(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042195
(43)【公開日】2024-03-28
(54)【発明の名称】マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/72 20060101AFI20240321BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H03H9/72
H03H7/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146741
(22)【出願日】2022-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】中橋 憲彦
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA16
5J097AA17
5J097BB14
5J097CC05
5J097KK02
5J097KK04
(57)【要約】
【課題】減衰特性が改善されたマルチプレクサを提供する。
【解決手段】マルチプレクサ1は、共通端子100と入出力端子110との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ10と、共通端子100と入出力端子120との間に接続され、第1周波数帯域よりも高周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ20と、共通端子100と入出力端子110とを結ぶ経路と並列に接続された付加回路30と、を備え、付加回路30は、複数のIDT電極を有する縦結合共振器31を含み、付加回路30の通過特性において発生するIDTレスポンスのピーク周波数をf1とし、共通端子100からマルチプレクサ1を見たインピーダンス特性において、第2周波数帯域よりも高周波側でインピーダンス最小となる周波数をf2とした場合、f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)を満たす。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子、第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記共通端子と前記第1入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有する第1フィルタ回路と、
前記共通端子と前記第2入出力端子との間に接続され、前記第1周波数帯域よりも高周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有する第2フィルタ回路と、
前記共通端子と前記第1入出力端子とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路と、を備え、
前記付加回路は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT(InterDigital Transducer)電極を有する共振器を含み、
前記付加回路の通過特性において発生する、前記IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、
前記共通端子から前記第1フィルタ回路、前記第2フィルタ回路および前記付加回路を見たインピーダンス特性において、前記第2周波数帯域よりも高周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、
f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)
を満たす、
マルチプレクサ。
【請求項2】
f2×(1-0.00055)≦f1≦f2×(1+0.00055)
を満たす、
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
共通端子、第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記共通端子と前記第1入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有する第1フィルタ回路と、
前記共通端子と前記第2入出力端子との間に接続され、前記第1周波数帯域よりも低周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有する第2フィルタ回路と、
前記共通端子と前記第1入出力端子とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路と、を備え、
前記付加回路は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT電極を有する共振器を含み、
前記付加回路の通過特性において発生する、前記IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、
前記共通端子から前記第1フィルタ回路、前記第2フィルタ回路および前記付加回路を見たインピーダンス特性において、前記第2周波数帯域よりも低周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、
f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)
を満たす、
マルチプレクサ。
【請求項4】
f2×(1-0.00055)≦f1≦f2×(1+0.00055)
を満たす、
請求項3に記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1周波数帯域を通過帯域とする送信側フィルタ(第1フィルタ)および第2周波数帯域を通過帯域とする受信側フィルタ(第2フィルタ)を備えるマルチプレクサの回路構成が開示されている。第1フィルタの入出力端子には、縦結合共振器を有する付加回路が接続されている。これによれば、第1フィルタの所定の周波数帯域における減衰特性を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたマルチプレクサでは、付加回路により第1フィルタの第2周波数帯域における減衰特性は改善されるが、縦結合共振器のIDT電極構造に起因したレスポンス(不要波)が発生し、第1フィルタの第2周波数帯域外における減衰特性が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、減衰特性が改善されたマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るマルチプレクサは、共通端子、第1入出力端子および第2入出力端子と、共通端子と第1入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有する第1フィルタ回路と、共通端子と第2入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域よりも高周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有する第2フィルタ回路と、共通端子と第1入出力端子とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路と、を備え、付加回路は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT(InterDigital Transducer)電極を有する共振器を含み、付加回路の通過特性において発生する、IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、共通端子から第1フィルタ回路、第2フィルタ回路および付加回路を見たインピーダンス特性において、第2周波数帯域よりも高周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、
f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)
を満たす。
【0007】
また、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、共通端子、第1入出力端子および第2入出力端子と、共通端子と第1入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有する第1フィルタ回路と、共通端子と第2入出力端子との間に接続され、第1周波数帯域よりも低周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有する第2フィルタ回路と、共通端子と第1入出力端子とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路と、を備え、付加回路は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT電極を有する共振器を含み、付加回路の通過特性において発生する、IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、共通端子から第1フィルタ回路、第2フィルタ回路および付加回路を見たインピーダンス特性において、第2周波数帯域よりも低周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、
f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)
を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減衰特性が改善されたマルチプレクサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るマルチプレクサおよびその周辺回路の回路構成図である。
【
図2A】実施例1に係る第1フィルタ回路の回路構成図である。
【
図2B】実施例1に係る第2フィルタ回路の回路構成図である。
【
図3】実施例1に係る付加回路の通過特性を表すグラフである。
【
図4】共通端子から実施例1に係るマルチプレクサを見たインピーダンスを示すスミスチャートである。
【
図5】実施例1および比較例に係る第1フィルタ回路および付加回路の通過特性である。
【
図6】付加回路のIDT電極ピッチを変化させた場合の第1フィルタ回路および付加回路の通過特性である。
【
図7】マルチプレクサの第2周波数帯域よりも高周波側でのインピーダンスが最小となる周波数に対して、IDTレスポンスのピーク周波数を変化させた場合の減衰量を表すグラフである。
【
図8A】実施例2に係る第1フィルタ回路の回路構成図である。
【
図8B】実施例2に係る第2フィルタ回路の回路構成図である。
【
図9】実施例2に係る付加回路の通過特性を表すグラフである。
【
図10】共通端子から実施例2に係るマルチプレクサを見たインピーダンスを示すスミスチャートである。
【
図11】実施例2および比較例に係る第1フィルタ回路および付加回路の通過特性である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0011】
なお、各図は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0012】
本開示の回路構成において、「接続される」とは、接続端子および/または配線導体で直接接続される場合だけでなく、他の回路素子を介して電気的に接続される場合も含む。「AおよびBの間に接続される」とは、AおよびBの間でAおよびBの両方に接続されることを意味する。
【0013】
また、「平行」および「垂直」などの要素間の関係性を示す用語、「矩形」などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差をも含むことを意味する。
【0014】
(実施の形態)
[1.マルチプレクサの回路構成]
図1は、実施の形態に係るマルチプレクサ1およびその周辺回路の回路構成図である。同図には、本実施の形態に係るマルチプレクサ1と、アンテナ2と、インダクタ5とが示されている。
【0015】
マルチプレクサ1は、フィルタ10と、フィルタ20と、付加回路30と、インダクタ3および4と、共通端子100と、入出力端子110(第1入出力端子)および入出力端子120(第2入出力端子)と、を備える。
【0016】
フィルタ10は、第1フィルタ回路の一例であり、共通端子100と入出力端子110との間に接続されており、第1周波数帯域を含む通過帯域を有する。
【0017】
フィルタ20は、第2フィルタ回路の一例であり、共通端子100と入出力端子120との間に接続されており、第1周波数帯域よりも高周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有する。
【0018】
インダクタ3は、入出力端子110とグランドとの間に接続されたインピーダンス整合用素子である。インダクタ4は、入出力端子120とグランドとの間に接続されたインピーダンス整合用素子である。なお、インダクタ3は、入出力端子110とフィルタ10との間に直列配置されてもよい。また、インダクタ4は、入出力端子120とフィルタ20との間に直列配置されてもよい。また、インダクタ3および4は無くてもよい。
【0019】
付加回路30は、共通端子100と入出力端子110とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続されている。具体的には、付加回路30は、一端が共通端子100および入出力端子110を結ぶ経路上のノードN1に接続され、他端が上記経路上のノードN2に接続されている。
【0020】
付加回路30は、縦結合共振器31と、キャパシタ32と、を備える。縦結合共振器31は、弾性波共振子31aおよび31bで構成され、一端(弾性波共振子31a)がキャパシタ32に接続され、他端(弾性波共振子31b)がノードN2に接続されている。キャパシタ32は、弾性波共振子31aとノードN1との間に接続されている。
【0021】
弾性波共振子31aおよび31bのそれぞれは、圧電性を有する基板と、当該基板上に形成されたIDT電極と、を有している。弾性波共振子31aのIDT電極は、互いに対向する2つの櫛形電極で構成されており、一方の櫛形電極はキャパシタ32に接続され、他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子31bのIDT電極は、互いに対向する2つの櫛形電極で構成されており、一方の櫛形電極はノードN2に接続され、他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子31aのIDT電極と弾性波共振子31bのIDT電極とは、弾性波伝搬方向に並置されている。
【0022】
なお、縦結合共振器31は、弾性波伝搬方向の両端に、反射器が配置されていてもよい。
【0023】
また、付加回路30は、弾性波共振子31aおよび31bの代わりに、2以上のIDT電極間での表面波の伝搬を利用して信号を伝達するトランスバーサル型の弾性波共振子を有していてもよい。
【0024】
上記構成によれば、付加回路30は、フィルタ10を通過する第1周波数帯域よりも高周波側または低周波側における所定の周波数帯域の成分に対して、当該所定の周波数帯域の成分と略同振幅かつ略逆位相の成分を生成する。これにより、フィルタ10における上記所定の周波数帯域における減衰特性を改善することが可能となる。
【0025】
なお、付加回路30が接続されるノードN1およびN2は、共通端子100と入出力端子110とを結ぶ経路上のノードであればよく、ノードN1およびN2は、フィルタ10が有する少なくとも1つの直列腕共振子を介して配置されていればよい。
【0026】
また、本実施の形態において、ノードN1とノードN2とは、異なる2つのノードである。異なる2つのノードとは、当該2つのノードがインピーダンス素子(インダクタ、キャパシタ、抵抗または共振子など)を介して接続されていることを意味する。
【0027】
また、キャパシタ32は無くてもよく、弾性波共振子31aの一端がノードN1に直接接続されていてもよい。また、弾性波共振子31bの一端とノードN2との間にキャパシタが接続されていてもよい。
【0028】
[2.実施例1に係るマルチプレクサ1]
次に、実施例1に係るマルチプレクサ1について説明する。実施例1に係るマルチプレクサ1は、
図1に示す構成と同様の構成を有し、フィルタ10と、フィルタ20と、付加回路30と、インダクタ3および4と、共通端子100と、入出力端子110(第1入出力端子)および入出力端子120(第2入出力端子)と、を備える。
【0029】
実施例1に係るマルチプレクサ1は、実施の形態に係るマルチプレクサ1に対して、フィルタ10の通過帯域がフィルタ20の通過帯域よりも低周波側に位置するという制約が付加されている。
【0030】
図2Aは、実施例1に係るフィルタ10の回路構成図である。
【0031】
フィルタ10は、第1フィルタ回路の一例であり、複数の弾性波共振子で構成されたラダー型の弾性波フィルタ回路であり、直列腕共振子11、12、13、14および15と、並列腕共振子16、17、18および19と、を備える。直列腕共振子11~15は、端子111と端子112とを結ぶ直列腕経路に配置されている。並列腕共振子16~19のそれぞれは、上記直列腕経路とグランドとの間に接続されている。直列腕共振子11~15および並列腕共振子16~19のそれぞれは、例えば、YカットのLiNbO3圧電基板と、当該圧電基板上に形成されたIDT電極とで構成された、レイリー波を利用した弾性表面波共振子である。
【0032】
上記構成により、フィルタ10は、例えば、LTE(Long Term Evolution)のためのバンドB28または5G(5th Generation)-NR(New Radio)のためのバンドn28のアップリンク動作バンド(703-748MHz)を通過帯域(第1周波数帯域)とする。
【0033】
本実施例では、付加回路30の一端は、端子111と直列腕共振子11との間のノードN1に接続され、付加回路30の他端は、直列腕共振子14と直列腕共振子15との間のノードN2に接続されている。
【0034】
なお、本発明に係る第1フィルタ回路の回路構成は、
図2Aに示されたフィルタ10の回路構成に限定されるものではない。
【0035】
図2Bは、実施例1に係るフィルタ20の回路構成図である。
【0036】
フィルタ20は、第2フィルタ回路の一例であり、7個の弾性波共振子で構成された縦結合共振器25を備える弾性波フィルタ回路であり、縦結合共振器25と、直列腕共振子21および22と、並列腕共振子23および24と、を備える。
【0037】
縦結合共振器25は、弾性波共振子251、252、253、254、255、256および257で構成され、一端が直列腕共振子21を介して端子121に接続され、他端が直列腕共振子22を介して端子122に接続されている。
【0038】
弾性波共振子251~257のそれぞれは、圧電性を有する基板と、当該基板上に形成されたIDT電極と、を有している。弾性波共振子251~257のIDT電極は、互いに対向する2つの櫛形電極で構成されている。弾性波共振子251、253、255および257のそれぞれの一方の櫛形電極は直列腕共振子21を介して端子121に接続され、弾性波共振子251、253、255および257のそれぞれの他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子252、254および256のそれぞれの一方の櫛形電極は直列腕共振子22を介して端子122に接続され、弾性波共振子252、254および256のそれぞれの他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子251~257は、弾性波共振子251、252、253、254、255、256および257の順で、弾性波伝搬方向に配置されている。
【0039】
直列腕共振子21および22は、端子121と122とを結ぶ直列腕経路に配置されている。並列腕共振子23および24のそれぞれは、上記直列腕経路とグランドとの間に接続されている。
【0040】
弾性波共振子251~257、直列腕共振子21~22および並列腕共振子23~24のそれぞれは、例えば、YカットのLiNbO3圧電基板と、当該圧電基板上に形成されたIDT電極とで構成された、レイリー波を利用した弾性表面波共振子である。
【0041】
上記構成により、フィルタ20は、例えば、LTEのためのバンドB28または5G-NRのためのバンドn28のダウンリンク動作バンド(758-803MHz)を通過帯域(第2周波数帯域)とする。
【0042】
なお、本発明に係る第2フィルタ回路の回路構成は、
図2Bに示されたフィルタ20の回路構成に限定されるものではない。
【0043】
図3は、実施例1に係る付加回路30の通過特性を表すグラフである。同図には、付加回路30のノードN2からノードN1の通過特性が示されている。なお、同図に示されたバンドBは第1周波数帯域であり、バンドAは第2周波数帯域である。付加回路30では、バンドAの成分がフィルタ10にて抑制されるように、バンドAの成分の振幅レベルおよび位相レベルが設定されている。このとき、バンドAよりも高周波側に、縦結合共振器31のIDT電極に起因したレスポンス(以降、IDTレスポンスと記す)が発生する。このIDTレスポンスのピーク周波数をf1とすると、本実施例ではIDTレスポンスのピーク周波数f1は812.7MHzとなっている。本実施例におけるIDTレスポンスのピーク周波数は、付加回路30の通過特性において、第2周波数帯域よりも高周波側で挿入損失が極小となる周波数である。
【0044】
この縦結合共振器31のIDT電極に起因したIDTレスポンスは、フィルタ10のバンドAよりも高周波側の減衰特性を劣化させてしまう。
【0045】
これに対して、本実施例に係るマルチプレクサ1では、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1の第2周波数よりも高い帯域における低インピーダンス周波数とを略一致させることにより、マルチプレクサ1の減衰特性を改善している。
【0046】
図4は、共通端子100から実施例1に係るマルチプレクサ1を見たインピーダンスを示すスミスチャートである。同図のスミスチャートには、共通端子100からフィルタ10、20、および付加回路30を見たインピーダンスが示されている。同図では、フィルタ10の通過帯域(バンドB)およびフィルタ20の通過帯域(バンドA)におけるインピーダンスは、基準インピーダンス(50Ω)付近に位置している。一方、同図には、フィルタ20の通過帯域(バンドA:第2周波数帯域)よりも高周波側においてインピーダンスが最小となる周波数f2が示されている。つまり、
図4のスミスチャートにおいて、周波数f2のインピーダンスは、低インピーダンス側の実軸上(リアクタンス成分が0)に配置されている。
【0047】
ここで、本実施例では、上記IDTレスポンスのピーク周波数f1を、上記インピーダンスが最小となる周波数f2に略一致させる。具体的には、例えば、付加回路30を構成する縦結合共振器31のIDT電極のピッチを調整することで、上記ピーク周波数f1を上記周波数f2に略一致させることが可能となる。
【0048】
なお、IDT電極のピッチとは、IDT電極の波長λの1/2である。IDT電極の波長λとは、IDT電極を構成する一対の櫛形電極が有する複数の電極指の繰り返し周期である。
【0049】
図5は、実施例1および比較例に係るフィルタ10および付加回路30の通過特性である。同図には、実施例1および比較例に係るマルチプレクサの入出力端子110から共通端子100の通過特性が示されている。
【0050】
なお、比較例に係るマルチプレクサは、
図1、
図2Aおよび
図2Bに示された回路構成を有するが、上記ピーク周波数f1が上記周波数f2に対して2.2MHz離れているものである。
【0051】
図5に示すように、実施例1に係るマルチプレクサ1は、比較例に係るマルチプレクサと比較して、フィルタ10および付加回路30の通過特性において、バンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側に発生する減衰量が改善(レスポンスピークが低減)されている(
図5の破線丸内)ことが解る。
【0052】
これは、共通端子100からレスポンスのピーク周波数f1付近の信号が入力された場合、ピーク周波数f1が周波数f2と略一致することでピーク周波数f1におけるフィルタ20または10のインピーダンスが小さくなり、フィルタ20側にピーク周波数f1付近の信号が流れてフィルタ10にはピーク周波数f1付近の信号が流れない、または、フィルタ10内でピーク周波数f1付近の信号が消費されて入出力端子110へはピーク周波数f1付近の信号が流れない、ことによるものと解される。
【0053】
つまり、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2とを略一致させることにより、フィルタ10(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰量を改善できる。
【0054】
[3.周波数f1と周波数f2との一致度]
次に、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2との一致度について説明する。
【0055】
図6は、付加回路30のIDT電極ピッチを変化させた場合のフィルタ10および付加回路30の通過特性である。同図の(a)および(b)には、周波数f2に対してピーク周波数f1を段階的に変化させた場合の入出力端子110から共通端子100の通過特性が示されている。特に、同図の(b)には、バンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側の領域における通過特性が拡大表示されている。なお、周波数f1を変化させるにあたり、縦結合共振器31のIDT電極のピッチを、0.06μm(-0.03μm~+0.03μm)の範囲で変化させている。
【0056】
図6の(b)に示すように、縦結合共振器31のIDT電極のピッチを変化させることでピーク周波数f1が変化し、当該変化に伴って周波数f2(812.7MHz)とピーク周波数f1との周波数差が変化し、当該周波数差の変化に起因してIDTレスポンスのピーク値が増減している。
【0057】
図7は、マルチプレクサ1のバンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側でのインピーダンスが最小となる周波数f2(812.7MHz)に対して、IDTレスポンスのピーク周波数f1を変化させた場合の減衰量を表すグラフである。横軸は周波数f1を示し、縦軸はフィルタ10および付加回路30のバンドAよりも高周波側における減衰量(ワースト値)を示す。
【0058】
図7に示すように、ピーク周波数f1を変化させることで減衰量は変化するが、ピーク周波数f1が周波数f2と略一致した場合に上記減衰量は最大値(約40dB)を有する。
【0059】
ここで、上記減衰量の要求値が30dBである場合、
811.7MHz≦f1≦813.7MHz (式1)
を満たすことが必要となる。つまり、f2=812.7MHzに対して、f1はf2±1MHzの範囲にあることが条件となる。
【0060】
式1を、周波数f2を基準として表すと式2となり、結果的に式3で表すことができる。
【0061】
f2×(1-1MHz/812.7MHz)≦f1≦f2×(1+1MHz/813.7MHz) (式2)
f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012) (式3)
【0062】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2とを、式3に示されるように略一致させることにより、フィルタ10(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側に発生するIDTレスポンスを抑制できる。その結果、上記減衰量を改善でき、30dBを確保できる。
【0063】
なお、上記減衰量の要求値(30dB)は、携帯電話などの移動体通信端末の無線通信用フロントエンド回路を構成するフィルタに必要とされる通過帯域外減衰量である。
【0064】
なお、上記減衰量の要求値が35dBである場合、
812.25MHz≦f1≦813.15MHz (式4)
を満たすことが必要となる。つまり、f2=812.7MHzに対して、f1はf2±0.45MHzの範囲にあることが条件となる。
【0065】
式4を、周波数f2を基準として表すと式5となり、結果的に式6で表すことができる。
【0066】
f2×(1-0.45MHz/812.7MHz)≦f1≦f2×(1+0.45MHz/813.7MHz) (式5)
f2×(1-0.00055)≦f1≦f2×(1+0.00055) (式6)
【0067】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2とを式6に示されるように略一致させることにより、フィルタ10(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも高周波側に発生するIDTレスポンスを抑制できる。その結果、上記減衰量を改善でき、35dBを確保できる。
【0068】
なお、本実施例に係るマルチプレクサ1において、フィルタ10の通過帯域はフィルタ20の通過帯域よりも低周波側にあることが条件であるが、フィルタ10および20に適用されるバンドは、LTEのバンドB28または5G-NRのためのバンドn28には限定されない。
【0069】
フィルタ10および20に適用されるバンドは、例えば、LTEのためのバンドB2または5G-NRのためのバンドn2であってもよい。つまり、フィルタ10は、バンドB2またはバンドn2のアップリンク動作バンド(1850-1910MHz)を通過帯域(第1周波数帯域)とするフィルタに適用され、フィルタ20は、バンドB2またはバンドn2のダウンリンク動作バンド(2110-2170MHz)を通過帯域(第2周波数帯域)とするフィルタに適用される。この場合であっても、式3を満たすことにより、第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスが抑制されて、第2周波数帯域よりも高周波側の減衰量を30dB確保することが可能となる。また、式6を満たすことにより、第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスが抑制されて、第2周波数帯域よりも高周波側の減衰量を35dB確保することが可能となる。
【0070】
また、フィルタ10および20に適用されるバンドは、例えば、LTEのためのバンドB7または5G-NRのためのバンドn7であってもよい。つまり、フィルタ10は、バンドB7またはバンドn7のアップリンク動作バンド(2500-2570MHz)を通過帯域(第1周波数帯域)とするフィルタに適用され、フィルタ20は、バンドB7またはバンドn7のダウンリンク動作バンド(2620-2690MHz)を通過帯域(第2周波数帯域)とするフィルタに適用される。この場合であっても、式3を満たすことにより、第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスが抑制されて、第2周波数帯域よりも高周波側の減衰量を30dB確保することが可能となる。また、式6を満たすことにより、第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスが抑制されて、第2周波数帯域よりも高周波側の減衰量を35dB確保することが可能となる。
【0071】
また、フィルタ10および20が弾性表面波フィルタである場合、圧電性を有する基板はYカットのLiNbO3圧電基板でありレイリー波を利用するものでなくてもよい。圧電性の基板は、例えばLiTaO3圧電基板でありリーキー波を利用するものであってもよい。
【0072】
また、圧電性を有する基板は、高音速支持基板、低音速膜および圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよく、また、支持基板、エネルギー閉じ込め層および圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよい。
【0073】
また、本実施例において、フィルタ10はラダー型の弾性表面波フィルタであることに限定されず、ラダー型以外の構造であってもよく、また、バルク弾性波フィルタであってもよい。さらに、フィルタ10は、インダクタおよびキャパシタで構成されたLCフィルタであってもよい。また、フィルタ20は、縦結合型の弾性表面波フィルタであることに限定されず、縦結合型以外の構造であってもよく、また、バルク弾性波フィルタであってもよい。さらに、フィルタ20は、インダクタおよびキャパシタで構成されたLCフィルタであってもよい。
【0074】
また、付加回路30の縦結合共振器31を構成する弾性波共振子の数は3つ以上であってもよい。
【0075】
[4.実施例2に係るマルチプレクサ1A]
次に、実施例2に係るマルチプレクサ1Aについて説明する。実施例2に係るマルチプレクサ1Aは、
図1に示す構成と同様の構成を有し、フィルタ10Aと、フィルタ20Aと、付加回路30と、インダクタ3および4と、共通端子100と、入出力端子110(第1入出力端子)および入出力端子120(第2入出力端子)と、を備える。
【0076】
実施例2に係るマルチプレクサ1Aは、実施の形態に係るマルチプレクサ1に対して、フィルタ10の通過帯域がフィルタ20の通過帯域よりも高周波側に位置するという制約が付加されている。
【0077】
図8Aは、実施例2に係るフィルタ10Aの回路構成図である。
【0078】
フィルタ10Aは、第1フィルタ回路の一例であり、複数の弾性波共振子で構成されたラダー型の弾性波フィルタ回路であり、直列腕共振子11、12、13および14と、並列腕共振子16、17、18および19と、を備える。直列腕共振子11~14は、端子111と端子112とを結ぶ直列腕経路に配置されている。並列腕共振子16~19のそれぞれは、上記直列腕経路とグランドとの間に接続されている。直列腕共振子11~14および並列腕共振子16~19のそれぞれは、例えば、YカットのLiNbO3圧電基板と、当該圧電基板上に形成されたIDT電極とで構成された、レイリー波を利用した弾性表面波共振子である。
【0079】
上記構成により、フィルタ10Aは、例えば、LTEのためのバンドB71または5G-NRのためのバンドn71のアップリンク動作バンド(663-698MHz)を通過帯域(第1周波数帯域)とする。
【0080】
本実施例では、付加回路30の一端は、端子111と直列腕共振子11との間のノードN1に接続され、付加回路30の他端は、直列腕共振子13と直列腕共振子14との間のノードN2に接続されている。
【0081】
なお、本発明に係る第1フィルタ回路の回路構成は、
図8Aに示されたフィルタ10Aの回路構成に限定されるものではない。
【0082】
図8Bは、実施例2に係るフィルタ20Aの回路構成図である。
【0083】
フィルタ20Aは、第2フィルタ回路の一例であり、7個の弾性波共振子で構成された縦結合共振器25を備える弾性波フィルタ回路であり、縦結合共振器25と、直列腕共振子21、22および26と、並列腕共振子23および24と、を備える。
【0084】
縦結合共振器25は、弾性波共振子251、252、253、254、255、256および257で構成され、一端が直列腕共振子21および22を介して端子121に接続され、他端が直列腕共振子26を介して端子122に接続されている。
【0085】
弾性波共振子251~257のそれぞれは、圧電性を有する基板と、当該基板上に形成されたIDT電極と、を有している。弾性波共振子251~257のIDT電極は、互いに対向する2つの櫛形電極で構成されている。弾性波共振子251、253、255および257のそれぞれの一方の櫛形電極は直列腕共振子21および22を介して端子121に接続され、弾性波共振子251、253、255および257のそれぞれの他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子252、254および256のそれぞれの一方の櫛形電極は直列腕共振子26を介して端子122に接続され、弾性波共振子252、254および254のそれぞれの他方の櫛形電極はグランドに接続されている。弾性波共振子251~257は、弾性波共振子251、252、253、254、255、256および257の順で、弾性波伝搬方向に配置されている。
【0086】
直列腕共振子21、22および26は、端子121と122とを結ぶ直列腕経路に配置されている。並列腕共振子23および24のそれぞれは、上記直列腕経路とグランドとの間に接続されている。
【0087】
弾性波共振子251~257、直列腕共振子21、22、26および並列腕共振子23~24のそれぞれは、例えば、YカットのLiNbO3圧電基板と、当該圧電基板上に形成されたIDT電極とで構成された、レイリー波を利用した弾性表面波共振子である。
【0088】
上記構成により、フィルタ20Aは、例えば、LTEのためのバンドB71または5G-NRのためのバンドn71のダウンリンク動作バンド(617-652MHz)を通過帯域(第2周波数帯域)とする。
【0089】
図9は、実施例2に係る付加回路30の通過特性を表すグラフである。同図には、付加回路30のノードN2からノードN1の通過特性が示されている。なお、同図に示されたバンドBは第1周波数帯域であり、バンドAは第2周波数帯域である。付加回路30では、バンドAの成分がフィルタ10Aにて抑制されるように、バンドAの成分の振幅レベルおよび位相レベルが設定されている。このとき、バンドAよりも低周波側に、縦結合共振器31のIDT電極に起因したIDTレスポンスが発生する。このIDTレスポンスのピーク周波数をf1とすると、本実施例ではIDTレスポンスのピーク周波数f1は610MHzとなっている。本実施例におけるIDTレスポンスのピーク周波数は、付加回路30の通過特性において、第2周波数帯域よりも低周波側で挿入損失が極小となる周波数である。
【0090】
この縦結合共振器31のIDT電極に起因したIDTレスポンスは、フィルタ10AのバンドAよりも低周波側の減衰特性を劣化させてしまう。
【0091】
これに対して、本実施例に係るマルチプレクサ1Aでは、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1Aの第2周波数よりも低い帯域における低インピーダンス周波数とを略一致させることにより、マルチプレクサ1Aの減衰特性を改善している。
【0092】
図10は、共通端子100から実施例2に係るマルチプレクサ1Aを見たインピーダンスを示すスミスチャートである。同図のスミスチャートには、共通端子100からフィルタ10A、20A、および付加回路30を見たインピーダンスが示されている。同図では、フィルタ10Aの通過帯域(バンドB)およびフィルタ20Aの通過帯域(バンドA)におけるインピーダンスは、基準インピーダンス(50Ω)付近に位置している。一方、同図には、フィルタ20Aの通過帯域(バンドA:第2周波数帯域)よりも低周波側においてインピーダンスが最小となる周波数f2が示されている。つまり、
図10のスミスチャートにおいて、周波数f2のインピーダンスは、低インピーダンス側の実軸上(リアクタンス成分が0)に配置されている。
【0093】
ここで、本実施例では、上記IDTレスポンスのピーク周波数f1を、上記インピーダンスが最小となる周波数f2に略一致させる。具体的には、例えば、付加回路30を構成する縦結合共振器31のIDT電極のピッチを調整することで、上記ピーク周波数f1を上記周波数f2に略一致させることが可能となる。
【0094】
図11は、実施例2および比較例に係るフィルタ10Aおよび付加回路30の通過特性である。同図には、実施例2および比較例に係るマルチプレクサの入出力端子110から共通端子100の通過特性が示されている。
【0095】
なお、比較例に係るマルチプレクサは、
図1、
図8Aおよび
図8Bに示された回路構成を有するが、上記ピーク周波数f1が上記周波数f2に対して3.2MHz離れているものである。
【0096】
図11に示すように、実施例2に係るマルチプレクサ1Aは、比較例に係るマルチプレクサと比較して、フィルタ10Aおよび付加回路30の通過特性において、バンドA(第2周波数帯域)よりも低周波側に発生する減衰量が改善(レスポンスピークが低減)されている(
図11の破線丸内)ことが解る。
【0097】
これは、共通端子100からレスポンスのピーク周波数f1付近の信号が入力された場合、ピーク周波数f1が周波数f2と略一致することでピーク周波数f1におけるフィルタ20Aまたは10Aのインピーダンスが小さくなり、フィルタ20A側にピーク周波数f1付近の信号が流れてフィルタ10Aにはピーク周波数f1付近の信号が流れない、または、フィルタ10A内でピーク周波数f1付近の信号が消費されて入出力端子110へはピーク周波数f1付近の信号が流れない、ことによるものと解される。
【0098】
つまり、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1Aのインピーダンスが最小となる周波数f2とを略一致させることにより、フィルタ10A(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも低周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰量を改善できる。
【0099】
本実施例に係るマルチプレクサ1Aにおいても、
図7に示されたピーク周波数f1と周波数f2との関係と同様の関係が成立する。
【0100】
すなわち、フィルタ10Aおよび付加回路30のバンドAよりも低周波側における減衰量の要求値が30dBである場合、式3を満たすことが条件となる。
【0101】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1Aのインピーダンスが最小となる周波数f2とを式3に示されるように略一致させることにより、フィルタ10A(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも低周波側に発生するIDTレスポンスを抑制できる。その結果、上記減衰量を改善でき、30dBを確保できる。
【0102】
なお、上記減衰量の要求値が35dBである場合、式6を満たすことが条件となる。
【0103】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1Aのインピーダンスが最小となる周波数f2とを式6に示されるように略一致させることにより、フィルタ10A(および付加回路30)におけるバンドA(第2周波数帯域)よりも低周波側に発生するIDTレスポンスを抑制できる。その結果、上記減衰量を改善でき、35dBを確保できる。
【0104】
なお、本実施例に係るマルチプレクサ1Aにおいて、フィルタ10Aの通過帯域はフィルタ20Aの通過帯域よりも高周波側にあることが条件であるが、フィルタ10Aおよび20Aに適用されるバンドは、LTEのバンドB71には限定されない。
【0105】
また、フィルタ10Aおよび20Aが弾性表面波フィルタである場合、圧電性を有する基板はYカットのLiNbO3圧電基板でありレイリー波を利用するものでなくてもよい。圧電性の基板は、例えばLiTaO3圧電基板でありリーキー波を利用するものであってもよい。
【0106】
また、圧電性を有する基板は、高音速支持基板、低音速膜および圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよく、また、支持基板、エネルギー閉じ込め層および圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよい。
【0107】
なお、本実施例において、フィルタ10Aはラダー型の弾性表面波フィルタであることに限定されず、ラダー型以外の構造であってもよく、また、バルク弾性波フィルタであってもよい。さらに、フィルタ10Aは、インダクタおよびキャパシタで構成されたLCフィルタであってもよい。また、フィルタ20Aは、縦結合型の弾性表面波フィルタであることに限定されず、縦結合型以外の構造であってもよく、また、バルク弾性波フィルタであってもよい。さらに、フィルタ20Aは、インダクタおよびキャパシタで構成されたLCフィルタであってもよい。
【0108】
また、付加回路30の縦結合共振器31を構成する弾性波共振子の数は3つ以上であってもよい。
【0109】
[5.効果など]
以上のように、実施例1に係るマルチプレクサ1は、共通端子100、入出力端子110および120と、共通端子100と入出力端子110との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ10と、共通端子100と入出力端子120との間に接続され、第1周波数帯域よりも高周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ20と、共通端子100と入出力端子110とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路30と、を備え、付加回路30は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT電極を有する縦結合共振器31を含み、付加回路30の通過特性において発生する、IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、共通端子100からフィルタ10および20、ならびに付加回路30を見たインピーダンス特性において、第2周波数帯域よりも高周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)を満たす。
【0110】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2とを上式に示されるように略一致させることにより、フィルタ10(および付加回路30)における第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰特性を改善できる。
【0111】
また例えば、マルチプレクサ1において、
f2×(1-0.00055)≦f1≦f2×(1+0.00055)を満たしてもよい。
【0112】
これによれば、ピーク周波数f1と周波数f2とを上式に示されるように略一致させることにより、フィルタ10(および付加回路30)における第2周波数帯域よりも高周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰量を35dB以上に確保できる。
【0113】
また、実施例2に係るマルチプレクサ1Aは、共通端子100、入出力端子110および120と、共通端子100と入出力端子110との間に接続され、第1周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ10Aと、共通端子100と入出力端子120との間に接続され、第1周波数帯域よりも低周波側の第2周波数帯域を含む通過帯域を有するフィルタ20Aと、共通端子100と入出力端子110とを結ぶ経路の少なくとも一部と並列に接続された付加回路30と、を備え、付加回路30は、圧電性を有する基板上に形成された複数のIDT電極を有する縦結合共振器31を含み、付加回路30の通過特性において発生する、IDT電極に起因したレスポンスのピーク周波数をf1とし、共通端子100からフィルタ10および20、ならびに付加回路30を見たインピーダンス特性において、第2周波数帯域よりも高周波側でインピーダンスが最小となる周波数をf2とした場合、f2×(1-0.0012)≦f1≦f2×(1+0.0012)を満たす。
【0114】
これによれば、IDTレスポンスのピーク周波数f1とマルチプレクサ1のインピーダンスが最小となる周波数f2とを上式に示されるように略一致させることにより、フィルタ10A(および付加回路30)における第2周波数帯域よりも低周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰特性を改善できる。
【0115】
また例えば、マルチプレクサ1Aにおいて、
f2×(1-0.00055)≦f1≦f2×(1+0.00055)を満たしてもよい。
【0116】
これによれば、ピーク周波数f1と周波数f2とを上式に示されるように略一致させることにより、フィルタ10A(および付加回路30)における第2周波数帯域よりも低周波側に発生するIDTレスポンスを抑制でき、減衰量を35dB以上に確保できる。
【0117】
(その他の変形例など)
以上、マルチプレクサについて、実施の形態を挙げて説明したが、本発明の弾性波フィルタは、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、上記実施の形態に係るマルチプレクサを内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0118】
また、例えば、マルチプレクサにおいて、各構成要素の間に、インダクタやキャパシタが接続されていてもかまわない。なお、当該インダクタには、各構成要素間を繋ぐ配線による配線インダクタが含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、マルチバンド化およびマルチモード化された周波数規格に適用できる、低損失および高減衰のマルチプレクサとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0120】
1、1A マルチプレクサ
2 アンテナ
3、4、5 インダクタ
10、10A、20、20A フィルタ
11、12、13、14、15、21、22、26 直列腕共振子
16、17、18、19、23、24 並列腕共振子
25、31 縦結合共振器
30 付加回路
31a、31b、251、252、253、254、255、256、257 弾性波共振子
32 キャパシタ
100 共通端子
110、120 入出力端子
111、112、121、122 端子
N1、N2 ノード