(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042128
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】感染リスク推定方法及び感染リスク推定装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240321BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240321BHJP
C12M 1/28 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
C12M1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012319
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
(72)【発明者】
【氏名】神成 淳司
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達也
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB13
4B029CC01
4B029DG08
4B029FA10
4B029HA09
4B063QA01
4B063QQ06
4B063QQ10
4B063QS10
(57)【要約】
【課題】口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体に含まれる検出対象粒子を計測することで、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できる感染リスク推定方法及び感染リスク推定装置を提供すること。
【解決手段】口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する気体捕集ステップと、気体捕集ステップで捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させる蒸発ステップと、蒸発ステップで飛沫の水分を蒸発させた排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測ステップと、微粒子計測ステップで計測した検出対象粒子の個数を閾値と比較する比較ステップと、比較ステップで検出対象粒子の個数が閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定する感染リスク推定ステップとを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する気体捕集ステップと、
前記気体捕集ステップで捕集した前記排出気体に含まれる前記飛沫の水分を蒸発させる蒸発ステップと、
前記蒸発ステップで前記飛沫の前記水分を蒸発させた前記排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測ステップと、
前記微粒子計測ステップで計測した前記検出対象粒子の前記個数を閾値と比較する比較ステップと、
前記比較ステップで前記検出対象粒子の前記個数が前記閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定する感染リスク推定ステップと
を有する
ことを特徴とする感染リスク推定方法。
【請求項2】
前記蒸発ステップでは赤外線を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の感染リスク推定方法。
【請求項3】
前記微粒子計測ステップでは、気中パーティクルカウンターを用いる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感染リスク推定方法。
【請求項4】
前記微粒子計測ステップでは、前記気中パーティクルカウンターに吸引して計測した前記排出気体を密封容器に排出する
ことを特徴とする請求項3に記載の感染リスク推定方法。
【請求項5】
前記密封容器を、前記気体捕集ステップで前記排出気体を捕集する捕集容器とした
ことを特徴とする請求項4に記載の感染リスク推定方法。
【請求項6】
前記微粒子計測ステップで計測した後の前記排出気体に対して、前記病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行う処理ステップを
更に有する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法。
【請求項7】
前記粒子径の範囲を、20~300nmとした
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法。
【請求項8】
前記粒子径の範囲を、80~120nmとした
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法。
【請求項9】
気体を捕集する捕集容器と、
前記捕集容器で捕集した前記気体に含まれる水分を蒸発させる蒸発手段と、
前記蒸発手段で前記水分を蒸発させた前記気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測手段と、
前記微粒子計測手段で計測した前記検出対象粒子の前記個数を閾値と比較する処理手段と
を備え、
前記処理手段では、前記検出対象粒子の前記個数が前記閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定する
ことを特徴とする感染リスク推定装置。
【請求項10】
前記蒸発手段として赤外線を用いる
ことを特徴とする請求項9に記載の感染リスク推定装置。
【請求項11】
前記微粒子計測手段として、気中パーティクルカウンターを用いる
ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の感染リスク推定装置。
【請求項12】
前記微粒子計測手段で計測した前記気体を排出する密封容器を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の感染リスク推定装置。
【請求項13】
前記密封容器を、前記捕集容器とする
ことを特徴とする請求項12に記載の感染リスク推定装置。
【請求項14】
前記微粒子計測手段で計測した後の前記気体に対して、前記病原微生物を不活化若しくは死滅させる病原微生物処理手段を備える
ことを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の感染リスク推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体から、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定する感染リスク推定方法及び感染リスク推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、COVID-19が社会問題となっており、経済にも多大な影響を与えている。
密集、密接、及び密室を避け、マスクの着用や対人距離の確保などの各種予防策を講じ、更にはPCR検査可能数も増えている。
PCR検査によれば高い確率で感染者を特定できるが、検査結果までに数日間のタイムラグがある。
仮に、コロナウイルスを放出する可能性のある疾患者をリアルタイムで推定し、疾患者の入室を制限することができれば、不安を感じることなく飲食や会議を行うことができる。
特許文献1には、室内に浮遊するウイルス数を、パーティクルカウンターを用いてリアルタイムに推定することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1は、浮遊ウイルス不活化評価方法を提案するものであるため、室内にウイルスを噴霧するために用いるウイルス噴霧液の噴霧方法を所定の条件に特定している。
すなわち、特許文献1では、特定している噴霧方法でなければ、リアルタイムにウイルス数を正確に計測することができない。
口腔又は鼻腔から排出される飛沫は、飛沫の大きさが様々であるため、特許文献1で提案されている方法では、検出対象とするウイルスを正確に計測することはできない。
【0005】
本発明は、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体に含まれる検出対象粒子を計測することで、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できる感染リスク推定方法及び感染リスク推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の感染リスク推定方法は、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する気体捕集ステップと、前記気体捕集ステップで捕集した前記排出気体に含まれる前記飛沫の水分を蒸発させる蒸発ステップと、前記蒸発ステップで前記飛沫の前記水分を蒸発させた前記排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測ステップと、前記微粒子計測ステップで計測した前記検出対象粒子の前記個数を閾値と比較する比較ステップと、前記比較ステップで前記検出対象粒子の前記個数が前記閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定する感染リスク推定ステップとを有することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の感染リスク推定方法において、前記蒸発ステップでは赤外線を用いることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の感染リスク推定方法において、前記微粒子計測ステップでは、気中パーティクルカウンターを用いることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の感染リスク推定方法において、前記微粒子計測ステップでは、前記気中パーティクルカウンターに吸引して計測した前記排出気体を密封容器6に排出することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の感染リスク推定方法において、前記密封容器6を、前記気体捕集ステップで前記排出気体を捕集する捕集容器1としたことを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法において、前記微粒子計測ステップで計測した後の前記排出気体に対して、前記病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行う処理ステップを更に有することを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法において、前記粒子径の範囲を、20~300nmとしたことを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の感染リスク推定方法において、前記粒子径の範囲を、80~120nmとしたことを特徴とする。
請求項9記載の感染リスク推定装置は、気体を捕集する捕集容器1と、前記捕集容器1で捕集した前記気体に含まれる水分を蒸発させる蒸発手段2と、前記蒸発手段2で前記水分を蒸発させた前記気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測手段3と、前記微粒子計測手段3で計測した前記検出対象粒子の前記個数を閾値と比較する処理手段4とを備え、前記処理手段4では、前記検出対象粒子の前記個数が前記閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定することを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項9に記載の感染リスク推定装置において、前記蒸発手段2として赤外線を用いることを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項9又は請求項10に記載の感染リスク推定装置において、前記微粒子計測手段3として、気中パーティクルカウンターを用いることを特徴とする。
請求項12記載の本発明は、請求項11に記載の感染リスク推定装置において、前記微粒子計測手段3で計測した前記気体を排出する密封容器6を備えることを特徴とする。
請求項13記載の本発明は、請求項12に記載の感染リスク推定装置において、前記密封容器6を、前記捕集容器1とすることを特徴とする。
請求項14記載の本発明は、請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の感染リスク推定装置において、前記微粒子計測手段3で計測した後の前記気体に対して、前記病原微生物を不活化若しくは死滅させる病原微生物処理手段7を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させることで、排出気体に含まれる検出対象粒子を計測することができ、計測した検出対象粒子の個数から、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できるため、特に、密集、密接、密室における感染を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による感染リスク推定方法に用いる装置の構成図
【
図2】本実施例による感染リスク推定方法を示す処理フロー図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による感染リスク推定方法は、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する気体捕集ステップと、気体捕集ステップで捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させる蒸発ステップと、蒸発ステップで飛沫の水分を蒸発させた排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測ステップと、微粒子計測ステップで計測した検出対象粒子の個数を閾値と比較する比較ステップと、比較ステップで検出対象粒子の個数が閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定する感染リスク推定ステップとを有するものである。本実施の形態によれば、捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させることで、排出気体に含まれる検出対象粒子を計測することができ、計測した検出対象粒子の個数から、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できるため、特に、密集、密接、密室における感染を未然に防止できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による感染リスク推定方法において、蒸発ステップでは赤外線を用いるものである。本実施の形態によれば、浮遊状態にある飛沫に対して効果的にエネルギーを与えることができるため、浮遊状態を保った状態で飛沫から短時間で水分を蒸発させることができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による感染リスク推定方法において、微粒子計測ステップでは、気中パーティクルカウンターを用いるものである。本実施の形態によれば、リアルタイムに微粒子計測を行うことができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による感染リスク推定方法において、微粒子計測ステップでは、気中パーティクルカウンターに吸引して計測した排出気体を密封容器に排出するものである。本実施の形態によれば、捕集した排出気体を計測後に密封容器に排出することで、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による感染リスク推定方法において、密封容器を、気体捕集ステップで排出気体を捕集する捕集容器としたものである。本実施の形態によれば、捕集した排出気体を計測後に再び密封容器に戻し、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。また、本実施の形態によれば、排出気体を再び捕集容器に戻して循環させることで、蒸発ステップを継続させながら計測できるため、計測データの変化から蒸発状態を把握することも可能となる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれかの実施の形態による感染リスク推定方法において、微粒子計測ステップで計測した後の排出気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行う処理ステップを更に有するものである。本実施の形態によれば、感染リスクのある排出気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行うことで、感染リスクを防止することができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6のいずれかの実施の形態による感染リスク推定方法において、粒子径の範囲を、20~300nmとしたものである。本実施の形態によれば、ウイルスを検出対象とすることができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第1から第6のいずれかの実施の形態による感染リスク推定方法において、粒子径の範囲を、80~120nmとしたものである。本実施の形態によれば、インフルエンザウイルスやコロナウイルスを検出対象とすることができる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態による感染リスク推定装置は、気体を捕集する捕集容器と、捕集容器で捕集した気体に含まれる水分を蒸発させる蒸発手段と、蒸発手段で水分を蒸発させた気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測手段と、微粒子計測手段で計測した検出対象粒子の個数を閾値と比較する処理手段とを備え、処理手段では、検出対象粒子の個数が閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定するものである。本実施の形態によれば、捕集した気体に含まれる水分を蒸発させることで、気体に含まれる検出対象粒子を計測することができ、計測した検出対象粒子の個数から、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できるため、特に、密集、密接、密室における感染を未然に防止できる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態は、第9の実施の形態による感染リスク推定装置において、蒸発手段として赤外線を用いるものである。本実施の形態によれば、例えば浮遊状態にある飛沫に対して効果的にエネルギーを与えることができるため、浮遊状態を保った状態で飛沫から短時間で水分を蒸発させることができる。
【0019】
本発明の第11の実施の形態は、第9又は第10の実施の形態による感染リスク推定装置において、微粒子計測手段として気中パーティクルカウンターを用いるものである。本実施の形態によれば、リアルタイムに微粒子計測を行うことができる。
【0020】
本発明の第12の実施の形態は、第11の実施の形態による感染リスク推定装置において、微粒子計測手段で計測した気体を排出する密封容器を備えるものである。本実施の形態によれば、捕集した気体を計測後に密封容器に排出することで、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。
【0021】
本発明の第13の実施の形態は、第12の実施の形態による感染リスク推定装置において、密封容器を、気体捕集ステップで排出気体を捕集する捕集容器としたものである。本実施の形態によれば、捕集した排出気体を計測後に再び密封容器に戻し、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。また、本実施の形態によれば、排出気体を再び捕集容器に戻して循環させることで、蒸発ステップを継続させながら計測できるため、計測データの変化から蒸発状態を把握することも可能となる。
【0022】
本発明の第14の実施の形態は、第9から第13のいずれかの実施の形態による感染リスク推定装置において、微粒子計測手段で計測した後の気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる病原微生物処理手段を備えるものである。本実施の形態によれば、感染リスクのある気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行うことで、感染リスクを防止することができる。
【実施例0023】
以下本発明の一実施例について図面とともに説明する。
図1は本実施例による感染リスク推定装置の構成図である。
本実施例による感染リスク推定装置には、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する捕集容器1と、捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させる蒸発手段2と、水分を蒸発させた排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する微粒子計測手段3と、病原微生物による感染リスクを推定する処理手段4とを用いる。
捕集容器1は、導入される排出気体によって、又は構造的に内容積が拡大するものであってもよい。伸縮性の大きな材料を用いることで、導入される排出気体によって捕集容器1の内容積を拡大でき、ピストンとシリンダーのような構造を備えることで、構造的に捕集容器1の内容積を拡大できる。
蒸発手段2には赤外線を用いることが好ましい。800nm~1mm、特に1.5μm~2.0μmの波長域の赤外線を用いることで、飛沫若しくは粒子の水分を蒸発させ、また水分の蒸発時における熱による病原微生物の不活化又は死滅効果を期待できる。赤外線を用いることで、浮遊状態にある飛沫に対して効果的にエネルギーを与えることができるため、浮遊状態を保った状態で飛沫から短時間で水分を蒸発させることができる。
微粒子計測手段3には、気中パーティクルカウンターを用いることが好ましい。光散乱方式による気中パーティクルカウンターは、粒子にレーザー光を当てて散乱光を発生させ、発生した散乱光をフォトダイオードで検知して電圧信号に変換する。電圧信号の強さで粒径を判定し、電圧信号の数で粒子の個数を判定する。単位時間に吸い込んだ気体中で粒子個数を計測して出力するか、又は吸い込んだ気体の中の粒子個数を計測しながら連続して出力する。気中パーティクルカウンターを用いることで、リアルタイムに微粒子計測を行うことができる。
【0024】
病原微生物は、細菌、リケッチア、ウイルスなどに分類され、その他に、真菌、原虫、寄生虫、有毒生物が存在するが、本発明では、特に粒子直径が20nm~300nmの範囲であるウイルスを検出対象とし、更には、粒子直径が80~120nmの範囲であるインフルエンザウイルスやコロナウイルスを検出対象とする。例えば、ノロウイルスの粒子径は35nm~40nm、インフルエンザウイルスの粒子径は80nm~120nm、コロナウイルスの粒子径は100nmである。なお、粒子径が2μmの結核菌を検出対象粒子とすることもできる。
【0025】
処理手段4は、検出対象粒子の粒子径と粒子個数についての閾値を記憶する記憶部41と、計測した検出対象粒子の個数を閾値と比較する比較部42と、検出対象粒子の個数が閾値以上であると、病原微生物による感染リスクを推定する推定部43とを有している。
処理手段4では、単一のウイルスに対する感染リスクを推定する他、複数のウイルスに対する感染リスクを、総合して、又は別々に推定することができる。すなわち、単一のウイルスとして、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)に対する感染リスクを推定する他、複数のウイルスとして、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)、A型インフルエンザウイルス (influenzavirusA)、B型インフルエンザウイルス (influenzavirusB) 、及びC型インフルエンザウイルス (influenzavirusC)のいずれかに対する感染リスクを推定する。
推定部43で推定された結果は出力手段5によって出力される。出力手段5では、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)による感染リスクを表示する他、コロナウイルス及びインフルエンザウイルスのいずれかによる感染リスクを表示することができる。
【0026】
密封容器6は、微粒子計測手段3で計測した排出気体を回収するものであり、病原微生物処理手段7を備えている。捕集した排出気体を計測後に密封容器6に排出することで、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。
病原微生物処理手段7は、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行う。病原微生物処理手段7には、190nm~350nmの波長域の紫外線を用いることができ、中心波長を213nm、215nm、230nm、又は266nmとすることが有効である。
なお、密封容器6を、排出気体を捕集する捕集容器1とすることもできる。排出気体を回収する密封容器6を捕集容器1とすることで、ウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者の排出気体を大気に放出することがない。また、排出気体を再び捕集容器1に戻して循環させることで、蒸発処理を継続させながら計測できるため、計測データの変化から蒸発状態を把握することも可能となる。
【0027】
図2は本実施例による感染リスク推定方法を示す処理フロー図である。
S11における気体捕集ステップでは、口腔又は鼻腔から排出される飛沫を含む排出気体を捕集する。
S12における蒸発ステップでは、気体捕集ステップS11で捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させる。蒸発ステップ12では、飛沫が完全に喪失するまで行うことが好ましい。
S13における微粒子計測ステップでは、蒸発ステップS12で飛沫の水分を蒸発させた排出気体中に存在し、粒子径が特定範囲内である検出対象粒子の個数を計測する。
S14における比較ステップでは、微粒子計測ステップS13で計測した検出対象粒子の個数を閾値と比較する。
S15における感染リスク推定ステップでは、比較ステップS14で検出対象粒子の個数が閾値以上であると、病原微生物による感染リスクがあると推定し(S15A)、検出対象粒子の個数が閾値未満であると、病原微生物による感染リスクが無いと推定する(S15B)。
S16における処理ステップでは、微粒子計測ステップS13で計測した後の排出気体に対して、特に、S15Aにおいて感染リスクがあると推定された排出気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行う。
【0028】
以上のように、本実施例によれば、捕集した排出気体に含まれる飛沫の水分を蒸発させることで、排出気体に含まれる検出対象粒子を計測することができ、計測した検出対象粒子の個数から、飛沫感染や空気感染を感染経路とするウイルスや細菌を放出する可能性のある疾患者を推定できるため、特に、密集、密接、密室における感染を未然に防止できる。
また、処理ステップS16を有することで、感染リスクのある排出気体に対して、病原微生物を不活化若しくは死滅させる処理を行うことで、感染リスクを防止することができる。