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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041665
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】重合性化合物除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/00 20060101AFI20240319BHJP
   B01D 3/06 20060101ALI20240319BHJP
   B01D 53/44 20060101ALI20240319BHJP
   B01D 53/72 20060101ALI20240319BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B01D3/00 B ZAB
B01D3/06
B01D53/44 110
B01D53/72
B01D53/81
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146596
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋朗
【テーマコード(参考)】
4D002
4D076
【Fターム(参考)】
4D002AA40
4D002AB03
4D002AC10
4D002BA04
4D002DA41
4D002EA01
4D002EA08
4D002FA01
4D076AA07
4D076AA12
4D076AA24
4D076BA28
4D076BB01
4D076BB18
4D076EA23Z
4D076FA02
4D076FA12
4D076FA14
4D076FA15
4D076HA06
4D076HA10
(57)【要約】
【課題】有機溶媒及び重合性化合物を含む排液から重合性化合物を除去するための、簡易かつ安価な方法を提供すること。
【解決手段】有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、及び前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留することを含み、前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、重合性化合物除去方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、及び
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
【請求項2】
前記処理液中の水濃度が18.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.15質量%以上0.35質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が30分以上90分以下である、請求項1に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項3】
有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、及び
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、アルカリの濃度が0.20質量%以上2.0質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
【請求項4】
前記アルカリ処理の時間が30分以上90分以下である、請求項3に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項5】
前記重合性化合物が、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレート化合物から選択される1種又は2種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項6】
前記重合性化合物が、メチルアクリレート及びメチルメタクリレートから選択される1種又は2種を含む、請求項5に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項7】
前記蒸留が、単蒸留又はフラッシュ蒸留である、請求項1に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エーテル、アルコール、及びアルデヒドから選択される1種又は2種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、ケトン及びアルコールから選択される1種又は2種以上である、請求項8に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、沸点70℃以上130℃以下の有機溶媒を含む、請求項8に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項11】
前記原料排液が、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を含む排ガスから得られたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
【請求項12】
有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
【請求項13】
有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、アルカリの濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物除去方法に関する。
詳しくは、揮発性有機化合物(VOC)を含む排ガス又は排液から、有機溶媒を回収して再利用する際の妨げとなる重合性化合物を除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCを含む排ガス又は排液から、有機溶媒を回収して再利用することは、環境負荷の低減、製品コストの低減等の観点から重要である。
そこで、従来技術では、種々の方法により、排ガス又は排液から所望の有機溶媒を精製回収する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、メチルエチルケトン(MEK)を含む空気中からMEKを回収する方法において、活性炭に吸着させたMEKを水蒸気で脱離させて蒸留塔に送り、MEK及び水を共沸蒸留して得られた共沸液に苛性ソーダ水溶液を注入して、共沸物中の水を抽出除去したうえ、共沸物中の水を含む苛性ソーダ水溶液をMEK蒸気と気液接触させてMEK中の不純物を分解除去する、MEKの精製回収方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と、不純物としてメチル-3-メトキシプロピオネート及びシクロヘキサンのうちの少なくとも一方とを含む有機溶媒混合物に、アルコキシド化合物を添加して不純物を除去することを含む、PGMEAの精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-192737号公報
【特許文献2】国際公開第2012/033240号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、重合性化合物を含む組成物の塗布工程、乾燥工程等から排出される排ガス又は排液には、VOC中に重合性化合物が含まれる場合が多い。この重合性化合物は、有機溶媒回収操作によっても十分に取り除かれず、回収有機溶媒中に蓄積することがあり、また、有機溶媒回収操作における加熱、薬剤添加等の処理によって重合して、回収有機溶媒中に蓄積することがある。このような重合物を含む回収有機溶媒を再使用して組成物を調製すると、組成物の所期の重合性を損なう場合がある。そのため、重合物を含む回収有機溶媒は、用途が限られる場合が多い。
また、従来公知の有機溶媒回収方法によって回収された有機溶媒は、不純物によって着色していることがあり、やはり用途が限られる。
このように、従来公知の溶媒の精製方法では、重合性化合物を含む排ガス又は排液から、重合性化合物を効果的に除去することは困難であった。
【0006】
更に、上記のような排ガス又は排液に含まれる重合性化合物は、回収すべき有機溶媒と沸点が近い場合が多い。したがって、このような重合性化合物と有機溶媒とを、蒸留によって分離しようとすると、多段の精密蒸留が必要となり、回収コスト上の問題が生ずる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされた。
本発明の目的は、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガス又は排液から重合性化合物を除去するための、簡易かつ安価な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
《態様1》有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、及び
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
《態様2》前記処理液中の水濃度が18.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.15質量%以上0.35質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が30分以上90分以下である、態様1に記載の重合性化合物除去方法。
《態様3》有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、及び
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、アルカリの濃度が0.20質量%以上2.0質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
《態様4》前記アルカリ処理の時間が30分以上90分以下である、態様3に記載の重合性化合物除去方法。
《態様5》前記重合性化合物が、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレート化合物から選択される1種又は2種以上である、態様1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
《態様6》前記重合性化合物が、メチルアクリレート及びメチルメタクリレートから選択される1種又は2種を含む、態様5に記載の重合性化合物除去方法。
《態様7》前記蒸留が、単蒸留又はフラッシュ蒸留である、態様1に記載の重合性化合物除去方法。
《態様8》前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エーテル、アルコール、及びアルデヒドから選択される1種又は2種以上である、態様1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
《態様9》前記有機溶媒が、ケトン及びアルコールから選択される1種又は2種以上である、態様8に記載の重合性化合物除去方法。
《態様10》前記有機溶媒が、沸点70℃以上130℃以下の有機溶媒を含む、態様8に記載の重合性化合物除去方法。
《態様11》前記原料排液が、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を含む排ガスから得られたものである、態様1~4のいずれか一項に記載の重合性化合物除去方法。
《態様12》有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、OH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
《態様13》有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、アルカリの濃度が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である、
重合性化合物除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガス又は排液から重合性化合物を除去するための、簡易かつ安価な方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《排液からの重合性化合物除去方法》
本発明の重合性化合物除去方法は、
有機溶媒及び重合性化合物を含む原料排液から、前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である。
【0011】
そして、
前記アルカリ処理液中のOH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であること、及び、
前記アルカリ処理液中のアルカリの濃度が0.20質量%以上2.0質量%以下であること
のうちの、少なくとも一方を満たす。
【0012】
〈原料排液〉
本発明の重合性化合物除去方法に供される原料排液は、有機溶媒及び重合性化合物を含む。このような原料排液は、例えば、重合性化合物を含む樹脂組成物の調製工程、塗布工程、乾燥工程等から排出される排液であってよい。
本発明の重合性化合物除去方法に供される原料排液は、或いは、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから得られたものであってよい。この場合、原料排液は、
例えば上述の工程等から得られた排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、並びに
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
を含む方法によって、得ることができる。
【0013】
(有機溶媒)
原料排液は有機溶媒を含有している。
この有機溶媒は、本発明の方法によって重合性化合物が除去された後の原料排液から回収されて、再利用されることが予定されている。
原料排液に含有される有機溶媒は、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エーテル、アルコール、アルデヒド、ニトリル化合物、ハロゲン化炭化水素等から選択される1種又は2種以上であってよい。
【0014】
脂肪族炭化水素としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等が;
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ピリジン、ピロール等が;
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等が;
エーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等が;
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等が;
アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド等が;
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等が;
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン等が;
それぞれ挙げられる。
【0015】
原料排液に含有される有機溶媒は、アルカリ処理及び蒸留に対する安定性が高いこと、回収率が高いこと等の観点から、
ケトン及びアルコールから選択される1種又は2種以上であってよく、
ケトンから選択される1種又は2種以上とアルコールから選択される1種又は2種以上とから成っていてよく、
特に、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、及びメチルイソブチルケトンから選択される1種又は2種以上と、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、及びエチレングリコールから選択される1種又は2種以上とから成っていてよい。
【0016】
原料排液に含有される有機溶媒は、アルカリ処理後に蒸留によって回収される。
したがって、有機溶媒は、適度の沸点を示すことが望まれる。
この観点から、常圧(1気圧)における有機溶媒の沸点は、70℃以上130℃以下が好ましく、72℃以上120℃以下がより好ましく、74℃以上110℃以下が更に好ましく、76℃以上100℃以下、又は78℃以上90℃以下が特に好ましい。
有機溶媒が2種以上の化学種を含むときには、そのうちの1種又は2種以上が上記の沸点を示すことが好ましく、全部の化学種が上記の沸点を示すことがより好ましい。
【0017】
(重合性化合物)
原料排液は重合性化合物を含有している。
この重合性化合物少なくとも一部は、アルカリ処理によって分解又は反応して、原料排液から除去される。
したがって、重合性化合物は、アルカリと反応し得る部位を有していることが好ましい。アルカリと反応し得る部位は、結合でも残基でもよい。アルカリと反応し得る結合としては、例えば、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合等が挙げられる。アルカリと反応し得る残基としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、アルデヒド基等が挙げられる。
原料排液に含まれる重合性化合物は、好ましくは、重合性炭素=炭素二重結合と、エステル結合、ウレタン結合、カルボキシル基等から選択される1種又は2種以上の部位とを有する化合物であってよい。
【0018】
このような観点から、原料排液に含まれる重合性化合物は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレート化合物から選択される1種又は2種以上を含むことがより好ましい。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸を包括する概念であり、「(メタ)アクリレート化合物」とは、アクリレート化合物及びメタクリレート化合物を包括する概念である。
原料排液に含まれる重合性化合物は、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート等から選択される1種又は2種以上を含むことが更に好ましく、特に、メチルアクリレート及びメチルメタクリレートから選択される1種又は2種を含むことが好ましい。
【0019】
原料排液に含まれる有機溶媒から重合性化合物を蒸留によって分離しようとする場合、重量性化合物と有機溶媒との沸点の差が30℃以下であると、重合性化合物の大部分が溶媒とともに蒸発して蒸留液側に移行してしまう。また、重合性化合物と有機溶媒との沸点の差が30℃を超え50℃以下であると、重合性化合物の一部が溶媒とともに蒸発して蒸留液側に移行してしまう。
そのため、重量性化合物と有機溶媒との沸点の差が小さい場合には、アルカリ処理によって重合性化合物を除去する本発明の方法が特に有利である。
【0020】
このような観点から、重合性化合物がメチルメタクリレート(沸点100℃)である場合、本発明の方法は、沸点が100℃±30℃(70~130℃)の有機溶媒を含む原料排液に適用することが好適である。
沸点が100℃±30℃の有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、メチルエチルケトン、へプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0021】
同様の観点から、重合性化合物がメチルアクリレート(沸点80℃)である場合、本発明の方法は、沸点が80℃±30℃(50~110℃)の有機溶媒を含む原料排液に適用することが好適である。
沸点が80℃±30℃の有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、2-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0022】
(その他の成分)
原料排液は、有機溶媒及び重合性化合物を含む。
原料排液は、これら以外の成分を含んでいてもよい。
原料排液が任意的に含むその他の成分としては、例えば、水等が挙げられる。
【0023】
(原料排液中の成分の含有量)
原料排液中の有機溶媒の含有量は、任意である。
原料排液中の有機溶媒の含有量は、原料排液の全質量に対して、例えば、30質量%以上100質量%未満であってよく、50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましい。
原料排液が有機溶媒を2種類以上含む場合、上記の数値範囲は、有機溶媒の合計の含有量に関する。
【0024】
原料排液中の重合性化合物の含有量は、原料排液の全質量に対して、例えば、0.01質量%以上5.0質量%以下であってよく、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。重合性化合物をこの範囲で含有する原料排液では、従来技術の方法による重合性化合物の除去が困難である。そのため、重合性化合物をこの範囲で含有する原料排液に本発明を適用すると、本発明の効果が有効に発揮されるため、好ましい。
【0025】
原料排液は、水を含んでいてよい。
本発明の重合性化合物除去方法では、原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製して、アルカリ処理を行う。このアルカリ処理液中の水の濃度が過度に大きいと、アルカリ処理の効果が減殺される場合がある。これを回避する観点から、原料排液の水の含有量の上限は制限されてよい。
一方、アルカリ処理液中の水の濃度が過度に小さい場合には、重合性化合物の除去の効率が悪化する場合がある。しかしながら、原料排液中の水の含有量が所定値よりも少ない場合には、アルカリ処理液の調製時に適量の水を加えればよいから、原料排液の水の含有量の下限は任意である。
以上のことを勘案すると、原料排液中の水の含有量は、原料排液の全質量に対して、例えば、30質量%以下であってよく、20質量%以下、10質量%以下、若しくは5質量%以下であってよく、又は、原料排液は水を含まなくてもよい。
【0026】
〈アルカリ処理〉
本発明の重合性化合物除去方法では、原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行う。このアルカリ処理により、重合性化合物の少なくとも一部が分解又は反応して、原料排液から除去される。また、このアルカリ処理により、原料排液中の着色成分が除去される場合がある。
これと同時に、重合性化合物の一部、及び原料排液中のその他の成分は、アルカリ処理によって高沸点成分を副生する。副生した高沸点成分は、後述の蒸留によって除去することが可能である。ただし、この高沸点成分の副生量が多いと、原料排液中の有機溶媒の回収率が損なわれる場合がある。
【0027】
アルカリ処理液を調製する際に、原料排液に加えられるアルカリは、水溶液中のpKbが0以下の強塩基が好ましく、特に、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物等が好ましい。
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム等が;
アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が;
テトラアルキルアンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が;
それぞれ挙げられる。
アルカリ処理液を調製する際、アルカリは、固体の状態で原料排液に加えられてもよいし、水浴液として原料排液に加えられてもよい。
【0028】
本発明の重合性化合物除去方法では、アルカリ処理液中の各成分の濃度、及びアルカリ処理の時間を適正な範囲に調節することにより、アルカリ処理の効果が向上して、重合性化合物及び着色成分の除去効率が高くなるとともに、高沸点成分の副生率を低減することができる。
【0029】
この観点から、アルカリ処理液中のアルカリの濃度は、OH基の質量が、アルカリ処理液の全質量に対して占める割合として、0.12質量%以上0.50質量%以下であり、0.15質量%以上0.35質量%以下であることが好ましく、0.18質量%以上0.30質量%以下であることがより好ましい。このOH基の質量とは、電離しているOH基及び電離していないOH基の合計の質量である。
【0030】
アルカリ処理液中のアルカリの濃度は、アルカリの質量がアルカリ処理液の全質量に対して占める割合として、0.20質量%以上2.0質量%以下であり、0.25質量%以上1.8質量%以下であることが好ましく、0.28質量%以上1.6質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
アルカリ処理液中の水濃度は、アルカリ処理液の全質量に対して、16.0質量%以上であり、18.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上、又は22.0質量%以上であってもよい。また、アルカリ処理液中の水濃度は、アルカリ処理液の全質量に対して、50質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
上記のアルカリ処理液中の水濃度は、原料排液にもともと含まれていた水、アルカリを水溶液として加える場合の水、及びアルカリ処理液中の水の濃度を調節するために別途加えられる水の合計濃度に関する。
すなわち、原料排液にアルカリを加えた後のアルカリ処理液中の水の濃度が、所望値よりも少ない場合には、アルカリ処理液に別途水を加えて、アルカリ処理液中の水の濃度を調節してもよい。
アルカリ処理の温度は、例えば、-10℃以上50℃以下の任意であってよい。典型的には、環境温度であってよく、-5℃以上40℃以下が好ましく、0℃以上35℃以下がより好ましい。
【0032】
アルカリ処理の時間は、10分以上110分以下であり、20分以上100分以下が好ましく、30分以上90分以下がより好ましく、45分以上75分以下であってもよい。
アルカリ処理の開始(すなわち、アルカリ処理液を調製した時点、好ましくは原料排液にアルカリを加え始めた時点)から所定の時間が経過した時点で、アルカリ処理は停止されてよい。アルカリ処理の停止は、例えば、アルカリ処理液に酸を添加して中和すること等によって行われてよい。この場合、アルカリ処理液に酸を添加し終わった時点を、アルカリ処理の終了の時点としてよい。ここで添加される酸としては、無機酸が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。酸は、neatの状態で添加されてもよいし、水溶液として添加されてもよい。
【0033】
〈蒸留〉
本発明の重合性化合物除去方法では、アルカリ処理の後に、アルカリ処理液の蒸留を行う。この蒸留により、アルカリ処理の際に少量副生した高沸点化合物、及び存在する場合には着色成分が除去される。
この蒸留は、回収すべき溶媒と沸点が有意に異なる高沸点成分の除去が目的であるため、多段の精密な蒸留である必要はなく、単蒸留又はフラッシュ蒸留で十分である。
単蒸留とは、蒸留缶に蒸留原液(アルカリ処理後のアルカリ処理液)を仕込み、外部からの加熱によって沸騰させ、発生蒸気を凝縮器で凝縮させることにより、蒸留原液中の低沸点成分を濃縮する方法である。
フラッシュ蒸留とは、蒸留缶に蒸留原液を連続的に供給して、単蒸留を連続的に行う方法である。
【0034】
〈本発明の効果〉
本発明の重合性化合物除去方法によると、アルカリ処理によって、原料排液中の重合性化合物が除去される。
具体的には、原料排液中の重合性化合物の残存率を、アルカリ処理前の60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下とすることができる。
本発明の重合性化合物除去方法によると、蒸留によって、原料排液中の重合性化合物の残存率を、特に、アルカリ処理前の50質量%以下にすることが可能である。原料排液中の重合性化合物の残存率が、アルカリ処理前の50質量%以下になると、原料排液中の有機溶媒を複数回回収再利用した場合でも、有機溶媒中に重合性化合物が蓄積せず、好ましい。
なお、重合性化合物がエステル結合を有する化合物である場合、アルカリ処理によってエステル結合(-COO-R)中のアルキル基(R-)が、アルカリ処理液中の有機溶媒(例えばアルコール(R-OH))中のアルキル基(R-)と置換して、別種のエステル結合(-COO-R)を有する重合性化合物が生成する場合がある。この場合の重合性化合物の残存率は、元の重合性化合物と、生成した別種の重合性化合物との合計量に関する。
【0035】
また、アルカリ処理によって、原料排液中の着色成分が除去される場合がある。
原料排液中の着色成分は、アルカリ処理によって除去されない場合もある。しかしながら、その場合には、蒸留によって着色成分が除去されるから、アルカリ処理及び蒸留を経由する本発明の方法によって得られる回収有機溶媒は、無色透明な液となる。
【0036】
しかしながら、本発明の重合性化合物除去方法では、アルカリ処理によって、少量の高沸点成分が副生する。副生した高沸点成分は、後述の蒸留によって除去することが可能であるが、高沸点成分の副生量が多いと、原料排液中の有機溶媒の回収率が損なわれる場合がある。
本発明の重合性化合物除去方法によると、アルカリ処理によって副生する高沸点成分の量を抑制することができる。具体的には、例えば、アルカリ処理後のアルカリ処理液に含まれる高沸点化合物の濃度を、アルカリ処理液の全質量に対して、0.75質量%以下、0.65質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、又は0.35質量%以下に留めることができる。
アルカリ処理後のアルカリ処理液に含まれる高沸点化合物の量は、ガスクロマトグラフィーのピーク面積によって評価してもよい。
例えば、アルカリ処理後のアルカリ処理液について、後述の実施例に記載の条件で測定されたガスクロマトグラフィーにおいて、有機溶媒(例えばケトン系溶媒)のピーク面積に対する高沸点化合物のピーク面積の割合を、0.05以下、0.03以下、0.02以下と、又は0.01以下に留めることができる。
【0037】
更に本発明の重合性化合物除去方法によると、アルカリ処理後の蒸留が単蒸留又はフラッシュ蒸留でよいから、少ない設備費及び少ないエネルギー消費にて、効率的な重合性化合物の除去が可能となる。
【0038】
《排ガスからの重合性化合物除去方法》
本発明の別の観点によると、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法が提供される。
この方法は、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスから前記重合性化合物を除去するための、重合性化合物除去方法であって、
前記排ガスを活性炭と接触させて、前記活性炭に前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着させること、
前記有機溶媒及び前記重合性化合物を吸着した前記活性炭を加熱して、前記有機溶媒及び前記重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること、
前記原料排液にアルカリを加えてアルカリ処理液を調製し、アルカリ処理を行うこと、
前記アルカリ処理後の前記アルカリ処理液を蒸留すること
を含み、
前記アルカリ処理液中の水濃度が16.0質量%以上であり、かつ、前記アルカリ処理の時間が10分以上110分以下である。
【0039】
そして、
前記アルカリ処理液中のOH基の濃度が0.12質量%以上0.50質量%以下であること、及び
前記アルカリ処理液中のアルカリの濃度が0.20質量%以上2.0質量%以下であること
のうちの、少なくとも一方を満たす。
【0040】
この方法では、有機溶媒及び重合性化合物を含む排ガスを原料排ガスとして用い、
原料排ガスを活性炭と接触させて、活性炭に有機溶媒及び重合性化合物を吸着させること、
有機溶媒及び重合性化合物を吸着した活性炭を加熱して、有機溶媒及び重合性化合物を脱離させて、原料排液を得ること
を含む他は、得られた原料排液を用いて、排液からの重合性化合物除去方法と同様に実施することができる。
【0041】
活性炭から有機溶媒及び重合性化合物を脱離させるための加熱の際には、例えば、水蒸気による間接加熱を行ってよい。
排ガスからの重合性化合物除去方法のその他の要件については、排液からの重合性化合物除去方法における該当項目の説明を援用できる。
【0042】
《代替的方法》
本発明の排液からの重合性化合物除去方法、及び排ガスからの重合性化合物除去方法において、アルカリ処理の代わりに、アニオン交換樹脂による処理を行った場合でも、本発明と類似の効果が得られる。
【実施例0043】
《分析方法》
(1)原料排液及びアルカリ処理後の溶液中の成分濃度
原料排液及びアルカリ処理後の溶液中の成分濃度は、以下の条件下のガスクロマトグラフィー(GC)によって得られたピークのピーク面積比から求めた。
測定装置:ジーエルサイエンス(株)製、「GC-4000plus」
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:アジレント・テクノロジー(株)製、「DB-1」
カラムオーブン温度:50℃(2分間保持)→250℃(昇温速度10℃/分)→250℃(5分間保持)
試料注入量:1μL
キャリアガス:窒素
圧力・流量制御:電子式圧力・流量制御(EPFC)
EPFC条件
カラム流量:4.15mL/分
スプリット流量:45.1mL/分
パージ流量:3.0mL/分
スプリットon時間:2分間
【0044】
(2)蒸留後の留出液中の成分濃度
上記と同じ条件のGC分析において、シクロヘキサノンを内部標準として、留出液中のメチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、及び重合性化合物の濃度(質量%)を求めた。これらの値と留出液の量(質量)とから、留出液中の各成分の量(質量)を算出した。
MMA及びEMAの残存率は、上記で得られた成分量(質量)を、それぞれ、原料排液中のMMAの質量で除することにより、算出した。
重合性化合物の残存率は、上記で得られた成分量(質量)を、原料排液中の重合性化合物の質量で除することにより、算出した。
【0045】
《原料排液》
光硬化性樹脂組成物塗布工程から排出される、揮発性有機化合物(VOC)を含む排ガスを、活性炭吸着法排ガス処理装置で処理し、VOCを活性炭に吸着させた。VOC吸着後の活性炭を水蒸気によって間接的に加熱し、吸着したVOCを脱離させて回収し、原料排液を得た。VOCを脱離させる際のキャリアガスには、窒素を用いた。
得られた原料排液は、メチルエチルケトン(MEK)72.3質量%、エタノール(EtOH)20.6質量%、水3.0質量%、及びメチルメタクリレート(MMA)0.3質量%を含有していたが、高沸点成分は含有していなかった。
また、この原料排液は、淡褐色に着色していた。
【0046】
《蒸留》
蒸留は、ロータリーエバポレータを用いて、減圧度(ゲージ圧)-700mmHg(絶対圧8.0kPa)、バス温度50℃にて行った。
蒸留は、留出液の含水量が15%以下になる範囲で、アルカリ処理後のアルカリ処理液に含まれる有機溶剤の80%以上の留出液が得られるように行った。
下記の実施例及び比較例において、蒸留による留出液の回収率は、アルカリ処理後のアルカリ処理液の質量を基準として、59質量%(実施例8及び比較例6)~87質量%(比較例1)の範囲内であった。
【0047】
《実施例1》
(1)アルカリ処理
容量100mLのナス型フラスコに、原料排液49.18g及び水10.11gを入れて、よく撹拌した。ここに、濃度42質量%のKOH水溶液0.71gを加えて、アルカリ処理液を調製して、30分間のアルカリ処理を行った。
アルカリ処理開始時のアルカリ処理液量は60.00g(原料排液49.18g+水10.11g+KOH水溶液0.71g=60.00g)であった。また、このアルカリ処理液中の水、MMA、及びOH基の濃度は、それぞれ、以下のとおりであった。
水:20.0質量%({(49.18×0.03+10.11+0.71)/60.00}×100=20.0)
MMA:0.25質量%({(49.18×0.003)/60.00}×100=0.25
OH基:0.15質量%([{0.71×0.42×(17(OH)/56.1(KOH)}/60.00]×100=0.15)
【0048】
30分後、アルカリ処理液に濃度1Nの硫酸水溶液を添加して、アルカリ処理を停止させ、成分濃度の分析を行った。その結果、下記数式(1)で定義されるMMAの残存率は20.4質量%であり、下記数式(2)で定義されるエチルメタクリレート(EMA)の副生率は30.8質量%であり、下記数式(3)で定義される重合性化合物残存率は51.2質量%であった。なお、EMAは、原料排液に含まれていたMMAがEtOHと反応して生成したものと考えられる。
MMA残存率(質量%)={アルカリ処理後の溶液中のMMA濃度(質量%)/原料排液中のMMA濃度(質量%)}×100 (1)
EMA副生率(質量%)={アルカリ処理後の溶液中のEMA濃度(質量%)/原料排液中のMMA濃度(質量%)}×100 (2)
重合性化合物残存率(質量%)=MMA残存率(質量%)+EMA副生率(質量%) (3)
【0049】
また、アルカリ処理停止後のアルカリ処理液中の高沸点成分の副生率は、GC分析におけるMEKのピーク面積に対する高沸点成分のピークの合計面積の比として、0.0033であった。
【0050】
(2)蒸留
回転フラスコ中にアルカリ処理停止後のアルカリ処理液を入れ、上記の条件にて蒸留を行った。
目視観察によると、得られた留出液は無色透明であった。
上記条件下のGC分析によって求めた、留出液中のMMA及びEMAの残存率は、原料排液中のMMAの質量に対して、それぞれ、20.3質量%及び20.9質量%であり、重合性化合物の残存率は、原料排液中の重合性化合物の質量に対して、41.2質量%であった。また、GC分析において、高沸点成分は検出されなかった。
【0051】
《実施例2~8及び比較例1~6》
アルカリ処理液中の原料排液、水、及びKOH水溶液の配合量、並びにアルカリ処理時間を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして、原料排液のアルカリ処理及び蒸留を行った。
結果を表2に示す。
【0052】
《実施例9~14及び比較例7》
アルカリ成分として、KOH水溶液の代わりに濃度4質量%のNaOH水溶液を用い、アルカリ処理液中の原料排液、水、及びNaOH水溶液の配合量、並びにアルカリ処理時間を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして、アルカリ処理液を調製して、アルカリ処理、及びその後の蒸留を行った。
なお、実施例14では、原料排液にMMAを添加して濃度調整を行った後に、表1に記載の各成分を混合した。
結果を表2に示す。
【0053】
《実施例15》
アルカリ成分として、KOH水溶液の代わりに濃度10質量%の水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を用い、アルカリ処理液中の原料排液、水、及びNaOH水溶液の配合量、並びにアルカリ処理時間を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして、アルカリ処理液を調製して、アルカリ処理、及びその後の蒸留を行った。
結果を表2に示す。
【0054】
《比較例8》
原料排液のアルカリ処理を行わず、実施例1と同様の条件下でロータリーエバポレータによる蒸留のみを行った。
得られた留出液は、原料排液と同様に、淡褐色に着色していた。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1によると、アルカリ処理を行わず、蒸留のみを行った比較例8では、重合性化合物残存率が高く、また、原料排液の着色は消失しないことが分かった。
また、アルカリ処理液中の水の濃度が7.0質量%の比較例4、及び15.0質量%の比較例1では、アルカリ処理後の重合性化合物残存率が高かった。
アルカリ処理液中のOH基の濃度が0.09質量%の比較例7では、アルカリ処理後の高沸点成分の副生率は低かったが、重合性化合物残存率が高かった。一方、OH基の濃度が0.76質量%の比較例3、及び0.85質量%の比較例4では、高沸点成分の副生率が高かった。
更に、アルカリ処理時間が5分の比較例5では、アルカリ処理後の重合性化合物残存率が高く、一方、アルカリ処理時間が120分の比較例2では、アルカリ処理後の重合性化合物残存率は低かったが、高沸点成分の副生率が高かった。
【0058】
これらの比較例に対して、アルカリ処理液中のOH基及び水の濃度が適正であり、かつ、アルカリ処理時間が適当な実施例では、アルカリ処理後の重重合性化合物残存率が低く、かつ、高沸点成分の副生率も低く、本発明が所期する効果が得られることが検証された。
【0059】
なお、アルカリ処理後のアルカリ処理液中に残存した重合性化合物は、後の蒸留によって除去される割合が低い。したがって、アルカリ処理後のアルカリ処理液中の重合性化合物残存率が高いと、蒸留後の留出液からの有機溶媒回収操作における加熱、薬剤添加等の処理によって重合して、回収有機溶媒中に蓄積することがあり、回収有機溶媒の再使用の障害となり得る。
また、アルカリ処理後のアルカリ処理液中の高沸点成分は、蒸留によって除去することが可能である。しかしながら、アルカリ処理後のアルカリ処理液中に、多くの高沸点成分が副生すると、有機溶媒の回収率が損なわれるため、好ましくない。
【0060】
本発明の方法によると、蒸留で得られる留出物は、水分量が低く、重合性化合物残存率が小さく、着色成分及び高分子成分が除去されたものであることが検証された。
具体的には、本発明の方法によると、水分量の少ない留出物を、高い回収率で回収することが可能である。
留出物の水分量は、留出物の全量に対して、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、又は8質量%とすることができる。
留出物の回収率は、アルカリ処理後のアルカリ処理液に含まれる有機溶媒の質量に対して、80質量%以上、82質量%以上、又は85質量%以上とすることができる。
【0061】
《参考例1》
三菱ケミカル(株)製の強塩基性アニオン交換樹脂、「DIAION SA10AOH」20mLを、エタノールで洗浄した。洗浄後のアニオン交換樹脂に原料排液20mLを加え、振動数100rpm(1.67Hz)にて1時間の浸透処理を行った。
浸透処理後の原料排液をろ過し、アニオン交換樹脂を除いた後、成分濃度の分析を行った。
その結果、MMAの残存率は7.1質量%であり、EMAの副生率は32.4質量%であり、重合性化合物残存率は39.5質量%であった。また、浸透処理後の原料排液の高沸点成分の副生率は、MEKのピーク面積に対する高沸点成分のピークの合計面積の比として、0.0058であった。
【0062】
参考例1の結果から、本発明の重合性化合物成分の除去方法において、アルカリ処理の代わりに、アニオン交換樹脂による処理を行った場合にも、本発明と類似の効果が得られることが確認された。