IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 精工化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004207
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/40 20060101AFI20240109BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20240109BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20240109BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240109BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240109BHJP
【FI】
C08F2/40
C08F20/00 510
C09D123/00
C09D7/63
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103743
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000195616
【氏名又は名称】精工化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】田辺 剛
(72)【発明者】
【氏名】住 千佳
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011BA06
4J011NA02
4J011NB03
4J038NA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】その硬化の制御性が向上されている硬化性組成物を提供する。
【解決手段】重合性ビニル化合物及び当該重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物の少なくとも一方を含む重合性ビニル系化合物と、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物と、を含有する、硬化性組成物。

(但し、一般式(1)中、nは1~4の整数を表し、Aは-O-又は-NH-を表し、Rは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、脂肪族多価アシル基、芳香族アシル基又は芳香族多価アシル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性ビニル化合物及び当該重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物の少なくとも一方を含む重合性ビニル系化合物と、
下記一般式(1)で示されるN-オキシル化合物と、
を含有する、硬化性組成物。
【化1】
(但し、一般式(1)中、nは1~4の整数を表し、Aは-O-又は-NH-を表し、Rは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、脂肪族多価アシル基、芳香族アシル基又は芳香族多価アシル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、nは1または2の整数を表し、Aは-O-である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
リソグラフィー材料であるか、或いは、コーティング剤を含む塗料である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
型材または被充填部に流し込んで使用されるものであるか、或いは、半硬化したシート状の材料を硬化させて用いるものである、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。更に詳しくは、電子材料や塗料などの様々な分野に使用することができる硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光や熱のエネルギーを契機として硬化して硬化体を形成する硬化性組成物が知られており、この硬化性組成物は、現在、様々な用途に使用され、いまでもその範囲を広げている。硬化性組成物としては、具体的には、UV印刷やインクジェット印刷を含む印刷インキ、トップコートを含む塗料、接着剤、電子材料製造用材料、歯科材料などが知られている。
【0003】
このような硬化性組成物には、重合性化合物以外に重合禁止剤が配合され、この重合禁止剤によって当該硬化性組成物が意図せずに(即ち、硬化体を形成するタイミング以外で)硬化してしまうことを制御することが報告されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
特許文献1には、光硬化性組成物を用いた電子部品の製造方法が記載され、この硬化性組成物に重合禁止剤を添加することが記載されている。特許文献2には、電子部品、半導体部品、機械部品等に用いる積層体の製造に使用される光硬化性組成物が記載され、4-メトキシ-1-ナフトールなどの重合禁止剤を含有することが記載されている。特許文献3には、歯科治療に用いられる可視光硬化性組成物が記載され、ハイドロキノンモノメチルエーテルのような重合禁止剤を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-24884号公報
【特許文献2】特開2016-117833号公報
【特許文献3】特開2013-133321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、硬化性組成物は、電子材料や塗料などの様々な分野に使用されており、各分野で求められる形態の硬化体を形成し得るものであるが、硬化性組成物の硬化の制御には未だ改良の余地がある。具体的には、保存安定性の向上、硬化感度の調整の向上、得られる硬化体の解像度の向上、型材や被充填部に流し込んだ際の造形性の向上などについて更なる改良の余地がある。
【0007】
このようなことから、硬化性組成物は、その硬化の制御についての更なる開発が切望されている。
【0008】
そこで、本発明者らは、所定の化合物を配合することによって、本発明を完成させたものである。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の硬化性組成物は、その硬化を更に制御することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示す硬化性組成物が提供される。
【0011】
[1] 重合性ビニル化合物及び当該重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物の少なくとも一方を含む重合性ビニル系化合物と、
下記一般式(1)で示されるN-オキシル化合物と、
を含有する、硬化性組成物。
【0012】
【化1】
(但し、一般式(1)中、nは1~4の整数を表し、Aは-O-又は-NH-を表し、Rは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、脂肪族多価アシル基、芳香族アシル基又は芳香族多価アシル基を表す。)
【0013】
[2] 前記一般式(1)中、nは1または2の整数を表し、Aは-O-である、前記[1]に記載の硬化性組成物。
【0014】
[3] リソグラフィー材料であるか、或いは、コーティング剤を含む塗料である、前記[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
【0015】
[4] 型材または被充填部に流し込んで使用されるものであるか、或いは、半硬化したシート状の材料を硬化させて用いるものである、前記[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬化性組成物は、その硬化の制御性が向上されているという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0018】
(1)硬化性組成物:
本発明の硬化性組成物は、重合性ビニル化合物及び当該重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物の少なくとも一方を含む重合性ビニル系化合物と、下記一般式(1)で示されるN-オキシル化合物と、を含有するものである。
【0019】
【化2】
(但し、一般式(1)中、nは1~4の整数を表し、Aは-O-又は-NH-を表し、Rは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、脂肪族多価アシル基、芳香族アシル基又は芳香族多価アシル基を表す。)
【0020】
このような硬化性組成物は、その硬化の制御性が向上されているものである。具体的には、保存安定性を有し、硬化感度が調整され、解像度が向上され、また、造形性が向上されるなどの硬化に関する性能が向上されている。つまり、重合性ビニル系化合物の存在下において、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物を共存させることによって、硬化性組成物の各用途において各種の効果が発揮される。なお、本発明の硬化性組成物は、減圧下などのように酸素濃度が低い環境においても、その硬化の制御性を有するものである。
【0021】
ここで、硬化性組成物の保存安定性を向上させるという観点からすると、重合禁止能は高い方が良いが、重合禁止能が高すぎると、硬化体を形成するために光や熱のエネルギーが与えられた際にも十分な硬化が行われ難い可能性がある。一方で、光や熱のエネルギーを与えた場合に直ちに、また、弱いエネルギーでも重合性ビニル系化合物が重合を開始することも望まれる要素である。
【0022】
一般式(1)で示されるN-オキシル化合物は、重合性ビニル系化合物と共存することで、重合性ビニル系化合物の重合反応を良好に制限するが(即ち、重合禁止能を発揮するが)、この制限を解除(制限を無効化)して重合反応を開始させるタイミングをより適切に制御することができる。
【0023】
より具体的には、本発明の硬化性組成物は、重合性ビニル系化合物が意図せずに硬化することが防止され、その保存時における物性の変化の程度を小さい(例えば、重合性ビニル系化合物の重合によって形成される重合体が少なく、粘度などの変化が小さい)ものである。即ち、保存安定性が高いものである。
【0024】
更に、本発明の硬化性組成物は、硬化感度が良好に調整される。つまり、例えば、光硬化性組成物の場合、光照射装置などによって照射された光に高感度で反応して硬化することができる。別言すれば、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物を用いると、硬化速度に対する影響を抑えつつ(即ち、硬化速度が遅くなるということを回避しつつ)、意図しない硬化を防ぐこと(即ち、硬化体を形成する所望のタイミング以外での硬化を防止すること)ができる。
【0025】
更に、本発明の硬化性組成物は、その硬化させたくない部分については、硬化をより効果的に抑えられ、一方で、硬化させたい部分への重合禁止剤の影響が最小限となる(即ち、硬化させたい部分においては十分に硬化する)。そのため、リソグラフィー材料として使用した際の解像度を向上させることができる。また、解像度の向上を目的として、硬化時の酸素阻害を避けて、減圧下や不活性ガスの雰囲気下などのように酸素濃度を低下させた条件下で硬化を行うことがある。その際でも十分な重合禁止効果を発揮し、硬化させたくない部分について硬化を抑えられ、リソグラフィー材料として使用した際の解像度を向上させることができる。更に、本発明の硬化性組成物は、コーティング剤を含む塗料として使用することもできる。この塗料は、保存中にゲル化してしまうという課題があるが、この「コーティング剤を含む塗料」に本発明の硬化性組成物を使用すると上記課題を良好に解決することができる。
【0026】
更に、硬化性組成物を所望の形状の型材または被充填部に流し込んで使用する場合、硬化性組成物をこの型材または被充填部に流し込む工程において、型材または被充填部の細部などに硬化性組成物が流れ込む前に、硬化性組成物が硬化したり粘度が上昇することは、当該型材または被充填部への充填不足となり、所望の形状の硬化体を得難い傾向にある。一方、本発明の硬化性組成物は、型材または被充填部に流し込まれる際に、酸素濃度が低くなる型材などの内部でも、硬化したり粘度が上昇し難く、型材または被充填部の細部などにまで十分に充填されるので、充填不足を防止することができる。そのため、所望の形状の硬化体を良好に作製することができる。更に、本発明の硬化性組成物は、半硬化したシート状の材料を硬化させて用いる場合に使用することができる。より具体的には、ガラス繊維や炭素繊維に硬化性樹脂を含侵させたプリプレグなどの場合、本発明の硬化性組成物を用いることで、硬化を良好に制御できるので、設計通りの成型が可能になる。
【0027】
また、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物は、重合性ビニル系化合物に対する重合禁止性能が高いことから、その添加量を少なくすることができ、硬化への影響が最小限となり、硬化体の生産効率の低下を防止することができる。
【0028】
(1-1)重合性ビニル系化合物:
重合性ビニル系化合物は、重合性ビニル化合物及び当該重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物の少なくとも一方を含むものである。
【0029】
重合性ビニル化合物は、特に制限はなく従来公知のものを挙げることができ、例えば、(メタ)アクリルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、芳香族ビニル化合物などを挙げることができる。
【0030】
(メタ)アクリルエステル化合物または(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸-2-メトキシエチル、アクリル酸-3-メトキシブチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2-アミノエチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ビシクロヘキシル等、アクリル酸誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸-2-メトキシエチル、メタクリル酸-3-メトキシブチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-アミノエチル、メタクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ビシクロヘキシル等メタクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0031】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン、クロロプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、α-ファルネセン、β―ファルネセン、ミルセン及びクロロプレン等を挙げることができる。
【0032】
ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等を挙げることができる。
【0033】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、スチレンスルホン酸、及びジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0034】
重合性ビニル化合物としては、上記化合物以外にその他の化合物を例示することができる。具体的には、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン類、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等を挙げることができる。
【0035】
更に、「重合性ビニル化合物を置換基に有する化合物」は、特に制限はなく従来公知のものを挙げることができ、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、末端を重合性ビニル化合物で修飾された重合体などを挙げることができる。
【0036】
(1-2)N-オキシル化合物:
本発明の硬化性組成物におけるN-オキシル化合物は、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0037】
【化3】
(但し、一般式(1)中、nは1~4の整数を表し、Aは-O-又は-NH-を表し、Rは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、脂肪族多価アシル基、芳香族アシル基又は芳香族多価アシル基を表す。)
【0038】
このN-オキシル化合物には、従来、重合禁止剤として知られているものが該当し、このN-オキシル化合物が重合性ビニル系化合物とともに配合されることによって、得られる硬化性組成物における硬化の制御性を向上させることができる。具体的には、硬化性組成物に保存安定性を発揮させ、硬化性組成物の硬化感度を調整することができ、解像度を向上させ、更には、硬化物の造形性が向上される。更に、この一般式(1)で示されるN-オキシル化合物は、酸素濃度の低い環境でも重合禁止性能を発揮する。近年、硬化性組成物は、酸素による硬化阻害を防ぐため、減圧下などの酸素濃度の低い環境で使用される場合があるが、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物を使用することで、このような低酸素環境下においても硬化の制御が良好となる。
【0039】
一般式(1)におけるnは、1~4の整数であり、1または2であることが好ましい。
【0040】
一般式(1)におけるAは、-O-又は-NH-であり、-O-であることが好ましい。
【0041】
一般式(1)におけるRは、水素原子、炭素数20以下の脂肪族アシル基、炭素数20以下の脂肪族多価アシル基、炭素数20以下の芳香族アシル基、又は、炭素数20以下の芳香族多価アシル基である。これらの中でも、水素原子、炭素数1~20の脂肪族多価アシル基、炭素数1~20の芳香族アシル基であることが好ましい。
【0042】
このような一般式(1)で示されるN-オキシル化合物としては、具体的には、以下に示す(a)4-ベンゾイルオキシTEMPO(4-ベンゾイルオキシTetramethyl-1-piperidinyloxy)、(b)セバシン酸BisTEMPO(セバシン酸Bis-Tetramethyl-1-piperidinyloxy)、(c)4H-TEMPO(4H-Tetramethyl-1-piperidinyloxy)などを挙げることができる。
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
(1-3)重合開始剤:
本発明の硬化性組成物は、熱重合開始剤または光重合開始剤などの従来公知の重合開始剤を更に含んでいても良い。
【0047】
(1-4)その他の重合禁止剤:
本発明の硬化性組成物は、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物以外の従来公知の重合禁止剤を更に含有してもよい。このような従来公知の重合禁止剤としては、ハイドロキノン、p-メトキシフェノールなどを挙げることができる。
【0048】
(1-5)その他の成分:
本発明の硬化性組成物は、上記重合性ビニル系化合物、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物、重合開始剤、及び、その他の重合禁止剤以外に、本発明の作用・効果を損なわない限りにおいて、その他の化合物を更に含有していてもよい。
【0049】
その他の化合物としては、硬化性組成物の用途によって適宜選択して採用することができるが、例えば、カーボンブラック、白色充填剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、加工助剤などを挙げることができる。
【0050】
(2)本発明の硬化性組成物の用途:
本発明の硬化性組成物は、その用途について特に制限はなく適宜使用することができるが、例えば、UV印刷やインクジェット印刷を含む印刷インキ、トップコートを含む塗料、接着剤、電子材料製造用材料、歯科材料等の用途を挙げることができる。
【0051】
電子材料(より具体的には、電子材料製造用材料)としては、具体的には、半導体製造やプリント基板製造に用いられるフォトレジスト用の樹脂、フォトリソグラフィーで製造されるカラーフィルター製造用材料などのフォトリソグラフィー用樹脂などを挙げることができる。
【0052】
更に、印刷インキとしては、インクジェット印刷で形成されるカラーフィルター製造やインクジェット印刷で形成されるプリント基板製造などに用いられるインクジェットインキ、封止材などの絶縁材料、プリント基板材料、重合性液晶材料などを挙げることができる。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1~3、比較例1~3)
市販のメタクリル酸エトキシエチルを10%NaOH水溶液で3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。無水硫酸マグネシウムを加え良く混ぜ濾過し、市販のメタクリル酸エトキシエチルに重合禁止剤として添加されているp-メトキシフェノールを除去したメタクリル酸エトキシエチル調整液を得た。
【0055】
次に、得られたメタクリル酸エトキシエチル調整液に、それぞれ、表1に示す各重合禁止剤を加えて、重合禁止剤200ppm試験溶液を調製した。これを、TG-DTA装置測定用試料容器に入れ、窒素気流下で密栓した。その後、TG-DTA装置を用いて所定温度での発熱ピークの立ち上がりまでの時間を測定した。この発熱ピークの立ち上がりまでの時間を誘導時間とした。誘導時間の結果を表1に示す。誘導時間が長いほど、重合禁止性剤の効果が高い(重合禁止性能に優れる)ことを示す。
【0056】
TG-DTA装置を用いた測定条件は、具体的には以下の通りとした。
<測定条件>
装置:リガク TG 8120
温度:135℃
仕込み量:約10mg
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~3、比較例1~3では、酸素濃度が低い雰囲気下による試験を行っており、実施例1~3の化合物(一般式(1)で示されるN-オキシル化合物)は、低酸素環境下においても硬化の制御が良好であることが分かる。
【0059】
(実施例4~6、比較例4~7)
市販のスチレンを10%NaOH水溶液で3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。無水硫酸マグネシウムを加え良く混ぜ濾過し、市販のスチレンに重合禁止剤として添加されているt-ブチルカテコールを除去したスチレン調整液を得た。
【0060】
次に、得られたスチレン調整液に、それぞれ、表2に示す各重合禁止剤を添加し、重合禁止剤100ppm試験溶液を調製し、これを丸底フラスコに加えた。その後、丸底フラスコ内を窒素置換し、120℃に保ったオイルバス中で1時間加熱した。冷却後、試験溶液をメタノールに加え、析出した重合物をろ取し、この重量を測定した。この重量のうち、丸底フラスコに添加した試験溶液に対する割合をポリマー生成率とした。ポリマー生成率の結果について、表2に示す。ポリマー生成率(%)が小さいほど、重合禁止性剤の効果が高い(重合禁止性能に優れる)ことを示す。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例7~9、比較例8~10)
市販の2-エチルヘキサン酸ビニルを10%NaOH水溶液で3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。無水硫酸マグネシウムを加え良く混ぜ濾過し、市販の2-エチルヘキサン酸ビニルに添加されている重合禁止剤を除去した2-エチルヘキサン酸ビニル調整液を得た。
【0063】
次に、得られた2-エチルヘキサン酸ビニル調整液に、それぞれ、表3に示す各重合禁止剤を添加し、各重合禁止剤10ppm試験溶液を調製した。その後、TG-DTA装置測定用試料容器に入れ、大気下で密栓した。その後、TG-DTA装置を用いて所定温度での発熱ピークの立ち上がりまでの時間を測定し、発熱ピークの立ち上がりまでの時間を誘導時間とした。この誘導時間の結果を表3に示す。誘導時間が長いほど、重合禁止性剤の効果が高い(重合禁止性能に優れる)ことを示す。
【0064】
TG-DTA装置を用いた測定条件は、具体的には以下の通りとした。
<測定条件>
装置:リガク TG 8120
温度:160℃
仕込み量:約10mg
【0065】
【表3】
【0066】
(実施例10~12、比較例11~13)
市販のミルセンを10%NaOH水溶液で3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。無水硫酸マグネシウムを加え良く混ぜ濾過し、市販のミルセンに添加されている重合禁止剤を除去したミルセン調整液を得た。
【0067】
得られたミルセン調整液に、それぞれ、表4に示す各重合禁止剤を添加し、各重合禁止剤100ppm試験溶液を調製し、サンプル瓶に入れた後、大気下で密栓した。そして、これを70℃に保ったオイルバス中で12日間加熱した。冷却後、試験溶液の粘度をB型材粘度計で測定した。表4に粘度の結果を示す。粘度の値が小さいほど、重合禁止性能が高いことを示す。
【0068】
B型材粘度計を用いた測定条件は、具体的には以下の通りとした。
<測定条件>
ローター:No.4
回転数:12rpm
測定温度:19~22℃
【0069】
【表4】
【0070】
ここで、硬化性組成物が硬化して硬化体を形成するのは、硬化性組成物の含有成分である重合性ビニル系化合物が重合反応を行うことによるものであるが、この重合性ビニル系化合物の重合反応に対して重合禁止性能が高い化合物を配合することにより、硬化性組成物の硬化における制御性を向上させることができる。上記表1~表4の結果からすると、一般式(1)で示されるN-オキシル化合物は、各重合性ビニル系化合物の重合反応を良好に制限し(重合を禁止し)、各重合性ビニル系化合物に対する重合禁止性能が高いことが分かる。このようなことから、本発明の硬化性組成物は、その硬化における制御性が向上されているものであり、例えば、保存安定性を有し、硬化感度が調整され、解像度が向上され、また、造形性が向上されたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の硬化性組成物は、UV印刷やインクジェット印刷を含む印刷インキ、トップコートを含む塗料、接着剤、電子材料製造用材料、歯科材料などとして利用することができる。