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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041706
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】乳児のオキシトシンレベルの予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/36 20060101AFI20240319BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N33/36 B
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088401
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022146188
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 考司
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB07
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】乳児のオキシトシンレベルを予測する方法を提供する。
【解決手段】乳児のオキシトシンレベルを予測する方法であって、以下の工程(A)~(C)を含む方法:
(A)所定の繊維性物品に触れて生活している乳児の母親の皮膚に、前記繊維性物品を接触させる工程、
(B)前記繊維性物品との接触による触感を評価する工程、
(C)前記触感評価値から、前記乳児のオキシトシンレベルの予測値を算出する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳児のオキシトシンレベルを予測する方法であって、以下の工程(A)~(C)を含む方法:
(A)所定の繊維性物品に触れて生活している乳児の母親の皮膚に、前記繊維性物品を接触させる工程、
(B)前記繊維性物品との接触による触感を評価する工程、
(C)前記触感評価値から、前記乳児のオキシトシンレベルの予測値を算出する工程。
【請求項2】
乳児のオキシトシンレベルを予測する方法であって、以下の工程(D)~(E)を含む方法:
(D)乳児の母親が、当該乳児の肌状態を評価する工程、
(E)前記肌状態評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値を算出する工程。
【請求項3】
請求項1記載の方法において得られる触感評価値と、請求項2記載の方法において得られる肌状態評価値を用いて乳児のオキシトシン量の予測値を算出する、乳児のオキシトシンレベルを予測する方法。
【請求項4】
オキシトシンレベルが唾液中のオキシトシン量である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
繊維性物品との接触による触感が、なめらかさ及び/又はやわらかさである、請求項1又は3記載の方法。
【請求項6】
繊維性物品が紙おむつ又は、洗剤若しくは洗剤及び柔軟剤で処理した繊維性物品である、請求項1又は3記載の方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法により予測されたオキシトシンレベルを用いる、当該乳児が使用する繊維性物品、又は当該繊維性物品の加工又は処理手段の分類又は評価方法。
【請求項8】
請求項2記載の方法により予測されたオキシトシンレベルを用いる、当該乳児が使用するスキンケア品の分類又は評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳児の定常状態のオキシトシンレベルを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシトシンは養育者と子どもとの間の愛着形成に関与する、脳由来のペプチドホルモンである(非特許文献1)。オキシトシンは乳幼児の社会性の発達向上に関与するため(非特許文献2、非特許文献3)、乳幼児期にオキシトシンを上昇させることは、社会性向上に伴う、より良い家族・社会の形成に繋がり、養育者の育児ストレス軽減にも寄与すると考えられる。
【0003】
これまで成人女性において、手の平(掌)で布生地に触れた後の触感評価値と、触れた前後のオキシトシン変化率が相関を示すことが明らかになっている(特許文献1)。また、オキシトシンの分泌にはオートクラインシステム(自己分泌調節機構)が存在し、数週間、継続してオキシトシンが上昇する刺激が行われると、定常状態(ベースライン)のオキシトシンレベルが上昇することが知られている(特許文献2、非特許文献4)。
【0004】
乳児は、おむつを始め、衣類、タオル、寝具類など、一定の繊維性物品に継続的に接触して生活しており、当該繊維性物品による継続的な接触刺激が定常状態のオキシトシンレベルに影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。したがって、当該乳児の定常状態のオキシトシンレベルを把握することは、乳児がおかれている生活環境が適切か否かを客観的に判断することに繋がり有用である。
【0005】
しかしながら、乳児におけるオキシトシンの測定は一般的に唾液や尿で行われることから、必要なタイミングでサンプルを採取することは難しい。そのため、簡便に乳児のオキシトシンレベルを把握する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-67669号公報
【特許文献2】特開2019-105619号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Weisman et al., Biol. Psychiatry., 72, 982-989, 2012.
【非特許文献2】Feldman et al., Neuropsychopharmacology., 38, 1154-1162, 2013.
【非特許文献3】Simpson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 111, 6922-6927, 2014.
【非特許文献4】Feldman et al., Horm. Behav., 58, 669-676, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乳児のオキシトシンレベルを予測する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、乳幼児が日常で使用している日用品(紙おむつ、自宅の洗剤、柔軟剤で洗濯し、乾燥した後の繊維性物品(衣類とタオル)に母親が触れた触感と、それに触れて生活している乳幼児のオキシトシンの関連性を解析したところ、母親の当該物品に対する触感評価値(なめらかさ、やわらかさ)及び母親による乳児の肌状態の評価値が当該乳児の唾液中オキシトシン量にのみ有意に正相関し、斯かる触感評価値又は肌状態評価値、更にはこれらを組み合わせて利用することにより乳児のオキシトシンレベルが予測可能であることを見出した。斯かる結果は、養育者と子どものオキシトシンの相関性については相反する報告(Feldman et al., Horm. Behav., 58, 669-676, 2010、Fujiwara et al., Psychoneuroendocrinology., 102, 172-181, 2019)があることを考えると、意外なことである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~5)に係るものである。
1)乳児のオキシトシンレベルを予測する方法であって、以下の工程(A)~(C)を含む方法:
(A)所定の繊維性物品に触れて生活している乳児の母親の皮膚に、前記繊維性物品を接触させる工程、
(B)前記繊維性物品との接触による触感を評価する工程、
(C)前記触感評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値を算出する工程。
2)乳児のオキシトシンレベルを予測する方法であって、以下の工程(D)~(E)を含む方法:
(D)乳児の母親が、当該乳児の肌状態を評価する工程、
(E)前記肌状態評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値を算出する工程。
3)1)の方法において得られる触感評価値と、2)の方法において得られる肌状態評価値を用いて乳児のオキシトシン量の予測値を算出する、乳児のオキシトシンレベルを予測する方法。
4)1)の方法により予測されたオキシトシンレベルを用いる、当該乳児が使用する繊維性物品、又は当該繊維性物品の加工又は処理手段の分類又は評価方法。
5)2)の方法により予測されたオキシトシンレベルを用いる、乳児が使用するスキンケア品の分類又は評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、乳児の定常状態のオキシトシンレベルを、測定の手間をかけずに簡易に予測できる。斯かるオキシトシンレベルは乳児が日常使用する繊維製物品、又は当該繊維性物品の加工又は処理手段を分類又は評価するため、或いは乳児が日常使用するスキンケア品を分類又は評価するための指標となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】紙おむつ触感評価値と乳児の唾液中オキシトシン量との関連性解析。
図2】紙おむつ触感評価値と幼児の唾液中オキシトシン量との関連性解析。
図3】洗濯・乾燥後の繊維性物品(衣類とタオル)触感評価値と乳児の唾液中オキシトシン量との関連性解析。
図4】洗濯・乾燥後の繊維性物品(衣類とタオル)触感評価値と幼児の唾液中オキシトシン量との関連性解析。
図5】乳児、幼児の肌状態評価スコアと唾液中オキシトシン量との関連性解析。
【発明を実施するための形態】
【0013】
後述する実施例に示すように、3-11ヶ月齢児(乳児)が常時使用する紙おむつ、自宅の洗剤及び柔軟剤処理した繊維性物品(衣類とタオル)に対する母親の触感評価値(なめらかさ、やわらかさ)と当該乳児の唾液中オキシトシン量には有意な正相関が認められた。
また、乳児の母親によって評価された当該乳児の肌状態の評価値と当該乳児の唾液中オキシトシン量には有意に正相関が認められた。
これらの結果は、所定の繊維性物品に触れて生活している乳児の母親の皮膚に当該繊維性物品を接触させた場合の触感評価値から、当該乳児のオキシトシンレベルが予測可能であることを示し、また、乳児の母親による当該乳児の肌状態評価値から、当該乳児のオキシトシンレベルが予測可能であることを示す。
【0014】
本発明の乳児のオキシトシンレベルを予測する方法の一態様は、以下の工程(A)~(C)により実行される。
(A)所定の繊維性物品に触れて生活している乳児の母親の皮膚に、前記繊維性物品を接触させる工程
(B)前記繊維性物品との接触による触感を評価する工程
(C)前記触感評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値を算出する工程
【0015】
本発明において、オキシトシンレベルの予測対象である乳児は3-11ヶ月齢児である。
乳児は所定の繊維性物品に触れて生活しているが、工程(A)における、所定の繊維性物品とは、乳児が日常生活において継続して肌に触れることが多い繊維性物品であり、例えば、紙おむつ、タオル、肌着等の衣類、寝具のシーツ、毛布、掛け布団カバー、枕ケース、タオルケット等が挙げられ、好ましくは紙おむつ、タオル、肌着である。なお、斯かる繊維性物品には、洗剤又は洗剤及び柔軟剤のような繊維処理剤で処理された繊維性物品、例えば洗濯・乾燥後の繊維性物品が包含される。
【0016】
オキシトシンは、9個のアミノ酸残基からなるペプチドホルモンであり、大脳の視床下部の室傍核や視索上核に存在する大細胞性神経細胞で合成され、脳下垂体後葉から血中に放出されることが知られている。
オキシトシンの分泌にはオートクラインシステム(自己分泌調節機構)が存在し、数週間、継続してオキシトシンが上昇する刺激が行われると、定常状態(ベースライン)のオキシトシンレベルが上昇することが知られている(前記特許文献2、非特許文献4)。
本発明において予測されるオキシトシンレベルは、所定の繊維性物品に触れて日常生活を送っている乳児において認められる定常状態のオキシトシンレベルである。
ここで、オキシトシンレベルとは、放出されたオキシトシン量を意味するが、具体的には血中オキシトシン量、唾液中オキシトシン量、尿中オキシトシン量が挙げられ、好ましくは唾液中オキシトシン量である。
【0017】
工程(A)において、母親の皮膚と繊維性物品の接触は、母親自身が自発的に行ってもよく、強制的に行ってもよいが、自発的に行うのが好ましい。接触部としては、皮膚であればよく、例えば、顔、手指や掌、手の甲等の手、上腕、肘、下腕、脚、足裏等が挙げられるが、無毛部(手指、掌、足裏)が好ましく、より好ましくは手指や掌である。
好ましい接触の態様としては、母親自身が手の指先と掌で当該物品に触れる態様が挙げられ、具体的には手の指先と掌を前後左右に動かして当該物品に触れる態様が挙げられる。
【0018】
繊維性物品への接触時間及び接触回数等の接触態様は適宜設定することができ、連続的又は断続的に行ってもよいが、一定時間試験物品に接触させた後に接触を解除して安静状態とし、再び接触させる動作を何回か繰り返して行う態様が挙げられる。例えば、試験物品に30秒間触れた後に、試験物品から手を離し、何も触れずに30秒間安静にする動作を数回(例えば、3~5回)繰り返すことが挙げられる。
【0019】
工程(B)における、繊維性物品との接触による触感評価は、当該繊維性物品が持つなめらかさ、やわらかさ、あたたかさ、ふんわり感等の、幸福・満足感、リラックス、リフレッシュ等の感情を喚起させる触感(風合い)が評価されるが、このうち、なめらかさ又はやわらかさを評価するのが好ましく、なめらかさ及びやわらかさを併せて評価するのがより好ましい。
【0020】
触感評価の手法は、例えば、当該繊維性物品に触れた時の触感(例えば、なめらかさ、やわらかさ、あたたかさ)を10cmのVisual Analog Scale(VAS)を用いて、感覚量の程度を示す方法が挙げられる。
VAS法では、直線の左端を「例えば、なめらかでない、やわらかくない、又はあたたかくない」、右端を「例えば、非常になめらか、非常にやわらかい、又は非常にあたたかい」とし、被験者である母親が該当する箇所に線を引き、左端から線を引いた箇所までの距離(cm)を各触感評価値とされる。
【0021】
次いで、前記触感評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値が算出される(工程(C))。
後述する実施例に示すように、日常で使用中の繊維性物品の母親の触感評価値(なめらかさ評価値、やわらかさ評価値)と当該乳児の唾液中オキシトシン量は、有意な正相関を示す。
したがって、母親の前記繊維性物品との接触により得られた触感評価値を、乳児のオキシトシン量予測式に代入することにより、乳児のオキシトシン量の予測値を算出することができる。予測式は、1つの触感評価値(例えば、なめらかさ評価値又はやわらかさ評価値)を使用する場合、当該触感評価値とオキシトシン量との散布図(図1、3)から単回帰分析を利用することにより、以下のように作成することができる。
【0022】
1)紙おむつのなめらかさ評価値による予測式
(数1)
y=4.53x+14.78
(y:オキシトシン量、x:紙おむつのなめらかさ評価値、r=0.47、p<0.05)
2)紙おむつのやわらかさ評価値による予測式
(数2)
y=4.95x+10.13
(y:オキシトシン量、x:紙おむつのやわらかさ評価値、r=0.47、p<0.1) 3)洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のなめらかさ評価値による予測式(数3)
y=8.23x-0.40
(y:オキシトシン量、x:洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のなめらかさ評価値、r=0.60、p<0.05)
4)洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のやわらかさ評価値による予測式(数4)
y=6.62x+5.63
(y:オキシトシン量、x:洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のやわらかさ評価値、r=0.49、p<0.05)
【0023】
また、複数の触感評価値(例えば、なめらかさ評価値及びやわらかさ評価値)を使用して乳児のオキシトシン量予測式を作成するには重回帰分析を利用することができる。一例として、2つの触感評価値と乳児のオキシトシン量との散布図(図1、3)から、以下のような予測式を導くことができる。
【0024】
洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のなめらかさ、やわらかさ評価値による予測式
(数5)
y=7.56x1+0.87x2-1.82
(y:オキシトシン量、x1:洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のなめらかさ評価値、x2:洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)のやわらかさ評価値、自由度調整済み決定係数:0.28、p<0.05)
【0025】
本発明の乳児のオキシトシンレベルを予測する方法の別の一態様は、以下の工程(D)~(E)により実行される。
(D)工程において、乳児の母親による当該乳児の肌状態の評価としては、例えば、“これまで「皮膚が弱い」、「敏感」、「あれやすい」、「肌トラブルが起きやすい」と感じたことがあるか”という設問に対して、5件法(1:あてはまる、2:ややあてはまる、3:どちらともいえない、4:ややあてはまらない、5:あてはまらない)で評価することが挙げられる。
【0026】
前記肌状態評価値から、前記乳児のオキシトシン量の予測値の算出(工程E)は、母親による乳児の肌状態評価スコアと、その乳児の唾液中オキシトシン量とが有意な正相関することから、前述の工程(C)と同様に、乳児の母親による当該乳児の肌状態評価値を、乳児のオキシトシン量予測式に代入することにより、乳児のオキシトシン量の予測値を算出することができる。
予測式は、肌状態評価スコアとオキシトシン量との散布図(図5(A))から単回帰分析を利用することにより、以下のように作成することができる。
(数6)
y=11.43x+4.43
(y:オキシトシン量、x:乳児肌状態評価値、r=0.52、p<0.05)
【0027】
また、上記の工程(B)により得られる触感評価値と、工程(D)により得られる肌状態評価値を用いて乳児のオキシトシン量の予測値を算出することにより、オキシトシンレベルの予測精度の向上を図ることができる。例えば、後述する実施例に示すように、母親による紙おむつのなめらかさ評価値と母親による乳児の肌状態評価値を用いることによって、紙おむつのなめらかさ評価値のみによる予測に比べて高い精度で乳児の唾液中オキシトシン量を予測することが可能となる。
【0028】
斯くして、予測された乳児のオキシトシンレベルによれば、乳児がおかれている生活環境が適切か否かを客観的に把握することができる。すなわち、工程(A)~(C)によって予測された乳児のオキシトシンレベルは、例えば、乳児が日常使用する繊維性物品、特に紙おむつや、洗濯・乾燥後の繊維性物品、具体的には洗剤又は洗剤及び柔軟剤処理した身の周りの繊維性物品(衣類・タオル)が当該乳児に適しているか又は適するか否かの分類或いは評価の他、乳児に適した繊維性物品の加工又は処理手段、例えば乳児に適した繊維の織り方、乳児に適した繊維処理剤を乳児の視点から分類或いは評価するために使用することができる。また、工程(D)~(E)によって予測された乳児のオキシトシンレベルは、例えば、乳児に使用するスキンケア品が当該乳児に適しているか又は適するか否かの分類或いは評価に使用することができる。ここで、乳児に使用するスキンケア品とは、所謂乳児用スキンケア化粧品が挙げられ、マイルドで低刺激性、保湿に優れるという特徴や機能を持つ肌洗浄剤、ローション、乳液、クリーム、化粧水、ジェル等が挙げられる。
したがって、本発明の方法は、乳児のオキシトシンレベルを的確に向上させることに貢献し、ひいては子どもの社会性・協調性の発達向上に寄与する環境づくりに貢献できる。
【実施例0029】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1 所定の繊維性物品に対する母親の触感評価値を用いた乳児の唾液中オキシトシンレベルの予測
1. 方法
(1)試験参加者
3-24ヶ月齢の乳幼児と、その母親64組を解析の対象者とした。
【0030】
(2)母親の日用品の触感評価値
乳幼児と、その母親が日常で使用している紙おむつ、または自宅の洗剤及び柔軟剤で洗濯し、乾燥した後の繊維性物品(衣類とタオル)に掌で触れた時の触感(なめらかさ、やわらかさ、あたたかさ)を10cmのVisual Analog Scale(VAS;一定の長さの直線上に感覚量の程度を示す方法。直線の左端を「なめらかでない、やわらかくない、または、あたたかくない」、右端を「非常になめらか、非常にやわらかい、または、非常にあたたかい」とし、該当する箇所に線を引く)で、各母親が評価した。左端から線を引いた箇所までの距離(cm)を各触感評価値とした。なお日常で使用している日用品の触感評価を行うため、日常使用の紙おむつ、洗剤/柔軟剤の銘柄・ブランドは測定1ヶ月前から変更禁止とした。
【0031】
(3)乳幼児からの唾液採取
15-20時の間に、1回/日、3日間連続で乳幼児から唾液を採取した。Salimetrics Infant’s Swabを乳幼児に約1-2分間咥えさせることを複数回繰り返して(最大10分間)、Swabに唾液を染み込ませた。各Swabから唾液を回収して、複数日で採取した唾液は、等量ずつ混合してオキシトシン測定用のサンプルとし、-80℃で保存した。なお唾液採取の1時間前から、授乳、水(湯)以外の飲食、歯磨きを禁止とした。
【0032】
(4)唾液中オキシトシン測定
回収した唾液(0.1-1.0ml)と等量の0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)を混和し、遠心分離(3,000rpm、30min)した後の上清を、Sep-pak C18カラム(200mg、3cc、Waters)に供し、抽出を行った。 まず、C18カラムに1.0mlの100%アセトニトリル(ACN)、次いで10mlの0.1%TFA溶液(v/v)を通し、その後で0.1%TFA溶液(v/v)と混和した唾液サンプル(1.0-6.0ml)を通し、10mlの0.1%TFA溶液(v/v)で洗浄した後、3.0mlの(95%ACN/5%(0.1%TFA溶液))(v/v)で溶出させた。溶出した溶液のACNを窒素ガスで揮発させ、残った溶液を凍結乾燥に供し、凍結乾燥品をOxytocin ELISA kit(Enzo)中のAssay Bufferの250μlで溶解して、前記キットを用いて定量した。Bio-r
ad Protein assay(BIO-RAD)で、ウシ血清アルブミンで作成した検量線を基に、抽出前の唾液中のタンパク質濃度(mg/ml)を定量し、単位タンパク量当たりのオキシトシン量を算出した。
【0033】
2.結果
(1)紙おむつ、洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)の触感評価値と乳幼児のオキシトシンとの関連性解析
日常で使用中の紙おむつの母親の触感評価値と乳幼児の唾液中オキシトシン量との関連性解析を行った。その結果、乳児の母親のなめらかさ、及びやわらかさ評価値と、その乳児の唾液中オキシトシン量とが有意な正相関を示した(図1;なめらかさ:r=0.60,p<0.05、やわらかさ:r=0.51,p<0.05、あたたかさ:r=0.34,p=0.16、Spearmanの順位相関係数)。一方で、幼児の母親の紙おむつの触感評価値と、その幼児の唾液中オキシトシン量とでは有意な相関は認められなかった(図2;なめらかさ:r=0.18,p=0.24、やわらかさ:r=0.02,p=0.87、あたたかさ:r=0.07,p=0.66、Spearmanの順位相関係数)。
【0034】
(2)また、日常で使用中の洗剤及び柔軟剤で処理した繊維性物品(衣類とタオル)の母親の触感評価値と乳幼児の唾液中のオキシトシン量との関連性解析を行った結果、乳児の母親のなめらかさ、及びやわらかさ評価値と、その乳児の唾液中オキシトシン量とが有意な正相関を示した(図3;なめらかさ:r=0.62,p<0.05、やわらかさ:r=0.51,p<0.05、あたたかさ:r=0.44,p=0.07、Spearmanの順位相関係数)。一方で、幼児の母親の洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(衣類とタオル)の触感評価値と、その幼児の唾液中オキシトシン量とでは、有意な相関は認められなかった(図4;なめらかさ:r=0.06,p=0.67、やわらかさ:r=0.04,p=0.76、あたたかさ:r=0.08,p=0.61、Spearmanの順位相関係数)。
(3)これらのことから日常で使用中の紙おむつ、及び洗剤及び柔軟剤処理繊維性物品(
衣類とタオル)の、乳児の母親による、なめらかさ・やわらかさ評価値で、その乳児のオ
キシトシンが評価可能であることが示された。
【0035】
試験例2 母親による乳児の肌状態価値を用いた乳児の唾液中オキシトシンレベルの予測
1. 方法
(1)試験参加者
3-24ヶ月齢の乳幼児と、その母親64組を解析の対象者とした。
【0036】
(2)母親による乳幼児の肌状態評価
乳幼児の肌状態を、その母親が評価した。“これまで「皮膚が弱い」、「敏感」、「あれやすい」、「肌トラブルが起きやすい」と感じたことがあるか”という設問に対して、5件法で評価した(1:あてはまる、2:ややあてはまる、3:どちらともいえない、4:ややあてはまらない、5:あてはまらない)。
【0037】
(3)乳幼児からの唾液採取
試験例1(3)と同様に、乳幼児から唾液を採取した。
【0038】
(4)唾液中オキシトシン測定
試験例1(4)と同様に、採取した唾液中のオキシトシン量を測定した。
【0039】
2.結果
母親が評価した乳幼児の肌状態評価スコアと、その乳幼児の唾液中オキシトシン量との関連性解析を行った結果、母親による乳児の肌状態評価スコアと、その乳児の唾液中オキシトシン量とが有意な正相関を示した(図5(A);r=0.55,p<0.05)。また単回帰分析を実施した結果、有意差が認められた(y=11.43x+4.43,r=0.52,p<0.05,y:乳児唾液中オキシトシン量,x:乳児肌状態評価スコア)。
一方で、母親が評価した幼児の肌状態評価スコアと、その幼児の唾液中オキシトシン量とでは有意な相関は認められず(図5(B);r=-0.03,p=0.83)、単回帰分析でも有意差は認められなかった(y=-1.16x+41.53,r=-0.06,p=0.69,y:幼児唾液中オキシトシン量,x:幼児肌状態評価スコア)。
【0040】
試験例3 乳児の母親の紙おむつのなめらかさ評価値、及び乳児の肌状態評価スコアによる、乳児の唾液中オキシトシン量の予測
乳児の母親による紙おむつのなめらかさ評価値と、乳児の肌状態評価スコアを説明変数に、乳児の唾液中オキシトシンレベルを目的変数に設定して重回帰分析を実施した結果、有意差が認められ(y=4.12x+10.51x+10.51,r=0.63,r2=0.39,p<0.05,y:乳児唾液中オキシトシン量,x:紙おむつのなめらかさ評価値,x:肌状態評価スコア)、紙おむつのなめらかさ評価値のみによる予測(y=4.53x+14.78,r=0.47,r2=0.22,p<0.05,y:乳児唾液中オキシトシン量,x:紙おむつのなめらかさ評価値)より、決定係数が高い値を示した。
このことから、紙おむつのなめらかさ評価値のみより、紙おむつのなめらかさ評価値と乳児の肌状態評価スコアで乳児の唾液中オキシトシン量を予測する方が高い精度を示すことが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5