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特開2024-41778ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041778
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240319BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240319BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240319BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
A61K8/00
A61Q19/00
G01N33/15 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216385
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2020057406の分割
【原出願日】2020-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、ペルオキシナイトライト活性阻害方法、および活性阻害剤のスクリーニング方法を提供することである。
【解決手段】前記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、表皮のpHを6.5以下に維持するなどの方法で、ペルオキシナイトライトのニトロ化反応を促進することで、ペルオキシナイトライト活性を阻害することが可能となり、本発明に至った。さらに、ニトロ化タンパク質量が増加するほどペルオキシナイトライト活性阻害能が高いと判断できる、ペルオキシナイトライト活性阻害剤スクリーニング方法を提供できる。
【効果】本発明のペルオキシナイトライト活性阻害方法、または活性阻害剤スクリーニング方法を利用して見出される活性阻害剤を用いることで、細胞分化・増殖阻害などの、タンパク質のニトロ化反応を除いたペルオキシナイトライトの作用を抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含むことを特徴とする、ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法
(1)被験素材共存の条件と非共存の条件で、タンパク質をペルオキシナイトライト処理する工程
(2)タンパク質のニトロ化タンパク質量を測定する工程。
(3)被験素材非共存時と比較して、被験素材共存時にニトロ化タンパク質量が増加する際に、被験素材はペルオキシナイトライト活性阻害剤であると判断する工程
【請求項2】
タンパク質が、培養表皮細胞のタンパク質である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
ニトロ化タンパク質量が、ニトロ化タンパク質を構成する芳香族アミノ酸のニトロ化物量である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
ニトロ化タンパク質量が、ニトロ化タンパク質を構成するニトロチロシン量である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
ペルオキシナイトライト処理をした培養表皮細胞の、分化・増殖関連のmRNA発現量及び/又はタンパク質発現量を指標とする、ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
ペルオキシナイトライト処理をした培養表皮細胞の、p21、インボルクリン、ロリクリンのmRNA発現量及び/又はタンパク質発現量を指標とする、ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法を用いた、表皮細胞の分化・増殖促進剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法を用いた、角層水分保持能増進剤スクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法を用いた、角層のバリア機能向上剤スクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚のペルオキシナイトライト活性阻害方法、およびペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシナイトライト(パーオキシナイトライト:peroxynitrite:ONOO-)は一酸化窒素とスーパーオキシドが反応することで生成する化合物である。非常に高い反応性を持つことから、酸化反応やニトロ化反応を通して、様々な生体内分子と反応することが知られる。例えば、タンパク質、核酸、脂質、グルタチオン、その他生体内分子と反応することが知られる(非特許文献1)。
【0003】
皮膚では、ペルオキシナイトライトは、しわやたるみ、色素沈着などの皮膚の老化に関与すると報告されている(特許文献1)。また、タンパク質と反応することで生じるニトロ化タンパク質は、肌の黄ぐすみの原因になることが分かっており(特許文献2)、皮膚を健康に保つためには、ペルオキシナイトライトの活性阻害が重要である。
【0004】
従来のペルオキシナイトライト活性阻害方法としては、とうもろこし抽出物、コーヒー抽出物、ブドウ抽出物(特許文献3)、D―ペニシラミン、ブシラミン、チオプロリン、チオサリチル酸(特許文献4)などのペルオキシナイトライト活性阻害剤を用いる方法が報告されている。また、これらペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法として、チロシンやタンパク質をペルオキシナイトライトと反応させ、生じるニトロチロシンやニトロ化タンパク質量を減少させることができる成分を選択している。
【0005】
しかしながら上述のように、ペルオキシナイトライトは生体内において、タンパク質以外にも核酸、脂質をはじめとして、様々な物質と反応を引き起こす。つまり、タンパク質のニトロ化反応を阻害できているからといって、その他生体内分子へのペルオキシナイトライトの作用を阻害できているかは判断できない。例えば、従来の方法でチロシンのニトロ化を防ぐ成分が見つかったとしても、その成分がペルオキシナイトライトと反応するのではなく、チロシンのニトロ化を阻害しているだけであったら、ペルオキシナイトライトのチロシン以外の生体内物質との反応は防げない。このように、従来のスクリーニング方法では、タンパク質のニトロ化抑制剤や、タンパク質のニトロ化により誘発される細胞傷害の抑制剤は見出すことができるが、ペルオキシナイトライトによる、核酸、脂質などの生体内物質へのニトロ化・酸化反応に対する効果を実証するものではなく、ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法としては不十分であった。同時に、このようにタンパク質のニトロ化自体がペルオキシナイトライトによる細胞傷害の一つだととらえられてきた側面もあり、これまでタンパク質がニトロ化することによる皮膚への恩恵については調べられてこなかった。
【0006】
一方で、上述のように、ペルオキシナイトライトによる皮膚への傷害については、しわやたるみ、色素沈着などが知られるが、表皮細胞の分化、増殖、角層水分保持能や角層のバリア機能に対する作用は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-265387号公報
【特許文献2】特開2017-181423号公報
【特許文献3】特開2002-265387号公報
【特許文献4】特開2005-170849号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Szabo C et al., Peroxynitrite: biochemistry, pathophysiology and development of therapeutics., Nat Rev Drug Discov,Aug;6(8),662-80,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ペルオキシナイトライト活性阻害方法、および活性阻害剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、ペルオキシナイトライトによるニトロ化タンパク質生成にはpHが寄与しており、中性付近ではタンパク質のニトロ化反応が起こりづらいが、酸性に近づくと、タンパク質のニトロ化が起こりやすくなることを見出した。さらに、ニトロ化が起こりづらい条件では、ペルオキシナイトライトにより表皮細胞の分化・増殖、角層のバリア機能が低下するが、pHが酸性条件にあるなど、ニトロ化が起こりやすい条件では、表皮細胞の分化・増殖、角層のバリア機能の低下が抑えられることを明らかにした。これらの知見に基づいて、表皮のpHを6.5以下に維持するなどの方法で、ペルオキシナイトライトのニトロ化反応を促進することで、結果としてペルオキシナイトライトによる、タンパク質以外の生体内物質へのニトロ化・酸化活性を阻害することが可能となり、本発明に至った。さらに、ニトロ化タンパク質量が増加するほどペルオキシナイトライト活性阻害能が高いと判断できる、ペルオキシナイトライト活性阻害剤スクリーニング方法を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペルオキシナイトライト活性阻害方法、または活性阻害剤スクリーニング方法を利用して見出される活性阻害剤を用いることで、細胞分化・増殖阻害などの、タンパク質のニトロ化反応を除いたペルオキシナイトライトの作用を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はペルオキシナイトライトを培養表皮細胞に添加して生成したニトロ化タンパク質の量を示す図である。
図2図2はペルオキシナイトライトを培養表皮細胞に添加して変化した遺伝子発現を示す図である。
図3図3はpHが異なる条件での、ペルオキシナイトライトによるタンパク質のニトロ化反応量を示す図である。
図4図4はpHを酸性に近づけた際に、ペルオキシナイトライトを培養表皮細胞に添加して生成したニトロ化タンパク質の量を示す図である。
図5図5はpHが異なる条件での、ペルオキシナイトライトを培養表皮細胞に添加して変化した遺伝子発現を比較した図である。
図6図6は頬部の角層水分量とニトロ化タンパク質量の相関解析の図である。
図7図7はペルオキシナイトライトを三次元皮膚モデルに添加して変化した角層バリア機能の変化を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるペルオキシナイトライト活性阻害とは、ペルオキシナイトライトの皮膚に対する、タンパク質のニトロ化以外の傷害活性を阻害することを意味し、ペルオキシナイトライトによるタンパク質以外の生体内分子への酸化やニトロ化反応の阻害を含む。本発明では特に、ペルオキシナイトライトによるタンパク質のニトロ化を促進することで、ペルオキシナイトライトがタンパク質以外の生体内因子と反応することを防ぎ、結果として活性を阻害する。
【0014】
本発明におけるペルオキシナイトライト活性阻害方法とは、ペルオキシナイトライトのタンパク質に対するニトロ化反応性を高める方法を意味し、ペルオキシナイトライト活性阻害剤とは、ペルオキシナイトライトのタンパク質に対するニトロ化反応性を高める物質を意味する。
【0015】
ペルオキシナイトライト活性阻害剤スクリーニング時の、ペルオキシナイトライト処理とは、ペルオキシナイトライトを表皮細胞などのタンパク質に作用させることであり、その条件は特に限定されない。例えば、PBS等の緩衝液中にタンパク質を溶解し、ペルオキシナイトライトを添加しても良いし、表皮細胞を培養している培地中に添加しても良い。
【0016】
被験素材は、特に制限はない。動物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被検物質として用いることが出来、液状の他、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。被験素材に応じてニトロ化タンパク質の量の分析方法を適宜選択すればよい。
【0017】
本発明において、スクリーニングに使用するタンパク質は、タンパク質の発現量を指す場合を除き、タンパク質を構成する単体のアミノ酸やペプチドも含む概念で用いる。スクリーニングに使用するタンパク質の種類は特に限定されない。培養表皮細胞の破砕物や、皮膚を構成するタンパク質であるケラチン、コラーゲン、エラスチンなどを用いても良いし、ニトロ化反応が起こるタンパク質であれば、皮膚を構成しないタンパク質であるBSA(ウシ血清アルブミン)などの市販のタンパク質を用いても良い。生体反応の影響を加味したい場合は、タンパク質として培養表皮細胞を用いることが好ましい。
【0018】
ニトロ化タンパク質量は直接的に測定してもよいし、例えばニトロ化タンパク質を酵素処理等にて分解し、得られた単離ニトロ基の量や単離ニトロ化アミノ酸残基の量を測定したものをニトロ化タンパク質量とするなど間接的に測定することもできる。ニトロ化タンパク質量測定においては、ニトロチロシンや3,5-ジニトロチロシン、ニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン、2,4-ジニトロフェニルアラニン等、ニトロ化タンパク質を構成するアミノ酸残基となりうる化合物、およびこれらを含むタンパク質を、ニトロ化タンパク質量の指標とすることができる。
【0019】
ニトロ化タンパク質の量の測定方法は、公知の方法で行うことができる。例えば、吸光度法、免疫染色法、ウエスタンブロッティング、放射免疫測定 (Radioimmunoassay)、ELISA、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法、NMR法、自家蛍光等を用いて測定することができる。
【0020】
本発明におけるスクリーニング方法では、被験素材存在下で、ペルオキシナイトライトをタンパク質に作用させて生成するニトロ化タンパク質量が多いほど、ペルオキシナイトライト活性阻害力、あるいは表皮細胞の分化・増殖促進力、角層のバリア機能向上力、角層水分保持能増進力が高いと判断する。例えば、被験素材の有無でスクリーニングを行い、被験素材添加時にニトロ化タンパク質量が増加していれば、ペルオキシナイトライト活性阻害剤、表皮細胞の分化・増殖促進剤、角層のバリア機能向上剤、角層水分保持能増進剤として利用可能であると評価できる。
【0021】
角層水分保持能とは角層が水分を保持する能力を指す。角層水分量は化粧品製剤の塗布や環境条件などに加え、角層水分保持能に依存するため、本願の角層水分保持能増進方法や角層水分保持能増進剤スクリーニング方法により見出された素材は角層水分量の増加に寄与する。
【0022】
表皮のpHを6.5以下に維持するとは、一定時間以上、pHを6.5以下に維持されればよい。長時間維持されれば効果がより期待できる。例えば、1日合計で1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、更に好ましくは12時間以上の維持を指す。連続で維持することが望ましいが、適宜間隔をあけてpH6.5以下に維持しても差し支えない。表皮細胞の基底層から角層にかけての全層で維持することが望ましいが、有棘層より上層又は、顆粒層より上層でも問題ない。維持の方法としては、皮膚中の酸性物質の生成を、化粧品等により促進するなどの方法を用いることが可能である。
【0023】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0024】
<実施例1:ペルオキシナイトライトの表皮細胞に対する作用の検証>
新生児由来正常ヒト表皮ケラチノサイト(KURABO)5.0×104 Cells/mLを抗菌剤含有Humedia KG2(KURABO)に分散し、24 well plateに500μLを播種した。37℃、5%CO2下で3日間インキュベートした。0.1M水酸化ナトリウムで2mM(終濃度100μM)、1mM(終濃度50μM:peroxynitrite+)、0.5mM(終濃度25μM)に薄めたペルオキシナイトライトを25μL添加した。コントロール(peroxynitrite-)としては0.1M水酸化ナトリウムを25μL添加した。37℃、5%CO2下で24 hrインキュベートした。
【0025】
培地を取り除き、Nitro tyrosine ELISA Kit付属のExtraction Bufferを50μL加えた。冷蔵庫で30分放置し、上清を回収し抽出タンパク質とした。常法に従い、BCA法にて抽出タンパク質の総タンパク質量(g/mL)を求めた。さらに抽出タンパク質をNitrotyrosine ELISA Kitに供し、ニトロチロシン量(nmol/mL)を算出した。各抽出タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量(nmol/g)を求めた。条件ごとに、タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量を平均し、条件ごとのタンパク質量あたりのニトロチロシン量を求めた。
【0026】
Total RNA Purification Kit(JenaBioscience)を使用し、各wellの細胞からTotal RNAを抽出した。PrimeScriptTM RT Reagent Kit(TaKaRa) を用い、逆転写を行い、cDNAを合成した。リアルタイムPCRを行い、比較Ct法により、p21、ケラチン5(KRT5)、ケラチン14(KRT14)、ケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、インボルクリン(INV)、ロリクリン(LOR)の遺伝子発現について、peroxynitrite-を1とした場合の、peroxynitrite+の遺伝子発現量を、「ペルオキシナイトライトによる発現変化量1」として求めた。なお、ハウスキーピング遺伝子としては、GAPDHを用いた。
【0027】
本方法において、ペルオキシナイトライトを添加しても、ニトロ化タンパク質は増加しなかった(図1)。一方で、遺伝子発現には変化が見られ、ペルオキシナイトライトを添加することで、p21の発現増加、ケラチン1、ケラチン10、ロリクリンの発現低下が見られた(図2)。これらの結果より、ペルオキシナイトライトはニトロ化タンパク質を生成しない条件で、タンパク質以外の生体内物質に作用して、細胞増殖や細胞分化を抑制していることが分かった。
【0028】
<実施例2:pHによるニトロ化タンパク質生成への影響検証>
新生児由来正常ヒト表皮ケラチノサイト5.0×104 Cells/mLを抗菌剤含有Humedia KG2に分散し、24 well plateに500μLを播種した。37℃、5%CO2下で3日間インキュベートした。pH4.5、5.5、6.5、7.5に調製したマッキルベイン緩衝液100μLに置換した。10mM(終濃度1mM)に薄めたペルオキシナイトライトを10μL添加した。37℃、5%CO2下で10minインキュベートした。
【0029】
Nitro tyrosine ELISA Kit付属のExtraction Bufferを50μL加えた。冷蔵庫で30分放置し、上清を回収し抽出タンパク質とした。常法に従い、BCA法にて抽出タンパク質の総タンパク質量(g/mL)を求めた。さらに抽出タンパク質をNitrotyrosine ELISA Kitに供し、ニトロチロシン量(nmol/mL)を算出した。各抽出タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量(nmol/g)を求めた。条件ごとに、タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量を平均し、条件ごとのタンパク質量あたりのニトロチロシン量を求めた。
【0030】
pH7.5の条件と比較して、pH4.5~6.5ではニトロチロシンがより多く生成された(図3)この結果より、ペルオキシナイトライトはpHが中性条件よりも酸性条件で、よりニトロ化タンパク質を生成することが明らかとなった。
【0031】
<実施例3:ペルオキシナイトライトの表皮細胞に対する作用の検証2>
新生児由来正常ヒト表皮ケラチノサイト5.0×104 Cells/mLを抗菌剤含有Humedia KG2に分散し、24 well plateに500μLを播種した。37℃、5%CO2下で3日間インキュベートした。0.2M塩酸(終濃度10mM)または蒸留水を25μL加えた。1mM(終濃度50μM)に薄めたペルオキシナイトライトを25μL添加した(peroxynitrite+)。コントロールとしては0.1M水酸化ナトリウムを25μL添加した(peroxynitrite-)。37℃、5%CO2下で24 hrインキュベートした。
【0032】
Nitro tyrosine ELISA Kit付属のExtraction Bufferを50μL加えた。冷蔵庫で30分放置し、上清を回収し抽出タンパク質とした。常法に従い、BCA法にて抽出タンパク質の総タンパク質量(g/mL)を求めた。さらに抽出タンパク質をNitrotyrosine ELISA Kitに供し、ニトロチロシン量(nmol/mL)を算出した。各抽出タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量(nmol/g)を求めた。条件ごとに、タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量を平均し、条件ごとのタンパク質量あたりのニトロチロシン量を求めた。
【0033】
Total RNA Purification Kitを使用し、各wellの細胞からTotal RNAを抽出した。PrimeScriptTM RT Reagent Kitを用い、逆転写を行い、cDNAを合成した。リアルタイムPCRを行い、比較Ct法により、p21、ケラチン5(KRT5)、ケラチン14(KRT14)、ケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、インボルクリン(INV)、ロリクリン(LOR)の遺伝子発現について、peroxynitrite-を1とした場合の、peroxynitrite+の遺伝子発現量を、「ペルオキシナイトライトによる発現変化量2」として求めた。実施例2で示した「ペルオキシナイトライトによる発現変化量1」を1とした場合の、本実施例における「ペルオキシナイトライトによる発現変化量2」の発現増加率を求め、図6に示した。なお、ハウスキーピング遺伝子としては、GAPDHを用いた。
【0034】
培養表皮細胞に0.2M塩酸を加えた後にペルオキシナイトライトを添加することで、コントロールに比較して、ニトロ化タンパク質が約1.36倍生成した(図4)。さらに、遺伝子発現の変化もあり、ニトロ化タンパク質が生成しなかった条件と比較して、p21、ケラチン5、ケラチン14が発現低下、インボルクリン、ロリクリンが発現増加した(図5)。これらの結果より、ニトロ化タンパク質が生成しやすい条件では、ペルオキシナイトライトによる細胞分化・増殖の抑制が緩和されることが分かった。これは、ペルオキシナイトライトがタンパク質との反応を起こすことで、その他生体内物質への酸化・ニトロ化反応が減少するためであると考察される。また、ニトロ化タンパク質量を増加させることで、表皮細胞分化・増殖を促進することが可能となり、同時にニトロ化タンパク質量を指標として表皮細胞分化・増殖促進剤のスクリーニングが可能になると判断できた。
【0035】
<実施例4:角層ニトロ化タンパク質量と角層水分保持能の関係>
日本在住の20~40代の健康な男女16名を被験者とした。各被験者は、測定前に洗顔料を用いた洗顔、および22℃、湿度50%の室内で20分間安静にすることで、頬の水分状態を一定にした。各被験者の頬の角層水分量をSKICON(ヤヨイ)で5回測定した。テープを用いて被験部位から角層を採取した。この際、テープを頬部にあて、テープの上から5回指で優しくこすり、テープをはがした。テープを用いた角層の採取は、同一部位を3度繰り返した。角層が付着したテープは1.5mLチューブに入れた。6N塩酸を1mL加え、37℃で48時間 インキュベートした。水酸化ナトリウムを混合することで中和し、角層抽出物とした。
【0036】
常法に従い、BCA法にて角層抽出物中の総タンパク質量(g/mL)を求めた。さらに角層抽出物をNitrotyrosine ELISA Kit(abcam )に供し、ニトロチロシン量(nmol/mL)を算出した。同被験者から採取した角層が付着した、3枚のテープそれぞれのニトロチロシン量を総タンパク質量で割り、各テープのタンパク質一定量あたりのニトロチロシン量(nmol/g)を求めた。被験者ごとに、3枚のテープのタンパク質量あたりのニトロチロシン量を平均し、被験者ごとのタンパク質量あたりのニトロチロシン量を求めた。
【0037】
測定した5点の角層水分量の平均と、求めたタンパク質量あたりのニトロチロシン量の関係について、ピアソンの相関関係の検定を行ったところ、これらに正の相関関係にあることが明らかとなった(図6)。角層水分量測定にあたっては、皮膚状態を一定にしてから測定しているため、角層水分保持能を評価できているとみなすことができる。この結果より、角層のニトロ化タンパク質量が多いほど、角層水分保持能が増加することが示された。この結果を実施例1~3と総合すると、ニトロ化タンパク質量を増加させることで、角層水分保持能を向上させることが可能となり、同時にニトロ化タンパク質量を指標として角層水分保持能向上剤のスクリーニングが可能になると判断できた。
【0038】
<実施例5:ペルオキシナイトライトのバリア機能に対する作用の検証>
三次元皮膚モデルLabCyte EPI―MODEL 6D(J-TEC)を37℃、5%CO2下で7日間インキュベートした。7日間の培養期間中、次の処理を3回実施した。0.2M塩酸(HCl+)または蒸留水を25μL加えた培地に交換した。1mM(終濃度50μM)に薄めたペルオキシナイトライト/0.1M水酸化ナトリウムを25μL添加した(peroxynitrite+)。コントロールとしては0.1M水酸化ナトリウムを25μL添加した(control)。37℃、5%CO2下で1時間インキュベートし、通常の培地に置換した。
【0039】
7日間のインキュベート終了後、0.1%Fluorescein sodium salt(FLUKA)水溶液を200μL添加し、2時間常温でインキュベートした。メスで組織を分離し、ティシュー・テック O.C.T.コンパウンド(サクラファインテックジャパン) 中に包埋し凍結した。クリオスタット (Leica Microsystems) を使用して5μm厚の切片を作成し、蛍光顕微鏡にて撮影した。
【0040】
ペルオキシナイトライトを添加すると蛍光物質の浸透が促進した一方、塩酸を添加して弱酸性条件にした培地にペルオキシナイトライトを添加すると浸透が抑制された(図7)。この結果より、ペルオキシナイトライトは角層のバリア機能を低下させ、角層への外因物質の浸透を促進させるが、弱酸性条件にすることで、ペルオキシナイトライトのタンパク質との反応性が向上し、その他生体内因子との反応を阻害することで、バリア機能の低下を抑制できることが明らかとなった。
【0041】
<実施例6:ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法1>
新生児由来正常ヒト表皮ケラチノサイト5.0×104 Cells/mLを抗菌剤含有Humedia KG2に分散し、24 well plateに500μLを播種した。37℃、5%CO2下で3日間インキュベートした。被験素材を添加するウェルと、被験素材無添加のウェルを用意し、被験素材を添加するウェルに被験素材を10μL添加した。1mMに薄めたペルオキシナイトライトを25μL添加した。培地を取り除き、Nitro tyrosine ELISA Kit付属のExtraction Bufferを50μL加えた。冷蔵庫で30分放置し、上清を回収し抽出タンパク質とした。常法に従い、BCA法にて抽出タンパク質の総タンパク質量(g/mL)を求めた。さらに抽出タンパク質をNitrotyrosine ELISA Kitに供し、ニトロチロシン量(nmol/mL)を算出した。各抽出タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量(nmol/g)を求めた。条件ごとに、タンパク質一定量あたりのニトロチロシン量が多いものを、ペルオキシナイトライト活性阻害剤として選択した。
【0042】
<実施例7:ペルオキシナイトライト活性阻害剤のスクリーニング方法2>
新生児由来正常ヒト表皮ケラチノサイト5.0×104 Cells/mLを抗菌剤含有Humedia KG2に分散し、24 well plateに500μLを播種した。37℃、5%CO2下で3日間インキュベートした。被験素材を添加するウェルと、被験素材無添加のウェルを用意し、被験素材を添加するウェルに被験素材を10μL添加した。1mMに薄めたペルオキシナイトライトを25μL添加した。Total RNA Purification Kitを使用し、各wellの細胞からTotal RNAを抽出した。PrimeScriptTM RT Reagent Kitを用い、逆転写を行い、cDNAを合成した。リアルタイムPCRを行い、比較Ct法により、被験素材無添加に比較して、p21発現量を低下させた被験素材をペルオキシナイトライト活性阻害剤として選択した。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7