(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041889
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】入力開口が小さく、かつ高効率なコンパクトヘッドマウントディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002033
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2021542115の分割
【原出願日】2020-01-27
(31)【優先権主張番号】264551
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(71)【出願人】
【識別番号】518294890
【氏名又は名称】オーリム オプティクス エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】アミタイ,ヤーコヴ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】応用上の具体的な要求に適合し、かつ改良された性能を有するコンパクトな光学的ディスプレイデバイスを提供する。
【解決手段】光学デバイスは、光透過基板と、入力開口及び出力開口と、アイモーションボックスと、光透過基板の外部に設けられかつ光波を入力開口を介して基板内へカップルインさせる中間素子と、光透過基板の2つの主面の間に設けられかつカップルインした光波を基板の2つの主面で内部全反射するように反射する第1の反射面と、光透過基板の2つの主面の間に設けられかつ第1の反射面に平行で光波を基板からカップルアウトさせる第2の反射面と、出力開口を通って基板からカップルアウトした光波をアイモーションボックスへと方向転換する光学素子を備えている。入力開口は出力開口よりも実質的に小さく、第1及び第2の反射面の有効領域は形状が類似で、カップルインした各光波はアイモーションボックスの全開口をカバーする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の主面と第2の主面と端部とを有する、光学的に透明な基板と、
所定の視野を持ち、入射光波を前記基板にカップルインさせると共に、前記基板の第1の主面で入射した光波を内部全反射させる、カップルイン要素と、
前記光学的に透明な基板の2つの主面の間に位置し、前記基板から光波をカップルアウトさせる少なくとも1個の反射面と、
前記基板の第1の主面の少なくとも一部に光学的に取り付けられた平坦なプレートとを備え、
前記基板の第1の主面に実質的に垂直な向きの平坦な吸収面から成るアレイが、前記基板の内部に埋め込まれ、
前記平坦なプレートは、垂直な入射光波に対して実質的に透明であり、
さらに、前記基板からカップルアウトし、前記平坦なプレートに入射した光波は、前記吸収面により吸収される、光学デバイス。
【請求項2】
前記カップルイン要素は前記基板の外部に位置する、請求項1の光学デバイス。
【請求項3】
入射光波は、前記基板の第2の主面を経由して前記基板へカップルインする、請求項1の光学デバイス。
【請求項4】
少なくとも2個の平行な主面と端部とを備える平坦な透明要素をさらに備え、前記カップルイン要素は前記透明要素の2個の主面の間に位置する、請求項1の光学デバイス。
【請求項5】
前記透明要素は前記基板の第2の主面に光学的に取り付けられている、請求項4の光学デバイス。
【請求項6】
前記入射光波は、前記カップルイン要素により前記基板にカップルインする前に、前記透明要素の2個の主面で内部反射し、透明要素の内部を伝搬する、請求項4の光学デバイス。
【請求項7】
アイモーションボックスをさらに備え、前記基板にカップルインした光波は、前記少なくとも1個の反射面により、アイモーションボックスへと反射される、請求項1の光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
この発明は基板を用い光波をガイドする光学デバイスに関し、特に光透過基板に支持された反射面と前記基板に支持された部分反射面のアレイとを有するデバイスに関する。
【0002】
この発明は、ヘッドマウントディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ、セルラーフォン、コンパクトディスプレイ、3Dディスプレイ等の、種々の画像装置に実装できる。
【発明の背景】
【0003】
コンパクトな光学素子の重要な応用の1つに、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)がある。HMDでは、光学モジュールを画像形成用のレンズかつ結合器として用い、無限遠に焦点を持つ2次元画像を形成し視者の目に入射させる。画像は空間光モジュレータ(SLM)により直接形成でき、SLMには例えば陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機LEDアレイ(OLED)、その他の走査手段などがある。画像を間接的に形成するには、リレイレンズ、光学ファイバーの束などを用いる。画像は画素の集まりからなり、コリメートレンズにより無限遠に焦点が合わされ、反射面あるいは部分反射面を用いて、視者の目に転送される。部分反射面はシースルーユースでの結合器、反射面はノンシースルーユースでの結合器である。通常は、これらの目的にフリースペース光学モジュールを用いる。システムの視野(FOV)を増すと、在来の光学モジュールは大きく、重く、嵩張るようになるので、控えめの性能の装置を作ることも難しい。このことはあらゆるディスプレイの欠点であるが、軽量かつ小型であることが求められるHMDで特に問題になる。
【0004】
ディスプレイをコンパクトにするためいくつかのソリューションが追求されたが、それらは多くの応用にとって十分にコンパクトではなく、また製造が困難で、高価かつ低性能である。
【0005】
WO2017/141239,WO2017/141240,WO2017/141242,及びPCT/IL2018/051105に開示された事項は、この明細書でも開示されているものとする。
【発明の概要】
【0006】
この発明は、種々の応用に対し、特にHMDに対し、コンパクトな基板を使用できるようにする。この発明では、広いFOVと大きなアイモーションボックス(EMB)を同時に提供する。得られる光学システムは大きな高質の画像を提供し、視野も広い。この発明の光学システムは、最新の機器よりもコンパクトで、かつ実装上の制限がある機器にも容易に実装できる点で、優れている。
【0007】
この発明の基本的な目的は、応用上の具体的な要求に適合し、かつ改良された性能を有するコンパクトな光学的ディスプレイデバイスを提供することにある。
【0008】
この発明の光学的デバイスは、少なくとも2つの平行な主面と、2つの互いに対向するエッジとを有する、第1の光透過基板と、入力開口と、光透過基板の主面の一方に隣接して配置されている出力開口と、開口を有するアイモーションボックスと、光透過基板の外部に配置され、少なくとも2つの面を持ち、入力開口からの視野内の光波を基板にカップルインさせる、第1の中間素子と、光透過基板の2つの主面の間に位置し、有効領域を備え、基板の2つの主面で内部全反射するように、カップルインした光波を反射する、第1の平坦な反射面と、第1の平坦な反射面に平行で、光透過基板の2つの主面の間に位置し、有効領域を備え、光波を基板からカップルアウトさせる、第2の平坦な反射面と、光透過基板の外部に配置され、少なくとも2つの面を持ち、基板から出力開口を通ってカップルアウトした光波をアイモーションボックスへと方向転換する、方向転換光学素子とを備え、入力開口は出力開口よりも実質的に小さく、第1の平坦な反射面の有効領域は第2の平坦な反射面の有効領域と形状が類似で、カップルされた各光波がアイモーションボックスの全開口をカバーする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この発明を、より充分に理解できるよう、以下の模式的な図を参照し、幾つかの好ましい実施例との関連において説明する。
図には詳細を示すが、このような詳細は例を示すもので、かつこの発明の好ましい実施例を模式的に示すためのみのもので、この発明の概念と原理を最も実用的にかつ容易に理解し得るように示すものである。この点に関し、この発明を根本的に理解するのに必要な範囲を越えて、発明の構造的な詳細を示す取り組みは行わない。図を参照しての説明は、当業者に対し、この発明の幾つかの形態をどのように実用化するかを示す。
【0010】
【
図1】
図1は従来例での光透過基板の例を示す側面図である。
【
図2】
図2は従来例での光透過基板の他の例を示す側面図である。
【
図3】
図3は2つの入射角の範囲に対する、従来例での光透過基板の例に用いる、選択反射面の好ましい反射及び透過特性を示す。
【
図4】
図4は誘電コートの例に対する、入射角の関数としての反射曲線を示す。
【
図5】
図5は従来例の光透過基板の模式的断面図で、カップルイン素子とカップルアウト素子は回折光学素子である。
【
図6】
図6A,6B,6Cは、従来例の透過基板の断面図で、透過基板はカップルイン面とカップルアウト面を備え、さらに部分反射方向転換素子を備えている。
【
図7】
図7は、カップルアウト面の有効領域を模式的に示し、視点の角度とシステムのEMBに従って示す。
【
図8】
図8A,8B,8C,8Dは、カップルイン表面の有効領域を模式的に示し、視点の角度とシステムのEMBに従って示す。
【
図9】
図9A,9B,9C,9Dは、基板により光波をガイドする実施例の模式的断面図で、この実施例は、この発明に従って、1個のカップルアウト素子と、中間プリズム、及び出力開口よりも小さい入力開口を備えている。
【
図10】
図10は、界面での入射光波に対する、この発明での反射を、3つの異なる波長に対し、入射角の関数として示す。
【
図11】
図11は、2つの異なる波長での入射面への入射角と、この発明での界面での臨界角を波長の関数として示す。
【
図12】
図12A,12B,12Cは、この発明での、3つの異なる波長に対する界面での入射光の反射を入射角の関数として示し、かつ2つの光波への入射角を示す。
【
図13】
図13A,13B,13C,13Dは、他の、基板により光波をガイドするこの発明の実施例の模式的断面図で、実施例は1個のカップルイン素子と、中間プリズム、出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図14】
図14A,14B,14C,14Dは、基板により光波をガイドする、この発明の他の実施例の模式的断面図で、実施例は1個のカップルイン素子と、中間プリズム、及び出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図15】
図15は、カップルイン面での異なる3つの波長に対する、この発明での入射光波の反射を、入射角の関数として示す。
【
図16】
図16は、2つの異なる光波に対するカップルイン面への入射角と、この発明でのカップルイン面での臨界角を波長の関数として示す。
【
図17】
図17A,17B,17Cは、この発明での、3つの異なる波長に対するカップンリングイン面での入射光の反射を入射角の関数として示し、かつ2つの光波への入射角を示す。
【
図18】
図18A,18B,18C,18Dは、基板により光波をガイドする、この発明の実施例の模式的断面図で、実施例は1個のカップルアウト素子と、2個の中間プリズムと、出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図19】
図19A,19B,19C,19Dは、基板により光波をガイドする、この発明の他の実施例の模式的断面図で、実施例は1個のカップルアウト素子と、2個の中間プリズムと、出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図20】
図20A,20B,20C,20Dは、基板により光波をガイドする、この発明のさらに他の実施例の模式的断面図で、実施例は1個のカップルアウト素子と、2個の中間プリズムと、出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図21】
図21は、この発明の、基板により光波をガイドする実施例の模式的断面図で、実施例はカップルイン面の傾斜角が異なる2個の隣接する基板を備えている。
【
図22】
図22A,22B,22C,22Dは、この発明での、2つの隣接する基板を備え、かつ基板により光波をガイドする実施例での、カップルインされた単一光波を模式的に示す断面図である。
【
図23】
図23A,23B,23C,23Dは、この発明での、2つの隣接する基板を備え、かつ基板により光波をガイドする他の実施例での、カップルインされた光波を模式的に示す断面図である。
【
図24】
図24A,24B,24C,24Dは、2つの隣接する基板を備え、かつ基板により光波をガイドする、さらに他のこの発明の実施例での、カップルインされた光波を模式的に示す断面図である。
【
図25】
図25は、基板により光波をガイドする、この発明の実施例の内部での3つの異なる光波を示し、実施例は2個の隣接する基板と、1個の中間プリズムと、出力開口よりも実質的に狭い入力開口を備えている。
【
図26】
図26A,26Bは、基板により光波をガイドする実施例の模式的断面図で、不要な光波はシステムのEMBに達する。
【
図27】
図27は、この発明での基板により光波をガイドする実施例の模式的断面図で、実施例は、外部面からの内部全反射を減らすための、吸収面のアレイを備えている。
【
図28】
図28A,28B,28C,28D,28E、28Fは、この発明での吸収面のアレイを備えるプレートの製造方法を示す。
【
図29】
図29A,29Bは、この発明の、基板により光波をガイドする実施例の模式的断面図で、実施例では不要な迷光は薄いプレートの内部で吸収される。
【
図30】
図30は、この発明での、2枚の基板から成る構成を用い、2個の軸に沿って出力開口を拡張する方法を示す図である。
【
図31】
図31A,31Bは、基板により光波をガイドする他の実施例の模式的断面図で、実施例では偏光及び無偏光の表示源に対するコリメート素子として反射レンズを用いる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
図1は従来技術での光透過基板の断面を示し、第1反射面16が平行な光波12により照射され、この光波はディスプレイソース4から射出され、ソース4とデバイスの基板20の間に位置するレンズ6により平行光にされる。反射面16はソース4からの入射光を反射し、その結果、内部全反射により、入射光波は平坦な基板20の内部にトラップされる。基板20の主面26,27で数回反射した後、トラップされた光波は部分反射素子22に達する。部分反射素子22は、基板から射出した光を、瞳25を有する視者の眼24へカップルさせる。ここで、基板20の入力開口17は、入射光が基板へ入る開口として定義される。基板の出力開口18は、トラップされた光波が基板から出て行く開口として定義される。
図1の基板20の場合、入力開口と出力開口は基板の下面26と一致する。これ以外の構成も可能で、例えば入力光波とディスプレイソース4からの画像光波は基板の反対面に位置しても良く、あるいは基板のエッジに位置しても良い。図示のように、入力開口と出力開口の有効領域は互いに形状が類似で、有効領域はカップルイン素子16の主面26への射影と、カップルアウト素子22の主面への射影に相当し、これらは形状が類似である。なおこの明細書において、画像とイメージは同義語である。
【0012】
HMDシステムでは、EMB(アイモーションボックス)の全表面がディスプレイソースからの光波により照射されることが必要で、これにより視者の眼は投射されたイメージの全FOVを同時に見ることが可能になる。その結果、システムの出力開口はそれに応じて拡張される。この一方で、光学モジュールは軽量でコンパクトであることが求められる。コリメートレンズ6の横幅は基板の入力開口の横幅に応じて決まるので、入力開口は可能な限り小さいことが求められる。
図1に示したようなシステムでは、入力開口の横幅は出力開口の横幅と似た値となり、2つの要求には内在する矛盾がある。この光学的な構成に基づく大部分のシステムは、EMBが小さい、達成可能なFOVが小さい、及び、大型でかつ複雑なイメージモジュールを必要とする、との問題がある。
【0013】
この問題を少なくとも部分的に解決する具体例を
図2に示す。基板から光波をカップルアウトさせる素子は、部分反射面22a,22b等のアレイである。この構成では、出力開口は基板20内に埋め込まれた部分反射面の数を増すことにより拡張できる。このため小さな入力開口と大きな出力開口を備える光学モジュールを、設計及び製造できる。図示のように、トラップされた光線は2つの異なる方向28,30から反射面に達する。この例では、トラップされた光線は、基板の主面26,27で偶数回反射された後に、部分反射面22aに達する。ここでトラップされた光線と反射面の法線との間の入射角をβ
refとする。
【0014】
トラップされた光線は、基板の主面26,27で奇数回反射された後に、部分反射面22aに達する。ここでトラップされた光線と反射面の法線との間の入射角をArefとする。
【0015】
図2にさらに示すように、各光線は最初に方向30から各反射面に達する。ここで光線の一部は方向28から反射面に再度入射する。不要な反射を防止しかつゴーストイメージを防止するため、第2の方向28からの入射光に対する反射を無視できる程度に小さくすることが重要である。
【0016】
薄膜コートの角度敏感性を用いてこの要求を解決することが、上記の文献で提案されている。2つの入射角を識別することは、一方の角度が他方の角度よりも著しく小さければ可能である。大きな入射角では極めて小さな反射率を持ち、小さな入射角には大きな反射率を持つコートが可能である。この性質を用い、2方向の一方に対する反射を除去することにより、不要な反射とゴーストイメージを防止することが可能である。
【0017】
図3A,3Bを参照する。これらの図は、部分反射面34の好ましい反射特性を示している。光線32(
図3A)は軸からの外れ角β
refを持ち、基板20で部分反射されカップルアウトされるが、光線36(
図3B)は軸からの外れ角β'
refで反射面34に達し、認識できる反射無しに反射面34を透過する。
【0018】
図4は、このシステムでの典型的な部分反射面の反射率曲線を示す。波長は550nm、S偏光で、入射角の関数として反射率を示す。フルカラーディスプレイに対し、可視スペクトルの範囲で、他の波長に対しても類似の反射曲線が得られるはずである。例えば430nmと660nmの間の範囲内で、類似の特性が得られるはずである。このグラフには顕著な2つの領域がある。65°と85°の間で反射率は極めて小さく、10°と40°の間で入射角と共に反射率は単調に増す。
図3,
図4から分かるように、
図2の具体例での部分反射面22の反射特性はありふれたものではない。さらに、より高い角度範囲でも反射率を低く保つために、低い角度範囲での反射率は20%~30%以上にはできない。さらに、FOV全体に対する明るさを得るため、部分反射面の反射率は基板の端に向かって徐々に増す必要がある。それ故、最大達成効率は比較的低く、通常は10%を越すことはない。
【0019】
光ガイド光学素子との間で光波をカップルイン及びカップルアウトさせる、他のアプローチは、回折素子を用いることである。
図5に示すように、光線34,36は透明基板20へ回折素子48によりカップルインされ、基板の外表面で複数回、内部全反射された後に、第2の回折素子50により基板からカップルアウトされる。図示のように、光線34は素子54上の異なる2点52,54で少なくとも2回カップルアウトされる。従って均一な出力光波を得るためには、素子50の回折効率はξ軸に沿って徐々に増加しなければならない。この結果、光学システムの全効率は
図2のシステムよりもさらに低くなり、通常は数%以下である。即ち、
図2,
図5の例では、出力開口を入力開口よりも大きくするため、光学モジュールの明るさを犠牲にし、かつ基板の製造過程を複雑にしている。
【0020】
図6A,6Bは上記の問題を解決するための例を示す。光波を基板20からカップルアウトさせることと、光波をユーザの目24へ入射させることの、2つの機能を達成するため、単一の素子(
図2の素子22,
図5の素子50)を用いるのではなく、これらの機能を2つの異なる素子に割り当てる。即ち1つの素子を基板に埋め込み、光を基板からカップルアウトし、第2の在来の部分反射素子を基板の外部に配置し、光波を視者の眼へと方向転換する。
図6Aに示すように、ディスプレイソースからの平面波で、図示しないレンズにより平行光線にした2つの光線(破線)は、光透過基板64へ入射する。基板は2つの平行な主面70,72を持ち、光線は入力開口86を介し入射角α
in
(0)で基板の主面70,72に対し入射する。光線は反射面65に入射し、この反射面は基板の主面に対し角a
sur1だけ傾斜している。反射面65は入射光を反射し、その結果、光線は主面での内部全反射により平坦な基板64内にトラップされる。トラップされた光波の伝搬次数を区別する。添字(i)は次数iを示す。基板に0次で入射する入力光波は添字(0)で示し、カップルイン反射面での反射の都度、光線の次数は(i)から(i+1)に増加する。1次のトラップされた光線と主面70,72の法線との軸外れ角は、(1)式で与えられる。
α
in
(1)=α
in
(0)+2・α
sur1 (1)
【0021】
基板の表面で数回反射された後、トラップされた光線は第2反射面67に達し、そこで光線は基板からカップルアウトする。面67が面65と主面に対し同じ角度で傾いているとすると、即ち面65,67が平行で αsur2 =αsur1 とすると、基板面に対する法線とカップルアウトされた光線の角αoutは(2)式で与えられる。
αout=αin
(1)-2・αsur2=αin
(1)-2・αsur1=αin
(0) (2)
【0022】
従って、カップルアウトされた光線は、基板に対して入射光線と同じ角度で傾いている。カップルインした光波は、
図1に示す光波と同様に振る舞う。しかし
図6Aは異なる振る舞いを示し、2つの光線68(破線)は光線63と同じ入射角α
in
(0)を有し、反射面65の右側に入射する。面65で2回反射した後、光線は内部全反射により基板64の内部にカップルインされ、トラップされた光線の軸外れ角は(3)式で与えられる。
α
in
(2)=α
in
(1)+2・α
sur1=α
in
(0)+4・α
sur1 (3)
【0023】
基板の主面で数回反射した後、トラップされた光線は第2反射面67に達する。光線68はカップルアウト面67で2回反射され、他の2つの光線63と同じ軸外れ角αoutで基板からカップルアウトされる。他の2つの光線63は基板65,67で1回のみ反射され、4つの光線は基板主面に同じ入射角で入射する。4つの光線は同じ入射角で入射し、同じ軸外れ角でカップルアウトするが、これらの間に実質的な違いがある。2つの光線68は反射面65の右側に入射し、基板64の右端により近くなり、基板65,67で2回反射され、基板67の左側でカップルアウトし、これは基板の左端69の反対側により近くなる。この一方で、2つの光線63は反射面65の左側に入射し、基板64の中央により近くなり、基板65,67で1回反射され、基板67の右側でカップルアウトし、基板の中央により近くなる。
【0024】
図6A,6Bに示すように、イメージの傾斜角α
outは部分反射面79を加えることにより調整でき、この反射面79は基板の面72に対し角α
redで傾斜している。図示のように、イメージは反射され回転し、その結果、イメージは基板の主面に実質的に垂直に基板を再度通過し、基板の出力開口89を介して視者の眼24に達する。歪みと色彩の乱れを最少にするため、面79を方向変換プリズム80に埋め込むことが好ましい。基板64の形状を完全なものにするため、第2のプリズム82を設けることが好ましい。基板とプリズム84は同じ材料で製造し、プリズム80と同じ材料である必要はない。システムの厚さを最少にするため、
図6Bに示すように、単一の反射面79を平行な部分反射面79a,79b等のアレイにより置き換えることが可能である。部分反射面の数はシステムの要求に応じて決定できる。カップルアウトした光波を視者の眼へ方向転換する他の方法として、波長以下のスケールでのパターンを有する平坦な金属面を用いることがある。
【0025】
図示した例では、光波は1次と2次の軸外れ角のみを持ち、基板内部を伝搬するものとする。しかしカップルイン面及びカップルアウト面での傾斜角αsur1が比較的小さく、3次及び4次も使用できるシステムがある。
【0026】
図6Cに示すように、入射光線71は基板64に軸外れ角α
in(0)で入射する。点75a,75b,75cで面65に対し3回反射した後、光線は基板内部にカップルインされ、基板内部を伝搬して3次の軸外れ角α
in(3)を持つ。基板64の主面で何度か反射した後、光線71は面67に入射する。点77a,77b,77cで3回反射した後、光線は基板64から軸外れ角α
in
(0)でカップルアウトする。光線71は次いで面79で反射され、反射は基板の主面に実質的に垂直で、視者の目24に入射する。原則として小さなカップル次数のシステムでは、低次の光線は基板の端部側の反射面で基板にカップルインしかつカップルアウトする。これに対して、次数の高い光線は反射面中の基板の中央部に近い位置で基板にカップルインされる。なお中間次数の光線は、カップルイン面とカップルアウト面の中央でカップルインされる。
【0027】
カップルアウト面67について、2つの矛盾する要求がある。第1に最初の3次のイメージF(1),F(2),F(3) は上記の面で反射されるが、基板64からの0次のイメージF(0) は、面79で反射された後に、この面を実質的に透過し、実質的に反射してはならない。さらにシースルーのシステムに対しては、実質的な垂直な外部からの入射光線83には、光学システムはできる限り透明でなければならない。この問題を解決する1つの方法は、面67内のエアギャップを用いることである。剛性の高いシステムを得るため、面67に光学接着剤を適用することが好ましく、基板よりも屈折率が実質的に低い光学接着剤を用いてプリズム82を基板64に固定することが好ましい。しかしながら、光学接着剤に必要な屈折率は、カップルされた全FOVに対する内部全反射を与えるため極めて低く、1.31~1.35程度である。必要な屈折率を持ち、かつ商業的に入手可能な光学接着剤がある。さらに、それらの接着強度は通常は充分ではなく、極端な環境条件への耐久性も、軍用あるいはプロフェッショナル用としては充分ではない。他の解決は、スピンコートにより、面67に誘電体薄膜を設けることである。コート材料の屈折率を基板よりも実質的に小さくし、必要な値とする。これにより、全FOVに対し、面67での内部全反射が得られる。基板64はプリズム82に、必要な接着強度と環境条件への耐久性を持つ光学接着剤により接着しても良く、その屈折率はリーゾナブルな値を持ち得る。
【0028】
カップルアウト面67での転送された光波のフレネル反射を最少にするため、幾つかのアプローチが提案され、この面に適切なアンチリフレクション(AR)コートを施すことが好ましい。この場合、基板を通過する光波の全体効率は極めて高く、光波を基板からカップルアウトする場合、面67の反射率は面での内部全反射のため100%となる。なお面79で反射された光波に対する転送率は、外部からの光線に対する転送率と同様に、ARコート(反射防止コート)の結果、ほぼ100%になる。同様に、界面81を定める基板64の下面72に、基板よりも屈折率が実質的に低い光学接着剤により、プリズム80を接着することが好ましい。ここで界面に適切なARコートを施す。ここでも面72での内部全反射は、面72によりスピンコートにより適当な材料の膜を設け、プリズム80を在来の光学接着剤により面72に接着することにより達成される。従って、基板から面67でカップルアウトされた光波の輝度は、面65で基板にカップルインされる前の入力光波の輝度にほぼ等しい。そして輝度が低下する唯一の機構は、面79での部分反射である。従って、
図6A~6Cの例での輝度効率は、
図2,
図5の構成よりも1桁程度高くなる。
【0029】
図6Aを参照して説明したように、拡張現実(AR)用のHMD等のシースルーシステムでは、視者は外部の情景を基板を通して見、部分反射面79は少なくとも部分的に透明で、外部の光線63,68が基板を通り視者の眼24に達するようにする。面79は部分的に反射するので、カップルインされた光波63,68の一部のみが面79で反射され、視者の眼に達する。面79を通過した光波84の他の部分はプリズム80でカップルアウトされ、視者の眼には届かない。面79は部分反射面なので、外部からの光線83の一部のみが面79を通過し、視者の眼に達する。光線85の他の部分は面79で反射され、プリズム80でカップルアウトされ、視者の眼には届かない。投射されたイメージの効率は外部情景のために増加し、その逆に部分反射面79の反射率を増すと、カップルインされた光線63,68の輝度が増加する。従って、面79の転送率は低下し、外部イメージ83の輝度はそれに応じて低下する。
【0030】
図1~5の例とは異なり、基板でカップルアウトされた光を視者の眼へと反射する面79は、同時に外部の光線を透過する在来の部分反射ミラーでもあり、
図2~5の例での面22,50のような特別あるいは複雑な特性を必要としない。その結果、部分反射面79の反射率(従って透過率)を、外部の照明条件と視者の眼に投影される具体的な画像に応じて、動的にコントロールすることが可能である。面79の反射率を制御する1つの方法は、電気的にスイッチできる半透過ミラーを用いることで、それは特別の液晶材料から構成される固体の薄膜素子であり、短時間で全反射、部分反射、全透過の間で切り替えることができる。他の方法は、動的なメタサーフェスとしてスイッチ可能な素子79を得ることである。スイッチ可能なミラーは、マニュアルでユーザにより、あるいは外部の輝度に応じてミラーの反射率をコントロールする光度計により自動的に、所望の状態に設定できる。この機能は、投射されたイメージが外部イメージと適切に結合され、かつ外部の情景の輝度が高く、従って投射されたイメージと干渉し、視者を眩しがらせることをブロックする場合に有効である。この一方で、投射されたイメージの効率は充分なコントラストが得られるように、高くしなければならない。従って動的な面79は、スイッチ可能なミラーの反射が透過よりも充分大きいように、反射状態にスイッチできなければならない。その結果、基板からカップルアウトされた光線63,68は主として面79で反射され、視者の眼に達する。光学システム全体の効率は90%以上にでき、しかも明るい外部の情景を適切に見ることができる。従って
図6A~6Cの例での、潜在的な輝度効率は、
図2,5の構成に比べ、1桁以上高くできる。
【0031】
図6A~6Cから分かるように、カップルイン面65の開口は出力開口89と同程度のサイズである。従って、
図6A~6Cの例での潜在的な輝度効率は極めて高いが、出力開口と入力開口が同程度のサイズであるとの問題を抱えている。このため、出力開口に対する入力開口を小さくする方法、あるいは入力開口に対する出力開口を大きくする方法を見付けねばならない。そこで、基板からカップルアウトされた光波は、カップルアウト面の全有効領域を照射する必要はないことを利用する。
【0032】
図7は、EMB100 を照射するため、面79の出力開口に入射する光線を示し、イメージの端部と中央部の光波を示し、これらは基板からカップルアウトされ、視者の眼24へと方向転換される。図示のように、光波107R,107M,107Lは0次の軸外れ角α
in(0)(max),α
in(0)(mid),α
in(0)(min)を有し、これらはFOVでの最少、中央、最大の角である。これらの光はカップルアウト反射面67R,67M,67Lの一部のみを照射し、面89で反射されてEMB100へ入射する。基板の入力開口を実質的に小さくし、カップルインされた光波は面67の一部のみを照射するようにし、その結果、元々の輝度を保存することが可能になる。
【0033】
図8A~8Dは、EMBから基板64の入力開口86へ、3つの光波を逆に辿ったものを示す。図示のように、光波107L(
図8Aのダッシュ付きの破線)は面65の右側に入射し、基板の内部にトラップされ、面65で3回反射された後に軸外れ角α
in
(3)を持ち、面67で3回反射された後にカップルアウトされる。なお光波を基板からカップルアウトする3回目の反射は、面67の左側で生じる。光波107M(
図8Bの点線)は、面65の中央部に入射し、基板内にトラップされ、面65で2回反射した後に軸外れ角α
in
(2)を持ち、面67で2回反射した後に基板からカップルアウトされる。なお光波が基板からカップルアウトされる2回目の反射は、面67の中央部で生じる。光波107R(
図8Cの破線)は、基板65の左側に入射し、基板内にトラップされ、面65で1回反射した後、軸外れ角α
in
(1)を持ち、基板67の右側で1回反射した後、基板からカップルアウトされる。
図8Dに示すように、入力開口86の横方向のエリアは全FOVに渡って入射光波をカバーし、出力開口89と類似のサイズを持ち、それ故、この例では、入力開口86を小さくするとの目標は達成されない。
【0034】
ところで、入射光波は相当に広い入力開口に渡るが、従来の光学システムとは反対側に位置する入力開口に入射することに、注意するべきである。即ち、入力開口から光波を辿ると、光波は発散せずに互いに近づくように収束する。この結果、光学システムに中間プリズムを追加すると、光波は入力開口86よりも実質的に狭い瞳に収束させることができる。
【0035】
図9A~9Dは、
図8A~8Dの実施例を示し、中間プリズム108が入力開口86で基板64に取り付けられている。プリズム108の面110は、基板64の上面70に光学的に取り付けられ、界面111となる。色彩による分散を最少にするため、プリズム108の光学材料は方向転換プリズム80と類似のものとする。さらに、プリズム108の光波入射面112は、入射波107R,107M,107Lが同じ角度で面112に入射するように向け、光波は上面70を通り視者の眼24へと基板64からカップルアウトする。さらに、逆向きに辿った際に光波が最少の開口で収束するような位置に、面112を配置する。
図9Dに示すように、入力光波は面112の新たな入力開口86'に入射し、そのサイズは2桁以上、当初の入力開口86と出力開口89よりも小さい。
【0036】
中間プリズム108と基板64の界面111に関し、2つの矛盾する要求がある。一方で、最初の3次の像F(0)、F(1)、及びF(3)は面で反射されねばならないが、中間面111を通って基板64へ入射した0次の像F(0)は実質的な反射無しに基板を通過しなければならない。同様に、基板64と方向転換プリズム80の界面81は、面67で最後に反射した後に入力角αを持つカップルアウトされた光波に対し透明でなければならない。これと同時に、高次の入力角を持つカップルされた光波に対し高度に透明でなければならない。さらに、シースルーシステムに対し、界面81を経由する実質的に垂直な入射光線に対する透過率は、できる限り高くなければならない。これを達成するため好ましくは、基板よりも実質的に屈折率が低い光学接着剤で界面を接着し、あるいは、スピンコートにより、界面81に必要な屈折率の薄膜を成膜する。さらに、界面81及び111からの透過波に対するフレネル反射を最少にするため、これらの面に適当なARコートを施すことが好ましい。その場合、これらの面と相互作用する光波の総合効率を極めて高くできる。即ち、光波を基板へカップルインする際の面111の反射率を、内部全反射の結果、100%にできる。これと共に、入射光波に対する面の透過率を、ARコートの結果、100%にできる。同様に、面81から基板64へカップルインされた光波の反射率を、その面での内部全反射の結果、100%にできる。また基板64から方向転換プリズム80へカップルアウトされた光波への、その面の透過率を、外部からの入射波と同様に、ARコートの結果、100%に近づけることができる。
【0037】
関連するディスプレイシステムの大部分で、これらの2つの要求は関連する全可視領域で充たされねばならない。従って、界面に隣接した光学接着剤のアッベ数(あるいはスピンコートした薄膜のアッベ数)、及び基板の光学材料アッベ数は、像に不要な色彩効果が発生しないように、類似でなければならない。所要の内部全反射現象を生じさせるために、基板と接着剤(あるいは薄膜)の屈折率を、実質的に異ならせる。その結果、この要求を満たすことは極めて難しくなり、通常は接着剤(あるいは薄膜)と光学材料のアッベ数は実質的に異なるようになる。アッベ数が異なることによる色彩の分散は、カップルインプリズム108と方向転換プリズム80の光学材料を選択し、基板64とは異なるアッベ数を持つようにすることにより、補正できる。適切に選択すると、アッベ数の違いは同じ大きさで逆向きの分散を発生させる。すると、2つの誘起された分散は互いに補正される。
【0038】
考慮すべき他の問題は、視者の眼に投影される像の最大達成可能なFOVである。大部分の基板ガイド型HMD技術では、反射型でも回折型でも、光波はガイド基板からその主面に実質的に垂直に出射する。従って、基板でのスネルの屈折により、画像の外部FOVは(4)式で与えられる。
F(out)~F(in)・νs (4)
ここで、基板内でのFOVがF(in)であり、基板の屈折率がνsである。さらに、基板内にカップルインされる光波の次数を厳密に分離することが必要である。
αmin
(1)=αmin
(0)+2・αsur1>αmax
(0) (5)
さらに、界面81,111を通っての0次全体の透過と、これらの面での1次全体の反射を確保するため、以下の条件を充たす必要がある。
αcr>αmax
(0);αcr<αmin
(1) (6)
ここで、αcrは界面での臨界角である。故に、内部FOVは以下の制約を受ける。
F(in)=αmax
(0)-αmin
(1)<2・αsur1 (7)
ここで、通常はαmax
(0)とαmin
(1)との間に1次のマージンを設け、2つの次数の間の分離を確保する。(4)式の制限は、基板とカップルイン素子、及びカップルアウト素子の屈折率が等しいシステムに当てはまる。
【0039】
光波が中間プリズム108から高度に斜めの角度で基板に入射することは、上記の制限を緩和する。
図9A~9Dに示すように、中間及び方向転換プリズム108,80は同じ光学材料から製造され、それらの屈折率は以下の性質を持つ。
ν
p<ν
s (8)
ここでν
pはプリズム108,80の屈折率である。さらに、プリズムのアッベ数A
p、基板のアッベ数A
sを選択することにより、基板と光学接着剤(あるいは薄膜)のアッベ数の相違により誘起された色彩分散を、上記のように補正する。
【0040】
基板64と中間及び方向転換プリズム108,80の光学材料に相違があると、光線107R,107M,107Lが界面111,81に高度に斜めから入射することにより、光波は界面を通過する際に実質的に屈折する。プリズム108,80は光学特性が同じなので、透過光に対する面111,81での屈折は逆向きで同じ大きさとなり、このため、互いに打ち消される。プリズム内と基板内での2つの光線の角度偏差は、偏差の関数として、近似式(9)で計算できる。
Δαp~νs/νp・cosαs/cosαp・Δαs (9)
ここで、αsとαpは、基板内とプリズム内の軸外れ角である。同様に、空気中での光線間の角度偏差は(10)式で与えられる。
Δνout~νp・Δαp (10)
従って、空気中と基板64内の角度偏差の比は(11),(12)式で与えられる。
Δαout~νs・cosαs/cosαp・Δαs (11) あるいは
F(out)~F(in)・νs・cosαs/cosαp (12)
即ち、プリズム108,80の光学材料を調整することにより、空気中でのシステムのFOVをcosαs/cosαpだけ増すことができる。
【0041】
図9A~9Dの実施例での実装を、以下の標準パラメータを有する光学システムについて説明する。
α
sur1=α
sur2=7°; F
air
(0)={-20°;20°}; F
p
(0)={48.6°;74.6°}
F
s
(0)={36.6°;49.7°}; F
s
(1)={50.6°;63.7°};F
s
(2)={64.6°;77.7°} (13)
F
s
(3)={78.6°;91.7°}; F
sur1
(0)={43.6°;56.7°};F
sur2
(1)={57.6°;70.7°}
ここで光波は偏光せず、基板64の光学材料はOhara S-LAH88で、屈折率は1.917、アッベ数は31.6である。プリズム80,108の光学材料はSchott N-BK7で、屈折率は1.516、アッベ数は65.5である。
図9A~9Dでの、面81,111に塗布した光学接着剤はNOA148で、屈折率は1.48、アッベ数は48である。図示のように、FOVは空気中で40°、プリズム108,80内で26°、基板64内で13°である。即ち、空気中でのFOVを基板内のFOVに対し3倍以上拡張している。しかも基板の屈折率は2以下である。3次の最大角は90°よりも大きく、従って異常方向に伝搬する。
図9A~9Dに示すように、3次はFOVの下方領域の光波に対してのみ作用する。FOVの上方領域の光波は、カップルイン面65で1回反射された後に、基板にカップルインされ、このため、1次の伝搬方向にのみ伝搬し、不整合は生じない。
【0042】
図10は、界面81,111に用いるARコートの反射曲線である。基板64とプリズム80,108でのアッベ数の違いにより色彩の分散が生じ、臨界角は波長に強く依存する。従って、以下の条件を全可視波長に対して成立させることにより、(5)式の条件を充たす。
α
min
(1)>51° かつ α
max
(0)<49° (14)
即ち、基板内のFOVを12°に減少させ、それにより空気中のFOVを36°に減少させる必要がある。
【0043】
中間プリズム108を通り基板64へ入射する光波は大きな分散を持ち、そのため入射した白色光波は波長毎の成分に空間的に分離する。例えば全可視スペクトルに対し-20°の軸外れ角を持つ限界光波107Rは36.2°、36.6°、36.8°の伝搬方向に分裂し、各々0次で、波長は450nm,550nm、650nmである。3つの波長に対する、(13)式でのパラメータの厳密な値は、(15)式の通りである。
Fsb(0)={36.2°,49.1°}; Fsg(0)={36.6°,49.7°}; Fsr(0)={36.8°,50.1°},
Fsb(1)={50.2°,63.1°}; Fsg(1)={50.6°,63.7°}; Fsr(1)={50.8°,64.1°}, (15)
Fsb(2)={64.2°,77.1°}; Fsg(2)={64.6°,77.7°}; Fsr(2)={64.8°,78.1°},
Fsb(3)={78.2°,91.1°}; Fsg(3)={78.6°,91.7°}; Fsr(3)={78.8°,92.1°},
Fsurb(0)={43.2°,56.1°}; Fsurg(0)={43.6°,56.7°}; Fsurr(0)={43.8°,57.1°},
ここで、添字sb,sg,srは基板64内での光波のパラメータを表し、波長は450nm、550nm、650nmである。添字surb,surg,surrはカップルイン面65に入射する光波のパラメータを示し、波長は前記と同じである。
【0044】
図11は伝搬方向α
min
(1) 、α
max
(0) と臨界角α
crを、全可視波長に対して示す。図示のように、式(5),(6)の要求は全スペクトルに対して満たされ、(14)式の制限に触れず、FOVは基板で13°以上に、空気中で40°に保たれている。
【0045】
図12A~12Cは450nm,550nm,650nmの3波長に対し、界面81,111に施した反射防止コート(ARコート)の反射特性を示す。2つの垂直線は各波長での伝搬方向α
min
(1)と α
max
(0) を示す。図示のように、全ての波長で、角度α
min
(1)に対する反射率は100%で、これは界面での内部全反射の結果である。また角度α
max
(0) での透過率は、所望のように、無視できる。
【0046】
図9A~9Dに、1個のカップルアウト素子67のみを用い、基板64内での光波の伝搬方向に沿って40°の広いFOVを有する光学システムを示す。入射光は高度に斜めの角度である。多くの応用で、入射光波は基板の主面71,72に実質的に垂直に入射することが求められる。
図13A~13Cの構成では、左側の限界光波107L,中央の光波107M,右側の限界光波107Rは、基板の下面72に実質的に垂直に入射する。図示のように、光波は基板に入射し、カップルイン面65を通過する。入射波の入射角は実際に小さく、面65にARコートが施されているので、この面での光の反射は無視できる。光波は基板64から出射し、下面116から、基板の上面70に取り付けられた中間プリズム114に入り、反射面118で反射され、入射角α
in
(0)で上面70から基板64へ再入射する。光波はカップルイン面65に達し、入射角はα
in
(0)+α
sur1で、これらの角は臨界角よりも大きく、
図9A~9Dの場合と同様に、基板にカップルインされる。
図13Dに示すように、全FOVで光波は新しい入射開口86'を通って面72に入射する。この入射開口は、少なくとも3倍、元々の入射開口86よりもまた出射開口89よりも、小さい。ここで、入射開口86'は中間プリズム114に隣接せず、基板の下方の主面72に隣接している。一般に、入射開口をコリメートモジュールの外面を配置するのに好都合な場所に配置するように、光学システムを設計することが好ましい。
【0047】
図13A~13Dの実施例では、光波は基板72に入射し、反対側の面70を通って基板から出射し、視者の眼へ達する。即ち、視者の眼とディスプレイソースは基板の反対側にある。この構成はトップダウンの構成に適するが、眼鏡ガラス構造などの他の配置もある。その場合、視者の眼とディスプレイソースは基板の同じ側にある。
【0048】
図14A~14Cは、左側の限界光波107L,中央の光波107M,右側の限界光波107Rが、視者の眼と同じ側で、基板の上面70に実質的に垂直に入射する実施例を示す。ディスプレイソー^ス4からの入射波を平行にするために、レンズ6を設ける。図示のように、光波は基板に入射し、実質的な反射無しに、カップルイン面65を通る。光波は基板64から出て、上面124を通って、基板の下面72に取り付けられた中間プリズム120に入り、反射面122で反射され、下面72から再度基板64に入る。光波は再度入射角α
in
(0)-α
sur1でカップルイン面65に入り、この角は臨界角よりも小さく、面65を通り、基板の上面で全反射される。光波は入射角α
in
(0)+α
sur1で再度カップルイン面65に入り、この角は臨界角よりも大きく、
図13A~13Cと同様に基板内にカップルインされる。
図14Dに示すように、全FOVの光波は面70から、コリメートレンズ6の外面に隣接し元の入力開口86よりも実質的に小さい新たな入射開口86'内に入射する。
【0049】
ここでの他の構成とは異なり、
図14A~14Dの実施例では、光波はカップルイン面65に3回入射する。最初の入射では、光波は面65を実質的な反射無しに通過するとの要求は、ARコートを面65に施すことにより簡単に達成できる。他の2回の入射では、面65に関して2つの矛盾する要求がある。一方で、3回目に面に入射角α
in
(0)+α
sur1で入射する光波は、その面で反射されなければならない。他方で、2回目に面に入射角α
in
(0)-α
sur1で入射する光波は、実質的な反射無しに透過しなければならない。界面81,111に関して既に述べたように、好ましくは、基板よりも屈折率が実質的に低い光学接着剤をカップルイン面65に塗布するか、スピンコートで薄膜を形成する。さらに、面65に2回目に入射する光波のフレネル反射を最少にするため、これらの面に適当なARコートを施す必要がある。
【0050】
図15は、以下のパラメータの基板のカップルイン面65に設けたARコートの反射曲線を示す:光波は非偏光、基板64の光学材料はOhara S-LAF198で屈折率ν
dは1.954,アッベ数は32.32、面65に隣接する光学接着剤はNOA 1315、屈折率ν
dは1.315,アッベ数は56である。基板64と光学接着剤とのアッベ数の違いにより色彩の分散が生じ、臨界角は波長に鋭く依存する。
【0051】
図16は、伝搬方向α
max
(0)-α
sur1とα
min
(1)+α
sur1及び臨界角α
crを、全可視範囲に対する波長の関数として示す。図示のように、全スペクトルに対し、2次と3次の入射で角度スペクトルに違いがあり、これらのスペクトルは、所望のように、臨界角曲線の上下に分離している。
【0052】
図17A~17Cは、波長450nm,550nm,650nmでの、カップルイン面65に適用したARコートの反射曲線を示し、2つの垂直線は、伝搬方向α
max
(0)-α
sur1及びα
min
(1)+α
sur1を、関連する波長でグラフに示す。各波長に対して、入射角α
min
(1)+α
sur1での3回目の入射の反射率は100%で、これは界面での内部全反射によるものである。しかしながら、入射角α
max
(0)-α
sur1での2回目の入射への透過率は、所望のようにほぼ0である。
【0053】
図13A~13D及び14A~14Dは、入力光波が基板主面に実質的に垂直に入射する実施例を示すが、入力光波が基板主面に斜めに入射することが要求される構成もある。
図18A~18Dは、
図13A~13Dの実施例の変形例を示す。所定の角度で基板を照射する光波は、基板64の下面72に取り付けた第1の中間プリズム126の面128を介して基板に入射し、カップルイン面65を実質的に反射無しで通過する。光波は次いで基板64を出て、下面136を通って基板の主面に取り付けられた第2の中間プリズム132に入り、反射面136で反射され、上面70を通って基板64に再入射する。光波はカップルイン面65で反射され、
図13A~13Dの例と同様に、基板内にトラップされる。
【0054】
図19A~19Dは、
図14A~14Dの実施例への変形例を示す。光波は所定の角度で基板を照射し、基板の上面70に取り付けられた第1の中間プリズム138の面140を通って基板に入り、実質的な反射無しにカップルイン面65を通過する。光波は基板64を出て、基板の下面72に取り付けられた第2の中間プリズム144に、その上面148を通って入る。光波は次いで反射面146で反射され、下面72から基板64に再入射する。光波は次いで入射角α
in
(0)-α
sur1でカップルイン面65に入射し、この角は臨界角よりも小さく、面65を通り、基板の上面70で全反射される。光波は入射角α
in
(0)+α
sur1でカップルイン面65に入射し、この角は臨界角よりも大きく、
図14A~14Cの例と同様に、基板にカップルインされる。
【0055】
図14A~14D及び
図19A~19Dは、アイグラス構成にも適用可能な実施例を示す。しかしながらコンシューマ用途では、美観を考慮し、基板72の第1の面に取り付けた、曲がったプリズムが出来る限り小さいことが求められる。
図20A~20Dは、
図14A~14D及び
図19A~19Dの実施例の変形例を示し、所定の角度で基板64を照らす光波は、上面70に取り付けられた第1の中間プリズム226の面228を通って基板に入り、実質的な反射無しにカップルイン面65を通過する。基板64を出た光波は上面224を通って、上面70に取り付けられた第2の中間プリズム220に入り、反射面222で反射され、下面72を通って基板64に再度入射する。ここで、反射面222の傾斜角は、主面72に比べ、
図14A~14D及び
図19A~19Dの構成での傾斜面122,146の傾斜角よりも小さい。その結果、光波は入射角α
in
(0)-α
sur1-εでカップルイン面65に再度入射する。ここでεはデザインに従って決定すべき角度で、通常は5°よりも大きい。最大入射角α
max
(0)-α
sur1-εは臨界角よりも相当に小さく、従って、面65に簡単なARコートを施せばよい。光波は面65を通過し、下面230から基板の上面70に取り付けられたプリズム226に再度入射する。光波は、外部面228で全反射され、下面72を通って基板64に再入射する。面228の傾斜角は、消失角(missing angle)を補償するように定める。従って、入射角α
in
(0)+α
sur1を持ち、臨界角よりも角度が大きな光波はカップルイン面65に再入射し、
図14A~14D及び
図19A~19Dと同様に、基板にカップルインされる。
【0056】
上記の例では、基板内の伝搬方向に沿って40°の大きなFOVが、単一のカップルアウト面67を用いて、得られた。アイグラスなどのサイドビュー構成では、対角方向でのFOVは47°あるいは50°で、ディスプレイソースのアスペクト比に応じて(9:16あるいは3:4)FOVが定まる。ヘルメットに装着するディスプレイなどのトップダウン構成では、対角でのFOVは、9:16のアスペクト比に対し、80°以上に拡張できる。輝度効率を最大にするため、基板に単一のカップルアウト面を設けることが好ましいとすると、表面の角度配向αsur1のため、2つの矛盾する要求が生じる。一方では、(7)式の制約のため、基板内でカップル出来る全FOVを拡張するため、この角度を増すことが好ましい。他方では、基板の出力開口の範囲がd・cot(αsur1)に比例し、ここでdは基板の厚さを示す。即ち、出力開口、従ってEMBを、αsur1を小さくすることにより拡張する。基板の厚さを増すことにより出力開口を大きくすることも可能であるが、入力開口も同時に大きくなる。さらに、基板は薄いことが通常は要求される。
【0057】
図21は、
図14A~14Dの実施例の変形例を示す。単一の基板64を用いるのではなく、図示のシステム150は2枚の隣接する基板64a、64bから成る。基板64bの上面70bは基板64aの下面72aに光学的に取り付けられている。カップルイン面65b及びカップルアウト面67bの配向角α
sur-bは、(7)式の制限に従い、所望のFOVにより定まる。しかし、カップルイン面65a及びカップルアウト面67bの配向角α
sur-aは、(16)式で定まるより低い値とする。
α
sur-a=α
sur-b-δ (16)
この結果、全FOVを下面64bにカップルできる。(7)式の制限を充たすため、FOVの一部のみを上面64aにカップルさせる。即ち、2枚の基板にカップルされたFOVは、(17)式に従う。
F
(a)={α
min
(0)+2・δ,α
max
(0)}; Fb
(b)={64.6°,77.7°}; F
(b)={α
min
(0),α
max
(0)} (17)
FOV{α
min
(0),α
min
(0)+2・δ,c
max
(0)}の下部部分は、下方の基板64b内にのみカップルされ、FOVの上部とのクロストークを避けるため、上部の基板64aとはカップルしない。FOVの下部の光波は出力開口の左側から視者の目に入るので、カップルアウト面67bの左からカップルアウトされる必要がある。即ち、その光波は下部基板64bのみを通って目へ転送されるべきである。従って、{α
min
(0),α
max
(0)} から成る全FOVを全EMBに対して保持できる。さらに出力開口AP
outを(18)式の分だけ拡大できる。
ΔAP
out=d
a・[cot(α
sur-a)-cot(α
sur-3/4)] (18)
【0058】
あるいはまた、所定の出力開口に対し、二重のグレーティングの厚さ d
b+d
a を当初の厚さdに比べ、実質的に小さくすることができる。従って
図21の実施例は、より大きな角α
sur-bで定まるより大きなFOVを持ち、より小さな角α
sur-aで定まるより大きな出力開口を持つ。基板64a,64bは独立して作用するので、各基板は異なるパラメータ及び傾斜角を持つことができる。2枚の基板は、光学システムの要求に応じて、例えば、異なる厚さ、異なる屈折率、異なるアッベ数を持つ。さらに、カップルイン面65a、65bの相対位置、及びカップルアウト面67a、67bの相対位置は、入力開口86'(
図25)を小さくし、同時にシステムの出力開口89(
図25)を最大にするように、自由に設定できる。
【0059】
図22A,22B,22Cに示すように、左側限界の光波153(153a,153b,153c)は、面65bで反射した後、下部基板64bにカップルインし、1つの光線153d(
図22B)は2回反射した後カップルインされ、残りの2つの光線153e、153f(
図22C)は、面65bでの1回の反射でカップルインされる。
図22Dに示すように、全光線がカップルアウト素子67bにより基板64bからカップルアウトし、全EMBを照射するように方向転換される。
【0060】
図23A,23B,23Cにおいて、中央部の2つの光線154(154a,154b)は、面65bで1回反射した後、下部基板64bにカップルインし、面67bからカップルアウトする。他の2つの光線154e、154f(
図23C)は、面65aで2回反射した後、上部基板64aにカップルインし、面67aからカップルアウトする。
図23Dに示すように、全光線は、方向転換プリズム80により方向転換し、全EMBを照射する。
【0061】
図24Aは、右側限界の2つの光線155(155a,155b)は、面65aで2回反射した後、上部基板64aにカップルインし、他の3つの光線155c、155d,155eは、面65aで1回の反射してカップルインされる。
図24Cに示すように、全光線がカップルアウト素子67aにより基板64aからカップルアウトし、全EMBを照射するように方向転換される。
図25に示すように、全FOVの光波は、面70から、出力開口89よりも実質的に小さな入力開口86'に入射し、全EMBを照射する。
【0062】
他に考慮すべき問題はゴースト画像で、システムの外部表面からの迷光が不要に反射することにより、イメージに混入する。
図26Aに示すように、入力光線160は、面65で1回反射した後基板にカップルインし、面67で1回反射して基板からカップルアウトする。光線は、次いで面79i、79jで部分反射して出力光16a、160bとなり、視者の目に適切な方向から入射する。光線160の一部はしかし、面79jを透過してプリズム80の下部面162で全反射し、面79kで部分反射し、基板64を透過し、基板64の上部面70で全反射され、基板64を再度透過し、面79Mで部分反射されて出力光波160cとなり、視者の目に誤った方向から入射する。即ち、迷光160cは投影画像にゴーストとして現れる。
図26Aは、カップルインした画像光波から発生したゴースト画像を示す。他のゴースト画像は、外部シーンからの光波により生成される。
図26Bに示すように、外部光線163は部分反射面79nを通過し、プリズム80と基板64を通過し、元の方向で光線163として視者の目に入る。光線163の一部はしかし、面79nで部分反射し、プリズム80の下面162で全反射し、面79oで部分反射し、基板64を透過し、基板64の上面70で全反射し、再度基板4を通過し、面79pで部分反射し、出力光163bとして視者の目に誤った方向から入射する。迷光163bは投影画像中にゴースト画像として混入する。
【0063】
図26A,26Bに示すように、ゴースト画像が生じる主な原因は、基板162での不要な反射にある。この現象は、本願の実施例のみならず、他の、基板により光波をガイドする構成でも生じる。他の構成とは異なり、面162での内部全反射は基板内での光波の伝搬のためには必要ない。従って、完全に除去可能である。面162での不要な反射を除去する方法の1つとして、面に吸収層を設けることがある。この簡単な方法は、ノンシースルーのシステムに有効で、外部面162を完全に不透明にする。シースルーのシステムには、外部のシーンからの光線は面162を通り、視者の目24に達する必要があるので、面162を不透明にすることはできない。
【0064】
図27は、面162での内部全反射を除き、かつ外部シーンからの光線にこの面を透明にする効率的な方法を示す。図示のように、薄く平坦で透明な板167の上面166を、方向転換プリズム80の下面162に光学的に取り付ける。面162に垂直に、平行な吸収面のアレイ168
i、168
j、…を板167内に埋め込む。面162に入射した全光線をこれらの面で吸収するため、次式を成立させる。
T≧0.5・D・cot(α
min
P) (19)
ここでTは板167の厚さを、Dは隣接する面168
i、168
i+1の間隔を、α
min
P は板167に入射する光波の最少軸外れ角を表す。図示のように、光線171は、板167の下部面169で全反射した後、面168で吸収される。基板64は薄く、吸収面は基板の主面に垂直なので、視者に対して板167は外部シーンからの光線に対し実質的に透明に保たれる。
【0065】
図28A~28Fは、板167の製法を示す。厚さTの複数の透明で平坦な板174を製造する(
図27)。これらの板は主面を吸収に用いるので、研磨はしなくても良く、これらの板の間の平行度が重要である。各板の一方の主面に薄い吸収層175を設ける(
図28B)。吸収層175は例えば黒色塗料、薄いシリコンコート、金属コートなどで、他の吸収材料も使用できる。板176を光学接着剤により互いに接合し、集合体とする(
図28C)。集合体となった板176(
図28E)を板174の主面に垂直な方向でスライスし、多数のセグメント167を取り出す。次いで切断と研磨とを行う。この結果、厚さT'を有する板167''が得られる(
図28E)。板の一方の主面を面162に光学的に接着する(
図28F)。多くの場合、板167は極めて薄く、0.1mm程度の厚さであることが要求される。その場合、所望の厚さTを有する板167'の加工は困難になる。従って、厚さT'>Tを有する板を、プリズム80に接着し、接着した板167''の下面を研磨し、最終の板167が所望の厚さTを持つようにする。
【0066】
図29A,29Bは
図26A,26Bに類似の実施例を示し、板167はプリズム80の下面162に光学的に取り付けられている。面162で全反射し、システム内を伝搬し続けるのではなく、迷光160c、163bは板167で吸収され、外部シーン及び投影イメージから生成したゴーストイメージは完全に除去される。不要な内部全反射により生成したゴーストイメージを解消するこの方法は、他の光学モジュールにも使用可能である。そのモジュールでは、通常の入射光に対し透明であるべき面で、迷光は不要に反射される。板167は不要な反射を除去するためこのような面に光学的に取り付けることができ、しかも面に要求される透過特性を損ねない。
【0067】
既に述べたような、入力開口の横方向サイズを小さくすることの利点は、カップルされた光波の2次元での拡張が要求される場合、さらに顕著になる。
図30は、2重基板構成を用い、ビームを2軸に沿って拡張する方法を模式的に示す。なお簡単のため、中間プリズム及び方向転換素子は図示を省略する。入力イメージ256は入力開口274を通って、第1の反射面265aから、第1の基板264aへカップルインし、この基板は上記の実施例での基板に類似の構造を持ち、次いでη軸に沿って伝搬する。カップルアウト素子267aは出力開口276を通って基板264aからカップルアウトさせる。光波は次いで、入力開口を通り、カップルイン素子265bを介し、第2の主基板264bへカップルインする。入力開口は、第1の基板264aの出力開口と同じである。光波はさらにξ軸に沿って伝搬し、カップルアウト素子267bにより出力開口278からカップルアウトする。図示のように、元のイメージは2軸に沿って拡大され、拡張率は開口274と278の横サイズにより定まる。図示のように、各光波(図の矢印)は出力開口278の一部のみを照射し、全光波はカップルアウトし、所望の向きでEMB100へ入射する。
【0068】
各実施例では、ディスプレイソースは偏光していないものとした。LCD,LCOS等のマイクロディスプレイソースでは光波は直線偏光し、このことはよりコンパクトなコリメートシステムを作るために利用できる。
図31Aに示すように、ディスプレイ光源4からのP偏光した入力光波107L,107M,107Rは光ガイド279にカップルインし、通常は面280から媒質中を伝搬する。光波は偏光ビームスプリッタ282を通過し、面283から光ガイド279に対しカップルアウトする。光波は次いで、1/4波長遅延板285を通過し、反射面289でレンズ286によりコリメートされ、遅延板285を再度通過し、面283から光ガイド279に入射する。この間にS偏光に変化した光波は偏光ビームスプリッタ282で反射し、下面290から光ガイドに入射する。光波は、中間プリズム226,220により、
図20A~20Dと同様にして、基板64にカップルインする。反射面289は金属あるいは誘電体のコートで形成する。
【0069】
図31Aに示すように、反射型のコリメートレンズ286を用いることには、他の利点がある。例えば、光学部品の数が少ないことによる高性能、追加のコンパクトなコリメートモジュールが得られることなどである。従って、このシステムをマイクロLED,OLED等の非偏光の光源に用いることも有効である。この場合の欠点は、ディスプレイソースの単一の偏光コンポーネントのみを用いるので、可能な明度が50%以上低下することである。非偏光のディスプレイソースに対し、2つの直交する偏光コンポーネントを用い、明度の減少を避ける方法を、
図31Bに示す。ディスプレイソース4からのS偏光の入力光波107L,107M,107Rは右側の面280を通って光ガイド279にカップルインする。偏光ビームスプリッタ282で反射し、光波は光ガイド279の面291からカップルアウトする。光波は次いで第2の1/4波長遅延板293を通り、第2のレンズ296の面297で反射され、遅延板293を再度通過し、面291から光ガイド279に再入射する。光波は今やp偏光し、偏光ビームスプリッタ2852を通り下面290から光ガイドを出射し、前と同様に、中間プリズム226,220を通り、基板64にカップルインする。光源のp偏光成分は、
図31Aに示すように、基板にカップルインする。イメージが2重になることを防ぐため、2つのコリメートレンズは同一で、それらを光ガイド279の面に極めて正確に配置する。
【0070】
当業者に明らかなように、この発明は前記の実施例に限定されない。この発明は、その本質的な属性から離れることなく、他の形態でも実施できる。実施例は限定ではなく、例として考えるべきである。この発明の範囲は、実施例ではなく、添付のクレームにより示される。クレームからの均等な変更は、なおかつクレームの範囲内にあると考えるべきである。
【0071】
とりわけ、実施例で示した要素は例であり、限定ではない。従って、特記した場合あるいは特定の組合せが明らかに不適切な場合を除き、一部の実施例で示した要素は他の実施例にも適用可能である。