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特開2024-4171印刷装置、その制御方法、およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004171
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】印刷装置、その制御方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 211
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103689
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茅中 良久
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA20
2C056EB07
2C056EB40
2C056EC07
2C056EC65
2C056EC79
2C056EE17
2C056EE18
2C056FA10
2C056FB03
2C056HA41
(57)【要約】
【課題】 複数種類のヘッドの一部が故障した場合であっても印刷することができる印刷装置、当該印刷装置の制御方法、およびコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】 印刷装置1が備える制御装置40は、画像データに基づいて複数の第1ヘッド11および複数の第2ヘッド12のうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理において、故障ヘッドを除いた第1ヘッドと複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、あるいは、故障ヘッドを除いた第2ヘッドと複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、
前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、
前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行し、
前記第2印刷処理では、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する、
印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2印刷処理において、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第2ヘッドの全てを印刷に用い、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第1ヘッドの全てを印刷に用いる、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2印刷処理において、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第2ヘッドの全てを用い、かつ、インターレース方式により印刷を行い、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第1ヘッドの全てを用い、かつ、インターレース方式により印刷を行う、
請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合に、前記第2印刷処理で使用する前記第1ヘッドと前記第2ヘッドとの距離であるヘッドギャップを取得するヘッドギャップ取得処理を更に実行し、
前記第2印刷処理では、取得した前記ヘッドギャップに基づき、前記第1ヘッドによる前記第1インクの吐出と前記第2ヘッドによる前記第2インクの吐出の各タイミングを制御する、
請求項1~3の何れかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2印刷処理において、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第2ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第1ヘッドと同数の第2ヘッドを印刷に用い、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第1ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第2ヘッドと同数の第1ヘッドを印刷に用いる、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを搭載して第1方向へ往復移動する移動装置と、
前記第1方向に交差する第2方向へ被記録媒体を搬送する搬送装置と、を更に備え、
前記複数の第1ヘッドと前記複数の第2ヘッドとは互いに前記第2方向に離れて位置しており、
前記複数の第1ヘッドのそれぞれは互いに前記第2方向に離れて位置し、かつ、前記複数の第2ヘッドのそれぞれも互いに前記第2方向に離れて位置している、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2印刷処理において、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第2ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第1ヘッドに対して最も遠くに位置する第2ヘッドよりも近い側に位置する1又は複数の第2ヘッドを用い、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第1ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第2ヘッドに対して最も遠くに位置する第1ヘッドよりも近い側に位置する1又は複数の第1ヘッドを用いる、
請求項6に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第2印刷処理において、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第2ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第1ヘッドに対して最も近くに位置する第2ヘッドよりも遠い側に位置する1又は複数の第2ヘッドを用い、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合には、前記複数の第1ヘッドのうち、前記故障ヘッドを除いた前記第2ヘッドに対して最も近くに位置する第1ヘッドよりも遠い側に位置する1又は複数の第1ヘッドを用いる、
請求項6に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記第1ヘッドは、前記第1インクとして下地インクを吐出し、前記第2ヘッドは、前記第2インクとして前記下地インクの上に吐出されるインクを吐出する、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項10】
第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、制御装置と、を備える印刷装置の制御方法であって、
画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、
前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行し、
前記第2印刷処理では、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する、
印刷装置の制御方法。
【請求項11】
第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、コンピュータと、を備える印刷装置における、前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、
前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行させ、
前記第2印刷処理では、
前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、
前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する、
コンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出するインクの種類が異なる第1ヘッドおよび第2ヘッドをそれぞれ複数備える印刷装置、その制御方法、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば濃色の布地上に画像を印刷するために、白インクなどの下地インクを吐出して下地層を形成してから、この下地層の上にカラーインクを吐出して画像を形成する印刷装置がある。このような印刷装置は、特許文献1に示すもののように、下地インクを吐出するためのヘッドおよびカラーインクを吐出するためのヘッドを含む複数種類のヘッドを備えた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-163579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、印刷装置のヘッドは、経年劣化などによって故障する場合がある。例えば、インクを吐出するアクチュエータが動作不能になったり、インクの硬化によって不吐出ノズルが発生したりして、正常にインクを吐出できなくなる場合がある。そして、上記のように複数種類のヘッドを備える印刷装置では、一部のヘッドが故障すると、他のヘッドが正常であっても、故障したヘッドを交換するまで印刷装置を使用できない事態に陥ってしまう。
【0005】
そこで本開示は、複数種類のヘッドの一部が故障した場合であっても印刷することができる印刷装置、当該印刷装置の制御方法、およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る印刷装置は、第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、制御部と、を備え、前記制御部は、画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行し、前記第2印刷処理では、前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する。
【0007】
本開示に係る印刷装置の制御方法は、第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、制御装置と、を備える印刷装置の制御方法であって、画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行し、前記第2印刷処理では、前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する。
【0008】
本開示に係るコンピュータプログラムは、第1インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第1ヘッドと、前記第1インクとは異なる第2インクを吐出する複数のノズルを有する複数の第2ヘッドと、コンピュータと、を備える印刷装置における、前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドを用いて印刷を行う第1印刷処理と、前記画像データに基づいて前記複数の第1ヘッドおよび前記複数の第2ヘッドのうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理と、を実行させ、前記第2印刷処理では、前記複数の第1ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第1ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第1ヘッドと、前記複数の第2ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷し、前記複数の第2ヘッドの一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、前記複数の第2ヘッドのうち前記故障ヘッドを除いた第2ヘッドと、前記複数の第1ヘッドのうち少なくとも1つとを用いて印刷する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複数種類のヘッドの一部が故障した場合であっても印刷することができる印刷装置、当該印刷装置の制御方法、およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る印刷装置の構成を示す模式的平面図である。
図2図2は、印刷装置に備えられたキャリッジを示す模式的平面図である。
図3図3は、印刷装置の機能的な構成を示すブロック図である。
図4図4は、印刷装置による印刷動作を示すフローチャートである。
図5図5は、モード決定処理での印刷装置の動作を示すフローチャートである。
図6図6Aは、モードテーブルの一例を示す図表であり、図6Bは、各モードの内容とモードごとのヘッドの動作方法とを説明する図表である。
図7図7Aは、ギャップ設定処理での印刷装置の動作を示すフローチャートであり、図7Bは、オフセット値テーブルの一例を示す図表である。
図8図8は、印刷装置の印刷モードの変形例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では、全ての図面を通じて同一又は対応する要素には同一の参照符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
【0012】
(印刷装置の構成)
図1は本開示の実施の形態に係る印刷装置1の構成の一例を示す模式的平面図である。図1に示す印刷装置1は、シリアルヘッド方式のインクジェットプリンタである。従って印刷装置1は、画像データに基づいて、ヘッド10を往復移動させつつインクを吐出して画像を形成する工程と、被記録媒体Aを搬送する工程とを交互に繰り返して、被記録媒体Aに画像を印刷する。
【0013】
以下では、ヘッド10の往復移動方向を第1方向または左右方向と称し、被記録媒体Aの搬送方向であって第1方向に交差する方向を第2方向または前後方向と称する。また、第1方向および第2方向の両方向に交差する方向を上下方向と称する。ただし、印刷装置1に関する方向はこれに限定されない。
【0014】
図1に示すように、印刷装置1は箱型の筐体1Aを備えている。この筐体1A内には、ヘッド10を搭載したキャリッジ20、プラテン21、移動装置22、搬送装置30、インクタンク35、および制御装置40などが収容されている。
【0015】
キャリッジ20は箱型の筐体であり、このキャリッジ20には複数のヘッド10が搭載されている。図2に示すように、各ヘッド10は、インクを吐出する複数のノズル10Nを備え、複数のノズル10Nは第2方向に並んでノズル列10Lを構成している。各ヘッド10にはこのようなノズル列10Lが第1方向に並ぶようにして複数(図2では4つ)設けられている。
【0016】
図2に示すように、複数のヘッド10は第1ヘッド11および第2ヘッド12を含んでいる。第1ヘッド11はノズル10Nから第1インクを吐出し、第2ヘッド12はノズル10Nから第1インクとは異なる第2インクを吐出する。本実施の形態では、第1インクは一例として下地インクであり、下地インクとしては、白色インク、白インク内の粒子を凝集させる凝集液などの前処理液、あるいは、被記録媒体Aである布材の染料を抜くための薬剤である抜染剤などを採用できる。また、第2インクは一例として下地インクの上に吐出されるインクであり、当該インクとしてカラーインク(例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックなどの各色のインク)や、下層の色材を保護するためのコートインクなどを採用できる。第2インクとしてコートインクを採用した場合は、その下に印刷される第1インクとしてカラーインクを採用することもできる。
【0017】
さらに、第1ヘッド11は複数のヘッド10を含み、ここでは一例として2つのヘッド10、すなわち、第1ヘッド11Aおよび第1ヘッド11Bを含んでいる。同様に、第2ヘッド12も複数のヘッド10を含み、ここでは一例として2つのヘッド10、すなわち、第2ヘッド12Aおよび第2ヘッド12Bを含んでいる。
【0018】
このうち、複数の第1ヘッド11の夫々(つまり、第1ヘッド11A,11B)は、互いに第1方向に離れて位置すると共に第2方向にも離れて位置している。より具体的には、第1ヘッド11Aに対して第1ヘッド11Bは、右方向かつ前方向に離れて位置している。また、複数の第2ヘッド12の夫々(つまり、第2ヘッド12A,12B)も、互いに第1方向に離れて位置すると共に第2方向にも離れて位置している。より具体的には、第2ヘッド12Aに対して第2ヘッド12Bは、右方向かつ前方向に離れて位置している。
【0019】
図2に示すように、第1ヘッド11Aと第1ヘッド11Bとの間の第2方向のズレ量は距離D1であり、第2ヘッド12Aと第2ヘッド12Bとの間の第2方向のズレ量も距離D1である。この距離D1は、比較対象の第1ヘッド11A,11B(または、第2ヘッド12A,12B)の対応するノズル10N同士の第2方向の離隔距離であり、例えば、第1ヘッド11A,11Bの夫々の後端に位置するノズル10N同士の離隔距離である。下記の距離D0についても同様である。
【0020】
複数の第1ヘッド11(つまり、第1ヘッド11A,11Bから成る群)と複数の第2ヘッド12(つまり、第2ヘッド12A,12Bから成る群)とは、互いに第2方向に離れて位置している。より具体的には、複数の第1ヘッド11に対して複数の第2ヘッド15は、前方に距離D0だけ離れて位置している。
【0021】
このようなヘッド10には、ノズル10Nごとに駆動素子10A(図3参照)が設けられている。駆動素子10Aは、圧電素子、発熱素子、あるいは、静電式アクチュエータ等であって、駆動することにより対応するノズル10Nからインクを吐出する圧力をヘッド10内のインクに付与する。
【0022】
印刷装置1は、ヘッド10に対向して配置されたプラテン21を備えている。プラテン21はヘッド10の下方に所定距離を隔てて位置しており、平坦な上面により被記録媒体Aを下方から支持する。本実施の形態では、一例としてシャツ等の布材を被記録媒体Aとする場合を図示しており、図1の例では、プラテン21よりも面積の大きい被記録媒体Aをプラテン21の上面全体を覆うようにして載置し、かつ、プラテン21外の余剰部分をプラテン21の裏面側にて固定した様子を図示している。これにより、プラテン21上の被記録媒体Aを、皺がよることなく平坦にできる。
【0023】
印刷装置1は、ヘッド10を第1方向(左右方向)へ往復移動させる移動装置22を備えている。移動装置22は、上述したキャリッジ20に加え、2本のガイドレール23、無端ベルト24、および、移動モータ25(図3参照)を有している。2本のガイドレール23は、プラテン21上を横切るように左右に延び、かつ、全てのヘッド10を間に挟むようにして前後に離れて配置されている。この2本のガイドレール23により、キャリッジ21は左右方向へ往復移動可能に支持されている。
【0024】
無端ベルト24は、一方のガイドレール23の左右両端近傍に設けられた2つのプーリー26に巻回して設けられ、かつ、所定箇所にてキャリッジ20と接続されている。移動モータ25は、左右いずれか一方のプーリー26に減速機を介して回転軸が接続されている。従って、この移動装置22は、移動モータ25が回転駆動すると、無端ベルト24が走行し、ヘッド10を支持するキャリッジ20がガイドレール23に沿って左右方向へ移動する。
【0025】
印刷装置1は、プラテン21と共に被記録媒体Aを搬送する搬送装置30を備えている。搬送装置30は、例えばベース31、搬送モータ32(図3参照)、および直動アクチュエータなどを有している。ベース31は、平面視で前後方向寸法が左右方向寸法よりも大きい直方体形状を成し、その内部には、ボールネジおよびこのボールネジに螺合するナットなどから成る直動アクチュエータと、この直動アクチュエータを駆動する搬送モータ32とが備えられている。また、ベース31の上面には前後方向に延びるスリット31aが左右に離れて2本形成されており、直動アクチュエータのナットとプラテン21とが、この2本のスリット31aを介して設けられた支持アームによって接続されている。従って、搬送モータ32が動作すると、直動アクチュエータが駆動されてナットが前後方向へ移動し、これに伴ってプラテン21と共に被記録媒体Aも前後方向へ移動する。
【0026】
印刷装置1は、ヘッド10に供給する各インクを貯留する複数のタンク35を備えている。これらのタンク35は、例えば、筐体1Aに設けられた開閉可能なカバーを開けて筐体1A内に収容される。また、本開示の印刷装置1では、例えば第1インクとして白インクを使用し、第2インクとしてシアン、マゼンダ、イエロー、およびブラックの4色のインクを使用している。そして、第1インク用には全て白インクが貯留された4つのタンク35が備えられ、第2インク用には夫々異なる色のインクが貯留された4つのタンク35が備えられている。また、各タンク35には可撓性のチューブ36の一端が接続され、他端はヘッド10のインク供給口に接続されており、各タンク35からのインクはチューブ36を通じてヘッド10へ送られる。なお、上記のように第1インクとして単一種類の液体を用いる場合は、第1インク用に1つの大容量タンクを備え、当該大容量タンクからのチューブを途中で分岐させて各ヘッド10に第1インクを供給するよう構成してもよい。
【0027】
図3は、印刷装置1の機能的構成を示すブロック図である。図3に示すように印刷装置1は、制御装置40、並びに、この制御装置40に接続された記憶装置41、通信インターフェース42、ヘッド駆動回路43、移動駆動回路44、搬送駆動回路45、出力装置46、および入力装置47を備えている。
【0028】
制御装置40は、本開示に係る「制御部」であり、例えばコンピュータで構成されており、MPUのようなプロセッサ、または、ASICのような集積回路などの回路を含む。
【0029】
記憶装置41は、制御装置40からアクセス可能なメモリであって、例えばRAMおよびROMを有している。このうちRAMは、画像データ、および、制御装置40の演算時の各種データを一時的に記憶する。ROMは、各種のデータ処理を行うためのコンピュータプログラムおよびデータを記憶する。従って、制御装置40は、記憶装置41に記憶されたデータを参照しつつ、コンピュータプログラムを実行することで、印刷装置1の各部の動作を制御する。
【0030】
通信インターフェース42は、制御装置40を、印刷装置1から独立して存在する外部機器Bに対して接続する接続装置である。外部機器Bとしては、他のコンピュータ、通信ネットワーク、記録媒体、ディスプレイ、および他の印刷装置などが挙げられる。印刷装置1は、この通信インターフェース42を介して、外部機器Bである例えばコンピュータから、画像データおよび印刷設定情報を取得する。この画像データとしては、被記録媒体Aに印刷される画像を示すラスタデータなどが例示される。
【0031】
ヘッド駆動回路43は、ヘッド10が有する各駆動素子10Aと電気的に接続され、各駆動素子10Aの動作を制御する。すなわち、制御装置40は、駆動素子10Aを駆動する制御信号をヘッド駆動回路43へ出力し、ヘッド駆動回路43は入力された制御信号に基づいて駆動信号を生成し、この駆動信号を各駆動素子10Aへ出力する。その結果、各駆動素子10Aは対応する駆動信号に基づいて駆動し、所定のタイミングで所定の吐出圧力をヘッド10内のインクに付与するよう動作する。従って、各ノズル10Aから吐出されるインクは、その吐出タイミング、および、吐出されるインクの大きさ(インク滴の容量)が制御可能である。
【0032】
移動駆動回路44は、移動装置22が有する移動モータ25と電気的に接続されており、移動モータ25は、移動駆動回路44を介して制御装置40によりその動作が制御される。これにより移動装置22は、ヘッド10を支持するキャリッジ20を左右方向へ可変速度で移動させることができると共に、その可動範囲内の任意の位置にキャリッジ20を停止させることができる。
【0033】
搬送駆動回路45は、搬送装置30が有する搬送モータ32と電気的に接続されており、搬送モータ32は、搬送駆動回路45を介して制御装置40によりその動作が制御される。これにより搬送装置30は、プラテン21上の被記録媒体Aを第2方向へ間欠的または連続的に搬送できると共に、プラテン21上の所定位置に停止させて保持することができる。
【0034】
出力装置46は、例えばディスプレイおよびスピーカなど、アラームを含む各種の情報を外部へ出力する機器である。ディスプレイでは画像や文字などを表示してユーザに情報を出力でき、スピーカでは音声を発することでユーザに情報を出力することができる。入力装置47は、例えばタッチパネルや物理スイッチなど、外部からの情報の入力を受け付ける機器であり、印刷装置1の筐体1Aの上面または前面など、ユーザが操作可能な位置に設けられている。そして、ユーザによる操作を受け付けて、受け付けた操作情報を制御装置40へ出力する。
【0035】
(印刷装置の動作)
次に、印刷装置1による印刷動作について説明する。本開示の印刷装置1は、複数の第1ヘッド11および複数の第2ヘッド12の何れかに故障したヘッド(以下、「故障ヘッド」)が発生した場合であっても、どのヘッド10が故障したかに応じて、故障ヘッドを除くヘッド10を用いて印刷処理を実行するものである。このために、印刷装置1は、故障ヘッドを特定する情報を取得可能になっている。
【0036】
ここで、各ヘッド10に故障が存在するか否かの判断は、公知の方法を用いて実施すればよく、印刷装置1はその判断結果を故障ヘッドの特定情報として取得することができる。例えば印刷装置1は、各ヘッド10が備えるノズルについてインクの吐出不良が生じているか否かを検出する公知の方法を実行可能に構成されている。そのような方法および構成としては、特開2015-66819号公報に開示された技術が一例として採用し得る。
【0037】
この他にも、ヘッド10からの信号、または、故障状態であるとの設定情報に基づき、ヘッド10に故障が存在するか否かの判断を行うようにしてもよい。例えば、制御装置40が、ヘッド10の通電状態を示す信号を取得し、取得した信号が示す電気抵抗値が所定値以上であれば、ヘッド10に故障が発生していると判断するようにしてもよい。また例えば、ヘッド10の温度を測定する温度検知器を設け、制御装置40が、この温度検知器から取得した信号が示す温度が所定値以上であれば、ヘッド10に故障が発生していると判断するようにしてもよい。また例えば、ユーザが入力装置47を操作するなどして、あるヘッド10について故障が発生している旨の設定をした場合に、制御装置40は当該ヘッド10について故障が発生していると判断するようにしてもよい。
【0038】
そして印刷装置1は、故障ヘッドが存在しないことを示す情報を取得した場合は、第1ヘッド11および第2ヘッド12のうち必要なヘッド10を用いた印刷処理(第1印刷処理)を実行する。一方、印刷装置1は、何れかのヘッド10に故障ヘッドが発生した状況下では、故障ヘッドを除くヘッド10を用いて印刷処理(第2印刷処理)を実行する。
【0039】
図4を参照しつつ、ユーザが印刷装置1に実行させる印刷処理について、より詳しく説明する。図4のフローチャートに示すように、被記録媒体Aに画像を印刷する場合、印刷装置1の制御装置40は画像データを取得する(ステップS1)。画像データは、例えば印刷する画像の全体を示すラスタデータであり、コンピュータ等の外部機器Bから通信インターフェース42を介して取得する。制御装置40は、取得した画像データを記憶装置41に一時的に保存する。
【0040】
印刷装置1は、画像データの取得後、入力装置47に含まれる実行ボタンが入力されたか否かを判定する(ステップS2)。すなわち、ユーザは、印刷装置1のプラテン21上に被記録媒体Aをセットし終わった後に実行ボタンを押下(入力)する。従って、印刷装置1はユーザによって実行ボタンが入力されたか否かを判定し、入力されていない場合(S2:NO)は待機し、入力されたと判定した場合(S2:YES)は次の工程を実行する。
【0041】
<S3:モード決定処理>
次の工程で制御装置40は、モード決定処理を実行する(ステップS3)。このモード決定処理は、どのヘッド10が故障したかに応じて、どのヘッド10を用いてどのように印刷するか、という印刷処理のモード(印刷モード)を決定するものである。
【0042】
より具体的には、図5のフローチャートに示すように、印刷装置1はモード決定処理において各ヘッド10における故障の有無判定(ステップS10~S17)からモード決定(ステップS18)を行う。図5の場合、第1ヘッド11Aについて故障の有無判定を行い(ステップS10)、故障が有ると判定した場合(S10:YES)は第1ヘッド11A故障のフラグをセットする(ステップS11)。第1ヘッド11Bについて故障の有無判定を行い(ステップS12)、故障が有ると判定した場合(S12:YES)は第1ヘッド11B故障のフラグをセットする(ステップS13)。第2ヘッド12Aについて故障の有無判定を行い(ステップS14)、故障が有ると判定した場合(S14:YES)は第2ヘッド12A故障のフラグをセットする(ステップS15)。第2ヘッド12Bについて故障の有無判定を行い(ステップS16)、故障が有ると判定した場合(S16:YES)は第2ヘッド12B故障のフラグをセットする(ステップS17)。
【0043】
このようにして全てのヘッド10に対する故障有無を判定し、その結果に基づいて印刷モードを決定する。印刷モードの決定は、予め記録装置41に記録されているモードテーブルを参照し、故障有無判定の結果に照らして行う。図6Aは、記憶装置41に記憶されているモードテーブルの一例を示す図表である。図6Aに示すように、第1ヘッド11の使用可能数(0~2)と、第2ヘッド12の使用可能数(0~2)とに応じて、0~8のモードが設定されている。
【0044】
図6Bは、各モードの内容と、モードごとのヘッド10の動作方法(通常印刷またはインターレース印刷)とを説明する図表である。印刷装置1の記憶装置41には、このようなモードと動作方法とが関連付けられて予め記憶されている。以下、図6Aおよび図6Bを参照して各モードについて説明する。なお、図6Bでは、第1ヘッド11が吐出する第1インクを白インク、第2ヘッド12が吐出する第2インクをカラーインク、として表記している。
【0045】
<モード0>
図6Aに示すように、第1ヘッド11および第2ヘッド12の全てが故障していて使用可能数が何れもゼロである場合は「モード0」と定められている。そして、モード0の場合に印刷装置1は印刷不可と設定される(図6B)。すなわち、印刷装置1は、モード決定処理(図5)においてモード0と決定すると、印刷ができないと判断し、例えば出力装置46としてディスプレイなどにその旨のアラートを表示する。
【0046】
<モード1>
2つの第2ヘッド12のうち1つが正常であり、その他のヘッド10が故障している場合は「モード1」と定められている(図6A)。そして、モード1の場合に印刷装置1は、カラーヘッド(第2ヘッド12)1つで通常印刷を実行するよう設定され、かつ、白ヘッド(第1ヘッド11)での印刷不可と設定される(図6B)。
【0047】
<モード2>
第1ヘッド11は何れも故障している一方、2つの第2ヘッド12は何れも正常である場合は「モード2」と定められている(図6A)。そして、モード2の場合に印刷装置1は、カラーヘッド(第2ヘッド12)2つで通常印刷を実行するよう設定され、かつ、白ヘッド(第1ヘッド11)での印刷は不可と設定される(図6B)。
【0048】
<モード3>
2つの第1ヘッド11のうち1つが正常であり、その他のヘッド10が故障している場合は「モード3」と定められている(図6A)。そして、モード3の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)1つで通常印刷を実行するよう設定され、かつ、カラーヘッド(第2ヘッド12)での印刷は不可と設定される(図6B)。
【0049】
<モード4>
第1ヘッド11および第2ヘッド12の何れも、1つが正常であり残り1つが故障している場合は「モード4」と定められている(図6A)。そして、モード4の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)1つとカラーヘッド(第2ヘッド12)1つとで通常印刷を実行するよう設定される(図6B)。
【0050】
<モード5>
モード5は、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合に、複数の第2ヘッド12の全てを印刷に用いるモードである。本開示の場合、第1ヘッド11は1つが正常で残り1つが故障しており、2つの第2ヘッド12は何れも正常である場合は「モード5」と定められている(図6A)。そして、モード5の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)1つとカラーヘッド(第2ヘッド12)2つで印刷を実行するよう設定される(図6B)。さらに、白ヘッド1つによる印刷は通常印刷を行い、カラーヘッド2つによる印刷はインターレース方式による印刷(インターレース印刷)を行うように設定される。
【0051】
<モード6>
2つの第1ヘッド11は何れも正常である一方、第2ヘッド12は何れも故障している場合は「モード6」と定められている(図6A)。そして、モード6の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)2つで通常印刷を実行するよう設定され、かつ、カラーヘッド(第2ヘッド12)での印刷は不可と設定される(図6B)。
【0052】
<モード7>
モード7は、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合に、複数の第1ヘッド11の全てを印刷に用いるモードである。本開示の場合、2つの第1ヘッドは何れも正常である一方、第2ヘッド12は1つが正常で残り1つが故障している場合は「モード7」と定められている(図6A)。そして、モード7の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)2つとカラーヘッド(第2ヘッド12)1つで印刷を実行するように設定される(図6B)。さらに、白ヘッド2つによる印刷はインターレース印刷を行い、カラーヘッド1つによる印刷は通常印刷を行うように設定される。
【0053】
<モード8>
2つの第1ヘッド11および2つの第2ヘッド12の何れもが正常である場合は「モード8」と定められている(図6A)。そして、モード8の場合に印刷装置1は、白ヘッド(第1ヘッド11)2つとカラーヘッド(第2ヘッド12)2つとで、何れのヘッド10でも通常印刷を行うように設定される。
【0054】
以上のようにして、故障ヘッドに応じて印刷モードが決定される(図5のステップS18)。
【0055】
なお、上記の説明において「インターレース印刷」とは、複数のヘッド10を用いてシングリング印刷を行って画像を形成する印刷方法を意味している。例えば2つのヘッド10によるインターレース印刷の場合、印刷画像のラスタデータに対して互いに補完し合う2つのマスクを設定し、当該ラスタデータに一方のマスクを適用して得られるラスタデータに基づいて一方のヘッド10から被記録媒体Aの所定領域にインクを吐出し、他方のマスクを適用して得られるラスタデータに基づいて他方のヘッド10から被記録媒体Aの同一領域にインクを吐出して、画像を形成する印刷方法である。従って、ヘッド10が第1方向へ1回移動する間に当該ヘッド10が対向する被記録媒体A上の印刷可能領域をバンドとすると、同一のバンド上をヘッド10が2回移動しつつインクを吐出することによって、このバンドに対する画像の印刷が完了する。
【0056】
また、上記の説明において「通常印刷」は、「インターレース印刷」の対義語として用いている。すなわち、通常印刷では、1つのヘッド10による印刷を実行するラスタデータとして、マスクを設定しないデータを用いる。従って、1つのバンド上をヘッド10が1回移動しつつインクを吐出することによって、このバンドに対する画像の印刷が完了する。
【0057】
また、印刷装置1の印刷処理について、故障ヘッドが存在しない場合には第1印刷処理を実行し、何れかのヘッド10に故障ヘッドが発生した状況下では第2印刷処理を実行すると前述したが、モード8に基づく印刷処理が第1印刷処理に該当し、モード1~7に基づく印刷処理が第2印刷処理に該当する。
【0058】
従って、印刷装置1は第2印刷処理において、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、複数の第1ヘッド11のうち故障ヘッドを除いた第1ヘッド11と、複数の第2ヘッド12のうち少なくとも1つとが印刷に用いられることとなる(図6Bのモード4,5等参照)。一方、印刷装置1は第2印刷処理において、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、複数の第2ヘッド12のうち故障ヘッドを除いた第2ヘッド12と、複数の第1ヘッド11のうち少なくとも1つとが印刷に用いられることとなる(図6Bのモード4,7等参照)。
【0059】
図4のフローチャートの説明に戻る。モード決定処理(ステップS3)を終えると、そこで決定されたモードによる印刷が、第1ヘッド11と第2ヘッド12とを使用する印刷であるか否かを判定する(ステップS4)。第1ヘッド11および第2ヘッド12のうち何れか一方のみを使用する印刷である場合(S4:NO)は、ステップS3で決定したモードに基づいて印刷処理を実行する(ステップS6)。一方、第1ヘッド11と第2ヘッド12とを使用する印刷である場合(S4:YES)は、印刷に使用する第1ヘッド11と第2ヘッド12とに関してギャップ設定処理(ステップS5)を行った後に印刷処理を実行する(ステップS6)。
【0060】
なお、制御装置40は、ステップS3の結果、決定されたモードがモード1~7の何れかである場合、ユーザが視認可能なように出力装置46にその旨を表示すると共に、印刷処理の実行可否をユーザによる入力装置47の操作によって確認することとしてもよい。このような確認工程は、ステップS3を終えた後からステップS6の印刷処理を実行するまでの間のいずれかのタイミングで(典型的には、ステップS3とステップS4との間)行えばよい。これにより、ユーザに、印刷速度の低下(モード1~7)や画質の低下(モード3,6)の発生を事前に認識してもらった上で印刷続行の可否を決定してもらうことができる。
【0061】
<S5:ギャップ設定処理>
ここで、ステップS5のギャップ設定処理とは、印刷処理(第2印刷処理)で使用する第1ヘッド11と第2ヘッド12との距離(ヘッドギャップ)を取得するものである。すなわち、本開示に係る印刷装置1は、第1ヘッド11と第2ヘッド12とが第2方向に離れて位置している。そのため、第1ヘッド11から吐出した第1インクおよび第2ヘッド11から吐出した第2インクの第2方向の各着弾位置を一致させるために、各ヘッド11,12からのインク吐出の間に被記録媒体Aを第2方向へ搬送すべき距離は、ヘッドギャップに応じて決まる。一方、このヘッドギャップは印刷処理で使用されるヘッド11,12により異なる。
【0062】
従って、印刷装置1は、第2印刷処理において第1ヘッド11および第2ヘッド12を使用する場合(S4:YES)には、それぞれのヘッド11,12からインク吐出する間の被記録媒体Aの搬送距離を正確に制御するため、これらのヘッドギャップを取得する処理を行う。そして印刷装置1は、取得したヘッドギャップに基づき、第1ヘッド11による第1インクの吐出と第2ヘッド12による第2インクの吐出の間における被記録媒体Aの搬送距離を制御する。
【0063】
図7Aは、ギャップ設定処理の詳細を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ギャップ設定処理では、はじめに、使用可能なヘッド10に関する情報を取得する(ステップS20)。具体的には、上述したモード決定処理により決定されたモードに基づき、今回の印刷処理で使用されるのがどのヘッド10であるかを取得する。次に、使用されるヘッド10に関する情報と、記憶装置41に予め記憶されたオフセット値テーブルとに基づき、オフセット値を取得する(ステップS21)。
【0064】
図7Bは、オフセット値テーブルの一例を示す図表である。ここではテーブルを、第1ヘッド11(第1ヘッド11A,11B)のうち先行してインクを吐出する第1ヘッド11の種類を「行」とし、第2ヘッド12(第2ヘッド12A,12B)のうち先行してインクを吐出する第2ヘッド12の種類を「列」としたマトリクス表の形式で表記している。具体的には、テーブルの行としては第1ヘッド11Aと第1ヘッド11Bの2行が設けられ、列としては第2ヘッド12Aと第2ヘッド12Bの2列が設けられた、2行2列のテーブル(マトリクス表)となっている。
【0065】
ここで、図2に示すように、第1ヘッド11Aと第1ヘッド11Bとの間の第2方向のヘッドギャップは距離D1であり、第2ヘッド12Aと第2ヘッド12Bとの間の第2方向のヘッドギャップも距離D1である。また、第1ヘッド11Aと第2ヘッド12Aとの間の第2方向のヘッドギャップは距離D0である。そして、第1ヘッド11のうち第1ヘッド11Aが先行して吐出し、かつ、第2ヘッド12のうち第2ヘッド12Aが先行して吐出する場合、すなわち、先行して吐出するヘッド11,12間の距離が距離D0の場合を基準とする。
【0066】
この場合に、実際に先行吐出するのが第1ヘッド11Aおよび第2ヘッド12Aとなる場合は、上記の基準と一致し、ヘッドギャップは距離D0となる。従って、図7Bに示すようにオフセット値として0が設定されている。同様に、先行吐出するのが第1ヘッド11Bおよび第2ヘッド12Bとなる場合も、ヘッドギャップは距離D0である。従って、図7Bに示すようにオフセット値として0が設定されている。
【0067】
これに対し、先行吐出するのが第1ヘッド11Aおよび第2ヘッド12Bとなる場合は、基準の場合よりもヘッドギャップが距離D1だけ広がる。従って、図7Bに示すようにオフセット値として+D1が設定されている。また、先行吐出するのが第1ヘッド11Bおよび第2ヘッド12Aとなる場合は、基準の場合よりもヘッドギャップが距離D1だけ狭まる。従って、図7Bに示すようにオフセット値として-D1が設定されている。
【0068】
以上のようにして、オフセット値を取得すると(ステップS21)、このオフセット値に基づいてヘッドギャップを設定する(ステップS22)。すなわち、取得したオフセット値を基準のヘッドギャップ(距離D0)に加算することで、印刷で使用されるヘッド10に応じたヘッドギャップが新たに設定(更新)される。その結果、印刷装置1は、取得したヘッドギャップに基づき、印刷時に使用する第1ヘッド11による第1インクの吐出と第2ヘッド12による第2インクの吐出の各タイミングを適切に制御可能となる。
【0069】
印刷装置1は、このようにしてステップS3で決定されたモードに応じて、ステップS5にてヘッドギャップを設定(更新)する。そして、設定されたヘッドギャップに基づき、各ヘッド10の動作を制御して印刷処理(図4のステップS6参照)を実行する。具体的にこの印刷処理では、キャリッジ20を左右方向へ移動させつつ使用可能なヘッド10から画像データに基づき第1インクおよび第2インクを吐出するスキャン工程を、被記録媒体Aを前後方向へ断続的に搬送しつつ繰り返し行って、被記録媒体A上に画像を形成する。
【0070】
(作用および効果)
以上に説明したように、印刷装置1は、モード決定処理(図4:S4)の結果がモード8となった場合は、印刷処理(図4:S6)において、画像データに基づいて複数の第1ヘッド11および複数の第2ヘッド12を用いて印刷を行う第1印刷処理を実行する。一方、印刷装置1は、モード決定処理(図4:S4)の結果がモード1~7の何れかとなった場合は、印刷処理(図4:S6)において、画像データに基づいて複数の第1ヘッド11および複数の第2ヘッド12のうち何れかに故障ヘッドが発生した状況下で印刷を行う第2印刷処理を実行する。
【0071】
さらに印刷装置1は、上記の第2印刷処理において、モード4,5の場合のように、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11と、複数の第2ヘッド12のうち少なくとも1つとを用いて印刷する。また、印刷装置1は、上記の第2印刷処理において、モード4,7の場合のように、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれることを示す情報を取得した場合は、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12と、複数の第1ヘッド11のうち少なくとも1つとを用いて印刷する。
【0072】
このような構成により、複数の第1ヘッド11および複数の第2ヘッド12のうち何れか一部のヘッド11,12が故障した場合であっても、残りのヘッド11,12を用いて印刷を実行することができる。
【0073】
また、図6Bに示すモード5,7のように、第1ヘッド11および第2ヘッド12のうち何れか一方のヘッドの一部のヘッドが故障した場合には、他方のヘッドの全てを印刷で使用している。このように、他方のヘッドをなるべく多く使用することにより、例えば、シングリング方式による印刷が行えることから、被記録媒体A上に印刷された画像にバンディングが発生するのを抑制することができる。また、故障していないヘッドは全て使用するので、インク吐出をせずにノズル孔が長時間露出してノズル孔内のインクが硬化してしまうのを防止できる。
【0074】
また、モード5,7の場合、他方のヘッドのように使用可能数が多い方のヘッドでの印刷を、インターレース印刷により行うように設定されている。これにより、使用可能数が多い方のヘッドからの吐出インク量が過多になるのを防止し、印刷画像に「にじみ」が発生するのを防止することができる。
【0075】
(変形例)
上述した本開示に係る印刷装置1に対し、変形例を適用することができる。例えば、印刷に使用可能なヘッドの数が第1ヘッド11と第2ヘッド12とで異なる場合(図6Bのモード5,7などの場合)であっても、第1ヘッド11および第2ヘッド12の各使用数を同一に設定してもよい。
【0076】
すなわち、図8のモード5-1のように、印刷装置1は、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11と、これと同数の第2ヘッド12とを印刷に用いることとしてもよい。同様に、図8のモード7-1のように、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12と、これと同数の第1ヘッド11とを印刷に用いるようにしてもよい。
【0077】
これにより、故障ヘッドが発生した場合であっても、第1ヘッド11および第2ヘッド12において同数のヘッドを使用して印刷することができる。従って、印刷画像の画質の安定化を図ることができる。
【0078】
また、図8の例のように、第1ヘッド11および第2ヘッド12を同数使用する場合、使用可能数が多い方のヘッドは、何れのヘッドを使用するかを決定する必要がある。この場合において、第1ヘッド11と第2ヘッド12との間の距離がより小さいものを使用することと決定してもよい。すなわち、印刷装置1は、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第2ヘッド12のうち、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11に対して近くに位置する第2ヘッド12を用いることとしてもよい。同様に、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第1ヘッド11のうち、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12に対して近くに位置する第1ヘッド11を用いることとしてもよい。
【0079】
これにより、互いの距離が小さい第1ヘッド11と第2ヘッド12とを用いて印刷することができる。従って、印刷処理を完了するのに要する時間を短縮化できる。
【0080】
なお、各ヘッド11,12として3つ以上備える印刷装置1においては、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合、複数の第2ヘッド12のうち、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11(正常第1ヘッド11)に対して最も遠くに位置する第2ヘッド12よりも正常第1ヘッド11の近い側に位置する1又は複数の第2ヘッド12を用いればよい。同様に、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第1ヘッド11のうち、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12(正常第2ヘッド12)に対して最も遠くに位置する第1ヘッド11よりも正常第2ヘッド12の近い側に位置する1又は複数の第1ヘッド11を用いればよい。
【0081】
あるいは、図8の例のように、第1ヘッド11および第2ヘッド12を同数使用する場合において、第1ヘッド11と第2ヘッド12との間の距離がより大きいものを使用することと決定してもよい。すなわち、印刷装置1は、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第2ヘッド12のうち、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11に対してより遠くに位置する第2ヘッド12を用いることとしてもよい。同様に、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第1ヘッド11のうち、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12に対してより遠くに位置する第1ヘッド11を用いることとしてもよい。
【0082】
これにより、互いの距離が大きい第1ヘッド11と第2ヘッド12とを用いて印刷することになる。この場合、被記録媒体A上に第1ヘッド11から吐出された第1インクが着弾した後、第2ヘッド12から吐出された第2インクが着弾するまでの時間を長く確保することができる。従って、被記録媒体A上の第1インクが第2インクの着弾までに乾燥しやすくなるため、第1インク上に着弾した第2インクの「にじみ」の発生を抑制できる。
【0083】
なお、各ヘッド11,12として3つ以上備える印刷装置1においては、複数の第1ヘッド11の一部に故障ヘッドが含まれる場合、複数の第2ヘッド12のうち、故障ヘッドを除いた第1ヘッド11(正常第1ヘッド11)に対して最も近くに位置する第2ヘッド12よりも正常第1ヘッド11から遠い側に位置する1又は複数の第2ヘッド12を用いればよい。同様に、複数の第2ヘッド12の一部に故障ヘッドが含まれる場合には、複数の第1ヘッド11のうち、故障ヘッドを除いた第2ヘッド12(正常第2ヘッド12)に対して最も近くに位置する第1ヘッド11よりも正常第2ヘッド12から遠い側に位置する1又は複数の第1ヘッド11を用いればよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示は、複数種類のヘッドの一部が故障した場合であっても印刷することができる印刷装置、当該印刷装置の制御方法、およびコンピュータプログラムに適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 印刷装置
10 ヘッド
10N ノズル
11,11A,11B 第1ヘッド
12,12A,12B 第2ヘッド
22 移動装置
30 搬送装置
40 制御装置(制御部)
A 被記録媒体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8