(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042160
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】横笛および横笛の製造方法
(51)【国際特許分類】
G10D 9/00 20200101AFI20240321BHJP
G10D 7/026 20200101ALI20240321BHJP
G10D 9/02 20200101ALI20240321BHJP
G10D 9/10 20200101ALI20240321BHJP
G10D 9/01 20200101ALI20240321BHJP
【FI】
G10D9/00 120
G10D7/026
G10D9/02 200
G10D9/10
G10D9/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146669
(22)【出願日】2022-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (イ) 公開開始日 :令和4年6月22日 公開場所・展示会名 :キラリナ京王吉祥寺にて(自社開催の展示) :第15回ビジネスマッチングフェア(主催者名:浜松いわた信用金庫) :浜松フェア(主催者名:イオンリテール株式会社) (ロ)ウェブサイト掲載開始日:令和3年12月5日 ウェブサイトアドレス :https://www.instagram.com/syarakusai_yokobue https://www.yamadakinzoku.co.jp/syarakusai/ https://www.facebook.com/syarakusai_yokobue (ハ) 販売開始日 :令和3年12月12日 販売場所 :山田金属株式会社(静岡県磐田市池田1番地) 公開者名 :山田金属株式会社 新聞掲載日 :令和3年12月23日 令和3年12月25日 刊行物 :静岡新聞 令和3年12月23日付朝刊第23面 中日新聞 令和3年12月25日付朝刊第8面 公開者 :株式会社静岡新聞社 株式会社中日新聞社
(71)【出願人】
【識別番号】521517108
【氏名又は名称】山田金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】山田 善彦
(57)【要約】
【課題】演奏者が快適な使用感を得ることができる、横笛および横笛の製造方法を提供する。
【解決手段】横笛10は、円筒状の笛本体12と、笛本体12の内部に笛本体12の両端面12a,12bから離隔して設けられた隔壁16とを備える。笛本体12における管尻28側の端面12bと隔壁16との間に位置する部分には、1個の歌口34および複数個の指孔36a~36gが形成されている。笛本体12の表面における少なくとも指孔36a~36gの開口端縁を含む部分には、手指の触感を決定付ける表面加工がバフ加工またはショットブラスト加工により施されている。笛本体12の管頭26には、取付け部14が着脱自在に取り付けられており、隔壁16と取付け部14とが連結部18で連結されている。横笛10の製造方法において、表面加工工程は、歌口34および指孔36a~36gを切削加工する切削加工工程の後に実行される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方端部が管頭となり、他方端部が管尻となる円筒状の笛本体と、
前記笛本体の内部に前記笛本体の両端面から離隔して設けられた隔壁とを備え、
前記笛本体における前記管尻側の端面と前記隔壁との間に位置する部分には、1個の歌口および複数個の指孔が形成されており、
前記笛本体の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分には、手指の触感を決定付ける表面加工がバフ加工またはショットブラスト加工により施されている、横笛。
【請求項2】
前記笛本体の表面における前記歌口の開口端縁を含む部分には、唇の触感を決定付ける表面加工がバフ加工またはショットブラスト加工により施されている、請求項1に記載の横笛。
【請求項3】
前記バフ加工またはショットブラスト加工は、前記笛本体の表面の全体に施されている、請求項1に記載の横笛。
【請求項4】
前記隔壁と、前記管頭に着脱自在に取り付けられた取付け部と、前記隔壁と前記取付け部とを連結する連結部とを有する笛蓋を備え、
前記隔壁および前記連結部は、前記笛本体の長さ方向に移動可能に構成されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の横笛。
【請求項5】
前記隔壁は、外周面に溝を有する円柱状に形成されており、前記溝には、前記隔壁と前記笛本体との隙間を封止する環状のOリングが装着されている、請求項4に記載の横笛。
【請求項6】
前記連結部の横断面積は、前記隔壁の横断面積よりも小さく定められている、請求項5に記載の横笛。
【請求項7】
前記取付け部は、前記管頭に挿し込まれる挿入部を有しており、
前記管頭の内周面には、雌ネジが形成されており、
前記挿入部の外周面には、前記雌ネジに螺合される雄ネジが形成されている、請求項5に記載の横笛。
【請求項8】
前記取付け部は、前記挿入部の基端部に前記雄ネジと同軸となるように形成された円柱状の頭部を有しており、
前記頭部の外径は、前記笛本体の内径よりも大きく定められている、請求項7に記載の横笛。
【請求項9】
前記取付け部、前記隔壁および前記連結部は、アルミニウムによって一体成形されている、請求項8に記載の横笛。
【請求項10】
前記挿入部の周囲において前記笛本体と前記頭部との間に配置された円環状の笛リングを備える、請求項8に記載の横笛。
【請求項11】
一方端部が管頭となり、他方端部が管尻となる円筒状の笛本体と、
前記笛本体の内部に前記笛本体の両端面から離隔して設けられた隔壁とを備え、
前記笛本体における前記管尻側の端面と前記隔壁との間に位置する部分には、1個の歌口および複数個の指孔が形成されており、
前記笛本体の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分には、手指の触感を決定付ける表面加工が施されている、横笛の製造方法であって、
前記笛本体の材料である管材に1個の前記歌口および複数個の前記指孔を切削加工する切削加工工程と、
前記切削加工工程の後に、前記管材の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分にバフ加工またはショットブラスト加工を施す表面加工工程とを備える、横笛の製造方法。
【請求項12】
前記切削加工工程の後であって前記表面加工工程の前に前記管材を水または湯で洗浄する洗浄工程を備える、請求項11に記載の横笛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、お祭りなどで使用される横笛および横笛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的な楽器である篠笛は、祭ばやしなどで使用される庶民的な横笛であり、構造が単純でありながら、様々な表現ができることから、愛好者が多い。しかし、篠笛の材料である竹は、太さや形状が不均一であることから、篠笛を製造する際には、一本ずつ音を確認しなければならず、大量生産することができないという問題があった。
【0003】
そこで、従来から、大量生産が可能な金属製または合成樹脂製の横笛が開発されており、その例が特許文献1および2に開示されている。特許文献1の横笛は、複数個の指孔の位置を適切に定めるように構成されたものであり、特許文献2の横笛は、笛本体の内面形状を適切に加工できるように構成されたものであり、いずれによっても、同一形状の横笛を精度よく大量に生産することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-191210号
【特許文献2】特開2002-132253号
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示された従来技術は、金属製または合成樹脂製の横笛で篠笛の機能を実現したものに過ぎず、演奏者が快適な使用感を得ることまでは考慮されていなかった。つまり、演奏者が横笛を吹くときの手指の触感を定めることや、精度よく音を出せるようにすることについては、考慮されていなかった。
【0006】
例えば、笛本体が金属や合成樹脂で形成される場合、指孔は切削加工されるが、通常の切削加工では、指孔の開口端縁が鋭利になるため、安全面から、開口端縁に面取り加工を施す必要がある。しかし、通常の面取り加工では、開口端縁を大きく削り過ぎるため、子供や女性などの指が細い演奏者は、指孔を正確に塞ぐことが難しくなり、手指の触感が損なわれるだけでなく、精度よく音を出すことが困難になるおそれがあった。また、複数個の指孔のそれぞれの開口端縁に面取り加工を施す作業は面倒であり、製造コストが高くなるという問題があった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、横笛を吹くときの手指の触感を定めることによって、演奏者が快適な使用感を得ることができる、横笛を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、精度よく音を出せるようにすることによって、演奏者が快適な使用感を得ることができる、横笛を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、指孔の開口端縁の面取り加工を不要にして、製造コストを低減できる、横笛の製造方法を提供することにある。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る横笛の特徴は、一方端部が管頭となり、他方端部が管尻となる円筒状の笛本体と、前記笛本体の内部に前記笛本体の両端面から離隔して設けられた隔壁とを備え、前記笛本体における前記管尻側の端面と前記隔壁との間に位置する部分には、1個の歌口および複数個の指孔が形成されており、前記笛本体の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分には、手指の触感を決定付ける表面加工がバフ加工またはショットブラスト加工により施されていることにある。
【0011】
この構成によれば、バフ加工またはショットブラスト加工によって、演奏者の手指の触感を決定付けることができるとともに、指孔に対する手指のずれを抑制できるので、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0012】
つまり、バフ加工では、笛本体の表面が滑らかに仕上げられるので、手指の密着性が高くなり、指孔を塞ぐ演奏者の手指のずれを抑制できる。また、演奏者は、指孔を手指で軽く押さえるだけで、指孔を確実に塞ぐことができ、精度よく音を出すことができる。そして、指孔から手指が離れ難く、その触感を好む演奏者にとっては、演奏し易い。
【0013】
一方、ショットブラスト加工では、笛本体の表面に微細な凹凸が形成されるので、凹凸が滑り止めとなって、指孔を塞ぐ演奏者の手指のずれを抑制できる。また、バフ加工に比べて指孔の周囲から空気が漏れ易いため、演奏者は、手指で空気の漏れ量を調整することによって、音色を微妙に変化させることができる。そして、指孔の周囲の部分に手指が過度に密着しないため、指孔から手指が離れ易く、その触感を好む演奏者にとっては、演奏し易い。
【0014】
さらに、バフ加工では、笛本体の表面がグロス仕上げ(光沢のある仕上げ)となり、ショットブラスト加工では、笛本体の表面がマット仕上げ(光沢のない仕上げ)となるので、いずれの場合も横笛の装飾性を高めることができ、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0015】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記笛本体の表面における前記歌口の開口端縁を含む部分には、唇の触感を決定付ける表面加工がバフ加工またはショットブラスト加工により施されていることにある。
【0016】
この構成によれば、バフ加工またはショットブラスト加工によって、演奏者の唇の触感を決定付けることができるので、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0017】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記バフ加工またはショットブラスト加工は、前記笛本体の表面の全体に施されていることにある。
【0018】
この構成によれば、指孔を塞ぐ手指だけでなく、笛本体を支持する他の手指でも同じ触感が得られるので、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0019】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記隔壁と、前記管頭に着脱自在に取り付けられた取付け部と、前記隔壁と前記取付け部とを連結する連結部とを有する笛蓋を備え、前記隔壁および前記連結部は、前記笛本体の長さ方向に移動可能に構成されていることにある。
【0020】
この構成によれば、隔壁と取付け部との間隔が連結部の長さで決まるので、連結部の長さを適切に定めることによって、設計上の正確な位置に隔壁を配置でき、演奏者は、精度よく音を出すことができる。また、連結部の長さが変わると、隔壁の位置が変わり、音色が変わるので、演奏者は、連結部の長さが異なる複数種類の笛蓋を使い分けることによって、演奏表現の幅を広げることができる。これらによって、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0021】
さらに、管頭から取付け部を取り外すことによって、隔壁および連結部を笛本体の内部から取り除くことができるので、笛本体の内面を洗浄する際には、笛本体の内部に洗浄水などを通し易い。なお、歌口に対する隔壁の位置が決まっている場合でも、連結部の長さを変えることによって、笛本体における歌口から管頭側の端面までの長さを変えることができるので、笛蓋によってデザインの自由は妨げられない。
【0022】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記隔壁は、外周面に溝を有する円柱状に形成されており、前記溝には、前記隔壁と前記笛本体との隙間を封止する環状のOリングが装着されていることにある。
【0023】
この構成によれば、Oリングによって隔壁と笛本体との間の気密性が高められるので、これらの間からの音漏れを防止でき、音色を安定させることができる。
【0024】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記連結部の横断面積は、前記隔壁の横断面積よりも小さく定められていることにある。
【0025】
この構成によれば、連結部の重量が大きくなり過ぎることを抑制でき、横笛の管頭側の端部が重たくなることを好まない演奏者にとっては、演奏し易い。
【0026】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記取付け部は、前記管頭に挿し込まれる挿入部を有しており、前記管頭の内周面には、雌ネジが形成されており、前記挿入部の外周面には、前記雌ネジに螺合される雄ネジが形成されていることにある。
【0027】
この構成によれば、雌ネジと雄ネジとが螺合される螺合構造によって、取付け部を笛本体に簡単に取り付けることができる。
【0028】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記取付け部は、前記挿入部の基端部に前記雄ネジと同軸となるように形成された円柱状の頭部を有しており、前記頭部の外径は、前記笛本体の内径よりも大きく定められていることにある。
【0029】
この構成によれば、取付け部の頭部の外径は、笛本体の内径よりも大きく定められているので、笛本体の管頭側の端面に頭部を対向させることが可能であり、頭部で管頭を保護できる。
【0030】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記取付け部、前記隔壁および前記連結部は、アルミニウムによって一体成形されていることにある。
【0031】
この構成によれば、笛蓋の全体がアルミニウムで一体成形されているので、笛蓋の各部分を高精度に成形できる。また、アルミニウムが用いられているので、笛蓋の重量が大きくなり過ぎることを抑制でき、横笛の管頭側の端部が重たくなることを好まない演奏者にとっては、演奏し易い。
【0032】
本発明に係る横笛の他の特徴は、前記挿入部の周囲において前記笛本体と前記頭部との間に配置された円環状の笛リングを備えることにある。
【0033】
この構成によれば、笛リングの軸方向長さで隔壁の位置が決まるので、笛リングの軸方向長さを変えることによって隔壁の位置を調整でき、音色を調整できる。また、笛リングに印を刻んだり、笛リングの色や模様に特徴を持たせたりすることによって、同じ笛本体を有する他の横笛と区別することができる。
【0034】
上記目的を達成するため、本発明に係る横笛の製造方法の特徴は、一方端部が管頭となり、他方端部が管尻となる円筒状の笛本体と、前記笛本体の内部に前記笛本体の両端面から離隔して設けられた隔壁とを備え、前記笛本体における前記管尻側の端面と前記隔壁との間に位置する部分には、1個の歌口および複数個の指孔が形成されており、前記笛本体の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分には、手指の触感を決定付ける表面加工が施されている、横笛の製造方法であって、前記笛本体の材料である管材に1個の前記歌口および複数個の前記指孔を切削加工する切削加工工程と、前記切削加工工程の後に、前記管材の表面における少なくとも前記指孔の開口端縁を含む部分にバフ加工またはショットブラスト加工を施す表面加工工程とを備えることにある。
【0035】
この構成によれば、管材に指孔を切削加工した後に、管材の表面における少なくとも指孔の開口端縁を含む部分にバフ加工またはショットブラスト加工を施すので、指孔の開口端縁を微細に削ることが可能であり、極わずかに面取りした場合と同じ効果を得ることができる。したがって、別工程となる面取り加工は不要であり、製造コストを低減できる。また、指孔の開口端縁を微細に削ることができるので、子供や女性などの指が細い演奏者が使用する場合でも、指孔を正確に塞ぐことができ、精度よく音を出すことができる。
【0036】
本発明に係る横笛の製造方法の他の特徴は、前記切削加工工程の後であって前記表面加工工程の前に前記管材を水または湯で洗浄する洗浄工程を備えることにある。
【0037】
この構成によれば、水または湯を用いて切削屑を除去するので、管材(笛本体12)に臭いなどが付くことがなく、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1実施形態に係る横笛の構成を示す図であり、(A)は正面図、(B)は(A)に示したIB部分の断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る横笛の構成を示す一部を断面にした分解図である。
【
図3】第1実施形態に係る横笛の表面状態を示す一部を省略した正面図である。
【
図5】(A)は、第2実施形態に係る横笛の表面状態を示す一部を省略した正面図であり、(B)は、第3実施形態に係る横笛の表面状態を示す一部を省略した正面図である。
【
図6】第4実施形態に係る横笛の構成を示す一部を断面にした分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る横笛の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0040】
(第1実施形態に係る横笛の構成)
図1は、第1実施形態に係る横笛10の構成を示す図であり、(A)は正面図、(B)は(A)に示したIB部分の断面図である。
図2は、横笛10の構成を示す一部を断面にした分解図である。
【0041】
図1(A),(B)に示すように、第1実施形態に係る横笛10は、日本の伝統的な楽器である篠笛の形状を模した形状に形成されている。篠笛には、様々な調子のものがあるが、「七孔六本調子」が最も音の高低バランスがよいことが知られている。そこで、本実施形態の横笛10は、「七孔六本調子」の篠笛の形状を模した形状に形成されている。
【0042】
図1(A)に示すように、横笛10は、円筒状の笛本体12と、笛本体12の一方端部に着脱自在に取り付けられた取付け部14と、笛本体12の内部に笛本体12の両端面12a,12bから離隔して設けられた隔壁16とを備えている。また、
図1(B)に示すように、横笛10は、取付け部14と隔壁16とを連結する連結部18と、隔壁16と笛本体12との隙間を封止するOリング20と、円環状の笛リング22とを備えている。
【0043】
図2に示すように、本実施形態では、取付け部14、隔壁16および連結部18が一体成形されており、これらが1個の笛蓋24として取り扱われる。したがって、本実施形態の横笛10は、笛本体12、笛蓋24、Oリング20および笛リング22の4つの部品で構成されている。
【0044】
図1(A)に示す笛本体12は、アルミニウムで形成された円筒状の部材であり、笛本体12の一方端部が管頭26となっており、笛本体12の他方端部が管尻28となっている。本実施形態では、笛本体12の長さが430mmに定められており、笛本体12の外径が17mmに定められており、笛本体12の内径が14mmに定められている。
【0045】
図1(A)に示すように、笛本体12における管頭26側の端面12aと隔壁16との間に位置する部分を第1部分30aとすると、
図1(B)に示すように、第1部分30aの先端部、すなわち管頭26の内周面には、雌ネジ32が形成されている。
【0046】
図1(A)に示すように、笛本体12における管尻28側の端面12bと隔壁16との間に位置する部分を第2部分30bとすると、第2部分30bには、1個の歌口34および複数個(本実施形態では7個)の指孔36a~36gが形成されている。つまり、第2部分30bにおける隔壁16に近い部分に1個の歌口34が形成されており、歌口34よりも管尻28側の部分に7個の指孔36a~36gが形成されている。なお、本実施形態の横笛10は「七孔六本調子」で形成されているが、横笛10の調子は、変更されてもよく、指孔の数は、調子に応じて変更されてもよい。
【0047】
歌口34は、演奏者が空気を吹き込むための孔であり、本実施形態では、楕円形に形成されている。歌口34の大きさは、特に限定されるものではないが、本実施形態では、長径の長さが12.2mmに定められており、短径の長さが10mmに定められている。
【0048】
指孔36a~36gは、演奏者が手指で塞ぐための孔であり、本実施形態では、楕円形に形成されている。指孔36a~36gの大きさは、特に限定されるものではないが、本実施形態では、長径の長さが8.5mmに定められており、短径の長さが7.4mmに定められている。
【0049】
図1(B)に示す第2部分30bの内部空間は、歌口34から吹き込まれた空気のエネルギーを音に変換するための共鳴空間Sであり、共鳴空間Sにおける歌口34から隔壁16までの長さL1や、笛本体12の管尻28側の端面12bから隔壁16までの長さL2(
図1(A))は、横笛10の音色を決める要素となる。
【0050】
図3は、横笛10の表面状態を示す一部を省略した正面図である。なお、
図3では、表面加工が施された部分をハッチング(斜線)で示している。
図3に示すように、笛本体12の表面における少なくとも指孔36a~36gの開口端縁を含む部分には、演奏者の手指の触感を決定付ける表面加工が施されている。本実施形態の表面加工は、笛本体12の表面を磨いてグロス仕上げ(光沢のある仕上げ)とするためのバフ加工であり、笛本体12の表面の全体に施されている。
【0051】
つまり、笛本体12の表面における指孔36a~36gの開口端縁を含む部分には、指孔36a~36gを塞ぐ演奏者の手指の触感を決定付けるバフ加工が施されている。笛本体12の表面における歌口34の開口端縁を含む部分には、演奏者の唇の触感を決定付けるバフ加工が施されている。さらに、笛本体12の表面における指孔36a~36gや歌口34が形成された部分とは反対側の部分(
図3で表された部分とは反対側の部分)には、笛本体12を支持する演奏者の手指の触感を決定付けるバフ加工が施されている。
【0052】
バフ加工では、笛本体12の表面が滑らかに仕上げられるので、手指の密着性が高くなり、指孔36a~36gを塞ぐ演奏者の手指のずれを抑制できる。また、演奏者は、指孔36a~36gを手指で軽く押さえるだけで、指孔36a~36gを確実に塞ぐことができ、精度よく音を出すことができる。そして、指孔36a~36gから手指が離れ難く、その触感を好む演奏者にとっては、演奏し易い。
【0053】
なお、表面加工としては、バフ加工に代えて、笛本体12の表面に微細な凹凸を形成してマット仕上げ(光沢のない仕上げ)とするためのショットブラスト加工が用いられてもよい。つまり、笛本体12の表面における指孔36a~36gの開口端縁を含む部分には、指孔36a~36gを塞ぐ演奏者の手指の触感を決定付けるショットブラスト加工が施されてもよい。笛本体12の表面における歌口34の開口端縁を含む部分には、演奏者の唇の触感を決定付けるショットブラスト加工が施されてもよい。さらに、笛本体12の表面における指孔36a~36gや歌口34が形成された部分とは反対側の部分(
図3で表された部分とは反対側の部分)には、笛本体12を支持する演奏者の手指の触感を決定付けるショットブラスト加工が施されてもよい。
【0054】
ショットブラスト加工では、笛本体12の表面に微細な凹凸が形成されるので、凹凸が滑り止めとなって、指孔36a~36gを塞ぐ演奏者の手指のずれを抑制できる。また、バフ加工に比べて指孔36a~36gの周囲から空気が漏れ易いため、演奏者は、手指で空気の漏れ量を調整することによって、音色を微妙に変化させることができる。そして、指孔36a~36gの周囲の部分に手指が過度に密着しないため、指孔36a~36gから手指が離れ易く、その触感を好む演奏者にとっては、演奏し易い。
【0055】
図2に示すように、笛蓋24は、取付け部14、隔壁16および連結部18を有しており、これらの全体は、アルミニウムによって一体成形されている。
【0056】
図2に示すように、取付け部14は、笛本体12の管頭26に挿し込まれる円柱状の挿入部38と、挿入部38の外周面に形成され、笛本体12の雌ネジ32に螺合れさる雄ネジ40と、挿入部38の基端部に雄ネジ40と同軸となるように形成された円柱状の頭部42とを有している。本実施形態では、挿入部38の外径は、14mmに定められており、挿入部38の軸方向長さは、10mmに定められている。また、頭部42の外径は、16mmに定められており、頭部42の軸方向長さは、5mmに定められている。
【0057】
図2に示すように、隔壁16は、外周面に溝44を有する円柱状に形成されており、溝44には、隔壁16と笛本体12との隙間を封止する環状のOリング20が装着されている。つまり、隔壁16は、Oリング20によって気密性が高められた状態で、笛本体12の長さ方向に移動可能に構成されている。隔壁16は、共鳴空間Sにおいて音を反射させる機能を有しており、隔壁16の材質および気密性は、横笛10の音色を決める要素となる。本実施形態では、隔壁16の外径は、13.9mmに定められており、隔壁16の軸方向長さは、6mmに定められており、溝44の幅は、2mmに定められている。
【0058】
図2に示すように、連結部18は、取付け部14と隔壁16とを連結する棒状の部分である。連結部18の一方端部が取付け部14の管尻28(
図1(A))側を向いた面の中央部に繋がっており、連結部18の他方端部が隔壁16の管頭26側を向いた面の中央部に繋がっている。連結部18の横断面積は、隔壁16の横断面積(最大横断面積)よりも十分に小さく定められている。したがって、連結部18は、笛本体12の内面に接触することがなく、笛本体12の長さ方向に移動可能である。つまり、連結部18は、笛本体12の長さ方向に移動可能に構成されている。本実施形態では、連結部18が円形の断面を有する棒状に形成されており、連結部18の長さは、32.4mmに定められており、連結部18の直径は、5mmに定められている。
【0059】
図2に示す笛リング22は、アルミニウムで形成された円環状の部材である。
図1(B)に示すように、笛リング22は、挿入部38の周囲において、笛本体12と頭部42との間に配置されている。笛リング22の内径は、雄ネジ40の外径よりもわずかに大きく定められており、笛リング22の外径は、笛本体12の外径と同じに定められている。本実施形態では、笛リング22の内径は、15mmに定められており、笛リング22の外径は、17mmに定められており、笛リング22の軸方向長さは、5mmに定められている。
【0060】
(実施形態に係る横笛の製造方法)
横笛10を製造する際には、笛本体12および笛蓋24が別々に製造され、その後、これらが組み合わされる。本実施形態の笛本体12は、アルミニウムからなる円筒状の材料に対して、マシニングセンターなどで切削加工を施すことによって製造される。本実施形態の笛蓋24は、アルミニウムからなる円柱状の材料に対して、NC旋盤などで切削加工を施すことによって製造される。
【0061】
図4は、笛本体12の製造方法を示すフロー図である。以下では、笛本体12の製造方法について説明する。
図4に示すように、笛本体12を製造する際には、製造者は、切削加工工程、洗浄工程、エアブロー工程、自然乾燥工程、表面加工工程、アルマイト処理工程および外観検査工程をこの順に実行する。
【0062】
「切削加工工程」では、笛本体12の材料となるアルミニウムからなる円筒状の管材を準備し、この管材に対して、マシニングセンターなどで1個の歌口34および複数個の指孔36a~36gを切削加工する。切削加工で形成された歌口34および指孔36a~36gのそれぞれの開口端縁は、鋭利であり、安全面から、そのまま使用することはできない。
【0063】
「洗浄工程」では、40℃程度の湯を用いて、切削加工が施された上記管材を洗浄する。笛本体12は、演奏者が手指で触ったり、唇を付けたりすることから、製造時には、油幕や臭いが付着することを避ける必要がある。そのため、本実施形態では、一般的な灯油に代えて、湯が洗浄液として用いられる。なお、洗浄液の種類は、湯に限定されるものではなく、油幕や臭いが付着しない水などが用いられてもよい。また、湯の温度は、40℃程度に限定されるものではなく、適宜変更されてもよい。本実施形態では、管材(笛本体12)に洗浄液の臭いが付かないので、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0064】
「エアブロー工程」では、上記管材に付着した湯やゴミを空気で吹き飛ばし、「自然乾燥工程」では、上記管材を自然乾燥させる。
【0065】
「表面加工工程」では、管材の表面に上記バフ加工または上記ショットブラスト加工を施す。バフ加工は、笛本体12の表面を磨いてグロス仕上げ(光沢のある仕上げ)とする場合の表面加工であり、ショットブラスト加工は、笛本体12の表面に微細な凹凸を形成してマット仕上げ(光沢のない仕上げ)とする場合の表面加工である。
【0066】
本実施形態では、1個の歌口34および複数個の指孔36a~36gのそれぞれの開口端縁を含む笛本体12の表面の全体に表面加工を施す。これにより、各開口端縁を微細に削ることが可能であり、極わずかに面取りした場合と同じ効果を得ることができる。つまり、各開口端縁の鋭利な部分を無くすことができる。したがって、別工程となる面取り加工は不要であり、製造コストを低減できる。また、指孔36a~36gの開口端縁を微細に削ることができるので、子供や女性などの指が細い演奏者が使用する場合でも、指孔36a~36gを正確に塞ぐことができ、精度よく音を出すことができる。
【0067】
「アルマイト処理工程」は、上記管材の表面に厚くて丈夫な酸化膜を生成する工程である。製造者は、管材が取り付けられた治具を電解液に浸し、管材に通電して酸化膜を生成する。なお、この工程では、染料を用いて酸化膜を着色してもよい。
【0068】
「外観検査工程」は、完成した笛本体12を検査する工程である。製造者は、1個の歌口34および複数個の指孔36a~36gの大きさや位置が適切であるか否か、表面加工が適切に行われているか否か、といった笛本体12の外観に関する加工状態を検査する。
【0069】
(実施形態に係る横笛の効果)
本実施形態によれば、上記構成により以下の各効果を奏することができる。すなわち、
図3に示すように、笛本体12の表面の全体に対する表面加工(バフ加工またはショットブラスト加工)によって、演奏者の手指の触感を決定付けることができるとともに、指孔36a~36gに対する手指のずれを抑制できる。また、笛本体12を支持する他の手指でも同じ触感が得られる。さらに、表面加工によって、演奏者の唇の触感を決定付けることができる。したがって、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0070】
バフ加工では、笛本体12の表面がグロス仕上げ(光沢のある仕上げ)となり、ショットブラスト加工では、笛本体12の表面がマット仕上げ(光沢のない仕上げ)となるので、いずれの場合も横笛10の装飾性を高めることができ、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0071】
図2に示す隔壁16と取付け部14との間隔が連結部18の長さで決まるので、連結部18の長さを適切に定めることによって、設計上の正確な位置に隔壁16を配置でき、演奏者は、精度よく音を出すことができる。また、連結部18の長さが変わると、隔壁16の位置が変わり、音色が変わるので、演奏者は、連結部18の長さが異なる複数種類の笛蓋24を使い分けることによって、演奏表現の幅を広げることができる。これらによっても、演奏者は、快適な使用感を得ることができる。
【0072】
図1(B)に示す管頭26から取付け部14を取り外すことによって、隔壁16および連結部18を笛本体12の内部から取り除くことができるので、笛本体12の内面を洗浄する際には、笛本体12の内部に洗浄水などを通し易い。なお、歌口34に対する隔壁16の位置が決まっている場合でも、連結部18の長さを変えることによって、笛本体12における歌口34から管頭26側の端面12aまでの長さを変えることができるので、笛蓋24によってデザインの自由は妨げられない。
【0073】
図1(B)に示すOリング20によって隔壁16と笛本体12との間の気密性が高められるので、これらの間からの音漏れを防止でき、音色を安定させることができる。
【0074】
図2に示す連結部18の横断面積は、隔壁16の横断面積よりも小さく定められているので、連結部18の重量が大きくなり過ぎることを抑制でき、横笛10の管頭26側の端部が重たくなることを好まない演奏者にとっては、演奏し易い。
【0075】
図1(B)に示す雌ネジ32と雄ネジ40とが螺合される螺合構造によって、取付け部14を笛本体12に簡単に取り付けることができる。
【0076】
図1(B)に示す取付け部14の頭部42の外径は、笛本体12の内径よりも大きく定められているので、笛本体12の管頭26側の端面12aに頭部42を対向させることが可能であり、頭部42で管頭26を保護できる。
【0077】
図2に示す笛蓋24の全体がアルミニウムで一体成形されているので、笛蓋24の各部分を高精度に成形できる。また、アルミニウムが用いられているので、笛蓋の重量が大きくなり過ぎることを抑制でき、横笛10の管頭26側の端部が重たくなることを好まない演奏者にとっては、演奏し易い。
【0078】
図1(B)に示す笛リング22の軸方向長さで隔壁16の位置が決まるので、笛リング22の軸方向長さを変えることによって隔壁16の位置を調整でき、音色を調整できる。また、笛リング22に印を刻んだり、笛リング22の色や模様に特徴を持たせたりすることによって、同じ笛本体12を有する他の横笛10と区別することができる。
【0079】
(変形例)
なお、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。すなわち、上記実施形態では、笛本体12および笛蓋24がアルミニウムで形成されているが、アルミニウムに代えて、他の金属が用いられてもよいし、木材および合成樹脂などの金属以外が用いられてもよい。
【0080】
上記実施形態では、笛蓋24の全体がアルミニウムによって一体成形されているが、笛蓋24は、笛複数の部品に分割して形成された後に、各部品が接合されてもよい。この場合、各部品は、異なる材料で形成されてもよい。隔壁16をアルミニウム以外の材料で形成した場合には、アルミニウムで形成した場合に対して横笛10の音色を変えることができる。
【0081】
図5(A)は、第2実施形態に係る横笛50の表面状態を示す一部を省略した正面図であり、
図5(B)は、第3実施形態に係る横笛52の表面状態を示す一部を省略した正面図である。上記実施形態では、笛本体12の表面の全体に表面加工(バフ加工またはショットブラスト加工)が施されているが、表面加工は、笛本体12の表面の一部にだけ施されてもよい。
【0082】
例えば、
図5(A)に示す第2実施形態に係る横笛50のように、歌口34および指孔36a~36gの周囲に位置する部分だけに表面加工が施されてもよい。また、
図5(B)に示す第3実施形態に係る横笛52のように、指孔36a~36gの周囲に位置する部分だけに表面加工が施されてもよい。なお、
図5(A),(B)では、表面加工が施された部分をハッチング(斜線)で示している。
【0083】
図6は、第4実施形態に係る横笛54の構成を示す一部を断面にした分解図である。上記実施形態では、笛蓋24と笛本体12との接合構造として、笛蓋24の雄ネジ40と笛本体12の雌ネジ32とが螺合される螺合構造が用いられているが、これに代えて、他の構造が用いられてもよい。
【0084】
例えば、図示しないが、笛蓋24の雌ネジと笛本体12の雄ネジとが螺合される螺合構造が用いられてもよい。また、
図6に示す第4実施形態に係る横笛54のように、笛蓋56の取付け部58が笛本体12の管頭26に圧入される圧入構造が用いられてもよい。
図6に示す笛蓋56では、取付け部58と隔壁60と連結部62とが、1個の円柱状の部材として構成されており、笛リング22は省略されている。取付け部58および隔壁60の外周面には、第1溝64および第2溝66が形成されている。そして、第1溝64には、取付け部58と笛本体12との隙間を封止するOリング68が装着されており、第2溝66には、隔壁60と笛本体12との隙間を封止するOリング70が装着されている。
【符号の説明】
【0085】
S…共鳴空間、10,50,52,54…横笛、12…笛本体、12a,12b…端面、14…取付け部、16…隔壁、18…連結部、20…Oリング、22…笛リング、24,56…笛蓋、26…管頭、28…管尻、30a…第1部分、30b…第2部分、32…雌ネジ、34…歌口、36a~36g…指孔、38…挿入部、40…雄ネジ、42…頭部、44…溝。