(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041797
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】金属基板の腐食保護
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20240319BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240319BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240319BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240319BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C23F11/00 F
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/08
C23F11/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023218843
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2020555184の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】1805856.0
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】521354031
【氏名又は名称】ユニヴァーサル マター ジービーアール リミテッド
【住所又は居所原語表記】The Wilton Centre Redcar,Cleveland TS10 4RF(GB)
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ウィーバー,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】チコシャ,リン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ガヴァン
(72)【発明者】
【氏名】シャープ,マシュー デイヴィッド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属基板の腐食保護のための組成物を提供する。
【解決手段】キャリア媒体、第1の腐食防止剤、及びバリア機構を有する第2の腐食防止剤を含む組成物。前記第1の腐食防止剤は、イオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩のうちの少なくとも1つ、及び/又は有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩及び金属酸化物及び/又は金属水酸化物の混合物を含み、且つ、前記第2の腐食防止剤は、1つ又は複数の2D材料プレートレットを含み、ここで、前記2D材料プレートレットは、1つ又は複数の2D材料のナノプレート及び/又は1つ又は複数の層状2D材料のナノプレート及び/又はグラファイトフレークを含み、ここで、前記グラファイトフレークは1ナノスケールの寸法と35以下の原子層を持つ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア媒体、不動態化メカニズムを有する第1の腐食防止剤、及びバリアメカニズムを有する第2の腐食防止剤を含む組成物であって、ここで、前記第1の腐食防止剤は、イオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩のうちの少なくとも1つ、及び/又は有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩及び金属酸化物及び/又は金属水酸化物との混合物を含み、且つ、前記第2の腐食防止剤は、1つ又は複数の2D材料プレートレットを含み、ここで、前記2D材料プレートレットは、1つ又は複数の2D材料のナノプレート及び/又は1つ又は複数の層状2D材料のナノプレート及び/又はグラファイトフレークを含み、ここで、前記グラファイトフレークは1ナノスケールの寸法と35以下の原子層を持つ、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板の腐食保護に関する。特に、このアプリケーションは、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金などであるがこれらに限定されない金属基板の腐食保護に関連している。
【背景技術】
【0002】
金属の腐食は、世界の国内総生産(GDP)の約3%の費用がかかると推定されており、世界経済の重要な側面を構成しています。新しく改良された防錆技術、特に防錆コーティングの開発に大きな関心が寄せられている。防錆コーティングは、一般的に、それらが機能するメカニズムに従って分類される。2つの一般的なメカニズムは、バリア保護と、基板の抑制又は不動態化(passivation)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バリアメカニズムを採用したコーティング、いわゆるバリアコーティングは、プライマー、中間又はトップコートコーティングとして使用でき、水又は地面に浸した構造物によく使用される。バリアコーティングは、雲母状酸化鉄、ガラスフレーク、層状アルミニウムなどの不活性顔料の使用に代表される。れらのシステムは通常、高顔料体積濃度(peigment volume concentration)(PVC)システムとして使用され、水やその他の攻撃的な化学種に対する透過性が大幅に低下した高密度コーティングを提供する。保護のレベルは、コーティングの厚さ、コートの数に大きく依存し、コーティングの厚さがいくつかの薄いコートから構成されている場合に最高の性能を提供することが報告されている。
【0004】
バリアコーティングに使用される最も一般的な顔料は、雲母状酸化鉄である。最適な性能は、0.5%から1.5%の範囲の減少したPVCで得られる。ラメラアルミニウムが顔料として使用される場合、それは典型的には、リーフィンググレードである。アルミニウムベースの塗料又はコーティングは、カソード剥離(cathodic disbonding)に影響を与える最初のコーティングとして塗布する必要があります。アルミニウムはまた、高pH及び低pHで腐食する可能性があり、したがって、金属基板/コーティング界面で形成されるいずれの電気化学セルのカソードで形成されるヒドロキシル基との反応によって腐食する可能性がある。ガラスフレークの使用は、フレークのサイズが大きい(100μmから1000μm)ため、典型的には、非常に厚いコーティングに制限される。
【0005】
抑制又は不動態化メカニズムを採用したコーティング、いわゆる抑制コーティングは、コーティングの構成要素/顔料と金属基板との反応によって機能するため、主にプライマーとして適用される。これらのコーティングは、基板が大気腐食にさらされる場所で優先的に使用され、水や土壌に浸される場所では使用されない。抑制メカニズムは、金属の不動態化と、不動態化反応の結果としての金属錯体の層の形成に依存している。金属錯体は、Cl-又はH+イオンや溶存酸素などの攻撃的な化学種の基板の金属への輸送を妨げる。
【0006】
抑制性コーティングの有効成分/顔料は、典型的には、わずかに水溶性であり、溶液上でカチオンを生成する。リン酸塩が一般的に使用されるが、クロム酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩も使用される。有効成分の選択は、環境及び健康と安全に対する懸念の高まりにより、ますます規制圧力にさらされている。
【0007】
現在の規制では、抑制性コーティングに使用できる材料が制限されている。クロム(VI)化合物は、REACH(2008 Annex XIV)に基づく認可の対象となっている。防錆顔料に関連するその他の立法措置には、2003年から鉛顔料が段階的に廃止されたELV(End of Life Vehicle)指令、2007年からプライマーと前処理でクロム(VI)が含まれる。その他の規制にはWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment Directive 2006)及びRoHS(有害物質制限指令2002)指令は、白物製品でのCr(VI)の使用を制限した。米国では、OSHA(労働安全衛生局規則2006)により、従業員のCr(VI)への許容暴露が52μg/m3から5μg/m3に減少した。リン酸亜鉛は水生生物に対して非常に毒性があり、水生環境に長期的な悪影響を与える可能性があることから、懸念が高まっている。材料を誤って摂取すると、個人の健康に害を及ぼす可能性がある。可溶性亜鉛塩は、痛みや嘔吐を伴う消化管の炎症や腐食を引き起こす。したがって、防食コーティングからそのような材料を削減又は排除することは有益である。
【0008】
抑制性顔料のメカニズムは、コーティングに拡散した水による顔料の部分的な溶解に基づいている。金属基板の表面で、溶解したイオンが金属と反応し、表面を不動態化する反応生成物を形成する。抑制性顔料が反応のためにイオンを放出するのに十分に高い溶解性であることが重要である。ただし、溶解度が高すぎると、金属基板/コーティング界面で膨れ(blistering)が発生する可能性がある。理想的な抑制コーティングは、水と有害なイオンに対するバリアを形成すると同時に、十分な量の抑制イオンを放出する必要がある。これらの2つの要件は原則として拮抗的であり、抑制コーティングには、コーティングのバリア特性と(透過性が低いほどバリア特性が高い)、顔料が溶媒和する能力と(透過性が高いほど、イオンの溶媒和と移動が大きくなる)、コーティング基板界面に移動するために生成されるイオンとのバランスが必要である。抑制コーティングに使用される顔料は、金属基板/コーティング界面で形成される電気化学セルのアノード反応及びカソード反応への影響に従って分類できる。
【0009】
カソード抑制剤(典型的には、マグネシウムとマンガンの無機塩)は、ヒドロキシルイオンと反応して不溶性の堆積物を形成することによりカソードでの腐食を抑制し、分極に対するカソード抵抗を増加させる。アノード抑制剤も同様に、アノードでのアノード分極を増加させることによって腐食速度を低下させる。
【0010】
リン酸塩、及び特にリン酸亜鉛は、一部の金属、例えば鋼など、に広く使用されている。リン酸亜鉛は、塩基性塩の沈殿と陰カソード域の分極による鋼の不動態化に依存している。不溶性リン酸鉄の形成のメカニズムは、以下を介して発生する。
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、キャリア媒体、第1の腐食防止剤(ここで、第1の腐食防止剤は、イオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩、及び/又は有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩及び金属酸化物及び/又は金属水酸化物の混合物のうちの少なくとも1つを含む)、及び第2の腐食防止剤(ここで、第2の腐食防止剤は、1つ又は複数の2D材料プレートレットを含み、ここで、2D材料プレートレットは、1つ又は複数の2D材料のナノプレート及び/又は1つ又は複数の層状2D材料のナノプレート及び/又はグラファイトフレークを含み、ここで、グラファイトフレークは1ナノスケールの寸法と35以下の原子層を持つ)を含む組成物が提供される。
【0012】
2D材料(単層材料と呼ばれることもある)は、単層の原子からなる結晶性材料である。層状2D材料は、弱く積み重ねられた、又は結合されて3次元構造を形成する2D材料の層で構成される。2D材料と層状2D材料のナノプレートの厚さはナノスケール以下であり、他の2つの寸法は一般にナノスケールよりも大きいスケールである。
【0013】
本発明の組成物に使用される2D材料は、グラフェン(C)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS2)、二セレン化タングステン(WSe2)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(Graphyne)(C)、ボロフェン(B)、フォスフォレン(P)、又は2つ以上の前述の材料の2D面内ヘテロ構造であり得る。
【0014】
層状2D材料は、グラフェン(C)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン(MoS2)、二セレン化タングステン(WSe2)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、グラフィン(Graphyne)(C)、ボロフェン(B)の層、フォスフォレン(P)、又は前述の材料の2つ以上の2D垂直ヘテロ構造であり得る。
【0015】
好ましい2D材料はグラフェンである。
【0016】
好ましいグラフェンは、グラフェンナノプレート、二層グラフェンナノプレート、三層グラフェンナノプレート、数層(few-layer)グラフェンナノプレート、及び炭素原子の6から10層のグラフェンナノプレートである。グラフェンナノプレートの厚さは通常0.3nm~3nmであり、横方向の寸法は約100nm~100μmの範囲である。
【0017】
少なくとも1つのナノスケール寸法を持つグラファイトフレークは、少なくとも10層の炭素原子で構成されている。好ましいグラファイトフレークは、ナノスケール寸法及び10から35層の炭素原子を有するグラファイトフレーク、ナノスケール寸法及び10から30層の炭素原子を有するグラファイトフレーク、ナノスケール寸法及び25から35層の炭素原子を有するグラファイトフレーク、ナノスケール寸法と炭素原子の20以下の層を有するグラファイトフレーク、ナノスケールの寸法と炭素原子の25以下の層のグラファイトフレーク、ナノスケールの寸法と炭素原子の30以下の層のグラファイトフレーク、ナノスケールの寸法と炭素原子の15から25層のグラファイトフレークである。グラファイトフレークは、約100nmから100μmの範囲の横方向の寸法を有することが好ましい。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、2D材料プレートレットは、グラフェンプレートレットである。グラフェンプレートレットは、グラフェンナノプレートの2つ以上、2層グラフェンナノプレート、数層グラフェンナノプレート、及び/又はナノスケール寸法で25層以下のグラファイトフレークの1つ又は混合物を含む。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による組成物を含む防食コーティングが提供される。そのようなコーティングは、防食コーティングの配合及び/又は製造に使用されることが知られている他の成分をさらに含み得る。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、第2の腐食防止剤は、0.05重量%から1.0重量%、0.05重量%から0.8重量%、0.05重量%から0.6重量%、又は0.1重量%から0.5重量%の範囲で存在する。本発明のいくつかの実施形態では、第2の腐食防止剤は、0.1重量%又は0.5重量%の割合で存在する。
【0021】
第1の腐食防止剤は、イオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、マグネシウムのオキシアミノホスフェート塩のうちの少なくとも1つ、及び/又は有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩と金属酸化物及び/又は金属水酸化物の混合物を含む。
【0022】
マグネシウムのイオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、及びオキシアミノリン酸塩はすべて、一般に非危険物質と見なされている。有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩と金属酸化物及び/又は金属水酸化物との混合物は、一般に、使用される金属に依存する非危険物質であると見なされている。したがって、そのような物質は、以前に使用された腐食防止剤よりもはるかに少ない環境問題を提供するという点で有益である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、第1の腐食抑制剤は、クロム酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、タングステン酸亜鉛、バナジン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、クロム酸マグネシウム、モリブデン酸マグネシウム、タングステン酸マグネシウム、バナジン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、ポリリン酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、クロム酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、バナジン酸カルシウム、リン酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、ポリリン酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、メタホウ酸カルシウム、クロム酸ストロンチウム、モリブデン酸ストロンチウム、タングステン酸ストロンチウム、バナジン酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、亜リン酸ストロンチウム、ポリリン酸ストロンチウム、ホウ酸塩(borate)、メタホウ酸ストロンチウム、クロム酸バリウム、モリブデン酸バリウム、タングステン酸バリウム、バナジン酸バリウム、リン酸バリウム、亜リン酸バリウム、ポリリン酸バリウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、クロム酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、タングステン酸アルミニウム、バナジン酸アルミニウム、、亜リン酸アルミニウム、、ホウ酸アルミニウム、及び/又はメタホウ酸アルミニウム、のうちの1つ以上を含む。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、キャリア媒体はエポキシ樹脂である。結果として、本発明のいくつかの実施形態による組成物からなるコーティングは、第1及び第2の腐食防止剤が封入されたエポキシ樹脂からなるであろう。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、キャリア媒体は、1つ以上の好適な架橋性樹脂、非架橋性樹脂、熱硬化性アクリル、アミノプラスト、ウレタン、カルバメート、ポリエステル、アルキドエポキシ、シリコーン、ポリ尿素、ケイ酸塩、ポリジメチルシロキサン、ビニルエステル、不飽和ポリエステル及びそれらの混合物及び組み合わせから構成される。
【0026】
本発明のキャリア媒体としての使用に好適なエポキシ樹脂及び他の材料は、水又は湿度への比較的短い期間の曝露後、水、溶存酸素、及びおそらく塩化ナトリウムからのCl-又は水からのH+イオンなどの溶存イオンで飽和する。酸素と溶存イオンは、それらがコーティングと金属基板との間の界面に到達すると、電気化学セルの作成につながる可能性があり、金属基板の湿式腐食が発生する可能性がある。このような腐食のメカニズムはよく知られており、ここで説明する必要はない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による組成物を含むコーティングの第1の方法は、それが適用される金属表面又は基板に保護を提供することにより、金属基板への水及びCl-又はH+などの腐食性イオンのアクセスを低減するバリアを提供することによる。保護のレベルは、コーティングの完全性、その疎水性、水に対する親和性、及びコーティングの厚さに依存する。
【0028】
グラフェン膜は、膜が堆積された金属基板を環境から効果的に切り離すことができることが見出された。グラフェンの単一の原子の及び欠陥のない膜は、ガス、水、及びその水中の溶存ガス及びイオンに対して不浸透性であることが示されている。ただし、欠陥密度が1um-2の場合、グラフェンを介した水輸送は1m/sを超える(>1m/s)速度で発生する可能性があると推定されている。このような質量輸送速度は、観察された腐食効果を説明することができる。
【0029】
グラフェンには多くの形態があり、CVD(Chemical Vapor Deposition)による膜の成長はよく理解されており、1~3原子層のグラフェン膜を生成することができる。このような膜は、グラフェンに関連する実験で頻繁に使用される。そのような技術は、膜の比較的小さな領域のみを作成すること、又は基板をコーティングすることを可能にするため、商業的適用性が制限されている。商用アプリケーションでは、グラフェンがグラフェンナノプレートレットの形で使用されるのがより典型的である。グラフェンナノプレートレットは、グラファイトの剥離又は合成ソルボサーマルプロセスのいずれかによって生成できる。このようなグラフェンナノプレートレットは、原子層の数、表面積、機能性(functionality)、及びsp2含有量が大幅に異なる場合がある。このような変動は、グラフェンの導電率などのグラフェンの物理的特性に影響を与える。同様に、ナノスケール寸法で炭素原子の層が35以下のグラファイトフレーク、ナノスケール寸法で炭素原子の25~30層のグラファイトフレーク、ナノスケール寸法で炭素原子の層が20~35層のグラファイトフレーク、又はナノスケール寸法のグラファイトフレークと炭素原子の25~35層は、グラファイトの剥離又は合成ソルボサーマルプロセスのいずれかによって生成できる。
【0030】
本発明による組成物における第2の腐食抑制剤としての2D材料プレートレットの包含は、2D材料プレートレットの取り込みの濃度、及び適用される乾燥膜厚に応じて、本発明による組成物を含むコーティングにおいて、2D材料プレートレットの複数の層をもたらすであろう。各プレートレットは潜在的に数原子層の厚さである。コーティング内の2D材料プレートレットの複数の層の存在は、水、それが運ぶ溶存酸素、及びCl-やH+などの攻撃的なイオンの浸透のための複雑で曲がりくねった(迷路のような)経路を提供する。この迷路のような経路は、コーティングを横切る水及び水に溶解した物質の拡散速度を大幅に低下させる。これは、2種類の市販のグラフェン/グラファイトプレートレット(6~14層の炭素原子を持つA-GNP35と25~35層の炭素原子を持つA-GNP10は、どちらもApplied Graphene Materials Plcから入手できる)とコントロールを含むコーティングの水蒸気透過率のテスト結果によって証明されている。結果を表1(Table 1)に示す。
【0031】
グラフェン/グラファイトプレートレットは、典型的には、0.3nmから12nmの厚さで、横方向の寸法は約100nmから100μmの範囲である。結果として、そしてグラフェン/グラファイトプレートレットの高い側面(lateral aspect)及び表面積のために、本発明による組成物からなるコーティングは、雲母状酸化鉄/又はアルミニウムフレークなどの他のバリアメカニズム物質/顔料を含む同等のコーティングよりも著しく薄くなり得る。同じことが他の2D材料のプレートレットにも当てはまる。さらに、グラフェンプレートレットを使用すると、良好な接着性及び機械的特性を備えたコーティングが得られることが見出された。本発明のいくつかの実施形態では、2D材料プレートレットは、マスターサイザー3000によって測定される場合、45μm未満、30μm未満、又は15μm未満のD50粒子サイズを有するグラフェンプレートレットである。
【0032】
本発明による組成物からなるコーティングの薄さは、コーティングの重量を減らすという利点を有し得る。
【0033】
本発明による組成物を含むコーティングにおいて、2D材料のプレートレットは、金属基板の保護においてバリア効果のみを有する。理論に拘束されることなく、導電性2D材料プレートレットの場合、2D材料プレートレットの導電率は、エポキシ樹脂などのキャリア媒体に一度カプセル化されると、コーティング及び/又は金属基板内の電子流に実質的に影響を与えるのに十分ではないと考えられる。2D材料プレートレットの表面が、様々なコーティング添加剤(本発明による組成物の配合に使用される湿潤剤、消泡剤、流動助剤など)の吸収によって修飾されることも可能である。プレートレット間のこの電気的接続の欠如は、金属基板の腐食が開始されると、2D材料のプレートレットがその腐食を遅らせたり防止したりすることに影響を与えないように見えるという結果をもたらす。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、2D材料プレートレットは、20℃で2.0×10-5S/m周辺もしくは未満の導電率を有する。いくつかの実施形態では、2D材料プレートレットは、35層以下の炭素原子を有するグラファイトプレートレット又は還元グラファイト又は酸化グラフェンプレートレットを含む。いくつかの実施形態では、2D材料プレートレットは、25から35層の炭素原子を有するグラファイトプレートレット又は還元グラファイト又は酸化グラフェンプレートレットを含む。これらの実施形態では、2D材料プレートレットは比較的低い導電率を有し、これは、例えば、キャリア媒体の構造への損傷の結果として、2D材料プレートレットのキャリア媒体へのカプセル化が完了しない場合に、2D材料プレートレットがバリアメカニズムで作用し続けるという利点を有する。
【0035】
本発明による組成物において、イオン交換顔料、シリカ、カルシウム交換シリカ、マグネシウムのオキシアミノホスフェート塩のうちの少なくとも1つ、及び/又は有機アミン、リン酸及び/又は無機リン酸塩及び金属酸化物及び/又は金属水酸化物の混合物を含む、少なくとも1つの第1の腐食防止剤を含むことは、腐食を防止するか、又は開始された腐食を封じ込めるのに役立つ。
【0036】
第1の腐食防止剤のこれらの化合物は、大きな表面積を有する無機酸化物であり、表面ヒドロキシル基とのイオン交換によってイオン性腐食防止剤が充填されている。酸化物は、カチオン又はアニオン交換のいずれかを提供する酸性又は塩基性の特性のために選択される(シリカはカチオン支持体として使用され、アルミナはアニン支持体として使用される)。第1の腐食防止剤の腐食防止挙動は、イオン交換顔料の溶液によって引き起こされるイオン放出の速度によって制御される。
【0037】
カルシウム交換シリカイオン交換顔料は、クロム及び亜鉛ベースのシステムに代わる環境に優しい代替品を提供する。カルシウム交換シリカは、水と攻撃的なイオンがコーティングに浸透するときに、制御された拡散によって機能する。イオン交換顔料によって放出されたイオンは、不動態化に関連して既知の方法で金属基板と反応する。アノード反応とカソード反応の両方がある。コーティングのpHによっては、イオン交換顔料のシリカがケイ酸塩イオンとして溶解する場合がある。金属基板が、低又は中又は高の非合金炭素鋼又は低又は高合金鋼などの鉄合金である場合、顔料のこの可溶性画分であるケイ酸塩イオンは、コーティング金属基板の界面で第二鉄イオンと反応する可能性がある。これにより、金属の表面に保護層が形成される。この反応と並行して、シリカ表面のカルシウムカチオン又は他の金属カチオンが放出され、可溶性シリカとの反応により、金属表面のアルカリ性領域にケイ酸カルシウム膜を形成する。これは、ケイ酸鉄とともに、金属表面に混合酸化物層を形成することによって保護層を強化するのに役立つ。同時に、カルシウム又は他の金属カチオンが放出され、シリカはケイ酸カルシウム膜に入る攻撃的なカチオンを捕捉する。膜と化合物の形成のこれらのプロセスは、2倍の(two-fold)不動態化メカニズム、攻撃的なイオンの吸着と金属基板上の保護層の形成、を介して腐食反応の抑制をもたらす。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、第1の腐食防止剤は、マグネシウムの少なくとも1つのオキシアミノホスフェート塩を含む。マグネシウムのオキシアミノリン酸塩は、代替の環境に優しい防錆材料を構成する。マグネシウムのオキシアミノリン酸塩を湿気にさらした直後に、その塩のアミンは既知の不動態化メカニズムによって金属表面を不動態化る。その不動態化の結果として、主に酸化マグネシウムからなる保護層が金属基板の表面に堆積され、その層は約25~50nmの厚さである。金属基板が鋼の場合、保護層はアノード抑制を提供することによって金属表面を不動態化(passive)に保つ。金属基板がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合、酸化マグネシウム層は、アルミニウム又はアルミニウム合金の腐食電位よりも高い電位を維持するため、カソード抑制を提供する。
【0039】
電気化学的インピーダンス分光法(EIS)の研究によると、グラフェンは自然の状態では高レベルの導電性を持っているが、エポキシ樹脂(エポキシ樹脂は一般に優れた電気絶縁体である)にプレートレットとして組み込まれると、この導電率は大幅に低下することを示す。これは、エポキシ樹脂に顔料やフィラーなどの他のアモルファス又は結晶性添加剤が含まれている場合に特に当てはまり、均質であるが非常に無秩序なマトリックスを作成する。このようなマトリックスでは、グラフェンプレートレットはいずれの有意な導電性を示さず、その結果、いずれのカソード防食を与えたり、又は金属基板の表面の腐食電位にいずれの利益をもたらしたりすることはない。
【0040】
本発明による組成物の利点は、第1及び第2の腐食防止剤が互いに相乗的に作用することである。特に、同じキャリア媒体内の第1及び第2の腐食防止剤の組み合わせは、本発明による組成物から構成されるコーティングの耐用年数を増加させるという利点を有する。その強化は有意である可能性があり、既知の防食コーティングの耐用年数の2倍、3倍、又は4倍を超える可能性がある。この文脈において、耐用年数は、コーティングの適用と、最初に適用されたコーティングの劣化のためにコーティングを再適用する必要性との間の期間であると理解されるべきである。国際標準化団体の規格4628-3:2005の観点から、耐用年数は、コーティングを塗布してからグレードRi3の錆の評価が行われるまでの期間である。
【0041】
理論に拘束されることを望まないが、コーティングの耐用年数の延長は、以下に述べる理由のために達成されることが理解される。理由は、第2の腐食防止剤をグラフェンと呼んでいるが、同じ理由がすべての2D材料のプレートレットに当てはまる。理由は次のとおり。
- グラフェンプレートレットの形の第1及び第2の腐食防止剤は、キャリア媒体中で実質的に均一に混合され、その結果、第1の腐食防止剤の一部はコーティングと金属基板の間の界面に近接し、且つ、第1の腐食防止剤と金属基板の間にグラフェンプレートレットがないものもある。第1の腐食防止剤のその部分は、「金属近位の第1の腐食防止剤」と呼ばれる。;
- 金属近位の第1の腐食防止剤は、コーティングの塗布中に経験した湿度から解離する可能性があり、その結果、放出されたイオンが金属基板の表面を不動態化する。;
- キャリア媒体を介して分布するグラフェンプレートレットは、金属基板から離れたコーティングの面と金属基板に隣接するコーティングの面との間に迷路のような経路を作成する。;
-金属近位の第1の腐食防止剤ではない第1の腐食防止剤の部分は、迷路のような経路を定義するグラフェンプレートレットのマトリックス全体に分布している。;
- グラフェンプレートレットによって作成された迷路のような経路は、金属基板から離れたコーティングの面から金属基板に隣接するコーティングの面への水、溶存酸素、及び/又は溶存イオンの拡散を抑制する。;
- 水、溶存酸素、及び溶存イオンは、金属基板から離れたコーティングの面から迷路のような経路に沿って拡散するが、これらの経路で第1の腐食防止剤に遭遇し、その第1の腐食防止剤を溶解及び解離させる。;
- 第1の腐食防止剤からのイオンは、その後、水中のイオンと反応するか、又は金属基板に向かう迷路のような経路間で拡散する。;
- 迷路のような経路に沿った水、溶存酸素、及び/又は溶存イオンのゆっくりとした拡散は、コーティングの第1の腐食防止剤が完全に溶解するのにかなりの時間がかかり、その結果、コーティングの第1の腐食防止剤が使い果たされ、第1の腐食防止剤の利点が終了する前に、かなりの期間が生じるという影響がある。その期間は、既知の防食コーティングよりも長く、そのため、コーティングの耐用年数が長くなる。
【0042】
腐食性コーティングの適用は人件費と材料費の両方の点で高価であり、大きな生態学的利益があるため、本発明による組成物を含むコーティングの耐用年数の延長は大きな経済的利益をもたらす。使用されるコーティングが少なく、上記のように、コーティングの含有量が既知のコーティングよりも生態学的に優れている可能性があるためである。
【実施例0043】
実施例
本発明による組成物は、表2(Table 2)に示される構成要素を用いて製造される。
【0044】
構成要素1~5を高速オーバーヘッドミキサーに入れ、2000rpmで10分間混合する。得られたゲルは、均質でビット(bits)がないかどうかを確認するためにチェックされる。そうでない場合は、ゲルが均質になり、ビットがなくなるまで混合を続ける。
【0045】
構成要素6~8をミキサーに加え、2000rpmで15分間混合する。混合物をチェックして、粉砕(最大粒子サイズ)が25μm未満であるかどうかを確認する。これは、製造の粉砕段階として知られている。
【0046】
構成要素9は、構成要素10に事前に分散されている。その後、次の分散液は、構成要素11と一緒に加えられ、1000rpmで15分間混合される。これは、製造のレットダウン(let down)段階として知られている。この混合工程の後に構成要素9が添加された場合、そのような添加は製造の添加後段階にあるであろう。
【0047】
ポリアミド硬化剤12を10重量%(85%化学量論)で添加し、次いで、組成物を基板に塗布して防食コーティングを形成する準備ができた。
【0048】
本発明による組成物の比較試験を実施するために、そのような組成物を上記のように製造した。同じ方法を使用してさらなる組成物を製造したが、構成要素7及び/又は9包含せず、構成要素10を包含した。
【0049】
構成要素7については、4つの市販の防食顔料のうちの1つを使用して異なる組成物を作製した。それらはリン酸亜鉛(Delaphosから市販されているDelaphos 2M-JPE Holdings Ltdの一部)、Banner Chemicalsから入手可能な負荷範囲0.5~2.4wt%のPigmentan E、2M Holdings Limitedの一部、PPG Industries、Inc.から入手可能な負荷範囲が1.0~10.0wt%のInhibisil(登録商標)75、及びW.R. Grace&Coから入手可能な1.2~2.4wt%の負荷範囲のShieldexAC5であった。PigmentanEには、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩の有効成分が含まれている。Inhibisil75及びShieldexAC5は、有効成分として、シリカ又はカルシウム交換シリカの形のイオン交換顔料を持っている。
【0050】
使用したグラフェン/グラファイトプレートレットは、Applied Graphene PlcからA-GNP10又はA-GNP35グレード(6~14層の炭素原子を持つA-GNP35と25~35層の炭素原子を持つA-GNP10、両方ともApplied Graphene Materials Plcから入手可能)として市販されていた。
【0051】
テスト用のサンプルは、次の方法で準備された。:
【0052】
冷間圧延鋼の基板は、不規則な形状のクロム/ニッケル鋼のショットを使用してSA2-1/2にグリットブラストし、続いてアセトンで脱脂することによって準備された。組成番号1から18のそれぞれは、1.2mmの先端を備えた重力供給ガンを使用して基板にスプレー塗布によって適用され、DFT 60~75μmのコーティング厚さを与えた。基板を7日間硬化させた。
【0053】
各組成物でコーティングされた基板は、周期的な塩水噴霧試験(ASTM G85付属書5)にかけられ、1、2、3、及び4000時間の間隔で評価された。評価の結果は表3、4、5、6のとおりである。
【0054】
各組成物でコーティングされた基材は、コーティングの機械的性能に関連して評価の対象となった。具体的には、耐衝撃性(Elcometer Impact Testを使用)、耐摩耗性(Taber研磨機と100サイクル、1Kg重量、CS-10ディスクを使用)、接着性(PATデバイスを使用)、及び可撓性(コニカルマンドレルを使用)に関連してコーティングを評価した。その評価の結果を表7、8、9、及び10に示す。以下の試験方法が使用されている。:
【0055】
耐摩耗性: Taber摩耗 - ASTM 5144
可撓性: コニカルマンドレル - ISO6860:2006
耐衝撃性: - ISO6272
接着性: - ISO4624
評価は、本発明による組成物が、既知のコーティング組成物よりも優れた耐食性を提供し、既知の組成物よりも環境に良く、既知のコーティング組成物よりも長い耐用年数を有することを明らかにする。
【0056】
組成1から18の配合物において、グラフェンプレートレットは、粉砕段階、レットダウン段階で、又は他のすべての構成要素が組み合わされた後に組成物に組み込むことができる。グラフェンプレートレットの取り込み時間は、組成物から生じるコーティングの防食特性に影響を与えることが見出された。グラフェンプレートレットの取り込みが製造のレットダウン段階で発生したときに、最高の特性が達成された。
【0057】
本発明の組成物中のグラフェン/グラファイトプレートレットがバリア効果のみを有するという理論を試験するために、且つ理論に束縛されることを望まないが、AC電気化学インピーダンス分光法(AC EIS)及び腐食電位(Ecorr)の測定は、上記のように準備されたテスト用のサンプルのいくつかに関連して行われた。AC EIS及びEcorr測定により、人工風化に必要な長時間のテストなしで、サンプルの耐食性に関連するいくつかの特性を定量的に決定できる。
【0058】
Ecorr-電気化学的腐食電位(ECP)は、特定の環境に浸された金属と適切な標準参照電極(SRE)と、又は安定したよく知られた電極電位を持つ電極との間の電圧差である。電気化学的腐食電位は、静止電位、開回路電位、又は自由腐食電位とも呼ばれ、等式ではEcorrで表される。Ecorrの値が高いほど腐食速度が低く、且つ値が低いほど腐食速度が高いことを示す。
【0059】
キャリア体媒体がエポキシ樹脂又は他の好適な有機組成物であるコーティングの場合の有機コーティングのバリア特性は、コーティングの厚さ全体にわたって高いインピーダンスを示すようなものである。伝統的に、コーティングが老化するにつれて、コーティング内の細孔の相互接続ネットワークが水及び塩で飽和し、金属基板を腐食環境にさらし、同時にコーティングの電気抵抗を低下させることが理解される。老化した有機コーティングは、コーティングが電流に対するコンデンサとして振る舞う他の電気的特性も持つ。金属表面で腐食が発生すると、電気二重層がコンデンサとして動作する一方で、分極抵抗が腐食速度に関係する可能性がある。下で行われた測定は、上記のように準備されたさまざまなサンプルのコーティングの性能を説明するために使用された。
【0060】
本発明の組成物のコーティングにおけるグラフェン/グラファイトプレートレットのメカニズム、及び腐食防止を提供する際の活性抑制剤との関係を実証するために、サンプルは、コーティングを通してスクライブがある場合とない場合で評価された。スクライブは、金属表面への塩溶液の直接アクセスを提供し、電気化学反応を通じて、コーティングの損傷による腐食に対するいずれの耐性の性質を示す。この方法でコーティングを評価することで、無傷のフィルムで作用する作用のメカニズムを実証することが可能である。
【0061】
すべての電気化学的測定は、Gamry 1000EポテンションスタットをGamryECM8マルチプレクサーと組み合わせて使用して記録され、実験ごとに最大8つのサンプルの同時テストが可能になった。個々のチャネルは、コーティングされたサンプルの電気化学的テスト用に特別に設計された、露出したペイント表面が14.6cm2のGamryPCT-1ペイントテストセルに接続された。配合(Formulation)及びコントロールごとに1つのパネルを、ナイフを使用して25mmのスクライブでスクライブした。研究の表面積が比較的小さいため、スクライブが全体を通して可能な限り一貫しているように注意が払われた。各配合及びコントロールのパネルは、スクライブされたフォームとスクライブされていないフォームの両方で重複してテストされた。
【0062】
各ペイントテストセル内で、従来の3電極システムが形成され、裸鋼、エポキシ被覆鋼、及びスクライブドエポキシ被覆鋼パネルが作用電極として機能し、グラファイトロッドが対電極として機能し、飽和カロメル電極(SCE)が参照電極として機能した。すべてのテストは、3.5wt%のNaCl電解質を使用して実行された。すべての腐食電位(Ecorr)の測定値は、SCE参照電極に対して記録された。EIS分析は、細孔抵抗を組み込んだ修正Randelセルを参照して実行された。
【0063】
表11~23に示すAC EISデータは、等価回路をEISデータにフィッティングすることによって得られた。
【0064】
細孔抵抗すなわちRporeは、コーティングの細孔ネットワークを流れる電流に対する電気抵抗である。細孔ネットワークが電解質で満たされると、Rporeが変化する。値が高いほど腐食速度が低く、且つ値が低いほど腐食速度が高いことを示す。
【0065】
CDLは、水/基板界面の電気二重層によって生成される静電容量である。測定可能なCDLは、基板に水が存在することを示す。値が高いほど、基板のぬれ面積が大きいことを示す。
【0066】
Ccは、コーティングの誘電特性によって生成される静電容量である。Ccは、コーティングの絶縁耐力とコーティングによる吸水率に関連しており、値が高いほど含水率が高いことを示す。
【0067】
測定されたデータの表形式の表現は、表11から23に示されているとおりである。各表は、テストされるサンプルをコーティングするために使用される組成をタイトルに示している。
【0068】
表11から23の解説:
腐食電位:
【0069】
表11から15は、テスト期間中の時間の経過に伴うEcorrの動作を示す。組成物1において、スクライビングなしで、時間とともに腐食電位の着実な減少があり、遅い水分拡散及び腐食の開始を示していることが分かる。スクライブでは、予想されていたコーティングされていない鋼のEcorrと決定されたEcorrに違いはない。
【0070】
表12は、組成2にグラファイトプレートレット(A-GNP10)を含めることによる、スクライブされていないパネルへの影響を示している。グラフェン含有パネルは、組成物1と比較して、より高い腐食電位を保持し、したがって耐食性を保持する。ただし、表13は、スクライブされた場合、組成物2を含むグラファイトプレートレットと組成物1又は実際にコーティングされていない鋼との間に差はないことを示している。グラファイトプレートレットの挙動はバリア性能のみに基づいており、鋼表面に追加の電気化学的活性がないことを示唆している。
【0071】
表14及び15は、組成物4及び12の挙動を示している。スクライブされていない組成物12は、組成物4よりも高いEcorrを示し、より高い腐食保護を示唆している。スクライブされた組成物12の結果は、組成物4及び12の両方の活性がコーティングされていない鋼の活性に近く、組成物12がわずかに悪いことを示している。これは、人工風化(塩水噴霧試験)の結果には反映されておらず、試験期間が短かったことと、その時間枠での有効成分の活性を反映している可能性がある。
【0072】
細孔抵抗Rpore及びコーティング静電容量Cc:
【0073】
表16から19は、細孔抵抗とコーティング静電容量(Capacitance)の挙動を示している。スクライブされていない組成物1と2の比較は予想通りである。組成物2のグラファイトプレートレットは、細孔抵抗を高め、その結果、コーティング静電容量が低くなり、コーティング/金属界面での水分が少ないことを示している。サンプルパネルをスクライブすると、パフォーマンスに違いはない。
【0074】
スクライブされていない組成物4と12を比較すると、組成物12のパフォーマンスが優れていることがわかる。ただし、スクライブされたパネルでは、大きな違いは見られない。
【0075】
二重層静電容量CDL:
表20~23に、コーティングの二重層静電容量と、コーティング/金属界面の表面での水の静電容量を示す。スクライブされたパネルとスクライブされていないパネルの両方で、グラフェン/グラファイトプレートレットを包含する組成物は、コーティング/金属界面に存在する水分が少なく、コーティングのバリア性能が向上している。これにより、グラフェンのバリア特性が確認されるす。これは、組成物12の二重層静電容量がより低いように見える組成物4及び12の試験にも反映されている。これは、加速腐食試験(塩水噴霧)試験に反映されている。
【0076】
本出願の範囲内で、前の段落及び/又は特許請求の範囲に記載された様々な態様、実施形態、例及び代替案、特にその個々の特徴を、独立して又は任意の組み合わせでとることができることが明確に意図されている。すなわち、いずれの実施形態のすべての実施形態及び/又は特徴は、そのような特徴に互換性がない場合を除いて、いずれの方法及び/又は組み合わせで組み合わせることができる。出願人は、最初に提出された請求を変更する権利、又はそれに応じて新しい請求を提出する権利を留保する。これには、最初に提出された請求を修正して、他の請求の特徴に従属及び/又は組み込む権利が含まれる。