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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004192
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240109BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240109BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240109BHJP
【FI】
H01L21/02 A
H01L21/78 C
B23K26/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103721
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 良一
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信也
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AA00
4E168DA04
4E168DA06
4E168DA24
4E168DA43
4E168JA13
5F063AA15
5F063AA48
5F063BA43
5F063DE06
(57)【要約】
【課題】表面にマークを有する酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、マーキングによるクラックやデブリの発生が抑えられ、かつマークの視認性に優れた半導体基板を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、複数のドット12で構成されるマーク11を表面10に有し、複数のドット12の各々が、複数のレーザー照射痕120で構成され、複数のドット12の各々の最大深さが、5.7μm以上、14.5μm以下の範囲内にある、半導体基板1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、
複数のドットで構成されるマークを表面に有し、
前記複数のドットの各々が、複数のレーザー照射痕で構成され、
前記複数のドットの各々の最大深さが、5.7μm以上、14.5μm以下の範囲内にある、
半導体基板。
【請求項2】
前記複数のドットの各々の最大深さが、9.5μm以上、14.5μm以下の範囲内にある、
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記複数のドットの各々の平均線粗さ(Ra)が、0.5μm以上、4.6μm以下の範囲内にある、
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記複数のドットの各々の内面の平均線粗さ(Ra)が、1.6μm以上、4.6μm以下の範囲内にある、
請求項3に記載の半導体基板。
【請求項5】
(001)面を主面とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板の識別、管理を容易にするため、基板の表面に識別子などのマークを形成する技術が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1においては、ガラス基板の表面にレーザー光を照射して、複数のドットで構成される視認性の良いマークを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/150759号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基板に視認性の良いマークを形成するための条件は、透明度、融点、熱伝導性、劈開性などの基板の特性によって異なる。このため、特許文献1に記載の技術をガラス基板以外の基板に適用しても、視認性の良いマークを形成することができるとは限らない。
【0005】
本発明の目的は、表面にマークを有する酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、マーキングによるクラックやデブリの発生が抑えられ、かつマークの視認性に優れた半導体基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の半導体基板を提供する。
【0007】
[1]酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、複数のドットで構成されるマークを表面に有し、前記複数のドットの各々が、複数のレーザー照射痕で構成され、前記複数のドットの各々の最大深さが、5.7μm以上、14.5μm以下の範囲内にある、半導体基板。
[2]前記複数のドットの各々の最大深さが、9.5μm以上、14.5μm以下の範囲内にある、上記[1]に記載の半導体基板。
[3]前記複数のドットの各々の平均線粗さ(Ra)が、0.5μm以上、4.6μm以下の範囲内にある、上記[1]に記載の半導体基板。
[4]前記複数のドットの各々の内面の平均線粗さ(Ra)が、1.6μm以上、4.6μm以下の範囲内にある、上記[3]に記載の半導体基板。
[5](001)面を主面とする、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の半導体基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面にマークを有する酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であって、マーキングによるクラックやデブリの発生が抑えられ、かつマークの視認性に優れた半導体基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の斜視図である。図1(b)は、半導体基板の表面に形成されたマークの一例を示すデジタルマイクロスコープの観察画像である。
図2図2は、ドットの形成方法を示す模式図である。
図3図3(a)、(b)は、ドットの一例のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。
図4図4(a)、(b)、(c)は、異なるレーザー走査速度で形成されたドットの表面性状の波形データである。
図5図5(a)は、レーザー走査速度とドットの最大深さとの関係を示すグラフである。図5(b)は、レーザー走査速度とドットの内面の平均線粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。
図6図6(a)は、ドットの一例のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。図6(b)は、レーザー走査速度とドットの内面の5箇所の平均線粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。
図7図7(a)は、異なるレーザー走査速度で形成されたマークの光学写真である。図7(b)は、異なるレーザー走査速度で形成されたマークのデジタルマイクロスコープによる観察画像である。
図8図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ200mm/s、30mm/s、10mm/sのレーザー走査速度で形成されたマークの一部である数字“0”を拡大したデジタルマイクロスコープによる観察画像である。
図9図9(a)、(b)、(c)は、状態の異なるドットのデジタルマイクロスコープによる観察画像である。
図10図10は、レーザー走査速度と上述のドットの非形成率及び不良率との関係を示すグラフである。
図11図11(a)、(b)、(c)は、ドットの周りに生じる3種のクラックの例を示す、デジタルマイクロスコープによる観察画像である。
図12図12は、ドットの平均深さと内面の平均線粗さ(Ra)の関係をプロットし、マークの視認性、及びクラックとデブリの発生状況の情報を加えたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(半導体基板の構造)
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る半導体基板1の斜視図である。半導体基板1は、マーク11を表面10に有する、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板である。ここで、酸化ガリウム系半導体とは、β-Ga、又は、Al、Inなどの置換型不純物やSn、Siなどのドーパントを含むβ-Gaを指すものとする。
【0011】
図1(b)は、表面10に形成されたマーク11の一例を示すデジタルマイクロスコープの観察画像である。マーク11は、半導体基板1の識別子やアライメントマークなどであり、数字、文字、図形などにより構成される。また、マーク11は、図1(b)に示されるように、複数のドット12で構成される。ドット12は表面10に形成された点状の窪みである。
【0012】
図2は、ドット12の形成方法を示す模式図である。ドット12は、半導体基板1の表面10にパルスレーザー光を照射し、ドット12の形状に応じた方向に走査することにより形成される。図2に示される例では、パルスレーザー光を二重の円形に走査することにより、円形のドット12が形成される。
【0013】
パルスレーザー光を半導体基板1の表面10に照射すると、格子振動が生じて温度が上昇し、熱によって格子結合が破壊されて、窪みであるパルスレーザー光の照射痕(以下、レーザー照射痕と呼ぶ)120が形成される。パルスレーザー光は所定の周波数で出力されるため、パルスレーザー光の走査速度に応じた間隔で表面10にレーザー照射痕120が形成され、レーザー照射痕120の集合体がドット12となる。すなわち、マーク11を構成する複数のドット12の各々が、複数のレーザー照射痕120で構成される。
【0014】
マーク11は、ドット12の内面で光が散乱することにより視認される。このため、視認性にはドット12がある程度の深さを有していることが重要である。また、ドット12の内面がある程度の粗さを有していることが好ましい。
【0015】
(マークの形成条件)
Gaに代表される酸化ガリウム系半導体は、次のようなマーク11の形成を困難にする特徴を有している。(1)融点が高く、かつ熱伝導率が低いために、レーザー照射痕120の形成が難しい。(2)劈開性を有するため、マーク11の形成時に劈開によるクラックを生じやすい。特に、半導体基板1が(001)面を主面とする場合には、(100)面、(001)面という2つの劈開面が顕在化しやすく、劈開によるクラックがより生じやすい。(3)熱伝導や熱膨張が異方性を有するため、マーク11の形成時に生じる熱により歪みが生じやすく、クラックを引き起こすおそれがある。(4)透明であるため、視認性のよいマーク11を形成することが難しい。
【0016】
酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板1に、クラックを生じさせることなく視認性のよいマーク11を形成するためには、パルスレーザー光の波長(以下、レーザー波長と呼ぶ)、パルスレーザー光の出力(以下、レーザー出力と呼ぶ)、パルスレーザー光の周波数(以下、パルス周波数と呼ぶ)、パルスレーザー光の走査速度(以下、レーザー走査速度と呼ぶ)をそれぞれ適切な値に設定する必要がある。
【0017】
レーザー波長は、短いほど吸収率が増加するため、透明度の高い半導体基板1にもマーク11を形成しやすくなる。レーザー出力は、大きすぎるとクラックが発生しやすい。一方で、小さすぎるとパルスレーザー光の照射エネルギーが反応閾値を超えずにレーザー照射痕120が形成され難くなる。ここで、反応閾値とは、レーザー照射痕120を形成するためのパルスレーザー光の照射エネルギーの閾値をいうものとする。パルス周波数は、高すぎると1パルスあたりのエネルギーが小さくなるため、反応閾値を超えずにレーザー照射痕120が形成され難くなる。
【0018】
レーザー波長、レーザー出力、及びパルス周波数に関しては、一例として、レーザー波長が355nmであるUV-YAGレーザー(3倍波)のレーザー出力0.8W、パルス周波数40kHzでの使用が、半導体基板1へのマーク11の形成に適していることが確認されている。
【0019】
後述される全ての実験に係るドット12は、特に記載のない限り、レーザー波長が355nmであるUV-YAGレーザー(3倍波)を用いて、レーザー出力0.8W、パルス周波数40kHzの条件で形成されたものであり、また、直径約25μmのレーザー照射痕120の集合体により、約100μmの直径に形成されたものである。また、後述される全ての実験は、クラックが特に生じやすい、(001)面を主面とするGa基板を半導体基板1として用いて実施したものである。
【0020】
なお、ドット12の約100μmの直径は、SEMI規格に対応させたものである。ドット12の直径は特に限定されないが、SEMI規格に対応させる場合は約100μmに設定される。この場合、ドット12の内側の円を構成するレーザー照射痕120と外側の円を構成するレーザー照射痕120の重なりを大きくするとドット12の直径が小さくなるが、通常はこの重なりが大きくなりすぎないようにするため、ドット12の直径は90μm未満になることはない。
【0021】
レーザー走査速度は、大きすぎると1箇所へのパルスレーザー光の照射時間が短くなるため、反応閾値を超えずにレーザー照射痕120が形成され難くなる。一方で、レーザー走査速度が小さすぎると1箇所へのパルスレーザー光の照射時間が長くなってレーザー照射痕120が焼けたように黒ずんでしまう。これは、照射エネルギーが反応閾値を超えないときに発生した、レーザー照射痕120の形成に用いられない熱が半導体基板1の表面10にダメージを与えるためと考えられる。
【0022】
図3(a)、(b)は、ドット12の一例のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。図4(a)、(b)、(c)は、異なるレーザー走査速度で形成されたドット12の、図3(a)に示されるような中心近くを通る直線上で測定した表面性状の波形データである。図4(a)、(b)、(c)の波形データは、レーザー顕微鏡を用いた測定により得られたものであり、横軸は平面方向の位置、縦軸は表面10のドット12の形成されていない平坦な部分の高さを基準とした高さである。
【0023】
図4(a)、(b)、(c)に係るドット12は、それぞれレーザー走査速度が200mm/s、30mm/s、10mm/sの条件で形成されたものである。図4(a)、(b)、(c)は、レーザー走査速度が小さくなるほどドット12の最大深さと内面の粗さが大きくなる傾向があることを示している。
【0024】
また、図4(c)の波形においては、ドット12の縁に形成されるデブリと呼ばれる突起の存在が確認される。デブリは、ドット12の形成時に生じる半導体基板1の蒸発物により形成されるものである。通常、マーク11が形成される表面10は、素子が形成される面の反対側の面(基板裏面)であり、デブリが存在すると、測定機器において表面10を真空吸着する際にクラックの発生原因となり得る。
【0025】
図5(a)は、レーザー走査速度とドット12の最大深さとの関係を示すグラフである。図5(a)のドット12の最大深さは、図3(a)に示されるようなドット12の中心近くを通る直線上で測定した表面性状の波形データから得られるものである。
【0026】
図5(b)は、レーザー走査速度とドット12の内面の平均線粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。図5(b)のドット12の内面の平均線粗さ(Ra)は、図3(b)に示されるようなドット12上の異なる位置を通る互いに平行な5本の直線上でそれぞれ表面性状の波形データを測定し、それらの波形データから得られる平均線粗さ(Ra)の平均をとったものである。
【0027】
図5(a)、(b)によれば、レーザー走査速度が小さくなるほど、ドット12の最大深さと内面の平均線粗さ(Ra)が大きくなることがわかる。
【0028】
図6(a)は、ドット12の一例のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。図6(b)は、レーザー走査速度とドット12の内面の5箇所の平均線粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。図6(b)の5つの平均線粗さ(Ra)は、図6(a)に示されるようなドット12上の異なる位置を通る互いに平行な5本の直線(L1~L5とする)でそれぞれ測定された表面性状の波形データから得られたものであり、それぞれRa1~Ra5と示される。Ra1~Ra5は、それぞれ、2回の測定により得られた値の平均値である。図6(b)によれば、ドット12の外周部に近いほど粗さが小さくなることがわかる。
【0029】
次の表1に、図6(b)のプロット点の数値、並びにレーザー走査速度ごとの平均線粗さ(Ra)の最大値及び最小値を示す。レーザー走査速度ごとの平均線粗さ(Ra)の最大値及び最小値は、Ra1~Ra5のそれぞれの2回の測定データを用いて求めた。
【0030】
【表1】
【0031】
図7(a)は、異なるレーザー走査速度で形成されたマーク11の光学写真である。図7(b)は、異なるレーザー走査速度で形成されたマーク11のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。図7(a)、(b)に示されるマーク11は、“0”から“9”まで並べられた数字で構成されている。図7(a)、(b)の画像左側の数値は、いずれもレーザー走査速度(mm/s)を示している。
【0032】
図7(a)、(b)によれば、レーザー走査速度が100mm/s以下であるときにはマーク11の視認性がよく、レーザー走査速度が150~200mm/sであるときには、視認性が特によいとはいえないものの、印字された数字を読むことができるため、最低限の視認性は確保できているといえる。この結果は、視認性のよいマーク11を形成するためには、150mm/s未満のレーザー走査速度が求められることを示している。
【0033】
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ200mm/s、30mm/s、10mm/sのレーザー走査速度で形成されたマーク11の一部である数字“0”を拡大したデジタルマイクロスコープによる観察画像である。
【0034】
マーク11の視認性を数値化するために、レーザー照射痕120が全く形成されていないドット12は形成されていないものとして(レーザー照射痕120が一部でも形成されているドット12は形成されているものとした)、数字“0”を構成する23個のドット12の非形成率を求めた。その結果、図8(a)、(b)、(c)に示される数字“0”の非形成率は、それぞれ39%、0%、0%であった。また、150mm/s、100mm/s、90mm/s、80mm/s、50mm/s、40mm/s、20mm/sのレーザー走査速度で形成されたマーク11に含まれる数字“0”についても同様にドット12の非形成率を求めた。
【0035】
その結果、視認性のよいマーク11を形成するための150mm/s未満のレーザー走査速度で形成されたマーク11に含まれる数字“0”のドット12の非形成率はおよそ16%未満であり、最低限の視認性を確保できる150~200mm/sのレーザー走査速度で形成されたマーク11に含まれる数字“0”のドット12の非形成率はおよそ16%以上、44%以下であった。
【0036】
このことから、ドット12の非形成率が16%未満であるときはマーク11の視認性がよく、ドット12の非形成率が16%以上、44%以下であるときはマーク11の視認が可能、ドット12の非形成率が44%を超えるときはマーク11の視認性が悪い、とのドット12の非形成率に基づいたマーク11の視認性の判定基準が導かれた。
【0037】
なお、図8(c)に示される数字“0”のドット12の周辺が黒くなっているのは、レーザー走査速度が小さすぎたために1箇所へのパルスレーザー光の照射時間が長くなり、照射エネルギーが反応閾値に達しないときのレーザー照射痕120の形成に用いられない熱により半導体基板1の表面10にダメージが生じたためと考えられる。
【0038】
また、マーク11の視認性を数値化するための他の方法として、ドット12が正常に形成されていないドット12を不良として、数字“0”~“9”を構成する186個のドット12の不良率を求めた。
【0039】
図9(a)、(b)、(c)は、状態の異なるドット12のデジタルマイクロスコープによる観察画像である。図9(a)に示されるドット12は、連なった複数のレーザー照射痕120により二重の円がいずれも途切れなく形成されているため、正常に形成されている。図9(b)に示されるドット12は、内側の円が途切れているため、不良と判定する。図9(c)に示されるドット12は、外側の円が途切れており、また内側の円が全く形成されていないため、不良と判定する。また、レーザー照射痕120が全く形成されていないドット12も不良と判定する。
【0040】
200/s、50mm/s、40mm/s、30mm/s、20mm/s、10mm/sのレーザー走査速度で形成されたマーク11のドット12の不良率を求めた結果、レーザー走査速度が100mm/s以上であるときにドット12の不良率が84%以上と特に大きくなり、レーザー走査速度が40mm/s未満であるときにドット12の不良率が8%未満と特に小さくなることがわかった。
【0041】
なお、このドット12の不良率の大きさは、ドット12の周りのクラックの発生状況と相関があることが確認されている。具体的には、ドット12の周りにほぼ必ずクラックが生じるようなレーザー走査速度では、ドット12の不良率が特に大きくなり、クラックがほとんど生じないようなレーザー走査速度では、ドット12の不良率が特に小さくなる。ドット12の周りに発生するクラックについては後述する。
【0042】
図10は、レーザー走査速度と上述のドット12の非形成率及び不良率との関係を示すグラフである。図10は、レーザー走査速度が低いほど、ドット12の非形成率及び不良率が小さくなる傾向があることを示している。次の表2に、図10のプロット点の数値を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
次に、ドット12の周りに生じるクラックの発生条件についての調査結果を述べる。まず、ドット12の周りに生じるクラックには、大きく分けて、酸化ガリウム系半導体の(100)面の劈開によるもの、(001)面の劈開によるもの、(100)面の劈開と(001)面の劈開の両方によるものの3種類があることが確認された。
【0045】
図11(a)、(b)、(c)は、上記のドット12の周りに生じる3種のクラックの例を示す、デジタルマイクロスコープによる観察画像である。
【0046】
図11(a)に示されるクラックは、(100)面の劈開によるものであり、レーザー走査速度が200mm/sであるときに生じたものである。酸化ガリウム系半導体の熱伝導率の低さが(100)面の劈開によるクラックの発生原因の1つになっていると考えられる。
【0047】
図11(b)に示されるクラックは、(001)面の劈開により生じる、マイクロクラックと呼ばれる微細なクラックであり、レーザー走査速度が200mm/sであるときに生じたものである。酸化ガリウム系半導体の熱伝導率の低さが(001)面の劈開によるクラックの発生原因の1つになっていると考えられる。
【0048】
図11(c)に示されるクラックは、(100)面の劈開と(001)面の劈開の両方によるものであり、レーザー走査速度が80mm/s、レーザー出力が1.3Wであるときに生じたものである。この(100)面の劈開と(001)面の劈開の両方によるクラックは、レーザー出力が高い場合に生じる傾向がある。
【0049】
レーザー出力を0.8Wとした場合は、レーザー走査速度が大きいときに(100)面の劈開によるクラックと(001)面の劈開によるクラックが生じやすくなり、レーザー走査速度が10~30mm/sであるときにはほとんど生じず、40~50mm/sであるときには生じる場合があり、80~mm/sのときにはほぼ必ず生じる。
【0050】
なお、クラックはドット12の不良に比べて見つけ難いが、不良と判定されるドット12の周辺に発生する頻度が高い。このため、品質検査の際にはドット12の不良の検査を実施すれば、クラックの検査を兼ねるため、検査効率がよくなる。
【0051】
下記の表3は、上記の実験結果をまとめたものである。表3の“マーク視認性”は、図7(a)の光学写真及び図7(b)のデジタルマイクロスコープによる観察画像から判定されたマーク11の視認性である。“ドット不良率”は、8%未満のものを“○”、8%以上、84%未満のものを“△”、84%以上のものを“×”としている。“ドット非形成率”は、16%未満のものを“○”、16%以上、44%以下のものを“△”としている。“デブリ発生”は、デブリが発生しないものを“○”、発生するものを“×”としている。“クラック発生”は、クラックが発生しないものを“○”、発生する場合があるものを“△”、必ず発生するものを“×”としている。“平均Ra”と“Ra範囲”は、上記のR1~R5の平均値と、最小値から最大値までの範囲である。“平均深さ”と“深さ範囲”は、図3(a)に示されるようなドット12の中心近くを通る直線上で測定した表面性状の波形データから得られるドット12の最大深さの2つの測定値の平均値と最小値から最大値までの範囲である。
【0052】
【表3】
【0053】
表3からわかるように、デブリとクラックの発生を抑制し、マーク11の視認性をよくするためには、マーク11を構成するドット12の最大深さの平均値は5.9μm以上、14.4μm以下の範囲内にあることが好ましく、マーク11を構成するドット12の最大深さは5.7μm以上、14.5μm以下の範囲内にあることが好ましく、マーク11を構成するドット12の各々の平均線粗さ(Ra)の平均値は1.3μm以上、3.7μm以下の範囲内にあることが好ましく、ドット12の各々の平均線粗さ(Ra)は0.5μm以上、4.6μm以下の範囲内にあることが好ましい。さらに、クラックの発生をより効果的に抑制するためには、マーク11を構成するドット12の最大深さの平均値は10.0μm以上、14.4μm以下の範囲内にあることが好ましく、ドット12の最大深さの範囲は9.5μm以上、14.5μm以下の範囲内にあることが好ましく、マーク11を構成するドット12の各々の平均線粗さ(Ra)の平均値は2.4μm以上、3.7μm以下の範囲内にあることが好ましく、マーク11を構成するドット12の各々の平均線粗さ(Ra)は1.6μm以上、4.6μm以下の範囲内にあることが好ましい。なお、これらのドット12の平均線粗さ(Ra)の平均値と範囲、及びドット12の最大深さの平均値と範囲の条件は、マーク11を構成するドット12のうち、レーザー照射痕120が全く形成されていないドット12(非形成のドット12)には適用しないものとする。
【0054】
図12は、ドット12の平均深さと内面の平均線粗さ(Ra)の関係をプロットし、マークの視認性、及びクラックとデブリの発生状況の情報を加えたグラフである。
【0055】
(実施の形態の効果)
上記の実施の形態によれば、表面にマークを有する酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板において、適切な条件でマークを形成することにより、マーキングによるクラックやデブリの発生が抑えられ、かつマークの視認性に優れた半導体基板を提供することができる。
【0056】
また、上記の実施の形態によれば、劈開によるクラックが生じやすい(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板であっても、マーキングによるクラックやデブリの発生を抑え、かつ視認性のよいマークを形成することができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0058】
1…半導体基板、 10…表面、 11…マーク、 12…ドット、 120…レーザー照射痕
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