(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041920
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】製薬におけるフェノチアジン類又は類似の構造を持つ化合物の新しい使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5415 20060101AFI20240319BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240319BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K31/5415
A61K35/17
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003683
(22)【出願日】2024-01-15
(62)【分割の表示】P 2022513507の分割
【原出願日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】201910792478.5
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】516234063
【氏名又は名称】広州威溶特医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU VIROTECH PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 416-428, Guangzhou International Business Incubator G District No.3, Lanyue Road, Science Park, High-tech Industrial Development Zone Guangzhou,Guangdong 510663 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 良
(72)【発明者】
【氏名】范 真真
(72)【発明者】
【氏名】賀 嵩敏
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲ジエ▼思
(72)【発明者】
【氏名】サンダー,マックス
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 守芳
(72)【発明者】
【氏名】楊 暁志
(72)【発明者】
【氏名】林 子青
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌治療用の医薬組成物、キット、および製薬におけるフェノチアジン系化合物の新しい使用を提供する。
【解決手段】(a)第1の有効成分として、養子細胞療法に適した免疫細胞と、(b)第2の有効成分として、式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される遊離フェノチアジン系化合物とを含む、癌治療用の医薬組成物である。
ここで、前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球、キメラ抗原受容体T細胞、キメラ抗原受容体NK細胞、及びT細胞受容体キメラT細胞からなる群から選択される。前記フェノチアジン系化合物はPD-1の機能を阻害し、PD-1のシグナル伝達を阻止することができ、PD-1シグナル伝達阻害剤として有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)養子細胞療法に適した免疫細胞と、
(b)式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物とを含む、医薬組成物。
【化1】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
Yは、N又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項2】
前記X-は、Cl-、Br-、I-、メタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のC1~C6アルキル、置換又は無置換のC3~C8シクロアルキル、置換又は無置換の3~8員ヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のC5~C10アリール、置換又は無置換の5~10員ヘテロアリール、置換又は無置換のC1~C6アルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【化2】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項5】
前記フェノチアジン系化合物は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【化3】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項6】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記フェノチアジン系化合物はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアモニウムビスジメシレートである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK細胞)、及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記免疫細胞はT細胞受容体(TCR)キメラT細胞である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
a)第1の製剤に配合された養子細胞療法に適した免疫細胞と、
b)第2の製剤に配合され、式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物とを含む、キット。
【化4】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
Yは、N又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項12】
癌治療薬の製造における式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用。
【化5】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項13】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される、請求項12に記載の使用。
【化6】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項14】
前記フェノチアジン系化合物は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物から選択される、請求項12に記載の使用。
【化7】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項15】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記フェノチアジン系化合物はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアモニウムビスジメシレートである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記癌は黒色腫、胸腺腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、リンパ腫、食道癌、膀胱癌、尿道癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓癌又は脳腫瘍である、請求項12に記載の使用。
【請求項18】
PD-1シグナル伝達阻害剤の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、前記フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用。
【化8】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項19】
免疫細胞機能を向上させる薬物の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、前記フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用。
【化9】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項20】
PD-1によるSHP2タンパク質リクルートを遮断する薬物の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、前記フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用。
【化10】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項21】
X-は、Cl-、Br-、I-、メタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンから選択される、請求項18~20のいずれかに記載の使用。
【請求項22】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のC1~C6アルキル、置換又は無置換のC3~C8シクロアルキル、置換又は無置換の3~8員ヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のC5~C10アリール、置換又は無置換の5~10員ヘテロアリール、置換又は無置換のC1~C6アルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される、請求項18~20のいずれかに記載の使用。
【請求項23】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される、請求項18~20のいずれかに記載の使用。
【化11】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項24】
前記フェノチアジン系化合物は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物から選択される、請求項18~20のいずれかに記載の使用。
【化12】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項25】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアモニウムビスジメシレートである、請求項18~20のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
(a)式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物と、
(b)癌治療用の第2の治療剤とを含む、癌治療用の薬物組成物。
【化13】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【請求項27】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される、請求項26に記載の薬物組成物。
【化14】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項28】
前記フェノチアジン系化合物は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物から選択される、請求項26に記載の薬物組成物。
【化15】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項29】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアモニウムビスジメシレートである、請求項26に記載の薬物組成物。
【請求項30】
前記第2の化学療法剤は腫瘍免疫治療剤である、請求項26に記載の薬物組成物。
【請求項31】
前記腫瘍免疫治療剤はPD-1抗体、PD-L1抗体又はその機能的断片である、請求項26に記載の薬物組成物。
【請求項32】
(a)第1の製剤に配合され、式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物と、
(b)第2の製剤に配合される癌治療用の第2の治療剤とを含む癌治療用のキット。
【化16】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬技術分野に関し、特に、製薬におけるフェノチアジン類又は類似の構造を持つ化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の新しい使用に関する。本発明の別の態様は、フェノチアジン系化合物と養子細胞療法の併用に関する。本発明の別の態様は、フェノチアジン系化合物と腫瘍免疫化学療法剤、特にPD-1抗体との併用に関する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞療法(Adoptive cell therapy)は、哺乳動物から1つ又は複数の異なるタイプの免疫細胞を採取し、採取した免疫細胞をエクスビボ(ex vivo)で培養及び/又は操作し、培養及び/又は操作した免疫細胞を哺乳動物に戻すことを含む治療方法である。採取された免疫細胞に対するエクスビボ操作は、組換え核酸を免疫細胞に導入することを含む。養子細胞療法には、腫瘍浸潤リンパ球(TIL、Tumor Infiltrating Lymphocyte)、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK、Lymphokine Activated Killer)、サイトカイン誘導キラー細胞(CIK、Cytokine Induced Killer)、樹状細胞(DC、Dendritic Cell)、ナチュラルキラー細胞(NK、Natural Killer)、T細胞受容体キメラ-T細胞(TCR-T、T Cell Receptor TCR-Modified T Cell)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)、及びキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T、Chimeric Antigen Receptor Engineered T Cell)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0003】
人体免疫系は外来から侵入した病原微生物や変異した細胞に対抗し、除去することができ、免疫細胞は人体免疫機能を実行する重要な細胞である。その中で、T細胞は人体内の重要な免疫細胞であり、その細胞表面に発現した抗原受容体(TCR)を介して標的細胞上の主要組織適合性複合体(MHC)によって提示された抗原を認識することができ、これは第1のシグナルと呼ばれる。標的細胞の適切な第2のシグナル(例えばB7分子)との相乗作用により、T細胞は活性化され、その機能を発揮する。例えば、T細胞の1つのサブクラスである細胞毒性T細胞(CTLと略称する)は、活性化された後に標的細胞を直接殺傷することで、ウイルスで感染された細胞や腫瘍細胞を除去することができる。
【0004】
T細胞が活性化される過程で、T細胞は負のフィードバックを発現してその免疫機能を阻害するいくつかの分子を開始し、PD-1(すなわちprogrammed cell death 1、プログラム細胞死1)はその中で最も知られている分子の1つである。CTL細胞表面のPD-1タンパク質がそのリガンド(通常は標的細胞(例えば腫瘍細胞)上のPD-L1)によって刺激されると、PD-1はそのシグナル伝達を開始し、CTLの機能を阻害し、T細胞のアポトーシス又はアネルギーを引き起こす。このようなシグナル伝達により、CTLは標的細胞を殺傷する機能を失う。ヒトの腫瘍細胞を例にとると、これらの腫瘍細胞は通常、細胞表面にPD-L1を発現し、CTLによるその殺傷を阻害し、これにより免疫モニタリングを回避することができる。一方、PD-L1とPD-1の相互作用を薬物で遮断すると、PD-1のシグナル伝達が阻害され、腫瘍細胞に対するCTLの殺傷能力が回復する。T細胞に加えて、他の免疫細胞もPD-1を発現することができる。例えばマクロファージ、B細胞などではPD-1の発現が報告されている。適切な薬物でPD-1の機能を阻害すると、これらの免疫細胞の機能はある程度回復する。例えば、PD-1の機能を阻害すると、マクロファージはM2(すなわちCTLの機能を阻害するタイプ)からM1(すなわちCTLの機能を促進するタイプ)に変化し、生体内の腫瘍細胞を除去する。現在、抗体系薬物などの生物製剤は臨床治療用としてFDAの承認を得ている。しかし、これまで臨床的に使用されているPD-1に対する薬物はすべて生物製剤系抗体であり、小分子化合物のPD-1シグナル伝達阻害剤については報告されていない。
【0005】
https://baike.baidu.com/item/%E6%B0%AF%E5%8C%96%E7%89%A9https://baike.baidu.com/item/%E6%9F%93%E6%96%99メチレンブルー(3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド)はフェノチアジン塩であり、化学指示薬、染料、生物染色剤などに広く応用されている。最近、いくつかの研究は薬物におけるその使用を報告しており、例えば、中国特許公告番号CN 104027338Aはメチレンブルーの抗急性脳虚血の新しい用途を開示し、中国特許公告番号CN 103417546Bはメチレンブルーの麻酔後覚醒促進の新しい使用を開示している。また、いくつかの文献では、メチレンブルーが光増感剤として光増感薬を調製して光線力学療法を行うのに用いられることが開示されている。研究者により、従来の光線力学療法が体内治療に使われている場合、生物組織の光線に対する吸収や散乱の作用により励起光強度が減衰し、悪性腫瘍組織の酸素不足状態が一重項酸素の生産量を低くし、このため、単純な光増感剤が光増感薬として使用される場合、本格的な腫瘍治療作用を有していないことが発現されている(中国特許公告番号CN 106668859A)。
【0006】
したがって、従来技術では、薬物におけるメチレンブルーの使用がいくつか開示されているが、メチレンブルーをPD-1シグナル伝達阻害に応用し、それを腫瘍の予防・治療に応用することを報告した文献はない。現在、臨床では、癌を治療するのに十分に有効な薬物がまだ不足しており、そのため、腫瘍に有効な薬物を提供することには重要な臨床的意義がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、(a)養子細胞療法に適した免疫細胞と、(b)式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物とを含む医薬組成物を提供する。
【化1】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【0008】
いくつかの実施形態において、前記Xは無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択される。さらに、前記無機酸根アニオンは好ましくはCl-、Br-、I-である。前記有機酸根アニオンは好ましくはメタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンである。
【0009】
いくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のC1~C6アルキル、置換又は無置換のC3~C8シクロアルキル、置換又は無置換の3~8員ヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のC5~C10アリール、置換又は無置換の5~10員ヘテロアリール、置換又は無置換のC1~C6アルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化2】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、以上と同義である。)
【0011】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化3】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、以上と同義である。)
【0012】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアモニウムビスジメシレートである。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)、及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞(TCR-T)から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はT細胞受容体(TCR)キメラT細胞である。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、a)第1の剤形に配合された上記免疫細胞のいずれかと、b)第2の剤形に配合された上記の化合物のいずれかとを含むキットを提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、癌治療薬の製造における上記化合物のいずれかの使用を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫、胸腺腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、リンパ腫、食道癌、膀胱癌、尿道癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓癌又は脳腫瘍である。
【0019】
本発明の別の態様はまた、免疫細胞機能を向上させる薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。
【0020】
本発明の別の態様は、PD-1シグナル伝達を阻害する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。本発明の別の態様は、PD-1によるSHP2タンパク質リクルートを遮断する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断するステップを含むPD-1シグナル伝達を阻害する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記遮断は、PD-1によるSHP2タンパク質リクルートを遮断することにより達成される。いくつかの実施形態において、前記PD-1によるSHP2リクルートを遮断するステップは、細胞と本発明に記載のいずれかのフェノチアジン系化合物の有効量とを接触させることを含む。
【0022】
本発明の別の態様は対象における癌を治療する方法であって、対象におけるPD-1シグナル伝達を阻害することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記対象におけるPD-1シグナル伝達を阻害することは、PD-1下流シグナル経路を遮断することを含む。いくつかの実施形態において、前記PD-1下流シグナル経路を遮断することは、PD-1によるSHP2リクルートを遮断することを含む。いくつかの実施形態において、前記PD-1によるSHP2リクルートを遮断するステップは、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を対象に投与することを含む。
【0023】
本発明の別の態様は、対象における癌を治療する方法であって、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を前記対象に投与することと、対象に第2の治療法を施すことを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記第2の治療法は化学療法、放射線療法及び手術治療から選択される。いくつかの実施形態において、前記化学療法は腫瘍免疫療法である。いくつかの実施形態において、前記腫瘍免疫療法は、PD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、この態様に記載の方法は相乗的な抗腫瘍作用を発揮する。
【0024】
本発明の別の態様は癌治療用の薬物組成物であって、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかと、第2の化学療法剤とを含む薬物組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記第2の化学療法剤は腫瘍免疫治療剤である。いくつかの実施形態において、前記腫瘍免疫治療剤はPD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片である。
【0025】
本発明の別の態様は、対象におけるPD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片の治療効果を強化させる方法であって、前記PD-1抗体又はPD-L1抗体の投与の前、同時又は後に、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、この方法は相乗的な抗腫瘍作用を発揮する。
【0026】
本発明の発明者らは、大量の創造的労働を通じて、本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物を免疫細胞(特に遺伝子改変された免疫細胞)と併用することにより、標的細胞に対する免疫細胞の殺傷作用を顕著に向上させ、相乗効果を達成できることを発見した。本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物は、PD-1の機能を阻害し、PD-1のシグナル伝達を阻止することができ、PD-1シグナル伝達阻害剤として有用である。
【0027】
インビトロ実験において、このような化合物はPD-1によって阻害された免疫細胞の機能を回復させ、CTLなどの免疫細胞によるサイトカイン分泌や標的細胞への殺傷機能を向上させ、生体の免疫機能を向上させることができることを見出した。動物モデルにおいて、本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物は、マウス体内の移植腫瘍又は原位置肺癌を縮小し、癌を治療する目的を達成できる。さらに、PD-1抗体などの大分子に対して、小分子PD-1シグナル伝達阻害剤は低コストであり、製造技術が簡単(例えば化学合成により)であり、投与経路が多く、患者のコンプライアンスが高く、安全で信頼性が高いなどの優位性がある。また、本発明の実験では、本発明のフェノチアジン系化合物は、PD-1抗体と同等又はそれ以上の腫瘍阻害効果を有することも実証されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1の実験結果図であり、Aは、未トランスフェクション及びトランスフェクションJurkat細胞の表面のPD-1タンパク質の発現を示し、Bは、未トランスフェクション及びトランスフェクションRaji細胞の表面のPD-L1タンパク質の発現を示し、CはトランスフェクションされたRaji細胞が、トランスフェクションされたJurkat細胞中のPD-1タンパク質Y248のリン酸化を誘導した結果を示し、Dは、MTCがJurkat-PD-1-NFAT-luc細胞のIL-2分泌を促進した結果であり、Eは、MTC又はLMT(N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレート)がJurkat-PD-1-NFAT-luc細胞におけるルシフェラーゼ(luciferase)活性の上昇を促進することを示す。
【
図2】実施例2におけるMTCによるOT-1細胞の分裂促進を示し、AはOT1-CTL細胞の表面にPD-1タンパク質を発現させた結果であり、BはMTCがCTL分裂を促進した結果である。
【
図3】実施例2におけるMTCによるOT-1細胞のエフェクター分子分泌の促進を示し、MTCはCTL細胞におけるIL-2、IFNγ、パーフォリン及びグランザイムBの分泌を促進する。
【
図4】MTCがOT-1 T細胞の標的細胞殺傷能力を回復することを示し、Aは、MTCがCTLによるEL4-OVA(PD-L1)の殺傷を促進することを示し、BはIFNγによるB16-F10のPD-L1タンパク質発現の誘導を示し、C、Dは、MTC又はLMTがB16-OVA細胞に対するCTLの殺傷を相乗的に増加させることを示し、EはMTC又はLMTがB16-WT細胞に対して殺傷作用がなく、CTL細胞と組み合わせても細胞に対して殺傷作用がないことを示す。
【
図5】MTCが細胞毒性T細胞(CTL)による標的細胞によって形成された腫瘍の除去を促進した結果図であり、Aは移植腫の模式図であり、B、C、DはMTCがRag1-/-マウス移植腫瘍の成長を阻害することを示し、Eは、MTCがC57BL/6Jマウス移植腫瘍の成長を阻害することを示す。
【
図6】MTCによる原発腫瘍の治療結果図であり、Aは原位置腫瘍を治療する実験の模式図であり、BはMTCがCD8
+T細胞を通じて腫瘍を除去した結果である。
【
図7】MTCがPD-1によるSHP2リクルートを遮断した結果図であり、AはMTCがPD1とSHP2との結合を減少することを実証し、Bは、MTCがPD1によるSHP2リクルートを阻害することを示し、Cは、MTCがPD1とSHP2との結合を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
「養子細胞療法」又は「adoptive cell therapy」という用語は、抗腫瘍活性を有する免疫細胞を癌患者に移すことを含む。いくつかの実施例では、ACTは、抗腫瘍活性を有するリンパ球を使用し、これらの細胞をインビトロで大量に増幅し、癌に罹患している宿主にこれらの細胞を注入することを含む治療方法である。
【0030】
「腫瘍浸潤リンパ球」又はTILという用語は、血流から離れて腫瘍に移行した白血球を指す。「CAR-T」という用語は「キメラ抗原受容体T細胞」の略称であり、キメラ抗原受容体(CAR)はCAR-Tのコアコンポーネントであり、HLA非依存的な方式で標的細胞(例えば腫瘍)の抗原を認識する能力をT細胞に付与し、これにより、CARで改変されたT細胞は、天然T細胞表面受容体TCRと比較して、より広範な標的を認識することができる。
【0031】
「TCR-T(T細胞受容体(TCR)キメラ-T細胞)」という用語は、エンジニアリングされたT細胞受容体(engineered TCR)又は人工T細胞受容体(artificial TCR)を発現するT細胞を指す。前記エンジニアリングされたT細胞受容体又は人工T細胞受容体は、TCRシグナル伝達経路内のドメイン及び/又はヘルパー分子を保持しながら、目的の抗原を標的とする構造を有するように遺伝子改変されている。いくつかの実施例では、TCR-TはTCRシグナル伝達経路中のすべてのヘルパー分子を保持し、したがって、少量の抗原刺激では、完全に活性化された状態になり、標的細胞に対する殺傷効果を引き起こすことができる。これらのTCR-Tは、CAR-Tと比較して、TCRシグナル伝達経路のすべてのヘルパー分子を保持・応用しているため、TCR-Tは、低濃度、少コピー数の抗原に対する認識感受性が一部のCAR-Tよりも高く、治療の可能性が期待できる。
【0032】
チロシンプロテインホスファターゼ非受容体11型(PTPN11)は、プロテインチロシンホスファターゼ1D(PTP-1D)とも呼ばれ、Src相同領域2にドメインホスファターゼ-2(SHP-2)又はプロテインチロシンアシッドホスファターゼ2C(PTP-2C)を含有し、ヒトPTPN11遺伝子によってコードされる酵素である。SHP-2はさまざまな組織や細胞タイプに広く発現しており、PDGF、EGF、IGF-1などの成長因子、IL-3、GM-CSF、EPOなどのサイトカイン、及びインスリン、インターフェロンを含む複数のシグナル伝達経路にかかわる。SHP-2は化合物シグナル伝達機能を有する。Ras-Raf-MAP-ERK経路、Jak-Stat経路やPI3K-Akt経路など、さまざまなシグナル伝達過程が関与しているようである。また、Grb2、FRS2、Jak2、PI3キナーゼのp85サブユニット、IRS-1、Gab1、Gab2など、さまざまなシグナル中間体に結合できることも証明されている。PD-1受容体の下流分子であるSHP-2は、T細胞の阻害性シグナル伝達に関与している。SHP-2はPD-1シグナル伝達の下流分子であり、T細胞の活性化を阻害するだけでなく、T細胞の機能不全を促進することが研究により明らかになっている。Tリンパ球上でSHP2をノックアウトすることにより抗腫瘍免疫を誘発し、マウス大腸炎関連癌の発生を阻害することも研究により明らかになっている。
【0033】
メチオニン(MT)はレドックス分子であり、環境条件(例えば、pH、酸素、還元剤)に依存して、還元形態である10H-フェノチアジン系化合物(即ち、N,N,N’,N’-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム(LMT))と酸化形態(MT+)との平衡状態で存在する。
【0034】
酸化形態の塩MTXは式IIで示される。
【化4】
LMTはその塩の形態で存在する場合、式IIIに示されるようにLMTX塩と呼ばれる。
【化5】
X
-は、無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択され、適切な有機酸アニオンの例としては、2-アセトキシ安息香酸、酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、桂皮酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシエチルスルホン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(pamoic)、パントテン酸(pantothenic)、フェニル酢酸、ベンゼンスルホン酸、プロパンジスルホン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、及び吉草酸という有機酸から誘導される有機酸アニオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な高分子有機アニオン(polymeric organic anion)としては、タンニン酸、カルボキシメチルセルロースという高分子酸(polymeric acid)から誘導される高分子有機アニオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、前記無機酸根アニオンは、Cl-、Br-、I-であることが好ましい。前記有機酸根アニオンはメタンスルホン酸根アニオンであることが好ましい。
【0035】
メチレンブルー(MTC)(本明細書では3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドとも呼ばれる)は、メチオニン(MT)の酸化形態(すなわちMT
+)の塩化物塩であり、以下の構造式を有する低分子量(319.86)の水溶性三環式有機化合物である。
【化6】
また、N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートの構造は以下に示される。
【化7】
【0036】
本願で使用される用語「溶媒和物」は、その一般的な意味であり、溶質(例えば、化合物、化合物の塩)と溶媒との複合体(complex)を指す。溶媒が水であれば、便宜上、溶媒和物を一水和物、二水和物、三水和物などの水和物と称することができる。特に断らない限り、特定の化合物が言及される場合、該特定の化合物は、その溶媒和物の形態も含む。
【0037】
本明細書で使用される「治療」は、疾患又は障害の症状又は合併症を軽減するか、又は疾患又は障害を除去するために、本願の化合物又は本願の組成物を投与することを含む。本明細書で使用される用語「軽減」は、障害の兆候又は症状の重篤度が低下する過程を説明するものである。症状は軽減されたが解消されなくてもよい。1つの実施形態では、本願の組成物を投与することにより、兆候又は症状が解消される。
【0038】
用途及び治療法
本発明の一態様は、PD-1シグナル伝達阻害剤の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、該フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用に関する。
【化8】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつ、ZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNから選択され、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+から選択され、X
-は、Z
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲン選択される。)
【0039】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化9】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0040】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化10】
(ここで、Xは、1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0041】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)であり、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである。
【0042】
本発明の別の態様は、癌治療薬の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様において、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0043】
本発明の別の態様は、免疫細胞の機能を向上させる薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0044】
本発明の別の態様は、癌の再発を予防又は治療する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0045】
本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0046】
本発明の別の態様は、PD-1によるSHP2タンパク質のリクルートを遮断する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0047】
本発明の別の態様は、癌に罹患している対象に本発明の式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を投与することを含む、癌治療方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫、胸腺腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、リンパ腫、食道癌、膀胱癌、尿道癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓癌又は脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫である。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0048】
本発明の別の態様は、免疫細胞機能を向上させる方法であって、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞機能の向上は、抗ウイルス効果を達成することができる。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0049】
本発明の別の態様は、癌の再発を予防又は治療する方法であって、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を、前記癌に罹患している対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記対象は、手術、放射線療法、又は化学療法を受けたことがある。
【0050】
いくつかの実施形態において、前記方法は、他の癌の療法と併用してもよい。例えば、前記方法は、手術、放射線療法又は化学療法と併用してもよい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の癌治療方法は、前記癌に罹患している対象に第2の治療剤の治療有効量を投与することをさらに含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は、養子細胞療法に適した免疫細胞である。これらの実施形態において、前記第2の治療剤は、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の投与の前、同時又は後に投与される。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は化学療法剤であり、好ましくは、前記化学療法剤は腫瘍免疫化学療法剤であり、より好ましくは、前記化学療法剤はPD-1抗体、PD-L1抗体又はそれらの断片である。いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の投与の前、同時又は後に投与される。
【0053】
第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物又は溶媒和物と同時に投与されない場合、両者は約0.1時間~約72時間、例えば約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、18、24、30、36、72hの間隔で投与される。
【0054】
第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物又は溶媒和物と同時に投与される場合、いくつかの実施形態において、本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態は、この第2の治療剤とはそれぞれ別個の薬物組成物の形態で提供される。いくつかの実施形態において、前記別個の薬物組成物は、同一のキットに提供される。第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と同時に投与される場合、他の実施形態において、本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態は、この第2の治療剤と単一の薬物組成物の形態で提供される。
【0055】
医薬組成物及びキット
本発明の一態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態を含む、癌治療用の医薬組成物を提供する。
【化11】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNから選択され、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+から選択され、X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【0056】
いくつかの実施形態において、前記Xは無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択される。さらに、前記無機酸根アニオンは好ましくはCl-、Br-、I-である。前記有機酸根アニオンは、好ましくはメタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタンジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンである。
【0057】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化12】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0058】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化13】
(ここで、Xは、1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0059】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)であり、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド(MTC)である。
【0060】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【0061】
本発明の別の態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と、養子細胞療法に適した免疫細胞とを含む、癌治療用の医薬組成物であって、式I及びその置換基は上記と同義である医薬組成物を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞受容体(TCR)キメラT細胞である。
【0064】
いくつかの実施形態において、前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である。
【0065】
本発明の別の態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と、癌化学療法用の免疫治療剤とを含む、癌治療用の医薬組成物であって、式I及びその置換基は上記と同義である医薬組成物を提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記癌化学療法用の免疫治療剤は、PD-1抗体、PD-L1抗体又はそれらの機能的断片である。
【0067】
したがって、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体と混合された形態で組成物に存在する有効成分(例えば、式Iのいずれかの化合物)を含んでもよい。本発明の組成物はまた、2つの有効成分(例えば、式Iのいずれかの化合物及び養子療法免疫細胞、又は式Iのいずれかの化合物及びPD-1抗体)を同時に含んでもよく、これらは、適切な形態で同一の薬物組成物に含まれ、この薬物組成物の投与時に、前記2つの有効成分は同時に又は順次対象に投与される。例えば、式Iの化合物、養子細胞療法に適した免疫細胞及び担体は、所定の割合の混合物の形態をもって薬物組成物に存在する。あるいは、式Iの化合物と担体は所定の割合でこの薬物組成物の一部を構成し、養子細胞療法に適した免疫細胞と担体は所定の割合でこの薬物組成物の他の一部を構成し、2つの部分は組み合わせられて、例えばコアシェル構造で組み合わせられて前記薬物組成物を構成する。薬剤学的又は製薬工学的に利用可能な他の方法も、投与後の各活性成分の作用の発揮に影響を与えることなく、2つの有効成分を組み合わせるために使用してもよい。
【0068】
本発明の別の態様は、独立して存在する、養子細胞療法に適した免疫細胞の治療有効量を含む第1の薬物組成物と、式Iのフェノチアジン系化合物又はその水和物又は溶媒和物の治療有効量を含む第2の薬物組成物とを含むキットを提供する。したがって、前記キットのいくつかの実施形態において、前記第1の薬物組成物は単独した剤形で存在することができ、前記第2の薬物組成物は別の単独した剤形で存在することができ、両者の剤形は同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、前記キット内の第1の薬物組成物及び第2の薬物組成物は、それぞれ別個の容器に収容される。
【0069】
本発明の別の態様は、独立して存在する、式Iのフェノチアジン系化合物又はその水和物又は溶媒和物の治療有効量を含む第1の薬物組成物と、第2の化学療法剤(例えば、PD-1抗体のような免疫治療剤)の治療有効量を含む第2の薬物組成物とを含むキットを提供する。したがって、前記キットのいくつかの実施形態において、前記第1の薬物組成物は単独した剤形で存在することができ、前記第2の薬物組成物は別の単独した剤形で存在することができ、両者の剤形は同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、前記キット内の第1の薬物組成物及び第2の薬物組成物は、それぞれ別個の容器に収容される。
【0070】
投与される有効成分の治療的又は予防的有効量は、標準的な手順により決定することができ、考慮される要素には、例えば、化合物のIC50、生物半減期、対象の年齢、サイズや体重、対象に関連する障害が含まれてもよい。これらの要因及びその他の要因の重要性は当業者にはよく知られている。一般には、投与量は、治療対象の約0.01mg/kgから50mg/kgの間、好ましくは0.1mg/kgから20mg/kgの間である。
【0071】
担体又は賦形剤は、薬物組成物を製造するために使用されてもよい。前記担体又は賦形剤は、化合物の投与を促進するために選択され得る。担体の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖(例えば、乳糖、グルコースやショ糖)、又はデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、及び生理学的に適合性のある溶媒が含まれる。生理学的に適合性のある溶媒の例としては、注射用水(WFI)無菌溶液、食塩溶液、及びグルコースが含まれる。
【0072】
適切な剤形は、経口、経皮、経粘膜、吸入、又は注射(非経口)などの投与経路に部分的に依存する。このような剤形は有効成分が標的細胞に到達できるようにしなければならない。本発明の薬物又は薬物組成物は、静脈内、腹膜内、皮下、筋内、経口、経粘膜、直腸、経皮、又は吸入を含む異なる経路で投与され得る。いくつかの実施形態において、経口投与が好ましい。経口投与の場合、例えば、化合物は通常の経口投与剤形、例えばカプセル、錠剤、及びシロップ、エリキシル剤及び濃縮点滴剤などの液体製剤として調製されてもよい。
【0073】
実施例
以下では、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例におけるMTCは、PD-1シグナル伝達阻害剤として以下の構造式の3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドを指す。
【化14】
以下の実施例におけるLMTは、以下の構造式のN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムビスジメシレートである。
【化15】
【0074】
実施例1 MTCによるヒトT細胞の機能向上
一、実験方法:
(1)Jurkat細胞を用いてPD-1を高発現する安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築した。pCAGin-PD-1プラスミドをJurkat細胞にエレクトロトランスフェクションし、その後、900μg/mL G418抗生物質でスクリーニングし、単一クローンをフローソートした。その後、NFAT結合部位によりルシフェラーゼ(luciferase)の遺伝子(NFAT-LUCと表記)を制御するDNA断片をJurkat-PD-1細胞にエレクトロトランスフェクションした。その後、単一クローンをフローソートし、5番クローンと命名した。この細胞を用いて、ルシフェラーゼの活性を測定することによりIL-2の発現量を反映させることができる。PD-L1を安定的に発現するRaji細胞を構築し、pCDNA-PD-L1プラスミドをRaji細胞にエレクトロトランスフェクションし、2μg/mL ピューロマイシン耐性でスクリーニングした後、単一クローンをフローソートし、1番クローンと命名した。
(2)PD-L1を安定的に発現するRaji細胞を用いてJurkat-PD-1上のPD-1分子を刺激した。Raji細胞は、T細胞の活性化に必要な第2のシグナルを提供し得る、B7分子を発現するヒト由来のBリンパ球である。Jurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を2μg/mL CD3抗体/2μg/mL CD28抗体で刺激した後、1:1の割合でRaji-PD-L1細胞と6時間共培養し、さらに免疫ブロットによりPD-1のY248位のリン酸化を検出した。
(3)96ウェルプレートにおいて10μg/mL CD3抗体/10μg/mL CD28抗体でプレートを被覆し、4℃で一晩放置し、その後、PBSで余分な抗体を洗い流し、Raji細胞又はRaji-PD-L1細胞を1:1の割合でJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞と共培養し、又は、Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を1:1の割合で混合した細胞に1μM MTC又は10μg/mLのPD1抗体を加えて共培養し、6時間共培養後、上清を採取し、ELISAを用いてIL-2の分泌を測定した。
(4)96ウェルプレートにおいて10μg/mL CD3抗体/10μg/mL CD28抗体でプレートを被覆し、4℃で一晩放置し、その後、PBSで余分な抗体を洗い流し、Raji細胞又はRaji-PD-L1細胞を1:1の割合でJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞と共培養し、又は、Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を1:1の割合で混合した細胞に4.86μM MTC又はLMTを加えて、6時間共培養した後、ルシフェラーゼ基質を加え、マイクロプレートリーダによりルシフェラーゼの読み取り値を測定した。
二、実験結果及び分析:
(1)PD-1を安定的に発現したJurkat細胞については、FACSにより試験したところ、5番クローンはPD-1分子を正しく発現していることが示された(
図1A)。構築したPD-L1を安定的に発現したRaji細胞については、FACSにより、1番クローンはPD-L1を正しく発現していることを示した(
図1B)。
(2)Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1細胞を6時間共培養した後、免疫ブロット検出によりPD-1のY248位がリン酸化されていることを確認した(
図1C)。このことから、PD-1を発現するJurkatと、PD-L1を安定的に発現するRaji細胞との共培養では、PD-1とPD-L1が結合することが分かった。
(3)IL-2の分泌状況の結果、Jurkat-PD-1-NFAT-LUCはPD1抗体(anti-PD1、ブリストルマイヤーズスクイブ製Nivolumab)又はRaji細胞を加えた後、IL-2の分泌を有意に刺激することが明らかになった。Raji PDL1を加えた実験群では、いずれの刺激も加えなかったJurkat-PD-1-NFAT-LUC群と比較してIL-2分泌量が低下したが、MTC又はPD1抗体を加えるとIL-2分泌量が急激に増加した(
図1D)。また、MTCはPD1抗体群と比較して、PD1により阻害されたJurkat細胞の機能を有意に改善できた。
(4)Jurkat-PD-1-NFAT-LUCは、CD3抗体/CD28抗体/Raji細胞の刺激により、ルシフェラーゼの活性上昇が限定され、Raji-PD-L1を加えた細胞はルシフェラーゼの活性が低下した。Raji-PD-L1を加えた細胞に4.86μM MTC又はLMTを加えると、ルシフェラーゼの活性が急激に上昇し(
図1E)、このことから、MTC又はLMTはPD-1により阻害されたJurkat細胞の機能を改善できることが示された。
【0075】
実施例2 MTCによるOT-1細胞の分裂及びエフェクター分子分泌の促進
OT-1トランスジェニックマウスのCD8
+T細胞で発現したTCRはニワトリ卵白アルブミンのSIINFEKL-H-2Kb複合体を認識できる。このため、OT-1マウスの脾臓細胞をインビトロで培養する時に、SIINFEKLペプチドセグメントの刺激により、脾臓中のCD8
+T細胞は活性化され、激しく増幅され、これはCTL細胞と呼ばれる。
一、実験方法:
(1)CTL細胞の調製:OT1マウスの脾臓を採取し、粉砕後に赤血球溶解液を加えて赤血球を溶解し、単細胞懸濁液を製造し、培養液を1640+10%FBS+50μM βME+10nM IL-2とし、細胞密度を約2~4million/mLに調節し、10nM OVA257-264を加えて、37℃、5%CO
2細胞インキュベーターで培養し、CTL調製当日から毎日FITC標識PD-1抗体で染色し、その後、この細胞の表面のPD-1発現変化をフロー測定した。
(2)上記のCTL細胞を5nM CFSEで標識し、10nM SIINFEKLと10nM IL-2を加えて刺激し、同時に10μg/mL マウスのPD-L1タンパク質を加え、実験群ではさらに100nMのMTC小分子化合物を加え、それぞれ24、48、72時間刺激した後、PD-L1タンパク質とMTCによるCTL細胞分裂への影響をフローサイトメトリーにより観察した。
(3)CTL細胞と標的細胞EG7(ニワトリ卵白アルブミンを発現するEL4リンパ腫細胞)を1:1の濃度で混合培養し、1μM タンパク質輸送阻害剤GolgiPlug
TMで6時間処理した後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、0.1%saponinで細胞を穿孔し、その後、各エフェクター分子の抗体で染色し、MTCによるCTLエフェクター分子の分泌への影響をフロー検出した。
二、実験結果及び分析:
(1)CTL細胞の細胞表面のPD-1量は、誘導の全過程において誘導時間の増加に伴って徐々に増加した(
図2A)。
(2)CTLをSIINFEKLとIL-2で刺激し、PD-L1タンパク質を加えると、PD-L1タンパク質はCTL細胞の分裂を阻害し、一方、100nMのMTCを加えると、この阻害を逆転させることができた(
図2B)。
(3)EG7はニワトリ卵白アルブミンを発現するEL4リンパ腫細胞であり、このため、CTL細胞は認識してその殺傷機能を実行できる。活性化されたOT-1マウス脾臓細胞とEG7細胞が1:1の割合で混合されると、CTL細胞はIL-2、IFNγ、パーフォリン(Perforin)、グランザイムB(Granzyme B)などのエフェクター分子の分泌を開始する。タンパク質輸送阻害剤GolgiPlug
TM(PTI)を加え、FACSで検出した。その結果、PD-L1を表面に過剰発現したEG7細胞(EG7-PD-L1細胞安定株)は、CTLによるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌を強く阻害することを見出した。一方、MTCで処理した後、CTL細胞によるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌量は急激に上昇した(
図3)。このことは、MTCがPD-1の阻害を改善し、CTL細胞によるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌を促進することを示した。
【0076】
実施例3 MTCによるOT-1T細胞の標的細胞への殺傷の回復
一、実験方法:
(1)CTL細胞の調製は、実施例2を参照されたい。
(2)EG-7-PD-L1細胞を5nM CFSEで標識し、CTL細胞とEG-7-PD-L1を5:1の割合で混合した後、それぞれ1μM、5μM、10μM MTCで4時間処理し、その後、10μg/mLのPIで染色し、標的細胞EG-7-PD-L1のアポトーシスをフロー検出し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。
(3)黒色腫細胞B16-OVA(OVA遺伝子を発現するB16細胞)を10μg/mL IFN-γで24時間処理した後、1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)で処理し、IFN-γで処理されておらずDMSOとMTCのみで処理されたB16-OVA細胞を対照とした。B16-OVAのアポトーシスを顕微鏡で観察し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。
(4)黒色腫細胞B16-OVA(OVA遺伝子を発現するB16細胞)のうち、B16-OVA群は何も処理せず、Water群は培地を水に交換し、残りの各群は10μg/mLのIFNγで処理し、24時間後、B16-OVA群以外の各群はすべて1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)、LMT(1μM)又はanti-PD1(PD-1抗体、10μg/mL、Nivolumab、BMS)で処理し、各群B16-OVAの死亡状況を顕微鏡で観察し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。また、遺伝子工学的に改変されていない黒色腫B16-WTも提供されており、B16-WT群は何の処理もしておらず、IFN-γ+MTC群とIFN-γ+LMT群は10μg/mL IFN-γで処理し、24時間後、1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)又はLMT(1μM)で処理し、一方、MTC群とLMT群では、MTC(10μM)とLMT(10μM)のみで処理し、標的細胞に対する殺傷能力を観察した。
二、実験結果及び分析:
(1)活性化されたOT-1細胞(CTL細胞)は、表面にPD-1を発現しているため、EG-7-PD-L1細胞(OVA遺伝子改変マウスTリンパ腫細胞EG7ではマウスのPD-L1が過剰発現している)を殺傷する能力が限られている(
図4A)。ただし、http://www.baidu.com/link?url=q8B5c9TWi24eDUzIOTaHGZo86bBcgZgQEWp9h5ckN5cI2O26R80MznVQoIn32SYgDGj2JlcpvycbwLBW_WfMSYN8JaDCEXHQHusvftAJq5_このシステムでは、MTCはEG-7-PD-L1に対するCTL細胞の殺傷能力を著しく回復できた(
図4A)。
(2)
図4Eに示すように、MTC及びLMTはB16-WT細胞に対して殺傷作用がなく、また、OT-1細胞がB16-WT細胞を認識できないため、MTC/LMTとCTL細胞との併用はB16-WTに対して殺傷作用がない。一方、B16-OVA細胞はMHC-I分子を低発現しており、そのSIINFEKLペプチドセグメントが通常提示されていないため、OT-1細胞はB16-OVA細胞を認識して殺傷することができない(
図4C及び
図4D)。CTL細胞は、B16-OVA細胞をIFNγで処理した後、SIINFEKLペプチドセグメントを提示すると、殺傷作用を有する(
図4C及び
図4D)。しかし、IFNγ処理後、B16-OVAのPD-L1発現が誘導された(
図4B)。B16-OVAに対するCTLのこのような殺傷作用がPD-1とPD-L1との相互作用により低減されるため、CTL単独では殺傷作用は顕著ではない。またMTC又はLMTを加えることにより、上記条件におけるB16-OVA細胞に対するCTL細胞の殺傷量を顕著に向上させ(
図4C及び
図4D)、さらに、
図4Dに示すように、MTCとCTL細胞との併用の場合、殺傷作用は、LMTとCTLとの併用の場合と同等であり、それらの殺傷作用はanti-PD-1群よりも有意に強かった。したがって、MTC又はLMTとCTL細胞との併用により、B16-OVAに対する殺傷作用を相乗的に増強することができる。
【0077】
実施例4 細胞毒性T細胞が標的細胞によって形成された腫瘍を除去することに対するMTCによる補助
上記の実施例1~3の実験結果から、MTCは、PD-L1を過剰発現した標的細胞を殺傷する細胞毒性T細胞を強く回復させることが確認された。本実施例は、MTCの体内における腫瘍治療能力をさらに調べた。
一、実験方法:
(1)ニワトリの卵白アルブミンOVAとマウスのPD-L1を過剰発現したリンパ腫細胞であるEL4-OVA-mPDL1細胞をBD Matrigelマトリゲルに再懸濁させた(マウス1匹あたり一側に2×10
6細胞を100μl BD Matrigelマトリゲルに再懸濁させる)。
(2)上記細胞とマトリゲルとの混合物をRag1-/-マウスの左右側の腰背部の皮下に各100μlで接種した。
(3)5日程度接種して腫瘍を固定した後、尾静脈を介して活性化したOT-1T細胞(すなわち2×10
6CTL細胞/匹)を注射し、マウスをCTL細胞単独群、CTL細胞+10mg/kg/2days PD-1抗体群、CTL細胞+40mg/kg/day MTC群の3群に分けた。
(4)CTL細胞を尾静脈注射した日から各群のマウスの移植腫瘍の長さと幅を1日おきに測定し、長さ×幅
2/2で腫瘍の体積の大きさを計算した(
図5A)。
二、実験結果及び分析:
(1)PD-1抗体を同時に腹腔注射した群のマウスは、CTL細胞のみを尾静脈注射した対照群と比較して、腫瘍の成長が阻害され、腫瘍の体積及び重量の増加がすべて阻害された。このことから、PD-1抗体群では腫瘍成長が阻害されていることが分かった。
(2)移植腫瘍を有するマウスにMTCを胃内投与することによっても、腫瘍の成長を強く阻害することができた(
図5B、C、D)。治療終了後、CTL細胞のみを注入した群は腫瘍重量、腫瘍体積ともにこの群のマウスの腫瘍成長が速いことを示しており、このことから、CTL単独投与では腫瘍成長を効果的に阻害できないことが分かった。一方、CTL+PD-1抗体治療群とCTL+MTC治療群はいずれも腫瘍の成長を有意に阻害でき、CTL+MTC治療群の治療効果はCTL+PD-1抗体治療群より優れていた。
本実施例と同様の方法でEG7-mPDL1細胞を用いたC57BL/6Jマウスにおいても同様の結果が得られ(
図5E)、CTLを投与しない(CTL free)マウスでは腫瘍の成長が速く、一方、CTLのみを投与するとCTL freeと比較して腫瘍の成長を阻害できたが、その阻害作用はCTL+PD-1抗体投与群やCTL+MTC併用群よりも弱かった。このことから、MTCは細胞毒性T細胞が標的細胞によって形成された皮下腫瘍を除去することを効果的に補助できることを示した。
【0078】
実施例5 MTCによる原位置腫瘍の効果的な治療
移植腫瘍の利点はT細胞が認識する抗原エピトープが非常に明確であり、しかも系が単一であり、問題を明らかにすることである。欠点は、このモデルが原発癌の複雑な癌化、腫瘍形成の過程及び腫瘍と間質細胞の相互作用をシミュレーションできないことである。したがって、マウスの移植腫瘍モデルは、ヒト患者における薬物の効果に対する予測性が低い。したがって、本実施例では、トランスジェニック肺癌マウスモデルを用いて、本発明のMTCによる腫瘍治療作用をさらに調べた。EGFR-L858Rトランスジェニックマウスにテトラサイクリン(DOX)含有食物を与えることにより、マウス肺上皮細胞にヒトEGFR-L858R変異体(ヒト肺癌によく見られる変異体)の発現を誘導することができ、1~2ヶ月後にはコンピュータ断層撮影(Computer Tomography、CT)によりマウス肺癌を検出し記録することができた。
一、実験方法:
(1)EGFR-L858R変異マウスにDOX食物を与えて原位置腫瘍モデルを約40日間誘導した。
(2)コンピュータ断層撮影(Computer Tomography、CT)により腫瘍の大きさと重症度を記録した。
(3)担癌マウスをランダムに群分けし、それぞれプラセボ(HKI solution)、MTC(40mg/kg/day in HKI solution)を投与した。2週間治療後、CTで腫瘍の大きさを再記録した。
(4)MTCが腫瘍を除去する過程でCD8
+T細胞により目的を達成することを実証する場合、本実施例では、以下の実験も行った。まずCD8抗体の腹腔内注射(200mg/匹/3日)で1週間処理しておき、担癌マウス中のCD8
+細胞を除去し、次に、MTCとCD8抗体の両方で2週間治療し、CTにより腫瘍の大きさを再記録した。
二、実験結果及び分析:
本実験の原理は、これらのマウスにDOX含有食物を与えると、肺上皮細胞中のrtTAがDOXに結合してコンフォメーションが変化し、TetOという配列に結合し、TetOが制御するEGFR変異体の発現が開始されるということである。これらのマウスはテトラサイクリンを与えてから40日後に原位置肺腺癌を形成した。これらの肺腺癌は、肺上皮細胞がEGFR変異体の作用により癌化し、癌が進行し、最後に生物が癌で死亡する臨床過程全体をリアルにシミュレーションした。本実施例の実験結果から、プラセボ治療群の腫瘍は急速に成長し、一方、MTCで14日治療後のマウスの腫瘍については、画像学的には、腫瘍がほぼ除去されていることが示され(
図6B)、CD8
+T細胞が除去されたマウスでは、腫瘍は、MTC治療後も成長が阻害されなかった(
図6B)。このことから、MTCは体内のCTLを活性化することによりEGFR-L858R変異による原位置腫瘍を効果的に治療できることが分かった。
【0079】
実施例6 PD-1によるSHP2リクルートへのMTCによる遮断
本実施例では、MTCがPD-1伝達シグナルを阻害するメカニズムを予備的に調査し、MTCがPD-1によるSHP2リクルートに影響を与える能力を調べた。PD-1はリガンドに結合することにより、SHP2タンパク質をT細胞受容体の周囲にリクルートし、これにより、T細胞受容体の近位キナーゼの活性化を阻害し、Lck媒介ZAP-70タンパク質のリン酸化及び下流シグナル経路の開始を低下させることができる。ルシフェラーゼはN末端とC末端の2つのフラグメントに分割することができ、これら2つのフラグメントがそれぞれ他のタンパク質と融合した後、N末端とC末端のルシフェラーゼフラグメントがこれらの融合タンパク質の相互作用のために接近すれば、ルシフェラーゼの活性が検出され得るので、ルシフェラーゼの活性を検出することにより、融合したタンパク質の相互作用の強さを間接的に反映できる。
一、実験方法:
(1)まず、293T細胞にPD-1-ClucとNluc-SHP2の2つの融合遺伝子をリポフェクションし、安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築し、この細胞に異なる濃度のMTCを加えて6時間培養し、MTCがルシフェラーゼの読み取り値に与える影響を観察した。
(2)293T細胞にPD-1-GFPとSHP2-mCherryの2つの融合遺伝子をリポフェクションし、安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築し、この細胞に異なる濃度のMTCを加えて6時間培養した後、1μM PVD(脱リン酸化酵素阻害剤)を加えて5分間処理し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後、ConfocalによりMTCがGFPとmCherryすなわちPD-1とSHP2の局在に及ぼす影響を観察した。
(3)293T細胞にPD-1-FlagプラスミドとSHP2プラスミドを共トランスフェクションした後、異なる濃度のMTCを加えて処理し、PD-1によるSHP2リクルート能力をCo-IPで検出した。
二、実験結果及び分析:
(1)293TにPD-1-ClucとNluc-SHP2を安定的にトランスフェクションした安定化株に異なる濃度のMTCを加えたところ、MTCはルシフェラーゼの読み取り値を減少させることが分かった。MTCはPD-1によるSHP2リクルートを阻止できることを示した(
図7A)。
(2)以上の結論をさらに実証するために、293TにPD-1-GFPとSHP2-mCherryを安定的にトランスフェクションした細胞を用いて検証した。Confocalの結果から、ホスファターゼの阻害剤であるPVDで処理した場合、GFPとmCherryは良好な共局在を示し、リン酸化されたPD-1がSHP2をリクルートしたことを示している(
図7B)。
(3)上記(2)のシステムでは、MTCを加えるとmCherryが膜から解離し、細胞質分布を示す(
図6B)。
(4)Co-IPの結果から、MTCはPD-1とSHP2の結合を阻止し、意外にもPD-1の下流シグナル伝達を遮断し、これにより、免疫細胞の機能を向上させ、養子細胞療法や他の腫瘍免疫療法と組み合わせた場合の腫瘍細胞への殺傷効果を向上させることを示した(
図7C)。
【0080】
以上に記載の実施例の各技術的特徴は任意に組み合わせてもよいが、説明の便宜上、上記の実施例における各技術的特徴のすべての可能な組み合わせについて説明していないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾がない限り、すべて本明細書に記載された範囲であると考えるべきである。
【0081】
以上に記載の実施例は、本発明のいくつかの実施形態だけを示しており、その説明は具体的かつ詳細であるが、これによって発明特許の範囲に対する限定として理解することはできない。なお、当業者にとっては、本発明の構想を逸脱することなく、いくつかの変形及び改良を行うことができ、これらはすべて本発明の保護範囲に属する。したがって、本発明特許の保護の範囲は、添付された特許請求の範囲に準ずるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の有効成分として、養子細胞療法に適した免疫細胞と、
(b)第2の有効成分として、式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される遊離フェノチアジン系化合物とを含む、癌治療用の医薬組成物であって、
【化1】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
Yは、N又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、および
R
1、R
2、R
5、R
6、R
9及びR
10は、水素であり、R
3、R
4、R
7及びR
8は、メチルである。)
ここで、前記還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物であり、
【化2】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
ここで、前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK細胞)、及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞(TCR-T細胞)からなる群から選択される、医薬組成物。
【請求項2】
前記X-は、Cl-、Br-、I-、メタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物又は溶媒和物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【化3】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項4】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記フェノチアジン系化合物はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記免疫細胞はT細胞受容体(TCR)キメラT細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(a)第1の有効成分として、第1の製剤に配合された養子細胞療法に適した免疫細胞と、
(b)第2の有効成分として、第2の製剤に配合され、式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される遊離フェノチアジン系化合物とを含む、癌治療用キットであって、
【化4】
(ここで、ZはS
+、O
+、C又はNから選択され、
Yは、N又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
5、R
6、R
9及びR
10は、水素であり、R
3、R
4、R
7及びR
8は、メチルである。)
ここで、前記還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物であり、
【化5】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
ここで、前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK細胞)、及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞(TCR-T細胞)からなる群から選択される、キット。
【請求項9】
癌治療薬の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、
ここで、フェノチアジン化合物は、N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートであり、
ここで、癌は、肺癌又はリンパ腫である、使用。
【請求項10】
PD-1シグナル伝達阻害剤の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、前記フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用であって、
【化6】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
5、R
6、R
9及びR
10は、水素であり、R
3、R
4、R
7及びR
8は、メチルである。)
ここで、前記還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である
【化7】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
、使用。
【請求項11】
X-は、Cl-、Br-、I-、メタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンから選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物又は溶媒和物から選択される、請求項10に記載の使用。
【化8】
(ここで、X
-は1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成する。)
【請求項13】
前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである、請求項10に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬技術分野に関し、特に、製薬におけるフェノチアジン類又は類似の構造を持つ化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の新しい使用に関する。本発明の別の態様は、フェノチアジン系化合物と養子細胞療法の併用に関する。本発明の別の態様は、フェノチアジン系化合物と腫瘍免疫化学療法剤、特にPD-1抗体との併用に関する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞療法(Adoptive cell therapy)は、哺乳動物から1つ又は複数の異なるタイプの免疫細胞を採取し、採取した免疫細胞をエクスビボ(ex vivo)で培養及び/又は操作し、培養及び/又は操作した免疫細胞を哺乳動物に戻すことを含む治療方法である。採取された免疫細胞に対するエクスビボ操作は、組換え核酸を免疫細胞に導入することを含む。養子細胞療法には、腫瘍浸潤リンパ球(TIL、Tumor Infiltrating Lymphocyte)、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK、Lymphokine Activated Killer)、サイトカイン誘導キラー細胞(CIK、Cytokine Induced Killer)、樹状細胞(DC、Dendritic Cell)、ナチュラルキラー細胞(NK、Natural Killer)、T細胞受容体キメラ-T細胞(TCR-T、T Cell Receptor TCR-Modified T Cell)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)、及びキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T、Chimeric Antigen Receptor Engineered T Cell)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0003】
人体免疫系は外来から侵入した病原微生物や変異した細胞に対抗し、除去することができ、免疫細胞は人体免疫機能を実行する重要な細胞である。その中で、T細胞は人体内の重要な免疫細胞であり、その細胞表面に発現した抗原受容体(TCR)を介して標的細胞上の主要組織適合性複合体(MHC)によって提示された抗原を認識することができ、これは第1のシグナルと呼ばれる。標的細胞の適切な第2のシグナル(例えばB7分子)との相乗作用により、T細胞は活性化され、その機能を発揮する。例えば、T細胞の1つのサブクラスである細胞毒性T細胞(CTLと略称する)は、活性化された後に標的細胞を直接殺傷することで、ウイルスで感染された細胞や腫瘍細胞を除去することができる。
【0004】
T細胞が活性化される過程で、T細胞は負のフィードバックを発現してその免疫機能を阻害するいくつかの分子を開始し、PD-1(すなわちprogrammed cell death 1、プログラム細胞死1)はその中で最も知られている分子の1つである。CTL細胞表面のPD-1タンパク質がそのリガンド(通常は標的細胞(例えば腫瘍細胞)上のPD-L1)によって刺激されると、PD-1はそのシグナル伝達を開始し、CTLの機能を阻害し、T細胞のアポトーシス又はアネルギーを引き起こす。このようなシグナル伝達により、CTLは標的細胞を殺傷する機能を失う。ヒトの腫瘍細胞を例にとると、これらの腫瘍細胞は通常、細胞表面にPD-L1を発現し、CTLによるその殺傷を阻害し、これにより免疫モニタリングを回避することができる。一方、PD-L1とPD-1の相互作用を薬物で遮断すると、PD-1のシグナル伝達が阻害され、腫瘍細胞に対するCTLの殺傷能力が回復する。T細胞に加えて、他の免疫細胞もPD-1を発現することができる。例えばマクロファージ、B細胞などではPD-1の発現が報告されている。適切な薬物でPD-1の機能を阻害すると、これらの免疫細胞の機能はある程度回復する。例えば、PD-1の機能を阻害すると、マクロファージはM2(すなわちCTLの機能を阻害するタイプ)からM1(すなわちCTLの機能を促進するタイプ)に変化し、生体内の腫瘍細胞を除去する。現在、抗体系薬物などの生物製剤は臨床治療用としてFDAの承認を得ている。しかし、これまで臨床的に使用されているPD-1に対する薬物はすべて生物製剤系抗体であり、小分子化合物のPD-1シグナル伝達阻害剤については報告されていない。
【0005】
https://baike.baidu.com/item/%E6%B0%AF%E5%8C%96%E7%89%A9https://baike.baidu.com/item/%E6%9F%93%E6%96%99メチレンブルー(3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド)はフェノチアジン塩であり、化学指示薬、染料、生物染色剤などに広く応用されている。最近、いくつかの研究は薬物におけるその使用を報告しており、例えば、中国特許公告番号CN 104027338Aはメチレンブルーの抗急性脳虚血の新しい用途を開示し、中国特許公告番号CN 103417546Bはメチレンブルーの麻酔後覚醒促進の新しい使用を開示している。また、いくつかの文献では、メチレンブルーが光増感剤として光増感薬を調製して光線力学療法を行うのに用いられることが開示されている。研究者により、従来の光線力学療法が体内治療に使われている場合、生物組織の光線に対する吸収や散乱の作用により励起光強度が減衰し、悪性腫瘍組織の酸素不足状態が一重項酸素の生産量を低くし、このため、単純な光増感剤が光増感薬として使用される場合、本格的な腫瘍治療作用を有していないことが発現されている(中国特許公告番号CN 106668859A)。
【0006】
したがって、従来技術では、薬物におけるメチレンブルーの使用がいくつか開示されているが、メチレンブルーをPD-1シグナル伝達阻害に応用し、それを腫瘍の予防・治療に応用することを報告した文献はない。現在、臨床では、癌を治療するのに十分に有効な薬物がまだ不足しており、そのため、腫瘍に有効な薬物を提供することには重要な臨床的意義がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、(a)養子細胞療法に適した免疫細胞と、(b)式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択されるフェノチアジン系化合物とを含む医薬組成物を提供する。
【化1】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNであり、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+であり、
X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【0008】
いくつかの実施形態において、前記Xは無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択される。さらに、前記無機酸根アニオンは好ましくはCl-、Br-、I-である。前記有機酸根アニオンは好ましくはメタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタネジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンである。
【0009】
いくつかの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のC1~C6アルキル、置換又は無置換のC3~C8シクロアルキル、置換又は無置換の3~8員ヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のC5~C10アリール、置換又は無置換の5~10員ヘテロアリール、置換又は無置換のC1~C6アルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化2】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、以上と同義である。)
【0011】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化3】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、以上と同義である。)
【0012】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)、及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞(TCR-T)から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はT細胞受容体(TCR)キメラT細胞である。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、a)第1の剤形に配合された上記免疫細胞のいずれかと、b)第2の剤形に配合された上記の化合物のいずれかとを含むキットを提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、癌治療薬の製造における上記化合物のいずれかの使用を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫、胸腺腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、リンパ腫、食道癌、膀胱癌、尿道癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓癌又は脳腫瘍である。
【0019】
本発明の別の態様はまた、免疫細胞機能を向上させる薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。
【0020】
本発明の別の態様は、PD-1シグナル伝達を阻害する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。本発明の別の態様は、PD-1によるSHP2タンパク質リクルートを遮断する薬物の製造における上記フェノチアジン系化合物のいずれかの使用を提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断するステップを含むPD-1シグナル伝達を阻害する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記遮断は、PD-1によるSHP2タンパク質リクルートを遮断することにより達成される。いくつかの実施形態において、前記PD-1によるSHP2リクルートを遮断するステップは、細胞と本発明に記載のいずれかのフェノチアジン系化合物の有効量とを接触させることを含む。
【0022】
本発明の別の態様は対象における癌を治療する方法であって、対象におけるPD-1シグナル伝達を阻害することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記対象におけるPD-1シグナル伝達を阻害することは、PD-1下流シグナル経路を遮断することを含む。いくつかの実施形態において、前記PD-1下流シグナル経路を遮断することは、PD-1によるSHP2リクルートを遮断することを含む。いくつかの実施形態において、前記PD-1によるSHP2リクルートを遮断するステップは、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を対象に投与することを含む。
【0023】
本発明の別の態様は、対象における癌を治療する方法であって、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を前記対象に投与することと、対象に第2の治療法を施すことを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記第2の治療法は化学療法、放射線療法及び手術治療から選択される。いくつかの実施形態において、前記化学療法は腫瘍免疫療法である。いくつかの実施形態において、前記腫瘍免疫療法は、PD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、この態様に記載の方法は相乗的な抗腫瘍作用を発揮する。
【0024】
本発明の別の態様は癌治療用の薬物組成物であって、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかと、第2の化学療法剤とを含む薬物組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記第2の化学療法剤は腫瘍免疫治療剤である。いくつかの実施形態において、前記腫瘍免疫治療剤はPD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片である。
【0025】
本発明の別の態様は、対象におけるPD-1抗体又はPD-L1抗体又はその機能的断片の治療効果を強化させる方法であって、前記PD-1抗体又はPD-L1抗体の投与の前、同時又は後に、本発明に記載のフェノチアジン系化合物のいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、この方法は相乗的な抗腫瘍作用を発揮する。
【0026】
本発明の発明者らは、大量の創造的労働を通じて、本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物を免疫細胞(特に遺伝子改変された免疫細胞)と併用することにより、標的細胞に対する免疫細胞の殺傷作用を顕著に向上させ、相乗効果を達成できることを発見した。本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物は、PD-1の機能を阻害し、PD-1のシグナル伝達を阻止することができ、PD-1シグナル伝達阻害剤として有用である。
【0027】
インビトロ実験において、このような化合物はPD-1によって阻害された免疫細胞の機能を回復させ、CTLなどの免疫細胞によるサイトカイン分泌や標的細胞への殺傷機能を向上させ、生体の免疫機能を向上させることができることを見出した。動物モデルにおいて、本発明のフェノチアジン類及び類似の構造を持つ化合物は、マウス体内の移植腫瘍又は原位置肺癌を縮小し、癌を治療する目的を達成できる。さらに、PD-1抗体などの大分子に対して、小分子PD-1シグナル伝達阻害剤は低コストであり、製造技術が簡単(例えば化学合成により)であり、投与経路が多く、患者のコンプライアンスが高く、安全で信頼性が高いなどの優位性がある。また、本発明の実験では、本発明のフェノチアジン系化合物は、PD-1抗体と同等又はそれ以上の腫瘍阻害効果を有することも実証されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1の実験結果図であり、Aは、未トランスフェクション及びトランスフェクションJurkat細胞の表面のPD-1タンパク質の発現を示し、Bは、未トランスフェクション及びトランスフェクションRaji細胞の表面のPD-L1タンパク質の発現を示し、CはトランスフェクションされたRaji細胞が、トランスフェクションされたJurkat細胞中のPD-1タンパク質Y248のリン酸化を誘導した結果を示し、Dは、MTCがJurkat-PD-1-NFAT-luc細胞のIL-2分泌を促進した結果であり、Eは、MTC又はLMT(N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム
ジメシレート)がJurkat-PD-1-NFAT-luc細胞におけるルシフェラーゼ(luciferase)活性の上昇を促進することを示す。
【
図2】実施例2におけるMTCによるOT-1細胞の分裂促進を示し、AはOT1-CTL細胞の表面にPD-1タンパク質を発現させた結果であり、BはMTCがCTL分裂を促進した結果である。
【
図3】実施例2におけるMTCによるOT-1細胞のエフェクター分子分泌の促進を示し、MTCはCTL細胞におけるIL-2、IFNγ、パーフォリン及びグランザイムBの分泌を促進する。
【
図4】MTCがOT-1 T細胞の標的細胞殺傷能力を回復することを示し、Aは、MTCがCTLによるEL4-OVA(PD-L1)の殺傷を促進することを示し、BはIFNγによるB16-F10のPD-L1タンパク質発現の誘導を示し、C、Dは、MTC又はLMTがB16-OVA細胞に対するCTLの殺傷を相乗的に増加させることを示し、EはMTC又はLMTがB16-WT細胞に対して殺傷作用がなく、CTL細胞と組み合わせても細胞に対して殺傷作用がないことを示す。
【
図5】MTCが細胞毒性T細胞(CTL)による標的細胞によって形成された腫瘍の除去を促進した結果図であり、Aは移植腫の模式図であり、B、C、DはMTCがRag1-/-マウス移植腫瘍の成長を阻害することを示し、Eは、MTCがC57BL/6Jマウス移植腫瘍の成長を阻害することを示す。
【
図6】MTCによる原発腫瘍の治療結果図であり、Aは原位置腫瘍を治療する実験の模式図であり、BはMTCがCD8
+T細胞を通じて腫瘍を除去した結果である。
【
図7】MTCがPD-1によるSHP2リクルートを遮断した結果図であり、AはMTCがPD1とSHP2との結合を減少することを実証し、Bは、MTCがPD1によるSHP2リクルートを阻害することを示し、Cは、MTCがPD1とSHP2との結合を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
「養子細胞療法」又は「adoptive cell therapy」という用語は、抗腫瘍活性を有する免疫細胞を癌患者に移すことを含む。いくつかの実施例では、ACTは、抗腫瘍活性を有するリンパ球を使用し、これらの細胞をインビトロで大量に増幅し、癌に罹患している宿主にこれらの細胞を注入することを含む治療方法である。
【0030】
「腫瘍浸潤リンパ球」又はTILという用語は、血流から離れて腫瘍に移行した白血球を指す。「CAR-T」という用語は「キメラ抗原受容体T細胞」の略称であり、キメラ抗原受容体(CAR)はCAR-Tのコアコンポーネントであり、HLA非依存的な方式で標的細胞(例えば腫瘍)の抗原を認識する能力をT細胞に付与し、これにより、CARで改変されたT細胞は、天然T細胞表面受容体TCRと比較して、より広範な標的を認識することができる。
【0031】
「TCR-T(T細胞受容体(TCR)キメラ-T細胞)」という用語は、エンジニアリングされたT細胞受容体(engineered TCR)又は人工T細胞受容体(artificial TCR)を発現するT細胞を指す。前記エンジニアリングされたT細胞受容体又は人工T細胞受容体は、TCRシグナル伝達経路内のドメイン及び/又はヘルパー分子を保持しながら、目的の抗原を標的とする構造を有するように遺伝子改変されている。いくつかの実施例では、TCR-TはTCRシグナル伝達経路中のすべてのヘルパー分子を保持し、したがって、少量の抗原刺激では、完全に活性化された状態になり、標的細胞に対する殺傷効果を引き起こすことができる。これらのTCR-Tは、CAR-Tと比較して、TCRシグナル伝達経路のすべてのヘルパー分子を保持・応用しているため、TCR-Tは、低濃度、少コピー数の抗原に対する認識感受性が一部のCAR-Tよりも高く、治療の可能性が期待できる。
【0032】
チロシンプロテインホスファターゼ非受容体11型(PTPN11)は、プロテインチロシンホスファターゼ1D(PTP-1D)とも呼ばれ、Src相同領域2にドメインホスファターゼ-2(SHP-2)又はプロテインチロシンアシッドホスファターゼ2C(PTP-2C)を含有し、ヒトPTPN11遺伝子によってコードされる酵素である。SHP-2はさまざまな組織や細胞タイプに広く発現しており、PDGF、EGF、IGF-1などの成長因子、IL-3、GM-CSF、EPOなどのサイトカイン、及びインスリン、インターフェロンを含む複数のシグナル伝達経路にかかわる。SHP-2は化合物シグナル伝達機能を有する。Ras-Raf-MAP-ERK経路、Jak-Stat経路やPI3K-Akt経路など、さまざまなシグナル伝達過程が関与しているようである。また、Grb2、FRS2、Jak2、PI3キナーゼのp85サブユニット、IRS-1、Gab1、Gab2など、さまざまなシグナル中間体に結合できることも証明されている。PD-1受容体の下流分子であるSHP-2は、T細胞の阻害性シグナル伝達に関与している。SHP-2はPD-1シグナル伝達の下流分子であり、T細胞の活性化を阻害するだけでなく、T細胞の機能不全を促進することが研究により明らかになっている。Tリンパ球上でSHP2をノックアウトすることにより抗腫瘍免疫を誘発し、マウス大腸炎関連癌の発生を阻害することも研究により明らかになっている。
【0033】
メチオニン(MT)はレドックス分子であり、環境条件(例えば、pH、酸素、還元剤)に依存して、還元形態である10H-フェノチアジン系化合物(即ち、N,N,N’,N’-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム(LMT))と酸化形態(MT+)との平衡状態で存在する。
【0034】
酸化形態の塩MTXは式IIで示される。
【化4】
LMTはその塩の形態で存在する場合、式IIIに示されるようにLMTX塩と呼ばれる。
【化5】
X
-は、無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択され、適切な有機酸アニオンの例としては、2-アセトキシ安息香酸、酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、桂皮酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシエチルスルホン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(pamoic)、パントテン酸(pantothenic)、フェニル酢酸、ベンゼンスルホン酸、プロパンジスルホン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、及び吉草酸という有機酸から誘導される有機酸アニオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な高分子有機アニオン(polymeric organic anion)としては、タンニン酸、カルボキシメチルセルロースという高分子酸(polymeric acid)から誘導される高分子有機アニオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、前記無機酸根アニオンは、Cl-、Br-、I-であることが好ましい。前記有機酸根アニオンはメタンスルホン酸根アニオンであることが好ましい。
【0035】
メチレンブルー(MTC)(本明細書では3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドとも呼ばれる)は、メチオニン(MT)の酸化形態(すなわちMT
+)の塩化物塩であり、以下の構造式を有する低分子量(319.86)の水溶性三環式有機化合物である。
【化6】
また、N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム
ジメシレートの構造は以下に示される。
【化7】
【0036】
本願で使用される用語「溶媒和物」は、その一般的な意味であり、溶質(例えば、化合物、化合物の塩)と溶媒との複合体(complex)を指す。溶媒が水であれば、便宜上、溶媒和物を一水和物、二水和物、三水和物などの水和物と称することができる。特に断らない限り、特定の化合物が言及される場合、該特定の化合物は、その溶媒和物の形態も含む。
【0037】
本明細書で使用される「治療」は、疾患又は障害の症状又は合併症を軽減するか、又は疾患又は障害を除去するために、本願の化合物又は本願の組成物を投与することを含む。本明細書で使用される用語「軽減」は、障害の兆候又は症状の重篤度が低下する過程を説明するものである。症状は軽減されたが解消されなくてもよい。1つの実施形態では、本願の組成物を投与することにより、兆候又は症状が解消される。
【0038】
用途及び治療法
本発明の一態様は、PD-1シグナル伝達阻害剤の製造におけるフェノチアジン系化合物の使用であって、該フェノチアジン系化合物は式(I)で示される化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される使用に関する。
【化8】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつ、ZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNから選択され、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+から選択され、X
-は、Z
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲン選択される。)
【0039】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化9】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0040】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化10】
(ここで、Xは、1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0041】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)であり、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドである。
【0042】
本発明の別の態様は、癌治療薬の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様において、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0043】
本発明の別の態様は、免疫細胞の機能を向上させる薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0044】
本発明の別の態様は、癌の再発を予防又は治療する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0045】
本発明の別の態様は、PD-1下流シグナル経路を遮断する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0046】
本発明の別の態様は、PD-1によるSHP2タンパク質のリクルートを遮断する薬物の製造における式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の使用に関する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0047】
本発明の別の態様は、癌に罹患している対象に本発明の式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を投与することを含む、癌治療方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫、胸腺腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、リンパ腫、食道癌、膀胱癌、尿道癌、非ホジキンリンパ腫、腎臓癌又は脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記癌は黒色腫である。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0048】
本発明の別の態様は、免疫細胞機能を向上させる方法であって、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞機能の向上は、抗ウイルス効果を達成することができる。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0049】
本発明の別の態様は、癌の再発を予防又は治療する方法であって、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の治療有効量を、前記癌に罹患している対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態である。いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)である。この態様では、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド又はN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。いくつかの実施形態において、前記対象は、手術、放射線療法、又は化学療法を受けたことがある。
【0050】
いくつかの実施形態において、前記方法は、他の癌の療法と併用してもよい。例えば、前記方法は、手術、放射線療法又は化学療法と併用してもよい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の癌治療方法は、前記癌に罹患している対象に第2の治療剤の治療有効量を投与することをさらに含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は、養子細胞療法に適した免疫細胞である。これらの実施形態において、前記第2の治療剤は、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の投与の前、同時又は後に投与される。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は化学療法剤であり、好ましくは、前記化学療法剤は腫瘍免疫化学療法剤であり、より好ましくは、前記化学療法剤はPD-1抗体、PD-L1抗体又はそれらの断片である。いくつかの実施形態において、前記第2の治療剤は、式Iのフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態の投与の前、同時又は後に投与される。
【0053】
第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物又は溶媒和物と同時に投与されない場合、両者は約0.1時間~約72時間、例えば約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、18、24、30、36、72hの間隔で投与される。
【0054】
第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物又は溶媒和物と同時に投与される場合、いくつかの実施形態において、本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態は、この第2の治療剤とはそれぞれ別個の薬物組成物の形態で提供される。いくつかの実施形態において、前記別個の薬物組成物は、同一のキットに提供される。第2の治療剤が本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と同時に投与される場合、他の実施形態において、本発明のフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態は、この第2の治療剤と単一の薬物組成物の形態で提供される。
【0055】
医薬組成物及びキット
本発明の一態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態を含む、癌治療用の医薬組成物を提供する。
【化11】
(ここで、Zは、S
+、O
+、C又はNから選択され、
YはN又はN
+から選択され、かつZがS
+又はO
+から選択される場合、YはNから選択され、ZがC又はNから選択される場合、YはN
+から選択され、X
-はZ
+又はN
+と塩を形成し得る1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のヘテロシクロアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリールアルコキシ、チオアルコキシ、アミン、ニトロ、アミノ、ハロゲンから選択される。)
【0056】
いくつかの実施形態において、前記Xは無機酸根アニオン及び有機酸根アニオンから選択される。さらに、前記無機酸根アニオンは好ましくはCl-、Br-、I-である。前記有機酸根アニオンは、好ましくはメタンスルホン酸根アニオン、エタンスルホン酸根アニオン、p-トルエンスルホン酸根アニオン、ベンゼンスルホン酸根アニオン、エタンジスルホン酸根アニオン、プロパンジスルホン酸根アニオン、及びナフタレンジスルホン酸根アニオンである。
【0057】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物は、式IIの3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)、その水和物、溶媒和物又は還元形態から選択される。
【化12】
(ここで、Xは1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0058】
いくつかの実施形態において、前記フェノチアジン系化合物の還元形態は、式IIIのN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム塩(LMTX)、その水和物又は溶媒和物である。
【化13】
(ここで、Xは、1つ又は複数のアニオンとすることにより、電気的中性を達成し、上記と同義である。)
【0059】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム塩(MTX)であり、好ましくは、前記フェノチアジン系化合物は、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリド(MTC)である。
【0060】
いくつかの実施形態において、該フェノチアジン系化合物類は、N3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウムジメシレートである。
【0061】
本発明の別の態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と、養子細胞療法に適した免疫細胞とを含む、癌治療用の医薬組成物であって、式I及びその置換基は上記と同義である医薬組成物を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体NK細胞(CAR-NK)及びT細胞受容体(TCR)キメラT細胞から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞受容体(TCR)キメラT細胞である。
【0064】
いくつかの実施形態において、前記TCRはSIINFEKLペプチドに結合可能である。
【0065】
本発明の別の態様は、式Iで示されるフェノチアジン系化合物、その水和物、溶媒和物又は還元形態と、癌化学療法用の免疫治療剤とを含む、癌治療用の医薬組成物であって、式I及びその置換基は上記と同義である医薬組成物を提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記癌化学療法用の免疫治療剤は、PD-1抗体、PD-L1抗体又はそれらの機能的断片である。
【0067】
したがって、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体と混合された形態で組成物に存在する有効成分(例えば、式Iのいずれかの化合物)を含んでもよい。本発明の組成物はまた、2つの有効成分(例えば、式Iのいずれかの化合物及び養子療法免疫細胞、又は式Iのいずれかの化合物及びPD-1抗体)を同時に含んでもよく、これらは、適切な形態で同一の薬物組成物に含まれ、この薬物組成物の投与時に、前記2つの有効成分は同時に又は順次対象に投与される。例えば、式Iの化合物、養子細胞療法に適した免疫細胞及び担体は、所定の割合の混合物の形態をもって薬物組成物に存在する。あるいは、式Iの化合物と担体は所定の割合でこの薬物組成物の一部を構成し、養子細胞療法に適した免疫細胞と担体は所定の割合でこの薬物組成物の他の一部を構成し、2つの部分は組み合わせられて、例えばコアシェル構造で組み合わせられて前記薬物組成物を構成する。薬剤学的又は製薬工学的に利用可能な他の方法も、投与後の各活性成分の作用の発揮に影響を与えることなく、2つの有効成分を組み合わせるために使用してもよい。
【0068】
本発明の別の態様は、独立して存在する、養子細胞療法に適した免疫細胞の治療有効量を含む第1の薬物組成物と、式Iのフェノチアジン系化合物又はその水和物又は溶媒和物の治療有効量を含む第2の薬物組成物とを含むキットを提供する。したがって、前記キットのいくつかの実施形態において、前記第1の薬物組成物は単独した剤形で存在することができ、前記第2の薬物組成物は別の単独した剤形で存在することができ、両者の剤形は同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、前記キット内の第1の薬物組成物及び第2の薬物組成物は、それぞれ別個の容器に収容される。
【0069】
本発明の別の態様は、独立して存在する、式Iのフェノチアジン系化合物又はその水和物又は溶媒和物の治療有効量を含む第1の薬物組成物と、第2の化学療法剤(例えば、PD-1抗体のような免疫治療剤)の治療有効量を含む第2の薬物組成物とを含むキットを提供する。したがって、前記キットのいくつかの実施形態において、前記第1の薬物組成物は単独した剤形で存在することができ、前記第2の薬物組成物は別の単独した剤形で存在することができ、両者の剤形は同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、前記キット内の第1の薬物組成物及び第2の薬物組成物は、それぞれ別個の容器に収容される。
【0070】
投与される有効成分の治療的又は予防的有効量は、標準的な手順により決定することができ、考慮される要素には、例えば、化合物のIC50、生物半減期、対象の年齢、サイズや体重、対象に関連する障害が含まれてもよい。これらの要因及びその他の要因の重要性は当業者にはよく知られている。一般には、投与量は、治療対象の約0.01mg/kgから50mg/kgの間、好ましくは0.1mg/kgから20mg/kgの間である。
【0071】
担体又は賦形剤は、薬物組成物を製造するために使用されてもよい。前記担体又は賦形剤は、化合物の投与を促進するために選択され得る。担体の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖(例えば、乳糖、グルコースやショ糖)、又はデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、及び生理学的に適合性のある溶媒が含まれる。生理学的に適合性のある溶媒の例としては、注射用水(WFI)無菌溶液、食塩溶液、及びグルコースが含まれる。
【0072】
適切な剤形は、経口、経皮、経粘膜、吸入、又は注射(非経口)などの投与経路に部分的に依存する。このような剤形は有効成分が標的細胞に到達できるようにしなければならない。本発明の薬物又は薬物組成物は、静脈内、腹膜内、皮下、筋内、経口、経粘膜、直腸、経皮、又は吸入を含む異なる経路で投与され得る。いくつかの実施形態において、経口投与が好ましい。経口投与の場合、例えば、化合物は通常の経口投与剤形、例えばカプセル、錠剤、及びシロップ、エリキシル剤及び濃縮点滴剤などの液体製剤として調製されてもよい。
【0073】
実施例
以下では、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例におけるMTCは、PD-1シグナル伝達阻害剤として以下の構造式の3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロリドを指す。
【化14】
以下の実施例におけるLMTは、以下の構造式のN3,N3,N7,N7-テトラメチル-10H-フェノチアジン-3,7-ジアンモニウム
ジメシレートである。
【化15】
【0074】
実施例1 MTCによるヒトT細胞の機能向上
一、実験方法:
(1)Jurkat細胞を用いてPD-1を高発現する安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築した。pCAGin-PD-1プラスミドをJurkat細胞にエレクトロトランスフェクションし、その後、900μg/mL G418抗生物質でスクリーニングし、単一クローンをフローソートした。その後、NFAT結合部位によりルシフェラーゼ(luciferase)の遺伝子(NFAT-LUCと表記)を制御するDNA断片をJurkat-PD-1細胞にエレクトロトランスフェクションした。その後、単一クローンをフローソートし、5番クローンと命名した。この細胞を用いて、ルシフェラーゼの活性を測定することによりIL-2の発現量を反映させることができる。PD-L1を安定的に発現するRaji細胞を構築し、pCDNA-PD-L1プラスミドをRaji細胞にエレクトロトランスフェクションし、2μg/mL ピューロマイシン耐性でスクリーニングした後、単一クローンをフローソートし、1番クローンと命名した。
(2)PD-L1を安定的に発現するRaji細胞を用いてJurkat-PD-1上のPD-1分子を刺激した。Raji細胞は、T細胞の活性化に必要な第2のシグナルを提供し得る、B7分子を発現するヒト由来のBリンパ球である。Jurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を2μg/mL CD3抗体/2μg/mL CD28抗体で刺激した後、1:1の割合でRaji-PD-L1細胞と6時間共培養し、さらに免疫ブロットによりPD-1のY248位のリン酸化を検出した。
(3)96ウェルプレートにおいて10μg/mL CD3抗体/10μg/mL CD28抗体でプレートを被覆し、4℃で一晩放置し、その後、PBSで余分な抗体を洗い流し、Raji細胞又はRaji-PD-L1細胞を1:1の割合でJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞と共培養し、又は、Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を1:1の割合で混合した細胞に1μM MTC又は10μg/mLのPD1抗体を加えて共培養し、6時間共培養後、上清を採取し、ELISAを用いてIL-2の分泌を測定した。
(4)96ウェルプレートにおいて10μg/mL CD3抗体/10μg/mL CD28抗体でプレートを被覆し、4℃で一晩放置し、その後、PBSで余分な抗体を洗い流し、Raji細胞又はRaji-PD-L1細胞を1:1の割合でJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞と共培養し、又は、Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1-NFAT-LUC細胞を1:1の割合で混合した細胞に4.86μM MTC又はLMTを加えて、6時間共培養した後、ルシフェラーゼ基質を加え、マイクロプレートリーダによりルシフェラーゼの読み取り値を測定した。
二、実験結果及び分析:
(1)PD-1を安定的に発現したJurkat細胞については、FACSにより試験したところ、5番クローンはPD-1分子を正しく発現していることが示された(
図1A)。構築したPD-L1を安定的に発現したRaji細胞については、FACSにより、1番クローンはPD-L1を正しく発現していることを示した(
図1B)。
(2)Raji-PD-L1細胞とJurkat-PD-1細胞を6時間共培養した後、免疫ブロット検出によりPD-1のY248位がリン酸化されていることを確認した(
図1C)。このことから、PD-1を発現するJurkatと、PD-L1を安定的に発現するRaji細胞との共培養では、PD-1とPD-L1が結合することが分かった。
(3)IL-2の分泌状況の結果、Jurkat-PD-1-NFAT-LUCはPD1抗体(anti-PD1、ブリストルマイヤーズスクイブ製Nivolumab)又はRaji細胞を加えた後、IL-2の分泌を有意に刺激することが明らかになった。Raji PDL1を加えた実験群では、いずれの刺激も加えなかったJurkat-PD-1-NFAT-LUC群と比較してIL-2分泌量が低下したが、MTC又はPD1抗体を加えるとIL-2分泌量が急激に増加した(
図1D)。また、MTCはPD1抗体群と比較して、PD1により阻害されたJurkat細胞の機能を有意に改善できた。
(4)Jurkat-PD-1-NFAT-LUCは、CD3抗体/CD28抗体/Raji細胞の刺激により、ルシフェラーゼの活性上昇が限定され、Raji-PD-L1を加えた細胞はルシフェラーゼの活性が低下した。Raji-PD-L1を加えた細胞に4.86μM MTC又はLMTを加えると、ルシフェラーゼの活性が急激に上昇し(
図1E)、このことから、MTC又はLMTはPD-1により阻害されたJurkat細胞の機能を改善できることが示された。
【0075】
実施例2 MTCによるOT-1細胞の分裂及びエフェクター分子分泌の促進
OT-1トランスジェニックマウスのCD8
+T細胞で発現したTCRはニワトリ卵白アルブミンのSIINFEKL-H-2Kb複合体を認識できる。このため、OT-1マウスの脾臓細胞をインビトロで培養する時に、SIINFEKLペプチドセグメントの刺激により、脾臓中のCD8
+T細胞は活性化され、激しく増幅され、これはCTL細胞と呼ばれる。
一、実験方法:
(1)CTL細胞の調製:OT1マウスの脾臓を採取し、粉砕後に赤血球溶解液を加えて赤血球を溶解し、単細胞懸濁液を製造し、培養液を1640+10%FBS+50μM βME+10nM IL-2とし、細胞密度を約2~4million/mLに調節し、10nM OVA257-264を加えて、37℃、5%CO
2細胞インキュベーターで培養し、CTL調製当日から毎日FITC標識PD-1抗体で染色し、その後、この細胞の表面のPD-1発現変化をフロー測定した。
(2)上記のCTL細胞を5nM CFSEで標識し、10nM SIINFEKLと10nM IL-2を加えて刺激し、同時に10μg/mL マウスのPD-L1タンパク質を加え、実験群ではさらに100nMのMTC小分子化合物を加え、それぞれ24、48、72時間刺激した後、PD-L1タンパク質とMTCによるCTL細胞分裂への影響をフローサイトメトリーにより観察した。
(3)CTL細胞と標的細胞EG7(ニワトリ卵白アルブミンを発現するEL4リンパ腫細胞)を1:1の濃度で混合培養し、1μM タンパク質輸送阻害剤GolgiPlug
TMで6時間処理した後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、0.1%saponinで細胞を穿孔し、その後、各エフェクター分子の抗体で染色し、MTCによるCTLエフェクター分子の分泌への影響をフロー検出した。
二、実験結果及び分析:
(1)CTL細胞の細胞表面のPD-1量は、誘導の全過程において誘導時間の増加に伴って徐々に増加した(
図2A)。
(2)CTLをSIINFEKLとIL-2で刺激し、PD-L1タンパク質を加えると、PD-L1タンパク質はCTL細胞の分裂を阻害し、一方、100nMのMTCを加えると、この阻害を逆転させることができた(
図2B)。
(3)EG7はニワトリ卵白アルブミンを発現するEL4リンパ腫細胞であり、このため、CTL細胞は認識してその殺傷機能を実行できる。活性化されたOT-1マウス脾臓細胞とEG7細胞が1:1の割合で混合されると、CTL細胞はIL-2、IFNγ、パーフォリン(Perforin)、グランザイムB(Granzyme B)などのエフェクター分子の分泌を開始する。タンパク質輸送阻害剤GolgiPlug
TM(PTI)を加え、FACSで検出した。その結果、PD-L1を表面に過剰発現したEG7細胞(EG7-PD-L1細胞安定株)は、CTLによるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌を強く阻害することを見出した。一方、MTCで処理した後、CTL細胞によるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌量は急激に上昇した(
図3)。このことは、MTCがPD-1の阻害を改善し、CTL細胞によるIL-2、IFNγ、パーフォリン、グランザイムBの分泌を促進することを示した。
【0076】
実施例3 MTCによるOT-1T細胞の標的細胞への殺傷の回復
一、実験方法:
(1)CTL細胞の調製は、実施例2を参照されたい。
(2)EG-7-PD-L1細胞を5nM CFSEで標識し、CTL細胞とEG-7-PD-L1を5:1の割合で混合した後、それぞれ1μM、5μM、10μM MTCで4時間処理し、その後、10μg/mLのPIで染色し、標的細胞EG-7-PD-L1のアポトーシスをフロー検出し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。
(3)黒色腫細胞B16-OVA(OVA遺伝子を発現するB16細胞)を10μg/mL IFN-γで24時間処理した後、1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)で処理し、IFN-γで処理されておらずDMSOとMTCのみで処理されたB16-OVA細胞を対照とした。B16-OVAのアポトーシスを顕微鏡で観察し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。
(4)黒色腫細胞B16-OVA(OVA遺伝子を発現するB16細胞)のうち、B16-OVA群は何も処理せず、Water群は培地を水に交換し、残りの各群は10μg/mLのIFNγで処理し、24時間後、B16-OVA群以外の各群はすべて1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)、LMT(1μM)又はanti-PD1(PD-1抗体、10μg/mL、Nivolumab、BMS)で処理し、各群B16-OVAの死亡状況を顕微鏡で観察し、標的細胞に対するCTL細胞の殺傷能力を判定した。また、遺伝子工学的に改変されていない黒色腫B16-WTも提供されており、B16-WT群は何の処理もしておらず、IFN-γ+MTC群とIFN-γ+LMT群は10μg/mL IFN-γで処理し、24時間後、1:5の割合でCTL細胞と4時間混合培養し、同時にMTC(1μM)又はLMT(1μM)で処理し、一方、MTC群とLMT群では、MTC(10μM)とLMT(10μM)のみで処理し、標的細胞に対する殺傷能力を観察した。
二、実験結果及び分析:
(1)活性化されたOT-1細胞(CTL細胞)は、表面にPD-1を発現しているため、EG-7-PD-L1細胞(OVA遺伝子改変マウスTリンパ腫細胞EG7ではマウスのPD-L1が過剰発現している)を殺傷する能力が限られている(
図4A)。ただし、http://www.baidu.com/link?url=q8B5c9TWi24eDUzIOTaHGZo86bBcgZgQEWp9h5ckN5cI2O26R80MznVQoIn32SYgDGj2JlcpvycbwLBW_WfMSYN8JaDCEXHQHusvftAJq5_このシステムでは、MTCはEG-7-PD-L1に対するCTL細胞の殺傷能力を著しく回復できた(
図4A)。
(2)
図4Eに示すように、MTC及びLMTはB16-WT細胞に対して殺傷作用がなく、また、OT-1細胞がB16-WT細胞を認識できないため、MTC/LMTとCTL細胞との併用はB16-WTに対して殺傷作用がない。一方、B16-OVA細胞はMHC-I分子を低発現しており、そのSIINFEKLペプチドセグメントが通常提示されていないため、OT-1細胞はB16-OVA細胞を認識して殺傷することができない(
図4C及び
図4D)。CTL細胞は、B16-OVA細胞をIFNγで処理した後、SIINFEKLペプチドセグメントを提示すると、殺傷作用を有する(
図4C及び
図4D)。しかし、IFNγ処理後、B16-OVAのPD-L1発現が誘導された(
図4B)。B16-OVAに対するCTLのこのような殺傷作用がPD-1とPD-L1との相互作用により低減されるため、CTL単独では殺傷作用は顕著ではない。またMTC又はLMTを加えることにより、上記条件におけるB16-OVA細胞に対するCTL細胞の殺傷量を顕著に向上させ(
図4C及び
図4D)、さらに、
図4Dに示すように、MTCとCTL細胞との併用の場合、殺傷作用は、LMTとCTLとの併用の場合と同等であり、それらの殺傷作用はanti-PD-1群よりも有意に強かった。したがって、MTC又はLMTとCTL細胞との併用により、B16-OVAに対する殺傷作用を相乗的に増強することができる。
【0077】
実施例4 細胞毒性T細胞が標的細胞によって形成された腫瘍を除去することに対するMTCによる補助
上記の実施例1~3の実験結果から、MTCは、PD-L1を過剰発現した標的細胞を殺傷する細胞毒性T細胞を強く回復させることが確認された。本実施例は、MTCの体内における腫瘍治療能力をさらに調べた。
一、実験方法:
(1)ニワトリの卵白アルブミンOVAとマウスのPD-L1を過剰発現したリンパ腫細胞であるEL4-OVA-mPDL1細胞をBD Matrigelマトリゲルに再懸濁させた(マウス1匹あたり一側に2×10
6細胞を100μl BD Matrigelマトリゲルに再懸濁させる)。
(2)上記細胞とマトリゲルとの混合物をRag1-/-マウスの左右側の腰背部の皮下に各100μlで接種した。
(3)5日程度接種して腫瘍を固定した後、尾静脈を介して活性化したOT-1T細胞(すなわち2×10
6CTL細胞/匹)を注射し、マウスをCTL細胞単独群、CTL細胞+10mg/kg/2days PD-1抗体群、CTL細胞+40mg/kg/day MTC群の3群に分けた。
(4)CTL細胞を尾静脈注射した日から各群のマウスの移植腫瘍の長さと幅を1日おきに測定し、長さ×幅
2/2で腫瘍の体積の大きさを計算した(
図5A)。
二、実験結果及び分析:
(1)PD-1抗体を同時に腹腔注射した群のマウスは、CTL細胞のみを尾静脈注射した対照群と比較して、腫瘍の成長が阻害され、腫瘍の体積及び重量の増加がすべて阻害された。このことから、PD-1抗体群では腫瘍成長が阻害されていることが分かった。
(2)移植腫瘍を有するマウスにMTCを胃内投与することによっても、腫瘍の成長を強く阻害することができた(
図5B、C、D)。治療終了後、CTL細胞のみを注入した群は腫瘍重量、腫瘍体積ともにこの群のマウスの腫瘍成長が速いことを示しており、このことから、CTL単独投与では腫瘍成長を効果的に阻害できないことが分かった。一方、CTL+PD-1抗体治療群とCTL+MTC治療群はいずれも腫瘍の成長を有意に阻害でき、CTL+MTC治療群の治療効果はCTL+PD-1抗体治療群より優れていた。
本実施例と同様の方法でEG7-mPDL1細胞を用いたC57BL/6Jマウスにおいても同様の結果が得られ(
図5E)、CTLを投与しない(CTL free)マウスでは腫瘍の成長が速く、一方、CTLのみを投与するとCTL freeと比較して腫瘍の成長を阻害できたが、その阻害作用はCTL+PD-1抗体投与群やCTL+MTC併用群よりも弱かった。このことから、MTCは細胞毒性T細胞が標的細胞によって形成された皮下腫瘍を除去することを効果的に補助できることを示した。
【0078】
実施例5 MTCによる原位置腫瘍の効果的な治療
移植腫瘍の利点はT細胞が認識する抗原エピトープが非常に明確であり、しかも系が単一であり、問題を明らかにすることである。欠点は、このモデルが原発癌の複雑な癌化、腫瘍形成の過程及び腫瘍と間質細胞の相互作用をシミュレーションできないことである。したがって、マウスの移植腫瘍モデルは、ヒト患者における薬物の効果に対する予測性が低い。したがって、本実施例では、トランスジェニック肺癌マウスモデルを用いて、本発明のMTCによる腫瘍治療作用をさらに調べた。EGFR-L858Rトランスジェニックマウスにテトラサイクリン(DOX)含有食物を与えることにより、マウス肺上皮細胞にヒトEGFR-L858R変異体(ヒト肺癌によく見られる変異体)の発現を誘導することができ、1~2ヶ月後にはコンピュータ断層撮影(Computer Tomography、CT)によりマウス肺癌を検出し記録することができた。
一、実験方法:
(1)EGFR-L858R変異マウスにDOX食物を与えて原位置腫瘍モデルを約40日間誘導した。
(2)コンピュータ断層撮影(Computer Tomography、CT)により腫瘍の大きさと重症度を記録した。
(3)担癌マウスをランダムに群分けし、それぞれプラセボ(HKI solution)、MTC(40mg/kg/day in HKI solution)を投与した。2週間治療後、CTで腫瘍の大きさを再記録した。
(4)MTCが腫瘍を除去する過程でCD8
+T細胞により目的を達成することを実証する場合、本実施例では、以下の実験も行った。まずCD8抗体の腹腔内注射(200mg/匹/3日)で1週間処理しておき、担癌マウス中のCD8
+細胞を除去し、次に、MTCとCD8抗体の両方で2週間治療し、CTにより腫瘍の大きさを再記録した。
二、実験結果及び分析:
本実験の原理は、これらのマウスにDOX含有食物を与えると、肺上皮細胞中のrtTAがDOXに結合してコンフォメーションが変化し、TetOという配列に結合し、TetOが制御するEGFR変異体の発現が開始されるということである。これらのマウスはテトラサイクリンを与えてから40日後に原位置肺腺癌を形成した。これらの肺腺癌は、肺上皮細胞がEGFR変異体の作用により癌化し、癌が進行し、最後に生物が癌で死亡する臨床過程全体をリアルにシミュレーションした。本実施例の実験結果から、プラセボ治療群の腫瘍は急速に成長し、一方、MTCで14日治療後のマウスの腫瘍については、画像学的には、腫瘍がほぼ除去されていることが示され(
図6B)、CD8
+T細胞が除去されたマウスでは、腫瘍は、MTC治療後も成長が阻害されなかった(
図6B)。このことから、MTCは体内のCTLを活性化することによりEGFR-L858R変異による原位置腫瘍を効果的に治療できることが分かった。
【0079】
実施例6 PD-1によるSHP2リクルートへのMTCによる遮断
本実施例では、MTCがPD-1伝達シグナルを阻害するメカニズムを予備的に調査し、MTCがPD-1によるSHP2リクルートに影響を与える能力を調べた。PD-1はリガンドに結合することにより、SHP2タンパク質をT細胞受容体の周囲にリクルートし、これにより、T細胞受容体の近位キナーゼの活性化を阻害し、Lck媒介ZAP-70タンパク質のリン酸化及び下流シグナル経路の開始を低下させることができる。ルシフェラーゼはN末端とC末端の2つのフラグメントに分割することができ、これら2つのフラグメントがそれぞれ他のタンパク質と融合した後、N末端とC末端のルシフェラーゼフラグメントがこれらの融合タンパク質の相互作用のために接近すれば、ルシフェラーゼの活性が検出され得るので、ルシフェラーゼの活性を検出することにより、融合したタンパク質の相互作用の強さを間接的に反映できる。
一、実験方法:
(1)まず、293T細胞にPD-1-ClucとNluc-SHP2の2つの融合遺伝子をリポフェクションし、安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築し、この細胞に異なる濃度のMTCを加えて6時間培養し、MTCがルシフェラーゼの読み取り値に与える影響を観察した。
(2)293T細胞にPD-1-GFPとSHP2-mCherryの2つの融合遺伝子をリポフェクションし、安定的にトランスフェクトされた細胞株を構築し、この細胞に異なる濃度のMTCを加えて6時間培養した後、1μM PVD(脱リン酸化酵素阻害剤)を加えて5分間処理し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後、ConfocalによりMTCがGFPとmCherryすなわちPD-1とSHP2の局在に及ぼす影響を観察した。
(3)293T細胞にPD-1-FlagプラスミドとSHP2プラスミドを共トランスフェクションした後、異なる濃度のMTCを加えて処理し、PD-1によるSHP2リクルート能力をCo-IPで検出した。
二、実験結果及び分析:
(1)293TにPD-1-ClucとNluc-SHP2を安定的にトランスフェクションした安定化株に異なる濃度のMTCを加えたところ、MTCはルシフェラーゼの読み取り値を減少させることが分かった。MTCはPD-1によるSHP2リクルートを阻止できることを示した(
図7A)。
(2)以上の結論をさらに実証するために、293TにPD-1-GFPとSHP2-mCherryを安定的にトランスフェクションした細胞を用いて検証した。Confocalの結果から、ホスファターゼの阻害剤であるPVDで処理した場合、GFPとmCherryは良好な共局在を示し、リン酸化されたPD-1がSHP2をリクルートしたことを示している(
図7B)。
(3)上記(2)のシステムでは、MTCを加えるとmCherryが膜から解離し、細胞質分布を示す(
図6B)。
(4)Co-IPの結果から、MTCはPD-1とSHP2の結合を阻止し、意外にもPD-1の下流シグナル伝達を遮断し、これにより、免疫細胞の機能を向上させ、養子細胞療法や他の腫瘍免疫療法と組み合わせた場合の腫瘍細胞への殺傷効果を向上させることを示した(
図7C)。
【0080】
以上に記載の実施例の各技術的特徴は任意に組み合わせてもよいが、説明の便宜上、上記の実施例における各技術的特徴のすべての可能な組み合わせについて説明していないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾がない限り、すべて本明細書に記載された範囲であると考えるべきである。
【0081】
以上に記載の実施例は、本発明のいくつかの実施形態だけを示しており、その説明は具体的かつ詳細であるが、これによって発明特許の範囲に対する限定として理解することはできない。なお、当業者にとっては、本発明の構想を逸脱することなく、いくつかの変形及び改良を行うことができ、これらはすべて本発明の保護範囲に属する。したがって、本発明特許の保護の範囲は、添付された特許請求の範囲に準ずるものとする。