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特開2024-41693Co-Mn-Ga系合金粉体、導電成形体、それらの製造方法、および熱電変換素子
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  • 特開-Co-Mn-Ga系合金粉体、導電成形体、それらの製造方法、および熱電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041693
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】Co-Mn-Ga系合金粉体、導電成形体、それらの製造方法、および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/20 20230101AFI20240319BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240319BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240319BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240319BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240319BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H10N15/20
B22F1/065
B22F9/08 A
B22F1/00 M
B22F1/052
C22C19/07 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184763
(22)【出願日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2022145989
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BB07
4K017BB18
4K017DA01
4K017EB00
4K017FA04
4K017FA15
4K018AA10
4K018BA04
4K018BB03
4K018BB04
4K018BD10
4K018DA11
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】異常ネルンスト効果を利用した、高いネルンスト係数が得られる熱電変換素子を、生産性良く製造するために適した技術を提供する。
【解決手段】金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下であり、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であるCo-Mn-Ga系合金粉体。ここで、平均円形度は、SEM(走査型電子顕微鏡)画像から次式、円形度=4πS/L、により求まる各粒子の円形度についての相加平均に相当する。ただし、Sは当該粒子の画像上の面積(μm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μm)である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下であり、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であるCo-Mn-Ga系合金粉体。
ここで、平均円形度は、SEM(走査型電子顕微鏡)画像から下記(1)式により求まる各粒子の円形度についての相加平均に相当する。
円形度=4πS/L …(1)
ただし、Sは当該粒子の画像上の面積(μm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μm)である。
【請求項2】
不活性ガス雰囲気の気相空間中で、Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、金属間化合物CoMnGaを主成分とする金属粒子を合成する金属粒子合成工程、
を有する請求項1に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
【請求項3】
不活性ガス雰囲気の気相空間中で、Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、金属間化合物CoMnGaを主成分とする金属粒子を合成する金属粒子合成工程、
前記金属粒子からなる粉体から一部の粒子を除去することにより粒度分布を調整する分級工程、
を有する請求項1に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
【請求項4】
前記Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯は、Co、MnおよびGaを溶融させて合金化したのち凝固させて得られたCo-Mn-Ga系母合金を用いて形成させたものである、請求項2または3に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の導電成形体。
【請求項6】
請求項1に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の焼結体からなる導電成形体。
【請求項7】
温度300Kにおいて5.5μV/K以上のネルンスト係数を呈する請求項5または6に記載の導電成形体。
【請求項8】
請求項1に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体を焼結させることにより導電成形体を得る焼結工程、を有する導電成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
【請求項10】
請求項7に記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子の素材として有用なCo-Mn-Ga系合金粉体、およびその製造方法に関する。また本発明は、Co-Mn-Ga系合金粉体の導電成形体、その製造方法、および上記導電成形体を用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換素子の研究が進められている。異常ネルンスト効果は、自発的に磁化している磁性体に磁化と直交する向きの熱流を付与したとき、磁化と熱流の双方に垂直な方向の起電力が生じる現象である。異常ネルンスト効果を利用すると熱流と直角方向に電流が取り出せるため、ゼーベック効果を利用する場合とは異なり、薄くシート化した熱電変換デバイスが構築できるといったメリットが得られる。
【0003】
常温で大きい異常ネルンスト効果を示す物質として、強磁性金属間化合物CoMnGaが知られている。
【0004】
特許文献1には、チョクラルスキー法によってCoMnGa単結晶を作製し、異常ネルンスト係数を測定した実験例が記載されている。CoMnGa単結晶の室温(300K)でのネルンスト係数は、磁場の付与方向が結晶の[100]、[110]、[111]方向のいずれに平行な場合も、6μV/K程度の高い値に達している(段落0021、図4)。
【0005】
特許文献2には、熱流センサと温度センサを有する複合センサにおいて、その熱流センサに異常ネルンスト材料膜を使用することが記載されている。異常ネルンスト材料としていくつかの物質が列挙されており、その1つとしてCoMnGaの記載がある(段落0026)。異常ネルンスト材料膜の成膜方法としてスパッタ法が示されている(段落0030)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/009308号
【特許文献2】特開2020-153668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱電変換素子の主な用途として、熱電発電デバイスおよび熱流センサが挙げられる。
【0008】
熱電発電デバイスを実現するための熱電変換素子は、厚さ数ミリメートル程度のバルク体であることが望ましい。チョクラルスキー法による単結晶体を用いると、上記のようなサイズのバルク体を作製することは可能である。しかし、チョクラルスキー法などの単結晶製造技術はコストが高く生産性が低いので、熱電発電デバイス用素材の工業的生産においては実用的ではない。一方、スパッタ法などの成膜技術を、熱電発電デバイス用のバルク素材の工業的生産に適用することは困難である。
【0009】
熱流センサを実現するための熱電変換素子は、微小な回路パターンの一部に組み込んで使用することを考慮すると、小サイズの素子であることが望まれる。小サイズの素子を、チョクラルスキー法などで得られる単結晶体から多数切り出すことは、コスト面で工業的に実用化することが難しい。また、所定形状の小サイズ素子をチョクラルスキー法で直接形成させることも困難である。一方、スパッタ法などの成膜技術によれば、所定の回路パターンに応じた小サイズの素子を絶縁基板上に直接形成させることは可能である。しかし、そのような成膜方法は生産性が低く、熱流センサの製造コストは高くなる。
【0010】
本出願人は、チョクラルスキー法やスパッタ法などに代わるCoMnGa結晶の合成手法として、Co-Mn-Ga系合金の溶湯を凝固させて金属間化合物CoMnGaを主成分とする合金塊を溶製する手法を採用し、その合金塊を粉砕、分級することにより所定粒度分布のCo-Mn-Ga系合金粉体を得る技術を、特願2021-103682号として開示した。この技術で得られるCo-Mn-Ga系合金粉体は種々の形状の導電成形体に加工でき、その導電成形体は常温で高いネルンスト係数を呈することが確認された。しかし、この技術では、合金塊を粉体化させるために粉砕の工程が必要となり、所定粒度分布の粉体製品を得るためには分級の工程が必須となる。粉砕工程は、量産化を意図した場合にはサイズの大きい合金塊を多量に砕く設備が必要となり、製造負荷を押し上げる要因となる。また、粉砕によって粉体化すると、角張った形状の粒子が生成する。そのため、粉砕によって粉体化した粒子で構成される粉体は、粒子の充填性に関して場所的なバラツキの少ない均質性の高い導電成形体を生産性良く製造するという観点では、不利となる。
【0011】
本発明は、異常ネルンスト効果を利用した、高いネルンスト係数が得られる熱電変換素子を、生産性良く製造するために適した技術であって、特に種々の形状、サイズの素子の製造に幅広く対応でき、かつ均質性の高い素子を生産性良く得る上でも有利な技術の提供を目的とする。また、その技術を用いて得られるネルンスト係数の高い熱電変換素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本明細書では以下の発明を開示する。
【0013】
[1]金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下であり、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であるCo-Mn-Ga系合金粉体。
ここで、平均円形度は、SEM(走査型電子顕微鏡)画像から下記(1)式により求まる各粒子の円形度についての相加平均に相当する。
円形度=4πS/L …(1)
ただし、Sは当該粒子の画像上の面積(μm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μm)である。
[2]不活性ガス雰囲気の気相空間中で、Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、金属間化合物CoMnGaを主成分とする金属粒子を合成する金属粒子合成工程、
を有する上記[1]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
[3]不活性ガス雰囲気の気相空間中で、Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、金属間化合物CoMnGaを主成分とする金属粒子を合成する金属粒子合成工程、
前記金属粒子からなる粉体から一部の粒子を除去することにより粒度分布を調整する分級工程、
を有する上記[1]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
[4]前記Co-Mn-Ga系合金の金属溶湯は、Co、MnおよびGaを溶融させて合金化したのち凝固させて得られたCo-Mn-Ga系母合金を用いて形成させたものである、上記[2]または[3]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の製造方法。
[5]上記[1]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の導電成形体。
[6]上記[1]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体の焼結体からなる導電成形体。
[7]温度300Kにおいて5.5μV/K以上のネルンスト係数を呈する上記[5]または[6]に記載の導電成形体。
[8]上記[1]に記載のCo-Mn-Ga系合金粉体を焼結させることにより導電成形体を得る焼結工程、を有する導電成形体の製造方法。
[9]上記[5]または[6]に記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
[10]上記[7]に記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ネルンスト係数の高い熱電変換素子を得ることができる。その熱電変換素子に用いる材料は粉体であるため、本発明の技術は、種々の形状、サイズの素子に幅広く対応することができる。その粉体は球状粒子で構成されるため、均質性の高い素子を生産性良く製造する上で有利である。また、本発明の技術は、単結晶やスパッタ法による薄膜を用いた従来の技術と比べ、コストおよび生産性の面で優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた粉体のX線回折パターン。
図2】実施例1で得られた粉体のSEM写真。
図3】実施例で用いたネルンスト効果測定用試料について、電力測定用の端子、温度測定用のプローブ取り付け位置と、熱流、磁場の付与方向を模式的に示した図。
図4】実施例1で得られた粉体の導電成形体についての、ネルンスト係数の測定結果を示すグラフ。
図5】実施例2で得られた粉体のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[Co-Mn-Ga系合金粉体]
本発明では熱電変換素子に適した材料として金属間化合物CoMnGaを主成分とするCo-Mn-Ga系合金粉体を対象とする。CoMnGaはL2結晶構造を持つホイスラー合金の1種である。この金属間化合物はワイル強磁性体であり、常温付近でのネルンスト係数が6μV/K程度に達し、大きい異常ネルンスト効果を発現する物質であることが知られている。
【0017】
Co、Mn、Gaの組成比がCoMnGaの化学量論組成に近い一定の組成域において、CoMnGa型の結晶構造を持つ金属間化合物が単相として安定に存在し得る。その組成域の周辺ではCoMnGa型の結晶構造を持つ金属間化合物相と異相とが混在したCo-Mn-Ga系合金が得られると考えられる。本明細書では、Co-Mn-Ga系3元合金において、CoMnGa型(すなわちL2)結晶構造を持つ金属間化合物相を「金属間化合物CoMnGa」、あるいは単に「CoMnGa相」と呼んでいる。CoMnGaの化学量論組成から少しずれた組成比の金属間化合物であっても、CoMnGa型結晶構造を持つものは、本明細書でいう「金属間化合物CoMnGa」に含まれる。
【0018】
「金属間化合物CoMnGaを主成分とする」とは、粉体に含まれる金属相のうち、質量割合が最も多い金属相がCoMnGa相であることを意味する。Co-Mn-Ga系合金粉体を用いた熱電変換素子において、CoMnGa相以外の異相が含まれていても、CoMnGa相の異常ネルンスト効果による熱電変換作用は生じる。しかし、効率の良い熱電変換特性を実現するためには、異常ネルンスト効果を示さない異相の存在量は少ないことが望ましい。例えば、粉体に占めるCoMnGa相の割合は50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、金属間化合物CoMnGaからなる粉体、すなわち、金属間化合物CoMnGa以外は不可避的不純物である粉体が特に好ましい。
【0019】
本発明のCo-Mn-Ga系合金粉体を構成する粒子の粒度分布は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下の範囲とする。累積50%粒子径D50が大きすぎる場合は、平均粒子径が大きくなるため、保磁力の低下につながる。累積90%粒子径D90が大きすぎる場合は、粗大粒子の存在割合が大きくなるため、この場合も保磁力の低下につながる。保磁力を確保する観点からは、累積50%粒子径D50が100μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明のCo-Mn-Ga系合金粉体は、球状粒子で構成される。具体的には、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であるCo-Mn-Ga系合金粉体を対象とする。平均円形度がこのように高い粉体を適用することによって、後述する導電成形体を製造する工程で粉体を成形型に装填する際の装填作業性が、角張った形状の粒子からなる粉体と比べ、大幅に改善される。また、場所的な充填密度の変動が小さい、均質性の高い導電成形体を得る上で有利となる。導電成形体の均質性の向上は、ネルンスト係数に代表される素子の特性に関して製品間でのバラツキが少ない、安定した所期性能を呈するデバイスを構築する上で極めて有効である。さらに、粉体をフィラーとする塗工液(ペーストを含む)を作製する場合にも、平均円形度の高い粉体を使用することは、媒体中での粒子の分散性を改善する上で有効である。平均円形度は0.85以上であることがより好ましい。平均円形度が高いCo-Mn-Ga系合金粉体は、ガスアトマイズ法を用いた金属粒子合成工程を採用することによって実現できる。平均円形度は以下のようにして求めることができる。
【0021】
(平均円形度の求め方)
測定対象である粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子とする。各測定対象粒子について、下記(1)式により円形度を求める。
円形度=4πS/L …(1)
ここで、Sは当該粒子の画像上の面積(μm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μm)である。
上記円形度の測定を、測定対象粒子の総数が50個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行い、個々の粒子の上記円形度の総和を測定対象粒子の総数で除した値を、当該粉体を構成する粒子の平均円形度とする。なお、上記(1)式により定まる円形度の値は、真円である場合の1が最大となる。
【0022】
本発明のCo-Mn-Ga系合金粉体を構成する金属粒子は、ガスアトマイズ法を利用した「金属粒子合成工程」によって得ることができる。そのガスアトマイズ法は例えば以下のようにして実施できる。原料金属を溶解炉で溶融させてCo-Mn-Ga系合金の溶湯を形成させ、その溶湯を、必要に応じて非酸化性雰囲気下に置かれたタンディッシュ内に一旦収容したのち、例えばオリフィスを備える出湯ノズルから、Ar、N等の不活性ガス雰囲気の気相空間に吐出させる。気相空間への吐出は、重力や加圧ガスによる押し出し力を利用して行うことができる。溶湯の吐出流は通常、液滴状あるいは紐状に流下させる。気相空間に出た流下中の金属溶湯に、Ar、N等の不活性ガスを高圧で吹き付け、溶湯を粒子化させる。溶湯の粒子は気相中で急冷凝固し、金属間化合物CoMnGaを主成分とする球状粒子となる。出湯ノズルの形状、気相空間に吐出させる溶湯の単位時間あたりの流量、吹き付けるガスの流速などにより、得られる金属粒子の平均粒子径をコントロールすることができる。
【0023】
ガスアトマイズ法で使用する原料金属としては、例えば、Co、MnおよびGaを溶融させて合金化したのち凝固させることによって予め作製したCo-Mn-Ga系母合金を用いることが好ましい。これにより、ガスアトマイズ法で得られる粉体の化学組成を、より正確に制御できる。Co-Mn-Ga系母合金の作製は、所定組成に秤量したCo、Mn、Gaの各原料金属をるつぼに入れ、非酸化性雰囲気中で加熱して溶融させ、得られた溶融金属をるつぼ中で冷却して凝固させる方法、または鋳型に鋳造して凝固させる方法で行うことができる。
【0024】
ガスアトマイズ法を利用した金属粒子合成工程によって、上述の粒度分布および平均円形度を有するCo-Mn-Ga系合金粉体を直接得ることができるが、金属粒子合成工程の後に、篩などを用いて粒度分布を更に調整する「分級工程」を1回または複数回行ってもよい。
【0025】
[導電成形体]
本明細書では、粉体を材料に用いて所定形状に成形され、使用環境においてその形状を維持できる定形性を備えた物体を、「粉体の成形体」と呼ぶ。特に、導電性を有する粉体の成形体を「粉体の導電成形体」と呼ぶ。上記のCo-Mn-Ga系合金粉体を材料に用いた、金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体の導電成形体は、熱電変換素子として有用である。
【0026】
粉体の導電成形体の代表的な形態として、圧粉体、焼結体が挙げられる。圧粉体であっても、使用環境で定形性を維持できるようにしてデバイスに組み込むことにより、熱電変換素子として使用可能である。安定した定形性を確保するためには、焼結体が好ましい。
【0027】
粉体の導電成形体の、圧粉体、焼結体以外の形態としては、例えば樹脂等のバインダー成分により粉体を所定形状に固形化した成形体を挙げることができる。導電性のないバインダー成分を使用する場合は、粉体粒子同士が接触する状態で固形化させる必要がある。導電性を有するバインダー成分を使用する場合は、粉体粒子同士の接触は必須ではない。
【0028】
金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体の導電成形体として、焼結体を適用する場合は、公知の「焼結工程」を利用して金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体の焼結体を作製することができる。絶縁基板上に形成された回路パターンの一部または全部を、金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体の導電成形体として使用する場合は、当該粉体をフィラーとする塗料により絶縁基板上に回路パターンの塗膜を形成したのち、その塗膜を加熱して焼結させる方法が適用できる。
【0029】
熱電変換素子として利用するためには、温度300Kにおいて5.5μV/K以上、より好ましくは5.8μV/K以上のネルンスト係数を呈する粉体の導電成形体を構築することが好ましい。上述のガスアトマイズ法を利用した金属粒子合成工程によって得られるCo-Mn-Ga系合金粉体を使用すれば、特段の分級工程を行わなくても、上記のような高いネルンスト係数を呈する粉体の導電成形体を得ることが可能である。
【実施例0030】
[実施例1]
(Co-Mn-Ga系母合金の作製)
原料である金属Co(株式会社レアメタリック製、純度3N)、金属Mn(株式会社レアメタリック製、純度3N)および金属Ga(株式会社レアメタリック製、純度6N)を、原子比でCo:Mn:Ga=50:25:25となるように秤量してアルミナるつぼに入れた。このるつぼを縦型電気炉(シリコニット社製、高温縦型管状炉UVHT631K)に装入し、Arガス雰囲気下において、常温から1000℃まで4時間かけて昇温、1000℃から1250℃まで2時間かけて昇温、1250℃で12時間保持、その後、炉内で5時間放冷、というヒートパターンにより、Co-Mn-Ga系合金の溶融金属をるつぼ中で凝固させ、Co-Mn-Ga系母合金を得た。
【0031】
(金属粒子の合成)
上記のCo-Mn-Ga系母合金を所定サイズに破砕したのち、ガスアトマイズ装置の溶解炉に投入してArガス雰囲気下で溶融させ金属溶湯を得た。その金属溶湯を、Arガス雰囲気下のタンディッシュに収容したのち、1.2mm径のオリフィスを備える出湯ノズルからArガス雰囲気の気相空間に吐出させた。気相空間に出た吐出中の溶湯に8MPaの加圧力でArガスを吹き付け、溶湯を粒子化させ、気相空間中で凝固させた。このようにしてCo-Mn-Ga系合金粉体を得た。このCo-Mn-Ga系合金粉体を「供試粉体」と呼ぶ。この供試粉体を以下の試験に供した。
【0032】
(X線回折パターンの測定)
上記の供試粉体について、X線回折装置(株式会社島津製作所製、XRD-6100 LabX)により、Cu-Kα線でのX線回折パターンを測定した。
図1に、そのX線回折パターンを例示する。当該供試粉体は、CoMnGa型の結晶構造を有するものであることが確認された。CoMnGa相以外の相は認められないことから、この供試粉体は「金属間化合物CoMnGaを主成分とする粉体」に該当する。
【0033】
(粒度分布の測定)
上記の供試粉体について、乾式レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec社製、HELOS/KR & RODOS)により、分散圧力1.7bar(0.17MPa)、焦点距離200mmのレンズを用いてレーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布を測定した。得られた粒度分布に基づき算出された累積10%粒子径D10は5.9μm、累積50%粒子径D50は22.1μm、累積90%粒子径D90は54.3μmであった。
【0034】
(平均円形度の測定)
上掲の「平均円形度の求め方」に従い、供試粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)画像に基づいて平均円形度を測定した。その結果、当該供試粉体の平均円形度は0.88であった。
図2に、供試粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。撮影条件は倍率500倍、加速電圧は15kVである。写真の下部に表示される白いスケールバーの長さが10μmに相当する。使用したSEMは、日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7200Fである。
【0035】
(EDXによる粉体の組成分析)
上記の供試粉体について、SEMに付属のEDX(エネルギー分散型X線分析)装置(Oxford Instruments製、X-Max20)により組成分析を行ったところ、原子比でCo:Mn:Ga=49.2:27.9:22.9であった。
【0036】
(導電成形体の作製)
上記の供試粉体を用いた焼結体を以下のように作製した。供試粉体約5.9gを、内径10mmの円筒形グラファイトセルのシリンダー中で上下のピストンにより90MPa(7.065kN)の圧力を付与した状態として、約1Paの真空雰囲気下で放電プラズマ焼結装置により加熱することによって、直径10mm、高さ約8mmの円柱形状の焼結体を得た。ヒートパターンは、650℃まで昇温、650℃で10分間保持、750℃まで昇温、750℃で10分間保持、放冷とした。
【0037】
(異常ネルンスト効果の測定)
上記の導電成形体(焼結体)から、長さ(L)8.269mm、幅(W)1.460mm、厚さ(H)0.624mmの直方体試料を切り出した。図3に、起電力測定用の端子、温度測定用のプローブ取り付け位置と、熱流、磁場の付与方向を模式的に示す。ネルンスト効果測定用試料1の対向する側面中央位置に、起電力測定用の端子2a、2bを導電性エポキシ接着剤で取り付け、電圧計で両端子間に生じる電圧(V)を測定できるようにした。この電圧は異常ネルンスト効果によって生じるものであるので、VANEと表示する。試料1の上面2箇所(符号31、32で示す位置)に5.0mmの間隔(L)をあけて温度測定用プローブを導電性エポキシ接着剤で取り付けてその間の温度差ΔTをモニターできるようにし、Quantum Design社製、物理特性測定システムPPMS装置内で試料長手方向に熱流を生じさせながら、試料の厚さ方向に磁場を付与し、試料の幅方向両端の間に生じる起電力を室温(300K)において測定した。図3中の黒塗り矢印(符号4)が試料中の熱流方向を表す。温度TおよびTが安定した後、試料に磁場を付与し、電圧VANE(V)を測定した。図3中の白抜き矢印(符号5)が磁場の方向を表す。磁場は3Tから-3T、-3Tから3Tの間で掃引した。
下記(2)式によりネルンスト係数SANE(μV/K)を求めた。
ANE(μV/K)=VANE(V)/W/ΔT(K)/L …(2)
ここで、
ANE:試料幅方向両端に生じる起電力(V)、
W:試料の幅方向長さ(mm)、
ΔT:温度プローブ取り付け位置2箇所の温度差(K)、
:2箇所の温度プローブ取り付け位置の試料長手方向距離(mm)、
である。
【0038】
図4に、ネルンスト係数の測定結果を示す。温度300Kにおける到達ネルンスト係数は5.99μV/Kであった。このネルンスト係数は単結晶CoMnGaにほぼ比肩するものである。
以上の結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
実施例1で得られたCo-Mn-Ga系合金粉体を、公称目開き9μmの篩いを用いて分級した。この分級工程で篩下に得られた粉体を本例の供試粉体とした。
この供試粉体の粒度分布を実施例1と同様の手法で測定したところ、累積10%粒子径D10は3.0μm、累積50%粒子径D50は5.4μm、累積90%粒子径D90は8.8μmであった。
図5に、本例供試粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。撮影条件は上述図2と同様である。
【0040】
また、本例供試粉体について、実施例1と同様に平均円形度、組成分析および異常ネルンスト効果の測定を行った。その結果、平均円形度は0.87、組成は原子比でCo:Mn:Ga=49.1:28.3:22.6、温度300Kにおける到達ネルンスト係数は5.95μV/Kであった。
これらの結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【符号の説明】
【0042】
1 ネルンスト効果測定用試料
2a、2b 起電力測定端子
31、32 測温位置
4 試料中の熱流方向
5 磁場の方向
図1
図2
図3
図4
図5