(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041855
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】大うつ病性障害の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20240319BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240319BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P25/24
A61K31/135
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024000939
(22)【出願日】2024-01-09
(62)【分割の表示】P 2020569956の分割
【原出願日】2019-06-27
(31)【優先権主張番号】62/690,419
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/698,323
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/741,564
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/769,264
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518189792
【氏名又は名称】クレキシオ バイオサイエンシーズ エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】カガン、エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーゼル、ペトラ、ルイス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大うつ病性障害(MDD)の処置を必要とするヒト患者においてMDDを処置する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも28日間の処置レジメンにわたるエスケタミンの前記患者への投与を含み、a.前記投与のエスケタミンCmaxが30ng/ml以下であり、またはb.前記投与のエスケタミンAUC0-tが60ng*h/ml以下であり、またはc.前記投与の前記エスケタミンCmaxが、30ng/ml以下であり、かつ前記投与の前記AUC0-tが60ng*h/ml以下である、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大うつ病性障害(MDD)の処置を必要とするヒト患者においてMDDを処置する方法であって、少なくとも28日間の処置レジメンにわたるエスケタミンの前記患者への投与を含み、
a.前記投与のエスケタミンCmaxが30ng/ml以下であり、または
b.前記投与のエスケタミンAUC0-tが60ng*h/ml以下であり、または
c.前記投与の前記エスケタミンCmaxが、30ng/ml以下であり、かつ前記投与の前記AUC0-tが60ng*h/ml以下である、方法。
【請求項2】
前記処置レジメンが、28日から約730日である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処置レジメンが、28日から約365日である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が毎日である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、2日ごとに1回から月に1回の期間にわたって断続的である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が週に2回である、請求項5に記載の投与。
【請求項7】
前記投与が週に1回である、請求項5に記載の投与。
【請求項8】
前記投与が月に1回である、請求項5に記載の投与。
【請求項9】
前記断続的な投与の頻度が、前記処置レジメンにわたって変化する、請求項5に記載の投与。
【請求項10】
前記投与が経口的である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が非経口的である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が静脈内である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が鼻腔内である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記投与が直腸である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記投与が舌下である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が頬側である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
(R)-ケタミン以外の第2の薬剤の投与をさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の薬物が、抗うつ薬、抗躁薬、または抗不安薬である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗うつ薬が、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラムおよびフルボキサミンからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記投与の前記エスケタミンCmaxが、15ng/ml以下である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記投与の前記エスケタミンAUC0-tが、30ng*h/ml以下である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記投与の前記エスケタミンCmaxが、30ng/ml以下であり、かつ前記投与の前記エスケタミンAUC0-tが60ng*h/ml以下である、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記投与の前記エスケタミンCmaxが、15ng/ml以下であり、かつ前記投与の前記エスケタミンAUC0-tが30ng*h/ml以下である、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年6月27日に出願された米国仮出願第62/690,419号、2018年7月16日に出願された62/698,323号、2018年10月5日に出願された62/741,564号、および2018年11月19日に出願された62/769,264の利益を主張し、それぞれの全体が引用により本明細書に包含される。
【0002】
本開示は、エスケタミンの安全かつ効果的な投与のための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
ケタミンは、中枢神経系におけるNMDA受容体拮抗作用を主に介して作用する、非バルビツール酸塩、速効性、導入性および全身麻酔薬である。この薬物は、1970年からKetalar(登録商標)の商品名で、米国で利用可能となっている。1971年、DE206260は、ケタミンの(-)エナンチオマーであるエスケタミンについて記載した。エスケタミンは、米国での使用は承認されていないが、ヨーロッパでは、Ketanest(登録商標)Sの商品名で導入性および全身麻酔薬として利用可能である。
【0004】
Sofiaら(1975)は、うつ病を処置するために経口ケタミンの使用を提案した。Bermanら(1980)は、大うつ病の7人の患者でのケタミンの単回静脈内投与のプラセボ対照臨床試験の結果を記載した。DE102007009888は、うつ病の処置における(S)(+)-ケタミンの使用を示唆する。より最近では、うつ病が他の治療に難治性であることが証明された場合を含め、大うつ病性障害(MDD)の処置にケタミンまたはエスケタミンを使用する可能性への関心が高まっている。
【0005】
ケタミンおよびエスケタミンの医薬組成物は、静脈内、鼻腔内および経口を含む様々な投与経路を介して健康な対象および患者に投与されてきた。Clementsら(1982)は、経口ケタミンの相対的バイオアベイラビリティが17%であり、筋肉内ケタミンの相対的バイオアベイラビリティが93%であると記録する。その論文以来、他のいくつかの研究は、ケタミンの相対的な経口バイオアベイラビリティが17~24%であると記録してきた。Malinovskyら(1996)は、鼻腔内ケタミンの相対的バイオアベイラビリティが50%であり、直腸ケタミンの相対的バイオアベイラビリティが30%であると記録する。Yanagiharaら(2003)は、直腸および舌下の両方のケタミンの相対的バイオアベイラビリティが30%であると記録し、いっぽう、彼らは、鼻のバイオアベイラビリティが45%であることを見出した。
【0006】
エスケタミンは、40年以上利用可能であってきたが、非静脈内経路による相対的バイオアベイラビリティに関する発表された文献はほとんどない。Peltoniemiら(2012)は、エスケタミンの経口バイオアベイラビリティが11%であると記録し、いっぽう、Fantaら(2015)は、それがわずか8%であることを見出し、エスケタミンの初回通過代謝が、ケタミンで見出されたものよりもより広範囲であることを示唆する。残念ながら、鼻腔内および経口エスケタミンの相対的バイオアベイラビリティに関する試験のプロトコルであるNCT02343289は、2015年にすでに記載されているが、結果は発表されていない。Dalyら(2017)は、鼻腔内投与された56mgおよび84mgが、0.2mg/kgのエスケタミンの静脈内投与によって達成される薬物動態範囲内の血漿エスケタミンレベルを生成することを記録し、鼻腔内エスケタミンの相対的バイオアベイラビリティがケタミンのそれよりもかなりより低い可能性があることを示唆する。
【0007】
ケタミンの2つのエナンチオマーの相対的な有効性と安全性も、文献でかなりの議論の的となってきた。Ebertら(1997)は、エスケタミンが、(R)-ケタミンよりもNMDA受容体に対して5倍高い親和性を有することを記録する。Oyeら(1992)は、エスケタミンが、痛みの知覚を軽減し、聴覚および視覚障害を引き起こすことにおいて、(R)-ケタミンの4倍強力であったことを記録する。Domino(2010)は、エスケタミンが(R)-ケタミンよりもより強力であるようであるが、より大きい望ましくない精神模倣の副作用をまた提示することを記録する。対照的に、Zhangら(2014)およびYangら(2015)は、精神模倣副作用および乱用の傾向のないうつ病の動物モデルにおいて、(R)-ケタミンがエスケタミンよりもより強力でより長く持続する抗うつ効果を示したことを記録してきた。これは、Hashimoto(2016)などの一部が、これらの分子の抗うつ効果がNMDA受容体拮抗作用によるものではない可能性があることを示唆することにつながってきた。
【0008】
うつ病の処置におけるケタミンおよびそのエナンチオマーの使用に対する最近の関心にもかかわらず、ほとんどの臨床報告は、単回投与後の効果を記載する。Blonkら(2010)は、疼痛治療における経口ケタミンの慢性投与について記録される用量の詳細なレビューを提供し、通常、200mg/d以上の高用量が1年までおよびそれ以上の期間にわたり処方されたことを示す。Paslakisら(2010)は、最大1.25mg/kg/dの経口エスケタミンを、2人の患者が14日の時間枠にわたって彼らの処置日のうち7日にわたり最大150mg/dを受容する併用療法として、うつ病に罹患する患者に投与する4つの症例報告を記録する。Dalyら(2016)は、28mg、56mg、および84mgのエスケタミンを、週2回、最大14日にわたり患者に鼻腔内投与し、続いてさらに9週にわたり投与頻度を減らした非盲検延長試験を記録し、すべての患者は56mg/dでこの延長を開始し、ほとんどが84mg/dで試験を完了する。
【0009】
驚くべきことに、エスケタミンの高レベルの慢性投与は、変異原性のリスクの増加と関連しており、したがって、本薬物の循環血中レベルは、エスケタミンの投与について制限されるべきことが新たに発見された。
【発明の概要】
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法に関し、この方法は、エスケタミンを、少なくとも28日の処置レジメンにわたり当該患者に投与することを含み、当該投与のエスケタミンのCmaxは、30ng/ml以下である。好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、15ng/ml以下である。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法に関し、この方法は、エスケタミンを、少なくとも28日の処置レジメンにわたり当該患者に投与することを含み、投与のエスケタミンAUC0-tは、60ng*h/ml以下である。好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、30ng*h/ml以下である。
【0012】
ある好ましい実施形態において、本発明は、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法に関し、この方法は、エスケタミンを、少なくとも28日の処置レジメンにわたり当該患者に投与することを含み、当該投与のエスケタミンCmaxは、30ng/ml以下であり、かつ当該投与のAUC0-tは、60ng*h/ml以下である。より好ましい実施形態では、当該投与のCmaxが15ng/ml以下であり、かつ当該投与のエスケタミンAUC0-tが30ng*h/ml以下である。
【0013】
本発明の1つの好ましい実施形態において、エスケタミンの投与は毎日である。本発明の別の好ましい実施形態において、エスケタミンの投与は、2日に1回ないし4週に1回ないし月に1回の期間にわたり断続的である。1つの実施形態では、断続投与は、週に3回、週に2回、週に1回、または月に1回である。1つの実施形態では、断続投与の頻度は、処置レジメンにわたって変化する。
【0014】
本発明の1つの好ましい実施形態において、エスケタミンは経口投与される。本発明の別の好ましい実施形態において、エスケタミンは非経口的に投与される。本発明の1つの好ましい実施形態において、エスケタミンは鼻腔内投与される。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法は、(R)-ケタミン以外の第2の薬剤の投与をさらに含む。好ましい実施形態では、第2の薬物は、抗うつ薬、抗躁薬、または抗不安薬である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、この方法は、少なくとも28日間の処置レジメンにわたるエスケタミンの当該患者への投与を含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、「大うつ病性障害」またはMDDという用語は、1)同じ2週間の間に、以前の機能からの変化を一緒に示し、かつほぼ毎日発生する次の追加基準の5つ(またはそれ以上)とともに落ち込んだ/悲しい気分または興味および喜びの喪失の存在、i)落ち込んだ/悲しい気分、ii)興味および喜びの喪失、iii)食事をしていないときの顕著な体重減少、または体重増加または食欲の減少または増加、iv)不眠または過眠、v)精神運動興奮または遅滞、vi)疲労またはエネルギーの喪失、vii)無価値感または過度または不適切な罪悪感、viii)思考または集中力または決定の能力の減退、ix)死について繰り返して考えることまたは自殺願望、計画または試み、2)症状は、社会的、職業的または他の機能において臨床的に顕著な苦痛または障害を引き起こす、3)エピソードは、精神性障害によってよりよく説明されない、4)エピソードは、物質の生理学的または別の病状の影響に起因しない、5)躁病または軽躁病のエピソードが一度もなかったこと、の5つの基準を満たす精神障害として特徴付けられる。(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,5th Edition,American Psychiatric Association,2013)。企図される他の適応症は、Rett症候群、うつ病、難治性うつ病、自殺傾向、強迫性障害、線維筋痛症、外傷後ストレス症候群、自閉症スペクトラム障害、および遺伝性疾患に関連するうつ病を含むがこれらに限定されない障害の1つまたは複数の症状の処置、予防、または改善を含む。
【0018】
1つの実施形態では、大うつ病性障害は不安神経症を有する。別の実施形態では、障害は混合された特徴を有する。別の実施形態では、障害はメランコリックな特徴を有する。別の実施形態では、障害は非定型の特徴を有する。別の実施形態では、障害は、気分に一致する精神病的特徴を有する。別の実施形態では、障害は、気分に合わない精神病的特徴を有する。別の実施形態では、障害は緊張病を有する。別の実施形態では、障害は周産期発症を有する。別の実施形態では、障害は季節的パターンを有する。
【0019】
1つの実施形態では、大うつ病性障害は、ケタミンまたはエスケタミン以外の抗うつ薬の十分な用量および処置期間に応答しなかった。いくつかの態様では、ケタミンまたはエスケタミン以外の抗うつ薬の十分な用量および処置期間の後、非応答者は、MADRSスコアまたは類似の心理測定スコアで最大25%の改善を実証しなかった。他の態様では、非応答者は、ケタミンまたはエスケタミン以外の抗うつ薬の十分な用量および処置期間の後、MADRSスコアまたは類似の心理測定スコアで25~50%の不完全な改善を実証した。他の態様では、非応答者は、ケタミンまたはエスケタミン以外の抗うつ薬の十分な用量および処置期間の後、MADRSスコアまたは類似の心理測定スコアで最大50%の不十分な改善を示した。いくつかの態様において、ケタミンまたはエスケタミン以外の抗うつ薬の十分な用量および処置期間は、現在のうつ病エピソード中のケタミンまたはエスケタミン以外の1つまたは複数の抗うつ薬の用量および処置期間を意味する。他の態様において、十分な経過は、前のうつ病エピソード中のケタミンまたはエスケタミン以外の1つまたは複数の抗うつ薬の用量および処置期間に対する無応答を意味する。他の態様において、十分な経過は、前のうつ病エピソード中および現在のうつ病エピソード中の両方における、ケタミンまたはエスケタミン以外の1つまたは複数の抗うつ薬の用量および処置期間に対する無応答を意味する。いくつかの態様において、障害は、処置難治性または処置抵抗性うつ病、すなわち、ケタミンまたはエスケタミン以外の少なくとも2つの抗うつ薬の十分な用量および処置期間に応答しなかったうつ病である。
【0020】
本明細書で使用される場合、「大うつ病性障害の処置」という用語は、Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS)スコアの低下によって測定される、大うつ病性障害の症状の軽減を意味する。いくつかの態様において、「大うつ病性障害の処置」という用語は、MADRSスコアで測定されたベースラインからの変化を意味する。いくつかの態様において、「大うつ病性障害の処置」という用語は、MADRSスコアの低下によって測定される寛解を意味する。いくつかの態様において、「大うつ病性障害の処置」という用語は、MADRSスコアで測定される場合、50%以上の改善を意味する。
【0021】
他の態様では、「大うつ病性障害の処置」という用語は、Sheehan Disability Scale(SDS)のベースラインからの変化を意味する。
【0022】
他の態様では、「大うつ病性障害の処置」という用語は、自己評価Symptoms of Depression Questionnaire(SDQ)のベースラインからの変化を意味する。
【0023】
他の態様では、「大うつ病性障害の処置」という用語は、内科医管理Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)のベースラインからの変化を意味する。
【0024】
他の態様では、「大うつ病性障害の処置」という用語は、内科医管理Global Impression Severity(SCG-S)のベースラインからの変化を意味する。
【0025】
他の態様では、「大うつ病性障害の処置」という用語は、Generalized Anxiety Disorder7項目スケールのベースラインからの変化を意味する。
【0026】
本開示の方法は、許容可能な安全性および/または耐容性プロファイルを示すであろう。すなわち、開示の方法を使用して達成される利益は、プラセボと比較して、開示された方法を使用することによって示される任意の安全性および/または耐容性の考慮事項を上回るであろう。他の態様において、本開示の方法を使用して達成される利益は、処置抵抗性MDDを含むMDDを処置する他の方法と比較して、開示された方法を使用することによって示される任意の安全性および/または耐容性の考慮事項を上回るであろう。処置抵抗性MDDを含むMDDを処置する他の方法には、ケタミンおよびエスケタミンを使用する他の方法が含まれる。例えば、本開示の方法を使用して達成される利益は、プラセボと比較して、例えば、血液学、生化学、尿検査、免疫学的パラメータ、身体検査所見、血圧、および/または心拍数の不利な変化を含む任意の有害事象を上回るであろう。他の態様において、本開示の方法を使用して達成される利益は、処置抵抗性のMDDを含むMDDを処置する他の方法と比較して、例えば、血液学、生化学、尿検査、免疫学的パラメータ、身体検査所見、血圧、および/または心拍数の変化を含む任意の有害事象を上回るであろう。
【0027】
他の態様では、開示の方法を使用して達成される利益は、プラセボと比較して、12個の主要なECG所見、すなわち方法の中止、Digit Symbol Substitution Test(DSST)、反応時間テスト(Cambridge COGNITIONおよび/またはCogstateバッテリー)、自己管理Stanford眠気スケール、Bladder Pain/Interstitial Cystitis Symptom Score(BPIC-SS)、Modified Observer’s Alertness/Sedation Scale(MOAA/S)、Clinician-Administered Dissociative States Scale(CADSS)、Suicidality Scale- Clinician-Rated Columbia Suicide Severity Rating Scale(C-SSRS)、Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)からの4項目の陽性症状サブスケール、および/または20項目のPhysician Withdrawal Checklist(PWC-20)における任意の有害事象を上回るであろう。他の態様では、開示の方法を使用して達成される利益は、処置抵抗性MDDを含むMDDを処置する他の方法と比較して、12個の主要なECG所見、すなわち方法の中止、Digit Symbol Substitution Test(DSST)、反応時間テスト(Cambridge COGNITIONおよび/またはCogstateバッテリー)、自己管理Stanford眠気尺度、Bladder Pain/Interstitial Cystitis Symptom Score(BPIC-SS)、Modified Observer’s Alertness/Sedation Scale(MOAA/S)、Clinician-Administered Dissociative States Scale(CADSS)、Suicidality Scale- Clinician-Rated Columbia Suicide Severity Rating Scale(C-SSRS)、Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)からの4項目の陽性症状サブスケール、および/または20項目のPhysician Withdrawal Checklist(PWC-20)における任意の有害事象を上回るであろう。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ケタミン」という用語は、化合物dl2-(2-クロロフェニル)-2(メチルアミノ)シクロヘキサノン、または薬学的に許容されるその塩を意味するものとする。
【0029】
本明細書で使用される場合、「エスケタミン」という用語は、化合物(2S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノンとしても知られる、ケタミンの(S)-エナンチオマー、または薬学的に許容されるその塩を意味するものとする。本明細書で使用される場合、「エスケタミン」という用語は、ケタミンにエナンチオマー過剰なく見出されるような化合物、または薬学的に許容されるその塩を除外するものであると理解されるものとする。1つの実施形態では、エスケタミン、または薬学的に許容されるその塩は、エスケタミンの塩酸塩、すなわち、塩酸エスケタミンである。
【0030】
本明細書で使用される場合、「(R)-ケタミン」という用語は、化合物(2R)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノンとしても知られるケタミンの(R)-エナンチオマー、または薬学的に許容されるその塩を意味するものとする。本明細書で使用される場合、「(R)-ケタミン」という用語は、ケタミンにエナンチオマー過剰なく見出される化合物、または薬学的に許容されるその塩を除外するものであると理解されるものとする。
【0031】
本発明による本明細書に記載の化合物はまた、分子構造がそれらの構造上に存在する炭素、水素および窒素原子の同位体を含むような化合物を含むことを意図する。同位体は、原子番号は同じで質量数が異なる原子を含む。たとえば、水素の同位体は重水素を含む。炭素の同位体はC-13を含む。窒素の同位体はN-15を含む。
【0032】
したがって、本明細書に開示される製剤に適しているとして本出願で教示される任意の化合物の化学構造内では、
●任意の水素原子または水素原子の基は、水素の同位体、すなわち重水素に適切に置換することができ、
●任意の炭素原子または炭素原子の基は、炭素の同位体、すなわち13Cの同位体に置換することができ、かつ
●任意の窒素原子または窒素原子の基は、窒素の同位体、すなわち、15Nに適切に置換することができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「処置レジメン」という用語は、それを必要とするヒト患者が、毎日または断続的に、エスケタミンの複数回の投与によって処置される期間を意味するものとする。本発明の好ましい実施形態では、処置レジメンは少なくとも28日間に及ぶであろう。別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、少なくとも30日間に及ぶであろう。別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、28日から約365日に及ぶであろう。別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、28日から約730日に及ぶであろう。別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、少なくとも1ヶ月に及ぶであろう。別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、少なくとも1年(365日)に及ぶであろう。本発明の別の好ましい実施形態では、処置レジメンは、少なくとも約730日、すなわち、少なくとも約2年に及ぶであろう。別の実施形態では、処置レジメンは、28日から約730日(すなわち、約2年)の間にわたって変化する。精神科の当業者の医療専門家は、28日から約730日(例えば、約2年)にわたる投与レジメンを決定することができるであろう。
【0034】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、当該投与のエスケタミンCmaxは、30ng/ml以下である。
【0035】
パラメータ範囲が提供される場合、その範囲内のすべての整数、およびその10分の1もまた、本発明によって提供されることが理解される。例えば、「1~30ng/ml」は、1.1ng/ml、1.2ng/ml、1.3ng/mlなど、最大30ng/mlを含む。
【0036】
本明細書で使用される場合、「エスケタミンCmax」という用語は、任意の単回投与後にアッセイされたエスケタミンの平均(mean、average)の観察された最大血漿濃度を意味するものとする。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、患者のエスケタミン血漿レベルを測定することをさらに含む。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、当該投与のエスケタミンCmaxは、30ng/ml以下、29ng/ml以下、28ng/ml以下、27ng/ml以下、26ng/ml以下、25ng/ml以下、24ng/ml以下、23ng/ml以下、22ng/ml以下、21ng/ml以下、20ng/ml以下、19ng/ml以下、18ng/ml以下、17ng/ml以下、16ng/ml以下、15ng/ml以下、14ng/ml以下、13ng/ml以下、12ng/ml以下、11ng/ml以下、10ng/ml以下、9ng/ml以下、8ng/ml以下、7ng/ml以下、6ng/ml以下、5ng/ml以下、4ng/ml以下、3ng/ml以下、2ng/ml以下、または1ng/ml以下である。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは30ng/ml以下である。本発明の別の好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、15ng/ml以下である。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、15ng/mLから30ng/mLである。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、10ng/mLから15ng/mLである。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、5ng/mLから15ng/mLである。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンCmaxは、11ng/mLから13ng/mLである。
【0038】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、当該投与のエスケタミンAUC0-tは60ng*h/ml以下である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「エスケタミンAUC」という用語は、任意の単回投与後の血漿濃度/時間曲線下の面積を意味するものとする。「エスケタミンAUC0-t」という用語は、時間0から任意の単回投与後の最後の定量化可能なエスケタミン濃度までの血漿濃度/時間曲線下の領域を意味するものとし、「エスケタミンAUC0-inf」という用語は、時間0から任意の単回投与無限大後の推定エスケタミン濃度までの血漿濃度/時間曲線下の面積を意味するものとする。
【0040】
本発明の1つの実施形態では、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、60ng*h/ml、59ng*h/ml、58ng*h/ml、57ng*h/ml、56ng*h/ml、55ng*h/ml、54ng*h/ml、53ng*h/ml、52ng*h/ml、51ng*h/ml、50ng*h/ml、49ng*h/ml、48ng*h/ml、47ng*h/ml、46ng*h/ml、45ng*h/ml、44ng*h/ml、43ng*h/ml、42ng*h/ml、41ng*h/ml、40ng*h/ml、39ng*h/ml、38ng*h/ml、37ng*h/ml、36ng*h/ml、35ng*h/ml、34ng*h/ml、33ng*h/ml、32ng*h/ml、31ng*h/ml、30ng*h/ml、29ng*h/ml、28ng*h/ml、27ng*h/ml、26ng*h/ml、25ng*h/ml、24ng*h/ml、23ng*h/ml、22ng*h/ml、21ng*h/ml、20ng*h/ml、19ng*h/ml、18ng*h/ml、17ng*h/ml、16ng*h/ml、15ng*h/ml、14ng*h/ml、13ng*h/ml、12ng*h/ml、11ng*h/ml、10ng*h/ml、9ng*h/ml、8ng*h/ml、7ng*h/ml、6ng*h/ml、5ng*h/ml、4ng*h/ml、3ng*h/ml、2ng*h/ml、または1ng*h/mlである。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、60ng*h/ml以下である。本発明の別の好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、30ng*h/ml以下である。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、30ng*h/mlから60ng*h/mlの間である。本発明の1つの好ましい実施形態において、当該投与のエスケタミンAUC0-tは、15ng*h/mlから30ng*h/mlの間である。
【0041】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は毎日行われる。
【0042】
本発明の1つの実施形態では、エスケタミンの毎日の投与は、単一の1日投与で提供される。本発明の別の実施形態において、エスケタミンの毎日の投与は、2回の投与、3回の投与、または4回の投与で提供され、各投与は、24時間の期間にわたってほぼ均等に分散される。
【0043】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は断続的である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、断続投与は、2日に1回ないし約1月に1回または4週に1回である。本発明の1つの実施形態では、断続投与は、2日ごとに1回、3日ごとに1回、1週に2回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、1週に1回、8日ごとに1回、9日ごとに1回、10日ごとに1回、11日ごとに1回、12日ごとに1回、13日ごとに1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、または1月に1回である。本発明の1つの好ましい実施形態では、断続投与は週に2回である。本発明の別の好ましい実施形態では、断続投与は1週に1回である。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、断続投与は1月に1回である。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、断続投与は4週ごとに1回である。
【0045】
本発明の1つの実施形態では、断続投与の頻度は、処置レジメンの期間にわたって変化することができる。本発明の好ましい実施形態では、断続投与の頻度は、処置レジメンの期間にわたって徐々に減少する。本発明のより好ましい実施形態では、断続投与の頻度は、1週に2回から1週に1回に減少する。本発明の別の好ましい実施形態では、断続投与の頻度は、1週に1回から2週ごとに1回に減少する。本発明のさらにより好ましい実施形態では、断続投与の頻度は、1週に2回ないし1週に1回ないし2週に1回に減少する。本発明の別の好ましい実施形態では、断続投与の頻度は、処置レジメンの期間にわたって一貫して維持される。
【0046】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は自己投与される。本明細書で使用される場合、「自己投与」は、患者が薬物を服用する責任があり、医療専門家による投与中に支援されない投与を意味する。いくつかの態様において、1つまたは複数の投与は、医療専門家によって支援され得、1つまたは複数の投与は、処置レジメンにわたって自己投与され得る。1つの実施形態では、当該自己投与は、患者自身の家で行われる。好ましい実施形態では、当該自己投与は夜間である。より好ましい実施形態では、当該自己投与は、患者が眠る前である。
【0047】
別の実施形態では、患者は、投与直後24時間の運転に制限がない。すなわち、投与は、自動車を操作する患者の能力に悪影響を与える精神的または運動的障害をもたらさない。投与直後24時間において。
【0048】
さらに別の実施形態では、患者は、投与後10時間以内の運転が制限される。好ましい実施形態では、患者は、投与後8時間以内の運転が制限される。別の好ましい実施形態では、患者は、投与後6時間以内の運転が制限される。より好ましい実施形態では、患者は、投与後2時間以内の運転が制限される。最も好ましい実施形態では、患者は、投与後1時間以内の運転が制限される。
【0049】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は経口的である。
【0050】
本発明の1つの実施形態では、経口投与は、懸濁液、エリクシル(elixir)、または溶液などの液体調製物である。本発明の別の実施形態において、経口投与は、固体調製物、例えば、粉末、カプセル、カプレット、ゲルキャップおよび錠剤である。
【0051】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は非経口的である。本発明の1つの好ましい実施形態において、投与は静脈内である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は鼻腔内である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は直腸である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は舌下である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は頬側である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は筋肉内である。本発明の別の好ましい実施形態では、投与は吸入によるものである。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、投与は吹送による。
【0052】
本発明の調製物を調製するために、エスケタミン、および任意選択で、(R)-ケタミン以外の少なくとも1つの第2の薬物を、従来の医薬配合技術に従って医薬担体と混合し、担体は、投与に望ましい調製物の形態に依存して多種多様な形態をとり得る。経口調製物を調製する際に、任意の通常の医薬媒体を使用し得る。したがって、例えば、懸濁液、エリクシルおよび溶液などの液体経口調製物の場合、適切な担体および添加剤には、水、グリコール、油、アルコール、香味料、防腐剤、着色剤などが含まれる。例えば、粉末、カプセル、カプレット、ゲルキャップおよび錠剤などの固体経口調製物の場合、適切な担体および添加剤には、デンプン、糖、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などが含まれる。投与が容易であるため、錠剤およびカプセルは、最も有利な経口投与単位形態であり、その場合、固体の医薬担体が使用される。非経口製剤の場合、担体は通常、滅菌水を含み、他の成分を介して、例えば、溶解性を助けるためまたは保存のための目的で含まれ得る。注射可能な懸濁液も調製し得、その場合、適切な液体担体、懸濁剤などを使用し得る。
【0053】
本明細書の調製物は、投薬単位例えば、錠剤、カプセル、粉末、注射、小さじ一杯などごとに、上記のような有効用量を送達するのに必要な量のエスケタミンを含むであろう。本明細書の調製物は、単位投与単位、例えば、錠剤、カプセル、粉末、注射、坐剤、小さじ一杯などあたり、約0.01mgから約1000mgまたはその中の任意の量または範囲を含み得、約0.01mg/kgから約1.5mg/kg、またはその中の任意の量または範囲、好ましくは約0.01mg/kgから約0.75mg/kg、またはその中の任意の量または範囲、好ましくは約0.05mg/kgから約0.5mg/kgまたはその中の任意の量または範囲、好ましくは約0.1mg/kgから約0.5mg/kg、またはその中の任意の量または範囲のエスケタミンの一投与形態を与え得、ただし、投与の際に、当該投与のエスケタミンCmaxは30ng/ml以下、および/または当該投与のエスケタミンAUC0-tは60ng*h/ml以下である。例えば、調製物は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、または0.75mg/kgの投与形態で与えられるであろう。
【0054】
1つの実施形態では、調製物は、10~30mgのエスケタミンを含む鼻腔内投与形態である。別の実施形態では、調製物は、15~40mgのエスケタミンを含む舌下投与形態である。別の実施形態では、調製物は、5~70mgのエスケタミン、最も好ましくは10~40mgのエスケタミンを含む経口投与形態である。さらに別の実施形態では、調製物は、4~10mgのエスケタミンを含む静脈内または筋肉内投与形態である。
【0055】
本発明はさらに、大うつ病性障害の処置を必要とするヒト患者において大うつ病性障害を処置する方法を対象とし、投与は(R)-ケタミン以外の第2の薬剤の投与をさらに含む。
【0056】
好ましい実施形態では、第2の薬剤は、抗うつ薬、抗躁薬、または抗不安薬である。本発明の1つの実施形態では、抗うつ薬は、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)、三環系抗うつ薬(TCA)、セロトニン特異的再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニンノルアドレナリン作動性再取り込み阻害剤(SNRI)、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(NRI)、「天然物」(Kava-Kava,St.John’s Wortなど)、栄養補助食品(s-アデノシルメチオニンなど)およびその他からなる群から選択される。より具体的には、抗うつ薬には、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、マプロチリン、アモキサピン、トラゾドン、ブプロピオン、クロミプラミン、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、セルトラリン、パロキセチン、チアネプチン、アゴメラチン、ネファザドン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、デュロキセチン、レボキセチン、ミルタザピン、ミアンセリン、フェネルジン、トラニルシプロミン、および/またはモクロベミドが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
別の好ましい実施形態では、第2の薬剤は抗躁病剤である。本発明の1つの実施形態では、抗躁薬は、カルバマゼピン、ガバペンチン、リチウムまたは薬学的に許容されるその塩、バルプロ酸、および、ルラシドン、カリプラジン、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、パリペリドン、アリピプラゾール、およびブレキシプラゾールなどの抗精神病薬からなる群から選択される。
【0058】
別の好ましい実施形態では、第2の薬物は抗不安薬である。本発明の1つの実施形態では、不安緩解薬は、アルプラゾラム、ブロマゼパム、クロルジアゼポキシド、クロナゼパム、クロラゼペート、ジアゼパム、フルラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパム、トリアゾラム、ブスピロン、ゲピロン、イスパピロン、ヒドロキシアジン、アモバルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、チオペンタルおよびプロパノロールからなる群から選択される。
【0059】
パラメータ範囲が提供される場合、その範囲内のすべての整数、およびその10分の1もまた、本発明によって提供されることが理解される。例えば、「0.1~2.5mg/日」には、0.1mg/日、0.2mg/日、0.3mg/日など、最大で2.5mg/日までが含まれる。
【0060】
本発明は、以下の実施例を参照することによってよりよく理解されるが、当業者は、詳細な特定の実験は、その後に続く特許請求の範囲でより完全に記載される本発明の例示にすぎないことを容易に理解するであろう。
【実施例0061】
実施例1:インビトロ染色体異常アッセイ
実施例1a:エスケタミン
エスケタミンの染色体異常誘発能を、誘発代謝活性化系(Aroclor-1254に曝露されたラットからの肝臓ホモジネートの9000g上清[S9]ミクロソーム画分)の非存在下および存在下の両方で、ヒト末梢血リンパ球(HPBL)を使用するインビトロ哺乳類染色体異常試験で評価した。染色体異常誘発性を、中期のHPBLの顕微鏡検査によって評価し、有糸分裂指数(MI)および数値的および/または構造的染色体異常を伴う中期細胞の割合を決定した。
【0062】
この試験を2段階で実施し、予備的な毒性試験を使用して、最終的な染色体異常アッセイのための適切な濃度を決定した。ネガティブ(ビヒクル)対照として水を使用した。毒性(ビヒクル対照と比較した、MIの45%以上の減少として定義される)は、HPBLをエスケタミンにS9活性化の非存在下で20時間、またはS9活性化の存在下または非存在下で4時間曝露し、続いて16時間の回復期間の後、0.0238~238μg/mlの範囲の9つの濃度で評価した。毒性は、いずれの3つの処置条件のいずれの用量でも観察されなかった。これらの結果に基づいて、染色体異常アッセイ用に選択された用量は、すべての3つの処置条件で30~238μg/mlの範囲であった。すべての濃度は、公称濃度の98%から101%であった。
【0063】
決定的な染色体異常アッセイは、S9活性化の非存在下で20時間、またはS9活性化の存在または非存在下で4時間エスケタミンに曝露し、続いて16時間の回復期間の後、HPBL細胞を評価した。非活性化およびS9活性化評価における染色体異常の陽性対照を、それぞれマイトマイシンC(MMC、それぞれ0.6および0.3μg/mLを4時間および20時間の曝露)およびシクロホスファミド(CP、2.5、5、および7.5μg/mL)で構成した。水は、13.4%から16.5%の平均MI値、および細胞の0%から0.7%の数値的または構造的染色体異常と関連した。非活性化系では、MMCは、9%の平均MI値、および細胞の13.3%の構造的染色体異常と関連した。S9活性化系では、CPは、6.2%の平均MI値と、10.7%の細胞の構造的異常と関連した。陰性対照の結果は、歴史的対照の範囲内であり、陽性対照の結果は統計学的に有意であった(p≦0.01、Fisherの直接検定)。したがって、有効な試験の要件が満たされた。染色体異常アッセイでは、細胞毒性(ビヒクル対照と比較して有糸分裂指数の45%≧の減少)は、非活性化4時間および20時間の処置条件でいずれのエスケタミン用量でも観察されなかった。細胞毒性は、S9活性化4時間暴露群で、200μg/mL≧の用量で観察された。当初、染色体異常の評価のために選択された用量は、非活性化4時間および20時間の処置条件では、60、120、および238μg/mLであり、S9活性化4時間の処置条件では、30、60、および200μg/mLであった。
【0064】
非活性化4時間および20時間暴露群では、構造的または数値的(倍数体または核内倍加細胞)異常の有意または用量依存的な増加は、いずれの用量でも観察されなかった(p>0.05、Fisherの直接検定およびCochran-Armitage検定)。
【0065】
S9で活性化された4時間暴露群では、構造的異常における統計学的に有意な増加(5.0%)を、200μg/mLで観察した(p≦0.01、Fisherの直接検定)。高用量で観察された統計学的有意性が細胞毒性によるものではなかったことを確認するために、より低用量(120μg/mL)を評価に含めた。構造的異常の統計学的に有意な増加(4.3%)を、120μg/mLで観察した(p≦0.01;Fisherの直接検定)。Cochran-Armitage検定は、用量応答について陽性であった(p≦0.01)。数値の異常(倍数体または核内倍加細胞)の有意または用量依存的な増加は、いずれの用量でも観察されなかった(p>0.05、Fisherの直接検定およびCochran-Armitage検定)。
【0066】
試験の結果は、エスケタミンが、外因性代謝活性化系の存在下で、構造的染色体異常の誘発に陽性であり、数値的染色体異常の誘発に陰性であったことを示す。エスケタミンは、外因性代謝活性化系の非存在下で、構造的および数値的染色体異常の誘発に対して陰性であった。
【0067】
実施例1b:S-ノルケタミン
S-ノルケタミンの染色体異常誘発能を、誘発代謝活性化系(フェノバルビタール/5,6-ベンゾフラボンに暴露されたラットからの肝臓ホモジネートの9000g上清[S9]ミクロソーム画分)の非存在下と存在下の両方で、ヒト末梢血リンパ球(HPBL)を使用したインビトロ哺乳類染色体異常試験で評価した。染色体異常誘発性を、中期におけるHPBLの顕微鏡検査によって評価し、数値的および/または構造的染色体異常を伴う中期細胞の割合を決定した。
【0068】
この試験を2段階で実施し、予備的な毒性試験を使用して、最終的な染色体異常アッセイの適切な濃度を決定した。ネガティブ(ビヒクル)対照として水を使用した。両方の段階で、細胞をS9ミックスの非存在下で3時間および21時間、S9ミックスの存在下で3時間処置した。すべての培養物について有糸分裂指数を評価し、細胞毒性を決定した。予備毒性試験では、2.62~260.16μg/mLの範囲の10種類の濃度を評価した。毒性は、3つの処置条件のいずれにおいてもいずれの用量でも観察されなかった。これらの結果に基づいて、決定的な染色体異常アッセイの最高濃度は、この試験系の限界濃度(260.16μg/mL、1mM)に基づいており、細胞毒性は比較的観察されなかった。中期分析には、93.66、156.10、または260.16μg/mLのS-ノルケタミン濃度を選択した。
【0069】
S-ノルケタミンは、ビヒクル対照と比較した場合、いずれの分析された濃度でも、染色体異常を含む中期形状の比率に統計学的に有意な増加を引き起こさなかった。ビヒクル対照(水)についてのすべての平均値、およびすべてのS-ノルケタミン処置濃度は、上限95%管理限界をとった場合、実験室の歴史的対照範囲を下回った。
【0070】
ビヒクル対照と比較した場合、いずれの処置条件下でも、中期分析中における倍数体または内部再複製中期細胞の比率の統計学的に有意な増加は観察されなかったが、いっぽう、陽性対照化合物であるミトマイシンCとシクロホスファミドの両方は、異常細胞の比率の統計学的に有意な増加を引き起こし、このことは、試験系の感度およびS9ミックスの有効性を実証した。
【0071】
結論として、ヒト末梢血リンパ球を使用したインビトロ哺乳類染色体異常試験の結果は、S-ノルケタミンがS9の有無にかかわらず構造的染色体異常の頻度の増加を引き起こす証拠が示されなかったことを示す。したがって、この実験の条件下では、S-ノルケタミンは非染色体異常誘発性であるか、または構造的および数値的な染色体異常の誘発に対して陰性であった。
【0072】
実施例2:Sprague Dawleyラットにおけるエスケタミンのinvivo単一細胞ゲル電気泳動アッセイおよび哺乳動物赤血球微小核試験
エスケタミンが、肝臓でDNA鎖切断を誘発する可能性、およびCrl:CD(SD)ラットの骨髄細胞で微小核を誘発する可能性を評価する。動物にエスケタミンを3回経口投与し、2回目の投与は1回目の投与の約24時間後に投与し、3回目の投与は2回目の投与の約21時間後、サンプリングの3時間前に投与した。すべての動物に、10mL/kgの投与容量を使用する強制給餌により経口投与した。
【0073】
予備毒性試験では雌雄間で毒性の実質的な有意差が観察されたため、現在のガイドラインに沿って、オスおよびメスの両方の動物を用いて試験を実施した。18.75、37.5および75mg/kg/日(オス動物)および12.5、25および50mg/kg/日(メス動物)の用量レベルを選択した。ビヒクル対照群は、精製水を受容し、コメット相の陽性対照群は200mg/kgのエチルメタンスルフォネートを受容した。血液サンプルを、投与前の3日目に投与後30分および3時間に、サテライト動物および終了前のすべての主要な試験動物から尾部静脈を介して採取した。
【0074】
各組織からの細胞懸濁液を、ビヒクル対照群および各試験項目群の動物から、3回目の投与の約3時間後に得た。陽性対照群の動物からの細胞懸濁液を、単回投与の約3時間後に得た。
【0075】
電気泳動に続いて、動物ごとに組織ごとに3枚のスライドをコメットについて分析した。スライドを、蛍光顕微鏡を介してSYBR GOLD(登録商標)で染色することにより視覚化した。150個の形態学的に正常な細胞を、動物ごとに組織ごとにコメットの存在について分析した。DNA鎖破壊を、ビヒクル対照値と比較したエスケタミン処置動物からの平均および中央値%尾部強度(%TI)を比較することによって評価した。スライドをまた、明白な毒性、例えば、バックグラウンド破片の増加および/または過度に損傷した細胞(すなわち、Hedgehog細胞)の発生率の増加について調べた。これらの細胞を、異常な染色構造を有した任意の細胞とともに、分析から除外した。
【0076】
骨髄塗抹標本を、3回目の投与の約3時間後に、ビヒクル対照および各試験項目群の動物から得た。さらに、よく特徴付けられた染色体異常誘発物質であるシクロホスファミドで処置した動物から別の試験[CT12GD]から調製されたスライドを、この試験の動物から調製した骨髄塗抹標本とともに染色およびコード化した。
【0077】
各動物からの1つの塗抹標本を、4000個の多染性赤血球における微小核の存在について調べた。多染性赤血球の割合を、各動物からの少なくとも1000個の赤血球の検査によって評価した。微小核正常色赤血球の発生率も記録した。
【0078】
ビヒクル対照値と比較して、75mg/kg/日(p<0.001)のエスケタミンを投与したオスCrl:CD(SD)ラットの肝臓において、中央値%(TI)の統計学的に有意な増加を観察した。75mg/kg/日のエスケタミンを投与されたオス動物の群平均および中央値%TI値は、現在のビヒクルの歴史的対照範囲外であった。ビヒクル対照値と比較して、25および50mg/kg/日(p<0.001)のエスケタミンを投与したメスのCrl:CD(SD)ラットの肝臓において、中央値%TIの統計学的に有意な増加を観察した。25および50mg/kg/日のエスケタミンを投与したメス動物の群平均および中央値%TI値は、現在のビヒクルの歴史的対照範囲外であった。
【0079】
陽性対照化合物であるエチルメタンスルフォネートは、オスおよびメス動物におけるビヒクル対照値と比較した場合、中央値%TIの有意な増加をもたらした(p<0.001、t検定)。ビヒクル対照値と比較して、いずれの用量レベルのエスケタミンを投与されたオスまたはメスCrl:CD(SD)ラットの肝臓においても、Hedgehog細胞は観察されなかった。
【0080】
ビヒクル対照動物および75mg/kg/日(オス動物)および25および50mg/kg/日(メス動物)のエスケタミンを投与した動物からの肝臓の切片を、組織病理学的検査のために加工し、細胞毒性、壊死およびアポトーシスの徴候について評価した。75mg/kg/日を与えられたいくつかのオス動物で、肝細胞有糸分裂像の増加を観察した。3回の処置の投与後に行った肉眼検査は、試験項目に関連する病変を明らかにしなかった。
【0081】
ビヒクル対照値と比較して、いずれの用量レベルのエスケタミンを投与されたオスCrl:CD(SD)ラットにおいても、微小核性多染性赤血球の頻度の統計学的に有意な増加は、観察されなかった。すべての個体および群平均値は、現在のビヒクルの歴史的対照範囲(管理限界)内であった。
【0082】
37.5mg/kg/日(対応性および傾向検定、p<0.05)および75mg/kg/日(傾向検定、p<0.05)のエスケタミンを投与したオスCrl:CD(SD)ラットにおいて、ビヒクル対照値と比較して、多染性赤血球の比率に統計学的に有意な減少を観察した。すべての個体および群平均値は、現在のビヒクルの歴史的対照範囲(管理限界)内であった。したがって、この結果は、生物学的に重要であるとはみなされない。
【0083】
ビヒクル対照値と比較して、いずれの用量レベルのエスケタミンを投与したメスCrl:CD(SD)ラットにおいても、微小核性多染性赤血球の頻度の統計学的に有意な増加および多染性赤血球の比率の統計学的に有意な減少は観察されなかった。すべての個体および群平均値は、現在のビヒクルの歴史的対照範囲(管理限界)内であった。ICH S2(R1)に従って、CT12GD試験から調製されたコード化陽性対照スライドは、微小核性多染性赤血球の増加を検出するスコアラーの能力を実証した。
【0084】
試験の結果は、エスケタミンを強制給餌により経口投与した場合、オスおよびメスCrl:CD(SD)ラットの肝臓でDNA鎖破壊の増加を引き起こす証拠を示したが、強制給餌により経口投与した場合、オスまたはメスCrl:CD(SD)ラットにおける微小核性多染性赤血球または骨髄細胞毒性の誘発の増加を引き起こす証拠を示さなかったことを示す。
【0085】
PROAST v63.3(開発中)を使用して、エスケタミンへの曝露後のオスおよびメスラットについて、それぞれ平均および中央値の尾部強度値に基づいてベンチマーク用量(BMD50)をモデル化した。Hillおよび指数モデルは、非線形用量応答と一致し、インビボのコメット尾部強度データに適切に適合した。より低いベンチマーク用量(BMDL50)の基準は、メスラットで9.83mg/kg/日、オスラットで27.31mg/kg/日と計算され、「単一スライドの中央値Tail Intensity」を使用したものはどちらも、「単一スライド平均Tail Intensity」を使用した場合に導出されるものよりもより低く、より保存的であった。これらの出発点(POD)基準は、メスラットでは12.5mg/kg/日、オスラットでは37.50mg/kg/日で、肝臓のコメット尾部強度の遺伝毒性影響レベルが観察されなかったことに匹敵する。
【0086】
実施例3:Sprague Dawleyラットにおけるエスケタミンの反復投与28日間の毒物動態学的試験
この試験の目的は、エスケタミンをSprague Dawleyラットに強制給餌により28日にわたり経口投与した場合の潜在的毒性、神経行動学的影響、および毒物動態(TK)を評価し、14日間の無薬期間中の回復を評価することであった。50匹のオスおよび50匹のメスラットをランダムに4つの群に分けた(15匹/雌雄/群1および4、10匹/雌雄/群2および3)。エスケタミンを、0(ビヒクル対照)、6、10または30mg/kg/日でオスに、および0(ビヒクル対照)、2、10または20mg/kg/日でメスに、28日間連続して1日1回、10mL/kgの用量容量で強制給餌により経口投与した。29日目(10匹/雌雄/群)または43日目(5匹/群1および4からの雌雄)を安楽死させて剖検するまで、動物を観察した。毒性を、死亡率、臨床観察、体重、食物消費、眼科、運動活性、機能的観察バッテリー、臨床病理学(臨床化学、血液学、凝固および尿検査)、臓器重量、解剖学的(肉眼的または顕微鏡的)病理学に基づいて評価した。毒物動態学分析のために、毒物動態動物(3匹/雌雄/群1、6匹/雌雄/群2、3、および4)に同様に投与し、1日目と4週目に採血した。
【0087】
この試験では、死亡は見られず、臨床徴候、体重、摂餌量、眼科、運動活性、機能的観察バッテリー、臨床病理学または解剖病理学の変化に対するエスケタミン関連の影響はなかった。
【0088】
エスケタミン曝露は、オスでは全般に用量比例的に増加し、メスでは6~30mg/kg/日、メスでは2~20mg/kg/日の用量範囲では用量依存的にわずかに増加した。用量レベルの違いを正規化した後、オスはメスよりも曝露が少なかった。曝露は、28日目に高かったメスのC
maxを除いて、1日目と比較して28日目に類似していた。1日目のエスケタミン曝露の結果を表1に、28日目の結果を表2に記載する。
【表1】
【表2】
【0089】
実施例4:長期発がん性試験
Sprague Dawley Ratに、強制給餌により経口投与したエスケタミンの104週間の発がん性試験を実施し、発がん性の可能性を評価し、エスケタミンの毒物動態を測定する。
【0090】
International Conference on Harmonization(ICH)S1 Guidelines S1AであるGuideline on the Need for Carcinogenicity Studies of Pharmaceuticals、S1BであるTesting for Carcinogenicity of Pharmaceuticals、およびS1C(R2)であるDose Selection for Carcinogenicity Studies of Pharmaceuticalsに基づいて、エスケタミンを、236匹のオスおよび236匹のメスSprague Dawley Ratに、オスのラットについて0(ビヒクル対照)、6、10、または30mg/kg/日の用量で、メスのラットについて0(ビヒクル対照)2、10または20mg/kg/日の用量で104週間にわたって投与する。
【0091】
試験のエンドポイントは、臨床観察、体重変化、食物消費、生物分析的毒物動態分析、および解剖学的な肉眼的および顕微鏡的病理所見を含む。
【0092】
したがって、実施例1および2に示されるような遺伝毒性変化は、出発点用量および減少用量での28日間の投与後に同定されなかったことを実証することができ、これは、730日後の少なくとも10倍の安全性マージンを考慮に入れ、それにより、慢性的なエスケタミン投与のための最小限の安全ウィンドウを提供する。
【0093】
実施例5:オスラットにおける7日間の強制水泳試験
6~7週齢のオスのSprague Dawleyラットの群に、エスケタミンを腹腔内注射によって投与し、行動の断念を強制水泳試験によって評価した。10コホートの動物に、15mg/kgのエスケタミンの単回用量、7.5または15mg/kgのエスケタミンまたはビヒクル対照の7回の1日用量のいずれかを投与し、投与の30分後に試験を実施した。統計学的評価を、通常の一元配置分散分析、t検定、および未修正のフィッシャーのLSD比較検定を使用して実施した。
【0094】
エスケタミンの継続的な7日間の処置は、同じ用量レベルでの単回急性用量よりもより強い抗うつ薬様効果をもたらした。7.5および15mg/kgのエスケタミンは、慢性処置後の不動時間のそれぞれ40%および60%の統計学的に有意な減少を発揮したが、いっぽう、効果の程度は、急性処置ラットではそれほど顕著ではなかった(15mg/kgの対照について42%)。これは、複数回投与が同じ用量レベルの単一の急性用量よりもより効果的であることを示し、急性ではなく慢性のエスケタミンレジメンを介してうつ病患者を処置する理論的根拠を示唆する。
【0095】
実施例6:健康なボランティアにおける単回投与、ランダム化、非盲検、クロスオーバー試験
16人の健康な男性および女性の被験者において、ランダム化、非盲検4方向クロスオーバー試験を実施し、ここで当該被験者をランダムに割り当てられた順序で配置し、エスケタミンを投与した。各被験者を、4人の被験者が各処置配列に割り当てられるように、ランダム化コードに従って4つの処置配列のうちの1つに割り当てた。経口または静脈内エスケタミン塩酸塩からなる投与による投与期間の間に、少なくとも7日間のウォッシュアウト期間があった。この試験は、28日間の適格性スクリーニング期間、エスケタミン塩酸塩の単回用量を含む4つの試験期間、続いて治験薬投与後72時間までのPK目的の採血による安全性評価、治験薬投与後72時間での退院、4日目に最後のPK血液サンプルを採取してから7~14日後のフォローアップ訪問からなった。
【0096】
16人の被験者のうち15人が、試験を完了した。1人の被験者(被験者11)は、最初の処置期間のみ参加した。この被験者は、軽度の高ビリルビン血症のAEのために試験から除外されたため、残りの3つの処置期間中に計画された処置を受容しなかった。表3に示すように、被験者11はPKセットに含まれなかったため、15人の被験者が含まれた。
【表3】
【0097】
試験を完了した15人の被験者の間では、処置は、全般に良好な耐容性を示した。合計128個のTEAE(処置に起因する有害事象)が、16人のうち15人(94%)の被験者によって報告され、そのうち16人のうち14人(88%)の被験者によって報告された79個のTEAEが、治験薬に関連すべきものであった。全体として、4人(25%)の被験者によって報告された128個のTEAEのうち合計14個が中程度の重症度であり、15人(94%)の被験者によって報告された128個のTEAEのうち114個が軽度の重症度のものであった。重度のTEAEまたはSAEは報告されなかった。最も頻繁に発生した有害事象(2回以上報告された)は、頭痛、めまい、運動機能低下、異常感、疲労、多幸感の不相応な情動、吐き気、多汗であった。表4は、最も頻繁に報告された関連TEAEの頻度を、処置ごとに有害作用を経験した被験者の割合として示す。
【表4】
【0098】
実施例7:標準的な抗うつ治療に対する不十分な応答を有する大うつ病性障害(MDD)患者における補助療法としての10mg、20mgおよび40mgの経口エスケタミンの安全性および有効性を決定するための、用量範囲所見、多施設、二重ランダム化、二重盲検、プラセボ対照のフェーズII試験
フェーズII、用量範囲の所見、多国籍、二重ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験は、抗うつ治療に不十分な応答を有する204人のMDD被験者を対象において、1日1回の10、20、または40mg経口エスケタミンの有効性、安全性、および耐容性を、プラセボ処置と比較する。すべての被験者は、現在の彼らの抗うつ薬を、試験中に用量を変更することなく使用したままとする。
【0099】
この試験は、スクリーニング(0~28日目)、2つの2週間の期間(期間1、期間2)からなる二重盲検処置(29~56日目)、および最後の試験処置投与後の処置後安全性フォローアップ(57~70日目)の3つのフェーズを含む。
【0100】
スクリーニング中に、被験者を試験の適格性について評価し、許可されていない薬物からウォッシュアウトさせる。適格であると判断された後、被験者は、3:1:1:1の割り当てスキームを使用して期間1の開始時にランダム化され、プラセボまたは10mg、20mg、または40mgの経口エスケタミンをそれぞれ1日1回受容する。期間1の終わりに、すべての被験者を、ベースラインから2週目までのMADRS-10スコアの変化に基づいて、応答性を盲検的に評価する。期間1の間にプラセボを受容した被験者は、1:1:1:1の割り当てスキームを使用して再ランダム化され、プラセボまたは10mg、20mg、または40mgの経口エスケタミンを2週間(期間2)にそれぞれ1日1回受容する。再ランダム化を、期間1のプラセボ応答によって層別化する(MADRS<または≧50%およびMADRSスコア<または≧18の変化)。期間1で経口エスケタミンを服用していた被験者を、期間2の2週間にわたり、同じ投与量の薬剤を服用し続けさせる。
【0101】
被験者は、彼らの治験薬の初回投与を試験サイトで受容し、その後3時間綿密に監視され、眠気、鎮静、および分裂性効果を特定するための包括的な一連のスケールを使用して、潜在的な神経精神医学的有害事象について評価する。その後、被験者は、彼らの居住場所での投与のための治験薬の1週間の供給を提供され、治験薬を夕方に服用し(治験サイトで服用されるときは毎週の訪問の日を除く)、翌朝まで運転しないように指示される。被験者が訪れるたびに、精神科医は被験者のMADRS-10スコアを評価する。
【0102】
この試験の一次的有効性エンドポイントは、Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS-10)の10項目におけるベースラインから2週目までの変化(2つの期間における)である。
【0103】
二次的有効性エンドポイントは、2つの週におけるベースラインSheehan Disability Scale(SDS)からの変化、2つの週における寛解率(MADRS-10≦10)、2つの週における応答率(MADRS-10で50%≧の改善)、2つの週における自己評価Symptoms of Depression Questionnaire(SDQ)のベースラインからの変化、2つの週における内科医管理Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)および2つの週における内科医管理Clinical Global Impression Severity(CGI-S)のベースラインからの変化を含む。
【0104】
探索的エンドポイントは、2つの週におけるGeneralized Anxiety Disorderの7項目スケール(GAD-7)におけるベースラインからの変化、および4週間にわたり同じ試験薬を受容する被験者の一部についてMontgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS-10)におけるベースラインから週4への変化を含む。
【0105】
安全性および耐容性のエンドポイントは、有害事象、血液学、生化学および尿分析、免疫学的パラメータ、身体検査所見、治験薬投与後3時間の30分ごとの血圧と心拍数、12個の主要ECG所見、離脱率、Digit Symbol Substitution Test(DSST)、反応時間テスト(Cambridge COGNITION)、自己管理Stanford眠気スケール、Bladder Pain/Interstitial Cystitis Symptom Score(BPIC-SS)、Modified Observer’s Alertness/Sedation Scale(MOAA/S)、Clinician-Administered Dissociative States Scale(CADSS)、Suicidality Scale-Clinician-Rated Columbia Suicide Severity Rating Scale(C-SSRS)、Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)からの4項目の陽性症状サブスケール、およびフォローアップ期間中における20項目のPhysician Withdrawal Checklist(PWC-20)を含む。
【0106】
当業者は、本開示の好ましい実施形態に対して多数の変更および修正を行うことができ、そのような変更および修正を、本開示の精神から逸脱することなく行うことができることを理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本開示の真の精神および範囲に含まれるようなすべての同等の変形を網羅することが意図されている。
大うつ病性障害(MDD)の処置を必要とするヒト患者においてMDDを処置する方法であって、少なくとも28日間の処置レジメンにわたるエスケタミンの前記患者への投与を含み、
a.前記投与のエスケタミンCmaxが30ng/ml以下であり、または
b.前記投与のエスケタミンAUC0-tが60ng*h/ml以下であり、または
c.前記投与の前記エスケタミンCmaxが、30ng/ml以下であり、かつ前記投与の前記AUC0-tが60ng*h/ml以下である、方法。
驚くべきことに、エスケタミンの高レベルの慢性投与は、変異原性のリスクの増加と関連しており、したがって、本薬物の循環血中レベルは、エスケタミンの投与について制限されるべきことが新たに発見された。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2016/187491号
(特許文献2) 国際公開第2016/044150号
(特許文献3) 米国特許出願公開第2013/236573号明細書
(非特許文献)
(非特許文献1) ELLA J.DALY ET AL,"Efficacy and Safety of Intranasal Esketamine Adjunctive to Oral Antidepressant Therapy in Treatment-Resistant Depression : A Randomized Clinical Trial", JAMA PSYCHIATRY,Vol. 75, No. 2, 01 February 2018 (2018-02-01), page 139, XP055648252
(非特許文献2) CARLA M CANUSO ET AL,"Efficacy and Safety of Intranasal Esketamine for the Rapid Reduction of Symptoms of Depression and Suicidality in Patients at Imminent Risk for Suicide: Results of a Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study", AMERICAN JOURNAL OF PSYCHIATRY.,Vol. 175, No. 7, 11 April 2018 (2018-04-11), page 620-630, XP055575012