(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042041
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】パッチアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/22 20060101AFI20240319BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20240319BHJP
H01Q 1/12 20060101ALI20240319BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01Q1/22 C
H01Q1/32 Z
H01Q1/12 Z
H01Q13/08
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010657
(22)【出願日】2024-01-29
(62)【分割の表示】P 2022552104の分割
【原出願日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2020162325
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100127306
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 剛
(72)【発明者】
【氏名】原 文平
(72)【発明者】
【氏名】早川 賢治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】無給電素子を有するパッチアンテナにおいて、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を提供する。
【解決手段】パッチアンテナ(20)は、面状の放射素子(32)と、放射素子(32)の面に垂直な方向から放射素子(32)を見た平面視において、放射素子(32)の端部から離間した位置に設けられた無給電素子(33)と、放射素子(32)と電気的に接続され、放射素子(32)への給電を行うケーブル(52)と、を備える。ケーブル(52)が放射素子(32)と電気的に接続される位置を通るケーブル(52)の軸線(D1)が、無給電素子(33)の中心(P3)から離れている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏波を放射する放射素子を有するアンテナ本体と、
前記アンテナ本体の少なくとも一部を収容するケースと、
前記ケースとともに内部空間を形成し、前記アンテナ本体の少なくとも一部を収容するベースと、
前記アンテナ本体を前記内部空間に収容するアンテナ部と、
前記アンテナ部を車両に取り付けるブラケットと、
前記ブラケットの一端に長尺状に形成され、前記放射素子の前記直線偏波の放射方向とは反対側にある前記ベースの背面に当接して前記ベースを保持する保持部と、を備え、
前記放射素子の板厚方向から見て、前記給電点と前記放射素子の幾何中心を結ぶ第一の方向と、前記第一の方向と直交し、前記放射素子の幾何中心を通る第二の方向と、を定義したときに、
前記保持部は、長手方向が前記第二の方向に沿って配置され、前記ベースの背面のうち一部の領域を覆う、
ブラケット付きアンテナ装置。
【請求項2】
前記放射素子の板厚方向から見て、前記アンテナ本体の給電点は、前記放射素子の幾何中心と異なる位置であって、前記第一の方向に沿った直線上に配置されている、
請求項1に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ本体は、前記放射素子が配置された側とは反対側に、誘電体を介して地導体を備える、請求項1又は請求項2に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項4】
前記保持部と前記地導体とが重なる領域が略同形状、略同面積である、請求項3に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項5】
前記ブラケットは、前記車両に取り付けられる傾斜面をさらに有し、前記保持部と前記傾斜面とが一体形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項6】
前記傾斜面は、前記放射素子から離れる方向に延伸している、請求項5に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項7】
前記ベースは、前記放射素子の板厚方向から見て、前記第二の方向に沿って突出した突出部を有し、
前記突出部に、締結部材を介して前記ケースと締結する、請求項1から6のいずれか一項に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項8】
前記保持部は、前記放射素子の板厚方向から見て、前記第二の方向に対して線対称である、請求項1から7のいずれか一項に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項9】
前記保持部は、前記放射素子の幾何中心の近傍に、板厚方向に開口した開口部を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項10】
前記アンテナ本体は、V2X用の電波に対応するアンテナである、請求項1から9のいずれか一項に記載のブラケット付きアンテナ装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の前記アンテナ本体がパッチアンテナであり、前記パッチアンテナの放射素子は、前記車両に取り付けられた状態において、鉛直方向に対して略0度となるように設けられている、
ブラケット付きアンテナ装置の取付構造。
【請求項12】
前記第一の方向は、前記車両の上下方向に対して略0度となるように配置され、前記直線偏波の周波数帯はV2X用の電波に対応する周波数帯を含む、
請求項11に記載のブラケット付きアンテナ装置の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
V2X(Vehicle-to-Everything)アンテナとして、放射素子の対向する2辺の外側に、辺に沿って長い線状の無給電素子を配置するパッチアンテナの技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/163521号
【特許文献2】特開2019-75644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、パッチアンテナの正面(放射方向;放射素子の面に垂直な方向)を車両の前方や後方に向けた姿勢で、パッチアンテナをフロントガラスやリアガラスに取り付ける場合、給電用のケーブルをパッチアンテナの裏面側に配策する方法が考えられる。しかし、フロントガラスやリアガラスに取り付けられたアンテナのケーブルを車体内装の中に配策するためには、アンテナの裏面側からケーブルが出ていると、ケーブルの取り回しが難しくなる。
【0005】
無給電素子を有するパッチアンテナの場合、ケーブル配策がアンテナ特性に影響を与える可能性がある。
【0006】
本発明の目的の一例は、無給電素子を有するパッチアンテナにおいて、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、面状の放射素子と、前記放射素子の面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子から間隔をあけた位置に設けられた無給電素子と、前記放射素子と電気的に接続され、前記放射素子への給電を行うケーブルと、を備え、前記ケーブルが前記放射素子と電気的に接続される位置を通る前記ケーブルに沿った方向をケーブル結線方向とした場合に、前記ケーブル結線方向の仮想線が、前記無給電素子の中心から離れた位置にある、パッチアンテナである。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、面状の放射素子と、前記放射素子の面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子の端部から離間した位置に設けられた無給電素子と、前記放射素子と電気的に接続され、前記放射素子への給電を行うケーブルと、を備え、前記ケーブルが前記放射素子と電気的に接続される位置を通る前記ケーブルの軸線が、前記無給電素子の中心から離れている、パッチアンテナである。
【0009】
この態様によれば、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】車載用アンテナ装置の取り付け状態を示す図。
【
図2】車載用アンテナ装置を前方左斜め上から見た斜視外観図。
【
図3】車載用アンテナ装置を後方右斜め上から見た斜視外観図。
【
図6】アンテナ本体と配策構造との相対位置関係を示すパッチアンテナの正面図。
【
図7】アンテナ本体と配策構造との相対位置関係を示すパッチアンテナの側面図。
【
図8A】アンテナ本体部と配策構造との相対位置関係を示す図。
【
図8B】
図8Aのパッチアンテナにおいて、無給電素子の長さを変化させた場合の放射指向性を極座標で示す放射パターン。
【
図9A】比較例におけるアンテナ本体部と配策構造との相対位置関係を示す図。
【
図9B】
図9Aの比較例において、無給電素子の長さを変化させた場合の放射指向性を極座標で示す放射パターン。
【
図10A】アンテナ本体部と配策構造との相対位置関係を示す図。
【
図10B】
図10Aにおいて、間隔Wを変化させた場合の放射指向性を直交座標で示す放射パターン。
【
図11A】アンテナ本体部と配策構造との相対位置関係を示す図。
【
図11B】
図11Aにおいて、間隔Wを変化させた場合の放射指向性を直交座標で示す放射パターン。
【
図12】間隔W=0の基準ゲインに対する各間隔Wにおけるゲインの差を示すグラフ。
【
図13】定常状態における表面電流の強度分布のシミュレーション結果を示す図。
【
図14】比較例における定常状態における表面電流の強度分布のシミュレーション結果を示す図。
【
図15】変形例その1におけるアンテナ本体と配策構造との相対位置関係を示す正面図。
【
図16】変形例その2の車載用アンテナ装置の分解図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態は以下の実施形態に限定されない。各図には共通する方向を示すための直交三軸を示す。直交三軸は、X軸プラス方向をパッチアンテナの正面(放射方向;放射素子の面に垂直な法線方向)とする右手系である。以下、方向として、適宜、X軸プラス方向を前、X軸マイナス方向を後ろ、Z軸プラス方向を上、Z軸マイナス方向を下、Y軸プラス方向を左、Y軸マイナス方向を右として説明する。これらの方向は、車両5の運転者にとっての方向と一致する。
【0012】
図1は、本実施形態の車載用アンテナ装置10の取り付け状態を示す図であり、上段は車載用アンテナ装置10の取り付け状態の拡大図である。
図2は、車載用アンテナ装置10を前方左斜め上から見た斜視外観図である。
図3は、車載用アンテナ装置10を後方右斜め上から見た斜視外観図である。
図4は、車載用アンテナ装置10の分解図である。
【0013】
車載用アンテナ装置10は、ブラケット11と、パッチアンテナ20と、を有する。ブラケット11は、車両5のフロントガラス6(ウィンドシールド)に貼り付けられる。パッチアンテナ20は、正面が車両5の前方を向く姿勢でブラケット11に固定される。車載用アンテナ装置10は、車両5のリアガラスに貼り付けてもよい。
【0014】
ブラケット11は、傾斜面12と、保持部13と、を有する。傾斜面12は、フロントガラス6への貼り付け面となる。保持部13は、パッチアンテナ20を保持する。ブラケット11は、傾斜面12の角度が異なる複数種類が予め用意される。車載用アンテナ装置10が取り付けられる車両5のフロントガラス6の傾斜角度に適合する種類のブラケット11が選択されて使用される。
【0015】
保持部13は、傾斜面12の上端部から下方に延設された受け皿形状の部位である。パッチアンテナ20は、保持部13へ上方より差し込まれて固定される。
【0016】
図5は、パッチアンテナ20の分解図である。パッチアンテナ20は、内部空間に、アンテナ本体30と、基板(PCB:Printed-Circuit Board)40と、給電用のケーブルの配策構造50と、を有する。内部空間は、ケース21とベース22とを付き合わせてネジ23で連結固定することで画成される。
【0017】
アンテナ本体30は、基板40がネジ23によってケース21及びベース22に共締めされることで、ケース21及びベース22に固定される。これにより、例えば、走行中の振動などにより生じる異音を防止することが可能になる。ケーブル52は、基板40に設けられた接続端子51と接続される。一般的に車載用アンテナ装置10を車両5に設置する作業時にケーブル52を介して「こじる力」が生じ得る。しかし、このような構成とすることで、「こじる力」が接続端子51及びネジ23を介してケース21及びベース22に伝達される。このため、「こじる力」がアンテナ本体30へ作用するのを防ぎ、アンテナ本体30の回路や、半田等の接合部分に及ぼす影響を防ぐことができる。
【0018】
アンテナ本体30は、面状の放射素子32及び一対の無給電素子33と、地導体34と、を有する。放射素子32は、誘電体31の表面側(前面側;X軸プラス方向側)に配置されている。地導体34は、誘電体31の裏面側(後面側;X軸マイナス方向側)に位置している。本実施形態において、誘電体31は誘電体基板であるが、誘電体31はセラミック製の部材であってもよいし、樹脂製の部材であってもよい。
【0019】
放射素子32は、給電点39において誘電体31及び地導体34を貫くピン24と電気的に接続し、ピン24の端部が接続された基板40を介して給電用のケーブルの配策構造50と電気的に接続されている。
【0020】
無給電素子33は、放射素子32の面に垂直な方向(法線方向)のX軸方向プラス側から放射素子32を見た平面視において、長方形(四辺形)形状を成した線状の導電体である。無給電素子33は、平面視において放射素子32から間隔をあけた位置に設けられている。無給電素子33は、平面視において放射素子32の端部から離間した位置に設けられている、ということもできる。具体的には、無給電素子33は、平面視において、長手方向を、放射素子32の中心(放射素子32の幾何中心)P4と放射素子32の給電点39とを結ぶ線に沿った方向として、Y軸プラス側とY軸マイナス側それぞれに1つずつ設けられている。
【0021】
図6は、アンテナ本体30と配策構造50との相対位置関係を示すパッチアンテナ20の正面図である。
図7は、アンテナ本体30と配策構造50との相対位置関係を示すパッチアンテナ20の側面図である。
【0022】
配策構造50は、
図6に示すように、放射素子32と電気的に接続され、放射素子32への給電を行うケーブル52を、無給電素子33が位置するアンテナ本体30の側方から配策する構造である。配策構造50は、同軸ケーブル等のケーブル52の先端に設けられた接続端子52aの接続先である接続端子51を含む。ケーブル52は、基板40に接続された接続端子51を介して放射素子32に電気的に接続される。
図6ではケーブル52が接続された状態を示している。配策構造50は、接続端子51の他、接続端子51に接続されるケーブル52側の接続端子52aや、ケーブル52を更に含んでいてもよい。接続端子52aを設けずにケーブル52を接続端子51に直接接続する場合には、配策構造50は、ケーブル52を含んでいてもよい。接続端子51や接続端子52aを介してケーブル52を接続する構成とすることで、取り付け作業が容易になる。接続端子51の形状はI字形状であってもよく、L字形状であってもよい。車両5の種類によってケーブル52の規格が異なっていても、接続端子51の種類を変更することで、仕様変更を柔軟且つ簡単に実現できる。
【0023】
ケーブル52を基板40の裏面(X軸マイナス方向側の面)に直接接続する構成を採用して接続端子51を省略することとしてもよい。
【0024】
配策構造50に係る好ましい条件について述べる。
図6において、矢印が示す方向は、ケーブル結線方向を示している。ケーブル結線方向とは、接続端子51から延びるケーブル52の延長方向、別の言い方をすると、ケーブル52が放射素子32と電気的に接続される位置を通るケーブル52に沿った方向とする。
図6及び
図7に示す符号D1は、ケーブル結線方向の仮想線を示している。本実施形態において、より容易な理解のために、仮想線D1は、接続端子51から延びるケーブル52の軸線として表している。
【0025】
なお、仮想線D1をケーブル52の軸線として表す場合、ケーブル52が放射素子32と電気的に接続される位置から直線的に延びる中心軸の部分をケーブル52の軸線として表す。例えば、ケーブル52が湾曲したり、屈曲したり、蛇行したりする場合であっても、ケーブル52が放射素子32と電気的に接続される位置から直線的に延びる中心軸の部分をケーブル52の軸線として表す。
【0026】
図6及び
図7に示すように、ケーブル結線方向の仮想線(ケーブル52の軸線)D1と、無給電素子33の中心(無給電素子33の幾何中心)P3を中心とする仮想球の球面と、が接する点を位置P1とする。位置P1は、仮想線D1と無給電素子33の中心P3との間の距離が最短になる位置となる。よって、位置P1と無給電素子33の中心P3との間隔Wは、仮想線D1と無給電素子33の中心P3との間隔Wでもある。位置P1は、
図6に示す平面視においては、無給電素子33上にあるかのように図示されているが、実際は、
図7に示すように無給電素子33よりもX軸マイナス方向にある。
【0027】
配策構造50は、仮想線D1が、無給電素子33の中心P3から離れた位置にある構造である。具体的には、仮想線D1を、放射素子32の面に垂直な方向のX軸プラス側から放射素子32を見た平面視において、(1)仮想線D1が無給電素子33の中心P3(
図6中の小さい黒色の丸)を通らず(すなわち、仮想線D1が無給電素子33の中心P3から離れた位置にある)、且つ(2)仮想線D1が放射素子32の面に略平行であること、とする。配策構造50は、ケーブル結線方向を、(3)無給電素子33の長手方向に交差する方向とする。配策構造50は、(4)平面視において、仮想線D1が、無給電素子33の中心P3よりも放射素子32の給電点39のある側にあること、とする。無給電素子33は、平面視において、配策構造50の接続端子51と放射素子32との間にある。
【0028】
配策構造50は、(5)仮想線D1と無給電素子33の中心P3との間隔Wを、使用周波数をλとして略λ/26以上、より好適には略λ/13以上とする。
【0029】
配策構造50によれば、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現することが可能となる。配策構造50を有するパッチアンテナ20に関するシミュレーション結果について説明する。
【0030】
図8Aはアンテナ本体部30と配策構造50との相対位置関係を示す。
図8Bは、無給電素子33の長さLを変化させた場合の
図8Aにおけるパッチアンテナ20に係るH面(XY面)の放射指向性を極座標で示す放射パターンを示す。使用周波数λが5,900MHzであり、間隔Wが6mmである。
図9Aはパッチアンテナ20の間隔Wを変更して作成した比較例のアンテナ本体部30と配策構造50との相対位置関係を示す。
図9Bは、無給電素子33の長さLを変化させた場合の比較例のパッチアンテナに係るH面の放射指向性を極座標で示す放射パターンを示す。比較例では、位置P1は、無給電素子33に対して接続端子51等が干渉しない位置であって、無給電素子33の中心P3からの距離を最小とした位置である。平面視するとパッチアンテナの間隔Wは0(ゼロ)或いはほぼ0(ゼロ)になるので、以降では、この時の間隔Wを便宜上間隔W=0と言う。使用周波数λは5,900MHzである。
図8B及び
図9Bともに、H面において、X軸プラス方向(前方方向)をφ=0度、Y軸プラス方向(左方向)をφ=90度としている。
【0031】
図8B及び
図9Bの放射指向性のパターンにおいて、線種は、無給電素子33の長さLの違いを示している。3dBビーム幅(ピークゲインに対するゲイン差が3dBとなる角度範囲)が大きいほど、ピークゲインからの減少が3dB以内の角度範囲が広く、指向性が広がっている。
【0032】
図9Bに示すように、比較例の構成では、3dBビーム幅は87.3度~89.5度の範囲である。無給電素子33の長さLを変更しても3dBビーム幅の最大値と最小値との差は2.2度である。
【0033】
一方、
図8Bに示すように、間隔Wが6mmである本実施形態のパッチアンテナ20では、3dBビーム幅は何れも100度を超えている。このため、仮想線D1を、無給電素子33の中心P3を通る直線から離した方が、指向性が広くなり、ケーブル配策がアンテナ特性に与える影響が小さくなると言える。言い換えると、仮想線D1を、無給電素子33の中心P3から離れた位置を通って放射素子44から遠ざかる方向とすると、指向性が広がることになる。
【0034】
また、
図8Bに示すように、本実施形態のパッチアンテナ20において無給電素子33の長さLを変更した場合、3dBビーム幅の最大値と最小値との差が59.9度であった。このため、無給電素子33の長さLをより長くすることで、指向性をより広くすることが可能になると言える。また逆に、無給電素子33の長さLをより短くすることで、指向性を狭めることが可能になると言える。本実施形態のパッチアンテナ20によれば、ケーブル配策がアンテナ特性に与える影響を小さくし、且つ、無給電素子33の長さLによって指向性を調整することが可能になる。
【0035】
図10Aはアンテナ本体部30と配策構造50との相対位置関係を示す。
図10Bは、無給電素子33の長さLを固定して、仮想線D1をZ軸プラス側(給電点39に近づく側)にシフトさせて、
図10Aの相対位置関係における間隔Wを変化させた場合のH面における放射指向性を直交座標で示す放射パターンを示す。
【0036】
図11Aはアンテナ本体部30と配策構造50との相対位置関係を示す。
図11Bは、無給電素子33の長さLを固定して、仮想線D1をZ軸マイナス側(給電点39から遠ざかる側)にシフトさせて、
図11Aの相対位置関係における間隔Wを変化させた場合のH面における放射指向性を直交座標で示す放射パターンを示す。
【0037】
図12は、上段が角度φ=マイナス45度におけるゲインに着目し、間隔Wを0(ゼロ)としたときの基準ゲインに対する各間隔Wにおけるゲインの差を示すグラフを示し、下段が、間隔Wに対応したアンテナ本体部30と配策構造50との相対位置関係を示す。グラフにおいて、実線は無給電素子33が「ある」場合、破線は「ない」場合を示している。
【0038】
図10B、
図11B、
図12では、H面において、X軸プラス方向(前方方向)をφ=0度、Y軸プラス方向(左方向)をφ=90度としている。
【0039】
図10B、
図11B、
図12のグラフを見比べると、同じ間隔Wであっても、仮想線D1を無給電素子33の中心P3から給電点39の位置する側へ設定したほうが、相対的に高いゲインが得られていることがわかる。例えば、
図12において、間隔Wが6mmのとき、仮想線D1をZ軸プラス側にした場合には約1.9dBのゲイン上昇となっている。これに対して、仮想線D1をZ軸プラス側にした場合には約1.5dBのゲイン上昇となっている。従って、仮想線D1を給電点39の位置しない側へ離隔させるよりも、給電点39の位置する側へ離隔させるほうが好適である。
【0040】
間隔Wは、マイナス45度のφにおいて、間隔Wを0(ゼロ)としたときに比べて0.5dB以上のゲイン上昇が見込める場合には、有意な効果が得られると判断できる。そのため、
図12から、略λ/26程度以上である1.8mm程度以上の間隔Wが好適とである。
【0041】
マイナス45度のφにおいて、間隔Wを0(ゼロ)としたときに比べて1dB程度以上のゲイン上昇が得られる間隔Wがあればより好適である。そのため、
図12から、1dBよりも大きいゲイン上昇が見込める、略λ/13以上である3.7mm程度以上の間隔Wがより好適である。
【0042】
図13及び
図14は、定常状態における表面電流の強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
図13は、仮想線D1を給電点39側に間隔Wとして6mm離隔した場合の本実施形態のパッチアンテナ20のシミュレーション結果である。
図14は比較例として、間隔Wを0(ゼロ)としたパッチアンテナのシミュレーション結果である。
【0043】
着目すべきは、接続端子51に近い側の無給電素子33およびその周辺の表面電流の強度である。該当箇所を、
図13及び
図14中に破線の楕円で示す。無給電素子33の中心P3を白色の矢印で示す。間隔Wを6mmとした方が、比較例よりも無給電素子33の中心付近の表面電流が強く、無給電素子33としての機能がより発揮されていることを示している。これは、比較例に比べて間隔Wを6mmとしたほうが、無給電素子33による指向性の拡張性が作用していること、すなわち、ケーブル配策がアンテナ特性に与える影響を小さくできることを示す。
【0044】
〔変形例その1〕
上述した実施形態のパッチアンテナ20は、円偏波パッチアンテナ等の2点給電式のパッチアンテナでもよい。
例えば、
図15に示すように、アンテナ本体30Bは、放射素子32の四辺の外側に、無給電素子33と無給電素子35とを備える。無給電素子33は、放射素子32に対してY軸方向のプラス側及びマイナス側に配置されて対となる。無給電素子35は、放射素子32に対してZ軸方向のプラス側及びマイナス側に配置されて対となる。放射素子32に第1の給電点39と第2の給電点36とを備える。
【0045】
仮想線D1は、Y軸に沿って設定されている。そのため、間隔W3は、無給電素子33のうち、配策構造50に近いY軸プラス方向側の無給電素子33を基準として、上述した実施形態の間隔Wと同様に定められる。
この場合も、仮想線D1を給電点36又は給電点39の位置しない側へ離隔させるよりも、給電点36及び給電点39の位置する側へ離隔させることにより、高いゲインを得ることができる。
【0046】
〔変形例その2〕
仮想線D1は、必ずしも、平面視において無給電素子33の長手方向の仮想線D3と直交としなければならないわけではない。平面視において、仮想線D1は、仮想線D3に対して斜めとする設定等、交差する方向であってもよい。仮想線D3は、無給電素子33が長方形である場合、無給電素子33の中心(幾何中心)P3を通り、無給電素子33の短辺同士を結ぶ線(軸線)を表している。言い換えると、仮想線D3は、無給電素子33の中心(幾何中心)P3を通り、無給電素子33の長辺に平行な線を表している。
【0047】
例えば、
図16に示す車載用アンテナ装置10Cは、パッチアンテナ20Cと、フロントガラス6に貼り付けられるブラケット11Cと、カバー18とを備えて構成される。パッチアンテナ20Cは、アンテナ本体を収納するケース21Cと、ケーブル52と、ケーブル52の先端に設けられたコネクタ56とを有する。ケース21はブラケット11Cの先端保持部15によって保持され、コネクタ56はブラケット11Cの後端保持部16によって保持される。カバー18は、フロントガラス6との接着面以外を覆うように車載用アンテナ装置10Cを収容する。
【0048】
パッチアンテナ20Cは、基本的には、上述した実施形態のアンテナ本体30と同様の構成を有するが、配策構造50Cがアンテナ本体30の配策構造50とは異なる。配策構造50Cは、接続端子51に代えて、一端が基板40に固定されているケーブル52と、ケーブル52の先端に設けられたコネクタ56とを有する。ケーブル52と基板40との固定位置は、アンテナ本体30における配策構造50に係る条件と同様の条件を満たす。
【0049】
配策構造50Cにおける仮想線D1は、X軸プラス方向から見た平面視において、
図6に示す無給電素子33の長手方向の仮想線D3に対して斜め45°を成す設定とされている。
【0050】
車載用アンテナ装置10Cの取り付け方法の一例は次の通りである。先ず、ブラケット11Cをフロントガラス6に貼り付ける。次に、ブラケット11Cの先端保持部15にパッチアンテナ20Cを側方から差し込んで固定し、後端保持部16にコネクタ56を側方から押し込んで固定する。最後に、カバー18を、ブラケット11Cに対して、XZ平面に沿って、フロントガラス6に沿って前方斜め下方から後方斜め上へスライドさせるように取り付ける。
【0051】
仮想線D1を仮想線D3に対して斜めに設定することで、ケーブル52を取り回すのに要するY軸方向幅を小さくできる。フロントガラス6に他のセンサやカメラが取り付けられている場合、Y軸方向幅を小さくできれば、それだけ車載用アンテナ装置10の取り付け位置の自由度が高まる。仮想線D1を仮想線D3に対して斜めに設定するとは、仮想線D1と仮想線D3とがなす角度が90度及び180度以外の角度であり、例えば、YZ平面において略45度、XZ平面において略45度などが含まれる。
【0052】
この取り付け方法によれば、フロントガラス6を車内側から押し上げる荷重を作用させる機会を、ブラケット11Cの貼り付け時に限定することができる。車両5の製造ラインにおいては、車両5に取り付けられたフロントガラス6の接着剤が十分に硬化していない場合がある。このときに車載用アンテナ装置10を車両5に取り付ける場合であっても、上述した取り付け方法であれば、フロントガラス6を過度に押し上げるような荷重が作用することなく、車載用アンテナ装置10Cを取り付けることができる。
【0053】
〔概括〕
上述した実施形態及びその変形例を含め、本明細書の開示は、次のように概括することができる。
【0054】
本開示の態様は、面状の放射素子と、前記放射素子の面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子から間隔をあけた位置に設けられた無給電素子と、前記放射素子と電気的に接続され、前記放射素子への給電を行うケーブルと、を備え、前記ケーブルが前記放射素子と電気的に接続される位置を通る前記ケーブルに沿った方向をケーブル結線方向とした場合に、前記ケーブル結線方向の仮想線が、前記無給電素子の中心から離れた位置にある、パッチアンテナである。
【0055】
すなわち、本開示の態様は、面状の放射素子と、前記放射素子の面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子の端部から離間した位置に設けられた無給電素子と、前記放射素子と電気的に接続され、前記放射素子への給電を行うケーブルと、を備え、前記ケーブルが前記放射素子と電気的に接続される位置を通る前記ケーブルの軸線が、前記無給電素子の中心から離れている、パッチアンテナである。
【0056】
この態様によれば、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現できる。
【0057】
前記仮想線(前記軸線)と前記無給電素子の中心との間隔は、使用周波数をλとして、略λ/26以上であってもよい。
【0058】
このような構成とすることにより、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現でき、更に、ゲインを上昇させることができる。
【0059】
前記仮想線(前記軸線)と前記無給電素子の中心との間隔は、使用周波数をλとして、略λ/13以上であってもよい。
【0060】
このような構成とすることにより、アンテナ特性への影響が小さいケーブル配策を実現でき、更に、ゲインを上昇させることができる。
【0061】
前記無給電素子は、前記平面視において長方形形状を有し、前記ケーブル結線方向は、前記平面視において前記無給電素子の長手方向に交差する方向であってもよい。
【0062】
すなわち、前記無給電素子は、前記平面視において長方形形状を有し、前記軸線は、前記平面視において前記無給電素子の長手方向に平行な線に交差してもよい。
【0063】
このような構成とすることにより、無給電素子の中心付近の表面電流を強めることができる。これにより、無給電素子としての機能を発揮させ、指向性の拡張性を作用させることができる。従って、アンテナ特性に与える影響を小さくすることができる。
【0064】
前記無給電素子の長手方向は、前記平面視において、前記放射素子の中心及び前記放射素子の給電点を結ぶ線に沿った方向であり、前記平面視において、前記仮想線(前記軸線)が、前記無給電素子の中心よりも前記放射素子の給電点のある(位置する)側にあってもよい。
【0065】
このような構成とすることにより、高いゲインを得ることができる。
【0066】
前記ケーブルを前記放射素子に接続する接続端子を更に有してもよい。
【0067】
このような構成とすることにより、「こじる力」のアンテナ本体への作用を防止することができ、且つ、アンテナ本体の回路や接合部分への悪影響を防止することができる。更に、取付作業が容易となる。車両の種類によってケーブルの規格が異なっていても、接続端子の種類を変更することで、仕様変更を柔軟且つ簡単に実現できる。
【0068】
前記無給電素子は、前記平面視において、前記接続端子と前記放射素子との間にあってもよい。
【0069】
前記ケーブルと、前記ケーブルの先端に接続されたコネクタと、を備えてもよい。
【0070】
前記放射素子及び前記無給電素子が設けられ、前記放射素子と前記ケーブルとが電気的に接続される基板と、前記基板が配置されるベースと、前記ベース、前記放射素子、前記無給電素子、及び前記基板を収容する収容空間を形成するケースと、を更に備え、前記ケース、前記基板、及び前記ベースは、共締めされてもよい。
【0071】
このような構成とすることにより、例えば、走行中の振動などにより生じる異音を防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0072】
5…車両
6…フロントガラス
10、10C…車載用アンテナ装置
11、11C…ブラケット
12…傾斜面
13…保持部
15…先端保持部
16…後端保持部
18…カバー
20、20C…パッチアンテナ
21、21C…ケース
22…ベース
23…ネジ
24…ピン
30、30B…アンテナ本体
31…誘電体
32…放射素子
33…無給電素子
34…地導体
35…無給電素子
36…第2の給電点
39…第1の給電点
40…基板
44…放射素子
50、50C…配策構造
51…接続端子
52…ケーブル
52a…接続端子
56…コネクタ
D1…ケーブル結線方向の仮想線(軸線)
D3…長手方向の仮想線
P1…位置
P3…無給電素子の中心
P4…放射素子の中心
λ…使用周波数(通信周波数)
φ…角度