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特開2024-41905一本鎖ガイドRNA、CRISPR/Cas9システム、及びそれらの使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041905
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】一本鎖ガイドRNA、CRISPR/Cas9システム、及びそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240319BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240319BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7105
A61P27/02
C12N15/09 110
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024002942
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2021214009の分割
【原出願日】2017-08-21
(31)【優先権主張番号】62/377,586
(32)【優先日】2016-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/462,808
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/501,750
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515179406
【氏名又は名称】アベリノ ラボ ユーエスエー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Avellino Lab USA, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムーア タラ
(72)【発明者】
【氏名】ネスビット アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】コートニー デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】クリスティー ケイティー
(72)【発明者】
【氏名】リー ジーン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療するための方法を提供する。
【解決手段】角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのCRISPR/Cas9システムのためにデザインされた一本鎖ガイドRNA(sgRNA)、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システム、及び角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療するためのそれらの使用方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのCRISPR/Cas9システムのためにデザインされた一本鎖ガイドRNA(sgRNA)。
【請求項2】
(i)配列番号(10+4n)又は配列番号(11+4n)(nは、0から221までの整数である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するCRISPR標的化RNA(crRNA)配列と、(ii)トランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列とを含み、前記crRNA配列及び前記tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、請求項1に記載のsgRNA。
【請求項3】
前記tracrRNAは、配列番号2又は配列番号6のヌクレオチド配列と少なくとも85%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載のsgRNA。
【請求項4】
CRISPR/Cas9システムのためにデザインされたsgRNA対であって、
(i)(a)病因性突然変異又はSNPの3’末端側にシスにある第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を生成する突然変異又は一塩基多型(SNP)のための第1のcrRNA配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第1のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第1のsgRNAと、
(ii)(a)病因性突然変異又はSNPの5’末端側にシスにある第2のPAMを生成する突然変異又はSNPのための第2のcrRNAガイド配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第2のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第2のsgRNAと、
を含む、sgRNA対。
【請求項5】
前記CRISPR/Cas9システムは、角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのシステムである、請求項4に記載のsgRNA対。
【請求項6】
前記PAMを生成する突然変異又は前記SNPは、TGFBI遺伝子中に存在する、請求項4又は5に記載のsgRNA対。
【請求項7】
前記PAMを生成する突然変異又は前記SNPは、TGFBI遺伝子のイントロン中に存在する、請求項4~6のいずれか一項に記載のsgRNA対。
【請求項8】
前記第1のcrRNA配列及び前記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、図19図35に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、及び/又は前記第1のcrRNA配列及び前記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、表2に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項4~7のいずれか一項に記載のsgRNA対。
【請求項9】
(i)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と請求項1~3のいずれか一項に記載のsgRNAとを含む少なくとも1つのベクター、又は(ii)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と請求項4~8のいずれか一項に記載のsgRNA対とを含む少なくとも1つのベクターを含み、前記ベクター中の前記Cas9ヌクレアーゼ及び前記sgRNA対は、天然には一緒に存在しないものである、操作されたクラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システム。
【請求項10】
前記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、又はそれら
の変異体由来のヌクレアーゼである、請求項9に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項11】
前記Cas9ヌクレアーゼは、配列番号4又は配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項9又は10に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項12】
前記Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子は、配列番号3又は配列番号7からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも85%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項13】
修復ヌクレオチド分子を更に含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項14】
1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を更に含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項15】
前記sgRNA及び前記Cas9ヌクレアーゼは、同じベクター上に含まれている、請求項9~14のいずれか一項に記載の操作されたCRISPR/Cas9システム。
【請求項16】
遺伝子産物の発現を変化させる方法であって、請求項9~15のいずれか一項に記載の操作されたCRISPR/Cas9システムを、標的配列を有すると共に前記遺伝子産物をコードするDNA分子を含み発現する細胞中に導入することを含む、方法。
【請求項17】
前記操作されたCRISPR/Cas9システムは、
(a)前記標的配列とハイブリダイズするsgRNAに作動的に連結された第1の調節エレメントと、
(b)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子に作動的に連結された第2の調節エレメントと、
を含み、前記sgRNAは、前記標的配列を標的とし、かつ前記Cas9ヌクレアーゼは、前記DNA分子を開裂する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、真核細胞である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞は、哺乳動物細胞又はヒト細胞である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項20】
被験体における突然変異又は一塩基多型(SNP)と関連する疾患を予防、改善、又は治療する方法であって、前記被験体の遺伝子産物の発現を請求項16~19のいずれか一項に記載の方法により変化させることを含み、前記DNA分子は、突然変異配列を含む、方法。
【請求項21】
被験体における遺伝子突然変異又は一塩基多型(SNP)と関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法であって、
前記被験体に、
(i)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、
(ii)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’末端に隣接する標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズするCRISPR標的化RNA(crRNA)配列と、
を含む少なくとも1つのベクターを含む操作されたCRISPR/Cas9システムを投
与することを含み、前記標的配列又は前記PAMは、角膜ジストロフィーを引き起こす突然変異又はSNPを含み、前記Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子及び前記crRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、方法。
【請求項22】
前記PAMは、前記突然変異又は前記SNPを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記crRNA配列は、前記標的配列を含み、かつ前記crRNA配列は、17ヌクレオチド長~24ヌクレオチド長である、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記crRNA配列は、配列番号(10+4n)(nは、0から221までの整数である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列からなる、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記PAM及び前記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス又はスタフィロコッカス由来のヌクレアーゼである、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記PAMは、NGG又はNNGRRT(Nは、A、T、G、及びCのいずれかであり、かつRは、A又はGである)からなる、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記投与は、前記被験体の角膜中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの導入を含む、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記投与は、前記被験体の角膜中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの注射を含む、請求項21~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記投与は、前記標的配列を有するDNA分子を含み発現する細胞中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの導入を含む、請求項21~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記角膜ジストロフィーは、上皮基底膜ジストロフィー(EBMD)、メースマン角膜ジストロフィー(MECD)、ティール-ベーンケ角膜ジストロフィー(TBCD)、格子状角膜ジストロフィー(LCD)、顆粒状角膜ジストロフィー(GCD)、及びシュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)からなる群から選択される、請求項21~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記SNPは、TGFBI、KRT3、KRT12、GSN、及びUBIAD1からなる群から選択される遺伝子中に位置している、請求項21~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記遺伝子突然変異又は前記SNPを含む突然変異配列は、
(i)Leu509Arg、Arg666Ser、Gly623Asp、Arg555Gln、Arg124Cys、Val505Asp、Ile522Asn、Leu569Arg、His572Arg、Arg496Trp、Pro501Thr、Arg514Pro、Phe515Leu、Leu518Pro、Leu518Arg、Leu527Arg、Thr538Pro、Thr538Arg、Val539Asp、Phe540del、Phe540Ser、Asn544Ser、Ala546Thr、Ala546Asp、Phe547Ser、Pro551Gln、Leu558Pro、His572del、Gly594Val、Val613del、Val613Gly、Met619Lys、Ala620Asp、Asn622His、Asn622Lys、Asn622L
ys、Gly623Arg、Gly623Asp、Val624_Val625del、Val624Met、Val625Asp、His626Arg、His626Pro、Val627SerfsX44、Thr629_Asn630insAsnValPro、Val631Asp、Arg666Ser、Arg555Trp、Arg124Ser、Asp123delins、Arg124His、Arg124Leu、Leu509Pro、Leu103_Ser104del、Val113Ile、Asp123His、Arg124Leu、及び/又はThr125_Glu126delを含む突然変異TGFBIタンパク質、
(ii)Glu498Val、Arg503Pro、及び/又はGlu509Lysを有する突然変異KRT3タンパク質、
(iii)Met129Thr、Met129Val、Gln130Pro、Leu132Pro、Leu132Val、Leu132His、Asn133Lys、Arg135Gly、Arg135Ile、Arg135Thr、Arg135Ser、Ala137Pro、Leu140Arg、Val143Leu、Val143Leu、Lle391_Leu399dup、Ile426Val、Ile426Ser、Tyr429Asp、Tyr429Cys、Arg430Pro、及び/又はLeu433Argを有する突然変異KRT12タンパク質、
(iv)Asp214Tyrを有する突然変異GSNタンパク質、並びに、
(v)Ala97Thr、Gly98Ser、Asn102Ser、Asp112Asn、Asp112Gly、Asp118Gly、Arg119Gly、Leu121Val、Leu121Phe、Val122Glu、Val122Gly、Ser171Pro、Tyr174Cys、Thr175Ile、Gly177Arg、Lys181Arg、Gly186Arg、Leu188His、Asn232Ser、Asn233His、Asp236Glu、及び/又はAsp240Asnを有する突然変異UBIAD1タンパク質、
からなる群から選択される突然変異タンパク質をコードする、請求項21~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
(i)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Arg124Cysを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号58、配列番号54、配列番号50、若しくは配列番号42を含み、
(ii)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Arg124Hisを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号94、配列番号90、配列番号86、配列番号82、配列番号78、配列番号74、若しくは配列番号70を含み、
(iii)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Arg124Leuを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号114、配列番号110、配列番号106、若しくは配列番号98を含み、
(iv)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Arg555Glnを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号178、配列番号174、配列番号170、配列番号166、配列番号162、若しくは配列番号158を含み、
(v)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Arg555Trpを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号146、配列番号142、配列番号138、配列番号134、配列番号130、若しくは配列番号126を含み、及び/又は、
(vi)前記遺伝子突然変異若しくは前記SNPを含む突然変異配列は、Leu527Argを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNA配列は、配列番号474、配列番号478、配列番号482、若しくは配列番号486を含む、
請求項21~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記遺伝子突然変異又は前記SNPを含む突然変異配列は、Arg124Hisを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ前記crRNAは、配列番号86又は配列番号94を含む、請求項21~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記角膜ジストロフィーは、前記SNPと関連しており、かつ前記標的配列又は前記PAMは、角膜ジストロフィーを引き起こすSNP部位を含む、請求項21~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記標的配列又は前記PAMは、複数のSNP部位を含む、請求項21~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記被験体は、ヒトである、請求項21~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
被験体における遺伝子突然変異又は一塩基多型(SNP)と関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法であって、
前記被験体に、
(i)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、
(ii)病因性突然変異又はSNPの3’末端側にシスにある第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’末端に隣接する第1の標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズする第1のCRISPR標的化RNA(crRNA)配列であって、前記第1の標的配列又は前記第1のPAMが、第1の祖先型突然変異部位又はSNP部位を含む、第1のcrRNA配列と、
(iii)病因性突然変異又はSNPの5’末端側にシスにある第2のPAMの5’末端に隣接する第2の標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズする第2のcrRNA配列であって、前記第2の標的配列又は前記第2のPAMが、第2の祖先型突然変異部位又はSNP部位を含む、第2のcrRNA配列と、
を含む少なくとも1つのベクターを含む操作されたCRISPR/Cas9システムを投与することを含み、前記少なくとも1つのベクターは、天然に一緒に存在するcrRNA配列及びCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子を有しない、方法。
【請求項39】
前記PAMを生成する突然変異又は前記SNPは、TGFBI遺伝子中に存在する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記PAMを生成する突然変異又は前記SNPは、TGFBI遺伝子のイントロン中に存在する、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
前記第1のcrRNA配列及び前記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、図19図35に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、及び/又は前記第1のcrRNA配列及び前記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、表2に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項38~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1のPAMは、前記第1の突然変異部位若しくは前記SNP部位を含み、及び/又は前記第2のPAMは、前記第2の突然変異部位若しくは前記SNP部位を含む、請求項38~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記第1のcrRNA配列は、前記第1の標的配列を含み、
前記第2のcrRNA配列は、前記第2の標的配列を含み、
前記第1のcrRNA配列は、17ヌクレオチド長~24ヌクレオチド長であり、及び
/又は、
前記第2のcrRNA配列は、17ヌクレオチド長~24ヌクレオチド長である、
請求項38~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1のPAM及び/又は前記第2のPAM並びに前記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス又はスタフィロコッカス由来である、請求項38~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記第1のPAM及び前記第2のPAMの両方は、ストレプトコッカス又はスタフィロコッカス由来である、請求項38~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記PAMは、NGG又はNNGRRT(Nは、A、T、G、及びCのいずれかであり、かつRは、A又はGである)からなる、請求項38~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記投与は、前記被験体の角膜中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの導入を含む、請求項38~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記投与は、前記被験体の角膜中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの注射を含む、請求項38~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記投与は、前記標的配列を有するDNA分子を含み発現する細胞中への前記操作されたCRISPR/Cas9システムの導入を含む、請求項38~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記角膜ジストロフィーは、上皮基底膜ジストロフィー(EBMD)、メースマン角膜ジストロフィー(MECD)、ティール-ベーンケ角膜ジストロフィー(TBCD)、格子状角膜ジストロフィー(LCD)、顆粒状角膜ジストロフィー(GCD)、及びシュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)からなる群から選択される、請求項38~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記病因性突然変異又は前記SNPを含む突然変異配列は、Leu509Arg、Arg666Ser、Gly623Asp、Arg555Gln、Arg124Cys、Val505Asp、Ile522Asn、Leu569Arg、His572Arg、Arg496Trp、Pro501Thr、Arg514Pro、Phe515Leu、Leu518Pro、Leu518Arg、Leu527Arg、Thr538Pro、Thr538Arg、Val539Asp、Phe540del、Phe540Ser、Asn544Ser、Ala546Thr、Ala546Asp、Phe547Ser、Pro551Gln、Leu558Pro、His572del、Gly594Val、Val613del、Val613Gly、Met619Lys、Ala620Asp、Asn622His、Asn622Lys、Asn622Lys、Gly623Arg、Gly623Asp、Val624_Val625del、Val624Met、Val625Asp、His626Arg、His626Pro、Val627SerfsX44、Thr629_Asn630insAsnValPro、Val631Asp、Arg666Ser、Arg555Trp、Arg124Ser、Asp123delins、Arg124His、Arg124Leu、Leu509Pro、Leu103_Ser104del、Val113Ile、Asp123His、Arg124Leu、及び/又はThr125_Glu126delを含む突然変異TGFBIタンパク質からなる群から選択される突然変異タンパク質をコードする、請求項38~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記角膜ジストロフィーは、前記SNPと関連しており、
前記第1の標的配列若しくは前記第1のPAMは、前記第1の祖先型SNP部位を含み、及び/又は、
前記第2の標的配列若しくは前記第2のPAMは、前記第2の祖先型SNP部位を含む、
請求項38~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記病因性突然変異又は前記SNPを含む突然変異配列は、Arg124Hisを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードする、請求項38~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記標的配列又は前記PAMは、複数の突然変異部位又はSNP部位を含む、請求項38~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記被験体は、ヒトである、請求項38~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
角膜ジストロフィーの治療を必要とする被験体における角膜ジストロフィーを治療する方法であって、
(a)前記被験体から角膜ジストロフィー標的核酸中に核酸突然変異を含む複数の幹細胞を取得することと、
(b)前記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を操作することで前記核酸突然変異を修正し、それにより1つ以上の操作された幹細胞を形成させることと、
(c)前記1つ以上の操作された幹細胞を単離することと、
(d)前記1つ以上の操作された幹細胞を前記被験体中に移植することと、
を含み、
前記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞における核酸突然変異を操作することは、請求項16~55に記載の方法のいずれかを実施することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats;CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システム、及
び角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療するためのそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大部分の角膜ジストロフィーは、ドミナントネガティブな病理機序により常染色体優性的に遺伝する。幾つかの遺伝子、例えばTGFBI及びKRT12に関しては、それらの遺伝子がハプロ不全でないことが分かっている。つまり、正常な機能を維持するために上記遺伝子の1つの機能的コピーで十分である。突然変異アレルを特異的に標的とするsiRNAを使用することにより、突然変異タンパク質のドミナントネガティブ効果に打ち勝ち、in vitroで細胞に正常な機能を回復させることが可能である。siRNAの効果は一過性であり、siRNAが細胞中に十分に高い濃度で存在する間に限ってのみ継続するにすぎないが、CRISPR/Cas9遺伝子編集は、突然変異アレルを永続的に改変する機会を与える。
【0003】
二本鎖DNAを触媒的に開裂するための単純な内因性細菌システムの発見は、治療的遺伝子編集の分野に革命を起こした。II型のクラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)は、プログラム可能なRNAガイド型エンドヌクレアーゼであり、それは最近では、哺乳動物細胞における遺伝子編集で効果的であることが分かっている(非特許文献1)。この特異性が高くかつ効果的なRNAガイド型DNAエンドヌクレアーゼは、広範囲の遺伝性疾患において治療的に重要である場合がある。CRISPR/Cas9システムは、単独の触媒性タンパク質、つまり2つのRNA分子(tracrRNA及びcrRNA)により特異的なDNA配列にガイドされるCas9に基づくものである(非特許文献1)。tracrRNA/crRNAを組み合わせて一本鎖ガイドRNA分子(sgRNA)にすることで(非特許文献2、非特許文献3)、ゲノム内の任意の標的に潜在的に特異的な遺伝子編集ツールの迅速な開発がもたらされた。sgRNA内のヌクレオチド配列を選択された標的に相補性の配列に置き換えることにより、特異性が高いシステムをほんの数日で作製することができる。このシステムの1つの注意事項は、該エンドヌクレアーゼがsgRNA結合部位の3’末端のすぐそばに位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を必要とすることである。このPAM配列は、DNA標的の不変の部分であるが、sgRNA中には存在せず、その一方で、それがゲノム標的配列の3’末端に存在しないと、Cas9が該DNA標的を開裂することができなくなる(非特許文献4)。
【0004】
1つの態様において、本開示は、アレル特異的CRISPR/Cas9システムの、角膜ジストロフィーのための、例えばメースマン角膜ジストロフィー(MECD;OMIM:122100)を引き起こすKRT12(ケラチン12をコードする、K12)中のドミナントネガティブ突然変異Leu132Pro(c.395T>C)に対する潜在能力を記載している(非特許文献5)。興味深いことに、本明細書に示されるように、この突然変異は、野生型アレルには存在しないストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の新規PAMの出現をもたらす。幾つかの実施の形態において、本開示は、この新規PAMの5’末端にあるヌクレオチドをsgRNA中に導入することにより、突然変異アレルのアレル特異的開裂が誘導され得ることを示している。ヘテロ接合細胞において、この二本鎖破断は、フレームシフト及び未成熟終止コドンの出現をもたらし得る非
相同末端結合(NHEJ)か、又は野生型アレルとの再結合により突然変異配列の修復が導かれる相同配列指向性修復のいずれかをもたらし得る。例えばKRT12の場合には、両結果とも治療的成功とみなすことができる。ドミナントネガティブ突然変異K12タンパク質の発現は、NHEJにより破壊されるが、それはKRT12がハプロ不全性を示さないことが分かっているため許容され(非特許文献6)、又は上記突然変異アレルは、相同配列指向性修復により修復されることで、K12-Leu132Proアレルの修復がもたらされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hsu PD, Lander ES, Zhang F. Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineering. Cell 2014; 157: 1262-1278
【非特許文献2】Shalem O, Sanjana NE, Hartenian E, Shi X, Scott DA, Mikkelsen TS et al. Genome-scale CRISPR-Cas9 knockout screening in human cells. Science 2014; 343: 84-87
【非特許文献3】Wang T, Wei JJ, Sabatini DM, Lander ES. Genetic screens in human cells using the CRISPR-Cas9 system. Science 2014; 343: 80-84
【非特許文献4】Westra ER, Semenova E, Datsenko KA, Jackson RN, Wiedenheft B, Severinov K et al. Type I-E CRISPR-cas systems discriminate target from non-target DNA through base pairing-independent PAM recognition. PLoS Genet 2013; 9: e1003742
【非特許文献5】Liao H, Irvine AD, Macewen CJ, Weed KH, Porter L, Corden LD et al. Development of allele-specific therapeutic siRNA in Meesmann epithelial corneal dystrophy. PLoS One 2011; 6: e28582
【非特許文献6】Kao WW, Liu CY, Converse RL, Shiraishi A, Kao CW, Ishizaki M et al. Keratin 12-deficient mice have fragile corneal epithelia. Invest Ophthalmol Vis Sci 1996; 37: 2572-2584
【発明の概要】
【0006】
1つの態様において、本開示は、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)に関する。幾つかの実施の形態において、上記sgRNAは、(i)CRISPR標的化RNA(crRNA)配列と、(ii)トランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列とを含む。幾つかの実施形態において、上記crRNA配列及び上記tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである。幾つかの実施の形態において、上記crRNA配列は、配列番号(10+4n)(nは、0から221までの整数である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。更なる実施の形態において、上記tracrRNA配列は、配列番号2又は配列番号6の配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0007】
別の態様において、本開示は、CRISPR/Cas9システムのためにデザインされたsgRNA対であって、(i)(a)病因性突然変異又はSNPの3’末端側にシスにある第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を生成する突然変異又は一塩基多型(SNP)のための第1のcrRNA配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第1のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第1のsgRNAと、(ii)(a)病因性突然変異又はSNPの5’末端側にシスにある第2のPAMを生成する突然変異又はSNPのための第2のcrRNAガイド配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第2のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第2のsgRNAとを含む、sgRNA対に関する。幾つかの実施の形態において、上記CRISPR/Cas9システム
は、角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのシステムである。幾つかの実施の形態において、上記PAMを生成する突然変異又は上記SNPは、TGFBI遺伝子中に位置する。更なる実施の形態において、上記PAMを生成する突然変異又は上記SNPは、TGFBI遺伝子のイントロン中に存在する。例えば、図16に示されるように、上記PAMを生成する突然変異又は上記SNPは、TGFBI遺伝子の隣り合ったイントロン中にあり、上記病因性突然変異又は上記SNPは、隣り合ったイントロンの間のエキソン中にあり得る。なおも更なる実施の形態においては、上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、図19図35に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、及び/又は上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、表2に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0008】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子とsgRNAとを含む少なくとも1つ若しくは2つのベクター、又は本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子とsgRNA対とを含む少なくとも1つ、2つ、若しくは3つの異なるベクターを含む、操作されたクラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムに関する。幾つかの実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼ及び上記sgRNAは、天然には一緒に存在しないものである。幾つかの実施の形態において、本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼは、Slaymaker et al., 2016 Science, 351(6268), 84-88に記載される強化型Cas9ヌクレアーゼであり得る。更なる実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカスに由来する。なおも更なる実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(Spy)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)
、ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)、ストレプトコッカス・フォ
カエ(Streptococcus phocae)、ストレプトコッカス・シュードポルシヌス(Streptococcus pseudoporcinus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・シュードポルシヌス(Streptococcus pseudoporcinus)、ストレプトコッカス・インファンタリウス(Streptococcus infantarius)、ストレプトコッカス・ミ
ュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・カバリ(Streptococcus caballi)、スト
レプトコッカス・エクイヌス(Streptococcus equinus)、ストレプトコッカス属種or
al taxon(Streptococcus sp. oral taxon)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・ガロリティクス(Streptococcus gallolyticus)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコ
ッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、又はそれらの変異体に由来する。更なる実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、スタフィロコッカスに由来する。なおも更なる実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、S.シミアエ(S. simiae)、S.アウリクラリス(S. auricularis)、S.カルノサス(S. carnosus)、S.コンディメン
ティ(S. condimenti)、S.マッシリエンシス(S. massiliensis)、S.ピスシフェルメンタンス(S. piscifermentans)、S.シムランス(S. simulans)、S.カピティス
(S. capitis)、S.カプラエ(S. caprae)、S.エピデルミディス(S. epidermidis
)、S.サッカロリティクス(S. saccharolyticus)、S.デブリエセイ(S. devriesei)、S.ヘモリティクス(S. haemolyticus)、S.ホミニス(S. hominis)、S.アグ
ネティス(S. agnetis)、S.クロモゲネス(S. chromogenes)、S.フェリス(S. felis)、S.デルフィニ(S. delphini)、S.ハイカス(S. hyicus)、S.インテルメディウス(S. intermedius)、S.ルトラエ(S. lutrae)、S.ミクロティ(S. microti
)、S.ムスカエ(S. muscae)、S.シュードインターメディウス(S. pseudintermedius)、S.ロストリ(S. rostri)、S.シュライフェリ(S. schleiferi)、S.ルグドゥネンシス(S. lugdunensis)、S.アーレッタエ(S. arlettae)、S.コーニイ(S. cohnii)、S.エクオルム(S. equorum)、S.ガリナルム(S. gallinarum)、S.ク
ローシイ(S. kloosii)、S.レエイ(S. leei)、S.ネパレンシス(S. nepalensis)、S.サプロフィティクス(S. saprophyticus)、S.スクシヌス(S. succinus)、S
.キシロサス(S. xylosus)、S.フレウレティイ(S. fleurettii)、S.レンツス(S. lentus)、S.シウリ(S. sciuri)、S.ステパノヴィチイ(S. stepanovicii)、S.ヴィツリヌス(S. vitulinus)、S.シムランス(S. simulans)、S.パスツーリ(S. pasteuri)、S.ワルネリ(S. warneri)、又はそれらの変異体に由来する。更なる実施の形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、配列番号4又は配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。なおも更なる実施の形態において、Cas9ヌクレアーゼをコードする上記ヌクレオチド分子は、配列番号3又は配列番号7からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも約60%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施の形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム又はベクターは、修復ヌクレオチド分子及び/又は少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)を除く、又は更に含む。更なる実施の形態において、上記sgRNA及び上記Cas9ヌクレアーゼは、同じベクター上、又は異なるベクター上に含まれる。
【0009】
別の態様において、本開示は、少なくとも1つの遺伝子産物の発現を変化させる方法であって、本明細書に記載される操作されたCRISPR/Cas9システムを、標的配列を有すると共に上記遺伝子産物をコードするDNA分子を含み発現する細胞中に導入することを含む、方法に関する。幾つかの実施の形態において、上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、(a)上記標的配列とハイブリダイズするsgRNAに作動的に連結された第1の調節エレメントと、(b)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子に作動的に連結された第2の調節エレメントとを含み、その際、構成要素(a)及び構成要素(b)は、該システムの同じベクター又は異なるベクター上に位置しており、該sgRNAは、上記標的配列を標的とし、かつ上記Cas9ヌクレアーゼは、上記DNA分子を開裂する。上記標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’末端に隣接するヌクレオチド配列に相補性のヌクレオチド配列であり得る。更なる実施の形態において、上記細胞は、真核細胞、又は哺乳動物細胞若しくはヒト細胞である。幾つかの実施の形態において、上記sgRNAは、Cas9ヌクレアーゼにより認識されるPAMの5’末端に隣接するヌクレオチド配列を含む。更なる実施の形態において、上記sgRNAは、16ヌクレオチド配列から25ヌクレオチド配列までの長さを有し、又は16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、若しくは25個のヌクレオチドを有する。
【0010】
別の態様において、本開示は、被験体における一塩基多型(SNP)と関連する疾患を予防、改善、又は治療する方法であって、本明細書に記載される上記被験体の遺伝子産物の発現を変化させることを含み、上記DNA分子が、突然変異配列を含む、方法に関する。幾つかの実施の形態において、上記DNA分子は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれより多くのSNP部位又は突然変異部位を含み得て、かつ本明細書に記載される方法は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれより多くの上記SNP部位又は上記突然変異部位に関連する遺伝子産物の発現を変化させる。
【0011】
別の態様において、本開示は、被験体における遺伝子突然変異又はSNPと関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法であって、上記被験体に(i)本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、(ii)本明細書に記載されるsgRNAとを含む少なくとも1つ、又は2つのベクターを含む操作され
たCRISPR/Cas9システムを投与することを含み、上記sgRNAが、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位の5’末端に隣接する標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズするか、又は該標的配列を含み、かつ上記標的配列又は上記PAMは、突然変異部位又はSNP部位を含む、方法に関する。幾つかの実施の形態において、上記sgRNAは、上記標的配列と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼ及び上記sgRNAは、天然には一緒に存在しないものである。更なる実施の形態において、上記PAMは、上記突然変異部位又は上記SNP部位を含む。
【0012】
幾つかの実施の形態において、上記病因性遺伝子突然変異又は上記SNPを含む突然変異配列は、(i)Leu509Arg、Arg666Ser、Gly623Asp、Arg555Gln、Arg124Cys、Val505Asp、Ile522Asn、Leu569Arg、His572Arg、Arg496Trp、Pro501Thr、Arg514Pro、Phe515Leu、Leu518Pro、Leu518Arg、Leu527Arg、Thr538Pro、Thr538Arg、Val539Asp、Phe540del、Phe540Ser、Asn544Ser、Ala546Thr、Ala546Asp、Phe547Ser、Pro551Gln、Leu558Pro、His572del、Gly594Val、Val613del、Val613Gly、Met619Lys、Ala620Asp、Asn622His、Asn622Lys、Asn622Lys、Gly623Arg、Gly623Asp、Val624_Val625del、Val624Met、Val625Asp、His626Arg、His626Pro、Val627SerfsX44、Thr629_Asn630insAsnValPro、Val631Asp、Arg666Ser、Arg555Trp、Arg124Ser、Asp123delins、Arg124His、Arg124Leu、Leu509Pro、Leu103_Ser104del、Val113Ile、Asp123His、Arg124Leu、及び/又はThr125_Glu126delを含む突然変異TGFBIタンパク質、(ii)Glu498Val、Arg503Pro、及び/又はGlu509Lysを有する突然変異KRT3タンパク質、(iii)Met129Thr、Met129Val、Gln130Pro、Leu132Pro、Leu132Val、Leu132His、Asn133Lys、Arg135Gly、Arg135Ile、Arg135Thr、Arg135Ser、Ala137Pro、Leu140Arg、Val143Leu、Val143Leu、Lle391_Leu399dup、Ile426Val、Ile426Ser、Tyr429Asp、Tyr429Cys、Arg430Pro、及び/又はLeu433Argを有する突然変異KRT12タンパク質、(iv)Asp214Tyrを有する突然変異GSNタンパク質、並びに(v)Ala97Thr、Gly98Ser、Asn102Ser、Asp112Asn、Asp112Gly、Asp118Gly、Arg119Gly、Leu121Val、Leu121Phe、Val122Glu、Val122Gly、Ser171Pro、Tyr174Cys、Thr175Ile、Gly177Arg、Lys181Arg、Gly186Arg、Leu188His、Asn232Ser、Asn233His、Asp236Glu、及び/又はAsp240Asnを有する突然変異UBIAD1タンパク質からなる群から選択される突然変異タンパク質をコードする。なおも更なる実施の形態において、請求項14~25のいずれか一項に記載の方法であって、上記被験体が、ヒト、動物、又は哺乳動物である、方法。
【0013】
幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg514Proを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、GAACTAATTACCATGCTAAA(配列番号897)を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異
配列は、Leu518Argを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、GAGACAATCGCTTTAGCATG(配列番号898)を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Leu509Argを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号186を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Leu527Argを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号474を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg124Cysを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号58、配列番号54、配列番号50、及び配列番号42のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg124Hisを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号94、配列番号90、配列番号86、配列番号82、配列番号78、配列番号74、及び配列番号70のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg124Hisを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号86又は配列番号94を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg124Leuを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号114、配列番号110、配列番号106、及び配列番号98のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg555Glnを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号178、配列番号174、配列番号170、配列番号166、配列番号162、及び配列番号158のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Arg555Trpを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号146、配列番号142、配列番号138、配列番号134、配列番号130、及び配列番号126のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。幾つかの実施の形態において、上記SNP部位を含む突然変異配列は、Leu527Argを含む突然変異TGFBIタンパク質をコードし、かつ上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、配列番号146、配列番号142、配列番号138、配列番号134、配列番号130、及び配列番号126のいずれかのヌクレオチド配列を含むsgRNAを含む。
【0014】
別の態様において、本開示は、被験体における遺伝子突然変異又はSNPと関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法であって、上記被験体に(i)本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、(ii)本明細書に記載されるsgRNAとを含む少なくとも1つ、又は2つのベクターを含む操作されたCRISPR/Cas9システムを投与することを含み、上記sgRNAが、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位の5’末端に隣接する第2の標的配列に相補性の第1の標的配列にハイブリダイズし、かつ上記第1の標的配列又は上記PAMは、上記突然変異部位又は上記SNP部位を含む、方法に関する。別の態様において、本開示は、被験体における遺伝子突然変異又は一塩基多型(SNP)と関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法であって、上記被験体に(i)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、(ii)病因性突然変異又はSNPの3’末端側にシスにある第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’末端に隣接する第1の標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズする第1のCRISPR標的化RNA(crRNA)配列であって、上記第1の標的配列又は上記第1のPAMが、第1の祖先型突
然変異部位又はSNP部位を含む、第1のcrRNA配列と、(iii)病因性突然変異又はSNPの5’末端側にシスにある第2のPAMの5’末端に隣接する第2の標的配列に相補性のヌクレオチド配列にハイブリダイズする第2のcrRNA配列であって、上記第2の標的配列又は上記第2のPAMが、第2の祖先型突然変異部位又はSNP部位を含む、第2のcrRNA配列とを含む少なくとも1つのベクターを含む操作されたCRISPR/Cas9システムを投与することを含み、上記少なくとも1つのベクターは、天然に一緒に存在するcrRNA配列及びCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子を有しない、方法に関する。幾つかの実施の形態において、PAMを生成する突然変異又はSNPは、TGFBI遺伝子中に、例えば、TGFBI遺伝子のイントロン中に存在する。別の実施の形態において、上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、図19図35に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、及び/又は上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、表2に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。なおも更なる実施の形態において、上記第1のPAMは、上記第1の突然変異部位若しくは上記SNP部位を含み、及び/又は上記第2のPAMは、上記第2の突然変異部位若しくは上記SNP部位を含む。更なる実施の形態において、上記第1のcrRNA配列は、上記第1の標的配列を含み、及び/又は上記第2のcrRNA配列は、上記第2の標的配列を含む。なおも更なる実施の形態において、上記crRNAは、17ヌクレオチド長~24ヌクレオチド長である。幾つかの実施の形態において、上記第1のPAM及び/又は上記第2のPAMの両方は、ストレプトコッカス又はスタフィロコッカス由来である。更なる実施の形態において、上記病因性突然変異又は上記SNPを含む突然変異配列は、Leu509Arg、Arg666Ser、Gly623Asp、Arg555Gln、Arg124Cys、Val505Asp、Ile522Asn、Leu569Arg、His572Arg、Arg496Trp、Pro501Thr、Arg514Pro、Phe515Leu、Leu518Pro、Leu518Arg、Leu527Arg、Thr538Pro、Thr538Arg、Val539Asp、Phe540del、Phe540Ser、Asn544Ser、Ala546Thr、Ala546Asp、Phe547Ser、Pro551Gln、Leu558Pro、His572del、Gly594Val、Val613del、Val613Gly、Met619Lys、Ala620Asp、Asn622His、Asn622Lys、Asn622Lys、Gly623Arg、Gly623Asp、Val624_Val625del、Val624Met、Val625Asp、His626Arg、His626Pro、Val627SerfsX44、Thr629_Asn630insAsnValPro、Val631Asp、Arg666Ser、Arg555Trp、Arg124Ser、Asp123delins、Arg124His、Arg124Leu、Leu509Pro、Leu103_Ser104del、Val113Ile、Asp123His、Arg124Leu、及び/又はThr125_Glu126delを含む突然変異TGFBIタンパク質からなる群から選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0015】
なおも更なる実施の形態において、上記PAMは、NGG及びNNGRRT(Nは、A、T、G、及びCのいずれかであり、かつRは、A又はGである)からなる群から選択されるPAMからなる。更なる実施の形態において、上記投与は、上記操作されたCRISPR/Cas9システムを上記被験体の角膜(例えば、角膜実質)中に注射することにより、及び/又は上記操作されたCRISPR/Cas9システムを、上記標的配列を有するDNA分子を含み発現する細胞中に導入することにより、上記操作されたCRISPR/Cas9システムを上記被験体の角膜(例えば、角膜実質)中に導入することを含む。
【0016】
幾つかの実施の形態において、上記角膜ジストロフィーは、上皮基底膜ジストロフィー(EBMD)、メースマン角膜ジストロフィー(MECD)、ティール-ベーンケ角膜ジストロフィー(TBCD)、格子状角膜ジストロフィー(LCD)、顆粒状角膜ジストロ
フィー(GCD)、及びシュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)からなる群から選択される。更なる実施の形態において、上記SNP部位は、TGFBI、KRT3、KRT12、GSN、及びUbiAプレニルトランスフェラーゼドメイン含有タンパク質1(UBIAD1)からなる群から選択される遺伝子中に位置している。
【0017】
幾つかの実施の形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム及び該システムを使用する方法は、複数のSNP部位又は祖先型SNPでの突然変異配列を変化させ得る。
【0018】
別の態様において、本開示は、角膜ジストロフィーの治療を必要とする被験体における角膜ジストロフィーを治療する方法であって、(a)上記被験体から角膜ジストロフィー標的核酸中に核酸突然変異を含む複数の幹細胞を取得することと、(b)上記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を操作することで上記核酸突然変異を修正し、それにより1つ以上の操作された幹細胞を形成させることと、(c)上記1つ以上の操作された幹細胞を単離することと、(d)上記1つ以上の操作された幹細胞を上記被験体中に移植することとを含み、上記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を操作することが、本明細書に記載される遺伝子産物の発現を変化させる方法、又は被験体における突然変異若しくはSNPと関連する疾患を予防、改善、若しくは治療する方法のいずれかを実施することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】野生型及び突然変異のケラチン12(K12)アレルを標的とするためのsgRNAの例示的デザインを示す図である。K12-L132Pアレルに見られるSNPに誘導されたPAMを使用するsgRNAをデザインした(赤色)。このPAMは、野生型アレルには存在しない。野生型及び突然変異のK12アレルの両方を標的とする第2のsgRNA(緑色)もデザインし、ポジティブコントロールとして使用した。
図2】外因性発現構築物を使用したsgK12LPのアレル特異性及び有効性の評価を示す図である。野生型及び突然変異のK12のための外因性発現構築物を使用して、sgK12LPのアレル特異性及び有効性を試験した。(A)デュアルルシフェラーゼアッセイにより、sgK12LPプラスミドのアレル特異性が裏付けられ、その一方で、有効性はsgK12構築物の有効性に匹敵することが示された(N=8)。(B)ウェスタンブロッティングにより、これらはsgK12LPで処理された細胞中のK12-L132Pタンパク質が、処理されたがK12野生型タンパク質を発現する細胞と比較して著しく減少することに起因すると裏付けられた。β-アクチンをローディングコントロールとして使用した。(C)野生型アレル及び突然変異アレルの両方を発現する細胞における全K12に関する定量的逆転写酵素PCRにより、mRNA発現のノックダウンが裏付けられた(N=4)。(D)このmRNAノックダウンのアレル割合を、次いでパイロシーケンシングにより定量することで、両方のKRT12アレルを同時発現するとともに、sgK12LPで処理された細胞における突然変異アレルのアレルノックダウンが確認された(N=4、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図3】in vivoでのsgK12LPに誘導されるNHEJを示す図である。GFP発現が、実質内注射後24時間の時点でマウスの角膜上皮に観察されることから、角膜上皮のトランスフェクションのための実質内プラスミド注射の効力が裏付けられた(A、N=2)。GFP発現は、注射後48時間の時点では観察されなかった。sgK12LP構築物が注射されたヒトK12-L132Pヘテロ接合マウス由来のgDNAのシーケンシングにより、大きな欠失と、KRT12-L132Pアレルの開裂によるNHEJの誘導とが裏付けられた。シーケンシングされた13個のクローンのうち、5個がNHEJを経たことが判明した(B)。
図4】TGFBI突然変異R514P(A)、L518R(B)、L509R(C)、L527R(D)のためにデザインされたSNPに誘導されるPAMのガイドRNAを使用した結果を示す図である。ルシフェラーゼ発現を使用して、野生型アレル及び突然変異アレルの発現を評価した。ポジティブコントロール(sgWT)のガイドは、野生型(WT、青色の棒)アレル及び突然変異型(MUT、赤色の棒)アレルの両方を切断するようにデザインされ、上記に示されるように予想通りに両方のアレルを切断した。L518Rのために使用されるガイド(sgMut)は、最大のアレル特異性と共にWTアレルの最小の切断を示す(青色の棒)。ネガティブコントロールのガイド(sgNSC)は、予想通りにWTのDNAもMUTのDNAもどちらも切断しなかった。
図5】項目A~項目Eは、R124及びR555のTGFBI突然変異のためにデザインされた突然変異アレル特異的なガイドRNAを使用した結果を示す図である。ルシフェラーゼ発現を使用して、野生型アレル及び突然変異アレルの発現を評価した。該アッセイは、16マーから22マーまでの範囲の種々の長さのガイドを用いて実施した。ガイドの長さに加えて、特異性の改善を補助するためのガイドの5’末端への二重のグアニンの付加も評価した。青色の棒は、WTのTGFBI配列を表し、橙色の棒は、突然変異のTGFBI配列を示す。上記突然変異のガイドは、該ガイドの長さに基づいて様々な効率で切断した(図5、項目A~項目E)。R124(図5、項目A、項目B、及び項目C)に関しては、アッセイにより、アレル特異性の傾向と共に上記突然変異のガイドが突然変異配列を優先的に標的とすることが示される(橙色の棒は青色の棒と比較して更に減少した)。項目Fは、R124H突然変異の20マーのガイドが、非標的化結合を減らすように操作された強化型Cas9ヌクレアーゼを用いて試験された場合の特異性の改善を示している。項目Gは、DNAが開裂されたことを確認するためのCas9によるin vitro開裂からの断片分析を示す。6種の共通のTGFBI突然変異(例えば、R124C、R124H、R124L、R555Q、R555W、及びL527R)のそれぞれについて、野生型配列及び突然変異配列に関して開裂テンプレートを調製した。野生型配列及び突然変異配列を含むガイドRNA分子(20ヌクレオチド及び18ヌクレオチド)をデザインし合成した。次いで、開裂テンプレートを、in vitroでCas9-sgRNA複合体により消化し、断片分析をアガロースゲル上で実施した(図5、項目G、(a)~(f))。R124C開裂反応の断片分析(図5、項目G、(a))は、デュアルルシフェラーゼアッセイの結果(図5、項目A)に匹敵する結果を示す。R124H及びR124Lの両方についての開裂反応の分析(図5、項目G、(b)及び(c))も、デュアルルシフェラーゼアッセイの結果(図5、項目B及びC)と同様の結果を示し、それらの結果は、2つの大きく異なるアッセイの間で一致している。R555Q及びR555Wの開裂反応の試験(図5、項目G、(d)及び(e))も、デュアルルシフェラーゼアッセイ(項目5、項目D及び項目E)との同等性を示す。L527Rについての開裂反応の分析(図5、項目G、(f))は、該ガイドの長さに基づいて様々な切断効率を示している。
図6】(A)は、Luc2に特異的であり、かつLuc2遺伝子の5’領域を標的とするようにデザインされた例示的な一本鎖ガイドRNA(sgRNA)標的配列(紫色にハイライトして示される)を示す図である。該ガイドをLuc2遺伝子の5’領域において結合するようにデザインすることで、フレームシフトを起こす欠失を誘導する可能性が高まり、標的DNA中に未成熟終止コドンを生成することによりルシフェラーゼ(Luc2)活性がノックアウトされる。(B)は、このLuc2を標的とするガイドを、ルシフェラーゼを発現する細胞に添加し、ルシフェラーゼ発現に基づいて遺伝子編集を測定した後に得られた結果を示す図である。幾つかの細胞は処理されておらず(unT)、その他の細胞は、細胞中のDNAに結合しない非特異的なネガティブコントロールのガイドRNA(sgNSC)で処理され、そしてまたsgLuc2PであるLuc2に対する試験ガイドで処理された。
図7】in vivoでマウスの角膜上皮において、CRISPR Cas9遺伝子編集が、標的遺伝子を切断し、その発現を低下させることができ、その結果、該遺伝子から発現されるタンパク質がより少なくなることを裏付ける図である。ルシフェラーゼのヒートマップは、タンパク質発現のレベルを表しており、そこではLuc2タンパク質に関して、黒色は発現なしを表し、青色は低い発現を表し、そして赤色は高い発現を表す。
図8】F. Ran et al., Nat. Protoc. 2013, 8(11) 2281-2308に記載されるCRISPR/Cas9システムを示す図である。S.ピオゲネス由来のCas9ヌクレアーゼ(黄色)は、20ヌクレオチドのガイド配列(青色)及びスキャフォールド(赤色)からなるsgRNAによりゲノムDNA(例えば、ヒトEMX1座位が示される)に標的化される。上記ガイド配列は、必須の5’-NGG隣接モチーフ(PAM、ピンク色)のすぐ上流でDNA標的(上側の鎖上の青色の棒)と対をなす。Cas9は、PAMの約3塩基対上流(赤色の三角形)でDSBをもたらす。
図9】8種の細菌種からのII型のCRISPR-Cas座位及びsgRNAの図式を含む、F. Ran et al., Nature 2015, 520(7546):186-91に記載されるCRISPR/Cas9システムを示す図である。スペーサー又は「ガイド」配列は青色で示され、その後にダイレクトリピート(灰色)が続く。予測されるtracrRNAは赤色で示され、制約生成RNAフォールディングモデルに基づいて折り畳まれている。
図10】F. Ran et al., Nature 2015, 520(7546):186-91に記載されるCRISPR/Cas9システムを示す更なる図である。この図は、哺乳動物細胞におけるSaCas9のsgRNAスキャフォールドの最適化を示している。(A)スタフィロコッカス・アウレウス亜種アウレウスのCRISPR座位の図。(B)21ヌクレオチドのガイド、crRNAリピート(灰色)、テトラループ(黒色)及びtracrRNA(赤色)を有するSaCas9のsgRNAの図。crRNAリピートとtracrRNAアンチリピートとの塩基対形成の番号は、灰色のボックスの上に示されている。SaCas9は、(C)HEK293FT細胞系統及び(D)Hepa1-6細胞系統において、様々なリピート:アンチリピート長さで有する標的を開裂する(n=3、エラーバーは、平均値の標準誤差を示す)。
図11】ストレプトコッカス・ピオゲネスのCas9ヌクレアーゼを使用するpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)を含むCRISPR/Cas9システムのための例示的なベクターを示す図である。
図12】スタフィロコッカス・アウレウスを使用するCRISPR/Cas9システムのための例示的なベクターpX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::Bsal-sgRNAを示す図である。
図13】ストレプトコッカス・ピオゲネス(Spy)及びスタフィロコッカス・アウレウス(Sau)からのCas9ヌクレアーゼの例示的なsgRNA配列、ヌクレオチド配列、及びアミノ酸配列を示す図である。
図14】Cas9開裂を導く1対のsgRNAと密集しているメースマン角膜ジストロフィー(MECD)関連KRT12突然変異のHDR媒介型修復のための例示的デザインを示す図である。図14に示される修復オリゴ(ssODN)は、L132Pのためのものであるが、該クラスター中のその他の突然変異のためにも働くこととなる。突然変異及び修復の部位は、アスタリスクで示されている。2つの矢じりは、修復されたアレル中に同義置換を導入するが、PAM部位を再コード化するためCas9による更なる切断は阻止されることとなる修復オリゴ中のヌクレオチド変化を示す。
図15】新規PAMを生成する10%より大きなMAFを有するTGFBIにおける全てのSNPを示す図である。番号付けされたボックスは、TGFBI内のエキソンを示す。多数の病因性突然変異が見られるTGFBI中のホットスポットは、赤色のボックスにより示される。青色の矢印は、新規PAMを生成するSNPの位置を示す。新規PAMはそれぞれの矢印の方向に示されており、その際、必要な変異体は赤色でハイライトされている。
図16】隣接SNPによる新規PAMを利用するsgRNAが第1のイントロン中にデザインされている例示的な実施形態を示す図である。さらに、野生型アレル及び突然変異アレルの両方に共通のsgRNAは、第2のイントロン中にデザインされている。野生型アレルにおいて、一本鎖sgRNAは、第2のイントロン中にNHEJを引き起こし、それは機能的効果を有しない。しかしながら、突然変異アレルにおいて、隣接SNPに誘導されるPAMを利用するsgRNA及び共通のsgRNAは、突然変異アレルのノックアウトをもたらす大きな欠失をもたらす。
図17】CRISPR/Cas9でヌクレオフェクションされたR124Hのアベリノ角膜ジストロフィー突然変異を有する患者から得られた例示的なリンパ球細胞系統を使用することによる実験結果を示す図である。そのガイドは、rs3805700 SNPにより生成される新規PAMを利用した。このPAMは、その患者のR124H突然変異と同じ染色体上に存在するが、野生型染色体上には存在しない。セルソーティング後に、単クローンを単離して、インデルが生じたかどうかを調べた。6個の単クローンは、未編集の野生型染色体を有することから、このガイドの厳密なアレル特異性が指摘される。上記単離されたクローンのうち4個は突然変異染色体を有し、これらのうちの3個が編集を示すことから、突然変異染色体の75%の編集効率が指摘される。3個のクローンのうち2個がフレームシフトを起こすインデルを示した。したがって、編集の少なくとも66.66%が遺伝子破壊を誘導した。
図18】例示的な標的部位、ガイド配列、及びそれらの相補性の配列を示す図である。
図19】角膜ジストロフィーと関連するSNP部位を含む例示的な標的配列を示す図である。
図20】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図21】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図22】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図23】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図24】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図25】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図26】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図27】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図28】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図29】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図30】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図31】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図32】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図33】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図34】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
図35】TGFBI遺伝子のイントロン領域中の例示的な共通のガイドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
全体を通して使用されるように、範囲は、その範囲内にあるあらゆる値を記載するための簡略記載として使用される。範囲内の任意の値を、その範囲の端点として選択することができる。さらに、本明細書で引用された全ての参考文献は、全ての目的について引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。本開示における定義と引用文献の定義とが対立する場合には、本開示を優先する。
【0021】
1つの態様において、本開示は、角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療するための、例えばCRISPR/Cas9システムのためにデザインされたsgRNAを含む一本鎖ガイドRNA(sgRNA)に関する。上記sgRNAは、人工的なsgRNA、人造のsgRNA、合成のsgRNA、及び/又は天然に存在しないsgRNAであり得る。幾つかの実施形態において、上記sgRNAは、(i)CRISPR標的化RNA(crRNA)配列と、(ii)「sgRNAスキャフォールド」とも呼ばれ得るトランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列とを含む。幾つかの実施形態において、上記crRNA配列及び上記tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである。本明細書で使用される場合に「sgRNA」という用語は、(i)ガイド配列(crRNA配列)と、(ii)Cas9ヌクレアーゼ動員配列(tracrRNA)とを含む一本鎖ガイドRNAを指し得る。例示的なガイド配列には、図18図19に開示される配列が含まれる。上記crRNA配列は、関心が持たれた遺伝子中の領域に対して相同であり、Cas9ヌクレアーゼ活性を導き得る配列であり得る。上記crRNA配列及び上記tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである。上記sgRNAは、RNAとして、又はプロモーター下でsgRNAをコードする配列(sgRNA遺伝子)を有するプラスミドによる形質転換により送達され得る。
【0022】
幾つかの実施形態において、上記sgRNA又は上記crRNAは、標的配列(例えば、標的ゲノム配列)の少なくとも一部分にハイブリダイズし、該crRNAは、該標的配列に相補性の配列を有し得る。幾つかの実施形態において、本明細書における標的配列は、本明細書に記載されるPAM部位に隣接する第2の標的配列にハイブリダイズする第1の標的配列である。幾つかの実施形態において、上記sgRNA又は上記crRNAは、上記第1の標的配列又は上記第2の標的配列を含み得る。「相補性」は、1つの核酸がもう1つの核酸配列と慣例的なワトソン-クリック型又はその他の慣例的でない型のいずれかにより1つ以上の水素結合を形成する能力を指す。相補性のパーセントは、第2の核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成し得る1つの核酸分子中の残基のパーセンテージを示す(例えば、10個のうち5個、6個、7個、8個、9個、10個は、50%相補性、60%相補性、70%相補性、80%相補性、90%相補性、及び100%相補性である)。「完全に相補性」とは、1つの核酸配列の連続した残基の全てが、第2の核酸配列中の同じ数の連続的な残基と水素結合することを意味する。本明細書で使用される「本質的に相補性」は、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、30個、35個、40個、45個、50個以上のヌクレオチドの領域にわたって、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、若しくは100%である相補性の度合いを指すか、又は2個の核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることを指す。本明細書で使用される場合に、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」は、標的配列に相補性を有する核酸が、該標的配列と優先的にハイブリダイズし、非標的配列には本質的にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、一般的に配列に依存しており、数多くの要因に応じて変動する。一般的に、配列が長くなるほど、該配列がその標的配列に特異的にハイブリダイズする温度は高くなる。ストリンジェントな条件の非限定的な例は、Tijssen (1993), Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes Part 1, Second Chapter "O
verview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay", Elsevier, N.Y.に詳細に記載されている。「ハイブリダイゼーション」は、1つ以上のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチド残基の塩基の間の水素結合を介して安定化されている複合体を形成する反応を指す。上記水素結合は、ワトソン-クリック塩基対形成、フーグスティーン結合によって、又は任意のその他の配列特異的な様式において生じ得る。上記複合体は、二重鎖構造を形成する2つの鎖、多重鎖複合体を形成する3つ以上の鎖、一本鎖の自己ハイブリダイズする鎖、又はこれらの任意の組み合わせを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、より広範な過程、例えばPCRの開始、又は酵素によるポリヌクレオチドの開裂における1つの工程を構成し得る。所与の配列とハイブリダイズすることが可能な配列は、所与の配列の「相補体」と呼ばれる。幾つかの実施形態において、上記crRNA配列は、配列番号(10+4n)(nは、0から221までの整数である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。本明細書で使用される場合に「約」という用語は、示された参照値と類似した値の範囲を指し得る。或る特定の実施形態においては「約」という用語は、示された参照値の15パーセント、10パーセント、9パーセント、8パーセント、7パーセント、6パーセント、5パーセント、4パーセント、3パーセント、2パーセント、1パーセント以下の範囲内に含まれる値の範囲を指す。幾つかの実施形態において、上記crRNA配列は、配列番号(10+4n)(nは、0から221までの整数である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列から1個、2個、3個、4個、又は5個のヌクレオチドの付加、欠失、及び/又は置換を有するヌクレオチド配列を有する。そのような付加、欠失、及び/又は置換は、上記ヌクレオチド配列の3’末端又は5’末端に存在し得る。更なる実施形態において、上記crRNA又は上記ガイド配列は、約17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、又は24ヌクレオチド長である。更なる実施形態において、上記crRNAは、配列番号10のヌクレオチド配列を有するcrRNA配列を除く。なおも更なる実施形態において、上記crRNAは、ケラチン12タンパク質中にL132P突然変異をもたらすSNPを含むヌクレオチド配列にハイブリダイズするcrRNA配列を除く。なおも更なる実施形態において、上記crRNAは、ケラチン12タンパク質中に1つの突然変異をもたらすSNPを含むヌクレオチド配列にハイブリダイズするcrRNA配列を除く。
【0023】
幾つかの実施形態において、tracrRNAは、Cas9を活性化して、crRNA配列の結合のためにdsDNAを開放するヘアピン構造を提供する。上記tracrRNAは、パリンドロームリピートに相補性の配列を有し得る。該tracrRNAが短いパリンドロームリピートにハイブリダイズする場合に、それは、細菌の二本鎖RNA特異的リボヌクレアーゼのRNase IIIによるプロセシングを惹起し得る。更なる実施形態において、上記tracrRNAは、SPIDR(スペーサー散在型ダイレクトリピート(SPacer Interspersed Direct Repeats))を有し、特定の細菌種に通常特異的であるDNA座位のファミリーを構成し得る。CRISPR座位は、E.コリにおいて認識された異なるクラスの散在型の短配列リピート(interspersed short sequence repeats)(
SSR)(Ishino et al., J. Bacteriol., 169:5429-5433 [1987]、及びNakata et al.,
J. Bacteriol., 171:3553-3556 [1989])、及び関連遺伝子を含む。同様の散在型のSSRは、ハロフェラックス・メディテラネイ(Haloferax mediterranei)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、アナバエナ(Anabaena)、及びマイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)において同定された(Groenen et al., Mol. Microbiol., 10:1057-1065 [1993]、Hoe et al., Emerg. Infect. Dis., 5:254-263 [1999]、Masepohl et al., Biochim. Biophys. Acta 1307:26-30 [1996]、及びMojica et al., Mol. Microbiol., 17:85-93 [1995]を参照のこと)。CRISPR
座位は、リピートの構造の点でその他のSSRとは異なり得て、それらは、短い規則正し
い間隔を持つリピート(short regularly spaced repeats)(SRSR)と呼ばれている(Janssen et al., OMICS J. Integ. Biol., 6:23-33 [2002]、及びMojica et al., Mol.
Microbiol., 36:244-246 [2000])。或る特定の実施形態において、上記リピートは、本質的に一定の長さを有する固有の介在配列により規則正しい間隔を持つクラスターで存在する短いエレメントである(上記のMojica et al., [2000])。上記リピート配列は株間
で高度に保存されているが、散在型のリピートの数及びスペーサー領域の配列は一般的に株ごとに異なる(van Embden et al., J. Bacteriol., 182:2393-2401 [2000])。上記tracrRNA配列は、当該技術分野で既知のCRISPR/Cas9システムのためのtracrRNAに関する任意の配列であり得る。更なる実施形態において、上記tracrRNAは、配列番号2及び配列番号6のヌクレオチド配列と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。上記tracrRNA配列は、当該技術分野で既知のCRISPR/Cas9システムのためのtracrRNAのための任意の配列であり得る。例示的なCRISPR/Cas9システム、sgRNA、crRNA及びtracrRNA、並びにそれらの製造方法及び使用は、米国特許第8697359号、米国特許出願公開第20150232882号、同第20150203872号、同第20150184139号、同第20150079681号、同第20150073041号、同第20150056705号、同第20150031134号、同第20150020223号、同第20140357530号、同第20140335620号、同第20140310830号、同第20140273234号、同第20140273232号、同第20140273231号、同第20140256046号、同第20140248702号、同第20140242700号、同第20140242699号、同第20140242664号、同第20140234972号、同第20140227787号、同第20140189896号、同第20140186958号、同第20140186919号、同第20140186843号、同第20140179770号、同第20140179006号、同第20140170753号、同第20140093913号、同第20140080216号、及び国際公開第2016049024号に開示されており、それら全ては、引用することによりその全体が本出願の一部をなす。
【0024】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載されるcrRNA配列を含むプライマーを含む、CRISPR/Cas9システムのためのベクター中に挿入されるべきオリゴヌクレオチド対に関する。該プライマーは、crRNA配列に隣接する2個、3個、4個、5個、又は6個のヌクレオチドのロケーター配列を更に含み得て、上記ロケーター配列は、天然にはcrRNA配列に隣接して存在しない。幾つかの実施形態において、本開示は、CRISPR/Cas9システムのためのcrRNAをコードするためのベクター、例えばpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)及びpX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::Bsal-sgRNA中に導入されるべき、配列番号(10+4n)(nは、0から221までの整数である)のヌクレオチド配列を含むプライマーを含むオリゴヌクレオチド対に関する。更なる実施形態において、上記オリゴヌクレオチド対は、配列番号Xのヌクレオチド配列を有する第1のプライマーと、配列番号Yのヌクレオチド配列を有する第2のプライマーとを含み、その際、Xは、11+4nであり、Yは、12+4nであり、かつnは、1から221までの整数である。幾つかの実施形態において、上記crRNAは、配列番号58、配列番号54、配列番号50、配列番号42、配列番号94、配列番号90、配列番号86、配列番号82、配列番号78、配列番号74、配列番号70、配列番号114、配列番号100、配列番号106、配列番号98、配列番号178、配列番号174、配列番号170、配列番号166、配列番号162、配列番号158、配列番号146、配列番号142、配列番号138、配列番号134、配列番号130、及び配列番号126からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0025】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子及びsgRNAを含む少なくとも1つのベクターを含む、操作されたクラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムに関する。「天然に存在しない」又は「操作された」という用語は、区別なく使用され、人の手の介入を示す。該用語は、核酸分子又はポリペプチドに適用する場合には、該核酸分子又は該ポリペプチドが、天然では本来関連があり、自然界に見られる少なくとも1種のその他の成分を少なくとも本質的に含まないことを意味する。幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼ及び上記sgRNAは、天然には一緒に存在しないものである。
【0026】
一般的に「CRISPRシステム」は、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA又は活性の部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(「ダイレクトリピート」及び内因性CRISPRシステムにおけるtracrRNAのプロセシングされた部分的ダイレクトリピート)、ガイド配列(本明細書では「crRNA」とも、又は内因性CRISPRシステムにおける「スペーサー」とも呼ばれる)、及び/又はその他の配列を含むCRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関連する又は該活性を導く転写物及びその他のエレメント並びにCRISPR座位からの転写物をひとまとめにして指す。上記のように、sgRNAは、少なくともtracrRNA及びcrRNAの組み合わせである。幾つかの実施形態において、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントは、II型のCRISPRシステムから誘導される。幾つかの実施形態において、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントは、内因性CRISPRシステムを含む特定の生物、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス又はスタフィロコッカス・アウレウスから誘導される。一般的に、CRISPRシステムは、標的配列(内因性CRISPRシステムにおいてプロトスペーサーとも呼ばれる)の部位でCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。CRISPR複合体の形成において「標的配列」は、ガイド配列が相補性を有するようにデザインされる配列であって、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する配列を指し得るか、又は図8に示されるように「標的配列」は、ガイド配列が有するPAM部位に隣接する、配列を指し得る。完全な相補性は必ずしも必要ではないが、但し、ハイブリダイゼーションを引き起こし、かつCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性が存在するものとする。本開示においては「標的部位」は、標的配列及びその相補性配列の両方を、例えば二本鎖ヌクレオチドで含む標的配列の部位を指す。幾つかの実施形態において、本明細書に記載される標的部位は、CRISPR/Cas9システムのsgRNA若しくはcrRNAにハイブリダイズする第1の標的配列、及び/又はPAMの5’末端に隣接する第2の標的配列を意味し得る。標的配列は、任意のポリヌクレオチド、例えばDNA又はRNAポリヌクレオチドを含み得る。幾つかの実施形態において、標的配列は、細胞の核又は細胞質中に位置している。幾つかの実施形態において、上記標的配列は、真核細胞の細胞小器官、例えばミトコンドリア又は葉緑体内に存在し得る。
【0027】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼは既知である。例えば、S.ピオゲネスのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにおいてアクセッション番号Q99ZW2として見出すことができる。Cas9ヌクレアーゼは、Cas9のホモログ又はオルソログであり得る。改善された特異性を示す突然変異Cas9ヌクレアーゼを使用することもできる(例えば、Ann Ran et al.
Cell 154(6) 1380-89 (2013)を参照のこと、これは全ての目的について、特に標的核酸
に関する改善された特異性を有する突然変異Cas9ヌクレアーゼに関連する全ての教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)。核酸操作試薬は、失活されたCas9ヌクレアーゼ(dCas9)も含み得る。核酸エレメントに結合する失活されたCas9は単独で、立体障害性RNAポリメラーゼ機構により転写を抑制し得る。さ
らに、失活されたCasは、標的核酸に不可逆的な突然変異を導入することなく標的部位での遺伝子発現に影響を及ぼすその他のタンパク質(例えば、転写リプレッサー、アクチベーター、及び動員ドメイン)のためのホーミング装置として使用され得る。例えば、dCas9は、KRAB又はSIDエフェクター等の転写リプレッサードメインに融合されて、標的部位でのエピジェネティックサイレンシングを促進することができる。Cas9はまた、VP16/VP64又はp64活性化ドメインへの融合により合成的転写アクチベーターへと変換さえ得る。幾つかの場合には、強化型Cas9(eCa9)ヌクレアーゼと呼ばれる突然変異のII型ヌクレアーゼが、野生型Cas9ヌクレアーゼの代わりに使用される。強化型Cas9は、非標的結合を弱めることにより特異性を改善させるように適切に操作されている。これは、非標的鎖の溝内の正に荷電した残基を中和することにより実現されている(Slaymaker et al., 2016)。
【0028】
幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、標的配列の位置で、例えば標的配列内で、及び/又は標的配列の相補体内で一方の鎖又は両方の鎖の開裂を導く。幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、標的配列の最初のヌクレオチド又は最後のヌクレオチドから約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、50個、100個、200個、500個以上の塩基対内で一方の鎖又は両方の鎖の開裂を導く。
【0029】
Cas9ヌクレアーゼにより導かれたDNA開裂の後に、2つの方式のDNA修復、つまり相同配列指向性修復(HDR)及び非相同末端結合(NHEJ)が細胞に利用可能である。突然変異部位の近くでのCas9開裂の後のHDRによる突然変異の継ぎ目のない修正は魅力的であるが、この方法の効率は、該方法が幹細胞又は誘導多能性幹細胞(iPSC)のin vitro/ex vivo改変のためだけに使用することができるにすぎず、修復が行われた細胞を選択し、これらの改変された細胞のみを純化する追加の工程を伴うことを意味する。HDRは、細胞中で高い頻度では生じない。幸いなことに、NHEJは、はるかに高い効率で生じ、角膜ジストロフィーの多くに記載されるドミナントネガティブ変異のために適切であり得る。更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカスに由来する。なおも更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(Spy)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)、ストレプトコッカス・フォカエ(Streptococcus phocae)、ストレプトコッカス・シュードポルシヌス(Streptococcus pseudoporcinus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・シュードポルシヌス(Streptococcus pseudoporcinus)、ストレプトコッカス・インファンタリウス(Streptococcus infantarius)、ストレプト
コッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・カバリ(Streptococcus caballi)、ストレプトコッカス・エクイヌス(Streptococcus equinus)、ストレプトコッカス属種oral taxon(Streptococcus sp. oral taxon)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・ガロリティクス(Streptococcus gallolyticus)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)、ス
トレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、又はそれらの変異体に由来する。そのような変異体には、D10Aニッカーゼ、Kleinstiver et al, 2016 Nature, 529,490-495に記載されるSpy Cas9-HF1、又はSlaymaker et al.,
2016 Science, 351 (6268), 84-88に記載されるSpy eCas9が含まれ得る。更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、スタフィロコッカスに由来する。なおも更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、S.シミアエ(S. simiae)、S.アウリクラリス(
S. auricularis)、S.カルノサス(S. carnosus)、S.コンディメンティ(S. condimenti)、S.マッシリエンシス(S. massiliensis)、S.ピスシフェルメンタンス(S. piscifermentans)、S.シムランス(S. simulans)、S.カピティス(S. capitis)、S.カプラエ(S. caprae)、S.エピデルミディス(S. epidermidis)、S.サッカロ
リティクス(S. saccharolyticus)、S.デブリエセイ(S. devriesei)、S.ヘモリティクス(S. haemolyticus)、S.ホミニス(S. hominis)、S.アグネティス(S. agnetis)、S.クロモゲネス(S. chromogenes)、S.フェリス(S. felis)、S.デルフ
ィニ(S. delphini)、S.ハイカス(S. hyicus)、S.インテルメディウス(S. intermedius)、S.ルトラエ(S. lutrae)、S.ミクロティ(S. microti)、S.ムスカエ
(S. muscae)、S.シュードインターメディウス(S. pseudintermedius)、S.ロストリ(S. rostri)、S.シュライフェリ(S. schleiferi)、S.ルグドゥネンシス(S. lugdunensis)、S.アーレッタエ(S. arlettae)、S.コーニイ(S. cohnii)、S.エクオルム(S. equorum)、S.ガリナルム(S. gallinarum)、S.クローシイ(S. kloosii)、S.レエイ(S. leei)、S.ネパレンシス(S. nepalensis)、S.サプロフィ
ティクス(S. saprophyticus)、S.スクシヌス(S. succinus)、S.キシロサス(S. xylosus)、S.フレウレティイ(S. fleurettii)、S.レンツス(S. lentus)、S.
シウリ(S. sciuri)、S.ステパノヴィチイ(S. stepanovicii)、S.ヴィツリヌス(S. vitulinus)、S.シムランス(S. simulans)、S.パスツーリ(S. pasteuri)、S.ワルネリ(S. warneri)、又はそれらの変異体に由来する。
【0030】
更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9ヌクレアーゼを除く。
【0031】
更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、配列番号4又は配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。なおも更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子は、配列番号3又は配列番号7からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも約60%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0032】
幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、該Cas9ヌクレアーゼの特異性を改善する1つ以上の突然変異を有する強化型Cas9ヌクレアーゼである。更なる実施形態において、上記強化型Cas9ヌクレアーゼは、該Cas9ヌクレアーゼ中のHNH、RuvC、及びPAM相互作用ドメインの間に位置する正に荷電した溝を中和する1つ以上の突然変異を有するストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9ヌクレアーゼに由来するものである。なおも更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、(i)K855A、(ii)K810A、K1003A、及びR1060A、並びに(iii)K848A、K1003A、及びR1060Aからなる群から選択される1つ以上の突然変異を有するストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9ヌクレアーゼの突然変異アミノ酸配列(例えば、配列番号4)と少なくとも約60%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、
95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。なおも更なる実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子は、上記突然変異アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約60%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0033】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム及び該CRISPR/Cas9システムを使用する方法は、NHEJによりDNA配列を変化させる。更なる実施形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム又はベクターは、修復ヌクレオチド分子を含まない。
【0034】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、例えば図14に示されるようにHDRによりDNA配列を変化させる。更なる実施形態において、このHDRアプローチは、MECDにおける遺伝子治療のためのex vivoアプローチにおいて使用され得る。更なる実施形態において、このアプローチは、アレル特異的でなくてもよく、KRT12コドン129、130、132、133、及び135における突然変異を修復するために使用され得る。
【0035】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム又はベクターは、修復ヌクレオチド分子を更に含み得る。Cas9ヌクレアーゼにより開裂される標的ポリヌクレオチドは、外因性のテンプレートポリヌクレオチドである修復ヌクレオチド分子との相同組み換えにより修復され得る。この修復は、上記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、又は置換を含む突然変異をもたらし得る。上記修復ヌクレオチド分子は、HDR経路によるII型のヌクレアーゼ誘導型DSBの修復に際して、特異的アレル(例えば、野生型アレル)を、複数の幹細胞の1つ以上の細胞のゲノム中に導入する。幾つかの実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、一本鎖DNA(ssDNA)である。その他の実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、プラスミドベクターとして細胞中に導入される。幾つかの実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、20ヌクレオチド~25ヌクレオチド、25ヌクレオチド~30ヌクレオチド、30ヌクレオチド~35ヌクレオチド、35ヌクレオチド~40ヌクレオチド、40ヌクレオチド~45ヌクレオチド、45ヌクレオチド~50ヌクレオチド、50ヌクレオチド~55ヌクレオチド、55ヌクレオチド~60ヌクレオチド、60ヌクレオチド~65ヌクレオチド、65ヌクレオチド~70ヌクレオチド、70ヌクレオチド~75ヌクレオチド、75ヌクレオチド~80ヌクレオチド、80ヌクレオチド~85ヌクレオチド、85ヌクレオチド~90ヌクレオチド、90ヌクレオチド~95ヌクレオチド、95ヌクレオチド~100ヌクレオチド、100ヌクレオチド~105ヌクレオチド、105ヌクレオチド~110ヌクレオチド、110ヌクレオチド~115ヌクレオチド、115ヌクレオチド~120ヌクレオチド、120ヌクレオチド~125ヌクレオチド、125ヌクレオチド~130ヌクレオチド、130ヌクレオチド~135ヌクレオチド、135ヌクレオチド~140ヌクレオチド、140ヌクレオチド~145ヌクレオチド、145ヌクレオチド~150ヌクレオチド、150ヌクレオチド~155ヌクレオチド、155ヌクレオチド~160ヌクレオチド、160ヌクレオチド~165ヌクレオチド、165ヌクレオチド~170ヌクレオチド、170ヌクレオチド~175ヌクレオチド、175ヌクレオチド~180ヌクレオチド、180ヌクレオチド~185ヌクレオチド、185ヌクレオチド~190ヌクレオチド、190ヌクレオチド~195ヌクレオチド、又は195ヌクレオチド~200ヌクレオチドの長さである。幾つかの実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、200ヌクレオチド~300ヌクレオチド、300ヌク
レオチド~400ヌクレオチド、400ヌクレオチド~500ヌクレオチド、500ヌクレオチド~600ヌクレオチド、600ヌクレオチド~700ヌクレオチド、700ヌクレオチド~800ヌクレオチド、800ヌクレオチド~900ヌクレオチド、900ヌクレオチド~1000ヌクレオチドの長さである。その他の実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、1000ヌクレオチド~2000ヌクレオチド、2000ヌクレオチド~3000ヌクレオチド、3000ヌクレオチド~4000ヌクレオチド、4000ヌクレオチド~5000ヌクレオチド、5000ヌクレオチド~6000ヌクレオチド、6000ヌクレオチド~7000ヌクレオチド、7000ヌクレオチド~8000ヌクレオチド、8000ヌクレオチド~9000ヌクレオチド、又は9000ヌクレオチド~10000ヌクレオチドの長さである。幾つかの実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、本明細書に記載される角膜ジストロフィーと関連する突然変異を含む幹細胞ゲノム(すなわち「角膜ジストロフィー標的核酸」)の領域でHDR経路により相同組み換えを受けることができる。或る特定の実施形態において、上記修復核酸は、TGFBI遺伝子、KRT3遺伝子、KRT12遺伝子、GSN遺伝子、及びUBIAD1遺伝子内の標的核酸と相同組み換えすることが可能である。特定の実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、本明細書に記載される突然変異アミノ酸(例えば、Leu132Pro)をコードするKRT12遺伝子中の核酸と相同組み換えすることが可能である。幾つかの実施形態において、上記ベクターは、多数の修復ヌクレオチド分子を含む。
【0036】
上記修復ヌクレオチド分子は、特定の突然変異を含む本明細書に記載される細胞の同定及びソーティングのための標識を更に含み得る。上記修復ヌクレオチド分子と共に含まれ得る例示的な標識には、蛍光標識及び長さ又は配列により特定可能な核酸バーコードが含まれる。
【0037】
更なる実施形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム又はベクターは、少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)を含み得る。更なる実施形態において、上記sgRNA及び上記Cas9ヌクレアーゼは、同じベクター上、又は異なるベクター上に含まれる。
【0038】
別の態様において、本開示は、少なくとも1つの遺伝子産物の発現を変化させる方法であって、本明細書に記載される操作されたCRISPR/Cas9システムを、標的配列を有すると共に上記遺伝子産物をコードするDNA分子を含み発現する細胞中に導入することを含む、方法に関する。上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、任意の適切な方法を使用して細胞中に導入され得る。幾つかの実施形態において、上記導入は、培養物中の細胞に又は宿主生物中に本明細書に記載される操作されたCRISPR/Cas9システムを投与することを含み得る。
【0039】
操作されたCRISPR/Cas9システムを導入するための例示的な方法には、限定されるものではないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、及びウイルスベースの方法が含まれる。幾つかの場合には、1種以上の細胞内取り込み試薬は、トランスフェクション試薬である。トランスフェクション試薬には、例えばポリマーベース(例えば、DEAEデキストラン)のトランスフェクション試薬、及びカチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション試薬が含まれる。エレクトロポレーション法はまた、核酸操作試薬の取り込みを促進するために使用され得る。外部場を印加することにより、細胞において膜内外電位差の変化が引き起こされ、膜内外電位差の正味の値(印加された電位差と静止電位差との合計)が閾値よりも大きい場合に、膜内に一過的な透過構造が生成されて、エレクトロポレーションが達成される(例えば、Gehl et al., Acta Physiol. Scand. 177:437-447 (2003)を参照のこと)。上記操作されたCRISPR/Cas9システムはまた、ウイルス形質導入を通じて細胞中に送達される。適切なウイルス送達システムには、限定されるものではないが、アデノ随伴ウイルス(AAV)送達システム、レトロウ
イルス送達システム、及びレンチウイルス送達システムが含まれる。そのようなウイルス送達システムは、細胞がトランスフェクションされにくい場合に有益である。ウイルス媒介性送達システムを使用する方法は、核酸操作試薬をコードするウイルスベクターを準備する工程と、該ベクターをウイルス粒子中にパッケージングする工程とを更に含み得る。核酸試薬のその他の送達方法には、限定されるものではないが、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、パーティクルガン(biolistics)、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、人工的ビリオン、及び作用物質により向上された核酸の取り込みが含まれる(Neiwoehner et al., Nucleic Acids Res. 42:1341-1353 (2014)、並びに米国特許第5
,049,386号、同第4,946,787号、及び同第4,897,355号も参照のこと、これらは全ての目的について、特に試薬送達システムに関連する全ての教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)。幾つかの実施形態において、上記導入は、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載されるベクターの転写物)、裸の核酸、及びリポソーム等の送達運搬体と複合体化された核酸を含む非ウイルスベクター送達システムにより行われる。送達は、細胞(例えば、in vitro投与又はex vivo投与)、又は標的組織(例えば、in vivo投与)に対するものであり得る。
【0040】
核酸変化イベントを経た細胞(すなわち「変化された」細胞)は、任意の適切な方法を使用して単離され得る。幾つかの実施形態において、上記修復ヌクレオチド分子は、選択マーカーをコードする核酸を更に含む。これらの実施形態において、修復ヌクレオチド分子と宿主幹細胞ゲノムとの好結果の相同組み換えは、選択マーカーの組み込みも伴う。したがって、そのような実施形態において、変化された細胞の選択のためにポジティブマーカーが使用される。幾つかの実施形態において、上記選択マーカーは、ともすれば細胞を死滅させることとなる薬物の存在下で、該変化された細胞が生存することを可能にする。そのような選択マーカーには、限定されるものではないが、ネオマイシン、ピューロマイシン、又はハイグロマイシンBへの耐性を授けるポジティブ選択マーカーが含まれる。さらに、選択マーカーは、同型の細胞の集団であって、その幾つかが該選択マーカーを含まない集団の中から変化された細胞を視覚的に同定することを可能にする製品であり得る。そのような選択マーカーの例には、限定されるものではないが、蛍光により可視化され得る緑色蛍光タンパク質(GFP)、基質であるルシフェリンに曝されたときに発光により可視化され得るルシフェラーゼ遺伝子、及び基質と接触されたときに特徴的な色を生ずるβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)が含まれる。そのような選択マーカーは、当該技術分野でよく知られており、これらのマーカーをコードする核酸配列は市販されている(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press) 1989を参照のこと)。蛍光により可視化され得る選択マーカーを使用する方法は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)技術を使用して更にソーティングされ得る。単離された操作された細胞を使用して、移植のための細胞系統を樹立することができる。単離された変化された細胞を任意の適切な方法を使用して培養することで、安定な細胞系統を生成することができる。
【0041】
幾つかの実施形態において、上記操作されたCRISPR/Cas9システムは、(a)本明細書に記載される標的配列とハイブリダイズするsgRNAに作動的に連結された第1の調節エレメントと、(b)Cas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子に作動的に連結された第2の調節エレメントとを含み、その際、構成要素(a)及び構成要素(b)は、該システムの同じベクター又は異なるベクター上に位置しており、該sgRNAは、上記標的配列を標的とし、かつ上記Cas9ヌクレアーゼは、上記DNA分子を開裂する。上記標的配列は、PAMの5’末端に隣接する16個~25個のヌクレオチドに相補性のヌクレオチド配列であり得る。本明細書における「隣接」しているとは、参照部位の2ヌクレオチド又は3ヌクレオチドの範囲内であることを意味し、それは、直接隣
接したヌクレオチド配列の間に介在ヌクレオチドが存在しないことを意味する「直接隣接」を含み、それらの直接隣接したヌクレオチド配列は互いに1ヌクレオチドの範囲内である。更なる実施形態において、上記細胞は、真核細胞、又は哺乳動物細胞若しくはヒト細胞であり、かつ上記調節エレメントは、真核性レギュレーターである。更なる実施形態において、上記細胞は、本明細書に記載される幹細胞である。幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼは、真核細胞における発現のためにコドン最適化されている。
【0042】
幾つかの実施形態において、上記第1の調節エレメントは、ポリメラーゼIIIプロモーターである。幾つかの実施形態において、上記第2の調節エレメントは、ポリメラーゼIIプロモーターである。「調節エレメント」という用語は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、及びその他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、例えばポリアデニル化シグナル、及びポリU配列)を含むと解釈される。そのような調節エレメントは、例えばGoeddel, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。調節エレメントには、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的な発現を導く調節エレメント、及び或る特定の宿主細胞だけでヌクレオチド配列の発現を導く調節エレメント(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。組織特異的プロモーターは、主として、所望の対象組織、例えば筋肉、ニューロン、骨、皮膚、血液、特定臓器(例えば、肝臓、膵臓)、又は特定の細胞型(例えば、リンパ球)において発現に向けることができる。調節エレメントはまた、時間依存的な様式で、例えば細胞周期依存的又は発生段階依存的な様式で発現を導くこともでき、上記様式は、組織特異的又は細胞型特異的であってもそうでなくてもよい。幾つかの実施形態において、ベクターは、1個以上のpol IIIプロモーター(例えば、1個、2個、3個、4個、5個以上のpol IIIプロモーター)、1個以上のpol IIプロモーター(例えば、1個、2個、3個、4個、5個以上のpol IIプロモーター)、1個以上のpol Iプロモーター(例えば、1個、2個、3個、4個、5個以上のpol Iプロモーター)、又はそれらの組み合わせを含む。pol IIIプロモーターの例には、限定されるものではないが、U6プロモーター及びH1プロモーターが含まれる。pol IIプロモーターの例には、限定されるものではないが、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意に、RSVエンハンサーを伴う)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意に、CMVエンハンサーを伴う)(例えば、Boshart et al, Cell, 41:521-530 (1985)を参照のこと)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及びEF1αプロモーターが含まれる。また「調節エレメント」という用語に含まれるのは、エンハンサーエレメント、例えばWPRE、CMVエンハンサー、HTLV-IのLTR中のR-U5’セグメント(Mol. Cell. Biol., Vol. 8(1), p. 466-472, 1988)、SV4
0エンハンサー、及びウサギβ-グロブリンのエキソン2とエキソン3との間のイントロン配列(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol. 78(3), p. 1527-31, 1981)である。
【0043】
幾つかの実施形態において、本明細書に示されるCas9ヌクレアーゼは、時間依存的又は細胞型依存的な様式で発現に最適化されたCas9ヌクレアーゼを誘導可能であり得る。第1の調節エレメントは、限定されるものではないが、テトラサイクリン誘導性プロモーター、メタロチオネインプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター、メチオニン誘導性プロモーター(例えば、MET25プロモーター、MET3プロモーター)、及びガラクトース誘導性プロモーター(GAL1プロモーター、GAL7プロモーター、及びGAL10プロモーター)を含むCas9ヌクレアーゼに結合され得る誘導性プロモーターであり得る。その他の適切なプロモーターには、ADH1及びADH2アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター(グルコース中で抑制され、グルコースが排出されてエタノールが作られたときに誘導される)、CUP1メタロチオネインプロモーター(Cu2+、Zn2+の存在下で誘導される)、PHO5プロモーター、CYC1プロモーター
、HIS3プロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーター、ADC1プロモーター、TRP1プロモーター、URA3プロモーター、LEU2プロモーター、ENOプロモーター、TP1プロモーター、及びAOX1プロモーターが含まれる。
【0044】
当業者によれば、発現ベクターのデザインは、形質転換されるべき宿主細胞の選択、所望の発現のレベル等のような要因に依存し得ると理解されるであろう。ベクターを宿主細胞中に導入することにより、本明細書に記載される核酸によりコードされる転写物、融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチド(例えば、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)転写物、タンパク質、酵素、その突然変異体形、その融合タンパク質等)が産生され得る。
【0045】
「ベクター」という用語は、結合された別の核酸を輸送することを可能にする核酸分子を指す。ベクターには、限定されるものではないが、一本鎖、二本鎖、又は部分的二本鎖である核酸分子、1つ以上の開放端を有する、開放端を有しない(例えば、環状)核酸分子、DNA、RNA、又は両方を含む核酸分子、及び当該技術分野で既知のその他の多様なポリヌクレオチドが含まれる。ベクターの1つの種類は「プラスミド」であり、それは、更なるDNAセグメントが、例えば標準的な分子クローニング技術により挿入され得る環状の二本鎖DNA環を指す。ベクターのもう1つの種類はウイルスベクターであり、その際、ウイルス由来のDNA配列又はRNA配列はウイルス(例えば、レトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)中へのパッケージングのためにベクター中に存在する。ウイルスベクターはまた、宿主細胞中へのトランスフェクションのためにウイルスにより保有されるポリヌクレオチドを含む。或る特定のベクターは、導入される宿主細胞中で自己複製が可能である(例えば、細菌性複製起点を有する細菌ベクター、及びエピソーム哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入に際して宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それにより宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、或る特定のベクターは、作動的に連結される遺伝子の発現を導くことが可能である。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。組み換えDNA技術において利用される通常の発現ベクターは、しばしばプラスミドの形で存在する。組み換え発現ベクターは、本発明の核酸を、宿主細胞中での該核酸の発現のために適した形で含み得る、つまり、該組み換え発現ベクターは、発現のために使用されるべき宿主細胞に基づいて選択され得る、すなわち発現されるべき核酸配列に作動的に連結されている1つ以上の調節エレメントを含む。組み換え発現ベクターの範囲内で「作動的に連結される」は、対象ヌクレオチド配列が1つ以上の調節エレメントへと(例えば、in vitro転写/翻訳システムにおける、又は該ベクターが宿主細胞中に導入される場合には宿主細胞における)、該ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で連結されていることを意味すると解釈される。有利なベクターには、レンチウイルス及びアデノ随伴ウイルスが含まれ、そのようなベクターの種類は、特定の種類の細胞を標的とするように選択することもできる。
【0046】
別の態様において、本開示は、被験体における遺伝子突然変異又は一塩基多型(SNP)と関連する疾患を予防、改善、又は治療する方法であって、上記被験体の遺伝子産物の発現を上記の方法により変化させることを含み、上記DNA分子が、突然変異配列又はSNP突然変異配列を含む、方法に関する。
【0047】
別の態様において、本開示は、被験体における遺伝子突然変異又はSNPと関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法に関する。該方法で治療され得る被験体には、限定されるものではないが、哺乳動物被験体、例えばマウス、ラット、イヌ、ヒヒ、ブタ、又はヒトが含まれる。幾つかの実施形態において、該被験体はヒトである。該方法は、少なくとも1年、2年、3年、5年、10年、15年、20年、25年、30年
、35年、40年、45年、50年、55年、60年、65年、70年、75年、80年、85年、90年、95年、又は100年の年齢の被験体を治療するために使用され得る。幾つかの実施形態において、該被験体は、少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つの角膜ジストロフィーのために処置される。例えば、単独又は多重のcrRNA又はsgRNAが、単一又は多重の角膜ジストロフィーと関連する複数の突然変異部位若しくはSNP部位で、又は祖先型の突然変異部位若しくはSNP部位でヌクレオチドを変化させるようにデザインされ得る。
【0048】
本明細書で使用される場合に「角膜ジストロフィー」は、眼の外層(角膜)中の遺伝病の群のいずれか1つを指す。例えば、角膜ジストロフィーは、角膜中での物質の両眼の異常沈着により特徴付けられ得る。角膜ジストロフィーには、限定されるものではないが、角膜ジストロフィーの以下の4つのIC3Dカテゴリー(例えば、Weiss et al., Cornea
34(2): 117-59 (2015)を参照のこと):上皮及び上皮下ジストロフィー、上皮-実質T
GFβIジストロフィー、実質ジストロフィー、並びに内皮ジストロフィーが含まれる。幾つかの実施形態において、上記角膜ジストロフィーは、上皮基底膜ジストロフィー(EBMD)、メースマン角膜ジストロフィー(MECD)、ティール-ベーンケ角膜ジストロフィー(TBCD)、格子状角膜ジストロフィー(LCD)、顆粒状角膜ジストロフィー(GCD)、及びシュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)からなる群から選択される。更なる実施形態において、本明細書における角膜ジストロフィーは、MECDを除く。
【0049】
更なる実施形態において、上記角膜ジストロフィーは、SNPを含む1つ以上の突然変異により引き起こされ、上記SNPは、トランスフォーミング成長因子β誘導(TGFBI)、ケラチン3(KRT3)、ケラチン12(KRT12)、GSN、及びUbiAプレニルトランスフェラーゼドメイン含有タンパク質1(UBIAD1)からなる群から選択される遺伝子中に位置している。更なる実施形態において、上記突然変異部位又は上記SNP部位は、本明細書に示される突然変異タンパク質中の突然変異アミノ酸のコード化をもたらす。更なる実施形態において、上記突然変異部位又は上記SNP部位を含む突然変異配列は、(i)例えばタンパク質アクセッション番号Q15582のTGFBIにおけるLeu509Arg、Arg666Ser、Gly623Asp、Arg555Gln、Arg124Cys、Val505Asp、Ile522Asn、Leu569Arg、His572Arg、Arg496Trp、Pro501Thr、Arg514Pro、Phe515Leu、Leu518Pro、Leu518Arg、Leu527Arg、Thr538Pro、Thr538Arg、Val539Asp、Phe540del、Phe540Ser、Asn544Ser、Ala546Thr、Ala546Asp、Phe547Ser、Pro551Gln、Leu558Pro、His572del、Gly594Val、Val613del、Val613Gly、Met619Lys、Ala620Asp、Asn622His、Asn622Lys、Asn622Lys、Gly623Arg、Gly623Asp、Val624_Val625del、Val624Met、Val625Asp、His626Arg、His626Pro、Val627SerfsX44、Thr629_Asn630insAsnValPro、Val631Asp、Arg666Ser、Arg555Trp、Arg124Ser、Asp123delins、Arg124His、Arg124Leu、Leu509Pro、Leu103_Ser104del、Val113Ile、Asp123His、Arg124Leu、及び/又はThr125_Glu126delに相当する突然変異を含む突然変異TGFBIタンパク質、(ii)例えばタンパク質アクセッション番号P12035又はNP_476429.2のケラチン3タンパク質におけるGlu498Val、Arg503Pro、及び/又はGlu509Lysに相当する突然変異を含む突然変異KRT3タンパク質、(iii)例えばタンパク質アクセッション番号Q99456.1又はNP_000214.1のKRT12におけるMet129Thr、Met1
29Val、Gln130Pro、Leu132Pro、Leu132Val、Leu132His、Asn133Lys、Arg135Gly、Arg135Ile、Arg135Thr、Arg135Ser、Ala137Pro、Leu140Arg、Val143Leu、Val143Leu、Lle391_Leu399dup、Ile426Val、Ile426Ser、Tyr429Asp、Tyr429Cys、Arg430Pro、及び/又はLeu433Argを有する突然変異KRT12タンパク質、(iv)例えばタンパク質アクセッション番号P06396のGSNにおけるAsp214Tyrを有する突然変異GSNタンパク質、並びに(v)例えばタンパク質アクセッション番号Q9Y5Z9のUBIAD1におけるAla97Thr、Gly98Ser、Asn102Ser、Asp112Asn、Asp112Gly、Asp118Gly、Arg119Gly、Leu121Val、Leu121Phe、Val122Glu、Val122Gly、Ser171Pro、Tyr174Cys、Thr175Ile、Gly177Arg、Lys181Arg、Gly186Arg、Leu188His、Asn232Ser、Asn233His、Asp236Glu、及び/又はAsp240Asnに相当する突然変異を含む突然変異UBIAD1タンパク質からなる群から選択される突然変異タンパク質をコードする。例えば、上記突然変異部位又は上記SNP部位を含む突然変異配列は、タンパク質アクセッション番号Q15582のアミノ酸位置509に相当するアミノ酸位置でLeuをArgで置き換えることにより突然変異された突然変異TGFBIタンパク質の少なくとも一部分をコードする。この場合に、上記突然変異部位又は上記SNP部位での突然変異は、タンパク質アクセッション番号Q15582のアミノ酸位置509に相当するアミノ酸位置での突然変異アミノ酸のコード化の原因であり得る。本明細書で使用される場合に、ヒトタンパク質における特定の突然変異「に相当する」突然変異は、ヒトタンパク質の特定の突然変異の相応の部位に存在する異なる種における突然変異を含み得る。また本明細書で使用される場合に、突然変異タンパク質が、例えばLeu509Argの特定の突然変異を含むと記載される場合に、そのような突然変異タンパク質は、関連のヒトタンパク質、例えば本明細書に記載されるタンパク質アクセッション番号Q15582のTGFBIタンパク質における特定の突然変異に相当する突然変異部位に存在する任意の突然変異を含み得る。
【0050】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される突然変異は、KRT12タンパク質におけるあらゆる突然変異を除く。幾つかの実施形態において、本明細書に記載される突然変異は、例えばタンパク質アクセッション番号Q99456.1のKRT12におけるLeu132Proに相当する突然変異を除く。更なる実施形態において、本明細書に記載される突然変異又はSNPは、KRT12遺伝子中に存在するあらゆるSNPを除く。なおも更なる実施形態において、本明細書に記載される突然変異又はSNPは、KRT12タンパク質におけるLeu132Pro突然変異をもたらすあらゆるSNPを除く。上記突然変異又は上記SNPは、KRT12タンパク質におけるLeu132Pro突然変異をもたらすPAM部位でのSNP(AAG>AGG)を更に除き得る。
【0051】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるCRISPR/Cas9システム及び該システムを使用する方法は、複数のSNP部位又は祖先型SNPでの突然変異配列を変化させ得る。そのような方法は、図15図16に示されるように隣接PAMを利用することとなる。更なる実施形態において、本明細書に記載される突然変異配列は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれより多くのSNP部位を含み得て、かつ本明細書に記載される方法は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれより多くの上記SNP部位に関連する遺伝子産物の発現を変化させる。例えば、本明細書に記載される方法は、突然変異TGFBIタンパク質の発現をR514P及びL518Rの両方で変化させ得るか、又はKRT12タンパク質の発現をR135T及びL132Pの両方で変化させ得る。幾つかの実施形態において、sgRNAは、突然変異アレルに特異的なPAM部位に隣接するsgRNAと並行して、野生型アレル及び突然変異アレルの両方に共通の隣接イ
ントロン中に位置するPAM部位に隣接する標的配列を含み得る。
【0052】
ヒトゲノムは本来、二倍体であり、男性のX染色体及びY染色体を除く全ての染色体は、一方が男性から、そして一方は女性から対として遺伝される。数千塩基対より大きな連続的なDNA配列の範囲を調べる場合に、遺伝形質の決定はこれらのDNAの区画がどちらの親に由来するかを理解するために非常に重要である。さらに、殆どのSNPは、ヒトゲノム内でヘテロ接合体として、すなわち男性又は女性のいずれか一方から遺伝されて存在する。より長い配列を読むシーケンシング技術は、ハプロタイプ判定済みゲノム配列を生成する試み、すなわちハプロタイプフェージングにおいて利用されている。したがって、50kbより長いDNAの特定の範囲のゲノム配列を調査する場合に、ハプロタイプフェージングによる配列分析は、対合染色体のどちらが対象配列を有するかを決定するために利用され得る。より長いフェージングシーケンスのリードは、対象SNPが本明細書に記載されるCRISPR/Cas9遺伝子編集システムのための標的として適切であるかどうかを決定するために使用され得る。
【0053】
1つの態様において、本明細書に記載される方法は、病因性突然変異又はSNPのどちらか一方の側での標的可能な突然変異又はSNPを特定して、病因性突然変異又はSNPをサイレンシングさせることを含む。幾つかの実施形態において、フェージングシーケンス実験においてDNAの区画が特定される。幾つかの実施形態において、対象の突然変異又はSNPは、CRISPR/Cas9システムのための適切な基質ではなく、CRISPR/Cas9開裂のために適した病因性突然変異又はSNPの両方の側での突然変異又はSNPの特定は、該病因性突然変異又は該SNPを含むDNAの区画の除去を可能にする。幾つかの実施形態において、リードの長さを増やすことで、より長い連続的なリードを得ることができ、Weisenfeld NI, Kumar V, Shah P, Church DM, Jaffe DB. Direct determination of diploid genome sequences. Genome research. 2017; 27(5):757-767(
これは引用することによりその全体が本出願の一部をなす)に記載の技術を使用することによりハプロタイプフェージングされたゲノムを得ることができる。
【0054】
本明細書に示される方法の幾つかの実施形態において、疾患又は状態(例えば、角膜ジストロフィー)に関して肯定的な治療応答をもたらすために治療が用いられる。「肯定的な治療応答」とは、疾患若しくは状態における改善、及び/又は該疾患若しくは状態と関連する症状における改善と解釈される。主題の治療方法の治療効果は、任意の適切な方法を使用して評価され得る。幾つかの実施形態において、角膜でのタンパク質沈着を伴う角膜ジストロフィーの場合には、治療は、治療後の被験体の角膜におけるタンパク質沈着の、コントロール(例えば、治療前のタンパク質沈着の量)と比較した低下により評価される。或る特定の実施形態において、主題の方法は、被験体における角膜タンパク質沈着の量を、治療を受ける前の角膜と比較して少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%だけ減少させる。角膜混濁も、主題の方法を使用した治療効果を評価するために使用することができる。さらに、幾つかの実施形態において、治療は視覚機能により評価される。被験体における視覚機能の評価は、限定されるものではないが、裸眼視力(UCVA)、最良矯正視力(BCVA)、及び輝度視力試験(BAT)の評価を含む当該技術分野で既知の任意の適切な試験を使用して実施することができる(例えば、Awaad et al., Am J Ophthalmol. 145(4): 656-661 (2008)
、及びSharhan et al., Br J Ophthalmol 84:837-841 (2000)を参照のこと、これらは全
ての目的について、特に視力評価のための標準に関連する全ての教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)。或る特定の実施形態において、被験体の視力は、治療を受ける前と比較して少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%だけ改善する。
【0055】
幾つかの実施形態において、被験体におけるSNPと関連する角膜ジストロフィーを予防、改善、又は治療する方法は、該被験体に、有効量の本明細書に記載される操作されたCRISPR/Cas9システムを投与することを含み得る。「有効量」又は「治療的有効量」という用語は、有益な効果又は所望の効果をもたらすのに十分な作用物質の量を指す。治療的有効量は、治療される被験体及び疾患状態、被験体の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方式等の1つ以上に依存して変動し得て、その量は当業者により容易に決定され得る。その用語は、本明細書に記載されるイメージング法のいずれか1つによる検出のためのイメージをもたらす用量にも該当する。具体的な用量は、選択される特定の作用物質、従うべき投薬計画、その他の化合物と組み合わせて投与されるか否か、投与のタイミング、イメージングされるべき組織、及び特定の作用物質を運搬する物理的送達システムの1つ以上に依存して変動し得る。
【0056】
本明細書に記載される操作されたCRISPR/Cas9システムは、(i)本明細書に記載されるCas9ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド分子と、(ii)本明細書に記載されるsgRNAとを含む少なくとも1つのベクターを含み得る。上記sgRNAは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’末端に隣接する標的配列を含み得る、及び/又はPAMの5’末端に隣接する第2の標的配列に相補性の第1の標的配列にハイブリダイズし得る。幾つかの実施形態において、上記標的配列又は上記PAMは、SNP部位を含む。幾つかの実施形態において、上記Cas9ヌクレアーゼ及び上記sgRNAは、天然には一緒に存在しないものである。幾つかの実施形態において、Cas9ヌクレアーゼによるDNA開裂は、ガイドRNA分子と標的DNAとの間の配列特異的アニーリングに加えて、ガイドRNA結合部位の3’のすぐそばにあるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在を必要とする。このPAM部位の配列は、使用されるCas9ヌクレアーゼに特異的である。更なる実施形態において、上記PAMは、上記SNP部位を含む。なおも更なる実施形態において、上記PAMは、NGG及びNNGRRT(Nは、A、T、G、及びCのいずれかであり、かつRは、A又はGである)からなる群から選択されるPAMからなる。更なる実施形態において、上記投与は、上記操作されたCRISPR/Cas9システムを上記被験体の角膜(例えば、角膜実質)中に注射することにより、及び/又は上記操作されたCRISPR/Cas9システムを、上記標的配列を有するDNA分子を含み発現する細胞中に導入することにより、上記操作されたCRISPR/Cas9システムを上記被験体の角膜(例えば、角膜実質)中に導入することを含む。
【0057】
別の態様において、本開示は、角膜ジストロフィーの治療を必要とする被験体における角膜ジストロフィーを治療する方法であって、(a)上記被験体から角膜ジストロフィー標的核酸中に核酸突然変異を含む複数の幹細胞を取得することと、(b)上記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を操作することで上記核酸突然変異を修正し、それにより1つ以上の操作された幹細胞を形成させることと、(c)上記1つ以上の操作された幹細胞を単離することと、(d)上記1つ以上の操作された幹細胞を上記被験体中に移植することとを含み、上記複数の幹細胞の1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を操作することが、本明細書に記載される遺伝子産物の発現を変化させる方法、又は被験体におけるSNPと関連する疾患を予防、改善、若しくは治療する方法のいずれかを実施することを含む、方法に関する。
【0058】
主題の方法は、複数の幹細胞を取得することを含み得る。任意の適切な幹細胞は、治療されるべき角膜ジストロフィーの種類に応じて、主題の方法のために使用され得る。或る特定の実施形態において、上記幹細胞は、異種ドナーから取得される。そのような実施形態において、異種ドナーの幹細胞及び治療される被験体は、ドナー-レシピエント組織適合性である。或る特定の実施形態において、自己幹細胞は、角膜ジストロフィーのための治療の必要がある患者から取得される。取得された幹細胞は、治療されるべき特定の角膜
ジストロフィーと関連する遺伝子中に突然変異を有する(例えば、上述のように上皮-実質ジストロフィーを伴う被験体のTGFBI中に突然変異を有する幹細胞)。適切な幹細胞には、限定されるものではないが、歯髄幹細胞、毛包幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯内膜幹細胞、胚性幹細胞、口腔粘膜上皮幹細胞、及び縁上皮幹細胞が含まれる。
【0059】
幾つかの実施形態において、複数の幹細胞は、縁上皮幹細胞を含む。縁上皮幹細胞(LESC)は、角膜の輪部領域に位置しており、角膜表面の保全及び修復の役割を果たす。何らかの特定の動作原理に縛られるものではないが、LESCは、幹細胞プールを再生するための幹細胞ニッチに残る幹細胞と早期に一過的に増幅する娘細胞(eTAC)とを生成する非対称細胞分裂を経ると考えられる。このより分化されたeTACは、幹細胞ニッチから除去され分裂することで、更に一過的に増幅する細胞(TAC)が生成され得て、こうして最後には最終分化細胞(DC)がもたされる。LESCは、例えば被験体の眼から生検試料を採取することにより取得することができる(例えば、Pellegrini et al., Lancet 349: 990-993 (1997)を参照のこと)。輪部生検試料から取得されたLESCは、
主題の方法において使用するために、限定されるものではないが、蛍光活性化セルソーティング(FACS)及び遠心分離技術を含む任意の適切な技術を使用して単離及びソーティングすることができる。LESCは、幹細胞関連マーカーの陽性発現及び分化マーカーのネガティブな発現を使用して生検試料からソーティングされ得る。ポジティブな幹細胞マーカーには、限定されるものではないが、転写因子p63、ABCG2、C/EBPδ、及びBmi-1が含まれる。ネガティブな角膜特異的マーカーには、限定されるものではないが、サイトケラチン3(CK3)、サイトケラチン12(CK12)、コネキシン43、及びインボルクリンが含まれる。幾つかの実施形態において、複数の幹細胞は、p63、ABCG2、又はそれらの組み合わせの発現についてポジティブである。或る特定の実施形態において、複数の幹細胞中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%は、p63、ABCG2、C/EBPδ、及びBmi-1、又はそれらの組み合わせを発現する。幾つかの実施形態において、複数の幹細胞は、CK3、CK12、コネキシン43、インボルクリン、又はそれらの組み合わせの発現についてネガティブである。或る特定の実施形態において、複数の幹細胞中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%は、CK12、コネキシン43、インボルクリン、又はそれらの組み合わせを発現しない。LESCのために有用なその他のマーカーは、例えばTakacs et al., Cytometry A 75: 54-66 (2009)(これは全ての目的について、特にLESCマーカーに関連する全ての教示
について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)に記載されている。細胞サイズ及び高い核対細胞質比率等の幹細胞の特徴は、LESCの同定における補助のために使用することもできる。
【0060】
LESCの他に、被験体の角膜から単離されたその他の幹細胞を、主題の方法で使用することもできる。例示的な角膜幹細胞には、限定されるものではないが、実質幹細胞、実質線維芽様細胞、実質間葉系細胞、神経堤由来の角膜幹細胞、及び推定内皮幹細胞が含まれる。
【0061】
幾つかの実施形態において、主題の方法で使用される細胞は、被験体の角膜から単離される実質幹細胞である。実質幹細胞は、限定されるものではないが、Funderburgh et al., FASEB J 19: 1371-1373 (2005)、Yoshida et al., Invest Ophtalmol Vis Sci 46: 1653-1658 (2005)、Du et al. Stem Cells 1266-1275 (2005)、Dravida et al., Brain Res Dev Brain Res 160:239-251 (2005)、及びPolisetty et al. Mol Vis 14: 431-442 (2008)(これらは全ての目的について、特に様々な実質幹細胞の単離及び培養に関連する全て
の教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)に記載される方法を
含む任意の適切な方法を使用して単離され得る。
【0062】
これらの実質幹細胞に特徴的なマーカーには、限定されるものではないが、Bmi-1、Kit、Notch-1、Six2、Pax6、ABCG2、Spag10、及びp62/OSILが含まれる。幾つかの実施形態において、複数の幹細胞中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%は、Bmi-1、Kit、Notch-1、Six2、Pax6、ABCG2、Spag10、若しくはp62/OSIL、又はそれらの組み合わせを発現する。或る特定の実施形態において、上記実質幹細胞は、CD31、SSEA-4、CD73、CD105について陽性であり、かつCD34、CD45、CD123、CD133、CD14、CD106、及びHLA-DRについて陰性である。或る特定の実施形態において、複数の幹細胞中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%は、CD31、SSEA-4、CD73、CD105について陽性であり、かつCD34、CD45、CD123、CD133、CD14、CD106、及びHLA-DRについて陰性である。なおも他の実施形態において、上記実質幹細胞は、CD105、CD106、CD54、CD166、CD90、CD29、CD71、Pax6について陽性であり、かつSSEA-1、Tra1-81、Tra1-61、CD31、CD45、CD11a、CD11c、CD14、CD138、Flk1、Flt1、及びVE-カドヘリンについて陰性である。或る特定の実施形態において、複数の幹細胞中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、86%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%は、CD105、CD106、CD54、CD166、CD90、CD29、CD71、Pax6について陽性であり、かつSSEA-1、Tra1-81、Tra1-61、CD31、CD45、CD11a、CD11c、CD14、CD138、Flk1、Flt1、及びVE-カドヘリンについて陰性である。
【0063】
或る特定の実施形態において、主題の方法で使用される細胞は、被験体の角膜から単離される内皮幹細胞である。そのような幹細胞の単離方法は、例えばEngelmann et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 29: 1656-1662 (1988)(これは全ての目的について、特に角膜内皮幹細胞の単離及び培養に関連する全ての教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)に記載されている。
【0064】
単離後に、複数の幹細胞(例えば、LESC)を任意の適切な方法を使用して培養することで、安定な細胞系統を作製することができる。例えば、培養は、フィーダー細胞としての線維芽細胞(例えば、3T3)の存在又は不存在下で維持することができる。その他の場合には、ヒト羊膜上皮細胞又はヒト胚性線維芽細胞が、培養のためのフィーダー層として使用される。LESCの培養のために適切な技術はさらに、Takacs et al. Cytometry A 75: 54-66 (2009), Shortt et al., Surv Opthalmol Vis Sci 52: 483-502 (2007)、及びCauchi et al. Am J Ophthalmol 146: 251-259 (2008)(これらは全ての目的につい
て、特にLESCの培養に関連する全ての教示について引用することによりその全体が本出願の一部をなす)に記載されている。
【0065】
複数の幹細胞の単離後に、複数の幹細胞における1つ以上の幹細胞中の核酸突然変異を、本明細書に記載される方法により操作する又は変化させることで、角膜ジストロフィー標的核酸中の核酸突然変異が修正される。本明細書で使用される場合に「角膜ジストロフィー標的核酸」は、本明細書に記載される角膜ジストロフィーの1つ以上と関連する突然変異を含む核酸を指す。
【0066】
操作されるべき幹細胞には、個々の単離された幹細胞、又は該単離された幹細胞から樹立された幹細胞系統からの幹細胞が含まれる。任意の適切な遺伝子操作法は、幹細胞における核酸突然変異を修正するために使用され得る。
【0067】
別の態様において、角膜ジストロフィーの治療のためのCRISPR/Cas9システムを含むキットが、本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、上記キットは、本明細書に記載される1つ以上のsgRNA、Cas9ヌクレアーゼ、及び本明細書に記載されるように修復されるべき突然変異の野生型アレルを含む修復ヌクレオチド分子を含む。幾つかの実施形態において、上記キットはまた、細胞による核酸操作(nucleic
acid manipulation)の取り込みを促進する作用物質、例えばトランスフェクション剤、
又はエレクトロポレーションバッファーを含む。幾つかの実施形態において、本明細書で提供される主題のキットは、幹細胞の検出又は単離のための1種以上の試薬、例えばFACSと一緒に使用され得る1種以上のポジティブな幹細胞マーカーのための標識された抗体を含む。
【0068】
別の態様において、本開示は、病因性突然変異又はSNPをサイレンシングするための、例えば角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のための、sgRNA対、及びCRISPR/Cas9システムのための少なくとも2種のsgRNAを含むsgRNA対を含むキットに関する。幾つかの実施形態において、上記sgRNA対は、TGFBI遺伝子における病因性突然変異又はSNPをサイレンシングするためのsgRNA対である。該sgRNA対は、TGFBI遺伝子における、例えばイントロン中の病因性突然変異又はSNPとシスにある祖先型突然変異又はSNPを生成するPAMのためのガイド配列を含むsgRNAを含む。更なる実施形態において、上記sgRNA対は、TGFBI遺伝子のイントロン領域に祖先型SNPを生成するPAMのための共通のガイド配列を含むsgRNAを含む。
【0069】
幾つかの実施形態において、本開示は、CRISPR/Cas9システムのためにデザインされたsgRNA対であって、(i)(a)病因性突然変異又はSNPの3’末端側にシスにある第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を生成する突然変異又は一塩基多型(SNP)のための第1のcrRNA配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第1のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第1のsgRNAと、(ii)(a)病因性突然変異又はSNPの5’末端側にシスにある第2のPAMを生成する突然変異又はSNPのための第2のcrRNAガイド配列と、(b)tracrRNA配列とを含み、該第2のcrRNA配列及び該tracrRNA配列は、天然には一緒に存在しないものである、第2のsgRNAとを含む、sgRNA対に関する。
【0070】
更なる実施形態において、上記CRISPR/Cas9システムは、角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのシステムである。上記PAMを生成する突然変異又はSNPは、TGFBI遺伝子中に存在することができる。更なる実施形態において、上記PAMを生成する突然変異又はSNPは、TGFBI遺伝子のイントロン中に存在する。なおも更なる実施形態において、上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、図19図35に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、及び/又は上記第1のcrRNA配列及び上記第2のcrRNA配列の少なくとも1つは、表2に列挙される配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【実施例0071】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を説明するために表される。そのような実施例は、排他的な実施形態を表さず、かつ排他的な実施形態を表すと解釈されないものと理
解され、そのような実施例は、本発明の実施を単に説明する目的を果たすものである。
【0072】
突然変異解析:様々な角膜ジストロフィーと関連する突然変異を解析して、どれが単独でミスセンス突然変異又はインフレームインデルであるかを決定した。この解析は、K12及びTGFBI疾患の大部分について、ナンセンス突然変異又はフレームシフトを起こすインデル突然変異が疾患と関連しないことを指摘している。さらに、エクソーム変異体データベースの解析により、これらの遺伝子中に見られるあらゆる天然に存在するナンセンス突然変異、フレームシフトを起こすインデル突然変異、又はスプライス部位突然変異が、これらの個体における疾患と関連すると報告されないことが確認された。
【0073】
突然変異解析により、以下の角膜ジストロフィー遺伝子が、標的ヌクレアーゼ遺伝子治療のために適していることが明らかになった(表1)。
【0074】
【表1】
【0075】
適切な角膜ジストロフィー遺伝子の調査をこの報告のために実施して、PAM特異的アプローチ又はガイドアレル特異的アプローチのいずれかにより標的化可能な突然変異の数を調べた。PAM特異的アプローチは、新規PAMの生成のために病因性SNPを必要とするが、アレル特異的アプローチは、病因性SNPを含むガイドのデザインを要する。10%より大きいマイナーアレル頻度(MAF)を有する新規PAMを生成するTGFBI中の全ての非病因性SNPを特定し、Benchlingのオンラインゲノム編集デザインツール
により解析した。10%より大きいMAFを有するSNPの選択は、新規PAMを生ずるSNPが、病因性突然変異とシスに見られる十分な機会を提供し得る。病因性突然変異と「シスにある」とは、病因性突然変異と同じDNA又は染色体の分子上にあることを指す。新規PAMを生ずるSNPは、例えばTGFBI遺伝子中のイントロン又はエキソン中に、病因性突然変異とシスに存在し得る。TGFBI内の全ての変異体を解析して、新規PAMが作製されたかどうかを調べた(表2)。
【0076】


【表2】
【0077】
図15に示されるように、TGFBI内の変異体の位置は、殆どのSNPではイントロン中にクラスターが形成されている。このように、エキソン11、エキソン12、及びエキソン14中のホットスポットに位置する多数のTGFBI突然変異は、このアプローチを使用して同時に標的化され得る。したがって、CRISPR/Cas9システムは、突然変異を有する2人以上の患者又は1つの家系を標的化することができる。このようにデザインされた1つのCRISPR/Cas9システムは、種々のTGFBI突然変異を治療するために使用することができる。上記CRISPR/Cas9システムは、突然変異アレルに特異的なPAM部位に隣接するsgRNAと並行して、野生型アレル及び突然変異アレルの両方に共通の隣接イントロン中に位置するPAM部位に隣接するsgRNAを使用することができる(図16)。これにより、機能的効果を有しないとされる野生型アレルのイントロン中でのNHEJがもたらされることとなり、突然変異アレルにおいて、2つの切断部位間にDNAを含む欠失がもたらされることとなる。この技術は、適切なSNPプロファイルを有する患者から単離された白血球において裏付けられる。
【0078】
構築物:Cas9及びsgRNAを発現する3種のプラスミドを使用した。使用される非標的化プラスミドは、pSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)(ブロード研究所、MIT、Addgeneプラスミド48139、図7)であった。発表されたプロトコル(Ran FA, et al., Nat Protoc 2013; 8: 2281-2308)に従って、K12-
L132Pアレルに特異的なsgRNAを含むプラスミドを、アニーリング並びに以下の2つのプライマー(Life Technologies社、英国、ペイズリー):5’-CACCGTA
GGAAGCTAATCTATCATT-3’及び5’-AAACAATGATAGATTAGCTTCCTAC-3’をpSpCas9(BB)-2A-Puro中にクローニングすることによりデザインした。このsgRNAは、K12-L132Pアレルに見られるアレル特異的PAMの3’に隣接する20個のヌクレオチドに相当し(図1、赤色)、以下でsgK12LPと呼ぶ。野生型及び突然変異のK12配列の両方を標的とするCas9/sgRNAプラスミドを構築し(Sigma社、英国、ジリンガム)、ポジティブコ
ントロールとして使用した(図1、緑色)。
【0079】
以前に記載された更なるK12発現構築物を使用して、アレルの特異性及び有効性を評価した。K12-WT又はK12-L132Pのいずれかについての完全mRNA配列が終止コドンの3’に挿入されたホタルルシフェラーゼプラスミド(以下でそれぞれK12WT-Luc及びK12LP-Lucと呼ばれる)(Liao H, et al. PLoS One 2011; 6:
e28582.)、並びに成熟ヘマグルチニン(HA)タグ付きのK12-WT及びK12-L132Pタンパク質のための発現プラスミド(Courtney DG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 3352-3360.)(以下で、それぞれK12WT-HA及びK12LP-HAとして知られる)を使用した。ウミシイタケルシフェラーゼのための発現構築物(pRL-CMV、Promega社、英国、サウサンプトン)を、デュアルルシフェラーゼアッセ
イのために使用して、トランスフェクション効率を正規化した。
【0080】
デュアルルシフェラーゼアッセイ:デュアルルシフェラーゼアッセイを使用して、外因性構築物中の3種の試験sgRNAの有効性及びアレル特異性を、以前に記載された(Courtney DG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 977-985、Allen EHA, et al.
Invest Ophthalmol Vis Sci 2013; 54: 494-502、Atkinson SD, et al. J Invest Dermatol 2011; 131: 2079-2086)ように適合された方法を使用して定量した。手短に言えば、HEK AD293細胞(Life Technologies社)を、リポフェクタミン2000(Life Technologies社)を使用して、K12WT-Luc発現構築物又はK12LP-Luc発現構築物とsgNSC構築物、sgK12構築物、又はsgK12LP構築物との両方で1:4の比率でトランスフェクションさせた。細胞を溶解前に72時間にわたりインキュベートし、ホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼの両方の活性を定量した。全体で8回の反復実験を、各々のトランスフェクション条件につき実施した。
【0081】
ウェスタンブロッティング:HAタグ付けされた野生型(K12WT-HA)発現構築物及び突然変異(K12LP-HA)発現構築物(Liao H, et al. PLoS One 2011; 6: e28582.)を、上記sgRNAのそれぞれと1:4の比率でHEK AD293細胞中に2連でリポフェクタミン2000(Invitrogen社)を使用して、以前に記載された(Courtney DG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 977-985、Allen EHA, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2013; 54: 494-502)のと同様の方法を使用して一過的に同時トランスフェクションさせた。トランスフェクションされた細胞を72時間にわたりインキュベートした。HAタグ付けされたK12及びβ-アクチンの発現を、HAに対するウサギポリクローナル抗体(Abcam社、米国、ケンブリッジ、ab9110、1:2000)
及びヒトβ-アクチンに対するマウスモノクローナル抗体(Sigma社、1:15000)
を使用して標準的方法(Courtney DG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 977-985、Allen EHA, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2013; 54: 494-502)を用いて分析した。膜を、それぞれセイヨウワサビペルオキシダーゼがコンジュゲートされたポリクローナルブタ抗ウサギ二次抗体(DakoCytomation社、英国、イーリー)又はセイヨウワサビペルオキシダーゼがコンジュゲートされたヤギ抗マウス抗体(DakoCytomation社)と一緒にインキュベートした。タンパク質結合は、標準的な化学発光(Life Technologies社
)により検出した。デンシトメトリーをImageJ(Schneider CA, Rasband WS, Eliceiri KW. Nat Methods 2012; 9: 671-675)を使用して行うことで、HAタグ付けされた
K12のバンド強度を定量した(n=4)。これを、β-アクチンのバンド強度に正規化した。
【0082】
定量的リアルタイムPCR:トランスフェクションを、ウェスタンブロッティングについて記載したのと同様にして実施したが、K12WT-HA及びK12LP-HAの両方を、細胞中に同時にトランスフェクションさせた。全てのトランスフェクションは、3連で実施した。トランスフェクション後に、細胞を48時間にわたりインキュベートし、RNAをRNAeasy Plusキット(Qiagen社、オランダ、ヴェンロー)を使用して抽出した。500ngのRNA(Life Technologies社)のcDNA変換後に、定量的リ
アルタイムPCRを実施して、KRT12のmRNAのレベルを定量した。KRT12アッセイ(アッセイId 140679、Roche社、英国、ウェスト・サセックス)を、H
PRTアッセイ(アッセイID 102079、Roche社)及びGAPDHアッセイ(ア
ッセイID 141139、Roche社)と並行して使用した。各試料を各アッセイについ
て3連で試験し、相対遺伝子発現を、ΔΔCT法(Livak KJ, Schmittgen TD. Methods 2001; 25: 402-408)を使用して計算した。KRT12発現レベルを、HPRT及びGAPDH(両方の参照遺伝子の発現は、処置群の間で「安定」であると考えられる)に対して、BestKeeperソフトウェアツール(Pfaffl MW, Tichopad A, Prgomet C, Neuvians TP. Biotechnol Lett 2004; 26: 509-515)を使用して正規化した。
【0083】
パイロシーケンシング:定量的逆転写酵素PCRにより評価された同じcDNA試料を使用して、パイロシーケンシングを実施することで、正確に以前に記載された(Courtney
DG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2014; 55: 3352-3360)通りに、残りのK12
-L132PのmRNA対K12-WTのmRNAの比率を測定した。
【0084】
KRT12遺伝子導入マウス:C57マウスモデルを取得し、内因性のマウスKrt12コーディング配列を置き換えるためにヒトK12-L132Pアレルでノックインした。これにより、アレル特異的なsgRNA及びCas9によるKRT12-L132Pのin vivo標的化が可能となった。1コピーのヒトK12-L132Pアレル及び1コピーのマウスKrt12が存在する24週齢の雌のヘテロ接合マウスを使用した。標準的なPCR及びサンガー式のジデオキシヌクレオチドシーケンシングを使用して、該マウスをジェノタイピングし、K12-L132Pアレルのヘテロ接合性を確認した。この研
究は1つの角膜における治療効果を調査するので、動物の無作為化は必要ないが、同じ動物のもう一方の角膜をネガティブコントロールとして使用した。研究者は、この研究において盲目化されなかった。全ての実験は、倫理規制を遵守し、地元の倫理委員会によって承認された。
【0085】
in vivoでの実質内の眼内注射:アレル特異的sgRNA及びCas9の一過性発現を達成するために、上記sgK12LPプラスミドを、以前に記載された(Moore JE, McMullen CBT, Mahon G, Adamis AP. DNA Cell Biol 21: 443-451)プロトコルに従っ
て、ヘテロ接合ノックインマウスの角膜実質中に実質内眼内注射により導入した。この送達法を評価するために、野生型マウスに、最初に4μgのCas9-GFPプラスミド(pCas9D10A_GFP)(Addgeneプラスミド44720)を注射した。マウスを24時間、48時間、及び72時間の時点で淘汰し、角膜を4%のパラホルムアルデヒド中で固定し、標準的な組織学的手法を使用して処理した。5マイクロメートル厚の切片を切り出し、再水和し、蛍光顕微鏡法によりイメージングした。マウスに全身麻酔薬を投与し、角膜に局所麻酔薬を投与した。資格のある眼科医が、全体で3μlのリン酸緩衝生理食塩水中に希釈された4μgのsgK12LPプラスミド又はsgNSCプラスミドを4匹のマウスの右眼と左眼のそれぞれの角膜中に注射した。マウスを、処置48時間後に淘汰した。
【0086】
NHEJのシーケンシング及び測定:マウスを淘汰したら、眼を摘出し、角膜を解剖した。gDNAを、DNA抽出キット(Qiagen社)を使用して抽出し、試料を2つの処置群:sgK12LP及びsgNSCへとプールした。この試料に、以下の2種のプライマー:5’-ACACCCATCTTGCAGCCTAT-3’及び5’-AAAATTCCCAAAGCGCCTC-3’を使用してPCR増幅を行うことで、K12-L132P突然変異の周辺の領域を増幅した。PCR産物をゲル精製し、CloneJetクローニングベクター(Life Technologies社)中にライゲーションし、それらを使用することで
、DH5αコンピテント細胞(Life Technologies社)を形質転換した。全体で13個の
クローンを選択し、プラスミドDNAを、miniprepキット(Qiagen社)を使用して製造業者の手順に従って調製した。13個のクローンからのDNAを、次いでCloneJetベクターと一緒に提供されるシーケンシングプライマーを使用してシーケンシングした(オックスフォード大学動物学科)。Zhang研究室のオンラインツール(crispr.mit.edu)により予測されたマウスゲノム中のsgK12LPについての2つの最も可能性
の高いエキソン内オフターゲット部位を、同様に評価した。ここで、10個のコロニーを、それぞれの予測されたオフターゲットの分析のために選択した。予測されたオフターゲット部位は、5’-TAAGTAGCTGATCTATCAGTGGG-3’(Gon4l)及び5’-TGGGAAGCATATCTGTCATTTGG-3’(Asphd1)であった。これらの2つの部位だけが選択されたのは、計算されたオフターゲットスコアが0.1を超えるのがそれら2つだけであったからである。
【0087】
統計学:全てのエラーバーは、特段の記載がない限り、平均値の標準誤差を表す。有意性は、全ての試料が同じ分布を示したので、対応のないt検定を使用して計算した。統計学的有意性は、0.05%に定めた。分散を群の間で計算することで、それらは同様であるとみなされた。
【0088】
KRT12特異的sgRNAの構築:MECDを引き起こすKRT12ミスセンス突然変異から得られた配列変化の分析により、MECDの重症形態を引き起こすL132P突然変異が、新規PAM部位の生成(AAG>AGG)を同時に起こすことが明らかになった。KRT12のL132P突然変異により生成された新規PAM部位の5’末端に隣接する20ヌクレオチド配列に相補性のsgRNA(sgK12LP)をデザインし、Zhang研究室(MIT 2013)によりオンラインで提供される「最適化CRISPRデザ
インツール(Optimized CRISPR Design Tool)」を使用して潜在的なオフターゲットについて評価した(図1、赤色)。sgRNAは、このシステムを使用して66%のスコアを有すると計算された。ここで、50%を超えるスコアは、限られた数の予測される考えられるオフターゲットでは質が高いと考えられる。
【0089】
in vitroでのsgK12LPのアレル特異性及び有効性の評価:sgK12LPのアレル特異性及び有効性を、in vitroでHEK AD293細胞において、野生型及び突然変異のK12のための外因性発現構築物を使用して評価した。アレル特異性は、最初にデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイを使用して測定した(図2A)。ホタルルシフェラーゼ活性は、K12WT-Luc又はK12LP-Lucのいずれかを発現する、sgK12で処理された細胞中で大幅に減少することが判明した。ホタルルシフェラーゼ活性の有効なアレル特異的な減少は、sgK12LPで処理された細胞において観察された。K12LP-Lucを発現する細胞において、73.4±2.7%の減少(P<0.001)が観察された(図2A)。このアレル特異的な有効なノックダウンはまた、ウェスタンブロッティングにより、K12WT-HA又はK12LP-HAのいずれかを発現する細胞においても観察され(図2B、4つのブロットを表すイメージ)、デンシトメトリーによる定量により、K12LP-HAタンパク質においてsgK12LPによりK12WT-HAタンパク質と比較して32%の有意な減少が明らかとなった(P<0.05)。sgK12で処理された細胞において、野生型及び突然変異K12タンパク質の両方が減少したことが分かり、その一方で、sgK12LPで処理された細胞において、野生型タンパク質の発現に効果は見られないが、突然変異K12タンパク質の大幅なノックアウトが見られた(図2B)。
【0090】
タンパク質レベルで観察されたこのデータを裏付けるために、定量的逆転写酵素PCR及びパイロシーケンシングを実施して、アレル特異性及び有効性をmRNAレベルで測定した。野生型及び突然変異K12の両方を同時に(1:1の発現比率で)発現する、3種の試験Cas9/sgRNA発現構築物(NSC、K12、及びK12LP)のそれぞれで処理された細胞において、定量的逆転写酵素PCRを使用して、K12の全mRNAのノックダウンを測定した(図2C)。K12の全mRNAの73.1±4.2%(P<0.001)の有効な減少がsgK12処理された細胞において観察され、sgK12LP処理された細胞においては52.6±7.0%(P<0.01)のより少ない減少が測定された(図2C)。パイロシーケンシングを使用して、これらのsgRNAでの処理後の残存している成熟mRNA種の細胞内割合を測定した(図2D)。mRNAの割合は「K12-L132P’のパーセント/K12-WTのパーセント」として計算された。突然変異及び野生型のK12のmRNAの間の比率が1:1であると想定して、sgNSCで処理された細胞を1に正規化した。sgK12で試験された細胞において、0.89±0.03のK12の突然変異mRNAの割合が観察されたが、NSCコントロールとの差は有意ではなかった(P<0.14)。sgK12LPで処理されたこれらの細胞において、0.28±0.02のK12の突然変異mRNAの割合が検出され、sgNSC処理された細胞と比較して有意に変化した(P<0.001)(図2D)。
【0091】
in vivoでのsgRNA-K12LPの効力の測定:Cas9-GFP構築物の実質内注射は、注射24時間後に角膜上皮中に緑色蛍光タンパク質(GFP)のタンパク質の存在をもたらした(図3A)。GFPの一過性発現は、注射後48時間まで見られた。sgK12LP発現構築物又はsgNSC発現構築物のいずれかを、K12-L132Pヒト化ヘテロ接合マウス中に実質内注射し、48時間の期間インキュベートした後に、マウスを安楽死させ、ゲノムDNA(gDNA)を角膜から調製した。4匹のsgK12LP処理された動物又はsgNSC処理された動物の角膜からのgDNAをプールし、ヒト化されたK12-L132P遺伝子のエキソン1のPCR増幅、クローニング、及びシーケンシングを実施した。sgNSCで処理された眼のgDNAから確立された10個の
クローンのうち、K12-L132P配列は全てにおいてインタクトなままであった。sgK12LP処理された眼からの13個の個々のクローンをシーケンシングした。8個は、変化されていないKRT12のL132Pヒト配列を含むことが判明し、一方で5個のクローンは、Cas9/sgK12LP複合体の予測された開裂部位の周辺でのNHEJを裏付けた(図3B)。1個のクローン(1)において、1個のヌクレオチドの挿入と共に、32個のヌクレオチドの欠失が見出された。53個までのヌクレオチドの大きな欠失がin vivoで観察された(クローン5)。これらの5個のクローンのうち、4個は、早発の終止コドンの発生をもたらすこととなるフレームシフトを起こすと予測される欠失(クローン1及びクローン3~クローン5)を含んでいた。マウスにおけるsgK12LPの上位2つの予測されたエキソン内オフターゲット部位も、この方法を使用して評価した。10個のクローンを、それぞれの標的についてシーケンシングしても、非特異的開裂を経たものは見られなかった。
【0092】
R514P、L518R、L509R、及びL527Rにおける突然変異により作製されたPAM部位と関連するTGFBI突然変異:一本鎖ガイドRNAを、これらの突然変異のそれぞれを標的とするようにデザインし、sgRNA/Cas9発現プラスミド中にクローニングした。さらに、天然に存在する近接PAMを利用するポジティブコントロールのガイドRNAを、それぞれの突然変異のためにデザインした。野生型及び突然変異の標的配列を、ルシフェラーゼレポータープラスミド中にクローニングすることで、野生型の発現及び突然変異発現に対する遺伝子編集の効果を確認することが可能となった。両方のプラスミドを使用してAD293細胞をトランスフェクションさせ、ルシフェラーゼ発現をCRISPR Cas9処理の72時間後に本発明者らの高スループットレポーター遺伝子アッセイを使用して測定することで、細胞中に存在する突然変異及び野生型のDNAの量を測定した。
【0093】
以下の図4は、SNP誘導型PAMアプローチを使用して評価されたこれらの2個のTGFBI突然変異のそれぞれ(R514P、L518R、L509R、及びL527R)について、かなりのアレル特異性が達成され、その際、突然変異アレルは、CRISPR
Cas9システムにより切断され、野生型のDNAは、上記ガイドの幾つかについて或る程度まで切断されたことを示している。
【0094】
PAM部位に隣接する標的領域内にあるSNP突然変異と関連するTGFBI突然変異:一本鎖ガイドRNAを、これらの突然変異を標的とするようにデザインし、sgRNA/Cas9発現プラスミド中にクローニングした。野生型及び突然変異の標的配列を、ルシフェラーゼレポータープラスミド中にクローニングし、本発明者らの高スループットレポーター遺伝子アッセイにおいて評価した。両方のプラスミドを使用して、AD293細胞をトランスフェクションさせ、ルシフェラーゼ発現を3日後に測定した。
【0095】
16マーから22マーまでの長さの範囲のガイドを評価することで、どの長さが、特異性の改善のために最大アレル特異性を達成するかを決定した。ガイドの長さに加えて、ガイドの5’末端への二重のグアニンの付加が特異性の改善を補助するか否かも評価した。上記ガイド配列は、ガイド長さに応じて異なる切断効率を示し、二重のグアニンの付加は、一般的に切断効率を改善しなかった(図5、項目A~項目E)。
【0096】
アレル特異性を改善するために、R124Hを標的とする20マーのガイドを、強化型Cas9プラスミド中にクローニングした。強化型Cas9は、非標的切断を抑えるように適切に操作されている。野生型配列の開裂における注目すべき減少、及びアレル特異性における増加(例えば、野生型配列についての切断効率と突然変異配列についての切断効率との間の差)が、デュアルルシフェラーゼアッセイを介して観察された(図5、項目F)。
【0097】
DNA開裂を確認するために、野生型TGFBI配列又は突然変異TGFBI配列のいずれかを含む二本鎖DNAテンプレートを調製した。テンプレートは、合成ガイド及びCas9タンパク質と一緒にin vitroで37℃において1時間にわたりインキュベートした。断片分析をアガロースゲル上で行うことで、切断能力を測定した(図5、項目G)。
【0098】
追加のin vivo研究
ライブ動物イメージング:ライブイメージングのために使用される全てのマウスは、12週齢から25週齢の間であった。イメージングのために、マウスを、約1.5l/分の酸素流中の1.5%~2%のイソフルラン(Abbott Laboratories Ltd.社、英国、バークシャー)を使用して麻酔した。ルシフェリン基質(30mg/mlのD-ルシフェリンカリウム塩、Gold Biotechnology社、米国、セントルイス)とViscotearsゲル(Novartis社、英国、キャンバリー)とを1:1で混合した混合物を、イメージングの直前にヘテロ接合Krt12+/luc2トランスジェニックマウスの眼に滴下した。Xenogen IVIS Lumina(Perkin Elmer社、英国、ケンブリッジ)を使用して、発光を定量した。マウスの眼を取り囲む対象領域を選択して、以前に記載されたプロトコルを使用して定量し、そのサイズ及び形状は全体を通じて一定に保たれた。蛍光をまた、Cy3標識されたsiRNAが注射されたマウスにおいてXenogen IVIS Luminaを使用して可視化した。
【0099】
実質内注射:Cas9/sgRNA構築物を、実質内注射によりマウス角膜に送達した。これは、訓練を積んだ眼科医(J.E.M.)により上記のように行われた。角膜内の核酸の分布を評価するために、2μlの150pmol/μlのCy3標識されたAccell修飾siRNAを、WTのC57BL/6Jマウスの右眼中に実質内注射した。Cy3標識されたsiRNAの残存を評価するために、動物に、注射後の0時間、6時間、24時間、48時間、及び72時間の時点でXenogen IVIS Luminaシステムにおいてライブイメージングを行った(n=3)。さらに、マウスを注射後の0時間、6時間、及び12時間の時点で屠殺し(n=3)、眼組織を取り出し、-80℃で凍結させた。組織をOCT中で固定化し、蛍光顕微鏡法のために凍結切開した。
【0100】
Cas9/sgRNA発現構築物の作製:Cas9及びsgRNAの両方を発現するプラスミドpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)は、Feng Zhang教授からの寄贈として得られた(ブロード研究所、MIT、Addgeneプラスミド番号48139)。luc2を標的とするsgRNAを、Zhang研究室のCRISPRデザインツ
ール(www.crispr.mit.edu)を用いて開始コドンの61塩基対以内でデザインした。luc2特異的なsgRNAを、最初にオリゴヌクレオチド5’ CAC CGT TTG TGC AGC TGC TCG CCG G 3’及び5’ AAA CCC GGC
GAG CAG CTG CAC AAA C 3’をアニーリングし、それに続いてBbsIで消化されたpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)中にライゲーションすることにより構築した。このプラスミドをsgLuc2と呼ぶ。元のpSpCas9(BB)-2A-Puroプラスミドを、非標的化ネガティブコントロールとして使用した。これをsgNSCと呼ぶ。sgLuc2プラスミドの活性を、上記の方法と同様のデュアルルシフェラーゼ法を使用して評価することで、Cas9/sgRNA効力を調べた。簡潔には、luc2構築物(pGL4.17、Promega社)を、sgLuc2
又はsgNSC(両者ともCas9/sgRNA発現構築物)のいずれかと共に1:4のモル比でウミシイタケルシフェラーゼ発現構築物と一緒に同時トランスフェクションさせた。細胞を、トランスフェクション後48時間にわたりインキュベートしてから、上記のようにルシフェラーゼ定量を行った。
【0101】
CRISPR/Cas9のin vivo評価:Cas9/sgLuc2プラスミドの有効性を、in vivoでK12-luc2遺伝子導入マウスにおいて、siRNA遺伝子サイレンシングの評価のために使用される改良されたプロトコルを使用して評価した。sgLuc2(右眼)及びsgNSC(左眼)の両方に、4μlのPBSの全容量で500ng/μlの濃度で実質内注射した。マウス(n=4)のライブイメージを、24時間毎に7日間にわたり、次いでその後は週1回、全体で6週間(42日間)にわたり撮影した。ルシフェラーゼ阻害の定量は、右/左比を計算することにより測定し、値を0日目の値(100%)に正規化した。
【0102】
角膜上皮細胞中でのみLuc2を発現するこの実験の遺伝子導入マウスモデルにおいて、CRISPR Cas9ガイドは、Luc2遺伝子を以下に示されるように(sgRNA)luc2発現を観察することにより角膜上皮中での遺伝子編集の成功を視覚的に示すことができる方法で標的化するようにできていた。こうして本質的にこれは、Krt12発現によく似ている。それというのも、それは角膜上皮においてのみ発現されるからである。このin vitroでのデュアルルシフェラーゼアッセイにより、未処理の細胞に正規化した場合(未処理のコントロール=100%に対して正規化されたデータ)にルシフェラーゼ活性における有意な減少(示されるはp<0.05を表す)により示されるように(図6)、sgLuc2P構築物によるLuc2の標的化の成功が裏付けられた。CRISPR Cas9のsgLuc2ガイドを、角膜中でLuc2を発現する本発明者らの遺伝子導入マウス中で試験した。遺伝子導入マウスはK12発現に似るようにできており、そのため明るい緑色がある場合には多くのKrt12発現があり、図7において、青色はより少ないKrt12発現を示し、黒色はKrt12発現が全くないことを意味する。右側の眼に、試験用sgLuc2を注射し、左側の眼に、非標的化非特異的なコントロールガイド及びCRISPRを注射した。
【0103】
図7のグラフに示されるように、Luc2発現の量が測定された。処置後に、それぞれのマウスの角膜ルシフェラーゼ活性を、Xenogen IVISライブ動物イメージャーを使用して毎日7日間にわたり、その後に7日毎に全部で6週間にわたり定量した。それぞれの処置群についてのルシフェラーゼ活性は、コントロールのパーセンテージとして表現した(R/L比の%)。
【0104】
アレル特異的インデルの確認
リンパ球のEBV形質転換:5mlの全血の試料を採取し、滅菌50ml容ファルコンチューブ中に入れた。20%のウシ胎児血清を含む等容量のRPMI培地をその全血に添加し、そのチューブを優しく転倒混和させた。6.25mlのFicoll-Paque
PLUS(GE Healthcare社のカタログ番号17-1440-02)を、別個の滅菌5
0ml容ファルコンチューブ中に入れた。そのFicoll-Paqueへと10mlの血液/培地混合物を添加した。そのチューブを、室温で2000rpmにて20分間にわたり遠心させた。赤血球が該チューブの底部に形成され、その上にFicoll層があった。リンパ球は、Ficoll層上の層を形成し、一方で最上層は培地であった。清浄な滅菌パステットを挿入してリンパ球を抜き出し、それを滅菌15ml容ファルコンチューブ中に入れた。該リンパ球を遠心分離し、洗浄した。EBVのアリコートを融解させ、再懸濁されたリンパ球に添加し、その混合物を37℃で1時間にわたりインキュベートした(感染期間)。RPMIの20%FCS培地及び1mg/mlのフィトヘマグルチニンを、EBVで処理されたリンパ球に添加し、そのリンパ球を24ウェルプレートに入れた。
【0105】
EBV形質転換されたリンパ球(LCL)のエレクトロポレーション:CRISPR構築物(GFP又はmCherryのいずれかと同時発現される)を、懸濁されたEBV形質転換されたリンパ球細胞に添加し、その混合物をエレクトロポレーションキュベットに移した。エレクトロポレーションを実施し、10%のFBSを含有する500μlの事前
に温めたRPMI 1640培地をそのキュベットに添加した。キュベットの内容物を、事前に温めた培地の残りを含む12ウェルプレートへと移し、ヌクレオフェクションの6時間後に1mlの培地を除去し、新たな培地と交換した。
【0106】
GFP陽性生細胞及び/又はmCherry陽性生細胞のセルソーティング:ヌクレオフェクションの24時間後に、1mlの培地を除去し、細胞を含む残りの培地を、1.5ml容のエッペンドルフ中に回収した。該細胞を遠心分離し、200μlのPBS中に再懸濁し、50μlのeFluor 780生死判別色素を1:1000希釈で添加した。もう1回遠心分離した後に、その細胞を1×HBSS(Ca/Mg++不含)、5mMのEDTA、25mMのHEPES(pH7.0)、5%のFCS/FBS(熱失活されている)、及び10単位/mLのDNase IIを含有する濾過滅菌FACSバッファー中に再懸濁させた。細胞をソーティングして、GFP陽性生細胞及び/又はmCherry陽性生細胞を単離し、RPMI+20%のFBS中に回収した。細胞を増殖させ、DNAを該細胞から抽出した。
【0107】
シーケンシングのための単一アレルの単離:QIAmp DNA Mini Kit(Qiagen社)を使用してDNAを単離し、PCRをCRISPR/Cas9により標的化される領域にわたり使用した。特異的増幅をゲル電気泳動により確認し、PCR産物を精製した。該PCR産物を平滑末端化し、Clonejet Kit(Thermo Scientific社
)からのpJET1.2/bluntプラスミド中にライゲーションした。そのライゲーション混合物を、コンピテントなDH5α細胞中に形質転換させた。単コロニーをピックし、サンガー式シーケンシングを実施して、編集を確認した。得られたデータは、図17に示されている。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A-1】
図4A-2】
図4B-1】
図4B-2】
図4C-1】
図4C-2】
図4D-1】
図4D-2】
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図13-4】
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図18-3】
図18-4】
図19-1】
図19-2】
図19-3】
図20-1】
図20-2】
図20-3】
図20-4】
図20-5】
図21-1】
図21-2】
図21-3】
図21-4】
図21-5】
図21-6】
図21-7】
図21-8】
図21-9】
図21-10】
図21-11】
図21-12】
図22-1】
図22-2】
図22-3】
図23
図24
図25-1】
図25-2】
図25-3】
図26-1】
図26-2】
図26-3】
図26-4】
図27
図28
図29
図30
図31-1】
図31-2】
図31-3】
図32-1】
図32-2】
図33
図34-1】
図34-2】
図35
【配列表】
2024041905000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜ジストロフィーの予防、改善、又は治療のためのCRISPR/Cas9システムのためにデザインされた一本鎖ガイドRNA(sgRNA)。
【外国語明細書】