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特開2024-41908生体触媒およびチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の合成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041908
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】生体触媒およびチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20240319BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C12N9/02 ZNA
C12N15/53
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003073
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2020541704の分割
【原出願日】2019-01-31
(31)【優先権主張番号】62/624,494
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ハオミン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成する方法に使用する生体触媒を提供する。
【解決手段】2-オキソチエノピリジンと複素環式チオールとの結合を、還元剤の存在下、触媒することができる、変異型CYP102A1酵素を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-オキソチエノピリジンと複素環式チオールとの結合を、還元剤の存在下、触媒することができる、変異型CYP102A1酵素。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔連邦政府による資金提供を受けた研究または開発に関する記載〕
本発明は、米国国立衛生研究所によって与えられたAA020090に基づく政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明に対し一定の権利を有する。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を触媒として用いて、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成する方法に関し、化学合成の分野に属する。
【0003】
〔はじめに〕
チエノピリジンの混合ジスルフィド結合体は、以前に実証されたように、有望な抗血小板剤である(例えば、Zhang, H., et al.,(2016) J Pharmacol Exp Ther 359, 11-17を参照のこと)。これらの化合物は、複素環式チオールとチエノピリジンの活性抗血小板剤との結合体である。そのような活性抗血小板剤の1つは、クロピドグレル、(Z)-2-(1-((S)-1-(2-クロロフェニル)-2-メトキシ-2-オキソエチル)-4-メルカプトピペリジン-3-イリデン)酢酸
【0004】
【化1】
【0005】
の薬理活性代謝物(AM)である。AMと複素環式チオールとの間のジスルフィド結合の形成により、インビボで容易に活性化され得る安定した混合ジスルフィド結合体が生成され、それにより、血小板凝集を迅速かつ有効に阻害することができる(例えば、Zhang, H., et al., (2016) J Pharmacol Exp Ther 359, 11-17; Zhang, H., et al., (2014) Thromb. Haemost. 112, 1304-1311を参照のこと)。
【0006】
その優れた抗血小板特性にもかかわらず、チエノピリジン化合物およびそれらのジスルフィド結合体の活性代謝物の化学合成は困難であった(例えば、Asai, F., Sugidachi, K., Ikeda, T., Iwabuchi, H., Kuroki, Y., Inoue, T., Iwamura, R., およびShinbakawa, N.(2003) Cyclic amino compounds. (Office, U. P. a. T. ed., Sankyo Company, Limited, US; Shaw, S. A., et al., (2015) J Org Chem 80, 7019-7032) を参照のこと)。これらの化合物の化学合成は、低収率の複数の工程を含む。これは、少なくとも部分的には1)室温でのAMの不安定性と、2)複数のキラル中心の存在に起因する。クロピドグレルのAMの場合、C3~16の二重結合に加えてC4およびC7に2つのキラル中心を含み、8つの立体異性体の組み合わせを生じる。AMの7Sおよびシス二重立体配置のみが抗血小板活性を有する。しかし、トランスからシス立体配置への変換効率は非常に低い(例えば、Asai, F., Sugidachi, K., Ikeda, T., Iwabuchi, H., Kuroki, Y., Inoue, T., Iwamura, R., and Shinbakawa, N. (2003) Cyclic amino compounds. (Office, U. P.
a. T. ed., Sankyo Company, Limited, US)を参照のこと)。
【0007】
肝臓ミクロソーム(LM)におけるチエノピリジン化合物の代謝はAMおよびその混合ジスルフィド結合体を生成することが以前に示されている(例えば、Zhang, H., et al., (2014) Thromb. Haemost. 112, 1304-1311を参照のこと)。しかしながら、大規模合成のための肝臓ミクロソームの使用は、生成物収率が低く、LMのコストが高いため、実施をためらうほど高額である。実際、薬物開発および他の用途のためにチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を大量に製造する実行可能な方法はない。
【0008】
したがって、薬物開発および他の用途のために、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を大量に生成する改善された方法が必要とされている。
【0009】
本発明は、この要求に取り組むものである。
【0010】
〔発明の概要〕
クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント)は、心臓発作および脳卒中を予防する抗血小板剤として広く使用されているチエノピリジニル化合物の一種に属する。しかしながら、これらの薬物には、変化しやすい反応性、毒性、および出血の危険性の増大を含むいくつかの重大な欠点が結びついている。これらの欠点は、それらが全て、多型シトクロムP450酵素(P450)による酸化的生物活性化を必要とするプロドラッグであるという事実に密接に関連している。
【0011】
チエノピリジン化合物(クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント))に結びついた欠点を克服するために、本発明は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を提供する。本発明のチエノピリジン化合物のこのような混合ジスルフィド結合体は、内因性グルタチオン(GSH)の存在下で、P450による生物活性化を必要とせずに、活性チエノピリジン代謝物(例えば、抗血小板活性を有する活性チエノピリジン代謝物)を生成することができると考えられる。このアプローチは、P450による酸化的生物活性化プロセスを回避するだけでなく、チエノピリジニル薬物に結びついた欠点の多くを回避する。例えば、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、結合体からの活性代謝物の生成が予測可能であるため、投与の一貫性を改善すると考えられる。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の抗血小板剤としての使用は、毒性の反応性代謝物がチオール交換反応によって生成されないので、毒性を低下させると考えられる。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の治療発生時間が短縮され、急性心血管イベントを経験する患者に非常に有益である。例えば、クロピドグレルの標準的なレジメンでは、摂取された薬物のごく一部が活性代謝物に変換されるだけであるので、患者に3~5日間連続投与する必要がある。対照的に、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、30分未満で高い収率で活性代謝物を放出すると考えられる。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は活性代謝物よりも優れた安定性を有し、したがって、インビトロでの基礎的および臨床研究のための活性代謝物を定量的に生成するために使用され得ると考えられる。
【0012】
したがって、本発明は、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を、遺伝子組換え生体触媒を用いて効率的に合成する方法、すなわち、還元剤NADPHまたはNADHおよび触媒としてのシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体の存在下で2‐オキソチエノピリジンおよび複素環式チオールを混合することによって、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を調製するためのシングルステップの処理に関する。この処理の操作は簡単であり、原料および試薬は容易に入手可能である。これらの方法は、従来技術の方法よりも高い収率で結合体のシス立体異性体を選択的に生成する。
【0013】
ある実施形態では、本発明は、2-オキソチエノピリジンと複素環式チオールとの結合を、還元剤の存在下、触媒することができる、変異型CYP102A1酵素を提供する。いくつかの実施形態では、上記2‐オキソチエノピリジンと複素環式チオールとの結合を、還元剤の存在下、触媒することにより、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を生じさせる。いくつかの実施形態では、上記2‐オキソチエノピリジンと複素環式チオールとの結合を、還元剤の存在下、触媒することにより、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体のシス立体異性体を選択的に生じさせる。いくつかの実施形態では、上記還元剤はNADPHまたはNADHである。
【0014】
いくつかの実施形態では、上記酵素は、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2、図4B)と85%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2、図4B)と90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2、図4B)と95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2、図4B)と99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号2内に以下のアミノ酸突然変異、A82F、L188Q、R47L、F87V、T365N、H116Q、K31T、S56R、A135S、V299D、I458F、P481HおよびW1046Aのうち1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、表2に記載の変異の特定のセットを有するアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも85%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも90%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも95%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも99%の相同性を有する核酸を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも85%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも90%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも95%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも99%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、上記酵素は、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも100%の相同性を有する核酸を含む。
【0017】
ある実施形態では、本発明は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体のシス立体異性体を合成する方法であって、2-オキソチエノピリジン部分と、複素環式チオール部分と、上記の変異型CYP102A1酵素とを、還元剤の存在下、混合する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、上記還元剤はNADPHまたはNADHである。いくつかの実施形態では、上記2-オキソチエノピリジン部分は
【0018】
【化2】
【0019】
によって表わされ、R1は塩素またはフッ素、R2はH、COOCH3、またはCOCHCH2CH2である。いくつかの実施形態では、上記複素環式チオール部分はR3‐SHで表され、R3は、3-ニトロピリジン-2-チオール、2-メルカプトピリジン、2-メルカプト-6-メチルピリジン、5-クロロピリジン-2-チオール、2-メルカプト-5-トリフルオロメチル-ピリジン、3-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-チオール、2-メルカプトピリジン-3-カルボニトリル、4,6-ジメチル-2-チオキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボニトリル、2-キノリンチオール、1-アミノ-3-メルカプトイソキノリン、6-クロロピリダジン-3-チオール、および2,5-ジメチルフラン-3-チオールから選択される。いくつかの実施形態では、上記混合は周囲温度で行われる。いくつかの実施形態では、上記混合は20分から60分間行われる。いくつかの実施形態では、上記変異型CYP102A1酵素は細菌の細胞質ゾル画分に含まれる。いくつかの実施形態では、突然変異CYP102A1酵素の量は約0.1から1μMである。いくつかの実施形態では、上記混合により、上記2-オキソチエノピリジン部分、上記複素環式チオール部分、上記変異型CYP102A1酵素、および上記還元剤の1リットル当たり、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体のシス立体異性体が約100mg、生成される。
【0020】
ある実施形態では、本発明は、2-オキソチエノピリジン部分と、複素環式チオール部分と、上記の変異型CYP102A1酵素の一つまたは複数と、を含む、キットを提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、上記キットは、還元剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、上記還元剤はNADPHまたはNADHである。いくつかの実施形態では、上記2-オキソチエノピリジン部分は
【0022】
【化3】
【0023】
で表され、R1は塩素またはフッ素、R2はH、COOCH3、またはCOCHCH2CH2である。いくつかの実施形態では、上記複素環式チオール部分はR3‐SHで表され、R3は、3-ニトロピリジン-2-チオール、2-メルカプトピリジン、2-メルカプト-6-メチルピリジン、5-クロロピリジン-2-チオール、2-メルカプト-5-トリフルオロメチル-ピリジン、3-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-チオール、2-メルカプトピリジン-3-カルボニトリル、4,6-ジメチル-2-チオキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボニトリル、2-キノリンチオール、1-アミノ-3-メルカプトイソキノリン、6-クロロピリダジン-3-チオール、および2,5-ジメチルフラン-3-チオールから選択される。
【0024】
ある実施形態では、本発明は、上記の方法により生成された化合物と、薬学的に許容可能な担体と、を含む、薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態では、上記薬学的組成物は静脈内投与用に構成される。
【0025】
ある実施形態では、本発明は、患者の心血管疾患を治療、改善、または予防する方法であって、当該患者に、上記の方法により生成された化合物を治療上有効な量、投与する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、上記投与は、経口投与および静脈内投与から成る群から選択される。いくつかの実施形態では、上記心血管疾患は、冠動脈疾患、末梢血管疾患、アテローム血栓症、および脳血管疾患から成る群から選択される。いくつかの実施形態では、上記化合物は血小板の凝集を低減させる。いくつかの実施形態では、上記血小板の凝集の低減は、P2Y12受容体への不可逆的な結合により生じる。いくつかの実施形態では、上記血小板の凝集の減少は、ADP受容体をブロックすることにより生じる。いくつかの実施形態では、上記方法は、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウムチャンネル遮断薬、血小板凝集阻害剤、ポリ不飽和脂肪酸、フィブリン酸誘導体、胆汁酸金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、血栓溶解剤および抗狭心症薬から成る群から選択される少なくとも一つの薬剤を共投与する工程をさらに含む。
【0026】
〔図面の簡単な説明〕
図1:クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生成物のHPLC分析。反応は、2‐オキソクロピドグレル、複素環式チオール、BM3およびNADPHを25℃で20分間混合することにより行った。次いで、1%ギ酸を含有する等容量のアセトニトリルで反応を停止させた。5μlの反応混合物のアリコートをHPLCによって分析した。「S」として示される二重ピークはrac‐2‐オキソクロピドグレルの2つの立体異性体であり、一方、アスタリスクによって示されるピークは、予想される生成物を表す。溶出は254nmで観察された。
【0027】
図2:クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生成物のHPLC分析。反応は、(±)‐2‐オキソクロピドグレル、複素環式チオール、ラットLMおよびNADPHを25℃で20分間混合することにより行った。
【0028】
図3:BM3の存在下でのClopNPTの合成の収率。反応は25℃で行った。
【0029】
図4A:野生型B.メガテリウムシトクロムP‐450:NADPH‐P‐450レダクターゼ遺伝子の1541~4690の野生型cDNA(例えば、アクセッションJ04832を参照のこと)(配列番号1)。
【0030】
図4B:B.メガテリウムシトクロムP‐450:NADPH‐P‐450レダクターゼ遺伝子についての野生型アミノ酸配列(例えば、アクセッションJ04832を参照のこと)(配列番号2)。
【0031】
図4C:シトクロムP450 BM3またはCYP102A1(配列番号3)の遺伝子組換え変異体の最適化されたcDNA。
【0032】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、触媒としてのシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体、生体触媒を用いてチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成する方法、および心血管疾患の治療、改善および予防のための関連治療薬剤に関する。
【0033】
本発明のための実施形態を展開する過程で行われた実験は、生体触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の組換え変異体を使用して、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の立体選択的かつ効率的な合成のための方法を特定した。
【0034】
したがって、本発明は、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を、遺伝子組換えされた生体触媒を用いて効率的に合成する方法、すなわち、還元剤(例えば、NADPHまたはNADH)および触媒としてのシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体の存在下で、2‐オキソチエノピリジンおよび複素環式チオールを混合することによって、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を調製するシングルステップの処理に関する。この処理の操作は簡単であり、原料および試薬は容易に入手可能である。これらの方法は従来技術の方法よりも高い収率で結合体のシス立体異性体を選択的に生成する(例えば、肝臓ミクロソームの使用よりもはるかに優れた収率で結合体のシス立体異性体を生成する)。
【0035】
P450BM-3酵素などの生物学的酵素触媒は、ファインケミカル、中間体、医薬品および薬物代謝物の合成から有機化学汚染物質および汚染物質の分解までの様々な工業的用途においてますます使用されている。タンパク質工学は、指向性進化法または部位特異的突然変異誘発を用いて、既知の酵素の変異体を単離するのに用いることができ、これは、それらの触媒活性のための新たな機会および適用を作り出すことができる。
【0036】
バチルス・メガテリウム由来のP450BM-3(例えば、Miura, Y., and Fulco, A. J. (1975) Biochim. Biophys. Acta 388, 305-317を参照)はシトクロムP450酵素のスーパーファミリーに属する。種々の遺伝子配列データベースには、P450酵素をコードする7,700以上の遺伝子が存在する。P450酵素の命名法は体系化されている。酵素のスーパーファミリーはCYPと呼ばれ、その後に酵素のファミリーを表す数が続く(したがって、CYP1、CYP51、CYP102など)。酵素は、アルファベットで表されるサブファミリーに分けられる(したがって、CYP1A、CYP101Bなど)。各サブファミリーのメンバーは番号で表される(したがって、CYP1A1、CYP3A4、CYP101D3など)。CYP酵素をコードする遺伝子は、イタリック体で示される。例えば、CYP101A1遺伝子という具合である。P450BM-3はCYP102A1と命名されており、すなわち、CYP102ファミリーの最初のメンバーである。以降、P450BM-3ではCYP102A1の体系名を使用する。
【0037】
CYP102A1(例えば、Miura, Y., and Fulco, A. J. (1975) Biochim. Biophys. Acta 388, 305-317を参照のこと)は、触媒的に自足しているため、生体内変換用途にとって魅力的な酵素である。P450モノオキシゲナーゼと電子伝達補因子タンパク質が別々の実体である他のP450酵素とは異なり、CYP102A1は、ジフラビン電子伝達レダクターゼドメインに融合したヘムモノオキシゲナーゼドメインを有しており、当該ジフラビン電子伝達レダクターゼドメインは、単一のポリペプチド中にFADおよびFMN補欠分子族の両方を含む。CYP102A1の天然基質は直鎖または分枝の中鎖脂肪酸であると考えられうる(例えば、Miura, Y., and Fulco, A. J. (1975) Biochim. Biophys. Acta 388, 305-317; Cryle, M. J., et al., (2006) Chem Commun, 2353-2355を参照のこと)。CYP102A1ヘムドメインの結晶構造は1993年に入手可能になり(例えば、Ravichandran, K. G., et al., (1993) Science 261, 731-736を参照のこと)、活性部位構造および基質アクセスチャネルの存在を明らかにした。結合した基質を有する結晶構造は基質結合時のF87の側鎖コンフォメーションの変化を示した(例えば、Li, H., and Poulos, T. L. (1997) Nature Struct. Biol. 4, 140-146)。
【0038】
バチルス・メガテリウム由来のCYP102A1は、脂肪酸をヒドロキシル化するための自足しかつ高効率の酵素である。CYP102A1の種々の変異体は、脂肪酸以外の小分子を、高まった活性で酸化することが発見されている。しかしながら、チエノピリジン化合物の複素環結合体の立体選択的合成には適用されていない。
【0039】
本発明のための実施形態を展開する過程の間に行われた実験は、肝臓ミクロソームを用いるよりもはるかに優れた収率で結合体のシス立体異性体を生成する方法を開発した。上記反応では、BM3変異体(0.1~1μM)、2‐オキソチエノピリジン、複素環式チオール、NADPHまたはNADHを含む細菌の細胞質ゾル画分を混合し、20~60分間インキュベートした。所望の複素環式チオールの存在下で、本方法は、シス立体配置を有する結合体を、反応混合物1リットル当たり100mgもの高い収率でのみ生成した。
【0040】
したがって、ある実施形態では、本発明は、CYP102A1の変異体を提供する。いくつかの実施形態では、CYP102A1の変異体が、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成する方法内で生体触媒として使用するために最適化される。実際、本明細書中に記載される実験は、CYP102A1のcDNAを再設計することによって、CYP102A1の最適化された遺伝子発現を生じた。再設計されたcDNAは細菌における過剰発現のためのコドン使用を最適化し、転写のための構造的障壁を除去する。最適化されたcDNAは配列番号3に示され、アフィニティ精製のためにN末端にhexaHisタグを含む1054アミノ酸残基をコードする。好ましい実施形態において、配列は、少なくとも20、好ましくは少なくとも30、例えば少なくとも40、60、100、200、300、400またはそれ以上の連続するアミノ酸にわたって、またはホモログの全配列にわたって、少なくとも55%、65%、80%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同であり得る。いくつかの実施形態では、CYP102A1生体触媒は、配列番号3の任意の長さにわたって、配列番号3との同一性パーセンテージを、上記の特定の相同性パーセンテージ値の任意の一つと同じだけ有してよい(すなわち、少なくとも40%、55%、80%または90%、より好ましくは少なくとも95%、97%または99%の同一性を有してよい)。
【0041】
相同配列は、CYP102A1配列(配列番号3)の変異部分を表してもよく、および/または生体触媒の全長融合ポリペプチドの形態で存在してもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、CYP102A1またはBM3変異体が、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2;図4B)と85%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2;図4B)と90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2;図4B)と95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、BM3の野生型アミノ酸配列(配列番号2;図4B)と99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号2内に以下のアミノ酸変異、A82F、L188Q、R47L、F87V、T365N、H116Q、K31T、S56R、A135S、V299D、I458F、P481H、およびW1046Aのうちの1つ以上を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、BM3変異体は、表2に列挙される変異の特定のセットを有するアミノ酸配列を含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも85%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも90%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも95%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号1(BM3の野生型cDNA、図4A)と少なくとも99%の相同性を有する核酸を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも85%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも90%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも95%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも99%の相同性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態では、BM3変異体が、配列番号3(変異体BM3 cDNA、図4C)と少なくとも100%の相同性を有する核酸を含む。
【0045】
本明細書に記載される相同タンパク質(すなわち、他のタンパク質に相同であると記載されるタンパク質)のいずれも、典型的には、関連するタンパク質に少なくとも40%相同である。相同性は、公知の方法を用いて測定することができる。例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用され得るBESTFITプログラムを提供する(例えば、そのデフォルト設定で使用される)(Devereux et al (1984) Nucleic Acids Research 12, 387-395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムを使用して、例えばAltschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300; Altschul, S, F et al (1990) J Mol Biol 215:403-10に記載されるように、相同性を計算するか、または配列を並べることができる(典型的にはそれらのデフォルト設定で)。
【0046】
本発明の変異体CYP102A1酵素の生体触媒活性または酵素活性は、典型的には本明細書に記載の基質または条件のいずれかを用いてインビトロで測定され、NADPH酸化速度、生成物形成速度およびカップリング効率として与えられる。速度はターンオーバー頻度であり、(nmol NADPH)(nmol CYP102A1)‐1(min)-1または(nmol生成物)(nmol CYP102A1)‐1(min)-1で与えられる。カップリング効率は、生成物形成に利用された、消費されたNADPHの割合、すなわち理論的最大効率の割合である。本発明のCYP102A1酵素(例えば、本発明の合成方法において使用される場合)は、典型的には少なくとも1%、例えば、少なくとも2%、4%、6%、10%、20%、40%、80%またはそれ以上のカップリング効率を有してよい。CYP102A1酵素(例えば、本発明の方法で使用される場合)は、典型的には少なくとも2min-1の生成物形成速度、例えば、少なくとも4、10、15、20、25、50、100、200、300、500、700、1000、2000min‐1またはそれ以上の生成物形成速度を有する。2つ以上の生成物が形成される場合(一般的な場合)、生成物形成速度は、形成される全ての酸化生成物の総量を表す。いくつかの実施形態では、特定の酸化生成物の生成物形成速度が測定される。すなわち、全ての酸化生成物が測定されるわけではない。
【0047】
本明細書中に記載される変異体CYP102A1生体触媒(配列番号3およびその変異体;表2に列挙される変異体のいずれか)は一般に、当該分野で公知の方法(例えば、酵素の部位特異的突然変異誘発、PCRおよび遺伝子シャッフリング方法)を使用することによって、または部位特異的突然変異誘発のサイクルにおける複数の突然変異誘発オリゴヌクレオチドの使用によって、野生型酵素に導入される。したがって、変異は、指向性またはランダムな方法で導入することができる。したがって、変異誘発方法は、1つ以上の異なる変異体をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを産生する。典型的には、変異酵素のライブラリを産生するために使用することができる変異遺伝子のライブラリが産生される。
【0048】
酵素は配列番号3および表2に特定される1つ以上の変異に加えて、1、2、3、4、5~10、10~20、20~40またはそれ以上の他の変異(例えば、置換、挿入または欠失)を有し得る。これらのさらなる変異は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の立体選択的かつ効率的な合成のための方法内で、生体触媒活性を増強し得るか、または増強し得ない。挿入は、典型的にはNおよび/またはC末端である。したがって、酵素は例えば、20アミノ酸までの短いペプチド、または末端のいずれかもしくは両方に融合された全長タンパク質を含むことで、アフィニティクロマトグラフィーまたは固体マトリックス上での固定化によるタンパク質精製を補助することができる。欠失は、典型的には触媒作用に関与しないアミノ酸(例えば、活性部位の外側のアミノ酸)の欠失を含む(したがって、酵素は、天然に存在する酵素の変異断片である)。
【0049】
チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成する方法内で使用される場合、本発明の変異体CYP102A1生体触媒は、そのような生体触媒を利用しない方法に関して、立体選択的かつ効率的な合成を生じる。変異体CYP102A1生体触媒によって触媒される酸化プロセスのための基質は任意の有機化合物であり、より典型的には、モノオキシゲナーゼ酵素によって酸化され得る任意の有機化合物である。酸化プロセスは一般に、化合物内に、炭素-水素結合の酸化に由来するアルコールとしてC-O結合を形成するが、エポキシドはC=C結合の酸化から形成されてよい。したがって、酸化は、アルコール、アルデヒド、ケトンまたはエポキシド基を導入してよい。あるいは、酸化が、酸素含有基のさらなる酸化(例えば、アルコール基をアルデヒドまたはケトンに変換)を引き起こしてもよい。1個、2個、またはそれ以上の炭素原子が同じ基質分子中で攻撃されてもよい。酸化はまた、基質分子のN‐およびO‐脱アルキル化をもたらし得る。
【0050】
酸化は、典型的には1個、2個またはそれ以上の酸化生成物を生じさせる。これらの異なる生成物は、攻撃される異なる炭素原子から、および/または所与の炭素原子で生じる異なる酸化度から生じ得る。
【0051】
酸化は、環式炭素原子または置換基炭素原子のいずれか、またはその両方で起こり得る。少なくとも最初の酸化は、活性化されていても活性化されていなくてもよいC‐H結合の攻撃、または炭素‐炭素二重結合の攻撃(典型的にはエポキシドを与える)を含む。一般に、活性化C‐H結合は、炭素原子がベンジルまたはアリル位にある場合である。芳香族環およびオレフィン二重結合は、C‐H結合を活性化して、ラジカル中間体を安定化するか、または反応経路の間に生成される電荷の任意の生成を安定化することによって攻撃する。C‐H結合の炭素は、第一級、第二級または第三級であってもよい。酸化は、酸素原子の導入ではなく、C=C二重結合の生成をもたらす脱水素化をもたらすように起こり得る。これは、アルキル置換基が分岐しているか、または脱水素化が芳香族系に結合するC=C結合をもたらすか、または脱水素化が芳香族系の形成をもたらす場合に最も起こりやすい。このプロセスは、典型的には変異体CYP102A1酵素、基質、およびNADPHまたはNADHおよび二原子酸素である酵素の天然補因子の存在下で行われる。
【0052】
いくつかの実施形態において、変異体CYP102A1酵素(配列番号3およびその変異体;表2に列挙される変異体のいずれか)は、細胞内で発現される。典型的には、上記細胞は、変異体CYP102A1酵素(配列番号3;表2)または野生型CYP102A1が天然に存在しないものである。別の実施形態において、変異体CYP102A1酵素(配列番号3;表2)は、野生型CYP102A1が天然に存在するが、天然に存在するレベルよりも高いレベルで存在する細胞において発現される。上記細胞は、本発明の1、2、3、4またはそれ以上の異なる変異体CYP102A1酵素を産生し得る。
【0053】
上記細胞は原核生物であっても真核生物であってもよく、一般に、本明細書で言及される細胞のいずれか、または生物のいずれかである。好適な細胞は大腸菌、Pseudomonas sp、フラボバクテリアまたは真菌細胞(例えば、アスペルギルスおよび酵母、特にPichia sp.)である。Rhodococcus sp.およびBacillus sp.もまた、本発明にしたがって使用することが意図される。上記細胞はその天然に存在する形態において、基質のいずれかを酸化することができ、または本明細書に記載の酸化生成物のいずれかを生成することができるものであってもなくてもよい。典型的には、上記細胞は、実質的に単離された形態および/または実質的に精製された形態であり、この場合、上記細胞は一般に、細胞または調製物の乾燥質量の少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、98%または99%)を含む。
【0054】
上記細胞は、典型的には本発明の変異体CYP102A1酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入する(すなわち、細胞を当該ベクターで形質転換する)ことによって産生される。ヌクレオチドコードの縮重のために、2つ以上のポリヌクレオチドが、本発明の変異体CYP102A1酵素の各々をコードし得ることを理解されたい。ヌクレオチド配列は、特定の細胞または生物に適切なコドンバイアスを示すように組換えられ得ることも理解されたい。ベクターは、細胞のゲノムに組み込まれるか、または染色体外にとどまることができる。細胞は、以下に議論される動物または植物に発達し得る。典型的には、ポリヌクレオチドのコード配列は、宿主細胞によるコード配列の発現を提供することができる制御配列に作動可能に連結される。制御配列は一般にプロモーターであり、典型的にはモノオキシゲナーゼが発現される細胞のものである。
【0055】
用語「作動可能に連結された」は、記載された諸成分が、それらが意図された様式で機能することを可能にする関係にある並置をいう。コード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合する条件下で達成されるような様式で連結されている。
【0056】
ベクターは、典型的にはトランスポゾン、プラスミド、ウイルスまたはファージベクターである。それは典型的には複製起点を含む。それは、典型的には1つ以上の選択マーカー遺伝子、例えば、細菌プラスミドの場合にはアンピシリン耐性遺伝子を含む。ベクターは、典型的にはリン酸カルシウム沈殿、DEAE‐デキストラントランスフェクション、またはエレクトロポレーションを含む従来の技術を用いて宿主細胞に導入される。
【0057】
したがって、本発明は、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を、遺伝子組換え生体触媒を用いて効率的に合成する方法、すなわち、還元剤(例えば、NADPHまたはNADH)および触媒としてのシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の上記の遺伝子組換え変異体の存在下で、2‐オキソチエノピリジンおよび複素環式チオールを混合することによって、チエノピリジン化合物の高度な光学活性を有する混合ジスルフィド結合体を調製するシングルステップのプロセスに関する。
【0058】
ある実施形態において、本発明は、変異体CYP102A1(BM3)酵素(配列番号3;表2)を生体触媒として使用する、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の立体選択的かつ効率的な合成方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、以下の反応スキームに示されるプロセスを含む:
【0059】
【化4】
【0060】
合成反応は、上記の反応スキームに示されるように、還元剤NADPHまたはNADH、および生体触媒としての変異体CYP102A1(BM3)酵素(配列番号3;表2)の存在下で、反応物2‐オキソチエノピリジンおよび複素環式チオールを混合することによって進行する。この反応は、特別な反応器および装置を必要とせず、化学合成に通常必要とされる高温および高圧も必要としない。反応は60分未満で、周囲温度(例えば、室温)において完了する。
【0061】
いくつかの実施形態において、該反応はBM3変異体(0.1~1μM)、2‐オキソチエノピリジン、複素環式チオール、およびNADPHまたはNADHを含む細菌細胞質ゾル画分を混合し、続いて20~60分間インキュベートすることを含む。所望の複素環式チオールの存在下で、この方法は、シス立体配置を有する結合体を、反応混合物1リットル当たり100mgもの高い収率でのみ生成する。
【0062】
このような方法は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含む実質的に鏡像異性的に純粋な組成物および薬学的組成物の合成をもたらす。実際、本方法は、上記結合体のシス立体異性体形態を高収率で生成することができる。
【0063】
反応スキーム内で、複素環式チオールは、R3の特定の化学部分に限定されない。いくつかの実施形態では、R3は、内因性グルタチオン(GSH)(例えば、抗血小板活性を有する活性チエノピリジン代謝物)との相互作用の際に、得られる化合物が活性チエノピリジン代謝物を産生することができるようにする任意の化学部分である。いくつかの実施形態では、R3は、得られる化合物が、患者の心血管障害(例えば、冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患)であって、抗血小板剤(クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレルなど)に反応する心血管障害を治療、改善、または予防することができるようにする任意の化学部分である。いくつかの実施形態において、R3は、例えば、ADP受容体をブロックすることによって血小板膜の機能を変化させることによって(例えば、それによって、血小板がフィブリノーゲンに結合することを可能にする糖タンパク質IIb/IIIaのコンフォメーション変化を妨げることによって)、得られる化合物に血小板凝集を阻害させるようにする任意の化学的部分である。いくつかの実施形態では、R3は、P2Y12受容体に不可逆的に結合することによって、得られる化合物が血小板の凝集(「クランピング」)を低減させることができるようにする任意の化学部分である。
【0064】
複素環式チオール部分(R3)の例としては表1に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
【表1】
【0066】
いくつかの実施形態では、R3は、
【0067】
【化5】
【0068】
から選択される。
【0069】
シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を触媒として利用するこのような方法で生成されたチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、結合体のシス立体異性体の生成が先行技術の方法よりも高い収率で成されると予想されるので、薬物開発および生成のための結合体の大規模合成の必要性を満たすと考えられる。さらに、反応は、短い反応時間で、周囲温度および大気圧で行われる。合成された結合体が容易に入手可能であり、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を抗血小板剤として使用することは、毒性の反応性代謝物がチオール交換反応によって生成されないので、毒性を低下させると考えられる。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の治療発生時間が短縮され、急性心血管イベントを経験する患者に非常に有益であると考えられる。クロピドグレルの標準的なレジメンでは、摂取されたクロピドグレルのごく一部が活性代謝物に変換されるにすぎないため、患者に3~5日間連続投与する必要がある。対照的に、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、30分未満で高い収率で活性代謝物を放出することができると考えられる。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は活性代謝物よりも優れた安定性を有し、したがって、それらはインビトロでの基礎的および臨床研究のための活性代謝物を定量的に生成するために使用され得ると考えられる。
【0070】
本発明はさらに、抗血小板剤(クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレルなど)に応答するものなど、患者における心血管障害を治療、改善、または予防する方法であって、チエノピリジン化合物のこのような混合ジスルフィド結合体(例えば、触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を利用する方法で生成されたもの)を患者に投与することを含む方法に関する。このような障害には冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、例えば、ADP受容体をブロックすることによって血小板膜の機能を変化させることによって(例えば、それによって、血小板がフィブリノーゲンに結合することを可能にする糖タンパク質IIb/IIIaのコンフォメーション変化を妨げることによって)、血小板凝集を阻害するために使用される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体がP2Y12受容体に不可逆的に結合することによって血小板の凝集(「クランピング」)を低減する。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は静脈内(IV)投与のために構成された医薬組成物内で使用される(例えば、抗血小板剤のIV投与を必要とする医学的状況(例えば、冠状動脈形成術)において)。
【0071】
いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を利用する方法で生成される)は、動物(例えば、ヒトおよび家畜動物を含むがこれらに限定されない哺乳動物患者)における心血管障害、例えば抗血小板剤(例えば、クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレル)に応答する心血管障害を治療、改善、または予防するために用いられ、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を患者に投与することを含む。このような障害には、冠動脈疾患、末梢血管疾患、アテローム血栓症、および脳血管疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。実際、いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を触媒として利用する方法で生成される)を使用して、血小板凝集を低減させ、および/または血栓形成を阻害する。この点に関して、このような疾患および症状は、本発明の方法およびチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を使用する治療又は予防の影響を受けやすい。
【0072】
いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を触媒として利用する方法で生成される)は、症候性アテローム性動脈硬化の患者における血管虚血イベントの予防に使用される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、STセグメント上昇を伴わない急性冠症候群を治療または予防するために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、冠状動脈内ステントの配置後の血栓症の予防のために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、例えば、ADP受容体をブロックすることによって血小板膜の機能を変化させることによって(例えば、それによって、血小板がフィブリノーゲンに結合することを可能にする糖タンパク質IIb/IIIaのコンフォメーション変化を妨げることによって)、血小板凝集を阻害するために使用される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、P2Y12受容体に不可逆的に結合することによって、血小板の凝集(「クランピング」)を低減する。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、出血時間を延長するために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、高リスク患者における脳卒中の発生率を低下させるために使用される。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明は、静脈内(IV)投与用に構成されたチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を利用する方法で生成された)を含む薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与のために構成されたチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むこのような薬学的組成物は、アテローム血栓症の治療、改善および予防において使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与のために構成されたチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むこのような薬学的組成物は、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与のために構成されたチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むこのような薬学的組成物は、経皮的冠状動脈インターベンション手順(例えば、冠状動脈形成術)の間に、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。実際、抗血小板療法はアテローム血栓症の予防と治療の基本である。アテローム血栓症の発症には、プラーク破綻、及びステントによる圧迫ストレスなどのアゴニストによる血小板活性化が重要な役割を果たしている。患者が急性心血管症候群に罹患したり、経皮的心血管インターベンションを受けたりする特定の臨床状況下では、心血管死および虚血性合併症を予防するために、血小板凝集の迅速かつ完全な阻害が必要である。このような医療シナリオでは、作用発現時間の短い抗血小板剤の静脈内投与が必要である。しかしながら、現在使用されている抗血小板剤は遅い作用発現時間を有するか、または静脈内投与できないかのいずれかであるため、これは未だ満たされていない医学的必要性である(例えば、Silvain, J., and Montalescot, G., (2012) Circ. Cariovasc. Interv. 5: 328-331を参照のこと)。本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、このような化合物が経口および静脈内の両方で投与され得、そして作用発現時間が短いので、この満たされていない医学的必要性を満たす。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を利用する方法を用いて生成される)を有効量、および少なくとも1つの追加の治療薬剤(心血管障害を治療、改善、または予防することが知られている治療薬剤を含むが、これらに限定されない)、ならびに/または治療技術(例えば、外科的介入)を投与するための方法を提供する。心血管障害を治療、改善、または予防することが知られている多くの治療薬剤を、本発明の方法で使用することが意図される。実際、本発明は心血管障害を治療、改善、または予防することが知られている多数の治療薬剤の投与を意図するが、これらに限定されない。例としては、HMG‐CoA還元酵素阻害剤(例えば、アトルバスタチン(リピトール)、プラバスタチン(プラバコール)、シンバスタチン(ゾコール)、ロスバスタチン(クレストール)、ピタバスタチン(リバロ)、ロバスタチン(メバコール、アルトコール)、フルバスタチン(レスコール))、ACE阻害剤(例えば、ラミプリル(アルテース)、キナプリル(アキュプリル)、カプトプリル(カポテン)、エナラプリル(バソテック)、リシノプリル(ゼストリル))、カルシウムチャネル遮断剤(例えば、アムロジピン(ノルバスク)、ニフェジピン(プロカルディア)、ベラパミル(カラン)、フェロジピン(プレンジル)、ジルチアゼム(カルディゼム))、血小板凝集阻害剤(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル以外)(例えば、アブシキシマブ(レオプロ)、アスピリン、ワルファリン(クマディン)、ヘパリン)、ポリ不飽和脂肪酸(例えば、オメガ‐3ポリ不飽和脂肪酸(フィッシュオイル))、フィブリン酸誘導体(例えば、フェノフィブラート(トライコア))、ゲムフィブロジル(ロピド))、胆汁酸金属イオン封鎖剤(例えば、コレスチポール(コレスチド)、コレスチラミン(クエストラン))、酸化防止剤(例えば、ビタミンE)、ニコチン酸誘導体(例えば、ナイアシン(ナイアスパン))、血栓溶解剤(例えば、アルテプラーゼ(アクチバーゼ))、および抗狭心症薬(例えば、ラノラジン(ラネクサ))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、触媒としてシトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を利用する方法を用いて生成される)および1つ以上の追加の治療薬剤が以下の条件:異なる周期で、異なる持続時間で、異なる濃度で、異なる投与経路によってなど、のうちの1つ以上の下で患者に投与される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、追加の治療薬剤の前に投与される。例えば、追加の治療薬剤の投与の0.5、1、2、3、4、5、10、12、または18時間前、1、2、3、4、5、または6日前、または1、2、3、または4週前に投与される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、追加の治療薬剤の後に投与される。追加の治療薬剤の投与の0.5、1、2、3、4、5、10、12、または18時間、1、2、3、4、5、または6日、または1、2、3、または4週間後に投与される。いくつかの実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体および追加の治療薬剤が並行して、しかし異なるスケジュールで投与され、例えば、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は毎日投与され、一方、追加の治療薬剤は週に1回、2週に1回、3週に1回、または4週に1回投与される。他の実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は週に1回投与され、一方、追加の治療薬剤は毎日、週に1回、2週に1回、3週に1回、または4週に1回投与される。
【0076】
本発明の範囲内の組成物は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体(例えば、シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体を触媒として利用する方法で生成される)が、その意図した目的を達成するのに有効な量が含まれる全ての組成物を含む。個々の必要性は変化するが、各成分の有効量の最適範囲の判断は当技術分野の技術の範囲内である。典型的には、化合物は、哺乳動物に、例えばヒトに、アポトーシスの誘導に応答する障害について治療される哺乳動物の体重の1日当たり、0.0025~50mg/kgの用量、または薬学的に許容されるその塩を同等量、経口投与してよい。1つの実施形態において、約0.01~約25mg/kgが、このような障害を治療、改善、または予防するために経口投与される。筋肉内注射の場合、投与量は一般に経口投与量の約1/2である。例えば、適切な筋肉内用量は、約0.0025~約25mg/kg、または約0.01~約5mg/kgである。
【0077】
単位経口用量は約0.01~約1000mg、例えば、約0.1~約100mgのチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含んでよい。単位用量は、それぞれ約0.1~約10mg、便宜上約0.25~50mgの化合物またはその溶媒和物を含有する1つ以上の錠剤またはカプセルとして、1日1回以上投与してよい。
【0078】
局所製剤において、化合物は、担体1グラム当たり約0.01~100mgの濃度で存在してよい。一実施形態では、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、約0.07~1.0mg/ml、例えば約0.1~0.5mg/ml、一実施形態では約0.4mg/mlの濃度で存在する。
【0079】
チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を原料化学物質として投与することに加えて、本発明の化合物は、適切な薬学的に許容できる担体を含む医薬製剤の一部として投与してよい。上記薬学的に許容できる担体は、化合物を薬学的に使用され得る製剤へと加工するのを容易にする賦形剤および助剤を含む。製剤、特に、経口または局所投与することができ、1つのタイプの投与に用いることのできる製剤(例えば、錠剤、糖衣錠、徐放性ロゼンジおよびカプセル、口内洗浄剤、うがい薬、ゲル、液体懸濁液、ヘアリンス、ヘアジェル、シャンプー)、ならびに直腸投与することができる製剤(例えば、坐剤)、ならびに静脈内注入、注射、局所または経口投与による投与に適した溶液は、賦形剤とともに、約0.01~99パーセント、一実施形態では約0.25~75パーセントの活性化合物を含有する。
【0080】
本発明の薬学的組成物は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の有益な効果を経験し得る任意の患者に投与され得る。このような患者の中で最も重要なのは、哺乳類、例えば、ヒトである。しかし、本発明はそのように限定されることを意図しない。その他の患者としては、家畜動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ等)が挙げられる。
【0081】
化合物およびその薬学的組成物は、それらの意図される目的を達成する任意の手段によって投与されてもよい。例えば、投与は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、口腔内、くも膜下、頭蓋内、鼻腔内または局所経路で行われてもよい。代わりにまたは並行して、投与は経口経路によるものであってもよい。投与される用量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、並行する治療の種類、必要に応じて、治療の頻度、および所望の効果の性質に依存する。
【0082】
本発明の医薬製剤は、例えば、従来の混合、顆粒化、糖衣錠製造、溶解、または凍結乾燥処理により周知の方法で製造される。したがって、経口使用のための医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と組み合わせ、任意で、得られた混合物を粉砕し、所望または必要であれば、適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理することによって、錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。
【0083】
好適な賦形剤は特に、充填剤、例えば、糖類(例えば、ラクトースまたはスクロース)、マンニトールまたはソルビトール、セルロース調製物および/またはリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウム)、ならびに結合剤、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンを使用するデンプンペーストである。所望ならば、たとえば前記デンプンおよびカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)などの崩壊剤を添加できる。助剤はとりわけ、流量調節剤および滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールである。糖衣錠コアは、所望であれば、胃液に対して耐性のある任意の適切なコーティングが施される。この目的のために、濃縮糖質溶液が使用でき、この溶液は任意で、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液及び適当な有機溶媒又は溶媒混合物を含んでいてもよい。胃液に対して耐性のあるコーティングを生成するために、適切なセルロース調製物(例えば、アセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチル‐セルロースフタレート)の溶液が使用される。顔料または色素は、例えば、識別のために、または活性化合物用量の組み合わせを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに添加されてもよい。
【0084】
経口で使用できるその他の医薬製剤には、ゼラチン製の押し込み型カプセル(push-fit capsules)及びゼラチン及びグリセリン又はソルビトールなどの可塑剤で製造された軟質密閉カプセルが挙げられる。押し込み型カプセルは粒状の活性化合物を含むことができ、当該粒状の活性化合物はラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤および/またはタルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑剤、ならびに任意で安定剤と混合してもよい。軟質カプセルでは、活性化合物が一実施形態では脂肪油、または流動パラフィンなどの適切な液体に溶解または懸濁される。さらに、安定剤を添加してもよい。
【0085】
直腸に使用することができる可能な医薬製剤として、例えば、1つ以上の活性化合物と坐剤基剤との組み合わせからなる坐剤が挙げられる。適切な坐剤基剤は、例えば、天然または合成トリグリセリド、またはパラフィン炭化水素である。さらに、活性化合物と基剤との組合せからなるゼラチン直腸カプセルを使用することも可能である。可能な基剤材料としては、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン炭化水素が挙げられる。
【0086】
非経口投与に適した製剤として、水溶性形態の活性化合物の水溶液、例えば、水溶性塩およびアルカリ性溶液が挙げられる。さらに、適切な油性注射懸濁液として活性化合物の懸濁液が投与されてもよい。適切な親油性溶媒または媒体として、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドまたはポリエチレングリコール‐400が挙げられる。水性注射懸濁液は懸濁液の粘度を増加させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、および/またはデキストランを含み得る。任意で、懸濁液は安定剤を含んでよい。
【0087】
本発明の局所用組成物は、一実施形態において、適当な担体の選択により、オイル、クリーム、ローション、軟膏などとして製剤化される。好適な担体としては、植物油または鉱油、白色ワセリン(白色軟パラフィン)、分枝鎖脂肪または油、動物性脂肪および高分子量アルコール(C12より大きい)が挙げられる。担体は、活性成分が可溶性であるものであってもよい。所望であれば、乳化剤、安定剤、保湿剤および酸化防止剤、ならびに着色または芳香を付与する薬剤が含まれてもよい。さらに、経皮浸透増強剤をこれらの局所製剤に使用することができる。このような増強剤の例は、米国特許第3,989,816号および4,444,762号に見出すことができる。
【0088】
軟膏は、アーモンド油などの植物油中の活性成分の溶液を温かい軟質パラフィンと混合し、この混合物を冷却させることによって製剤化してもよい。そのような軟膏の典型的な例は、約30重量%のアーモンド油および約70重量%の白色軟パラフィンを含むものである。ローションは、活性成分を、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどの適切な高分子量アルコールに溶解することによって都合よく調製することができる。
【0089】
当業者であれば、上記が本発明の特定の好ましい実施形態を詳細に説明したに過ぎないことを容易に認識するであろう。上記の組成物および方法の種々の改変および変更を、当該分野で利用可能な専門知識を使用して容易に行うことができ、そうした種々の改変および変更は本発明の範囲内である。
【0090】
〔実験〕
〔実施例1〕
本実施例は、チエノピリジン化合物の複素環結合体の立体選択的合成を記載する。
【0091】
以下の合成反応スキーム:
【0092】
【化6】
【0093】
は、反応物2-オキソチエノピリジンと複素環式チオールを、還元剤NADPHまたはNADHおよび触媒BM3の存在下、混合することによって進行させた。この反応は、特別な反応器および装置を必要とせず、化学合成に通常必要とされる高温および高圧も必要としなかった。反応は60分未満で、周囲温度において完了した。表1に示される以下を含むが、これらに限定されない範囲の複素環式チオールを試験した。
【0094】
【表2】
【0095】
図1は、クロピドグレルと5つの代表的な化合物との混合ジスルフィド結合体の形成についてのHPLC分析の結果を示す。後者の「S」は反応物(±)‐2‐オキソ‐クロピドグレルの溶出ピークを表し、アスタリスクは、それぞれのチオールを有する観察された立体異性体生成物を表す。予想通り、NADPHが存在しない対照試料では、254nmにおいて2‐オキソクロピドグレルのみが検出された。NADPHの存在下ではアスタリスクによってマークされた生成物ピークが観察され、これは上記の合成反応スキームに例示されるような生成物の形成を示す。非環状チオールの存在下での(±)‐2‐オキソ‐クロピドグレルの代謝はトランスおよびシス対の両方を含む2対の生成物ピークを生じることが以前に報告されている(例えば、Zhang, H., Lauver, D. A., and Hollenberg, P. F. (2014) Thromb. Haemost. 112, 1304-1311を参照のこと)。上記の合成反応スキームに示されるように、グルタチオン(GSH)の存在下で、2‐オキソ‐クロピドグレルが吸収しない350nmにおいて4つの立体異性体が観察された。4つの立体異性体のうちの2つは、2-オキソ-クロピドグレルと共溶出した。複素環式チオールの試験セットにおいて、単一または一対の生成物ピークのみが観察され、これは、以前に実証されたように、反応がシス生成物に対して立体選択的であることを示す(例えば、Zhang, H., Lauver, D. A., and Hollenberg, P. F. (2014) Thromb. Haemost. 112, 1304-1311を参照のこと)。X線結晶学による構造解析もシスコンフォメーションを確認した。立体選択性は3-TMTと5-TMPの場合でも実証された。2つの複素環式チオールは、‐CF3基の位置を除いて同一であった。しかしながら、3-TMTの存在下では、生成物の量が、5‐TMPの存在下のそれよりも10倍以上多かった。
【0096】
図2は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生成物のHPLC分析を示す。反応は、(±)‐2‐オキソクロピドグレル、複素環式チオール、ラットLMおよびNADPHを25℃で20分間混合することにより行った。
【0097】
対照的に、ラット肝臓ミクロソーム(LM)における合成の収率は、表1に列挙される全ての試験化合物についてBM3よりも有意に低い。例えば、NPTおよびQTの場合、生成物の量は、図1に示すように、BM3と比較して、ラットLMの方が10倍以上少ない。BM3における合成は、収率および立体選択性に関してラットLMよりも優れていることが明らかである。定量分析は、図3に示されるように、1リットルの反応混合物から~80mgのNPT結合体が生成され得ることを示す。
【0098】
〔実施例II〕
本実施例は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の合成の生産性を高めるためのBM3変異体の遺伝子組換えを記載する。
【0099】
<細菌細胞におけるBM3の過剰発現の改善。>
BM3のcDNAを再設計することによりBM3の遺伝子発現を最適化する実験を行った。再設計されたcDNAは細菌における過剰発現のためのコドン使用を最適化し、転写のための構造的障壁を排除した。シトクロムP450 BM3またはCYP102A1の遺伝子組換え変異体のための最適化されたcDNAを図4に示し、必要であれば、アフィニティ精製のためにN末端にhexaHisタグを含む1054アミノ酸残基をコードする。
【0100】
<細菌細胞におけるBM3の過剰発現。>
BM3のcDNAをpCWori、pET28、pLW01などの種々のベクターにクローニングした後、BL21(DE3)、C41(DE3)、Topp3、DH5αを含む種々の細菌細胞内の構築したプラスミドからBM3を過剰発現させる実験を行った。プラスミドをこれらの細胞に形質転換し、0.6mMイソプロピルβ‐D‐1‐チオガラクトピラノシドによる誘発後、アンピシリンの存在下、30℃で16時間、テリックブロス培地中で発現させた。細胞培養物1リットル当たり0.5~1gのBM3タンパク質で高レベルの発現が達成された。結合体の合成には、細菌細胞の細胞質ゾル画分のみが必要であり、クロマトグラフィによってBM3を精製する必要はなかった。
【0101】
<チエノピリジンと複素環式チオールとの混合ジスルフィド結合体の合成活性が増強されたBM3変異体。>
BM3の天然基質は長鎖脂肪酸であり、したがって、小分子薬物に対してほとんど活性を示さない。したがって、BM3を部位特異的突然変異誘発および指向性進化法によって組換えて、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を合成するためのBM3変異体を選択した。
【0102】
BM3変異体のライブラリをスクリーニングした後、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の合成に対して活性を示す「s」個のBM3変異体を同定する実験を行った。これらの変異体を表2に列挙する(図4Bに示した野生型アミノ酸配列の変異体)。活性を変異体M1の活性に正規化した。これらの変異体のうち7つは、表3に示すように、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の合成に対する活性を示す。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
〔実施例III〕
本実施例は、種々の形態のCYP102A1の構築、過剰発現、および精製を記載する。
【0106】
全長CYP102A1 A82F変異遺伝子をコードするcDNA配列は、Blue Heron
Biotechnology(Bothell, WA)によって合成された。次いで、コード領域を、一対のNdeI/NotI制限部位を用いてpCWoriベクターにクローニングした。精製を容易にするために、開始コドンATGの後のN末端にヘキサ‐Hisタグ(6×Histag)配列を導入して、pCW‐CYP102A1A82F6×Hisのプラスミドを構築した。鋳型DNAとしてのpCW‐CYP102A1A82F6×Hisおよび一対のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、切断型およびFLAG標識CYP102A1を構築した。
【0107】
全ての形態のCYP102A1構築物は、0.1mg/mLアンピシリンの存在下でC41(DE3)細胞において過剰発現された。簡単に述べると、所望の遺伝子を含むpCWoriプラスミドで形質転換されたC41(DE3)細胞からの単一コロニーを50mlのルリア‐ベルタニ(LB)培地に接種し、培養物を30℃/180rpmで一晩増殖させた。10mLのLB培養物のアリコートを使用して、1Lのテリックブロス(TB)培地に接種した。TB培地を6時間培養させ、CYP102A1の過剰発現を、0.6mMイソプロピルβ‐D‐1‐チオガラクトピラノシド(IPTG)および0.5mMδ‐アミノレブリン酸の添加によって誘導した。誘導された細胞を、30℃で16時間増殖させ続け、次いで、2,500gで25分間の遠心分離によって回収した。全てのタンパク質を、以前に報告されたように、Histrap HPカラム(5mL、GE Health Sciences)で精製した(例えば、Zhang, H., et al., (2013) Biochemistry 52, 355-364を参照のこと)。精製したタンパク質を、PD‐10カラム(GE Health Sciences)を用いて0.1M KPi/15%グリセロール緩衝液(pH7.4)に脱塩し、使用まで-80℃でアリコートで保存した。
【0108】
本発明を完全に説明してきたが、本発明の範囲またはその任意の実施形態に影響を及ぼすことなく、広範かつ同等の範囲の条件、製剤、および他のパラメータ内で同じことを実施可能であることが、当業者には理解されよう。本明細書に引用された全ての特許、特許出願および刊行物は、その全体が参照により本明細書に完全に援用される。
【0109】
〔文献の援用〕
本明細書で参照される特許文献および科学論文のそれぞれの開示内容全体が、あらゆる目的のために参照により援用される。
【0110】
〔均等物〕
本発明は、その思想または本質的特性から逸脱することなく、他の特定の形態で実施されてもよい。したがって、前述の実施形態は、本明細書に記載された本発明を限定するのではなく、すべての点で例示的であると見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は前述の記載によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の均等性の意味および範囲内に入るすべての変更はその中に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生成物のHPLC分析。反応は、2‐オキソクロピドグレル、複素環式チオール、BM3およびNADPHを25℃で20分間混合することにより行った。次いで、1%ギ酸を含有する等容量のアセトニトリルで反応を停止させた。5μlの反応混合物のアリコートをHPLCによって分析した。「S」として示される二重ピークはrac‐2‐オキソクロピドグレルの2つの立体異性体であり、一方、アスタリスクによって示されるピークは、予想される生成物を表す。溶出は254nmで観察された。
図2】クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生成物のHPLC分析。反応は、(±)‐2‐オキソクロピドグレル、複素環式チオール、ラットLMおよびNADPHを25℃で20分間混合することにより行った。
図3】BM3の存在下でのClopNPTの合成の収率。反応は25℃で行った。
図4A】野生型B.メガテリウムシトクロムP‐450:NADPH‐P‐450レダクターゼ遺伝子の1541~4690の野生型cDNA(例えば、アクセッションJ04832を参照のこと)(配列番号1)。
図4B】B.メガテリウムシトクロムP‐450:NADPH‐P‐450レダクターゼ遺伝子についての野生型アミノ酸配列(例えば、アクセッションJ04832を参照のこと)(配列番号2)。
図4C】シトクロムP450 BM3またはCYP102A1(配列番号3)の遺伝子組換え変異体の最適化されたcDNA。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C(1-2)】
図4C(2-2)】
【配列表】
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