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特開2024-42080急性虚血性脳卒中を治療するための方法及びシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042080
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】急性虚血性脳卒中を治療するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A61B17/22
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024015635
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2022098800の分割
【原出願日】2012-08-03
(31)【優先権主張番号】61/515,736
(32)【優先日】2011-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/579,581
(32)【優先日】2011-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/543,019
(32)【優先日】2011-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/547,597
(32)【優先日】2011-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516237385
【氏名又は名称】ルート92メディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Route 92 Medical, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】ミチ・イー・ギャリソン
(72)【発明者】
【氏名】トニー・エム・チョウ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エム・ハイド
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ケイ・シャー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脳動脈血管に経頚部アクセスするための方法及びシステム、並びに虚血性脳卒中を含む脳閉塞の治療のための方法及びシステムを提供する。
【解決手段】方法とデバイスは、閉塞を除去するための遠位カテーテル及びデバイスのみならず、吸引及び受動的な血流逆転を提供しうる方法とデバイスを含んでいてもよく、それらは脳の損傷を最小限にするために、手技中に脳のペナンブラを保護する。さらに、受動的な血流逆転を提供する方法及びデバイスは、ユーザーにある程度の血流制御を提供し得る。経頚部の血腫という潜在的に深刻な結果を回避するために、頚動脈中のアクセスサイトを確実に閉鎖する方法を提供するデバイス及び方法を開示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部アクセスシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置しており、内腔を有する前記経頚部アクセスシースと、
前記経頚部アクセスシースを介して遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように、前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテルであって、内径で規定された内腔を有する前記遠位カテーテルと、
前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた細長い内側部材であって、内腔を有する内側部材と、
前記内側部材の内腔を介して前記脳動脈に挿入できるように構成されたガイドワイヤと、を含み、
前記内側部材は、前記遠位カテーテルの内径と前記ガイドワイヤの外径との間の滑らかな移行部を形成するように構成された外径を有することを特徴とする、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステム。
【請求項2】
前記内側部材の遠位テーパー領域は、前記ガイドワイヤの前記外径に向かって寸法が先細りになった外径を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記内側部材は、前記ガイドワイヤの前記外径に向かって先細りになった外径を有する第1のテーパー領域と、実質的に一定の外径を有する第2の最遠位領域と、を含み、
前記ガイドワイヤが前記最遠位領域から突出することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
さらに、前記動脈アクセスシースに接続された血流ラインを含み、
前記血流ラインは、前記動脈アクセスシースからリターンサイトに血液を流すための経路を提供することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
さらに、シャントに接続されて前記シャントを介して血流を調節するのに適した血流コントローラを含むことを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
さらに、前記遠位カテーテルの遠位端に放射線不透過マーカーを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイスのシステム。
【請求項7】
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部アクセスシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置し、内腔を有する経頚部アクセスシースと、
前記経頚部アクセスシースを介して遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように、前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテルであって、前記遠位カテーテルは、第1の内腔と、より小さい第2の内腔とを有し、前記第2の内腔の最遠位部分は、前記第1の内腔によって形成された遠位開口を超えて遠位側に突出した伸張部の内側に位置付けられていることを特徴とする、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステム。
【請求項8】
前記伸張部は、主腔のまわりの前記遠位カテーテルの外径と比べて縮径された外径を有するシャフトを形成することを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
さらに、前記動脈アクセスシースに接続された血流ラインを含み、
前記血流ラインは、前記動脈アクセスシースからリターンサイトに血液を流すための経路を提供することを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
さらに、シャントに接続されて前記シャントを介して血流を調節するのに適した血流コントローラを含むことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記遠位カテーテルの遠位端は、前記遠位カテーテルの長手軸に対して角度を成して配置された遠位向きの表面を有することを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項12】
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部イントロデューサシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置し、内腔を有する経頚部イントロデューサシースと、
前記イントロデューサシースに接続された血流ラインであって、前記イントロデューサシースからリターンサイトに血液を流すための経路を提供する血流ラインと、
前記イントロデューサシースの近位領域にあり、失血を防止しながら前記イントロデューサシースの前記内腔へのアクセスを提供する止血弁と、
ガイドカテーテルの内部を介して脳動脈へのアクセスを提供することができるように、前記止血弁を通って前記イントロデューサシースの前記内腔に挿入できる寸法及び形状にされたガイドカテーテルと、を含むことを特徴とする、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステム。
【請求項13】
さらに、前記ガイドカテーテルに接続された血流ラインを含み、
前記血流ラインは、前記ガイドカテーテルからリターンサイトに血液を流すための経路を提供することを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
さらに、前記イントロデューサシースに結合された閉塞デバイスを含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
さらに、前記ガイドカテーテルに結合された閉塞デバイスを含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
さらに、遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように前記ガイドカテーテルの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテルを含むことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
総頚動脈に開口を形成する工程と、
前記開口を通して前記総頚動脈内に経頚部アクセスシースに挿入して、前記シースの遠位端を前記総頚動脈又は内頚動脈内に展開する工程であって、前記アクセスシースは内腔を有している、展開する工程と、
前記アクセスシースの前記内腔に、第1の遠位カテーテルを挿入する工程と、
前記脳動脈の前記第1の遠位カテーテルの遠位端を、前記閉塞に隣接して位置決めする工程と、
前記第1の遠位カテーテルの前記遠位端で前記閉塞を捕獲するために、前記第1の遠位カテーテルを通して吸引する工程と、
前記閉塞を前記アクセスシース内に引き込むために、前記第1の遠位カテーテルの前記遠位端を前記アクセスシース中に引き込む工程と、を含むことを特徴とする、脳動脈の閉塞を治療する方法。
【請求項18】
前記アクセスシースは、拡張可能な閉塞要素を含み、
前記総頚動脈又は内頚動脈を閉塞するために、前記閉塞要素を拡張する工程をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アクセスシースは、前記総頚動脈へのアクセスを提供するために、別個のイントロデューサシースを用いずに前記開口を通して挿入されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
さらに、イントロデューサシースが前記総頚動脈へのアクセスを提供するように、前記開口を通して前記イントロデューサシースを挿入する工程と、
次いで、前記イントロデューサシースを通して前記総頚動脈内に前記アクセスシースを挿入する工程と、を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の遠位カテーテルの遠位チップは、前記遠位チップとガイドワイヤとの間の滑らかな移行部を形成するように構成された先細りの拡張器を含み、当該拡張器の上に前記第1の遠位カテーテルが位置決めされ得ることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記先細りの拡張器は、テーパー部と、前記テーパー部の遠位側の伸張部とを含み、
前記伸張部は、その全長に沿って実質的に一定の外径を有していることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
さらに、前記アクセスシースを介して血栓回収デバイスを閉塞へ展開し、前記血栓回収デバイスを使用して少なくとも部分的に前記閉塞を除去する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記伸張部が前記閉塞を横切って位置決めされており、
前記先細りの拡張器の管腔を通して血栓回収デバイスを閉塞の遠位側に展開し、前記血栓回収デバイスを使用して前記閉塞を少なくとも部分的に除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記血栓回収デバイスが前記閉塞を除去するために使用されたときに、吸引が遠位カテーテルに適用されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項26】
さらに、前記アクセスシースを介して第2の遠位カテーテルを前記閉塞へ展開する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の遠位カテーテルの前記内腔を通して前記第2の遠位カテーテルを展開することを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記第2の遠位カテーテルを展開する前に、前記第1の遠位カテーテルを前記アクセスシースから取り除くことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項29】
さらに、前記総頚動脈の壁部への開口の形成を補助するために超音波画像診断を使用する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項30】
さらに、前記総頚動脈の前記壁部の前記開口を閉鎖するための血管クローザーデバイスを使用する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項31】
さらに、前記開口の閉鎖での止血を確実にするのを補助するために超音波画像診断を使用する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項32】
さらに、前記アクセスシースを通して吸引する工程を含むことを特徴とする方法。
請求項17に記載の方法。
【請求項33】
前記アクセスシースは、さらに、前記アクセスシースの前記遠位端と近位端との間の位置で前記アクセスシースに取り付けられた血流ラインを含み、
さらに、流体がアクセスシースから血流ラインを通ってリターンサイトに流れることができるように、前記血流ラインをリターンサイトに接続する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項34】
前記リターンサイトはレセプタクルであることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
リターンサイトは静脈リターンサイトであることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は以下の同時係属中の米国の仮特許出願の優先権を主張する。(1) 2011年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/515,736号、(2) 2011年10月4日に出願された米国仮特許出願第61/543,019号、(3) 2011年10月14日に出願された米国仮特許出願第61/547,597号、(4) 2011年12月22日に出願された米国仮特許出願第61/579,581号。米国仮特許出願の開示は、それらの全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
本願の開示は、概して、急性虚血性脳卒中を治療するための医療方法及び医療デバイスに関する。特に、本願の開示は、脳動脈血管に経頚部アクセスするため及び脳閉塞を治療するための方法及びシステムに関する。
【0003】
急性虚血性脳卒中は、脳の部分への適切な血流の突然の遮断状態であり、通常は、脳に血液を供給する血管の1つに詰まった又は形成された血栓又はその他の塞栓によって引き起こされる。この遮断状態がすぐに解消されなければ、虚血は、永久的な神経障害又は死をもたらすだろう。脳卒中の効果的な治療の時間枠は、3時間以内では、静脈内(IV)投与での血栓溶解療法を行い、6時間以内では、部分特異的な(site-directed)動脈内投与での血栓溶解療法又は閉塞された脳動脈の介入再開通(interventional recanalization)を行う。この期間を過ぎた後に虚血脳に再灌流することは、患者にとって総合的に何の利点もなく、実際に、線維素溶解剤の使用による頭蓋内出血のリスク増加によって害を引き起こすだろう。この期間内であっても、症状の発現から治療までの時間が短いほど、良好な結果が得られる、という強力なエビデンスがある。残念なことに、この時間枠内に、症状を認識し、患者を脳卒中の治療場所まで届け、そして最終的にこれらの患者を治療できることはまれである。治療が進歩したにもかかわらず、脳卒中は、未だに米国の死因の第3位である。
【0004】
急性脳卒中の血管内治療は、血栓溶解薬(例えば、遺伝子組み換え組織プラスミノゲンアクチベータ(rtPA)など)の動脈内投与、又は閉塞の機械的除去、のいずれから成り、しばしばその2つの組合せから成る。上述のように、これらの介入治療は、症状の発現の数時間以内に起こらなければならない。動脈内(IA)血栓溶解療法と介入的血栓切除の両方とも、閉塞された脳動脈にアクセスすることを含んでいる。動脈内(IA)血栓溶解療法は、静脈内(IV)血栓溶解療法と同様に、凝血塊を効率よく溶解させるには注入に数時間かかるであろう、という制限を有している。
【0005】
機械的な治療は、凝血塊を捕捉して除去すること、凝血塊を溶解すること、凝血塊を粉砕して吸引すること、及び/又は凝血塊を通過する流路を形成することを含んでいる。脳卒中治療のために開発された最初の機械装置のうちの1つは、MERCIリトリーバーシステム(Retriever System)(Concentric Medical社、カリフォルニア州レッドウッドシティー)である。バルーンが先端に付けられたガイドカテーテル(balloon-tipped guide catheter)は、大腿動脈から内頚動脈(ICA)にアクセスするために使用される。マイクロカテーテルは、ガイドカテーテルを通って設置され、コイルが先端に付けられたリトリーバー(coil-tipped retriever)を凝血塊を横切って送達するために使用され、そして、凝血塊の周囲にリトリーバーを展開するために引き戻される。その後、バルーンを膨張し、且つシリンジをバルーンガイドカテーテルに接続して凝血塊の回収中にガイドカテーテルを吸引した状態で、マイクロカテーテルとリトリーバーは、凝血塊を引っぱる目的で、バルーンガイドカテーテル内に引き戻される。このデバイスは、血栓溶解療法単独の場合と比較すると、病初(initially)に良好な結果が得られる。
【0006】
他の血栓回収デバイスは、拡張可能なケージ(cases)、バスケット又はスネア(snares)を利用して、凝血塊を捕捉し回収する。凝血塊を破砕するためにレーザー又は超音波のアクティブエネルギー(active laser or ultrasound energy)を用いた一連のデバイスも利用されている。他のアクティブエネルギーデバイスは、血栓の溶解を促進するために、血栓溶解剤の動脈内投与(動脈内注入)と共に用いられてきた。これらのデバイスの多くは、凝血塊の除去を助け及び塞栓のリスクを低減するために、吸引と共に用いられてきた。凝血塊の明らかな吸引(frank suctioning)もまた、凝血塊の付加的な粉砕(adjunct disruption)と伴って又は伴わずに、単一管腔のカテーテルとシリンジ又は吸引ポンプとにより利用された。血栓回収法の効率を高めるために、駆動された液体渦(powered fluid vortices)を吸引と共に適用するデバイスが利用されてきた。最後に、凝血塊の除去又は溶解が不可能な場合には、凝血塊を通って患者の管腔(血管)を形成するために、バルーン、ステント及び一時的ステント(temporary stents)が用いられてきた。ステントリーバー(stentrievers)又は血行再建デバイス(revascularization devices)と時々呼ばれる一時的ステントは、血管に血流を回復するだけでなく、凝血塊の除去又は回収のために利用することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
<現在の技術の典型的な問題>
脳血管系への介入(インターベンション)では、特殊なアクセスチャレンジ(アクセスの試み:access challenge)がしばしば成される。最も多くの脳血管インターベンション手技(neurointerventional procedures)は、大腿部から頚動脈又は椎骨動脈へ、そこから目的の脳動脈への経大腿部アクセスを用いる。しかしながら、このアクセス経路はしばしばねじ曲がっており、そして大動脈弓並びに頚動脈血管及び腕頭血管の起点に狭窄プラーク物質を含んでいる可能性があり、手技のアクセス部分(access portion)の間に塞栓合併症のリスクを示している。さらに、脳血管は、通常は、冠血管系又は他の末梢血管系よりもずっと繊細で、穿孔しがちである。近年、介入デバイス(例えばワイヤ、ガイドカテーテル、ステント及びバルーンカテーテルなど)は、神経血管の構造内でより良く機能するように、すっかり小型にされ、より柔軟にされている。しかしながら、デバイスでのアクセスチャレンジであるため、多くの脳血管インターベンション手技は比較的困難か、又は不可能である。「時は脳なり」である急性虚血性脳卒中の場合に、これらの余計な困難性は、重大な臨床的影響を与えるだろう。
【0008】
脳血管インターベンションの別のチャレンジは、脳塞栓のリスクである。脳動脈中の凝血塊閉塞を除去又は溶解する努力の間に、下流に飛遊して脳灌流を危うくする可能性のある塞栓粒子を生じ、神経学的イベント(neurologic events)を引き起こしうる血栓の破砕(fragmentation)という重大なリスクがある。頚動脈ステント留置術CASの手技では、塞栓物質が脳血管系に入るリスクを減らすために、塞栓保護デバイス(emboli protection device)及び塞栓保護システムが一般に用いられている。デバイスのタイプは、血管内フィルター、逆流システム又は静止流(static flow)システムを含む。残念なことに、迅速な介入の必要性のせいだけでなく、繊細な構造(delicate anatomy)とアクセスチャレンジとのせいで、これらの塞栓保護システムは、急性虚血性脳卒中の介入治療では用いられない。現在の機械的凝血塊回収手技(mechanical clot retrieval procedures)のいくつかは、塞栓のリスクを減らし、凝血塊の除去を容易にする手段として、吸引を用いている。例えば、MERCIリトリーバーシステムでは、ガイドカテーテルに大きなシリンジを取り付け、そして、凝血塊をガイド内に引き戻している間に、近位動脈を閉塞してガイドカテーテルを吸引することを推奨している。しかしながら、この工程は、第2オペレーターを必要とし、シリンジを空にして再び取り付ける必要がある場合には吸引の中断を必要とする可能性があり、そして吸引の速度及びタイミングを制御できない。この制御は、逆流に対する患者の耐性に疑問がある場合に重要であろう。さらに、マイクロカテーテルによって凝血塊を最初に横切り、そしてリトリーバーデバイスを展開する間、塞栓のデブリスに対する保護が存在しない。別の構成要素が凝血塊を機械的に破砕するために利用される一方で、ペナンブラシステム(Penumbra System)などの吸引システムは、凝血塊と向かい合って吸引するカテーテルを利用する。このシステムは、現在のカテーテル設計により可能な吸引レベル()によって、そして時として大きいカテーテルを凝血塊の位置まで運ぶ能力によって制限されている。
【0009】
現在の急性脳卒中のインターベンション(介入:interventions)の重大な欠点は、脳への血液の灌流を回復するのに必要な時間であり、それは、閉塞した脳動脈にアクセスするのに必要な時間と、閉塞を通る血流を回復するのに必要な時間に分けることができる。血栓溶解療法、機械的血栓回収又は他の手段による血流の回復には、しばしば数時間かかり、その間、脳組織は十分な酸素を奪われる。この期間に、脳組織が永久的な損傷を受けるリスクがある。手技の時間を短縮し及び/又は手技の間に脳組織に酸素を提供する手段が、このリスクを低減するだろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<要約>
急性虚血性脳卒中を治療するための、安全で、迅速で、比較的短く且つ直線的な、脳動脈への経頚部アクセスを可能にする方法及びデバイスを開示する。方法及びデバイスは、閉塞を除去するための遠位カテーテル及びデバイスを含む。方法及びデバイスはまた、遠位の塞栓を最小化するだけでなく、閉塞の除去を容易にする目的で、吸引及び受動的な血流逆転(passive flow reversal)を提供するために含まれている。システムは、脳血管系の具体的な血行力学の要求に対処するために、ユーザーにある程度の血流制御を提供する。開示された方法及びデバイスは、脳の損傷を最小限にするために、手技中に脳のペナンブラ(penumbra)を保護する方法及びデバイスも含んでいる。さらに、開示された方法及びデバイスは、経頚部血腫による壊滅的な被害の可能性(potentially devastating consequences)を回避するために、脳動脈へのアクセスサイトをしっかりと閉鎖する手段を提供する。
【0011】
ある態様では、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステムであって、
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部アクセスシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置し、内腔を有する経頚部アクセスシースと、
遠位カテーテルが前記経頚部アクセスシースを介して遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように、前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテルであって、内径で規定された内腔を有する前記遠位カテーテルと、
前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた細長い内側部材であって、内腔を有する内側部材と、
前記内側部材の内腔を介して前記脳動脈に挿入できるように構成されたガイドワイヤと、を含み、
前記内側部材は、前記遠位カテーテルの内径と前記ガイドワイヤの外径との間の滑らかな移行部(a smooth transition)を形成するように構成された外径を有することを特徴とするシステムを開示している。
【0012】
別の態様では、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステムであって、
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部アクセスシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置し、内腔を有する経頚部アクセスシースと、
前記経頚部アクセスシースを介して前記遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように、前記経頚部アクセスシースの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテルであって、前記遠位カテーテルは、第1の内腔と、より小さい第2の内腔とを有し、前記第2の内腔の最遠位部分(distal-most portion)は、前記第1の内腔によって形成された遠位開口を超えて遠位側に突出した伸張部の内側に位置付けられていることを特徴とするシステムを開示している。
【0013】
別の態様では、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステムであって、
総頚動脈内に当該動脈の開口を介して直接導入するのに適した経頚部イントロデューサシースであって、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置し、内腔を有する経頚部イントロデューサシースと、
前記イントロデューサシースに接続された血流ラインであって、前記イントロデューサシースからリターンサイトに血液を流すための経路を提供する血流ラインと、
前記イントロデューサシースの近位領域にあり、失血を防止しながら、前記イントロデューサシースの前記内腔へのアクセスを提供する止血弁と、
ガイドカテーテルの内部を介して脳動脈へのアクセスを提供することができるように、前記止血弁を通って前記イントロデューサシースの前記内腔に挿入できる寸法及び形状にされたガイドカテーテルと、を含むことを特徴とするシステムを開示している。
【0014】
別の態様では、脳動脈の閉塞を治療する方法であって、
総頚動脈に切開部を形成する工程と、
前記切開部を通して前記総頚動脈内に経頚部アクセスシースに挿入して、前記シースの遠位端を前記総頚動脈又は内頚動脈内に展開する工程であって、前記アクセスシースは内腔を有している、展開する工程と、
前記アクセスシースの前記内腔に、第1の遠位カテーテルを挿入する工程と、
前記脳動脈の前記第1の遠位カテーテルの遠位端を、前記閉塞に隣接して位置決めする工程と、
前記第1の遠位カテーテルの前記遠位端で前記閉塞を捕獲するために、前記第1の遠位カテーテルを通して吸引する工程と、
前記閉塞を前記アクセスシース内に引き込むために、前記第1の遠位カテーテルの前記遠位端を前記アクセスシース中に引き込む工程と、を含むことを特徴とする方法を開示している。
【0015】
他の特徴及び利点は、様々な実施態様の以下の記述から明らかにされ、それらは例示の目的で、本発明の原理を説明している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、経頚部アクセス用及び急性虚血性脳卒中治療用のデバイスのシステムの典型的な実施形態を示しており、頚動脈に直接挿入される先端にバルーンが付けられた動脈アクセスデバイスと、遠位カテーテルと、血栓回収デバイスとを図示している。
図2図2は、代替の実施形態を示しており、動脈アクセスデバイスは、別個のイントロデューサシースを通して頚動脈に挿入される。
図3図3は、イントロデューサシースが、閉塞バルーンと、血流ラインへの接続とを有している実施形態を示す。
図4図4は、2つの閉塞バルーンとその2つのバルーン間にある開口とを有している動脈アクセスデバイスの代替の実施形態及びを示す。
図5図5は、2つのテレスコープ部(telescoping sections)を含む動脈アクセスデバイスの代替の実施形態を示す。
図6図6は、バルーンが先端に付けられたアンカーデバイスの実施形態を示している。
図7図7は、機械的に拡張可能な(mechanically expandable)先端に付けられたアンカーガイドワイヤの実施形態を示す。
図8図8は、先細りにされた同軸の内側部材を備えた遠位カテーテルの実施形態を示している。
図9図9は、先細りにされた同軸の内側部材を備えた遠位カテーテルの別の実施形態を示す。
図10図10は、一体化した(combined)動脈アクセスデバイスと遠位カテーテルとの実施形態を示す。
図11図11は、ガイドワイヤのアクセスを維持するための第2の管腔を有する遠位カテーテルの実施形態を示している。
図12図12は、ガイドワイヤのアクセスを維持するための第2の管腔を有する遠位カテーテルの実施形態を示している。
図13図13は、テレスコープ式に構成された遠位カテーテルと動脈アクセスデバイスとの実施形態を示す。
図14図14は、閉塞デバイスを追加したシステムの代替の実施形態を示す。
図15図15は、動脈アクセスデバイスに取り付けられた吸引源、フィルター及び一方向逆止弁(one-way check valve)を追加したシステムの実施形態を示す。
図16図16は、動脈アクセスデバイスと遠位カテーテルとの両方に取り付けられた吸引源、フィルター及び一方向逆止弁を追加したシステムの実施形態を示す。
図17図17は、動脈アクセスデバイスと遠位カテーテルの両方に取り付けられた、単一の吸引源、フィルター及び一方向逆止弁と、吸引源に2つのデバイスを接続するためのバルブとを追加したシステムの実施形態を示す。
図18図18は、動脈アクセスデバイス及び遠位カテーテルの両方に取り付けられた血流コントローラを追加したシステムの実施形態を示す。
図19図19は、吸引源の実施形態を示す。
図20図20は、吸引源の代替の実施形態を示す。
図21図21は、静脈リターンサイトを含む血流逆流回路(flow reverse circuit)を追加したシステムの実施形態を示す。
図22図22は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図23図23は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図24図24は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図25図25は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図26図26は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図27図27は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図28図28は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図29図29は、血栓回収デバイスの実施形態を示す。
図30図30は、2重管腔マイクロカテーテルの実施形態を示す。
図31図31は、遠位灌流カテーテルの実施形態を示す。
図32図32は、遠位灌流カテーテルの代替の実施形態を示す。
図33図33は、閉塞バルーンを備えた遠位灌流カテーテルの異なる実施形態を示す。
図34図34は、閉塞バルーンを備えた遠位灌流カテーテルの異なる実施形態を示す。
図35図35は、閉塞バルーンを備えた遠位灌流カテーテルの異なる実施形態を示す。
図36図36は、閉塞バルーンを備えた遠位灌流カテーテルの異なる実施形態を示す。
図37図37は、遠位灌流カテーテルの別の実施形態を示す。
図38図38は、バルーンの近位側を灌流するように構成された遠位バルーンカテーテルを追加したシステムの実施形態を示す。
図39A図39Aは、バルーンの遠位側及び/又は近位側を灌流するように構成された遠位バルーンカテーテルの使用方法の手順を示している。
図39B図39Bは、バルーンの遠位側及び/又は近位側を灌流するように構成された遠位バルーンカテーテルの使用方法の手順を示している。
図39C図39Cは、バルーンの遠位側及び/又は近位側を灌流するように構成された遠位バルーンカテーテルの使用方法の手順を示している。
図39D図39Dは、バルーンの遠位側及び/又は近位側を灌流するように構成された遠位バルーンカテーテルの使用方法の手順を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<詳細な説明>
虚血性脳卒中の治療用の介入デバイスを導入するための、安全で、迅速で、比較的短く且つ直線的な頚動脈及び脳血管系への経頚部アクセスを可能にする方法及びデバイスが、本明細書に記載されている。経頚部アクセスは、血管アクセスポイントから目標の治療サイトまで、距離が短く且つねじ曲がっていない経路を提供し、それにより、例えば経大腿部アプローチと比較して、手技にかかる時間及び困難性を緩和する。さらに、このアクセスルートは、疾患があり、角張っており、又はねじ曲がっている大動脈弓又は総頚動脈組織のナビゲーション(航行:navigation)による塞栓発生のリスクを低減する。
【0018】
図1は、経頚部アプローチを介して総頚動脈CCAにアクセスするための、及び脳血管系にデバイスを送達するための、デバイスのシステムを示す。システムは、内腔及びポート2015を有する動脈アクセスデバイス2010(時々、動脈アクセスシースと称する)、例えばシースを含む。動脈アクセスデバイス2010は、経頚部の切開又は穿刺を介して総頚動脈に挿入でき、脳血管系へのアクセスを提供する位置、例えば総頚動脈又は内頚動脈内に展開できる寸法及び形状にされている。ポート2015は、動脈アクセスデバイスの内腔へのアクセスを提供し、動脈アクセスデバイス2010を介して脳血管系への追加のデバイスを導入するように構成されている。
【0019】
ある実施形態では、動脈アクセスデバイス2010による直接的な総頚動脈への経頚部アクセスは、皮膚の切開又は穿刺を介して経皮的に達成される。代替の実施形態では、動脈アクセスデバイス2010は、頚動脈に達する直接的な外科的切開を介して、総頚動脈CCAにアクセスする。別の実施態様では、動脈アクセスデバイスは、例えば後大脳動脈又は脳底動脈などの後方の脳血管系中の閉塞にアクセスするために、椎骨動脈の切開又は椎骨動脈の経皮的穿刺を経由して、脳底動脈BA又は後大脳動脈PCAへのアクセスを提供する。動脈アクセスデバイスは、順行性の血流を遮断するために閉塞バルーンを含んでいてもよい。総頚動脈へのエントリーでは、動脈アクセスデバイスは総頚動脈内の開口に直接に挿入され、その開口は、患者の鎖骨より上側で、患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分岐する分岐位置より下側に位置している。例えば、開口は、患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分岐する分岐位置よりもおよそ5cm~7cmの距離だけ下側に位置してもよい。
【0020】
また、システムは、動脈アクセスデバイス2010の最遠位端(distal-most end)より遠位側の位置への遠位アクセス及びその位置での局所的な吸引を提供するために、1つ以上の遠位カテーテル2030を含んでもよい。単一の遠位カテーテルは、1つ又は複数の閉塞にアクセスして治療するのに適していてもよい。より遠位へのアクセスが望まれるものの第1の遠位カテーテルでは不可能な場合には、より小径の第2の遠位カテーテルを、第1のカテーテルを通して挿入しても、又は第1のカテーテルと交換してもよい。ある実施形態では、遠位カテーテル2030は、ポート2015を介して動脈アクセスデバイス2010の内腔に挿入できるように構成される。遠位カテーテル2030は、閉塞サイトの近傍への設置を容易にするために、ガイドレールとして及びサポート手段として機能する、予め設置されたガイドワイヤ、マイクロカテーテル又は他にデバイスを利用してもよい。遠位カテーテルは、さらに、血管系を通りガイドワイヤ上へ設置するのを容易にするために、拡張素子(dilator element)を利用してもよい。遠位カテーテルが目標のサイトに又はその近傍に位置決めされたら、拡張器は除去されてもよい。その後、遠位カテーテル2030は、閉塞に吸引を適用するために使用されてもよい。また、カテーテル2030又は拡張器は、追加のカテーテル及び/又は介入デバイスを閉塞サイトに送達するために使用されてもよい。
【0021】
方法及びデバイスは、さらに、閉塞の除去を容易にするために、及び/又は遠位の塞栓を最小化するために、受動的な逆流(passive retrograde flow)だけでなく、受動的な吸引のためのデバイスも含んでいる。システムは、脳血管系の具体的な血行力学的要求(hemodynamic requirements)に対処するために、ユーザーにある程度の血流制御を提供する。システムは、血流コントローラ(flow controller)を含むことができ、それにより、ユーザーは、1つ以上のデバイスからの吸引のタイミング及びモードを制御することが可能になる。
【0022】
さらに図1を参照すると、例えばステントリーバー又はコイルリトリーバーなどの、経頚部アクセス用に構成された血栓回収デバイス4100が、動脈アクセスデバイスを通って血栓性閉塞サイトに展開されてもよい。血栓回収デバイス4100は、動脈アクセスデバイス2010を通して挿入され、マイクロカテーテルを介して脳血管内の閉塞を横切って展開される。必要に応じて、遠位カテーテル2030は、閉塞された血管サイトまで血栓回収デバイスをナビゲーションするのを容易にするために、及び/又は血栓回収デバイスによって凝血塊を回収中に閉塞サイトに吸引を提供するために、使用されてもよい。血栓回収デバイスとマイクロカテーテルとが一列になって、(使用する場合は)遠位カテーテル2030内に、そして動脈アクセスデバイス2010内に引き戻されることにより、凝血塊が回収される。
【0023】
開示された方法及びデバイスは、さらに、脳の損傷を最小限にするために、手技中に脳のペナンブラを保護するデバイスも含んでいる。遠位灌流デバイス(distal perfusion device)は、閉塞サイトの向こう側の脳に灌流を供給するために手技中に使用されてもよく、それにより、血液不足による脳の損傷を低減することができる。これらの灌流デバイスは、さらに、血管中の閉塞に加わる順方向の血圧(forward blood pressure)を低減するための手段であり、そして吸引、機械的手段の一方又は両方により、閉塞を除去するのを支援する手段を提供する。
【0024】
さらに、開示した方法及びデバイスは、経頚部の血腫という潜在的に深刻な結果を回避するために、脳動脈へのアクセスサイトを確実に閉鎖する手段を提供する。本願の開示は、追加の方法及びデバイスを提供する。
【0025】
<典型的な実施形態に係る動脈アクセスデバイス>
図1に示す動脈アクセスデバイス2010は、別個のイントロデューサシースを使用せずに総頚動脈CCAに直接挿入するように構成されている。この配置では、デバイスが、ガイドワイヤ上を動脈中へと滑らかに導入されるように、デバイスの侵入部(entry)又は遠位チップ(遠位側の先端: distal tip)は、先細りにされ、そして先細りにされた拡張器を含んでいる。デバイス2010は、膨張した時に動脈を閉塞するように構成された閉塞バルーン(occlusion balloon)2020を含み得る。代替の実施形態では、動脈アクセスデバイス2010は閉塞バルーンを含んでいない。動脈アクセスデバイスは、さらに、近位アダプターを含んでいる。この近位アダプターは、止血弁を持った近位ポート2015を含んでおり、手技中の失血を防止又は最小にしつつ、デバイスの導入を可能にしている。ある実施形態では、このバルブは、固定シールタイプの受動バルブである。代替の実施形態では、このバルブは、例えばツイ-ボースト弁(Tuohy-Borst valve)又は回転式止血弁(RHV)などの開度調整可能弁(adjustable-opening valve)である。止血弁は近位アダプターと一体にされていてもよく、又はルアー接続(Luer connection)を介してアダプターの近位端に別個に取り付けられてもよい。動脈アクセスデバイス2010は、さらに、受動的又は能動的な逆流手段に接続され得る血流ライン2025(又はシャント)への接続を含んでいてもよい。血流ライン2025は、動脈アクセスデバイスからの血液をシャントするために、動脈アクセスデバイス2010の内腔と通じている内腔を有する。ある実施形態では、血流ライン2025は、動脈アクセスデバイス2010の遠位端と近位端との間の位置で動脈アクセスデバイス2010に取り付けられてそこから伸びているサイドアーム又はYアーム2027である。図1に示されるように、血流ライン2025は、デバイスが動脈アクセスデバイスの近位ポート2015に入る位置よりも遠位側に配置されている。代替の実施形態では、血流ライン2025は、別個に取り付けられたツイ-ボースト弁のYアームに取り付けられている。
【0026】
動脈アクセスデバイス2010は、さらにバルーン膨張用の管腔を含んでいてもよい。この管腔は、近位アダプターの第2のYアームにバルーンを流体流通的に接続(fluidly connect)している。このYアームは、一方活栓(one-way stopcock)2029で終端するチューブ(tubing)2028に取り付けられている。血管閉塞を望むときに、バルーンを膨張させるために、例えばシリンジなどの膨張装置(inflation device)が活栓2029に取り付けられてもよい。
【0027】
図2に示されたある実施形態では、動脈アクセスデバイスは、別個のイントロデューサシース2110の近位止血弁2012を通してCCA内に挿入されるガイドカテーテル2105である。動脈アクセスデバイスは、さらに近位アダプターを含んでいる。この近位アダプターは、止血弁を備えた近位ポート2015を含んでおり、手技中の失血を防止又は最小にしつつデバイスの導入を可能にしている。ガイドカテーテル2105は、バルーン膨張用の管腔を含んでいてもよい。この管腔は、近位アダプターのYアームに取り付けられており、それはチューブ2128に接続される。チューブ2128は、バルーン膨張装置に接続するための一方活栓2129で終端している。ガイドカテーテル2105は、血流ライン2125と通じている第2のYアーム2107を含んでいてもよい。別個のシース2110を通した導入により、患者の体外で洗い流し(flushing)して再挿入するために、又はイントロデューサシース2110を除去せずにガイドカテーテル2105を他のガイドカテーテルに交換するために、ガイドカテーテル2105を取り除くことが可能になり、それにより、経頚部の切開を介して動脈へのアクセスを維持することができる。さらに、この配置によって、手技中に、動脈の挿入サイトを阻害することなく、閉塞バルーン2020の再位置決めが可能になる。さらに、図2の実施形態では、動脈アクセスデバイス2105の除去と、その後、手技の最後には、イントロデューサシース2110を通して血管クローザーデバイスの挿入とを可能にする。
【0028】
この実施形態の変形では、図3に示されるように、イントロデューサシース2110は、閉塞バルーン2205と、膨張ライン及びチューブ2318とを含んでいる。さらに、イントロデューサシース2110は、受動的又は能動的な逆流のために、血流ライン2310への接続を含んでいてもよく、ここで受動的又は能動的な逆流は、米国特許出願第12/176,250号及び米国特許出願第12,834,869号に記載されているように形成することができ、それらを参照して本明細書に組み込む。この実施形態は、患者が脳動脈の閉塞に加えて頚動脈の狭窄を有している場合で、ユーザーが、脳動脈の閉塞の治療前又は治療後に、引用した特許出願に記載されているような静的条件又は逆流条件下で頚動脈の狭窄を治療したい場合に有用であろう。
【0029】
さらに別の実施形態では、図4に示されるように、動脈アクセスデバイスは、2つの閉塞バルーン2405、2410と、その2つのバルーンの間に配置される側部開口(side opening)2415とを備えたデバイス2105aである。遠位側の閉塞バルーン2410は、動脈アクセスデバイス2105aの遠位端に又はその近傍に配置されており、近位側の閉塞バルーン2405は、動脈アクセスデバイスの作業部(working portion)の遠位端と近位端との間に配置される。遠位側の閉塞バルーン2410は、外頚動脈ECAに設置できる寸法及び形状であり、近位側の閉塞バルーン2405は、総頚動脈CCAに設置できる寸法及び形状である。そのような2重バルーン配置(dual balloon configuration)は、CCAとECAの両方から内頚動脈ICAへの血流を止めており、それは、ICAにデバイスを挿入することなしにICA内に位置決めした閉塞バルーンと機能的に同様の効果を有する。これは、ICAに疾患があり、それゆえアクセスによって塞栓が取り除かれて塞栓合併症を生じる場合や、又はICAへのアクセスがひどくねじ曲がっていて、達成するのが困難な場合や、若しくはその両方の場合に有利であろう。動脈アクセスデバイス2105の作業部分(working section)の側部開口2415は、遠位側の塞栓のリスクを低減し又は排除するために、血流を止めている間又は逆流させている間に、デバイス2416を、動脈アクセスデバイス2105aを介して導入し、そして側部開口2415を介してICAに挿入するのを許容する。その後、このデバイス2416を脳動脈閉塞の位置まで前進させて、閉塞を治療してもよい。
【0030】
さらに別の実施形態では、図5に示されるように、動脈アクセスデバイスは、複数部分パーツ(例えば2パーツ)のテレスコープ式システム(telescoping system)2105bである。第1のパーツは、CCAに経頚部的に挿入できるように構成されたイントロデューサシース2110bである。第2の部分は遠位側伸張部(distal extension)2110cであり、イントロデューサシース2110bの近位端を通して挿入されて、シースの届く範囲をICAまで拡張する。シース2110bの遠位端及び伸張部2110cの近位端は、伸張部が完全に挿入されたときに2つのデバイスを通じて連続的な管腔が存在するように、重なり結合(lap junction)2113を形成する。結合したテレスコープ式システム2105bの長さがいくらか可変性であるように、重なり結合は可変長にしてもよい。遠位側伸張部2110cは、シース2110bを通して遠位側伸張部2110cの設置及び回収を可能にするテザー(tether)2111を含んでいる。ある実施形態では、遠位側伸張部は閉塞バルーンを含んでいる。この実施形態では、テザーは、バルーン膨張用の管腔を含んでいる。このテザーは、その近位端で、バルーン膨張デバイスに接続することができる。この配置は、管腔面積(luminal area)を犠牲にせずに、図2に示される2パートシステムの利点を提供する。
【0031】
ある実施形態では、動脈に入る動脈アクセスデバイスの作業部は、例えば、第1の層及び第2の層を含む2層以上の層から構成されている。内側ライナー(inner liner)は、内腔を通してデバイスが前進するための平滑面を供給するために、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はFEP(フッ化エチレンプロピレン)などの低摩擦ポリマーから構成される。ライナーに機械的完全性(mechanical integrity)を供給する外側ジャケット材料(outer jacket material)は、例えばペバックス(Pebax)、ポリエチレン、ナイロン等の材料から構成されてもよい。第3の層は、ライナーとジャケットとの間の強化材から成ってもよい。補強層の目的は、デバイスが血管系の屈曲を通ってナビゲートしたときに、内腔の平坦化又はよじれを防止することであり、そして、吸引又は逆流のみならずデバイスのアクセスのために、スムーズな手段(unimpeded means)を提供することである。補強材は、ステンレス鋼、ニチノールなどの金属、又はPEEKなどの硬質ポリマーから形成されてもよい。構造体は、コイル若しくは組み紐(braid)、又は柔軟になるようにレーザー切断又は機械切断されたチューブであってもよい。さらに、デバイスは、蛍光透視法を用いたデバイスの配置を容易にするために、遠位チップに放射線不透過マーカーを有していてもよい。ある実施形態では、デバイスの作業部は、血管系を通るデバイスの前進しやすさを向上するために、親水性コーティングされていてもよい。
【0032】
ある実施形態では、動脈アクセスデバイスの作業長(working length)は、CCAから挿入されたときに、近位内頚動脈を閉塞できるように構成された長さであり、例えば10~15cmである。代替の実施形態では、動脈アクセスデバイスの作業長は、血管クローザーデバイスによる閉鎖に適した長さであり、例えば11cm以下である。別の実施態様では、デバイスは、CCAから挿入されたときに、遠位頚部内頚動脈(ICA)を閉塞するように構成された長さにされており、例えば15~25cmである。さらに別の実施形態では、動脈アクセスデバイスは、CCAから挿入されたときに、ICAの錐体部(petrous)、海綿静脈洞部(cavernous)又は末端部(terminal portion)を閉塞するように構成された長さにされており、例えば20~35cmである。この実施形態では、動脈アクセスデバイスの最遠位部分(その長さは約3~約6cmであってもよい)は、ICAの錐体部内の弯曲に適応するように、さらに柔軟になるように構成されてもよい。このようなさらなる柔軟性は、この部分において、より低いデュロメーターの(デュロメーター測定値の小さい)外側ジャケット材料を用いることによって達成しうる。代わりに、ジャケット材料の壁部厚さを減じて、及び/又は補強層の密度を変更して、柔軟性を高めてもよい。例えば、コイル又は組み紐の間隔(pitch)を広げることができ、又はチューブの切断パターンを、より柔軟になるように変更してもよい。さらに、動脈アクセスデバイスの最遠位部分は、先細りにされて又は段を設けて、小径にされてもよい。
【0033】
上述した動脈アクセスデバイスは、大腿動脈のアクセス位置から設置されるアクセスデバイスに比べて大幅に短い作業長を有している。大腿動脈からCCAまでの距離は約60~80cmであるので、CCAアクセスサイトを利用するデバイスは、おおむねこの量だけ短くなるだろう。大腿動脈アクセス用にデザインされた比較可能なデバイスは、頚部ICAに展開するデバイスでは長さが80~95cm(例えば、Concentric社のバルーンガイド)であり、錐体ICAにアクセスするために設計されたものでは、長さが95~105cm(例えば、Penumbra社のニューロン6Fガイド)である。本明細書に開示されたアクセスデバイスの長さが短いので、デバイスの管腔を通る血流抵抗が低下し、吸引が生じ得る流量(rate)が増加する。この典型的な実施形態では、動脈アクセスデバイスの長さは約10cm~約40cmである。ある実施形態では、動脈アクセスデバイスの長さは約10.5cmであり、ガイドカテーテルの長さは約32cmである。
【0034】
さらに、ユーザーの手が放射線によって被ばくするのを最小限にしつつ、ユーザーが、デバイスを近位側伸張部(proximal extension)の近位ポート中に挿入し、そこから動脈アクセスデバイスの管腔内に挿入できるように、動脈アクセスデバイスは、着脱可能な近位側伸張部を含んでいてもよい。近位側伸張部のデザインの一例は、2009年8月12日に出願された同時係属中の米国特許出願第12/540,341号に記載されており、引用して本明細書に組み込む。米国特許出願第12/633,730号、米国特許出願第12/645,179号及び米国特許出願第12/966,948号も、引用して本明細書に組み込む。
【0035】
図1を再度参照すると、遠位カテーテル2030は、動脈アクセスデバイスを通って、ICA及び脳血管の遠位側で、血栓性閉塞10の位置まで、挿入されるように構成される。遠位カテーテル2030の長さは、遠位カテーテルの遠位端が約15~25cmだけ動脈アクセスデバイスの遠位開口から突出するように、動脈アクセスデバイスの長さより長い。さらに、遠位カテーテルは、遠位血管系の解剖学的構造に起因して、動脈アクセスデバイスよりもさらに柔軟である。止血弁を備えた近位ポート2035は、遠位カテーテル2030の近位端に位置していてもよく、手技中の失血を防止又は最小にしつつ、マイクロカテーテル、ガイドワイヤ又は血栓回収デバイスなどのデバイスの導入を可能にしている。ある実施形態では、このバルブは、例えばツイ-ボースト弁又は回転式止血弁(RHV)などの開度調整可能弁である。止血弁はカテーテル近位アダプターと一体にされていてもよく、又はルアー接続を介してカテーテルの近位端に別個に取り付けられてもよい。
【0036】
動脈アクセスデバイスと同様に、遠位カテーテル2030も、上述したように2層以上の層構成で形成されてもよい。遠位カテーテルは、上述された動脈アクセスデバイスの作業部の記載に従って形成されてもよい。さらに、遠位カテーテルは、蛍光透視法を用いたデバイスの配置を容易にするために、遠位チップに放射線不透過マーカーを有していてもよい。ある実施形態では、デバイスの作業部は、血管系を通るデバイスの前進しやすさを向上させるために、親水性コーティングされていてもよい。ある実施形態では、最遠位部分は、動脈アクセスデバイス用に上述したような手段によって、近位部よりもさらに柔軟になるように構成されている。
【0037】
遠位カテーテル2030は、動脈アクセスデバイス2010を通して設置されたときに、末端部ICA及び脳血管に達するように構成された作業長を有する。ある実施形態では、作業長は40~80cmである。この長さの遠位カテーテルでは、経大腿部アクセス用にデザインされたカテーテルよりも、ずっと高い流量の吸引が可能になるだろう。例えば、脳循環への経大腿部アクセス用に構成された遠位カテーテルは、長さが115cm、内径が0.057"(インチ)であり(カリフォルニア州マウンテンビューのConcentric Medical社製のDAC 057カテーテル)、22inHg(水銀柱インチ)の真空に設定された吸引ポンプに接続されたとき、3.2センチポアズ(cp、血液に等しい)の流体では流量(flow rate)113ml/分である。(本明細書に記述されているような)CCA内から脳循環への経頚部アクセス用に構成された遠位カテーテル2030は、長さが50cmで、同等の直径を備えていてもよい。血流抵抗は、チューブを通る流体についてのポアズイユの式に基づいて、チューブの長さに比例するので、カテーテル2030は、経大腿部カテーテルの2倍以上の流量を有しており、具体的には、22inHgに設定された吸引ポンプに接続されたとき、3.2cpの流体では流量260ml/分であり、経大腿部システムの吸引流量(aspiration rate)の約2.3倍である。また、手動のシリンジ吸引又は他の吸引源を用いて、吸引速度の同様の増加が見られるだろう。さらに、経頚部アクセスサイトは、経大腿部サイトよりも、多くの殆ど曲がっていない部分(many less turns)に遙かに近接しているので、カテーテルの壁部にそれほど高いトルク強度は必要なく、よって、経頚部的に設置されたカテーテル2030は、薄壁構成(thinner wall construction)で構築され、目標の解剖学的構造内に設置されるものと同等又はそれ以上の性能を備え得る。薄い壁部は大きな内腔をもたらし、流量についてさらなる優位性をもたらすだろう。血流抵抗は、直径の4乗に比例するので、管腔面積のわずかな改良でさえ、流量の増加の点で大きな優位性をもたらす。実施形態では、遠位カテーテルは(さらに遠位側の脳動脈ではなく)末端部ICAのみに達する寸法にされていてもよい。この実施形態では、遠位カテーテルは、内径0.070"~0.095"、長さ25~50cmであってもよい。別の実施態様では、遠位カテーテルは、より遠位側の脳動脈に達するためのサイズにされていてもよく、内径0.035"~0.060"、長さ40~80cmであってもよい。
【0038】
動脈アクセスデバイスと同様に、遠位カテーテルには可変剛性シャフト(剛性の変化するシャフト:variable stiffness shaft)であってもよい。この実施形態では、遠位カテーテルの最遠位部分(その長さは約3~約6cmであってもよい)は、脳血管内の弯曲に適合するように、より柔軟に構成されてもよい。このようなさらなる柔軟性は、この部分において、より低いデュロメーターの(デュロメーター測定値の小さい)外側ジャケット材料を用いることによって達成しうる。シャフトは、当該シャフトのより近位側の部分に向かって次第に硬質になる部分を有し、最近位部が最も硬質のシャフト部を有していてもよい。
【0039】
ある実施形態では、閉塞バルーン2040は、遠位カテーテル2030に配置されてもよく、例えば順方向の動脈流又は血圧を制限するために動脈を閉塞するのに使用することができ、それは、閉塞の除去のみならず吸引も可能にする条件を向上するだろう。
【0040】
まだ図1を参照すると、遠位カテーテル2030は、血流ライン2045(又はシャント)用のYアームを備えた近位アダプターを含んでいてもよい。血流ライン2045は、遠位カテーテル2030の内腔と通じている内腔を有する。近位アダプターは、さらに、ガイドワイヤ、マイクロカテーテル又は他のカテーテルの挿入用の近位止血弁2035を含んでいる。ある実施形態では、近位アダプターは、遠位カテーテル2030に、取り外せないように取り付けられている。別の実施態様では、近位アダプターは、Yアームを備えた別個のツイ-ボースト弁を取着可能なメスのルアーコネクタ(Luer connector)である。
【0041】
別の実施態様では、遠位カテーテルシステムは、血管系を通って脳閉塞よりも遠位側の位置まで容易にナビゲート可能に構成されたアンカーデバイス(anchor device)を含んでいる。アンカーを展開したときには、閉塞の近位面への遠位カテーテルの前進を容易にするために、それはレール応力(rail force)及び反力(counter force)として使用されてもよい。図6に示す例は、遠位のバルーン2510を備えたマイクロカテーテル2505である。マイクロカテーテル2505を、閉塞10を通ってガイドワイヤ2515上に設置し、そして遠位バルーン2510を膨張させる。代わりに、マイクロカテーテルは組み込みの非外傷性のガイドワイヤチップ(又はガイドワイヤの先端部)を有して、独立したデバイス(stand-alone device)として前進する。その後、従来技術で行われるように、遠位カテーテル2030は、閉塞10に向かって前進させるためのレールとして、マイクロカテーテル2505のシャフトを利用することができる。しかしながら、バルーン2510が膨張しているので、マイクロカテーテル2505の遠位端は凝血塊及び/又は血管壁に係留され、遠位カテーテル2030の前進に対する反力を提供する。力のいくらかが閉塞自体に伝わるかもしれず、凝血塊を除去するのを助けるかもしれない。ガイドワイヤ2515はこの手技(maneuver)中に所定位置に留まっているので、これにより、閉塞10の除去を再び試みるためにアンカー(すなわちバルーン2510)と遠位カテーテル2030を再び前進させる必要があるときに、アクセスは、ガイドワイヤ2515によって、閉塞を横切って維持される。
【0042】
非外傷性の遠位アンカーは、バルーン以外のデバイスであってもよい。例えば、他の非外傷性の遠位アンカーは、機械的に拡張可能な先端(例えば、組み紐、コイル又はモリーボルト(molly-bolt)構造体など)を備えたマイクロカテーテルを含むことができる。拡張可能な先端は、十分に柔軟となるように、そして、血管壁に対する局所的な圧力(focal pressure)が低減され血管壁の損傷を最小にすべくマイクロカテーテルの長さに沿って十分な力を提供するように、構成することができる。
【0043】
この実施形態の別の変形例は、図7に示されるように、バルーン、又は拡張可能なケージ若しくはステントなどの拡張可能な先端2620を備えたガイドワイヤ2615である。ガイドワイヤ2615は、マイクロカテーテルを利用して血管系内に設置され、そしてマイクロカテーテルを引き込ませるときに展開する。ガイドワイヤ2615デバイスの拡張可能な部分は、別個の編状フィラメント(braided filament)から形成されてもよく、又は、単一のハイポチューブ(hypotube)から切り取られて、反力作動部材(counterforce actuating member)によって拡張されてもよい例えば、拡張可能な先端の近位端は、中空のハイポチューブの遠位端に取り付けられてもよく、遠位端は、ハイポチューブの長さ方向に伸びたワイヤに取り付けられてもよい。ワイヤを引き戻すと、拡張可能な先端は、長さが短くなり、直径が拡張される。ワイヤを前方向に押すと、拡張可能な先端は折り畳まれるだろう。
【0044】
大きいサイズのカテーテルを前進させることの困難さの原因は、カテーテルと内部構成との不適切な組合せ(mismatch)にある。大きいサイズのカテーテルを前進させるための1つの技術は、3軸技術(tri-axial technique)と呼ばれており、小さいカテーテル(マイクロカテーテル又は小径の遠位カテーテルのいずれか一方)を、大きいカテーテルとガイドワイヤとの間に設置する。しかしながら、現在のシステムでは、小さいカテーテルは、大きいカテーテル、ガイドワイヤ又はそれら両方との間における直径の不整合(diameter mismatch)があり、それは、システムが血管系中を前進するときのシステムの最先端(leading edge)に段差を生じる。この段差は、非常に曲がった血管をナビゲートする際、特に側枝(例えば眼動脈)が存在する位置では、困難さの原因となるだろう。ある実施形態では、図8に示されるように、遠位カテーテル2030には、通常使用される小さいカテーテルと交換される、先細りにされた同軸の内側部材2652が供給される。内側部材2652は、遠位カテーテルの内腔を通して挿入できる寸法及び形状である。内側部材2652は、遠位カテーテル203の内径と、内側部材2652の内腔を通して伸びるガイドワイヤ2515又はマイクロカテーテルの外径との間に滑らかな移行部を形成する外径を備えた先細り領域(テーパー領域)を有している。ある実施形態では、先細りにされた拡張器又は内側部材2652は、遠位カテーテル内に配置したときに、大きい遠位カテーテル2030の最遠位の先端と、例えば直径が0.014"と0.018"の範囲にあり得るガイドワイヤ2515の外径と、の間の滑らかな移行部を形成する。例えば、内腔の直径は、例えば0.020"~0.024"であってもよい。別の実施態様では、内径は、例えば外径が0.030"~0.040"の範囲内にあるマイクロカテーテル又は0.035"のガイドワイヤを内腔に受容できるように構成されており、例えば、内腔の直径は0.042"~0.044"であってもよい。
【0045】
この実施形態の変形例では、図9に示されるように、テーパー領域に加えて、内側部材2652は、内側部材2652のテーパー部を超えて遠位側に伸びている一定の直径又は単一の直径の最遠位領域2653から形成された伸張部を含んでいる。この実施形態では、内側部材2652の遠位領域2653は、マイクロカテーテルが脳卒中の介入手技中に役立つであろういくつかの又は全ての機能、例えば、遠位側の血管造影を行うために閉塞を横切る、凝血塊中に動脈内血栓溶解剤(intraarterial thrombolytic agents)を注入する、又はコイルリトリーバー又はステントリトリーバーなどの機械的な血栓回収デバイスを送達する、などを実現しうる。このように、マイクロカテーテルは、発生するこれらの工程のために拡張器と交換する必要がなくなるだろう。
【0046】
拡張器(内側部材2652)の材料が十分に柔軟であり、テーパー部が十分に長いので、ガイドワイヤの柔軟性と遠位カテーテルとの間に滑らかな移行部を形成することができる。この配置は、遠位カテーテルを、曲がった解剖学的構造を通って目標の脳血管系まで前進させるのを容易にするだろう。ある実施形態では、拡張器は、可変剛性を有するように構成されており、例えば、最遠位部分は軟質な材料から形成され、近位部分に向かって次第に硬質な材料から形成される。
【0047】
ある実施形態では、先細りにされた拡張器の遠位端には、白金/イリジウムバンド、タングステン、白金又はタンタルを含ませたポリマーなどの放射線不透過マーカー又はその他の放射線不透過マーカーを備えている。ある実施形態では、先細りにされた拡張器は可変剛性に構成される。例えば、拡張器の遠位部(distal segment)が軟質な材料から構成され、近位端に向かって連続的に硬質な材料にされてもよい。図1に示されるように、遠位カテーテル2030は、それ自体が、動脈アクセスデバイスとは別個に且つ着脱可能なカテーテルになりえる。別の実施態様では、図10に示されるように、遠位カテーテルと動脈アクセスデバイスとは、デバイスの長さを通して伸びる連続的な管腔を有する単一のデバイス2710となるように、結合される。近位部2720は、動脈アクセスシースと、遠位カテーテルとして機能する遠位部2730とを含んでいる。閉塞バルーン2715は、遠位部と近位部との間に位置している。遠位部2730は、脳血管系のナビゲートに最適となるように構成される。特に、遠位部2730は、近位部2720よりも柔軟で且つ小径にテーパーされている。
【0048】
別の実施態様では、図11及び12に示されるように、遠位カテーテルは、目標となる解剖学的構造を再横断することなしに遠位カテーテルの再前進(re-advancement)又は交換を容易にするために、ガイドワイヤアクセスを維持する第2の管腔を有している。図11に示す実施形態では、遠位カテーテルは、遠位チップにおいて終端する2つの管腔(主腔(main lumen)及び第2のガイドワイヤ管腔(second guidewire lumen))を有している。終端部では、遠位向きの表面(distal-facing surface)を、血管系を通してカテーテルのトラッキング(追跡:tracking)が容易になるように(カテーテルの長手軸に対して)角度をつけて配置してもよい。別の実施態様では、図12に示されるように、第2のガイドワイヤ管腔は、主腔の終端部を超えて延在する伸張部(an extension)1247の内側にある。伸張部1247は、主腔によって形成された開口を超えて遠位側に突出した遠位カテーテルの最遠位領域である。伸張部1247は、主腔を取り巻く遠位カテーテルの外径と比較して、減少された外径を有するシャフトを形成する。第2の管腔は、メインの遠位カテーテル(main distal catheter)のシャフトよりも小さく、主腔の遠位端が閉塞の近位側の表面上に位置決めされたときに、その閉塞内に又はそれを横切って配置されてもよい。主腔の遠位端は、デバイスのトラッキングを容易にするために、同様に角度を付けて終端してもよい。
【0049】
さらに別の実施形態では、遠位カテーテルは、拡張可能な先端部分(expandable tip portion)を有している。吸引デバイスが遠位カテーテルの近位部に接続される場合に、拡張可能な先端は、閉塞の吸引を容易にする。拡張可能な先端部分は、組み紐又はステント構造体などの機械的構造体から構成されてもよく、それらは繰り返し開閉することができる。先端(チップ)を開くための機構は、拡張可能な部分を短縮する引張りワイヤであってもよく、又は、遠位部分を小さい直径に維持するが、引き込んだときに遠位チップが拡大できるようにする外側保持スリーブ(outer retention sleeve)であってもよい。吸引を適用したときに、先端が拡張してもしなくても真空がカテーテルのまさにその先端に適用され得るように、遠位部分は膜(membrane)で覆われていてもよい。拡張可能な先端は、カテーテルを目標となる解剖学的構造までトラッキングする間に、カテーテルを小さいプロファイルに維持することを可能にするが、血栓などの閉塞性物質を容易に捕獲するために、その後に遠位側の管腔面積を拡張する。遠位カテーテル内に捕獲されたら、血栓は、吸引デバイス内まで吸収されてもよく、その代わりに、カテーテルをもはや拡張しない場合には血栓を遠位カテーテルの内腔に詰まらせて、その時点で遠位カテーテル全体を引き込む(又は引き出す)ことにより除去することができる。
【0050】
別の実施態様では、図13に示されるように、遠位カテーテル2830は、動脈アクセスデバイス2820の遠位部に取り付けるテレスコープ式アタッチメント(telescopic attachment)である。動脈アクセスデバイス2820の遠位領域は、動脈アクセスデバイスの長手軸に沿って遠位方向にテレスコープ式に伸びる1つ以上の構造体を有している。構造体は、それらが動脈アクセスデバイスの遠位端を超えて延在しないように、テレスコープ式に折り畳まれていてもよい。構造体が動脈アクセスデバイスの遠位端を超えてテレスコープ式に拡張する場合、構造体は共同で連続的な内腔を形成する。ワイヤ2835などのテザー要素は、テレスコープ式の作動が、動脈アクセスデバイスの近位端から達成されうるように、遠位部2830に接続されて、動脈アクセスデバイスの近位端を拡張してもよい。バルーン2815などの拡張可能な部材は、デバイス2820に位置決めされてもよい。
【0051】
図14は、代替の実施形態に示しており、バルーンカテーテル2502などの補助的な装置(secondary device)は、動脈アクセスデバイス2010を通って、前大脳動脈ACAなどの側副の脳動脈(collateral cerebral artery)内まで前進させられる。バルーンカテーテル2502は、側副の脳動脈中で拡張してその動脈を閉塞することができる拡張可能なバルーン2530を含んでいる。以下に詳述するように、側副の脳動脈の閉塞は、脳血管系と通る吸引及び逆流を強める。
【0052】
<吸引と血流制御の典型的な実施形態>
動脈アクセスデバイス2010及び遠位カテーテル2030のいずれか一方又は両方は、デバイス上の血流ライン2025、2045(図1)を介して、受動的又は能動的な吸引源に接続されてもよい。吸引のモードはデバイスごとに異なってもよい。
【0053】
図15では、動脈アクセスデバイス2010の血流ライン2025は、レセプタクル3100などの送達位置(delivery location)に接続される。吸引源3125は、血流ライン2025に結合されてもよい。レセプタクル3100と吸引源3125とは別個であってもよく、又は、シリンジなどの単一デバイスに組み込んでもよい。フィルター3418及び/又は逆止弁3419は、血流ライン2025に連結されてもよい。図16では、遠位カテーテル2030の血流ライン2045は、追加で又は代わりに、別個の吸引源3425とレセプタクル3105などの送達位置とに接続される。吸引源3425及び送達位置は、シリンジなどの単一デバイスに組み込んでもよい。フィルター3418及び/又は逆止弁3419は、血流ライン2045に連結されてもよい。
【0054】
図17はシステムを示しており、動脈アクセスデバイス2010及び遠位カテーテル2030の両方が、血流ライン2025、2045の各々を介して、同一の吸引源3430に接続されている。バルブ3325は、どちらのデバイスを吸引源3430に接続するかを制御する。バルブは、一方のデバイス、他方のデバイス、両方のデバイス、又は接続すべき別の(いずれでもない)デバイスに、いつでも吸引源を接続することができる。バルブは三方活栓又は四方活栓であってもよい。代わりに、バルブは、上述したような配置を選択する単純作動の血流コントローラであってもよい。
【0055】
ある実施形態では、血流コントローラは、単一ユニット内の多数のデバイスを通して多数の吸引手段の制御を容易にしてもよい。この配置により、一人のオペレーターによるシステムの使用が容易になるだろう。血流コントローラは、例えば動脈アクセスデバイス、遠位カテーテル、それら両方又はそれ以外などのデバイスが吸引されるのを調節するために、ユーザーが作動させることのできる1つ以上の制御インターフェースを含んでいてもよい。図18は、そのような血流コントローラ3400を利用するシステムの実施形態を示す。血流コントローラ3400は、遠位カテーテル2030の血流ライン2045のみならず、動脈アクセスデバイス2010の血流ライン2025にも接続される。このように、血流ライン2025、2045は、動脈アクセスデバイス2010及びカテーテル2030から、それぞれ、血流コントローラ3400へと血流が流れるのを可能にする。コントローラ3400は、受動的な吸引源3410及び能動的な吸引源3420のいずれか又は両方に接続されてもよい。血流コントローラハウジング3429は、各デバイスが、どのように及びいつ、各吸引源に接続されるかを決定するための制御メカニズムを含んでいる。制御メカニズムは、さらに、各吸引源からの吸引レベルを制御してもよい。さらに、コントローラは、脳閉塞の崩壊とその吸引とを促進するために、拍動性の吸引モードを可能にする制御を含んでもよい。血流コントローラは、連続的な吸引モードと拍動性の吸引モードとの間で切り替えるためのインターフェースを有していてもよい。制御メカニズムは、片手で操作可能であるようにデザインされてもよい。例えば、制御メカニズムは、トグルスイッチ(toggle switches)、押しボタンスイッチ、スライダーボタンなどであってもよい。ある実施形態では、血流コントローラ3400は、ユーザーが脳循環への順行性の血流をすぐに回復できるようにするためのインターフェースであり、同時に動脈アクセスデバイスの閉塞バルーンを収縮し吸引を止める例えば単一のボタン又はスイッチなどを備えたものを有している。
【0056】
能動的な吸引源は、吸引ポンプ、通常のシリンジ又はロックシリンジ、携帯型吸引器、病院での吸引 (hospital suction)などであってもよい。ある実施形態では、手技の血栓回収工程より前に血流ラインへの接続が閉じられた状態で、ロックシリンジ(例えば、バックロックシリンジ: VacLok Syringe)は血流コントローラに取り付けられ、プランジャーはユーザーによってロック位置まで引き戻される。手技中に、吸引デバイス(動脈アクセスデバイス又は遠位カテーテルのいずれか)の先端が閉塞の表面近傍又は表面にあるときに、ユーザーは、吸引シリンジへの接続を開いてもよい。このことは、1人のユーザーによって、急速に最大レベルの吸引を可能にするが、そのいくつかは現在、既存の技術では不可能である。別の実施態様では、吸引源は、吸引デバイスを分離せずに吸引及び補充(refill)ができるように構成された携帯型の吸引器である。この実施形態の例では、携帯型の吸引器は、片手で操作できるアクチュエーターで上下移動されるプランジャーを備えたチャンバーを含んでいる。プランジャーが上下移動したときに、シリンジでは必要とされ得るチャンバーの取り外し及び空にすることを必要としないチャンバーへの又はチャンバーからの連続的な吸引源が存在するように、チャンバーは入出力バルブを含んでいる。チャンバー入力はカテーテルに接続され、チャンバー出力は血液収集バッグなどの収集レセプタクルに接続される。ある実施形態では、この吸引源は片手だけで使用できるように構成される。
【0057】
吸引源の1つの不利益は、吸引された血液が外部リザーバ(又は外部容器)又はシリンジに受容されるということである。この血液は通常は手技の最後に廃棄されるので、患者からの失血を意味している。さらに、遠心ポンプ又は蠕動ポンプなどのポンプは、血球に損傷をもたらすことが知られている。外部リザーバから患者に血液を戻すことは可能であるが、血液は空気に露出しているか又は一時期は静置されており、血栓形成又は血球損傷のリスクがある。通常、吸引された血液は、血栓塞栓症(thromboembolism)のリスクを回避するために、患者に戻さない。
【0058】
図19は、血球を傷つけないように構成され、手技中にリアルタイムで中心静脈システムに血液を戻すように構成された典型的な吸引ポンプデバイス3250の断面図を示しており、そのため、血液が静置されたままにされるリザーバは存在しない。ポンプ3250は、動脈アクセスデバイス2010及び遠位カテーテル2030のいずれか一方又は両方に接続されてもよい。ポンプデバイス3250は、血流ライン2025の一部を含むチャンバー3220を囲んでいるハウジング3215を含む。チャンバー3220内に含まれている血流ライン2025の拡張可能な部分(expandable portion)3210は、その自然な状態(図19に破線で示されている)では縮んだ直径であるが、拡張した直径(図19に実線で示されている)に変更できるように構成され得るように、弾性材料から作られる。Oリングなどの1つ以上のシール3125は、チャンバー3220と血流ライン2025の間の接合部分を密閉する。真空源3230はチャンバー3220に接続されており、チャンバー3220の内の圧力を変更するために操作できるように構成される。2つの一方向逆止弁3235が、拡張可能な部分3210の両側の血流ライン2025内に位置している。
【0059】
ポンプデバイス3250の操作では、真空源3230は、チャンバー3220の内に、血流ライン管腔3210内の圧力に対して減圧を生成するために操作される。図32に実線で示されるように、チャンバー3220と血流ライン管腔3210との間の圧力差は、血流ライン2025の拡張可能な部分3210を拡張させて、チャンバー3220内で容積を増加させる。逆止弁3235によって制御されるため、この拡張によって、血液は、「流入」の矢印で示されるように血流ラインのシース側から拡張可能な部分3210へと引っ張られる。その後、真空源3230は、チャンバー3220の内の圧力を正常化するように止められてもよい。これにより、図19に破線で示されるように、拡張可能な部分3210を小さい自然な直径に戻らせる。逆止弁3235は、血流ライン2025の予め拡張された領域内の血液を、図19の「外側」の矢印で示されたように、位置3120の方向に放出する。真空源3230は、拡張可能な部分3210を、拡張状態と引込み状態との間で規則的に変動するように操作されて、そして一方向逆止弁3235と協働し、それにより、血流ライン管腔3210を通る血流を駆動させてもよい。
【0060】
図20は、一対のポンプデバイス3205a、3205bを含むポンプシステム3305を示しており、その各々は図32に示されるタイプのものである。
すなわち、各デバイス3205は、血流ライン2025の一部を包含するチャンバーを包含しているハウジング3215を含む。ポンプデバイス3205a、3205bは、各ポンプデバイス3205が拡張可能な部分3210を備えた血流ライン2025を有するように、血流ライン2025と平行に接続される。一対のポンプデバイス3205a、3205bは、ポンプシステム3305を通して比較的連続流の状態を形成するために、拡張状態(expanded state)と引込み状態(retracted state)とを交互にされてもよい。ポンプ3205a、3205bが、ポンプシステム3305を通して総合的には中断のない血流を駆動するように、例えば、ポンプ3205bが引込み状態にされているときに、ポンプデバイス3205aが拡張状態にされてもよい。
【0061】
さらなる利点のあるポンプシステム3250又は3305は、本明細書に記載されているように、中心静脈システムに血液を戻すように構成されている受動的な逆流システムと共に使用し得るということである。これら2つのシステムは、静脈リターンラインを共有してもよく、それらはバルブ又は他の流量制御デバイスにより接続される。
【0062】
吸引の受動源(passive source)は、例えば、(静脈リターン用に)中心静脈に挿入されたシース、又は望まれる陰圧の程度によって変化し得る垂直レベルに設置されたIV(静脈)バッグなどの、低圧のサイトであってもよい。図21は、動脈アクセスデバイスへの受動的な逆流を確立するために、静脈リターンを使用するシステム3500の典型的な実施形態を示す。システム3500は、動脈アクセスデバイス3510、静脈リターンデバイス3515、及び動脈アクセスデバイス3510から静脈リターンデバイス3515までの逆流に通路を提供する血流ライン3520を含んでいる。血流制御アセンブリ3525は、血流ライン3520に相互作用する。血流制御アセンブリ3525は、血流ライン3520を通る逆流を調節及び/又は監視(モニター)するのに適している。血流制御アセンブリ3525は、血流ラインを通して血流の状態及びレベルを決定するために、血流ライン3520を介して血流経路と相互作用する。
【0063】
実施形態では、以下に詳細に説明するように、動脈アクセスデバイス3510は、少なくとも部分的に総頚動脈CCA及び静脈リターンデバイス3515に挿入され、そして少なくとも部分的に、大腿静脈か内頚静脈などの静脈リターンサイトに挿入される。静脈リターンデバイス3515は、鼠径部に経皮的穿刺によって大腿静脈FVに挿入することができる。動脈アクセスデバイス3510及び静脈リターンデバイス3515は、コネクターで、血流ライン3520の対向する端部に接続される。閉塞要素3529を備えた動脈アクセスデバイス3510の遠位端は、ICA内に位置決めされてもよい。代わりに、ICAアクセスが非常に曲がっているような状況においては、総頚動脈中のより近位側に閉塞要素を位置決めするのが好ましいだろう。内頚動脈を通る血流が(閉塞要素3529を使用して)遮断された場合、内頚動脈と静脈系との間の自然な圧力勾配により、血液は、脳血管系から内頚動脈を通り、そして血流ライン3520を通って静脈系へと逆行又は逆方向に流れる。
【0064】
別の実施態様では、動脈アクセスデバイス3510は、経頚部アプローチを介して総頚動脈CCAにアクセスし、静脈リターンデバイス3515は、大腿静脈以外、例えば内頚静脈などの静脈リターンサイトにアクセスする。別の実施態様では、システムは、頚動脈から、静脈リターンサイトではなく外部レセプタクル(例えばIVバッグ)に逆流を提供する。動脈アクセスデバイス3510は、血流ライン3520を介してレセプタクルに接続しており、それは血流制御アセンブリ3525と通じている。逆流は、レセプタクルに集められる。所望により、血液をろ過し、そして患者に戻すことができる。レセプタクルの圧力は、圧力0(大気圧)又はさらに低く設定することができ、脳血管系からレセプタクルへと逆方向に血液を流すことができる。
【0065】
<血栓回収デバイスの典型的な実施形態>
開示されたデバイスシステムのいずれかと共に使用するための血栓回収デバイスの典型的な実施形態は、例えば上述のデバイスであって経頚部的に設置するように構成されたものである。具体的には、血栓回収デバイスは、それが伸びて、脳閉塞にアクセスし横断するのに十分な長さの動脈アクセスデバイス2010又は遠位カテーテル2030から出ることができるような作業長を有している。より具体的には、作業長が80~120cmの血栓回収デバイスである。
【0066】
実施形態では、経頚部アクセスのために構成されたマイクロカテーテルが、システム100の一部として含まれている。より具体的には、作業長が100~140cmのマイクロカテーテルが、システム100に含まれている。マイクロカテーテルは、血栓回収デバイスの血管造影及び/又は送達に使用されてもよい。
【0067】
血栓回収デバイスのさらなる実施形態を以下に記載する。図22は、拡張可能な部材4112から近位側に伸びる細長い柔軟なカテーテル4115に取り付けられた、自己拡張可能な部材4112から形成された典型的な血栓回収デバイス4100の遠位領域の拡大側面図を示す。拡張可能な部材4112は、複数のセル構造(ダイヤモンド形状であってもよい)を形成するように配列された絡み合った又は波打った複数の長手の支柱から形成されている。ある実施形態では、支柱は、当該支柱に音響エネルギーを適用できるようにするエネルギー源に接続される。拡張可能な部材4112は、減少したサイズと拡大したサイズとの間で移行するように構成されており、拡張可能な部材4112は、第1の直径から、カテーテル4115の長手軸に比べて大きい第2の直径まで、半径方向外向きに拡張する拡張可能な部材4112は、例えば、多くの血管内ステントを製造するのと同様の方法で、支柱を作成するために幾何学形状にレーザー切断された単一チューブから形成されてもよい。ある実施形態では、拡張可能な部材4112は、ニチノールなどの形状記憶材料から形成されている。拡張可能な部材4112は、米国特許公報第20110009875号に記載されている拡張可能な部材によって構成されてもよく、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【0068】
使用において、拡張可能な部材4112は、上述のような動脈アクセスデバイスを介して、脈管の解剖学的構造を通って前進する。拡張可能な部材4112は、拡張していない状態で、血栓サイトに位置決めされる。その後、拡張可能な部材は血栓位置に位置決めされ、その拡張状態に遷移させられる。ある実施形態では、拡張可能な部材4112が血栓位置で拡張したら、拡張可能な部材を一定期間その位置に維持して、その結果として得られる血栓通過する血流によって血栓の溶解を引き起こすような、血栓を通る灌流チャネルを形成する。そのような実施形態では、拡張可能な部材4112は、患者の体外に回収するために血栓の一部を捕獲することが可能であるが、必須ではない。血栓の十分な部分が、閉塞を通して所望の血流チャネルを形成するように溶解されたときに、又は得られた血流によって閉塞の完全な除去が達成されたときに、拡張可能な部材4112は、シース4100内に引き抜かれて、患者から取り除かれてもよい。拡張可能な部分は、シース内に引き抜かれる間に、血栓のいくらか又は全てを捕獲してもよい。
【0069】
図22に示される実施形態では、細長い灌流カテーテル4120は、拡張可能な部材4112を通って長手方向に位置決めされる。灌流カテーテル4120は、内腔及び灌流流体源(source of perfusion fluid)と通じている複数の灌流穴がある。灌流カテーテル4120は、灌流穴4125を通って外向きに流体を灌流するように構成されている。灌流穴は、凝血塊の溶解を助けるためにウロキナーゼ又はtPAなどの血栓溶解剤を灌流するのに使用されてもよい。代わりに、灌流穴は、神経保護剤(neuroprotective agents)及び/又は酸素処理された血液(oxygenated blood.)を灌流するために使用されてもよい。
【0070】
図23は、細長い機械的部材4205が拡張可能な部材4112を通して長手方向に位置決めされた別の実施形態を示す。機械的部材4205は、通常は、拡張可能な部材4112の長手軸に沿って伸びる。機械的部材は、拡張可能な部材4112を血栓内に位置決めしたときに、血栓に機械的エネルギーを作用させるように構成される。機械的部材4205は、らせん状ワイヤ(corkscrew wire)又はブラシなどの様々な機械的部材のいずれであってもよい。機械的部材は、機械的部材4205を回転させる又は振動させるなどによって機械的エネルギーを作用させるために動かすことができる。図16及び図17の実施形態は、機械的な粉砕能力(disruption capabilities)に加えて、灌流と吸引の能力を提供するために組み合わせてもよい。
【0071】
様々な他の形態は、拡張可能な部材4112と共に使用されるか、又は当該部材と結合されてもよい。図24は、遠位フィルター4305が、拡張可能な部材4112の遠位端又はその近傍に位置決めされた実施形態を示している。フィルター4305は、血栓の自然な溶解又は血栓の機械的な回収のいずれかによる血栓症閉塞の除去中に生成され得る塞栓を捕獲するように、構成されている。図25の実施形態では、パラシュート形状の部材(parachute-shaped member)4405が、拡張可能な部材4112の遠位端又はその近傍に位置決めされている。図19の実施形態は、拡張可能な部材4112の近位端から遠位端に向かって伸びてパラシュート形状の部材4405に取り付けられた複数の長手の支柱(longitudinal struts)4605を含んでいる。支柱4605は、血栓内で展開したときに、血栓を通って押圧されるように構成される。血栓を通して押圧したとき、支柱4605が、パラシュート形状の部材4405を血栓の周りで引っ張って血栓を捕獲し、その後にデバイス4100を引き抜いて、血栓を動脈から取り出すことができる。
【0072】
図26の実施形態では、拡張可能な拡張部材4505、例えば拡張バルーンは、拡張可能な部材4112の内部に配置される。拡張部材4505は、血栓症閉塞を拡大し且つ拡張可能な部材4112を押圧するために、拡張されてもよい。拡張部材を拡張させたら、今や凝血塊に係合した拡張可能な部材を引き戻して、動脈から血栓を除去してもよい。
【0073】
図27は、遠位カテーテル4710の遠位端に位置決めされた細長い要素4705から成る血栓回収デバイスの別の実施形態を示す。細長い要素4705は、らせん状又は波状など、その長手軸に沿った不規則形状を有している。代わりに、細長い要素は、スライド可能に遠位カテーテル4710の内部に位置決めされている。細長い要素4705は、凝血塊と交差するときに遠位カテーテル4710内に引き込むことができるように、ステンレス鋼又はニチノールなどのバネ材料から形成されてもよい。交差した後、細長い要素4705を露出させて、それが不規則形状を取ることを可能にするために、カテーテル4710を引き戻す。細長い要素は、血栓のサイトに位置決めされ、そして、血栓に機械的エネルギーを作用させて血栓を破砕するために、振動させる、回転させる(rotating)、波打たせる、軸回転させる(spinning)、又は前後に動かす等の操作をされてもよい。遠位カテーテル4710は、血栓を細長い要素4705で機械的に粉砕したときに血栓を吸引するために、吸引源に接続されている。
【0074】
図28の実施形態では、細長いカテーテル4805は、血栓内に位置決めできる寸法及び形状である。カテーテル4805は、血栓を粉砕させるために、血栓に十分な力で灌流流体を血栓に噴霧(スプレー)するのに使用できる灌流穴4810を含んでいる。細長いカテーテル4805は、別の遠位カテーテル4820を通して送達されてもよい。遠位カテーテル4820は、血栓を細長いカテーテル4805からの灌流流体によって流動的に粉砕したときに血栓を吸引するために、吸引源に接続されてもよい。カテーテル4805の遠位端は、灌流流体又は粉砕した血栓が下流側に移動するのを防ぐために、拡張可能な閉塞要素4815を含んでいてもよい。
【0075】
別の実施態様では、図29に示されているように、カテーテル4900は、カテーテル4900の長さに沿って平行に走る2重管腔(dual lumens)を含んでいる。2重管腔は、血栓回収デバイス又はステントリーバーなどの介在デバイスの配備用のアクセス管腔4920と、灌流流体、血栓溶解剤を送るための、又は血栓物質を吸引するための灌流管腔4930とを含んでいる。
【0076】
他の機械的な血栓回収カテーテルが、上述の血管アクセス及び逆流システムと同様に使用されてもよいと認識されるべきである。機械的な血栓回収デバイスは、先端にコイルが付けられたリトリーバー、ステントリトリーバー、拡張可能なケージ、ワイヤ又はフィラメントのループ、グラスパー(grasper:捕捉器具)、ブラシなど、前述の血栓回収デバイスの変形を含んでいてもよい。これらの凝血塊リトリーバーは、虚血性合併症を引き起こす塞栓デブリスのリスクを低下させるために、吸引管腔を含んでいてもよい。代わりに、血栓回収デバイスは、血栓を除去するための洗い流し及び吸引と共に、液体渦(fluid vortices)、超音波又はレーザーエネルギー素子、バルーンなどの凝血塊粉砕要素を含んでもよい。いくつかの典型的なデバイス及び方法は、以下の米国特許公報及び特許出願公開公報に記載されており、それら全てを引用して本明細書に組み込む。米国特許第6730104号、米国特許第6663650号、米国特許第6428531号、米国特許第6379325号、米国特許第6481439号、米国特許第6929632号、米国特許第5938645号、米国特許第6824545号、米国特許第6679893号、米国特許第6685722号、米国特許第6436087号、米国特許第5794629号、米国特許出願公開第20080177245号、米国特許出願公開第20090299393号、米国特許出願公開第20040133232号、米国特許出願公開第20020183783号、米国特許出願公開第20070198028号、米国特許出願公開第20060058836号、米国特許出願公開第20060058837号、米国特許出願公開第20060058838号、米国特許出願公開第20060058838号、及び米国特許出願公開第20030212384号、及び米国特許出願公開第20020133111号。
【0077】
現在の血栓回収デバイスの主な欠点は、血栓回収デバイスが、適切な血流を回復するのに十分な閉塞を除去できず、閉塞を除去するためにさらなる試みが必要となった場合に、ガイドワイヤ及びマイクロカテーテルを閉塞と再び交差させる必要があることである。現在、単一管腔のマイクロカテーテルは血栓回収デバイスを送達するために使用される。マイクロカテーテルはガイドワイヤ上に位置決めされ、そしてガイドワイヤが除去されて、血栓回収デバイスが送達される。閉塞を除去する場合、マイクロカテーテルとデバイスの両方を引き戻すので、閉塞を横切るアクセスが失われる。したがって、除去の試みが失敗又は不完全であり、さらなる試みが必要な場合には、ガイドワイヤとマイクロカテーテルとを再び閉塞に交差させなくてはならない。上述のように、再交差の余分な工程は時間かかり、遠位側の血管損傷のリスクを招く。図30に示されるように、この開示での実施形態は、少なくとも2つの管腔を含むマイクロカテーテル4200であり、一方の管腔はガイドワイヤ2515用であり、2つ目は、ステントリーバー又はコイルリトリーバーなどの血栓回収デバイス4100の送達用である。ガイドワイヤ用の第2の管腔の存在によって、単一の管腔のみを有するマイクロカテーテルを超えて、マイクロカテーテルに外部プロファイルを追加するだろう。しかしながら、第2のガイドワイヤ管腔によって提供される時間短縮及びリスク軽減は、有利になり得る。さらに、経頚部的な使用のために、ガイドワイヤ及び/又はカテーテル壁部は、余分な管腔を追加するために必要となる全体的な増大を抑えるために、従来の壁厚よりも小さくなるように縮小されてもよい。
【0078】
<灌流デバイスの典型的な実施形態>
ある実施形態では、システムは、血栓性閉塞よりも遠位側の脳血管系及び虚血の脳組織を、例えば、動脈アクセスデバイス2010を通して血栓症閉塞10よりも遠位側のサイトに送達された灌流カテーテルを介して灌流する手段を含んでいてもよい。灌流カテーテルは、所望の位置に灌流溶液を送達するのに適している。灌流溶液は、例えば、受動的な逆流回路3500の血流ラインから又は別の動脈からの自家動脈血、酸素処理された溶液、又は他の神経保護剤を含んでいてもよい。さらに、灌流溶液は、脳組織を冷却するために低体温にされていても、虚血期間中の脳の外傷を最小限にすることが示さている別の戦略であってもよい。灌流カテーテルは、血栓溶解療法に準ずる動脈内の血栓溶解剤のボーラス投与(bolus)を送達するために使用されてもよい。典型的に、血栓溶解療法は、ボーラス投与を送達した後、閉塞を取り除くのに1~2時間かかるだろう。機械的な血栓回収はまた、遮断された動脈を首尾よく再開通するのに1~2時間かかるだろう。虚血性領域の遠位側の灌流は、脳卒中の治療手技中の脳外傷のレベルを最小限にし得る。遠位側の灌流手段の実施形態を以下に記述する。
【0079】
図31は、血栓性閉塞10を横切って位置決めされた灌流カテーテル3600を示しており、閉塞よりも遠位側にある灌流を可能にしている。ある実施形態では、カテーテルは、カテーテル内の管腔を介して設置されたガイドワイヤ上に位置決めされた符号3600である。管腔は、ガイドワイヤ管腔と灌流管腔の両方として役立つだろう。設置したら、灌流に利用可能な管腔を通る空間(throughspace)を最大限にするために、ガイドワイヤを除去してもよい。代わりに、ガイドワイヤ管腔及び灌流管腔は、ガイドワイヤが灌流中に灌流管腔に干渉せずにガイドワイヤ管腔内の所定位置に留まるように、カテーテル内の別個の2つの管腔であってもよい。灌流出口孔(perfusion exit hole)3615は、灌流管腔と通じており、カテーテル3600の遠位領域に位置している。この灌流管腔は、注入ポンプ又はシリンジなどの灌流源に接続されてもよく、また、神経保護剤などの灌流溶液及び/又は患者自身の動脈血などの酸素処理された血液を、図32に矢印P(カテーテル3600から吐出される灌流溶液の流れを表現している)で示すように、灌流出口孔3615を介して灌流するために使用されてもよい。代わりに、カテーテル3600は、血栓溶解のボーラス投与中に、灌流出口孔3615が血栓症閉塞10のすぐ近位側に又は内部に最初に位置決めされるように、閉塞10に対して位置決めされてもよい。その後、血液又は等価液による遠位側灌流を虚血性ペナンブラに供給するために、少なくとも(複数の)灌流出口孔3615のうちのいくつかが閉塞10の遠位側に配置されるように、カテーテルを再位置決めすることができる。灌流カテーテルは、上述の機械的な又は吸引による血栓回収と共に使用されてもよい。カテーテルは、アクセスデバイス2010又は遠位カテーテル2030の管腔を通して位置決めされてもよい。カテーテルは、管腔内の機械的な血栓回収手段で並んで設置されてもよく、又は機械的な血栓回収デバイスと同軸であってもよい。
【0080】
図32は、流体を灌流するための側孔(side hole)3615及び/又は端部開口(end opening)3616と通じている灌流管腔3610と、圧力モニタリング用の第2の管腔3612とを備えた灌流カテーテル3600の別の実施形態を示す。圧力モニタリング管腔3612は、最遠位端3613が閉鎖されている。管腔3612への側孔3614は、灌流圧の測定のために最遠位端3613の近位側に配置されている。カテーテル3600は、閉塞バルーンなどの拡張可能な閉塞要素を含むことができるが、拡張可能な閉塞要素を備えずに図示されている。閉塞要素は、側孔3615の遠位側又は近位側のいずれかに位置決めされてもよい。ある実施形態では、灌流源は、200mm Hg未満の灌流圧を維持するように、灌流圧測定で制御されてもよい。ある実施形態では、灌流流量は、約50ml/分~約250ml/分の範囲で灌流を維持するように制御される。
【0081】
代替の実施形態では、図33に示されるように、遠位側の灌流カテーテル(遠位灌流カテーテル)3700は閉塞バルーン3705を含んでおり、灌流出口孔3715は、閉塞バルーン3705の遠位側及び/又は近位側に位置決めされている。前の実施形態と同様に、灌流カテーテル3700は、血栓回収デバイス、吸引手段又は血栓溶解剤の動脈内投与などの再開通治療と共に使用されてもよい。カテーテル3700は、閉塞バルーン3705が閉塞10よりも遠位側に位置決めされるように、血管系内に設置される。カテーテル3700は、バルーン3705の遠位側の領域を血液又は等価液で灌流し、バルーン3705の近位側の領域を血栓溶解剤で灌流するように、構成されてもよい。この点で、図34に示されるように、カテーテル3700は、別個の灌流出口孔と通じている別個の灌流管腔3720、3725を含んでいてもよい。代わりに、図35に示すように、遠位側及び近位側の灌流出口孔は、同一の灌流管腔3630と接続しており、閉塞バルーンの遠位側及び近位側の両方の領域とも、血液又は代わりの灌流溶液を注入するのに使用される。図34又は35のいずれにも、閉塞バルーン3705の膨張及び収縮用の別個の管腔は図示されていない。この管腔は、カテーテルの壁部に埋め込まれてもよい。
【0082】
別の実施態様では、図36に示されるように、拡張可能な閉塞デバイス3705は、カテーテル3700が遠位側の血管系を灌流している間に血栓に拡張力を付与し得る拡張バルーンである。
【0083】
灌流カテーテルは、さらに、血栓除去を助ける灌流を供給するかもしれない。図37は、動脈アクセスデバイス2010を介して閉塞の遠位側に展開する近位側の灌流カテーテル(近位灌流カテーテル)3800を示す。近位灌流カテーテル3800は、閉塞バルーンなどの拡張可能な閉塞要素3829を含んでいる。近位灌流カテーテル3800はさらに、閉塞要素3829よりも近位側の位置に、1つ以上の灌流出口孔3820を含んでいる。灌流出口孔3820は、灌流出口孔3820を通って流出する液体の灌流用の灌流カテーテル3800内にある内部灌流管腔と通じている。図37をさらに参照すると、近位灌流カテーテル3800は、灌流カテーテルの閉塞要素3829が血栓10よりも遠位側で配置され拡張され、灌流出口孔3820が閉塞要素3829よりも近位側で且つ血栓10よりも遠位側に配置されるように、動脈アクセスデバイスを介して血管系に展開される。そのような配置は、血栓10の除去を助けるような背圧(back pressure)を提供する。さらに、閉塞要素3829は遠位側の塞栓保護として機能する。様々な灌流流体のいずれが使用されてもよく、そこには、例えば酸素処理した血液、神経保護剤、血栓溶解剤、及び他の流体が含まれており、所望の温度に調節されてもよい。動脈アクセスデバイス2010は、図37に示す配置において、吸引に使用することができる。動脈アクセスデバイス2010は、閉塞バルーン2020と、受動的又は能動的な吸引手段とを有していてもよい。灌流カテーテルは、血栓を、動脈アクセスデバイス2010、血流ライン2025を通って患者の体外に除去するのを容易にする。
【0084】
代わりに、図38に示されるように、近位灌流カテーテル3800は、遠位カテーテル2030を介して送達されてもよい。吸引が遠位カテーテル2030を通って開始され、灌流が近位灌流カテーテル3800を通して開始された場合、血管から遠位カテーテル2030の管腔に血栓10を除去するのを助ける逆方向の圧力勾配がある。動脈アクセスデバイス2010及び遠位カテーテル2030は同時に吸引してもよい。あるいは、吸引は、動脈アクセスデバイス2010と遠位カテーテル2030との間に順次適用してもよい。例えば、遠位カテーテル2030は、図38に示されるように位置決めしたときに吸引することができる。その後、遠位カテーテル2030は、動脈アクセスデバイス2010内に撤退させて、動脈アクセスデバイスから吸引を適用することができる。
【0085】
閉塞の遠位側への圧力の付与に加えて、近位灌流カテーテル3800からの灌流流体は、閉塞内又はすぐ近位側を起点とする小さい血管(穿通枝:perforators)に血液を供給することができる。灌流カテーテル3800のシャフトはまた、ステントリーバー又は血栓回収デバイスなどの治療装置を送達するためのレール又は導管として使用されてもよい。
【0086】
ある実施形態では、灌流管腔とガイドワイヤ管腔とは、例えば図32に示すように構成された2つの別個の管腔である。代替の実施形態では、灌流カテーテル3800の灌流管腔は、さらにガイドワイヤ管腔としても機能する。そのような配置では、バルブは、望ましくは灌流/ガイドワイヤ管腔の遠位側端部開口に位置する。ガイドワイヤが、ガイドワイヤ管腔の遠位側端部開口から遠位側に押し出されたときに、ガイドワイヤがバルブを開く。ガイドワイヤが近位側に引き込まれて管腔内に戻ると、バルブは自動的に閉じる。このように、ガイドワイヤを引き込んだ後、バルブは管腔の遠位側端部開口を封止する。バルブは、灌流圧が高すぎたときにバルブが開いて圧力を開放することにより、圧力開放弁にもなり得る。
【0087】
図39A~39Dは、近位灌流カテーテル3800の典型的な使用方法を示している。図39Aは、脳動脈内の血栓10を横切って位置決めされたガイドワイヤ3912の拡大図を示す。図39Bでは、灌流カテーテル3800の遠位領域は、(ガイドワイヤ3912を介して)血栓10を横切って位置決めされており、未拡張の閉塞要素3829は、血栓10に遠位側に位置決めされている。ガイドワイヤ3912は、灌流カテーテル3800のガイドワイヤ管腔の遠位端から突出する。図39Cでは、ガイドワイヤは、灌流カテーテル3800のガイドワイヤ管腔内に引っ込められたため、図示されていない。ガイドワイヤ管腔が灌流カテーテル3800用の灌流管腔としても機能する場合、矢印Pで図34Cに示すように管腔が今や灌流出口孔3820を介して灌流に使用できるように、ガイドワイヤ/灌流管腔の遠位端にある遠位バルブ3916(ダックビルバルブ(duckbill valve)など)は自動的に閉じる。(図39Cに示すように)閉塞要素3829が拡張していないときは、灌流出口孔3820は、遠位側を灌流するのに使用することができる。図39Dでは、拡張可能な閉塞要素3829は、動脈中で拡張されている。その後、図39Dの矢印P1で示すように、灌流出口孔3820は、閉塞要素3829よりも近位側の灌流に使用することができる。
【0088】
灌流カテーテル3600、3800は、血圧モニタリング用の要素を含んでいてもよい。ある実施形態では、圧力モニタリング要素は、灌流カテーテル3600、3800の専用内腔(dedicated internal lumen)であり、内腔は液体で満たされており、灌流カテーテルの近位端の圧力変換器に接続される。カテーテル自身の圧力変換器も使用されてもよい。代わりに、圧力計測用ガイドワイヤが、灌流カテーテル3600、3800の内腔を通して、圧力をモニターする位置に挿入されてもよい。
【0089】
脳灌流のための代わりの手段は、Frazeeらによって記述されるような脳の逆行性灌流(cerebral retroperfusion)を含んでいる。この実施形態は、虚血性脳卒中の治療中における、内頚静脈を介した選択的カニューレ挿入及び横静脈洞の閉塞と、上矢状静脈洞を介した脳組織への血液注入とを含んでいる。以下の論文は、脳の逆行性灌流について記述しており、その全体を参照して本願明細書に組み込まれる。Frazee, J. G.及びX. Luo (1999)「逆行性経静脈灌流("Retrograde transvenous perfusion")」Crit Care Clin 15(4):777-88, vii、Frazee, J. G., X. Luoら(1998)「逆行性経静脈脳血管灌流:脳卒中の秘密の治療("Retrograde transvenous neuroperfusion: a back door treatment for stroke")」Stroke 29(9):1912-6。この灌流は、脳組織の保護の提供に加えて、脳動脈に逆流勾配(retrograde flow gradient)をもたらすだろう。逆流システム100と共に使用される逆行性灌流成分(retroperfusion component)は、血栓性閉塞10の再開通中に逆流ライン内の塞栓デブリスを捕獲するのを助けるだけでなく、脳組織に酸素を提供することもできる。
【0090】
例えば、米国特許第6,435,189号及び米国特許第6,295,990号に記載されているような他の灌流カテーテル又はシステムを、システム100と共に用いることができると認識されるべきであり、それらの米国特許の全体を参照して本明細書に組み込む。
【0091】
<経頚部の血管閉鎖用の典型的な方法及びデバイス>
いずれかのタイプの閉鎖要素は、自動閉鎖要素(self-closing element)、縫合糸ベースの閉鎖要素(suture-based closing element)、静水圧封止要素(hydrostatic seal element)を含め、手技の最後に動脈アクセスデバイス2010又はイントロデューサシース2110(手技的なシース)を引き抜く前に、総頚動脈壁の貫通部に又はその周囲に展開してもよい。米国特許第20100042118号、発明の名称「縫合糸送達装置("Suture Delivery Device")」及び米国特許第20100228269号、発明の名称「血管閉鎖クリップ装置("Vessel Closure Clip Device")」には、典型的な閉鎖装置及び方法が記載されており、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【0092】
閉鎖要素は、手技の開始時又はその付近で「予備閉鎖("pre-closure")」と呼ばれる工程において展開されてもよく、又は、閉鎖要素は、シースが引き抜かれるときに展開することもできる。ある実施形態では、血管閉鎖手段は、縫合糸ベースの血管クローザーデバイスである。縫合糸ベースの血管クローザーデバイスは、シース除去後に縫合糸の端部を結んだときに、1つ又は複数のステッチ(又は縫合糸:stitch)がアクセスサイトに止血を提供できるように、血管アクセスサイトを横切って1つ以上の縫合糸を設置することができる。縫合糸は、動脈切開部を通した手技用シースの挿入前に、又は動脈切開部からのシースの除去後に適用することができる。もし予備閉鎖工程を用いれば、デバイスは、縫合糸の配置後には、手技用シースの配置前及び配置中を除いて動脈切開部の一時的な止血を維持することができ、そして、縫合糸を結ぶ前を除いて、手技用シースを引き抜いた後に一時的な止血を維持することもできる。いくつかの縫合ベースの血管開示装置は、米国特許第6,562,052号、米国特許第7,001,400号及び米国特許第7,004,952号に記載されており、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【0093】
ある実施形態ではシステムは、超音波プローブ要素を含んでおり、それは、超音波画像診断システムと共に使用された時に、頚動脈アクセスの所望のサイトを識別して、経皮的穿刺に適していることを決定できるように、例えば、血管に血管疾患がないことを確認できるように構成されており、プローブはさらに、内頚静脈などの周囲の解剖学的構造を視覚化して、それらの他の構造を含むことなしにアクセスを達成できることを保証するだろう。さらに、プローブは、止血が達成されたことを確認するために、血管閉鎖後のアクセスサイトを視覚化するのに使用されてもよい。必要なら、プローブは、止血を確実にするために、必要に応じて穿刺のサイトに局所的な圧迫を提供するのに使用されてもよい。例えば、血管の閉鎖後、プローブは閉鎖サイトを画像化するのに使用される。血液が、サイトからあふれているのが見えた場合には、プローブを押し下げてサイトを圧迫する。ユーザーは、プローブに加えている圧力を定期的に緩めて、止血が達成されたかどうか評価する。もし止血されていない場合、再び圧力をかける。もし止血されていれば、プローブを除去してもよい。
【0094】
<典型的な使用方法>
図1に図示されているように、動脈アクセスデバイス2010は、患者の総頚動脈CCAへ経頚部的に直接導入される。これは経皮的穿刺又は直接的な切開によって行うことができる。穿刺の場合、最初の動脈穿刺を正確に行うために超音波画像診断を使用することができる。動脈アクセスデバイス2010は、遠位チップが総頚動脈、又は内頚動脈ICAの近位側若しくは遠位側の頸部、錐体部若しくは海綿静脈洞部に位置決めされるように、血管系に通される。着脱可能な近位側伸張部は、蛍光透視下で、ユーザーの手が放射線による被ばくなしに、動脈アクセスデバイス2010を設置するために使用されてもよい。2010年7月12日に出願された米国特許出願第12/834,869号には、着脱可能な近位側伸張部の典型的な実施形態について記載されており、参照して本明細書に組み込む。
【0095】
動脈アクセスデバイスが位置決めされたら、動脈アクセスデバイスを通して設置されたマイクロカテーテルを介して、診断用血管造影(diagnostic angiogram)を行ってもよい。マイクロカテーテルは、閉塞よりも近位側及び遠位側の両方への血管造影注射用であってもよい。診断用血管造影は、(1つ又は複数の)閉塞を除去の進捗状況を決定するために、手技の全体にわたって行なわれる。
【0096】
動脈吸引デバイスが閉塞バルーンを有している場合、バルーンをこの段階で膨張させて、吸引を動脈アクセスデバイスに適用してもよい。吸引デバイスの先端は、閉塞からある程度はなれた近位側にあるので、吸引力を閉塞に直接かけることができない。しかしながら、時として、この近位側の吸引は、いくつか又は全ての閉塞を除去するのに役立つかもしれない。アクセスデバイスからの吸引が完了したら、順行性の血流が動脈中で再開されるように、閉塞バルーンを収縮させてもよい。
【0097】
遠位カテーテル2030は、動脈アクセスデバイスを通して設置され、遠位チップが閉塞サイトに到達するように位置決めされる。所望により、ガイドワイヤ、マイクロカテーテル及び遠位カテーテル2030を含むデバイスの同軸のシステム(coaxial system)は、動脈アクセスデバイス2010を通して一緒に挿通され、脳閉塞に向かって前進させる。代わりに、マイクロカテーテルチップ(microcatheter tip)を備えた又は備えていない先細りにされた拡張器を、マイクロカテーテルの代わりに用いてもよい。代わりに、マイクロカテーテルとガイドワイヤを、先細りにされた拡張器の内部に設置してもよい。着脱可能な近位側伸張部は、もし使用するなら、テレスコープ式デバイスの導入の前に除去してもよく、又は、デバイスは、着脱可能な近位側伸張部を通じて挿入されてもよい。その後、マイクロカテーテル、又は先細りにされた拡張器、及びガイドワイヤを前進させて、脳閉塞に近接させ交差させる。マイクロカテーテル又は拡張器は、閉塞よりも近位側又は遠位側にある脳循環の血管造影を行なうために使用されてもよい。マイクロカテーテルはさらに、遠位カテーテルを前進させるためのレールとして使用されてもよい。
【0098】
典型的には、閉塞まで安全にナビゲートできるサイズの大きい遠位カテーテルが選択され、閉塞の吸引のための力及び管腔面積を最大にするだろう。その後、吸引は遠位カテーテルを通して開始される。これは、手動で、吸引ポンプで、又は他の吸引源で行うことができ、又は上述した血流コントローラを介して行うことができる。血栓が大きすぎて又は血管系に強く埋め込まれていて、吸引のみでは閉塞を除去できない場合には、閉塞を除去するために、さらなる工程が行われる。血栓回収デバイスは、凝血塊を除去する動脈アクセスデバイスを通して展開されてもよい。凝血塊回収中に、遠位塞栓の量を最小にするか又は排除するために、受動的又は能動的な吸引を動脈アクセスデバイスを介して適用してもよい。
【0099】
遠位カテーテルが閉塞に到達しない場合、又は第1の閉塞の除去後さらに遠位側の第2の閉塞に到達することが必要になった場合に、より小径の第2の遠位カテーテルを、第1の遠位カテーテルを通して挿入して、閉塞サイトに位置決めしてもよい。代わりに、第1の遠位カテーテルを除去して、第2の遠位カテーテルと交換してもよい。ガイドワイヤ及び/又はマイクロカテーテルは、交換を容易にするために、第1の遠位カテーテルを通して設置されでもよい。目的のサイトに到達したら、上述の通り第2のカテーテルを通して吸引を開始してもよく、又は閉塞を除去する助けになるように、追加のデバイスを挿入してもよい。
【0100】
所望サイズの遠位カテーテルを凝血塊のすぐ近位側の位置までナビゲートするのが困難な場合には、図6又は図7に示されるように、デバイスを凝血塊よりも遠位側に展開し、そして拡張させて、遠位カテーテルの前進を助けるようにアンカーとして機能させる。所望なら、第2の遠位カテーテルは、閉塞の近位面にアクセスするための第1の遠位カテーテルの支持を形成するように、テレスコープ式の方法で使用されてもよい。代わりに、図8に示すような先細りにされた拡張器は、遠位カテーテルのナビゲーションを容易にするために、マイクロカテーテルに加えて又はその代わりに使用されてもよい。動脈アクセスデバイス2010及び遠位カテーテル2030は、図15図17に図示されているように受動的又は能動的な吸引手段に接続されてもよく、又は図18に示されるような血流コントローラ3400に接続されてもよい。1つの実施形態では、動脈アクセスデバイス2010は、受動的な吸引に接続され、遠位カテーテル2030は能動的な吸引に接続される。別の実施態様では、両方のデバイスとも能動的な吸引に接続される。手技中に、ユーザーは、要望に合わせて受動的及び/又は能動的な吸引源への接続を開閉することができる。例えば、遠位カテーテル2030が凝血塊の近位面に位置決めされたら、閉塞を除去することを目的に閉塞に吸引を適用するために、能動的な吸引を開始してもよい。ロックシリンジを使用して追加の吸引工程を望むなら、シリンジを取り外して、空にして、再び取り付け、そして追加の吸引のために再ロックされてもよい。
【0101】
別の実施態様では、マイクロカテーテルは、閉塞の中又は閉塞を超えて、コイル又はステントリーバーなどの血栓回収デバイスを送達するのに使用される。その後、デバイスは、閉塞を除去するために、遠位カテーテルの吸引によって助けられながら、遠位カテーテルに向かって引かれる。その後、閉塞は、遠位カテーテル、血栓回収デバイス、及び/又はマイクロカテーテルを使用して、動脈アクセスデバイス中に引き戻される。さらに別の実施形態では、閉塞を除去するためにマイクロカテーテル及び/又は血栓回収デバイスを近位側に引いたときに、ガイドワイヤが閉塞を横切ったまま残されるように、マイクロカテーテルは、図11及び図12に示すように2つの管腔を有している。
【0102】
手技中のいつでも、閉塞にかかる順方向動脈圧を低減するために、動脈アクセスデバイス上のバルーンを現段階で膨張させてもよい。膨張したバルーンが、血管中の動脈アクセスの安定性を向上させて、動脈アクセスデバイスを通るデバイスの前進の支持を向上させてもよい。さらに、患者の虚血性ペナンブラへの側副血流を損なうことなく、塞栓の保護を提供するために動脈アクセスデバイスを上述の受動的又は能動的な吸引に接続してもよい。これは、逆流、血流の停止、及び順行性血流の選択的期間(selective periods)、例えば、閉塞がガイドカテーテルの方向に引かれ及び/又はガイドカテーテルに入る期間中に開始された逆流などによって達成されてもよい。必要に応じて、1つ又は複数の閉塞を除去するために、多数のデバイス又はデバイスの複数のサイズを使用してもよい。手技の最後には、動脈アクセスカテーテルは、短いイントロデューサシースに交換されてもよく、また、血管クローザーデバイスは、アクセスサイトで止血を達成するのに使用されてもよい。超音波が再び使用されてもよく、この場合は、止血を確認及び/又は確実にするためである。適切な場合、超音波プローブは止血が達成されるまで、アクセスサイトに圧力をかけるのに使用されてもよい。
【0103】
この手技の変形例では、動脈アクセスデバイスは、予めCCAに挿入されているイントロデューサシースを通って挿入される。この配置の一例は図2に示されている。このシナリオ(scenario)では、デバイスが遮断されて、吸引が遅くなるか又は止まってしまった場合には、動脈アクセスデバイスを手技中に取り出してテーブル上できれいにしてもよく、又は、必要に応じて、動脈アクセスを損なうことなしに別のサイズ又はタイプのカテーテルと交換されてもよい。さらに、手技の最後で、血管クローザーデバイスを利用する前に、シースを交換する必要はない。イントロデューサシースは、手技中にユーザーの手が放射線よって被ばくするのを制限するように、着脱可能な近位側伸張部を組み込んでいてもよい。使用した場合、近位側伸張部は、血管クローザーデバイスを備えたアクセスサイトの閉鎖より前に除去されてもよい。
【0104】
さらに別の実施形態では、システムは、例えば、動脈アクセスデバイス2010中の側枝(sidearm)を通って、動脈内投与での血栓溶解療法を実施するのに使用されてもよい。例えば、血栓溶解療法は、動脈アクセスデバイス2010を通して、又は遠位カテーテル2030を通して、血栓症閉塞10に投与されてもよい。別の実施態様では、システムは、動脈アクセスデバイス2010に挿入されるマイクロカテーテルを介して動脈内投与での血栓溶解療法を実施するために使用されてもよい。ミクロカテーテルは、血栓溶解薬を投与するために、血栓症閉塞10のサイトに送達される。血栓溶解療法は、機械的な血栓回収若しくは吸引と共に又はそれらの代わりに、実施されてもよい。
【0105】
さらなる実施形態では、システムは、手技中に遠位側の保護及び/又は灌流を提供するために使用される。この実施形態では、灌流カテーテルは、動脈アクセスデバイス2010又は遠位カテーテル2030を通って挿入され、管腔を横切って位置決めされ、そして閉塞よりも遠位側のポイントで膨張される。灌流カテーテルは、注入ポンプに接続されて、灌流カテーテルの遠位開口を介して、酸素処理された血液又は灌流溶液を虚血脳に灌流する。ある実施形態では、灌流カテーテルは、バルーンが先端に付けられたカテーテルである。バルーンは閉塞よりも遠位側の位置で膨張される。このバルーンは、塞栓が、閉塞の除去中又は再開通中に遠位側に前進するのを防ぐように機能する。灌流カテーテルはまた、灌流カテーテルの近位ポートを介して閉塞バルーンの近位側を灌流するために、洗い流し源(flush source)に接続されてもよい。この手技は、本質的には、閉塞に背圧を提供しており、それを除去するのを助けてもよい。
【0106】
脳閉塞の治療の前又は後のいずれかに治療を必要とする頚動脈狭窄がさらに存在する場合には、イントロデューサシースを介して血管形成バルーン又はステントを狭窄内で展開してもよい。頚動脈狭窄のインターベンション中に塞栓保護が望ましいときは、イントロデューサシースは、図3に示されるように閉塞バルーンと逆流ラインへの接続とを有していてもよく、また、同時係属中の米国特許出願第12/176,250号(参照して本明細書に組み込まれる)に記載されているように、CAS手技は逆流の塞栓保護下で行なわれてもよい。その後、イントロデューサシースは、ICA内に動脈アクセスデバイスを設置するために使用される。代わりに、イントロデューサシースは、開口を備え、図4に示すような2つの閉塞バルーンを有して、頚動脈狭窄でのバルーン血管形成又はステント留置と、その後に脳閉塞の治療するために、ICA及び脳循環へのデバイス(遠位カテーテルなど)の導入とを可能にする。
【0107】
本明細書は、多くの特定(specifics)を含んでいるが、これらは、請求されている又は請求される可能性のある発明の範囲に対する制限としてではなく、特定の実施態様に特有の特徴を説明するものとして解釈されるべきである。別個の実施態様との関係で本明細書に記載された複数の特徴は、単一の実施態様において組み合わせて実行することもできる。反対に、単一の実施態様との関係で記載された様々な特徴は、複数の実施態様で別々に、又は適切なサブコンビネーション(sub-combination)で、実行することができる。さらに、ある特徴が、ある組合せで機能すると上述され、そして出願当初にそのように請求されていたとしても、請求された組合せからの1つ以上の特徴は、時としてその組合せから除外され、請求された組合せは、サブコンビネーション又はサブコンビネーションの変形として記載されるだろう。同様に、操作は、特定の順序で図面に図示されているが、そのような操作は、望ましい結果を達成するには、図示された特定の順序又は順次的な順序(sequential order)で行われること又は図示された全ての操作が行われることが必要である、とは理解されるべきではない。
【0108】
様々な方法及びデバイスの実施態様が、いくつかの変形例を参照して本願明細書に詳細に記述されているが、他の変形例、実施形態、使用方法及びそれらの組合せもまた可能であると認識されるべきである。したがって、添付された特許請求の範囲の精神及び範囲は、本明細書に含まれる実施態様の記載に制限されるべきでない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39A
図39B
図39C
図39D
【手続補正書】
【提出日】2024-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
総頚動脈内に導入するのに適した動脈アクセスデバイス(2010)であって、前記動脈アクセスデバイスが内腔を有する前記動脈アクセスデバイスと、
前記動脈アクセスデバイスを介して遠位カテーテルを脳動脈に挿入できるように、前記動脈アクセスデバイスの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた遠位カテーテル(2030)であって、内径で規定された内腔を有する前記遠位カテーテルと、
前記遠位カテーテルの前記内腔を通って軸方向に挿入できる寸法及び形状にされた細長い内側部材(2652)であって、内腔を有する内側部材と、
を含み、
前記細長い内側部材(2652)は、硬質な材料から構成されたそれらの近位部分より軟質な材料から構成されたそれらの遠位部分を有する可変剛性を有する柔軟な遠位領域を有し、前記遠位カテーテルの内径と前記ガイドワイヤの外径との間の滑らかな移行部を形成するように構成された外径を有することを特徴とする、患者の脳動脈の閉塞を治療するためのデバイスのシステム。
【請求項2】
前記内側部材(2652)の内腔を介して脳動脈内に導入するのに適するように構成されたガイドワイヤを更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記内側部材は、実質的に一定の外径を有する第2の最遠位領域(2653)を有し、
前記ガイドワイヤが前記最遠位領域から突出することを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
さらに、前記遠位カテーテルの遠位端に放射線不透過マーカーを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記遠位カテーテルおよび前記細長い内側部材が、前記動脈アクセスデバイスからテレスコープ式に伸びるように作動可能であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
さらに、前記動脈アクセスデバイスに接続された血流ライン(2025)を含み、
前記血流ラインは、前記動脈アクセスシースからリターンサイトに血液を流すための経路を提供することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
さらに、シャントに接続されて前記シャントを介して血流を調節するのに適した血流コントローラ(3325、3400)を含むことを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
外径約0.35~0.45mm(0.014~0.018インチ)のガイドワイヤを受け入れるために、前記内側部材の内腔の内径が約0.5~0.6mm(0.020~0.024インチ)であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記遠位カテーテルが、少なくとも約0.9mm(0.035インチ)の内腔の直径を有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記動脈アクセスデバイスが、開口を介して動脈内に直接導入するのに適した経頚部アクセスシースを含み、前記開口は、前記患者の鎖骨の上側で且つ前記患者の総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈とに分岐する分岐位置より下側に位置することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記遠位カテーテル(2030)が前記動脈アクセスデバイス(2010)より柔軟であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記遠位カテーテルが、多くとも約2.4mm(0.095インチ)の内腔の直径を有することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記柔軟な遠位領域が、前記遠位カテーテルとガイドワイヤとの間の滑らかな移行部を形成するような長さおよび柔軟性を有することを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記柔軟な遠位領域が、ICAの錐体部内の弯曲の範囲内で曲がるように、柔軟であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載のシステム。
【外国語明細書】