(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004182
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】捺染インクジェット用水性顔料インク及び捺染物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240109BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103702
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】古山 岳史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD01
4J039AD03
4J039AD05
4J039AD07
4J039AD08
4J039AD10
4J039AE03
4J039AE04
4J039AE06
4J039AE11
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE25
4J039BE30
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA38
4J039EA43
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】洗濯堅牢性に優れる捺染物を製造するための捺染インクジェット用水性顔料インクを提供する。
【解決手段】顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む、捺染インクジェット用水性顔料インクであって、前記捺染インクジェット用水性顔料インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である、捺染インクジェット用水性顔料インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む、捺染インクジェット用水性顔料インクであって、
前記捺染インクジェット用水性顔料インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である、捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項2】
前記インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率が10%以下である、請求項1に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項3】
前記インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が100%以上200%以下である、請求項1又は2に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
【請求項4】
請求項1に記載の捺染インクジェット用水性顔料インクを、インクジェット法により布に付与することを含む、捺染物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、捺染インクジェット用水性顔料インク及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物、編み物、不織布等の布等に、文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、顔料インクを用いて、ダイレクト方式のインクジェット捺染を行うことが注目されている。
捺染では、画像の発色性とともに、洗濯堅牢性が求められている。
【0003】
洗濯堅牢性を向上させるための技術について、特許文献1には、インクとインクとは別のコート液とを用いる方法が開示され、特許文献2には、破断伸度が1200~1800%である高伸度の樹脂と少量の架橋剤とを含むインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-71957号公報
【特許文献2】特開2019-31611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態は、洗濯堅牢性に優れる捺染物を製造するための捺染インクジェット用水性顔料インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む、捺染インクジェット用水性顔料インクであって、前記捺染インクジェット用水性顔料インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である、捺染インクジェット用水性顔料インクに関する。
本発明の他の実施形態は、上記した一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクを、インクジェット法により布に付与することを含む、捺染物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、洗濯堅牢性に優れる捺染物を製造するための捺染インクジェット用水性顔料インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことはいうまでもない。
【0009】
一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクは、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む、捺染インクジェット用水性顔料インクであって、捺染インクジェット用水性顔料インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である、捺染インクジェット用水性顔料インクである。
以下、「捺染インクジェット用水性顔料インク」を、単に「インク」又は「水性インク」と記載する場合もある。
【0010】
洗濯堅牢性に優れる捺染物を製造するための捺染インクジェット用水性顔料インクを提供するために本発明者らが鋭意検討した結果、インクを乾燥させて作製したインク皮膜を水に浸漬させると、インク皮膜の重量及び皮膜伸度が変化し得ることがわかり、さらに水浸漬前後のインク皮膜の重量変化率と水浸漬後のインク皮膜の皮膜伸度が、そのインクを用いた捺染印刷物の洗濯堅牢性に大きく関係していることを見出した。
ここで特に、インク皮膜を浸漬する水として、50℃の温水を用いると、水浸漬前後のインク皮膜の重量変化率と捺染印刷物の洗濯堅牢性との相関関係、及び、水浸漬後のインク皮膜の皮膜伸度と捺染印刷物の洗濯堅牢性との相関関係を、高くすることができる。特定の理論に拘束されるものではないが、この理由は、50℃の温水をインク皮膜と接触させることで、インク皮膜内の樹脂分子構造や結合状態を、実際の洗濯堅牢性を評価するときの膜に近い構造や状態にできるためであると推測される。
【0011】
インク皮膜の重量が、50℃の温水浸漬後に増加する場合、水がインク皮膜内に侵入している、及び/又は、水によりインク皮膜が変質することが考えられる。前者の場合、インク皮膜の緻密性が低いことが示唆されており、洗濯において受ける外力によってインク皮膜が破壊されやすくなると考えられる。後者の場合、繰り返し行われる洗濯により、インク皮膜が劣化して破壊されやすくなると考えられる。これらのことから、洗濯堅牢性の観点では、インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率は小さいほうが好ましく、20%以下であることが好ましい。
【0012】
インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上の場合、洗濯における布の伸びにインク皮膜が追従しやすく、インク皮膜が外力により破壊されにくいと考えられる。一方、樹脂は、一般に皮膜伸度が高いほど、弾性力、すなわち、伸ばしたときに戻ろうとする力が弱くなる傾向があるが、インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が300%以下であれば、インク皮膜が洗濯時の布の伸縮に耐えられる弾性力を十分に確保できるため、インク皮膜が破壊されにくいと考えられる。
【0013】
このように、インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である場合、洗濯堅牢性を良好なものとすることができる。
【0014】
捺染インクジェット用水性顔料インクは色材として、顔料を含むことができる。
【0015】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
インク中における顔料粒子の平均粒子径は、吐出安定性と保存安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。顔料の含有量は、印刷濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~15質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
顔料として自己分散性顔料を配合してもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
【0018】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0019】
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200」、「CAB-O-JET300」、「CAB-O-JET250C」、「CAB-O-JET260M」、「CAB-O-JET270」、「CAB-O-JET400」、「CAB-O-JET450C」等、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-1」、「BONJET BLACK CW-2」、「BONJET BLACK CW-3」、「BONJET BLACK CW-4」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
顔料として、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を用いてもよい。
【0020】
顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。顔料分散剤で分散された顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製HOSTAJETシリーズ、冨士色素株式会社製FUJI SPシリーズ等が挙げられる。後述する顔料分散剤で分散された顔料分散体を使用してもよい。
【0021】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤、界面活性剤型分散剤等に代表される顔料分散剤を用いることができる。
高分子分散剤としては、例えば、市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W」、「TEGOディスパース750W」、「TEGOディスパース755W」、「TEGOディスパース757W」、「TEGOディスパース760W」等、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース41090」、「ソルスパース43000」、「ソルスパース44000」、「ソルスパース46000」等、BASFジャパン株式会社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57」、「ジョンクリル60」、「ジョンクリル62」、「ジョンクリル63」、「ジョンクリル71」、「ジョンクリル501」等、ビックケミージャパン株式会社製の「DISPERBYK-102」、「DISPERBYK-185」、「DISPERBYK-190」、「DISPERBYK-193」、「DISPERBYK-199」等、第一工業製薬株式会社製の「ポリビニルピロリドンK-30」、「ポリビニルピロリドンK-90」等が挙げられる(いずれも商品名)。
界面活性剤型分散剤としては、例えば、花王株式会社製デモールシリーズ「デモールP」、「デモールEP」、「デモールN」、「デモールRN」、「デモールNL」、「デモールRNL」、「デモールT-45」等のアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60」、「エマルゲンA-90」、「エマルゲンA-500」、「エマルゲンB-40」、「エマルゲンL-40」、「エマルゲン420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0022】
顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の含有量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分の質量比で顔料1に対し、0.005~0.5が好ましい。
【0023】
捺染インクジェット用水性顔料インクは、水分散性樹脂を含むことができる。
水分散性樹脂は、水性溶媒中で分散可能な樹脂粒子であることが好ましい。水分散性樹脂は、例えば、水中油型樹脂エマルションとしてインクに配合することが可能である。
水分散性樹脂は、水に安定に分散させるために親水性基及び/又は親水性セグメントが導入された自己乳化型のものでもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となるものでもよい。
【0024】
水分散性樹脂は、アニオン性水分散性樹脂、カチオン性水分散性樹脂、非イオン性水分散性樹脂、または両性水分散性樹脂のいずれであってもよい。水分散性樹脂としては、例えば、アニオン性水分散性樹脂、非イオン性水分散性樹脂又はこれらの組合せを好ましく用いることができる。
【0025】
水分散性樹脂の平均粒子径は、インクジェット吐出性の観点から、600nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下がより好ましい。例えば、樹脂粒子の平均粒子径は、10nm~600nmの範囲であってよく、50nm~300nmの範囲であってよく、50nm~200nmの範囲であってよい。水分散性樹脂の平均粒子径は、動的光散乱法による体積基準の平均粒子径である。
【0026】
水分散性樹脂の種類としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
水分散性樹脂としては、例えば、
スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の共役ジエン系樹脂;
アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体、またはこれらとスチレン等との共重合体等のアクリル系樹脂;
エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、
あるいはこれらの各種樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂;
メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキッド樹脂等、の水分散性樹脂が挙げられる。これらの単独樹脂の樹脂エマルションを用いてもよく、ハイブリッド型の樹脂エマルションを用いてもよい。
【0028】
これらの水分散性樹脂のなかでも、例えば、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、又はこれらの組合せを好ましく用いることができる。
ポリウレタン樹脂としては、脂肪族ポリウレタン及び芳香族ポリウレタンのいずれであってもよい。また、ポリウレタン樹脂の例としては、例えば、エーテル系ポリウレタン樹脂、エステル系ポリウレタン樹脂、エステル・エーテル系ポリウレタン樹脂、カーボネート系ポリウレタン等が挙げられる。
【0029】
これらの水分散性樹脂は、1種を単独で使用してもよいが、所望するインク皮膜の特性の得やすさの観点から、2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
インクは、例えば、水分散性アクリル系樹脂及び水分散性ポリウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも2種を含むことが好ましい。例えば、複数種の水分散性ポリウレタン樹脂を組み合わせても良いし、水分散性アクリル系樹脂と水分散性ポリウレタン樹脂を組み合わせても良い。
【0030】
水分散性樹脂のガラス転移点はとくに限定されない。
水分散性樹脂のガラス転移点は、例えば、150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。一方、水分散性樹脂のガラス転移点は、-50℃以上が好ましく、-40℃以上がより好ましく、-30℃以上がより好ましい。水分散性樹脂のガラス転移点は、例えば、-50℃~150℃が好ましく、-40℃~100℃がより好ましく、-30℃~80℃がさらに好ましい。
【0031】
インクは、ガラス転移点が異なる2種以上の水分散性樹脂を含むことが好ましい。例えば、インクは、ガラス転移点が15℃以上の水分散性樹脂と、ガラス転移点が15℃未満の水分散性樹脂とを含むことが好ましい。
【0032】
ガラス転移点が15℃以上の水分散性樹脂のガラス転移点は、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点が15℃以上の水分散性樹脂のガラス転移点は、例えば、15℃~150℃がより好ましく、20℃~100℃がさらに好ましく、30℃~80℃がさらに好ましい。
【0033】
ガラス転移点が15℃未満の水分散性樹脂のガラス転移点は、14℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましく、5℃以下がさらに好ましい。ガラス転移点が15℃未満の水分散性樹脂のガラス転移点は、例えば、-50℃以上15℃未満がより好ましく、-50℃~14℃がさらに好ましく、-40℃~10℃がさらに好ましく、-30℃~5℃がさらに好ましい。
【0034】
本開示において、樹脂のガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)にしたがって測定することができる。
【0035】
水分散性樹脂の皮膜伸度はとくに限定されない。
水分散性樹脂の皮膜伸度は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。一方、水分散性樹脂の皮膜伸度は、1800%以下が好ましく、1700%以下がより好ましく、1600%以下がさらに好ましい。水分散性樹脂の皮膜伸度は、例えば、1~1800%が好ましく、2~1700%がより好ましく、5~1600%がさらに好ましい。
【0036】
インクは、皮膜伸度の異なる2種以上の水分散性樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
例えば、インクは、皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂と、皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂とを含むことが好ましい。
【0038】
皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂の皮膜伸度は、500%以上がより好ましく、600%以上がさらに好ましく、700%以上がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂の皮膜伸度は、例えば、400~1800%がより好ましく、500~1700%がさらに好ましく、600~1700%がさらに好ましく、700~1600%がさらに好ましい。
【0039】
皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂の皮膜伸度は、300%以下がより好ましく、250%以下がさらに好ましく、200%以下がさらに好ましく、150%以下がさらに好ましく、100%以下がさらに好ましい。皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂の皮膜伸度は、例えば、1%以上400%未満が好ましく、1~300%がより好ましく、2~250%がさらに好ましく、2~200%がさらに好ましく、2~250%がさらに好ましく、2~150%がさらに好ましく、5~100%がさらに好ましい。
【0040】
ここで、水分散性樹脂の皮膜伸度は、次の手順にしたがって測定することができる。
まず、乾燥後の膜厚が500μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上に水分散性樹脂の水性樹脂エマルションを塗布し、23℃で15時間、さらに80℃で6時間、さらに120℃で20分の乾燥を行った後、シートから剥離して樹脂皮膜を作製する。この樹脂皮膜を、JIS K6251に準拠するダンベル型試験片打抜刃8号型を用いて打ち抜いて、試験片を作製する。
【0041】
引張試験機を用い、測定温度20℃、測定スピード500mm/min、チャック間距離20mm、ロードセル荷重50Nの条件で、上記のようにして作製した試験片を伸長させて、試験片が破断するまでに伸長する試験片の長さ(「伸長後の試験片長さ」とも記す)LRFを測定し、伸長させる前の試験片の長さLRF0及び伸長後の試験片長さLRFを用い、下記の式によって皮膜伸度(%)を求めることができる。
皮膜伸度(%)={(LRF-LRF0)/LRF0}×100
【0042】
引張試験機としては、テンシロン万能試験機RTC-1225A(株式会社オリエンテック製)を用いることができる。
【0043】
水分散性樹脂の水性樹脂エマルションの市販品としては、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス500M」、「スーパーフレックス460」、ダイセルオルネクス株式会社製「DAOTAN TW6493/35WA」、株式会社ADEKA製「アデカボンタイターHUX-2520」、「アデカボンタイターHUX-841」、Covestro Coating Resins社製「NeoCryl XK-12」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0044】
水分散性樹脂は、1種を単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することがより好ましい。
水分散性樹脂は、インク全量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。水分散性樹脂は、インク全量に対して25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。水分散性樹脂は、例えば、インク全量に対して、1~25質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、2~15質量%がさらに好ましく、3~12質量%がさらに好ましい。
【0045】
インクが皮膜伸度の異なる2種以上の水分散性樹脂を含む場合、これらの質量比はとくに限定されない。水分散性樹脂の皮膜伸度等によって適宜選択することが好ましい。例えば、皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂と、皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂の質量比は、9:1~3:7が好ましく、4:1~2:3がより好ましい。
【0046】
皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク全量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク全量に対して15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク全量に対して、例えば、1~15質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましく、2~8質量%がさらに好ましい。
【0047】
皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂は、インク全量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂は、インク全量に対して20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。皮膜伸度が400%未満の水分散性樹脂は、インク全量に対して、例えば、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。
【0048】
皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以上の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、30~90質量%が好ましく、35~85質量%がより好ましく、40~80質量%がさらに好ましい。
【0049】
皮膜伸度が400%以下の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以下の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。皮膜伸度が400%以下の水分散性樹脂は、インク中の水分散性樹脂の総量に対して、10~70質量%が好ましく、15~65質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。
【0050】
捺染インクジェット用水性顔料インクは、水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。
特に、インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
【0051】
水は、インク粘度の調整の観点から、インク全量に対して、25~80質量%で含まれることが好ましく、30~85質量%で含まれることがより好ましく、35~80質量%で含まれることがさらに好ましい。
【0052】
捺染インクジェット用水性顔料インクには、水溶性有機溶剤を配合することが好ましい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0053】
水溶性有機溶剤としては、乾燥性が高い、沸点があまり高くない溶剤を用いることが好ましい。このような水溶性有機溶剤の沸点は、250℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましい。沸点250℃以下の水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、1,2-ブタンジオール(沸点194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)等が挙げられる。
【0054】
水溶性有機溶剤は、1種を単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、インク全量に対し、5~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0055】
インク中の水溶性有機溶剤全量に対する、沸点250℃以下の水溶性有機溶剤の含有量は、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。インク中の水溶性有機溶剤全量に対する、沸点250℃以下の水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、99質量%以下、90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。例えば、インク中の水溶性有機溶剤全量に対する、沸点250℃以下の水溶性有機溶剤の含有量は、20~99質量%が好ましく、40~99質量%がより好ましく、60~90質量%がさらに好ましく、70~80質量%がさらに好ましい。
沸点250℃以下の水溶性有機溶剤は、インク全量に対して、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。沸点250℃以下の水溶性有機溶剤は、インク全量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。沸点250℃以下の水溶性有機溶剤は、例えば、インク全量に対して、2~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
【0056】
捺染インクジェット用水性顔料インクは、架橋剤を含むことが好ましい。
架橋剤としては、例えば、カルボジイミド系化合物、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物等を挙げることができる。
カルボジイミド系化合物の市販品としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-02」等が挙げられる。イソシアネート系化合物の市販品としては、例えば、三井化学株式会社製「タケネートWB-3021」等が挙げられる。オキサゾリン系化合物の市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロスK2020E」等が挙げられる。
【0057】
架橋剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。架橋剤は、インク全量に対し、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。架橋剤は、インク全量に対し、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。架橋剤は、インク全量に対し、0.01~2質量%が好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましい。
【0058】
捺染インクジェット用水性顔料インクは、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤又はこれらの組合せを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0059】
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましい。
【0060】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0061】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、エボニックインダストリーズ社製サーフィノールシリーズ「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」等、日信化学工業株式会社製オルフィンシリーズ「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0062】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAG002」、「シルフェイス503A」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0063】
また、その他の非イオン性界面活性剤として、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲン102KG」、「エマルゲン103」、「エマルゲン104P」、「エマルゲン105」、「エマルゲン106」、「エマルゲン108」、「エマルゲン120」、「エマルゲン147」、「エマルゲン150」、「エマルゲン220」、「エマルゲン350」、「エマルゲン404」、「エマルゲン420」、「エマルゲン705」、「エマルゲン707」、「エマルゲン709」、「エマルゲン1108」、「エマルゲン4085」、「エマルゲン2025G」等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0064】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製エマールシリーズ「エマール0」、「エマール10」、「エマール2F」、「エマール40」、「エマール20C」等、ネオペレックスシリーズ「ネオペレックスGS」、「ネオペレックスG-15」、「ネオペレックスG-25」、「ネオペレックスG-65」等、ペレックスシリーズ「ペレックスOT-P」、「ペレックスTR」、「ペレックスCS」、「ペレックスTA」、「ペレックスSS-L」、「ペレックスSS-H」等、デモールシリーズ「デモールN、デモールNL」、「デモールRN」、「デモールMS」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0065】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アセタミンシリーズ「アセタミン24」、「アセタミン86」等、コータミンシリーズ「コータミン24P」、コータミン86P」、「コータミン60W」、「コータミン86W」等、サニゾールシリーズ「サニゾールC」、「サニゾールB-50」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0066】
両性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アンヒトールシリーズ「アンヒトール20BS」、「アンヒトール24B」、「アンヒトール86B」、「アンヒトール20YB」、「アンヒトール20N」等が挙げられる(いずれも商品名)。
上記した界面活性剤は1種単独で用いることが好ましいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
界面活性剤の含有量は、インク全量に対し、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.2~3質量%がさらに好ましい。
【0068】
捺染インクジェット用水性顔料インクは、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、pH調整剤、防腐剤等が挙げられる。
【0069】
捺染インクジェット用水性顔料インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことによりインクを得ることができる。
【0070】
洗濯堅牢性の向上の観点から、インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらにより好ましい。
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率は、例えば、0%、0%超、0.1%以上、又は1%以上であってよい。
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率は、例えば、0~20%、0.1~15%、又は1~15%であってもよい。
【0071】
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率は、以下のようにして求めることができる。
まず、乾燥後の膜厚が200μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上にインクを塗布し、70℃で60分、さらに120℃で20分、さらに160℃で10分の乾燥を行った後、シートから剥離して、インク皮膜を作製することができる。乾燥条件は、インクの沸騰による気泡の混入がなく、実際の印刷物にかける最高温度に近い温度を与えて平滑で均質なインク皮膜を作ることができる条件であれば、前述の条件に限られることはない。
【0072】
上記のようにして作製したインク皮膜を、JIS K6251に準拠するダンベル型試験片打抜刃8号型を用いて打抜いて試験片を作製する。
作製した試験片の重量(A)を測定した後、試験片を50℃の温水に浸漬して温水中で24時間保持した後に取り出し、試験片の水滴をふき取った後、試験片を恒温室(23℃、50%)で2時間乾燥させ、その後、試験片の重量(B)を測定する。50℃温水浸漬前後の重量変化率は、上記のようにして測定した浸漬前の試験片の重量(A)及び浸漬後の試験片の重量(B)を用い、下記式から求めることができる。
50℃温水浸漬前後の重量変化率(%)={(B-A)/A}×100
【0073】
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率は、例えば、インク皮膜の緻密性を調整することによって調整することができる。例えば、インク皮膜の緻密性を高め、インク皮膜の耐水性を高めて、50℃温水浸漬前後の重量変化率を低くすることができる。インク皮膜の緻密性を高める方法としては、例えば、乾燥性を高めるために、高沸点の水溶性有機溶剤の使用量を減らし、代わりに低沸点の水溶性有機溶剤を用いること、及び、架橋剤をインクに配合すること、などが挙げられ、このような方法のいずれかを用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
洗濯時の布の伸縮に耐え得る弾性力、及びそれによる洗濯堅牢性の向上の観点から、インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、300%以下であることが好ましく、250%以下であることが好ましく、200%以下であることがさらに好ましい。一方、洗濯時の布の伸びに対するインク皮膜の追従しやすさ、及び、それによる洗濯堅牢性の向上の観点から、インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、100%以上であることがより好ましい。インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、50~300%が好ましく、70~250%がより好ましく、100~200%がさらに好ましい。
【0075】
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、次の手順に従って測定することができる。まず、インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率の測定で説明したインク皮膜の作製方法で、インク皮膜を作製することができる。このようにして作製したインク皮膜を、JIS K6251に準拠するダンベル型試験片打抜刃8号型を用いて打抜いて、試験片を作製する。
【0076】
引張試験機を用い、測定温度20℃、測定スピード500mm/min、チャック間距離20mm、ロードセル荷重50Nの条件で、上記のようにして作製した試験片を伸長させて、試験片が破断するまでに伸長する試験片の長さ(「伸長後の試験片長さ」とも記す)LIFを測定し、伸長させる前の試験片の長さLIF0及び伸長後の試験片長さLIFを用い、下記の式によって皮膜伸度(%)を求めることができる。
皮膜伸度(%)={(LIF-LIF0)/LIF0}×100
【0077】
引張試験機としては、テンシロン万能試験機RTC-1225A(株式会社オリエンテック製)を用いることができる。
【0078】
インクを乾燥させて作製したインク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、例えば、水分散性樹脂の種類、組み合わせ及び配合比などにより調整することができる。例えば、皮膜伸度の異なる2種以上の水分散性樹脂を用いることが好ましい。皮膜伸度の異なる2種以上の水分散性樹脂の配合比は、各樹脂の皮膜伸度を考慮して選択することが好ましい。インク皮膜の皮膜伸度は、温水に浸漬することにより温水浸漬前よりも低下する傾向があることを考慮に入れて、調整することが好ましい。
【0079】
捺染インクジェット用水性顔料インクのpHは、インクの貯蔵安定性の観点から、7.0~10.0が好ましく、7.5~9.0がより好ましい。
捺染インクジェット用水性顔料インクの粘度は、例えばインクジェット吐出性の観点から、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0080】
一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクは、布への印刷に好ましく用いることができる。
布に含まれる繊維としては、例えば、綿、絹、羊毛、麻等の天然繊維;ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、キュプラ、アセテート等の化学繊維等が挙げられる。布は、1種または2種以上の繊維を含んでよい。また、布は、織物、編物、又は不織布等であってよい。
【0081】
<捺染物の製造方法>
以下、一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いて捺染物を製造する方法について説明する。
一実施形態の捺染物の製造方法は、捺染インクジェット用水性顔料インクをインクジェット法により布に付与することを含むことができる。捺染インクジェット用水性顔料インクとして、上述の一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いることができる。布としては、上述の一実施形態の捺染インクジェット用水性顔料インクを用いることができる布として説明した布を用いることができる。
【0082】
インクは、インクジェット法で布に付与することが好ましい。インクジェット法は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などのいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから前処理液又はインクの液滴を吐出させ、吐出された液滴を布に付着させるようにすることが好ましい。
【0083】
布へのインクの付与量は特に限定されないが、例えば、5~60g/m2が好ましく、10~30g/m2がより好ましい。
【0084】
1種類のインクを布に付与してもよく、2種類以上のインクを布に付与してもよい。
【0085】
インクを布に付与した後に、布を熱処理する工程を設けることが好ましい。
熱処理温度は、布の材料等によって適宜選択することができる。熱処理温度は、例えば、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。熱処理温度は、布へのダメージを低減する観点から、200℃以下が好ましい。
加熱装置は、特に制限されないが、例えば、ヒートプレス、ロールヒータ、温風装置、赤外線ランプヒーター等を用いることができる。
加熱処理時間は、加熱方法等に応じて適宜設定すればよく、例えば、1秒~10分が好ましく、5秒~5分であってよい。
【0086】
インクを付与する前に、前処理液を布に付与してもよい。
インクを布に付与した後に、後処理液を布に付与してもよい。
例えば、前処理液を付与した後、及び/又は、インクを付与した後、及び/又は後処理液を付与した後に、布を熱処理してもよい。
【0087】
<付記>
本開示は、下記の実施形態を含む。
(付記1)
顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む、捺染インクジェット用水性顔料インクであって、
前記捺染インクジェット用水性顔料インクを乾燥させて作製したインク皮膜の、50℃温水浸漬前後の重量変化率が20%以下であり、かつ、50℃温水浸漬後の皮膜伸度が50%以上300%以下である、捺染インクジェット用水性顔料インク。
(付記2)
前記インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率が10%以下である、付記1に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク。
(付記3)
前記インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が100%以上200%以下である、付記1又は2に記載の捺染インクジェット用水性顔料インク
(付記4)
付記1~3のいずれか1項に記載の捺染インクジェット用水性顔料インクを、インクジェット法により布に付与することを含む、捺染物の製造方法。
【実施例0088】
以下、本発明の実施形態を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0089】
1.捺染インクジェット用水性顔料インクの作製
表1~3に実施例1~9及び比較例1~5のインクの処方を示す。表1~3に示す処方に従い原材料を混合し、孔径3μmのメンブレンフィルターで濾過して、インクを得た。
表1~3に示す各原材料の量の単位は質量%である。また、表1~3において、顔料分散体及び樹脂エマルションの量は、それぞれ水性媒体等を含む全体量で示す。表に記載のカルボジライトV-02(商品名)及びエポクロスK2020E(商品名)も水性媒体等を含み、それらの量は、表中において、それぞれ水性媒体等を含む全体量で示す。
【0090】
表1~3に記載の原材料の詳細は以下の通りである。
【0091】
(顔料分散体)
CAB-O-JET400(商品名):自己分散顔料分散体(黒)、キャボット社製、顔料分15質量%
【0092】
(樹脂エマルション)
スーパーフレックス500M(商品名):ポリウレタン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製、樹脂分45質量%、ガラス転移点(Tg):-39℃、皮膜伸度:1100%
スーパーフレックス460(商品名):ポリウレタン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製、樹脂分38質量%、ガラス転移点(Tg):-21℃、皮膜伸度:750%
DAOTAN TW6493/35WA(商品名):ポリウレタン樹脂エマルション、ダイセルオルネクス株式会社製、樹脂分33質量%、ガラス転移点(Tg):100℃、皮膜伸度:70%
アデカボンタイターHUX-2520(商品名):ポリウレタン樹脂エマルション、株式会社ADEKA製、樹脂分32質量%、皮膜伸度:5%
アデカボンタイターHUX-841(商品名):ポリウレタン樹脂エマルション、株式会社ADEKA製、樹脂分32質量%、皮膜伸度:210%
NeoCryl XK-12(商品名):アクリル系樹脂エマルション、Covestro Coating Resins社製、樹脂分45質量%、ガラス転移点(Tg):21℃
【0093】
(架橋剤)
カルボジライトV-02(商品名):カルボジイミド系化合物、日清紡ケミカル株式会社製、有効成分40質量%
エポクロスK2020E(商品名):オキサゾリン系化合物、日本触媒株式会社製、有効成分40質量%
【0094】
(界面活性剤)
オルフィンE1010(商品名):アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製、有効成分100質量%
【0095】
(水溶性有機溶剤)
グリセリン:富士フイルム和光純薬株式会社製
ジエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0096】
2.樹脂エマルションの皮膜伸度の測定
表中に記載の樹脂エマルションの皮膜伸度は、以下の手順で得られた値である。
まず、乾燥後の膜厚が500μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上に樹脂エマルションを塗布し、23℃で15時間、さらに80℃で6時間、さらに120℃で20分の乾燥を行った後、シートから剥離して樹脂皮膜を作製した。この樹脂皮膜を、JIS K6251に準拠するダンベル型試験片打抜刃8号型を用いて打ち抜いて試験片を作製した。
【0097】
テンシロン万能試験機RTC-1225A(株式会社オリエンテック製)を用い、測定温度20℃、測定スピード500mm/min、チャック間距離20mm、ロードセル荷重50Nの条件で、作製した試験片を伸長させて、試験片が破断するまでに伸長する試験片の長さ(「伸長後の試験片長さ」とも記す)LRFを測定し、伸長させる前の試験片の長さLRF0及び伸長後の試験片長さLRFを用い、下記の式によって皮膜伸度(%)を求めた。
伸度(%)={(LRF-LRF0)/LRF0}×100
【0098】
3.インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率の測定
表中に記載のインク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率は、以下の手順で得られた値である。
まず、乾燥後の膜厚が200μmになるように、ポリテトラフルオロエチレンシート上にインクを塗布し、70℃で60分、さらに120℃で20分、さらに160℃で10分の乾燥を行った後、シートから剥離して、インク皮膜を作製した。このインク皮膜を、JIS K6251に準拠するダンベル型試験片打抜刃8号型を用いて打抜いて試験片を作製した。
【0099】
作製した試験片の重量(A)を測定した後、試験片を50℃の温水に浸漬して温水中で24時間保持した後に取り出し、試験片の水滴をふき取った後、試験片を恒温室(23℃、50%)で2時間乾燥させ、その後、試験片の重量(B)を測定した。50℃温水浸漬前後の重量変化率は、上記のようにして測定した浸漬前の試験片の重量(A)及び浸漬後の試験片の重量(B)を用い、下記式から求めた。
50℃温水浸漬前後の重量変化率(%)={(B-A)/A}×100
【0100】
4.インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度の測定
表中に記載のインク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度は、以下の手順で得られた値である。
上述のインク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率の測定における試験片の作製方法と同じ方法によって試験片を作製した。
【0101】
テンシロン万能試験機RTC-1225A(株式会社オリエンテック製)を用い、測定温度20℃、測定スピード500mm/min、チャック間距離20mm、ロードセル荷重50Nの条件で、作製した試験片を伸長させて試験片が破断するまでに伸長した試験片の長さ(「伸長後の試験片長さ」とも記す)LIFを測定し、伸長させる前の試験片の長さLIF0及び伸長後の試験片長さLIFを用い、下記の式によって皮膜伸度(%)を求めた。
皮膜伸度(%)={(LIF-LIF0)/LIF0}×100
【0102】
5.捺染物の作製
上記で作製したインクを用いて、以下の手順で実施例1~8及び比較例1~5の捺染物を作製した。
【0103】
基材として、トムス株式会社製綿Tシャツ(製品名Printstar)を用い、この綿Tシャツの表面の10cm×20cmの部分に、捺染インクジェット用水性顔料インクをインクジェット法で付与して黒ベタ画像を印刷した。インクの付与量は20g/m2とした。インクの付与には、印刷装置として、マスターマインド社製「MMP-8130」を使用した。インク付与後、FUSION社製ヒートプレス機を使用して160℃で2分間加熱乾燥させ、捺染物を得た。
【0104】
6.洗濯堅牢度の評価
実施例1~9及び比較例1~5の捺染物の洗濯堅牢度を、JIS L 844:2011のA-2号規格にそって評価し、以下の基準で判断した。結果を表1~3に示す。
A:変退色4級以上
B:変退色3-4級
C:変退色3級以下
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~9の捺染物は、いずれも洗濯堅牢度が良好であった。
これに対して、インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率及びインク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度がいずれも高すぎる比較例1及び2、インク皮膜の50℃温水浸漬前後の重量変化率が高すぎる比較例3及び4、インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が高すぎる比較例5、インク皮膜の50℃温水浸漬後の皮膜伸度が低すぎる比較例6では、いずれも、洗濯堅牢度が低下していた。