(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041879
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】人工関節用の骨質内に打込まれるシェル
(51)【国際特許分類】
A61F 2/30 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A61F2/30
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024001767
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2021500727の分割
【原出願日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】18208744.5
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】505127916
【氏名又は名称】マティス アクチェンゲゼルシャフト ベットラッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ググラー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヨッシ,アーミン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】マイエンホッファー,アンドレアス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】骨質に打込まれる人工関節用のシェルを提供する。
【解決手段】シェル(1)は、断面が凸状に湾曲し、かつ、その上に複数のリブ(5)が配置される外側側面(4)を有する。すべてのリブは、赤道端(6)において極側端(7)まで好ましくは45°から85°に増加する傾斜角度で同じ方向に延在する。すべてのリブ(5)の累積フランク投射面積は、外側側面全体の少なくとも5分の1に相当する。この寸法によって、シェルが打込まれるときわめて高い一次安定性が実現され、シェルは、骨材料が削ぎ取られることなくきわめて正確に、骨質内にねじ込まれる。この配置は、凹状に湾曲した内側側面にも同様に適用可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節(2、22)用の骨質に打込まれるシェル(1、21、32)であって、凸状に湾曲した、特に断面が球形の外側側面(4、26)を有し、または、凸状に湾曲した、特に球形の内側側面(34)を有し、前記外側または内側側面に複数のリブ(5、25)が配置され、すべてのリブは、前記外側側面または前記内側側面で、赤道端(6)において極側端(7)に向かって好ましくは45°から85°に増加するピッチ角(α)で同じ方向に延在し、各リブは、前記リブの長手方向範囲にかけて前記外側側面または前記内側側面に対して垂直に延びる平面に基づくフランク投射面積(P)を有し、すべてのリブの前記フランク投射面積の合計は、前記外側側面の全体または前記内側側面の全体の少なくとも5分の1に相当する、シェル。
【請求項2】
すべてのリブの前記フランク投射面積の合計と前記外側側面または前記内側側面との割合は、0.2:1~1:1の範囲である、請求項1に記載のシェル。
【請求項3】
少なくとも20個、および好ましくは30~80個のリブが、前記外側側面または前記内側側面に配置される、請求項1または2に記載のシェル。
【請求項4】
前記外側側面または前記内側側面でリブ中心からリブ中心まで前記赤道端(6)において隣接するリブの間隔(a)は、0.2mm~4mmの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項5】
前記リブ(5)の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%が、その長手方向中心軸(8)に基づいて前記シェルの高さ(c)の半分を超えて延在する、請求項1~4のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項6】
異なる長さのリブ(5)が、前記外側側面(4)または前記内側側面に好ましくは規則正しい順序で配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項7】
リブ土台(9)からリブ頂点(10)までのリブ高さ(d)が、0.1mm~4mmの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項8】
異なるリブ高さ(d)のリブ(5)が、前記外側側面(4)または前記内側側面に好ましくは規則的な順序で配置される、請求項1~7のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項9】
異なる高さ(d)のリブが、前記外側側面または前記内側側面の外周に基づいて特定の緯度に配置される、請求項1~8のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項10】
前記リブ(5)は、前記リブの前記長手方向範囲に対して垂直に、かつ、前記外側側面または前記内側側面に対して垂直に延びる平面に基づいて、リブ土台(9)からリブ頂点(10)まで先細りになる断面、好ましくはくさび形状の断面を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項11】
個々の前記リブ(5)の対向するフランク面(20、20’)が、打込まれる間に大きな加重を受ける前記フランクが引抜かれる間に大きな加重を受ける前記フランクと比較して低い粗さ値を有するように、異なる粗さ値を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項12】
前記リブ(5)のうちの少なくとも一部は、個々のリブ歯(12)を形成するように中断している、請求項1~11のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項13】
リブ(5)の前記リブ歯(12)は、前記赤道端(6)と前記極側端(7)とで異なる構成を有する、請求項12に記載のシェル。
【請求項14】
前記リブ歯(12)は好ましくは、四角形の占有面積、互いに対して傾斜した2つのフランク側面(15、15’)、前記極に面する極側面(16)、および前記赤道に面する赤道側面(17)を有する不規則な他面本体を形成する、請求項12または13に記載のシェル。
【請求項15】
リブの連続する前記リブ歯は、骨材料が打込み方向(e)で変位し、かつ、前記骨材料のねじり出し方向(f)で固定されるように構成される、請求項13または14に記載のシェル。
【請求項16】
前記リブ歯(12)間の隙間(13)が、前記外側側面(4)または前記内側側面まで延在しない、請求項12~15のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項17】
前記外側側面(4)または前記内側側面および/または前記リブ(5)には、完全にまたは部分的に骨誘導コーティング(14)が設けられる、請求項1~16のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項18】
前記シェルは寛骨臼に打込まれる人工股関節(2)用の関節シェル(1)であり、すべてのリブの前記フランク投射面積の合計と前記外側側面との割合は、0.2:1~0.8:1の範囲である、請求項1~17のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項19】
前記シェルは上腕骨(23)に打込まれる上腕固定装置(21)であり、すべてのリブの前記フランク投射面積の合計と前記外側側面との割合が、0.3:1~1:1の範囲である、請求項1~17のいずれか1項に記載のシェル。
【請求項20】
前記リブの経路は、所定の角度値だけ回転するごとに前記シェルが一定の前進を生じるように選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載のシェル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1で請求されるような、人工関節用の骨質内にまたはその上に打込まれるシェルに関する。そのようなシェルは、ねじこみ式のまたは接合されたソケットとは対照的に、骨の事前に削取られた凹部内に打込まれる、打込みソケットとも呼ばれる。骨質の状態が良好な場合に発生するのは、ソケット表面で続けて開始する骨の成長がさらに人工装具を安定させるまでの十分な一次安定性である。
【背景技術】
【0002】
EP 1 411 869 B1は、いわゆるプレス嵌めソケットを開示しており、このプレス嵌めソケットは、打込まれるものであり、かつ、各々が打込みウェブを含む少なくとも2つの係止要素がソケット基体の外面に配置されている。ウェブの遠位方向の始まりからウェブの近位端まで、当該打込みウェブは、基部に基づいて少なくとも85°~60°のピッチを規定しており、これは、5°~30°のねじれ角に相当する。この公知のジョイントソケットの短所は、数が少なく、かつ、ソケットサイズに対して比較的大きな打込みウェブは、依然として最適な一次安定性をもたらさないということである。さらに、打込みウェブは、係止要素として設計されており、特に好ましい実施形態によると、極側の端に向かって連続して増加する打込みウェブのピッチによって実現される。このため、ソケットシェルは打込まれた後に寛骨で詰まるまたはロックされ、打込み方向に対してねじり出されることが効果的に防止される。この種類の詰まりたはロックによって、関節シェルが打込まれると骨材料の一部が掘り起こされて、打込みウェブによって完全に充填されなくなった骨の溝が生じるが、これは、求めようとする固定を弱めてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
それゆえ、本発明の目的は、一次安定性が改善され、かつ、骨材料に空隙またはせん断を生じることなく可能な限り緩やかに打込むことが可能な、上述した種類のシェルを提供することである。シェルの表面は、良好な骨誘導効果を実現する必要があり、これは、骨統合(osteointegration)による長期間にわたる固定を目指している。さらに、たとえばシャフトを含まない人口肩についての新規な応用領域は、シェルよっても広げられる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、この目的は、請求項1の特徴を有するシェルを用いて実現される。シェルは、凸状に湾曲し、特に当該シェルの長手方向中心軸に基づく断面が特に球状の外側表面、または凹状に湾曲し、特に球状の内側側面を有し、外側または内側側面には複数のリブが配置され、すべてのリブは、好ましくは外側側面において、赤道端で極側端に向かって45°から85°に増加するピッチ角で同じ方向に延在する。リブの経路は、所定の角度値だけ回転するごとにソケットが一定の前進を生じるように選択されることが好ましい。当該経路がもたらすのは、ソケットは打込まれると、規定された態様で数角度だけ自動的に回転することである。これに関して、ピッチ角は、円筒図法における角度が、ねじ山との類推によって、外周および螺旋曲線で囲まれた角度であることを意味すると理解される。対照的に、ピッチは、旋回ごとまたは同じ回転角度ごとの軸方向の長手方向変位である。
【0005】
各リブは、特定の中断していないまたは中断しているリブ長さと、特定の一定のまたは変化するリブ長さと、2つのフランク面とを有する。各リブは、リブの長手方向範囲にかけて外側側面または内側側面に対して垂直に延びる平面に基づくフランク投射面積を有す
る。リブの当該フランク投射面積は、リブの断面構成に依存せず、かつフランク傾斜には依存しないが、中断および刻み目を考慮した投射面積である。外側側面または内側側面とみなされるものは、赤道から極までのシェルの実際の外面または内面であるが、搭載穴または他の開口部は考慮していない。すべてのリブのフランク投射面積の合計は、外側側面の全体または内側側面の全体の少なくとも5分の1に相当する。側面は、断面において軸を含む平面で楕円形でもよい。
【0006】
全フランク投射面積の外側側面または内側側面に対する指定された比率によって、それらの用途、目的またはサイズと無関係にすべてのシェルについて実現されるのは、骨との最適な形状嵌合、したがって、最適な一次固定である。同時に、少なくとも所望の最低累積フランク投射面積を得るために、リブの数、リブの長さおよびリブの高さを変更することが可能なのは明らかである。内側側面へのリブの搭載、および最適化された一次固定によって、たとえば、特に股関節または肩関節のシャフトを含まない人工面の取替え(骨置換)のためにシェルの使用が可能になる。
【0007】
一般的な人工関節の場合、リブの設計および数ならびに実現可能なフランク投射面積が整形外科の限界および製造関連の限界に達することは明らかである。そのため、すべてのリブの投射面積の合計と外側側面または内側側面との割合が0.2:1~1:1の範囲であると、特に有利である。ここから、投射面積の合計が実際のシェルまたは丸屋根の外側側面または内側側面まで容易に等しく大きくなり得ることは明らかである。
【0008】
これに関して、少なくとも20個、好ましくは30~80個のリブを外側側面または内側側面に配置可能である。この数のリブによって、リブの寸法および外側側面または内側側面でのそれらの分布に関して均衡のとれた割合がもたらされる。
【0009】
外側側面または内側側面(弧度法)においてリブ中心からリブ中心まで赤道端で隣接するリブ間の間隔は、好ましくは0.2mm~4mmの範囲、特に好ましくは1mm~3.5mmの範囲であり、これによって、リブの高さに応じて46mm~68mmの股関節シェルの一般的なシェル公称サイズの場合にリブの数が多くなることは明らかである。
【0010】
好ましくは、さらに、すべてのリブの累積長さは少なくとも1000mm以上である。ソケットのこの構成によって、たとえばカムまたはフィンなどの個々のさらに他の要素を赤道領域においてリブに加えてさらに配置することが除外されないことは明らかである。
【0011】
リブ間隔のリブ高さに対する割合は、5:1~1:1であることが理想である。しかしながら、たとえば0.2mmのリブ間隔の場合、比較的小さい高さのリブのみを配置することも可能である。ここでシェルサイズも重要な役割を果たすことは明らかである。累積フランク投射面積は、シェルサイズ、リブ間隔およびリブ高さに応じて異なることが分かっている。ここで隣接するリブ間の間隔とみなされるのは、赤道端における外側側面または内側側面でのリブの中心間の間隔である。同時に、緯度に基づいて、外側側面または内側側面の全体にリブが設けられないことも考えられる。これによって、リブが設けられていない部分に比較的大きな隙間が生じることは明らかであり、これらの隙間は、隣接するリブ間の距離と見なされない。
【0012】
リブの少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%が長手方向中心軸に基づいて関節ソケットの高さの半分を超えて延在する場合、さらに他の利点を実現可能である。リブが極領域に向かって集束して、これによって連続してリブ間の間隔が小さくなることは明らかである。そのため、それにもかかわらず所与のリブ高さの場合にすべての位置において十分なリブ間隔を確保するために、リブの一部、典型的にはリブの半分が極領域に向かって特定の緯度までにのみ延在する一方で、残りのリブが極付近内にさらに案内されると
適切である。代替的に、リブ高さはリブの経路が異なり得る。
【0013】
異なる長さのリブが外側側面または内側側面に、特に好ましくは外周に基づいて一定順序で配置されていると有利である。しかしながら、特定の場合では不規則なパターンも考えられ、そのような場合、たとえばいくつかのリブが極の付近内まで延在する一方で、複数の実質的に短いリブが2つの長いリブの間に配置される。
【0014】
リブ間の選択された平均間隔およびシェルサイズによってリブ高さが決まることは明らかであるが、0.1mm~4mmの範囲であると有利である。同時に、異なる高さのリブが外側側面または内側側面に好ましくは一定順序で配置されていると有利な場合がある。
【0015】
さらに、リブの配置は、外側側面または内側側面の外周に基づいて、異なるリブ高さのリブが特定の緯度に配置されることによって変わり得る。
【0016】
可能な限り緩やかな骨材料の変位をもたらすために、リブがリブの土台からリブの頂点に向かって先細りになる断面、好ましくはくさび形状の断面を有していると有利である。くさび形状の断面の代替として、リブは、台形またはパゴダ形状または半島形状に延びてもよい。しかしながら、特定の場合にはリブフランクが略平行に延びるとも考えられ、これは、リブが矩形構成を得ることを意味する。さらに、リブの断面プロファイルを、それらの長さに基づいて連続した態様でまたは階段状に変えることが有利な場合がある。上述の断面は、リブの長手方向範囲に対して垂直、かつ外側側面または内側側面に対して垂直な平面に基づく。
【0017】
打込み方向の打込みがすぐ前の部分によって作られる溝内のリブの各部分の動きを含むように、リブピッチの経路を選択することが有利であり、これは、打込みに続いて骨材料内での詰まりまたは塞がりが起こらないことを意味している。同時に、リブのピッチカーブは明らかに、最終的にねじ状経路になるようにシェルの曲率を考慮に入れなければならず、リブは相補的なねじ溝を骨材料に刻み込み、それによって、骨材料はねじ込みナットの機能を得る。この方法は、打込みの間に骨材料がせん断されるまたは掘り起こされることを防止し、これは明らかに一次安定性にとって好ましくない。
【0018】
関節シェルが打込まれた後の一次安定性は、打込まれる間に大きな加重を受けるフランクが引抜かれる間に大きな加重を受けるフランクよりも低い粗さ値を有するように、異なる粗さ値を有する個々のリブのフランクによってさらに増大することができる。これによって、従来技術のように詰まったり塞がったりすることなく、関節シェルの自動ロックが増大される。異なる粗さ値は、各場合において1つのフランク側で摩擦を増加させるにすぎない。
【0019】
一次安定性についてのさらなる大きな利点は、リブのうちの少なくとも一部が中断して個々のリブ歯を形成する場合に得ることができる。個々のリブは明らかに、次から次へと配置された一列の歯を形成する。当該歯の構成に応じて、打込みが容易になり、持ち上げられるまたは引き抜かれることが妨げられる。また、赤道領域のリブの効果は明らかに極領域のものとは異なるため、リブのリブ歯が赤道端と極側端とで異なる構成を有していると適切である。
【0020】
リブ歯は好ましくは、四角形の実装面積、互いに対して傾斜した2つのフランク側面を有し、極に面する極側面と赤道に面する赤道側面とを有する不規則で多表面の本体を形成し、極側面は好ましくは、赤道側面と比較して、シェルの外側側面または内側側面と小さな角度を囲む。その結果、赤道側面は、特に外側側面または内側側面において約90°以上の角度の場合に、遮断面またはとげのある面を形成する。これとは対照的に、極側面は
、より平らな角度の骨材料の切断を防止し、骨材料の変位が実現される。その結果、シェルの打込みは骨に優しく、高い一次安定性が実現される。
【0021】
さらに他の利点は、骨材料が打込み方向で変位し、かつ骨材料がねじり外し方向で固定されるようにリブの連続するリブ歯が構成されると、実現可能である。そのような効果は、たとえば、個々のリブ歯を交互に、好ましくは一方向に互いに対してわずかにずらした状態でリブ歯を設定することによって達成される。
【0022】
リブの骨材料への挿入をさらに容易にするために、リブ歯のうちの少なくとも一部が、リブの経路に基づいて極に近い領域で三角形であり赤道領域で台形であると有利である。これに関連して、打込み中に前になる三角形のリブ歯が溝を切断する一方で、それらに続く台形のリブ歯は、可能な限り最適な張力を溝に蓄積する。
【0023】
リブ歯間の隙間が外側側面までまたは内側側面まで延在しないと有利である。刻まれた骨の溝におけるリブ歯の挿入および精密な案内は、連続したリブ本体が残っている場合、たとえ当該本体そのものの高さがきわめて小さくても改善される。
【0024】
二次安定性を改善するために、外側側面または内側側面および/またはリブに、完全にまたは部分的に骨誘導コーティングを設けることができる。この種類のコーティングそのものは、すでに従来技術で知られている。これに関して、コーティングはたとえば、チタンプラズマコーティングまたはヒドロキシアパタイトコーティングでもよい。シェル材料はチタンおよびチタン合金も可能であるが、ISO5832に従ってFeおよびCo合金、またはセラミックスもしくはポリマー材料も可能である。本発明に係る関節ソケットは、成形、機械加工によって、および/またはさらに他の製造プロセスによって製造可能である。
【0025】
本発明に係るシェルは、寛骨臼に打込まれる人工股関節用の関節ソケットでもよい。または、シェルは、シャフトを含まない人工肩関節の構成要素でもよく、シェルは、上腕骨に打込まれる上腕固定装置である。原則として、さらに、シェルはさらに骨構造の人工装具用に他の固定機能を呈することも可能である。人工股関節用の関節ソケットの場合、すべてのリブのフランク投射面積の合計と外側側面との割合は、0.2:1~0.8:1の範囲でもよい。対照的に、上腕固定装置用のシェルの場合の割合はさらに、0.3:1~1:1の範囲でもよい。これらの割合の相違は、上腕固定具の場合はシェル直径がより小さく、その結果外側側面がより小さくなることによる。
【0026】
股関節ソケットの場合、リブの数は、ソケットサイズに応じて40~70個のリブの範囲であると理想である。しかしながら、この数は、人工肩関節用のシェルの場合はより少なくてもよく、30~40個のリブの範囲でもよい。
【0027】
本発明に係るシェル設計のさらに他のパラメータは、リブ高さと外側側面または内側側面の直径との割合でもよい。従って、リブの土台からリブの頂点までのリブ高さと赤道における外側側面または内側側面の直径との割合が0.001:1~0.150:1の範囲、好ましくは0.01:1~0.04:1の範囲であると、特に有利である。
【0028】
本発明のさらに他の個々の特徴および利点は、以下で説明する例示的な実施形態および図面によって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】関節ソケットを大きく拡大して示す側面図である。
【
図2】
図1に示すような関節ソケットの上面図の半分を示す図である。
【
図3】
図1に示すような関節ソケットの模式図である。
【
図4】異なるリブ歯を含む模式的な側面図の半分を示す図である。
【
図5】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図6】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図7】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図8a】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図8b】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図9】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図10】あるリブプロファイルを大きく拡大して模式的に示す図である。
【
図11】互いに対してずれたリブ歯の上面図である。
【
図14】寛骨臼における人工股関節の模式図である。
【
図15】上腕固定装置を有する人工肩関節の模式図である。
【
図16】楕円断面を有する上腕固定装置の広い側の側面図である。
【
図17】
図16に示すような上腕固定装置の狭い側の側面図である。
【
図19】
図18に示すような上腕固定装置のI-I面での断面図である。
【
図20】フランク投射面積が描かれたリブを模式的に大きく拡大して示す斜視図である。
【
図21】固定装置を含まない関節シェルを含む表面取替品としての人工肩関節の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1~
図3に示すように、関節ソケット1は、全外周にわたって複数のリブ5が分布するように配置された外側側面4を有するシェル形状本体からなる。リブは、赤道端6から極側端7まで延在する。関節ソケットは極領域で平らになり、極開口部18が長手方向中心軸8上に配置されている。各個別のリブは、次から次へと配置された複数のリブ歯12からなる。さらに、すべてのリブが極付近内まで延びるわけではない。第2のリブ5’はすべて、極からやや遠くの緯度Bまで延びているだけである。赤道において、半球形のシェルは、骨質を砕くカッターの直径よりもわずかに大きいシェル直径DMを有する。
【0031】
各場合においてリブ土台における個々のリブの中心に基づく2つのリブ間の距離は、赤道端において最大で、極側端に向かって小さくなる。導入部で述べたように、当該距離は0.2mm~4mmである。ピッチ角αは、赤道で45°~85°の範囲であり、極に向かって大きくなる。
【0032】
リブの長さbは、
図3に示すように、各場合においてその空間的な経路またはその展開に基づく。すべてのリブの累積長さはそれゆえ、長いリブおよび短いリブの混合が関係するかしないかに関係なく、すべてのリブの長さの追加分だけ生じる。
【0033】
各リブは、2つの側にリブフランク11および11’を有する。リブのフランク投射面積Pは、リブ高さdまたはリブ高さの平均が乗算されたリブ長さbだけ生じ、当該リブ高さがリブの長さにわたって変わる場合、歯の間の隙間だけ少なくなる。この種類の計算を用いると、明らかに確認されるのは、その傾斜および曲率を考慮に入れないリブフランクの正味の投射面積である。しかしながら、投射面積は、一次安定性に関して最も大きな役割を果たす面積である。総じて、ソケットの累積フランク投射面積はそのため、個々のリブのフランク投射面積が乗算されたリブの数から計算される。
【0034】
リブプロファイルの詳細について
図4に示す。ここでリブは、断面が台形であるリブ歯
12’が関節ソケットの高さcの約半分まで赤道付近領域に配置された状態で、個々のリブ歯12に分割される。極付近領域では、リブ歯12’’は三角形の断面を有する。断面は、赤道付近端6から極側端7までのリブの長手方向範囲に基づく。台形のリブ歯12’は、リブの曲率半径に対して頂点ライン上で逃げ角γを有し、これによって、より大きな直径の臨界範囲の骨材料の変位が改善される。
【0035】
図5は、リブ土台9およびリブ頂点10を有する、同じ断面の2つのリブ5を模式的に示す。リブフランク11、11’は、リブ頂点で合流して、リブの長手方向範囲に対して横方向の断面で三角形状を生じる。リブ高さdは、リブ土台9からリブ頂点10までの寸法である。ここに示す例示的な実施形態では、同じ方向に傾斜するリブフランク11’に、骨誘導コーティング14が設けられる。これは、2つのリブ間の外側側面4の領域内にまで延在する。2つのリブ間の間隔、すなわちリブ土台の中心から中心までの間隔が、理解を容易にするためにここでも示される。すべての例示的な実施形態の代表としてここで示されるのは、リブのフランク投射面積Pであり、これは、リブ高さが一定でリブが中断していないとする、リブ高さdおよびリブ長さbによってもたらされる。
【0036】
図6に示すように、リブ5は
図5に示すような例示的な実施形態の場合と同様の断面形状を有する。すべての例示的な実施形態では、フランク角βは10°~90°の範囲でもよい。
【0037】
フランク角は、一定の態様で延びてもよい、または、赤道領域と極付近領域とで変化してもよい。
【0038】
骨誘導コーティングの代わりに、
図6に示すように、同じ方向に傾斜するリブフランク11’に、反対側のフランク11と比較して高い表面粗さが設けられ、これは、切り子面状の表面によって示される。粗さ値Raはたとえば、打込み方向で3μm~5μmより小さくても、引抜き方向で30μmより大きくてもよい。たとえばそれぞれのリブフランクの片面だけの機械加工、照射またはコーティングによるといった異なる処理方法を用いて、異なる表面粗さを実現することが可能であることは明らかである。
【0039】
図7は、2つの隣接するリブ5間の外側側面4のみに骨誘導コーティング14が設けられている、ある例示的な実施形態を示す。
【0040】
図8aおよび
図8bは、リブ頂点が直線のように延びずに、平坦なまたはわずかに湾曲する例示的な実施形態を示す。
図8aに示すように、リブフランク11、11’は、まさしくまたはほぼ平行に延びて、断面が薄板状または矩形のリブ5を形成する。対照的に、
図8bに示すようなリブ5は、断面が台形で平坦なリブ頂点10を有する構成を有する。
【0041】
図9に示すような例示的な実施形態では、リブ5は、やや幅広いリブ土台9および鋭角のリブ頂点10を有するパゴダ形状断面を有する。リブフランク11および11’は、湾曲して延びる。
【0042】
図10は、異なる高さd1およびd2の交互に配置されたリブ5および5’を有する、ある例示的な実施形態を模式的に示す。リブ間隔a1およびa2も、それらに対応して異なっていてもよい。
【0043】
図11は、
図12および
図13にさらに示すように、各々が不規則な他面本体を示す個々のリブ歯12の上面図である。左の列のリブ歯は規則的に延び、右の列のリブ歯は、互いに対してずれるように延びる。各リブ歯12は、四角形の、特に台形の実装面積、互いに対して傾斜した2つの歯フランク15、15’、極側面16および赤道側面17を有す
る。打込み方向は矢印eで示され、ねじり出し方向は矢印fで示される。個々の歯の間の隙間13は比較的小さい。右の列の連続した歯12’および12’’は、打込み方向eに基づいて占有面積が右側または左側にそれぞれ突出するように、互いに対してずれている。その結果、歯フランク15および歯フランク15’は、溝全体の対称軸をやや超えることがある。オフセット角は、2°~15°でもよい。これによって、ねじり出し方向fの関節ソケットの取外しを妨害するフランク19、19’が交互に突出する。なぜなら、当該フランクはとげの機能を呈するからである。これとは対照的に、打込み方向eの打込みは、この構成によって妨げられない。これにさらに貢献するのは、極側面16が基部と鋭角を囲む一方で、赤道側面17は基部に対して略垂直であるということである。
【0044】
以下の表は、例として、リブ間隔、リブ高さ、ならびに3つの股関節シェルサイズ、48mm、52mmおよび64mmについてのリブの数および結果として生じる累積フランク投射面積の関係を示す。3mmのリブ間隔が理想とみなされ、これによって、1.1mmのリブ高さが可能になる。この目的のために、ここで実現可能な累積フランク投射面積は、各々mm2で指定される。残りの値は、mmで指定される。加えて、リブの数もさらに指定され、累積フランク投射面積と外側側面との割合も同様である。
【0045】
【0046】
図14は、人工股関節2を象徴的に示す図であり、そのジョイントボールを有するシャフトは輪郭のみ示されている。リブ5を有する股関節ソケット1は、矢印方向eに寛骨臼3内に打込まれており、当該股関節ソケットは、矢印方向gにわずかに回転する。
【0047】
これとは対照的に、
図15は、本発明に係るシェルが関節ソケットではなく、上腕骨23に打込まれた上腕固定装置21の機能を呈する、シャフトを含まない人工肩関節22を象徴的に示す図である。この場合、上腕固定装置に接続された上腕頭24が、ジョイントボールの役割を呈する。
【0048】
図16~
図19は、上腕固定装置21をさらに詳細に示す図である。この場合に目立つのは、股関節ソケットと比較して異なる形状の断面および占有面積である。特に
図19から明らかなように、外側側面26は、断面が楕円体でリブを含まずに閉じた極面27を有する構成を有する。個々のリブ25、25’は交互に極面まで、またはそこからわずかな距離だけ延在する。長手方向中心軸に基づく楕円体の断面にもかかわらず、シェルは、赤道で円形のシェル形状を有する。しかしながら、シェルの断面および個々のリブ25、25’の赤道において異なるリブ高さのために、広い側BSおよび狭い側SSを有する楕円体の外側占有面積もある。上述したように、上腕固定装置の場合の個々のリブは好ましくは中断せずに延びるが、場合によってはリブ高さが変わりリブ長さが異なる。しかしながら、個々の歯を形成するための個々のリブまたは全てのリブの中断部も考えられる。上腕固定装置21の内側に設けられるのは、打込みに続く上腕頭の締結に好適な締結具30(
図19)である。
【0049】
上述の股関節シェルとの類推によって、同様に例として以下で説明するのは、リブ間隔、リブ高さ、および特に累積フランク投射面積と外側側面との割合の関係を有する表である。この場合、シェルサイズは当然のことながら、上腕固定装置について股関節シェルの場合と比較して小さい。
【0050】
【0051】
図20は、リブ頂点10において中断部31を有するリブ5の例を用いた、フランク投射面積Pを模式的に大きく拡大して示す図である。しかしながら、当該中断部は、リブ土台9まで到達せず、明らかに結果として生じる中断部ではなく、フランク投射面積Pにおける切欠きにすぎない。ここでも、リブ長さbは、赤道端6からここでは示さない極側端までのリブ5の長手方向範囲に相当する。フランク投射面積Pは、矢印xによって示すように、外側側面4に対して垂直に延びる。ここで、リブフランク11および11’はくさび形状の断面を形成し、特に平面に基づく1つは、矢印yおよびzで示すように、リブの長手方向範囲に対して垂直に、かつ、外側側面に対して垂直に延びる。その結果、ここでフランク角βが生じる。ここでも再び示されるのは、赤道側リブ土台上で隣接するリブの中心間の弧度法としてのリブ高さdおよびリブ間隔aである。
【0052】
図21は、リブが外側側面ではなく内側側面に配置された、本発明に係るシェルの例を示す図である。この例は、シャフトを含まない人工肩関節22に関し、半球の固定シェル32が、上腕骨23上で表面取替品を直接形成する。
図15に示すような人工肩関節とは対照的に、固定シェル32が内側リブ33によって上腕骨上に直接打込まれこのように固定されるため、上腕固定装置は必要ではない。これに関して、内側リブ33は、あたかもリブが外側側面上に配置されているかのように、同じ態様で極に向かって内側側面34上で延びる。例示的な本実施形態では、固定シェル32の外側側面35は、
図15に示すような例示的な実施形態の場合における上腕頭24と同様に、関節面を直接形成する。固定シェル32を上腕骨23上に打込むと、同様に、端位置に到達するまで数角度だけ回転生じることは明らかである。
【0053】
また、代替的な関節構造に、たとえば、肩甲骨上の関節ソケットを人工ジョイントボールで取り替え、上腕のジョイントボールを人工関節ソケットで取り替えるリバース型人工肩に、本発明に係るシェルを用いることも可能であるのは明らかである。そのような場合でも、シャフトを用いずに上腕骨に関節ソケットを固定することが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節(2、22)用の骨質に打込まれるシェル(1、21、32)であって、
凸状に湾曲した外側側面(4、26)であって、前記外側側面(4、26)は極側端(7)と前記極側端の反対側の赤道端(6)とを備える、前記外側側面(4、26)と、
前記極側端(7)と前記赤道端(6)との間に延在する複数のリブ(5)であって、前記複数のリブ(5)は前記外側側面(4、26)から延在し、前記複数のリブ(5)は第1のリブセットと第2のリブセットとを含み、前記第2のリブセットの1つのリブは隣接する前記第1のリブセットの間に位置し、前記第1のリブセットのリブは第1の長さであり、前記第2のリブセットのリブは第2の長さであり、前記第1の長さは前記第2の長さよりも大きい、前記複数のリブ(5)と、を含む、シェル(1、21、32)。
【請求項2】
前記複数のリブ(5)がピッチ角(α)で前記極側端(7)と前記赤道端(6)との間に延在し、前記ピッチ角(α)が約45°~約85°の範囲である、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項3】
前記ピッチ角(α)が前記赤道端(6)および前記極側端(7)から前記複数のリブ(5)に渡って増加する、請求項2に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項4】
前記複数のリブ(5)の少なくとも一部が他の前記複数のリブ(5)とは異なる高さを有する、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項5】
前記複数のリブ(5)のそれぞれのリブ(5)がフランク(11、11’)を含み、
前記フランク(11、11’)の投射面積の合計表面積が、前記外側側面(4、26)の表面積の少なくとも5分の1である、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項6】
前記複数のリブ(5)のそれぞれのリブ(5)がフランク(11、11’)を含み、前記フランク(11、11’)の少なくとも一部が他の前記フランク(11、11’)とは異なる粗さ値を有する、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項7】
前記複数のリブ(5)の少なくとも一部がリブ歯(12)を含む、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項8】
前記リブ歯(12)が1つ以上の三角形断面および台形断面を有する、請求項7に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項9】
前記リブ歯(12)が、前記極側端(7)に近位の三角形断面と、前記赤道端(6)に近位の台形断面とを有する、請求項7に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項10】
前記複数のリブ(5)のそれぞれのリブ(5)の累積長さが少なくとも1000mmである、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項11】
前記複数のリブ(5)が少なくとも20個のリブを含む、請求項1に記載のシェル(1、21、32)。
【請求項12】
前記赤道端(6)において隣接するリブのリブ中心からリブ中心までの間隔(a)は、約0.2mm~4mmの範囲である、請求項1に記載のシェル。
【外国語明細書】