(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042132
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】捲回電極体および二次電池と二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20240321BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240321BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240321BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240321BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20240321BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240321BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240321BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240321BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0587
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01G11/86
H01G11/52
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146625
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】川村 渥史
(72)【発明者】
【氏名】山田 智之
【テーマコード(参考)】
5E078
5H028
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB13
5E078BA36
5E078BA44
5E078BA53
5E078BA68
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA20
5H028AA05
5H028BB00
5H028BB03
5H028BB07
5H028CC12
5H028HH00
5H028HH03
5H028HH05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ05
5H029CJ07
5H029CJ13
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ08
5H050AA19
5H050BA08
5H050BA14
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA19
5H050FA05
5H050GA09
5H050GA13
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】スプリングバックの発生が抑えられ、かつ注液性の高い二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される二次電池の製造方法は、第1セパレータ30Aと正極と第2セパレータ30Bと負極20とを積層し捲回して、扁平形状の捲回電極体を作製する第1工程と、捲回電極体を電池ケース内に配置する第2工程と、電池ケース内に電解液を注液する第3工程と、を有し、第1工程において、第1セパレータ30Aと負極20との剥離強度をA(N/m)とし、第2セパレータ30Bと負極20との剥離強度をB(N/m)としたときに、前記剥離強度Aと前記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上となるように前記捲回電極体を作製する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回して、扁平形状の捲回電極体を作製する第1工程と、
1つまたは複数の前記捲回電極体を、電池ケース内に配置する第2工程と、
前記電池ケース内に電解液を注液する第3工程と、
を有し、
前記第1工程において、前記第1セパレータと前記負極との剥離強度をA(N/m)とし、前記第2セパレータと前記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、前記剥離強度Aと前記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上となるように前記捲回電極体を作製する、
二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、
前記剥離強度Aおよび前記剥離強度Bのうち、剥離強度の弱い方を、0.1N/m以上とする、
請求項1に記載の二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、
前記第1セパレータと前記負極とは、接着層を介して接着され、
前記第2セパレータと前記負極とは、接着層を介して接着される、
請求項1または2に記載の二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、
前記電池ケース内に複数の前記捲回電極体を配置する、
請求項1または2に記載の二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、
前記負極は、負極活物質層を含み、
前記負極活物質層の捲回軸方向の長さを、250mm以上とする、
請求項1または2に記載の二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、
前記正極は、正極活物質層を含み、
前記正極活物質層の充填密度が、3.5g/cm3以上であり、
前記負極は、負極活物質層を含み、
前記負極活物質層の充填密度が、1.4g/cm3以上である、
前記捲回電極体を作製する、
請求項1または2に記載の二次電池の製造方法。
【請求項7】
帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回してなる、扁平形状の捲回電極体であって、
前記第1セパレータと前記負極との剥離強度をA(N/m)とし、前記第2セパレータと前記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、前記剥離強度Aと前記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上である、捲回電極体。
【請求項8】
帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回してなる、扁平形状の捲回電極体と、
電解液と
1つまたは複数の前記捲回電極体と前記電解液とを収容する電池ケースと、
を備え、
前記捲回電極体は、前記第1セパレータと前記負極との剥離強度をA(N/m)とし、前記第2セパレータと前記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、前記剥離強度Aと前記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上である、
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲回電極体および二次電池と二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯状の正極と帯状の負極とが帯状のセパレータを介して積層され、捲回されてなる扁平形状の捲回電極体を備えた電池が知られている。これに関連して、例えば特許文献1には、捲回電極体において、正極とセパレータを接着させ、負極とセパレータを接着させることで、充電電圧を4.38V以上まで高く設定してもセパレータから電極(正極または負極)が剥離しにくくなる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、スプリングバックの抑制と高い注液性(含浸性)とをバランスする観点から、上記技術には更なる改良が必要であった。すなわち、扁平形状の捲回電極体には、扁平形状に成形されてから電池ケースに挿入されるまでの間に、円筒形状に復元しようとする力が生じる(以下では、この現象を「スプリングバック」という)。通常、捲回電極体の寸法が大型化するにつれて、捲回軸方向の長さ(幅)も長くなり、その傾向は顕著なものとなる。スプリングバックが生じると、正負極間の極間距離が大きくなり、抵抗の増大や電荷担体(例えばLi)の析出等が発生しやすくなる。また、スプリングバックが生じた捲回電極体は、電池ケース内へ収容したり電極端子と電気的に接続したりすることが難しくなり、生産効率が低下することもあり得る。
【0005】
ここで、2枚のセパレータ(第1セパレータおよび第2セパレータ)を用いて扁平形状の捲回電極体を作製する場合、特許文献1の技術を参照すると、第1セパレータと負極、および、第2セパレータと負極で、剥離強度(接着強度)を同程度とすることが考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、スプリングバックの発生を抑制するために、第1セパレータと負極の間の剥離強度、および、第2セパレータと負極の間の剥離強度をいずれも強くした場合は、捲回電極体の注液性(含浸性)が悪化する課題があった。一方で、注液性(含浸性)を高めるために、第1セパレータと負極の間の剥離強度、および、第2セパレータと負極の間の剥離強度をいずれも弱くした場合は、スプリングバックが大きくなり、電荷担体の析出耐性が悪化する背反があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、スプリングバックの発生が抑えられ、かつ注液性の高い二次電池とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回して、扁平形状の捲回電極体を作製する第1工程と、1つまたは複数の上記捲回電極体を、電池ケース内に配置する第2工程と、上記電池ケース内に電解液を注液する第3工程と、を有する二次電池の製造方法が提供される。上記第1工程において、上記第1セパレータと上記負極との剥離強度をA(N/m)とし、上記第2セパレータと上記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、上記剥離強度Aと上記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上となるように上記捲回電極体を作製する。
【0008】
ここに開示される製造方法では、電解液を注液する第3工程より前の段階で、捲回電極体の、第1セパレータと負極の間の剥離強度A、および、第2セパレータと負極の間の剥離強度Bに、0.5N/m以上の差をつけている。これにより、スプリングバックの発生を抑制して、Li析出耐性と注液性(含侵性)とに優れた二次電池を実現できる。すなわち、一方側のセパレータと負極との間の剥離強度を、他方側に比べて強くすることで、捲回電極体の形状保持性を高めて、例えば第2工程において、スプリングバックの発生を抑制できる。また、他方のセパレータと負極との間の剥離強度を、一方側に比べて弱くすることで、セパレータと負極との間から捲回電極体の内部まで電解液が浸み込みやすくなり、注液性(含浸性)を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る二次電池を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿う模式的な縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のIV-IV線に沿う模式的な横断面図である。
【
図5】
図5は、封口板に取り付けられた複数の捲回電極体を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、捲回電極体の上端部の模式的な部分断面図である。
【
図7】
図7は、捲回電極体の構成を示す模式図である。
【
図8】
図8は、負極と2枚のセパレータとの界面を表す模式図である。
【
図9】
図9は、セパレータの接着層の表面粗さと、剥離強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」の意と共に「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、電解液を介して正極と負極の間で電荷担体が移動することによって繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般をいう。二次電池は、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)等も包含する。以下では、リチウムイオン二次電池を対象とした場合の実施形態について説明する。
【0012】
<二次電池の構造>
図1は、本実施形態に係る二次電池100の斜視図である。
図2は、
図1中のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3は、
図1中のIII-III線に沿う模式的な縦断面図である。
図4は、
図1中のIV-IV線に沿う模式的な横断面図である。なお、以下の説明において、符号Xは「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。また、奥行方向XにおけるFは「前」を示し、Rrは「後」を示す。幅方向YにおけるLは「左」を示し、Rは「右」を示す。高さ方向ZにおけるUは「上」を示し、Dは「下」を示す。ただし、これらの方向は説明の便宜上の定めたものであり、二次電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0013】
図2に示すように、二次電池100は、捲回電極体40と、電解液(図示せず)と、捲回電極体40および電解液を収容する電池ケース50と、正極端子60と、負極端子65と、を備えている。二次電池100は、非水電解液二次電池である。二次電池100は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池であることが好ましい。二次電池100は、ここに開示される捲回電極体40を備えることによって特徴付けられ、それ以外の構成は従来同様であってよい。
【0014】
電池ケース50は、捲回電極体40および電解液を収容する筐体である。
図1に示すように、電池ケース50は、ここでは扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。電池ケース50には、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。電池ケース50は、金属製であるとよい。電池ケース50の材料の一例として、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等が挙げられる。
図1、
図2に示すように、電池ケース50は、外装体52と封口板54とを備えている。電池ケース50は、外装体52と封口板54とを含む角形電池であることが好ましい。
【0015】
外装体52は、
図2に示すように、上面に開口52hを有する扁平な有底角型の容器である。
図1に示すように、外装体52は、平面視で略矩形状の底壁52aと、底壁52aの長辺から高さ方向Zの上方に延び、相互に対向する一対の長側壁52bと、底壁52aの短辺から高さ方向Zの上方に延び、相互に対向する一対の短側壁52cと、を備えている。底壁52aは、開口52hと対向している。短側壁52cの面積は、長側壁52bよりも小さい。
【0016】
封口板54は、
図2に示すように、外装体52の開口52hを塞ぐ板状部材である。封口板54は、平面視で略矩形状である。封口板54の周縁は、外装体52の開口52hに接合(例えば溶接接合)されている。これによって、電池ケース50は気密に封止(密閉)されている。封口板54には、注液孔55と、ガス排出弁57と、2つの端子挿通孔58,59と、が設けられている。注液孔55は、外装体52に封口板54を組み付けた後、電池ケース50の内部に電解液を注液するための貫通孔である。注液孔55は、電解液の注液後に封止部材56で封止されている。ガス排出弁57は、電池ケース50内の圧力が所定値以上になった際に破断(開口)し、当該ガスを外部に排出するように設計された薄肉部である。
【0017】
電解液は従来と同様でよく、特に制限はない。電解液は、例えば、非水系溶媒(有機溶媒)と支持塩(電解質塩)とを含む非水電解液である。電解液は非水電解液であることが好ましい。非水系溶媒の一例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が挙げられる。支持塩の一例として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。電解液は、必要に応じて添加剤を含有してもよい。
【0018】
正極端子60は、封口板54の幅方向Yの一方側の端部(
図1、
図2の左端部)に取り付けられている。負極端子65は、封口板54の幅方向Yの他方側の端部(
図1、
図2の右端部)に取り付けられている。
図2に示すように、正極端子60および負極端子65は、端子挿通孔58,59を挿通して封口板54の内部から外部へと延びている。封口板54の端子挿通孔58,59には、それぞれ樹脂製のガスケット90が装着されている。これによって、端子挿通孔58,59に挿通された正極端子60および負極端子65が封口板54と絶縁されている。
【0019】
正極端子60は、
図1、
図2に示すように、封口板54の外側の面において、板状の正極外部導電部材62と接続されている。負極端子65は、板状の負極外部導電部材67と接続されている。正極外部導電部材62および負極外部導電部材67は、それぞれ樹脂製の外部絶縁部材92によって封口板54と絶縁されている。正極外部導電部材62および負極外部導電部材67は、外部接続部材(バスバー等)を介して、他の電池や外部機器と接続される。
【0020】
図2に示すように、正極端子60の下端部60cは、外装体52の内部で、正極集電部材70と接続されている。正極端子60は、正極集電部材70を介して捲回電極体40の正極10(
図7参照)と接続されている。負極端子65の下端部65cは、外装体52の内部で、負極集電部材75と接続されている。負極端子65は、負極集電部材75を介して捲回電極体40の負極20(
図7参照)と接続されている。
【0021】
図5は、封口板54に取り付けられた複数の捲回電極体40を模式的に示す斜視図である。
図3~
図5に示すように、二次電池100では、電池ケース50内に複数個(具体的には3個)の捲回電極体40が奥行方向Xに並んで収容されている。このような構成の場合、とりわけスプリングバックが発生しやすく、また特に奥行方向Xの真ん中の捲回電極体40では、電解液の含浸性が低下しやすい。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。ただし、1つの電池ケース50内に配置される捲回電極体40の数は特に限定されず、2つ以上(複数)であってもよいし、1つであってもよい。
【0022】
図2、
図4に示すように、捲回電極体40の幅方向Yにおける一方の端部(左端部)には正極タブ群42が設けられ、他方の端部(右端部)には負極タブ群44が設けられている。正極タブ群42には、正極集電部材70が付設されている。正極タブ群42は、正極集電部材70を介して正極端子60と接続されている。負極タブ群44には、負極集電部材75が付設されている。負極タブ群44には、負極集電部材75を介して負極端子65と接続されている。二次電池100は、捲回電極体40の左右に正極タブ群42と負極タブ群44とが位置する、所謂、横タブ構造である。ただし、二次電池100は、捲回電極体40の上下に正極タブ群42と負極タブ群44とが位置する、所謂、上タブ構造であってもよい。
【0023】
図3に示すように、捲回電極体40は、外形が扁平形状である。扁平形状の捲回電極体40は、外表面が湾曲した一対の湾曲部40rと、当該一対の湾曲部40rを連結する外表面が平坦な平坦部40fと、を有している。
図2、
図5からわかるように、複数の捲回電極体40は、それぞれ捲回軸WL(
図7参照)が二次電池100の幅方向Yと平行になる向きで、電池ケース50の内部に配置されている。一対の湾曲部40rは、外装体52の底壁52aおよび封口板54と対向している。一対の平坦部40fは、外装体52の一対の長側壁52bと対向している。複数の捲回電極体40は、ここでは絶縁性の樹脂シートからなる電極体ホルダ98に覆われた状態で外装体52の内部に収容されている。
【0024】
図6は、捲回電極体40の捲回軸方向と垂直な断面を表す模式的な部分断面図である。
図7は、捲回電極体40の構成を示す模式図である。なお、
図7等における符号MDは、捲回電極体40およびセパレータ30A,30Bの長手方向(即ち、搬送方向)を意味し、機械方向(machine direction)を示している。また、符号TDは、「MD方向」に直交する方向を意味し、「幅方向(transverse direction)」を示している。「TD方向」は、ここでは上記した二次電池100の幅方向Yと同じ方向である。
【0025】
図7に示すように、捲回電極体40は、帯状の正極10と帯状の負極20とが、2枚の帯状のセパレータ30A,30Bを介して互いに絶縁された状態に積層され、捲回軸WLを中心として長手方向に捲回されて構成されている。このような扁平形状の捲回電極体40は、例えば後述する製造方法に記載するように、筒状に捲回した電極体(筒状体)をプレス成形することによって形成し得る。あるいは、例えば特許文献1に記載されるように、帯状の正極10と帯状の負極20と2枚の帯状のセパレータ30A,30Bとを扁平形状に捲回することによって形成し得る。
【0026】
図6に示すように、正極10の捲回終端10eは、負極20の捲回終端20eよりも捲回内周側に配置されている。負極20の捲回終端20eは、正極10の捲回終端10eよりも捲回外周側に配置されている。セパレータ30A,30Bの捲回終端30eは、正極10の捲回終端10eおよび負極20の捲回終端20eよりも捲回外周側に配置されている。捲回電極体40の最外周は、セパレータ30Aで構成されている。セパレータ30A,30Bの捲回終端30eは、ここでは捲回電極体40の平坦部40fに位置している。セパレータ30A,30Bの捲回終端30eには、巻止めテープ48が貼付されている。
【0027】
捲回電極体40の厚みT(
図5参照)は、5mm以上が好ましく、8mm以上がより好ましく、30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。厚みTが増すと、プレス成形後に湾曲部40rから生じる弾性作用が大きくなる。その結果、湾曲部40rに残留した弾性作用によって平坦部40fが膨張するスプリングバックが生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。なお、「捲回電極体40の厚みT」とは、平坦部40fに対して垂直な方向における平坦部40fの長さ(平均長さ)である。
【0028】
捲回電極体40の高さH(
図5参照)は、120mm以下が好ましく、60~120mmがより好ましく、80~110mmがさらに好ましく、90~100mmが特に好ましい。なお、「捲回電極体40の高さH」とは、捲回電極体40の捲回軸WL方向に対して垂直で、且つ捲回電極体40の厚み方向に対して垂直な方向の長さ(平均長さ)をいう。具体的には、一方の湾曲部40rの上端から他方の湾曲部40rの下端までの長さ(平均長さ)をいう。
【0029】
捲回電極体40の捲回数は、目的とする二次電池100の性能や製造効率等を考慮して適宜調節することが好ましい。捲回数は、20回以上が好ましく、25回以上がより好ましい。捲回数が多いと、厚みTが大きい場合と同様に、プレス成形後の弾性作用が大きくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。
以下、捲回電極体40の具体的な構成について説明する。
【0030】
正極10は従来と同様でよく、特に制限はない。正極10は、
図7に示すように、帯状の部材である。正極10は、帯状の正極芯体12と、正極芯体12の少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層14および保護層16と、を備えている。正極10は、正極芯体12と正極活物質層14とを備えることが好ましい。正極活物質層14は、高容量化の観点から、正極芯体12の両面に形成されていることが好ましい。保護層16は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。正極芯体12には、所定の導電性を有した金属箔を好ましく使用できる。正極芯体12は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等から構成されていることが好ましい。正極芯体12の厚みは、5~30μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。
【0031】
正極10では、幅方向TDの一方の端辺から外側(
図7の左側)に向かって正極タブ12tが突出している。正極タブ12tは、長手方向MDにおいて、所定の間隔を空けて複数設けられている。正極タブ12tは、正極活物質層14が形成されておらず、正極芯体12が露出した部分(集電体露出部)である。
図4、
図7に示すように、複数の正極タブ12tは、二次電池100の長辺方向Yの一方の端部(
図4、
図7の左端部)で積層され、正極タブ群42を構成している。
【0032】
正極活物質層14は、
図7に示すように、正極芯体12の長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層14は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含んでいる。正極活物質層は、正極活物質とバインダと導電材とを含むことが好ましい。正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むことが好ましい。これにより、高性能の正極10を安定的に実現すると共に、スプリングバックの発生を好適に抑制できる。リチウム遷移金属複合酸化物の一好適例として、一般式LiMO
2(Mは、Li以外の1種または2種以上の遷移金属元素である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。なかでも、上記M元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、Niを含むリチウム遷移金属複合酸化物が特に好ましい。正極活物質は、平均粒子径(D
50粒子径)が2~20μmの粒子状であることが好ましい。
【0033】
正極バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂が挙げられる。正極バインダはPVdFから構成されていてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。正極活物質層14は、上記成分の他に任意の成分をさらに含んでもよい。
【0034】
正極活物質層14における正極活物質(例えばリチウム遷移金属複合酸化物)の充填密度は、電池容量向上の観点から、3.0g/cm3以上が好ましく、3.5g/cm3以上がより好ましい。高密度の正極活物質層14は、プレス成形後の弾性作用が大きくなるため、スプリングバックが発生しやすい。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。正極活物質層14の充填密度は、例えば6.0g/cm3以下、5.0g/cm3以下であってもよい。
【0035】
正極活物質層14の厚みは、50~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。正極活物質層14の厚みが増加すると、プレス成形後の弾性作用が大きくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。正極活物質層14の幅W1(
図7参照)は、概ね100~400mm、例えば200~350mmであってもよい。なお、「活物質層の厚み」とは、芯体の両面に活物質層が形成されている場合は、両面の合計厚みをいう。また、「活物質層の幅」とは、捲回電極体40の幅方向TDにおける活物質層の長さ(平均長さ)をいう。
【0036】
保護層16は、正極活物質層14よりも電気伝導性が低くなるように構成された層である。保護層16は、正極10の正極タブ12t側の端辺に隣接した領域に設けられている。保護層16は、正極10の長手方向MDに沿って帯状に形成されている。保護層16を備えることによって、セパレータ30A,30Bが破損した際に正極芯体12と負極活物質層24とが直接接触して内部短絡することを防止できる。保護層16は、例えば、アルミナ等の絶縁性のセラミック粒子を含むこと好ましい。保護層16は、セラミック粒子を正極芯体12の表面に定着させるためのバインダを含有していてもよい。
【0037】
負極20は、
図7に示すように、帯状の部材である。負極20は、帯状の負極芯体22と、負極芯体22の少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24とを備えている。負極20は、負極芯体22と負極活物質層24とを備えることが好ましい。負極活物質層24は、高容量化の観点から、負極芯体22の両面に形成されていることが好ましい。負極20を構成する各部材には、一般的な二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)で使用され得る従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、負極芯体22には、所定の導電性を有した金属箔を好ましく使用できる。負極芯体22は、例えば、銅や銅合金等から構成されていることが好ましい。負極芯体22の厚みは、5~30μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
【0038】
負極20では、幅方向TDの一方の端辺から外側(
図7の右側)に向かって負極タブ22tが突出している。負極タブ22tは、長手方向MDにおいて、所定の間隔を空けて複数設けられている。負極タブ22tは、負極活物質層24が形成されておらず、負極芯体22が露出した部分(集電体露出部)である。
図4、
図7に示すように、複数の負極タブ22tは、二次電池100の長辺方向Yの一方の端部(
図4、
図7の右端部)で積層され、負極タブ群44を構成している。
【0039】
負極活物質層24は、
図7に示すように、正極芯体12の長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層24は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。負極活物質層24は、負極活物質とバインダとを含むことが好ましい。負極活物質は、黒鉛等の炭素材料を含むことが好ましい。負極活物質は、シリコン系材料を含んでいてもよい。負極活物質は、平均粒子径(D
50粒子径)が3~25μmの粒子状であることが好ましい。
【0040】
負極バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類や、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース類が挙げられる。負極バインダは、SBRとCMCから構成されていてもよい。負極活物質層24は、上記成分の他に任意の成分をさらに含んでもよい。
【0041】
負極活物質層24における負極活物質(例えば黒鉛)の充填密度は、1.0g/cm3以上が好ましく、1.4g/cm3以上がより好ましい。負極活物質層24の充填密度は、例えば3.0g/cm3以下、2.0g/cm3以下であってもよい。
【0042】
負極活物質層24の厚みは、50~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。負極活物質層24の厚みが増加すると、プレス成形後の弾性作用が大きくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。負極活物質層24は、幅方向TDの両端で正極活物質層14を覆っている。負極活物質層24の幅W2(
図7参照)は、正極活物質層14の幅W1との関係において、200mm以上が好ましく、250mm以上がより好ましい。負極活物質層24の幅W2が長くなるにつれて捲回電極体40は大型化するため、プレス成形後の弾性作用が大きくなる。したがって、上記厚みが大きい場合と同様に、ここに開示される技術を適用することが特に効果的である。負極活物質層24の幅W2は、概ね450mm以下、例えば350mm以下であってもよい。
【0043】
2枚のセパレータ30A,30Bは、
図7に示すように、それぞれ帯状の部材である。セパレータ30A,30Bは、正極10と負極20との間に配置されている。セパレータ30A,30Bは、電荷担体が通過し得る微細な貫通孔が複数形成された絶縁シートである。セパレータ30A,30Bを正極10と負極20との間に介在させることによって、正極10と負極20との接触を防止すると共に、正極10と負極20との間に電荷担体(例えばリチウムイオン)を移動させることができる。セパレータ30A,30Bのうち一方は第1セパレータの一例であり、他方は第2セパレータの一例である。
【0044】
図8は、負極20と2枚のセパレータ30A,30Bとの界面を表す模式図である。
図8に示すように、セパレータ30Aは、基材層32と、基材層32の少なくとも一方の表面に形成された接着層34Aと、を備えている。セパレータ30Bは、基材層32と、基材層32の少なくとも一方の表面に形成された接着層34Bと、を備えている。接着層34A,34Bは、基材層32の表面に直接設けられていてもよいし、他の層を介して基材層32の上に設けられていてもよい。例えば、基材層32と接着層34A,34Bとの間に、無機フィラーとバインダとを含む耐熱層が設けられていてもよい。
【0045】
接着層34A,34Bは、少なくとも負極20に対向する側の面に設けられている。セパレータ30Aの接着層34Aは、負極20の一方の面(第1の面)と当接している。セパレータ30Bの接着層34Bは、負極20の他方の面(第2の面)と当接している。セパレータ30A,30Bは、負極20に対向する側の面に接着層34A,34Bを備えることが好ましい。接着層は、正極10に対向する側の面にも設けられていてもよい。
【0046】
基材層32は、従来公知の二次電池のセパレータに用いられるものを特に制限なく使用できる。基材層32は、多孔質のシート状部材であることが好ましい。基材層32は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなることが好ましく、PEからなることがさらに好ましい。基材層32は、単層構造であってもよく、2層以上、例えば3層構造であってもよい。
【0047】
接着層34A,34Bは、負極20(典型的には負極活物質層24)と当接している。接着層34A,34Bは、例えばプレス成形等によって、負極20(典型的には負極活物質層24)と一体化されている。セパレータ30A,30Bは、接着層34A,34Bを介して、負極20とそれぞれ接着されていることが好ましい。これによって、負極20に起因するスプリングバックの発生を好適に抑えることができる。
【0048】
なお、本発明者らの検討によれば、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用い、負極活物質として炭素材料(典型的には黒鉛)を用いた構成では、捲回電極体40のスプリングバックにおいて、負極20の影響が大きくなりがちである。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物は炭素材料よりも硬く、圧縮方向の力に対する変位が小さい。このため、プレス成形後に厚みが増加するような変化が生じ難く、スプリングバックへの影響は小さい。これに対して、炭素材料は、リチウム遷移金属複合酸化物と比較すると相対的に嵩高く、圧縮方向の力に対する変位が大きい。このため、プレス成形後に厚みの増加を生じやすく、スプリングバックへの影響が大きくなりがちである。したがって、スプリングバックの発生を抑制するには、負極20に対向する側の面に接着層34A,34Bを備えることが殊に効果的である。
【0049】
接着層34A,34Bは、接着層バインダを含んでいる。接着層バインダとしては、例えば、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。なかでも、高い柔軟性を有し、負極20に対する接着性をより好適に発揮できることから、フッ素系樹脂やアクリル系樹脂が好ましい。接着層34A,34Bに含まれる接着層バインダは同じであってもよく、異なっていてもよい。接着層34A,34Bは、さらに他の材料(例えばセラミック粒子等の無機粒子)を含んでいてもよい。接着層34A,34Bが無機粒子を含む場合、無機粒子の含有割合は、接着層34A,34B全体の80質量%以下に抑えることが好ましい。
【0050】
セパレータ30A,30Bは、幅方向TDの両端で負極活物質層24を覆っている。セパレータ30A,30Bの幅W3(
図7参照)は、負極活物質層24の幅W2よりも長い。正極活物質層14の幅W1と、負極活物質層24の幅W2と、セパレータ30A,30Bの幅W3とは、W1<W2<W3の関係を満たしている。
【0051】
本実施形態では、セパレータ30A,30Bのうち一方のセパレータと負極20との剥離強度をA(N/m)とし、他方のセパレータと負極20との剥離強度をB(N/m)としたときに、剥離強度Aと剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上であることが好ましい。ただし、剥離強度は、例えば電解液と接触したり、あるいは充放電したりすることによって変化しうる。そのため、例えば充放電サイクルを繰り返した後には、剥離強度Aと剥離強度Bとが上記関係を満たしていなくてもよい。なお、「剥離強度」の測定方法については、後述する実施例に記載する。
【0052】
<二次電池の製造方法>
上記のような二次電池100は、例えば、次の工程:(1)扁平形状の捲回電極体40を作製する第1工程;(2)電池組立体を作製する第2工程;(3)電池ケース50内に電解液を注液する第3工程;含む製造方法によって製造することができる。それ以外の製造プロセスは従来同様であってよい。また、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0053】
(1)第1工程は、正極10と負極20とをセパレータ30A,30Bを用いて、扁平形状の捲回電極体を作製する工程である。(1)第1工程は、(1-1)セパレータ用意工程と、(1-2)捲回工程と、(1-3)プレス成形工程とを、この順に含むことが好ましい。(1-2)捲回工程あるいは(1-3)プレス成形工程の後には、乾燥工程をさらに含んでもよい。
【0054】
(1-1)セパレータ用意工程では、例えば、負極20と対向する側の面に接着層34A,34Bを有するセパレータ30A,30Bを用意する。特に限定されるものではないが、接着層34A,34Bの目付量は、0.5~10g/m2が好ましく、1~5g/m2がより好ましく、例えば3.5~4.5g/m2である。なお、「接着層の目付量」とは、接着層が形成されている面積(m2)に対する接着層の質量(g)である。セパレータ30A,30Bは、正極10と対向する側の面にも接着層を備えていてもよい。
【0055】
特に限定されるものではないが、接着層34A,34Bの表面粗さは、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましい。接着層34A,34Bの表面に微細な凹凸があると、アンカー効果によって負極20(典型的には負極活物質層24)が接着層34A,34Bに食い込み、セパレータ30A,30Bと負極20とが接着しやすくなる。接着層34A,34Bの表面粗さは、概ね1μm以下、例えば0.5μm以下であってもよい。なお、「表面粗さ」とは、国際規格であるISO 25178に準拠して測定される算術平均高さSaをいう。
【0056】
セパレータ30Aの接着層34Aとセパレータ30Bの接着層34Bとは、相互に表面粗さが異なっていることが好ましい。これにより、(1-3)プレス成形工程において、負極20の一方の面(第1の面)と他方の面(第2の面)とで、セパレータ30A,30Bに対する剥離強度を好適に異ならせることができる。
【0057】
セパレータ30A,30Bが正極10と対向する面にも接着層を備えている場合、正極10と対向する側の接着層の目付量は、負極20と対向する側の接着層34Aの目付量よりも相対的に大きくしてもよい。これにより、(1-3)プレス成形工程において、セパレータ30A,30Bの負極20側と正極10側とで剥離強度を好適に異ならせることができる。
【0058】
(1-2)捲回工程では、帯状の正極10と帯状の負極20と帯状のセパレータ30A,30Bとを備えた筒状の捲回体(筒状体)を作製する。具体的にはまず、巻き取りユニットを備えた巻き取り装置を用意する。次に、正極10と負極20とセパレータ30A,30Bとを、それぞれリール状に巻いて、巻き取り装置にセットする。次に、2枚のセパレータ30A,30Bの先端部を巻き取りユニットの巻芯に固定する。すなわち、巻芯で2枚のセパレータ30A,30Bを挟持する。次に、帯状の正極10と帯状の負極20とを、2枚のセパレータ30A,30Bを介して積層する。このとき、セパレータ30A,30Bの接着層34A,34Bを負極20に対向させる。そして、帯状の正極10と帯状の負極20を供給しながら巻芯を回転させることにより、正極10と負極20とセパレータ30A,30Bとを捲回する。捲回が終了したら、セパレータ30A,30Bの終端部に、巻止めテープ48を貼り付ける。以上のようにして、筒状体を作製する。
【0059】
(1-3)プレス成形工程では、捲回後の筒状体をプレス成形することによって、
図7に示すような、扁平形状に成形する。プレス成形の条件(例えば圧力や保持時間等)は、例えば接着層34A,34Bの柔軟性や、捲回数等に応じて、適宜調節することが好ましい。プレス成形は、常温で行ってもよく、加熱しながら(高温で)行ってもよい。プレス成形により、捲回電極体40の幅方向Yにおける一方の端部には、正極タブ12tが積層された正極タブ群42が形成され、他方の端部には、負極タブ22tが積層された負極タブ群44が形成される。そして、捲回電極体40の幅方向Yの中央部には、幅W1の長さで、正極活物質層14と負極活物質層24とが対向した反応部が形成される。
【0060】
本実施形態では、プレス成形により、セパレータ30Aと負極20の一方の面(第1の面)とが、接着層34Aを介して接着される。また、セパレータ30Bと負極20の他方の面(第2の面)とが、接着層34Bを介して接着される。具体的には、プレス成形において筒状体を押し潰すと、平坦部40fに位置する正極10、負極20およびセパレータ30A,30Bの各々に、大きな圧力が加わる。このとき、接着層34A,34Bが負極活物質層24の表面の凹凸に合わせて押圧変形される。その結果、セパレータ30A,30Bと負極20とが接着(圧着)される。
【0061】
本実施形態では、セパレータ30A,30Bのうち一方のセパレータと負極20との剥離強度をA(N/m)とし、他方のセパレータと負極20との剥離強度をB(N/m)としたときに、剥離強度Aと剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上である。これにより、プレス成形後にスプリングバックの発生を抑制して、Li析出耐性と注液性(含侵性)とに優れた二次電池100を実現できる。剥離強度Aと剥離強度Bの差は、0.5N/m以上が好ましく、0.7N/m以上がより好ましく、0.9N/m以上がさらに好ましい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。剥離強度Aと剥離強度Bの差は、概ね2.0N/m以下、例えば1.6N/m以下であってもよい。
【0062】
剥離強度Aおよび前記剥離強度Bのうち、剥離強度の弱い方は、0.1N/m以上とすることが好ましい。弱い方の剥離強度は、0.2~0.7N/mが好ましく、0.2~0.5N/mがより好ましく、0.2~0.3N/mがさらに好ましい。これにより、プレス成形後から第2工程までの間、扁平形状を維持しやすくなり、スプリングバックの発生をより高いレベルで抑制できる。一方、剥離強度Aおよび前記剥離強度Bのうち、強い方の剥離強度は、0.7~1.8N/mが好ましく、1.0~1.8N/mがより好ましく、1.5~1.8N/mがさらに好ましい。これにより、極間距離が開いて注液性(含浸性)がより良く高められる。なお、剥離強度の値は、例えば、接着層34A,34Bの目付量や、セパレータ30A,30Bの表面粗さ等で調整できる。
【0063】
セパレータ30Aが正極10と対向する面にも接着層を備えている場合、セパレータ30Aと正極10との剥離強度は、セパレータ30Aと負極20との剥離強度に比べて、相対的に大きくてもよい。セパレータ30Bと正極10との剥離強度は、セパレータ30Bと負極20との剥離強度に比べて、相対的に大きくてもよい。セパレータ30A,30Bと正極10との剥離強度は、それぞれ、0.8N/m以上が好ましく、1.0N/m以上がより好ましく、1.2N/m以上がさらに好ましい。セパレータ30A,30Bと正極10との剥離強度は、それぞれ、2.0N/m以下が好ましく、1.8N/m以下がより好ましい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。以上のようにして、正極10と負極20とセパレータ30A,30Bとを備えた捲回電極体40を作製する。
【0064】
(2)第2工程では、第1工程で作成した扁平形状の捲回電極体40を、電池ケース50の内部に配置して、電池組立体を作製する。ここで、電池組立体とは、二次電池100の製造工程において、捲回電極体40と、捲回電極体40を収容する電池ケース50とを備え、電解液を注液する前の段階のアッセンブリをいう。高容量化の観点から、電池ケース50の内部には、複数の捲回電極体40を配置することが好ましい。
【0065】
(3)第3工程では、第2工程で作成した電池組立体の電池ケース50の内部に、電解液を注液する。電解液は、電池ケース50に設けられた注液孔55から注液することが好ましい。以上のようにして、二次電池100を製造できる。
【0066】
<二次電池の用途>
二次電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0067】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0068】
<捲回電極体の作製>
まず、正極として、正極芯体(厚み13μmのアルミニウム箔)の両面に正極活物質層(厚さ60μm、幅280mm)が付与されたものを準備した。正極活物質層は、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=97.5:1.5:1.0の質量比で含んでいる。
【0069】
また、負極として、負極芯体(厚み8μmの銅箔)の両面に負極活物質層(厚さ80μm、幅285mm)が付与されたものを準備した。負極活物質層は、負極活物質としての黒鉛(グラファイト、C)と、バインダとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)とを、C:CMC:SBR=98.3:0.7:1.0の質量比で含んでいる。
【0070】
また、セパレータとして、ポリエチレン(PE)製の基材層の表面に、接着層(目付量4.0g/m2、表1に示す表面粗さ)が形成されたものを2枚準備した。接着層は、アルミナ粉末とポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを含んでいる。接着層におけるPVdFの含有量は、25質量%とした。なお、接着層の表面粗さは、レーザー顕微鏡で表面を観察し、得られた画像を画像処理することによって算出した。
【0071】
そして、上述のような捲回工程を行って、2枚のセパレータを介して正極と負極とを積層しながら捲回して、筒状の捲回体(筒状体)を作製した。なお、セパレータは、接着層が負極に対向するように配置した。また、捲回数は33回に設定した。
【0072】
<スプリングバック量の測定>
次に、下記の手順でプレス成形工程を行いつつ、スプリングバック量を測定した。
(手順1)上記作製した筒状体を、125kN(すなわち、単位面積当たり、0.54kN/cm2)の圧力で3秒間押し潰してプレス成形し、扁平形状に拉げさせた。そして、上記プレス成形時の捲回電極体の厚み(下死点厚み)を測定した。
(手順2)プレス成形から5秒~1分の間の所定の時間に、100Nを負荷した時の捲回電極体の厚み(100N厚み)を測定した。
(手順3)下死点厚みと100N厚みとの差(100N厚み-下死点厚み)から、スプリングバック量(mm)を算出した。結果を表1に示す。
【0073】
<注液性(電解液導入量)の測定>
次に、上記作製した扁平形状の捲回電極体に電解液を注液し、1回の注液で溢れ出さずに捲回電極体の内部に導入できた電解液の重量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
<剥離強度の測定>
また別途、捲回電極体の平坦部に位置する負極とセパレータとを模擬した積層体のサンプルを作成し、負極とセパレータとの間の剥離強度を測定した。具体的には、まず負極を、トムソン刃で20mm×70mmのサイズに打ち抜いた。また、接着層と基材層とを備えたセパレータを、トムソン刃で30mm×80mmのサイズに打ち抜いた。そして、負極の外縁がセパレータの外縁よりも内側に収まるように重ね合わせ、積層体とした。このとき、セパレータの接着層を負極と対向させた。
【0075】
次に、この積層体をプレス機にセットして、7.6kN(面積換算で、捲回極体作成時と同じ圧力)で3秒間プレスし、接着層を介して負極とセパレータを接着させた。次に、積層体を剥離試験機にセットし、セパレータの端部をクランプで挟持した。そして、セパレータを90°の方向に20mm引き剥がし、荷重データを計測しながら、負極とセパレータとの間の剥離強度(90°剥離強度)を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、剥離強度A,Bをいずれも弱くし、剥離強度Aと剥離強度Bとの差を0.1N/m以下とした比較例1~3では、スプリングバック量が相対的に大きかった。また、剥離強度A,Bをいずれも強くし、剥離強度Aと剥離強度Bとの差を0.1N/m以下とした比較例4では、電解液の導入量が相対的に小さかった。これら比較例1~4に対して、剥離強度Aと剥離強度Bとに0.5N/m以上の差を設けた実施例1~3では、スプリングバックの発生が抑制され、かつ注液性が高かった。これらの結果は、ここに開示される技術の意義を示している。
【0078】
また
図9は、セパレータの接着層の表面粗さと、負極とセパレータとの間の剥離強度と、の関係を示すグラフである。
図9に示すように、セパレータの表面粗さ(ここでは接着層の表面粗さ)が大きいほど、剥離強度は低下する傾向にあった。この理由としては、セパレータの表面(ここでは接着層の表面)に凹凸が存在すると、負極との接着面積が低下して接着力が低下したことが考えられる。この結果から、例えばセパレータの表面粗さを調整することで、負極とセパレータとの間の剥離強度を、所望の値に調整できることがわかった。
【0079】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回して、扁平形状の捲回電極体を作製する第1工程と、1つまたは複数の上記捲回電極体を、電池ケース内に配置する第2工程と、上記電池ケース内に電解液を注液する第3工程と、を有し、上記第1工程において、上記第1セパレータと上記負極との剥離強度をA(N/m)とし、上記第2セパレータと上記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、上記剥離強度Aと上記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上となるように上記捲回電極体を作製する、二次電池の製造方法。
項2:上記第1工程において、上記剥離強度Aおよび上記剥離強度Bのうち、剥離強度の弱い方を、0.1N/m以上とする、項1に記載の二次電池の製造方法。
項3:上記第1工程において、上記第1セパレータと上記負極とは、接着層を介して接着され、上記第2セパレータと上記負極とは、接着層を介して接着される、項1または2に記載の二次電池の製造方法。
項4:上記第2工程において、上記電池ケース内に複数の上記捲回電極体を配置する、項1から3のいずれか1つに記載の二次電池の製造方法。
項5:上記第1工程において、上記負極は、負極活物質層を含み、上記負極活物質層の捲回軸方向の長さを、250mm以上とする、項1から4のいずれか1つに記載の二次電池の製造方法。
項6:上記第1工程において、上記正極は、正極活物質層を含み、上記正極活物質層の充填密度が、3.5g/cm3以上であり、上記負極は、負極活物質層を含み、上記負極活物質層の充填密度が、1.4g/cm3以上である、上記捲回電極体を作製する、項1から5のいずれか1つに記載の二次電池の製造方法。
項7:帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回してなる、扁平形状の捲回電極体であって、上記第1セパレータと上記負極との剥離強度をA(N/m)とし、上記第2セパレータと上記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、上記剥離強度Aと上記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上である、捲回電極体。
項8:帯状の第1セパレータと、帯状の正極と、帯状の第2セパレータと、帯状の負極と、を積層し、捲回軸を中心に捲回してなる、扁平形状の捲回電極体と、電解液と1つまたは複数の上記捲回電極体と上記電解液とを収容する電池ケースと、を備え、上記捲回電極体は、上記第1セパレータと上記負極との剥離強度をA(N/m)とし、上記第2セパレータと上記負極との剥離強度をB(N/m)としたときに、上記剥離強度Aと上記剥離強度Bとの差が、0.5(N/m)以上である、二次電池。
【0080】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 正極
20 負極
30A、30B セパレータ
32 基材層
34A、34B 接着層
40 捲回電極体
40f 平坦部
40r 湾曲部
50 電池ケース
100 二次電池