のカウント数C1と、差分が負の場合のカウント数C2とに基づいて前方車が走る走行路がカーブか否かを判定する走行路判定部と、を有してもよい。走行路判定部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合に走行路がカーブであると判定してもよい。これにより、前方車のi+1(i=1~n)回目の位置情報と前方車のi回目の位置情報との差分に基づいて走行路がカーブか否かを判定できる。
【0012】
制御部は、予測位置を算出する際に用いる位置変化量の重み付け係数を、走行路がカーブか否かで異ならせる。これにより、走行路に応じた予測位置の算出が可能となる。
【0013】
制御部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合に用いる位置変化量の重み付け係数D1が、|C1-C2|≦Aの場合に用いる位置変化量の重み付け係数D2より大きい。これにより、走行路がカーブである蓋然性が高い状況下では、予測位置を含む一部の領域への照射状態の抑制制御の追従性を高めることができる。
【0014】
制御部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合の位置変化量の算出に用いる所定期間T1が、|C1-C2|≦Aの場合に用いる位置変化量の算出に用いる所定期間T2より短い。これにより、例えば、走行路が直線からカーブに変化した状況において、直線走行時の前方車の位置変化量の影響を少なくしカーブ走行時の位置変化量の影響を多くすることで、予測位置を含む一部の領域への照射状態の抑制制御の追従性を高めることができる。
【0015】
本発明の別の態様は、制御装置である。この装置は、自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を制御する制御装置であって、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて一部の照射領域への照射状態を抑制するように車両用灯具を制御可能な制御部を有する。制御部は、基準時間に新たに取得した位置情報と、基準時間までの所定期間に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出する。
【0016】
この態様によると、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置をより精度良く算出できる。
【0017】
本発明の更に別の態様は、照射状態抑制方法である。この方法は、自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域のうち、一部の照射領域への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンを形成可能な車両用灯具を、前方車の位置と相関のある位置情報に基づいて一部の照射領域への照射状態を抑制するように制御する照射状態抑制方法であって、基準時間に新たに取得した位置情報と、基準時間までの所定期間に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路の情報と、に基づいて、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出するステップを有する。
【0018】
この態様によると、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置をより精度良く算出できる。
【0019】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を製造方法や制御方法などの方法、灯具や照明、制御装置などの装置、発光モジュール、光源、プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、前方車の運転者に与えるグレアを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。
【
図3】
図2に示す状態から先行車がカーブに進入する様子を模式的に示す図である。
【
図4】カーブ進入時の先行車に対する遮光の予測制御の一例を示す模式図である。
【
図5】本実施の形態に係る予測制御を説明するための模式図である。
【
図6】本実施の形態に係る予測制御の他の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。
図1では、車両用灯具システム10の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
車両用灯具システム10は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、
図1には車両用灯具12として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
【0025】
車両用灯具システム10が備える車両用灯具12は、灯室18内に光源部20が設けられている。また、車両用灯具システム10は、車両用灯具12の外部に設けられている撮像部22及び制御部50を備える。光源部20は、自車両前方に並ぶ複数の個別領域(照射領域)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。本実施の形態に係る光源部20は、複数の半導体発光素子20aがマトリックス状に配列した配光可変ランプである。半導体発光素子20aは、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等を用いることができる。
【0026】
光源部20の各半導体発光素子20aから出射したビームは、不図示の光学系を経て、仮想鉛直スクリーン24上に照射される。光学系は、例えば、投影レンズやリフレクタであってもよい。仮想鉛直スクリーン24には、複数の半導体発光素子20aのオン、オフに対応した配光パターン26が形成される。
【0027】
図2は、自車両前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部20は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としての半導体発光素子20aを複数有する。光源部20は、制御部50によって自車両前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部22、より具体的には例えばカメラの1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。
【0028】
図1では、説明の便宜上、半導体発光素子20aを横10×縦10の配列としているが、半導体発光素子20aの数は特に限定されない。例えば、光源部20の解像度(言い換えれば半導体発光素子20aの数)は1000~30万ピクセルである。本実施の形態に係る光源部20は、配光パターンの車幅方向及び高さ方向に対応して横256個×縦64個の半導体発光素子20aが配列している。また、
図2では、説明の便宜上、各半導体発光素子20aに対応する全ての個別領域Rのうち一部の個別領域Rを図示している。
【0029】
光源部20から出射された光は、光学系を経て灯具前方に進行し、半導体発光素子20aに対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。例えば、
図2に示す複数の個別領域Rからなる配光パターンは、ハイビーム用配光パターンPHとして機能する。
【0030】
撮像部22は、自車両前方を撮像する装置である。撮像部22は、カメラ38を含む。カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。
【0031】
制御部50は、輝度解析部42と、物標解析部44と、灯具制御部46と、光源制御部48とを有する。撮像部22が取得した画像データは、輝度解析部42及び物標解析部44に送られる。
【0032】
輝度解析部42は、撮像部22から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域の輝度を検出する。輝度解析部42は、物標解析部44に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部42は、カメラ38から得られる情報に基づいて、各個別領域の輝度を検出する。輝度解析部42は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部42の検出結果、すなわち個別領域の輝度情報を示す信号は、灯具制御部46に送信される。
【0033】
物標解析部44は、撮像部22から得られる情報に基づいて、自車両前方に存在する物標を検出する。物標解析部44は、輝度解析部42に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の物標解析部44は、カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。物標解析部44は、例えば50ms毎に物標を検出する。物標解析部44によって検出される物標としては、自車両前方を走行する前方車(自車線を走行する先行車や対向車線を走行する対向車)や歩行者等が例示される。また、自車両の走行に支障を来す障害物、道路標識、道路標示、道路形状等も物標に含まれる。
【0034】
物標解析部44は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、従来公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、物標解析部44は、先行車100を示す特徴点を予め保持している。そして、物標解析部44は、カメラ38の撮像データの中に前方車を示す特徴点を含むデータが存在する場合、前方車の位置を認識する。前述の「前方車を示す特徴点」とは、例えば先行車のテールライトの推定存在領域に現れる所定光度以上の光点である。あるいは、対向車のヘッドランプの推定存在領域に現れる所定光度以上の光点である。同様に、物標解析部44は、歩行者やその他の物標を示す特徴点を予め保持しており、カメラ38の撮像データの中にこれらの特徴点を含むデータが存在する場合、当該特徴点に対応する物標の位置を認識する。物標解析部44の検出結果、すなわち自車両前方の物標情報を示す信号は、灯具制御部46に送信される。
【0035】
灯具制御部46は、輝度解析部42及び/又は物標解析部44の検出結果を用いて、特定物標の決定、特定物標の変位検出、特定個別領域の設定、特定個別領域に対する特定目標輝度値を含む各個別領域に対する目標輝度値の設定、各個別領域に照射する光の照度値の設定等を実行する。一例として、灯具制御部46は、トラッキング部52と、記憶部53と、照度設定部54とを含む。記憶部53は、種々の配光制御や後述する前方車の位置予測制御等の実行に必要なプログラムがメモリに格納されている。トラッキング部52は、物標解析部44により検出された物標の中から特定物標を決定する。また、トラッキング部52は、輝度解析部42の検出結果に基づいて特定物標の変位を検出する。本実施の形態では、一例として、先行車を特定物標とする。
【0036】
具体的には、トラッキング部52は、輝度解析部42の検出結果と物標解析部44の検出結果とを統合する。そして、輝度解析部42で検出された各個別領域の輝度のうち、特定物標である先行車100の光点102が位置する個別領域Rの輝度を先行車100と関連付ける。トラッキング部52は、その後に取得する輝度解析部42の検出結果において、先行車100と関連付けた輝度の位置を認識することで、特定物標である先行車100の変位を検出することができる。トラッキング部52は、例えば50ms毎に特定物標の決定処理を実行する。また、トラッキング部52は、例えば0.1~5ms毎に特定物標の変位検出処理(トラッキング)を実行する。
【0037】
照度設定部54は、輝度解析部42の検出結果と、トラッキング部52の検出結果とに基づいて、特定物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域に対する特定照度値を含む、各個別領域に照射する光の照度値を定める。例えば照度設定部54は、各個別領域の目標輝度値と、各個別領域に照射する光の目標輝度値に応じた照度値とを定める。各個別領域のうち、特定個別領域に対しては、特定目標輝度値を定める。したがって、特定照度値は、特定目標輝度値に応じて定まる照度値である。
【0038】
まず、照度設定部54は、特定物標である先行車100の存在位置に基づいて特定個別領域R1を定める。例えば照度設定部54は、トラッキング部52の検出結果に含まれる先行車100の位置情報に基づいて、特定個別領域R1を定める。特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部54は、先行車100のテールランプに対応する2つの光点102間の水平方向距離a(
図2参照)に対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1(
図2参照)とする。特定個別領域R1には、先行車の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。
【0039】
そして、照度設定部54は、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を定める。また、照度設定部54は、特定個別領域R1を除く他の個別領域Rについても目標輝度値を定める。例えば、照度設定部54は、特定個別領域R1を除く個別領域Rのうち、輝度解析部42により検出された輝度が所定の範囲に含まれる個別領域Rについて、目標輝度値を同じ値に設定する。すなわち、輝度一定制御を実行する。
【0040】
照度設定部54は、トラッキング部52の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の変位を認識し、特定個別領域R1の位置情報を更新する。そして、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値を含む、各個別領域Rの目標輝度値を更新する。トラッキング部52による処理と照度設定部54による処理とは、少なくとも一時において並行して実行される。
【0041】
また、照度設定部54は、各個別領域Rの目標輝度値と輝度解析部42の検出結果とに基づいて、光源部20から各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。照度設定部54は、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部48に送信する。照度設定部54は、例えば0.1~5ms毎に目標輝度値及び照度値を設定する。
【0042】
なお、照度設定部54は、自車両周囲の明るさ等に応じて目標輝度値を変更してもよい。すなわち、市街と郊外のそれぞれにおいて、あるいは昼間、薄暮時、夜間のそれぞれにおいて、自車両前方が最適な明るさとなるように目標輝度値が定められる。また、照度設定部54は、特定個別領域R1以外の個別領域Rの目標輝度値を異ならせてもよい。
【0043】
光源制御部48は、照度設定部54が定めた照度値に基づいて光源部20を制御する。光源制御部48は、半導体発光素子20aの点消灯を制御する。光源制御部48は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各半導体発光素子20aのオンの時間比率(幅や密度)を調節してもよい。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。
【0044】
照度設定部54が定めた照度値に基づいて光源部20から光が照射され、その結果としての実際の各個別領域Rの輝度値が輝度解析部42により検出される。そして、この検出結果に基づいて、照度設定部54が再び照度値を設定する。
【0045】
上述の構成により、車両用灯具システム10は、複数の部分照射領域(複数の個別領域R)が集まって構成される配光パターンを形成することができる。複数の部分照射領域のそれぞれは、対応する半導体発光素子20aがオンのときに形成される。車両用灯具システム10は、各半導体発光素子20aのオン/オフを切り替えることにより、様々な形状の配光パターンを形成することができる。
【0046】
車両用灯具システム10は、自車両前方の特定物標の位置に応じて最適な配光パターンを形成するADB(Adaptive Driving Beam)制御を実行する。一例として、照度設定部54は、先行車100の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して、特定目標輝度値「0」を設定し、他の個別領域Rに対して、目標輝度値「1」を設定する。この設定を、第1輝度情報とする。また、照度設定部54は、輝度一定制御に準じて、全ての個別領域Rに対して目標輝度値「2」を設定する。この設定を、第2輝度情報とする。そして、照度設定部54は、第1輝度情報と第2輝度情報とをAND演算する。これにより、特定個別領域R1に対する特定目標輝度値が「0」、他の個別領域Rに対する目標輝度値が「2」である輝度情報が生成される。
【0047】
そして、照度設定部54は、特定目標輝度値が「0」である特定個別領域R1に対して、特定照度値を「0」に設定する。すなわち、特定個別領域R1に対しては遮光する(照射状態を抑制する)。また、特定個別領域R1を除く各個別領域Rのうち、街路灯等の自ら発光するものが存在する個別領域Rの輝度は、目標輝度値との乖離がないか目標輝度値以上である。このため、照度設定部54は、当該個別領域Rに対して照度値を「0」に設定し、遮光する。また、道路標識やデリニエータ、反射板等の光反射率の高いものが存在する個別領域Rの輝度は、他の個別領域Rに比べて目標輝度値との乖離が小さいため、比較的低い照度値が設定される。すなわち、当該個別領域Rに対しては減光する。このように各領域の照度が定められた配光パターンが自車両前方に形成されることで、先行車100の運転者は光の照射を受けず、特定個別領域R1を除く個別領域Rは自車両運転者あるいは撮像部22から見て同じ明るさとなる。
【0048】
なお、特定個別領域に対して遮光する(照射状態を抑制する)とは、該当領域に対して全く光を照射しないように遮光する場合だけでなく、照射する光の量をそれまでよりも少なくしたり、一定周期で点消灯を繰り返す際の点灯割合を短くしたりする減光の場合(例えばPWM調光)も含まれる。
【0049】
次に、
図2に示すように、自車両前方の正面を走行していた先行車100がカーブに進入する場合の配光制御について説明する。
図3は、
図2に示す状態から先行車がカーブに進入する様子を模式的に示す図である。一般的に、撮像部22で自車両前方を撮像し、得られた画像データから制御部50で物標を検知し、光源制御部48による光源部20の制御によって先行車100が存在する自車両前方を所望の配光パターンで照射するまでには、100~200ms程度の遅延が生じる。
【0050】
そのため、
図3に示すように、先行車100がカーブに進入しても、それまで遮光されていた特定個別領域R1の左隣の個別領域R2に対してすぐに遮光制御できる訳ではない。そのため、先行車100の乗員(運転者や同乗者)に対してグレアを与えるおそれがある。そこで、それまでの先行車100の動き(カメラ検出角度の移動量や画像データ上の物標座標の変化量)から、所定時間後(例えば200ms後)の先行車100の位置を演算し、その位置が含まれる特定個別領域を遮光するといった予測制御が考えられる。
【0051】
図4は、カーブ進入時の先行車に対する遮光の予測制御の一例を示す模式図である。
図4では、基準時間0より少なくとも過去200msの期間は、自車両前方の正面に位置する先行車100が直線路を走行していた場合を示している。また、説明の便宜上、先行車の位置は、0を中心として左側のX方向を正としたX座標で示す。この場合、時間T=0[ms](以下T=0のように省略して記載する)においては、先行車100の中心座標はX=0であり、過去200msの移動平均(50ms毎に取得した4つのX座標の平均)は0である。
【0052】
以下の説明では、カーブに進入した先行車100が50ms毎にX座標の正の方向に10ずつ移動する例を示す。また、一つの特定個別領域R1のX方向の大きさ(遮光範囲)を、X座標の大きさで80としているが、数値は便宜上であり実際の大きさは適宜選択すればよい。また、座標の代わりにカメラの検出角度を用いてもよい。
【0053】
この状態の先行車100を撮像部22で撮影した画像データに基づいて算出される特定個別領域R1(X=40~-40)は、システム遅延200msを考慮してT=200の時点で反映される。したがって、T=0~200の期間は、特定個別領域R1の位置は変わらず、
図4に示すように、T=150~200の期間で先行車100の乗員にグレアを与える可能性がある。
【0054】
次に、T=50の時点で先行車100はカーブに進入することでX方向に移動し(X=10)、T=-150~50までの過去200msの移動平均は2.5である。したがって、システム遅延200ms後のT=250での先行車の予想座標はX=12.5であり、特定個別領域R1はX=12.5±40の範囲である。
【0055】
次に、T=100の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=20)、T=-100~100までの過去200msの移動平均は5である。したがって、システム遅延200ms後のT=300での先行車の予想座標はX=25であり、特定個別領域R1はX=25±40の範囲である。
【0056】
次に、T=150の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=30)、T=-50~150までの過去200msの移動平均は7.5である。したがって、システム遅延200ms後のT=350での先行車の予想座標はX=37.5であり、特定個別領域R1はX=37.5±40の範囲である。
【0057】
次に、T=200の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=40)、T=0~200までの過去200msの移動平均は10である。したがって、システム遅延200ms後のT=400での先行車の予想座標はX=50であり、特定個別領域R1はX=50±40の範囲である。
【0058】
次に、T=250の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=50)、T=50~250までの過去200msの移動平均は10である。したがって、システム遅延200ms後のT=450での先行車の予想座標はX=60であり、特定個別領域R1はX=60±40の範囲である。
【0059】
次に、T=300の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=60)、T=100~300までの過去200msの移動平均は10である。したがって、システム遅延200ms後のT=500での先行車の予想座標はX=70であり、特定個別領域R1はX=70±40の範囲である。
【0060】
以上の制御に対して、カーブ進入時の先行車に対する遮光制御を基準時間の先行車の位置情報のみに基づいて行う場合について説明する。この場合、
図4に示すように、カーブに進入し始めたT=50で取得した先行車の位置情報がX=10であるので、先行車の位置がX=10の場合に最適な特定個別領域R1はX=10±40と算出される。しかしながら、算出された条件で前方が照射されるタイミングは、システム遅延200ms後のT=250である。したがって、T=250での特定個別領域R1はX=10±40となる(
図4の点線)。
【0061】
同様に、T=100で取得した先行車の位置情報に基づいて算出した特定個別領域R1は20±40であり、算出された条件で前方が照射されるタイミングは、システム遅延200ms後のT=300である。したがって、T=300での特定個別領域R1はX=20±40となる(
図4の点線)。
【0062】
同様に、T=350での特定個別領域R1はX=30±40、T=400での特定個別領域R1はX=40±40、T=450での特定個別領域R1はX=50±40、T=500での特定個別領域R1はX=60±40となる(
図4の点線)。
【0063】
したがって、予測制御により
図4の実線で示す特定個別領域R1を決定することで、予測制御しない
図4の点線で示す特定個別領域R1を決定する場合と比較して、先行車がカーブに進入した際の遮光の追従精度が向上する。
【0064】
以上の知見に基づいて、本願発明者らが更に検討したところ、制御対象である前方車の所定の基準時間(T[ms]=0、50、100、・・・。)に新たに取得した位置情報と、基準時間までの所定期間に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量と、前方車が走る走行路(カーブ/直線路)の情報と、に基づいて、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置を算出することで、より精度の高い遮光追従を実現できる点に想到した。
【0065】
はじめに、走行路がカーブか否か(直線路か)を判定する方法について説明する。前述のように、物標解析部44により先行車100のテールライトを特徴点として検出した場合、トラッキング部52によりテールライトの変位を連続的に検出する。なお、説明を簡略化するため、テールライトの左右のランプの変位を個別ではなくひとまとまりの光点として扱う。また、変位は車両前方の水平方向(X方向:左が正)の座標のみを用い、今回撮像部22で取得した情報から算出されたX1座標と、前回撮像部22で取得した情報から算出されたX0座標とを比較する。なお、座標の検出は、例えば50ms毎に行う。
【0066】
X1>X0であれば、左カーブカウントLCのカウント数に1を加え、右カーブカウントRCのカウント数をリセットする。逆にX1<X0であれば、左カーブカウントLCのカウント数をリセットし、右カーブカウントRCのカウント数に1を加える。この処理を繰り返し、LCやRCのカウント数が所定値以上(例えば3以上)の場合、前方車が走行する走行路がカーブであると判定する。また、LCやRCのカウント数が所定値以下(例えば2以下)の場合、前方車が走行する走行路が直線路であると判定する。ここで、判定された結果は、後述する予測制御での遮光追従の精度向上に寄与する。
【0067】
次に、本実施の形態に係る予測制御の概要について説明する。本実施の形態での予測座標Xは、以下の式(1)~式(3)で示される。
予測座標X=(t[ms]間の物標座標_変化量)×予測係数α+今回(基準時間)の入力座標・・・式(1)
t[ms]間の物標座標_変化量=Σ(50[ms]間の物標座標変化量)・・・式(2)
50[ms]間の物標座標変化量=今回入力座標-前回入力座標・・・式(3)
【0068】
図5は、本実施の形態に係る予測制御を説明するための模式図である。
図5では、
図4と同様に、基準時間0より少なくとも過去200msの期間は、自車両前方の正面に位置する先行車100が直線路を走行していた場合を示している。また、
図4と同様に、先行車の位置は、0を中心として左側のX方向を正としたX座標で示す。この場合、T=0においては、先行車100の中心座標はX=0であり、過去200msの変化量(50ms毎に取得した4つのX座標の変化量)は0である。その他、以下で特に言及していない条件や内容は
図4で説明した内容と同様である。
【0069】
図5に示すように、先行車100を撮像部22で撮影した画像データに基づいて算出される特定個別領域R1(X=40~-40)は、システム遅延200msを考慮してT=200の時点で反映される。したがって、T=0~200の期間は、特定個別領域R1の位置は変わらない。
【0070】
次に、T=50の時点で先行車100はカーブに進入することでX方向に移動し(X=10)、T=-150~50までの過去200ms間の物標座標変化量(50ms毎の積算値)は10である。また、以下ではカーブに応じた予測係数として1を用いる。したがって、システム遅延200ms後の時間T=250での先行車の予想座標はX=10(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+10(今回入力座標)=20であり、特定個別領域R1はX=20±40の範囲である。
【0071】
次に、時間T=100の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=20)、T=-100~100までの過去200ms間の物標座標変化量は20である。したがって、システム遅延200ms後のT=300での先行車の予想座標はX=20(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+20(今回入力座標)=40であり、特定個別領域R1はX=40±40の範囲である。
【0072】
次に、T=150の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=30)、T=-50~150までの過去200ms間の物標座標変化量は30である。したがって、システム遅延200ms後のT=350での先行車の予想座標はX=30(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+30(今回入力座標)=60であり、特定個別領域R1はX=60±40の範囲である。
【0073】
次に、T=200の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=40)、T=0~200までの過去200ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=400での先行車の予想座標はX=40(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+40(今回入力座標)=80であり、特定個別領域R1はX=80±40の範囲である。
【0074】
次に、T=250の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=50)、T=50~250までの過去200ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=450での先行車の予想座標はX=40(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+50(今回入力座標)=90であり、特定個別領域R1はX=90±40の範囲である。
【0075】
次に、T=300の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=60)、T=100~300までの過去200ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=500での先行車の予想座標はX=40(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+60(今回入力座標)=100であり、特定個別領域R1はX=100±40の範囲である。
【0076】
上述の本実施の形態に係る予測制御による遮光追従の結果と、
図4の実線で示す遮光追従の結果とを比較すると、本実施の形態に係る予測制御では、T=250以降に特定個別領域R1に先行車100がほぼ含まれるようになっており、先行車100の乗員に与えるグレアが抑制されていることがわかる。
【0077】
一方、予想座標の算出には、過去200ms間の物標座標変化量を用いているため、カーブに進入した直後の先行車のT=50での今回入力座標に基づく予想座標は、T=-150~0の直線路での先行車の座標(X=0)の影響が大きい。つまり、T=200となるまでは過去の直線路での先行車の座標の影響が残る。そのため、システム遅延200ms後のT=250~400における特定個別領域R1の算出に改善の余地がある。
【0078】
そこで、前述の走行路の判別方法によってカーブと判定された後は、物標座標変化量の積算時間を過去200msから過去100msに変化させることで遮光追従の精度を更に高めることができる。なお、カーブの判定は前述の方法に限らず、カメラで撮影した前方の画像データやGPS等の情報に基づいて先行車がカーブに進入したか(進入するか)を判定してもよい。
【0079】
この場合の予想座標の算出は、具体的には、過去100msにおいて50ms毎に取得したX座標の変化量(X1-X0)を積算し、取得サンプル数がそれまでの4個(200/50)から2個(100/50)に変化したことを加味して同じ取得サンプルを2回用いて補完してもよい。あるいは、取得サンプルが4個になるように25ms毎にX座標の変化量を取得してもよい。このように、カーブ判定を受けてから積算時間を変更する制御について
図5を用いて説明する。
【0080】
図5に示すように、T=50の時点で先行車100はカーブに進入することでX方向に移動し(X=10)、T=-50~50までの過去100ms間の物標座標変化量(50ms毎の積算値×2)は20である。また、以下ではカーブに応じた予測係数として1を用いる。したがって、システム遅延200ms後のT=250での先行車の予想座標はX=20(100ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+10(今回入力座標)=30であり、特定個別領域R1はX=30±40の範囲である(
図5の点線)。
【0081】
次に、T=100の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=20)、T=0~100までの過去100ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=300での先行車の予想座標はX=40(100ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+20(今回入力座標)=60であり、特定個別領域R1はX=60±40の範囲である(
図5の点線)。
【0082】
次に、T=150の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=30)、T=50~150までの過去100ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=350での先行車の予想座標はX=40(100ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+30(今回入力座標)=70であり、特定個別領域R1はX=70±40の範囲である(
図5の点線)。
【0083】
次に、T=200の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=40)、T=100~200までの過去100ms間の物標座標変化量は40である。したがって、システム遅延200ms後のT=400での先行車の予想座標はX=40(100ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+40(今回入力座標)=80であり、特定個別領域R1はX=80±40の範囲である。以降の時間Tは
図5の実線で示している特定個別領域R1と同じである。
【0084】
このように、カーブ走行中においては、予想座標を算出する際の積算時間を直線路走行中の積算時間よりも短くすることで、遮光追従の応答性を高めることができる。
【0085】
次に、先行車が直線路を走行中の予測制御について説明する。
図6は、本実施の形態に係る予測制御の他の例を説明するための模式図である。
図6では、
図4と同様に、基準時間0より少なくとも過去200msの期間は、自車両前方の正面に位置する先行車100が直線路を走行していた場合を示している。また、
図4と同様に、先行車の位置は、0を中心として左側のX方向を正としたX座標で示す。この場合、T=0においては、先行車100の中心座標はX=0であり、過去200msの変化量(50ms毎に取得した4つのX座標の変化量)は0である。その他、以下で特に言及していない条件や内容は
図4で説明した内容と同様である。
【0086】
図6に示すように、先行車100を撮像部22で撮影した画像データに基づいて算出される特定個別領域R1(X=40~-40)は、システム遅延200msを考慮してT=200の時点で反映される。したがって、T=0~200の期間は、特定個別領域R1の位置は変わらない。
【0087】
次に、T=50の時点で先行車100は、非常に緩やかなカーブや直線路での蛇行走行によってX方向に移動し(X=10)、T=-150~50までの過去200ms間の物標座標変化量(50ms毎の積算値)は10である。また、以下では予測係数として1を用いる。したがって、システム遅延200ms後のT=250での先行車の予想座標はX=10(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+10(今回入力座標)=20であり、特定個別領域R1はX=20±40の範囲である。
【0088】
次に、T=100の時点で先行車100は更にX方向に移動し(X=20)、T=-100~100までの過去200ms間の物標座標変化量は20である。したがって、システム遅延200ms後のT=300での先行車の予想座標はX=20(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+20(今回入力座標)=40であり、特定個別領域R1はX=40±40の範囲である。
【0089】
次に、T=150の時点で先行車100はX方向に移動せず(X=20)、T=-50~150までの過去200ms間の物標座標変化量は20である。したがって、システム遅延200ms後のT=350での先行車の予想座標はX=20(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+20(今回入力座標)=40であり、特定個別領域R1はX=40±40の範囲である。
【0090】
次に、T=200の時点で先行車100は-X方向に移動し(X=10)、T=0~200までの過去200ms間の物標座標変化量は10である。したがって、システム遅延200ms後のT=400での先行車の予想座標はX=10(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+10(今回入力座標)=20であり、特定個別領域R1はX=20±40の範囲である。
【0091】
次に、T=250の時点で先行車100は更に-X方向に移動し(X=0)、T=50~250までの過去200ms間の物標座標変化量は-10である。したがって、システム遅延200ms後のT=450での先行車の予想座標はX=-10(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+0(今回入力座標)=-10であり、特定個別領域R1はX=-10±40の範囲である。
【0092】
次に、T=300の時点で先行車100はX方向に移動し(X=10)、T=100~300までの過去200ms間の物標座標変化量は-10である。したがって、システム遅延200ms後のT=500での先行車の予想座標はX=-10(200ms間の物標座標変化量)×1(予測係数)+-10(今回入力座標)=0であり、特定個別領域R1はX=0±40の範囲である。
【0093】
上述の本実施の形態に係る予測制御による遮光追従では、概ね先行車100が特定個別領域R1に含まれている。しかしながら、先行車100の左右の動きに対して、特定個別領域R1の左右の動きが大きく、遮光追従の予測制御が過剰である可能性がある。
【0094】
そこで、前述の走行路の判別方法によってカーブでない(直線路である)と判定されている場合は、予測係数を小さくすることで遮光追従の予測制御の影響を弱めることができる。具体的には、予測係数として0.3を用いる。
【0095】
この場合、システム遅延200ms後のT=250での先行車の予想座標はX=10(200ms間の物標座標変化量)×0.3(予測係数)+10(今回入力座標)=13であり、特定個別領域R1はX=13±40の範囲である。
【0096】
同様の演算により、T=300での先行車の予想座標はX=26、特定個別領域R1はX=26±40の範囲である。また、T=350での先行車の予想座標はX=26、特定個別領域R1はX=26±40の範囲である。また、T=400での先行車の予想座標はX=26、特定個別領域R1はX=13±40の範囲である。また、T=450での先行車の予想座標はX=-3、特定個別領域R1はX=-3±40の範囲である。T=500での先行車の予想座標はX=7、特定個別領域R1はX=7±40の範囲である。
【0097】
このように、直線路走行中においては、予想座標を算出する際の予測係数をカーブ走行中の予測係数よりも小さくすることで、遮光追従の応答性を緩めることができる。これにより、自車両運転者が車両前方を見ながら運転する際に、遮光位置(特定個別領域R1)が過敏に動くことにより感じる煩わしさが低減される。
【0098】
上述のように、本実施の形態に係る車両用灯具システム10は、自車両前方の車幅方向に分割された複数の照射領域(個別領域R)のうち、一部の照射領域(特定個別領域R1)への照射状態が切り替えられたハイビーム用配光パターンPHを形成可能な車両用灯具12と、前方車の位置と相関のある位置情報(今回入力座標)に基づいて一部の照射領域への照射状態を抑制するように車両用灯具12を制御可能な制御部50と、を備える。これにより、基準時間から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置をより精度良く算出できる。
【0099】
制御部50は、基準時間に新たに取得した位置情報(今回入力座標)と、基準時間までの所定期間(例えば100~200ms)に取得した複数の位置情報から算出した前方車の位置変化量(今回入力座標-前回入力座標)と、前方車が走る走行路の情報(カーブか否か)と、に基づいて、基準時間から一定時間後(システム遅延200ms後)に前方車が移動すると予測される予測位置を算出する。
【0100】
これにより、基準時間(例えばT=200~)から一定時間後に前方車が移動すると予測される予測位置をより精度良く算出できる。
【0101】
制御部50は、予測位置を含む一部の照射領域(特定個別領域R1)への照射状態を抑制するように照度設定部54を制御する。これにより、前方車が走る走行路に応じて前方車の運転者に与えるグレアを抑制できる。
【0102】
また、車両用灯具12は、ハイビーム用配光パターンの車幅方向に100以上に分割された照射領域(個別領域R)への照射状態をそれぞれ切り替え可能な光源部20を有していてもよい。車幅方向に100以上に分割された照射領域を有する配光パターンの場合、各照射領域(個別領域R)が高精細の場合が多い。そのため、
図3に示すように、先行車100の移動に伴い本来照射が抑制されるべき領域(個別領域R2)が照射された状態のままであると、先行車100の運転者はすぐにグレアを感じてしまう。そのため、予測位置を精度良く算出することで、運転者に与えるグレアを抑制できる。
【0103】
また、前述のカーブ判定方法では、所定回数以上連続して同じ方向に移動した場合に、走行路がカーブであると判定したが、左方向または右方向へ変位する回数が所定の値よりも大きくなった場合にカーブであると判定してもよい。例えば、制御部50は、基準時間までの所定期間において、前方車のi+1(i=1~n)回目の位置情報と前方車のi回目の位置情報との差分が正の場合の数と負の場合の数をそれぞれカウントするカウント部と、差分が正の場合のカウント数C1と、差分が負の場合のカウント数C2とに基づいて前方車が走る走行路がカーブか否かを判定する走行路判定部と、を有してもよい。走行路判定部は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合に走行路がカーブであると判定してもよい。これにより、前方車のi+1(i=1~n)回目の位置情報と前方車のi回目の位置情報との差分に基づいて走行路がカーブか否かを判定できる。
【0104】
制御部50は、予測位置を算出する際に用いる位置変化量の重み付け係数(予測係数)を、走行路がカーブか否かで異ならせる。これにより、走行路に応じた予測位置の算出が可能となる。
【0105】
制御部50は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合(カーブと判定された場合)に用いる位置変化量の重み付け係数D1(本実施の形態では1)が、|C1-C2|≦Aの場合(直線路と判定された場合)に用いる位置変化量の重み付け係数D2(本実施の形態では0.3)より大きい。これにより、走行路がカーブである蓋然性が高い状況下では、予測位置を含む一部の領域への照射状態の抑制制御の追従性を高めることができる。
【0106】
制御部50は、|C1-C2|>A(Aは所定の正の数)の場合(カーブと判定された場合)の位置変化量の算出に用いる所定期間T1(本実施の形態では100ms)が、|C1-C2|≦Aの場合(直線路と判定された場合)に用いる位置変化量の算出に用いる所定期間T2(本実施の形態では200ms)より短い。これにより、例えば、走行路が直線からカーブに変化した状況において、直線走行時の前方車の位置変化量の影響を少なくしカーブ走行時の位置変化量の影響を多くすることで、予測位置を含む一部の領域への照射状態の抑制制御の追従性を高めることができる。
【0107】
本実施の形態に係る車両用灯具システムで実行される制御の発明は、制御装置や制御方法の発明として捉えることができる。また、前述の制御部に実行させるプログラムとしての発明や、当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の発明として捉えることもできる。また、今回の発明を実行するための車載プログラムは、車載通信機等を経由したOTA(Over the air)によりアップデートできるように実装されていてもよい。
【0108】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0109】
10 車両用灯具システム、 12 車両用灯具、 20 光源部、 22 撮像部、 42 輝度解析部、 44 物標解析部、 46 灯具制御部、 48 光源制御部、 50 制御部、 52 トラッキング部、 54 照度設定部、 100 先行車。