(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004177
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240109BHJP
E04F 11/022 20060101ALI20240109BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04F11/022
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103696
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智裕
【テーマコード(参考)】
2E139
2E301
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AD03
2E139BA17
2E139CA24
2E301CC22
2E301CC33
2E301CC93
2E301DD16
3J048AA06
3J048BD08
3J048DA02
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】粘弾性ダンパの設置自由度を高めることを目的とする。
【解決手段】制振構造は、下側スラブ10と、下側スラブ10の端部10Eよりも外側へ延出する延出部30Mを有し、下側スラブ10の端部10Eに相対移動可能に支持される階段30と、粘弾性体48を有し、延出部30Mの下面30M1に取り付けられ、下側スラブ10と階段30との相対移動に伴って、下側スラブ10の端部10Eに押し付けられて粘弾性体48を変形させる粘弾性ダンパ40と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と、
前記第一部材の端部よりも外側へ延出する延出部を有し、前記第一部材の前記端部に相対移動可能に支持される第二部材と、
粘弾性体を有し、前記延出部の下面に取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との相対移動に伴って、前記第一部材の前記端部に押し付けられて前記粘弾性体を変形させる粘弾性ダンパと、
を備える制振構造。
【請求項2】
前記粘弾性ダンパは、前記粘弾性体を介して前記延出部の前記下面に取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との相対移動に伴って、前記第一部材の前記端部に押し付けられて前記延出部の前記下面の面内方向に沿って移動し、前記粘弾性体を変形させる押付部材を有する、
請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記延出部の前記下面は、前記第一部材と前記第二部材との相対移動方向に対して傾斜する傾斜面とされ、
前記押付部材は、前記傾斜面の面内方向に沿って配置され、
前記第一部材の前記端部の角部には、前記押付部材の端面が押し付けられる受け面が形成される、
請求項2に記載の制振構造。
【請求項4】
前記第二部材は、前記第一部材の前記端部から外側へ延出する階段とされる、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
階段に設置される粘弾性ダンパ等の粘弾性ダンパが知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-029734号公報
【特許文献2】特開2008-274545号公報
【特許文献3】特開2001-207675号公報
【特許文献4】特開2006-152621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された粘弾性ダンパ(制振ユニット)は、階段の端部と、当該端部を支持する床との間に設置される。そのため、特許文献1の粘弾性ダンパは、階段等の施工時に設置しなければならず、設置自由度の点で、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、粘弾性ダンパの設置自由度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の制振構造は、第一部材と、前記第一部材の端部よりも外側へ延出する延出部を有し、前記第一部材の前記端部に相対移動可能に支持される第二部材と、粘弾性体を有し、前記延出部の下面に取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との相対移動に伴って、前記第一部材の前記端部に押し付けられて前記粘弾性体が変形される粘弾性ダンパと、を備える。
【0007】
請求項1に係る制振構造によれば、第二部材は、第一部材の端部よりも外側へ延出する延出部を有し、第一部材の端部に相対移動可能に支持される。この延出部の下面には、粘弾性ダンパが取り付けられる。粘弾性ダンパは、粘弾性体を有している。この粘弾性ダンパは、地震時における第一部材と第二部材との相対移動に伴って、第一部材の端部に押し付けられて粘弾性体を変形させる。これにより、地震エネルギーが吸収される。したがって、第一部材及び第二部材の耐震性能が高められる。
【0008】
また、粘弾性ダンパは、前述したように、第二部材の延出部の下面に取り付けられる。これにより、本発明では、第二部材の施工時に限らず、第二部材の施工後においても、第二部材に粘弾性ダンパを取り付けることができる。したがって、本発明では、第一部材の端部と第二部材との間に粘弾性ダンパを設置する構成と比較して、粘弾性ダンパの設置自由度を高めることができる。
【0009】
さらに、第二部材の延出部の下面に粘弾性ダンパを取り付けることにより、粘弾性ダンパのメンテナンス性も高めることができる。
【0010】
請求項2に記載の制振構造は、請求項1に記載の制振構造において、前記粘弾性ダンパは、前記粘弾性体を介して前記延出部の前記下面に取り付けられ、前記第一部材と前記第二部材との相対移動に伴って、前記第一部材の前記端部に押し付けられて前記延出部の前記下面の面内方向に沿って移動し、前記粘弾性体を変形させる押付部材を有する。
【0011】
請求項2に係る制振構造によれば、粘弾性ダンパは、押付部材を有する。押付部材は、粘弾性体を介して延出部の下面に取り付けられる。この押付部材は、例えば、地震時における第一部材と第二部材との相対移動に伴って、第一部材の端部に押し付けられて延出部の下面の面内方向に沿って移動し、粘弾性体を変形させる。これにより、地震エネルギーが吸収される。
【0012】
このように本発明では、簡単な構成で、耐震性能を高めることができる。
【0013】
請求項3に記載の制振構造は、請求項2に記載の制振構造において、前記延出部の前記下面は、前記第一部材と前記第二部材との相対移動方向に対して傾斜する傾斜面とされ、前記押付部材は、前記傾斜面の面内方向に沿って配置され、前記第一部材の前記端部の角部には、前記押付部材の端面が押し付けられる受け面が形成される。
【0014】
請求項3に係る制振構造によれば、延出部の下面は、第一部材と第二部材との相対移動方向に対して傾斜する傾斜面とされる。そして、押付部材は、延出部の傾斜面の面内方向に沿って配置される。
【0015】
ここで、第一部材の端部の角部には、押付部材の端面が押し付けられる受け面が形成される。これにより、例えば、第一部材と第二部材とが相対移動したときに、押付部材の端面が、第一部材の端部の角部の受け面に押し付けられる。これにより、押付部材が、延出部の傾斜面の面内方向に沿って移動し易くなるため、粘弾性体の変形効率が高められる。したがって、粘弾性ダンパの制振性能を高めることができる。
【0016】
請求項4に記載の制振構造は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の制振構造において、前記第二部材は、前記第一部材の前記端部から外側へ延出する階段とされる。
【0017】
請求項4に係る制振構造によれば、第二部材は、第一部材の端部から外側へ延出する階段とされる。この階段の延出部の下面に、粘弾性ダンパが取り付けられる。
【0018】
ここで、例えば、柱梁架構に壁型やブレース型の粘弾性ダンパを設ける場合は、粘弾性ダンパによって柱梁架構の開口が塞がれるため、建築プランや設備プランが制限される可能性がある。
【0019】
これに対して本発明では、前述したように、階段の下側のスペースに粘弾性ダンパを設置することにより、柱梁架構の開口が確保されるため、建築プランや設備プランの自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る制振構造によれば、粘弾性ダンパの設置自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る制振構造が適用された階段を示す側面図である。
【
図2】
図1に示される粘弾性ダンパを示す拡大断面図である。
【
図3】階段と下側スラブとが水平方向に相対移動した状態を示す
図2に対応する拡大断面図である。
【
図4】一実施形態に係る制振構造の変形例を示す
図2に対応する拡大断面図である。
【
図5】一実施形態に係る制振構造の変形例を示す拡大断面図である。
【
図6】一実施形態に係る制振構造の変形例を示す
図2に対応する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る制振構造について説明する。
【0023】
(制振構造)
図1には、本実施形態に係る制振構造が適用された構造物8が示されている。構造物8は、下側スラブ10と、上側スラブ20と、階段30とを備えている。なお、下側スラブ10は、第一部材の一例であり、階段30は、第二部材の一例である。
【0024】
階段(コンクリート階段)30は、鉄筋コンクリート造とされている。この階段30は、下側スラブ10と、下側スラブ10よりも上方に配置された上側スラブ20とに斜めに架設されている。
【0025】
階段30は、下側スラブ10に支持される下端部30Lと、上側スラブ20に支持される上端部30Uと、下端部30Lと上端部30Uとを繋ぐ延出部30Mとを有している。延出部30Mの上面には、階段状に配列された複数の踏み面30Aが形成されている。
【0026】
下側スラブ10は、鉄筋コンクリート造とされており、例えば、下階の床を形成している。この下側スラブ10は、下側梁12に支持されている。また、下側スラブ10の端部10Eは、下側梁12から跳ね出している。
【0027】
下側スラブ10の端部10Eは、例えば、階段30下の開口(吹抜け)32の縁部を構成している。この下側スラブ10の端部10E上には、階段30の下端部30Lが水平方向(水平二方向)に相対移動可能に支持されている。
【0028】
具体的には、下側スラブ10の端部10Eの上面には、滑り板14が設けられている。滑り板14は、ステンレス鋼板等の低摩擦材によって形成されている。この滑り板14は、下側スラブ10の上面に重ねられた状態で固定されている。
【0029】
下側スラブ10の端部10Eにおける上側の角部には、受け面10Aが設けられている。受け面10A(
図2参照)は、階段30の幅方向から見て、下側スラブ10の端部10E及び階段30の下端部30Lの相対移動方向(矢印X方向)に対して傾斜する傾斜面とされている。
【0030】
受け面10Aには、滑り板16が設けられている。滑り板16は、滑り板14と同様に、ステンレス鋼板等の低摩擦材によって形成されている。この滑り板16は、受け面10Aに重ねられた状態で固定されている。
【0031】
なお、滑り板16は、必要に応じて受け面10Aに設ければ良く、適宜省略可能である。また、受け面10Aは、階段30の幅方向から見て、階段30の延出部30Mの下面30M1の面内方向に対して略直交している。また、受け面10Aは、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0032】
一方、階段30の下端部30Lの下面には、滑り板34が設けられている。滑り板34は、ステンレス鋼板等の低摩擦材によって形成されている。また、滑り板34は、階段30の下端部30Lの下面に重ねられた状態で固定されており、下側スラブ10の滑り板14の上に重ねられている。
【0033】
階段30の下端部30Lは、滑り板34を介して下側スラブ10の端部10E上の滑り板14にスライド可能に支持されている。これにより、地震時に、下側スラブ10の端部10Eと、階段30の下端部30Lとが相対移動可能とされている。
【0034】
なお、各図に適宜示される矢印Xは、下側スラブ10の端部10Eと階段30の下端部30Lとの相対移動方向(水平方向)の一方側(下側スラブ10の内側)を示している。また、滑り板14,34の一方は、省略されても良い。さらに、下側スラブ10及び階段30の少なくとも一方には、下側スラブ10の端部10Eと階段30の下端部30Lとの水平移動を制限するストッパが設けられても良い。
【0035】
階段30の延出部30Mは、下側スラブ10の端部10Eよりも外側(開口32側、矢印X側と反対側)へ延出している。より具体的には、延出部30Mは、下端部30Lから斜め上方へ延出し、上端部30Uに接続されている。この階段30の上端部30Uは、上側スラブ20に接合されている。
【0036】
上側スラブ20は、鉄筋コンクリート造とされており、例えば、上階の床を形成している。この上側スラブ20は、上側梁22に支持されている。また、上側スラブ20の端部20Eは、上側梁22から跳ね出している。この上側スラブ20の端部20Eに、階段30の上端部30Uが支持されている。階段30の上端部30Uは、上側スラブ20の端部20Eに固定されており、上側スラブ20と一体に振動する。
【0037】
なお、下側梁12及び上側梁22は、鉄筋コンクリート造とされているが、鉄骨鉄筋コンクリート造や、鉄骨造でも良い。
【0038】
(粘弾性ダンパ)
図2に示されるように、粘弾性ダンパ40は、階段30の延出部30Mの下面30M1における下端部30L側に取り付けられている。この粘弾性ダンパ40は、ベースプレート42と、押付プレート46と、粘弾性体48とを有している。なお、押付プレート46は、押付部材の一例である。
【0039】
ベースプレート42は、例えば、矩形状の鋼板等によって形成されている。また、ベースプレート42は、階段30の延出部30Mの下面30M1に沿って配置されている。このベースプレート42の上面には、複数のスタッド44が設けられている。
【0040】
なお、延出部30Mの下面30M1は、階段30の幅方向から見て、下側スラブ10の端部10E及び階段30の下端部30Lの相対移動方向(矢印X方向)に対して、所定角度θ(
図3参照)で傾斜する傾斜面とされている。
【0041】
複数のスタッド44は、ベースプレート42の上面から突出し、階段30の延出部30Mに埋設されている。これらのスタッド44を介して、ベースプレート42が階段30の延出部30Mに固定されている。
【0042】
なお、スタッド44は、固定部材の一例である。また、固定部材は、スタッド44に限らず、例えば、アンカーや、ボルト等でも良い。
【0043】
押付プレート46は、例えば、矩形状の鋼板等によって形成されており、ベースプレート42と対向して配置されている。この押付プレート46は、粘弾性体48を介してベースプレート42に支持されている。
【0044】
粘弾性体48は、板状に形成されており、ベースプレート42と押付プレート46との間に挟み込まれている。この粘弾性体48は、ベースプレート42の下面、及び押付プレート46の上面に、加硫接着等によって接合(固定)されている。これにより、押付プレート46が、粘弾性体48を介してベースプレート42に、延出部30Mの下面30M1の面内方向に沿って移動可能に支持されている。
【0045】
押付プレート46は、複数の吊り材50を介して階段30又はベースプレート48に支持されている。複数の吊り材50は、ベースプレート48に対する押付プレート46の相対移動を阻害しないように、例えば、ロープや、コイルスプリング等の弾性体によって形成されている。これらの吊り材50によって押付プレート46を支持することにより、押付プレート46の自重による粘弾性体48の変形(引張変形)等が抑制される。
【0046】
なお、吊り材50は、支持部材の一例である。また、吊り材50は、適宜省略可能である。
【0047】
本実施形態の粘弾性ダンパ40は、工場等において、ベースプレート42、押付プレート46、及び粘弾性体48が予め組み立てられたユニット(制振ユニット)とされている。しかし、ベースプレート42、押付プレート46、及び粘弾性体48は、現場において組み立てられても良い。また、ベースプレート42を省略し、延出部30Mの下面30M1に粘弾性体48を固定しても良い。
【0048】
ここで、階段30の長手方向(矢印Y方向)において、押付プレート46の長さS2は、ベースプレート42の長さS1よりも長く設定されている。この押付プレート46の下端部46Lは、ベースプレート42の下端部42Lよりも、下側スラブ10側に位置している。
【0049】
また、押付プレート46の下端部46Lの端面46L1は、下側スラブ10の端部10Eの上面(支持面)よりも下側に位置するとともに、下側スラブ10の受け面10Aと対向している。
【0050】
これにより、地震時に、下側スラブ10の端部10Eに対して階段30の下端部30Lが内側(矢印X方向)へ相対移動すると、押付プレート46の端面46L1が、滑り板16を介して下側スラブ10の受け面10Aに押し付けられる。この結果、ベースプレート42に対して、押付プレート46が延出部30Mの下面30M1の面内方向に沿って階段30の上端部30U側へ移動するため、粘弾性体48が変形(せん断変形)する。
【0051】
なお、押付部材は、平板状の押付プレート46に限らず、例えば、ブロック状や、断面L字形状等でも良い。
【0052】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0053】
図2に示されるように、本実施形態によれば、階段30の下端部30Lは、滑り板34を介して、下側スラブ10の端部10E上の滑り板14に相対移動可能に支持されている。この階段30は、下側スラブ10の端部10Eよりも外側(矢印X側)へ延出する延出部30Mを有している。延出部30Mの下面30M1には、粘弾性ダンパ40が取り付けられている。
【0054】
粘弾性ダンパ40は、ベースプレート42と、粘弾性体48と、押付プレート46とを有している。ベースプレート42は、階段30の延出部30Mの下面30M1に固定されている。このベースプレート42には、粘弾性体48を介して押付プレート46が相対移動可能に支持されている。
【0055】
ここで、
図3に示されるように、例えば地震時に、下側スラブ10の端部10Eに対して階段30の下端部30Lが内側(矢印X方向)へ相対移動すると、粘弾性ダンパ40の押付プレート46の端面46L1が、滑り板16を介して下側スラブ10の受け面10Aに押し付けられる。この際、押付プレート46の端面46L1は、滑り板16をスライドする。
【0056】
これにより、ベースプレート42に対して、押付プレート46が延出部30Mの下面30M1の面内方向に沿って階段30の上端部30U側へ移動する。この結果、粘弾性体48が変形(せん断変形)し、地震エネルギーが吸収される。したがって、構造物8の耐震性能が高められる。
【0057】
また、粘弾性ダンパ40は、前述したように、階段30の延出部30Mの下面30M1に取り付けられている。これにより、本実施形態では、階段30の施工時に限らず、階段30の施工後においても、階段30に粘弾性ダンパ40を取り付けることができる。
【0058】
したがって、本実施形態では、下側スラブ10の端部10Eと階段30との間に粘弾性ダンパ40を設置する構成と比較して、粘弾性ダンパ40の設置自由度を高めることができる。
【0059】
また、階段30の延出部30Mの下面30M1に粘弾性ダンパ40を取り付けることにより、粘弾性ダンパ40のメンテナンス性も高めることができる。
【0060】
さらに、粘弾性ダンパ40は、ベースプレート42と、粘弾性体48と、押付プレート46とを有する粘弾性ダンパとされている。これにより、簡単な構成で、構造物8の耐震性能を高めることができる。
【0061】
また、階段30の延出部30Mの下面30M1は、階段30の幅方向から見て、下側スラブ10と階段30との相対移動方向(矢印X方向)に対して傾斜する傾斜面とされている。そして、押付プレート46は、延出部30Mの傾斜面の面内方向に沿って配置されている。
【0062】
ここで、下側スラブ10の端部10Eにおける上側の角部には、押付プレート46の端面46L1と対向する受け面10Aが形成されている。これにより、例えば、地震時に、下側スラブ10の端部10Eに対して階段30の下端部30Lが内側(矢印X方向)へ移動すると、押付プレート46の下端部46Lの端面46L1が、滑り板16を介して、下側スラブ10の受け面10Aに押し付けられる。
【0063】
これにより、押付プレート46が、延出部30Mの下面30M1の面内方向(階段30の長手方向)に沿って移動し易くなるため、粘弾性体48の変形効率が高められる。したがって、粘弾性ダンパ40の制振性能を高めることができる。
【0064】
また、下側スラブ10の受け面10Aには、滑り板16が設けられている。これにより、押付プレート46の端面46L1が、滑り板16を介して下側スラブ10の受け面10Aに押し付けられたときに、押付プレート46の端面46L1が滑り板16上をスライドし易くなる。したがって、押付プレート46の破損等が抑制される。
【0065】
また、比較例として、例えば、柱梁架構に壁型やブレース型の粘弾性ダンパを設ける場合は、粘弾性ダンパによって柱梁架構の開口が塞がれるため、建築プランや設備プランが制限される可能性がある。
【0066】
これに対して本実施形態では、前述したように、階段30の延出部30Mの下側のスペースに粘弾性ダンパ40を設置することにより、柱梁架構の開口が確保されるため、建築プランや設備プランの自由度を高めることができる。
【0067】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0068】
上記実施形態では、階段30の延出部30Mの下面30M1に1つの粘弾性ダンパ40が取り付けられている。しかし、例えば、
図4に示される変形例のように、階段30の延出部30Mの下面30M1には、複数の粘弾性ダンパ40が取り付けられても良い。
【0069】
具体的には、複数の粘弾性ダンパ40は、階段30の延出部30Mの長手方向に隣接して配置されている。また、隣り合う粘弾性ダンパ40の押付プレート46は、階段30の延出部30Mの長手方向(矢印Y方向)に連続するように配置されている。
【0070】
これにより、地震時に、下側スラブ10の端部10Eに対して階段30の下端部30Lが内側(矢印X方向)へ移動し、一番下の粘弾性ダンパ40の押付プレート46の端面46L1が、下側スラブ10の受け面10Aに押し付けられると、当該押付プレート46と連続する他の粘弾性ダンパ40の押付プレート46がベースプレート42に対して移動する。この結果、各粘弾性ダンパ40の粘弾性体48が変形するため、地震エネルギーが吸収される。
【0071】
このように本変形例では、階段30の延出部30Mに複数の粘弾性ダンパ40を取り付けることにより、構造物8の耐震性能を効果的に高めることができる。
【0072】
なお、隣り合う粘弾性ダンパ40の押付プレート46は、連結しても良いし、一体に形成しても良い。
【0073】
また、上記実施形態では、初期状態において、粘弾性ダンパ40の押付プレート46の端面46L1と、下側スラブ10の端部10Eの受け面10Aとの間に隙間が形成されている。しかし、初期状態において、粘弾性ダンパ40の押付プレート46の端面46L1と下側スラブ10の端部10Eの受け面10Aとを接触させても良い。
【0074】
また、上記実施形態では、階段30の下端部30Lが、下側スラブ10の端部10Eに相対移動可能に支持されている。しかし、階段30の下端部30Lは、下側スラブ10に限らず、例えば、第一部材としての梁や基礎上に相対移動可能に支持されても良い。
【0075】
また、
図5に示される変形例のように、階段30の上端部30Uが、第一部材としての上側スラブ20の端部20E上に、相対移動可能に支持されても良い。
【0076】
具体的には、上側スラブ20の端部20Eの上面には、滑り板24が設けられている。一方、階段30の上端部30Uの下面には、滑り板36が設けられている。この滑り板36は、上側スラブ20の滑り板24の上に重ねられている。
【0077】
これにより、階段30の上端部30Uが、滑り板36を介して上側スラブ20の端部20E上の滑り板24にスライド可能に支持されており、地震時に、上側スラブ20の端部20Eと、階段30の上端部30Uとが相対移動可能とされている。
【0078】
ここで、本変形例では、粘弾性ダンパ40が、階段30の延出部30Mの下面30M1における上端部30U側に取り付けられる。また、上側スラブ20の端部20Eには、押付プレート46の上端部46Uの端面46U1と対向する受け面20Aが形成されている。この受け面20Aには、滑り板26が設けられている。
【0079】
これにより、地震時に、上側スラブ20の端部20Eに対して階段30の上端部30Uが内側(矢印X方向)へ移動すると、粘弾性ダンパ40の押付プレート46の端面46U1が、滑り板26を介して、上側スラブ20の端部20Eの受け面20Aに押し付けられるため、粘弾性体48が変形する。したがって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、支持部材が吊り材50とされている。しかし、支持部材は、吊り材50に限らない。例えば、
図6に示される変形例では、支持部材が、フック60とされている。
【0081】
フック60は、ベースプレート42又は階段30に取り付けられている。このフック60のL字形状に屈曲されており、ベースプレート42に対する押付プレート46の相対移動を阻害しないように、押付プレート46の下面を下からスライド可能に支持している。これにより、上記実施形態と同様に、ベースプレート42の自重による粘弾性体48の変形(引張変形)等が抑制される。なお、フック60は、地震時以外(常時)には、摩擦力等によってベースプレート42のスライドを拘束している。
【0082】
また、上記実施形態では、傾斜面とされた階段30の延出部30Mの下面30M1に粘弾性ダンパ40が取り付けられている。しかし、階段30の延出部30Mの下面30M1を部分的に水平面とし、この水平面に粘弾性ダンパ40を取り付けても良い。
【0083】
また、上記実施形態では、第二部材が、階段30とされている。しかし、第二部材は、階段30に限らず、例えば、第一部材に相対移動可能に支持される他の部材でも良い。
【0084】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0085】
10 下側スラブ(第一部材)
10A 受け面
10E 端部(第一部材の端部)
20 上側スラブ(第一部材)
20E 端部(第一部材の端部)
20A 受け面
30 階段(第二部材)
30M 延出部(第二部材の延出部)
30M1 下面(延出部の下面)
40 粘弾性ダンパ
46 押付プレート(押付部材)
46L1 端面(押付部材の端面)
46U1 端面(押付部材の端面)
48 粘弾性体