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特開2024-42190液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042190
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240321BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20240321BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240321BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C08L67/04
C08G63/60
C08K3/34
C08K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146733
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002DG026
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA016
4J002FD010
4J002FD016
4J002GQ00
4J029AA05
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE01
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EB08
4J029HA03A
4J029HB01
4J029KE03
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能な液晶ポリエステル樹脂組成物を得ること。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P1)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が2.0以上4.2以下であり、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P3)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P4)の比(P3/P4)が2.0以上5.0以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P1)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が2.0以上4.2以下であり、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P3)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P4)の比(P3/P4)が2.2以上5.0以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機充填材総量を100重量%としたとき、板状充填材(B)は85~100重量%である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
板状充填材(B)が少なくともマイカを含む、請求項2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステル樹脂(A)が、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、下記構造単位(I)を2~15モル%含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
【請求項5】
液晶ポリエステル樹脂(A)が、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位として、下記構造単位(II)を2~20モル%含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化2】
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項7】
成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである請求項6に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。より詳しくは、液晶ポリエステル樹脂組成物、ならびにそれを用いて得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性、流動性および寸法安定性に優れるため、それらの特性が要求される電気・電子部品に用いられている。このような電気・電子部品は、近年の機器の小型化や軽量化に伴い、薄肉化が進んでおり、さらに高い薄肉流動性が求められている。また、薄肉成形品を成形するためには、高い成形温度かつ高い射出速度で成形するという過酷な条件で成形する必要があり、過酷な条件でも安定して連続成形可能であることが求められる。
【0003】
液晶ポリエステル樹脂の耐熱性や強度を保持しつつ、薄肉流動性を向上させる方法としては、タルクやマイカといった板状充填材を配合することが知られている。例えば、特許文献1には、タルクとマイカを併用することで高い流動性を有しながら、高い薄肉強度を有する材料が得られることが開示されている。また、特許文献2には、所定の末端基を有する液晶ポリエステル樹脂に対し、所定の体積平均粒径およびアスペクト比を有するマイカを配合することで、低そり性などに優れる材料が得られることが開示されている。
【0004】
一方で、特許文献3~7には、液晶ポリエステル樹脂の構成モノマーを種々好適なものとしたうえで、タルクやマイカを配合し、耐熱性などに優れた材料が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-109096号公報
【特許文献2】国際公開第2013/128887号
【特許文献3】国際公開第2018/101214号
【特許文献4】国際公開第2012/137636号
【特許文献5】国際公開第2013/051346号
【特許文献6】特開2017-137438号公報
【特許文献7】特開2017-052876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に示された発明では、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合、成形時にハナタレ(成形時にノズル先端部分から漏れて垂れ下がる現象)や糸引き(金型の型開き時、固化しきらなかった樹脂がスプルー頂点から糸状に伸びる現象)が生じることにより、安定して連続成形することは困難であった。また、特許文献3~7に示された発明では、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合の流動性が不十分であった。
【0007】
本発明の課題は、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能な液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、液晶ポリエステル樹脂に対して板状充填材を含有し、かつ融点における剪断速度依存性と融点+40℃における剪断速度依存性が所定の値となる液晶ポリエステル樹脂組成物が、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は以下のとおりである:
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P1)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が2.0以上4.2以下であり、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P3)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P4)の比(P3/P4)が2.2以上5.0以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機充填材総量を100重量%としたとき、板状充填材(B)は85~100重量%である、(1)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(3)板状充填材(B)が少なくともマイカを含む、(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(4)液晶ポリエステル樹脂(A)が、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、下記構造単位(I)を2~15モル%含む、(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
(5)液晶ポリエステル樹脂(A)が、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位として下記構造単位(II)を2~20モル%含む、(1)~(4)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0012】
【化2】
【0013】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(7)成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである(6)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である。特に、小型の電気・電子部品用途などを成形する際に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<液晶ポリエステル樹脂(A)>
液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。このようなポリエステル樹脂としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルが挙げられる。
【0017】
本発明においては、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、次に、以下に記載する液晶ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0018】
好ましい液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位について説明する。
【0019】
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、成分(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%含む。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、22モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。一方で、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、75モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましい。オキシカルボニル単位の具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸などに由来する構造単位を使用することができる。中でも、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御でき、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能となる観点から、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する、下記構造単位(I)を少なくとも含むことが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(I)は2モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましい。また、構造単位(I)は15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
さらに、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能となる観点から、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位を35~75モル%含むことが好ましい。45モル%以上がさらに好ましい。一方、65モル%以下がより好ましく、55モル%以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジオキシ単位として、成分(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%含む。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、12.5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。一方、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、39モル%以下が好ましく、37.5モル%以下がより好ましい。芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどに由来する構造単位が挙げられる。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンに由来する構造単位を使用することが好ましい。中でも、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御できる観点から、ハイドロキノンに由来する、下記構造単位(II)を含むことが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(II)は2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位(II)は20モル%以下が好ましく、17モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0023】
【化4】
【0024】
さらに、芳香族ジオールとして、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位を1~25モル%含むことが好ましい。3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がささらに好ましい。一方、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、ジカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、12.5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。一方、39モル%以下が好ましく、37.5モル%以下がより好ましい。芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられる。入手性に優れる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する構造単位を使用することが好ましい。
【0026】
ジカルボニル単位として、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、テレフタル酸に由来する構造単位を2~35モル%含むことが好ましい。5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が最も好ましい。一方、30モル%以下がより好ましく、25モル%以下がより好ましい。また、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、イソフタル酸に由来する構造単位を0.01~10モル%含むことが好ましい。0.05モル%以上がさらに好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。一方、7モル%以下がより好ましく、4モル%以上がさらに好ましい。
【0027】
また、上記構造単位に加えて、エチレングリコール、p-アミノ安息香酸、p-アミノフェノールなどから生成した構造単位を、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに有することができる。
【0028】
上記の各構造単位を構成する原料となるモノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されない。また、そのようなモノマーの水酸基のアシル化物、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0029】
液晶ポリエステル樹脂(A)について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。各構造単位の含有量は1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求める。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析する。
【0030】
液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、耐熱性の観点から、280℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。一方、加工性の観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、370℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。融点(Tm)とは、該吸熱ピーク温度(Tm)を指す。
【0031】
液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすい観点から、3Pa・s以上が好ましく、5Pa・s以上がより好ましく、7Pa・s以上がさらに好ましい。一方、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすいうえ、流動性が向上する観点から、液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、30Pa・s以下が好ましく、25Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下がさらに好ましい。
【0032】
なお、この溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)+20℃の温度において、かつ、せん断速度1000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定した値である。
【0033】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知のポリエステルの重縮合法としては、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸に由来する構造単位からなる成分(A)を例に、以下が挙げられる。
【0034】
(1)p-アセトキシ安息香酸、6-アセトキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、およびイソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0035】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0036】
(3)p-ヒドロキシ安息香酸フェニル、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニル、およびイソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0037】
(4)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、テレフタル酸およびイソフタル酸の芳香族カルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0038】
なかでも(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法が、液晶ポリエステル樹脂(A)の末端構造の制御および重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0039】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、液晶ポリエステル樹脂(A)のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-50℃~融点-5℃(例えば、200~300℃)の範囲で1~50時間行うことができる。
【0040】
<板状充填材(B)>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する。板状充填材(B)が上記含有量を外れると、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御できず、流動性が悪化するほか、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、安定して連続成形することが不可能となる。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、板状充填材(B)は15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、板状充填材(B)は80重量部以下が好ましく、60重量部以下がより好ましい。
【0041】
本発明で使用される板状充填材(B)は、例えば、マイカ、タルク、カオリン、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、マイカ、タルクが好ましく、中でも、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御できる観点から、マイカが特に好ましい。
【0042】
本発明で使用される板状充填材(B)は、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御でき、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機充填材総量を100重量%としたとき、板状充填材(B)は85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、95重量%であることがさらに好ましい。上限は、液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機充填材が全て板状充填材(B)となる100重量%である。
【0043】
<板状充填材(B)以外の充填材>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述した液晶ポリエステル樹脂(A)と板状充填材(B)を含有するが、その他の特性を付与するために板状充填材(B)以外の充填材を含有してもよい。本発明で使用される充填材は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用される上記の充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記充填材中のガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものであれば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどを挙げることができる。
【0045】
上記充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤により処理されていてもよい。また、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0046】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、板状充填材(B)以外の充填材の含有量は、後述するパラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御でき、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、20重量部以下が好ましい。15重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0047】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0048】
<パラメータP1/P2およびP3/P4>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P1)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点における溶融粘度(P2)の比(P1/P2)が2.0以上4.2以下であり、
剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P3)と、剪断速度10000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃における溶融粘度(P4)の比(P3/P4)が2.2以上5.0以下である。
【0049】
上記パラメータは、低い温度における溶融粘度の剪断速度依存性が比較的小さく、高い温度における溶融粘度の剪断速度依存性が比較的大きいことを意味する。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合、射出直後は高温で大きな剪断がかかっているが、固化する直前には温度が低くなるうえ、剪断が小さくなる。
【0050】
すなわち、上記パラメータを満足する液晶ポリエステル樹脂組成物を高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合、射出直後は低粘度となり、固化する直前も粘度が高くなりにくいため、流動性に優れる。また、上記パラメータを満足する液晶ポリエステル樹脂組成物を高い成形温度で成形する場合、射出前後の剪断がかかっていない状態のときは、溶融粘度が高くなるため、糸引きやハナタレといった成形不具合が起こりにくく、安定して連続成形することができる。
【0051】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のP1/P2が2.0未満の場合、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、安定して連続成形することができない。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、安定して連続成形することが可能である観点から、2.2以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。一方で、4.2より大きい場合、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、流動性が低下する。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有する観点から、4.0以下が好ましく、3.8以下がより好ましい。
【0052】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のP3/P4が2.2未満である場合、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することができない。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、2.3以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。一方で、P3/P4が5.0より大きい場合、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、流動性が高くなりすぎてしまい、成形品にバリが発生する。高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能である観点から、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。
【0053】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のP1/P2とP3/P4の比([P1/P2]/[P3/P4])は、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、安定して連続成形することが可能である観点から、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましい。一方、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有する観点から、2.0以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましい。
【0054】
なお、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂の融点または融点+40℃の温度において、せん断速度1000/秒または10000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定できる。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のP1/P2およびP3/P4を好適な範囲に制御する手法としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂(A)を構成する構造単位を前述の好ましい範囲とすること、液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機充填材総量に対する板状充填材(B)の量を前述の好ましい範囲とすること、板状充填材(B)をマイカとすること、液晶ポリエステル樹脂の製造方法を好ましい方法とすること、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることが挙げられる。詳細については、前述の「液晶ポリエステル樹脂(A)」、「板状充填材(B)」ならびに後述の「液晶ポリエステル樹脂の製造方法」に記載する。
【0056】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、板状充填材(B)やその他の添加剤を配合し、液晶ポリエステル樹脂組成物とする方法としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填材(B)およびその他の固体状の添加剤等を配合するドライブレンド法や、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填材(B)およびその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、板状充填材(B)およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)の重合時に添加する方法、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填材(B)およびその他の添加剤を溶融混練する方法を用いることができ、なかでも溶融混練する方法が好ましい。
【0057】
溶融混練には、公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを挙げることができる。なかでも二軸押出機が好ましい。
【0058】
混練方法としては、1)液晶ポリエステル樹脂(A)、板状充填材(B)およびその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練する方法(一括混練法)、2)液晶ポリエステル樹脂(A)とその他の添加剤を元込めフィーダーから投入して混練した後、板状充填材(B)およびその他の添加剤をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、3)液晶ポリエステル樹脂(A)と、板状充填材(B)およびその他の添加剤を高濃度に含む液晶ポリエステル組成物(マスターペレット)を作製し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを成分(A)、板状充填材(B)と混練する方法(マスターペレット法)などが挙げられる。また、板状充填材(B)およびその他の添加剤を添加する方法としては、一括混練法、逐次添加法、高濃度組成物(マスター)を添加する方法等が挙げられ、いずれの方法でもかまわない。
【0059】
溶融混錬により本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する際、液晶ポリエステル樹脂組成物の温度を、剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度(P5)が5~20Pa・sとなるような温度で溶融混錬することが好ましい。このような溶融粘度となる温度で溶融混錬することで、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の分散が好ましい態様となるため、上記パラメータP1/P2およびP3/P4を好ましい範囲に制御しやすく、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能となる。溶融混錬時の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度の下限は、7Pa・s以上がより好ましい。一方、溶融混錬時の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度の上限は、18Pa・s以下がより好ましく、15Pa・s以下がさらに好ましい。
【0060】
<成形品>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形、溶液キャスト製膜、紡糸などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)、機械的性質、耐熱性を有する成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。溶融成形する場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の劣化を抑制し、機械強度を向上させる観点から、370℃以下で溶融成形するのが好ましく、360℃以下がより好ましい。
【0061】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電気・電子部品として好ましく用いることができる。電気・電子部品としては、例えば、パソコン、GPS内蔵機器、携帯電話、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、タブレットやスマートフォンなどの移動通信・電子機器のアンテナに用いられるフレキシブルプリント基板、積層用回路基板、プリント配線基板および三次元回路基板;LEDなどのランプリフレクターやランプソケット、移動通信端末の通信基地局スモールセルやマイクロセル部材、アンテナカバー、筐体、センサー、カメラモジュールのアクチュエータ部品、コネクタ、リレーケースおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサーなどが挙げられる。なかでも、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能であるため、薄肉複雑形状部を有するコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、カメラモジュールのアクチュエータ部品などに有用である。
【実施例0062】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。表1の製造例中に示した、液晶ポリエステル樹脂(A)の組成および特性評価は以下の方法により測定した。
【0063】
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析
液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析は、1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求めた。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析した。
【0064】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC-7(パーキンエルマー製)により、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、Tm+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0065】
(3)液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度
高化式フローテスターCFT-500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、Tm+20℃で、剪断速度1000/秒の条件で液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。
【0066】
[製造例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DHB)352重量部、ハイドロキノン(HQ)89重量部、テレフタル酸(TPA)292重量部、イソフタル酸(IPA)157重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から360℃まで4時間かけて昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、所定の撹拌トルクに到達したところで重合を完了させた。次に、直径6mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-1)を得た。
【0067】
[製造例2]
モノマー仕込みを、HBA808重量部、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)88重量部、DHB229重量部、HQ161重量部、TPA428重量部、IPA19重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。
【0068】
[製造例3]
モノマー仕込みを、HBA760重量部、HNA88重量部、DHB261重量部、HQ161重量部、TPA476重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-3)を得た。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。
【0071】
板状充填材(B)
(B-1)ヤマグチマイカ(株)製 マイカ“A-41”
(B-2)富士タルク工業(株)製 タルク“RL217”
その他無機充填材(C)
(C-1)日本電気硝子(株)製“ミルドファイバー EPG70M-01N”
【0072】
[実施例1~6、比較例1~3]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)で、各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)、板状充填材(B)およびその他無機充填材(C)を表2に示す配合量でホッパーから投入し、シリンダー温度を表2に示す樹脂組成物の温度となるように設定し、溶融混練してペレットとした。得られたペレットを用いて、(2)と同様の方法でTmを評価し、さらに以下(4)~(6)の評価を行った結果を表3に示す。
【0073】
(4)液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度(P1~P5)
高化式フローテスターCFT-500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、液晶ポリエステル樹脂組成物の融点で、剪断速度1000/秒の条件で測定した溶融粘度をP1、剪断速度10000/秒の条件下で測定した溶融粘度をP2とした。また、液晶ポリエステル樹脂組成物の融点+40℃で、剪断速度1000/秒の条件で測定した溶融粘度をP3、剪断速度10000/秒の条件下で測定した溶融粘度をP4とし、P1/P2およびP3/P4を算出した。加えて、溶融混錬時の液晶ポリエステル樹脂組成物の温度において、剪断速度1000/秒の条件で測定した溶融粘度(P5)を測定した。
【0074】
(5)流動性
各実施例および比較例により得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて予備乾燥した後、TUPARL TR30EHA射出成形機(ソディックプラステック製)に供し、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+40℃、金型温度を90℃として、幅5.0mm×長さ50mm×0.1mm厚みの成形品を成形できる金型を用い、射出速度300mm/sの成形条件で成形を行った。10本成形して、得られた試験片について平均の成形品長さ(流動長)を算出した。流動長が長いほど、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有するとした。
【0075】
(6)連続成形性
(5)と同様の成形条件で100本成形を行い、平均の成形品長さ(流動長)を算出した。得られた試験片について長さが平均流動長より1mm以上短いまたは長くなり、試験片長さのばらつきが生じている数を数えた。長さばらつきの数が少ないほど、連続成形性に優れるとした。
【0076】
【表2】
【0077】
表2の結果から、P1/P2およびP3/P4が所定の範囲となる液晶ポリエステル樹脂組成物を高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高い成形温度かつ高い射出速度で成形した場合に、優れた流動性を有し、かつ安定して連続成形することが可能であるため、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品などの電気・電子部品や機械部品用途に好適である。