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特開2024-41916人工的に構築されたRNA編集酵素による部位特異的RNA編集および関連使用
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  • 特開-人工的に構築されたRNA編集酵素による部位特異的RNA編集および関連使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041916
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】人工的に構築されたRNA編集酵素による部位特異的RNA編集および関連使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20240319BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240319BHJP
   C12N 9/78 20060101ALI20240319BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240319BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240319BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240319BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N15/63 Z ZNA
C12N9/78
C12N15/62
C07K19/00
C12N9/10
C12N15/54
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003552
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2021560203の分割
【原出願日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】201910277423.0
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521438021
【氏名又は名称】シャンハイ インスティチュート オブ ニュートリション アンド ヘルス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ワン ヅァフォン
(72)【発明者】
【氏名】ハン ウェンジャン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有効に遺伝子を編集することができる人工的に構築されたRNA編集酵素、ならびに前記酵素による部位特異的RNA編集および関連使用を提供する。
【解決手段】本発明の第一の側面では、RNA編集酵素であって、
(a)編集されるRNA配列のRNA認識配列を認識し、前記のRNA認識配列に結合するためのRNA認識ドメインと、
(b)編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うための機能ドメインとを含み、
ここで、前記のRNA認識ドメインと前記の機能ドメインは操作可能に連結している酵素
を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA編集酵素であって、
(a)編集されるRNA配列のRNA認識配列を認識し、前記RNA認識配列に結合するためのRNA認識ドメインと、
(b)編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うための機能ドメインとを含み、
ここで、前記RNA認識ドメインと前記機能ドメインとは操作可能に連結していることを
特徴とするRNA編集酵素。
【請求項2】
前記機能ドメインは、ADARファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメイン、APOBECファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメイン、RNAメチル化酵素、RNA脱メチル化酵素、シュードウリジンシンターゼ、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項3】
前記RNA認識ドメインはn個の認識ユニットを含有し、前記各認識ユニットは一つのRNA
塩基を認識するために用いられるもので、ここで、nは5~30の正整数であることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項4】
前記RNA編集酵素は、さらに、連結ペプチド、タグ配列、シグナルペプチド配列、局在
化ペプチド配列、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる一つまたは複数のエレメントを含むことを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項5】
前記RNA編集酵素はRNA認識ドメインおよび機能ドメイン、ならびに任意に連結ペプチド、タグ配列、シグナルペプチド配列および/または局在化ペプチド配列を含むことを特徴
とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項6】
前記RNA編集酵素の構造は下記式I~式IVで表されることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素:
D-L2-A-L1-B (I);
D-L2-B-L1-A (II);
A-L1-B-L2-D (III);
B-L1-A-L2-D (IV)。
(式中において、各「-」は独立に連結ペプチドまたはペプチド結合である。
AはRNA認識ドメインである。
Bは機能ドメインである。
L1およびL2はそれぞれ独立になしか、連結ペプチドである。
Dはなしか、局在化ペプチドである。)
【請求項7】
前記ADARファミリーのメンバーは、dADAR、ADAR1、ADAR2、TadA、及びこれらの組み合
わせを含むことを特徴とする請求項2に記載のRNA編集酵素。
【請求項8】
請求項1に記載のRNA編集酵素をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項10】
請求項1に記載のRNA編集酵素、または請求項8に記載のポリヌクレオチド、または請求
項9に記載のベクター、前記宿主細胞の使用であって、
(a)遺伝子治療の薬物または製剤、ならびに/あるいは
(b)RNAを編集する試薬
の製造に使用されることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の分野に属し、具体的に、人工的に構築されたRNA編集酵素による部位
特異的RNA編集および関連使用に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAは、生体内において最も重要な遺伝物質である。現在、既知の人類の疾患のうち、
大半は遺伝の突然変異によるもので、一塩基突然変異はそのうちの最も多い種類である。そのため、ゲノムにおける一つの塩基の配列を改変し、効率的に、正確に病原性一塩基突然変異を修復する方法の開発は、遺伝病の研究と治療において、非常に有意義なことである。
【0003】
現在の一塩基突然変異による疾患に対する遺伝子治療策は、主に、DNAまたはRNAレベルにおいて突然変異した遺伝子を直接修復または置換することにより、疾患を治療するものである。主な方法は、CRISPR技術に基づいたDNAに対する塩基編集システムABEとCBEがあ
り、これらの技術はいずれもある程度塩基編集ができるが、足りない所もたくさんある。
【0004】
(1)現在のCRISPRを介する塩基編集システムは、正確性が足りず、一塩基編集の効率
が低く、一般的に編集ウィンドウが存在し、標的サイトを編集する場合、別の突然変異が導入される。
【0005】
(2)CRISPRシステムは非常に膨大で、現在の遺伝子導入技術は一括にCRISPRシステム
全体を一つのシステムに納め、送達することが困難であるため、治療過程において低効率の遺伝子導入が存在し、編集効率が低い。
【0006】
(3)組み換え遺伝子の大きさによって制限され、一部のゲノムのサイトは導入困難で
ある。
(4)細菌タンパク質であるCasタンパク質は、免疫応答や毒性につながる。
【0007】
(5)遺伝子挿入時に生じる突然変異や組み込み時に生じる予想外の事象がある。
最も、ゲノムDNAの改変はずっと細胞に伴うため、ゲノムDNA編集の長期的な安全性への懸念は終始大きな問題である。
【0008】
そのため、当業者は、一塩基突然変異による疾患に対して有効な遺伝子治療を行うため、有効に遺伝子を編集する方法の開発を切望している。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、有効に遺伝子を編集することができる方法およびその使用を提供することである。
本発明の第一の側面では、RNA編集酵素であって、
(a)編集されるRNA配列のRNA認識配列を認識し、前記のRNA認識配列に結合するためのRNA認識ドメインと、
(b)編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うための機能ドメインとを含み、
ここで、前記のRNA認識ドメインと前記の機能ドメインは操作可能に連結している酵素
を提供する。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記機能ドメインは、ADARファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメイン、APOBECファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメイン、RNAメチル化
酵素、RNA脱メチル化酵素、シュードウリジンシンターゼ、またはこれらの組み合わせか
らなる群から選ばれる。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記のRNA認識ドメインはn個の認識ユニットを含有し、前記の各認識ユニットは一つのRNA塩基を認識するためのもので、ここで、nは5~30の正
整数である。
【0012】
もう一つの好適な例において、nは6~24、より好ましくは8~20、たとえば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24である。
もう一つの好適な例において、各認識ユニットはαヘリックスの反復配列で、かつ前記反復配列における特定の位置の3つのアミノ酸がRNA塩基に結合するものである。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記のn個の認識ユニットは直列で、RNA塩基認識領域を構成する。
もう一つの好適な例において、前記のRNA認識ドメインは、さらに、任意にそれぞれRNA塩基認識領域の両側に位置する保護領域を含み、前記のRNA塩基認識領域を保護するため
のものである。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記のRNA認識ドメインはPUFタンパク質由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記のRNA認識ドメインはPUFタンパク質におけるRNA塩
基認識領域の上流に位置するドメイン(保護領域を除く)を含まないが、PUFタンパク質
におけるRNA塩基認識領域の下流に位置するドメイン(保護領域を除く)を含んでもよく
、含まなくてもよい。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記の保護領域はRNA塩基認識領域の両末端に位置する
機能のない反復配列である。
もう一つの好適な例において、前記のRNA編集酵素は、さらに、連結ペプチド、タグ配
列、シグナルペプチド配列、局在化ペプチド配列、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる一つまたは複数のエレメントを含む。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記の局在化ペプチド配列は、核局在化シグナル配列、ミトコンドリア局在化シグナル配列、またはこれらの組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前記の一つまたは複数のエレメントと前記のRNA認識ド
メインおよび機能ドメインは操作可能に連結している。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記の一つまたは複数のエレメントはそれぞれ独立に前記のRNA編集酵素のN末端および/またはC末端および/または中間に位置する。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記のシグナルペプチドは前記のRNA編集酵素のN末端に位置する。
もう一つの好適な例において、前記の連結ペプチド、タグ配列、および/または局在化
ペプチドシグナルはそれぞれ独立に前記認識ドメインと機能ドメインの間に位置する。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記のRNAは一本鎖のものである。
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素はRNA認識ドメインおよび機能ドメイン、ならびに任意に連結ペプチド、タグ配列、シグナルペプチド配列および/または局在化
ペプチド配列を含む。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素の構造は、下記式I~式IVのいずれかで表される:
D-L2-A-L1-B (I);
D-L2-B-L1-A (II);
A-L1-B-L2-D (III);
B-L1-A-L2-D (IV)。
【0021】
(式中において、各「-」は独立に連結ペプチドまたはペプチド結合である。
AはRNA認識ドメインである。
Bは機能ドメインである。
【0022】
L1およびL2はそれぞれ独立になしか、連結ペプチドである。
Dはなしか、局在化ペプチドである。)
もう一つの好適な例において、前記の局在化ペプチドは前記RNA編集酵素のN末端、C末
端または中間に位置する。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記RNA認識ドメインはRNAを認識して結合することができるドメインで、好ましくはRNA結合タンパク質由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記RNA認識ドメインはPUFタンパク質断片である。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記PUFタンパク質断片はRUFタンパク質におけるRNAを
認識して結合することができるドメインの断片である。
もう一つの好適な例において、前記PUFタンパク質はPUFタンパク質およびその相同タンパク質を含む。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記PUFタンパク質は哺乳動物、好ましくは霊長類動物
、より好ましくはヒト由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記RNA認識ドメインは配列番号1で示されるアミノ配列を有する。
【0026】
GRSRLLEDFRNNRYPNLQLREIAGHIMEFSQDQHGSRFIQLKLERATPAERQLVFNEILQAAYQLMVDVFGNYVIQKFFEFGSLEQKLALAERIRGHVLSLALQMYGCRVIQKALEFIPSDQQNEMVRELDGHVLKCVKDQNGNHVVQKCIECVQPQSLQFIIDAFKGQVFALSTHPYGCRVIQRILEHCLPDQTLPILEELHQHTEQLVQDQYGNYVIQHVLEHGRPEDKSKIVAEIRGNVLVLSQHKFASNVVEKCVTHASRTERAVLIDEVCTMNDGPHSALYTMMKDQYANYVVQKMIDVAEPGQRKIVMHKIRPHIATLRKYTYGKHILAKLEKYYMKNGVDLG (配列番号1)
【0027】
もう一つの好適な例において、前記ADARファミリーのメンバーは、dADAR、ADAR1、ADAR2、TadA、またはこれらの組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前記ADARファミリーのメンバーは、ヒトまたはショウジョウバエまたは細菌由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記ADARファミリーのメンバーは、ショウジョウバエADAR、ヒトADAR1、ヒトADAR2、大腸菌TadA、またはこれらの組み合わせを含む。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記ADAR1は、天然のADAR1およびADAR1突然変異体を含
む。
もう一つの好適な例において、前記ADAR1突然変異体は天然のADAR1のアミノ酸配列における1008番目に相当する位置で突然変異したもので、好ましくは、前記1008番目のグルタミン酸(E)がグルタミン(Q)に突然変異している。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記機能ドメインはADAR1由来のもので、配列番号2で示されるアミノ配列を有し、
KAERMGFTEVTPVTGASLRRTMLLLSRSPEAQPKTLPLTGSTFHDQIAMLSHRCFNTLTNSFQPSLLGRKILAAIIMKKDSEDMGVVVSLGTGNRCVKGDSLSLKGETVNDCHAEIISRRGFIRFLYSELMKYNSQTAKDSIFEPAKGGEKLQIKKTVSFHLYISTAPCGDGALFDKSCSDRAMESTESRHYPVFENPKQGKLRTKVENGEGTIPVESSDIVPTWDGIRLGERLRTMSCSDKILRWNVLGLQGALLTHFLQPIYLKSVTLGYLFSQGHLTRAICCRVTRDGSAFEDGLRHPFIVNHPKVGRVSIYDSKRQSGKTKETSVNWCLADGYDLEILDGTRGTVDGPRNELSRVSKKNIFLLFKKLCSFRYRRDLLRLSYGEAKKAARDYETAKNYFKKGLKDMGYGNWISKPQEEKNFYLCPV(配列番号2)
あるいは、前記機能ドメインはADAR1-E1008Q機能ドメインで、アミノ酸配列は、配列番号2における211番目がEからQに突然変異している以外、配列番号2と同様である。
【0030】
KAERMGFTEVTPVTGASLRRTMLLLSRSPEAQPKTLPLTGSTFHDQIAMLSHRCFNTLTNSFQPSLLGRKILAAIIMKKDSEDMGVVVSLGTGNRCVKGDSLSLKGETVNDCHAEIISRRGFIRFLYSELMKYNSQTAKDSIFEPAKGGEKLQIKKTVSFHLYISTAPCGDGALFDKSCSDRAMESTESRHYPVFENPKQGKLRTKVENGQGTIPVESSDIVPTWDGIRLGERLRTMSCSDKILRWNVLGLQGALLTHFLQPIYLKSVTLGYLFSQGHLTRAICCRVTRDGSAFEDGLRHPFIVNHPKVGRVSIYDSKRQSGKTKETSVNWCLADGYDLEILDGTRGTVDGPRNELSRVSKKNIFLLFKKLCSFRYRRDLLRLSYGEAKKAARDYETAKNYFKKGLKDMGYGNWISKPQEEKNFYLCPV(配列番号2において、211番目がEからQに突然変異している)
【0031】
もう一つの好適な例において、前記ADAR2突然変異体は天然のADAR2のアミノ酸配列における488番目に相当する位置で突然変異したもので、好ましくは、前記488番目のグルタミン酸(E)がグルタミン(Q)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記機能ドメインは配列番号2、3または4で示されるア
ミノ配列またはその誘導体配列を有する。
もう一つの好適な例において、前記の誘導体配列は、配列番号2で、かつ211番目がEか
らQに突然変異しているもの、配列番号3において、227番目がEからQに突然変異している
もの、配列番号4において、187番目がEからQに突然変異しているものを含む。
【0032】
もう一つの好適な例において、前記機能ドメインは、下記群から選ばれる:
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するADAR2-isoform1機能ドメイン;
(ii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有し、かつ227番目がEからQに突然変異しているADAR2-isoform1-E488Q機能ドメイン;および
(iii)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するADAR2-isoform2機能ドメイン;
(iv)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、かつ187番目がEからQに突然変異しているADAR2-isoform2-E488Q機能ドメイン。
【0033】
もう一つの好適な例において、ADAR2-isoform1機能ドメインのアミノ酸配列は以下の通りである。
DQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEGSRSYTQAGVQWCNHGSLQPRPPGLLSDPSTSTFQGAGTTEPADRHPNRKARGQLRTKIESGEGTIPVRSNASIQTWDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP (配列番号3)
【0034】
もう一つの好適な例において、ADAR2-isoform1-E488Q機能ドメインののアミノ酸配列は以下の通りである。
DQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEGSRSYTQAGVQWCNHGSLQPRPPGLLSDPSTSTFQGAGTTEPADRHPNRKARGQLRTKIESGQGTIPVRSNASIQT
WDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP (黄色のアミノ酸は488番目のアミノ酸突然
変異部位)(配列番号3において、227番目がEからQに突然変異している)
もう一つの好適な例において、ADAR2-isoform2機能ドメインののアミノ酸配列は以下の通りである。
【0035】
DQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEEPADRHPNRKARGQLRTKIESGEGTIPVRSNASIQTWDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP(配列番号4)
【0036】
もう一つの好適な例において、ADAR2-isoform2-E488Q機能ドメインののアミノ酸配列は以下の通りである。
DQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEEPADRHPNRKARGQLRTKIESGQGTIPVRSNASIQTWDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP
(黄色のアミノ酸は488番目のアミノ酸突然変異部位)(配列番号4において、187番目がEからQに突然変異している)
もう一つの好適な例において、前記APOBECファミリーのメンバーは、Apobec1、Apobec3A、Apobec3G、またはこれらの組み合わせを含む。
【0037】
もう一つの好適な例において、前記APOBECファミリーのメンバーは、ヒトまたはネズミ、好ましくはヒト由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記APOBECファミリーのメンバーは、ヒトApobec1、ヒ
トApobec3A、ヒトApobec3B、ヒトApobec3C、ヒトApobec3D、ヒトApobec3F、ヒトApobec3G、ヒトApobec3H、ヒトAID、マウスApobec1、マウスApobec3A、マウスAID、ラットApobec1、ラットApobec3A、ラットAIDまたはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0038】
もう一つの好適な例において、前記APOBEC3Aは配列番号5で示されるアミノ配列(全長
アミノ酸配列)を有する。
MEASPASGPRHLMDPHIFTSNFNNGIGRHKTYLCYEVERLDNGTSVKMDQHRGFLHNQAKNLLCGFYGRHAELRFLDLVPSLQLDPAQIYRVTWFISWSPCFSWGCAGEVRAFLQENTHVRLRIFAARIYDYDPLYKEALQMLRDAGAQVSIMTYDEFKHCWDTFVDHQGCPFQPWDGLDEHSQALSGRLRAILQNQGN (配列番号5)
もう一つの好適な例において、前記RNAメチル化酵素は、METTL3、METTL14、またはこれらの組み合わせを含む。
【0039】
もう一つの好適な例において、前記RNA脱メチル化酵素はα-ケトグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼFTO(Alpha-ketoglutarate-dependent dioxygenase FTO)である。
【0040】
もう一つの好適な例において、前記シュードウリジンシンターゼはpseudouridine7である。
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素の編集ウィンドウは7~14番目、好ましくは8~13番目、より好ましくは9~11番目で、ここで、PUF結合部位の5’末端の一番目から数える(すなわち、1番目)。
【0041】
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素はRNAおよび/またはDNAを含まない。
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素におけるRNA認識ドメインと機能ドメインは頭-尾、頭-頭、尾-頭、または尾-尾の形で連結している。
【0042】
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素はRNA認識ドメインと機能ドメインは直接連結しているか、連結ペプチドを介して連結している。
もう一つの好適な例において、前記RNA編集酵素のC末端またはN末端は、さらに、NLS配列およびMLS配列を含む。
【0043】
NLS核局在化シグナル配列:PKKKRKV(配列番号13)。
MLSミトコンドリア局在化シグナル配列:MLFNLRILLNNAAFRNGHNFMVRNFRCGQPLQNKVQ(配列番号14)。
【0044】
もう一つの好適な例において、前記連結ペプチドはなしか、可動性ペプチドである。
もう一つの好適な例において、前記連結ペプチドは、Linker2、Linker7、XTEN、Linker20、Linker40、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0045】
もう一つの好適な例において、前記連結ペプチドの長さは0~40 aa、好ましくは2~20 aaである。
もう一つの好適な例において、前記連結ペプチドは、配列番号6~9のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する。
【0046】
Linker2:EF
Linker7:EFTGNGS (配列番号6)
XTEN:SGSETPGTSESATPES (配列番号7)
Linker20:DQTPSRQPIPSEGLQLHLPQ (配列番号8)
Linker41:KAERMGFTEVTPVTGASLRRTMLLLSRSPEAQPKTLPLTGS (配列番号9)
本発明の第二の側面では、単離されたヌクレオチドであって、本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0047】
本発明の第三の側面では、本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0048】
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、DNA、RNAを含む。
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、トランスポゾン、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0049】
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、DNAウイルス、レトロウイルスベク
ターを含む。
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0050】
もう一つの好適な例において、前記ベクターはレンチウイルスベクターである。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは一つまたは複数のプロモーターを含み、前記プロモーターは操作可能に前記核酸配列、エンハンサー、イントロン、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製開始点、選択的マーカー、核酸制限部位、および/また
は相同組換え部位と連結している。
【0051】
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、本発明の第二側面に記載のポリヌクレ
オチドが含まれているか、挿入してあるベクターである。
本発明の第四の側面では、本発明の第三の側面に記載のベクターを含有するか、あるいは染色体に外来の本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれたか、あるいは本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素を発現する宿主細胞を提供する。
【0052】
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、原核細胞または真核細胞である。
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、ヒト細胞または非ヒト哺乳動物細胞である。
【0053】
本発明の第五の側面では、本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素、または本発明の
第二の側面に記載のポリヌクレオチド、または本発明の第三の側面に記載のベクターと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含むことを特徴とする製剤を提供する。
【0054】
もう一つの好適な例において、前記製剤は液体製剤である。
本発明の第六の側面では、本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素、または第二の側
面に記載のポリヌクレオチド、または第四の側面に記載の宿主細胞の使用であって、
(a)遺伝子治療の薬物または製剤、ならびに/あるいは
(b)RNAを編集する試薬
の製造に使用されることを特徴とする使用を提供する。
【0055】
もう一つの好適な例において、前記RNAを編集するとは、RNAにおけるAをGに、および/
またはCをUに突然変異させることを含む。
本発明の第七の側面では、RNAを編集する方法であって、以下の工程を含む方法を提供
する:
(1)編集されるRNAおよび本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素を提供する;およ

(2)請求項1に記載のRNA編集酵素によって前記RNAを編集する。
【0056】
もう一つの好適な例において、前記方法は、体外または体内のものである。
もう一つの好適な例において、前記方法は非診断的で非治療的なものである。
もう一つの好適な例において、前記RNAを編集するとは、RNAにおけるAをGに、および/
またはCをUに突然変異させることを含む。
【0057】
本発明の第八の側面では、本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素を製造する方法で
あって、以下の工程を含む方法を提供する:
発現に適切な条件において、本発明の第四の側面に記載の宿主細胞を培養することにより、前記のRNA編集酵素を発現させる;および、前記RNA編集酵素を単離する。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、原核細胞または真核細胞である。
本発明の第九の側面では、疾患を治療する方法であって、必要な対象に本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素、または本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチド、また
は本発明の第三の側面に記載のベクター、または本発明の第五の側面に記載の製剤を使用することを含む方法を提供する。
【0059】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、異なるA→G RNA編集酵素を構築することを示す。
図2図2は、PARSEsによって標的RNAを編集することを示す。
図3図3は、PUFとADARの位置を置換させた酵素が標的RNAを編集できないことを示す。
図4図4は、PARSEsの標的RNAに対する編集の効率およびオフターゲット率の分析を示す。
図5図5は、ePARSE1によってGRIA2遺伝子異常を修復するRNA編集イベントを示す。
図6図6は、ePARSE2によって関連遺伝子の病原性点突然変異を修復することを示す。
図7図7は、PARSEシステムにおけるPUF認識ドメインを伸ばすとPARSEシステムのRNA編集精度が顕著に向上できることを示す。
図8図8は、APRSEsを構築して標的RNAを編集することを示す。
図9図9は、APRSEによって関連遺伝子の病原性点突然変異を修復することを示す。
図10図10は、APRSEシステムにおけるPUF認識ドメインを伸ばすとAPRSEシステムのRNA編集精度が顕著に向上できることを示す。
図11図11は、PUFエレメントの構造概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
具体的な実施形態
本発明者は幅広く深く研究したところ、初めて、独特な構造のRNA編集酵素を開発した
。意外に、RNAに結合する認識ドメインおよび機能ドメインに基づいた新規なRNA編集酵素は、非常に有効に特定のRNA領域を標的として効率的で正確なRNA編集を行うことができることを見出した。本発明のRNA編集酵素は、効率的に、正確にRNA編集を行うことができるのみならず、有効に復帰突然変異を防止することができるため、より融通が利き、安全で、効率的といった利点がある。これに基づき、発明者らが本発明を完成した。
【0062】
用語の説明
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学の用語はいずれも本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同様である。
【0063】
本明細書で用いられるように、具体的に例示される数値で使用される場合、用語「約」とは当該値が例示される数値から1%以内で変わってもよい。たとえば、本明細書で用いられるように、「約100」という表示は99と101およびその間の全部の値(たとえば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0064】
本明細書で用いられるように、用語「含有」または「含む」は開放式、半閉鎖式および閉鎖式のものでもよい。言い換えれば、前記用語は「基本的に・・・で構成される」、または「・・・で構成される」も含む。
【0065】
PUFタンパク質(Pumilioホモログ1)
PUFタンパク質は、配列特異的RNA結合タンパク質で、保存的なRNA結合ドメインを有し
、標的mRNAの3'-UTRに結合することによってmRNAの安定性または翻訳効率を調節する。典型的なPUF結合ドメインは8つのαヘリックスの反復配列を含み、各反復配列は36のアミノ酸で、1つの塩基に対する認識・結合を担い、結合ドメインの両末端には、それぞれ無機
能の反復配列があり、中間の8つの反復配列を保護する。αヘリックスの反復配列におけ
る特定の位置の3つのアミノ酸はRNA塩基との結合を担い、ここで、12および16番目の側鎖アミノ酸は水素結合によってRNA塩基と結合し、13番目のアミノ酸は結合を補助する作用
を果たし、異なるアミノ酸の組み合わせは異なる塩基の認識に該当する(図11を参照する)。PUFタンパク質の各反復配列を改造・設計し、本願の新規な設計のPUFは任意の8塩基のR
NA配列を認識して結合することができる。改造により、PUFの反復配列の数を増加・減少
することで、PUFのRNAに対する結合能力を広げ、本願のPUFが6~16塩基、さらに20塩基を認識することができるようにすることが可能である。異なる種において、PUFタンパク質
は多くの相同タンパク質があり、PUFタンパク質に類似する配列の特徴および類似する機
能を有する。
本発明の一つの好適な例において、RNAを認識するツールとしてヒト由来のPUM1を使用
した。
【0066】
ADAR
ADAR(Double-stranded RNA-specific adenosine deaminase、二本鎖RNA特異的アデノシンデアミナーゼ)タンパク質は、二本鎖RNAに作用するRNA脱アミノ酵素で、二本鎖RNA (Double-stranded RNA)においてアデノシンが加水分解によって脱アミノ化してイノシンになること(adenosine-to-inosine、 A-to-I)を触媒し、A-to-I RNA編集と呼ばれ、イノシン(I)は翻訳の過程でグアノシン(G)として認識され、A-to-GのRNA編集を実現させる。当該タンパク質ファミリーの主なメンバーはADAR1、ADAR2およびADAR3があり、当該酵素による
遺伝子編集は遺伝子の発現および機能に影響し、コドンのmRNA翻訳を変えることにより、タンパク質のアミノ酸配列を変えること、スプライシング部位の認識配列を変えることによってpre-mRNAスプライシングを行うこと、ヌクレアーゼの認識に関与する配列を変えることによってRNAの安定性を実現すること、RNAウイルスのゲノムにおいてウイルスRNAの
複製過程で配列を変えることによって遺伝の安定性および一部の構造に依存するRNAの代
謝活動、たとえばmicroRNAの生成、ターゲティングまたはタンパク質-RNAの相互作用を実現することが含まれる。
【0067】
代表的なADARは、ADAR1、ADAR2-isoform1およびADAR2-isoform1、またはこれらの相同
タンパク質を含む。
一つの代表的なADAR1の全長アミノ酸配列は以下の通りである。
MNPRQGYSLSGYYTHPFQGYEHRQLRYQQPGPGSSPSSFLLKQIEFLKGQLPEAPVIGKQTPSLPPSLPGLRPRFPVLLASSTRGRQVDIRGVPRGVHLRSQGLQRGFQHPSPRGRSLPQRGVDCLSSHFQELSIYQDQEQRILKFLEELGEGKATTAHDLSGKLGTPKKEINRVLYSLAKKGKLQKEAGTPPLWKIAVSTQAWNQHSGVVRPDGHSQGAPNSDPSLEPEDRNSTSVSEDLLEPFIAVSAQAWNQHSGVVRPDSHSQGSPNSDPGLEPEDSNSTSALEDPLEFLDMAEIKEKICDYLFNVSDSSALNLAKNIGLTKARDINAVLIDMERQGDVYRQGTTPPIWHLTDKKRERMQIKRNTNSVPETAPAAIPETKRNAEFLTCNIPTSNASNNMVTTEKVENGQEPVIKLENRQEARPEPARLKPPVHYNGPSKAGYVDFENGQWATDDIPDDLNSIRAAPGEFRAIMEMPSFYSHGLPRCSPYKKLTECQLKNPISGLLEYAQFASQTCEFNMIEQSGPPHEPRFKFQVVINGREFPPAEAGSKKVAKQDAAMKAMTILLEEAKAKDSGKSEESSHYSTEKESEKTAESQTPTPSATSFFSGKSPVTTLLECMHKLGNSCEFRLLSKEGPAHEPKFQYCVAVGAQTFPSVSAPSKKVAKQMAAEEAMKALHGEATNSMASDNQPEGMISESLDNLESMMPNKVRKIGELVRYLNTNPVGGLLEYARSHGFAAEFKLVDQSGPPHEPKFVYQAKVGGRWFPAVCAHSKKQGKQEAADAALRVLIGENEKAERMGFTEVTPVTGASLRRTMLLLSRSPEAQPKTLPLTGSTFHDQIAMLSHRCFNTLTNSFQPSLLGRKILAAIIMKKDSEDMGVVVSLGTGNRCVKGDSLSLKGETVNDCHAEIISRRGFIRFLYSELMKYNSQTAKDSIFEPAKGGEKLQIKKTVSFHLYISTAPCGDGALFDKSCSDRAMESTESRHYPVFENPKQGKLRTKVENGEGTIPVESSDIVPTWDGIRLGERLRTMSCSDKILRWNVLGLQGALLTHFLQPIYLKSVTLGYLFSQGHLTRAICCRVTRDGSAFEDGLRHPFIVNHPKVGRVSIYDSKRQSGKTKETSVNWCLADGYDLEILDGTRGTVDGPRNELSRVSKKNIFLLFKKLCSFRYRRDLLRLSYGEAKKAARDYETAKNYFKKGLKDMGYGNWISKPQEEKNFYLCPV* (配列番号10)
【0068】
一つの代表的なADAR2-isoform1の全長アミノ酸配列は以下の通りである。
MDIEDEENMSSSSTDVKENRNLDNVSPKDGSTPGPGEGSQLSNGGGGGPGRKRPLEEGSNGHSKYRLKKRRKTPGPVLPKNALMQLNEIKPGLQYTLLSQTGPVHAPLFVMSVEVNGQVFEGSGPTKKKAKLHAAEKALRSFVQFPNASEAHLAMGRTLSVNTDFTSDQADFPDTLFNGFETPDKAEPPFYVGSNGDDSFSSSGDLSLSASPVPASLAQPPLPVLPPFPPPSGKNPVMILNELRPGLKYDFLSESGESHAKSFVMSVVVDGQFFEGSGRNKKLAKARAAQSALAAIFNLHLDQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEGSRSYTQAGVQWCNH
GSLQPRPPGLLSDPSTSTFQGAGTTEPADRHPNRKARGQLRTKIESGEGTIPVRSNASIQTWDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP*(配列番号11)
【0069】
一つの代表的なADAR2-isoform2の全長アミノ酸配列は以下の通りである。
MDIEDEENMSSSSTDVKENRNLDNVSPKDGSTPGPGEGSQLSNGGGGGPGRKRPLEEGSNGHSKYRLKKRRKTPGPVLPKNALMQLNEIKPGLQYTLLSQTGPVHAPLFVMSVEVNGQVFEGSGPTKKKAKLHAAEKALRSFVQFPNASEAHLAMGRTLSVNTDFTSDQADFPDTLFNGFETPDKAEPPFYVGSNGDDSFSSSGDLSLSASPVPASLAQPPLPVLPPFPPPSGKNPVMILNELRPGLKYDFLSESGESHAKSFVMSVVVDGQFFEGSGRNKKLAKARAAQSALAAIFNLHLDQTPSRQPIPSEGLQLHLPQVLADAVSRLVLGKFGDLTDNFSSPHARRKVLAGVVMTTGTDVKDAKVISVSTGTKCINGEYMSDRGLALNDCHAEIISRRSLLRFLYTQLELYLNNKDDQKRSIFQKSERGGFRLKENVQFHLYISTSPCGDARIFSPHEPILEEPADRHPNRKARGQLRTKIESGEGTIPVRSNASIQTWDGVLQGERLLTMSCSDKIARWNVVGIQGSLLSIFVEPIYFSSIILGSLYHGDHLSRAMYQRISNIEDLPPLYTLNKPLLSGISNAEARQPGKAPNFSVNWTVGDSAIEVINATTGKDELGRASRLCKHALYCRWMRVHGKVPSHLLRSKITKPNVYHESKLAAKEYQAAKARLFTAFIKAGLGAWVEKPTEQDQFSLTP*(配列番号12)
【0070】
APOBECsタンパク質
APOBEC(apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like、アポ
リポプロテインB mRNA編集酵素、触媒ポリペプチド様)は、進化的に保存されたシチジン
デアミナーゼで、DNA/RNAの一本鎖領域に作用し、一本鎖DNA/RNAにおいてシチジンが加水分解によって脱アミノ化してウラシルになること(cytosine-to-uracil、C-to-U)を触媒し、C-to-UのDNA/RNA編集を実現させ、当該タンパク質ファミリーの主なメンバーはAID、Apobec1、Apobec2、Apobec3A、Apobec3B、Apobec3C、Apobec3D、Apobec3F、Apobec3G、Apobec3HおよびApobec4がある。
【0071】
RNA編集酵素
本明細書で用いられるように、「本発明のRNA編集酵素」、「人工RNA編集酵素」、「融合タンパク質」または「本発明のポリペプチド」とはいずれも本発明の第一の側面に記載のRNA編集酵素のことである。
本発明の前記RNA編集酵素は、
(a)編集されるRNA配列のRNA認識配列を認識し、前記のRNA認識配列に結合するためのRNA認識ドメインと、
(b)編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うための機能ドメインとを含み、
ここで、前記のRNA認識ドメインと前記の機能ドメインは操作可能に連結している。
【0072】
本明細書で用いられるように、「操作可能に連結する」または「操作可能につながる」とは、前記エレメントが所望の様態で機能を発揮するように位置する、並列の関係のことである。たとえば、RNA認識ドメインと機能ドメインが連結している場合(直接連結して
いるか、連結エレメントを介して連結してるか、両者の間に位置するほかの機能エレメントを介して連結している)、RNA認識ドメインと機能ドメインがそれぞれ機能を発揮する
こと、すなわち、RNA認識ドメインは所定のRNA認識配列を認識して結合すること、機能ドメインは編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うことができれば、両者は操
作可能に連結していることになる。同様に、プロモーターが一つのコード配列を転写または発現させることができれば、当該プロモーターは操作可能にコード配列に連結していることになる。
【0073】
本明細書で用いられるように、用語「本発明のRNA編集酵素」は、さらに、上記活性を
有する配列の変異の様態を含む。これらの変異の様態は、1~3個(通常は1~2個、より好ましくは1個)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびにC末端および/または
N末端への1個または複数(通常は3個以内、好ましくは2個以内、より好ましくは1個以内
)のアミノ酸の付加または欠失を含むが、これらに限定されない。たとえば、本分野において、機能が近い、または類似のアミノ酸で置換する場合、通常、蛋白質の機能を変えることがない。また、C末端および/またはN末端への一つまたは複数のアミノ酸の付加また
は欠失も、通常、タンパク質の構造および機能を変えることはない。また、前記用語は、単量体と多量体の様態の本発明のポリペプチドを含む。当該用語は、さらに、線形および非線形のポリペプチド(たとえば環状ペプチド)を含む。
【0074】
本発明は、さらに、上記RNA編集酵素の活性断片、誘導体および類似物を含む。本明細
書で用いられるように、用語「断片」、「誘導体」および「類似体」とは、基本的に本発明のRNA編集酵素の機能または活性を維持するポリペプチドのことである。本発明のポリ
ペプチドの断片、誘導体や類似体は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドでもよく、または(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基があるポリペプチドでもよく、また
は(iii)抗原ペプチドと別の化合物(たとえば、ポリエチレングリコールようなポリペ
プチドの半減期を延ばす化合物)が融合したポリペプチドでもよく、または(iv)付加のアミノ酸配列がこのポリペプチドに融合したポリペプチド(リーダー配列、分泌配列または6Hisなどのタグ配列と融合した融合タンパク質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似体は当業者に公知の範囲に入っている。
【0075】
1種類の好適な活性誘導体とは、式Iのアミノ酸配列と比べ、3個以下、好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下のアミノ酸が性質の類似または近似のアミノ酸で置換されて
なるポリペプチドである。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミ
ノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【0076】
【表A】
【0077】
また、本発明は、本発明のRNA編集酵素の類似体を提供する。これらの類似体と配列番
号8、9または13で示されるポリペプチドの違いは、アミノ酸配列の違いでもよく、配列に影響を与えない修飾形態の違いでもよく、あるいは両者でもよい。類似体は、さらに、天然L-アミノ酸と異なる残基(たとえばD-アミノ酸)を有する類似体、および非天然または合成のアミノ酸(たとえばβ、γ-アミノ酸)を有する類似体を含む。もちろん、本発明
のポリペプチドは、上記で挙げられた代表的なポリペプチドに限定されない。
【0078】
修飾(通常は一次構造が変わらない)形態は、体内または体外のポリペプチドの化学的に誘導された形態、例えばアセチル化またはカルボキシ化を含む。修飾は、さらにグリコシル化、たとえばポリペプチドの合成および加工でまたはさらなる加工の工程でグリコシル化修飾を行ったポリペプチドも含む。このような修飾は、ポリペプチドをグルコシル化する酵素(たとえば哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)に露出させることによって完成する。修飾形態は、さらにリン酸化アミノ酸残基(たとえばリン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列を含む。さらに、修飾によって抗タンパク質加水分解性を向上させたポリペプチドまたは溶解性を改善したポリペプチドを含む。
【0079】
コード配列
また、本発明は、本発明によるRNA編集酵素をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0080】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNAは、コード鎖でも非
コード鎖でもよい。本発明のヌクレオチド全長配列あるいはの断片は、通常、PCR増幅法
、組換え法または人工合成の方法で得られる。現在、本発明のポリペプチド(又はその断片、或いはその誘導体)をコードするDNA配列を全部化学合成で獲得することがすでに可
能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。
【0081】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまたはポリペプチドのコード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞にも関する。上記ポリヌクレオチド、ベクターまたは宿主細胞は単離されたものでもよい。
【0082】
本明細書で用いられるように、「単離された」とは、物質がその本来の環境から単離されたこと(天然の物質の場合、本来の環境は天然の環境である)をいう。たとえば、活細胞内の天然の状態におけるポリヌクレオチドプチドは単離・精製されていないが、同様のポリヌクレオチドまたはポリペプチドが天然の状態から存在するほかの物質とわかれると、単離・精製されたものになる。
【0083】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノ
ムDNAまたは人工合成のDNAを含む。DNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。
【0084】
また、本発明は、本発明と同様のアミノ酸配列を有するポリタンパク質の断片、類似体および誘導体をコードする、上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。このポリヌクレオチドの変異体は、天然に発生した対立遺伝子変異体でも非天然に発生した変異体でもよい。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体および挿入変異体を含む。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの代替形態で、1つ
または2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入でもよいが、実質的にそれによっ
てコードされる本発明のRNA編集酵素の機能を変えることはない。
【0085】
本発明の融合タンパク質をコードするヌクレオチド全長配列またはその断片は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。PCR増幅法について、既に公開された関連のヌクレオチド配列、特に読み枠によってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリーまたは当業者に既知の通常の方法によって調製されるcDNAライブラリーを鋳型とし、増幅して関連配列を得る。配列が長い場合、通常、2回または2回以上のPCR増幅を行
った後、各回の増幅で得られた断片を正確な順でつなげる必要がある。
【0086】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
【0087】
また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。
【0088】
本発明の遺伝子を得るには、PCR技術でDNA/RNAを増幅する方法が好適に使用される。PCRに使用されるプライマーはここで公開された本発明の配列情報によって適切に選択し、
かつ通常の方法で合成することができる。通常の方法、たとえばゲル電気泳動によって増幅されたDNA/RNA断片を単離、精製することができる。
【0089】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまたはタンパク質コード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞、ならびに組換え技術によって前記NK細胞において本発明のRNA編集酵素を発現する方法にも関する。
【0090】
通常の組換えDNA技術によって、本発明のポリヌクレオチド配列で本発明のRNA編集酵素を発現するNK細胞を得ることができる。一般的に、本発明に記載の第一発現カセットおよび/または第二発現カセットをNK細胞内に形質移入することにより、前記NK細胞を得る工
程を含む。
【0091】
本発明のRNA編集酵素のコードDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現
ベクターの構築に当業者によく知られている方法を使用することができる。これらの方法は、体外組み換えDNA技術、DNA合成技術、体内組み換え技術などを含む。前記のDNA配列
は、有効に発現ベクターにおける適切なプロモーターに連結し、mRNA合成を指導することができる。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用リボゾーム結合部位および転写ターミネーターを含む。
【0092】
また、発現ベクターは、好ましくは1つまたは2つ以上の選択性マーカー遺伝子を含み、形質転換された宿主細胞を選択するための形質、たとえば真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性および緑色蛍光タンパク質(GFP)、あるいは大腸菌用
のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を提供する。
【0093】
上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターは、適切
な宿主細胞を形質転換し、タンパク質を発現するようにすることができる。
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、枯草菌、ストレプトマイセス属の細菌細胞、ピキア・パストリス、出芽酵母のような真菌細胞、植物細胞、ショウジョウバエS2またはSf9のような昆虫細胞、CHO、NS0、COS7、ま
たは293細胞のような動物細胞などがある。
【0094】
DNA組み換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行ってもよい。
宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数
成長期後収集でき、CaCl2法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。
もう一つの方法は、MgCl2を使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーション
の方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNA
トランスフェクションの方法が用いられる。
【0095】
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子によってコードされるタンパク質を発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
【0096】
上記の方法におけるタンパク質は細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の単離方法でタンパク質を単離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体ク
ロマトグラフィー(HPLC)およびほかの各種の液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0097】
ベクター
また、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。レトロウイルス、たとえばレンチウイルス由来のベクターは、導入された遺伝子の長期間で、安定した組み込みおよびその子細胞における増殖を可能にするため、長期間の遺伝子の移動を実現させる適切な道具である。レンチウイルスは、増殖しない細胞、たとえば肝細胞に導入することができるため、発癌性レトロウイルス、たとえばマウス白血病ウイルスのベクターを超える利点を持つ。また、低免疫原性という利点もある。
【0098】
簡単に要約すると、通常、本発明の発現カセットまたは核酸配列を操作により可能にプロモーターに連結し、そしてそれを発現ベクターに組み込む。当該ベクターは、真核細胞の複製および組み込みに適する。典型的なクローニングベクターは、所期の核酸配列の発現を調節するのに使用できる転写と翻訳のターミネーター、開始配列およびプロモーターを含む。
【0099】
本発明の発現構築体は標準の遺伝子送達プロトコールによって、核酸免疫および遺伝子療法に使用することもできる。遺伝子送達の方法は、本分野では既知である。たとえば、米国特許番号5,399,346、5,580,859、5,589,466を参照し、ここで引用によって全文を取
り込む。もう一つの実施形態において、本発明は、遺伝子療法ベクターを提供する。
【0100】
前記発現カセットまたは核酸配列は様々な種類のベクターにクローニンすることができる。たとえば、当該発現カセットまたは核酸配列がクローニングできるベクターは、プラスミド、ファージ、ファージ誘導体、動物ウイルスやコスミドを含むが、これらに限定されない。特定の興味のあるベクターは、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクターおよびシークエンシングベクターを含む。
【0101】
さらに、発現ベクターはウイルスベクターの形態によって細胞に提供することができる。ウイルスベクターの技術は本分野公知のもので、そしてたとえばSambrookら(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)および
ほかのウイルス学と分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして使用できるウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスやレンチウイルスを含むが、これらに限定されない。通常、適切なベクターは少なくとも1種類の有機体において作用する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限酵素切断
部位および1つまたは複数の選択できるマーカーを含む(たとえば、WO01/96584、WO01/29058および米国特許番号6,326,193)。
【0102】
すでに多くのウイルスに基づいたシステムが開発され、哺乳動物細胞への遺伝子の導入に使用されている。たとえば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムのための便利なプラットホームを提供する。本分野で既知の技術によって選択された遺伝子をベクターに挿入してレトロウイルス顆粒にパッケージングすることができる。当該組み換えウイルスは、さらに分離されて体内または体外の対象細胞に送達される。多くのレトロウイルスシステムは本分野では既知である。
【0103】
付加のプロモーターエレメント、たとえばエンハンサーは転写が開始する頻度を調節することができる。通常、これらは開始点の上流の30~110 bpの領域に位置するが、最近、多くのプロモーターは開始点の下流の機能エレメントも含むことが明らかになった。プロモーターエレメントの間の間隔は、エレメントが別のエレメントに対して逆さまになったか、移動した場合、プロモーターの機能が維持できるように、可動性のものが多い。チミ
ジンキナーゼ(tk)プロモーターにおいて、プロモーターエレメントの間の間隔は、活性が低下することなく、50 bpまで増加することができる。プロモーターによって、単一の
エレメントは共同にまたは独立に作用し、転写を開始させる。
【0104】
適切なプロモーターの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列
である。当該プロモーター配列は操作可能にそれに連結した任意のポリヌクレオチド配列を高レベルで発現させることができる強力な構成型プロモーター配列である。適切なプロモーターのもう一例は、伸長因子1α(EF-1α)である。しかし、ほかの構成型プロモー
ター配列を使用してもよく、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長鎖末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バール(Epstein-Barr)ウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、およびヒト遺伝子プロモーターを含むが、これらに限定されず、ヒト遺伝子プロモーターは、たとえばアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘムプロモーターやクレアチンキナーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明は構成型プロモーターの使用に限定されない。誘導型プロモーターも本発明の一部として考えられる。誘導型プロモーターの使用は分子スイッチを提供し、それによって、そのような発現が必要な場合、操作可能に誘導型プロモーターに連結したポリヌクレオチド配列の発現を開始させ、あるいは発現が必要ではない場合、発現を終止させることができる。誘導型プロモーターの例は、メタロチオネインプロモーター、糖質コルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーターやテトラサイクリンプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0105】
細胞に導入された発現ベクターは選択できるマーカー遺伝子またはレポーター遺伝子のうちの任意の一方または両方を含むようにすることにより、ウイルスベクターで形質導入または感染された細胞群から発現細胞を同定および選択することもできる。また、選択できるマーカーは単独のDNA断片に載せて共形質移入のプロセスに使用することができる。
選択できるマーカー遺伝子およびレポーター遺伝子の両者の隣接する領域には、いずれも適切な調節配列を有することによって、宿主細胞において発現できるようにしてもよい。有用な選択できるマーカーは、たとえば抗生物質耐性遺伝子、たとえばneoなどを含む。
【0106】
レポーター遺伝子は形質導入された可能性のある細胞の同定および調節配列の機能性の評価に使用される。通常、レポーター遺伝子は、レシピエントの有機体または組織に存在しないか、レシピエントの有機体または組織によって発現され、そしてその発現が容易に検出できる性質、たとえば酵素活性によって明確に示すことができるポリペプチドをコードする遺伝子である。DNAがすでにレシピエントの細胞に導入されると、レポーター遺伝
子の発現は適切な時間で測定される。適切なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、β-
ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素、分泌型アルカリホスファターゼや緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む(たとえば、Ui-Teiら,2000FEBS
Letters479:79-82)。適切な発現系は公知で、かつ既知の技術によって製造するか、市
販品として入手することができる。通常、最高レベルのレポーター遺伝子の発現を示す、少なくとも5つのフランキング領域を有する構築体はプロモーターと同定される。このよ
うなプロモーター領域はレポーター遺伝子に連結され、かつ試薬のプロモーターを調節して転写を活性化させる能力の評価に使用することができる。
【0107】
遺伝子を細胞に導入する方法および細胞において遺伝子を発現させる方法は、本分野では既知である。発現ベクターの内容において、ベクターは本分野における任意の方法によって宿主細胞、たとえば、哺乳動物(たとえばヒトT細胞)、細菌、酵母や昆虫の細胞に
容易に導入することができる。たとえば、発現ベクターは物理、化学または生物学の手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0108】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する物理的方法は、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝突、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどを含む。ベクターおよび/または外来核酸を含む細胞を生産する方法は本分野では公知である。
たとえば、Sambrookら(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照する。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する好適な方
法は、リン酸カルシウム形質導入である。
【0109】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する生物学的方法は、DNAおよびRNAベクターを使用する方法を含む。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、すでに最も幅広く使用される、遺伝子を哺乳動物、たとえばヒト細胞に挿入する方法になっている。ほかのウイルスベクターはレンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデ
ノウイルスやアデノ随伴ウイルスなどからのものでもよい。例えば、米国特許番号5,350,674および5,585,362を参照する。
【0110】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する化学的手段は、コロイド分散系、たとえば大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、および水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、やリポソームを含む脂質に基づいた系を含む。体外および体内の送達担体(delivery vehicle)として使用される例示的なコロイド系はリポソーム(たとえば、人工膜小胞)である。
【0111】
非ウイルス送達系を使用する場合、例示的な送達担体はリポソームである。脂質製剤を使用し、核酸を宿主細胞に導入することが考えられる(体外、エクスビボ(ex vivo)ま
たは体内)。また、当該核酸は脂質と関連してもよい。脂質と関連した核酸は、リポソームの水性の内部に封入し、リポソームの脂質二重層に散在し、リポソームとオリゴヌクレオチドの両者に連結する連結分子を介してリポソームに接着し、リポソームに取り込まれ、リポソームと複合体化し、脂質を含む溶液に分散し、脂質と混合し、脂質と配合し、懸濁液として脂質に含まれ、ミセルに含まれるか、ミセルと複合体化し、あるいはほかの形態で脂質と結合することができる。組成物と関連する脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベ
クターは溶液における具体的な構造のいずれにも限定されない。たとえば、二重層の構造において、ミセルとして、または「崩壊した」構造で存在してもよい。簡単に溶液に分散し、大きさや形状が異なる集合体を形成してもよい。脂質は脂肪物質で、天然の脂質でも合成の脂質でもよい。たとえば、脂質は細胞質で自然に発生する脂肪小滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびその誘導体、たとえば脂肪酸、アルコール類、アミン類、アミノアルコール類やアルデヒド類のような化合物を含む。
【0112】
製剤
本発明は、本発明の第五の側面記載の製剤を提供する。一つの実施形態において、前記製剤は液体製剤である。好ましくは、前記製剤は注射剤である。
【0113】
一つの実施形態において、前記製剤は、緩衝液、たとえば中性緩衝食塩水、硫酸塩緩衝食塩水など、炭水化物、たとえばブドウ糖、マンノース、ショ糖やデキストラン、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはアミノ酸、たとえばグリシン、酸化防止剤、キレート剤、たとえばEDTAやグルタチオン、アジュバント(たとえば、水酸化アルミニウム)、および防腐剤を含んでもよい。
【0114】
本発明の技術方案は、以下のような有益な効果がある。
(1)本発明のRNA編集酵素は、何らのRNA成分も含まない単一成分のプロテアーゼで、
内因性ヒトタンパク質配列からなるものであるため、これらの工学的タンパク質は遺伝子治療においてCRISPR-Casシステムよりも免疫原性もシステム複雑度も低い。そして、当該システムはDNA編集よりも融通が利き、安全であるという特徴がある。
【0115】
(2)本発明のRNA編集酵素は、オフターゲット率が低く、編集効率が高い。
(3)本発明のRNA編集酵素は、編集精度が高く、一塩基の遺伝子編集が実現可能である。
【0116】
(4)本発明のRNA編集酵素はプロテアーゼで、細胞内小器官局在化シグナルで当該酵素を細胞内小器官または細胞核にターゲティングして機能を発揮させること、たとえば、RNA編集酵素のN末端またはC末端に核局在化シグナルNLSを連結し、編集酵素を細胞核に局在化して機能を発揮させること、あるいはミトコンドリア局在化シグナルMLSを連結し、編
集酵素をミトコンドリアに局在化して機能を発揮させることができる。
【0117】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド
・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
【0118】
実験方法
RNAアデノシンデアミナーゼADARファミリーのメンバーとRNAシチジンデアミナーゼAPOBECファミリーのメンバーの脱アミノ化触媒ドメインをクローニングし、RNA結合タンパク
質と融合させ、2種類の異なるRNA編集酵素PARSEとAPRSEを形成した。上記設計に基づき、細胞レベルにおいてPARSEとAPRSE RNA編集酵素がRNAを編集できるか、検証した。これら
の酵素の編集効率および精度を検出し、これらの酵素のトランスクリプトームレベルのオフターゲット効果を分析した。構築されたRNA編集酵素で一部の一塩基の病原性点突然変
異を修復し、GRIA2、COL3A1、DMD、EZH2、SCN1AおよびSCN5A遺伝子の病原性点突然変異の修復に使用した。
【0119】
具体的に、以下の工程を含む。
1.既存のRNA結合タンパク質PUFに基づき、分子クローニング技術によってADARタンパ
ク質をコードするdADAR、ADAR1、ADAR2遺伝子をそれぞれクローニングし、さらにその2つの遺伝子をスプライシングし、新たな融合遺伝子とし、当該新たな融合遺伝子によってPARSEタンパク質をコードし、異なるA-to-I RNA部位特異的編集酵素を構築した。分子クロ
ーニング技術によって異なるRNAシチジンデアミナーゼ(ヒトapobec1、ヒトapobec3a、ヒ
ト3b、ヒト3c、ヒト3d、ヒト3g、ヒト3h、ヒトAID、マウスAPOBEC1、マウスAPOBEC3A、マウスAID、ラットAPOBEC1)をPUFに融合させ、異なるC-to-U RNA部位特異的編集酵素を構築した。
【0120】
2.細胞レベルにおいてこれらの新たなRNA編集酵素の編集活性を検出し、PARSE RNA編
集酵素をGFPレポーター遺伝子プラスミドとともに細胞に導入し、48h後GFPレポーター遺
伝子のRNAを回収してシーケンシングし、RNA編集イベントを検出した。
【0121】
3.細胞レベルにおいてこれらの新たなRNA編集酵素の編集活性を検出し、APRSE RNA編
集酵素をGFPレポーター遺伝子プラスミドとともに細胞に導入し、48h後GFPレポーター遺
伝子のRNAを回収してシーケンシングし、RNA編集イベントを検出した。
【0122】
4.RNA seqハイスループットシークエンシング技術により、RNA編集酵素の効率、精度
およびオフターゲット率を検出して分析した。
5.構築されたRNA編集酵素で一部の一塩基の病原性突然変異を修復し、PARSEでGRIA2、COL3A1およびDMDの病原性点突然変異を修復した。
6.構築されたRNA編集酵素で一部の一塩基の病原性突然変異を修復し、APRSEでEZH2、SCN1AおよびSCN5A遺伝子の病原性点突然変異を修復した。
【0123】
実施例1
ADARはRNAのアデノシンが脱アミノ化してイノシンになること(adenosine-to-inosine、A-to-I)を触媒できるアデノシン編集酵素で、3種類の異なる由来のADAR触媒ドメインをクローニングし、リンカーを介してRNA結合タンパク質PUFと融合させ、3つの異なる人工RNA編集酵素(RNA editase)を開発したが、当該システムをartificial PUF-ADAR RNA sequence editors(PARSE-d、PARSE1、PARSE2)と名付けた(図1、A-D)。
【0124】
細胞レベルにおいてPARSE-d、PARSE1、PARSE2といった3種類のRNA編集酵素の編集活性
を検出し、PARSE RNA編集酵素をGFPレポーター遺伝子プラスミドとともに細胞に導入し、48h後GFPレポーター遺伝子のRNAを回収してシーケンシングし、RNA編集イベントを検出したところ、PARSE-d、PARSE1、PARSE2のいずれも標的RNAに対して効率的な編集を行う能力を有することが証明された。早期終止コドンを含有するGFP mRNAを構築し、PARSEで特定
の部位のAからGへの編集を実現させることにより、GFP遺伝子の発現を回復させることで
、PARSEが高精度の部位特異的編集能力を有することを証明した(図2B)。
【0125】
3種類の異なる由来のADAR触媒ドメインをクローニングし、リンカーを介してRNA結合タンパク質PUFと融合させ、ADARを新たに設計された融合タンパク質のN末端に、PUFを新た
に設計された融合タンパク質のN末端にし、ADAR触媒ドメインが前に、PUF RNA結合タンパク質が後ろに位置する新たなRNA編集酵素を形成させ、当該新たに合成されたRNA編集酵素で標的RNAを編集したところ、編集イベントの発生が検出されなかった(図3)。これにより、ADARに依存するRNA編集酵素はRNA結合タンパク質の位置に要求が厳格で、本発明のRNA
編集酵素は優れたRNA編集活性があることが証明された。
【0126】
実施例2
ADAR触媒ドメインを最適化してADARの標的RNAに対する編集効率を向上させ、そしてRNA
seqハイスループットシークエンシング技術により、RNA編集酵素の効率、精度およびオ
フターゲット率を検出して分析した。ADAR1とADAR2の触媒ドメインにそれぞれ新たな点突然変異を導入することにより、ADARの編集効率を向上させ(図4A)、RNA seqハイスループ
ットシークエンシング技術により、RNA編集酵素の効率、精度を検出して分析したところ
、PARSE1、ePARSE1、PARSE2、ePARSE2のいずれも標的RNAを編集することができ、効率が
それぞれ42%、65%、67%、78%であったことが見出された(図4B)。RNA-seq結果の分析
により、PARSEによる編集はある程度のオフターゲット率があったが、標的部位の編集効
率と比べ、オフターゲット率が低かったことが示され、後の最適化の過程でPARSEの形質
移入量を減らすことによってオフターゲット率を低下させることができる(図4C)。
【0127】
構築されたePARSE1でGRIA2遺伝子の病原性編集部位を修復したが、GRIA2はカルシウム
イオンチャネルタンパク質のサブユニットで、当該タンパク質の607番目のアミノ酸が突
然変異すると、カルシウムイオンチャネルタンパク質がオフにならなくなり、病原性表現型が生じる。ePARSE1で当該部位に対して部位特異的修復を行ったところ、修復効率が68
%で、すなわち、細胞レベルにおいてGRIA2(p.Q607R)の病原性点突然変異に対する修復が実現でき、さらに当該遺伝子の突然変異の治療に有力なツールを提供し(図5A)、そして当該部位のオフターゲット率が低かった(図5B)ことがわかり、ePARSE1による当該疾患の治
療に良い応用の将来性が示された。
【0128】
構築されたePARSE2でCOL3A1およびDMD遺伝子の病原性点突然変異に対して部位特異的修復を行ったところ、修復効率がそれぞれ33%、25%、30%で、すなわち、細胞レベルにおいてCOL3A1およびDMD遺伝子の病原性点突然変異に対する部位特異的修復が実現でき、さ
らに当該遺伝子の突然変異の治療に有力なツールを提供する(図6A、6B、6C)ことがわかり、ePARSE2による当該疾患の治療に良い応用の将来性が示された。
【0129】
実施例3
RNA結合タンパク質PUFを最適化し、PARSEによるRNA編集の精度を向上させ、オフターゲット率を低下させ、PUFドメインを最適化することにより、8塩基を認識するPUF8から10塩基を認識・結合するPUF10まで最適化し(図7、A-C)、RNA標的部位の編集効率が当該最適化設計によって低下せず、そしてPUFの認識・結合する塩基の数が増えるにつれ、この策に
よってPARSEのオフターゲット率が10倍低下し、オフターゲット効果を有効に低下させ、
そしてさらに最適化の潜在的能力があり、PUFを12塩基、16塩基、ひいてはそれ以上を認
識・結合するまで最適化し、PARSEの応用範囲を極限に拡大することができる。
【0130】
実施例4
APOBECsはシチジン-ウリジン(cytidine-to-uridine、C-to-U)のヌクレオチド編集を触
媒することができ、様々な由来のAPOBECファミリーのRNAシチジンデアミナーゼ(ヒトapobec1、ヒトapobec3a、ヒト3b、ヒト3c、ヒト3d、ヒト3g、ヒト3h、ヒトAID、マウスAPOBEC1、マウスAPOBEC3A、マウスAID、ラットAPOBEC1)の触媒ドメインをクローニングし、リンカーを介してRNA結合タンパク質と融合させ、様々な新たなC to U RNA部位特異的編集酵
素を形成させたが、当該システムをartificial APOBEC-PUF RNA sequence editors (APRSE)と名付け、そして細胞核に入るAPRSE-NLSと細胞質で発現されるAPRSEに分かれ、以下、Apobec3Aを例として説明する(図8A)。
【0131】
細胞レベルにおいてAPRSE-NLS、APRSEといった2種類のRNA編集酵素の編集活性を検出し、APRSE RNA編集酵素をGFPレポーター遺伝子プラスミドとともに細胞に導入し、48h後GFPレポーター遺伝子のRNAを回収してシーケンシングし、RNA編集イベントを検出したところ、APRSE-NLS、APRSEのいずれも標的RNAに対して効率的な編集を行う能力を有することが
証明され(図8B、8C)、結果から、APRSEは高精度の部位特異的編集能力を有し、直接APRSE結合部位の下流の2番目の塩基に対して高精度で効率的な編集を行うことが示され、異
なる編集部位の編集効率が30%~80%の間であった。
【0132】
構築されたAPRSEでEZH2、SCN1AおよびSCN5A遺伝子の病原性点突然変異に対して部位特
異的修復を行ったところ、修復効率がそれぞれ39%、23%、12%で、すなわち、細胞レベルにおいてEZH2、SCN1AおよびSCN5A遺伝子の病原性点突然変異に対する部位特異的修復が実現でき、さらに当該遺伝子の突然変異の治療に有力なツールを提供する(図9A、9B、9C)ことがわかり、APRSEによる当該疾患の治療に良い応用の将来性が示された。
【0133】
実施例5
RNA結合タンパク質PUFを最適化し、APRSEによるRNAの編集の精度を減少させ、オフターゲット率を低下させ、PUFドメインを最適化することにより、8塩基を認識するPUF8から12塩基を認識・結合するPUF10まで最適化し(図10、A-C)、RNA標的部位の編集効率が当該最
適化設計によって低下せず、そしてPUFの認識・結合する塩基の数が増えるにつれ、この
策によってAPRSEのエフェクターターゲット効果が10倍低下し、オフターゲット効果を有
効に低下せ、そしてさらに最適化の潜在的能力があり、PUFを12塩基、16塩基、ひいては
それ以上を認識・結合するまで最適化し、APRSE応用範囲を極限に拡大することができる
【0134】
検討
直接のDNAに対する特異的編集によるコントロールと比べ、RNAに対する特異的なコントールは可逆的で、そしてより融通性がある。標的RNAの遺伝子治療方案は、有効にDNAに対する遺伝子治療の不足を避けることができる。そのため、RNAレベルにおける遺伝子に対
するコントールはより制御可能で安全であるため、このような遺伝子治療はより基礎研究から臨床への転化に有利である。
【0135】
現在のRNAレベルの塩基編集は主にCRISPR-Cas13に基づいたREPAIRおよびオリゴヌクレ
オチド断片で細胞内因性RNAアデノシンデアミナーゼADARを招集してRNA編集を行う方法がある。CRISPR-Cas13に基づいたREPAIRは同様に上記DNA編集と同じ問題があり、システム
が膨大、編集効率および編集精度が低い、免疫反応を引き起こしやすいといった問題を含む。オリゴヌクレオチド断片で細胞内因性RNAアデノシンデアミナーゼADARを招集してRNA編集を行う方法は、現在の応用範囲が狭く、送達が困難で機能が単一で、システムが複雑である。
【0136】
本発明者は、RNAに結合する認識ドメイン(RNA recognition domain)と機能を発揮する
機能ドメイン(effector domain)を融合させ、新たな機能的タンパク質を組み立て、認識
ドメインによって標的RNAをターゲティングし、そして機能ドメインによってRNA編集を行い、DNAの間違った点突然変異を改正して病原性RNAをなくす。人工的に構築されたRNA編
集酵素は、何らのRNA成分も含まない単一成分のプロテアーゼで、内因性ヒトタンパク質
配列からなるものであるため、これらの工学的タンパク質は遺伝子治療においてCRISPR-Casシステムよりも免疫原性もシステム複雑度も低い。そして、当該システムはDNA編集よ
りも融通が利き、安全であるという特徴がある。
【0137】
また、単一のタンパク質に基づいた人工RNA編集酵素は異なる細胞局在化配列を連結さ
せることによって異なるサブ細胞構造(細胞核、細胞質、ミトコンドリア、葉緑体など)に局在化させることで、人工RNA編集酵素は異なるサブ細胞構造におけるRNAに対して特異的編集を行うことができる。ミトコンドリアを例とすると、現在、ミトコンドリアの遺伝子に対する有効な編集手段がないため、人工RNA編集酵素はミトコンドリアの遺伝子コント
ールにおいてかけがえのない作用がある。
【0138】
そのため、生物学的手段によってモジュール化された人工RNA結合タンパク質を合成し
、RNA編集タンパク質をRNA結合タンパク質に融合させることで、特異的にRNAを標的とす
る編集をコントールすることができ、RNAを標的とする斬新な治療アプローチである。人
工的に設計されるPUF因子はリプログラミングしてほとんどの8ヌクレオチド配列を認識するようにすることができるため、理論上、任意の指定されるRNA転写体を編集することが
できる。当該システムにより、一部の疾患に関連する突然変異を標的とする編集が望まれている。当該システムはヒト細胞におけるRNAへのターゲティングに有用なツールを提供
し、一部の核酸の突然変異による疾患の治療に希望をもたらす。そして、人工的に構築されたRNA因子は、何らのRNA成分も含まない簡単な酵素で、内因性ヒトタンパク質配列からなるもので、これらの工学的タンパク質は遺伝子治療においてCRISPR-Casシステムよりも簡単で、実用的な代替案かもしれない。
【0139】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2024041916000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA編集酵素であって、
(a)編集されるRNA配列のRNA認識配列を認識するために用いられ、前記RNA認識配列に結合するRNA認識ドメインであって、前記RNA認識ドメインはn個の認識ユニットを含み、各認識ユニットはRNA塩基を認識するために用いられ、nは、9~15の正整数であり、前記RNA認識ドメインはPUFドメインに由来する、RNA認識ドメインと、
(b)編集されるRNA配列に対してヌクレオチド編集を行うために用いられる機能ドメインであって、前記機能ドメインはADARファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメインまたはAPOBECファミリーのメンバーの脱アミノ触媒ドメインであり、前記ADARファミリーのメンバーは、dADAR、ADAR1、ADAR2、及びこれらの組み合わせを含む、機能ドメインとを含み、
ここで、前記RNA認識ドメインと前記機能ドメインとは操作可能に連結していることを
特徴とするRNA編集酵素。
【請求項2】
前記ADARファミリーのメンバーは、ショウジョウバエADAR、ヒトADAR1、ヒトADAR2、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項3】
前記APOBECファミリーのメンバーは、Apobec1、Apobec3A、Apobec3G、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項4】
nは、10~15の正整数であることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項5】
前記RNA編集酵素は、さらに、連結ペプチド、タグ配列、シグナルペプチド配列、局在化ペプチド配列、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる一つまたは複数のエレメントを含むことを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項6】
前記RNA編集酵素はRNA認識ドメインおよび機能ドメイン、ならびに任意に連結ペプチド、タグ配列、シグナルペプチド配列および/または局在化ペプチド配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項7】
前記RNA編集酵素の構造は下記式I~式IVのいずれか一つで表されることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素:
D-L2-A-L1-B (I);
D-L2-B-L1-A (II);
A-L1-B-L2-D (III);
B-L1-A-L2-D (IV)。
(式中において、各「-」は独立に連結ペプチドまたはペプチド結合である。
AはRNA認識ドメインである。
Bは機能ドメインである。
L1およびL2はそれぞれ独立になしか、連結ペプチドである。
Dはなしか、局在化ペプチドである。)
【請求項8】
前記ADAR1は天然のADAR1またはADAR1突然変異体を含むことを特徴とする請求項2に記載のRNA編集酵素。
【請求項9】
前記ADAR1突然変異体は天然のADAR1のアミノ酸配列における1008番目に相当する位置における突然変異を有し、好ましくは、1008番目のグルタミン酸(E)がグルタミン(Q)に突然変異していることを特徴とする請求項8に記載のRNA編集酵素。
【請求項10】
前記ADAR2突然変異体は天然のADAR2のアミノ酸配列における488番目に相当する位置において突然変異し、好ましくは、488番目のグルタミン酸(E)がグルタミン(Q)に変異していることを特徴とする請求項2に記載のRNA編集酵素。
【請求項11】
前記APOBECファミリーのメンバーは、ヒトApobec1、ヒト Apobec3A、ヒト Apobec3B、ヒトApobec3C、ヒトApobec3D、ヒトApobec3F、ヒトApobec3G、ヒトApobec3H、ヒトAID、マウスApobec1、マウスApobec3A、マウスAID、ラットApobec1、ラットApobec3A、ラットAID及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項12】
前記RNA認識ドメインは、PUFタンパク質断片またはその相同タンパク質であることを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項13】
前記RNA認識ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載のRNA編集酵素。
【請求項14】
請求項1に記載のRNA編集酵素をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項14に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項16】
請求項1に記載のRNA編集酵素、または請求項14に記載のポリヌクレオチド、または請求項15に記載のベクター、前記宿主細胞の使用であって、
(a)遺伝子治療の薬物または製剤、ならびに/あるいは
(b)RNAを編集する試薬
の製造に使用されることを特徴とする使用。