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特開2024-42152被覆用油性食品及び当該油性食品が被覆された複合食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042152
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】被覆用油性食品及び当該油性食品が被覆された複合食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20240321BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240321BHJP
   A21D 13/24 20170101ALI20240321BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A23D9/007
A23D9/00 518
A21D13/24
A23G3/34 109
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146653
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北▲脇▼ 真岐
(72)【発明者】
【氏名】中 雅史
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GE02
4B014GG14
4B014GL06
4B014GL10
4B014GP18
4B026DC06
4B026DG01
4B026DK03
4B026DL03
4B026DX01
4B026DX02
4B032DB01
4B032DB05
4B032DB13
4B032DB20
4B032DB21
4B032DB24
4B032DB28
4B032DB32
4B032DB40
4B032DK09
4B032DK12
4B032DK18
4B032DP54
(57)【要約】
【課題】
被覆用油性食品を菓子やベーカリー類に被覆した場合に、経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制すること。
【解決のための手段】
特定の粒度分布の固形分を含み、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含有する被覆用油性食品によって、糖類などの固形分が水分を吸収することで経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制することができる。
さらに、HLB4以下の不飽和脂肪酸型ショ糖脂肪酸エステルに、グリセリン脂肪酸エステル及び/又はソルビタン脂肪酸エステルを組み合わせて使用することで、シャリ感の減少をさらに抑制させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分中70質量%以上が糖類である油性食品であって、
固形分の粒度分布測定によるメジアン径が20μm以上であり、
主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含む、被覆用油性食品。
【請求項2】
レシチンの含有量が0.1質量%未満であって、該ショ糖脂肪酸エステルの含有量が0.05~1.0質量%である、請求項1に記載の被覆用油性食品。
【請求項3】
該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸がエルカ酸である、請求項1に記載の被覆用油性食品。
【請求項4】
HLB5以下のグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB5以下のソルビタン脂肪酸エステルを含む請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項5】
被覆用油性食品を構成する油脂が、構成脂肪酸としてラウリン酸を油脂中に40質量%以上、及び構成トリグリセリドとして炭素数36のトリグリセリドを油脂中に15質量%以上含有し、25℃での固体脂含量が55%以上である、請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項6】
45℃での降伏値が0.01~0.80Paである請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項7】
45℃での降伏値が0.01~0.80Paである請求項5に記載の被覆用油性食品。
【請求項8】
水分含量が10質量%以上である菓子又はベーカリー製品に、請求項2に記載の油性食品を被覆させた複合食品。
【請求項9】
糖類を固形分中に70質量%以上及び、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含有させて、
固形分の粒度分布測定によるメジアン径を20μm以上に調整する、被覆用油性食品の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の被覆用油性食品を菓子又はベーカリー製品に被覆させる複合食品の製造方法。
【請求項11】
固形分中70質量%以上が糖類である油性食品を菓子又はベーカリー製品に被覆させる場合に、
固形分の粒度分布測定によるメジアン径を20μm以上とし、
主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含有させることで、複合食品における油性食品の外観不具合及びシャリ感の減少を抑制させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆用油性食品及び当該油性食品が被覆された複合食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来菓子やベーカリー類に甘味の付与や見栄えを良くする目的で上掛け材としてフォンダンやアイシング、チョコレートフォンダンが用いられている。これらは糖の少なくとも大部分を水や洋酒に溶解して菓子やパンに上掛けしその後糖を析出させる。これらの上掛け材は、時間が経過するとともに、菓子やパン類の水分を吸収しあるいは雰囲気の水分を吸収して手で触れるとべたつきが生じ、保存流通のために袋に入れると袋に上掛け材が付着して、外観不良や喫食時の不具合があった。
これらの不具合解消のために、水ベースでなく油脂を連続相とする油性食品の上掛け材に関する発明が開示されている(特許文献1)。油脂を連続相とすることでシャリシャリとした食感(以後シャリ感とする)を感じられ、べたつきが軽減された上掛け材について記載されている。
さらに、特許文献1では顕在化していなかった被覆時のツヤ向上や発汗抑制に関する発明が開示されている(特許文献2、3)。
また、コーティング素材として、乳化剤を用いてツヤを向上させる発明が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2000/076328号
【特許文献2】特開2013-201990号公報
【特許文献3】特開2019-180241号公報
【特許文献4】特開平3-285644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1については、水ベースのフォンダン等よりもべたつきが改善されているものの、流通時に包材で密閉される場合にはべたつきの改善が十分でない場合があった。
特許文献2については、透けやツヤを改善するものであり、べたつきの改善や食感に関する言及はない。
特許文献3は使用する糖類を限定することで発汗抑制を提案する発明であり、甘さや風味調整が限定的である。
特許文献4は、チョコレートの外観としてブルーム発生を抑制してツヤの向上を図るものであり、菓子やベーカリー類と組み合わせた場合に生じるべたつきや発汗などの不具合及び食感の経時変化を改善できる示唆はない。
【0005】
発明者らは背景技術を参考に、鋭意検討を行った。検討によって被覆用油性食品はべたつきや発汗などの外観上の不具合と並行して、経時的にシャリ感が減少することがわかった。これらの問題は、菓子やベーカリー等に含まれる水分によって発生する場合が多く、被覆用油性食品としての魅力を減少させてしまうことがある。
よって、被覆用油性食品を菓子やベーカリー類に被覆した場合に、経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制することが課題となる。
特に包材で密閉される場合にこれらの問題が発生しやすく、油性食品が被覆された菓子やベーカリー類の拡販のために解決が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、さらに鋭意検討した結果、特定の粒度分布の固形分を含み、HLB4以下の主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸であるショ糖脂肪酸エステルを含有する被覆用油性食品によって、糖類などの固形分が水分を吸収することで経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)固形分中70質量%以上が糖類である油性食品であって、固形分の粒度分布測定によるメジアン径が20μm以上であり、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含む、被覆用油性食品、
(2)レシチンの含有量が0.1質量%未満であって、該ショ糖脂肪酸エステルの含有量が0.05~1.0質量%である、(1)に記載の被覆用油性食品、
(3)該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸がエルカ酸である、(1)に記載の被覆用油性食品、
(4)HLB5以下のグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB5以下のソルビタン脂肪酸エステルを含む(2)に記載の被覆用油性食品、
(5)被覆用油性食品を構成する油脂が、構成脂肪酸としてラウリン酸を油脂中に40質量%以上、及び構成トリグリセリドとして炭素数36のトリグリセリドを油脂中に15質量%以上含有し、25℃での固体脂含量が55%以上である、(2)に記載の被覆用油性食品。
(6)45℃での降伏値が0.01~0.80Paである(2)に記載の被覆用油性食品、
(7)45℃での降伏値が0.01~0.80Paである(5)に記載の被覆用油性食品、
(8)水分含量が10質量%以上である菓子又はベーカリー製品に、(2)に記載の油性食品を被覆させた複合食品、
(9)糖類を固形分中に70質量%以上及び、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含有させて、固形分の粒度分布測定によるメジアン径を20μm以上に調整する、被覆用油性食品の製造方法。
(10)(9)に記載の被覆用油性食品を菓子又はベーカリー製品に被覆させる複合食品の製造方法、
(11)固形分中70質量%以上が糖類である油性食品を菓子又はベーカリー製品に被覆させる場合に、
固形分の粒度分布測定によるメジアン径を20μm以上とし、主要構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを含有させることで、複合食品における油性食品の外観不具合及びシャリ感の減少を抑制させる方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来は改善できなかった、経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制された、油脂を連続相とする被覆用油性食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明でいう被覆用油性食品は、菓子やベーカリー製品の表面をコーティングあるいはカバリングするための油性食品であり、油脂が連続相で糖類等を分散相として含有する実質的に水を含まない食品素材である。代表的なものとしてはコーティングチョコレート類であるが、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会で規定されるチョコレート、準チョコレート、チョコレート利用食品だけでなく、油脂類を必須成分とし、糖類、粉乳類、カカオバター、果汁粉末や果実粉末など植物由来の粉末、呈味材、乳化剤、香料、着色料等の副原料を任意の割合で配合したものである油脂加工食品を含むものとする。
【0011】
本発明でいうベーカリーとは、特に限定されないが一例を挙げると、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、バターロール、ハンバーガーバンズ、ドーナツ、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペストリー、ナンなどをいう。同様に、菓子として一例を挙げると、まんじゅう、蒸しようかん、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、きんつば、ワッフル、栗まんじゅう、月餅、ボーロ、八つ橋、せんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュークリーム、エクレア、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、ビスケット、クッキー、クラッカー、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、ピザパイ、クレープ、スフレー、ベニエなどが例示できる。
【0012】
本発明の被覆用油性食品と組み合わせる菓子又はベーカリー類は水分が10~60質量%であることが好ましい。
日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、菓子又はベーカリーの水分値として一例を挙げると、シュークリーム(56.3質量%)、イーストドーナツ(27.5質量%)、ベーカリーの水分値として一例を挙げると焼成後のクロワッサン(20.0質量%)、コッペパン(37.0質量%)である。
これらの水分値の菓子又はベーカリー製品に本発明の油性食品を被覆すると、効果を得られやすい。
【0013】
本発明でいう糖類とは、特に限定はされないがショ糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、乳糖等の単糖類及び二糖類が挙げられる。その中でもショ糖を主成分としたものが好ましく、一例としては粉糖、黒砂糖、白砂糖、赤砂糖、和三盆、白双糖、中双糖、グラニュー糖、上白糖、三温糖が挙げられる。
糖類の配合量は、固形分中に70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
また、被覆用油性食品中の糖類の配合量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上である。
【0014】
本発明の被覆用油性食品には、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルを配合する。ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸は不飽和脂肪酸である。本発明で使用する不飽和脂肪酸が主要構成脂肪酸であるショ糖脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸として炭素数16以上である不飽和脂肪酸が好ましく、具体的にはオレイン酸、エルカ酸が挙げられる。もっとも好ましい不飽和脂肪酸としては、エルカ酸である。
ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、エステル結合する脂肪酸として60質量%以上を構成する脂肪酸のことをいう。
これらのショ糖脂肪酸エステルを含有させることで、ベーカリーに被覆したもののべたつきや発汗などの外観の不具合が抑制され、良好なシャリ感を維持することができる。
さらに、被覆作業時に混入する水分による増粘抑制にも効果がある。
ショ糖脂肪酸エステルの好ましい含有量は、0.05~1.0質量%、さらに好ましくは0.08~0.9質量%、より好ましくは0.09~0.8質量%、0.09~0.7質量%、最も好ましくは0.1~0.6質量%である。
【0015】
本発明でいうシャリ感とは、糖類など油性食品中の固形分の粒子径に由来する、シャリシャリとした食感のことをいう。粒子径が粗い粒子が多いほどシャリ感を強く感じることができるが、被覆作業時に、油性食品中で沈殿を生じやすい場合がある。そのため、作業性を良好するためには、適切な粒度分布をもつ固形分に調整する必要がある。
シャリ感には、粒子径が粗い糖類に由来するシャリ感、粒子径が粗い繊維質に由来するシャリ感、粒子径が粗い乳製品に由来するシャリ感、粒子径が粗い植物由来の粉末に由来するシャリ感がある。
これらのシャリ感は固形分が水分を吸収することで溶液化あるいは軟化してしまうことで減少する。例えばショ糖などの水に溶けやすい素材は溶液化することでシャリ感が減少し、繊維質などの水に溶けにくい素材でも保水する場合は軟化することでシャリ感が減少する場合がある。あるいは乳製品は水を吸収することでべたべたしたラバー状になり、シャリ感が減少する場合がある。そのため、本発明のようなシャリ感の維持のための技術が求められる。
【0016】
本発明でいう油性食品中の固形分とは、連続相である油脂に分散している糖類等のことをいい、糖類の他、デキストリン、コーヒー粉末、果汁紛末や、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー等の乳製品、ココアパウダー、調整ココアパウダー、チーズ粉末等の粉末素材が例示できる。
被覆用油性食品で使用する固形分は、被覆用油性食品中30~80質量%が好ましく、より好ましくは40~75質量%であり、最も好ましくは45~70質量%である。所定の固形分比率にすることで、被覆用に適した、風味やシャリ感が良好な被覆用油性食品にすることができる。
【0017】
本発明の被覆用油性食品の固形分の粒子径は、マイクロメーター又は粒度分布計で測定することができる。マイクロメーターでの固形分の測定値としては、30~300μmであることが好ましい。
粒度分布計での固形分の測定値としては、メジアン径で20μm以上がであり、好ましくは23μm以上、さらに好ましくは25μm以上、30μm以上である。最も好ましくは35μm以上である。メジアン径の上限値としては、100μm以下が好ましく、より好ましくは90μm以下である。
粒度分布計ではメジアン径の他にモード径も測定することができる。モード径としては60μm以上が好ましく、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。モード径の上限値としては、200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下である。
なお、メジアン径とは粒度分布を測定した際の中央値である積算の頻度が50%である粒子径をいい、モード径とは、粒度分布を測定した際の最頻値をとる粒子径をいう。
粒子径測定に用いるマイクロメーターは、一例として株式会社ミツトヨ社製デジマチック標準外側マイクロメーター MDC-Mなどを用いることができる。
粒度分布の測定には株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300などの機器を用いることができる。被覆用油性食品中の固形分の粒子を測定するため、測定時の溶媒は両親媒性を示すイソプロパノールなどを用いることができる。
なお、本明細書では特に断りが無い場合は、粒度と記載する場合はマイクロメーターで測定する粒子径を、粒度分布と記載する場合は粒度分布計で測定する粒子径を意味する。また、粒度分布から算出されるメジアン径とモード径は粒度分布計の測定値による値である。
【0018】
本発明でいうべたつきとは、被覆用油性食品に含まれる糖類などの固形分が、菓子やパン類の水分を吸収し、あるいは雰囲気の水分を吸収して生じる現象をいう。べたつきは手で触れた場合に被覆用油性食品の一部が付着するかどうかで確認することができる。
本発明でいう発汗とは、被覆用油性食品を菓子やパン類の表面に被覆した場合に、水滴様の液体が表面に発現する現象をいう。発汗もべたつきと同様に菓子やパン類の水分に由来する。
そのため、被覆用油性食品に固形分の中でもショ糖など水に溶けやすい素材が多いと、べたつきや発汗が生じやすい。
これらの外観上の不具合は、保存流通のために袋に入れることで、より顕著に発生する。そのため、商品の訴求力向上には、これらの外観上の不具合の軽減、抑制が必要である。
【0019】
本発明の被覆用油性食品は、レシチンの含量が好ましくは0.1質量%未満である。より好ましくは0.08質量%未満、さらに好ましくは0.07質量%未満、0.06質量%未満である。最も好ましくは、0.05質量%未満、あるいはレシチンを実質的に含まない。
一般的なチョコレートには0.1~1.0質量%程度含有するが、本発明の効果を発揮するためにはレシチン含有量は少ない方が好ましい。
【0020】
本発明の被覆用油性食品には、油脂の配合は必須であるが、好ましい含有量は25~60質量%、より好ましくは28~55質量%、さらに好ましくは30~50質量%である。下限を下回ると粘度が高くなり、流動性が低下するため被覆用途として用いる事が難しくなる場合がある。上限を上回ると固形分が不足して風味発現が悪く、油性感の強い品質になる可能性がある。
【0021】
本発明の被覆用油性食品に含まれる油脂は、油脂中の構成脂肪酸としてラウリン酸である炭素数12の飽和脂肪酸を多く含むものが好ましい。具体的には、被覆用油性食品の油脂中に40質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは47質量%以上である。
また、被覆用油性食品の油脂中のラウリン酸の含有量は80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下である。
本発明の被覆用油性食品に含まれる油脂は、油脂中の構成するトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が36のトリグリセリドを15質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは17質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。
被覆用油性食品の油脂中の、構成トリグリセリドの炭素数36のトリグリセリドの上限としては50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
要件を満たす油脂を使用することで、被覆作業時の固化が良好で、ベーカリーに被覆した場合にパリパリとした硬さを感じられ、固形分のシャリ感とともに良好な食感を生み出すことができる。
なお、油脂の脂肪酸組成は日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した値を用いるものとする。
油脂中のトリグリセリドを構成している脂肪酸の総炭素数は、日本油化学会制定‘基準油脂分析試験法2.4.6 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)’に準じて測定した値を用いるものとする。
【0022】
本発明の被覆用油性食品で使用する油脂は、25℃での固体脂含量が55%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。
25℃での固体脂含量が要件を満たしていれば、被覆した油性食品を喫食した際に、パリパリとした硬さを強く感じることができる。
固体脂含量は、IUPAC.2 150(a) SOLID CONTENT DETERMINATION IN FATS BY NMRに準じて測定した値を用いるものとする。分析装置はBruker社製minispec mq20などを使用して測定することができる。
【0023】
被覆用油性食品に含まれる油脂として、前記の条件を満たせば配合する油脂としては特に限定はされない。原料として例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ脂、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、並びに、それら油脂の硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。かかる油脂の融点は、菓子やベーカリーへの被覆に適度な固化速度と割れ耐性、表面のつやなど商品により目的とする機能が付与されるように、適宜選択すればよい。
【0024】
本発明の被覆用油性食品は、HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルの他に、粘度調整や油脂結晶性調整のために、レシチン以外の各種の乳化剤を含有することができる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが例示できる。
【0025】
特に、グリセリン脂肪酸エステルはHLB4以下のショ糖脂肪酸エステルと併用して含有させることが、被覆用油性食品のシャリ感維持の点で好ましい。より好ましくはHLB5以下のグリセリン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24までの飽和脂肪酸であることが好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの添加量は、被覆用油性食品に対して0.01~1.2質量%含有させることが好ましく、より好ましくは0.05~1.0質量%、さらに好ましくは0.1~1.0質量%含有させる。
なお、グリセリン脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、ショ糖脂肪酸エステルと同様に、エステル結合する脂肪酸として60質量%以上を構成する脂肪酸のことをいう。
【0026】
グリセリン脂肪酸エステルの他、ソルビタン脂肪酸エステルをHLB4以下のショ糖脂肪酸エステルと併用して含有させることが、被覆用油性食品のシャリ感維持の点で好ましい。より好ましくはHLB5以下のソルビタン脂肪酸エステルであって、主要構成脂肪酸が炭素数16~24までの飽和脂肪酸であることが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルの添加量は、被覆用油性食品に対して0.01~1質量%含有させることが好ましく、より好ましくは0.05~0.9質量%、さらに好ましくは0.1~0.8質量%含有させる。
なお、ソルビタン脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、他の脂肪酸エステル同様にエステル結合する脂肪酸として60質量%以上を構成する脂肪酸のことをいう。
【0027】
HLB4以下のショ糖脂肪酸エステルと併用する際に、グリセリン脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルを組み合わせて使用する場合は、被覆用油性食品の油分を100とした場合に、グリセリン脂肪酸エステルを3~1、ソルビタン脂肪酸エステルを2~0.5の比率で含有させることが、シャリ感の維持の点で、より好ましい。
【0028】
本発明の被覆用油性食品の降伏値は、0.01~0.80Paが好ましい。降伏値が高すぎると流動性が無くなるため、被覆作業時の作業性が悪くなる場合がある。降伏値が低すぎると、被覆作業時に垂れ落ちる量が増えてしまい、菓子やパン類に上手く被覆することができない場合がある。所定の降伏値に調整することで、被覆作業時の被覆量を一定範囲に制御することができる。
なお、降伏値の測定は、AntonPaar社製のRheolab-QCなどの機器を用いて測定するずり応力から算出することができる。算出のためには、Casson近似式などを採用することができる。
【0029】
本発明の被覆用油性食品で使用する油脂と糖等の固形分として例示した以外の配合物として、風味や色調調整のため、バニリンや香料、酸味料、色素類を適宜利用することができる。
【実施例0030】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、例中、%及び部はいずれも質量基準を意味する。
【0031】
(検討1)
表2の配合に従い、以下の手順にて、被覆用油性食品を作製した。
糖類等の固形分、植物油脂に乳化剤を添加し、縦型ミキサーで混ぜ合わせて実施例及び比較例を調製した。
比較例1と2は、配合の通り、固形分と融解した植物油脂の一部とをミキサーで混合し、 これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの植物油脂及び乳化剤を加えながらミキシングを行って調製した。
いずれも固形分中の糖類の比率は100%で調製した。
砂糖(1)および砂糖(2)はそれぞれ粒子径が異なるものを使用した。それぞれで調製した被覆用油性食品の粒度分布は表3に示す。粉砕しない場合の被覆用油性食品の粒度分布は、原料の粒子径によって決まるので、以降の検討において砂糖(1)を使用した被覆用油性食品は実施例1と同等の粒度分布を示し、砂糖(2)を使用した被覆用油性食品は実施例2と同等の粒度分布を示した。
なお、粒度分布はレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(株式会社島津製作所製)で測定した。
【0032】
植物油脂としては、表1の組成及び性質を有するパーム核油の分別硬化油を使用した。
乳化剤として以下を使用した。
・乳化剤a:大豆レシチン(SLP-ペースト:辻製油株式会社製)
・乳化剤b:ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルER-290:三菱ケミカル株式会社、HLB2、主要構成脂肪酸:エルカ酸)
【0033】
【表1】
【0034】
(評価方法と基準)
得られた検体を溶解し、室温で超熟ロール(水分31%、敷島製パン株式会社)1/2切にコーティングした。なお、コーティング時の目付量は、4~6gを目安とした。
それらをポリプロピレン素材の袋に入れて密閉し、20℃のインキュベータに静置した。
以下の基準で食感の評価をコーティング直後、1日後に実施した。
併せてコーティング表面にある水滴様の発汗と表面のべたつきの評価を1日後に実施した。
◆食感
◎:シャリ感がよく感じられ、非常に良好
○:シャリ感を感じられ、良好
△:シャリ感を少し感じる
×:シャリ感は感じられず、不適
以下の基準で発汗およびべたつきの評価を1日後に実施した。
◆発汗
○:発汗はほとんど見られず、良好
△:少し発汗している
×:発汗が目立ち、不適
◆べたつき
○:べたつきはほとんど無く、良好
△:少しべたつく
×:べたつきあり、不適
すべての評価で△以上であるものを合格品質と判断した。
【0035】
その他に被覆用油性食品の物性として、以下を測定、算出した。
粒度:マイクロメーターで5回測定した結果の平均値を算出した。
粘度:BM型粘度計3号ローターを用い、12rpmの条件で45℃にて粘度を測定した。
降伏値、塑性粘度:Rheolab-QC(AntonPaar社製)、CC39ローターを使用して、以下の手順で算出した。
(1)被覆用油性食品を60℃まで温めて完全に融解させた。
(2)室温に放置し、45℃に降温した。
(3)45℃での、ずり速度が2(1/s)~50(1/s)の時のずり応力を測定した。
(4)Casson近似式を用いて数式化することで、降伏値と塑性粘度を算出した。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
ロールリファイナーで粉砕した比較例1及び2は、滑らかな食感を有するが、シャリ感を感じることはできなかった。ロールリファイナーで粉砕しない被覆用油性食品は粒子径が粗いものを多く含む。これらの粒子径の粗い固形分によって比較例3のようにD+0のシャリ感を感じることができるが、粉砕した比較例1および2の被覆用油性食品と比較すると、発汗やべたつきが生じやすい。しかし、レシチンでなくHLB2のショ糖脂肪酸エステルを用いた実施例1~3の被覆用油性食品の方は発汗やべたつきが抑制されており、良好であった。
【0039】
(検討2)
検討1の結果から、乳化剤を変更することで発汗やべたつきを抑制させることができることがわかった。しかし、シャリ感は経時的に弱まる傾向がある。ベーカリー食品の日持ちを考慮して、シャリ感をさらに維持させることができないかを検討した。
検討1と同様に、表4の配合に従って縦型ミキサーで混ぜ合わせて実施例及び比較例を調製した。検討1で用いた乳化剤の他に以下の乳化剤を検討した。
・乳化剤c:グリセリン脂肪酸エステル(ポエムH-100:理研ビタミン株式会社、HLB4.3)
・乳化剤d:ソルビタン脂肪酸エステル(エマゾールS-30V:花王株式会社、HLB2)
・乳化剤e:ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(SYグリスターCR-350H:阪本薬品工業株式会社)
また、糖類と併用したデキストリンとしては、分解度(DE)が10~15程度の試作品を使用した。
その後検討1と同様にパンにコーティングする評価を実施した。食感の評価は直後及び1日後に加えて3日後にも実施した。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
乳化剤aと乳化剤c及びdの組み合わせた比較例4でも、乳化剤a単独使用した比較例3よりは発汗及びべたつきが抑制されたが、実施例4及び5のように乳化剤bとの組合せと比較すると食感や発汗の点で劣っていた。
乳化剤aと乳化剤eを組み合わせた比較例5では、食感、発汗又はべたつきの点で改善する傾向はほとんど見られなかった。また、降伏値が非常に低くなり、コーティングの時に垂れが生じやすいものであった。
【0042】
(検討3)
乳化剤bとの組合せとして乳化剤cと乳化剤dの添加量を変化させた被覆用油性食品を、検討1と同様に表5の配合に従って縦型ミキサーで混ぜ合わせて調製した。
その後検討1と同様にパンにコーティングする評価を実施した。食感の評価は直後及び1日後に加えて3日後にも実施した。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
乳化剤bに、乳化剤c及び/又は乳化剤dを併用することで、シャリ感を維持することができることが分かった。シャリ感だけでなく、発汗やべたつきにも抑制効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、従来は改善できなかった、経時的に発生するべたつきや発汗など外観の不具合及びシャリ感の減少を抑制された、被覆用油性食品を提供することができる。