(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042057
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】延伸装置
(51)【国際特許分類】
B29C 55/16 20060101AFI20240319BHJP
B65H 23/32 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B29C55/16
B65H23/32
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013177
(22)【出願日】2024-01-31
(62)【分割の表示】P 2019182349の分割
【原出願日】2019-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉松 尚暁
(57)【要約】
【課題】油を含む膜を安定的に延伸させる。
【解決手段】延伸装置5は、油分を含む膜8を延伸するための延伸処理部と、膜8に張力を付与しつつ、延伸処理部に膜8を供給する張力付与機構部40Aと、を含む。張力付与機構部40Aは、膜8を搬送し延伸処理部に供給するためのガイドローラ42D,駆動ローラ41、およびガイドローラ42Cを有する。膜8は、ガイドローラ42Dから駆動ローラ41に向かう方向、および駆動ローラ41からガイドローラ42Cに向かう方向に搬送される。ガイドローラ42Dから駆動ローラ41への搬送方向と、駆動ローラ41からガイドローラ42Cへの搬送方向とは異なる方向である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、延伸装置:
油分を含む樹脂膜を第1の方向および前記第1の方向に交差する第2の方向に同時に延伸するための延伸処理部;
前記樹脂膜に張力を付与しつつ、前記延伸処理部に前記樹脂膜を供給する張力付与機構部;
ここで、
前記張力付与機構部は、
前記樹脂膜を搬送し前記延伸処理部に供給するための第1のローラ、第2のローラおよび第3のローラを有し、
前記樹脂膜は、前記第1のローラから前記第2のローラに向かう第3の方向および前記第2のローラから前記第3のローラに向かう第4の方向に搬送され、
前記第3の方向と前記第4の方向は異なる方向である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を縦方向および横方向に引き延ばす延伸装置に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
延伸装置においては、縦延伸と横延伸を行うことができ、これらを順番に行うことを逐次二軸延伸法といい、一度に行うことを同時二軸延伸法という。同時二軸延伸法は、逐次延伸法に比べ、スクラッチが発生しにくい、原料の適応範囲が広く、結晶化速度が速くても延伸可能である、物性の縦横均一性が高いなどのメリットがある。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-155138号公報)には、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置よりシート状物の両側端に配置された無端リンク装置を、シート状物の入口側および出口側のスプロケットにより駆動し、進行方向に末広がり状に配置されたガイドで形成されるガイドローラによって案内し、シート状物を横方向に延伸させるシート状物の延伸機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同時二軸延伸法の場合、膜の進行方向、および進行方向と交差する方向に同時に膜が引き伸ばされる。進行方向と交差する方向に膜が引き伸ばされる時、進行方向には、膜の収縮力が生じ、この収縮力に起因して膜が進行方向の下流側に向かって引っ張られる。膜が下流側に引っ張られることを抑制するため、上記膜に対して上記収縮力の反対方向に作用する外力を付与することが好ましい。しかし、油分を含む膜を延伸する場合、膜の表面に油分が滲むことにより、膜に上記外力が伝達され難い。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される延伸装置は、以下を含む:
油分を含む樹脂膜を延伸するための延伸処理部;
前記樹脂膜に張力を付与しつつ、前記延伸処理部に前記樹脂膜を供給する張力付与機構部;
前記張力付与機構部は、
前記樹脂膜を搬送し前記延伸処理部に供給するための第1のローラ、第2のローラおよび第3のローラを有し、
前記樹脂膜は、前記第1のローラから前記第2のローラに向かう第1の方向および前記第2のローラから前記第3のローラに向かう第2の方向に搬送され、
前記第1の方向と前記第2の方向は異なる方向である。
【発明の効果】
【0008】
本願において開示される延伸装置によれば、油を含む膜を安定的に延伸させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施の形態である薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。
【
図3】
図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。
【
図4】
図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。
【
図5】
図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。
【
図11】
図7に対する他の変形例を示す側面図である。
【
図12】
図7に対する他の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
<全体構造>
図1は、本実施の形態の薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。
図1に示す本実施の形態の薄膜製造システム1は、混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)2、Tダイ3、原反冷却装置4、延伸装置(同時二軸延伸装置)5、引き取り装置6、および巻き取り装置7を有する。
図1に示す例では、まず、混練押し出し装置2の原料供給部2Aに樹脂材料(ペレット)および添加剤などを供給する。二軸混練押し出し装置2は、供給された樹脂材料などを、混合しながら輸送(搬送)する。Tダイ3は、二軸混練押し出し装置2により混練された混練物(溶融樹脂)をスリットから押し出す。Tダイ3から押し出された混練物は、原反冷却装置4において冷却され、膜(シート、樹脂膜)8になる。Tダイ3により成形される膜は、延伸装置5に連続的に供給される。延伸装置5にとっては、膜8は延伸に供される原料に相当する。本明細書では、延伸装置5を中心に説明するので、延伸装置5に供されるシート状の材料、および延伸処理が施されている前の膜8のことを原反と呼ぶ場合がある。一方、延伸処理が完了し、延伸装置5から排出された状態の膜8を薄膜と呼ぶ場合がある。
【0012】
原反冷却装置4で冷却されて形成された膜8は、延伸装置5によりMD方向およびTD方向に延伸され、薄膜になる。延伸された膜8は、引き取り装置6を介して巻き取り装置7に巻き取られる。
【0013】
図1に一例として示す薄膜製造システム1の場合、上記のように、薄膜を製造する。なお、
図1に示す薄膜製造システム1は、形成する薄膜の特性に応じて、種々の変形が可能である。例えば、
図1に示す構成に加え、
図1に示す引き取り装置6の近傍に図示しない抽出槽が設けられ、膜8中の可塑剤(例えば、パラフィンなど)が抽出槽で除去される場合がある。
【0014】
本実施の形態の延伸装置5は、膜8をMD方向に搬送しながら、薄膜をMD方向およびTD方向に引き延ばす。MD(Machine Direction)方向は、薄膜の搬送方向に沿った方向であり、縦方向とも言う。また、TD(Transverse Direction)方向は、上記薄膜の搬送方向と交差する方向(
図1に示す例では直交する方向)であり、横方向とも言う。互いに交差する二方向に同時に延伸させることが可能な延伸装置5は、同時二軸延伸装置と呼ばれる。
【0015】
以下、延伸装置5の構造、および延伸装置5が、MD方向およびTD方向に膜8を引き延ばす原理について説明する。
図2は、
図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。
図2に示すオーブン内には、レール13A、13B上に配置された複数のリンク20が配置されるが、
図2では、レール13Aおよび13B、および膜8の輪郭のみを、点線で示している。
図3は、
図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。
図4は、
図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。
図5は、
図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。
図4および
図5では、クリップ21の支持構造を見やすくするため、
図3に示すA-A線およびA-B線に沿った断面とは異なる位置にある部材を、白抜きで示している。
【0016】
図2に示すように、延伸装置5は、平面視において、互いに離間して配置される一対のリンク装置10Aおよび10Bを有する。膜8は、リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間に配置され、MD方向に搬送される。言い換えれば、一対のリンク装置10Aおよび10Bは、膜8の両隣に配置される。リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間の部分は、膜8を搬送するための搬送部として機能する。延伸装置5は、油分を含む樹脂膜である膜8を延伸するための延伸処理部11を含む。延伸処理部11は、膜8の両端を把持した状態で、膜8の搬送方向に沿ったMD方向、およびMD方向と交差するTD方向に、膜8を同時に延伸させることができる。また、延伸装置5は、延伸処理部11を覆い、膜8に熱処理を行うための熱処理部12を有する。
図2に示す例では、熱処理の方法として、オーブンを用いた熱処理の例を示している。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれの一部分(延伸処理部11)は、熱処理部12の庫内に配置される。以下、本明細書では、熱処理部12であるオーブンを貫通するように配置されるリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれのうち、熱処理部12内に配置された部分を延伸処理部11として説明する。膜8は、リンク装置10Aおよび10Bに保持された状態で、熱処理部12を通過する。
【0017】
リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、無端チェーンを構成するように連結された複数のリンク20を有する。複数のリンク20のそれぞれには、膜8を把持する治具であるクリップ21(
図3参照)が取り付けられている。膜8は、クリップ21を介して複数のリンク20に把持される。
【0018】
互いに連結された複数のリンク20は、レール13Aおよび13Bに沿って走行可能な状態で、レール13Aおよび13B上に載せられる。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、一対のレール13Aおよび13Bを有する。一対のレール13Aおよび13Bのうち、レール13Aは内周側に、レール13Bは外周側に、それぞれ配置される。なお、レール13Aを内側レールと呼び、レール13Bを外側レールと呼ぶ場合がある。
【0019】
図2に示すようにリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備える一対のレール13Aおよび13Bは、延伸処理前の膜8を供給する入口側に配置される入口部(入口側)14、熱処理部12、および出口部(出口側)15に亘って環状に形成される。
【0020】
複数のリンク20により構成される無端チェーンは、熱処理部12の外側に配置されるリンク駆動機構により駆動される。
図2に示す例では、延伸装置5は、膜8の入口部14および出口部15のそれぞれにリンク駆動機構を有する。膜8の入口部14には、リンク駆動機構であるスプロケット31が配置される。膜8の出口部15には、リンク駆動機構であるスプロケット32が配置される。スプロケット31および32は、それぞれ複数のリンク20に係合され、複数のリンク20をMD方向に送り出すように回転する。複数のリンク20のそれぞれは、スプロケット31および32の回転動作の駆動力により、レール13Aおよびレール13B上を移動する。
【0021】
複数のリンク20のうち、互いに隣り合うリンク20間のピッチ(リンクピッチと呼ぶ場合もある)は、レール13Aとレール13Bとの離間距離に応じて変更可能である。言い換えれば、レール13Aとレール13Bとの離間距離を調整することにより、互いに隣り合うリンク20のピッチを調整することができる。詳しくは、レール13Aと13Bとの離間距離が大きい領域では、レール13Aと13Bとの離間距離が小さい領域と比較して、隣り合うリンク20のピッチが小さい。
【0022】
複数のリンク20は、隣り合うリンク20のピッチが変更可能な状態でレール上に配置される。また、クリップ21(
図3参照)は、隣り合うクリップ21のピッチ(中心間距離)が変更可能な状態で複数のリンクのそれぞれの一方の端部に取り付けられる。膜8は、熱処理部12において、リンク装置10Aのレール13Bとリンク装置10Bのレール13Bとの離間距離が徐々に大きくなる領域で、TD方向に延伸される。延伸処理部11は、リンク装置10Aのレール13Aとリンク装置10Bのレール13Aとの離間距離が徐々に大きくなる領域を含んでいる。膜8を介して互いに対向する2本のレール13Aの離間距離が大きくなる領域では、クリップ21に保持された膜8は、TD方向に延伸される。
【0023】
延伸装置5は、熱処理部12において、リンク装置10Aが備える複数のリンク20のリンクピッチ、およびリンク装置10Bが備える複数のリンク20のリンクピッチが大きくなる領域(MD方向延伸領域)を備える。膜8は、このリンクピッチが大きくなる領域において、MD方向に延伸される。リンクピッチが大きくなる領域では、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれにおいて、レール13Aとレール13Bとの離間距離が小さくなる。リンク装置10Aのレール13Bとリンク装置10Bのレール13Bとの離間距離が徐々に大きくなる領域とリンクピッチが大きくなる領域とは同じ領域なので、この領域では、膜8は、TD方向およびMD方向に同時に延伸される。
【0024】
また、延伸装置5は、熱処理部12において、リンクピッチを大きくするので、熱処理部12への入口部14において、リンクピッチを小さくしておく必要がある。このため、延伸装置5は、熱処理部12の外部であって、膜8の入口部14に配置されたスプロケット33を備える。スプロケット33は、スプロケット31の回転速度より遅い回転速度で回転する。スプロケット33は、複数のリンク20に係合する。スプロケット31の回転速度より遅く回転するスプロケット33が膜8の入口部14に配置されることにより、複数のリンク20のリンクピッチは、スプロケット33に係合される領域において小さくなる。スプロケット33は、複数のリンク20のリンクピッチを小さくするためのリンク調整機構部として機能する。
【0025】
膜8は、熱処理部12への入口部14において、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備えるリンク20に取り付けられたクリップ21により把持される。クリップ21は、
図3~5に記載されるバネ21Aなどの力により把持部21B(
図4および5参照)が上下に動作することで、開閉するように構成される。クリップ21は膜8の端部を把持した状態でリンク20と一緒にMD方向に搬送される。膜8は、熱処理部12内で加熱され、かつ、クリップ21の移動に伴ってMD方向およびTD方向に引き伸ばされる。引き伸ばされた後の膜8は、クリップ21に把持された状態で、熱処理部12の出口部15に向かって搬送される。熱処理部12の外部であり、かつ膜8の出口部15において、膜8はクリップ21から外される。膜8の出口側の先には、
図1に示す引き取り装置6および巻き取り装置7が配置され、引き伸ばされた膜8は、巻き取り装置7に巻き取られ、回収される。
【0026】
また、延伸装置5は、膜8に張力を付与しつつ、延伸処理部11に膜8を供給する張力付与機構部40Aを有する。張力付与機構部40Aは、膜8の搬送方向において、入口部14よりも上流側に配置され、膜8に張力を付与する機構を備える。張力付与機構部40Aの詳細な構造および動作は、後述する。
【0027】
次に、リンク20の構造について説明する。
図3に示すように、リンク20は、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23と、レールホルダ24および25と、を備える。上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23のそれぞれは、平面視において直線的に延びる板状の部材である。上段側リンクプレート22の一方の端部には、シャフト26が挿入される。
図4および
図5に示すように、シャフト26は、下段側リンクプレート23にも挿入され、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23とは、シャフト26の中心を回転軸として、回転自在な状態でシャフト26を介して連結される。下段側リンクプレート23の一方の端部には、クリップ21が取り付けられる。
図4に示すように、下段側リンクプレート23において、シャフト26は、クリップ21が取り付けられる一方の端部と他方の端部との間に挿入される。
図3では、シャフト26を中心に上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転する状態を、二点鎖線を用いて模式的に示している。シャフト26を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23との成す角θ1の角度が変化する。
【0028】
なお、本明細書では、
図3に示す角θ1の角度が大きくなることを「リンクが開く」、角θ1の角度が小さくなることを「リンクが閉じる」と呼ぶ場合がある。また、角θ1の角度が大きくなったり小さくなったりする動作を、「リンクの開閉動作」と呼ぶ場合がある。
【0029】
また、
図4および
図5に二点鎖線で示すように、上段側リンクプレート22には、シャフト27が挿入される。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20を連結する連結部材である。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20のうち、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と、他方のリンク20の下段側リンクプレート23とに挿入される。一方のリンク20の上段側リンクプレート22および他方のリンク20の下段側リンクプレート23のそれぞれは、シャフト27の中心を回転軸として回転自在な状態で、シャフト27を介して連結される。
図5に示すように、上段側リンクプレート22の他方の端部には、
図2に示すスプロケット31、32、および33に係合される係合部29が取り付けられる。上段側リンクプレート22において、シャフト27は、係合部29とシャフト26との間に挿入される。シャフト27を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と他方のリンク20の下段側リンクプレート23との成す角(図示は省略)の角度が変化する。
【0030】
図4および
図5に示すように、シャフト26の下端には、レールホルダ25が取り付けられる。レールホルダ25は、シャフト26の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。
図4に示すように、シャフト27の下端には、レールホルダ24が取り付けられる。レールホルダ24は、シャフト27の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。レールホルダ24はレール13Aを覆うように配置され、レールホルダ25はレール13Bを覆うように配置される。なお、レールホルダ24および25のそれぞれは、レール13Aまたは13Bを挟むように配置されるつば付きローラと、つば付きローラを保持するホルダと、を備える部材である。
【0031】
リンク20は、上記の構造を備えるので、レール13Aとレール13Bとの離間距離が変化すると、その変化に追従して上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23が回転する。この結果、隣り合うリンク20のピッチは、レール13Aとレール13Bとの離間距離に対応して変化する。なお、隣り合うリンク20のピッチは、回転可能に構成された部分の頂点、言い換えれば、シャフト26の中心を基準として規定することができる。
【0032】
<張力付与機構部>
次に、
図1および
図2に示す張力付与機構部の詳細について説明する。
図2に示すように、延伸装置5は、膜8の搬送方向において、入口部14よりも上流側に配置され、膜8に張力を付与する機構を備えた、張力付与機構部40Aを有する。膜8がTD方向に延伸される領域では、TD方向に膜8が引き伸ばされることに伴って、MD方向に収縮力8Fが生じる。
図2では、収縮力8Fを矢印で模式的に示している。収縮力8Fは、膜8がTD方向に延伸される領域にある中立点に向かって発生する。入口部14の周辺で収縮力8Fが発生すると、膜8は、進行方向であるMD方向の下流側(
図2に示す出口部15側)に向かって引っ張られる。
【0033】
上記したように、入口部14では、膜8は、リンク20のクリップ21(
図3参照)により把持される。このため、仮に収縮力8Fにより膜8の位置がずれた場合、クリップ21により把持する位置がずれてしまう場合がある。リンク装置10Aのリンク20に把持される位置とリンク装置10Bのリンク20に把持される位置とがずれた場合、膜8は把持位置がずれた状態のまま搬送されるので、MD方向およびTD方向に延伸される際に、斜めに延伸されてしまい、延伸後の薄膜の品質にばらつきが生じる。
【0034】
したがって、入口部14において、膜8が収縮力8Fにより引っ張られることを抑制するため、収縮力8Fの反対方向に作用する外力としての張力8Tを付与することが好ましい。張力8Tを付与することにより、収縮力8Fに起因する膜8の位置ずれを防止することができる。張力8Tは、張力付与機構部40Aにより付与される。膜8は、スプロケット31および32の駆動力により、膜8を保持するリンク20が入口部14から出口部15に向かって移動することにより搬送される。張力付与機構部40Aは、膜8を搬送する力に対して、抵抗力を印加することにより、膜8に張力8Tを付与する。
【0035】
図6は、
図2に示す入口部周辺の拡大平面図である。
図6に示すリンク装置10Aおよび10Bは、カバー16に覆われているが、
図6では、カバー16内に配置されたリンク装置10Aおよび10Bを実線で示している。
図7は、
図6に示す入口部周辺の側面図である。
図8は、
図7に対する検討例を示す側面図である。まず、
図8を用いて本実施の形態に対する検討例である張力付与機構部40Zを用いて説明する。
図6~
図8に示す複数のローラ(駆動ローラ41およびガイドローラ42等)のそれぞれは、筐体47に覆われているが、
図6~
図8では、筐体47内に配置される複数のローラを実線で示している。
【0036】
図8に示す張力付与機構部40Zは、膜8と接触し、かつ、膜8を送り出すための駆動ローラ41と、膜8と接触し、かつ、膜8の移動に応じて回転するガイドローラ42と、を有する。
図8に示す例では、張力付与機構部40Zは、駆動ローラ41の後に膜8と接触するガイドローラ42Aと、駆動ローラ41より先に膜8と接触するガイドローラ42Bと、を有する。また、張力付与機構部40Zは、膜8と接触し、かつ、膜8を駆動ローラ41に向かって押し付けるためのニップローラ43を有する。張力付与機構部40Zは、ニップローラ43により膜8を駆動ローラ41に押し付けることで、膜8を搬送する力(駆動ローラ41の駆動力や、
図2に示すスプロケット31および32の駆動力)に対して抵抗する抵抗力を印加する。膜8は、この抵抗力により入口部14よりも上流側に向かって引っ張られるので、膜8に、
図2に示す張力8Tが生じる。この張力8Tは、
図2に示す収縮力8Fを打ち消すように作用するので、入口部14において生じる収縮力8Fの影響を低減させることができる。
【0037】
ところが、本願発明者の検討によれば、膜8が油分(油成分)を含む場合、張力付与機構部40Zでは、十分に張力を付与できないことが判った。油分を含む膜8の一例として、リチウムイオン2次電池に内蔵されるセパレータを取り上げて説明する。
【0038】
リチウムイオン2次電池において、セパレータは、正極板と負極板との間に挟まれるように配置される、絶縁膜である。セパレータに用いられる絶縁膜には、電極間の絶縁機能の他、電解液やリチウムイオン等を通過させる機能が要求される。このため、セパレータには多数の孔が形成されている。多数の孔を備えた樹脂絶縁膜を形成する方法として、例えば以下の方法がある。すなわち、セパレータの原料となる樹脂材料(以下、原料樹脂と記載する)に混合される溶剤に可塑剤を添加する。この可塑剤は、原料樹脂の融点以上の温度において均一の溶液を形成可能な不揮発性溶媒であって、かつ、薄膜化後に抽出して除去することが可能な材料から成る。このような可塑剤として、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックスなどの油分を用いることができる。原料樹脂は、上記可塑剤を含む溶剤と混練された後、例えば
図1に示すTダイ3によりシート化され、延伸装置5により薄膜化される。その後、洗浄処理により薄膜に含まれる可塑剤が抽出除去された後、乾燥処理、および安定化処理を施すことにより、多孔質の樹脂製の薄膜が形成される。
【0039】
上記のプロセスにより、セパレータを形成する場合、延伸装置5に供される膜8は、油分である可塑剤を含んだ状態である。油分を含む膜8が、
図8に示す張力付与機構部40Zに供されると、膜8の表面に油分が滲みでるため、膜8とニップローラ43との摩擦抵抗が小さくなる。ニップローラ43の表面は、例えばシリコーンなどの高分子樹脂に覆われており、この高分子樹脂が膜8と接触するが、膜8の表面に油分が滲んだ状態では、膜8とニップローラ43との摩擦抵抗が小さく、ニップローラ43により十分な抵抗力を印加することができないことが判った。
【0040】
図6および
図7に示す張力付与機構部40Aの場合、油分を含む膜8を延伸させる場合であっても、
図2に示す張力8Tを付与することができる。詳しくは、
図7に示すように、張力付与機構部40Aは、膜8と接触し、かつ、膜8を送り出すための駆動ローラ(ローラ)41と、膜8と接触し、かつ、膜8の移動に応じて回転するガイドローラ(ローラ)42と、を有する。
図7に示す例では、張力付与機構部40Aは、膜8を延伸処理部11(
図2参照)に供給するための複数のローラ(駆動ローラ41および複数のガイドローラ42)を有する。膜8は、ガイドローラ(ローラ)42Dから駆動ローラ41に向かう方向(
図7では順方向X1)、および駆動ローラ41からガイドローラ(ローラ)42Cに向かう方向(
図7では逆方向X2)に搬送される。ガイドローラ42Dから駆動ローラ41への搬送方向と、駆動ローラ41からガイドローラ42Cへの搬送方向とは異なる方向である。
図7に示す例では、逆の方向である。
図7に示す例を以下のように表現することもできる。張力付与機構部40Aは、駆動ローラ41の後に膜8と接触するガイドローラ42C、および42Aと、駆動ローラ41より先に膜8と接触するガイドローラ42Bおよび42Dと、を有する。膜8は、駆動ローラ41、ガイドローラ42C、およびガイドローラ42Aに順に接触した後、入口部14に供給される。ガイドローラ42Cは、延伸装置5の設置面FLを基準面として駆動ローラ41の高さとは異なる高さに位置し、かつ、駆動ローラ41より入口部14から遠い位置に配置される。言い換えれば、ガイドローラ42Cは、駆動ローラ41の高さとは異なる高さに位置し、かつ、駆動ローラ41より
図2に示す延伸処理部11から遠い位置に配置される。
図7に示す例では、ガイドローラ42Cは、延伸装置5の設置面FLを基準面として駆動ローラ41の高さより低い位置に配置される。
【0041】
以下の説明において、駆動ローラ41、ガイドローラ42、などの各種ローラ、あるいは膜8の面の高さについて説明する場合、延伸装置5の設置面FLを基準面とした場合の高さについて説明する。また、単にローラの高さを比較した場合には、基準面に対するローラの回転軸(回転中心)の高さを比較して説明する。例えば、「ガイドローラ42Cは、駆動ローラ41とは異なる高さに位置する」と説明した場合には、ガイドローラ42Cの回転軸(回転中心)の高さと、駆動ローラ41の回転軸の高さとが互いに異なっていることを意味する。ただし、ローラの上端、あるいは下端などローラの特定部分の高さに言及した場合には、当該部分の高さを意味する。同様に、以下の説明において、駆動ローラ41、ガイドローラ42、などの各種ローラの入口部14からの距離が遠い、あるいは近いと表現する場合がある。この場合、例えば
図7に示す入口部14に設けられたカバー16の側面16sのうち、張力付与機構部40Aに最も近い面を基準面とする。例えば、「駆動ローラ41より入口部14から遠い位置に配置されるガイドローラ42C」と表現した場合には、ガイドローラ42Cの回転軸(回転中心)からカバー16の側面16sまでの最短距離の方が、駆動ローラ41の回転軸(回転中心)からカバー16の側面16sまでの最短距離より長いことを意味する。同様に、駆動ローラ41、ガイドローラ42、などの各種ローラの延伸処理部11からの距離が遠い、あるいは近いと表現する場合がある。この場合、
図2に示す熱処理部12と入口部14との境界を基準位置としてこの基準位置からの距離を意味する。
【0042】
張力付与機構部40Aの場合、駆動ローラ41より低い位置で、かつ、駆動ローラ41より入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置されるガイドローラ42Cが設けられ、かつ、膜8が駆動ローラ41と接触した後、ガイドローラ42Cと接触するように構成されることにより、膜8の搬送経路が、
図8に示す張力付与機構部40Zと比較して複雑になる。
図7に示す例では、ガイドローラ42Cの上端が少なくとも駆動ローラ41の回転軸より低い位置にある。
【0043】
図7および
図8に示すように張力付与機構部40A(または40Z)から入口部14に向かう方向を順方向X1、順方向X1の反対方向を逆方向X2とする。
図8に示す張力付与機構部40Zの場合、膜8は順方向X1にのみ搬送される。一方、
図7に示す張力付与機構部40Aの場合、膜8の搬送経路は、駆動ローラ41とガイドローラ42Cとの間に、逆方向X2に沿って膜8が搬送される経路(リターンパス)を含む。膜8の搬送経路がリターンパスを含む場合、リターンパスの終端に位置するガイドローラ42Cは、ガイドローラ42Cと膜8との接触界面と、入口部14との間に配置される。
図7に示す例において、膜8に強い収縮力8F(
図2参照)が発生した場合、張力付与機構部40A内の膜8は、収縮力8Fにより入口部14に向かって引っ張られる。この時、ガイドローラ42Cと膜8との接触界面と入口部14との間には、ガイドローラ42Cが配置されているので、膜8を引っ張る力が大きくなる程、膜8はガイドローラ42Cに対して強く押しつけられる。この結果、仮に、膜8の表面に油分が滲みだしたとしても、ガイドローラ42Cは、膜8を順方向X1に引っ張る力に対する抵抗力を膜8に付与する。言い換えれば、膜8は、ガイドローラ42Cにより、張力8T(
図2参照)を付与される。
【0044】
また、
図7の構成の場合、ガイドローラ42Cに加え、駆動ローラ41も膜8に対して張力を付与する。すなわち、リターンパスの始端となる駆動ローラ41では、リターンパスにおいて、膜8が逆方向X2に引っ張られる力が大きくなる程、膜8は、駆動ローラ41に対して強く押しつけられる。この結果、駆動ローラ41は、膜8が逆方向X2に引っ張られる力に対する抵抗力を膜8に付与する。
【0045】
上記のように、
図7に示す張力付与機構部40Aの場合、膜8に含まれる油分が表面に滲み出て、ガイドローラ42Cとの接触界面が滑り易くなったとしても、膜8に対して張力8T(
図2参照)を付与することができる。この張力8Tは、
図2に示すように膜8に生じる収縮力8Fに起因して入口部14の近傍の膜8を出口部方向に引っ張る力と相殺することができる。この結果、入口部14において、リンク装置10Aのリンク20およびリンク装置10Bのリンク20のそれぞれが、膜8を把持する位置にずれが生じることを抑制できる。
【0046】
また、本実施の形態のように、張力付与機構部40A内の膜8の搬送経路に、リターンパスを設けることにより、膜8に張力を付与する方法の場合、張力付与機構部40Aの専有面積の増大を抑制することができる。
【0047】
また、
図7に示す実施態様は、以下のように表現することができる。
図7に示すように、膜8は、前面8fおよび前面8fの反対側の背面8bを備える。前面8fは、入口部14において、上方を向く面であり、背面8bは、入口部14において、延伸装置5の設置面FLと対向する面である。張力付与機構部40Aの場合、駆動ローラ41は、膜8の背面8bと接触し、ガイドローラ42Cは、膜8の前面8fと接触する。なお、ガイドローラ42Aおよび42Dのそれぞれは、膜8の背面8bと接触し、ガイドローラ42Bは、膜8の前面8fと接触する。張力付与機構部40A内の膜8の搬送経路において、リターンパスの始端である駆動ローラ41が膜8の一方の面(背面8b)に接触し、および終端であるガイドローラ42Cが膜8の他方の面(前面8f)に接触する場合、上記した抵抗力を膜8に付与することができる。
【0048】
次に、
図7に示す複数のガイドローラ42のうち、ガイドローラ42C以外のガイドローラ42A、42Bおよび42Dについて説明する。ガイドローラ42Cを含め、複数のガイドローラ42のそれぞれは、金属製の円筒部材(または円柱部材)である。複数のガイドローラ42のそれぞれの表面は、耐摩耗性、耐食性に優れた金属膜(例えばクロムメッキ膜)に覆われている。駆動ローラ41は、その回転軸にモータ44(
図6参照)が接続されている点を除き、複数のガイドローラ42と同様の構造を有している。例えば、複数のガイドローラ42のそれぞれ、および駆動ローラ41は、同じ直径を備えている。
【0049】
ガイドローラ42Aは、入口部14に供給される膜8の高さを調整するために設けられている。ガイドローラ42Aは、延伸装置5の設置面FLを基準面として、ガイドローラ42Aの上端の高さが入口部14における膜8の背面8bの高さと一致するように配置されている。ガイドローラ42Aと膜8の背面8bとが接触することにより、膜8の高さを制御できるように、設置面FLを基準面として、ガイドローラ42Cの下端は、ガイドローラ42Aの上端より低い位置に配置されている。また、駆動ローラ41は、ガイドローラ42Aより高い位置に配置されている。詳しくは、駆動ローラ41の下端は、ガイドローラ42Aの上端よりも高い位置に配置される。
【0050】
ガイドローラ42Bは、
図1に示す原反冷却装置4で冷却された膜8に皺や弛みが生じることを抑制するために設けられている。
図1に示すように、原反冷却装置4と膜8との接触面積を大きくするため、原反冷却装置4と張力付与機構部40Aとの間には、ガイドローラ4Aが設けられ、かつガイドローラ4Aは、原反冷却装置4のより高い位置に設けられている。
図7に示すガイドローラ42Bは、膜8に皺や弛みが生じることを抑制するため、ガイドローラ4A(
図1参照)より低い位置に設けられている。また、ガイドローラ42Bとガイドローラ4Aとの高低差は大きい方が好ましい。
図7に示す例では、設置面FLを基準面として、ガイドローラ42Bは、ガイドローラ42Aおよび42C、および駆動ローラ41より低い位置(設置面FLに近い位置)に設けられている。
【0051】
ガイドローラ42Dは、ガイドローラ42Bと駆動ローラ41との間を搬送される膜8と、ガイドローラ42Cとの干渉を防止するために設けられている。ガイドローラ42Dは、ガイドローラ42Cより高い位置に配置される。ガイドローラ42Dを設けない場合、
図7に示すガイドローラ42Bから駆動ローラ41に向かって膜8が直線的に搬送されるので、ガイドローラ42Cと膜8とが干渉する可能性がある。この干渉を避けるため、ガイドローラ42Cの位置は、制約される。
図7に示すように、駆動ローラ41とガイドローラ42Bとの間にガイドローラ42Dが設けられ、ガイドローラ42B、42D、および駆動ローラ41の順で、膜8に接触するように膜8の搬送経路が構成されている場合、ガイドローラ42Dにより、膜8とガイドローラ42Cとの干渉を防止できる。この場合、ガイドローラ42Cの位置を決定する設計上の自由度が上がるので、上記した抵抗力の付与特性や、ガイドローラ42Cの耐久性等を考慮して、最適な位置にガイドローラ42Cを配置することができる。
【0052】
<変形例>
図9は、
図7に対する変形例を示す側面図である。
図9に示す張力付与機構部40Bは、ガイドローラ42Bの高さ、および
図7に示すガイドローラ42Dが設けられていない点で、
図7に示す張力付与機構部40Aと相違する。張力付与機構部40Bの場合、ガイドローラ42Bが、駆動ローラ41よりも高い位置に配置される。詳しくは、ガイドローラ42Bの下端が駆動ローラ41の上端と同じ高さにある。なお、上記した同じ高さには、厳密に同一の高さである場合の他、張力付与機構部40Bに配置される膜8の厚さの範囲程度の誤差がある場合も含む。この程度の誤差であれば、実質的に同じ高さと見做せる。張力付与機構部40Bの場合、
図7に示すガイドローラ42Dが設けられていない場合でも、ガイドローラ42Cと膜8とが干渉しない。また、ガイドローラ42Cの位置に係る設計上の自由度も特に制約されない。ただし、ガイドローラ42Bとガイドローラ4A(
図1参照)との高低差は
図7に示す例と比較すると小さい。
【0053】
また、図示は省略するが、
図7に示す実施態様に対する変形例として、ガイドローラ42Aが配置されない場合がある。この場合、設置面FLを基準面として、ガイドローラ42Cの下端の高さが入口部14における膜8の前面8fの高さと一致するように配置される必要がある。なお、入口部14に供給される膜8の背面8bの高さを制御し易くする観点からは、膜8の背面8bに接触するようにガイドローラ42Aが配置されることが特に好ましい。
【0054】
図10は、
図9に対する変形例を示す側面図である。
図10に示す張力付与機構部40Cは、ガイドローラ42Cが駆動ローラ41より高い位置に配置されている点で、
図7に示す張力付与機構部40Aおよび
図9に示す張力付与機構部40Bと相違する。張力付与機構部40Cの構造は、
図9に示す張力付与機構部40Bに対して、駆動ローラ41およびガイドローラ42Bの位置を上下反転させた構造になっている。
【0055】
また、張力付与機構部40Cの場合、駆動ローラ41には膜8の前面8fが接触し、ガイドローラ42Cには、膜8の背面8bが接触する点で、
図7に示す張力付与機構部40Aおよび
図9に示す張力付与機構部40Bと相違する。張力付与機構部40Cの場合も、張力付与機構部40C内の膜8の搬送経路において、リターンパスの始端である駆動ローラ41が膜8の一方の面(前面8f)に接触し、および終端であるガイドローラ42Cが膜8の他方の面(背面8b)に接触する点は、
図7に示す張力付与機構部40Aの場合と同様である。したがって、張力付与機構部40Cの場合も、上記した抵抗力を、油分を含む膜8に付与することができる。
【0056】
また、張力付与機構部40Cの場合、ガイドローラ42Bが、ガイドローラ42Aよりも高い位置に配置されている点で、
図9に示す張力付与機構部40Bと相違する。この場合、ガイドローラ42Bとガイドローラ4A(
図1参照)との高低差を
図9に示す例と比較して大きくすることができる。
【0057】
図11は、
図7に対する他の変形例を示す側面図である。
図11に示す張力付与機構部40Dは、ニップローラ43を更に有している点で、
図7に示す張力付与機構部40Aと相違する。ニップローラ43は、膜8を駆動ローラ41との間に挟んで駆動ローラ41に向かって押し付けるように動作する。
図11に示すように、駆動ローラ41には、膜8の背面8bが接触し、ガイドローラ42Cおよびニップローラ43のそれぞれには、膜8の前面8fが接触する。
【0058】
ニップローラ43は、
図8を用いて説明したニップローラ43と同様の構造を有している。ニップローラ43は、駆動ローラ41と対向する位置に配置される。例えば、ニップローラ43の表面は、例えばシリコーンなどの高分子樹脂膜に覆われており、この高分子樹脂膜が膜8と接触する。ただし、本変形例の場合、ニップローラ43を使用する目的が
図8に示す検討例とは異なる。すなわち、ニップローラ43が膜8に接触する時、膜8の表面には、油分が滲んでいる。このため、膜8とニップローラ43との摩擦抵抗は小さい。したがって、ニップローラ43を膜8に押し付けることにより、膜8に抵抗力を付与するという観点からは、ニップローラ43の果たす役割は小さい。
【0059】
しかし、本願発明者は、ニップローラ43を膜8に押し付けることにより、膜8の表面に滲み出た油分を除去または低減できる効果が期待できることを見出した。
図11に示すように、駆動ローラ41の上方に配置されたニップローラ43と膜8の前面8fとが接触すると、前面8fの表面に滲み出た油分の少なくとも一部がニップローラ43により除去される。このため、膜8の前面8f側は、ニップローラ43と接触する前と比較して滑り難い状態になる。この状態で膜8の前面8fは、ガイドローラ42Cに接触するため、ガイドローラ42Cと膜8との接触界面では、
図7に示す例と比較して摩擦抵抗が増大する。この結果、ガイドローラ42Cは、
図7に示す例と比較して効率的に上記した抵抗力を膜8に付与することができる。
【0060】
このように、本変形例によれば、膜8とガイドローラ42Cとが接触する直前に、膜8とガイドローラ42Cとの接触界面である前面8fの油分を切ることにより、ガイドローラ42Cと膜8との摩擦抵抗を増加させることができる。
【0061】
なお、
図11では、代表的に
図7に対する変形例として示したが、
図9に示す張力付与機構部40B、あるいは
図10に示す張力付与機構部40Cの変形例として、
図11に示すニップローラ43を追加する場合がある。例えば、
図10に示す張力付与機構部40Cにニップローラ43(
図11参照)を追加する場合、
図10に駆動ローラ41の下方にニップローラ43が追加される。この場合、駆動ローラ41には、膜8の前面8fが接触し、ガイドローラ42Cおよびニップローラ43のそれぞれには、膜8の背面8bが接触する。
【0062】
図12は、
図7に対する他の変形例を示す側面図である。
図13は、
図12に対する変形例を示す側面図である。
図12に示す張力付与機構部40Eは、膜8に印加される張力を計測する張力計測部45と、張力計測部45による計測結果に基づいて膜8を搬送する駆動力を制御する制御部46と、を更に有している点で
図7に示す張力付与機構部40Aと相違する。
【0063】
張力付与機構部40Eのように、張力計測部45および制御部46を備えている場合、膜8に印加される張力8T(
図2参照)の程度に応じて、膜8を搬送する駆動力を自動的に調整することができる。このため、適切な張力8Tを継続的に維持することができる。一方、
図7に示す張力付与機構部40A~
図11に示す張力付与機構部40Dのそれぞれの場合、入口部14において膜8が順方向X1に向かって引っ張られた時に、予め設定された張力8Tで膜8を引っ張る力に抵抗する力を付与する構造になっている。このため、予め設定された張力8Tに釣り合うように順方向X1に膜8を引っ張る力を手動で調整する必要がある。
【0064】
図12に示す張力計測部45および制御部46を用いた膜8を搬送する駆動力の調整機能は、駆動力が不足して膜8に弛みが生じることを防止する時、あるいは駆動系統の誤作動により、順方向X1に引っ張る力が過剰に大きくなった時に有効な機能である。
【0065】
膜8の張力を計測する方法および計測結果に基づいて膜8を搬送する駆動力を制御する方法には、種々の変形例があるが、以下では、代表的な実施態様および、好ましい態様について例示的に説明する。
【0066】
図12に示す例では、張力計測部45は、ダンサローラ45A、支持板45B、支点45C、およびセンサ45Dを有する。膜8は、ガイドローラ42Cからダンサローラ45Aに向かう方向、およびダンサローラ45Aからガイドローラ42Aに向かう方向に搬送される。ガイドローラ42Cからダンサローラ45Aへの搬送方向と、ダンサローラ45Aからガイドローラ42Aへの搬送方向とは異なる方向である。また、ガイドローラ42Cからダンサローラ45Aへの搬送方向、およびダンサローラ45Aからガイドローラ42Aへの搬送方向は、ガイドローラ42Dから駆動ローラ41への搬送方向、および駆動ローラ41からガイドローラ42Cへの搬送方向のそれぞれとは異なる方向である。張力計測部45は、ガイドローラ42Cとダンサローラ45Aの間、およびガイドローラ42Aとダンサローラ45Aの間の膜8の張力を計測する。
【0067】
ダンサローラ45Aは、膜8と接触し、かつ、膜8の張力に応じて張力付与機構部40Eの高さ方向(
図12に示すZ方向)に動作可能に支持される。支持板45Bは、筐体47に固定された支点45Cを回転中心として回転自在に支点45C取り付けられ、支点45Cとの接続部の反対側にある端部において、ダンサローラ45Aを支持する構造になっている。このため、ダンサローラ45Aは、支点45Cを中心とする円弧軌道に沿って動作する。また、センサ45Dは、筐体47に固定され、ダンサローラ45Aの動作方向および移動量の程度を検出する。センサ45Dは、例えば赤外線センサであって、支持板45Bの回転角度、あるいはダンサローラ45Aの位置を検出することにより、ダンサローラ45Aの動作方向および移動量の程度を検出する。
図12に実線で模式的に示すように、センサ45Dは制御部46と電気的に接続されている。
【0068】
センサ45Dで検出された計測結果は、電気信号として制御部46に伝送される。制御部は、センサ45Dから伝送されたデータを処理する処理回路、および処理結果に基づいて延伸装置5の駆動装置を駆動する駆動信号を生成する演算処理回路を有する。延伸装置5の駆動装置には、例えば
図2に示すスプロケット31、32、および33、および
図12に示す駆動ローラ41が含まれる。これらの駆動装置は、制御部46から伝送される駆動信号に基づいて駆動される。
【0069】
例えば、膜8を搬送する駆動力が強くなり、入口部14において膜8を順方向X1に引っ張る強さが大きくなれば、ダンサローラ45Aは、上記円弧軌道に沿って上昇する。この場合、センサ45Dがダンサローラ45Aの上昇の程度を検出し、制御部46にデータ信号が伝送される。制御部46の延在処理回路は、データ処理回路により処理された後の計測結果が、予め設定された閾値と比較される。例えば、計測結果が上限の閾値より大きい場合、
図2に示すスプロケット31、32、および33に対して回転速度を下げるための駆動信号が生成される。また、計測結果が上限の閾値より極端に大きい場合、スプロケット31、32、および33に対して回転を停止させる駆動信号が生成される。これにより、膜8を順方向X1に引っ張る強さは適切に調整され、ダンサローラ45Aは所定の位置に下降する。
【0070】
また例えば、入口部14において膜8を順方向X1に引っ張る強さが小さい場合には、ダンサローラ45Aは、ダンサローラ45Aの自重により、上記円弧軌道に沿って下降する。この場合、センサ45Dがダンサローラ45Aの下降の程度を検出し、制御部46にデータ信号が伝送される。制御部46の延在処理回路は、データ処理回路により処理された後の計測結果が、予め設定された閾値と比較される。例えば、計測結果が下限の閾値より小さい場合、
図2に示すスプロケット31、32、および33に対して回転速度を上げるための駆動信号が生成される。これにより、膜8を順方向X1に引っ張る強さは適切に調整され、ダンサローラ45Aは所定の位置に上昇する。
【0071】
張力計測部45は、入口部14において膜8を順方向X1に引っ張る力と、膜8に付与される張力とのバランスを計測できれば良いので、ダンサローラ45Aの位置は、
図12に示す張力付与機構部40Eの他、種々の変形例がある。ただし、
図12に示すように、ダンサローラ45Aは、ガイドローラ42Aより入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置されていることが好ましい。これにより、張力付与機構部40Eの専有面積を低減することができる。
【0072】
また、
図12に示すように、支点45Cが筐体47の側壁に固定されている場合、ダンサローラ45Aと筐体47の側壁との距離を大きくすることにより、支持板45Bの回転半径が大きくなるので、Z方向におけるダンサローラ45Aの移動可能距離を大きくすることができる。一方、ガイドローラ42Aは、筐体47の側壁からの距離を小さくすることにより、筐体47のサイズを小さくすることができる。したがって、
図12に示すように、ダンサローラ45Aは、ガイドローラ42Aより入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置されていることが好ましい。
【0073】
また、延伸装置5の設置面FLを基準面として、駆動ローラ41は、ガイドローラ42Aより高い位置に配置される。また、ガイドローラ42Cは、駆動ローラ41およびガイドローラ42Aのそれぞれより低い位置に配置される。また、ダンサローラ45Aは、ガイドローラ42Cより低い位置に配置される。上記したように、ダンサローラ45Aは、ダンサローラ45Aの自重を利用して張力を計測する。
図13に変形例として示す張力付与機構部40Fのように、ガイドローラ42Eおよび42Fを追加することにより、ダンサローラ45Aがガイドローラ42Cより高い位置に配置されている構造も実現可能である。ただし、
図12と
図13を比較して判るように、ダンサローラ45Aは、ガイドローラ42Cより低い位置に配置されている場合、張力付与機構部40Eの構造を単純化することができる。
【0074】
また、
図12に示すように、ガイドローラ42Cは、ダンサローラ45Aより入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置される。図示は省略するが、張力付与機構部40Eに対する変形例として、ダンサローラ45Aが、ガイドローラ42Cより入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置される場合もある。ただし、この場合、膜8とガイドローラ42Cとの接触面積が
図12に示す例と比較して小さくなる。したがって、膜8に抵抗力を付与するガイドローラ42Cと膜8との接触面積を大きくする観点から、
図12に示すように、ガイドローラ42Cは、ダンサローラ45Aより入口部14から(言い換えれば
図2の延伸処理部11から)遠い位置に配置されることが好ましい。
【0075】
なお、
図12では、代表的に
図7に対する変形例として示した。ただし、
図9に示す張力付与機構部40B、あるいは、
図11に示す張力付与機構部40Dの変形例として、
図12に示す張力計測部45および制御部46を追加する場合もある。
図13に示す張力付与機構部40Fは、
図10に示す張力付与機構部40Cに対する変形例である。
【0076】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0077】
例えば、上記した延伸装置5は、例えば、電池のセパレータなど、油分を含む膜を延伸する用途に利用して特に有効であるが、油分を含まない膜の延伸に利用することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 薄膜製造システム
2 混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)
2A 原料供給部
3 Tダイ
4 原反冷却装置
4A ガイドローラ(ローラ)
5 延伸装置(同時二軸延伸装置)
6 引き取り装置
7 巻き取り装置
8 膜
8b 背面
8f 前面
8F 収縮力
8T 張力
10A,10B リンク装置
11 延伸処理部
12 熱処理部
13A,13B レール
14 入口部(入口側)
15 出口部(出口側)
16 カバー
16s 側面
20 リンク
21 クリップ
21A バネ
21B 把持部
22 上段側リンクプレート
23 下段側リンクプレート
24,25 レールホルダ
26,27 シャフト
28 ピン
29 係合部
31,32,33 スプロケット
40A,40B,40C,40D,40E,40F,40Z 張力付与機構部
41 駆動ローラ(ローラ)
42,42A,42B,42C,42D,42E,42F ガイドローラ(ローラ)
43 ニップローラ(ローラ)
44 モータ
45 張力計測部
45A ダンサローラ(ローラ)
45B 支持板
45C 支点
45D センサ
46 制御部
47 筐体
FL 設置面
X1 順方向
X2 逆方向
θ1 角