(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041813
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ミトコンドリアのリンパ器官への移植およびそのための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20240319BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240319BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/34
A61P37/00
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220867
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2020546212の分割
【原出願日】2019-09-13
(31)【優先権主張番号】62/731,731
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/824,668
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519165504
【氏名又は名称】ルカ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 正司
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】山田 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 貴史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ミトコンドリアのリンパ器官への単離および移植のための方法、細胞の組成物、および細胞を製造するための方法を提供する。
【解決手段】その必要のある対象において、一次リンパ組織または二次リンパ組織からなる群より選択される臓器または組織に対して局所投与される、ミトコンドリアを含む医薬製剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要のある対象において、一次リンパ組織または二次リンパ組織からなる群より選択される臓器または組織に対して局所投与される、ミトコンドリアを含む医薬製剤。
【請求項2】
ミトコンドリアが、単離されたミトコンドリアである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
ミトコンドリアが、ミトコンドリア活性化剤処理されたものである、請求項1または2のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項4】
ミトコンドリアが、細胞内に存在する形態である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬製剤であって、細胞が、非免疫細胞である、医薬製剤。
【請求項6】
請求項5に記載の医薬製剤であって、細胞が、心筋幹細胞および心筋前駆細胞からなる群から選択される細胞である、医薬製剤。
【請求項7】
請求項4に記載の医薬製剤であって、細胞が、ミトコンドリア活性化処理がなされた免疫細胞である、医薬製剤。
【請求項8】
請求項4または7に記載の医薬製剤であって、細胞が、MITO-Porterを有する免疫細胞である、医薬製剤。
【請求項9】
投与対象が、機能異常を有するミトコンドリアを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
その必要のある対象において、一次リンパ組織または二次リンパ組織からなる群より選択される臓器または組織に対して局所投与される、ミトコンドリアを含む医薬製剤の製造における、ミトコンドリアの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.発明の分野
本発明は、ミトコンドリアのリンパ器官への単離および移植のための方法、本明細書に記載の方法を用いて調製された細胞の組成物、および本明細書に記載の細胞を製造するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
II.発明の背景
ミトコンドリア機能障害、例えば、呼吸鎖複合体の障害は、ミトコンドリア疾患および加齢の重要な原因である。ミトコンドリア機能の低下は、ミトコンドリア疾患および加齢関連疾患に関連する多くの主要臓器の細胞に影響を及ぼす。さらに、ミトコンドリアの機能不全は免疫担当細胞のエネルギー代謝に影響を及ぼす。たとえば、自然免疫にかかわる単球系マクロファージや樹状細胞は、エネルギーはおもにミトコンドリアに依存しない嫌気的解糖に依存している。また、メモリーT細胞と制御性T細胞は、脂肪酸酸化を介して酸化的リン酸化(OXPHOS)に依存することも示されている。さらに、加齢に伴うT細胞機能の低下は、いわゆる免疫老化の典型的な徴候として報告されている。
【発明の概要】
【0003】
III.発明の概要
本出願は、ミトコンドリアの単離および移入を介して、胸腺のようなリンパ器官の機能を増強または改善する未達成のニーズに取り組む。さらに、本発明は、接着細胞および浮遊細胞の両方への単離ミトコンドリアの移植についての満たされていないニーズに取り組む。
【0004】
本発明によれば、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて胸腺の萎縮および獲得免疫系細胞の減少が確認された。Ndufs4は、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iのサブユニットをコードする遺伝子であり、この遺伝子異常は、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iの機能の喪失をもたらす。これに対して、ミトコンドリアを胸腺に局所投与したところ、ミトコンドリアは胸腺組織に広く分布する結果をもたらした。胸腺は、獲得免疫系細胞の発達に関わる重要器官である。特にT細胞は、胸腺で生み出され、胸腺で成熟する。従って、胸腺に対するミトコンドリアの投与は、特にT細胞の異常に起因する獲得免疫異常を少なくとも部分的に軽減すると考えられる。
【0005】
いくつかの態様において、本発明の方法は、(a)ドナー細胞から単離されたミトコンドリアを精製する工程;(b)膜転移配列を発現する単離されたミトコンドリアを生成するのに十分な時間、膜転移配列を含む1以上のペプチドと単離されたミトコンドリアを共培養する工程;および(c)膜転移配列を発現する単離されたミトコンドリアをレシピエント細胞に移植する工程を含む、インタクトな外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に移植する工程を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、ミトコンドリア膜融合性ペプチド、または両方である膜転移配列を含むことができる。
【0006】
いくつかの態様において、1または複数のペプチドは、ペプチド複合体である。いくつかの態様において、ペプチド複合体は、ペプチドおよび脂質を含む。いくつかの態様において、脂質は、ペプチドのN末端に結合している。いくつかの態様において、脂質は、ペプチドのC末端に結合している。いくつかの態様において、脂質は、ペプチドをミトコンドリア膜に埋め込むことを可能にする。
【0007】
いくつかの態様は、さらに、単離されたミトコンドリアを1以上の部分と共培養することを含む。ある態様において、1または複数の部分は、ポリエチレングリコールを含む。ある態様において、1または複数の部分は、アプタマーを含む。
【0008】
いくつかの実施形態は、さらに、ミトコンドリアを単離する前に、ドナー細胞からのミトコンドリアを活性化することを含む。いくつかの実施形態において、ミトコンドリアの活性化は、化学物質を封入したミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を用いて行われる。或る実施態様では、化学剤は、コエンザイムQ10(CO-Q-10)、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-l-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、およびアポトーシス阻害剤からなる群より選択される。コエンザイムQ10は、還元型であり得る。
【0009】
いくつかの態様において、ドナー細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、筋肉、またはリンパ管を含むことができる臓器に由来する。いくつかの態様において、ドナー細胞は、線維芽細胞、肝細胞、血小板、筋細胞、および誘導性多能性幹細胞(iPSC)からなる群より選択される。いくつかの態様において、ドナー細胞は、自家または同種異系である細胞を含む。
【0010】
いくつかの実施態様では、レシピエント細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、リンパ管、眼、鼻または耳を含む器官由来の細胞である。いくつかの態様において、レシピエント細胞は、誘導性多能性幹細胞(iPSC)である。いくつかの態様において、レシピエント細胞は、加齢関連疾患を有する宿主由来である。いくつかの態様において、レシピエント細胞は、加齢した宿主(例えば、40歳以上の宿主、45歳以上の宿主、50歳以上の宿主、55歳以上の宿主、60歳以上の宿主、65歳以上の宿主、および70歳以上の宿主)由来である。いくつかの態様において、レシピエント細胞は、ミトコンドリア疾患を有する宿主由来である。いくつかの実施態様では、レシピエント細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、骨髄、滑膜、リンパ管、脳、眼、鼻および耳からなる群より選択される臓器(例えば、インタクトな臓器)中の細胞である。
【0011】
いくつかの実施形態は、さらに、インビボで移植を実施することを含む。いくつかの態様において、インビボで移植を実施することは、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を含む。いくつかの態様において、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)は、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)の表面に結合した1または複数のペプチドを含む。いくつかの態様において、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)の表面に結合した1または複数のペプチドは、単離されたミトコンドリアと共培養するために使用される1または複数のペプチドと同一である。いくつかの態様において、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)は、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-l-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、およびアポトーシス阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化学剤を含む。
【0012】
いくつかの態様において、移植は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、リンパ管、鼻、脾臓および滑膜からなる群より選択される臓器に対してなされる。いくつかの態様において、移植は、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器に対してなされる。いくつかの態様において、移植は、一次リンパ組織に対してなされる。いくつかの態様において移植は、二次リンパ組織に対してなされる。一次リンパ組織としては、骨髄および胸腺が挙げられ、二次リンパ組織としては、脾臓、リンパ節、およびパイエル板が挙げられる。
【0013】
いくつかの態様において、移植は、インターベンショナルラジオロジー(IVR)‐コンピュータ断層撮影(CT)を用いて行われる。具体的な実施形態では、IVR-CTはX線CTである。
【0014】
いくつかの態様において、移植は、胸腺内注射を介する。
【0015】
いくつかの実施形態は、移植後サポートを使用することをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、移植後サポートは、適切な身体運動、または規定された呼吸方法を含む。
【0017】
一態様では、本明細書で提供される方法を用いて調製された細胞の組成物が提供される。
【0018】
別の態様では、本明細書に記載の方法のいずれか一つを用いて調製された細胞を製造する方法が提供される。
【0019】
本発明ではまた、以下の発明が提供され得る。
[1]インタクトな外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に移植する方法であって、以下を含む。
(a)ドナー細胞から単離したミトコンドリアを精製すること。
(b)単離されたミトコンドリアを、膜輸送配列を発現する単離されたミトコンドリアを生成するのに十分な時間、膜輸送配列を含む1以上のペプチドと共培養すること;
(c)膜輸送配列を発現している単離ミトコンドリアをレシピエント細胞に移植すること。
[2]膜輸送配列を含む1以上のペプチドが、細胞膜透過性ペプチドおよびミトコンドリア膜融合性ペプチドからなる群より選択される、上記[1]に記載の方法。
[3]1以上のペプチドがペプチド複合体である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]ペプチド複合体が、ペプチドおよび脂質を含む、上記[3]に記載の方法。
[5]脂質がペプチドのN末端に結合している、上記[4]に記載の方法。
[6]脂質がペプチドのC末端に結合している、上記[4]に記載の方法。
[7]脂質が、ペプチドをミトコンドリア膜に埋め込むことを可能にする、上記[4]~[6]のいずれか記載の方法。
[8]単離ミトコンドリアを1以上の部分と共培養することをさらに含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]1以上の部分がポリエチレングリコールを含む、上記[8]に記載の方法。
[10]1以上の部分がアプタマーを含む、上記[8]に記載の方法。
[11]さらに、前記ミトコンドリアを単離する前に、前記ドナー細胞からの前記ミトコンドリアを活性化することを含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]ミトコンドリアを活性化する工程が、化学物質を封入したミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を用いて行われる、上記[11]に記載の方法。
[13]前記化学剤が、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-l-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、およびアポトーシス阻害剤からなる群より選択される、上記[12]に記載の方法。
[14]ドナー細胞が、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、筋肉、およびリンパ管からなる群より選択される器官に由来する、上記[1]~[13]のいずれか記載の方法。
[15]ドナー細胞が、線維芽細胞、肝細胞、血小板、筋細胞、および誘導性多能性幹細胞(iPSC)からなる群より選択される、上記[1]~[14]のいずれか記載の方法。
[16]ドナー細胞が自家発生または同種異系である細胞を含む、上記[1]~[15]のいずれか記載の方法。
[17]レシピエント細胞が、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、リンパ管、眼、鼻および耳からなる群より選択される器官からの細胞である、上記[1]~[16]のいずれか記載の方法。
[18]レシピエント細胞が誘導性多能性幹細胞(iPSC)である、上記[1]~[17]のいずれか記載の方法。
[19]レシピエント細胞が、加齢関連疾患を有する宿主由来である、上記[1]~[18]のいずれか記載の方法。
[20]レシピエント細胞が、ミトコンドリア疾患を有する宿主由来である、上記[1]~[19]のいずれか記載の方法。
[21]レシピエント細胞が、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、骨髄、滑膜、脳、リンパ管、眼、鼻および耳からなる群より選択されるインタクトな臓器にある、上記[1]~[20]のいずれか記載の方法。
[22]上記[1]~[21]のいずれかに記載の方法であって、更に、前記移植をインビボで行う工程を包含する方法。
[23]インビボで移植を実施することが、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を含む、上記[22]記載の方法。
[24]前記ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)が、前記ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)の表面に結合した1以上のペプチドを含む、上記[23]に記載の方法。
[25]上記[24]に記載の方法であって、前記ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)の前記表面に結合した1以上のペプチドが、前記単離されたミトコンドリアと共培養するために使用される1以上のペプチドと同一であることを特徴とする方法。
[26]ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)が、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、およびアポトーシス阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの化学物質を含む、上記[23]~[25]のいずれか記載の方法。
[27]上記[22]~[26]のいずれかにおいて、移植は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、腎臓、リンパ管、鼻、脾臓、および滑膜からなる群より選択される臓器に行われる、方法。
[28]移植が、インターベンショナルラジオロジー(IVR)-コンピュータ断層撮影(CT)を用いて行われる、上記[22]~[27]のいずれか記載の方法。
[29]上記[28]に記載の方法であって、前記IVR-CTはX線CTであることを特徴とする方法。
[30]移植が、胸腺内注射を介する、上記[22]~[29]のいずれか記載の方法。
[31]移植後サポートを行うことをさらに含む、上記[1]~[30]のいずれか記載の方法。
[32]上記[31]に記載の方法において、前記移植後支持体は、適切な身体運動、または規定の呼吸方法を含むものである。
[33]上記[1]~[32]のいずれかに記載の方法を用いて調製された細胞の組成物。
[34]上記[1]~[33]のいずれかに記載の方法を用いて調製された細胞の製造方法。
【0020】
本発明によればまた、以下の発明が提供される。
[1A]一次リンパ組織および二次リンパ組織からなる群から選択される少なくとも1つの組織に投与される、ミトコンドリアを含む医薬製剤。
[2A]ミトコンドリアが、単離されたミトコンドリアである、上記[1A]に記載の医薬製剤。
[3A]ミトコンドリアが、ミトコンドリア活性化剤処理されたものである、上記[1A]または[2A]に記載の医薬製剤。
[4A]ミトコンドリアが、細胞内に存在する形態である、上記[1A]に記載の医薬製剤。
[5A]上記[4A]に記載の医薬製剤であって、細胞が、非免疫細胞である、医薬製剤。
[6A]上記[5A]に記載の医薬製剤であって、細胞が、心筋幹細胞および心筋前駆細胞からなる群から選択される細胞である、医薬製剤。
[7A]上記[4A]に記載の医薬製剤であって、細胞が、ミトコンドリア活性化処理がなされた免疫細胞である、医薬製剤。
[8A]上記[4A]または[7A]に記載の医薬製剤であって、細胞が、MITO-Porterを有する免疫細胞である、医薬製剤。
[9A]投与対象が、機能異常を有するミトコンドリアを有する、上記[1A]~[8A]のいずれか一項に記載の医薬製剤。
[10A]一次リンパ組織および二次リンパ組織からなる群から選択される少なくとも1つの組織に投与される、ミトコンドリアを含む医薬製剤の製造における、ミトコンドリアの使用。
[11A]ミトコンドリアが、単離されたミトコンドリアである、上記[10A]に記載の使用。
[12A]ミトコンドリアが、ミトコンドリア活性化剤処理されたものである、上記[10A]または[11A]に記載の使用。
[13A]ミトコンドリアが、細胞内に存在する形態である、上記[10A]に記載の使用。
[14A]上記[10A]に記載の使用であって、細胞が、非免疫細胞である、使用。
[15A]上記[10A]に記載の使用であって、細胞が、心筋幹細胞および心筋前駆細胞からなる群から選択される細胞である、使用。
[16A]上記[10A]に記載の使用であって、細胞が、ミトコンドリア活性化処理がなされた免疫細胞である、使用。
[17A]上記[13A]または[16A]に記載の使用であって、細胞が、MITO-Porterを有する免疫細胞である、使用。
[18A]投与対象が、機能異常を有するミトコンドリアを有する、上記[10A]~[17A]のいずれか一項に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の胸腺中の細胞数の比較を示す。
【
図2】
図2は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の体重(BW)あたりの胸腺中の細胞数の比較を示す。
【
図3】
図3は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の体重(BW)あたりのCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の数の比較を示す。
【
図4】
図4は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の体重(BW)あたりのCD4/CD8ダブルポジティブ細胞の数の比較を示す。
【
図5】
図5は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の脾臓中の全単核球数の比較およびB細胞の前駆細胞(B細胞プロジェニター)の全細胞にしめる割合の比較を示す。
【
図6】
図6は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の骨髄中の造血前駆細胞の単離スキームとその後の培養実験のスキームを示す。
【
図7】
図7は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の造血前駆細胞を培養した後のCD45陽性細胞の数の比較を示す。
【
図8】
図8は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の造血前駆細胞を培養した後のMac1+骨髄細胞の数の比較を示す。
【
図9】
図9は、野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)の造血前駆細胞を培養した後のCD19陽性B細胞の数の比較を示す。
【
図10】
図10は、放射性照射した野生型(WT)、Ndufs4ヘテロノックアウトマウス(Het)、およびNdufs4ホモノックアウトマウス(Homo)に対する正常な骨髄単核球の移植実験のスキームを示す。
【
図11】
図11は、骨髄移植を行った野生型マウスと行わなかったマウスの生存曲線の比較を示す。
【
図12】
図12は、骨髄移植を行ったNdufs4ホモノックアウトマウスと行わなかったNdufs4ホモノックアウトマウスの生存曲線の比較を示す。
【
図13】
図13は、骨髄移植を行った野生型マウス、ヘテロノックアウトマウス、ホモノックアウトマウスにおけるドナー骨髄の生着の様子を示す。陰性対照として、骨髄移植をしなかったホモノックアウトマウスにおけるドナー骨髄の生着も示される。
【
図14】
図14は、ミトコンドリア活性化処理したCPC(MITO-Cell)を胸腺の表面に移植して3日後の胸腺におけるMITO-Cell由来のミトコンドリアの分布を示す。
【
図15】
図15は、ミトコンドリア活性化処理したCPC(MITO-Cell)を胸腺の表面に移植して3日後の胸腺におけるMITO-Cell由来のミトコンドリアの分布を示す。
【
図16】
図16は、細胞間でのミトコンドリアの移動を検出するアッセイ系を説明する図である。
【
図17】
図17は、ミトコンドリアを赤く染めたマウスCPCとミトコンドリアを緑に染めたマウスCPCとを1:1の比率で共培養して24時間後の細胞の蛍光顕微鏡画像である。左パネルが赤、中央パネルが緑、右パネルが重ね合わせ像である。重ね合わせ像において矢尻で示される細胞は黄色であり、細胞間でのミトコンドリアの移動が生じたことが検出されている。
【
図18】
図18は、ミトコンドリアを緑に染めたH9c2細胞とミトコンドリアを赤く染めたCPCとを共培養して24時間後の細胞の蛍光顕微鏡画像である。左パネルにおいて赤と緑の画像の重ね合わせ像が示されており、矢尻で示される細胞は黄色であり、細胞間でのミトコンドリアの移動が生じたことが検出されている。右の重ね合わせ像は、左の画像の四角い領域の拡大図である。
【
図19】
図19は、ミトコンドリアを緑に染めたH9c2細胞とミトコンドリアを赤く染めたCPCとを共培養して24時間後の細胞の蛍光顕微鏡画像である。左パネルが赤、中央パネルが緑、右パネルが重ね合わせ像である。重ね合わせ像において矢尻で示される細胞は黄色であり、細胞間でのミトコンドリアの移動が生じたことが検出されている。下は別の視野である。
【
図20】
図20は、MITO-CellからのRES-MITO-Porterの細胞間移動を示す図である。
【
図21】
図21は、MITO-CellからのRES-MITO-Porterの細胞間移動を示す図である。
【
図22】
図22は、野生型のCPCからNdufs4ホモノックアウトマウスのCPCにミトコンドリアが移動することを示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0022】
IV.発明の詳細な説明
本明細書中に提供されるように、本発明は、標的免疫細胞の機能を回復し、健康な免疫系を促進するために、より少ない遺伝子突然変異を有する健康なミトコンドリアを胸腺などのリンパ器官に移植することによる、T細胞などの免疫細胞の質および量の改善に関する。従って、改良された免疫細胞は、ミトコンドリアおよび加齢関連疾患を改善することができる。
【0023】
4.1 高度に精製されたミトコンドリアの調製
本明細書に開示されるように、高品質で高純度の単離ミトコンドリアの調製は、ドナー組織から細胞を抽出し、それらを大量に培養することによって行うことができる。本明細書に提供される方法は、統合ミトコンドリア移植(IMiT)を可能にする。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、最初に単離される。単離ミトコンドリアは、ミトコンドリア内膜において膜電位を有することが望ましい。本明細書では、「単離」とは、ミトコンドリアに関して述べる場合には、細胞内から取り出されることをいう。本明細書では、「精製」とは、単離されたものに混入する少なくとも1以上の成分をさらに分離することによって、精製度を向上させることをいう。
【0024】
まず、ドナー組織から細胞を抽出し、大量に培養する。ある態様において、ドナー組織は、健康なドナーに由来する。ある態様において、大量に安全に培養することができる線維芽細胞は、肝細胞、血小板、筋細胞、またはiPSCのような細胞当たりの高いミトコンドリア含有量を有する細胞よりむしろ使用されるであろう。線維芽細胞は、例えば、皮膚生検によって得ることができる。従って、いくつかの態様において、組織生検がドナーに対して行われ、十分な量の線維芽細胞が抽出される。特定の実施態様において、組織生検は、直径約4mmである組織切片に由来する。他の実施態様において、線維芽細胞は市販の供給源から得られる。具体的な実施態様において、市販の線維芽細胞は、GCP基準に従って調製される。いくつかの態様において、組織生検がドナーに対して行われ、十分な量の間葉系幹細胞、または心筋幹細胞(または心筋前駆細胞)が抽出される。
【0025】
本明細書中に開示されるように、単離前のミトコンドリアの活性化は、より高品質のミトコンドリアを生じ得る。従って、いくつかの態様において、線維芽細胞のミトコンドリア機能は、単離に先立って活性化される。特定の態様において、単離された高品質のミトコンドリアを、異常なミトコンドリア遺伝子および呼吸鎖複合体活性を有するレシピエント細胞に移植する。なおさらなる態様において、単離された高品質のミトコンドリアは、母性遺伝に由来する異常なミトコンドリア遺伝子を有するレシピエント細胞に移植される。さらなる態様において、単離された高品質のミトコンドリアは、核遺伝子に由来する異常なミトコンドリア遺伝子を有するレシピエント細胞に移植される。
【0026】
当業者であれば、ミトコンドリアを活性化する方法を理解するであろう。ミトコンドリアを活性化する方法は、例えば、WO2018/092839に開示された方法を用いることができる。また、例えば、いくつかの実施形態において、ミトコンドリア機能は、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)中にCoQ-10をカプセル化し、それをドナー細胞(例えば、線維芽細胞等)と共培養することによって活性化することができる。いくつかの実施形態において、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)は、異なる化学剤をカプセル化することができる。ミトコンドリアを活性化し得る他の薬剤としては、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、およびアポトーシス阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
ミトコンドリア指向性キャリアは、ミトコンドリア指向性分子を膜表面に表出させた小胞であり、小胞は、例えば、脂質二重膜からなるリポソームであり、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)とホスファチジン酸(PA)および/またはスフィンゴミエリン(SM)とを構成成分とするリポソームであり得る。ミトコンドリア指向性分子としては、例えば、R8ペプチド、ミトコンドリア標的化シグナル(MTS)ペプチド(Kong,BW. et al.,Biochimica et Biophysica Acta 2003,1625,pp.98-108)およびS2ペプチド(Szeto,H.H. et al.,Pharm.Res. 2011,28,pp.2669-2679)などのポリペプチド;並びにLipophilic triphenylphosphonium cation(TPP)およびRhodamine 123などの脂溶性カチオン物質が挙げられる。小胞(例えば、リポソーム)内への薬剤の導入は、リポソームを構成する脂質と薬剤とのイオン結合、疎水結合、および共有結合等の化学的方法によって導入してもよく、常法によりリポソームの内腔に薬剤を封入してもよい。ミトコンドリア指向性キャリアとしてはまた、DQAsome(Weissig,V. et al.,J.Control.Release 2001,75,pp.401-408)、MITO-Porter(Yamada,Y. et al.,Biochim Biophys Acta. 2008,1778,pp.423-432)、DF-MITO-Porter(Yamada,Y. et al.,Mol.Ther. 2011,19,pp.1449-1456)、S2ペプチドで修飾された改変型DF-MITO-Porter(Kawamura,E. et al.,Mitochondrion 2013,13,pp.610-614)などのミトコンドリア指向性リポソームを挙げることができる。なお、R8ペプチドおよびS2ペプチドは、ミトコンドリア指向性を有すると共に、細胞膜透過性を有するペプチドである。
【0028】
いくつかの態様において、高品質のミトコンドリアは、ジギトニンを用いてミトコンドリアを含む細胞の膜透過性を高めることによって細胞内から単離することができる。
【0029】
さらなる態様において、膜輸送機能は、単離されたミトコンドリアおよび2つの膜輸送配列を有するペプチドを共培養することによって、ミトコンドリアの外膜の表面に付加される。ある実施態様では、2つのペプチドは、細胞膜透過性ペプチドおよびミトコンドリア膜融合性ペプチドなどの膜輸送配列を含むペプチドである。
【0030】
他の態様において、ペプチドはペプチド結合体である。ペプチドコンジュゲートは、ペプチドおよび脂質を含むことができる。脂質は、ペプチドのN末端、ペプチドのC末端、またはその両方に結合し得る。ある局面において、脂質は、ペプチドをミトコンドリア膜に埋め込むことを可能にする。
【0031】
従って、いくつかの態様において、方法は、さらに、単離されたミトコンドリアを1以上の部分と共培養することを含む。ある態様において、1または複数の部分は、ポリエチレングリコールを含む。他の態様において、1つまたは複数の部分は、アプタマーを含む。
【0032】
いくつかの態様において、ミトコンドリアの移植は、トレハロース緩衝液を用いて行われる。
【0033】
4.2.1 分離または単離したミトコンドリアの移植
ミトコンドリア機能障害は、ミトコンドリア疾患、免疫異常および加齢の重要な原因である。主要な臓器の多くは、ミトコンドリア機能の障害によって影響を受ける。さらに、ミトコンドリア機能障害は自然免疫と獲得免疫の両方に不均衡を生じさせ、ミトコンドリア疾患と加齢に重要な役割を果たすことがある。
【0034】
エネルギー代謝異常は免疫担当細胞において報告されている。自然免疫に関与する単球系マクロファージと樹状細胞は、エネルギーをミトコンドリアに依存しない嫌気的解糖に依存している。獲得免疫に関与するエフェクターT細胞は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化(OXPHOS)も利用する。記憶T細胞と制御性T細胞は、脂肪酸の酸化によってOXPOSに依存している。このように、ミトコンドリア機能障害を有する免疫担当細胞は、特にT細胞活性の低下により、獲得免疫の低下を引き起こすと予想される。実際、加齢に伴うT細胞機能の低下は、いわゆる免疫老化の典型的な徴候として報告されている。
【0035】
胸腺では、初期の胸腺前駆細胞が造血幹細胞から分化し、増殖(100万倍まで)と分化、例えばT細胞受容体(TCR)遺伝子の再構築、TCR認識自己MHCを発現するT細胞の選択(ポジティブセレクション)、自己抗原を認識するT細胞の除去(ネガティブセレクション)によって、成熟したCD4およびCD8発現T細胞へと成長する。髄質と皮質の胸腺ストローマの胸腺上皮細胞(TEC)は、胸腺のT細胞の分化を助ける。正常な臓器組織では、上皮細胞は密着し、シート状に配列し、一方TECはスポンジ様構造を有する。初期の胸腺前駆細胞は、三次元構造に存在するTECの間で皮質から髄質に移動しながら、増殖、分化、成熟し、そして胸腺から移動する。
【0036】
酸化還元関連蛋白質修飾の一酸化窒素を用いた翻訳後修飾を受けたシステインS-ニトロシル化がマウス組織で研究され、胸腺は脳、心臓、肺、肝臓、腎臓に類似した高度にミトコンドリア依存性の臓器であることが明らかになった。したがって、TECおよびT細胞のミトコンドリア機能の低下は、胸腺におけるT細胞成熟過程の異常、およびCD8+T細胞およびCD4+細胞の減少、CD4+ナイーブT細胞の減少、およびメモリーT細胞の増加のようなT細胞サブセットの変化を引き起こす可能性があり、また、増殖期におけるT細胞上のレセプターの異常発現の可能性もあり、これは胸腺萎縮において認められた加齢免疫系と類似し、免疫寛容の減弱につながる可能性がある。さらに、胸腺のリンパ球は思春期(10代前後)に最も多く、胸腺のピーク重量が30~40gで、その後急速に退縮し、70歳までにはほぼ枯渇することが知られている。
【0037】
胸腺の皮質ストローマ細胞における活性酸素種(ROS)の過剰産生は、胸腺萎縮に関与している。胸腺ストローマ細胞のミトコンドリア機能の低下によるATP産生能の低下、およびROSの過剰産生は、胸腺萎縮の主な原因である可能性がある。実際、ミトコンドリアの二本鎖DNAを一時的に切断したモデル動物では、成長の初期段階から胸腺の退化が観察されている。胸腺萎縮は、変異(mtDNA)複製酵素DNAポリメラーゼ‐γ(POLG)を有するマウスでも観察される。
【0038】
したがって、遺伝子変異の少ない健康なミトコンドリアを胸腺に移植することにより、TECおよびT細胞のミトコンドリア機能を支持することは、胸腺機能を回復し、胸腺萎縮を遅延させる新規なアプローチである。T細胞の質および量の改善は、健康な免疫系を導き、ミトコンドリアおよび加齢関連疾患に対する改善効果が期待される。
いくつかの態様において、単離ミトコンドリアが調製され、膜輸送シグナルが付加される。このようにして、膜透過性を高められたミトコンドリアは、次に細胞に輸送される。いくつかの態様において、高度に精製された単離ミトコンドリアが調製され、高膜輸送シグナルが付加される。膜輸送シグナルの高いミトコンドリアは、次に細胞に輸送される。
【0039】
本明細書に開示されるように、ある態様では、ミトコンドリアは、ミトコンドリアを単離する前に、または単離した後で、任意に、ドナー細胞内において活性化され得る。本明細書では、ミトコンドリアを活性化する処理を、「ミトコンドリア活性化処理」という。ミトコンドリアを活性化するために、化学物質を封入したミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を使用することを含むが、これに限定されない様々な方法を用いることができる。化学剤は、ミトコンドリアを活性化することができる任意の剤であり得る。例えば、薬剤は、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、またはアポトーシス阻害剤であり得る。いくつかの態様では、薬剤は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体I、III、およびIVのいずれか1以上、または全てに対する電子供与体であり得る。いくつかの態様では、薬剤はミトコンドリア呼吸鎖複合体I、III、およびIVのいずれか1以上、または全てに対する基質であり得る。いくつかの態様では、薬剤は、生体適合性の抗酸化剤であり得る。いくつかの態様では、薬剤はレスベラトロールであり得る。
【0040】
本明細書に開示されるように、ミトコンドリアはドナー細胞から単離することができる。いくつかの態様において、ドナー細胞は、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、筋肉、およびリンパ管などの臓器に由来する。具体的な実施形態では、ドナー細胞は、線維芽細胞、肝細胞、血小板、筋細胞、およびiPSCからなる群より選択される。ドナー細胞は自家移植でも同種異系移植でもよいが、レシピエント細胞におけるミトコンドリア機能の異常の特性に応じて自家移植か同種異系移植かを適宜選択することができる。
【0041】
いくつかの実施態様では、レシピエント細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、リンパ管、眼、鼻および耳などの器官に由来する。具体的な実施形態では、レシピエント細胞は誘導性多能性幹細胞(iPSC)である。
【0042】
特定の実施形態では、2つのタイプの細胞を移植することができる:接着性胸腺上皮細胞(TEC)および浮遊性胸腺リンパ球。具体的な実施形態では、レシピエント細胞は、接着性TEC、浮遊性胸腺リンパ球、またはその両方である。他の態様において、レシピエント細胞は、心臓の心筋細胞、肝臓の肝細胞、および脳のニューロンなどの販売された臓器由来の接着細胞である。
【0043】
ドナー細胞からレシピエント細胞へのミトコンドリアの移植は、ミトコンドリア機能を含むがこれに限定されないレシピエント細胞の機能の改善を助けることができる。従って、いくつかの態様において、レシピエント細胞は、正常な機能を有するミトコンドリアまたは改良されたミトコンドリアを必要とする細胞である。従って、いくつかの態様において、レシピエント細胞は、加齢関連疾患を有する宿主に由来する。他の態様において、レシピエント細胞は、ミトコンドリア疾患を有する宿主由来である。
【0044】
ある態様において、レシピエント細胞は、インタクトな臓器内にあり得る。例えば、レシピエント細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、リンパ管、眼、鼻および耳などの臓器に由来することができ、細胞は臓器内にあり得る。
ミトコンドリア移植後のレシピエント細胞におけるミトコンドリア機能の改善は、レシピエント細胞に取り込まれる正常な機能を有するドナーミトコンドリアまたは高品質ドナーミトコンドリアの数に比例し得る。ある態様において、レシピエント細胞は、マクロピノサイトーシスによってドナーミトコンドリアを取り込む。特定の態様において、細胞膜輸送配列を有するペプチドを、ドナーミトコンドリアに添加して、マクロピノサイトーシスによるミトコンドリア取り込みを改善する。例えば、MELASサイブリッド細胞(MELAS cybrid cell)を、高い膜輸送シグナルを付加したミトコンドリアと共培養することにより、ミトコンドリアの迅速かつ長期的な取り込みを可能にすることができる。さらなる態様において、外因性ミトコンドリアの取り込みは、内因性ミトコンドリアの機能を増強することができる。
【0045】
最適な細胞膜輸送配列は、対象の細胞型によって異なる。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、1つまたは複数のレシピエント細胞型を標的とする1つまたは複数の膜輸送配列を発現することができる。例えば、ミトコンドリアは、TECsなどの上皮細胞および浮遊性胸腺リンパ球を標的とする2つ以上の異なる膜輸送ペプチドの混合物を発現することができる。
【0046】
ミトコンドリアは体細胞核移植によっても伝達される。しかしながら、体細胞核移植を用いた移植後の核とミトコンドリア間の一貫した協調性の欠如に起因する異種抗原性のため、免疫拒絶のリスクがある。ミトコンドリア移植は、内因性ミトコンドリア機能の活性化を主目的とし、ミトコンドリアを局所移植するため、同種異系抗原性のリスクが低下する。従って、いくつかの態様において、インタクトな自家移植片ミトコンドリアのレシピエント細胞への移植は、免疫原性ではない。他の態様において、インタクトな同種異系移植片ミトコンドリアのレシピエント細胞への移入は、免疫原性ではない。
【0047】
損傷したミトコンドリアは、細胞に障害を与えうる。従って、本明細書では、「インタクト」とは、細胞に障害を与えない程度に損傷がないか、または少ないことを意味し得る。本明細書では、「インタクト」とは、生理学的に正常な機能を維持していることを意味し得る。本明細書では、「インタクト」とは、ミトコンドリアが外膜および内膜を維持していることを意味し得る。本明細書では、「インタクト」とは、ミトコンドリア(の内膜)が膜電位を有することを意味し得る。本明細書では、「インタクト」とは、ミトコンドリアが傷を有しないことを意味し得る。
【0048】
4.2.2 単離した細胞の移植
ミトコンドリアは、細胞内に含まれる。従って、ミトコンドリアの移植は、細胞を移植することによっても達成される。本実施例によれば、ミトコンドリアは、細胞移植によっても胸腺に広く分布する結果となった。本実施例によれば、ミトコンドリアは、細胞内に留まること無く、細胞間を移動することが示された。従って、健康なミトコンドリア(例えば、遺伝子変異の少ない健康なミトコンドリア)を含む細胞を移植することは、ミトコンドリアを移植することと同等の利点を有する。
【0049】
本明細書に開示されるように、細胞は、投与される前に活性化され得る。本発明は、ミトコンドリアを活性化するために、化学物質を封入したミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を使用することを含み得るが、これに限定されない様々なミトコンドリアの活性化のための方法を用いることができる。化学剤は、ミトコンドリアを活性化することができる任意の剤であり得る。例えば、薬剤は、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジー誘導剤、またはアポトーシス阻害剤であり得る。
【0050】
本明細書に開示されるように、投与される細胞は、胸腺、脾臓、リンパ節、心臓、肺、膵臓、肝臓、皮膚、腎臓、血液、リンパ管、眼、鼻および耳などの臓器または組織に由来し得る。いくつかの態様では、投与される細胞は、組織幹細胞であり得る。ある態様では、投与される細胞は、心筋幹細胞または心筋前駆細胞であり得る。特定の実施形態では、2つのタイプの細胞のいずれかを移植することができる:接着性胸腺上皮細胞(TEC)および浮遊性胸腺リンパ球。具体的な実施形態では、投与される細胞は、接着性TEC、浮遊性胸腺リンパ球、またはその両方である。他の態様において、投与される細胞は、心臓の心筋細胞、肝臓の肝細胞、および脳のニューロンなどの細胞、例えば、販売された臓器由来の接着細胞であり得る。投与される細胞は、投与される個体に対して自家でも同種異系でもよい。
【0051】
本明細書に開示されるように、投与される細胞は、投与される組織中の細胞に対してミトコンドリアを供給できる細胞であり得る。そのような細胞は、投与される組織中の細胞と投与される細胞とを共培養して、投与される細胞から投与される組織中の細胞にミトコンドリアを供給するか否かを確認するアッセイによって確認することができる。共培養によって、投与される組織中の細胞に対して、ミトコンドリアを供給できる細胞は、本発明で投与される細胞として用いることができる。ミトコンドリアを供給できるか否かは、投与される細胞に含まれるミトコンドリアを標識することにより確認することができる。ミトコンドリアの標識は、蛍光標識によりなされ得る。蛍光標識としては、ミトコンドリアを蛍光標識できる各種標識を用いることができる。アッセイの前に、投与される細胞は、ミトコンドリア活性化処理に供されていてもよい。いくつかの対象では、投与される細胞は、心筋幹細胞または心筋前駆細胞であり得る。
本発明によれば、ミトコンドリアは、細胞間を移動することができる。従って、細胞そのものが移植された臓器で生着することは必要ではないと考えられる。従って、ある態様では、一次リンパ組織および二次リンパ組織に投与される細胞は、例えば、非免疫細胞であり得る。非免疫細胞としては、成熟した免疫細胞および未熟な免疫細胞(例えば、発生中の免疫細胞)が挙げられる。ある態様では、一次リンパ組織および二次リンパ組織に投与される細胞は、例えばまた、非造血幹細胞であり得、非造血前駆細胞であり得、非リンパ急性共通前駆細胞であり得、非NK細胞/非T細胞前駆細胞であり得、非骨髄球性共通前駆細胞、非顆粒球・マクロファージ系前駆細胞であり得、または、非マクロファージ・樹状細胞前駆細胞であり得、非肥満細胞前駆細胞であり得る。
【0052】
4.3 移植の方法と部位
造血幹細胞は、胸腺に直接安全に注入され、分化してT細胞になることが報告されている。ある態様において、ミトコンドリアまたは細胞は、対象(または患者)の胸腺組織(例えば、ストローマ)に直接注入され得る。
従って、いくつかの態様において、ミトコンドリアのまたは細胞移植は、本明細書に記載の方法に従ってインビボで行うことができる。いくつかの態様において、インビボ移植は、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)による移植、ミトコンドリア指向性キャリアを含むミトコンドリアの移植、またはミトコンドリア指向性キャリアを含む細胞の移植を含む。ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)は、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)の表面に結合した1以上のペプチドを含むことができる。
【0053】
ミトコンドリアまたは細胞の移植は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織に対して行うことができる。特定の態様では、ミトコンドリアまたは細胞の移植は、胸腺、脾臓、および骨髄からなる群より選択される臓器または組織に対して行うことができる。これらの態様では、ミトコンドリアまたは細胞の移植は、これらの臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織;例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)内への注射によって行うことができる。
【0054】
特定の局面において、ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)はまた、CO-Q-10、レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド、n-アセチルシステイン、α-トコフェロール、オメガ-3脂肪酸、グルコサミン、クレアチン一水和物、アセチル-カルニチン、エピカテキン、ケルセチン、オートファジーインデューサー、およびアポトーシス阻害剤などの化学物質を含むことができるが、これらに限定されない。
【0055】
Interventional radiology(IVR)‐computed tomography(CT)は放射線診断技術の治療的応用であり、CTガイド下で穿刺針またはカテーテルを体内に挿入して治療を支援する。特に、X線CTは空間分解能、コントラスト分解能だけでなく時間分解能も向上し、CT観察下でのリアルタイム穿刺が可能となった。以上より、摘出ミトコンドリアまたは細胞の胸腺内注入を複数回行うためには、X線CT等のIVR-CTの使用が考えられる。ある態様において、胸腺への直接注射は、IVR-CTを用いて行うことができる。具体的な実施形態では、胸腺への直接注入は、X線CTを用いて行うことができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、胸腺の萎縮を軽減することができ、T細胞の分化および成熟は、インタクトなミトコンドリアまたは細胞の移植によって胸腺内で促進することができる。ある態様において、ミトコンドリアまたは細胞の移植によるT細胞の増加は、末梢血中のT細胞の質的および量的な異常を補正することができる。これはまた、胸腺の萎縮による免疫老化に対する若返り効果をもたらすかもしれない。
【0057】
更なる態様において、自己免疫T細胞の機能回復は、局所的な自然および獲得免疫の調節によって病態の改善(免疫寛容の回復)を導き得る。
【0058】
4.4 移植後
いくつかの具体例において、移植臓器機能の改善を促進するために、病態に従って、移植後早期から予定されたリハビリテーションが行われる。具体的な実施形態では、有酸素運動を実施して、ミトコンドリアの取り込みを有意に増加させ、レシピエント細胞の機能を改善する。
【0059】
T細胞機能の測定は、当技術分野で公知の方法を用いて行うことができる。例えば、いくつかの態様において、ミトコンドリア機能は、末梢血T細胞において測定することができる。
【0060】
4.5 本発明のミトコンドリア製剤または細胞製剤
本発明によれば、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織;例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)に投与するための、ミトコンドリアを含む医薬製剤が提供される。本発明によればまた、本発明の医薬製剤は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)に投与するための、細胞を含む医薬製剤が提供される。
【0061】
いくつかの態様では、投与される細胞は、ミトコンドリア活性化処理がなされたミトコンドリアまたは細胞であり、投与される臓器または組織は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)であり得る。
【0062】
いくつかの態様では、投与される細胞は、心筋幹細胞または心筋前駆細胞であり、投与される臓器または組織は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)であり得る。
【0063】
いくつかの態様では、投与される細胞は、ミトコンドリア活性化処理がなされたミトコンドリアまたは心筋幹細胞若しくは心筋前駆細胞であり、投与される臓器または組織は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)であり得る。
【0064】
本発明の医薬製剤は、ミトコンドリアに機能異常を有する患者において、胸腺機能を向上させることに用いられ得る。この態様においては、本発明の医薬製剤は、胸腺内投与され得る。
本発明の医薬製剤は、ミトコンドリアに機能異常を有する患者において、胸腺萎縮を処置することに用いることができる。この態様においては、本発明の医薬製剤は、胸腺内投与され得る。
本発明に医薬製剤は、ミトコンドリアに機能異常を有する患者において、骨髄機能を向上させることに用いられ得る。この態様においては、本発明に医薬製剤は、骨髄内投与され得る。
本発明の医薬製剤は、ミトコンドリアに機能異常を有する患者において、免疫機能を向上させることに用いられ得る。この態様においては、本発明の医薬製剤は、好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織に対して局所投与され得る。
本発明の医薬製剤は、ミトコンドリアに機能異常を有する患者を処置することに用いることができる。この態様においては、本発明の医薬製剤は、心臓、肝臓、耳、眼、胸腺、脳、肺、内皮細胞、リンパ節、骨髄、血液、脾臓、腎臓、リンパ管、鼻および滑膜からなる群より選択される臓器または組織(好ましくは、一次リンパ組織、および二次リンパ組織のいずれかの組織、例えば、胸腺、脾臓および骨髄からなる群より選択される臓器または組織;例えば、胸腺)に対して局所投与され得る。
【0065】
本発明の医薬製剤は、ミトコンドリアまたは細胞と賦形剤とを含んでいてもよい。賦形剤は、例えば、薬学的に許容される賦形剤である。薬学的に許容される賦形剤としては、特に限定されないが例えば、pH調整剤、塩、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、および等張化剤が挙げられる。
【0066】
ある側面では、本発明の医薬製剤の製造におけるミトコンドリアまたは細胞の使用が提供される。
【0067】
4.6 本発明のミトコンドリアまたは細胞を投与する対象
本明細書では、対象または患者は、哺乳動物であり得、例えば、ヒトなどの霊長類、犬およびネコなどの愛玩動物が挙げられる。本明細書では、「患者」とは、疾患または病的な状態を有する対象を意味する。本発明によれば、本発明のミトコンドリアまたは細胞を投与する対象は、ミトコンドリア機能に異常を有する対象、例えば、ミトコンドリア病の患者であり得る。ミトコンドリア病の患者は、ミトコンドリアのゲノムに異常を有する患者、または核ゲノムに異常を有する患者であり得る。ミトコンドリア病の患者は、遺伝性のミトコンドリア病の患者、または後天的なミトコンドリア病の患者であり得る。本発明によれば、本発明のミトコンドリアまたは細胞を投与する対象は、ミトコンドリア機能に異常を有し、かつ、萎縮した胸腺を有する対象であり得る。胸腺の萎縮は、対象と同じ年齢の個体が有する通常の胸腺と比較することにより決定され得る。本発明によれば、本発明のミトコンドリアまたは細胞を投与する対象は、ミトコンドリア機能に異常を有し、かつ、免疫機能に異常を有する対象であり得る。ミトコンドリア機能の異常は、たとえば、ミトコンドリアの膜電位を健常者のミトコンドリアの膜電位と比較することにより決定され得る。
【実施例0068】
実施例1:Ndufs4遺伝子ノックアウトマウスの表現型の詳細の解析
Ndufs4遺伝子は、ヒトにおいて、常染色体に存在し、ミトコンドリア内膜の呼吸鎖複合体I(NADH:ユビキノンオキシドレダクターゼ)の18kDaのアクセサリーサブユニット(NADH:ユビキノンオキシドレダクターゼ コアサブユニット S4)をコードする。Ndufs4遺伝子の変異は、常染色体劣性であるミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iの欠乏に関係している。この複合体Iの欠乏は、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化傷害の最も頻度の高い酵素欠陥であるとされる。本実施例では、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて、胸腺が野生型やヘテロよりも有意に萎縮していることを見出した。
【0069】
野生型、ヘテロおよびNdufs4ノックアウトマウス(それぞれ4週齢、n=14~16)の末梢血をそれぞれ回収し、血液成分を分析した。Ndufs4ノックアウトマウス(The Jackson Laboratory, Stock No.: 027058)は、Kruse SE et al., Cell Metabolism., 7(4):312-320, 2008に記載の通りである。血液成分の分析の結果は、表1に示される通りであった。
【0070】
【0071】
表1に示されるように、Ndufs4ノックアウトマウスにおいては、全血球細胞数の減少が認められた。表1に示されるように、Ndufs4ノックアウトマウスでは、リンパ球、およびB細胞の統計学的に有意な減少が認められた。
【0072】
野生型、ヘテロマウス、およびNdufs4ノックアウトマウスからそれぞれ胸腺を摘出し、胸腺中の胸腺細胞の数を計数した。その結果、
図1に示されるように、Ndufs4ホモノックアウトマウスでは、野生型やヘテロよりも胸腺細胞数が有意に減少していた。また、
図2に示されるように、体重(BW)あたりの胸腺細胞数においても、Ndufs4ホモノックアウトマウスでは、野生型やヘテロよりも有意に減少していた。さらには、胸腺細胞からCD4/CD8ダブルネガティブT細胞の数、CD4/CD8ダブルポジティブT細胞の数をフローサイトメトリで計数した。その結果、
図3に示されるように体重あたりのCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞数においては、野生型やヘテロよりも、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて減少の傾向が認められた。また、
図4に示されるように、体重あたりのCD4/CD8ダブルポジティブT細胞の細胞数においては、野生型やヘテロよりも、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて統計学的に有意に減少していた。このように、Ndufs4ノックアウトマウスにおいては、胸腺が萎縮しており、胸腺細胞数および体重あたりのCD4/CD8ダブルポジティブT細胞の細胞数において、野生型やヘテロよりも統計学的に有意に減少していた。胸腺細胞数および体重あたりのCD4/CD8ダブルポジティブT細胞の細胞数において、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞よりも、減少の程度が大きいことは、胸腺におけるT細胞の発達に関して胸腺におけるミトコンドリア機能の異常が関与していることを示す。
【0073】
Ndufs4ヘテロマウス同士を交配し、同腹産仔として得られた、野生型、ヘテロおよびNdufs4ノックアウトマウス(3週齢、雌)の脾臓をそれぞれ摘出し、脾臓に集まってきたB細胞の前駆細胞をAA4.1とCD45RとB220の発現に基づくフローサイトメトリにより分析した。その結果、
図5に示されるように、野生型およびヘテロに対して、Ndufs4ノックアウトマウスにおいては、全単核球数が有意に低下していた上に、B細胞の前駆細胞の割合も低下していた。
【0074】
Ndufs4ノックアウトマウスの骨髄から造血前駆細胞を単離し、その増殖能および分化能を検証した。
図6に示されるように、Ndufs4ヘテロマウス同士を交配し、同腹産仔として得られた、野生型、ヘテロおよびNdufs4ノックアウトマウス(4週齢)から骨髄を採取した。磁気ビーズを用いて、リニエージマーカー(Mac1,Gr1,B220,CD3,TER119)陽性の細胞を除去した。その後、MS5マウスストローマ細胞と共に、1×10
4細胞の得られた細胞を共培養した。培養期間は1週間であった。その結果、
図7に示されるように、培養後の細胞集団に含まれるCD45+細胞の数が、野生型およびヘテロに比べて、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて有意に減少していた。また、
図8に示されるように、培養後の細胞集団に含まれるMac1+骨髄細胞の割合において、野生型およびヘテロに比べて、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて増加傾向が認められた。さらに、
図9に示されるように、CD19+B細胞の割合において、野生型およびヘテロに比べて、Ndufs4ノックアウトマウスにおいて有意に減少していた。
【0075】
図10に示されるように、Ndufs4ノックアウトマウス(CD45.2+)(5週齢)をレシピエントとして、950radの放射線を全身照射し、CD45.1+である6~7週齢マウスの2×10
7細胞の骨髄単核球を投与し、マウスの生存期間を評価した。その結果、
図11に示されるように、移植無し(放射線照射無し、移植無し)と比較して、骨髄単核球を移植したNdufs4ノックアウトマウスでは、全生存率(OS)が改善した。また、
図12に示されるように生存期間に関して、移植無し(放射線照射無し、移植無し)と比較して、骨髄単核球を移植したNdufs4ノックアウトマウスでは、統計学的に有意に増大した。このことは、Ndufs4ホモノックアウトマウスにおいては、骨髄細胞の異常が生じていることを示唆する結果である。また、
図13に示されるようにドナー細胞の生着は、野生型とヘテロノックアウトマウスとで相違しなかった。
【0076】
実施例2:Ndufs4ノックアウトマウスの胸腺に対する健常ミトコンドリアの移植
本実施例では、Ndufs4ノックアウトマウスの胸腺に対して、健常なミトコンドリアを移植する実験を行った。
【0077】
健常ミトコンドリアのソースとして、マウス心臓内幹細胞(CPC)を用いた。CPCをDMEM-F12培地で37℃で24時間培養した。WO2018/092839に開示された手順によって作製したRES-ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)を添加して、2時間インキュベートし、RES-ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)をCPCに導入した。得られた細胞をMITO-Cellという。RES-ミトコンドリア指向性キャリア(例えば、MITO-Porter)は、レスベラトロールを内包したミトコンドリア指向性リポソームであり、リポソームは、1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびスフィンゴミエリン(SM)の9:2のモル比で構成され、脂質量の10%のStearyl S2がさらに導入されたことにより、ミトコンドリア指向性を有するリポソームである。RES-MITO-Porterが導入された細胞では、レスベラトロールがミトコンドリアに送達され、ミトコンドリアが強化されていることが、WO2018/092839において示されている(例えば、ドキソルビシン誘発心筋症ラットモデル移植したCPCは細胞生存率を改善するが、MITO-Cell(WO2018/092839においてはMA-Cellと呼ばれている)はCPCよりもさらに大きく細胞生存率を改善する)。
【0078】
MITO-CellをMITO Tracker deep red(Thermo fisher Scientific社製)を用いて染色した。これにより、MITO-Cell中のミトコンドリアが染色された。染色後にMITO-Cell(1.0×10
6細胞)をNdufs4ノックアウトマウスの左側胸腺の胸側表面(1箇所)に注射した。移植3日後に胸腺を摘出し、常法に従って組織切片を作製して、核をHoechst 33342で染色し、その後、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLMS)で観察した。その結果、
図14および15に示されるように、MITO Tracker deep redにより染色されたMITO-Cell由来のミトコンドリアは、胸腺組織において、投与箇所を超えて広がって分布していた。このことから、移植した細胞に含まれていたミトコンドリアは、胸腺への注射によって胸腺組織に広く分布したことが示された。
【0079】
実施例3:細胞間のミトコンドリアの移動
本実施例では、ミトコンドリアが細胞間で移動することを実証する。例えば、CPCからNdufs4の細胞に対してミトコンドリアが供給されることを実証する。
【0080】
本実施例においては、ミトコンドリアを染め分けた細胞集団を共培養して、培養後に2色に染まった細胞の有無を確認する。この実験系においては、2色に染まった細胞には、2つ以上の細胞から供給されたミトコンドリアが含まれていることが示され、すなわち、ミトコンドリアがある細胞から別の細胞に移動したことが示される。
【0081】
より具体的には、
図16に示されるように、異なる細胞に由来するミトコンドリアを区別できるように、一方の細胞集団に含まれるミトコンドリアと他方の細胞集団に含まれるミトコンドリアを染め分けた。より具体的には、一方の細胞集団のミトコンドリアをMito tracker Greenを用いて緑色の蛍光を発するように染色し、他方の細胞集団のミトコンドリアをMito tracker Deep Redを用いて赤色の蛍光を発するように染色した。その後、2つの細胞集団を1つの培養液中で共培養した。この実験系では、もし、ミトコンドリアが細胞間で移動したならば、1つの細胞中で、赤く染色されたミトコンドリアと緑で染色されたミトコンドリアが共在することとなり、1つの細胞中で、赤および緑の両方の蛍光を発するか、または黄色の蛍光を発することとなる。
【0082】
マウスCPC(赤)とマウスCPC(緑)とを共培養して、24時間後にCLSMにより観察した結果を
図17に示す。
図17に示されるように、一部の細胞において、黄色の蛍光を示す細胞が認められた(白の矢尻参照)。このことから、CPC間においてミトコンドリアの移動が行われていることが示された。また、ラット心臓横紋筋細胞であるH9c2細胞(緑)とCPC(赤)とを共培養して、24時間後にCLSMにより観察した結果を
図18および19に示す。
図18および19に示されるように、一部の細胞において、黄色の蛍光を示す細胞が認められた(白の矢尻参照)。共培養中の細胞の観察から、ミトコンドリアが細胞間を移動することを見出した。また、ミトコンドリアの移動は、H9c2からCPCよりも、CPCからH9c2への移動の方が多かった。また、その結果、赤い蛍光を発する細胞の数は維持された一方で、緑の蛍光を発する細胞の数が減少し、黄色の蛍光を発する細胞の数が増加した。このことは、ミトコンドリアは、幹細胞から成熟細胞に向けて移動しやすいことを示唆する。
【0083】
さらには、MITO-CellからのH9c2細胞へのミトコンドリアの移動についても確認した。RES-MITO-Porterをニトロベンゾオキサジアゾールを用いて緑に染色した。染色されたRES-MITO-Porterを用いて、MITO traker orangeを用いてオレンジに染色し、図では青で示した。さらに、H9c2細胞内のミトコンドリアをMITO Tracker deep redを用いて赤く染色した。得られたMITO-Cellを培養皿から回収し、洗浄して培地に播種し、H9c2細胞と共培養した。共培養開始後指定された時間後にCLMSを用いて細胞を観察した。これにより、MITO-Cell中のRES-MITO-Porterの細胞間の移動を観察した。結果は、
図20および21に示される通りであった。
図20および21に示されるように、1.5時間後にはRES-MITO-Porterが細胞間を移動し始め、3時間後、24時間後と細胞に広範に伝播する様子が観察された。
【0084】
Ndufs4ノックアウトマウスから単離したCPC(緑)と野生型マウスから単離したCPC(赤)を共培養して、細胞間のミトコンドリアの移動を観察した。すると、
図22に示されるように、Ndufs4ノックアウトマウスから単離したCPCの細胞質において、赤い蛍光を発するミトコンドリアの存在が確認された(最右下パネル参照)。この結果は、野生型マウスのCPCから、Ndufs4ノックアウトマウスのCPCへとミトコンドリアが移動したことを示す結果である。
【0085】
Ndufs4ノックアウトマウスは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体Iの18kDaのアクセサリーサブユニットをコードする遺伝子のノックアウトであり、ミトコンドリア機能に異常を有する。Ndufs4ノックアウトマウスの表現型は、免疫細胞に特に強く認められ、野生型よりも萎縮した胸腺を有した。このような異常は、Ndufs4ノックアウトマウスに限って認められる異常ではなく、他のミトコンドリア機能に異常のあるモデル動物においても共通して認められる異常である(Pint M, et al., Cell Death & Differ., 2017, 24(2) 288-99)およびDai Y, et al., Mitochondrion., 2013, 13(4):282-291)。ミトコンドリア機能の異常は、加齢によっても生じることが知られているが(Zhang R, et al., BMC Genomics., 2017, 18(1):890)、加齢により胸腺の萎縮が生じることもまた知られている。特に胸腺のサイズは、10代前後がピークであり、その後急速に萎縮して70歳までにほぼ消失する(Lynch HE et al., Trends Immunol., 2009, 30(7):366-73)。胸腺の萎縮は、ミトコンドリアへの依存度が高い細胞である胸腺間質細胞(Doulias PT et al., Sci Signal., 2013, 6(256):rs1)における活性酸素の過剰産生によって生じ得る(Griffith AV et al., Cell Rep., 2015, 12(7):1071-9)。また、加齢による胸腺萎縮においても免疫異常が生じることが知られている(Taub DD and Longo DL, Immunol Rev., 2005, 205:72-93)。このように、ミトコンドリア機能の異常と胸腺の異常および免疫系の異常との間には関連がある。
【0086】
また、間葉系幹細胞(MSC)の尾静脈投与において、胸腺の萎縮と胸腺リンパ球の異常が改善するとの報告がある(Jung WS et al., Cell Biol Int., 2014, 38(10):1106-17)。また、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体I機能に障害を有するMSCの培養液は、細胞外顆粒によるミトコンドリア移動を媒介するが、胸腺萎縮と胸腺リンパ球の異常の改善が認められないとの報告がある(Morrison T et al., Am J Respir Crit Care Med., 2017, 196(10):1275-1286)。
【0087】
Ndufs4ノックアウトマウスの胸腺に対して野生型のCPCを投与したところ、野生型CPCに含まれる健常ミトコンドリアは、胸腺組織に広く分布した。培養実験によれば、ミトコンドリアは、細胞間を移動することができ、特に野生型細胞からNdufs4ノックアウトマウスの細胞に対して移動する能力を有していた。また、ミトコンドリアは必ずしも細胞内に限局せず、細胞間を頻繁に移動した。このことから、本発明によれば、健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアを胸腺に移植することによって、胸腺中にミトコンドリアを広く分布させることができると考えられる。この実験結果は、健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアを、ミトコンドリア機能の低下を有する組織に移植することによって、組織中で、当該健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアが組織に広く分布することを示したものである。これにより、本発明によれば、健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアを、ミトコンドリア機能に異常のある個体の胸腺に局所注射することによって、胸腺に健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアを供給する手法が提供される。
胸腺におけるミトコンドリア機能の回復は、胸腺機能の低下の回復、胸腺の萎縮の改善、および免疫異常の改善を誘導すると考えられる。従って、健常な呼吸鎖複合体を有するミトコンドリアが供給された胸腺では、その機能低下や機能異常がレスキューされると考えられ、本発明は、ミトコンドリア機能に異常のある個体(例えば、ミトコンドリア病の患者または60歳以上の個体)の処置において有用であり得る。
特に、活性化したミトコンドリアが供給された胸腺では、その機能低下や機能異常がより強くレスキューされると考えられる(WO2018/092839)。従って、本発明では、活性化したミトコンドリアを胸腺に供給する手法が提供され、ミトコンドリア機能に異常のある個体(例えば、ミトコンドリア病の患者または60歳以上の個体)の処置において有用であり得る。