(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041717
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】アルカリゲル化こんにゃくの加工食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/256 20160101AFI20240319BHJP
A23L 29/244 20160101ALI20240319BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240319BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240319BHJP
A23J 3/16 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L29/244
A23L13/00 A
A23L35/00
A23J3/16 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131787
(22)【出願日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2022146498
(32)【優先日】2022-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501426736
【氏名又は名称】ハイスキー食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 哲嗣
【テーマコード(参考)】
4B036
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B036LF13
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH16
4B036LH22
4B036LH26
4B036LP02
4B036LP14
4B036LP17
4B041LC05
4B041LD01
4B041LH08
4B041LH10
4B041LK15
4B041LK18
4B041LK23
4B041LP01
4B041LP12
4B041LP16
4B041LP25
4B042AC05
4B042AD20
4B042AK09
4B042AK12
4B042AK13
4B042AP04
4B042AP18
4B042AP21
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】加熱によるドリップの少ないこんにゃくの特性を生かしたハンバーグ、ソーセージなどの形態のこんにゃく加工食品の提供。
【解決手段】調理加工の過程でアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成させる結着工程を有することを特徴とするアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品の製造方法。加工食品が、主要食材の全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したもの、または一部を代替したものである。アルギン酸ナトリウムにカルシウムイオンを結合させてアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させる。アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーで結着していることを特徴とする主要食材の一部または全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品の製造方法であって、調理加工の過程でアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成させる結着工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品が、主要食材の全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したもの、または一部を代替したものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリゲル化こんにゃくが、磨砕こんにゃくまたは成形こんにゃくであり、かつ、脱水され水分含有量が調整されている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリゲル化こんにゃくが、こんにゃく75~95重量%と、こんにゃく以外に、調味料、蛋白、澱粉、増粘剤、フレーバー、色素、アミノ酸、大麦、食物繊維、油脂類、および液糖から選ばれる1種以上を含有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
アルカリゲル化こんにゃくが、脱アルカリ化したアルカリゲル化こんにゃくである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンを結合させてアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
結着工程でアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成可能なアルギン酸カルシウム製剤を用いる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルギン酸カルシウム製剤がアルギン酸ナトリウムおよびカルシウム塩を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
主要食材の一部または全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品であって、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーで結着していることを特徴とするアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品。
【請求項10】
冷凍食品である、請求項9に記載されたアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーで結着しているアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
こんにゃくは、その特性を生かした種々の形態のこんにゃく健康食品を市場に提供する試みが多くなされている。
例えば、通常の肉類加工品は、その多くが高エネルギー、高蛋白質食品として栄養上主要な部分を占めており、そのエネルギーを低減、調整しようとする場合には当該の食品よりエネルギーが少ないかまたはエネルギーを持たない素材の添加、増量が必要になるが、顕著な効果を求める場合にはエネルギー持たない素材の利用が明白で、これらの素材としてまずこんにゃく、その他にきのこ,藻類,茶等が考えられる。
【0003】
こんにゃく食品をハンバーグ、ソーセージはどの加工食品中に、食物繊維量の増大やカロリー低下を目的として混入できるようにするにはチップ状または粒状とすることが好ましいが、こんにゃくは多量の水分を含むものであり常温では腐敗し易く、貯蔵には冷蔵庫を要し、また他の食品材料と混ぜ合わせたときに、チップや粒体が含有する水分により影響を受けることがあった。そのため、原料となるこんにゃくを80%~10%重量に脱水し、長さ0.5mm、幅3mm以下に粉砕したこんにゃくチップ(特許文献1)、含水率4~10%になるまで乾燥して、食品素材、健康食品として用いられる粒度の粒状又は粉状の乾燥こんにゃく(特許文献2)とする利用方法が提案されている。
【0004】
また、こんにゃく以外の素材はいずれも特有の風味を有し、また物性的には肉類とは大幅に異なってこれらを利用した場合には当該目標製品の品質と異なってしまう。こんにゃくとしては特有の食感と臭いを有し、これが広く愛用されているものの通常の肉類加工品のエネルギー低減、調整に利用するのには上述したように種々問題点があり改良が強く求められている。
【0005】
こんにゃくは、コンニャクイモまたはイモを乾燥、粉砕して得た精粉を原料として、主成分であるグルコマンナンがアルカリである水酸化カルシウム等によって非可逆的に凝固する性質を利用して作られる。こんにゃくの固形分の主成分は多糖類のグルコマンナンであり、難消化性で食物繊維からなり、また、水分含量が90数%であり、これらが低カロリー・低糖質の所以であり、代表的なダイエット食品である。特に、腸での難消化性は、俗にいう腹もちがよく、食事の摂取量の減少につながる。また体内では、コレステロールや血糖値の低下、体脂肪の減少にも役立つ機能を発揮する。その一つに、アルカリでゲル化されたこんにゃく素材を有効成分とする血糖値の上昇抑制用こんにゃく加工飲食品が提案されている(特許文献3)。これらの効用は、消費の減少が続いているこんにゃくの用途を拡大するとともに、より多くの人にヘルシーな食品を提供することになり、食生活の健全化にも寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2740241号公報
【特許文献2】特許第3395966号公報
【特許文献3】特許第6756697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こんにゃくはエネルギーを持たないだけではなく、主要成分がヘミセルロースのグルコマンナンであるために繊維の増強にも効果があり、物性も特別加工すれば肉類に類似させることが可能であるとしても、低カロリーの根幹でもある水分量が多いため、通常、保存液等を用いるウエットな環境でしか保存、流通することができない。こんにゃくを用いた畜肉加工食品の製造における解決しようとする問題点は、第一に、加熱によってドリップが著しいということである。ハンバーグ、ソーセージなどの加工食品中に、食物繊維量の増大やカロリー低下を目的としてこんにゃくをエネルギー持たない素材として混入する場合、具体的には、物性を加工して肉類に類似させること、混ぜ合わせたときに、こんにゃくチップや粒体が含有する水分により影響を受けることがないことが求められる。物性的に肉類に類似させて利用することと、こんにゃく以外の素材特有の風味を有する味付で、当該目標製品の品質と同等になるようにする。こんにゃくとしての特有の食感と臭いを軽減することでもあり、当該目標製品に類似させて通常の肉類加工品のエネルギー低減、調整の効果を発揮させることはもちろんのこと、加熱によってドリップが著しかったり、形状の萎縮が大きかったり、加熱後硬くなり食感が落ちるということがあってはならない。
【0008】
このように多くの課題を解決して、こんにゃくの市場規模の拡大のため、こんにゃくの特性を生かしたハンバーグ、ソーセージなどの加工食品の形態のこんにゃく健康食品を市場に提供することで、こんにゃくの用途を拡大するとともに、より多くの人にヘルシーなこんにゃく食品およびその製造方法を提供することを本発明は目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、こんにゃくはエネルギーを持たないだけではなく、主要成分がヘミセルロースのグルコマンナンであるために繊維の増強にも効果があり、物性も特別加工すれば肉類に類似させることが可能であることを見出し、それが本発明の基礎となることであると認識した。そして、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成させ、アルカリゲル化こんにゃくを含む食材を結着することで、こんにゃくが含有する水分により影響を受けることがないことを見出し、加工食品の構成主要食材の全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品、または一部を代替したアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品を得ることに成功した。
【0010】
本発明は、以下の(1)~(8)に記載のアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食の製造方法を要旨とする。
(1)アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品の製造方法であって、調理加工の過程でアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成させる結着工程を有することを特徴とする製造方法。
(2)前記アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品が、主要食材の全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したもの、または一部を代替したものである、上記(1)に記載の製造方法。
(3)アルカリゲル化こんにゃくが、磨砕こんにゃくまたは成形こんにゃくであり、かつ、脱水され水分含有量が調整されている、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)アルカリゲル化こんにゃくが、こんにゃく75~95重量%と、こんにゃく以外に、調味料、蛋白、澱粉、増粘剤、フレーバー、色素、アミノ酸、大麦、食物繊維、油脂類、および液糖から選ばれる1種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(5)アルカリゲル化こんにゃくが、脱アルカリ化したアルカリゲル化こんにゃくである、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(6)アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンを結合させてアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させる、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(7)結着工程でアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成可能なアルギン酸カルシウム製剤を用いる上記(6)に記載の製造方法。
(8)前記アルギン酸カルシウム製剤がアルギン酸ナトリウムおよびカルシウム塩を含む、上記(7)に記載の製造方法。
【0011】
本発明は、以下の(9)及び(10)に記載のアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品を要旨とする。
(9)主要食材の一部または全部をアルカリゲル化こんにゃくで代替したアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品であって、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーで結着していることを特徴とするアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品。
(10)冷凍食品である、上記(9)に記載されたアルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品。
【発明の効果】
【0012】
食物繊維量の増大やカロリー低下を目的としてこんにゃくをエネルギー持たない素材として混入する場合、具体的には、物性を加工して肉類に類似させること、混ぜ合わせたときに、こんにゃくチップや粒体が含有する水分により影響を受けることがないことが求められるところ、本発明により水分による影響を受けることがないようにすることができた。すなわち、こんにゃくを用いた例えば畜肉加工食品の製造における解決しようとする問題点は、第一に、加熱によってドリップが著しいということであるところ、こんにゃくについて、ハンバーグ、ソーセージなどの加工食品中に、物性的に肉類に類似させて利用することを実現し、かつ、こんにゃく以外の素材特有の風味を有する味付で、当該目標製品の品質と同等になるようにした。すなわち、こんにゃくとしての特有の食感と臭いを軽減することでもあり、当該目標製品に類似させて通常の肉類加工品のエネルギー低減、調整の効果を発揮させることはもちろんのこと、加熱によってドリップが著しかったり、形状の萎縮が大きかったり、加熱後硬くなり食感が落ちるということがないように改良した。このようにして、こんにゃくの市場規模の拡大のため、こんにゃくの特性を生かしたハンバーグ、ソーセージなどの加工食品の形態のこんにゃく健康食品を市場に提供することができ、こんにゃくの用途を拡大するとともに、より多くの人にヘルシーなこんにゃく食品およびその製造方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実験例1のマンナンミートでハンバーグを作るマンナンミートでハンバーグを作るA(大豆ミート50%+マンナンミート50%)およびB(マンナンミート100%)の態様における成形したもの、焼き上げたもの、包丁で切った断面の写真を示す。
【
図2A】実験例2のマンナンミートに他の材料を加えてハンバーグを作る表1の(1)から(6)の態様における成形後の写真を示す。
【
図2B】実験例2のマンナンミートに他の材料を加えてハンバーグを作る表1の(1)から(6)の態様における焼成後の写真を示す。
【
図2C】実験例2のマンナンミートに他の材料を加えてハンバーグを作る表1の(1)から(6)の態様における冷凍・解凍後の写真を示す。
【
図2D】実験例2のマンナンミートに他の材料を加えてハンバーグを作る表1の(1)から(6)の態様における冷凍・解凍したものの焼成後の写真を示す。
【
図3】実験例3の重量を30%まで脱水したマンナンミート、50%まで脱水したマンナンミート、70%まで脱水したマンナンミートでハンバーグを作る態様における成形後の写真、焼成後の写真、冷凍・解凍後の写真、冷凍・解凍したものの焼成後の写真を示す。
【
図4】実験例4のアルカリこんにゃくがアルギン酸製剤で結着できるかどうかの確認における成形、焼成後、冷凍・解凍後の写真を示す。
【
図5】実験例5のアルギン酸製剤でこんにゃく同士を貼り合わせることができるかどうかの確認における結着した断面、10分加熱後、冷凍・解凍後の写真、ならびに、鍋の中での加熱の状態の写真を示す。
【
図6】実験例6のアルギン酸製剤ではなく、アルギン酸ナトリウム単体でアルカリマンナンミートを結着できるかの確認における、成形後、焼成後、カットした断面の写真を示す。
【
図7A】実験例7の4パターンにおける成形後の写真を示す。
【
図7B】実験例7の4パターンにおける焼成後の写真を示す。
【
図7C】実験例7の4パターンにおけるカット・断面の写真を示す。
【
図7D】実験例7の4パターンにおける冷凍・解凍後の写真を示す。
【
図7E】実験例7の4パターンにおける冷凍・解凍したものを焼成した写真を示す。
【
図7F】実験例7の4パターンにおける冷凍・解凍したものを焼成・カットした写真を示す。
【
図8】実験例8のアルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の濃度確認における成形後の写真を示す。
【
図9】実験例9のアルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の2%濃度確認における成形後の写真、断面の写真を示す。
【
図10】実験例10のこんにゃくを束ねて、お肉の繊維を表現できないかの試しにおける成形後の写真、断面の写真を示す。
【
図11】実験例11のアルギン酸製剤を油に分散させる以外の他の方法〔(1)アルコール、(2)水〕における成形後の写真、断面の写真を示す。
【
図12】実験例12のアルギン酸でこんにゃくを束ねて、お肉の繊維を表現できないか、試してみるにおける成形(A:糸状のこんにゃくをまっすぐ並べて筋肉繊維様にして結着、B:糸状こんにゃくをランダムに混ぜて結着、C:糸状こんにゃくを短く切って(20~30mm)ランダムに並べて結着の3パターン)して結着あと、およびスライスし、乾燥させ、フライパンで焼成した後の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品]
アルカリゲル化こんにゃくを食材とする加工食品とは、アルカリゲル化こんにゃくを含む食品を意味する。したがって、本発明において、アルカリゲル化こんにゃくを含む食品とは、加工食品の構成食品素材の全部を代替するための素材としてのアルカリゲル化こんにゃくからなる食品、より具体的には、例えばハンバーグの材料の全部を代替するための素材としてのアルカリゲル化こんにゃくでできたハンバーグである、または、加工食品の構成食品素材の一部を代替するための素材としてのアルカリゲル化こんにゃくと加工食品の他の構成食品素材との混合物からなる食品、より具体的には、例えばハンバーグの材料の一部を代替するための素材としてのアルカリゲル化こんにゃくとハンバーグの材料との混合物でできたハンバーグである。上記いずれの態様においても、例えばハンバーグのつなぎはアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーが使われる。
【0015】
[アルカリゲル化こんにゃく]
本発明において、アルカリゲル化こんにゃくは、加工食品中に配合される肉やたんぱく質の一部または全部を代替するための素材として、好ましくは肉粒感に優れた素材として用いることができる。全部を代替するための素材として用いる場合、他の加工食品を製造するための素材として利用することができる。一部を代替するための素材として用いる場合、例えば、ハンバーグ、ソーセージ、肉団子、つくね、餃子、焼売などの加工食品における肉の一部を代替することが可能であり、肉の一部を代替しているにも関わらず、肉粒感に優れ、肉を代替していない当該食品と比較しても、ふっくら感、ジューシー感、滑らか感等において、遜色のない食感を提供することが可能である。一部を代替するための素材として用いる場合、例えば、魚肉すり身入り練り製品も同様である。さらに食品加工時に熱を与えても、ドリップを抑制し、歩留まりを向上させる効果に優れ、肉本来の風味や味を引き立たせることが可能である。
【0016】
アルカリゲル化こんにゃくは、まず通常のこんにゃくを作ることから始まる。水または40~50℃程度の微温湯100リットルにこんにゃく粉2500gをかき混ぜながら少しずつ加える。そのまま15~30分かき混ぜ続けると、全体に粘りがでて糊状のこんにゃく糊になる。これを1~2時間放置すると、マンナンが完全に膨潤して均質な糊状になる。これにアルカリ(水酸化カルシウムなど)を加え、素早くよくかき混ぜて型枠に入れ、60分ほどボイルする。その後、40~50分放置するとかなり固まるので、これを所定の形にカットする。すなわち、こんにゃくマンナンをアルカリによりゲル化して板状、糸状あるいは球状などの形状に成形したこんにゃくを磨砕あるいは切断し、脱水して、目的とする既存の食品の水分率および粒径の範囲に調整したものを加工食品素材として製造し、またこれを利用した加工食品を製造する。ゲル化に用いたアルカリイオン(Caイオン)が作用してアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させることもできる。
アルカリゲル化こんにゃくは、水分、粒度、形状などを調製したこんにゃく以外には、調味料、蛋白、澱粉、糖類、増粘剤、フレーバー、色素、アミノ酸、大麦、食物繊維、油脂類、液糖や他の健康食品素材などから選ばれる1種以上の添加剤を含有する。その場合、低カロリーで健康食品として有用な加工食品とするために、こんにゃくを75~95重量%含有することが好ましい。調味には粉末調味料とは、1種以上の調味料成分を含有する。調味料成分は、例えば、発酵調味料(醤油、味噌、酢、酒等)、タンパク質分解物(アミノ酸類)、酵母エキス、塩、甘味料(ブドウ糖、庶糖等)、香辛料(コショウ、唐辛子等)、油脂類(植物油、動物油)、抽出エキス(畜産物、農産物、又は海産物由来)等である。また粉末調味料の固形状態を保持できる範囲で液状の香料や油脂を適宜少量添加してもよい。
【0017】
着色には、例えば、こんにゃく内から水および調味液に溶出しない天然色素として黄色(カロチン)、赤色(パプリカ、トマト)、黒色(イカスミ)、青色(クチナシ)および/または緑色(マリーゴールド、クチナシ)を用いて、練り込んで種々にこんにゃくを着色する。
【0018】
アルカリゲル化こんにゃくは、脱アルカリゲル化こんにゃくである場合もある。酢酸やクエン酸などの有機酸を加えて加熱処理を行うことで、脱アルカリ処理を行うことができる。脱アルカリ処理の酸性成分(脱アルカリ剤)は、有機酸のみならず、無機酸および/または酸性成分を含む調味料を用いることができる。調味液はいずれの調味料をも用いることができ、その場合、脱アルカリ剤は、有機酸、無機酸および/または酸性成分を含む調味料を用いる。例えば、酢酸、グルタミン酸ソーダ、ソルビトール、乳酸カルシウムを含有するサラダタイプ調味料が例示される。
脱アルカリ処理を行うことで、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させるためのアルカリイオン(Caイオン)が不足するので、アルカリゲル化こんにゃくは、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させ、つなぎとするために、脱アルカリ化工程で用いた酸味料由来のカルシウムイオン(例、乳酸カルシウム)を含有する脱アルカリゲル化こんにゃく組成物であることが好ましい。
【0019】
[磨砕こんにゃくまたは成形こんにゃく]
また、アルカリゲル化こんにゃくは、磨砕こんにゃくまたは成形こんにゃくであり、かつ、脱アルカリの前または後に脱水され水分含有量が調整されていることが好ましい。当該磨砕および水分含有量の調整が優れた肉粒感に寄与する。
【0020】
[脱アルカリ化]
脱アルカリ処理(中和処理)には、ゲル化物を水中に浸漬し加熱することが最も簡便な方法であるが、有機酸の水溶液との接触によっても良い。有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸など、また、無機酸類としては、例えば、リン酸塩などの食品添加物としての酸類が使用される。また、脱アルカリ処理には、酸性分を含む調味液を使用することができる。
【0021】
[水分量の調製]
脱水され水分含有量が調整される。水分量は、目的とする食品によって調整する。水分量が30%程度のものより多いものも結着は可能である。通常のこんにゃくを摩砕し軽くペーパータオル等で表面の水分を拭き取る程度のものを結着させて、冷凍解凍してドリップが少ないことを確認した。
通常、粒状こんにゃくの乾燥は、3分ほど遠心分離機に脱水してから行う。乾燥は65℃以下の風(熱風)により目的の含水率になるまで行う。熱風乾燥は65℃の温度までとする必要がある。乾燥機としては通常構成の流動層乾燥方式によるものでもよいが、必要により、それにマイクロ波を採用して加熱する方式のものでもよい。
【0022】
[結着剤=つなぎ]
結着剤は、食品の保水性を高め、形状を保ったり食感を良くするために加えられる材料であるが、ハンバーグに用いられる一般に塩、溶き卵、パン粉はつなぎと称される。
食品添加物としての結着剤としては、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどのリン酸塩や、カゼインナトリウムなどが用いられる。保水作用、金属イオン封鎖作用、水に不溶・難溶な物質を安定な懸濁液として分散させる作用、難溶性物質の結晶析出防止作用により、「アシ」と呼ばれる特有の弾力を保つ効果を持つ。魚肉練り製品、チーズ、たらこ、ソーセージ、成型肉などへの添加が主であるが、リン酸塩は変色・沈澱・乾燥防止、味の調和、食感向上などの目的で、清涼飲料水・味噌・ソース・アイスクリーム・日本酒など様々な食品の製造にも使われる。カゼインナトリウムは、乳アレルギーのアレルゲンとなる場合があること、リン酸塩は体内におけるカルシウムの吸収を阻害することなどの問題点も有する。また、ブロック肉などでは、雑菌が混入する恐れがあることから、食品衛生法で使用が禁止されている。
【0023】
一般につなぎと呼ばれる材料について、そばに用いられるつなぎは小麦粉(強力粉もしくは中力粉)が一般的であり、つなぎに用いられる小麦粉のことを「割り粉」と呼ぶ。このほか地域により、山芋、蓮根、卵、海藻などが使われる。そばのつなぎには、粘りを出し、麺を打つ作業をしやすくする、麺を切れにくく、かつ伸びにくくする役割がある。つなぎを加えないそばは十割蕎麦や生粉打ち蕎麦と呼ばれる。ハンバーグに用いられるつなぎは日本の家庭で作られるものでは、一般に塩・溶き卵・パン粉が使われる。主に塩は肉の組織同士の結着を強め、卵はコクや風味を付け、パン粉は肉汁を保持する役割を果たす。
【0024】
こんにゃくは水分量が多く、成分はグルコマンナン繊維と水である。この物性のため、「こんにゃく」と「こんにゃく」、「こんにゃく」と「他の物質」との結着が容易ではない。そこで、水酸化カルシウムを使って凝固する性質を有するこんにゃくの水酸化カルシウムに着目して、アルギン酸NaにCaイオンを結合させてアルギン酸カルシウム塩を形成し、そのものが「こんにゃく」と「こんにゃく」または「こんにゃく」と「他の物質」とをバインディングすることで結着することを思い付いた。アルギン酸カルシウム塩は不可逆なので、加熱にも強く冷凍にもドリップが生じにくい物性を形成する。本発明においては、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを「こんにゃく」と「こんにゃく」、「こんにゃく」と「他の物質」とのつなぎとすることを特徴とする。
【0025】
[アルギン酸カルシウム]
アルギン酸は、海藻より抽出された酸性物質で、D-マンヌロン酸とL-グルロン酸からなるヘテロポリマーである。アルギン酸の構成糖であるウロン酸は、1ユニットに1つずつイオン交換性に富むカルボキシル基を持っており、これが様々な陽イオンと結びつくことで、特長ある性質を持つ塩を作る。アルギン酸カルシウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンが結合した形の塩である。水、有機溶媒に不溶で、粘性がある物質で、アルギン酸を利用する場合この形にすることが多い。可溶性のアルギン酸ナトリウムをカルシウム溶液中に入れると、溶解性を失ってカルシウム塩となる。アルギン酸のナトリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えると、ゲル状の沈殿物として得られる。増粘剤、食物繊維など、食品添加物として使用される。カルシウムイオンは2価のカチオンなので、2つのカルボキシル基にまたがるかたちで結合(イオン架橋)する。その結果、アルギン酸カルシウムは他のアルギン酸塩類と異なり、水に溶けない性質の塩となる。実際にはアルギン酸ナトリウムをゲル化剤として利用する際、カルシウム塩を加えて作られたゲルの成分はアルギン酸カルシウムになっている。アルギン酸のゲル化能力を応用した食品では、間接的にアルギン酸カルシウムを利用していることになる。したがって、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを形成可能なアルギン酸カルシウム製剤としては、アルギン酸ナトリウムおよびカルシウム塩を含むアルギン酸カルシウム製剤と同様に、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸亜鉛、および/またはアルギン酸エステル、および必要によりカルシウム塩を含むアルギン酸カルシウム製剤を用いることができる。
【0026】
[アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリー]
本発明において、アルギン酸ナトリウムを食用油に分散させた分散液を配合してアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させ、つなぎとする。こんにゃく、こんにゃく、および/または、他の食品素材のカルシウムイオン含有組成物にアルギン酸ナトリウムを食用油に分散させた分散液を配合し、カルシウムイオンと反応させてアルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを生成させることを特徴とする。
マンナンミート(アルカリゲル化コンニャク粒状物)とはこんにゃくに肉様の着色をして摩砕、脱アルカリしたものを脱水して水分量を30%程度にしたものを用いて実験した。結着は脱アルカリ時に使用した乳酸Caと反応したと思われる。脱アルカリ前のアルカリ状態でもCaイオンが存在するので結着するが、アルギン酸カルシウムの不可逆性のゼリーを十分に生成させるには乳酸Ca等を添加することが好ましい。
【0027】
水分量は、目的とする食品によって調整する。水分量が30%程度のものより多いものも結着は可能である。通常のこんにゃくを摩砕し軽くペーパータオル等で表面の水分を拭き取る程度のものを結着させて、冷凍解凍してドリップが少ないことを確認した。
脱アルカリしているアルカリゲル化コンニャク粒状物組成物は、例えば他の材料(例、大豆たんぱく、ひき肉)を混ぜたものである。脱アルカリしているものについては他の材料を混ぜるためCaが不足しており、乳酸Ca等を添加して同様に結着させることができる。マンナンミート(アルカリ)+マンナンミート(アルカリ)、マンナンミート(アルカリ)+粒状大豆たんぱく(水もどし)にアルギン酸Na(全量の3%)を加え、練ったものをフライパンで加熱すると前者は鶏つくねのような物性になった。後者はハンバーグ様の物性で双方共に結着したが結着強度は後者のものが強かった。
【0028】
アルギン酸ナトリウムの溶液は「アルギン酸製剤3gを食用なたね油10gに分散させたもの」を用いた(マンナンミート100gに対しての分量)。
成形の前に混ぜてから、ハンバーグに成形する。すなわち、成形の前に加えて練り、ハンバーグ状に成形した。圧力を加えて形成強度を強くしてもよい。またこんにゃくの形状、例えば糸状のものを結着させると筋肉繊維様になる。
コンニャクを使うのにかかわらず、冷凍ドリップ少ない。30%に離水したこんにゃくを使用したので、離水が出なかったと推定される。大豆たんぱくと混ぜたものはドリップを大豆が吸収したと推定される。
【0029】
100%こんにゃくの場合、真空包装され加熱殺菌される常温での流通が可能であるが、種々の食材が混入しているので冷凍して流通させることが好ましい。
充填包装に用いる容器は食品包装に普通に使用される合成樹脂フィルム製の袋状のものが好ましいが、安全なものであれば特に限定されない。
【実施例0030】
本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。本発明は、これらに限定するものではない。
〈実験例で用いた材料〉
アルギン酸製剤:(アルギン酸ナトリウム 63%、硫酸カルシウム 28%、ピロリン酸ナトリウム 9%)〔昆布酸429S(株式会社キミカ)〕
サラダ油:〔さらさらキヤノーヤ油(株式会社J-オイルミルズ)〕
マンナンミート:(着色したこんにゃくを、摩砕し、酸味料等を加えて脱アルカリし、圧力をかけて脱水したもの)〔ハイスキー食品工業株式会社〕
大豆ミート:(業務用乾燥大豆のお肉)〔Kミンチ(マルコメ株式会社)〕
グルテン:〔バイタルグルテンO‐グル(株式会社小川製粉)〕
米粉:〔洋菓子用米っ粉(株式会社山清)〕
アルギン酸ナトリウム:〔キミカアルギンI-3(株式会社キミカ)〕
通常の白糸こんにゃく:市販用の白色こんにゃく(ハイスキー食品工業株式会社)
トマト色素、イカスミ色素:(株式会社タイショーテクノス)
こんにゃく粉:(市販品)
〈実験例で用いた道具〉
ミルミキサー:〔ミルミキサーMR-280(株式会社山善)〕
乾燥機:電気乾燥機DSK-20-3 (静岡製機株式会社)
【0031】
実験例1
[目的]
マンナンミートでハンバーグを作る。新しい結着剤であるアルギン酸製剤を用いる。
A:大豆ミートとマンナンミートを組み合わせたもの
B:マンナンミート100%のもの
[方法]
A:粒状大豆ミート50g(茹でてふやかしたもの)とマンナンミート50gを混合し、アルギン酸製剤3gをサラダ油10gに分散させたものを加えて練り、ハンバーグ状に成形する。フライパンで焼く。
B:マンナンミート100gに、アルギン酸製剤3gをサラダ油10gに分散させたものを加えて練り、ハンバーグ状に成形する。フライパンで焼く。
【0032】
[結果と考察]
本実験例のマンナンミートでハンバーグを作るA(大豆ミート50%+マンナンミート50%)およびB(マンナンミート100%)の態様における成形したもの、焼き上げたもの、包丁で切った断面の写真を
図1に示す。
Aはギッシリとした食感で、これまでで一番しっかりと結着できている。食感はギッシリとしたハンバーグ。大豆臭がある。
BはAよりはふんわりで、包丁で切るとやや崩れる。しかし大豆臭はなく、崩れる感じは鶏つくねのような食感。また、焼き立てよりも冷ますと少ししっかりする。
アルギン酸を使用することで、こんにゃくを結着できることがわかった。
次の実験例では、マンナンミートに他の材料を加えて確認する。
【0033】
実験例2
[目的]
マンナンミートでハンバーグを作る。マンナンミートをアルギン酸製剤で結着できることがわかったので、他の材料(グルテン、米粉)と組み合わせることによる物性等の変化を確認する。冷凍耐性を確認する。
A:マンナンミート100%にグルテンもしくは米粉を配合したもの
B:大豆ミートとマンナンミートを組み合わせたものにグルテンもしくは米粉を配合したもの
[方法]
A:マンナンミート100%に、アルギン酸製剤3%をサラダ油10%に分散させたものを混ぜて成形する。その際、グルテンもしくは米粉を10%配合したものを作る。
B:マンナンミート50%+大豆ミート50%に、アルギン酸製剤3%をサラダ油10%に分散させたものを混ぜて成形する。その際、グルテンもしくは米粉を10%配合したものを作る。
フライパンで焼成する。一部は冷凍、解凍して、ドリップの有無と食感を確認する。
【0034】
[結果と考察]
表1に、マンナンミートに他の材料を加えたハンバーグ材料の組成および、結果と考察をまとめた備考欄を示す。本実験例のマンナンミートに他の材料を加えてハンバーグを作る表1の(1)から(6)の態様における成形後の写真、焼成後の写真、冷凍・解凍後の写真、冷凍・解凍したものの焼成後の写真を
図2A~
図2Dに示す。
実験例1と同様、大豆ミートを入れると物性がしっかりして、ガシッとした食感のハンバーグになる。大豆ミート無しだと、大豆臭くない、ホロッとしたハンバーグの食感になる。この特徴は既製品では見かけない、面白い食感。鶏つくねのよう。
冷凍、解凍による食感の変化はない。焼いてから包丁を入れるとやや崩れやすくなっている。
冷凍、解凍による離水は表面が湿る程度で、ほぼ無い。こんにゃくに比べるとかなり少ない。
グルテンは均一に混ざらなかったが、ゴムのように伸びるのが、脂身や筋のような食感に近いものがある。
米粉を入れるとしっとりする。
【表1】
【0035】
実験例3
[目的]
マンナンミートでハンバーグを作る。
マンナンミートをアルギン酸製剤で結着できることがわかったので、マンナンミートの脱水率を変えても結着できるか確認する。水分量が多いものも結着が可能か確認する。
[方法]
マンナンミートの脱水工程で、重量を30%まで脱水したもの、50%まで脱水したもの、70%まで脱水したものを作る。
マンナンミート100gに、アルギン酸製剤3gをサラダ油10gに分散させたものを混ぜて成形する。フライパンで焼成する。一部は冷凍・解凍してドリップの有無と食感を確認する。
【0036】
[結果と考察]
本実験例の重量を30%まで脱水したマンナンミート、50%まで脱水したマンナンミート、70%まで脱水したマンナンミートでハンバーグを作る態様における成形後の写真、焼成後の写真、冷凍・解凍後の写真、冷凍・解凍したものの焼成後の写真を
図3に示す。
脱水で残っている水分が多い程、柔らかな物性になる。しかしいずれもバラバラになることなく、結着できた。
従来の重量30%まで脱水したものは一番しっかりしていた。鶏つくねのような食感。
重量50%まで脱水したものは、ふわっとした食感で、ミンチカツのよう。
重量70%まで脱水したものは、この中でもっとも水分が多く、トロッとした食感で、コロッケのじゃがいものよう。
冷凍、解凍後の離水はいずれの脱水率でも表面が濡れる程度で、ほぼない。通常のこんにゃくと比較するととても少ない。
脱水率を変えても、こんにゃくを結着できることはわかった。結着は脱アルカリ時に使用した乳酸カルシウムと反応したことも予想されるので、次の実験例では、脱アルカリ(乳酸カルシウム入り)ではなく、アルカリ状態でも結着するかを確認する。
【0037】
実験例4
[目的]
アルカリのこんにゃくでも結着できるかどうか確認する。
[方法]
通常の白糸こんにゃくをミルミキサーで磨砕し、重量30%になるまで脱水する。
磨砕・脱水したこんにゃく100gに、アルギン酸製剤3bをサラダ油10gに分散させたものを混ぜて成形する。
フライパンで焼く。
一部は冷凍・解凍して、離水の有無・食感を確認する。
【0038】
[結果と考察]
本実験例のアルカリのこんにゃくがアルギン酸製剤で結着できるかどうかの確認における成形、焼成後、冷凍・解凍後の写真を
図4に示す。
アルギン酸溶液を混ぜて成形している段階ではやや緩く感じたが、10分後にはしっかりと固まっていた。
非常に強固な結着力になった。
また、冷凍・解凍したものは離水もなく、食感等も復元できていた。
脱アルカリ(乳酸カルシウム入り)だけではなく、アルカリこんにゃくでも結着した。しかも脱アルカリよりも非常に強固である。
脱アルカリよりもアルカリの方が強固なのは、こんにゃくが持つ水酸化カルシウムの性質により、より強いアルギン酸のゲルが形成されているからだと考えられる。
次の実験例では、磨砕したこんにゃくの結着ではなく、板状のこんにゃく同士を面で貼り合わせることができるかどうか、確認する。
【0039】
実験例5
[目的]
アルギン酸製剤で、こんにゃく同士を貼り合わせることができるかどうかを確認する。
[方法]
A:アルギン酸製剤を粉のまま断面に振りかけ、くっつける。
B:アルギン酸製剤3gをサラダ油10gに分散させたものを断面に塗り、くっつける。
それぞれ30分程度放置して、結着したかどうか確認する。
10分茹でて、結着の耐熱性を確認する。
冷凍・解凍で、結着の冷凍耐性を確認する。
【0040】
[結果と考察]
本実験例のアルギン酸製剤でこんにゃく同士を貼り合わせることができるかどうかの確認における結着した断面、10分加熱後、冷凍・解凍後の写真、ならびに、鍋の中での加熱の状態の写真を示す。
A・Bいずれの方法でも、貼り合わせできた。結着力はとてA・Bいずれの方法でも、貼り合わせできた。結着力はとても強い。
粉を均一に振りかけるのは難しいので、Bの方法をメインに試していく。
10分間熱湯で茹でても、結着力は変わらず、強かった。
冷凍・解凍しても、結着力は変わらず、強かった。(こんにゃく部分からは大量に離水していたが、アルギン酸製剤の部分は離水が認められなかった。)
アルギン酸製剤の部分は離水が認められなかった。)
アルギン酸製剤を使用すれば、こんにゃくを貼り合わせることもできることがわかった。
脱アルカリよりもアルカリこんにゃくの方が非常に結着が強いため、こんにゃくの特性として含まれる水酸化カルシウムが結着を強化していることが考えられる。しかし、本実験例で使用したアルギン酸はゲル化製剤なので、次の実験例では製剤ではないアルギン酸ナトリウム単体で試す。
【0041】
実験例6
[目的]
アルギン酸製剤ではなく、アルギン酸ナトリウム単体でも結着できるか確認する。
[方法]
通常の白糸こんにゃくをミルミキサーで磨砕し、重量30%になるまで脱水する。(アルカリマンナンミート)
磨砕・脱水したこんにゃく100gに、アルギン酸ナトリウム3gをサラダ油10gに分散させたものを混ぜて成形する。
フライパンで焼く。
一部は冷凍・解凍して、離水の有無・食感を確認する。
【0042】
[結果と考察]
本実験例のアルギン酸製剤ではなく、アルギン酸ナトリウム単体でアルカリマンナンミートを結着できるかの確認における、成形後、焼成後、カットした
断面の写真を
図6に示す。
混ぜてすぐにまとまりだし、無事に成形できた。
製剤を使用していた時と違い、生地は少し緩く、押すと崩れる。
焼いて食べると、ネチャネチャだった。ゲル化をしていない模様。
次回は、(1)マンナンミート+アルギン酸製剤、(2)マンナンミート+アルギン酸ナトリウム、(3)アルカリマンナンミート+アルギン酸製剤、(4)アルカリマンナンミート+アルギン酸ナトリウムの4パターンで比較してみる。
【0043】
実験例7
[目的]
2種のマンナンミートと2種のアルギン酸の組み合わせを比較する。
[方法]
(1)マンナンミート+アルギン酸製剤、(2)マンナンミート+アルギン酸ナトリウム、(3)アルカリマンナンミート+アルギン酸製剤、(4)アルカリマンナンミート+アルギン酸ナトリウムの4パターンのサンプルを試作する。
一部は冷凍・解凍して、離水の有無・食感を確認する。
【0044】
[結果と考察]
表2に本実験例の前記4パターンのサンプル組成を示す。本実験例の(1)マンナンミート+アルギン酸製剤、(2)マンナンミート+アルギン酸ナトリウム、(3)アルカリマンナンミート+アルギン酸製剤、(4)アルカリマンナンミート+アルギン酸ナトリウムの4パターンにおける、成形後の写真を
図7Aに、焼成後の写真を
図7Bに、カット・断面の写真を
図7Cに、冷凍・解凍後の写真を
図7Dに、冷凍・解凍したものを焼成した写真を
図7Eに、冷凍・解凍したものを焼成・カットした写真を
図7Fに示す。
(3)アルカリマンナンミート+アルギン酸製剤の組み合わせのみ、しっかりとゲル化した。
(1)と(3)の違いから、こんにゃくの結着には、こんにゃく自身の水酸化カルシウムも影響していることがわかった。
(3)と(4)の違いから、製剤に含まれる成分も必要であることがわかった。
冷凍・解凍での離水はいずれの組み合わせでもほぼなかった。
【表2】
【0045】
実験例8
[目的]
アルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の濃度を確認する。
[方法]
アルカリマンナンミート100gに、アルギン酸製剤をサラダ油10gに分散させて、混ぜ込む。成形して一晩おいて確認する。
【0046】
[結果と考察]
表3本実験例のアルギン酸の濃度を変えた配合例(1)~(3)の組成を示す。本実験例のアルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の濃度確認における成形後の写真を
図8に示す。
成形後、(1)は脆くてしっかり固まらなかった。(2)、(3)はしっかり固まり、大差なかったが、やや(2)の方がしっかりしていた。
次の実験例は、今回実験の(1)と(2)、(3)で差があるので、間の2%を試す。
【表3】
【0047】
実験例9
[目的]
アルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の濃度を確認する。
前回実験で1%は結着せず、3%はしっかり結着したので、間の2%を試す。
アルカリマンナンミート:通常の白糸こんにゃくをミルミキサーで磨砕し、重量30%になるまで脱水したもの。
[方法]
アルカリマンナンミート100gに、アルギン酸製剤2gをサラダ油10gに分散させて、混ぜ込む。成形して一晩おいて確認する。
【0048】
[結果と考察]
本実験例のアルカリマンナンミートを結着させるアルギン酸の2%濃度確認における成形後の写真、断面の写真を
図9に示す。
しっかり結着した。
次の実験例からはこの2gを基準に実験を進める。
【0049】
実験例10
[目的]
こんにゃくを束ねて、お肉の繊維を表現できないか、試してみる。
[方法]
市販の極細こんにゃく麺(ハイスキー製)を液切りして、重量50%になるまで圧力をかけて脱水する。
上記のもの100gに、アルギン酸製剤2gをサラダ油10gに分散させて、混ぜ込む。成形して一晩おいて確認する。
【0050】
[結果と考察]
本実験例のこんにゃくを束ねて、お肉の繊維を表現できないかの試しにおける成形後の写真、断面の写真をとった。
図10に成形後の写真、断面の写真を示す。
しっかり結着した。
食感はカニ蒲鉾や帆立のようにほぐれる感じもある。
【0051】
実験例11
[目的]
これまではアルギン酸製剤を油に分散させていたが、その他の方法がないか確認する。
[方法]
(1)アルカリマンナンミート100gに、アルコール10gにアルギン酸製剤2gを分散させたものを混ぜる。
(2)アルカリマンナンミート100gに、水50gにアルギン酸製剤2gを溶かしたものを混ぜる。それぞれ成形して、一晩おいて確認する。
アルカリマンナンミート:通常の白糸こんにゃくをミルミキサーで磨砕し、重量30%になるまで脱水したもの。
【0052】
[結果と考察]
本実験例の「アルギン酸製剤を油に分散させる以外の他の方法〔(1)アルコール、(2)水〕における成形後の写真、断面の写真を
図11に示す。
(1)アルギン酸製剤はアルコールに綺麗に分散し、作業しやすかった。成形したものはしっかり結着していた。油を使用したものと比べると、やや脆かった。熱湯で加熱しても変わらず、冷凍・解凍しても離水はほとんどなかった。
(2)アルギン酸製剤は水には溶かしにくかった。ミルミキサーを使用して溶かせたが、アルコールや油と比べると水は5倍量必要で、水溶液の粘度がかなり高いため、扱いにくい。成形したものはしっかり結着していた。しっかり結着しているが、脆く、噛むとすぐに崩れた。面白い物性だとも感じた。熱湯で加熱しても変わらないが、冷凍・解凍すると離水が少しあった。
【0053】
実験例12
[目的]
アルギン酸でこんにゃくを束ねて、お肉の繊維を表現できないか、試してみる。
[方法]
(1)天然色素で着色した糸状こんにゃくに、並塩1%を加えて1時間放置する。
天然色素で着色した糸状こんにゃくは、水トマト色素0.8gとイカスミ色素0.5gを溶かし、こんにゃく粉30gを加え、ゆっくりと混合、撹拌して糊状とし、2時間放置後、こんにゃく糊に1.5%の水酸化カルシウム液100ミリリットルを加えて、均一になるように練り、ゲル化させながら糸状に成形し加熱凝固させたものである。
(2)重量50%になるまで圧力をかけて脱水する。
(3)脱水した糸状こんにゃく600gに、「アルギン酸製剤12gをサラダ油60gに分散させたもの」を混ぜ込む。
(4)成形して一晩冷蔵保管する。〔成形は A:糸状のこんにゃくをまっすぐ並べて筋肉繊維様にして結着 B:糸状こんにゃくをランダムに混ぜて結着 C:糸状こんにゃくを短く切って(20~30mm)ランダムに並べて結着の3パターン〕
(5)20mmにスライスしたこんにゃくを乾燥機に入れ、70℃、1時間乾燥させる。
(6)フライパンで焼成して、物性確認・試食する。
【0054】
[結果と考察]
A・B・Cいずれも、アルギン酸製剤でしっかり結着した。
乾燥させた効果で、こんにゃくの食感がしっかりした繊維質になった。
食感は、Aのものが最もステーキ肉(塊肉)に近く、B・Cは加工肉(ハム)に近い物性であった。成形する際のこんにゃく麺の向きで、物性が変わることを確認できた。
こんにゃくの市場規模の拡大のため、こんにゃくの特性を生かしたハンバーグ、ソーセージなどの加工食品の形態のこんにゃく健康食品を市場に提供することができ、消費の減少が続いているこんにゃくの用途を拡大するとともに、より多くの人にヘルシーな食品を提供することになり、食生活の健全化にも寄与することを可能とする。